JP2006269637A - 希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末、その製造方法及びそれを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】還元拡散法により、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する方法において、希土類元素量が5原子%以上である原料希土類−遷移金属合金粉末(A)を用意し、これに希土類酸化物粉末(B)、及び該希土類酸化物(B)を還元するための還元剤を混合する工程、引き続き、この混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金からなる還元拡散反応生成物とする工程、次いで、得られた還元拡散反応生成物を窒素含有雰囲気中で加熱処理して、窒化する工程を含むことを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法などにより提供する。
【選択図】なし
Description
例えば、Fe−R−N(R:Y、Th、及び全てのランタノイド元素からなる群の中から選ばれた1種または2種以上)で表される永久磁石(特許文献1参照)、また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H(R:イットリウムを含む希土類元素のうちの少なくとも1種)で表される磁気異方性材料が知られている(例えば、特許文献2参照)。
例えば、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種;M:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Pd、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩のうち少なくとも1種)で表される磁石粉末が知られている(特許文献3参照)。
また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−O−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種;M:Mg、Ti、Zr、Cu、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物のうち少なくとも1種)で表される磁性材料が知られている(特許文献4参照)。
このような希土類−遷移金属−窒素系磁性材料は、数〜数10μmを超える平均粒径を有する希土類−遷移金属系の母合金粉末を製造した後、窒素原子を導入するため、窒素やアンモニア、又はこれらと水素との混合ガス雰囲気中で200〜700℃に加熱する窒化処理を行い、次いで、上記所定の粒度に微粉化して製造される。
また、還元拡散法では、工程が長く複雑であるため安定した特性の合金粉を製造することはかなり難しい。さらに還元拡散反応生成物(以下、還元物と記すことがある)中の希土類−遷移金属系母合金粉末には凝集・融着部が多く存在し、窒化処理後も合金粉末同士が強く凝集・融着しているため、該希土類−遷移金属−窒素系磁性合金粉末を磁界中で配向させた際の配向性(粉末配向度)が劣り、磁化が低くなってしまうなどの問題がある。
RaFe(100−a−b)Nb …(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素であり、また、a、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
RxFe(100−x−y−z)MyNz …(2)
(式(2)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、MはCu、Mn、Co、Cr、Ti、NiおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属元素を示し、また、x、y、zは原子%で、4≦x≦18、0.3≦y≦23、15≦z≦25を満たす。)
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、希土類元素、FeやM元素等の遷移金属元素、及び窒素から構成されている。本発明の磁石粉末には、組成面で前者はM元素を実質的に含有しないニュークリエーションタイプ磁石と、特定量のM元素を含有するピニングタイプ磁石とが包含される。
RaFe(100−a−b)Nb …(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素であり、また、a、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
RxFe(100−x−y−z)MyNz …(2)
(式(2)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、MはCu、Mn、Co、Cr、Ti、NiおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属元素を示し、また、x、y、zは原子%で、4≦x≦18、0.3≦y≦23、15≦z≦25を満たす。)
本発明において、希土類−遷移金属−窒素系合金粉末を構成する主要成分の希土類元素(R)は、磁気異方性を発現させ、保磁力を発生させる上で本質的な役割を果たす元素である。
希土類元素としては、Yを含むランタノイド元素のいずれか1種または2種以上であり、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、およびSmの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素が挙げられる。これらの中でも、Sm及び/又はNdが好ましい。また、これらとEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbの群から選ばれる少なくとも1種の元素とを組み合わせれば、磁気特性を高めることができる。
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の希土類元素は、4原子%以上18原子%以下であることが必要である。4原子%よりも少なければ、合金中に軟磁性相であるα−Feが多く存在するようになり高い保磁力が得にくくなり、18原子%を超えると主相となる合金相の体積が減少してしまい飽和磁化が低下するため好ましくない。
希土類元素の中では、特に、Smが好ましく、Smが希土類元素の50原子%以上含むと高い保磁力を持つ材料が得られる。ここで用いる希土類元素は、工業的生産により入手可能な純度でよく、製造上、混入が避けられない元素、例えば、O、H、C、Al、Si、F、Na、Mg、Ca、Liなどが含まれていても差し支えない。
本発明の希土類−遷移金属−窒素系合金粉末を構成する主要な遷移金属元素としては、鉄(Fe)、及び元素Mが挙げられる。Feは、希土類−遷移金属−窒素系合金粉末の必須成分であるが、磁気特性を損なうことなく温度特性や耐食性を改善する目的で、その一部をCoまたはNiの1種以上で置換してもよい。このように、Fe単独、またはFeの一部をCoまたはNiの1種以上で置換した合金をまとめて以下、Fe成分と称する。
Fe成分は、強磁性を担う基本元素であり、希土類−遷移金属−窒素系合金粉末としたとき、34原子%以上81原子%以下含有する必要がある。Fe成分が、34原子%より少ないと磁化が低くなり好ましくない。81原子%を超えると希土類元素の割合が少なくなり過ぎ、高い保磁力が得られず好ましくない。Fe成分の組成範囲が55〜80原子%であれば、保磁力と磁化のバランスのとれた材料となり特に好ましい。
M元素は、本発明の希土類−遷移金属−窒素系合金粉末をピニングタイプの磁石粉末とする場合に添加され、粗い合金粉末でありながら高い保磁力を出すために必要とされる遷移金属元素である。M元素としては、Mn、Cu、Co、Cr、Ti、Ni、Zr、Hfの少なくとも1種以上の元素が含有されることが必要である。このうち、Mn、又はCuが好ましく、特にMnが含まれることが好ましい。
一方、ニュークリエーションタイプの磁石の場合は、粉末内部で主相の磁気的な結合を切る必要性がないためM元素を添加しなくてもよい。例えば、Sm2Fe17N3磁石粉末を例にとった場合、強磁性相はSm2Fe17N3であり、これにM元素が入ってしまうとSm2Fe17N3以外の相ができることになり磁気特性を下げてしまうことになる。
窒素は、本発明において希土類−遷移金属系母合金を窒化して、磁石化するために必要な元素であり、ニュークリエーションタイプの磁石なら10〜17原子%、ピニングタイプの磁石なら15〜25原子%含有する必要がある。
ニュークリエーション磁石の場合、窒素が10原子%未満では9eサイトに窒素が埋まりきらず高い磁気特性が得られず、窒素が17原子%より多く入ってしまうと結晶構造が壊れ磁気特性が下がってしまう。ピニングタイプの磁石の場合、窒素が15原子%未満ではアモルファス相が少なすぎ微結晶構造にならず保磁力が高まらず、25原子%を超えてしまうと非磁性と考えられるアモルファス相が多くなり磁化が下がってしまう。
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法は、(1)希土類元素量が5原子%以上である原料希土類−遷移金属合金粉末を用意し、これに希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、(2)引き続き、この混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金を含む還元拡散反応生成物とし、(3)次いで、該還元拡散反応生成物を窒素含有雰囲気中で加熱処理して、希土類−遷移金属系母合金の窒化物とする工程を含んでいる。本発明では、(4)得られた窒化物を必要により微粉砕又は解砕して所定の粒径を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する工程を含むことができる。
本発明では、まず、希土類元素量を特定量含む原料希土類−遷移金属合金粉末(A)を用意し、これに希土類酸化物粉末(B)、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合した後、非酸化性雰囲気中で加熱焼成して、希土類−遷移金属系母合金を含む還元拡散反応生成物とする。
本発明において原料希土類−遷移金属合金粉末は、組成ずれのない希土類−遷移金属母合金を得るために、希土類酸化物、還元剤とともに用いられる原料合金粉末である。この希土類−遷移金属合金粉末は、希土類元素量が5原子%以上であれば、製造方法によって特に限定されない。例えば、原料希土類−遷移金属合金粉末は、溶解鋳造法、液体急冷法、もしくは還元拡散法で製造できる。
原料希土類−遷移金属合金粉末の希土類元素量は、5原子%以上でなければならず、特に5〜13原子%にすることが好ましい。5原子%より少ないと希土類元素量が少なすぎて遷移金属粉への希土類元素の拡散状態が不十分となり、出来上がった希土類−遷移金属系母合金粉末における希土類元素の粉末内分布が大きく、また、粉末間でも希土類元素量に差ができ、組成が均一で高い磁気特性の合金粉末は得られない。希土類元素量が13原子%を超えると希土類元素が過剰になり過ぎ、経済性の面で好ましくないばかりか、高い飽和磁化を得ることができなくなってしまう。
次に、このようにして得られた原料希土類−遷移金属合金粉末と、希土類酸化物、および該希土類酸化物を還元するに足る還元剤を混合し、還元拡散法によって、希土類−遷移金属系母合金粉末を製造する。
本発明において希土類酸化物は、前記希土類元素、すなわち例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、およびSmの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素の酸化物である。
本発明において還元剤は、希土類酸化物を還元する機能を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。例えばLi及び/又はCa、あるいはこれらの元素とNa、K、Mg、Sr又はBaから選ばれる少なくとも1種が使用できる。
還元剤の投入量は、希土類酸化物を還元するに足るように、反応当量よりも若干過剰とすることが好ましい。後述する窒化処理では、合金粉末中に十分な窒素原子を導入するのに、かなり長い時間を必要とする。アルカリ金属又はアルカリ土類金属を添加し、該合金粉末の内部に均一に存在させた状態とすれば、この合金粉末を、窒素ガスまたはアンモニアあるいは、アンモニア−水素混合ガス雰囲気中で、加熱させて窒化することにより、該合金粉末の窒化時間を短縮できるので好ましい。
上記各原料の混合方法は、特に限定されないが、Sブレンダー、Vブレンダー、各種ミキサー等を用いて行うことができる。例えば、各原料を所定の量、秤量し、Vブレンダーで1時間混合すれば良い。
上記混合物を反応容器に移す際には、希土類酸化物などは平均粒径が数μmと細かいため粉が飛散しやすい。飛散を防止するためにカバー等を取り付けることが好ましく、これにより合金粉に組成ずれを起こすことが抑制できる。その後、上記混合物を投入した反応容器を還元拡散炉に入れ、酸素が実質的に存在しない非酸化性雰囲気とする。
上記の原料希土類−遷移金属粉末、希土類酸化物粉末に必要によりM元素粉末を添加し、希土類酸化物を還元するために足る還元剤を配合し、この混合物を非酸化性雰囲気中において、上記還元剤が溶融状態になる温度まで昇温保持し加熱焼成する。
希土類−遷移金属系母合金を生成後は、反応容器内を室温まで冷却する。その後、希土類−遷移金属系母合金と還元剤酸化物、未反応還元剤等を含んだ還元拡散反応生成物(還元物)を水中に投入し、デカンテーションにより洗浄し、次いで酸洗、固液分離、乾燥を行い希土類−遷移金属合金粉末を製造する。
上記焼成で得られた希土類−遷移金属系母合金を含んだ還元物は、非常に硬いため粉砕が困難である。通常は、以下に記すように水中に投入し、還元物を崩壊させる工程を経て、希土類−遷移金属系母合金を分離していく。還元物の水中での崩壊性を改善するためには、水中投入前に、水素処理を行うことが望ましい。
その後、得られた粉状還元物を、還元物1kgあたり約1リットルの水の割合で水中に投入し、1〜3時間攪拌し還元物を崩壊させ、スラリー化させる。その後、得られたスラリーを粗い篩を通し水洗槽に移入する。このときスラリー溶液のpHは11〜12程度であり、還元物はほとんど崩壊しており、篩上に残るロス分は非常に少なくなる。
この後、デカンテーションを5〜10回程度繰り返す。デカンテーション条件は、例えば、該スラリー溶液に注水し、攪拌1分、静置分離2分、排水することを1回とすることが好ましい。その後、スラリーのpHが5〜6になるように酢酸を添加し、酸洗を行うことで固液分離し、固相分を乾燥して希土類−遷移金属系母合金粉末を得る。還元剤として用いたCaは非磁性であり、希土類−遷移金属系母合金粉末の粒界や粒子表面に存在するCaは磁気特性を下げるので、できるだけ除去することが好ましい。
希土類−遷移金属系母合金粉末を窒化処理するには、予め窒素ガス又はアンモニア、あるいはアンモニア−水素混合ガスのいずれかを含む含窒素雰囲気とした後、特定の温度で加熱を行う。
また、窒化反応を行う反応装置は、特に限定されず、横型、縦型の管状炉、回転式反応炉、密閉式反応炉などが挙げられる。何れの装置においても、本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を調製することが可能であるが、特に窒素組成分布の揃った粉体を得るためにはキルンのような回転式反応炉を用いるのが好ましい。
希土類−遷移金属系母合金粉末を粉砕、解砕する方法は、特に制限されず、例えば、湿式粉砕法ではボールミル粉砕や媒体攪拌型ミル粉砕等を、乾式粉砕法では不活性ガスによるジェットミル粉砕等を用いることができる。これらの中でも、粉末の凝集を少なくできるジェットミル粉砕が特に好ましい。
また、希土類−遷移金属系母合金粉末の凝集をさらに少なくするため、例えば、ジェットミル粉砕では、不活性ガス中に5vol%以下の酸素を導入することで微粉化することができる。また、ボールミル粉砕や媒体攪拌ミル粉砕等では、小径の粉砕ボール、あるいはステンレス鋼等ではなくジルコニア等の低比重のセラミックス粉砕ボールを用いることによって微粉化することができる。
なお、上記希土類−遷移金属系母合金粉末の粒径が粗大である場合に、粉砕処理して得られた合金粉末には、粉砕により生じた結晶の歪みが残留し、次の窒化工程においてα−Fe等の軟磁性相が発生する原因となる場合がある。α−Fe等の軟磁性相が発生すると保磁力や角型性が低下するため、磁気特性を向上させるためには、粉砕により得られた合金微粉末を、窒化処理に先立って、アルゴン、ヘリウム、真空等の非酸化性かつ非窒化性雰囲気中、600℃以下で熱処理し、結晶の歪みを除去しておくことが好ましい。
特に、窒化処理と同時に400〜600℃で熱処理を行うと処理コストを下げられるためメリットが大きい。窒化処理と同時の場合は、熱処理温度が400℃未満であると、残留する結晶の歪みを除去する効果が十分でなく、一方、600℃を超えると、合金が希土類元素の窒化物と鉄に分解するので好ましくない。
上記窒化処理の終了後、水素アニール、アルゴンアニールをすることが好ましい。例えば、水素アニールを0.5〜2時間、アルゴンアニールを0.3〜1時間行い、アルゴンを流した状態で室温まで自然または強制冷却をすればよい。
なお、上記のように、アンモニア−水素混合ガス中で窒化した後の合金粉中には水素が高含有量で残留している場合があり、水素残留量が多いままでは磁気特性が低下するため、必要によって真空加熱を行うなどの方法で十分に水素除去しておく必要がある。
ニュークリエーションタイプの磁石粉末を製造する場合は、上記の方法で得られた粗粉末では高い保磁力を得ることができないため、平均粒径が10μm以下、好ましくは5μm以下になるように微粉砕を行うことが必要になる。微粉砕を行う方法は特に限定されないが、例えば湿式粉砕機、乾式粉砕機、ジェットミル、アトライターなどが挙げられる。アトライターは適当な粉砕溶媒を選択することにより合金粉末を安価に微粉砕できるので好ましい装置といえる。この際、微粉末を乾燥する必要があるが、真空中で乾燥すれば短時間で効率的に乾燥できるので好ましい。
M元素を添加して作製した希土類−遷移金属系母合金粉末を用い、これに過剰に窒素を入れて希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造すると、粒子内部で部分的にアモルファス化し、その中に数〜数100nmの結晶が微細に混在した状態になる。粒子内部がこのような微結晶構造になると、アモルファス部は非磁性であるため、粒子内の各微結晶間の磁気的な結合が切られ、粗粉が粉砕されて微粉になった場合と同様の状態になり、高い保磁力が得られる。
さらに、得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末における上記微結晶部は、飽和磁化の高いSm2Fe17N3に近い強磁性相となっているため、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、粗い合金粉末であっても高い飽和磁化、保磁力が得られることになる。このようなピニングタイプの磁石にあっては微粉砕を行わなくてもよい。ただし、還元拡散により粉末が焼結し二次粒子が多く存在する場合などには、上記粗粉を適宜解砕、または粉砕を行うことができる。
この希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、空気中、温度や湿度の高い雰囲気中に置かれると錆びたり劣化したりして磁気特性が低下する場合があるため、燐酸や有機燐酸エステル系化合物、亜鉛などの金属粉末、シリルイソシアネート系化合物、あるいはチタネート系、アルミニウム系、シラン系など各種カップリング剤によって表面処理することが望ましい。
本発明のボンド磁石用組成物は、上記希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを樹脂バインダーとして配合したことを特徴とする。すなわち、前記した本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、バインダー成分として熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを配合し、混合することにより、優れた特性を有するボンド磁石用組成物となる。
本発明のボンド磁石用組成物を調製する際に用いられる混合機としては、特に制限がなく、リボンミキサー、V型ミキサー、ロータリーミキサー、ヘンシェルミキサー、フラッシュミキサー、ナウターミキサー、タンブラー等が挙げられる。また、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ウェットミル、ジェットミル、ハンマーミル、カッターミル等を用いることができる。各成分を粉砕しながら混合する方法も有効である。
本発明のボンド磁石は、上記ボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石である。すなわち、上記希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を含むボンド磁石用組成物は、混練後、下記の要領で成形してボンド磁石とすることができる。
圧縮成形する場合は、前記混合比で、例えば、混合機(例えば、井上製作所(製))で混合し、金型に磁界を印加するための電磁石を具備したプレス装置を用い、金型に800kA/m(10kOe)以上の磁界を印加しながら、4ton/cm2の圧力でプレス成形する。
また、射出成形の場合では、前記混合比で加熱加圧ニーダー装置を用いて混合し、金型に磁界を印加するための電磁石を具備したプレス装置を用いて成形する。組成物を、例えば、30〜80℃の成形温度に加温したシリンダー中で溶融し、800kA/m(10kOe)以上の磁界が印加された金型中に射出成形して、樹脂の硬化温度まで加熱し、一定時間保持して硬化させる。
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末試料の磁気特性は、次のように測定した。まず、パラフィンを詰めたサンプルケースを準備し、それに磁石粉末を詰め、その後、加熱配向、冷却固化を行い、振動試料型磁力計(VSM)(東英工業(株)製)を用い、ヒステリシスループを描かせた(最大印加磁場1190kA/m(15kOe))。
射出成形ボンド磁石に関しては、cioffi型自記磁束計(東英工業(株)製)を用いて磁気特性を測定した。
X線回折定量分析により磁石粉末中のα−Fe量を算出した。α−Fe量は、広域測定結果のバックグランドを除去したあとに、α−Fe[JCPDS No.6−696]の<110>面と、Sm2Fe17N3の<300>面の位置に相当するピークの強度から、下記の式より算出した比率である。
α−Fe量(%)=IFe/(ISFN×100/39.5+IFe)×100
IFe:α−Fe<110>面、2θ=44.673(deg.)のピーク強度
ISFN:Sm2Fe17N3<300>面、2θ=35.593(deg.)の
ピーク強度
なお、α−Fe量の算出には化合物間のピーク強度比の補正は行っておらず、α−Fe、Sm2Fe17N3以外には化合物が存在していないと仮定している。
<平均粒径の測定>
磁石粉末の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計(Sympatec社製)を用いて行った。
次に示す要領でSm−Fe−N合金磁石を作製した。まず、出発原料として、実施例1〜7では、表1に示す組成の原料希土類−遷移金属合金と、Sm2O3((株)トーメン製)を準備した。比較例1では、原料希土類−遷移金属合金を用いず、遷移金属原料としてFe粉、希土類元素原料としてSm2O3を用いた。
上記混合原料に、還元剤として、このSm2O3を還元するに足るCa(純度99.3%、ミンテックジャパン(株)製)を加え、試料ごとに混合機で1時間混合した。得られた混合物を反応容器に入れ、さらに還元拡散容器に入れた後、電気炉(還元拡散炉)に装入し、アルゴン置換した後、アルゴン流量0.5〜1L/分として、1200℃で8時間保持し、希土類酸化物を還元し、Sm−Fe合金中に拡散させSm−Fe還元物を製造した。比較例1の場合は、希土類酸化物を還元し、Fe粉中に拡散させSm−Fe還元物を製造した。
さらに、この還元物1kgを10Lの水とともに水槽に入れ、10分攪拌後、上澄みを抜き、この作業を10回繰り返してCaを除去し、酢酸を用いて酸洗処理を行った。その後、アルコールでデカンテーションし、真空中100℃、5時間乾燥し、Sm−Fe母合金粉末を得た。
このようにして作製したSm−Fe−N合金に関し、X線回折定量分析を行い、主相以外の相であるα−Fe量を算出した。その結果を表2に示す。さらに図1に実施例1、図2に比較例1のX線回折パターンを示す。
これらの結果より、本発明の実施例1〜7は、比較例1に比べα−Fe量が少ないことが分かる。ただし、実施例5については、投入する原料希土類−遷移金属合金の希土類元素量が5原子%より少なく、また、実施例6、7は、希土類酸化物として存在する希土類元素量が該混合物の全希土類元素量の5%よりも少ないために、Sm−Fe−N合金中のα−Fe量は、実施例1〜4に比べて高くなっている。
実施例5〜7は、比較例1に比較し粉末特性が高く、実施例1〜4は、これらの試料よりさらに高い特性であることが分かる。
上記実施例1〜7、比較例1で製造したSm−Fe−N合金微粉末をそれぞれ91.0重量%採り、これに熱可塑性樹脂12ナイロン(PA12(宇部興産(株)製)を9.0重量%の割合で混合し、ボンド磁石用組成物を調製した。
次に、このボンド磁石用組成物をナカタニ混練機(ナカタニ製)で190℃−1パス、その後、シリンダー温度210℃、成形圧力1tonでφ20×13mmの形状に射出成形した。実施例1〜7、比較例1の合金微粉末を用いて、各々成形体1〜8とした。
得られた射出成形ボンド磁石の磁気特性を表4に示す。実施例12〜14の射出成形体は、比較例2の射出成形体に比較し磁気特性が高く、実施例8〜11の射出成形体は、これらの試料よりさらに磁気特性が高いことが分かる。
次に示す要領で、Sm−Fe−Mn−N合金磁石を作製した。まず、出発原料として、実施例15〜17では、還元拡散法を用いて、表5に示す組成の原料希土類−遷移金属合金を作製し、これにSm2O3を混合した。比較例3では、原料希土類−遷移金属合金を作製せず、95.1%Fe−4.9%Mn合金とSm2O3を原料として用いた。
これらの原料に、還元剤として、このSm2O3を還元するに足るCaを加え、試料ごとに混合機で1時間混合した。得られた混合物を反応容器に入れ、さらに還元拡散容器に入れた後、電気炉(還元拡散炉)に装入し、アルゴン置換した後、アルゴン流量0.5〜1L/分、1200℃で8時間保持し、希土類酸化物を還元し、Sm−Fe−Mn合金中にSmを拡散させ、Sm−Fe−Mn合金還元物を製造した。
さらに、この還元物1kgを10Lの水とともに水槽に入れ、10分攪拌後、上澄みを抜き、この作業を10回繰り返してCaを除去し、酢酸を用いて酸洗処理を行った。その後、アルコールでデカンテーションし、真空中100℃で5時間乾燥し、Sm−Fe−Mn合金粉末を得た。次に、上記8試料の合金を篩目開き104μm(#150メッシュアンダー)で篩い、アンモニア−水素混合ガス中、480℃で9時間、窒化処理を行い、Sm−Fe−Mn−N合金粗粉末を製造した。
実施例15〜17、比較例3の組成、磁気特性を表6に示す。希土類酸化物として存在する希土類元素量が該混合物の全希土類元素量の5原子%よりも少ない実施例17は、比較例3と比べて粉末特性が高く、さらにこれらの試料に比較すると実施例15、16は特性が高いことが分かる。
製造したSm−Fe−Mn−N合金微粉末を91.0重量%採り、これに熱可塑性樹脂(PA12(宇部興産(株)製)を9.0重量%の割合で混合し、ボンド磁石用組成物を調製した。
次に、このボンド磁石用組成物をナカタニ混練機(ナカタニ製)で190℃−1パス、その後、シリンダー温度210℃、成形圧力1tonでφ20×13mmの形状に射出成形した。実施例15〜17、比較例3の合金粉末を用いた射出成形体をそれぞれ成形体9〜12とした。
得られた射出成形ボンド磁石の磁気特性を表7に示す。実施例20の射出成形体は比較例4よりも磁気特性が高く、これらの試料よりも実施例18、19の射出成形体は、さらに特性が高いことが分かる。実施例20は、原料希土類−遷移金属合金中の希土類元素量が5原子%未満であり、さらに投入原料の全希土類元素量に対して希土類酸化物中に含有される希土類元素量が65%を超えているため、実施例18、19に比較すると、若干磁気特性が低くなっている。
Claims (11)
- 還元拡散法により、下記の一般式(1)又は(2)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する方法において、
希土類元素量が5原子%以上である原料希土類−遷移金属合金粉末(A)を用意し、これに希土類酸化物粉末(B)、及び該希土類酸化物(B)を還元するための還元剤を混合する工程、引き続き、この混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金からなる還元拡散反応生成物とする工程、次いで、得られた還元拡散反応生成物を窒素含有雰囲気中で加熱処理して、窒化する工程を含むことを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
RaFe(100−a−b)Nb …(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素であり、また、a、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
RxFe(100−x−y−z)MyNz …(2)
(式(2)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、MはCu、Mn、Co、Cr、Ti、NiおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属元素を示し、また、x、y、zは原子%で、4≦x≦18、0.3≦y≦23、15≦z≦25を満たす。) - 原料希土類−遷移金属合金粉末(A)の希土類元素量が、5原子%以上13原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
- 希土類酸化物粉末(B)の希土類元素量が、混合物中の全希土類元素量に対して5%以上65%以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
- 得られた窒化物を、さらに微粉砕又は解砕することを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
- 一般式(1)において、RがSm又はNdから選ばれる1種以上であり、しかもα−Feの含有量が、1.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
- 一般式(2)において、Rが希土類元素から選ばれる1種以上であり、MがMn及び/又はCuを必須元素として含み、yが、1≦y≦10であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末。
- 請求項5に記載の製造方法によって得られ、平均粒径が10μm以下であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末。
- 請求項6に記載の製造方法によって得られ、平均粒径が50μm以下であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末。
- 請求項7〜9のいずれかに記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを樹脂バインダーとして配合したことを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石用組成物。
- 請求項10に記載のボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石。
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