一方、近年においては、浴槽は単なる四角箱型の単純形状なものに限られず、様々な形状の浴槽が用いられている。これに伴って、浴槽側壁の傾斜度合いも各浴槽によって異なるようになっている。より具体的には、近年の浴槽はその側壁が抜き勾配で斜めに傾斜していることに加えて、デザイン上の観点から様々な傾斜角度をなして形成されている。
しかしながら、特許文献1に記載の入浴介助装置は、浴槽内で座面を昇降させる伸縮ガイド部が昇降装置自体に角度的に固定されており、ほぼ垂直に近い角度でしか伸縮ガイドを伸縮させることができない。そのため、特許文献1に記載したような入浴介助装置の昇降装置を上述したような浴室壁面のスライドレールにスライド可能に設置した場合、浴槽側壁がほぼ垂直に形成されたような浴槽については座面を問題なく昇降できるが、浴槽側壁が斜めに形成されたような浴槽においては、座面の降下中に伸縮ガイドが浴槽側壁に干渉してしまう。すなわち、このように側壁が特別に傾斜した浴槽に上述した入浴介助装置を適用した場合、座面を完全に下降させた最下端の位置で座面が浴槽側壁と接触しないようにしなければならない。そのため、このような浴槽に関しては、座面が浴槽底部まで確実に降下可能とするために昇降装置をスライドレールから浴槽側にかなり突出させた特別な構造で対応する必要がある。すなわち、このような側壁が傾斜した浴槽に対して、かかる入浴介助装置の構造を実現するためには、スライドレールと入浴介助装置の昇降装置との間に特別な取り付け位置調整部材を介在させる必要がある。
しかしながら、このような取り付け位置調整部材を介在させて入浴介助装置の昇降装置を浴槽内方側にかなり突出させた状態で取り付けると、入浴介助装置自体も大型化してしまうとともに、浴槽の入浴スペースが犠牲となって十分な入浴スペースを確保できないという問題が生じる。
また、入浴介助装置の装置本体が浴槽内方側にかなり突出させた状態で取り付けられていると、入浴介助装置を必要としない例えば家族が入浴する際に入浴介助装置が入浴の邪魔となる。
また、このように従来型の入浴介助装置を浴室壁面のスライドレールに設置しようとすると、浴槽の形状に合わせて入浴介助装置を現場で調整しながら設置しなければならず、設置作業に時間がかかりコスト的にも問題がある。
本発明の目的は、浴室壁面に取り付けたスライドレールを介して浴室の脱衣所から直接座面に乗り降りできかつ浴槽内に座面を昇降させることのできる入浴介助装置であって、あらゆる形状の浴槽に対応可能な入浴介助装置を提供することにある。
上述した課題を解決するために、本発明にかかる入浴介助装置は、
浴室壁面に取り付けられるスライドレールと、前記スライドレールに対して移動可能に設置された装置本体と、前記装置本体に取り付けられた伸縮ガイドと、前記伸縮ガイドに取り付けられた座面とを有し、前記装置本体に備わった昇降装置を介して前記座面を昇降させる入浴介助装置において、
前記伸縮ガイドは前記装置本体に対して振り子状に回動する回動部を介して当該装置本体に取り付けられるとともに、前記入浴介助装置の浴槽への取り付け状態において前記伸縮ガイドの延伸に伴って前記座面又は前記伸縮ガイドの接触部が浴槽側壁の傾斜に沿って降下することを特徴としている。
入浴介助装置の装置本体が浴室の壁面にスライドレールを介して取り付けられている場合に、側壁が傾斜した浴槽が浴室に設置されていても、装置本体に備わった伸縮ガイドが浴槽側壁の傾斜角度に合わせて回動するようになっているので、座面又は伸縮ガイドの接触部が浴槽側壁に接触してこの側壁に沿って降りて行くことができる。
すなわち、側壁がどのような傾斜角度を備えた浴槽であっても、伸縮ガイドの延伸を浴槽側壁が妨げることはない。その結果、伸縮ガイドの伸縮方向が一義的に決まった入浴介助装置のように、昇降装置自体を浴室壁面のスライドレールから予め余裕を持って浴槽内側に突出して取り付ける必要がなく、装置本体を浴室の壁面近くに設置することができる。これによって、入浴介助装置自体の小型化を図るとともに、被介助者の入浴スペースを広く確保することが可能となる。また、入浴介助装置を必要としない家族が入浴する際にも邪魔にならない。
また、座面が伸縮ガイドに取り付けられているとともに座面の降下時に接触部が浴槽側壁に接触するので、座面の降下時に座面が揺れることがなく、被介助者が安心して入浴できる。
また、本発明の請求項2に記載の入浴介助装置は、請求項1に記載の入浴介助装置において、
前記接触部は、前記座面又は前記伸縮ガイドに取り付けられ、かつ前記浴槽に接触して回転する回転ローラからなることを特徴としている。
接触部を回転ローラとすることで、この部分を浴槽側壁に沿って接触させながら座面が降下するので、浴槽側壁を傷つけることなく座面又は伸縮ガイドを滑らかに降下させることができる。
また、本発明の請求項3に記載の入浴介助装置は、請求項1又は請求項2に記載の入浴介助装置において、
前記昇降装置は可撓性部材を備え、当該可撓性部材を巻き上げ又は繰り出すことで前記座面を昇降させることを特徴としている。
例えば、ボールネジ等で昇降すると特別な昇降方向変換装置が必要であるが、可撓性部材を介して座面を昇降することで、伸縮ガイドが傾斜したまま座面を昇降しても、可撓性部材が撓みながら座面を昇降させることができる。その結果、駆動力の特別な変換機構を必要とせず、入浴介助装置の昇降装置を簡易な構成で実現できる。
また、本発明の請求項4に記載の入浴介助装置は、請求項3に記載の入浴介助装置において、
前記可撓性部材はプーリを介して巻き上げ又は繰り出され、当該プーリは前記伸縮ガイドの回動軸と同軸であることを特徴としている。
プーリが伸縮ガイドの回動軸と同軸であるので、座面の昇降中に被介助者が座面を前後に揺することで伸縮ガイドが揺動しても、可撓性部材が無理に引っ張られたり弛んだりすることがなく、座面の円滑な昇降を実現できる。
また、本発明の請求項5に記載の入浴介助装置は、請求項1又は請求項2に記載の入浴介助装置において、
前記装置本体に備わった昇降装置は前記伸縮ガイドとともに回動可能となっていることを特徴としている。
昇降装置を伸縮ガイドとともに回動可能とすることで、伸縮ガイドの複雑な伸縮方向変換機構を必要としないので、昇降装置に例えばボールネジなどの機構を用いることも可能となる。
また、本発明の請求項6に記載の入浴介助装置は、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の入浴介助装置において、
前記伸縮ガイドは、前記入浴介助装置の浴槽への取り付け状態において当該伸縮ガイドが垂直方向より装置本体側に傾斜するのを規制する本体側回動角度規制手段を有することを特徴としている。
伸縮ガイドが装置本体側に傾斜するとシートの座面が下向きに傾くので、被介助者が前のめりになって着座姿勢上好ましくないが、装置本体側への傾斜を規制する本体側回転角度規制手段を設けることで、このような不都合が生じるのを防止する。
また、本発明の請求項7に記載の入浴介助装置は、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の入浴介助装置において、
前記伸縮ガイドは、当該伸縮ガイドが最も縮んだ状態において前記入浴介助装置の取り付けられる浴槽の側壁の傾斜角度に対応するように初期の傾斜角度を規制する初期延伸角度規制手段を有することを特徴としている。
通常、殆んどの浴槽には抜き勾配がついているので、伸縮ガイドの傾斜方向を予めこの抜き勾配に沿った方向に合わせて規制することで、座面の降下時に接触部を浴槽の傾斜に滑らかに接触させ、座面の円滑な降下を実現する。
また、本発明の請求項8に記載の入浴介助装置は、請求項1乃至請求項7の何れかに記載の入浴介助装置において、
前記伸縮ガイドは、当該伸縮ガイドの最大傾斜角度を規制する最大回動角度規制手段を有することを特徴としている。
伸縮ガイドの最大傾斜角度を規制することで、伸縮ガイドが傾斜し過ぎて被介助者が好ましくない着座姿勢になるのを防止する。
また、本発明の請求項9に記載の入浴介助装置は、請求項1乃至請求項8の何れかに記載の入浴介助装置において、
前記伸縮ガイドと前記装置本体とは、前記回動部において着脱可能に設けられていることを特徴としている。
伸縮ガイドと装置本体とを回動部において着脱可能とすることで、入浴介助装置設置時や運搬時の作業を行い易くする。また、メンテナンス性も向上する。また、伸縮ガイドを装置本体から取り外すことで被介助者以外の例えば家族が入浴する際に十分な入浴スペースを確保できる。
また、本発明の請求項10に記載の入浴介助装置は、請求項1乃至請求項9の何れかに記載の入浴介助装置において、
前記座面の浴槽底側には浴槽底面との着底部が形成され、当該着底部の高さは前記座面に備わった背凭れ側端部よりも当該端部と対向する端部が高くなっていることを特徴としている。
浴槽側壁がどのような傾斜角度になっていても、座面の着底部が浴槽底部に必ず接触して伸縮ガイドとの連結部に過大な曲げモーメントが作用するのを防止する。
また、本発明の請求項11に記載の入浴介助装置は、請求項10に記載の入浴介助装置において、
前記着底部には、前記伸縮ガイドの回動方向に対する座面の滑りを防止する滑り止め部が形成されたことを特徴としている。
座面着底時に被介助者が座面を前方に移動させても座面が滑ることがなく、被介助者の快適な入浴を可能とする。
本発明によると、浴室壁面に取り付けたスライドレールを介して浴室の脱衣所から直接座面に乗り降りできかつ浴槽内に座面を昇降させることの可能な入浴介助装置であって、あらゆる形状の浴槽に対応可能な入浴介助装置を提供できる。
以下、本発明の一実施形態にかかる入浴介助装置について説明する。本発明の一実施形態にかかる入浴介助装置1は、図4に示すように、支持フレーム20と、支持フレーム20に取り付けられた装置本体30と、装置本体30に対して回動可能に取り付けられた多段ガイド(伸縮ガイド)40と、多段ガイド40の一端部(下端部)に取り付けられた背凭れ付きのシート50とを備え、図1に示すように、浴室の側壁に取り付けられた二本の平行なスライドレール900にスライダ950とヒンジ部960(図8参照)を介してスライド可能に取り付けられている。
なお、多段ガイド40にはテレスコピック型の多段ガイドを用いることによって、装置本体30の高さをシート50の背凭れ部540の高さとほぼ同等に抑えている(図4参照)。また、装置本体30には、ドラム350(図6参照)とドラム350を駆動するモータ323(図4参照)が取り付けられ、当該ドラム350に巻かれたワイヤ100をモータ323によって巻き上げたり繰り出したりすることで、ワイヤ端部に接続した背凭れ付きのシート50を多段ガイド40の伸縮とともに昇降するようになっている。
また、多段ガイド40は、装置本体30に対して一定の角度範囲内で回動自在となっている。そして、多段ガイド40の最下段ガイドには回転ローラ450(図5参照)が備わっている。また、シート50の底部には座面の滑り止めを兼ねた着底部550が備わっている。更に、多段ガイド40と装置本体30とは、ガイド側回動部400と本体側回動部300(図6及び図7参照)によって着脱可能に設けられている。
以下、各構成要素についてより詳細に説明する。スライドレール900は、図1及び図8に示すように、浴室を側壁の浴槽内上方から脱衣所まで延在した二本の平行なスライドレール910,920からなり、各スライドレール910,920には細長のスライダ950が摺動可能に係合している。そして、各スライダ950の一方の端部(浴室の脱衣所側端部)にはヒンジ部960が備わり、このヒンジ部960を介して支持フレーム後面の一方とスライダ950が回動可能に連結されている(図8参照)。また、スライダ950の他方の端部(浴槽側端部)は図示しない着脱機構を介して支持フレーム後面の他方の端部と着脱可能に係合している。なお、この着脱機構は、スライダ950が脱衣所まで完全に移動した状態でのみ支持フレーム20とスライダ950の他方の端部が離れて、入浴介助装置1の支持フレーム20、装置本体30、及びシート50がこの位置で脱衣所側に旋回し、それ以外の位置においては、スライダ950が支持フレーム20と完全に連結された状態となっている。
一方、装置本体30は、図6に示すように、多段ガイド40を介してシート50を支持する本体フレーム320と、本体フレーム320の内側に設けられた昇降駆動部(昇降装置)330を有している。なお、装置本体30はここでは図示しないが、装置カバーで全体的に覆われている。
本体フレーム320の上部には、多段ガイド40を一定の角度範囲で回動可能とさせる本体側回動部300が備わっている。本体側回動部300は、本体フレーム320に支持された回動シャフト301を備え、回動シャフト301の長手方向中央部分にはプーリ370が取り付けられている。また、回動シャフト301には後述するように多段ガイド40のガイド側回動部400が係合している。
多段ガイド40は、本体フレーム320に取り付けられ、かつ多段ガイド40が最も縮んだ状態において入浴介助装置1の取り付けられる浴槽の側壁の傾斜角度に対応するように傾斜角度を規制する初期延伸角度規制部321に当接している。通常、ほとんどの浴槽には抜き勾配がついているので、かかる初期延伸角度規制部321が多段ガイド40の傾斜方向を予めこの抜き勾配に沿った方向に合致させることで、座面530の降下時に後述する回転ローラ450を浴槽の側壁に滑らかに接触させ、座面530の円滑な降下を実現する。なお、初期延伸角度規制部321はABS樹脂やポリアセタールなどの強度を有する材質の表面にゴムなどの弾性体を付して構成され、多段ガイド40の初期延伸角度を規制するとともに騒音の発生を防止するようになっている。
また、本体フレーム320には、シート50が最上位置にある際に座面530が前のめりにならないようにシート50の背凭れ540を若干後ろに傾斜させる本体側回動角度規制ストッパ322が備わっている。この本体側回動角度規制ストッパ322は、本実施形態の場合、上述した初期延伸角度規制部321がその役割を兼ねている。
また、これとは別に多段ガイド40の最大傾斜角度を規制することで、多段ガイド40が傾斜し過ぎて被介助者が好ましくない着座姿勢になるのを防止する最大回動角度規制部325も備わっている。なお、最大回動角度規制部325は、装置本体30の本体フレーム320の一部を特定の角度に形成することで構成されている。
続いて、装置本体30に備わったワイヤ駆動部の構造について説明する。図6に示すように、装置本体30にはステンレスのパイプからなる本体フレーム320と、本体フレーム320に取り付けられた駆動部取り付けベースと、駆動部取り付けベースの上方に取り付けられたドラム350と、ドラム350から繰り出し又はドラム350で巻き取り可能なワイヤ100と、ドラム350を回転させてワイヤ100の繰り出し及び巻き取りを行うモータ323(図4参照)と、モータ323を駆動するバッテリと、座面の昇降を制御する制御装置と、昇降スイッチを有したスイッチボックスを備えている。
ドラム350は、ドラム回転ボス及びドラム支持板によって本体フレームに回転可能に支持されている。また、ドラム350には一端がシート50に結合したワイヤ100の他端側が巻き付けられている。そして、ドラム350に巻かれたワイヤ100はワイヤガイド及びワイヤ押さえによってドラム周面からのふくらみが抑えられている。また、ワイヤ100の撓みによる座面530の浴槽壁部への到達を検知するリミットスイッチとワイヤ巻き取りによる座面530の最上位置を検知するリミットスイッチが本体フレーム320の適所に備わっている。
また、本体フレーム320の本体側回動部300である回動シャフト301には上述したようにプーリ370が備わっている。すなわち、プーリ370は、多段ガイド40の回動中心と同軸に設けられている。そして、本体フレーム320の中間位置に配置されたドラム350から繰り出したワイヤ100がプーリ370を介して多段ガイド40の最下段ガイドにおける連結部に接続されている。
多段ガイド40は、図11に示すように、2列に配置した円筒状の多段ガイドであり、ガイド収容部をなす第1のガイド410と、この内側に摺動可能に備わる第2のガイド420と、さらにこの内側に摺動可能に備わる第3のガイド430と、最も内側に収納可能に備わる第4のガイド440からなるテレスコピックタイプの多段伸縮ガイドである。また、第1のガイド410はガイド側回動部400の一部をなす連結ステー(図示せず)で連結されている。
なお、多段ガイド40は、全てステンレスでできており、浴槽内での長期間の使用に耐えられるようになっている。また、第1のガイド410の上部にはキャップ(図示せず)が嵌められ、第1のガイド上部からの内側ガイドの突出を防止している。また、第2のガイド420には第2のガイド同士の間隔を保持するための第1架橋板(図示せず)が取り付けられ、第3のガイド430にも第3のガイド同士の間隔を保持する第2架橋板(図示せず)が取り付けられている。なお、第1架橋板と第2架橋板は多段ガイド昇降時の各段の左右ガイドを同期させて後述する回転ローラ450と協働しながら多段ガイド40の滑らかな伸縮を可能にする役目を果たしている。
多段ガイド40の第1のガイド410には、図6に示すように、装置本体30と多段ガイド40を一定の角度範囲で回動可能とするガイド側回動部400が備わっている。ガイド側回動部400は、第1のガイド410を所定の間隔で連結するステンレス製の連結ステー401と、連結ステー401に備わった2つの連結ブラケット402とからなる。なお、連結ブラケット402もステンレスでできており、上面視で角形C字状の板材からなり、その折り曲げ部下側には本体側回動部300の回動シャフト301と係合する異型の切欠き部402aが形成されている。
そして、多段ガイド自体の重力の作用方向との関係からガイド側回動部400の切欠き部402aの一端側に回動シャフト301が係合するとともに、多段ガイド40の第1のガイド410が初期延伸角度規制部321に当接した状態でシート上限位置でのシート50の姿勢を保っている。
なお、被介助者がシート50に座ったときは、その重力が回動シャフト301を介して装置本体30に対して斜め下向きに作用するが、切欠き部402aが連結ブラケット402の下側端部から装置本体後方に向かって形成されているので、切欠き部402aが回動シャフト301にしっかりと係合して多段ガイド40が装置本体30から外れないようになっている。また、被介助者が着座していない状態では、多段ガイド40を斜め上方にずらすことで、回動シャフト301と切欠き部402aとの係合が解除されて多段ガイド40を装置本体30から容易に取り外すことができ、被介助者以外の例えば家族などが入浴するときの便宜を図っている。
一方、第4のガイド440の下端部は、取り付け状態で水平方向に延在しており、図5に示すようにシート50の座面530にそれぞれ連結されている。そして、ここでは図示しないが水平延在部の所定位置にワイヤ100の一端が連結されている。
多段ガイド40は、ここでは詳細には図示しないが、各多段ガイド40の上端部に半割構造の外側ライナが備わり、各多段ガイド40の下端部にはリング状のストッパ及び内側ライナが備わっている。そして、第1のガイド410乃至第3のガイド430の内周には摺動シートが備わり、外側のガイドの摺動シートに対してこれに隣接する内側のガイドの外側ライナが摺動することで、外側のガイドから内側のガイドが延伸するようになっている。また、内側ライナはストッパとともに各ガイドの下端にネジ止めされ、このガイドに摺設する内側ガイドの外側ライナが外側ガイドの内側ライナに突き当たることで、内側ガイドの抜けを防止している。
一方、第4のガイド440の折り曲げ部には、側面視で三角形状を有するステンレス製の補強板451が備わり、当該補強板451には、支持ステー452を介して回転ローラ450が回動自在に設けられている。回転ローラ450は外周部が弾性体で形成され、シート50の最上位置では装置本体30の本体フレーム320から離れているが、多段ガイド40の延伸に伴って浴槽側壁の所定位置から浴槽側壁に接触して浴槽側壁に沿って回転しながら降下するようになっている。
続いて、背凭れ付きのシート50について説明する。背凭れ付きのシート50は、図4に示すように、断面丸型のステンレスからなるパイプをシート状に折り曲げたシートフレーム510と、同じく断面丸型のパイプでできておりシートフレーム510の一部に設けられたアームレスト520と、シートフレーム510の着座位置に取り付けられた座面530と、シートフレーム510の背凭れ位置に取り付けられた背凭れ部540とを有している。そして、シートフレーム510の一部を上述した多段ガイド40の第4のガイド440(図11参照)に備わった水平延在部に適当な締結具で結合することで、シート50が多段ガイド40にしっかりと固定している。
なお、背凭れ部540の高さは、座面530の上限位置で多段ガイド40の上端部と同等の高さとなっている。より具体的には、背凭れ部540の高さは、例えば200mm乃至400mm、好ましくは350mm程度であり、被介助者がシート50に座った状態でその上端が被介助者の肩胛骨の下程度に位置するようになっている。なお、この程度の高さであれば、背凭れ部540が高すぎずに介助者の足を上げ易く、かつ低過ぎずに被介助者の上半身を支えるのに十分な高さといえる。
座面530の浴槽底側には浴槽底面との着底部550が形成され、着底部550の高さは座面530の背凭れ側端部よりも当該端部と対向する端部が高くなっている。なお、着底部550はゴムでできているが、エラストマなどの弾力性を有する合成樹脂でできていても良い。着座部550がこのような弾力性を有する材質でできていることで、浴槽底壁への座面着底時における衝撃を吸収し、接触音が発生するのを防止するとともに、浴槽を傷つけないようにすることができる。また、座面530に着底部550が形成されていることで、浴槽側壁がどのような傾斜角度になっていても、座面530の着底部550が浴槽底部に必ず接触する。これによって、被介助者の体重が着底部550を介して浴槽の底部にかかるようになり、座面530と多段ガイド40との連結部に過大な曲げモーメントが作用するのを防止する。
また、着底部550には、詳細には図示しないが、多段ガイド40の回動方向に対する座面530の滑り止め部である凹凸が連続的に形成されている。これによって、座面着底時に被介助者が座面530を前方に移動させても座面530が滑ることがなく、被介助者の快適な入浴を可能とする。
続いて、本実施形態にかかる入浴介助装置1の実際の使用方法について説明する。まず、図1に示すように、入浴介助装置1の支持フレーム20、装置本体30、及びシート50をスライドレール900に沿って押すことで脱衣所側に移動させる。支持フレーム20、装置本体30、及びシート50を完全に脱衣所側に移動させた後に図示しない着脱機構のロックを外し、スライダ950と支持フレーム20を連結したヒンジ部960(図8参照)のみの支持によって入浴介助装置1の支持フレーム20、装置本体30、及びシート50を脱衣所側に旋回させる(図2参照)。これによって、車椅子に座った被介助者は車椅子を浴室の洗い場にまで進入させることなくこの脱衣所に待機したまま入浴介助装置のシート50に着座することができる。なお、脱衣所は洗い場に比べて広いので、この被介助者の乗り換え動作に伴って介助者が介助するスペースを十分に確保でき、この乗り換え動作をたやすく行うことができる。
被介助者が着座した後(以下、「着座者」という)、入浴介助装置1のシート50を元の位置まで旋回させ、着脱機構をロックして支持フレーム20とスライダ950とを完全に連結する(図1参照)。これによって、支持フレーム20、装置本体30、及びシート50はスライドレール900に沿って浴槽方向に移動可能となる。
次いで、着座者を乗せたまま支持フレーム20、装置本体30、及びシート50をスライドレール900に沿って押すことで浴槽側に向かって移動させ、スライドレール900の他端、すなわち浴槽内上方で支持フレーム20、装置本体30、及びシート50を停止させる(図3参照)。
続いて、シート50を図8乃至図11に至るように浴槽の底部まで下降させる。この下降に際しては、入浴介助装置1を制御する制御装置に備わったスイッチボックスの下降ボタンを押す。これによって、入浴介助装置1に備わったバッテリの電力を用いてモータ323(図4参照)を駆動し、ドラム350に巻かれたワイヤ100を装置本体30からプーリ370(図6参照)を介して繰り出させ、シート50を下降させる。この下降にあたっては、多段ガイド40がテレスコピックタイプの多段ガイドとなっており、かつ2本の多段ガイド間が架橋構造となっているので、座面を滑らかに下降させることができる。そして、ある程度座面530が下降すると回転ローラ450が浴槽の側壁に接触する。
なお、本実施形態においては多段ガイド40が装置本体30に対して一定の角度内で回動自在となっており、従来の入浴介助装置のように多段ガイドの延伸方向が限定されていない。そのため、浴槽側壁の傾斜角度がどのような角度であっても、座面を浴槽の側壁に沿って下降させることができる。すなわち、浴槽の側壁の傾斜度合いに応じてスライドレール900と支持フレーム20との間に一定間隔を確保するための間隔調整手段を介在させる必要はない。従って、入浴介助装置1を必要以上に大型化しなくてすむ。
また、多段ガイド40は、これが最も縮んだ状態において入浴介助装置1の取り付けられる浴槽の側壁の傾斜角度に対応するように傾斜角度を規制する初期延伸角度規制部321に当接している。これによって、座面の初期降下時は浴槽側壁の傾斜角度に合わせた延伸角度で多段ガイド40が延伸するので、回転ローラ450が浴槽側壁に接触する際、被介助者が衝撃を受けることなく座面530を滑らかに降下させることができる。
また、回転ローラ450はその外周が弾性部材で構成されており、当該回転ローラ450が第4のガイド440の対応する箇所にそれぞれ互いに平行して配置しているので、座面降下時に浴槽側壁から衝撃を受けることもない。
そして、図11に示すようにシート50が浴槽の底部に到達すると、ワイヤ100が撓んで図示しないリミットスイッチがこの撓みを検知し、モータ323によるワイヤ100の繰り出しを停止する。
なお、このようにシート50の昇降はワイヤ100を介して行っているので、ワイヤ100を吊っている位置を中心として被介助者が乗っている位置からの回転モーメントが働く。そして、多段ガイド40にもこの回転モーメントを受ける方向に力が加わる。しかしながら、ガイド側回動部400と本体側回動部300とが上述の通りしっかりと係合しているので、多段ガイド40が装置本体30から外れることはない。
また、多段ガイド40は回動シャフト301を中心に回動するが、回動シャフト301とプーリ370を同軸に設けているので、これらの回動中心が同じとなる。その結果、被介助者がシート50を揺動して多段ガイド40の回動角度が変化しても、ワイヤ100の延伸量は変化しない。ワイヤ100の長さが多段ガイド40の回動によって変化するとワイヤ100に無理がかかるが、このように多段ガイド40の回動中心とプーリ370を同軸にすることによってこれを防止できる。
なお、シート50の着底部550が浴槽の底部に着底する際、浴槽壁部の傾斜角度に合わせて様々な延伸方向で多段ガイド40が延伸しながら座面530が着底する。しかしながら、着底部550が台形形状を有しているので、着底部550の何れかの場所が浴槽底部に着底する。その結果、浴槽側壁がどのような傾斜角度になっていても、座面530の着底部550が浴槽底部に必ず接触して座面530と多段ガイド40との連結部に過大な曲げモーメントが作用するのを防止する。
また、着底部550には凹凸が連続的に形成されているので、座面着底時に被介助者が座面530を前方に移動させても座面530が滑ることがなく、被介助者の快適な入浴を可能とする。また、ワイヤ100が必要以上に送り出されることもない。
また、多段ガイド間からワイヤ100を繰り出して多段ガイド間を通って座面下方にワイヤ端部を接続しており、かつシート50の下降時に回転ローラ450が浴槽側壁に沿って移動するようになっている。すなわち、座面の四隅をワイヤで吊るような構造を取っていない。そのため、シート50の揺れが無くなることに加えて、シート50の側方部分にワイヤを配置させる必要がなくなり、浴槽内のシート50の側方を有効な入浴スペースとして活用することができる。また、浴槽によっては側壁形状が複雑に湾曲しているような特殊な形状の浴槽もあるが、このような側壁部が曲面をなす浴槽に対しても回転ローラ450がこれに沿って浴槽底部に向かって移動するので、どのような浴槽に対しても入浴介助装置1を利用することができる。
なお、本実施形態にかかる入浴介助装置は、シート50の昇降が入浴介助装置1に備わったモータ323とバッテリによってワイヤ100を繰り出したり巻き取ったりすることで行われ、家庭用電源などから電力を供給するタイプの入浴介助装置ではない。すなわち、バッテリの電力だけでシート50を昇降させることができるので、入浴時に仮に停電になったとしてもシート50の昇降に関して影響を受けることはない。
また、ワイヤ100はプーリ370を介してしてドラム350から繰り出されたりドラム350に巻き取られたりするようになっており、その繰り出し方向や巻き取り方向が多段ガイド40の延伸方向とかなり近くなっているので、モータ323の駆動力をシート50の昇降に効率的に伝えることができる。そのため、低消費電力でシート50の昇降を行うことができ、バッテリの小型化や長寿命化を実現できる。
このようにしてシート50を浴槽の底部まで到達させて被介助者の入浴を終了した後、再び制御装置に接続されたスイッチボックスの上昇ボタンを押して図11乃至図8に至るようにシート50を上昇させる。この場合、回転ローラ450が浴槽の側壁に沿って上昇していくこととガイド同士を第1架橋板と第2架橋板で連結していることから、シート50を滑らかに上昇させることができる。なお、回転ローラ450は上昇の途中まで浴槽の側壁に沿って移動し、上昇途中で浴槽の側壁から離れる。
このようにして、シート50を再び最上位置まで上昇させ、リミットスイッチの検知によりシート50を上限位置で停止させた後(図8参照)、着座者を乗せたまま支持フレーム20、装置本体30、及びシート50をスライドレール900に沿って押すことで脱衣所側に向かって移動させ、スライドレール900の他端すなわち脱衣所側端部で支持フレーム20、装置本体30、及びシート50を停止させる(図1参照)。支持フレーム20、装置本体30、及びシート50を完全に脱衣所側に移動させた後に着脱機構のロックを外し、スライダ950と支持フレーム20を連結したヒンジ部960を介して入浴介助装置のシート50を脱衣所側に旋回させる(図2参照)。これによって、着座者は脱衣所に置かれた車椅子にすぐに乗り換えることができる。なお、脱衣所は前述の通り浴室の洗い場に比べて広いので、被介助者が車椅子に乗り換えるにあたって介助者が介助するスペースを十分に確保でき、この乗り換え動作をたやすく行うことができる。
以上説明したように、本実施形態にかかる入浴介助装置は、入浴介助装置の装置本体30が浴室の壁面にスライドレール900を介して取り付けられている場合に、側壁が傾斜した浴槽が浴室に設置されていても、装置本体30に備わった伸縮ガイドが浴槽側壁の傾斜角度に合わせて回動するようになっているので、座面又は伸縮ガイドの接触部が浴槽側壁に接触してこの側壁に沿って滑らかに降りて行くことができる。
すなわち、側壁がどのような傾斜角度を備えた浴槽に対しても、伸縮ガイドの延伸を浴槽側壁が妨げることはない。その結果、図13に示す伸縮ガイドの伸縮方向が一義的に決まった入浴介助装置のように、装置自体を浴室壁面のスライドレールから予め余裕を持って浴槽内側に突出して取り付ける必要がなく、装置本体を浴室の壁面近くに設置することができる(図11における距離Xと図13における距離Yを比較参照)。これによって、入浴介助装置自体の小型化を図るとともに、被介助者の入浴スペースを広く確保することが可能となる。また、浴室に入浴介助装置を設置する際に、スライダレールと支持フレームとの間隔調整部材を浴槽ごとに対応させてその都度設置現場に持って行く必要がなく、設置作業を簡単に行うことができる。また、入浴介助装置を必要としない家族が入浴する際にも邪魔にならない。
また、座面が伸縮ガイドに取り付けられているとともに座面の降下時に接触部が浴槽側壁に接触するので、座面の降下時に座面が揺れることがなく、被介助者が安心して入浴できる。
本実施形態にかかる入浴介助装置1は、以上説明したことに加えて、多段ガイド40と装置本体とをガイド側回動部400と本体側回動部300において着脱可能としているので、入浴介助装置1の設置時や運搬時の作業を行い易くするともにメンテナンス性も向上する。また、被介助者以外の例えば家族などが多段ガイド40と座面530を装置本体30から外した状態で入浴でき、浴槽の入浴スペースを十分確保してこれらの者が不自由なく入浴できるようにする。
なお、装置本体30に備わった昇降装置は多段ガイド40とともに回動可能となっていても良い。昇降装置を多段ガイド40とともに回動可能とすることで、多段ガイド40の複雑な伸縮方向変換機構を必要としないので、昇降装置に例えばボールネジなどの機構を用いることも可能となる。
以下にかかる変形例について説明する。図14及び図15には、上述の実施形態の昇降装置としてプーリ370と可撓性部材であるワイヤ100とを用いる代わりに昇降装置としてボールねじ610を用いた構成を示している。図14において、ボールねじ610は多段ガイド70の第1のガイド710に固定され、回動シャフト701を中心として多段ガイド70と共に回動するようになっている。そして、図15に示すように、多段ガイド70が延伸すると、多段ガイド70の第4のガイド740に備わった回転ローラ745が浴槽側壁に沿って移動するとともに、多段ガイド70がその浴槽側壁の傾斜に沿って回動し、ボールネジ610も多段ガイド70の延伸方向と同じ方向に回動するようになっている。このような構成によっても、本発明の作用及び効果を発揮することが可能である。
なお、上述のボールねじを用いた機構であっても、装置本体にボールねじを設け、多段ガイドが回動しても軸の出力変換機構の部分で常にボールネジのギアが噛合するように構成すれば、ボールねじの動力伝達部の部分で多段ガイドとボールねじとの相対角度の変位を吸収できる。そのため、このような構成であれば多段ガイドとボールねじとが装置本体に対して一体に回動する構成をとらなくても良い。
また、上述の実施形態のように第4のガイドが回転ローラ450を備える代わりに摺動性に優れたスライダ部材を備えても良い。
また、本実施形態とは異なり、伸縮ガイドがシリンダピストンを兼ねた構成とすることで伸縮ガイドと昇降装置とが一体化して装置本体に対して回動可能となる構成としても良い。
また、上述の実施形態において初期延伸角度規制部を角度調整可能な方式にすれば、個々の浴槽の傾斜に合わせて多段ガイドの延伸方向(傾斜方向)を予め調整することができるので、座面の昇降をより円滑に行えるようになる。
又、回動部に回転ダンパーを用いて、急激な回動を防止することで、安全性を高めることもできる。