発明の説明
本発明は、核酸を処理するための方法および組成物、特に、核酸配列および配列変化を検出および特徴づけするための方法および組成物に関する。
本発明は、部位特異的方法で核酸開裂構造体を開裂するための手段に関する。特に、本発明は、核酸合成能を阻害することなく5'ヌクレアーゼ活性を有する開裂酵素に関する。
本発明は、天然耐熱性DNAポリメラーゼから改変されたDNA合成活性を示す耐熱性DNAポリメラーゼ由来の5'ヌクレアーゼを提供する。該ポリメラーゼの5'ヌクレアーゼ活性は保持されているが、その合成活性は減少しているかまたは喪失している。そのような5'ヌクレアーゼは、合成活性を阻害せずに、核酸の構造特異的開裂を触媒する能力を有する。開裂反応中に合成活性が欠損しているため、核酸開裂産物は均一な大きさとなる。
本発明のヌクレアーゼの新しい性質は、特異的核酸配列を検出する方法の基礎を形成する。この方法は該検出分子の増幅に依るものであり、既存の特異的標的配列検出方法の場合のような該標的配列自体の増幅に依るものではない。
DNAポリメラーゼ(DNAP)[例えば、大腸菌(E. coli)から単離されたもの、またはテルムス(Thermus)属の高温細菌から単離されたもの]は、新しいDNA鎖を合成する酵素である。既知DNAPのいくつかは、該酵素の合成活性に加え、関連ヌクレアーゼ活性を含有する。
いくつかのDNAPは、DNA鎖の5'および3'末端からヌクレオチドを除去することが知られている[Kornberg, DNA Replication, W. H. Freeman and Co., San Francisco, pp 127-139(1980)]。これらのヌクレアーゼ活性は、通常、それぞれ5'エキソヌクレアーゼ活性および3'エキソヌクレアーゼ活性と称されている。例えば、いくつかのDNAPのN−末端ドメインにある5'エキソヌクレアーゼ活性は、DNA複製の際のラギング(ragging)鎖合成中のRNAプライマーの除去および修復の際の損傷ヌクレオチドの除去に関与する。いくつかのDNAP、例えば大腸菌(E. coli)DNAポリメラーゼ(DNAPEcl)も、DNA合成中にプルーフリーディングを起こす3'エキソヌクレアーゼ活性を有する(Kornberg、 前掲)。
Taq DNAポリメラーゼ(DNAPTaq)と称されるテルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)から単離されたDNAPは、5'エキソヌクレアーゼ活性を有するが、機能的3'エキソヌクレアーゼドメインを欠く[TindallおよびKunkell, Biochem. 27:6008 (1988)]。それぞれクレノウ断片およびストフェル(Stoffel)断片と称されるDNAP EclおよびDNAP Taqの誘導体は、酵素的操作または遺伝子操作の結果、5'エキソヌクレアーゼドメインを欠く[Brutlagら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 37:982(1969): Erlichら, Science 252:1643(1991); SetlowおよびKornberg, J. Biol. Chem. 247:232(1972)]。
DNAPTaqの5'エキソヌクレアーゼ活性には同時合成が必要であると報告されている[Gelfand, PCR Technology-Principles and Applications for DNA Amplification (H.A. Erlich編), Stockton Press, New York, p.19 (1989)]。DNAPTaqおよびDNAPEclの5'エキソヌクレアーゼ消化産物のなかではモノヌクレオチドが優勢となるが、短いオリゴヌクレオチド(12ヌクレオチド以下)も観察することができ、このことは、これらのいわゆる5'エキソヌクレアーゼがエンドヌクレアーゼ的に機能できることを暗示するものである[Setlow,前掲; Hollandら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7276(1991)]。
国際公開WO 92/06200号で、Gelfandらは、耐熱性DNAポリメラーゼの5'エキソヌクレアーゼ活性の好ましい基質は置換一本鎖DNAであると示している。該置換一本鎖DNAと該二本鎖DNAとの間でリン酸ジエステル結合が加水分解されるが、この場合、好ましいエキソヌクレアーゼ開裂部位は二本鎖領域中のリン酸ジエステル結合である。したがって、通常、DNAPと関連している5'エキソヌクレアーゼ活性は構造依存的一本鎖エンドヌクレアーゼであり、より適切には5'ヌクレアーゼと称される。エキソヌクレアーゼは、核酸分子の末端からヌクレオチド分子を開裂する酵素である。一方、エンドヌクレアーゼは、末端部位ではなく内部で核酸分子を開裂する酵素である。いくつかの耐熱性DNAポリメラーゼと関連しているヌクレアーゼ活性は、エンドヌクレアーゼ的に開裂するが、この開裂には、開裂されている分子の5'末端との接触が必要である。したがって、これらのヌクレアーゼは5'ヌクレアーゼと称される。
5'ヌクレアーゼ活性が真正細菌DNAポリメラーゼA型と関連している場合、それは、独立した機能性ドメインとして、該タンパク質のN−末端領域の3分の1に見いだされる。該分子のC−末端の3分の2は、DNA合成を起こす重合ドメインを構成する。また、いくつかのDNAポリメラーゼA型は、該分子の3分の2のC−末端領域に関連した3'エキソヌクレアーゼ活性を有する。
DNAPの5'エキソヌクレアーゼ活性と重合活性とは、該ポリメラーゼ分子のタンパク質分解開裂または遺伝子操作により分離されている。現在までに、ポリメラーゼ活性をそのまま残しながら5'ヌクレアーゼ活性量を除去または減少させるために、耐熱性DNAPが修飾されている。
DNAPEclのクレノウ断片または大きなタンパク質分解開裂断片はポリメラーゼ活性および3'エキソヌクレアーゼ活性を有するが、5'ヌクレアーゼ活性を欠く。DNAPTaq(DNAPStf)のストフェル(Stoffel)断片は、該ポリメラーゼ分子のN−末端の289個のアミノ酸を欠失させる遺伝子操作により5'ヌクレアーゼ活性を欠く[Erlichら, Science 252:1643(1991)]。国際公開WO 92/06200号は、改変されたレベルの5'から3'エキソヌクレアーゼを有する耐熱性DNAPを記載している。米国特許第5,108,892号は、5'から3'エキソヌクレアーゼを有さないテルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)DNAPを記載している。しかしながら、分子生物学分野では、合成活性量がより減少した耐熱性DNAポリメラーゼを欠いている。
本発明は、5'ヌクレアーゼ活性を保持するが合成活性が減少しているかまたは全く無い耐熱性DNAポリメラーゼA型由来の5'ヌクレアーゼを提供する。該酵素の合成活性を5'ヌクレアーゼ活性から脱共役できることは、既に報告されているように(Gelfand, PCR Technology、前掲)該5'ヌクレアーゼ活性が同時DNA合成を必要としないことを証明するものである。
本発明の記載は、I.耐熱性DNAポリメラーゼ由来の5'ヌクレアーゼの生成、II.インベーダー指令開裂アッセイにおいて5'ヌクレアーゼを用いる特定の核酸配列の検出、III.侵入的開裂とプライマー指令開裂との比較、IV.選択的電荷反転による特定の核酸の分画、V.ミニプローブおよび中型プローブを用いたインベーダーTM指令開裂、VI.インベーダーTM指令開裂アッセイにおける反応産物の末端付加(tailing)によるシグナル増強、VII.インベーダーTM指令開裂反応において使用するための改善された酵素、VIII. 活性化タンパク質結合部位の完成によるシグナルの増強、IX. 侵入的開裂反応の産物を後続の侵入的開裂反応に組み入れることによるシグナルの増強、X. 侵入的開裂によるヒト・サイトメガロウイルスのウイルスDNAの検出、およびXI. 逐次侵入的開裂反応におけるシグナルおよびバックグラウンドに対するアレスターTMオリゴヌクレオチドの効果、に分けられる。
I.耐熱性DNAポリメラーゼ由来の5'ヌクレアーゼの生成
DNAポリメラーゼA型をコードする遺伝子は、DNA配列レベルで互いに約85%の相同性を共有する。耐熱性ポリメラーゼの好ましい具体例としては、テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)、テルムス・フラバス(Thermus flavus)、テルムス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)などが挙げられる。しかしながら、5'ヌクレアーゼ活性を有する他の耐熱性ポリメラーゼA型も適当である。図1および2では、前記の3つのポリメラーゼのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を比較する。図1および2では、その3つの耐熱性DNAポリメラーゼのヌクレオチド(図1)またはアミノ酸(図2)配列の比較から得られた共通または大多数(majority)配列を最上列に示す。与えられた配列中のアミノ酸残基が該共通アミノ酸配列中に含有されるものと同一であれば、これらの3つのポリメラーゼのそれぞれの配列中に点を付す。表示配列間の整列を最大にするために、間隙を導入するのにダッシュ記号を使用する。所与の位置に共通ヌクレオチドまたはアミノ酸が全く存在しない場合には、該共通配列中に「X」を付す。配列番号1〜3は、その3つの野生型ポリメラーゼのヌクレオチド配列を示し、配列番号4〜6はアミノ酸配列を示す。配列番号1は、YT−1株から単離された野生型テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)DNAポリメラーゼ遺伝子の核酸配列に対応する[Lawyerら, J. Biol. Chem. 264:6427(1989)]。配列番号2は、野生型テルムス・フラバス(Thermus flavus)DNAポリメラーゼ遺伝子の核酸配列に対応する[AkhmetzjanovおよびVakhitov, Nucl. Acids Res. 20:5839(1992)]。配列番号3は、野生型テルムス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)DNAポリメラーゼ遺伝子の核酸配列に対応する[Gelfandら, 国際公開WO 91/09950 号(1991)] 。配列番号7〜8は、それぞれ、前記の3つのDNAPの共通ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す(図2および3の最上列にも示す)。
耐熱性ポリメラーゼ由来の本発明の5'ヌクレアーゼは合成能が低下しているが、天然DNAポリメラーゼと本質的に同じ5'エキソヌクレーゼ活性を保持する。本明細書中で使用する「本質的に同じ5'ヌクレアーゼ活性」なる用語は、該修飾酵素の5'ヌクレアーゼ活性が、構造依存的一本鎖エンドヌクレアーゼとして機能する(ただし、該非修飾酵素と比較して必ずしも同じ速度の開裂ではない)能力を保持することを意味する。また、増大した5'ヌクレアーゼ活性を有するが低下した合成活性レベルを有する酵素を生成するように、DNAポリメラーゼA型は修飾されてもよい。減少した合成活性および増大した5'ヌクレアーゼ活性を有する修飾酵素も、本発明で意図される。
本明細書中で使用する「低下した合成活性」なる用語は、該修飾酵素が、該非修飾または「天然」酵素で見いだされる合成活性レベルを下回る合成活性レベルを有することを意味する。該修飾酵素は合成活性を全く残してなくてもよく、あるいは、以下に記載する検出アッセイでの該修飾酵素の使用を阻害しない合成活性レベルを有していてもよい。本発明の5'ヌクレアーゼは、該ポリメラーゼの開裂活性は望ましいが合成能は望ましくない場合(例えば、本発明の検出アッセイの場合など)に有利である。
前記のとおり、該ポリメラーゼ合成を欠損させるのに必要な改変の性質により本発明が限定されるとは意図されない。本発明は、1)タンパク質分解、2)組換え構築物(突然変異体を含む)、3)物理的および/または化学的修飾および/または阻害を含む(これらに限定されるものではない)種々の方法を意図する。
1.タンパク質分解
タンパク質分解酵素で非修飾酵素を物理的に開裂して、合成活性を欠損しているが5'ヌクレアーゼ活性を保持している酵素断片を生成させることにより、減少したレベルの合成活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼを生成させる。タンパク分解消化の後、得られた断片を標準的なクロマトグラフィー技術により分離し、DNAを合成し5'ヌクレアーゼとして作用する能力についてアッセイする。合成活性および5'ヌクレアーゼ活性を測定する該アッセイについては、以下に説明する。
2.組換え構築物
以下の実施例では、耐熱性DNAポリメラーゼ由来の5'ヌクレアーゼをコードする構築物を生成させる好ましい方法を記載する。DNAポリメラーゼA型はDNA配列が同様であるため、テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)およびフラバス(flavus)ポリメラーゼに用いるクローニング戦略を、他の耐熱性ポリメラーゼA型にも適用できる。一般に、耐熱性DNAポリメラーゼA型を含有する細菌から分子生物学的方法を用いてゲノムDNAを単離することにより、耐熱性DNAポリメラーゼをクローニングする。このゲノムDNAを、該ポリメラーゼ遺伝子をPCRにより増幅する能力を有するプライマーにさらす。
ついで、この増幅されたポリメラーゼ配列を、標準的な欠失法に付して該遺伝子のポリメラーゼ部分を欠失させる。適当な欠失法を以下の実施例に記載する。 以下の実施例では、5'ヌクレアーゼ活性を失うことなくDNAPTaqポリメラーゼドメインのどの部分を除去できるかを決定するのに用いる戦略を議論する。該タンパク質からのアミノ酸の欠失は、突然変異またはフレームシフトによる該コーディング遺伝物質の欠失または翻訳停止コドンの導入のいずれかにより行うことができる。さらに、該タンパク質のセグメントを除去するために、該タンパク分子のタンパク質分解処理を行うことができる。
以下の実施例において、Taq遺伝子の特異的改変は、ヌクレオチド1601〜2502(該コーディング領域の末端)の欠失、2043位での4ヌクレオチド挿入、およびヌクレオチド1614〜1848およびヌクレオチド875〜1778(番号づけは配列番号1のとおり)の欠失であった。これらの修飾配列は、以下の実施例および配列番号9〜12に記載する。
当業者は、単一塩基対変化では酵素の構造および機能に害を及ぼさないものと理解する。同様に、これらの酵素のエキソヌクレアーゼまたはポリメラーゼ機能を本質的に変化させることなく、小さな付加および欠失が存在しうる。
他の欠失も、本発明の5'ヌクレアーゼの製造に適している。本発明の検出アッセイにおける5'ヌクレアーゼの使用を合成活性が阻害しないレベルにまで、該欠失により該5'ヌクレアーゼのポリメラーゼ活性を減少させることが好ましい。該合成能が存在しないのが最も好ましい。以下に記載するアッセイの場合と同様、合成および5'ヌクレアーゼ活性の存在について修飾ポリメラーゼを試験する。これらのアッセイを十分検討することにより、未知構造の候補酵素のスクリーニングが可能となる。すなわち、以下に記載するプロトコルに従い構築物「X」を評価して、それが、構造的にではなく機能的に定義される本発明の5'ヌクレアーゼの属のメンバーであるか否かを判定することができる。
以下の実施例では、増幅されたテルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)ゲノムDNAのPCR産物は、天然ゲノムDNAと同一のヌクレオチド構造を有さず、もとのクローンと同じ合成能を有さなかった。ポリメラーゼ遺伝子のPCR増幅中のDNAPTaqの不忠実性により生じる塩基対変化も、ポリメラーゼ遺伝子の合成能を不活性化させ得る1つの方法である。以下の実施例および図3Aおよび4Aは、天然テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)およびフラバス(flavus)DNAポリメラーゼ中の領域が合成能に重要であるらしいことを示す。該ポリメラーゼを不活性化しそうな他の塩基対変化および置換もある。
しかしながら、DNAポリメラーゼから5'ヌクレアーゼを生成させる方法を、そのような突然変異増幅産物から開始する必要は必ずしもない。これは、合成欠損DNAPTaq突然変異体を得るために以下の実施例で行った方法であるが、5'ヌクレアーゼを生成させるための欠失、挿入および置換の導入のための出発物として野生型DNAポリメラーゼ配列を使用してもよいと当業者には理解される。例えば、合成欠損DNAPTfl突然変異体を生成させるために、配列番号13〜14に記載のプライマーを使用してテルムス・フラバス(Thermus flavus)AT−62株から該野生型DNAポリメラーゼ遺伝子を増幅した。ついで、該増幅ポリメラーゼ遺伝子を制限酵素消化に付して、該合成活性をコードするドメインの大部分を欠失させた。
本発明の核酸構築物が適当な宿主中での発現能を有することが、本発明で意図される。効率的発現を得るために種々のプロモーターおよび3'配列を遺伝子構造に結合させる方法は当業者に公知である。以下の実施例では、2つの適当なベクターおよび6つの適当なベクター構築物を開示する。勿論、適当な他のプロモーター/ベクターの組み合わせもある。本発明の核酸構築物の発現のために宿主生物を使用することは必ずしも必要でない。例えば、核酸構築物によりコードされるタンパク質の発現は、無細胞in vitro転写/翻訳系を使用することにより行ってもよい。そのような無細胞系の一例は、商業的に入手可能なTnTTM共役網状赤血球ライゼート系(Promega Corporation, Madison, WI)である。
適当な核酸構築物を作製したら、該構築物から5'ヌクレアーゼを製造してもよい。以下の実施例および標準的な分子生物学的教示により、異なる適当な方法で該構築物を操作することが可能となる。
5'ヌクレアーゼが発現されたら、以下に記載するとおり、合成およびヌクレアーゼの両活性について該ポリメラーゼを試験する。
3.物理的および/または化学的な修飾および/または阻害
耐熱性DNAポリメラーゼの合成活性は化学的および/または物理的手段によって低下させることができる。ひとつの態様においては、ポリメラーゼの5'- ヌクレアーゼ活性により触媒される開裂反応がポリメラーゼの合成活性を優先的に阻害する条件下に操作される。合成活性レベルは、何ら有意な合成活性を必要としない開裂反応を妨害しないレベルの活性まで低下されることを必要とするのみである。
以下の実施例に示されるとおり、5mMより大きい濃度のMg++により天
然DNAPTaqの重合活性が阻害される。合成活性が阻害されている条件下で5'- ヌクレアーゼが機能する能力は、ある範囲の濃度のMg++(5−10mM)の
存在下に以下に記載する合成活性および5'- ヌクレアーゼ活性に関するアッセイを操作することにより試験される。所定濃度のMg++の影響は、各アッセ
イについて標準反応と比較した試験反応における合成および開裂の量を定量することにより測定される。
ほかのイオン、ポリアミン、変性剤例えば尿素、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グリセリンおよび非イオン界面活性剤(Triton X-100およびTween-20)、核酸結合性化学物質例えばアクチノマイシンD、エチジウムブロミドおよびソラレンの阻害効果は、合成および5'- ヌクレアーゼアッセイのための標準反応緩衝液へのそれらの付加により試験される。次に耐熱性ポリメラーゼの合成活性に対する優先的な阻害作用を有する化合物を使用して、5'- ヌクレアーゼ活性(開裂)が保持される一方で合成活性が低下または排除される反応条件をつくる。
ポリメラーゼの合成活性を優先的に阻害するために物理的手段を用いることができる。例えば、耐熱性ポリメラーゼの合成活性は、ポリメラーゼを極端な熱(代表的には96-100℃)に長時間(20分かまたはそれ以上)さらすことにより破壊される。詳細な熱耐容性に関しては酵素のそれぞれに小さな相違しか存在しないが、それらは容易に測定される。ポリメラーゼを種々の期間、熱で処理し、合成活性および5'- ヌクレアーゼ活性に及ぼす熱処理の効果を測定する。
II.インベーダー指令開裂アッセイにおける5′ヌクレアーゼを用いた特異的核酸配列の検出
本発明は、標的核酸の存在に依存する核酸開裂構造体を形成し、その核酸開裂構造体を開裂して異なる開裂生成物を遊離させる手段を提供する。この標的依存性開裂構造体を開裂するには5′ヌクレアーゼ活性を利用し、得られる開裂生成物はサンプル中の特異的核酸配列の存在を示す。
また、本発明は、温度サイクル(すなわち、標的核酸鎖を周期的に変性させるため)または核酸合成(すなわち、標的核酸鎖の置換のため)を使用する必要なしに、多数回の、オリゴヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションおよび開裂の過程の間標的核酸を再利用または循環使用するアッセイを提供する。開裂手段(たとえば、5′ヌクレアーゼ)と上流のオリゴヌクレオチドとの相互作用により、その開裂手段は内部部位で下流のオリゴヌクレオチドを開裂することができるようになっていて、そのため、得られる下流オリゴヌクレオチドの断片が標的核酸から解離し、それにより、その標的核酸の該当領域が下流オリゴヌクレオチドの別の未開裂コピーとハイブリダイズできるようになる。
図25に示されているように、本発明の方法では、標的核酸と相互作用して構造特異的ヌクレアーゼのための開裂構造体を形成する少なくとも一対のオリゴヌクレオチドを使用する。より特定的には、この開裂構造体は、i)一本鎖でも二本鎖でもよい標的核酸(二本鎖の標的核酸を使用する場合その核酸はたとえば加熱により一本鎖にすることができる)、ii)標的核酸配列の第1領域の相補体であるために当該第1領域を規定する「プローブ」といわれる第1オリゴヌクレオチド(図25に示されている標的の領域XおよびZ)、iii)「インベーダー」といわれる第2オリゴヌクレオチドを含む。この第2オリゴヌクレオチドの5′部分は第1標的領域(領域XおよびZ)の下流でそれに隣接して同じ標的核酸配列の第2領域(図25の領域YおよびX)を規定し、かつ第2部分は第1オリゴヌクレオチドによって規定される領域中にオーバーラップしている(領域Xはオーバーラップ領域を示している)。得られる構造体を図25に示す。
本発明または本明細書中の考察が特定の作用機構に限定されることはないが、図25は、このタイプの配列の一対のオリゴヌクレオチドによって生じる開裂部位に対する影響を示している。そのような一対のオリゴヌクレオチドの設計について以下詳細に述べる。図25で、核酸(すなわち、標的およびオリゴヌクレオチド)の3′末端は、それら核酸鎖を示す線の端に矢じりを用いて示してある(そして、紙面の余裕がある場合はこれらの端に「3′」の符号も付してある)。すぐに分かるように、2つのオリゴヌクレオチド(インベーダーおよびプローブ)はお互いに平行の配向で配列されており、一方、標的核酸鎖は前記2つのオリゴヌクレオチドに対して逆平行の配向で配列されている。また、インベーダーオリゴヌクレオチドがプローブオリゴヌクレオチドの上流に位置していること、および、標的核酸鎖に対して領域Zは領域Xの上流であり、領域Xは領域Yの上流である(すなわち、領域Yが領域Xの下流であり、領域Xが領域Zの下流である)ことが明らかである。対向する鎖間の相補性領域は短い垂直の線で示してある。開裂部位の正確な位置を示すつもりはないが、プローブオリゴヌクレオチド内の開裂部位がインベーダーオリゴヌクレオチドの存在によってシフトされているエリアは垂直実線の矢じりで示す。標的/インベーダー/プローブ開裂構造体の別の一例を図28Cに示す。いずれの図も(すなわち図25も図28Cも)実際の作用機構または開裂構造体の物理的配列を示しているものではない。また、本発明の方法を特定の作用機構に限定するつもりはない。
これらのオリゴヌクレオチドの結合により標的核酸が3つの異なる領域、すなわち、プローブのみに相補性を有する領域(「Z」で示す)、インベーダーのみに相補性を有する領域(「Y」で示す)、および、両方のオリゴヌクレオチドに相補性を有する領域(「X」で示す)に分割されると考えることができる。
これらのオリゴヌクレオチド(すなわち、インベーダーおよびプローブ)の設計は当業界で標準的な操作を用いて達成される。たとえば、得られるオリゴヌクレオチドが標的核酸と結合しないで自身で折り重なってしまったり互いにハイブリダイズしてしまうような自己相補性を有する配列は通常回避される。
これらのオリゴヌクレオチドの長さを選択する際のひとつの要件は、標的核酸を含有しているサンプルの複雑さである。たとえば、ヒトのゲノムは長さが約3×109 塩基対である。ヌクレオチド10個の配列はランダムな一続きのヌクレオチド中に1:410、すなわち1:1048,576の頻度で現れる。これは、30億の塩基対で約2,861回である。明らかに、この長さのオリゴヌクレオチドがヒトゲノムの大きさの配列を有する標的内のヌクレオチド10個の領域に特異的に結合する機会は少ない。しかし、標的配列が3kbのプラスミド内にあれば、このようなオリゴヌクレオチドは特異的に結合する機会がかなりあるであろう。これと同様な計算によって、数学的にいって3×109 塩基対に対して一回現れる確率の配列の最小長さはヌクレオチド16個のオリゴヌクレオチド(すなわち、16-mer)であることが分かる。
オリゴヌクレオチドの長さを選択する際の第二の要件はそのオリゴヌクレオチドが機能すると期待される温度範囲である。平均塩基含有率(G−C塩基対50%)の16-merのTm (配列の50%が解離する温度)の計算値は、とりわけオリゴヌクレオチドおよびその標的の濃度、反応の塩含量ならびにヌクレオチドの正確な順序に依存するが、約41℃である。習慣的に、ハイブリダイゼーションの特異性を高めるために通常長めのオリゴヌクレオチドを選択する。長さがヌクレオチド20〜25個であるオリゴヌクレオチドを使用することが多い。これは、そのTmsの付近(Tm の約5°内)の温度で実施する反応で使用する場合特異性が高いと思われるからである。また、このようなオリゴヌクレオチド(すなわち20〜25-mer)は計算されたTms が50〜70℃の範囲であるので、この温度範囲で最適な活性を示すことが多い耐熱性酵素によって触媒される反応で使用するのに適している。
選択したオリゴヌクレオチドの最大の長さもまた所望の特異性に基づく。部分的な相補体と安定に結合する危険性が高くなってしまうほど、または所望の場合に容易に取り除くことができない(たとえば、開裂が生じた後標的から解離できない)ほどに長い配列を選択するのは避けなければならない。
インベーダー指令開裂のためのオリゴヌクレオチドの設計と選択の第一工程はこれらのサンプル一般原理に従う。個々に配列特異的プローブと考えられる各オリゴヌクレオチドは上記ガイドラインに従って選択することができる。すなわち、各オリゴヌクレオチドは一般に、複雑なサンプル内の目的とする標的配列とのみハイブリダイズすると正当に期待される程充分に長く、通常はヌクレオチド20〜40個の範囲である。あるいは、インベーダー指令開裂アッセイはこれらオリゴヌクレオチドの共同作用に依存するので、X、Y、Z領域にまたがる/結合する2つの複合した長さのオリゴヌクレオチドを選択してこの範囲内に入れてもよい。このとき個々のオリゴヌクレオチドは各々がヌクレオチド約13〜17個の範囲である。このような設計は、耐熱性開裂手段を使用する場合より低い温度で反応を実施する必要がある非耐熱性開裂手段を反応に使用するときに用いられることになろう。場合によっては、これらのオリゴヌクレオチドを標的核酸内に多数回結合する(たとえば、標的内の多数の変異体または多数の類似配列に結合する)のが望ましいことがある。本発明の方法は特定の大きさのプローブオリゴヌクレオチドにもインベーダーオリゴヌクレオチドにも制限されるものではない。
このアッセイのためのオリゴヌクレオチド対を設計する第二の工程は、上流の「インベーダー」オリゴヌクレオチド配列が下流の「プローブ」オリゴヌクレオチド配列とオーバーラップする程度、したがってプローブが開裂される大きさを選択することである。このアッセイの鍵となる重要な特徴は、プローブオリゴヌクレオチドを、熱変性または重合による置換の必要なく、そのプローブオリゴヌクレオチドが「ターンオーバー」するように作製することができること、すなわち、開裂されたプローブが離れてプローブ分子の他のコピーの結合と開裂を可能にすることができるということである。このアッセイのひとつの態様ではプローブのターンオーバーが開裂剤によるエキソヌクレアーゼ消化によって容易であり得るが、本発明の核心はターンオーバーがこのエキソヌクレアーゼ活性を必要としないことである。
オーバーラップの量(X領域の長さ)の選択
上記のようなターンオーバーを達成するひとつの方法は図25を考察することによって想定することができる。各オリゴヌクレオチドのTm は当該オリゴヌクレオチドの全長の関数であることが分かる。すなわち、当該プローブに対して、インベーダーのTm =Tm(Y-X)、プローブのTm =Tm(X-Y)である。プローブが開裂されるとX領域が遊離され、Zセクションが残る。ZのTm が反応温度より低く、その反応温度がTm(X-Z)より低い場合、プローブの開裂によりZが脱離して新たな(X+Z)がハイブリダイズできることになる。この例から分かるように、X領域は充分に長くて、Xの遊離により残余のプローブセクションのTm が反応温度より低くならなければならない。G−Cに富むXセクションはA−Tに富むXセクションよりずっと短く、それでもこの安定性シフトを達成できる。
Y領域およびZ領域と相互作用するオリゴヌクレオチドの設計
インベーダーオリゴヌクレオチドと標的との結合がプローブとの結合より安定であれば(たとえば、長いか、またはY領域がG−C塩基対に富んでいれば)、標的のX領域との競合的結合においてインベーダーと会合したXのコピーが有利であり、したがってプローブは効率的にハイブリダイズできず、アッセイのシグナルは低くなるであろう。あるいは、プローブの結合がZ領域で特に強ければ、インベーダーはやはり内部開裂を引き起こすことになる(これは酵素によって媒介されるからである)が、Z領域に結合したプローブオリゴヌクレオチドの部分は反応温度で解離せず、ターンオーバーは少なくなり、アッセイのシグナルはやはり低くなるであろう。
オリゴヌクレオチドの、Y領域およびZ領域と相互作用する部分は、安定性が同じくらいであるのが明らかに有利である。すなわち、これらの部分は同様な融解温度をもっていなければならない。これらの領域が同じ長さでなければならないというわけではない。すでに述べたように、融解温度は、長さの他に、塩基含量とそれら塩基の特定の配列によっても影響を受ける。インベーダー中に設計された特異的安定性は反応を実施しようとする温度に依存する。
この考察は、(上で論じたオリゴヌクレオチド特異性に対する基本的なガイドラインの中で)プローブ配列およびインベーダー配列の安定性とそれらのX成分およびY成分の配列の安定性との間のバランスこそが、これらの安定性の絶対値よりも、プローブ配列およびインベーダー配列の選択の際の主たる要件であるということを示そうとしたものである。
反応条件の設計
開裂手段として5′ヌクレアーゼを用いる本発明の方法を使用して分析できる標的核酸には、RNAとDNAの両方の多くのタイプが包含される。このような核酸は標準的な分子生物学的技術を用いて得ることができる。たとえば、核酸(RNAまたはDNA)は組織サンプル(たとえば生体組織検査試片)、組織培養細胞、細菌および/またはウイルスを含むサンプル(たとえば、細菌および/またはウイルスの培養物)などから単離できる。標的核酸はまた、DNA鋳型からin vitroで転写することもでき、PCRで化学合成または生成することができる。さらにまた核酸は、生体からゲノム材料としてまたはプラスミドもしくは類似の染色体外DNAとして単離することができ、あるいは、制限エンドヌクレアーゼその他の開裂剤による処理によって生ずるような材料の断片でもよいし、合成でもよい。
標的核酸、プローブ核酸およびインベーダー核酸を本発明の開裂反応に組み立てるには、ジデオキシヌクレオチドシークエンシングやポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のようなオリゴヌクレオチド塩基酵素アッセイの設計で一般に用いられている原理を利用する。これらのアッセイと同様に、オリゴヌクレオチドは標的核酸へのハイブリダイゼーションの速度が非常に速くなるように充分過剰に供給される。これらのアッセイは一般に、反応混合物1μl当たり各オリゴヌクレオチドを50fmol〜2pmol用いて実施する。本明細書に述べる実施例では反応容量1μl当たり250fmol〜5pmolの範囲の量のオリゴヌクレオチドを使用した。これらの値は、実証容易の目的で選択したものであり、本発明の範囲をこれらの濃度に限定するつもりはない。他の分子生物学的反応で一般に用いられている他の(たとえば、より低い)オリゴヌクレオチド濃度も考えられる。
標的核酸とハイブリダイズする各プローブオリゴヌクレオチドの開裂を指令するためにインベーダーオリゴヌクレオチドがすぐに利用できるのが望ましい。このために、本明細書に記載する実施例では、インベーダーオリゴヌクレオチドをプローブオリゴヌクレオチドに対して過剰に提供する。この過剰は10倍であることが多い。これは有効な割合ではあるが、本発明の実施が特定のインベーダー対プローブの比(2〜100倍の比が考えられる)に限定されることを意図するものではない。
緩衝液条件は、オリゴヌクレオチド/標的ハイブリダイゼーションと開裂
剤の活性の両方と適合するように選択しなければならない。核酸修飾酵素、特にDNA修飾酵素に対して最適な緩衝液条件は一般に、塩基対合による核酸鎖の会合を可能にするのに充分な一価および二価の塩を含む。本発明の方法を本明細書に特に記載したもの以外の酵素開裂剤を用いて実施する場合、反応は通常その開裂剤のヌクレアーゼ機能にとって最適であると報告されているいずれかの緩衝液中で実施する。一般に、この方法における開裂剤の有用性を試験するために、対象とする開裂剤を試験するための試験反応を本明細書に記載したMOPS/MnCl2 /KCl緩衝液またはMg含有緩衝液中および製造業者のデータシート、雑誌または私信にこのような開裂剤と共に使用するのに適していると報告されているなんらかの緩衝液中で実施する。
インベーダー指令開裂反応の生成物は、導入したオリゴヌクレオチドの構造特異的開裂によって生成した断片である。得られた開裂および/または未開裂オリゴヌクレオチドは、電気泳動(アクリルアミドやアガロースゲル、紙などを始めとする各種支持体上)、クロマトグラフィー、蛍光偏光、質量分析およびチップハイブリダイゼーションを始めとするいろいろな方法で分析・分離できる。開裂反応の生成物の分析用として電気泳動分離を使用して本発明を例証する。しかし、開裂生成物の分析は電気泳動に限られることはない。電気泳動は当業界で広く実用されており、当業者にとって容易に利用できるので、本発明の方法を例証するのに電気泳動を選択した。
プローブオリゴヌクレオチドとインベーダーオリゴヌクレオチドは開裂反応後の検出に役立つ標識を含有していてもよい。この標識はオリゴヌクレオチドの5′または3′に位置する放射性同位体(たとえば、32Pまたは35Sで標識したヌクレオチド)であってもよいし、あるいは、オリゴヌクレオチド全体に標識を分配してもよい(すなわち、均一に標識されたオリゴヌクレオチド)。標識は直接検出することができる蛍光発生基(fluorophore)のような非等張検出可能な残基または二次試薬によって特異的認識が可能な反応性の基であってもよい。たとえば、ビオチニル化したオリゴヌクレオチドは指示薬(たとえばアルカリホスファターゼまたは蛍光発生基)に結合したストレプトアビジン分子をプローブとして用いて探査することによって検出することができ、あるいは、ジゴキシゲニンのようなハプテンは類似の指示薬に結合した特異的抗体を用いて検出することができる。
反応条件の最適化
インベーダー指令開裂反応は特異的核酸の存在を検出するのに有用である。インベーダーオリゴヌクレオチドおよびプローブオリゴヌクレオチドの選択と設計に関して上記した要件に加えて、反応を実施することになる条件を特異的標的配列の検出に最適化させることができる。
インベーダー指令開裂アッセイを最適化する際のひとつの目的は最小コピーの標的核酸の特異的検出を可能にすることである。この目的を達成するために、反応の速度(たとえば毎分の開裂事象の数)が最大になるように組合せた反応の要素が最大の効率で相互作用するのが望ましい。反応の全体効率に寄与する要因としてはハイブリダイゼーションの速度、開裂の速度および開裂したプローブの遊離の効率がある。
開裂の速度は選択した開裂手段の関数であり、市販の酵素調製物を使用する場合には製造業者の指示に従って、または本明細書に記載した実施例に記載したようにして最適にすることができる。他の要因(ハイブリダイゼーションの速度、遊離の効率)は反応の実施に依存し、これらの要因の最適化について以下に述べる。
核酸ハイブリダイゼーションの速度に大きな影響を与える開裂反応の3つの要因は核酸の濃度、開裂反応を実施する温度、および反応溶液中の塩および/または他の荷電遮蔽イオンの濃度である。
このタイプのアッセイでオリゴヌクレオチドプローブを使用する濃度は当業界でよく知られており、すでに論じた。オリゴヌクレオチド濃度を最適化する一般的なアプローチの一例はパイロット試験(pilot test)に対するオリゴヌクレオチドの出発量を選択することである。多くのオリゴヌクレオチドに基づくアッセイで使用する濃度範囲は0.01〜2μMである。最初の開裂反応を実施するときデータのうち次の質問が問題となる。反応を開裂生成物を実質的に含まない標的核酸の存在しない状態で実施するか。開裂の部位をインベーダーオリゴヌクレオチドの設計に従って特異的にシフトするか。特異的開裂生成物は未開裂プローブの存在下で容易に検出されるか(または、未切断材料の量が選択した可視化法に圧倒しないか)。
これらの質問に対する答が否定的であることは、プローブ濃度が高過ぎること、および一連の希釈プローブを用いた一組の反応を適当な量が同定されるまで実施すべきであることを示唆している。所与のサンプルタイプ(たとえば、精製したゲノムDNA、体液抽出物、溶解細菌抽出物)中の所与の標的核酸がいったん同定されれば、再び最適化する必要はない。サンプルタイプは、存在する物質の複雑さがプローブの最適性に影響し得るので重要である。
逆に、選択した最初のプローブ濃度が低過ぎると、非効率的なハイブリダイゼーションのために反応が遅くなり得る。プローブの量を増大して試験すると濃度が最適を越える点が同定される。ハイブリダイゼーションは過剰のプローブによって容易になるので、この点よりすぐ下のプローブ濃度を使用して反応を実施するのが望ましいが必要なわけではない。
インベーダーオリゴヌクレオチドの濃度は上記した設計要件に基づいて選択することができる。好ましい態様の場合インベーダーオリゴヌクレオチドはプローブオリゴヌクレオチドより過剰にする。特に好ましい態様の場合インベーダーはプローブより約10倍過剰である。
温度もオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションにおける重要な要因である。試験した温度範囲は大部分が上述したオリゴヌクレオチドの設計に依存している。好ましい態様の場合、反応は、反応における最も安定性の低いオリゴヌクレオチドのTm より少し低い温度で実施する。オリゴヌクレオチドおよびそれらの成分領域(X、Y、Z、図25)の融解温度は、コンピューターソフトウェアを用いて評価することができ、または、より粗い概算として、A−T塩基対当たり2℃、G−C塩基対当たり4℃の値とし、核酸の全体にわたって合計することによって評価することができる。後者の方法はヌクレオチドが約10〜30個の長さのオリゴヌクレオチドで使用することができる。コンピューターによる核酸のTm の予測でも近似でしかないので、最初の試験のために選択する反応温度は計算したTm を留保して決定すべきである。最適化がこれに限られることはないが、これらの最適化アッセイにおいて便利な試験間隔は5℃ずつの上昇・下降である。
温度を試験したら、その結果は特異性について(上記質問の最初の2つ)オリゴヌクレオチド濃度の決定の場合と同様にして分析することができる。非特異的開裂(すなわち、プローブの長さに沿って多くの位置またはあらゆる位置でのプローブの開裂)はプローブとサンプル材料との非特異的相互作用を示し、より高い温度を使用すべきことを示唆している。逆に、開裂が少しだけまたはまったくないということは、目的とするハイブリダイゼーションさえも妨げられていることを示し、より低い温度の使用を示唆している。いくつかの温度を試験することによって、プローブの特異的開裂の速度が最大になる最適な温度を同定することが可能である。以上のようにしてオリゴヌクレオチドを設計したら、プローブオリゴヌクレオチドのZ領域のTm はターンオーバーを確実にするようにこの温度より低くすべきである。
ハイブリダイゼーション効率の第三の決定要因は反応の塩濃度である。多くの場合溶液条件の選択は開裂剤の要件に依存し、商業的に入手した試薬については製造業者の指示書がこの情報の元となる。特定の開裂剤を用いてアッセイを開発する場合、上記のオリゴヌクレオチドと温度の最適化はその開裂剤に最も適した緩衝液条件で実施するべきである。
「無酵素」対照により、特定の反応条件下または試験しようとするサンプルの存在下(すなわちサンプル内の夾雑ヌクレアーゼを検査する際)における標識したオリゴヌクレオチドの安定性の評価が可能になる。このためには、基質とオリゴヌクレオチドを、酵素を除くすべての反応成分を含有するチューブに入れ、酵素を含む反応と同様に処理する。その他の対照も含ませ得る。たとえば、標的核酸以外のすべてを含む反応は、開裂が標的配列の存在に依存するかどうか確認するのに役立つ。
多重対立遺伝子(multiple alleles)の探査
インベーダー指令開裂反応はまた、混合サンプル集団中の個々の変異体または対立遺伝子を検出・定量化するのにも有用である。このようなニーズの一例としては、癌に関連する遺伝子内の突然変異に関して腫瘍材料を分析するものがある。腫瘍から得た生体組織検査材料は正常細胞の重要な補体を有している可能性がある。したがって、サンプル中の標的核酸のコピーの5%未満に存在する場合でも突然変異を検出することが望ましい。この場合その集団のどの画分がその突然変異をもっているのか測定することも望ましい。同様な分析は他の遺伝子系で対立遺伝子変異体を検査するのにも行ない得、本発明の方法は腫瘍の分析のみに限定されるということはない。
以下に示すように、反応は、標的核酸の図25で「Z」と名付けた領域内に1つでもヌクレオチドが異なるミスマッチがあるプローブの開裂は抑制するが、この領域が標的と完全に相補的である類似のプローブの開裂は可能とするような条件下で実施することができる。したがって、このアッセイは混合サンプル内の個々の変異体または対立遺伝子を定量するのに使用できる。
このようなアッセイで異なる標識をもつ多数のプローブを使用することも考えられる。サンプル中の異なる変異体または対立遺伝子の表示を検査するには、検出しようとする各対立遺伝子または変異体が、特有の標識をもつ特異的なプローブ(すなわち、標的配列のZ領域に完全に一致しているもの)を有するようにプローブの混合物を提供する(たとえば、同じ標識をもつ変異体プローブを2つ単一の反応に用いてはならない)。これらのプローブは、ただ一組の反応条件下でそれぞれの標的核酸と混合されたときに同じ速度でシグナルを蓄積できることを確認するように前もって特性付けされる。その混合したプローブの組、対応するインベーダーオリゴヌクレオチド、標的核酸サンプル、および適当な開裂剤を含む開裂反応と、一致しているプローブのみが開裂するという条件下における開裂反応の性能とが一緒になる結果、存在する種の各々の個別の定量が可能になり、したがって、標的サンプル中のそれらの相対的表示が示される。
III.侵入的開裂とプライマー指令開裂との比較
本明細書中で述べている「侵入的」または「インベーダー指令」開裂という用語は、以下に定義する第1上流オリゴヌクレオチドを用いて第2下流配列内の部位で特異的開裂を起こさせることを特に意味している。二本鎖構造(duplex)内の領域でそのような開裂の指令を実行するには、第1と第2オリゴヌクレオチドの配列がオーバーラップしている必要がある。すなわち、「インベーダー」といわれる上流のオリゴヌクレオチドの一部分が下流の「プローブ」オリゴヌクレオチドの一部分とかなりの相同性を有しており、その結果これらの領域は検出しようとする標的核酸の同一の相補的領域と対合する傾向がある。本発明が特定の機構に限定されることはないが、このオーバーラップ領域は共有するハイブリダイゼーション部位を交互に占めると期待される。プローブオリゴヌクレオチドが標的核酸に充分アニーリングし、したがってインベーダーの3′領域が対合しないままでいるとき、そのようにして形成された構造体は本発明の5′ヌクレアーゼの基質とならない。対照的に、インベーダーがそうなっているときには、そのように形成された構造体はこれらの酵素の基質となり、インベーダーオリゴヌクレオチドによって置き換えられるプローブオリゴヌクレオチドの部分の開裂と遊離が可能になる。開裂部位が、他の場合には標的配列と対合することになるプローブオリゴヌクレオチドのある領域にシフトするということは、本発明のインベーダー開裂アッセイ(すなわちインベーダー指令開裂アッセイ)のひとつの特徴である。
この時点で、上記のインベーダー開裂と、プローブオリゴヌクレオチドの内部開裂に導き得るがインベーダー開裂は含まないプローブ開裂の他の2つの形態と対照するのが有益である。第1のケースでは、ハイブリダイズしたプローブは二本鎖依存性エキソヌクレアーゼにより5′から3′に向かって「ニブリング(nibbling:ひとつずつ分解)」され、その結果、オリゴヌクレオチドは標的に結合していられなくなるまで5′末端から短くされる(たとえば実施例5〜7、図26〜28参照)。そのようなニブリングが停止する部位は分離されているよう(be discreted)であり、全長のプローブの融解温度と反応温度との差に応じて、この停止点はプローブオリゴヌクレオチド配列中の1個または数個のヌクレオチドであり得る。このような「ニブリング」はプローブの全長に相当するものまでにわたる長めの生成物の「ラダー(ladder)」の存在によって示されることが多いが、常にではない。このようなニブリング反応の生成物のいずれも侵入的開裂反応の生成物と大きさおよび開裂部位が一致するようにすることができる。一方、これらのニブリング生成物の創製は反応の温度と開裂剤の種類に大きく依存しているが、上流オリゴヌクレオチドの作用とは独立であり、したがってインベーダー開裂に関与しているとは考えられない。
考えられ得る第2開裂構造体は、プローブオリゴヌクレオチドが標的核酸といくつかの相補領域をもっていてそれらが1つ以上の非相補領域または非相補ヌクレオチドを挟んで分配されているものである。これらの非相補的領域は核酸二本鎖内の「バブル(bubble)」と考えられる。温度が上昇するにつれて相補領域はそれらの安定性の最低のものから最高のものへという順序で「融解」すると期待され得る。安定性の低い領域が二本鎖のセグメントの端近くにあり、鎖に沿って次の相補領域がより高い融解温度をもっている場合、二本鎖の末端領域を最初に融解させ、最初のバブルを開かせ、それにより本発明の5′ヌクレアーゼによる開裂の好ましい基質構造を作り出す温度を見出だすことができる(図36A)。そのような開裂の部位は5′アーム上で一本鎖と二本鎖の領域間の接合部からヌクレオチド2つ内にあると期待される(Lyamichevら、上掲、および米国特許第5,422,253号)。
追加のオリゴヌクレオチドを導入して標的核酸に沿って対合させることができ、これは未対合の5′アームの次の開裂のためにこのバブルを開放するのに同様な効果をもつ(図36Bおよび図6)。この場合、上流のオリゴヌクレオチドの3′末端ヌクレオチドはその3′が「バブル」領域内に位置するように標的核酸配列に沿ってアニーリングすることに注意されたい。このオリゴヌクレオチドの3′末端の正確な位置に応じて、開裂部位は新たな非対合5′アームに沿って存在しうるか、または上記したように熱的に開放されたバブル構造体に期待される部位であり得る。前者の場合開裂は二本鎖領域内ではなく、したがって侵入的開裂ではないが、後者の場合オリゴヌクレオチドは単に、他の場合には温度のみの使用(すなわち、追加のオリゴヌクレオチドを存在させない)により露出され得る部位における開裂を誘発する助けになっているだけであり、したがって侵入的開裂と考えられる。
要約すると、標的配列の開裂に基づく検出に使用するオリゴヌクレオチドのいかなる配置も分析することにより、その配置が本発明でいう侵入的開裂構造体であるかどうかを決定することができる。インベーダー開裂構造体は、上流のオリゴヌクレオチドが存在しない場合には標的核酸と対合すると期待される領域中におけるプローブの開裂を支持している。
後述の実施例26に、一対の上流および下流(すなわちプローブ)オリゴヌクレオチドの所与の配置が標的核酸に沿ってアニーリングしたときに侵入的開裂構造体を形成するかどうかを決定するための実験の設計と実施に関するさらなる指針を挙げる。
IV.選択的電荷反転による特異的核酸の分画
核酸に基づくいくつかの検出アッセイではオリゴヌクレオチドの伸長および/または短縮をする。たとえば、本明細書に記載したように、プライマー指令、プライマー依存性およびインベーダー指令開裂アッセイならびに「ニブリング」アッセイではいずれも、標的核酸配列の存在を検出するための手段としてオリゴヌクレオチドの開裂(すなわち短縮(shortening))をする。オリゴヌクレオチドプローブの短縮を含む他の検出アッセイの例としては、Gelfandらの米国特許第5,210,015号(その開示内容は引用したことにより本明細書に含まれているものとする)に記載されている「TaqMan」またはニックトランスレーションPCRアッセイ、Urdeaの米国特許第4,775,619号および第5,118,605号(その開示内容は引用したことにより本明細書に含まれているものとする)に記載されているアッセイ、WalderとWalderの米国特許第5,403,711号(その開示内容は引用したことにより本明細書に含まれているものとする)に記載されている触媒ハイブリダイゼーション増幅アッセイ、ならびにDuckらの米国特許第4,876,187号および第5,011,769号(その開示内容は引用したことにより本明細書に含まれているものとする)に記載されているサイクルプローブアッセイがある。オリゴヌクレオチドプローブ(またはプライマー)の伸長を含む検出アッセイの例としては、MullisおよびMullisらの米国特許第4,683,195号および第4,683,202号(その開示内容は引用したことにより本明細書に含まれているものとする)に記載されているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ならびにBirkenmeyerらの米国特許第5,427,930号および第5,494,810号(その開示内容は引用したことにより本明細書に含まれているものとする)に記載されているリガーゼ連鎖反応(LCR)がある。以上の例はオリゴヌクレオチドプローブの伸長および/または短縮を含む核酸に基づく検出アッセイを例示したものであり、全部を挙げたものではない。
一般に、オリゴヌクレオチドプローブの伸長および/または短縮を含む核酸に基づく検出アッセイでは、反応の生成物を検出するために反応後の分析が必要である。特異的反応生成物は、最初のまたは未反応のオリゴヌクレオチドプローブを含めて他の反応成分から分離しなければならないのが普通である。ひとつの検出技術では、反応したオリゴヌクレオチドプローブと未反応のオリゴヌクレオチドプローブを電気泳動で分離する。アッセイがプローブの開裂または短縮を含む場合、未反応生成物は反応生成物または開裂生成物より長い。アッセイがプローブ(またはプライマー)の伸長を含む場合、反応生成物は最初のものより長い。種々の長さの核酸分子を含むサンプルのゲルに基づく電気泳動では、これらの断片が主としてその大きさに基づいて分離される。これは、中性またはアルカリ性のpHをもつ溶液中では大きく異なるサイズ(すなわち分子量)を有する核酸は非常に似通った荷電−質量比をもっており分離しないという事実に基づいている[Andrews、電気泳動、第2版、オックスフォード大学出版(1986年)、第153〜154頁]。ゲルマトリックスは分子ふるい(molecular sieve)として機能し、核酸のサイズと形状(たとえば、線状、緩和環状、または共有閉環状スーパーコイル)に基づいて分離できる。
未修飾の核酸は、核酸の糖‐リン酸骨格内に含まれる負に帯電したリン酸基が存在するため負の実効電荷をもっている。一般に、サンプルは負極の近くでゲルに載せ、核酸断片は正極に向かってゲル中を移動する。この際最小の断片は最も速くゲル中を移動する。
本発明は電荷に基づいて核酸断片を分画する新規な手段を提供する。この新規な分離技術は、正に帯電した付加物はその付加物の電荷が複合体全体の電荷より大きいので、小さいオリゴヌクレオチドの電気泳動的挙動に影響を与え得るという観察結果に関連している。正に帯電した付加物(たとえばCy3およびCy5蛍光染料、図66に示した正に帯電したヘテロダイマーDNA結合染料など)の使用に加えて、オリゴヌクレオチドはアミノ酸(特に有用なアミノ酸は帯電したアミノ酸、すなわちリシン、アルギニン、アスパラギン酸(asparate)、グルタミン酸(glutamate))、修飾された塩基、たとえばアミノ修飾された塩基、および/またはホスホネート骨格を(すべての位置またはそのサブセットに)含有し得る。また、以下に詳細に述べるように、アミノ修飾塩基および/または完全なまたは部分的なホスホネート骨格の使用と共に正に帯電した付加物の代わりに中性染料または検出残基(たとえばビオチン、ストレプトアビジンなど)を使用してもよい。
この観察された効果はDNA分子の開裂に基づくアッセイにおける特に有用なものである。一例として本明細書に記載したアッセイを用いて、オリゴヌクレオチドをCleavase(登録商標)酵素その他の開裂剤の作用によって短縮する場合、負の実効電荷を大きく減少させるだけでなく実際にそれを越えるために正の電荷を作り出して、標識された物質の実効電荷を有効に「フリッピング(flipping)」ことができる。この電荷の反転により、標的特異的開裂の生成物を未開裂プローブから非常に簡単な手段によって分割することが可能になる。たとえば、開裂生成物は、ゲルに基づく電気泳動をすることなく焦点を合わせた検出(focused detection)のために反応装置の任意の点に配置した負の電極に向かって移動させることができる。実施例24に、ゲルに基づく電気泳動なしの焦点を合わせた検出に適した装置の例を挙げる。スラブゲル(slab gel)を使用する場合サンプルウェルをゲルの中心において開裂プローブと未開裂プローブが反対方向に移動するのを観察することができる。あるいは、従来の垂直ゲルを、電極を通常のDNAゲルとは逆に(すなわち、正極を頂部に、負極を底部に)して用い、その結果、開裂された分子がゲル中に入る一方未開裂のものが電気泳動緩衝液の上部貯蔵部中に分散するようにすることができる。
このタイプの読み出し(readout)の重要な利点は生成物と基質との分割の絶対性である。すなわち、分離はほぼ100%である。この意味するところは、大量の未開裂プローブを供給してプローブに基づくアッセイのハイブリダイゼーション工程を実施することができ、それでも、未消費(すなわち未反応)プローブは、特異的反応生成物と同じ極には移動しないという事実のために、本質的に結果から控除してバックグラウンドを低減することができるということである。
正に帯電した多重の付加物を使用することにより、通常は負に帯電した鎖をほぼ中性にするのに充分な修飾をもつ合成分子を構築することができる。そのように構築した場合、単一のリン酸基の存否は負の実効電荷または正の実効電荷の間の差を意味することができる。この観察結果は、ひとつの目的が酵素により生成した3′リン酸を欠くDNA断片と3′リン酸(したがって追加の負の電荷2つ)を保持している熱分解生成物とを区別することである場合には特に有用である。実施例22および23に、正に帯電した反応生成物を正味で負に帯電した基質オリゴヌクレオチドから分離する能力を示す。これらの実施例で論じるように、オリゴヌクレオチドは正味で負の化合物から正味で正に帯電した化合物へと変換され得る。実施例23では、正に帯電した染料Cy3を、オリゴヌクレオチドの5′末端に2つのアミノ置換された残基も有する22-mer(配列番号50)の5′末端に導入した。このオリゴヌクレオチドプローブは負の実効電荷をもっている。プローブ内のヌクレオチドを2個開裂する開裂後、標識されたオリゴヌクレオチド5′‐Cy3‐アミノT‐アミノT‐3′(および配列番号50の残存するヌクレオチド20個)が遊離した。この短い断片は正の実効電荷をもっており、一方開裂したオリゴヌクレオチドの残部と未反応または最初のオリゴヌクレオチドは負の実効電荷をもっている。
本発明は、オリゴヌクレオチドの開裂によって生成した特異的反応生成物が正の実効電荷を有するように設計することができ、一方未反応のプローブは電荷が中性であるかまたは負の実効電荷を有するという態様を包含する。また本発明は、遊離する生成物が負の実効電荷を有するように設計することができ、一方最初の核酸が正の実効電荷をもっているという態様も包含する。検出しようとする遊離生成物の長さに応じて、正に帯電した染料をプローブの一端に導入することができ、また開裂に際して、正に帯電した染料を含有する遊離された断片が正の実効電荷をもつように、修飾された塩基をオリゴヌクレオチドに沿って配置することができる。正に帯電した付加物(たとえば染料)の存在のみでは遊離される断片に正の実効電荷を付与するのに充分でないような場合には、アミノ修飾された塩基を使用して遊離断片の電荷平衡をとることができる。また、正の実効電荷を付与するのに充分なレベルでリン酸骨格をホスホネート骨格で置換することができる(これは、オリゴヌクレオチドの配列がアミノ置換された塩基の使用に適さない場合に特に有用である)。図45と46に、第二のT残基上にホスホネート基を含有する短いオリゴヌクレオチドの構造を示す。充分にホスホネートで置換された骨格を含有するオリゴヌクレオチドは、負に帯電したリン酸基がないために電荷が中性である(電荷を有する修飾された荷電残基の存在または荷電付加物の存在がない)。ホスホネートを含有するヌクレオチド(たとえばメチルホスホネートを含有するヌクレオチド)は入手が容易であり、当業界でよく知られている技術を用いて合成中にオリゴヌクレオチドの任意の位置に導入することができる。
本質的に、本発明は、核酸に基づく検出アッセイにおいて特異的反応生成物と最初のオリゴヌクレオチドとの分離を可能にする電荷に基づく分離の使用を包含する。この新規な分離技術の基礎は、プローブの開裂または伸長の際に「電荷非平衡」となり、実効電荷に基づいて特異的反応生成物を最初の反応物質から分離することができるような「電荷平衡」オリゴヌクレオチドプローブ(PCRの場合は一般に「プライマー」といわれる)の設計と使用である。
PCRの場合のようにオリゴヌクレオチドプローブ(すなわちプライマー)の伸長を含むアッセイの場合、最初のプライマーは正の実効電荷をもつように設計される。重合中の短いオリゴヌクレオチドプライマーの伸長により、負の実効電荷をもつPCR生成物が生成する。次に、特異的反応生成物は、本明細書に記載した電荷に基づく分離技術を使用して最初のプライマーから容易に分離でき、濃縮できる(PCR後に分離・濃縮されることになる生成物が負の電荷をもつので電極は実施例23の記載とは逆にする)。
V.ミニプローブ(Miniprobe)と中間域(Mid-Range)プローブを用いたインベーダー指令開裂
前記第III欄で説明したように、インベーダー指令開裂アッセイは、ヌクレオチド約13〜25個(典型的にはヌクレオチド20〜25個)の長さを有するインベーダーオリゴヌクレオチドとプローブオリゴヌクレオチドを用いて実施できる。また、X領域、Y領域およびZ領域にまたがるオリゴヌクレオチド(図25参照)、すなわちインベーダーオリゴヌクレオチドとプローブオリゴヌクレオチドはこれら自身が、標的鎖に沿って配列されているが共有結合はしていないより短いオリゴヌクレオチド配列から構成され得る。すなわち、複合オリゴヌクレオチドの糖‐リン酸骨格にニックがあるが、得られる二本鎖中で塩基対合したヌクレオチドの連鎖に分断(disruption)はない。核酸の短い鎖がより長い鎖に沿って連続して整列したとき、各々のハイブリダイゼーションは隣接する断片のハイブリダイゼーションによって安定化される。これら塩基対は骨格が実際中断されていないようにらせん(helix)に沿って積み重なることができるからである。この結合の共同により、より長い核酸のみにハイブリダイズするセグメントに期待される以上の相互作用の安定性を各セグメントに与えることができる。この観察結果のひとつの応用は、このようにハイブリダイズするように設計された3つのヘキサマーオリゴヌクレオチドの組からDNA配列決定法用のプライマー、通常はヌクレオチド約18個の長さのものを組み立てることであった[Kotler, L.E.ら、(1993年) Proc. Natl.. Acad. Sci. USA 90:4241]。得られる二重にニックの入ったプライマーは、ヘキサマーのハイブリダイゼーションを破壊するが18-merのものは破壊しないと期待され得る温度で実施する反応で酵素的に伸長することができる。
複合またはスプリット(split)オリゴヌクレオチドの使用はインベーダー指令開裂アッセイで成功裡に応用される。プローブオリゴヌクレオチドは、図57に示したように標的オリゴヌクレオチドに沿って連続・隣接してアニーリングする2つのオリゴヌクレオチドに分割することができる。図57で、下流のオリゴヌクレオチド(図25のプローブに類似)はより小さい2つの断片から組み立てられている。すなわち、検出反応の途中で開裂されることになるヌクレオチド(nt)6〜10個の短いセグメント(「ミニプローブ」と称する)と、このミニプローブのすぐ下流でハイブリダイズしプローブのハイブリダイゼーションを安定化させる役割をするオリゴヌクレオチド(「スタッカー」といわれる)とである。開裂構造体を形成するために、ミニプローブの所望の領域に開裂活性を指令するように上流のオリゴヌクレオチド(「インベーダー」オリゴ)を提供する。核酸の非結合断片(すなわちミニプローブとスタッカー)からプローブを組み立てることにより、配列の領域が、全体が証明された配列の再合成を必要とすることなく変化でき、したがってその検出系のコストと柔軟性が改良される。また、非結合複合オリゴヌクレオチドの使用により、シグナル発生を達成するために完全に一致したハイブリダイゼーションの必要時においてその系をよりストリンジェントなものにし、これを標的核酸配列中の突然変異または変化を検出する感受性手段として使用することができる。
図57に示してあるように、ひとつの態様において、本発明の方法では、標的核酸と相互作用する少なくとも3つのオリゴヌクレオチドを使用して構造特異的ヌクレアーゼに対する開裂構造体を形成する。より特定すると、開裂構造体は、i)一本鎖でも二本鎖でもよい標的核酸(二本鎖の標的核酸を使用する場合、たとえば加熱により一本鎖にすることができる)、ii)標的核酸配列の第1領域の相補体であるために当該第1領域を規定する「スタッカー」といわれる第1オリゴヌクレオチド(図57に示されている標的の領域W)、iii)標的核酸配列の第2領域の相補体であるために当該第2領域を規定する「ミニプローブ」といわれる第2オリゴヌクレオチド(図57に示されている標的の領域XおよびZ)、iv)5′部分が第2標的領域に隣接してその下流にある同じ標的核酸配列(図57の領域YおよびX)の第3領域を規定し、かつ第2すなわち3′部分が第2オリゴヌクレオチドによって規定される領域とオーバーラップする(領域Xはオーバーラップの領域を示す)「インベーダー」といわれる第3オリゴヌクレオチドを含む。得られる構造体を図57に示す。
本発明または本明細書中の考察が特定の作用機構に限定されることはないが、図57は、このタイプの配列の3つのオリゴヌクレオチドによって生じる開裂部位に対する影響を示している。これら3つのオリゴヌクレオチドの設計について以下詳細に述べる。
図57で、核酸(すなわち、標的およびオリゴヌクレオチド)の3′末端は、それら核酸鎖を示す線の末端に矢じりを用いて示してある(そして、紙面に余裕がある場合はこれらの末端に「3′」の符号も付してある)。すぐに分かるように、3つのオリゴヌクレオチド(インベーダー、ミニプローブおよびスタッカー)はお互いに平行の配向で配列されており、一方、標的核酸鎖は前記3つのオリゴヌクレオチドに対して逆平行の配向で配列されている。また、インベーダーオリゴヌクレオチドがミニプローブオリゴヌクレオチドの上流に位置していること、ミニプローブオリゴヌクレオチドがスタッカーオリゴヌクレオチドの上流に位置していること、および、標的核酸鎖に対して領域Wは領域Zの上流であり、領域Zは領域Xの上流の上流であり、領域Xは領域Yの上流である(すなわち、領域Yは領域Xの下流であり、領域Xは領域Zの下流であり、領域Zは領域Wの下流である)ことが明らかである。対向する鎖間の相補性領域は短い垂直の線で示してある。開裂部位の正確な位置を示すつもりはないが、ミニプローブオリゴヌクレオチド内の開裂部位がインベーダーオリゴヌクレオチドの存在によってシフトされているエリアは垂直実線の矢じりで示す。図57は開裂構造体の実際の作用機構または物理的配列を示すものではない。また、本発明の方法は特定の作用機構に限定されるものではない。
これらのオリゴヌクレオチドの結合により標的核酸が4つの異なる領域、すなわち、スタッカーのみに相補性を有する領域(「W」で示す)、ミニプローブのみに相補性を有する領域(「Z」で示す)、インベーダーオリゴのみに相補性を有する領域(「Y」で示す)、および、インベーダーとミニプローブの両方のオリゴヌクレオチドに相補性を有する領域(「X」で示す)に分割されると考えることができる。
上記利点に加えて、開裂構造体を形成するオリゴヌクレオチドの複合設計を使用することにより、インベーダー指令開裂アッセイを実施するための反応条件の設計の自由度(latitude)が大きくなる。上記第III欄に記載したより長いプローブ(たとえばnt16〜25個)をこのプローブのTm より低い温度で実施する反応における検出に使用する場合、プローブの開裂はそれが一部となる二本鎖を不安定にするのに重要な役割を果たし得、したがって標的核酸上の認識部位のターンオーバーおよび再利用を可能にする。対照的に、ミニプローブの場合、プローブのTm 以上の反応温度は、プローブ分子がプローブの開裂なしにでも極めて急速に標的とハイブリダイズしてそれから遊離されることを意味している。上流のインベーダーオリゴヌクレオチドと開裂手段が提供される場合、ミニプローブは特異的に開裂されるが、その開裂はミニプローブのターンオーバーに必要ではない。長いプローブ(たとえばnt16〜25個)をこのように使用した場合、この状態を達成するのに必要とされる温度は極めて高く、平均塩基組成の25-merの場合で約65〜70℃となる。そのように高い温度を使用する必要があるということは、開裂剤の選択を極めて耐熱性のものに限定し、プローブオリゴヌクレオチドの熱分解のため、検出手段によっては反応のバックグラウンドに寄与することになろう。したがって、短めのプローブがこの方法で使用するのに好ましい。
本発明のミニプローブは所望の用途に応じてサイズが変化し得る。ひとつの態様の場合プローブは標準的なプローブ(たとえば16〜25nt)と比較してかなり短くてもよく、ヌクレオチド6〜10個の範囲であり得る。このように短いプローブを使用する場合反応条件は、スタッカーオリゴヌクレオチドが存在しない状態でミニプローブのハイブリダイゼーションを阻止するように選択することができる。このようにして、長めの配列の統計的な特異性と選択性が得られるように短いプローブを作成することができる。短い配列(すなわち、領域「Z」であり、これはミニプローブのうちインベーダーとオーバーラップしない領域である)内、または連続二本鎖間の接合部におけるミスマッチによって起こり得る事象であるが、ミニプローブ核酸とスタッカー核酸の共同結合が乱れた場合、この共同性が失われることがあり、短めのオリゴヌクレオチド(すなわちミニプローブ)の安定性が劇的に低下し、したがって本発明のアッセイにおける開裂生成物のレベルが減少する。
中間的なサイズのプローブを使用することも考えられる。そのようなプローブは11〜15ヌクレオチドの範囲であるが、最初に記載したより長めのプローブに伴なう特徴のいくつかを併せ持っており、これらの特徴にはスタッカーオリゴヌクレオチドの助けがなくてもハイブリダイズし開裂される可能性が包含される。そのようなプローブの期待されるTm より低い温度でのターンオーバーの機構は、20nt範囲のプローブについて上で述べたものと同じであり、また「X」領域内の脱安定化およびサイクル化のための配列の除去に依存している。
中間域プローブもまた、期待されるTm 以上の高温で、プローブターンオーバーを促進するべく開裂よりも融解が起こるように使用することができる。しかし、上記の長めのプローブとは対照的に、そのような熱的に実施されるターンオーバーの使用を可能にするのに必要な温度はずっと低くなり(約40〜60℃)、したがって反応中の開裂手段と核酸の両方が熱分解から保護される。こうして、中間域プローブは上記ミニプローブと同様な場合に実施し得る。ミニプローブとの別の類似性として、中間域プローブからの開裂シグナルの蓄積は、反応条件によっては、スタッカーの存在によって促進され得る。
要約すると、標準の長いプローブは通常スタッカーオリゴヌクレオチドが下流に存在することで利益を得ることはなく(そのようなオリゴヌクレオチドが標的核酸内のプローブ結合に干渉する構造をも分解し得る場合は例外である)、通常はいくつかのヌクレオチドが除去されてオリゴヌクレオチドが標的から効率よく遊離され得ることを必要とする条件で使用する。
このミニプローブは非常に短く、下流のスタッカーオリゴヌクレオチドが存在すると最適に機能する。これらミニプローブは、どの塩基が開裂されたかどうかには関係なく、標的上のプローブの迅速な交換を促進するような反応温度を使用する反応条件によく適している。充分な量の開裂手段を伴なう反応では結合するプローブはそれが融解する前に急速に開裂される。
中間域プローブまたはミニプローブはこれらのプローブの特徴を合わせ持っており、設計された長いプローブと同様の反応で使用することができる。ただし、低めの温度でプローブターンオーバーを促進するためにオーバーラップ領域(「X」領域)を長めにする。好ましい態様の場合、中間域プローブは、これらのプローブが標的にハイブリダイズし、開裂に関係なく迅速に遊離されるほど充分に高い温度で使用される。これは、オリゴヌクレオチドの融解温度またはその付近でのオリゴヌクレオチドの挙動であることが知られている。このターンオーバーのモードは長いプローブよりもミニプローブ/スタッカーの組合せの場合に使用するモードによく似ている。中間域プローブはある状況下ではスタッカーの存在下で高まった性能をもっている。たとえば、中間域の下側の端(lower end)、たとえば11ntのプローブの場合、または例外的なA/T含量をもつものの場合、プローブのTm よりずっと高い温度(たとえば10℃以上高い温度)で実施する反応では、スタッカーの存在がプローブの性能を高めるようであるが、より中間的な温度ではプローブはスタッカーと関係がない。
ミニプローブ、ミディ(すなわち中間域)プローブおよび長いプローブの区別は不動のもの(inflexible)というわけではなく、単に長さに基づくものである。ある所与のプローブの性能はその特異的配列、溶液条件の選択、温度の選択および選択された開裂手段によって変化し得る。
本発明の開裂構造体を含むオリゴヌクレオチドの組み立てはプローブと標識との間のミスマッチに感受性であるということを実施例18で示す。実施例18で使用するミスマッチの部位は一例であり、開裂に影響を与えるミスマッチの位置を制限するつもりはない。また、インベーダーオリゴヌクレオチドと標的との間のミスマッチを、関連する標的配列を区別するのに使えるとも考えられる。インベーダー、プローブおよびスタッカーオリゴヌクレオチドを含む3‐オリゴヌクレオチド系の場合、ミスマッチは、これらのオリゴヌクレオチドおよび標的配列の間で形成された二本鎖の領域内のいずれかに位置し得ると考えられる。好ましい態様の場合検出しようとするミスマッチはプローブに位置している。特に好ましい態様の場合、ミスマッチはプローブ内で、プローブが標的と一致していない(ミスマッチしている)ときに開裂される部位のすぐ上流(すなわち5′側)の塩基対にある。
別の好ましい態様では、検出しようとするミスマッチが、ミニプローブのハイブリダイゼーションによって規定される領域「Z」の内部に位置している。特に好ましい態様では、ミスマッチはミニプローブ内で、ミニプローブが標的とミスマッチしているときに開裂される部位のすぐ上流(すなわち5′側)の塩基対にある。
単一の反応でいろいろな配列を検出し得ることも予想される。異なる配列に特異的なプローブを別々に標識することができる。たとえば、プローブは異なる染料その他の検出可能な基、異なる長さをもち得るし、または、開裂後の生成物の実効電荷が異なってもよい。これらの方法のいずれかで異なって標識すると、各特異的標的配列と最終生成物との対応関係を符合させることができる。これは、ある混合物中に存在する異なる種類の遺伝子の量を検出する場合に応用される。検出・定量しようとする混合物中の異なる遺伝子は野生型および突然変異型の遺伝子であり得、たとえば腫瘍サンプル(たとえば生体組織検査材料)に見られることのあるものがある。この態様では、正確に同じサイズのプローブであって、ひとつは野生型の配列に一致し、ひとつは突然変異に一致するものを設計し得る。ある設定した時間の間実施した反応で得られる開裂生成物の定量により混合物中の2つの遺伝子の割合が判明する。このような分析は混合物中の非関連遺伝子についても実施できる。このタイプの分析は2つの遺伝子に限定されるものではない。混合物内の多くの変異体も同様に測定し得る。
あるいは、単一の遺伝子上の異なる部位をモニター・定量してその遺伝子の測定値を確認することができる。この態様の場合、各プローブから得られるシグナルは同じになると期待される。
さらに、別々に標識をされていない多数のプローブを用いて集合したシグナルを測定するようにすることも考えられる。これは、単一の遺伝子を検出するためにその遺伝子からのシグナルを増幅するように設計されたたくさんのプローブを使用するときに望ましい。この態様はまた混合物中の非関連配列を検出するのにも使用できる。たとえば、血液バンク内で、感染源の宿主のいずれが血液サンプル内に存在するかどうか知ることが望ましい。血液はどの感染源が存在したかに関係なく廃棄されるので、プローブ上の異なるシグナルは本発明のこのような応用では必要なく、実際上機密の点で望ましくないであろう。
すでに2つのオリゴヌクレオチド系について述べたように、検出反応の特異性は、完全な一組の検出オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションに関与する標的核酸配列の集合した(aggregate)長さによって影響を受ける。たとえば、複雑なゲノム内の単一の領域を検出することが望まれる応用があり得る。そのような場合、オリゴヌクレオチドの組は、標的核酸の長めのセグメント(ヌクレオチド20〜40個の範囲であることが多い)のハイブリダイゼーションによって正確に認識されることを要するように選択し得る。他の場合には、そのオリゴヌクレオチドの組を標的サンプル内の多数の部位と相互作用させることが望ましいことがある。これらの場合、ひとつの方法は、標的核酸配列のより小さいセグメント、したがって統計的にはより普通のセグメントを認識する一組のオリゴヌクレオチドを使用することであろう。
ひとつの好ましい態様の場合、インベーダーオリゴヌクレオチドとスタッカーオリゴヌクレオチドは、最大限安定にして、反応の間長期にわたって標的配列と結合したままになるように設計することができる。これを達成するには、当業者に周知のたくさんの方法のいずれかを使用すればよく、たとえば、オリゴヌクレオチドの長さ(全長で約50ntまで)に対して余分なハイブリダイズ用配列を加えたり、あるいは、負電荷の減少した残基、たとえばホスホロチオエートやペプチド‐核酸残基を用いて、相補鎖が天然鎖と同定度に互いに受け入れるようにするとよい。そのような修飾はこれらのフランキングオリゴヌクレオチドを夾雑ヌクレアーゼに対して耐性にするのにも役立ち得、したがって反応中これらが継続して標的鎖上に存在することをさらに確実にする。さらに、インベーダーオリゴヌクレオチドとスタッカーオリゴヌクレオチドは(たとえばプソラレン(psoralen)架橋を用いて)標的に共有結合してもよい。
開裂に使用する温度ではなく、プローブオリゴヌクレオチドのTm またはその付近の反応温度を使用してこれらの検出反応におけるプローブオリゴヌクレオチドのターンオーバーを実行させることは、開裂されるプローブオリゴヌクレオチドの量がターンオーバー速度に悪影響を与えることなく実質的に減少し得るということを意味している。上流オリゴヌクレオチドの3′末端とプローブ上の所望の開裂部位との関係は注意深く設計しなければならないことが確認されている。本発明で使用するタイプの構造特異的エンドヌクレアーゼに好ましい開裂部位は二本鎖中に1つ入った塩基対であることが知られている(Lyamichevら、上掲)。以前は、上流オリゴヌクレオチドまたはプライマーの存在により開裂部位がこの好ましい部位から5′アームの一本鎖領域にシフトされ得ると信じられていた(Lyamichevら、上掲および米国特許第5,422,253号)。この従来提案されていた機構とは対照的に、プローブ(ミニプローブも中間域プローブも含む)上の開裂部位のすぐ5′側または上流のヌクレオチドは標的と対合することができて効率のよい開裂が起こるものと信じられるが、本発明は特定の機構に限定されるものではない。本発明の場合、これは、目的とする開裂部位のすぐ上流のプローブ配列中のヌクレオチドであろう。さらに、本明細書に記載したように、プローブ内の同じ部位で開裂を指令させるためには、上流のオリゴヌクレオチドはその3′塩基(すなわちnt)をプローブの目的とする開裂部位のすぐ上流にもっていなければならないことが観察されている。これにより、上流のオリゴヌクレオチドの3′末端ヌクレオチドと開裂部位の5′側のプローブオリゴヌクレオチドの塩基とが、標的鎖の対応するヌクレオチドとの対合に関して競合することになる。
この競合の結果、すなわち、好結果の開裂事象の間にどちらの塩基が対合したのかを検査するために、プローブオリゴヌクレオチドとインベーダーオリゴヌクレオチドに置換基を導入して、プローブかインベーダーのいずれかのオリゴヌクレオチドがこの位置で標的配列とミスマッチするようにし、両者の開裂速度に対する影響を検査した。インベーダーオリゴヌクレオチドが3′末端で対合しないと開裂速度は落ちなかった。しかし、この塩基を取り除くと開裂部位は目的とした部位の上流にシフトした。対照的に、インベーダーオリゴヌクレオチドが開裂を指令する部位のすぐ上流でプローブオリゴヌクレオチドが標的と塩基対合しなかった場合は開裂速度が劇的に減少し、競合がある場合にはプローブオリゴヌクレオチドがこの位置で塩基対合すべき分子であるということを示唆していた。
上流のインベーダーオリゴヌクレオチドの3′末端は開裂の間対合しないにもかかわらず、開裂の正確な位置決定には必要であるように思われる。開裂の位置を決定するのに3′末端ヌクレオチドのどの部分が必要なのか検査するために、この末端に各種方法で変更したヌクレオチドを有するインベーダーオリゴヌクレオチドを設計した。検査した糖には3′リン酸基を有する2′デオキシリボース、ジデオキシリボース、3′デオキシリボース、2′O‐メチルリボース、アラビノースおよび3′リン酸を有するアラビノースが包含される。3′リン酸をもつ塩基性リボースと3′リン酸をもたないものとを試験した。リボース糖上の3‐ニトロピロールや5‐3ニトロインドールのような合成「ユニバーサル」塩基を試験した。最後に、前のヌクレオチドの3′末端に糖残基を介することなく結合された塩基様芳香環構造アクリジンを試験した。得られた結果は、(インベーダーオリゴヌクレオチドの3′末端の)塩基の芳香環は下流のプローブ内の所望の部位での開裂を指令するのに必要な基であるという結論を支持していた。
VI.インベーダー指令開裂アッセイにおける反応生成物の末端付加による
シグナル増強
オリゴヌクレオチドプローブを高温の開裂検出アッセイで用いると、末端が切断されたプローブの一部が非特異的熱分解によって短かくされていること、そしてそのような分解生成物が標的特異的開裂データの解析をより困難にし得ることが確認されている。本発明のプローブが高温で数分間以上処理されるときにはしご状のバックグラウンドバンドを生じる熱分解は2段階プロセスとして起こる。第1段階では、Nグリコシル結合が分解されてDNA鎖に非塩基性部位を残す。この非塩基性部位でDNA鎖は弱体化され、β除去プロセスにより自然開裂を受ける。プリン塩基はピリミジン塩基より約20倍分解されやすいことが確認されている(Lindahl, Nature 362:709 [1993])。このことは次のことを示唆する。すなわち、昇温でオリゴヌクレオチドを用いる方法においてバックグラウンドを低減させる1つの方法は、ピリミジンに富むプローブの使用を可能にする標的配列を選択することである。可能な場合には、完全にピリミジン残基から成るオリゴヌクレオチドを使用することが好ましい。たった1個または数個のプリンを使用する場合は、バックグラウンド分解が主に対応部位に現れ、データ解析に注意を払わないならば、(熱分解による)これらのバンドを目的の開裂産物とまちがえる可能性がある(すなわち、適切な対照実験を行う必要がある)。
プローブオリゴヌクレオチドの熱分解によるバックグラウンド開裂は、特異的開裂生成物から分離しないと、一定時間で蓄積された生成物の量に基づく標的核酸の定量の精度を低下させる。非特異的生成物から特異的生成物を区別するひとつの手段はすでに開示したものであり、これらの反応の生成物を反応における種々の分子種がもっている実効電荷の違いによって分離することに基づいている。すでに論じたように、熱分解生成物は通常分解後に3′リン酸を保持しているのに対して、酵素によって開裂した生成物はもっていない。リン酸上の2つの負電荷は電荷に基づく生成物の分割を容易にする。
所望のサブセットのプローブ断片上に3′リン酸が存在しないことは酵素的アッセイでも利用し得る。核酸ポリメラーゼは、鋳型のないもの(non-templated)(たとえばターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ、ポリAポリメラーゼ)も、鋳型依存性のもの(たとえばPolIタイプDNAポリメラーゼ)も、次のヌクレオチドを結合するのに利用できる3′ヒドロキシルを必要とする。この3′末端構造の酵素的選択は特異的生成物を非特異的生成物から区別する有効な手段として使用できる。
上記分離の利点に加えて、インベーダー特異的開裂の特異的生成物の端にヌクレオチドを付加すると、生成物に標識を付加するか、固体支持体に基づく読み出し系を容易にする捕獲可能な尾部を付加するか、またはこれら両者を同時になすかの機会が提供される。この概念のいくつかの可能な態様を図56に示す。
図56には、ブロックされたまたは伸長できない3′末端(たとえば3′ジデオキシヌクレオチド)を含有するインベーダーオリゴヌクレオチド、ブロックされたまたは伸長できない3′末端(オリゴヌクレオチドの3′末端にある白丸は伸長できないヌクレオチドを示す)を含有するプローブオリゴヌクレオチド、および標的核酸からなるインベーダー開裂構造体を示した。プローブオリゴヌクレオチドは(星印で示されている)ビオチンやフルオレセイン標識のような5′末端標識を含有していてもよい(5′ビオチン標識プローブまたは5′フルオレセイン標識プローブを使用する開裂構造体を、それぞれ開裂構造体の大きな図の下に左から右へかけて示す)。プローブの開裂後(開裂部位は大きな矢じりで示す)開裂したビオチン標識プローブを、鋳型依存性ポリメラーゼ(たとえばTdT)およびフルオレセイン化ヌクレオチド三リン酸を用いて伸長する。フルオレセイン尾部を付加した開裂プローブ分子は次に、その5′ビオチン標識を介してストレプトアビジンに結合することによって捕獲した後、蛍光を測定する。あるいは、5′フルオレセイン化プローブの開裂後、開裂したプローブを、鋳型依存性ポリメラーゼ(たとえばTdT)およびdATPを用いて伸長する。次に、ポリアデニル化された(A‐末端付加された)開裂プローブ分子をポリA尾部を介して固体支持体に結合したオリゴdTに結合させることによって捕獲する。
図56に示した例は、TdTを使用してインベーダー指令開裂の特異的生成物に末端付加することに基づいている。この特定の酵素を使用する際の説明を例示として挙げるが、限定の意味はない(実際、RNAを含むプローブオリゴを使用する場合、開裂したRNAプローブはポリAポリメラーゼを用いて伸長できる)。このタイプのアッセイは上述のように鋳型依存性ポリメラーゼを使用するように設計することができると考えられる。これは、端が切り取られた(truncated)オリゴヌクレオチドが合成を開始できる標的核酸とは異なる適切なコピー鋳型の存在を必要とするが、開裂前には3′末端のミスマッチまたは修飾のために伸長できないプローブがインベーダー指令開裂によって開裂されたときにはプライマーとして活性化され得ることが予想できる。鋳型指令末端付加反応も、導入されるヌクレオチドのより広い選択とより良好な制御を可能にするという利点をもっている。
非鋳型(nontemplated)末端付加の使用は、検出反応で追加の核酸の存在を必要とせず、アッセイの開発と修復のひとつの工程を回避する。また、非鋳型合成の使用はハイブリダイゼーション工程を省略し、アッセイの迅速化が可能である。さらに、TdT酵素は速く、15分の反応で少なくとも700個以上のヌクレオチドを基質オリゴヌクレオチドに付加することができる。
上で述べたように、付加された尾部はいろいろに使用することができる。標識された基(labeled moiety)を開裂生成物に付加して各開裂事象に由来するシグナルを増大させる直接的な方法として使用することができる。このような反応を図66の左側に示す。この標識された基(部分)は、ヌクレオチドに結合されたとき、末端付加用酵素によって付加することができるものならなんでもよく、たとえば染料分子、ジゴキシゲニンのようなハプテン、またはビオチンのような他の基でもよい。
好ましい実施態様の場合アッセイは混合物中の末端付加されたインベーダー指令開裂生成物を特異的に捕獲または分別する手段を含んでいる。混合物中の標的核酸は反応中に末端付加することができる。標識が付加されている場合、末端付加されたインベーダー指令開裂生成物をこれら他の標識された分子から分別して結果のバックグラウンドを回避するのが望ましい。これは、開裂生成物のみが捕獲され得るならば実施が容易である。たとえば、使用するプローブが5′末端にビオチンをもっており、3′末端の伸長がブロックされており、かつ末端付加の間に染料が付加される本発明の開裂アッセイを考えてみよう。さらに、生成物はビオチン残基を介して支持体上に捕獲され、この捕獲された染料を測定して標的核酸の存在を評価するとしよう。末端付加によって標識が付加される場合特異的に開裂したプローブのみが標識される。残りの未切断プローブは最終捕獲工程で結合したままでいられるが、シグナルに寄与しない。同じ反応で標的核酸のニックおよび切断部がこの酵素によって末端付加され、したがって染料で標識されることになる。最終捕獲においてこれらの標識された標的は支持体に結合せず、したがって標識されていてもシグナルには寄与しない。最終特異的生成物が2つの部分、すなわちプローブ由来部分と尾部部分とから構成されていると考えると、プローブ由来部分を、ハイブリダイゼーションにせよ、ビオチン/ストレプトアビジンにせよ、その他の方法にせよ、特異的捕獲に使用する場合、標識は尾部部分と会合するのが特に好ましいことが上記議論から分かる。逆に、標識がプローブ由来部分に結合しているならば、図66の右側に示したように尾部部分を捕獲に適するように作成することができる。尾部はいろいろな方法で捕獲でき、たとえば、ハイブリダイゼーション、ビオチンの導入とストレプトアビジンによる捕獲があり、または長めの分子はより予想通りに、また効率的にいくつかの核酸認識マトリックス、たとえば膜状のニトロセルロース、ナイロンもしくはガラス、紙、樹脂、その他の形態に結合するという事実によって捕獲できる。このアッセイに必要なわけではないが、この機能の分離により未反応プローブと末端付加された標的核酸の両方をシグナルから有効に排除できる。
上記支持体に加えて、末端付加された生成物は適切な捕獲基を含有する任意の支持体に捕獲することができる。たとえば、ビオチニル化された生成物は通常アビジンで処理した表面で捕獲される。これらのアビジン表面は、可能なものを2,3名前を挙げると、マイクロタイタープレートウェル、ビーズ、浸漬棒(dipstick)であり得る。このような表面はまた特異的オリゴヌクレオチドを含有するように修飾することもでき、ハイブリダイゼーションによる生成物の捕獲が可能になる。本明細書に記載した捕獲表面は当業者には広く知られており、ニトロセルロース浸漬棒(たとえばGeneComb(商標)、BioRad、Hercules、カリフォルニア州)が包含される。
VII. インベーダー指令開裂反応で使用する改良された酵素
本発明で開裂構造体とは、プローブオリゴヌクレオチドと標的核酸との相互作用によって二本鎖を形成した構造体であって、得られた構造体が酵素を始めとする(しかし酵素に限られるわけではない)開裂手段によって開裂可能なものと定義される。この開裂構造体はさらに、ホスホジエステラーゼのような剤による非特異的開裂の基質である核酸分子とは対照的に開裂手段による特異的開裂の基質として定義される。いくつかの可能な開裂構造体の例を図15に示す。酵素的開裂手段の改良を考慮する際には、これらの構造体のいずれかに対するその酵素の作用および開裂構造体の定義内に入る他のあらゆる構造体に対するその酵素の作用を考慮すればよい。図15の構造体で示した開裂部位は一例として示したものである。このような構造体内の任意の部位での特異的開裂が考えられる。
ある酵素の改良は1種以上の構造体の開裂速度の増大または減少であり得る。また改良により、1種以上の前記開裂構造体の開裂部位の数が増減することになり得る。核酸開裂アッセイで使用する新規な構造特異的ヌクレアーゼのライブラリーを開発する際に、改良は多くのいろいろな態様をもち得、各々が特定のアッセイで使用する特異的基質構造に関連する。
一例として、本発明のインベーダー指令開裂アッセイのひとつの具体例を考察し得る。インベーダー指令開裂アッセイにおいて開裂した材料の蓄積は酵素挙動のいくつかの特徴によって影響を受ける。驚くことではないが、ターンオーバー速度、または一定の時間の内に単一の酵素分子によって開裂する
ことができる構造体の数は、アッセイ反応中に加工される材料の量を決定する際に非常に重要である。酵素が基質を認識するのに長時間がかかれば(たとえば、最適以下の構造体である場合)、または開裂するのに長時間がかかれば、生成物蓄積速度はこれらの工程が迅速に進む場合より低い。これらの工程が迅速であり、それでも酵素が開裂した構造体に「結合し続け(holds on)」、他の未切断構造体にすぐには作用しないならば、速度は負の影響を受ける。
酵素のターンオーバーは酵素挙動が生成物の蓄積の速度に負に影響し得る唯一の方法ではない。生成物を可視化または測定するのに使用する手段が正確に定義された生成物に対して特異的である場合、その定義から外れる生成物は検出から逃れ、したがって生成物の蓄積速度は実際のものより低く見えるであろう。たとえば、本発明のインベーダー指令開裂アッセイにおいてジヌクレオチドやテトラヌクレオチドまたは残基3つ以外の任意の大きさのオリゴヌクレオチドは検出できないがトリヌクレオチドに対して感度の良い検出器をもっていれば、誤った開裂は検出可能なシグナルを比例的に減少させるであろう。本明細書に示した開裂データから分かるように、プローブ内には通常の開裂に有利な部位がひとつあるが、この主要な開裂部位から1つ以上のヌクレオチドが開裂された生成物があることが多い。これらは標的依存性であり、したがって非特異的バックグラウンドではない生成物である。にもかかわらず、後の可視化系が一次生成物のみを検出できるのであれば、これらはシグナルの損失となる。そのような選択的可視化系の一例は、正の電荷と負の電荷の電荷平衡が、生成物の挙動を決定する本明細書で示した電荷反転読み出し(readout)である。このような系において、余分なヌクレオチドの存在または期待されたヌクレオチドの不在は、電荷平衡の悪い生成物を残すことによって、基準に合った開裂生成物を最終的検出から除外し得る。すぐ分かるように、標準的なストリンジェントハイブリダイゼーションのようにオリゴヌクレオチドのヌクレオチド含量を感度良く区別することができるアッセイは、基準にあった生成物のいくらかの割合がそのアッセイによってうまく検出できない場合にはその感度に影響が出る。
これらの考察は本発明の方法に使用しようとする酵素の極めて望ましい2つの特質(traits)を示唆している。まず第一に、酵素が認識、開裂および遊離を始めとする全開裂反応を迅速に遂行すれば、インベーダー指令開裂アッセイで創造され得るシグナルが多くなる。第二に、酵素が構造体内の単一の開裂部位に上首尾に焦点を結べばそれだけ、選択的読み出しにおいてうまく検出できる開裂生成物の量が多くなる。
インベーダー指令開裂アッセイで使用しようとする酵素を改良する際の上記理由は、改良を目指すひとつの方向の一例として機能することを意味しており、改良された酵素活性の性質または応用に制限を加えるものではない。適切に考察される改良となる活性変化の別の方向としては、DNAP結合5′ヌクレアーゼが一例として使用し得る。本明細書に記載したポリメラーゼ欠損5′ヌクレアーゼのいくつかを創造する際に、図4に示したようにポリメラーゼドメインの実質的な部分の欠失によって創造したものは親のタンパク質では弱かったかまたはなかった活性をもっていることが判明した。これらの活性としては、図15Dに示した非分岐(no-forked)構造を開裂する能力、二本鎖を形成した鎖の5′末端からエキソヌクレアーゼによってヌクレオチドを除去する大きく増強された能力、および遊離5′末端の恩恵を受けることなく環状の分子を開裂する発生期(nascent)の能力がある。
DNAポリメラーゼに由来する5′ヌクレアーゼに加えて、本発明は、DNAポリメラーゼに由来しない構造特異的ヌクレアーゼの使用も包含する。たとえば、PolIタイプのDNAポリメラーゼの5′ヌクレアーゼと類似の基質特異性を有する一群の真核生物および古細菌のエンドヌクレアーゼが同定されている。これらはFEN1(Flap EndoNuclease)、RAD2およびXPG(色素性乾皮症相補グループG)タンパク質である。これらのタンパク質はDNA修復に関与しており、重合中伸長するプライマーによって置き換えられた5′アームに類似する構造体の開裂を優先することが示されている(図15Bに示したモデルと似ている)。同様なDNA修復酵素が、単細胞および高等真核生物から、また古細菌から単離されており、真正細菌にも関連したDNA修復タンパク質がある。同様な5′ヌクレアーゼはまたT5やT7のようなバクテリオファージとも関連している。
最近になって、DNAPTaqおよびT5ファージ5′‐エキソヌクレアーゼの三次元構造(図58)がX線回折によって決定された[Kimら(1995年) Nature 376:612およびCeskaら(1995年) Nature 382:90]。これら2つの酵素はアミノ酸配列の類似点が限定されているにもかかわらず非常に類似した三次元構造をもっている。T5の5′‐エキソヌクレアーゼ構造の最も際立った特徴はこのタンパク質の活性部位によって形成される三角形の穴と2つのαらせんの存在である(図58)。DNAPTaqのこれと同じ領域は結晶構造が乱れており、この領域が固定されていないことを示唆しており、したがって公表された三次元構造には示されていない。しかし、DNAPTaqの5′ヌクレアーゼドメインはT5の5′‐エキソヌクレアーゼとの全体的な三次元類似性に基づいて同じ構造をもっていると思われ、DNAPTaqタンパク質の乱れた領域内のアミノ酸はαらせん形成と関連していると思われる。DNAPTaqの5′ヌクレアーゼドメインにおける前記のような穴または溝の存在はその基質特異性に基づいて予想された[Lyamichevら、上掲]。
開裂構造体の5′アームは、その構造体を開裂のために正確に位置決めするように上記のらせんアーチを貫通しなければならないことが示唆されているCeskaら、上掲)。本明細書に記載した5′ヌクレアーゼの修飾のひとつは、タンパク質のらせんアーチ部分を開いて、ほとんどまたはまったく切断されなかった構造体(たとえば、5′アームのそのような貫通を妨害する環状DNA標的上の構造体)の改良された開裂を可能にしたものである。このアプローチを試験するモデルとして選択された遺伝子構築体は、DNAPTaqから誘導されているがポリメラーゼドメインをもっていないCleavaseRBNといわれるものである(実施例2)。これはDNAPTaqの5′ヌクレアーゼドメイン全体を含んでおり、したがってT5の5′エキソヌクレアーゼと構造が非常に近似しているはずである。この5′ヌクレアーゼはこのタイプのタンパク質に対するこのような物理的修飾の原理を示すために選択したものである。本発明のアーチを開く修飾はDNAポリメラーゼの5′ヌクレアーゼドメインに限定する意図はなく、開裂活性に関する限定として前記のような穴を含むいかなる構造特異的ヌクレアーゼにも使用されると考えられる。本発明は、テルムス(Thermus)属に由来するDNAPおよびテルムス属に由来するDNAPに由来する5′ヌクレアーゼのらせんアーチ内にトロンビン開裂部位を挿入することを包含する。本明細書に示したCleavaseBN/トロンビンヌクレアーゼを使用する特定の例は単に、ヌクレアーゼドメイン内に位置するらせんアーチを開くという概念を例示するものである。テルムス属に由来するDNAPのアミノ酸配列は極めて良く保存されているので、本発明の教示により、これらのDNAPおよびこれらのDNAPから導かれる5′ヌクレアーゼに存在するらせんアーチ内にトロンビン部位を挿入することが可能になる。
らせんアーチを開くにはアーチ内にプロテアーゼ部位を挿入した。これにより、発現されたタンパク質の適当なプロテアーゼによる翻訳後消化でアーチをその頂点(apex)で開くことができた。このタイプのプロテアーゼは特異的アミノ酸配列の短い鎖を認識する。このようなプロテアーゼには、トロンビンと第Xa因子がある。このようなプロテアーゼによるタンパク質の開裂は、タンパク質のアミノ酸配列内にその部位が存在することと、折り畳まれた完全なタンパク質のその部位に対するアクセスの容易さとの両方に依存する。結晶構造をもってしても、タンパク質の特定の領域がプロテアーゼによる開裂を受け易いかどうか予想するのは困難であることがある。結晶構造がなければ経験的に決定しなければならない。
プロアーゼ開裂部位をもつように修飾されたタンパク質の部位特異的開裂のためにプロテアーゼを選択する際の最初の工程は、未修飾タンパク質の選択できる部位における開裂を試験することである。たとえば、DNAPTaqとCleavaseBNヌクレアーゼを両方とも第Xa因子およびトロンビンプロテアーゼと共にプロテアーゼ開裂条件下でインキュベートした。両者のヌクレアーゼタンパク質は5′ヌクレアーゼドメイン内で第Xa因子により切断されたが、いずれのヌクレアーゼも大量のトロンビンでも消化されなかった。そこで、CleavaseBN酵素のアーチを開く際の最初の試験用にトロンビンを選択した。
本明細書に記載したプロテアーゼ/Cleavase修飾において、第Xa因子プロテアーゼは、未修飾ヌクレアーゼタンパク質内の許容できない位置で、すなわち最終生成物の活性を損ない得る領域で強く開裂した。本発明で考えられる他の未修飾ヌクレアーゼは第Xa因子に対して感受性ではないこともあるが、トロンビンやその他類似のプロテアーゼに対しては感受性であることもある。あるいは、修飾しようとするヌクレアーゼの機能にとって重要ではない部位でこれらや他の類似のプロテアーゼに対して感受性であることもある。プロテアーゼ開裂部位を追加することによってタンパク質を修飾しようとする際には、未修飾のタンパク質を当該プロテアーゼで試験してどちらのプロテアーゼが他の領域で許容できる開裂レベルを示すかどうか決定しなければならない。
CleavaseBNタンパク質を発現するDNAPTaqのクローン化されたセグメントを用いて、トロンビン開裂部位をコードしているヌクレオチドをヌクレアーゼ遺伝子のアミノ酸90をコードしている配列の近くに解読枠を合わせて導入した。この位置は、DNAPTaqの三次元構造とT5の5′エキソヌクレアーゼの構造の両方を参照して、らせんアーチの頂部またはその付近にあることが決定された。コードされているアミノ酸配列LVPRGSをヌクレアーゼ遺伝子の部位特異的突然変異誘発によってらせんアーチの頂部に挿入した。トロンビン開裂部位内のプロリン(P)を通常CleavaseBN内のこの位置にあるプロリンと置き替わるように配置した。プロリンはαらせんを破壊するアミノ酸であり、このアーチの三次元構造にとって重要であり得るからである。この構築体を発現させ、精製し、次いでトロンビンで消化した。この消化した酵素を、貫通(threading)モデルにより開裂を容易にする遊離の5′末端を提供しない標的核酸バクテリオファージM13ゲノムDNAを開裂する能力について試験した。
このヌクレアーゼのらせんアーチはプロテアーゼ開裂によって開かれたが、この目的を達成するのにいくつかの他の技術を使用することができると考えられる。たとえば、発現の際に得られるタンパク質が、らせんアーチ(アミノ酸90)の頂部がタンパク質のアミノ末端にあるように作られるようにしてヌクレオチド配列を再配列することができ、タンパク質配列の天然のカルボキシル末端とアミノ末端が接合し、新しいカルボキシル末端が天然のアミノ酸89になるであろう。このアプローチには、外来配列を導入せず、酵素が単一のアミノ酸鎖であり、したがって開裂した5′ヌクレアーゼより安定であり得るという利点がある。DNAPTaqの結晶構造中で5′‐エキソヌクレアーゼドメインのアミノ末端とカルボキシル末端が互いに近接して位置しており、これはこれら末端がときに必要であることがあるような柔軟なリンカーペプチド配列を使用することなく直接接合し得るということを示唆している。このような遺伝子の再配列とその後のクローニングおよび発現は、当業者には公知の標準的なPCR組換えおよびクローニング技術によって実施できるであろう。
本発明はまた、さまざまな条件下で生育する生体から単離されたヌクレアーゼの使用も包含する。FEN−1/XPGクラスの酵素の遺伝子はバクテリオファージからヒトまで、さらに古細菌界の高度(extreme)好熱菌までの範囲の生体で見られる。高温を使用することになるアッセイでは、高度好熱菌から単離された酵素がそのようなアッセイに必要な熱安定性を示し得ると考えられる。中程度の温度でピーク酵素活性をもつのが望ましいか、または高温により酵素を破壊するのが望ましいアッセイでは、生育に中程度の温度を好む生体に由来する酵素が特に価値があるであろう。
他で配列決定されたいくつかのFEN−1タンパク質を並べて図59A〜E(配列番号135〜145)に示す。これらの図から分かるように、このクラスのタンパク質でいくらかの保存領域があり、機能が関連していること、そして恐らく構造が関連していることが示唆されている。アミノ酸配列レベルで類似している領域を用いて、アミノ酸配列を可能な核酸配列に逆翻訳した後その配列内で可能な最も少ない変異をもつプライマーを選択するというプロセスによってin vitro増幅(PCR)用のプライマーを設計することができる。これらを低ストリンジェントPCRに使用して関連するDNA配列を探索することができる。このアプローチにより、実際のDNA配列の知識がなくてもFEN−1をコードしているDNAの増幅が可能になる。
また、上記のアライメントから、配列中に完全には保存されてない領域があることも分かる。観察された差の程度は、このタンパク質が基質特異性につき微妙なまたは異なる差を有し得ることを示唆している。換言すると、本発明の開裂構造体に対していろいろなレベルの開裂活性をもち得る。ある特定の構造体が他のものより大きい速度で開裂されるとき、これは好ましい基質といわれるが、ゆっくりと開裂される構造体はあまり好ましくない基質と考えられる。この意味で好ましいまたはあまり好ましくない基質という表現は本発明の限定を意図していない。本発明のいくつかの態様ではあまり好ましくない基質と酵素の相互作用を使用することが考えられる。候補となる酵素は以下に述べるアッセイを用いて本発明の開裂アッセイにおける安定性を試験する。
1.構造特異的ヌクレアーゼアッセイ
これらのアッセイで構造特異的活性の候補ヌクレアーゼの試験は実施例2で修飾DNAポリメラーゼの試験について記載したのと同じようにして行なうが、異なるライブラリーのモデル構造体を使用する。プライマー非依存性およびプライマー指令開裂における酵素性能を評価することに加えて、一組の合成ヘアピンを用いてこの酵素によって好まれる開裂部位の下流の二本鎖の長さを検査する。
本発明で使用したFEN−1ヌクレアーゼとXPG5′ヌクレアーゼは使用しようとするアッセイ、たとえば限定するわけではないが、本発明のインベーダー指令開裂検出アッセイおよび核酸を特性付けるCFLP法[このCFLP法は、同時係属出願中の米国特許出願第08/337,164号、第08/402,601号、第08/484,956号および第08/520,946号に記載されている。これら出願の開示内容は引用したことにより本明細書に含まれているものとする]における活性を試験しなければならない。このインベーダーアッセイは、開裂部位の上流で標的核酸にハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドの影響を反映するために「プライマー指令」または「プライマー依存性」といわれる開裂モードを使用する。対照的に、CFLP反応は、ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドの不在下で、標的核酸内の折り畳まれた構造またはヘアピンの開裂に基づいている。本明細書に記載した試験は特定の開裂部位または基質構造の認識モードのヌクレアーゼの解析に限るつもりはない。酵素は構造体を認識する基準点として3′末端を利用する3′ヌクレアーゼとして記載されてもよいし、あるいはさらに異なるモードの認識をもっていてもよい。さらに、5′ヌクレアーゼという用語は特定の部位で開裂構造体を開裂する酵素に限定するつもりはなく、構造体を開裂するのに5′末端にいくらかの基準またはアクセスを要する酵素の一般的なクラスに関するものである。
一組のモデル開裂構造体を作製してそのような構造体に対する未知の酵素の開裂能力を評価した。各々のモデル構造体は標準的なDNA合成化学によって作製した1つ以上の合成オリゴヌクレオチドから構築する。そのような合成モデル基質構造体の例は図26および60に示した。これらはそのような試験構造体に望ましい一般的な折り畳み形状を示すためにのみ挙げたものである。そのような構造をもつと思われる配列は図に示したが、そのようにして折り畳まれると期待されるヌクレオチドのたくさんの他の配列がある。本明細書に記載した試験を実施するために一組のオリゴヌクレオチド中に設計される本質的な特徴は、付加的な核酸のハイブリダイゼーションが「プライマー指令」モードで開裂を試験できるように充分長い3′アームの存否、および二本鎖領域の長さである。図60に示した組ではS−33と11−8−0構造体の二本鎖の長さはそれぞれ塩基対12個と8個である。この試験分子の長さの差は候補ヌクレアーゼによる長めの二本鎖と短めの二本鎖の間の区別の検出を容易にする。これら酵素に露呈される二本鎖分子の範囲を短めにしろ長めにしろ広げるこのシリーズへの追加を使用してもよい。安定化用のDNAテトラループ[Antaoら(1991年) Nucl. Acids Res. 19:5901]またはトリループ[Hiranoら(1994年) Nucl. Acids Res. 22:576]を二本鎖の閉鎖末端で使用するとオリゴヌクレオチドにより期待される構造体の形成が確実になる。
プライマー指令開裂を試験するためのモデル基質「S−60ヘアピン」(配列番号40)は実施例11に記載されている。プライマーがないと、このヘアピンは通常開裂されてヌクレオチド18個および19個の長さの5′アーム断片を遊離する。S−60ヘアピンの3′アームにハイブリダイズしたときに二本鎖の塩基まで伸長するP−14と称するオリゴヌクレオチド(5'-CGAGAGACCACGCT-3'、配列番号108)は、同じ大きさの開裂生成物を与えるが、開裂速度は速い。
インベーダー開裂を試験するためにP−15と称する異なるプライマー(5'-CGAGAGACCACGCTG-3'、配列番号30)を使用する。上首尾のインベーダー開裂ではこのプライマーの存在によりS−60の開裂部位が二本鎖領域中にシフトし、通常はヌクレオチド21個と22個の長さの生成物を遊離する。
S−60ヘアピンは、開裂構造体の修飾のプライマー指令またはインベーダー開裂に対する影響を試験するのにも使用できる。そのような修飾には、ヘアピン二本鎖中のひとつ、2、3、またはすべての位置でのミスマッチまたは塩基類似体の使用、プライマーとS−60の3′アームとの間の二本鎖内の類似の分断または修飾、プライマー配列の一端または両端の化学的またはその他の修飾、あるいは、構造体の5′アームに残基を結合したりまたはその他の修飾を施すことがあるが、これらに限定されることはない。本明細書に記載したS−60または類似のヘアピンを用いた分析のすべてでプライマーを用いたまたは用いないときの活性を同じヘアピン構造を用いて比較することができる。
適当な量のヘアピン、プライマーおよび候補ヌクレアーゼを含むこれらの試験反応の組み立てを実施例2で記載する。そこに示したように、開裂生成物の存在は、未開裂試験構造体より低い分子量で移動する分子の存在によって示される。標識の電荷の反転を用いると生成物は未開裂材料とは異なる実効電荷をもつことになる。これらの開裂生成物のいずれも、候補ヌクレアーゼが所望の構造特異的ヌクレアーゼ活性をもっていることを示す。「所望の構造特異的ヌクレアーゼ活性」とは、単に、候補ヌクレアーゼが1つ以上の試験分子を開裂することを意味する。候補ヌクレアーゼが特定の速度または開裂部位で開裂することを上首尾の開裂と考える必要はない。
VIII. 活性化されたタンパク質結合部位の完成によるシグナル増強
上述のDNAポリメラーゼ末端付加反応のほかに、本発明はまた、侵入的開裂反応の産物を使用して活性化タンパク質結合部位(例えば、RNAポリメラーゼプロモーター二本鎖)を形成することにより、完成部位の相互作用を、侵入的開裂反応の標的である核酸の存在の指標として利用できるようにすることをも対象とするものである。例えば、侵入的開裂反応のオリゴヌクレオチド産物のハイブリダイゼーションを介して完成させることにより(すなわち、ポリメラーゼの結合に必要なプロモーター領域の部分を二本鎖にすることにより)、RNAポリメラーゼプロモーター二本鎖を活性化する場合、RNA合成自体を指標として使用できる。
本発明の転写反応は、いかなる特定のRNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼプロモーター領域の利用に限定されるものではない。プロモーター配列は、バクテリオファージSP6、T7、およびT3などの数種のバクテリオファージに対して、良好な特性付けがなされている。更に、プロモーター配列は、真核生物および原核生物の両方の多数のRNAポリメラーゼに対しても良好な特性付けがなされてきた。好ましい実施態様において、使用されるプロモーターは、バクテリオファージRNAポリメラーゼのうちの1つによる転写を可能にする。特に好ましい実施態様において、使用されるプロモーターは、T7RNAポリメラーゼによる転写を可能にする。in vitroにおいて転写を行う手段は当該技術分野で周知であり、真核生物、原核生物、およびバクテリオファージRNAポリメラーゼを用いて転写を行うために、市販のキットが利用できる(例えば、Promega製のもの)。
本発明のタンパク質結合部位は、上述のバクテリオファージRNAポリメラーゼプロモーターに限定されるものではない。対象となる他のプロモーター配列は、原核生物または真核生物のものである。例えば、細菌および真菌の多くの菌株が、異種タンパク質の発現のために使用される。酵母および他の真菌、真正細菌、線虫、ならびに培養された哺乳動物細胞などの生物のRNAポリメラーゼによる転写に必要な最小プロモーターについては、文献の中に、およびこれらの生物中で外来タンパク質を発現するためのDNAベクターの供給業者のカタログの中に優れた解説がある。
他のタイプの核酸(例えば、DNA)結合タンパク質に対する結合部位も、本発明で使用する対象となる。例えば、遺伝子の調節に関与するタンパク質は、該遺伝子に由来するRNAが転写されるプロモーターの近傍のDNAに結合することによってそれらの効力を発揮する。E. coliのlacオペレーターは、特に良好な特性付けがなされ、かつ普通に使用される遺伝子調節系の1つの例であり、この系において、lacリプレッサータンパク質は、該リプレッサーの制御下で該遺伝子に対するプロモーターとオーバーラップする(従って、該プロモーターをブロックする)特異的配列に結合する[Jacob and Monod (1961) Cold Spring Harbor Symposium on Quantitative Biol. XXVI:193-211]。trpおよびAraC調節系など、細菌中の多くの類似の系が報告されてきた。細菌のプロモーターについての情報が大量に得られれば、バクテリオファージRNAポリメラーゼに対する好適な部分プロモーターの設計についての以下に記載の工程を、これらの他のプロモーターに基づく検出系の設計に容易に適用できる。
上述したように、細菌のプロモーターの多くは、リプレッサーまたは他の調節タンパク質の制御下にある。核酸断片(例えば、侵入的開裂反応中に生成する非標的開裂産物)を提供することにより、これらの調節タンパク質に対する複合結合部位を生成することも、本発明の範囲内にあるとみなされる。完成したタンパク質結合領域(例えば、複合結合領域)への調節タンパク質の結合は、タンパク質もしくはDNA断片のいずれか一方の電気泳動移動度の低下などの多数の手段のうちの任意の1つを用いて、または結合に伴うタンパク質もしくはDNAのコンホメーション変化により、評価することができる。更に、完成したタンパク質結合領域への調節タンパク質の結合の結果として、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに対して下流プロモーターからの転写をモニターすることができる。
上述した細菌系のほかに、真核生物系においても、多くの遺伝子が、二本鎖DNAの特異的領域に結合する特異的タンパク質の制御下にあることが明らかにされた。例としては、哺乳動物中のOCT-1、OCT-2、およびAP-4タンパク質、ならびに酵母中のGAL4およびGCN4タンパク質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような調節タンパク質は、通常、二本鎖核酸結合に関与する構造モチーフ(例えば、ヘリックス・ターン・ヘリックス、ジンクフィンガー、またはロイシンジッパー)を有する[総説は、Molecular and Cellular Biology (1993) S.L. Wolfe, Ed. Wadsworth Publishing Co., Belmont, CA, pp. 694-715を参照されたい]。
簡略化のために、ここに記載した試験反応はT7 RNAポリメラーゼおよびそのプロモーターをさすだろう。これは本発明をこのRNAポリメラーゼの使用に限定するものではなく、分子生物学分野の当業者であれば、ここに記載した試験を上記のDNA結合タンパク質、RNAポリメラーゼおよびそれらの結合部位またはプロモーター部位のいずれかの試験に容易に応用することができよう。
当分野において、活性T7プロモーターは2つのオリゴヌクレオチド(それぞれが該プロモーター配列の上鎖または下鎖のいずれかを含む)のハイブリダイゼーションにより形成することができ、ニックのない完全な二本鎖プロモーターが得られることが知られている[Milliganら, Nucl. Acids Res., 15:21, 8783-8798 (1987)]。本発明は、侵入的開裂反応の生成物に依存して転写を開始させる一つの方法は、RNAポリメラーゼプロモーターの一部が生成物として放出されるように開裂反応用のプローブを設計することである、ことを示す。プロモーター二本鎖を組み立てるのに必要な残りのDNA断片は、反応混合物中の成分として提供するか、または他の侵入的開裂イベントにより生成させてもよい。適切な相補的領域を含むようにオリゴヌクレオチド断片を設計すれば、それらの断片は、塩基対を形成し、図88Bに示されている、3つ以上の核酸断片を含む完全なプロモーター二本鎖を生成することができる。このような方法で組み立てられたプロモーターは、一方または両方の鎖の主鎖中にニックを含むであろう。1実施態様において、これらのニックは、DNAリガーゼ酵素を利用して共有結合により連結することができる。好ましい実施態様において、連結反応を行わないでも転写が進行するような位置にニックが配置される。部分プロモーター断片を組立てることによって生じるニックの部位を選択する際、使用されるRNAポリメラーゼに対する認識プロモーター領域内に少なくとも1つのニックが存在しなければならない。バクテリオファージプロモーターを使用する場合、+1の転写開始部位から測定して-17〜-1のヌクレオチドの間にニックが存在しなければならない。好ましい実施態様において、ニックは-13〜-8のヌクレオチドの間にあるであろう。特に好ましい実施態様において、ニックは、バクテリオファージプロモーターの非鋳型鎖上の-12〜-10のヌクレオチドの間にあるであろう。
ニックを修復せずに残した場合(すなわち、DNAリガーゼを用いて共有結合により連結しかなった場合)、組立てられたプロモーターからの転写のレベルに及ぼすニックの位置の影響を評価することが重要である。簡単な試験は、プロモーターの分断部分を含むオリゴヌクレオチドと、組立てられるプロモーターの一本の鎖全体を含むオリゴヌクレオチドとを組合せ、一本の鎖中にニックを有する二本鎖プロモーターを形成することである。ニックがプロモーターの上部鎖すなわち非鋳型鎖中に存在する場合、5'末端に非プロモーター配列を更に含有させ、転写の際にコピーされる鋳型として働くように、完全なプロモーターを含むオリゴヌクレオチドを作製する。この配置は、図88Bに示されている。この他、ニックがプロモーターの下部鎖すなわち鋳型鎖中に存在する場合、転写開始部位である+1位置をカバーする部分プロモーターオリゴヌクレオチドには、鋳型配列が更に含まれるであろう。この配置は、図95A〜Dに示されている(この図は、切断プローブまたは非標的開裂産物を使用して、鋳型鎖上に1つ以上のニックを含む複合プロモーターを形成する数種の異なる実施態様を示している)。いずれの場合においても、分断されたオリゴヌクレオチドを組合せて完全なプロモーターを形成し、このアセンブリーを転写反応に利用してRNAを形成する。
ニックの影響を調べるために、それぞれ一本の完全長プロモーターを含む2つのオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、同じプロモーターでニックのないものを形成することによって、実質的に同等なプロモーター断片を形成する。これらの2つの分子アセンブリーを、平行転写反応で試験し、各反応で生成すると予想されるRNAの量を、サイズおよび収率の両方について測定する。RNAのサイズを評価する好ましい方法は、電気泳動を行った後で可視化することである。転写の際に、標識化されたヌクレオチド(例えば、32P-GTPまたは蛍光-UTP)を使用した場合、オートラジオグラフィーや蛍光イメージングによって、または支持体膜に移した後で抗体もくはハイブリダイゼーションプローブにより検出することによって、RNAの検出および定量を行うことができる。この他、標識化されていないRNAが生成する場合、当該技術分野で周知の他の方法により、例えば、分光測光により、または電気泳動を行った後で染色し、既知の標準と比較することにより、定量することができる。
RNAのサイズが鋳型の配列によって予測されたものと同じである場合、または対照プロモーターから生成されたものと一致する場合、複合体中の同一部位で転写が開始され、かつ実質的に同じRNA産物を生じたと推定できる。産物がかなり短い場合、転写は内部の部位で開始されたか、または早い時期に終了したかのいずれかである[E.T. Schenborn and R.C. Mierendorf, Jr., Nucl. Acids Res. 13:17, 6223 (1985): Milliganet al.,前掲]。このことは、試験されたアセンブリーがアッセイに全く適していないことを示唆するものではないが、部分転写物では、形成されるRNAの総量が低下し、恐らくアッセイから得られるシグナルが弱まるため、このような産物では、産物中のヌクレオチド含有量を決めるために更なる特性付け(例えば、フィンガープリント法または配列決定法)が必要となるであろう。生成したRNAのサイズは、対照反応で生成したRNAのサイズと一致するのが好ましい。
反応の収率についても調べる。転写のレベルが対照反応のレベルと一致する必要はない。いくつかの場合において(以下の実施例41を参照されたい)、ニックのあるプロモーターが転写速度の増大を呈することもあるが、他の配置では、転写が遅れることもある(ニックの入っていないプロモーターアセンブリーから得られる速度と比べて)。産物の量が試験プロモーターと共に使用される試験の検出限界内であることだけが必要とされる。
バクテリオファージプロモーターから転写すると、1回の反応で各転写鋳型(鋳型+活性プロモーター)の200個〜1000個のコピーが形成できると報告されている。これらの転写レベルは、本発明に必要ではない。各鋳型に対して1つのRNAが形成される反応についても対象とする。
上述の試験により、任意の位置にニックを有するプロモーターを評価し、このアッセイに利用することができる。本発明の目的は、侵入的開裂イベントを介して部分プロモーター領域を含む1つ以上のオリゴを提供することである。この実施態様において、部分プロモーター配列は、侵入的開裂アッセイにおいて、プローブオリゴヌクレオチドに結合され、インベーダーTMオリゴヌクレオチドにより指定される特定の部位での開裂によって放出される。適切に開裂されるプローブの不存在下で転写が非常に起こりにくいかまたはまったく起こらない場合についても対象とする。任意のオリゴヌクレオチドの設計がこれらの目的を満足するものであるかを評価するために、数種の転写反応を行うことができる。
非鋳型鎖上にニックを有するプロモーターアセンブリーに対して、試験されるべき数種の部分アセンブリーが図86A〜Dに示されている。例えば、この図は、非鋳型鎖の上流部分すなわち5'部分が侵入的開裂アッセイにより提供されるニックの入ったプロモーターに対する試験を表しているが、これらに限定されるものではない。この断片は、「切断プローブ」として図86A中に示されている。図86Aに示された二本鎖の存在下でインキュベートされる転写反応は、「コピー鋳型」と呼ばれる下部鎖にハイブリダイズされたときに、上流の部分プロモーターが転写を開始させる能力を試験する。同様に、図86Bに示された二本鎖の存在下で行われる反応は、開始部位に最も近接した部分プロモーター断片がコピー鋳型の転写を補助する能力を試験する。これらの部分プロモーター二本鎖はいずれも、図85Bに示されたような無傷のプロモーターからの転写の場合に見られるものと同じレベルで転写を補助することはできない点が、本発明の重要な特徴である。これらの部分プロモーターはいずれも、平均的な転写反応の時間的経過で、すなわち、約1時間以内のインキュベーションで、検出可能な転写を開始させるには十分でないことが好ましい。
図86Cおよび86Dは、転写反応中における非切断プローブの作用を試験するために設計された2つの他の二本鎖配置を示している。図86Cは、非切断プローブおよびコピー鋳型だけから形成された二本鎖を示しており、図86Dは、そのプロモーターの他の部分を示している。このプローブの3'領域は、プロモーター配列と相補的ではなく、従って、プロモーターの中央部で対を形成しない枝分れを生じる。これらの分枝プロモーター二本鎖はいずれも、図85Bに示されたような無傷のプロモーターからの転写の場合に見られるものと同じレベルで転写を補助することはできない点が、本発明の重要な特徴である。これらの分枝プロモーターはいずれも、平均的な転写反応の時間的経過で、すなわち、約1時間以内のインキュベーションで、検出可能な転写を開始させるには十分でないことが好ましい。
本発明の転写系の1実施態様において、完全なプロモーターの不存在下または分枝プロモーターの存在下でのコピー鋳型からの転写の開始は、複合プロモーター中に1つまたは複数のニックを適切に配置することにより防止される。例えば、以下の実施例に示されているように、バクテリオファージT7プロモーターの非鋳型鎖の-12と-11のヌクレオチドの間にニックを配置すると、侵入的開裂反応中にプローブがうまく切断された場合にのみ転写の開始が可能となる。しかしながら、侵入的開裂反応がプロモーターの非鋳型鎖の上流部分を提供するいくつかの場合において、最適複合プロモーターを提供すること以外の理由で(すなわち、プロモーター断片のいずれか1つが存在しないときに不活性であるプロモーターを提供するために)、この鎖上の特定の位置にニックを配置することが必要であるかまたは望ましい。枝分れした完全プロモーターが生成した場合、望ましからぬレベルの転写が起こるように、ニックを配置することが必要であるかまたは望ましいであろうが、この場合、侵入的開裂工程がうまく行われることに対するRNA生成の依存性は低下する。このような分枝プロモーターからの転写は、図86、88、90、および95D中に「部分プロモーターオリゴヌクレオチド」として示されている下流の非鋳型プロモーター断片を修飾することにより抑制できることが以下の実施例中に示されている。図90に示されているように、プロモーターの鋳型鎖とは相補的でないが、侵入的開裂反応中に取出されるプローブオリゴヌクレオチドの3'部分とは相補的であるヌクレオチドの5'「尾部」を有する部分プロモーターオリゴヌクレオチドを提供することができる。非切断プローブが、結合された5'末端付加部分プロモーターオリゴヌクレオチドを有するコピー鋳型にハイブリダイズする場合、5'尾部はプローブの3'領域と塩基対を形成し、図90Aに示されているような三方接合部を形成する。これは、以下に示されるように、転写を効果的に遮断する。図90Bに示されているように、切断プローブがハイブリダイズする場合、小さな分枝を有するプロモーターが形成されるが、このような分枝プロモーターは転写を開始できることが本明細書中に示されている。更に、5'尾部の配列を注意深く選択すれば(すなわち、第1の不対塩基が切断プローブの3'ヌクレオチドにあるヌクレオチドと同じであり、これらが同じ鋳型鎖塩基へのハイブリダイゼーションに拮抗するようにすれば)、得られる分枝構造を、本発明の構造特異的ヌクレアーゼの1つにより開裂させ、図90Cに示されているような非分枝プロモーターを形成し、ある場合には図90Bのプロモーターを用いた場合よりも転写を強化することもできる。
インベーダー指令開裂アッセイをうまく行うことにより本実施態様において形成しようと意図したプロモーター二本鎖には、図86AおよびBに示される「切断プローブ」および部分プロモーターオリゴヌクレオチドの両方が、単一のコピー鋳型核酸上に配列されて含まれる。このようなニックの入ったプロモーターセグメントの転写の効率を無傷のプロモーターと比較する試験については、上述されている。これらの試験分子に対して記載したオリゴヌクレオチドはすべて、標準的な合成化学を用いて形成することができる。
図86に示されている試験分子のセットは、プロモーターの非鋳型鎖の5'部分がインベーダー指令開裂により供給される反応において存在する可能性のある様々な構造の転写能力を評価するために設計されている。また、部分プロモーターの様々な部分(例えば、図94に示されているようなプロモーターの非鋳型鎖の下流セグメント)を侵入的開裂反応により供給することも対象とする。更に、図95A〜Dに示されているように、切断プローブによりプロモーターの鋳型鎖の部分を提供することもできる。プロモーターの鋳型鎖上にニックを配置するかまたは非鋳型鎖上にニックを配置するかにかかわらず、侵入的開裂アッセイで使用される「切断」または非切断のプローブを含む試験分子の類似のセットを形成することにより、任意の別の設計を試験することができる。
転写に基づく本発明の可視化方法は、多重方式で利用することもできる。1つの特定の標的が存在することにより、1つのタイプのプロモーターからの転写が起こり、異なる標的配列(例えば、突然変異体もしくは変異体)または存在すると推定される他の標的が存在することにより、異なる(すなわち、第2の)タイプのプロモーターからの転写が起こるように反応を構成することができる。このような実施態様において、転写が開始されたプロモーターの同一性は、生成されたRNAのタイプまたはサイズから推定することができるであろう。
例えば、バクテリオファージプロモーターは、こうした適用を行うことにより比較可能となるが、これらに限定されるものではない。ファージT7、T3、およびSP6に対するプロモーターは、極めて類似しており、それぞれ塩基対約15個〜20個の長さであり、転写の開始点を基準に-17〜-1のヌクレオチドについて約45%の同一性を有する。これらの類似性にもかからわず、これらのファージから得られたRNAポリメラーゼは、それらのコグネイトプロモーターに対してかなり特異的であり、そのため、他のプロモーターが反応中に存在したとしても、転写されないであろう[Chamberlin and Ryan (1982) The Enzymes XV:87-108]。これらのプロモーターは、サイズ、およびそれらのポリメラーゼにより認識される方法が類似しているため[Li et al. (1996) Biochem. 35:3722]、T7プロモーターを利用した本明細書に記載の実施例から類推することによって、類似のニックの入ったプロモーターを、本発明の方法で使用するために設計することができる。RNAポリメラーゼの特異性がかなり高いので、これらのニックの入ったプロモーターを一緒に使用して、単一の反応において複数の標的を検出することができる。単一のサンプル中の複数の核酸標的を検出することが極めて望ましい場合が多数存在する。例えば、複数の感染因子が存在する場合、または単一のタイプの標的の変異体を同定する必要のある場合である。この他、プローブを組合せて標的配列および内部対照配列の両方を検出し、サンプルの不純物がアッセイのアウトプットに及ぼす影響を調べることが望ましい場合も多い。複数のプロモーターを使用することにより、侵入的開裂の効率および転写のロバスト性(robustness)の両方に関して反応を評価することができる。
上述したように、本発明の方法に使用するための好適なタンパク質結合領域(例えば、複合プロモーターを形成するために使用できる領域)の例としてファージプロモーターを挙げて詳細に説明した。本発明は、特にファージRNAポリメラーゼプロモーター領域および一般にRNAポリメラーゼプロモーター領域の使用に限定されるものではない。好適な特異性を有し、良好な特性付けのなされたプロモーターは、原核生物系および真核生物系のいずれにも見られる。
侵入的開裂反応において標的核酸をうまく検出できるかに依存した方法によって生成されるRNAは、数種の方法のいずれを用いて検出してもよい。標識化されたヌクレオチドを転写の際にRNA中に組込む場合、例えば、電気泳動法またはクロマトグラフィー法による細分化の後、RNAを直接検出することができる。また、標識化されたRNAを、例えば、ハイブリダイゼーション法、抗体捕集法、またはビオチンとアビジンとの間などの親和性相互作用を介して、マイクロタイタープレート、ビーズ、またはディップスティックなどの固体支持体上に捕集してもよい。捕集することにより、導入された標識を容易に測定できるようにするか、またはプローブハイブリダイゼーション法もしくは類似の検出手段を適用する前の中間段階として利用することもできる。最大量の標識を各転写物中に組込むことが望まれる場合、コピー鋳型を非常に長く、すなわち、約3〜10キロベース程度にし、各RNA分子が多くの標識をもつようにすることが好ましい。この他、転写物中の単一の部位または制限された数の部位を特異的に標識化することが望ましいこともある。この場合、標識化されたヌクレオチドを組込むことのできる残基をただ1つまたは数個有する短いコピー鋳型をもつことが望ましいこともある。
また、特定の機能を呈するRNAを生成するようにコピー鋳型を選択してもよい。簡単な場合として、二本鎖依存性インターカレート蛍光体を使用してRNA産物を検出する場合、リボソームRNAまたはtRNAなどの二本鎖二次構造を形成することが周知のRNAを転写することが望ましいこともある。他の実施態様において、異なる物質と特異的に、すなわち、特別な親和性をもって、相互作用するようにRNAを設計してもよい。選択工程(例えば、標的物質への結合による選択工程)およびin vitro増幅工程(例えば、PCRによる増幅工程)を交互に繰り返す方法を使用して、新規で有用な性質をもつ核酸リガンドを同定できることが分かっている[Tuerk and Gold (1990) Science 249:505]。この系は、タンパク質に対して、ならびに抗生物質[Wang et al. (1996) Biochem. 35:12338]およびホルモンなどの他のタイプの分子に対して、強くかつ特異的に結合するRNA、すなわち、リガンドまたはアプタマーと呼ばれるRNA、の同定に使用されている。非Watson-Crick相互作用を介して他のRNAに結合するようなRNAを選択することさえもできる[Schmidt et al., (1996) Ann. N.Y. Acad. Sci. 782:526]。結合相手の分子の活性を低減または増大させるリガンドRNAを使用してもよい。このような方法を介して同定される任意のRNAセグメントを、本発明の方法によって生成することもでき、その結果、RNAリガンドの活性を観測することにより、侵入的開裂反応において標的物質の存在を特異的に検出することが可能となる。特定のパートナーに結合するリガンドを、固体支持体に対して読出シグナルを捕獲する他の方法として使用してもよい。
触媒機能をもつように、例えば、リボザイムとして機能するように、産物RNAを設計してもよく、こうすることにより、最初の侵入的開裂反応がうまく行われたかの指標として他の分子の開裂を利用することができる[Uhlenbeck (1987) Nature 328:596]。更に他の実施態様において、ペプチド配列をコードするRNAを調製してもよい。in vitro翻訳系(例えば、E. coliから誘導されたS-30系[Lesley (1985) Methods Mol. Biol. 37:265]またはPromegaから入手可能なウサギ網状赤血球溶解物系[Dasso and Jackson (1989) Nucleic Acids Res. 17:3129])に結合させた場合、適切なタンパク質の産生を検出できる。好ましい実施態様において、産生されるタンパク質としては、比色検出またはルミネセンス検出が可能なタンパク質、例えば、それぞれβ-ガラクトシダーゼ(lac-Z)またはルシフェラーゼが挙げられる。
上記の説明では、インベーダー指令開裂アッセイの範囲内で本発明の転写可視化方法の使用に焦点を当てた(すなわち、インベーダーアッセイで生成した非標的開裂産物を使用して、プロモーター領域などのタンパク質結合領域を完成または活性化した)。しかしながら、転写可視化方法は、この範囲内に限定されるものではない。比較的揃っている末端を有するオリゴヌクレオチド産物を生じる任意のアッセイを、本発明の転写可視化方法と組合せて使用することができる。例えば、米国特許第5,210,015号に記載の均質アッセイは、特に、重合が起こらない条件下で行われる場合、プローブの開裂の結果として短いオリゴヌクレオチド断片を生成する。このアッセイを重合が起こる条件下で行った場合、プローブの開裂部位は、プローブ内の特定の位置に非開裂結合を有するヌクレオチド類似体を使用することによって特定することができる。これらの短いオリゴヌクレオチドは、本発明の侵入的開裂反応で生成する切断プローブまたは非標的開裂産物と同じように利用することができる。好適なオリゴヌクレオチド産物を生じる他のアッセイは、当該技術分野で周知である。例えば、より短いオリゴヌクレオチドが標的配列へのハイブリダイゼーション後により長いオリゴヌクレオチドから放出される「サイクリングプローブ反応(Cycling Probe Reaction)」(Duckら, BioTech., 9:142 [1990]および米国特許第4,876,187号および第5,011,769号、これらを参照によりここに含める)のようなアッセイで生成される非標的開裂生成物は、プローブが相応の制限認識配列にうまくハイブリダイズしたときに開裂されるように設計されているアッセイ(米国特許第4,683,194号、これを参照によりここに含める)で放出される短い制限断片と同様に、好ましいだろう。
「不規則な(ragged)」(すなわち、揃っていない)3'末端を有する短いオリゴヌクレオチドを生成するアッセイを、本発明の転写反応にうまく利用することもできるが、この場合、この非転写反応により生成したオリゴヌクレオチドは、プロモーター領域を完成するのに必要な他のオリゴヌクレオチドの下流に位置するプロモーター領域の部分を提供するために使用される(すなわち、図94および95Aで「切断プローブ」を使用したときと同じようにオリゴを使用した場合、3'尾部または不対延長部が許容できる)。
IX.侵入的(invasive)開裂反応産物を次の侵入的開裂反応へ導入することによるシグナル増強
上記のように、侵入的開裂によって放出されたオリゴヌクレオチド産物は、開裂産物のサイズの範囲のオリゴヌクレオチドを用いるあらゆる反応又は解読(read-out)方法において続けて使用できる。前記のプライマー伸張及び転写を含む反応に加えて、オリゴヌクレオチドを使用するもう1つの酵素反応は、侵入的開裂反応である。本発明は、第2の侵入的開裂反応を可能にする開裂構造体を完成させる構成要素として、第1の侵入的開裂反応で放出されたオリゴヌクレオチドを使用する手段を提供する。第2の開裂構造体に構成要素を供給する第1の開裂反応の1つの可能なコンフィギュレーション(configuration)を、図96に図解する。侵入的開裂産物の連続的使用が単一の追加工程に限定されることは意図していない。多くの異なる侵入的開裂反応を次々に行うことを意図している。
ポリメラーゼ連鎖反応は、対数的な蓄積率で核酸の標的セグメントのコピーを生成するDNA複製方法を使用する。これは、DNA鎖が分離したときに、個々の鎖が新たな相補鎖を形成させるのに十分な情報を含んでいるという事実によって可能になる。この新たな鎖が合成されると、同一分子の数が二倍になる。このプロセスの20反復以内で、オリジナルは100万倍にコピーされ、非常に稀な配列を容易に検出可能にする。二重化反応の数学的効力(mathematical power)は、数多くの増幅アッセイにとりいれられており、そのうちの幾つかを表1に引用している。
複数の連続的侵入的開裂反応を実行することによって、本発明の方法は、標的分析物のさらなるコピーの生産なしに、指数的な数学的利点を獲得する。単純な侵入的開裂反応において、収量、Yは、単に、繰返し速度(turnover rate)、Kに、反応時間、tをかけたものである(すなわち、Y=(K)(t))。Yを単純な反応の収量を表すために用いる場合には、個々の侵入的開裂工程のそれぞれが同じ繰返し速度を有すると考えると、化合物の収量(すなわち、複合的な連続反応)は、Ynとして単純に表され、ここで、nは、連続して(in the series)行われた侵入的開裂反応の数である。もし各工程の収量が異なっているならば、最終的な収量は、連続したそれぞれ個々の反応の収量を掛け合せたもので表すことができる。例えば、第1の侵入的開裂反応が30分で1,000の産物を生産し、それらの産物のそれぞれが、同様に1,000のさらなる反応に関与できるならば、第2の反応において1,0002コピー(1,000×1,000)の最終産物が存在するだろう。もし、第3の反応がこの連続反応に加われば、その時は理論上の収量は、1,0003(1,000×1,000×1,000)になるだろう。本発明の方法では、指数は、カスケード中の侵入的開裂反応の数に由来する。これは、Yが二本鎖DNA中の鎖の数である2に限定され、指数、nは行われたサイクルの数であり、それゆえ多量の産物の蓄積に多くの反復が必要である上記の増幅方法(例えば、PCR)とは対照的である。
上記の指数的増幅を本発明のものから区別するには、反応産物が同じ反応にフィードバックされる(例えば、イベント1が幾つかの数のイベント2を導き、各イベント2が幾つかの数のイベント1を導く)ことから前者は繰り返し(reciprocating)反応であると考えることができる。これに対し、本発明のイベントは、連続的である(例えば、イベント1が幾つかの数のイベント2を導き;各イベント2が幾つかの数のイベント3を導く等であり、そして連鎖の中のより早いイベントに寄与するイベントはない。)。
繰り返し反応の感受性も、標的核酸配列がサンプル中に存在するか否かを決定するためにこれらのアッセイが用いられる場合、最大の弱点(greatest weakness)の1つである。これらの反応の産物は、出発物質の検出可能なコピーなので、より早い段階の反応の産物による新たな反応の汚染(contamination)が誤った陽性の結果を導く(すなわち、その標的分析物を実際には含まないサンプル中の標的核酸の明かな検出)。さらに、それぞれの陽性反応物中の産物の濃度が非常に高いので、強い誤った陽性シグナルを作り出すのに充分なDNA量が、汚染された器具との接触又はエアロゾル(aerosol)のいずれかによって非常に容易に新たな反応に伝搬する。繰り返し法と比較して、連続反応の最も濃縮された産物(すなわち、最終の侵入的開裂イベントにおいて放出された産物)は、新規な試験サンプルに引き継がれるならば、同様の反応又はカスケードを開始させることはできない。本発明の反応は、あらゆる繰り返し反応で要求されるコストの嵩む抑制的な(containment)調整(arrangements)(例えば、特別の器具又は別の実験室スペースのいずれかによる)なしに実行できるので、これは上記の指数的増幅方法に対し顕著な利点である。最後から2番目のイベントの産物は、不注意にも移動されて、標的分析物の不存在下で最終産物のバックグラウンドを生じさせる(produce)こともあろうが、誤った陽性結果と同等のリスクを与えるためには非常に多量の汚染が必要であろう。
「連続」という用語が使われるときは、本発明を、1つの侵入的開裂反応又はアッセイが、異なるプローブの侵入的開裂のための次の反応の開始の前に完結されていなければならないコンフィギュレーションに限定することを意図するものではない。むしろ、この用語は、もし各ヌクレオチド種のたった1つのコピーがアッセイで使用されるならば起きるであろうイベントの順序(order)を指す。第1の侵入的開裂反応は、標的核酸上の開裂構造体の形成に応答して最初に起きる反応を指す。次の反応は、第2、第3等を指し、開裂構造体の組み立てを助けるためだけに働き、目的の核酸分析物には関係しない人工的な「標的」鎖を含んでいてもよい。所望ならば、完全アッセイは空間的(例えば、異なる反応容器中で)又は時間的(例えば、温度、酵素の種類又は溶液条件などの反応条件を変化させ、開裂イベントを遅らせることができる)のいずれかで分離された侵入的開裂の各工程によって構成されていてもよい一方、反応成分の全てが混合されて、第2の反応が、第1の開裂からの産物が利用可能になるとすぐに開始されることも意図している。そのような構成では、開裂構造体の異なるコピーを含む第1、第2及び続いて起こる開裂イベントは、同時に起きてもよい。
開裂の各連続ラウンドが、続いて起こるラウンドの異なるプローブの開裂に関与できるオリゴヌクレオチドを生成する、この種の線状増幅の幾つかのレベルは予想され得る(envisioned)。第1反応は目的の分析物に特異的であり、第2(及び第3等)反応はシグナルを発生するのに使われるが、開始に関してはまだ第1反応に依存している。
放出された産物は、続いて起こる反応において幾つかのキャパシティー(capacities)で機能する(perform)。1つの可能な変形(variations)を、図96に示す。図96では、1つの侵入的開裂反応の産物がインベーダー(Invader)(商標)オリゴヌクレオチドになり、第2反応において、もう1つのプローブの特異的開裂を導く。図96では、第1の侵入的開裂構造体は、インベーダー(商標)オリゴヌクレオチド(「インベーダー(Invader)」)及びプローブ・オリゴヌクレオチド(「プローブ1」)の第1の標的核酸(「標的1」)に対するアニーリングによって形成される。標的核酸は、(上記で考察し、図25に示したように)標的にハイブリダイズできるインベーダー(商標)及びプローブ・オリゴヌクレオチドの部位に基づいて3つの領域に分割される。標的の領域1(図25中の領域Y)は、インベーダー(商標)オリゴヌクレオチドのみに相補性を有し;標的の領域3(図25中の領域Z)は、プローブにのみ相補性を有し;そして標的の領域2(図25の領域X)は、インベーダー(商標)及びプローブ・オリゴヌクレオチドの両方に相補性を有する。図96に図解されている連続侵入的開裂反応は、インベーダー(商標)及びプローブ・オリゴヌクレオチドを使用することに注意すべきであり;連続開裂反応は、そのような第1の開裂構造体の使用に限定されない。連続反応における第1の開裂構造体もまた、上記セクションVで考察したように、インベーダー(商標)オリゴヌクレオチド、微小(mini)プローブ及び積み重ね(stacker)オリゴヌクレオチドを使用する。
図96では、プローブ1の開裂は、「切断プローブ(Cut Probe)1」(図96中の開裂及び未開裂の両方のプローブ1中の影付きの線(hatched line)によって示されている)を放出する。そして、放出されたプローブ1は、第2開裂においてインベーダー(商標)オリゴヌクレオチドとして使用される。第2開裂構造体は、切断プローブ1、第2プローブ・オリゴヌクレオチド(「プローブ2」)及び第2標的核酸(「標的2」)のアニーリングによって形成される。プローブ2は、標識されていてもよく(図96中の☆印によって示されている)、第2開裂構造体の開裂の検出は、標識された切断プローブ2の検出によって達成され;標識は、放射性同位体(例えば、32P、35S)、蛍光体(fluorophore)(例えば、フルオレセイン)、第2の試薬によって検出し得る反応基(例えば、ビオチン/ストレプトアビジン)、(上記セクションIVで考察したような)選択的電荷反転(reversal)によって検出される陽性帯電されたアダクトなどであってよい。あるいは、切断プローブ2は、(前記セクションVIで考察したような)テーリング(tailing)反応に使用してもよいし、(前記セクションVIIIで考察したような)タンパク質結合部位を完成又は活性化するのに使用してもよい。
連続的な侵入的開裂反応を実施するためのもう1つの可能なコンフィギュレーションを、図97に図解する。この場合、第1反応で開裂されるプローブ・オリゴヌクレオチドは、それら自身の上に折り返す(fold back)(すなわち、それらが自己相補的な領域を含む)ようにデザインし、標的及びインベーダー(商標)オリゴヌクレオチドの両者として働く分子(ここでは、「IT」複合体と呼ぶ)を生成させることができる。そして、IT複合体により、第2反応中に存在する異なるプローブの開裂が可能となる。第2プローブ分子(「プローブ2」)を過剰に含むことにより、各IT分子は、開裂された第2プローブの複数のコピーの生成のためのプラットフォームとして働くことができる。図97中では、インベーダー(商標)オリゴヌクレオチドの5'部分に含まれる自己相補的な領域は、影付きの楕円によって示されており;これらの2つの楕円の間の矢印は、(「切断プローブ1」で示したように)これら2つの領域が自己対(self-pair)であることを示す。標的核酸は、標的にハイブリダイズできるインベーダー(商標)及びプローブ・オリゴヌクレオチドの部分に基づいて3つの領域に分割される(上記で考察したように、もし積み重ねオリゴヌクレオチドが使用されるならば、標的は4つの領域に分割されることに注意すべきである)。第2開裂構造体は、第2プローブ(「プローブ2」)の、第1開裂構造体の開裂によって放出されたプローブ1の断片(「切断プローブ1」)へのアニーリングによって形成される。切断プローブ1は、切断プローブ1内に含まれる自己相補的な領域のアニーリングによって、その3'末端の近くにヘアピン又はシュテム・ループ構造を形成する(この自己アニーリングされた切断プローブ1は、IT複合体を形成する)。IT複合体(切断プローブ1)は、3つの領域に分割される。IT複合体の領域1は、プローブ2の3'部分に相補性を有し;領域2は切断プローブ1の3'末端及び(図25に示されるオーバーラップ「X」の領域に相同な)プローブ2の5'部分の両者に相補性を有し;領域3は、自己相補的な領域を含む(すなわち、領域3は、切断プローブ1の3'部分に相補的である)。IT複合体(すなわち、切断プローブ1)に関して、領域1は領域2の上流に位置し、領域2は領域3の上流に位置する。
第2の侵入的開裂反応の開裂産物(すなわち、切断プローブ2)は検出することもできるが、第3プローブ分子と共に使用され、直ぐ前の標的には再び関係しない、さらに別の一体化したインベーダー(商標)−標的複合体を構成するように同様にデザインすることもできる。
本発明は、図96及び97に図解されているコンフィギュレーションに限定されない。第1開裂反応のオリゴヌクレオチド産物は、本明細書に記載されたオリゴヌクレオチドのいずれの役割をも果たし(例えば、インベーダー(商標)オリゴヌクレオチド様配列を付着させずに標的鎖として働くか、又は上記のように折り畳みオリゴヌクレオチドとして働く)、同軸の積み重ねによるプローブ・ハイブリダイゼーションの安定化によって第2反応で見られる繰返し速度を増強し得ることが予測される。
好ましい実施形態では、それぞれの続いて起こる反応は、前の開裂産物によって可能になり(すなわち、該産物に依存し)、最終産物の存在が標的分析物の存在の指標として役立つ。しかしながら、第2反応での開裂は、第1開裂反応の産物の存在に依存する必要はなく;第1開裂反応の産物は、単に第2開裂反応の速度をある程度増強するに過ぎなくてもよい。
まとめると、本発明のインベーダー(商標)アッセイ・カスケード(すなわち、連続的侵入的開裂反応)は、持ち越しの(carryover)汚染による顕著なリスクのない、指数的速度で最終産物を蓄積させる2つ以上の線状アッセイの組合せである。
本発明の連続的な侵入的開裂増幅は、あらゆる検出方法(例えば、標準又は電荷反転のいずれかによるゲル系分析)、本明細書に記載されたポリメラーゼ・テーリング及びタンパク質結合領域への導入を促進する(boost)中間体として使用できる。このような組合せを用いた場合、侵入的開裂アッセイ中の特定の開裂産物の生産の増加は、解読シシュテムの感度及び特異性の負荷(burdens)を減らし、それによってそれらの使用を促進する。
種々の検出プラットフォームを可能にするのに加えて、カスケード戦略は、単一反応中での個々の分析物(すなわち、個々の標的核酸)の複合分析に好適である。複合構成は、2つのタイプに分けられる。1つは、臨床サンプル中に存在し得る各分析物の正体(及び量)か、又は各分析物及び内部対照の正体を知るのに望ましい。単一サンプル中の複数の個々の分析物の存在を同定するためには、幾つかの異なる第2増幅シシュテムを含めることができる。特定の標的配列(又は内部対照)の存在に応答して開裂される各プローブは、DNAポリメラーゼによって伸張される異なる配列又はFET形式の異なる染料などの、異なる検出可能な残基に結合された、異なるカスケードの引き金を引くようにデザインできる。特定の各標的配列の最終産物に対する寄与は、それによって一致させることができ、異なる遺伝子又は遺伝子/対立遺伝子の混合物を含むサンプル中の対立遺伝子の定量的な検出を可能にする。
第2のコンフィギュレーションでは、それぞれの正確な同定は必要ではないが、幾つもの分析物のうちのいずれかがサンプル中に存在するか否かを決定することが望ましい。例えば、血液バンクの運営において、伝染性の要因(infectious agents)の宿主のうちのいずれか1つが血液サンプル中に存在するか否かを知るのに望ましい。血液は、どの要因が存在するかに関係なく捨てられるので、プローブ上の異なるシグナルは、本発明のこのような適用には要求されず、現実には、秘密性の理由から望ましくない。この場合、異なる分析物に特異的なプローブの5'アーム(arms)(すなわち、開裂時に放出される5'部分)は、同一であり、従って同じ第2シグナル・カスケードの引き金を引く。類似のコンフィギュレーションは、単一遺伝子に相補的な複数のプローブが、その遺伝子からの信号を増進する(boost)か、又は検出されるべき遺伝子に多数の対立遺伝子が存在するときには、包括性(inclusivity)を保証するのに用いることを可能にする。
第1インベーダー(商標)反応においては、2つのバックグラウンドの潜在的な源がある。第1は、標的、それ自身又は反応物中に存在する他のオリゴヌクレオチドの1つにアニーリングされたプローブのインベーダー(商標)−非依存開裂由来のものである。図96及び97を考慮すると、示されている第1開裂反応のプローブが、続いて起こる反応中に含まれる他のオリゴヌクレオチドに、そして図97に示されているように、同じ分子の他の領域に相補的な領域を有するようにデザインされていることが理解できる。このため、プライマーを欠いている構造体を効率的に開裂できない(例えば、図16A又は16Dに示されている構造体を開裂できない)酵素の使用が好ましい。図99及び100に示すように、酵素Pfu FEN-1は、上流のオリゴヌクレオチドの不在下では検出可能な開裂を与えないし、上流のオリゴヌクレオチドが存在していても、それがプローブ−標的複合体に侵入しない場合には検出可能な開裂を与えない。これは、Pfu FEN-1エンドヌクレアーゼが、本発明の方法に用いるのに適した酵素であることを示している。
他の構造特異的ヌクレアーゼは、同様に適している。最初の例で考察したように、幾つかの5'ヌクレアーゼは、このプライマー−非依存性開裂を顕著に低減する条件で使用できる。例えば、DNAPTaqの5'ヌクレアーゼがヘアピンを開裂するのに使用される場合は、プライマー−非依存性開裂は、反応物中の1価の塩の包含によって顕著に低減されることが示されている(Lyamichevら、(1993), 上掲)。
インベーダー(商標)オリゴヌクレオチド−非依存性開裂の試験
酵素と反応バッファーとのあらゆる組合せにおいて、それらの組合せから期待されるインベーダー(商標)オリゴヌクレオチド−非依存性開裂の量を測定するために簡単な試験を行うことができる。3'アームにハイブリダイズするプライマーと共に又はそれ無しで使用できる、小さなヘアピン様試験分子、S-60分子を、図30に示す。S-60及びオリゴヌクレオチドP15は、本発明の適用への酵素の適性を試験するのに便利な分子のセットであり、これらの分子を使用する条件を実施例11に記載する。図99a-eに描かれているように別々のオリゴヌクレオチドから組み立てられる開裂構造を有する他の類似のヘアピンを用いてもよい。これらの構造体を使用して上流の、オーバーラップするオリゴヌクレオチドの存在下又は不存在下でのPfu FEN-1酵素の活性を試験するための反応を、実施例45に記載し、その結果を図100に示す。酵素及び開裂条件のあらゆる特定の組合せを試験するために、類似の反応を組み立てることができる。あらゆる特定の酵素について試験される反応条件の変動(例えば、塩感受性、2価陽イオン要求)の外に、試験反応は、公知のあらゆる試験酵素の制限に適合する。例えば、試験反応は、もし知られているならば、候補の酵素の機能する温度範囲内の温度で行われるべきである。
オーバーラップの複数の長さを、それぞれの候補の酵素について実証する必要はないが、(図99aに示されるように)上流のオリゴヌクレオチドの不存在下、及びオーバーラップしないオリゴヌクレオチド(図99b)の存在下での酵素活性は評価されるべきである。上流のオリゴヌクレオチドを欠く構造体が、上流のオーバーラップするオリゴヌクレオチドの存在下で見られる速度の半分未満の速度で開裂されることが好ましい。これらの構造体は、侵入的開裂構造体の約1/10未満の速度で開裂されることがより好ましい。これらの構造体の開裂が侵入的開裂構造体の速度の1%未満の速度で起きることが最も好ましい。
もし開裂産物が、図96に図解されているように、続いて起こる開裂反応において上流のオリゴヌクレオチドとして働くならば、もっとも速い反応は、第2開裂構造体の他の成分(すなわち、図96中の標的2及びプローブ2)が過剰に供給され、開裂が上流のオリゴヌクレオチド(すなわち、図96中の切断プローブ1)が利用可能になると直ちに進行する場合に達成される。第2標的鎖(図96中の標的2)を大量に供給するには、バクテリオファージM13 DNAなどの単離された天然の核酸を使用するか、又は合成オリゴヌクレオチドを使用することができる。第2標的配列として合成オリゴヌクレオチドを選択した場合、使用される配列は、自己相補的な領域について試験されなければならない(同様の考慮が制限酵素断片又はPCR産物などの短い単離された天然の核酸にも適用され;その3'末端が標的鎖上のプローブ結合部位の>100ヌクレオチド下流に位置する天然の核酸標的は、下記で考察するデザイン的考慮を除去するのに十分な長さである)。特に、合成オリゴヌクレオチドの3'末端がプローブの上流の標的鎖にハイブリダイズせず(すなわち、鎖内ハイブリダイゼーション)、意図しない開裂の引き金を引かないことを確かめなければならない。合成オリゴヌクレオチドの配列の単純な試験により、3'末端が、問題となるプローブ結合部位の標的の上流領域に十分な相補性を有しているか否かを明らかにするべきである(すなわち、それは、合成オリゴヌクレオチドがその3'末端でヘアピンを形成でき、侵入するオリゴヌクレオチドとして働き、意図したインベーダー(商標)オリゴヌクレオチド(すなわち、第1の侵入的開裂反応由来の開裂産物)のハイブリダイゼーションの不存在下にプローブの開裂を引き起こすか否かを明らかにする)。合成標的の最後の4〜7個のヌクレオチド(3'末端領域)の3個以上が、プローブの上流で塩基対を形成し、プローブ−標的二本鎖中への侵入があるか、又はそれ自身の3'末端領域及びプローブと共に合成標的によって形成された二本鎖が、ギャップなしで隣接し、そして、3'末端領域は、合成標的の最先端の3'末端で1又は2個の対を形成していない追加のヌクレオチドを有するならば、そのときは、合成標的オリゴヌクレオチドの配列は、修飾されるべきである。配列は、3'末端領域の相互作用を崩壊させるか、又はプローブ結合部位と、3'末端が結合する領域との距離を増すために変更してもよい。あるいは、3'末端は、開裂に向かわせるその能力を低減するために(例えば、合成の間の3'リン酸塩の添加によって)(実施例35、表3参照)、又は自己相補的に塩基対を形成しない幾つかの追加のヌクレオチド(すなわち、それらは、ヘアピン構造の形成に関与しない)の添加によって修飾されてもよい。
第1の侵入的開裂反応の産物が、それ自身の上に折り畳まれて第2プローブ、図97に図解されているIT複合体、の開裂に導く標的を形成するようにデザインされる場合、IT複合体のシュテム/ループを形成するために使用される配列のデザインが考慮されなければならない。そのようなプローブのデザイン中の因子は、1) 自己相補的な領域の長さ、2) オーバーラップ領域の長さ(図25中の領域「X」)及び3) Watson-Crick塩基対及び特別に安定なループ配列[例えば、テトラループ(tetraloop)(Tinocoら、前掲)、又はトリループ(triloop)(Hiraoら、前掲)]の存在又は不存在によって予測されるようなヘアピン又はシュテム/ループ構造の安定性である。この配列が、塩基対(鎖内)を形成し、侵入的開裂の第2ラウンドが起きるが、その構造体(すなわち、図96中のプローブ1)はそれ程強くないので、その存在が第1反応中でプローブの開裂を阻害する、ヌクレオチドを有することが望ましい。本明細書で示すように、構造特異的ヌクレアーゼによって開裂された開裂構造体の5'アーム中の第2構造体の存在は、幾つかの構造特異的ヌクレアーゼによる開裂を阻害する(実施例1)。
プローブ1内の自己相補的な領域の長さは、第2開裂構造体中のプローブ2の上流の二本鎖領域の長さを決定する(図97参照)。酵素が異なれば、この二本鎖が侵入的開裂効率を達成するために異なる長さが要求される。例えば、Pfu FEN-1及びMja FEN-1酵素は、図98で示される標的/インベーダー(商標)オリゴヌクレオチド分子のセットを用いてこの二本鎖の長さの効果を試験した(すなわち、配列番号118、119、147-151参照)。侵入的開裂反応は、1 pM IT3(配列番号118)、2μMプローブPR1(配列番号119)を用いて実施例38に記載したように5分間行い、開裂速度を表2に示す。
表2に示されたデータは、Pfu FEN-1酵素が3又は4個の塩基からなるシュテムと共に使用できるが、開裂速度は、シュテムの長さが4塩基対より長いときに最高となることを示している。表2は、Mja FEN-1酵素がより短いシュテムを用いて効率よく開裂できることを示しているが;しかし、この酵素も上流のオリゴヌクレオチドの不存在下にプローブを開裂できるので、Mja FEN-1は、本発明の方法での使用は好ましくない。
どの位の自己相補性をプローブ1にデザインするかを決定するために、あらゆる候補の酵素を用いて類似の試験を行った。より短いシュテムの使用は、全体のプローブがより短くてもよいことを意味する。これは、より短いプローブはより低いコストで合成でき、そしてより短いプローブは、意図しない鎖内構造体を形成する配列をより少なく有するので、有利である。図98に示されているような構造体への候補の酵素の活性の評価において、選択されたシュテムの長さは、開裂が起きる最高速度をもたらすことを要求されない。例えば、Pfu FEN-1の場合を考えてみると、4塩基対のシュテムを使用することの利点(例えば、コスト又は配列制限)は、10開裂/分の開裂速度によって、特定の実験に関する、より長い6塩基対のシュテムの使用による速度(44開裂/分)の利点に勝る。もし準最適な(sub-optimal)デザインの使用が、全体としてその特定の実験の目的に有益ならば、アッセイでの使用のために選択される幾つかの要素(elements)が、その特別な要素の能力にとって準最適であることは、本発明の範囲内である。
一度開裂されて、図97で図解されるシュテムループ構造体(すなわち、図97中のプローブ1)を形成するプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドのデザインにおいて、ループの安定性が、プローブ1又はプローブ2のいずれかの開裂の効率におけるファクターではないことが見出された。試験されたループは、安定なトリループ、特に安定であるとは予測されなかった3及び4個のヌクレオチド(すなわち、安定性は、二本鎖の配列によって決定されるが、ループ内の追加の安定化相互作用によっては決定されない)及び約25個までのヌクレオチドの大きなループを含んでいた。
X.侵入的開裂(Invasive Cleavage)によるヒトサイトメガロウイルスのウイルスDNAの検出
ヒト・サイトメガロウイルス(HCMV)は、ヒトにおいて広く多様な疾患を引き起こすか又は関係している(表3)。骨髄又は腎臓移植を受けた人(免疫的妥協宿主(immunocompromised host))の90%超で、HCMV感染が起こり、そのうちの殆どが、免疫抑制剤による潜伏ウイルスの再活性化、及び潜在的に感染した受容体組織又は血液によるウイルスの伝染によるものである(Ackermanら、Transplant. Proc., 20(S1):468 (1988);及びPetersonら、Medicine 59:283 (1980))。
HCMV疾患の迅速で、高感度で、特異的な診断が急務である例がある。近年、臓器及び組織移植された患者の数は顕著に増加した。HCMVは、免疫的に妥協した移植を受けた人の死亡を最もしばしば引き起こし、それによって迅速且つ信頼できる実験室診断法の必要性が確認される。リンパ球、単球及び可能な動脈内皮又は平滑筋細胞は、HCMV潜伏部位である。従って、免疫的妥協個体(例えば、移植を受けた人)でのHCMV感染の予防は、HCMV−陰性血液製剤及び臓器の使用を含む。さらに、HCMVは、経胎盤的に広がり、そして出産の間に感染した子宮頸管部の分泌物との接触によって新生児に広がる。このように、体液又は分泌物中のHCMVを検出するための迅速で、好感度で、特異的なアッセイが、感染のモニタリング、そしてその結果として、帝王切開の必要性を決定する手段として所望されている。
HCMV感染の診断は、ヒト線維芽細胞を用いた従来の細胞培養;モノクローナル抗体及び免疫蛍光染色法を利用するシェルバイアル遠心(shell vial centrifugation)培養;血清学的方法;抹消血白血球中のHCMV抗原を検出するためのモノクローナル抗体を使用するHCMV抗原血症アッセイ;又は核酸ハイブリダイゼーションアッセイによって行われる。これらの多様な方法は、それらの利点と限界を有する。従来の細胞培養は、高感度だけれども、細胞変性効果(CPE)が起きるのに30日以上を要するために遅い。シェルバイアル遠心は、より迅速であるが、最初の結果が得られるまでに未だ24-48時間を要する。両培養方法は、抗ウイルス治療に影響される。免疫的妥協患者では、HCMV感染に応答するIgG及び/又はIgM抗体が増加する能力が損なわれており、血清学的方法は、このようにこの設定においては信頼性がない。あるいは、IgM抗体は、感染が解消した後数ヶ月の間持続するかもしれないので、それらの存在は、活性な感染を示していないかも知れない。HCMV抗原血症アッセイは、労働集約的であり且つPBLs以外の検体に適用できない。
分子生物学における最近の進歩は、臨床検体中のHCMV検出のための、より迅速で、高感度で、特異的なアッセイの提供する試みにおいてDNAプローブの利用を促してきた。例えば、放射標識されたDNAプローブは、HCMVによって感染された、又はHCMVを含むと疑われる臨床サンプル中の組織培養物とハイブリダイズするのに使用されてきた(「ハイブリダイゼーション・アッセイ)。しかしながら、組織培養物のプローブ化(probing)は、もし存在すれば、検出される抗原(HCMV)を増幅するための育成に少なくとも18-24時間を要し、そしてオートラジオグラフィー検出システムの開発にさらに時間を要する。HCMVの臨床検体をアッセイするためにハイブリダイゼーション・アッセイを使用すると、ウイルスの力価及びアッセイされる臨床サンプルに依存するため、感度が不足する。臨床サンプル中のHCMVの検出は、酵素的にHCMVのDNAを増幅するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて報告された。PCRを用いる方法は、ウイルス単離、in situハイブリダイゼーションアッセイ及びサザンブロッティングとよく比較されている。例えば、Bamborschkeら、J. Neurol., 239:205 (1992);Drouetら、J. Virol. Meth., 45:259 (1993);Einseleら、Blood 77:1104-1110 (1991);Einseleら、Lancet 338:1170 (1991);Leeら、Aust. NZ J. Med., 22:249 (1992);Millerら、J. Clin. Microbiol., 32:5 (1994);Rowleyら、Transplant. 51:1028 (1991);Spectorら、J. Clin. Microbiol., 30:2359 (1992);及びStanierら、Mol. Cell. Probes 8:51 (1992)を参照。その他、HCMV抗原血症アッセイとPCR法との比較は、PCRが、HCMVの検出において、効率的な又は僅かに、より効率的な方法であることが見出された(van Dorpら、(1992) Transplant. 54:661;Gernaら、(1991) J. Infect. Dis. 164:488;Vleigerら、(1992) Bone Marrow Transplant. 9:247;Zipetoら、(1992) J. Clin. Microbiol. 30:527)。さらに、PBL以外の検体をアッセイすると、PCR法は高い感受性を示した(Natoriら、感染症学雑誌67:1011 (1993);Petersonら、Medicine 59:283 (1980);Proschら、J. Med. Virol. 38:246 (1992);Ratnamohanら、J. Med. Virol. 38:252 (1992))。しかしながら、誤った陽性反応の危険のため、これらのPCRを基礎とした手順は、汚染及びキャリーオーバー(carry over)を防ぐために厳密なコントロールを必要とする(Ehrlichら、感染疾患におけるPCRを基礎とする診断法(PCR-Based Diagnostics in Infectious Diseases)中、Ehrlich及びGreenberg編集、Blackwell Scientific Publications, (1994), pp.3-18)。従って、他のサンプルから引き継がれる反応生成物による汚染によってもたらされる誤った陽性結果のリスクが低減された、HCMVのための迅速で、高感度で、特異的なアッセイの必要性が存在する。
本明細書で示したように、インベーダーTM開裂アッセイは、迅速で、高感度で、特異的である。蓄積された生成物がシグナルのさらなる蓄積に関与しないので、1つの標準(すなわち、非連続的)インベーダーTM指令開裂アッセイからもう1つに引き継がれる反応生成物は、誤った陽性結果を促進できない。複合的な連続インベーダーTM指令開裂アッセイの使用は、これらの利点を犠牲にすることなくHCMV検出の感度をさらに高めるだろう。
XI.シグナル上のアレスター(Arrestor)TMオリゴヌクレオチドの効果及び連続的な侵入的開裂反応のバックグラウンド
上記及び実施例36で示したように、開裂されるプローブの濃縮は、より高い最終シグナルを発生するプローブのより高い濃度によって、シグナル蓄積の速度を増加させるために使用できる。しかしながら、大量の開裂されずに残ったプローブの存在は、検出又はさらなる増幅のための開裂生成物の引き続く使用の問題を提起し得る。もし次の工程が単なる検出(例えば、ゲル解析による)であるなら、過剰の未切断物質は、シグナルのストリーキング(streaking)又は散乱によって、あるいは検出器の限界を超過することによって(例えば、放射活性の場合のフィルムの過曝露、又は蛍光イメージャーの量的検出限界の超過)、バックグラウンドを生じ得る。これは、未切断プローブから生成物を分画することによって克服可能である(例えば、実施例22に記載した電荷反転法を用いて)。
より複雑な検出法では、開裂生成物は、開裂を示すもう1つの物質と相互作用することを意図していてもよい。上記で述べたように、開裂生成物は、ハイブリダイゼーション、プライマー伸張、ライゲーション又は侵入的開裂の方向付けなどのオリゴヌクレオチドを利用する幾つかの反応で使用できる。これらの場合のそれぞれにおいて、残存する未切断プローブの運命は、反応のデザインにおいて考慮されねばならない。プライマー伸張反応においては、未切断プローブは、伸張のための鋳型にハイブリダイズすることができる。開裂が伸張のための正しい3'末端を表わすために必要とされるなら、ハイブリダイズされた未切断プローブは、伸張されないだろう。しかしながら、それは鋳型に対して開裂生成物と競合するだろう。鋳型が、開裂及び未開裂プローブの組合せより多いならば、そのときは、後者の両方は結合するための鋳型のコピーを見つけることができるべきであろう。しかしながら、鋳型が限られているならば、競合は、利用可能な鋳型を見出し、好結果に結合できる開裂プローブの割合を低減させる。大過剰のプローブが開始反応を始めるのに使用されるならば、その残りはまた開裂生成物よりも大過剰であり、それ故、非常に有効な競合者を提供し、それによって最終の検出のための最終反応(例えば、伸長)生成物の量を低減する。
未切断プローブ物質の第2反応への関与も、これらの反応のバックグラウンドに寄与できる。続く反応のための開裂プローブの存在は次の工程で使用される酵素の理想的な基質を代表する一方、幾つかの酵素も、例え不十分であっても、同様に未切断プローブに従って行動し得る。ニックの一方の側が付加的な不対ヌクレオチド(この実施例で、「分岐状プロモーター」と命名された)を有する場合でさえ、転写がニックを入れられたプロモーターから促進され得ることは、実施例43で示した。同様に、続いて起こる反応が侵入的開裂構造体であるべき場合、未開裂プローブは、開裂プローブによって第2開裂構造体を形成することを意図している成分に結合し得る。2つの可能な形を、図105及び106に概略的に示す。各図中の第2工程の右手構造体は、第2反応成分(例えば、第2標的及び/又はプローブ)及び未開裂第1プローブによって形成される可能な形を示す。これらの各場合において、本明細書中に記載された5'ヌクレアーゼは、これらの不完全な構造体の幾つかの開裂手段に影響を与えることができる。低いレベルでさえも、この異常な開裂は、陽性の標的特異的開裂シグナルと誤解され得る。
過剰な未切断プローブのこれらの負の効果を考慮すると、これらの相互作用を防止する幾つかの方法が明らかに必要である。上記で述べたうように、伝統的な方法によって第1反応後に未切断プローブから開裂生成物を分離することが可能である。しかしながら、これらの方法は、しばしば時間がかかり、高価であり(例えば、使い捨てカラム、ゲル等)、サンプルの誤った取扱い又は汚染のリスクを増加させ得る。オリジナルサンプルを続いて起こる反応のための新たな容器に移す必要がないように、続いて起こる反応を構成することが、はるかに好ましい。
本発明は、第1プローブと幾つかの続いて起こる反応物との間の相互作用を低減する方法を提供する。この方法は、続いて起こる反応への参加から未開裂プローブを特異的に転換する手段を提供する。転換は、未開裂第1プローブと特異的に相互作用するようにデザインされた試薬を次の反応工程に包含させることによって達成される。侵入的開裂反応中の第1プローブが便宜のために考察される一方、アレスターTMが、アッセイのデザインに必要又は望まれる、侵入的開裂工程のチェーン内の幾つかの反応工程で使用できることを意図している。本発明のアレスターTMは幾つかの特別な工程に限定されることは意図していない。
第1反応から残存する未切断プローブを分離する方法は、開裂プローブよりも高い親和性で未開裂プローブ分子に結合するように特別にデザインされ得るか、又は選択され得る試薬を使用し、それによって未切断プローブが大過剰で存在している場合であっても、開裂プローブ種を、続いて起こる反応の要素と効果的に競合させる。これらの試薬は、第1プローブが後の反応に参加するのを止める又は進行を止めるそれらの機能によって、「アレスター(Arrestors)TM」と命名された。下記の種々の実施例において、オリゴヌクレオチドは、侵入的開裂アッセイにおいてアレスターTMとして提供される。全長の未切断プローブと開裂プローブとの間を区別でき、未開裂プローブと優先的に結合できるか、又は結合できなくする幾つかの分子又は化学薬品が、本発明の意味の範囲内でアレスターTMとして働くように構成されていることが理解され得る。例えば、抗体は、in vitro増幅の複合工程(例えば、「セレックス(SELEX)」、米国特許第5,270,163号及び5,567,588号;参照によって本明細書に組み入れられる)及び捕獲又は他の選択手段の特定のラウンドによって選択され得る「アプタマー(aptamers)」であり得るような、特異性によって誘導され得る。
1つの実施態様においては、アレスターTMはオリゴヌクレオチドである。もう1つの実施態様においてはオリゴヌクレオチド、アレスターTMは、共有結合されていないが、協力して結合し、同軸積み重ね(co-axial stacking)によって安定化されている、2個以上の短いオリゴヌクレオチドを含む複合(composite)オリゴヌクレオチドである。好ましい実施態様においては、オリゴヌクレオチドは本発明の開裂試薬との相互作用を低減するように修飾されている。オリゴヌクレオチドがアレスターTMとして使用される場合、それが続いて起こる反応工程に参加しないことを意図している。図105及び106の図表を考慮すると、特に各図の工程2b中の右端の図は、第1プローブへのアレスターTMの結合が、第2標的の参加によって、又はそのような参加無しに、本発明の方法の幾つかの実施態様において用いられる5'ヌクレアーゼによる開裂のための基質である、分岐構造体を生成することを示す。そのような構造体の形成は、バックグラウンドに寄与する幾つかのレベルの意図しない開裂を導くか、特異的なシグナルを低減するか、又は酵素と競合する。そのような開裂構造体を生成しないアレスターTMを提供することが好ましい。インベーダーTMオリゴヌクレオチドは開裂構造体内に同様の部位を占める(すなわち、インベーダーTMオリゴヌクレオチドの3'末端は、不対5'アームの開裂部位に位置する)ので、これを行う方法の1つは、アレスターTMにインベーダーTMオリゴヌクレオチドの活性を低減することが見出されたような修飾を加えることである。インベーダーTMオリゴヌクレオチドの3'末端の修飾は、実施例35での開裂に関する効果に対して試験され;試験された多数の修飾は、インベーダーTMオリゴヌクレオチドの機能を顕著に弱らせることが見出された。本明細書に記載しない他の修飾は、アレスターTMが意図される反応において用いられる開裂酵素を用いたそのような試験を行うことによって容易に特徴づけられ得る。
好ましい実施態様においては、オリゴヌクレオチドアレスターTMのバックボーンを修飾する。これは、ヌクレアーゼ又は温度によって分解に対する抵抗性を増加するか、又は用いられる酵素にとって好ましい基質ではない(例えば、A-フォーム(A-form)二重鎖に対するB-フォーム(B-form)二重鎖)、二重鎖構造体を提供することによって行うことができる。特に好ましい実施態様においては、バックボーン修飾されたオリゴヌクレオチドは、さらに3'末端修飾を含む。好ましい実施態様においては、修飾は核酸バックボーンの2' O-メチル置換を含むが、特に好ましい実施態様では、2' O-メチル修飾されたオリゴヌクレオチドは、さらに3'末端アミン基を含む。
アレスターTMの目的は、次の工程で用いられるいずれの要素(elements)への結合に対して、少数の開裂プローブを、未開裂プローブと効率的に競合させることである。2つのプローブ種の間を絶対的に区別できるアレスターTM(すなわち、切断されていないものに対してのみ結合し、切断されているものには決して結合しない)は、幾つかの実施態様において最も利点を有する一方、本明細書に記載した連続的なインベーダーTMアッセイを含む、多くのアプリケーションにおいては、本発明のアレスターTMは、部分的な区別のみによって意図された機能を発揮し得る。アレスターTMが開裂プローブといくらか相互作用をする場合、それはこれらの開裂生成物のある部分の検出を妨害し、それによって与えられた標的物質の量から発生するシグナルの絶対的レベルを低下させる。この同じアレスターTMが、特異的なシグナルの低減ファクターよりも大きいファクターによって、反応のバックグラウンド(すなわち、標的非特異的開裂)を低減する効果を同時に有するなら、その時は、絶対的なシグナルがより少ない量であっても、シグナルの重要性(すなわち、バックグラウンドに対するシグナルの割合)は増加する。幾つかの潜在的なアレスターTMデザインは、アレスターTMを欠く反応からのバックグラウンドのレベル及び特異的なシグナルを、アレスターTMを含む類似の反応からのバックグラウンドのレベル及び特異的なシグナルと比較することによる簡易なやり方で試験できる。実施例49-53に記載した各反応は、そのような比較の使用を説明し、これらは、当業者であれば、他のアレスターTM及び標的実施態様に容易に適合させることができる。特異性に対する絶対的シグナルの交換(tradeoff)の許容レベルを構成するものは、異なるアプリケーションに対して変動し(例えば、標的レベル、解読感度等)、本発明の方法を使用する個々の使用者によって決定され得る。
実験
下記の実施例は、本発明のある好ましい実施態様及び局面を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
以下の開示中、略語は次の意味を有する:Afu(アルケオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus));Mth(メタノバクテリウム・サーモオートロフィカム(Methanobacterium thermoautorophicum));Mja(メタノコッカス・ヤナシー(Methanococcus jannaschii));Pfu(ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus));Pwo(ピロコッカス・ウォエシー(Pyrococcus woesei));Taq(サームス・アクアティクス(Thermus aquaticus));Taq DNAP、DNAPTaq及びTaq Pol I(サームス・アクアティクス(T. aquaticus)DNAポリメラーゼI);DNAPStf(DNAPTaqのストッフェル(Stoffel)断片);DNAPEcl(大腸菌DNAポリメラーゼI);Tth(サームス・サーモフィルス(Thermus thermophilus));Ex.(実施例);Fig.(図);℃(摂氏温度);g(重力場(gravitational field));hr(時間);min(分);olio(オリゴヌクレオチド);rxn(反応);vol(容積);w/v(重量/容積);v/v(容積/容積);BSA(ウシ血清アルブミン);CATB(臭化セチルトリメチルアンモニウム);HPLC(高圧液体クロマトグラフィー);DNA(デオキシリボ核酸);p(プラスミド);μl(マイクロリットル);ml(ミリリットル);μg(マイクログラム);mg(ミリグラム);M(モラー(molar));mM(ミリモラー(milliMolar));μM(マイクロモラー(microMolar));pmole(ピコモル);amoles(アットモル(attomoles));zmoles(ゼプトモル(zeptomoles));nm(ナノメーター);kdal(キロダルトン);OD(光学密度);EDTA(エチレンジアミン四酢酸);FITC(フルオレセイン・イソチオシアネート);SDS(ドデシル硫酸ナトリウム);NaPO4(リン酸ナトリウム);NP-40(ノニデットP-40);Tris(トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン);PMSF(フェニルメチルスルホニル・フルオリド);TBE
(トリス-ホウ酸-EDTA、すなわち、塩酸ではなくホウ酸で滴定された、EDTAを含むトリスバッファー);PBS(リン酸緩衝化生理食塩水);PPBS(1 mM PMSFを含むリン酸緩衝化生理食塩水);PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動);Tween(ポリオキシエチレン-ソルビタン);ATCC(American Type Culture Collection, Rockville, MD);DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellculturen, Braunschweig,ドイツ);Ambion(Ambion, Inc., Austin, TX);Boehringer(Boehringer Mannheim Biochemical, Indianapolis, IN);MJ Research(MJ Research, Watertown, MA);Sigma(Sigma Chemical Company, St. Louis, MO);Dynal(Dynal A.S., Oslo, Norway);Gull(Gull Laboratories, Salt Lake City, UT);Epicentre(Epicentre Technologies, Madison, WI);MJ Research(MJ Research, Watertown, MA);National Biosciences(National Biosciences, Plymouth, MN);NEB(New England Biolabs, Beverly, MA);Novagen(Novagen Inc., Madison, WI);Perkin Elmer(Perkin-Elmer/ABI, Norwalk, CT);Promega(Promega, Corp., Madison, WI);Stratagene(Stratagene Cloning Systems, La Jolla, CA);Clonetech(Clonetech, Palo Alto, CA);Pharmacia(Pharmacia, Piscataway, NJ);Milton Roy(Milton Roy, Rochester, NY);Amersham(Amersham International, Chicago, IL);及びUSB(U.S. Biochemmical, Cleveland, OH)。
実施例1
天然耐熱性DNAポリメラーゼの特性
A.DNAPTaqの5'ヌクレアーゼ活性
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)[Saikiら, Science 239:487 (1988); MullisおよびFaloona, Methods in Enzymology 155:335 (1987)]中に、DNAPTaqは全てではないが多くのDNA配列を増幅することができる。DNAPTaqを使用して増幅し得ない一つの配列が図5に示される(ヘアピン構造は配列番号15である。図5には、配列番号17のプライマーも示す)。このDNA配列はそれ自体で折り畳んで二つの一本鎖アーム(これらはPCRに使用されるプライマーに相当する)を有するヘアピンを形成することができるという顕著な特性を有する。
増幅のこの失敗はその酵素の5'ヌクレアーゼ活性のためであるか否かを試験するために、本発明者らはPCRの30サイクル中にこのDNA配列を増幅するDNAPTaqおよびDNAPStfの能力を比較した。合成オリゴヌクレオチドをWisconsin-Madisonの大学にあるBiotechnology Centerから入手した。DNAPTaqおよびDNAPStfをPerkin Elmerから入手した(すなわち、AmpliTaq DNAポリメラーゼおよびAmpli-Taq DNAポリメラーゼのStoffel断片)。基質DNAはpUC19に二本鎖形態でクローン化された図6に示されたヘアピン構造を含んでいた。増幅に使用したプライマーを配列番号16-17として記載する。プライマー配列番号17は図5中でヘアピン構造の3'アームにアニールされて示されている。プライマー配列番号16は図5中でヘアピンの5'アームのボールド体の最初の20ヌクレオチドとして示されている。
ポリメラーゼ連鎖反応液は10mM Tris Cl pH8.3の50μl溶液中にスーパーコイルプラスミド標的DNA 1 ng、それぞれのプライマー5 pmole、それぞれのdNTP40μM、および2.5ユニットのDNAPTaqまたはDNAPStfを含んでいた。DNAPTaq反応液には50mM KClおよび1.5 mM MgCl2を含ませた。温度プロフィールは30サイクル中に95℃で30秒、55℃で1分間および72℃で1分間であった。それぞれの反応の10%を45mM Tris Borate、pH8.3、1.4 mM EDTAの緩衝液中6%ポリアクリルアミド(29:1で架橋された)中のゲル電気泳動により分析した。
結果を図6に示す。予想産物をDNAPTaq(「T」として示される)ではなくDNAPStf(単に「S」として示される)によりつくった。本発明者らは、DNAPTaqのヌクレアーゼ活性がこのDNA配列の増幅の欠如の原因であると結論する。
この構造DNAの基質領域中の5'未対合ヌクレオチドがDNAPTaqにより除去されるか否かを試験するために、同2種ポリメラーゼを使用してPCRの4サイクル中の末端標識5'アームの運命を比較した(図7)。DNAPStfおよび32P-5'末端標識プライマーを使用して、図5に記載されたヘアピン鋳型の如きヘアピン鋳型をつくった。そのDNAの5'末端をDNAPStfではなくDNAPTaqにより数個の大きい断片として放出した。これらの断片のサイズ(それらの運動性に基く)は、それらがDNAの未対合5'アームの殆どまたは全部を含むことを示す。こうして、開裂は分岐二重鎖の基部またはその付近で起こる。これらの放出された断片は直接配列分析、および末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼにより延長される断片の能力により証明されるように3'OH基で終端する。
図8〜10はDNAPTaqにより触媒された開裂反応を特性決定するように設計された実験の結果を示す。特にことわらない限り、開裂反応液は合計容積10μlの10mM Tris-Cl、pH8.5、50mM KClおよび1.5 mM MgCl2中0.01 pmole熱変性された末端標識ヘアピンDNA(未標識相補鎖も存在する)、1 pmoleプライマー(3'アームに相補性)および0.5ユニットのDNAPTaq(0.026 pmoleであると推定)を含んでいた。示されるように、幾つかの反応液は異なる濃度のKClを有し、それぞれの実験に使用した正確な時間および温度を個々の図に示す。プライマーを含んだ反応液は図5に示されたプライマーを使用した(配列番号17)。或る場合には、ポリメラーゼおよび選択されたヌクレオチドを用意することによりプライマーを結合部位まで延長した。
反応をMgCl2または酵素の添加により最終反応温度で開始した。反応を20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含む95%ホルムアルデヒド(停止溶液)8μlの添加によりそれらのインキュベーション温度で停止した。National Bioscien-ces,Inc.からのOligoTMプライマー分析ソフトウェアを使用して、リストされたTm計算を行った。15または65mM合計塩でDNA濃度として0.25μMを使用して、これらを測定した(全反応中の1.5 mM MgCl2がこれらの計算について15mM塩の値を与えられた)。
図8は開裂部位に関する一組の実験および条件の結果を含むオートラジオグラムである。図8Aは開裂を可能にする反応成分の測定である。5'末端標識ヘアピンDNAのインキュベーションは、示された成分を用いて55℃で30分間行なった。産物を変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分解し、産物の長さ(単位:ヌクレオチド数)を示す。図8Bは添加プライマーの不在下の開裂の部位に関する温度の効果を記載する。反応液をKClの不在下で示された温度で10分間インキュベートした。産物の長さ(単位:ヌクレオチド数)を示す。
驚くことに、DNAPTaqによる開裂はプライマーまたはdNTPのいずれをも必要としない(図8Aを参照のこと)。こうして、5'ヌクレアーゼ活性は重合とは関連し得ない。ヌクレアーゼ活性はマグネシウムイオンを必要とするが、マグネシウムイオンは特異性および活性の潜在的な変化はあるが置換し得る。亜鉛イオンまたはカルシウムイオンのいずれもが開裂反応を支持しない。反応は25℃から85℃までの広い温度範囲にわたって起こり、開裂の速度が高温で増大する。
図8を参照して、プライマーは添加dNTPの不在下で伸長されない。しかしながら、プライマーはヘアピンの開裂の部位および速度の両方に影響する。開裂の部位の変化(図8A)はDNA基質のアームの間に形成された短い二重鎖の分断により生じることが明らかである。プライマーの不在下で、図5に下線を施すことにより示された配列が対合して、延長された二重鎖を形成することができた。延長された二重鎖の末端における開裂は、プライマーを添加しないで図8Aレーンに見られる11ヌクレオチド断片を放出するであろう。過剰のプライマーの添加(図8A、レーン3および4)または高温におけるインキュベーション(図8B)は二重鎖の短い延長を乱し、長い5'アームひいては長い開裂産物をもたらす。
プライマーの3'末端の位置は開裂の正確な部位に影響し得る。電気泳動分析をプライマーの不在下で行った結果(図8B)、開裂が第一塩基対と第二塩基対の間で基質二重鎖(温度に応じて、延長形態または短縮形態)の末端で起こることが明らかになった。プライマーが二重鎖の基部まで延長する時、開裂がまた二重鎖中で一つのヌクレオチドを生じる。しかしながら、4または6ヌクレオチドの隙間がプライマーの3'末端と基質二重鎖の間に存在する時、開裂部位は5'方向に4ヌクレオチドから6ヌクレオチドにシフトする。
図9はプライマーオリゴヌクレオチドの存在下(図9A)または不在下(図9B)の開裂の速度論を記載する。50mM KCl(図9A)または20mM KCl(図9B)を用いて反応を55℃で行った。反応産物を変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分解し、産物の長さ(単位:ヌクレオチド数)を示す。マーカーを示す「M」は5'末端標識19-ntオリゴヌクレオチドである。これらの塩条件下で、図9Aおよび9Bは、反応がプライマーの不在下よりもプライマーの存在下で約20倍速いことが明らかであることを示す。効率に関するこの効果は基質上の酵素の適切な配列および安定化に寄与し得る。
両方の反応を50mM KCl中で行う時、開裂速度に関するプライマーの相対的な影響が極めて大きくなる。プライマーの存在下で、開裂の速度は約50mMまでKCl濃度につれて増大する。しかしながら、プライマーの存在下のこの反応の抑制が100 mMで明らかであり、150mM KClで完全である。対照的に、プライマーの不在下では、その速度が20mMまでKClの濃度により増進されるが、それは30mM以上の濃度で低下される。50mM KClでは、反応が殆ど完全に抑制される。プライマーの不在下のKClによる開裂の抑制は温度により影響され、低温で更に顕著である。
切断すべきアームの5'末端の認識は基質認識の重要な特徴であることが明らかである。遊離5'末端を欠いている基質、例えば、環状M13 DNAは試験したいずれの条件でも開裂し得ない。5'アームを形成した基質でさえも、DNAPTaqによる開裂の速度がアームの長さにより影響される。プライマーおよび50mM KClの存在下で、27ヌクレオチドの長さである5'延長の開裂は55℃で2分以内に実質的に完結する。対照的に、84ヌクレオチドおよび188ヌクレオチドの5'アームを有する分子の開裂は20分後に約90%および40%の完結であるにすぎない。高温におけるインキュベーションは5'アーム中の二次構造を示す長い延長の抑制効果を低下し、または酵素中の熱不安定構造がその反応を抑制し得る。過剰の基質の条件下で行われた混合実験は、長いアームを有する分子が非生産的複合体(non-productive complex)中で利用可能な酵素を優先的に束縛しないことを示す。これらの結果は、5'ヌクレアーゼドメインが5'アームを一つの末端から他の末端に移動することにより、分岐二重鎖の末端にある開裂部位への接近を獲得することを示し得る。更に長い5'アームは更に偶発の二次構造を有するものと予想され(特にKCl濃度が高い時)、これがおそらくこの移動を妨げるのであろう。
開裂は少なくとも2キロ塩基までの基質鎖標的分子またはパイロット核酸の長い3'アームにより抑制されないことが明らかである。その他の極限では、1ヌクレオチドのように短いパイロット核酸の3'アームは効率が良くないもののプライマー非依存性反応で開裂を支持することができる。充分に対合されたオリゴヌクレオチドはプライマー延長中にDNA鋳型の開裂を誘発しない。
相補的鎖が唯一の不対合3'ヌクレオチドを含む時でさえも、分子を開裂するDNAPTaqの能力は対立遺伝子特異的PCRを最適化するのに有益であるかもしれない。不対合3'末端を有するPCRプライマーはパイロットオリゴヌクレオチドとして作用してヌクレオシド三リン酸の不在下でDNAPTaqと一緒の潜在的鋳型-プライマー複合体のプレインキュベーション中に望ましくない鋳型の選択的開裂を誘導することができた。
B.その他のDNAPの5'ヌクレアーゼ活性
その他のDNAP中のその他の5'ヌクレアーゼが本発明に適しているか否かを測定するために、酵素のアレイ(その幾つかが文献中に明らかな5'ヌクレアーゼ活性のないものであると報告された)を試験した。構造特異的様式で核酸を開裂するこれらのその他の酵素の能力を、それぞれの酵素による合成に最適であると報告された条件下で図5に示されたヘアピン基質を使用して試験した。
DNAPEclおよびDNAPクレノウをPromega Corporationから入手した。ピロコッカス・フリアウス(Pyrococcus furious)[「Pfu」、Bargseidら,Strategies 4:34 (1991)]のDNAPはStratageneからのものであった。テルモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)[「Tli」、Vent(exo-)、Perlerら, Proc.Natl.Acad. Sci. USA 89: 5577 (1992)]のDNAPはNew England Biolabsからのものであった。テルムス・フラブス(Thermus flavus)[「Tfl」、Kaledinら, Biokhimiya 46:1576 (1981)]のDNAPはEpicentre Technologiesからのものであり、またテルムス・テルモフィルス(Thermus thermophilus)[「Tth」、Carballeiraら, Biotechni-ques 9:276 (1990); Myersら, Biochem. 30:7661 (1991)]のDNAPはU.S.Biochemicalsからのものであった。
プライマー依存性反応のために製造業者により供給された緩衝液、または10mM Tris Cl、pH8.5、1.5 mM MgCl2、および20mM KClを使用して、0.5ユニットのそれぞれのDNAポリメラーゼを20μl反応液中でアッセイした。反応混合物を酵素の添加の前に72℃に保った。
図10はこれらの試験の結果を記録するオートラジオグラムである。図10Aは幾つかの好熱性細菌のDNAPのエンドヌクレアーゼの反応を示す。反応液をプライマーの存在下で55℃で10分間またはプライマーの不在下で72℃で30分間インキュベートし、産物を変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分解した。産物の長さ(単位:ヌクレオチド数)を示す。図10BはDNAPEclの5'ヌクレアーゼによるエンドヌクレオリチック(endonucleolytic)開裂を示す。DNAPEcl反応液およびDNAPクレノウ反応液を37℃で5分間インキュベートした。DNAPEclレーン(それぞれ、プライマーの存在下および不在下でつくられた)中の25ヌクレオチドおよび11ヌクレオチドの開裂産物の光バンドに注目されたい。また、図8Aはプライマーの存在下(+)または不在下(-)のDNAPTaq反応を示す。これらの反応をそれぞれ50mMおよび20mM KCl中で行い、55℃で10分間インキュベートした。
図10Aを参照して、真正細菌テルムス・テルモフィルスおよびテルムス フラブスからのDNAPはプライマーの存在下および不在下の両方でDNAPTaqと同じ位置で基質を開裂する。対照的に、古細菌ピロコッカス・フリオサスおよびテルモコッカス リトラリスからのDNAPは基質をエンドヌクレオリチックに開裂することができない。ピロコッカス・フリオウスおよびテルモコッカス・リトラリスからのDNAPは真正細菌酵素と配列相同性を殆ど共有しない(Itoら, Nucl.Acids Res. 19:4045 (1991); Mathurら, Nucl.Acids Res. 19:6952 (1991); またPerlerらを参照のこと)。図10Bを参照して、DNAPEclはまた基質を開裂するが、得られる開裂産物は、3'エンドヌクレアーゼが抑制されない限り検出し難い。DNAPEclおよびDNAPTaqの5'ヌクレアーゼドメインのアミノ酸配列は約38%相同性である(Gelfand、上記文献)。
また、DNAPTaqの5'ヌクレアーゼドメインはバクテリオファージT7の遺伝子6によりコードされた5'エキソヌクレアーゼと約19%相同性を共有する[Dunnら, J.Mol.Biol. 166:477 (1983)]。DNAP重合ドメインに共有結合されないこのヌクレアーゼは添加プライマーの不在下で上記5'ヌクレアーゼにより切断される部位と同様または同一の部位でDNAをエンドヌクレオチックに開裂することもできる。
C.トランス開裂
特定の配列で有効に開裂するように誘導される5'ヌクレアーゼの能力を下記の実験で実証した。「パイロットオリゴヌクレオチド」と称される部分相補性オリゴヌクレオチドを開裂の所望の位置で配列とハイブリッドを形成した。パイロットオリゴヌクレオチドの非相補性部分は鋳型の3'アームに類似する構造を与え(図5を参照のこと)、一方、基質鎖の5'領域は5'アームになった。パイロットがそれ自体で折り畳んで安定化テトラ-ループを有する短いヘアピンを生じるようにパイロットの3'領域を設計することにより、プライマーを用意した[Antaoら, Nucl.Acids Res. 19:5901 (1991)]。2種のパイロットオリゴヌクレオチドを図11Aに示す。オリゴヌクレオチド19-12(配列番号18)、30-12(配列番号19)および30-0(配列番号20)はそれぞれ31ヌクレオチド、42ヌクレオチドまたは30ヌクレオチドの長さである。しかしながら、オリゴヌクレオチド19-12(配列番号18)および34-19(配列番号19)はそれぞれ19ヌクレオチドおよび30ヌクレオチドを有するにすぎず、これらは基質鎖中の異なる配列に相補性である。パイロットオリゴヌクレオチドは約50℃(19-12)および約75℃(30-12)でそれらの相補体を融解するように計算される。両方のパイロットはそれらの3'末端で12ヌクレオチドを有し、これらは塩基対合プライマーを付着する3'アームとして作用する。
開裂がパイロットオリゴヌクレオチドにより誘導し得ることを実証するために、本発明者らは2種の潜在的パイロットオリゴヌクレオチドの存在下で一本鎖標的DNAをDNAPTaqとともにインキュベートした。標的およびパイロット核酸が共有結合されないトランス開裂反応液は、同緩衝液の容積20μl中に0.01 pmoleの単一末端標識基質DNA、1ユニットのDNAPTaqおよび5 pmoleのパイロットオリゴヌクレオチドを含む。これらの成分を95℃で1分間のインキュベーション中に合わせてPCR生成された二本鎖基質DNAを変性し、次に反応の温度をそれらの最終インキュベーション温度に低下した。オリゴヌクレオチド30-12および19-12は標的鎖の5'末端から85ヌクレオチドおよび27ヌクレオチドである基質DNAの領域にハイブリッドを形成することができる。
図19は完全206-mer配列(配列番号27)を示す。206-merをPCRにより作製した。New England Biolabs(それぞれ、カタログ番号1233および1224)からのM13/pUC 24-mer逆配列決定用(-48)プライマーおよびM13/pUC配列決定用(-47)プライマーを、標的配列を含む鋳型(10 ng)としてpGEM3z(f+)プラスミドベクター(Promega Corp.)とともに使用した(それぞれ50 pmole)。PCRの条件は以下のとおりであった。100μlの20 mM Tris- Cl、pH8.3、1.5 mM MgCl2、0.05%Tween-20および0.05%NP-40を含む50mM KCl中50μMのそれぞれのdNTPおよび2.5ユニットのTaq DNAポリメラーゼ。反応を95℃で45秒、63℃で45秒、次に72℃で75秒で35回サイクルした。サイクリング後に、反応を72℃で5分間インキュベーションして終わらせた。得られる断片を0.5X TBE (45mM Tris-Borate、pH8.3、1.4 mM EDTA)中6%ポリアクリルアミドゲル(29:1架橋)による電気泳動により精製し、エチジウムブロミド染色またはオートラジオグラフィーにより視覚化し、ゲルから切除し、受動拡散により溶離し、エタノール沈殿により濃縮した。
基質DNAの開裂はパイロットオリゴヌクレオチド19-12の存在下で50℃で起こったが(図11B、レーン1および7)、75℃では起こらなかった(レーン4および10)。オリゴヌクレオチド30-12の存在下では、開裂が両温度で観察された。たとえ50℃で基質中の偶発構造がKClの不在下でプライマー非依存性開裂を可能にしたとしても(図11B、レーン9)、開裂は添加オリゴヌクレオチドの不在下(レーン3、6および12)または約80℃で起こらなかった。基質DNAに相補性を有しない非特異的オリゴヌクレオチドは50mM KClの不在下または存在下で50℃で開裂を誘導しなかった(レーン13および14)。こうして、開裂反応の特異性は基質に対する相補性の程度およびインキュベーションの条件により調節し得る。
D.RNAの開裂
上記のトランス開裂実験に使用した配列の短縮RNAバージョンを、その反応中の基質として利用するその能力について試験した。RNAは、パイロットオリゴヌクレオチドの存在に依存性である反応において、予想された位置で開裂する。[α-32P]UTPの存在下のT7 RNAポリメラーゼによりつくられたRNA基質は図11Bに使用したDNA基質の末端切断型に相当する。反応条件は上記DNA基質に使用した条件と同様であり、50mM KClを用いた。インキュベーションは55℃で40分間であった。使用したパイロットオリゴヌクレオチドを30-0(配列番号20)と称し、図12Aに示す。
開裂反応の結果を図13Bに示す。反応を図12Bに示されるようにDNAPTaqまたはパイロットオリゴヌクレオチドの存在下または不在下で行った。
印象的なことに、RNA開裂の場合、3'アームはパイロットオリゴヌクレオチドに必要とされない。この開裂は30塩基対の長さのRNA-DNA二重鎖に沿って幾つかの位置でRNAを切断すると予想される前記RNaseHによるとはあまり考えられない。DNAPTaqの5'ヌクレアーゼはヘテロ二重鎖領域の5'末端付近の単一部位でRNAを開裂する構造特異的RNaseHである。
驚くことに、3'アームを欠いているオリゴヌクレオチドはRNA標的の有効な開裂を誘導する際にパイロットとして作用することができる。何となれば、このようなオリゴヌクレオチドは天然DNAPを使用してDNA標的の有効な開裂を誘導することができないからである。しかしながら、本発明の幾つかの5'ヌクレアーゼ(例えば、図4に示されたクローンE、FおよびG)は3'アームの不在下でDNAを開裂することができる。換言すれば、非延長性開裂構造は耐熱性DNAポリメラーゼに由来する本発明の幾つかの5'ヌクレアーゼによる特異的開裂に必要とされない。
次いで、完全に相補的なプライマーの存在下でのDNAPTaqによるRNA鋳型の開裂によって、逆転写酵素に似た反応においてDNAPTaqがRNA鋳型上でDNAオリゴヌクレオチドを伸長できない理由を説明できるかどうか判定するため、試験を行った。別の好熱性DNAP、DNAPTthはMn++の存在下でのみであるがRNAを鋳型として使用することができ、こうして本発明者らはこの酵素がこの陽イオンの存在下でRNAを開裂しないと予想した。それ故、本発明者らはMg++またはMn++を含む緩衝液中でDNAPTaqまたはDNAPTthの存在下で適当なパイロットオリゴヌクレオチドとともにRNA分子をインキュベートした。予想されたように、両酵素はMg++の存在下でRNAを開裂した。しかしながら、DNAPTthではなくDNAPTaqはMn++の存在下でRNAを分解した。本発明者らは、多くのDNAPの5'ヌクレアーゼ活性がRNAを鋳型として使用できないことに寄与し得ると結論した。
実施例2
耐熱性DNAポリメラーゼ由来5'ヌクレアーゼの生成
本発明の検出アッセイにおけるDNA開裂中の望ましくない副反応である活性である合成活性を低下したが、耐熱性ヌクレアーゼ活性を維持した耐熱性DNAポリメラーゼを生成した。結果物は極めて特異的に核酸DNAを開裂する耐熱性ポリメラーゼである。
テルムス属の真正細菌からのDNAポリメラーゼA型は広範囲のタンパク質配列同一性(DNAStar,WIからのDNA分析ソフトウェアでLipman-Pearson方法を使用して、重合ドメイン中90%)を共有し、重合およびヌクレアーゼアッセイの両方で同様に挙動する。それ故、本発明者らはこのクラスの代表としてテルムス・アクアティカス(DNAPTaq)およびテルムス・フラブス(DNAPTfl)のDNAポリメラーゼの遺伝子を使用した。その他の真正細菌生物、例えば、テルムス・テルモフィルス、テルムスsp.、テルモトガ・マリチマ、テルモシフォ・アフリカヌスおよびバチルス・ステアロテルモフィルス、からのポリメラーゼ遺伝子が同等に好適である。これらの好熱性生物からのDNAポリメラーゼは高温で生存し、行動することができ、こうして温度が核酸鎖の非特異的ハイブリダイゼーションに対する選択手段として使用される反応に使用し得る。
下記の欠失突然変異誘発に使用した制限部位を便宜上選択した。同様の便宜にある異なる部位がテルムス・テルモフィルス遺伝子中で利用でき、関連生物からのその他の型Aポリメラーゼ遺伝子と同様の構造をつくるのに使用し得る。
A.5'ヌクレアーゼ構造体の作製
1.修飾DNAPTaq遺伝子
第一工程は誘導プロモーターの制御下でプラスミドについてTaqDNAポリメラーゼの修飾遺伝子を入れることであった。修飾Taqポリメラーゼ遺伝子を以下のようにした単離した。TaqDNAポリメラーゼ遺伝子を、配列番号13-14に記載されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用して、テルムス・アクアティカス、株YT-1 (Lawyerら,上記文献)からのゲノムDNAからポリメラーゼ連鎖反応により増幅した。得られるDNAの断片はコード配列の5'末端に制限エンドヌクレアーゼEcoRIの認識配列を有し、3'末端にBglII配列を有する。BglIIによる開裂はBamHIにより生じた末端と適合性である5'突出部または“付着末端"を残す。PCR増幅されたDNAをEcoRIおよびBamHIで消化した。ポリメラーゼ遺伝子のコード領域を含む2512 bp断片をゲル精製し、次に誘導プロモーターを含むプラスミドにつないだ。
本発明の一実施態様では、ハイブリッドtrp-lac(tac)プロモーターを含む、pTTQ18ベクターを使用し[Stark, Gene 5:255 (1987)]、図13に示す。tacプロモーターはE.coli lacリプレッサーの制御下にある。抑制は、細菌増殖の所望のレベルに達するまで、抑制すべき遺伝子産物の合成を可能にし、その時点で抑制が特異的インデューサー、イソプロピル-b-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加により除去される。このような系が形質転換体の増殖を遅延または阻止し得る外来タンパク質の発現を可能にする。
tacの如き細菌プロモーターは、それらが多数のコピープラスミドに存在する時には適当に抑制されないかもしれない。高度に毒性のタンパク質がこのようなプロモーターの制御下に置かれる場合、制御を免れる少量の発現が細菌に有害であり得る。本発明の別の実施態様では、クローン化遺伝子産物の合成を抑制するための別の選択肢を使用した。プラスミドベクター系列pET-3中に見られるバクテリオファージT7からの非細菌プロモーターを使用してクローン化変異体Taqポリメラーゼ遺伝子を発現した[図15;StudierおよびMoffatt, J.Mol.Biol. 189: 113 (1986)]。このプロモーターはT7 RNAポリメラーゼのみにより転写を開始する。BL21(DE3)pLYSの如き好適な株中で、このRNAポリメラーゼの遺伝子がlacオペレーターの制御下で細菌ゲノムで運ばれる。このアレンジメントは、多数のコピー遺伝子の発現(プラスミドに関する)がT7 RNAポリメラーゼの発現に完全に依存し、これが容易に抑制されるという利点を有する。何となれば、それは単一コピー中に存在するからである。
pTTQ18ベクター(図13)への結合について、Taqポリメラーゼコード領域を含むPCR産物DNA(mutTaq、クローン4B、配列番号21)をEcoRIおよびBglIIで消化し、この断片を通常の「付着末端」条件下[Sambrookら, Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, pp.1.63-1.69 (1989)]でプラスミドベクターpTTQ18のEcoRI部位およびBamHI部位につないだ。この構造体の発現は、天然タンパク質の最初の二つの残基(Met-Arg)がベクターからの三つの残基(Met-Asn-Ser)により置換されている翻訳融合産物を生じるが、その天然タンパク質の残部は変化しないであろう。その構造体をE.coliのJM109株に形質転換し、形質転換体を天然タンパク質を発現する細菌の増殖を許さない不完全抑制条件下に置いた。これらの平板培養(plating)条件は増幅プロセス中のTaqポリメラーゼの不忠実度から生じるもののような既存の突然変異を含む遺伝子の単離を可能にする。
この増幅/選択プロトコルを使用して、本発明者らは突然変異したTaqポリメラーゼ遺伝子(mutTaq、クローン3B)を含むクローン(図3Bに示される)を単離した。その突然変異体を最初にその表現型により検出し、この場合、粗細胞抽出物中の温度安定性5'ヌクレアーゼ活性は通常であったが、重合活性は殆ど不在であった(野生型Taqポリメラーゼ活性の約1%未満)。
組換え遺伝子のDNA配列分析は、それが二つのアミノ酸置換をもたらすポリメラーゼドメインでの変化を有することを示した。ヌクレオチド位置1394のAからGへの変化がアミノ酸位置465(天然核酸配列およびアミノ酸配列、配列番号1および4に従ってナンバリングした)のGluからGlyへの変化を生じ、またヌクレオチド位置2260のAからGへの変化がアミノ酸位置754のGlnからArgへの変化を生じる。GlnからGlyへの突然変異は非保存位置にあるので、またGluからArgへの突然変異は既知のA型ポリメラーゼの実質上全ての中に保存されるアミノ酸を変化させるので、この後者の突然変異はおそらくこのタンパク質の合成活性が減少する原因となる突然変異である。図3B構築物のヌクレオチド配列を配列番号21に示す。この配列によってコードされる酵素をクリーブアーゼ(登録商標)A/Gと呼ぶ。
次に、DNAPTaq構築物の誘導体をmutTaq遺伝子からつくり、こうして、それらは、これらの特別な領域が欠失されない限り、それらのその他の変化の他にこれらのアミノ酸置換を全て有する。これらの突然変異部位を図3中の図式中のこれらの位置において黒色ボックスにより示す。図3中、表示“3'Exo"を使用してDNAPTaq中に存在しないA型ポリメラーゼと関連する3'エキソヌクレアーゼ活性の位置を示す。図3E、FおよびGに示された遺伝子以外の全ての構築物をpTTQ18ベクター中で作製した。
図3EおよびF中の遺伝子について使用したクローニングベクターは上記の市販のpET-3系列からのものであった。このベクター系列はT7プロモーターの下流のクローニング用のBamHI部位のみを有するが、その系列は三つのリーディングフレームのいずれへのクローニングも可能にする変異体を含む。上記PCR産物のクローニングについて、pET-3cと称した変異体を使用した(図14)。そのベクターをBamHIで消化し、仔ウシ腸ホスファターゼで脱リン酸し、DNAPEclおよびdNTPのクレノウ断片を使用して付着末端にフィルインした。図3Bに示された変異体TaqDNAP(mutTaq、クローン3B)の遺伝子をEcoRIおよびSalIによる消化により pTTQ18から放出し、ベクターで行ったように“付着末端"をフィルインした。その断片を標準的な平滑末端条件(Sambrookら, Molecular Cloning,上記文献)下でベクターに連結し、その構築物をE.coliのBL21(DE3)pLYS株に形質転換し、単離物をスクリーニングして、プロモーターに対して適当な配向で遺伝子と連結した単離物を同定した。この構築物により別の翻訳融合産物を生じ、この場合、DNAPTaqの最初の二つのアミノ酸(Met-Arg)がベクターから13個+PCRプライマーから2個により置換される(Met-Ala-Ser-Met-Thr-Gly-Gly-Gln-Gln-Met-Gly-Arg-Ile-Asn-Ser)(配列番号24)。
これらの実験では、DNAを合成する能力を欠いているが、5'ヌクレアーゼ活性を有する核酸を開裂する能力を保持する酵素を作製することを目標とした。DNAのプライマーを用いた鋳型合成の作用は実際に一連の調整された現象であり、こうしてその他の現象に影響しないで一つの現象を乱すことによりDNA合成を不能にすることができる。これらの工程としては、プライマー認識および結合、dNTP結合およびヌクレオチド間のホスホジエステル結合の触媒作用が挙げられるが、これらに限定されない。DNAPEcIの重合ドメイン中のアミノ酸の幾つかがこれらの機能に関連していたが、正確なメカニズムはまだ十分には明らかにされていない。
DNAポリメラーゼの重合能力を破壊する一つの方法はそのタンパク質についてそのドメインをコードする遺伝子セグメントの全部または一部を欠失させるか、またはそうでない場合には遺伝子が完全重合ドメインをつくることができないようにすることである。個々の変異型酵素は細胞内および細胞外の両方で安定性および溶解性が互いに異なる可能性がある。例えば、DNAPEcIの5'ヌクレアーゼドメイン(これは穏やかなタンパク質分解により重合ドメインから活性型で放出され得る[SetlowとKornberg, J.Biol.Chem. 247:232 (1972)])とは対照的に、テルムス(Thermus)ヌクレアーゼドメインは、同様に処理すると、可溶性が減少し、その開裂活性がしばしば失われる。
出発物質として図3Bに示された変異体遺伝子を使用して、幾つかの欠失構築物を作出した。クローニング技術はすべて標準的なものであり(Sambrookら,上記文献)、簡単にまとめると以下のようになる。
図3C: mutTaq構築物をPstIで消化し、示されるようにポリメラーゼコード領域内で1回切断し、そのベクターの多重クローニング部位で遺伝子の少し下流で切断する。これらの二つの部位の間の断片の放出後に、ベクターを再度連結して、894-ヌクレオチド欠失を生じさせ、フレーム中の結合の下流に終止コドン40ヌクレオチドを入れた。この5'ヌクレアーゼ(クローン4C)のヌクレオチド配列を配列番号9に示す。
図3D: mutTaq構築物をNheIで消化し、これは遺伝子中の位置2047で1回切断する。得られる4ヌクレオチド5'突出部末端を上記のようにしてフィルインし、平滑末端を再度連結した。得られる4ヌクレオチド挿入はリーディングフレームを変化させ、突然変異の10アミノ酸下流で翻訳の終止させる。この5'ヌクレアーゼ(クローン3D)のヌクレオチド配列を配列番号10に示す。
図3E: EcoRIおよびSalIを使用して、完全mutTaq遺伝子をpTTQ18から切断し、上記のようにしてpET-3cにクローン化した。このクローンを、図3Eに示されたように位置している特有の部位でBstXIおよびXcmIで消化した。そのDNAをDNAPEc1およびdNTPのクレノウ断片で処理し、両部位の3'突出部をトリミングして平滑末端とした。これらの平滑末端を一緒に連結し、1540ヌクレオチドのアウト-オブ-フレーム(out-of-frame)欠失をもたらした。イン-フレーム終止コドンが結合部位の18トリプレット後に生じる。この5'ヌクレアーゼ(クローン3E)のヌクレオチド配列を配列番号11に示し、適当なリーダー配列を配列番号25に示す。それはまたクリーブアーゼ(登録商標)BXと称される。
図3F: EcoRIおよびSalIを使用して、完全mutTaq遺伝子をpTTQ18から切断し、上記のようにしてpET-3cにクローン化した。このクローンを、図示されたように位置している特有の部位でBstXIおよびBamHIで消化した。そのDNAをDNAPEc1およびdNTPのクレノウ断片で処理し、両部位の3'突出部をトリミングして平滑末端とし、一方、BamHI部位の5'突出部をフィルインして平滑末端とした。これらの末端を一緒に連結し、903ヌクレオチドのイン-フレーム欠失をもたらした。この5'ヌクレアーゼ(クローン3F)のヌクレオチド配列を配列番号12に示す。それはまたCleavase(登録商標)BBと称される。
図3G: このポリメラーゼは図4Eに示されたポリメラーゼの変異体である。それをプラスミドベクターpET-21 (Novagen)にクローン化した。このベクター中に見られるバクテリオファージT7由来の非細菌プロモーターはT7 RNAポリメラーゼによらなければ転写を開始しない。StudierとMoffatt,上記文献を参照のこと。(DES)pLYSのような適した株中で、このRNAポリメラーゼの遺伝子がlacオペレーターの制御下で細菌ゲノムによって運ばれる。この配置は、多重コピー遺伝子の発現(プラスミド上での)がT7 RNAポリメラーゼの発現に完全に依存性し、これが容易に抑制されるという利点を有する。なぜなら、それが単一コピー中に存在するからである。これらの変異体遺伝子の発現がこのしっかりと制御されたプロモーターのもとで起こるので、宿主細胞に対する発現されたタンパク質の毒性の潜在的な問題は関心事ではない。
また、pET-21ベクターは、発現されたタンパク質のカルボキシ末端に付加される6連続ヒスチジン残基の広がりである“His-タグ"を特徴とする。次に得られるタンパク質が、固定されたNi++イオンを含む市販(Novagen)カラム樹脂を使用して金属キレート化クロマトグラフィーにより単一工程で精製できる。2.5 mlカラムが再使用可能であり、天然の条件または変性(グアニジン-HClまたは尿素)条件下で20mgまでの標的タンパク質を結合することができる。
通常の形質転換技術を使用して、E.coli(DES)pLYS細胞を上記構築物で形質転換し、通常の増殖培地(例えば、Luria-Bertaniブロス)に接種するのに使用する。T7 RNAポリメラーゼの産生をIPTGの添加により対数期増殖中に誘導し、更に12〜17時間インキュベートする。培養物のアリコートを誘導の前後に取り出し、タンパク質をSDS-PAGEにより試験する。外来タンパク質が細胞タンパク質の約3〜5%を占め、かつ主要宿主タンパク質バンドのいずれとも共泳動しない場合、クーマシーブルーによる染色が外来タンパク質の視覚化を可能にする。主要宿主タンパク質と同時泳動するタンパク質は、分析のこの段階で見られるためには全タンパク質の10%以上として発現される必要がある。
幾つかの変異体タンパク質は細胞により封入体中に取り込まれる。これらは細菌が高レベルの外来タンパク質を発現するように作出された時に細胞質中で形成される顆粒であり、それらを粗溶解産物から精製し、SDS-PAGEにより分析してそれらのタンパク質含量を測定できる。クローン化タンパク質が封入体中に存在する場合、それは開裂活性およびポリメラーゼ活性を評価するために放出される必要がある。様々な可溶化方法が様々なタンパク質に適しており、種々の方法が知られている。例えば、Builder&Ogezの米国特許第4,511,502号(1985); Olsonの米国特許第4,518,526号(1985); Olson&Paiの米国特許第4,511,503号(1985); Jonesらの米国特許第4,512,922号(1985)を参照のこと。これらの全てが参考として本明細書に含まれる。
次に可溶化タンパク質を、製造業者(Novagen)の指示に従って上記のようにしてNi++カラムで精製する。洗浄したタンパク質をイミダゾール競合物質(1M)と高塩(0.5M NaCl)の組み合わせによりカラムから溶離し、透析して緩衝液を交換し、変性タンパク質を再生させる。典型的な回収は出発培養液1ml当たり約20μgの特定タンパク質をもたらす。DNAP変異体をCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼと称し、その配列を配列番号26に示す。配列番号26のDNA配列を翻訳することにより、Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼのアミノ案配列を得る。
2.修飾DNAPTfl遺伝子
テルムス・フラバスのDNAポリメラーゼ遺伝子をATCCから入手した“T.フラバス"AT-62株(ATCC 33923)から単離した。この株はAkhmetzjanovおよびVakhitov, 上記文献により公表された配列を生成するのに使用されたT.フラバスとは異なる制限地図を有する。公表された配列を配列番号2に示す。T.フラブスのAT-62株からのDNAポリメラーゼ遺伝子についての配列データは公表されていなかった。
T.アクアティカスDNAポリメラーゼ遺伝子(配列番号13-14)を増幅するのに使用したのと同じプライマーを使用して、T.フラバスからのゲノムDNAを増幅した。約2500塩基対PCR断片をEcoRIおよびBamHIで消化した。突出末端をDNAPEc1クレノウ断片およびdNTPで平滑にした。N末端のコード領域を含む、得られた約1800塩基対断片を上記のようにしてpET-3cに連結した。この構築物、クローン4Bを図4Bに示す。野生型T.フラブスDNAポリメラーゼ遺伝子を図4Aに示す。4BクローンはpET-3cにクローン化されたDNAPTaqクローン4EおよびFと同じリーダーアミノ酸を有する。翻訳終止がどこで起こるのかは正確には知られていないが、そのベクターはクローニング部位のすぐ下流に強い転写終止シグナルを有する。
B.形質転換された細胞の増殖および誘導
通常の形質転換技術を使用して、細菌細胞を上記構築物で形質転換し、通常の増殖培地(例えば、Luria-Bertaniブロス)2mlに接種するのに使用した。得られた培養物は使用した特定の株に適するようにインキュベートし、特定の発現系に必要とされるのであれば誘導した。図3および4に示した構築物の全てについては、培養物を0.5 ODの光学密度(波長600nm)まで増殖させた。
クローン化遺伝子の発現を誘導するために、培養物を0.4 mM IPTGの最終濃度にし、インキュベーションを12〜17時間続けた。それぞれの培養液の50μlアリコートを誘導の前後に取り出し、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)のために通常のゲルローディング緩衝液20μlと合わせた。外来タンパク質が細胞タンパク質の約3〜5%を占め、主要E.coliタンパク質バンドのいずれとも共泳動しない場合、クーマシーブルーによるその後の染色(Sambrookら, 上記文献)は外来タンパク質の視覚化を可能にする。主要宿主タンパク質と共泳動するタンパク質は、分析のこの段階で見られるためには全タンパク質の10%以上として発現される必要がある。
C.熱溶解および分画化
粗細菌細胞抽出物を加熱して、それ程安定ではないE.coliタンパク質を変性および沈殿させることにより、発現された耐熱性タンパク質、すなわち5'ヌクレアーゼを単離した。次に沈殿したE.coliタンパク質をその他の細胞破砕物とともに遠心分離により除去した。培養液1.7 mlを12,000〜14,000 rpmで30〜60秒の微量遠心分離によりペレット化した。上清の除去後に、細胞を緩衝液A(50mM Tris-HCl、pH7.9、50mMデキストロース、1mM EDTA)400μl中で再度懸濁させ、再度遠心分離し、次に4mg/mlリゾチームとともに緩衝液A80μl中で再度懸濁させた。細胞を室温で15分間インキュベートし、次に緩衝液B(10mM Tris-HCl、pH7.9、50mM KCl、1mM EDTA、1mM PMSF、0.5%Tween-20、0.5%Nonidet-P40) 80μlと合わせた。
この混合物を75℃で1時間インキュベートして宿主タンパク質を変性し、沈殿させた。この細胞抽出物を4℃で14,000 rpmで15分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。この上清0.5〜1μlのアリコートをそれぞれの試験反応に直接使用し、7μlを上記のようにして電気泳動分析にかけることにより、抽出物のタンパク質含量を測定した。もとの組換えTaq DNAポリメラーゼ[Englke, Anal.Biochem 191:396 (1990)]、および図3Bに示した二点突然変異タンパク質は両方ともこの時点で可溶性かつ活性である。
外来タンパク質は封入体への細胞による外来タンパク質の取込みのために熱処理後に検出されないことがある。これらは、細菌が高レベルの外来タンパク質を発現するように作出された時に細胞質中で形成される顆粒であり、それらを粗溶解産物から精製し、SDS PAGEで分析してそれらのタンパク質含量を測定し得る。多くの方法が文献に記載されており、一つのアプローチが以下に記載される。
D.封入体の単離および可溶化
小培養物を増殖させ、上記のようにして誘導した。1.7 mlアリコートを短時間の遠心分離によりペレット化し、細菌細胞を溶解緩衝液(50 mM Tris-HCl、pH8.0、1mM EDTA、100 mM NaCl)100μl中で再度懸濁させた。20mM PMSF 2.5 μl を0.5 mMの最終濃度で添加し、リゾチームを1.0 mg/mlの濃度まで添加した。細胞を室温で20分間インキュベートし、デオキシコール酸を1mg/ml(100mg/ml溶液1μl)まで添加し、その混合物を約15分間または粘稠になるまで37℃でインキュベートした。DNAse Iを10μg/mlまで添加し、その混合物を室温で約30分間またはそれが最早粘稠ではなくなるまでインキュベートした。
この混合物から、封入体を4℃で14,000 rpmで15分間遠心分離により回収し、上清を捨てた。ペレットを10mM EDTA(pH8.0)および0.5%TritonX-100を含む溶解緩衝液100μl中で再度懸濁させた。室温で5分後、封入体を前記のようにしてペレット化し、上清をその後の分析のために貯蔵した。封入体を蒸留水50μl中で再度懸濁させ、5μlをSDSゲルローディング緩衝液(これは封入体を溶解する)と合わせ、上清のアリコートとともに電気泳動で分析した。
クローン化タンパク質が封入体中に存在する場合は、開裂活性およびポリメラーゼ活性を評価するためにそれを放出させる。可溶化の方法は特定の活性と適合性である必要がある。様々な可溶化方法が様々なタンパク質に適しており、種々の方法がMolecular Cloning (Sambrookら, 上記文献)に説明されている。以下は、本発明の開発に使用した複数の単離物に使用した改良法である。
封入体-水懸濁液20μlを室温で4分間にわたって14,000 rpmで遠心分離によりペレット化し、上清を捨てた。封入体を更に洗浄するために、ペレットを2M尿素を含む溶解緩衝液20μl中で再度懸濁させ、室温で1時間インキュベートした。次に洗浄した封入体を8M尿素を含む溶解緩衝液2μl中で再度懸濁させた。封入体が溶解するにつれて、その溶液が目視で透明になった。未溶解破砕物を室温で4分間にわたって14,000 rpmで遠心分離により除去し、抽出物上清を新しいチューブに移した。
尿素濃度を低下させるために、抽出物をKH2PO4中で希釈した。180μlの50mM KH2PO4(pH9.5)、1mM EDTAおよび50mM NaClを含む新しいチューブを調製した。抽出物のアリコート2μlを添加し、素早くボルテックスして混合した。抽出物の全てが合計10回の添加で添加されてしまうまで、この工程を繰り返した。その混合物を室温で15分間放置し、その間にしばしば若干の沈殿が生じる。沈殿を室温で15分間にわたって14,000 rpmで遠心分離により除去し、上清を新しいチューブに移した。KH2PO4溶液中200μlのタンパク質に、飽和(NH4)2SO4 140-200μlを添加し、その結果、得られる混合物は約41%〜50%飽和(NH4)2SO4であった。その混合物を氷で30分間冷却してタンパク質を沈殿させ、次にタンパク質を室温で4分間にわたって14,000 rpmで遠心分離により回収した。上清を捨て、ペレットを緩衝液C(20mM HEPES(pH7.9)、1mM EDTA、0.5%PMSF、25mM KClおよびそれぞれ0.5%のTween-20およびNonidet P40)20μlに溶解した。タンパク質溶液を再度4分間にわたって遠心分離して不溶性物質をペレット化し、上清を新しいチューブに分離した。1〜4μlをSDS-PAGEにより分析することにより、この方法で調製した抽出物のタンパク質含量を視覚化した。抽出物0.5〜1μlは記載したような開裂アッセイおよび重合アッセイで試験した。
E.ヌクレアーゼの存在および合成活性に関するタンパク質分析
上記され、図3および4に示された5'ヌクレアーゼを下記の方法により分析した。
1.構造特異的ヌクレアーゼアッセイ
候補である修飾ポリメラーゼを、構造体特異的開裂を触媒するその能力を試験することにより、5'ヌクレアーゼ活性について試験した。本明細書に使用される“開裂構造体"という用語は、DNAPの5'ヌクレアーゼ活性による開裂のための基質である核酸構造体を意味する。
ポリメラーゼを図15に示された構造を有する試験複合体に曝す。5'ヌクレアーゼ活性に関する試験は三つの反応を伴う。1)プライマー特異的開裂(図15B)を行う。何となれば、それが反応の塩濃度の変化に対し比較的非感受性であり、それ故、修飾酵素が活性に必要とするどのような溶質条件でも行い得るからである。これは、一般に未修飾ポリメラーゼに好適な条件と同じである。2)同様のプライマー特異的開裂をプライマー非依存性開裂を可能にする緩衝液、すなわち、酵素がこれらの条件下で生存することを実証するための低塩濃度緩衝液中で行い、かつ3)プライマー非依存性開裂(図15A)を同じ低塩濃度緩衝液中で行う。
分岐二重鎖を図15に示した基質鎖と鋳型鎖の間で形成する。本明細書に使用される“基質鎖"という用語は、5'ヌクレアーゼ活性により仲介される開裂が起こる核酸鎖を意味する。基質鎖は5'ヌクレアーゼ開裂の基質として利用できる分岐複合体中の上側の鎖として常に示される(図15)。本明細書に使用される“鋳型鎖"という用語は、基質鎖に少なくとも部分相補的であり、基質鎖にアニールして開裂構造体を形成する核酸の鎖を意味する。鋳型鎖は分岐開裂構造体の下側の鎖として常に示される(図15)。プライマー依存性開裂が試験される時のように、プライマー(長さ19〜30ヌクレオチドの短いオリゴヌクレオチド)を複合体に添加する場合、鋳型鎖の3'腕にアニールするように設計される(図15B)。その反応に使用されるポリメラーゼが合成活性を有する場合、このようなプライマーは鋳型鎖に沿って伸長されるはずである。
開裂構造体は一本鎖ヘアピン分子としてつくられてもよく、標的の3'末端および図15Eに示すようなループとして結合されたパイロットの5'末端を有する。また、これらの試験には、3'腕に相補的のプライマーオリゴヌクレオチドが必要とされ、その結果、プライマーの存在に対する酵素の感受性を試験し得る。
試験開裂構造体を形成するのに使用される核酸は化学的に合成でき、または通常の組換えDNA技術により作製し得る。後者の方法により、その分子のヘアピン部分は、互いに隣接するが逆向きの短いDNAセグメントの二重コピーをクローニングベクターに挿入することによりつくることができる。次に、この逆向きのリピートを含み、短い(約20ヌクレオチド)の対を形成していない5'腕および3'腕を得るのに充分なフランキング配列を含む二本鎖断片が、制限酵素消化、または5'エキソヌクレアーゼを欠いている酵素(例えば、AmpltaqTMDNAポリメラーゼのStoffel断片、VentTMDNAポリメラーゼ)で行われるPCRによりベクターから放出し得る。
試験DNAは、放射性同位元素または非同位元素タグで、いずれかの末端、または内部を標識し得る。ヘアピンDNAが合成一本鎖またはクローン化二本鎖であるかを問わないで、DNAを使用前に加熱して全ての二重鎖を溶融する。氷上で冷却した時、図19Eに示された構造体が形成され、この構造体はこれらのアッセイを行うのに充分な時間、安定である。
プライマー特異的開裂(反応1)について試験するために、検出可能な量の試験分子(典型的には1-100 fmoleの32P標識ヘアピン分子)および10〜100倍モル過剰のプライマーを、試験酵素と適合性であることが知られている緩衝液に入れる。反応2について、プライマー特異的開裂がプライマー非依存性開裂を可能にする条件下で行われる場合、同じ量の分子を、pH、酵素安定剤(例えば、ウシ血清アルミン、ノニオン系界面活性剤、ゼラチン)および還元剤(例えば、ジチオスレイトール、2-メルカプトエタノール)に関して反応1に使用された緩衝液と同じであるが、1価陽イオン塩を20mM KClで置換する溶液に入れる。20mM KClがプライマー非依存性開裂に最適と実証されている。塩の非存在下で通常作用するDNAPEc1の如き酵素のための緩衝液は、この濃度を達成するためには添加しない。プライマー非依存性開裂(反応3)について試験するために、プライマーではなく、同じ量の試験分子を反応2に使用されたのと同じ緩衝条件のもとに一緒にする。
次に三つの反応全てを、酵素対試験複合体のモル比が約1:1であるのに充分な酵素にさらす。酵素安定性または複合体安定性により許容される温度以下の範囲の温度(これは好熱性菌からの酵素にとって80℃以下である)で、開裂を可能にするのに充分な時間(10〜60分)、反応液をインキュベートする。反応1、2および3の産物を変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、オートラジオグラフィーまたは使用した標識系に適した同等な方法により視覚化する。別の標識系として、ケミルミネセンス検出、銀染色またはその他の染色、ブロッティングおよびプロービング等が挙げられる。開裂産物の存在は、未開裂試験構造体よりも低分子量で移動する分子の存在により示す。これらの開裂産物は、候補のポリメラーゼが構造特異的5'ヌクレアーゼ活性を有することを示す。
修飾DNAポリメラーゼが天然DNAポリメラーゼの5'ヌクレアーゼ活性と実質的に同じ5'ヌクレアーゼ活性を有するか否かを測定するために、上記試験の結果を天然DNAポリメラーゼを用いて行ったこれらの試験から得られた結果と比較する。“実質的に同じ5'ヌクレアーゼ活性"は、修飾ポリメラーゼおよび天然ポリメラーゼが両方とも同じ様式で試験分子を開裂することを意味する。修飾ポリメラーゼが天然DNAポリメラーゼと同じ速度で開裂することは必要ではない。
幾つかの酵素または酵素調製物は、上記開裂条件の下で機能性であり、かつ5'ヌクレアーゼ検出を妨害し得る、他の関連した活性または夾雑物による活性(contaminating activity)を有し得る。反応条件は、基質の分解、または5'ヌクレアーゼ開裂およびその産物の他のマスキングを回避するために、これらのその他の活性を考慮して改良し得る。例えば、E.coliのDNAポリメラーゼI(Pol I)は、そのポリメラーゼ活性および5'ヌクレアーゼ活性の他に、DNAを3'から5'方向に分解し得る3'エキソヌクレアーゼ活性を有する。従って、図15E中の分子が上記条件下でこのポリメラーゼにさらされる時、3'エキソヌクレアーゼ活性は対を形成していない3'腕を速やかに除去して、5'エキソヌクレアーゼ開裂の基質に必要とされる分岐構造体を破壊し、開裂は検出されない。その構造体を開裂するPol Iの真の能力は、3'エキソヌクレアーゼが、条件(例えば、pH)の変化、突然変異、またはその活性にとっての競合物質の添加により阻害される場合に、明らかにし得る。Pol Iによる開裂反応に対して、図15E構造体に無関係の、500pmoleの一本鎖競合オリゴヌクレオチドを添加すると、5'腕の5'エキソヌクレアーゼの遊離を妨害せずに、図15E構造体の3'腕の消化が有効に抑制される。競合物質の濃度は重要ではないが、その反応の期間にわたって3'エキソヌクレアーゼを占有するのに充分に高くすべきである。
試験分子の同様の分解は、候補ポリメラーゼ調製物中の混入成分により引き起こされるかもしれない。構造体特異的ヌクレアーゼ反応を、候補ヌクレアーゼの純度を測定し、研究されるポリメラーゼ調製物への試験物質の過剰暴露および過少暴露の間のウィンドウを見出すために、幾つかのセットで実行することができる。
上記の修飾ポリメラーゼを、以下のようにして5'ヌクレアーゼ活性について試験した。反応1を、10mM Tris-HCl(pH8.5)、20℃、1.5 mM MgCl2および50mM KClの緩衝液中で行い、反応2では、KCl濃度を20mMに低下させた。反応1および2では、図15Eに示された試験基質分子10fmoleを1pmoleの指示されたプライマーおよび修飾ポリメラーゼを含む抽出物(上記のようにして調製した)0.5〜1.0μlと合わせた。次にこの混合物を、55℃で10分間インキュベートした。試験した変異体ポリメラーゼの全てについて、これらの条件は完全な開裂を得るのに充分であった。図15Eに示された分子を5'末端で標識した時、25ヌクレオチド長の遊離された5'断片を20%ポリアクリルアミドゲル(19:1架橋)で簡易に分離した。クローン3C-Fおよび4Bは、未修飾DNAポリメラーゼの開裂に匹敵する構造特異的開裂を示した。更に、クローン3E、3Fおよび3Gは、上記のように3'腕の非存在下でDNAを開裂する、付加された能力を有する。代表的な開裂反応を図16に示す。
図16に示された反応について、変異体ポリメラーゼクローン3E(Taq変異体)および4B(Tfl変異体)を、図15Eに示されたヘアピン基質分子を開裂するそれらの能力について試験した。基質分子を5'末端で32P標識した。10fmoleの熱変性した、末端標識基質DNAおよび0.5ユニットのDNAPTaq(レーン1)もしくは0.5μlの3Eもしくは4B抽出物(図16、レーン2〜7、抽出物を上記のようにして調製した)を、10mM Tris-HCl(pH8.5)、50mM KClおよび1.5mM MgCl2を含む緩衝液中で一緒に混合した。最終反応容積は10μlであった。レーン4および7に示された反応液はその他に50μMのそれぞれのdNTPを含む。レーン3、4、6および7に示された反応液は、0.2μMのプライマーオリゴヌクレオチド(基質の3'腕に相補的かつ図15Eに示される)を含む。反応液を55℃で4分間インキュベートした。反応を反応容積10μl当たり20mM EDTAと0.05%マーカー色素を含有する95%ホルムアルデヒド8μlの添加により停止した。次にサンプルを12%変性アクリルアミドゲルにアプライした。電気泳動後に、ゲルをオートラジオグラフィーにかけた。図16は、クローン3Eおよび4Bが天然DNAPTaqの活性と同様の開裂活性を示すことを示す。或る種の開裂がプライマーの非存在下でこれらの反応中に起こることを注目されたい。ここに使用した構造体(図15E)の如き長いヘアピン構造体を、50mM KClを含む緩衝液中で行われる開裂反応に使用する時、低レベルのプライマー非依存性開裂が見られる。更に高い濃度のKClはこれらの条件下でこのプライマー非依存性開裂を抑制するが、排除しない。
2.合成活性に関するアッセイ
修飾酵素をアッセイ系に添加することにより、修飾酵素またはタンパク質分解断片の能力を評価する。このアッセイ系では、プライマーが鋳型にアニールし、DNA合成が添加酵素により触媒される。多くの標準的な実験技術でこのようなアッセイが使用される。例えば、ニックトランスレーションおよび酵素の配列決定は、ポリメラーゼ分子によるDNA鋳型に沿ったプライマーの伸長を伴う。
修飾酵素の合成活性を測定するのに好ましいアッセイでは、オリゴヌクレオチドプライマーを一本鎖DNAの鋳型(例えば、バクテリオファージM13DNA)にアニールし、プライマー/鋳型二重鎖を、当該修飾ポリメラーゼ、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)並びに未修飾酵素または天然酵素に適していることが知られている緩衝液および塩の存在下でインキュベートする。プライマー伸長(変性ゲル電気泳動による)またはdNTP取込み(酸沈殿またはクロマトグラフィーによる)の検出が、活性ポリメラーゼの指標である。同位元素標識または非同位元素標識がプライマーまたはdNTPとして含まれ、重合産物の検出を促進することが好ましい。合成活性は成長するDNA鎖に取込まれた遊離ヌクレオチドの量として定量され、特定反応条件下である単位時間当たりで取込まれた量として表される。
合成活性に関するアッセイの代表的な結果を図17に示す。変異体DNAPTaqクローン3B-Fの合成活性を以下のようにして試験した。下記の緩衝液のマスター混合物をつくった。1.2X PCR緩衝液(1X PCR緩衝液は、50mM KCl、1.5mM MgCl2、10mM Tris-Cl、pH 8.5、およびそれぞれ0.05%のTween 20およびNonidet P40)、それぞれ50μMのdGTP、dATPおよびdTTP、5μM dCTPおよび0.125μMの600Ci/mmolのα-32P-dCTPを含有する。この混合物をその最終容積に調節する前に、それを二つの等しいアリコートに分けた。このアリコートの一方に、50μlのまでの水を加えて上記の濃度とした。他方には、一本鎖M13mp18 DNA(約2.5 pmoleまたは0.05μM最終濃度)および250pmoleのM13配列決定プライマー(5μM最終濃度)および蒸留水を加えて、最終容量を50μlとした。それぞれのカクテルを75℃に5分間温め、次に室温まで冷却した。これにより、DNAを含む混合物中で、プライマーをDNAにアニールさせた。
それぞれのアッセイについて、DNAを含むカクテル4μlを、記載されたようにして調製された変異体ポリメラーゼ1μl、または1ユニットの DNAPTaq (Perkin Elmer)を含むdH2O1μlと合わせた。“DNAなし"の対照を、DNAPTaqの存在下で合わせ(図17、レーン1)、また酵素に代えて水を使用して“酵素なし"の対照を行った(レーン2)。それぞれの反応液を混合し、次に室温(約22℃)で5分間インキュベートし、次に55℃で2分間、次に72℃で2分間インキュベートした。この段階インキュベートを行って、72℃より低い至適温度を有し得るすべての突然変異体における重合を検出した。最終インキュベーション後に、チューブをさっと遠心して縮合物を回収し、氷の上に置いた。それぞれの反応液1μlをポリエチレンイミン(PEI)セルロース薄層クロマトグラフィープレートの下端から1.5cmの位置にオリジンとしてスポットし、乾燥させた。緩衝液のフロントがオリジンから約9cm上がるまで、クロマトグラフィープレートを0.75M NaH2PO4(pH3.5)中に置いた。プレートを乾燥させ、プラスチックラップで包み、蛍光インキでマークし、X線フィルムに露光した。最初にスポットした位置にとどまっているカウントとして取込みを検出し、一方、取込まれなかったヌクレオチドはオリジンからこの塩溶液により移動された。
二つの対照レーンでのカウントの位置の比較により、変異体調製物中の重合活性の欠如を確認した。修飾DNAPTaqクローンの中で、クローン3Bのみが図17に示されるように残存合成活性を保持する。
実施例3
耐熱性DNAポリメラーゼに由来する5'ヌクレアーゼが
短いヘアピン構造体を特異的に開裂させることができる
ヘアピン構造体を開裂させて、検出分子として適した開裂されたヘアピン構造体を作製する5'ヌクレアーゼの能力を試験した。ヘアピン試験分子の構造および配列を図18A(配列番号15)に示す。ヘアピン試験分子の3'腕上で、その相補的配列にアニールしたオリゴヌクレオチド(図18A中のプライマー、配列番号22)を示す。ヘアピン試験分子は、ポリメラーゼ連鎖反応において標識T7プロモータープライマーを使用して、32Pで単一末端標識された。標識はヘアピン試験分子の5'腕に存在し、図18A中星印により表される。
10fmoleの熱変性された末端標識ヘアピン試験分子を、0.2μMのプライマーオリゴヌクレオチド(ヘアピンの3'腕に相補的)、50μMの各dNTPおよび0.5ユニットのDNAPTaq (Perkin Elmer)または5'ヌクレアーゼを含む抽出物(上記のようにして調製した)0.5μlを、10mM Tris-HCl(pH8.5)、50mM KClおよび1.5 mM MgCl2を含む総量10μlの緩衝液に添加することにより、開裂反応を行った。レーン3、5および7に示された反応をdNTPの非存在下で行った。
反応液を55℃で4分間インキュベートした。反応を、反応量10μl当たり、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含む95%ホルムアミド8μlの添加により55℃で停止した。サンプルを加熱せず、その後に変性ポリアクリルアミドゲル(10%ポリアクリルアミド、19:1架橋、および7Mの尿素を含む89mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、2.8 mM EDTA)にロードした。サンプルを加熱せずに、一本鎖ヘアピン分子および再度二重鎖にされた未開裂ヘアピン分子を分離した。
図18Bは、オリゴヌクレオチドがヘアピンの一本鎖3'腕にアニールされて開裂産物の単一種を生じる時に、検出可能な合成活性を欠いている変化されたポリメラーゼがヘアピン構造体を開裂することを示す(図18B、レーン3および4)。レーン3および4に示された、クローン3Dの如き5'ヌクレアーゼはdNTPの存在下でさえも単一の開裂産物を生じる。残存量の合成活性(野生型活性の1%未満)を保持する5'ヌクレアーゼは、多種の開裂産物を生じる。何となれば、ポリメラーゼがヘアピンの3'腕にアニールされたオリゴヌクレオチドを伸長させ、それにより開裂の部位を移動させることができるからである(クローン3B、レーン5および6)。天然DNATaqは残存合成活性を保持する変異体ポリメラーゼよりも更に多くの種の開裂産物を生じ、dNTPの存在下で、天然ポリメラーゼ中の高レベルの合成活性によりヘアピン構造体を二本鎖形態に更に変換する(図18B、レーン8)。
実施例4
直鎖状核酸基質の開裂
以上から、天然(すなわち、“野生型”)耐熱性DNAポリメラーゼは特定の様式でヘアピン構造体を開裂することができ、この発見が検出アッセイに成功裏に応用できることが明らかなはずである。この実施例では、本発明の変異体DNAPを図20Aに示された3種の異なる開裂構造体に対して試験する。図20A中の構造体1は、単純な一本鎖206-merである(その調製および配列情報は実施例1Cで説明した)。構造体2および3は二重鎖である。構造体2は図11A(下側)に示されたのと同じヘアピン構造体であり、一方、構造体3は構造体2のヘアピン部分が除去されている。
開裂反応液は、合計容積10μlの10mM Tris-HCl、pH8.3、100mM KClおよび1 mM MgCl2中に0.01 pmoleの得られた基質DNAおよび1pmoleのパイロットオリゴヌクレオチドを含んでいた。反応液を55℃で30分間インキュベートし、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含む95%ホルムアミド8μlの添加により停止した。サンプルを75℃で2分間加熱し、その直後に7M尿素を含む45mM Tris・ホウ酸、pH 8.3、1.4mM EDTAの緩衝液中の10%ポリアクリルアミドゲル(19:1架橋)で電気泳動にかけた。
結果をオートラジオグラフィーにより視覚化し、以下に示す酵素とともに図20Bに示す。Iは天然Taq DNAPであり、IIは天然Tfl DNAPであり、IIIは図3Eに示されたCleavase(登録商標)BXであり、IVは図3Fに示されたCleavase(登録商標)BBであり、Vは図4Bに示された突然変異体であり、またVIは図3Gに示されたCleavase(登録商標)BNである。
構造体2を使用して比較を“標準化”する。例えば、30分間に構造体2で同量の開裂を生じさせるには、50ngのTaq DNAPおよび300 ngのCleavase(登録商標)BNを要することがわかった。これらの条件下では、天然Taq DNAPは構造体3を有意な程度まで開裂することができない。天然Tfl DNAPは多種の産物を生じるような様式で構造体3を開裂させる。
対照的に、試験した突然変異体の全てが構造体3の直鎖状二重鎖を開裂する。この知見は、突然変異体DNAポリメラーゼのこの特徴が好熱性種にわたって耐熱性ポリメラーゼに合致するものであることを示す。
実施例5
耐熱性DNAPによる5'エキソヌクレアーゼ加水分解的開裂(「ニブリング」)
耐熱性DNAP(本発明のものを含む)は、直鎖状二重鎖核酸構造体の5'末端をニブリングすることが可能な真の5'エキソヌクレアーゼを有することが判明した。本実施例では、206塩基対のDNA二重鎖基質(実施例1C参照)を再度使用する。この場合、上記基質はポリメラーゼ連鎖反応において1個の32P標識プライマーおよび1個の非標識プライマーを用いて生成された。開裂反応は、全容量10μlの10 mM Tris-Cl, pH 8.5, 50 mM KCl, 1.5 mM MgCl2中の、0.01 pmolの熱変性させ、末端標識した基質DNA(非標識鎖をも有する)、5 pmolのパイロットオリゴヌクレオチド(図11Aのパイロットオリゴ参照)および0.5ユニットのDNAP Taqまたは大腸菌抽出物(上記参照)中の0.5μlのCleavase(登録商標)BBからなっていた。
前もって温めておいた酵素の添加により65℃で反応を開始させ、次に30分間最終インキュベーション温度に変えた。結果を図21Aに示す。レーン1〜4のサンプルは天然のTaq DNAPの存在下における結果であり、レーン5〜8はCleavase(登録商標)BBの存在下における結果を示す。レーン1、2、5および6の反応は65℃で実施し、レーン3、4、7及び8の反応は50℃で実施した。そして、すべての反応は20 mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する8μlの95%ホルムアミド溶液の添加により停止させた。45mM Tris・ホウ酸、pH 8.3、1.4mM EDTAの緩衝液に溶解した、7M尿素を含む10%アクリルアミドゲル(19:1架橋)中を泳動させる電気泳動の直前に、サンプルを2分間75℃に加熱した。反応1、2、5および6において予測される産物は長さが85ヌクレオチドである。反応3および7において予測される産物は長さが27ヌクレオチドである。反応4および8はパイロットを添加せずに実施され、産物の長さは206ヌクレオチドに留まるはずである。24ヌクレオチドに見られる微かなバンドは、PCR由来の残留末端標識化プライマーである。
これらの条件下でCleavase(登録商標)BBが非常に少ない種において標識の全てを出現させることは驚くべき結果であり、この酵素が基質を完全に加水分解した可能性を示唆している。レーン5〜8(欠失突然変異体を用いて実施した反応)において見られた最も速く移動するバンドの成分を確認するため、206塩基対二重鎖のサンプルをT7遺伝子6エキソヌクレアーゼ(USB)または子ウシ腸アルカリホスファターゼ(Promega)を用いて製造者の指示にしたがって処理し、標識化モノヌクレオチド(図21Bのレーンa)または遊離の32P標識無機リン酸塩(図21Bのレーンb)をそれぞれ生成した。これらの産物およびパネルAのレーン7の産物を、45mM Tris・ホウ酸、pH 8.3、1.4mM EDTAの緩衝液に溶解した、7M尿素を含有する20%アクリルアミドゲル(19:1架橋)中を短時間電気泳動させて分画した。このように、Cleavase(登録商標)BBは基質をモノヌクレオチドに変換することができる。
実施例6
ニブリングは二重鎖依存性である
Cleavase(登録商標)BBによるニブリングは、二重鎖依存性である。本実施例では、非標識206bp断片を鋳型として用いた、非標識dNTPの4種全部と組み合わせたα-32P標識dCTPを組み入れる15サイクルのプライマー伸長により、前記206-merの内部的に標識された一本鎖を生成した。45mM Tris・ホウ酸、pH 8.3、1.4mM EDTAの緩衝液に溶解した非変性6%ポリアクリルアミドゲル(29:1架橋)中の電気泳動により、一本鎖および二本鎖産物を分画し、オートラジオグラフィーにより可視化し、ゲルから切り出し、受動拡散により溶出し、エタノール沈殿により濃縮した。
開裂反応は、全容量40μlの10mM Tris-Cl, pH 8.5, 50 mM KCl, 1.5 mM MgCl2中の、0.04ピコモルの基質DNAおよび2μlのCleavase(登録商標)BB(上記の大腸菌抽出物中)からなっていた。前もって温めておいた酵素の添加により反応を開始させた。5、10、20および30分後に10μlのアリコートを取り、30mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含む8μlの95%ホルムアミド溶液を含有する用意した試験管に移した。45mM Tris・ホウ酸、pH 8.3、1.4mM EDTAの緩衝液に溶解した、7M尿素を含有する10%アクリルアミドゲル(19:1架橋)中を泳動させる電気泳動の直前に、サンプルを2分間75℃に加熱した。図22に示すように、結果をオートラジオグラフィーにより可視化した。明らかに、Cleavase(登録商標)BBによる開裂は二重鎖構造に依存する。206-mer二重鎖の開裂は完全であるのに対し、一本鎖構造の開裂は検出されない。
実施例7
ニブリングは標的指令され得る
本発明のDNAPのニブリング活性は、検出アッセイにおいてうまく用いることができる。そのようなアッセイの1つの実施形態を図23に示す。このアッセイでは、標的配列に特異的な標識化オリゴを用いた。このオリゴは標的に対して過剰であるため、ハイブリダイゼーションは迅速である。この実施形態では、該オリゴは2つのフルオロセイン標識を含み、それらフルオロセイン標識同士が該オリゴ上で接近することにより発光が消滅する。DNAPが該オリゴをニブリングできるようになると、それらの標識は分離し、検出可能となる。短くなった二本鎖は、不安定になり、解離する。重要なことは、この時点で標的が、無傷の標識化オリゴと自由に反応することである。所望のレベルの検出が達成されるまで、この反応を続けてもよい。ラムダ・エキソヌクレアーゼを用いる類似の、しかし異なるタイプのサイクル・アッセイ(cycling assay)が記載されている(C.G. CopleyおよびC. Boot, BioTechniques 13:888 (1992)を参照されたい。
そのようなアッセイが成功するかどうかは、特異性によって決まる。つまり、オリゴは特定の標的にハイブリダイズしなければならない。さらに、このアッセイは感度がよいことも好ましい。オリゴは、理想的には、少量の標的を検出可能であるべきである。図24Aには、プラスミド標的配列に結合した5’-末端32P標識化プライマーが示されている。この場合、該プラスミドはpUC19(市販されている)であり、このプラスミドは、2分間沸騰させ、次いで急冷することによって熱変性されていた。該プライマーは21マー(21-mer)(配列番号28)であった。用いた酵素は、Cleavase(登録商標)BX(5×10-3μlの抽出物と同等の希釈物)(100mM KCl、10mM Tris-Cl、pH 8.3、2mM MnCl2中)であった。この反応は、ゲノム・バックグラウンドDNA(ニワトリ血液由来)を用いて、もしくは用いずに55℃で16時間行った。20mM EDTAおよびマーカー色素を含有する95%ホルムアミド8μlを添加することにより、反応を停止させた。
この反応の産物は、図24Bに示すように、PAGE(10%ポリアクリルアミド、19:1架橋、1×TBE)により分離した。レーン「M」は標識化21マー(21-mer)を含有する。レーン1〜3は特異的な標的を含有しないが、但しレーン2および3はそれぞれ100ngおよび200ngのゲノムDNAを含有している。レーン4、5および6は全て、それぞれ0ng、100ngまたは200ngのゲノムDNAと共に特異的な標的を含有する。明らかに、レーン4、5および6では、バックグラウンドDNAの存在または量に関係なく、モノヌクレオチドへの変換が起こっている。したがって、ニブリングは標的指令され、かつ特異的であり得る。
実施例8
Cleavaseの精製
上記のように、発現された耐熱性タンパク質(すなわち、5'ヌクレアーゼ)を細菌細胞の粗抽出物により単離した。つぎに、沈殿した大腸菌タンパク質を他の細胞破砕物と共に遠心により除去した。本実施例では、BNクローンを発現する細胞を培養し、回収した(500 g)。大腸菌各1グラム(湿重量)に対し、3 mlの溶菌緩衝液(50 mM Tris-HCl, pH 8.0, 1 mM EDTA, 100μM NaCl)を添加した。200μg/mlのリゾチームを用いて室温で20分間細胞を溶菌させた。次に、最終濃度が0.2%となるようにデオキシコール酸を添加し、混合物を室温で15分間インキュベートした。
溶菌物を約6〜8分間0℃で超音波処理した。沈殿物を遠心分離(39,000 gで20分間)により除去した。上清にポリエチレンイミンを添加し(0.5%)、混合物を氷上で15分間インキュベートした。この混合物を遠心分離にかけ(5,000 gで15分間)上清を回収した。これを30分間60℃で加熱し、次に再度遠心分離にかけ(5,000 gで15分間)上清を再度回収した。
35%硫酸アンモニウムを用いて、この上清を4℃で15分間沈殿させた。次に混合物を遠心分離にかけ(5,000 gで15分間)上清を除去した。次に、沈殿物を0.25 M KCl, 20 mM Tris, pH 7.6, 0.2% Tweenおよび0.1 EDTAに溶解し、結合緩衝液(8X結合緩衝液は40 mMイミダゾール、4 M NaCl, 160 mM Tris-HCl, pH 7.9よりなる)を外液として透析した。
次に、Ni++カラム(Novagen)を用いて可溶化タンパク質を精製した。結合緩衝液をカラム床の頂部まで注いで十分に流出させ、次に、調製した抽出物をカラムにロードした。効率的精製には1時間あたり約10カラム容量の流速が最適である。流速が速すぎると、溶出画分を汚染する不純物が多くなる。
25 ml(10容量)の1X結合緩衝液でカラムを洗浄し、次に15 ml(6容量)の1X洗浄緩衝液(8X洗浄緩衝液は480 mMイミダゾール、4M NaCl, 160 mM Tris-HCl, pH 7.9よりなる)で洗浄した。15 ml(6容量)の1×溶出緩衝液(4×溶出緩衝液は4 mMイミダゾール、2 M NaCl, 80 mM Tris-HCl, pH 7.9よりなる)を用いて結合タンパク質を溶出した。次に、35%硫酸アンモニウムを用いて上記のようにタンパク質を再沈殿させる。次に沈殿物を溶解して、20 mM Tris, 100 mM KCl, 1 mM EDTAを外液として透析した。溶液をTween 20およびNP-40のそれぞれ0.1%とし、4℃で保存した。
実施例9
開裂反応における種々の二価陽イオンの使用は得られる開裂産物の性質に影響を及ぼす
テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)DNAポリメラーゼ(DNAPTaq)のC末端重合ドメインの修飾および/または欠失により得られた5’ヌクレアーゼを比較すると、図3B-Gに示すとおり、開裂部位の上流に位置するプライマーの3’末端(図5に示すとおり)とのこれらのタンパク質の相互作用の強度において有意な相違が認められた。Pol I型DNAポリメラーゼによるこれらの構造体の開裂の説明において[実施例1およびLyamichevら, (1993) Science 260:778]、プライマーの不存在下では、二本鎖領域と一本鎖の5’および3’アームとの結合の位置が開裂部位を決定するが、プライマーの存在下では、プライマーの3’末端の位置が開裂部位の決定因子になることが認められた。3’末端に対するこの親和性は、DNAポリメラーゼの合成機能に符合するものであると仮定された。
図20Aに示す構造体2を用いて、いくつかの異なる溶液[例えば、種々の塩(KClまたはNaCl)、種々の二価陽イオン(Mn2+またはMg2+)などを含有する溶液]と種々の開裂反応温度の使用とを含む開裂反応における、開裂部位に近接した3’末端の影響を調べた。開裂部位付近の3’末端(先導(pilot)オリゴヌクレオチドのもの)に対する酵素(例えば、5’ヌクレアーゼを含むDNAP、修飾されたDNAPまたは5’ヌクレアーゼ)の結合が強力な反応条件では、示されている構造体が、図20Aに示されている部位で開裂される。この開裂により、不対合5’アームが遊離し、標的核酸の残部と該先導オリゴヌクレオチドの折りたたまれた3’末端との間にニックが残る。これに対して、3’末端に対するDNAP(5’ヌクレアーゼを含む)の結合が弱い反応条件では、最初の開裂は前記のとおりであったが、5’アームの遊離後は、残存した二本鎖がDNAPのエキソヌクレアーゼ機能により消化される。
3’末端に対するDNAPの結合を弱める1つの方法は、この機能の少なくともいくつかを付与するドメインの全部または一部を除去することである。実施例5に示したとおり、DNAPTaqの重合ドメインの欠失により得られる5’ヌクレアーゼのいくつかは、真のエキソヌクレアーゼ機能を増強した。
また、奥まった位置にある3’末端に対するこれらの型の酵素(すなわち、DNAPと関連しているか又はそれに由来する5’ヌクレアーゼ)の親和性は、開裂反応中に存在する二価陽イオンの種類に影響されることがある。Longleyら[Nucl. Acids Res. 18:7317 (1990)]は、DNAPTaqとの反応にMnCl2を使用すると、鋳型とアニーリングしたプライマーの5’末端からヌクレオチドを除去することが、非効率的ではあるものの、該ポリメラーゼによって可能になることを証明している。同様に、DNAPTaqまたはCleavase(登録商標) BBヌクレアーゼを含有する反応で図20Aの構造体2(前記のとおり)を使用して得られた開裂産物を調べることにより、該開裂反応においてMgCl2の代わりにMnCl2を使用すると、最初の開裂部位の下流の二本鎖のエキソヌクレアーゼ的「ニブリング(nibbling)」が生じることが認められた。いずれかの特定のメカニズムに本発明を限定するものではないが、該開裂反応においてMgCl2の代わりにMnCl2を使用すると、奥まった位置にある3’末端に対するこれらの酵素の親和性が減少すると考えられる。
すべての場合において、MnCl2の使用は5’ヌクレアーゼ機能を増強させ、Cleavase(登録商標) BBヌクレアーゼの場合には、5’ヌクレアーゼ機能が50〜100倍刺激されることが認められる。したがって、前記においては、これらの酵素のエキソヌクレアーゼ活性がMgCl2の存在下で示されたが、後記のアッセイにおいては、MgCl2の代わりにMnCl2を使用すると、50〜100倍少ない酵素の使用により、相当な量のエキソヌクレアーゼ活性が示される。これらの減少した量の酵素を、MgCl2を含有する反応混合物中で使用した場合には、ニブリングまたはエキソヌクレアーゼ活性は、実施例5〜7で認められるものほど著明でない。
後記実施例10〜39に記載の核酸検出アッセイの実施において、MgCl2またはMnCl2のいずれかの存在下で行なう反応を比較すると、同様の影響が認められる。どちらの二価陽イオンの存在下においても、インベーダー(invader)オリゴヌクレオチド(後記)の存在は、開裂部位をプローブ二本鎖中に押し込むが、MnCl2の存在下では、プローブ二本鎖が更にニブリングされ(nibbled)、3’末端標識が該プローブオリゴヌクレオチド上に存在する場合には可視化されうる産物のラダーが生じる。Mn2+を含有する反応からインベーダーオリゴヌクレオチドを除くと、該プローブは5’末端からニブリングされる。Mg2+に基づく反応は、プローブオリゴヌクレオチドの最小のニブリングを示す。これらのいずれの場合においても、該プローブの消化は、標的核酸の存在に左右される。後記実施例では、Mn2+の存在下で認められる増強したニブリング活性により生じたラダーを、プローブオリゴヌクレオチドが標的配列とハイブリダイズしたことを示す陽性指標として使用する。
実施例10
重合を行わない場合の耐熱性5’ヌクレアーゼによる侵入的5’エンドヌクレアーゼ開裂
前記実施例に記載したとおり、5’ヌクレアーゼは、分岐二本鎖中の一本鎖領域と塩基対合領域との結合部付近(通常は、塩基対合領域中に約1塩基対の位置)を開裂する。本実施例では、図26に示すとおり、対象二本鎖の5’領域と相同な3’領域を保持する上流オリゴヌクレオチドが配置されている場合には、耐熱性5’ヌクレアーゼ[本発明のもの(例えば、Cleavase(登録商標) BNヌクレアーゼ、Cleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ)を含む]は、該塩基対合領域中のより内側で開裂しうることを示す。
図26は、以下の配列よりなり、それ自身の上に折りたたまれるように設計された合成オリゴヌクレオチドを示す:5’-GTTCTCTGCTCTCTGGTCGCT GTCTCGCTTGTGAAACAAGCGAGACAGCGTGGTCTCTCG-3’(配列番号29)。このオリゴヌクレオチドは、「S-60ヘアピン」と称される。このオリゴヌクレオチドにより形成される15塩基対のヘアピンは、ループ末端内の「トリループ(tri-loop)」配列(すなわち、3個のヌクレオチドが該ヘアピンのループ部を形成する)により更に安定化される[Hirano, I.ら(1994) Nucleic Acids Res. 22(4):576]。図26はまた、P-15オリゴヌクレオチドの配列、ならびにP-15とS-60ヘアピンオリゴヌクレオチドとが共有する相補性領域の位置を示す。P-15オリゴヌクレオチドの配列は、5’-CGAGAGACCACGCTG-3’(配列番号30)である。後記で詳しく説明するとおり、図26に示す黒塗りの矢じりは、P-15オリゴヌクレオチドの不存在下でのS-60ヘアピンの開裂部位を示し、白抜きの矢じりは、P-15オリゴヌクレオチドの存在下での開裂部位を示す。矢じりのサイズは、個々の部位の相対的利用度を示す。
後続の検出のために、S-60ヘアピン分子を、その5’末端上でビオチン標識した。耐熱性5’ヌクレアーゼの存在下、かつ、P-15オリゴヌクレオチドの存在下または不存在下で、S-60ヘアピンをインキュベートした。S-60ヘアピンにより形成されうる完全な二本鎖の存在は、プライマー非依存的な様式で(すなわち、P-15オリゴヌクレオチドの不存在下での)Cleavase(登録商標) BN 5’ヌクレアーゼでの開裂により示される。S-60ヘアピン分子の5’末端からの18および19ヌクレオチド断片の遊離は、S-60ヘアピンの3’アームに何もハイブリダイズしていない場合には該開裂が一本鎖領域と二本鎖領域との結合部付近で生じることを示した(図27、レーン2)。
図27に示す反応を以下のとおりに行なった。5’でビオチン標識された20フィコモルのヘアピンDNA(配列番号29)を、0.1ngのCleavase(登録商標) BN酵素、ならびに9μlの合計容量中に各々0.5%のTween-20およびNP-40を含有する1μlの100mM MOPS(pH7.5)と一緒にした。レーン1に示す反応では、該酵素を加えず、蒸留水の添加によりその容量を補った(これを、未切断または無酵素の対照として使用した)。また、図27のレーン3に示す反応は、図26に示すS-60ヘアピン(配列番号29)の不対合3’アームとハイブリダイズしうる0.5ピコモルのP-15オリゴヌクレオチド(配列番号30)を含んでいた。
これらの反応に1滴の鉱油を重層し、該反応を95℃に15秒間加熱し、ついで37℃に冷却し、各管へ1μlの10mM MnCl2を加えることにより反応を開始した。5分後、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する6μlの95%ホルムアミドを加えることにより反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する15%アクリルアミドゲル(19:1架橋)による電気泳動の直前に、サンプルを75℃に2分間加熱した。
電気泳動後、ゲルプレートを分離し、ゲルを1個のプレート上に平坦なままで維持した。予め水中で湿らせた0.2mm孔の正に荷電したナイロンメンブレン(NYTRAN, Schleicher and Schuell, Keene, NH)を、露出したゲル上に載せた。気泡をすべて除去した。ついで2枚の3MM濾紙(Whatman)を該メンブレン上に載せ、他方のガラスプレートを再配置し、そのサンドイッチ状体をバインダークリップで締め付けた。トランスファーを一晩行なった。トランスファーの後、メンブレンをゲルから注意深くはがし、風乾した。乾燥が完了した後、メンブレン1cm2当たり0.3mlの緩衝液を使用して1.2×Sequenase Images Blocking Buffer(United States Biochemical)中でメンブレンを洗浄した。この洗浄は室温で30分間行なった。ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ複合体(SAAP, United States Biochemical)を、1:4000希釈になるまでブロッキング溶液へ直接加え、15分間攪拌した。該メンブレンをH2Oで軽く濯ぎ、ついで、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含有する1×SAAP緩衝液(100mM Tris-HCl, pH10, 50mM NaCl)0.5ml/cm2を使用して、3回洗浄した(1回の洗浄は5分間)。各洗浄の間に該メンブレンをH2Oで軽く濯いだ。ついで該メンブレンを、1mM MgCl2を含有するがSDSを含有しない1×SAAP緩衝液中で1回洗浄し、液体を完全に吐き出し、ヒートシール可能なビニル袋に入れた。滅菌ピペットを使用して、アルカリホスファターゼ用化学発光基質CDP-StarTM(Tropix, Bedford, MA)5mlをその袋へ加え、2〜3分間でメンブレン全体に分散させた。そのCDP-StarTMで処理したメンブレンをXRP X線フィルム(Kodak)に露出した(初回露出は10分間)。
得られたオートラジオグラフを図27に示す。図27で「M」と表示しているレーンは、マーカーとして働くビオチン化P-15オリゴヌクレオチドを含有している。未開裂のS-60ヘアピン(60ヌクレオチド、レーン1)およびマーカー(15ヌクレオチド、レーン「M」)のサイズ(オリゴヌクレオチド単位)、ならびにP-15オリゴヌクレオチドの存在下(レーン3)または不存在下(レーン2)でのS-60ヘアピンの開裂により得られた開裂産物のサイズ(オリゴヌクレオチド単位)が示されている。
S-60ヘアピンの相補領域は同一分子上に位置しているため、ハイブリダイゼーションを起こす(すなわち、該ヘアピンの二本鎖領域を形成させる)のに、遅延時間を実質的に全く要さないはずである。このヘアピン構造は、該酵素が該分子を配置させ開裂するよりかなり前に形成されると予想されるであろう。予想どおり、該プライマーオリゴヌクレオチドの不存在下での開裂は、二本鎖領域と一本鎖領域との結合部またはその付近で生じ、不対合5’アームを遊離した(図27、レーン2)。得られた開裂産物は、18および19ヌクレオチド長であった。
トリループを有するS-60ヘアピンの安定性は、前記実施例1に記載した「プライマー指令(primer-directed)」開裂をP-15オリゴヌクレオチドが促進するのを妨げると予想された。なぜなら、「プライマー」の3’末端は不対合のままだからである。驚くべきことに、該酵素は、P-15プライマーがS-60ヘアピンの二本鎖領域中へ「侵入(invasion)」するのを媒介するらしいことが判明した。このことは、開裂部位が二本鎖領域中へ更に3〜4塩基対移動して、より大きな産物(22および21ヌクレオチド)の遊離が図27のレーン3で認められることから明らかである。
S-60ヘアピンの正確な開裂部位を、P-15オリゴヌクレオチドの不存在下での開裂部位を示す黒塗りの矢じり、およびP-15の存在下での開裂部位を示す白抜くの矢じりにより、図26の構造体上に図示する。
これらのデータは、下流二本鎖の同様に配向した鎖の最初の数個の塩基とある程度の配列相同性を有するオリゴヌクレオチドの、3’アーム上の存在が、5’ヌクレアーゼによる開裂部位を決定する支配的な因子となりうることを示している。下流二本鎖の同様に配向した鎖の最初の数個の塩基とある程度の配列相同性を共有するオリゴヌクレオチドは、ヘアピンの二本鎖領域に侵入すると思われるので、それを「インベーダー(invader)」オリゴヌクレオチドと称することにする。後記実施例で示すとおり、二本鎖領域が同一分子(すなわちヘアピン)上に存在するか否か、あるいは該二本鎖が2本の分離した核酸鎖間で形成されるか否かに無関係に、インベーダーオリゴヌクレオチドは二本鎖核酸領域に侵入(または置換)すると思われる。
実施例11
インベーダーオリゴヌクレオチドは予め形成されたプローブ/標的二本鎖中の開裂部位を移動させる
実施例10では、ヘアピン分子上に存在する二本鎖領域を5’ヌクレアーゼが開裂する部位を、インベーダーオリゴヌクレオチドが移動させうることを示した。本実施例では、インベーダーオリゴヌクレオチドが、2本の分離した核酸分子鎖間で形成される二本鎖領域内の開裂部位を移動させる能力を調べた。
一本鎖環状M13mp19分子を含む一本鎖標的DNAと標識(フルオレセイン)プローブオリゴヌクレオチドとを、二本鎖の形成を促進する塩(KCl)および二価陽イオン(Mg2+またはMn2+)を含有する反応緩衝液の存在下で混合した。このプローブオリゴヌクレオチドは、標的分子(例えば、M13mp19)に沿う領域と相補的な標識オリゴヌクレオチドを意味する。そのプローブと標的とがアニーリングした後で、第2オリゴヌクレオチド(未標識)を該反応へ加えた。第2オリゴヌクレオチドは、プローブオリゴヌクレオチドが結合する領域の下流に位置する標的の領域に結合する。この第2オリゴヌクレオチドは、標的分子のもう1つの領域と相補的な配列を含有する。第2オリゴヌクレオチドが、標的に沿う配列の一部と相補的な領域を含有しており、その領域にプローブオリゴヌクレオチドも結合する場合、この第2オリゴヌクレオチドはインベーダーオリゴヌクレオチドと称される(図28cを参照されたい)。
図32は、M13mp19標的分子(示されている全3個の構造体中の下側の鎖)に沿う領域に対する2個のオリゴヌクレオチドのアニーリングを示す。図28には、M13mp19分子の52ヌクレオチドの部分のみを示す。この52ヌクレオチドの配列を配列番号31に記載する。プローブオリゴヌクレオチドは、3’末端にフルオレセイン標識を含有する。該プローブの配列は、5’-AGAAAGG AAGGGAAGAAAGCGAAAGG-3’(配列番号32)である。図28では、インベーダーオリゴヌクレオチドを包含する第2オリゴヌクレオチドを含む配列に下線を付している。図28aでは、配列5’-GACGGGGAAAGCCGGCGAACG-3’(配列番号33)を有する第2オリゴヌクレオチドは、プローブオリゴヌクレオチド(フルオレセインまたは「Fluor」で標識)のものとは異なる標的分子下流領域と相補的であり、第2の上流オリゴヌクレオチドと図28aに示す構造体に対するプローブとの間には間隙がある。図28bでは、配列5’-GAAAGCCGGCGAACGTGGCG-3’(配列番号34)を有する第2の上流オリゴヌクレオチドは、プローブオリゴヌクレオチドのものとは異なる標的分子領域と相補的であるが、この場合、第2オリゴヌクレオチドとプローブオリゴヌクレオチドとは互いに隣接している(すなわち、第2の上流オリゴヌクレオチドの3’末端は、プローブの5’末端と直接隣接しており、このために、これらの2つのオリゴヌクレオチド間には間隙が存在しない)。図28cでは、第2の上流オリゴヌクレオチド[5’-GGCGAACGTGGCGAGAAAGGA-3’(配列番号35)]とプローブオリゴヌクレオチドとは、標的分子に対する相補性領域を共有している。したがって、該上流オリゴヌクレオチドは、下流プローブの最初の数個の塩基と同一の配列を有する3’アームを有する。この場合、該上流オリゴヌクレオチドは、「インベーダー」オリゴヌクレオチドと称される。
該インベーダーの添加前に形成されるプローブ/標的二本鎖における開裂パターンに対するインベーダーオリゴヌクレオチドの存在の効果を調べた。該プローブを標的とアニーリングさせた後に、インベーダーオリゴヌクレオチドおよび酵素を加え、該プローブの開裂の位置および程度を調べて、a)該インベーダーがプローブの特定の内部領域へ開裂部位を移動させうるか否か、b)プローブ配列の熱サイクル(thermal cycling)、重合またはエキソヌクレアーゼ除去の不存在下であっても該反応が経時的に特異的開裂産物を蓄積しうるか否かを判定した。
反応は以下のとおりに行なった。各20μlの2つの酵素混合物を調製した。これらの混合物は、該混合物4μl当たり50ピコモルの示されているインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)を含む又は含まない2μlのCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ抽出物(実施例2に記載のとおりに調製したもの)を含有するものであった。図29に示す8つの反応のそれぞれについて、150フィコモルのM13mp19一本鎖DNA(Life Technologies, Inc.より入手可能)を5ピコモルのフルオレセイン標識プローブ(配列番号32)と一緒にして、図28cに示す構造体を作製した[ただし、インベーダーオリゴヌクレオチドは存在しない(プローブ/標的混合物)]。該プローブ/標的混合物の半分(4本の管)を、各々0.5%のTween-20およびNP-40を含有する1μlの100mM MOPS(pH7.5)、0.5μlの1M KClならびに0.25μlの80mM MnCl2と一緒にし、蒸留水で6μlの容量とした。プローブ/標的混合物の第2の組を、各々0.5%のTween-20およびNP-40を含有する1μlの100mM MOPS(pH7.5)、0.5μlの1M KClならびに0.25μlの80mM MgCl2と一緒にした。したがって、この第2の組の混合物は、第1の組の混合物中に存在するMnCl2の代わりにMgCl2を含有していた。
該混合物(緩衝液、KClおよび二価陽イオンと共にプローブ/標的を含有するもの)を、1滴のChill Out(登録商標)蒸発防止剤で覆い、60℃(5分間)にすることによりアニーリングさせた。インベーダーオリゴヌクレオチドを含有しない4μlの前記酵素混合物を反応に加え、その産物を図29のレーン1、3、5および7に示す。図29のレーン2、4、6および8に示す産物を与える反応には、同量の酵素をインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)と混合した。反応1、2、5および6は60℃で5分間インキュベートし、反応3、4、7および8は60℃で15分間インキュベートした。
20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する8μlの95%ホルムアミドを加えることにより、すべての反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する20%アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動の直前に、サンプルを90℃に1分間加熱した。電気泳動後、Hitachi FMBIO蛍光イメージャー(imager)を使用して反応産物を可視化し、その結果を図29に示す。蛍光標識されたオリゴヌクレオチドを電気泳動し蛍光イメージャー上で画像化した場合、全レーンの図29における塩の前(salt front)の位置またはその付近に認められる非常に低分子量の蛍光物質および他の蛍光画像が観察される。この物質は、開裂反応の産物ではない。
これらの反応でMnCl2を使用した場合(レーン1〜4)には、実施例6に記載のとおり、Cleavase(登録商標)酵素の真のエキソヌクレアーゼまたは「ニブリング」活性が刺激される。これは、図29のレーン1および3で明らかに認められるとおりである。インベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)の不存在下でプローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)がこのようにニブリングされることは、プローブオリゴヌクレオチドが標的配列と二本鎖を形成しつつあることを証明するものである。このニブリング反応により生じるラダー状産物を、臨床試料中に存在しうるヌクレアーゼによるプローブ分解物から識別するのは難しいかもしれない。これに対して、インベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)を導入すると、プローブ開裂における特徴的な移動が生じ、開裂部位がプローブ中へ6〜7塩基分押し込まれた。このことは、両オリゴヌクレオチドのアニーリングを裏付けるものである。MnCl2の存在下では、エキソヌクレアーゼの「ニブリング」は、インベーダー指令開裂事象の後、残存二本鎖が不安定化し解離するまで生じる可能性がある。
マグネシウムに基づく開裂反応(レーン5〜8)では、Cleavase(登録商標) A/Gのニブリングまたは真のエキソヌクレアーゼ機能は酵素抑制されるため(しかし、該酵素のエンドヌクアーゼ機能は実質的に変化しない)、該インベーダーの不存在下ではプローブオリゴヌクレオチドは分解されない(図29、レーン5および7)。該インベーダーを加えると、インベーダーオリゴヌクレオチドが、アニーリングしたプローブのエンドヌクレアーゼ的開裂部位の移動を促進しうることが明らかである。インベーダーとの5分間および15分間の反応の産物(図29のレーン6および8)の比較から、追加のプローブが標的とハイブリダイズし開裂されることが示される。侵入されないプローブ部分(すなわち、配列番号32のヌクレオチド9〜26)の理論上の融解温度(Tm)は56℃である。したがって、認められる代謝回転(反応時間が増加するにつれて蓄積する開裂産物により示される)は、理論上のTmが76℃である完全長プローブ分子が、この60℃の反応における後続のプローブアニーリング事象に関与しているに違いないことを示唆している。
実施例12
3’インベーダーオリゴヌクレオチド配列とプローブの5’領域との重複は開裂部位の移動を引き起こす
実施例11では、インベーダーオリゴヌクレオチドが、標的分子とアニーリングしたプローブの開裂部位の移動を引き起こしうることを示した。本実施例では、該プローブの上流のオリゴヌクレオチドの存在が、該プローブに沿った開裂部位の移動を引き起こすのに十分であるか否か、あるいはプローブオリゴヌクレオチドの5’末端の最初の数個のヌクレオチドと同じ配列を有するインベーダーオリゴヌクレオチドの3’末端上のヌクレオチドの存在が、開裂の移動を促進するのに必要か否かを調べるために実験を行なった。
この点を調べるために、標的特異的オリゴヌクレオチドの3つの異なる配置から得た開裂産物を比較する。これらのオリゴヌクレオチドと、それらが試験核酸M13mp19とハイブリダイズする様態とを、図28に示す。図28aでは、上流オリゴヌクレオチド(配列番号33)の3’末端が、下流「プローブ」オリゴヌクレオチド(配列番号32)の5’末端の上流に位置していて、どちらのオリゴヌクレオチドとも対合していないM13標的領域が存在している。図28bでは、上流オリゴヌクレオチド(配列番号34)の配列はプローブ(配列番号32)の直ぐ上流にあり、該配列間には間隙も重複もない。図28cには、本発明のアッセイで使用する基質の配置を示す。この図は、上流「インベーダー」オリゴヌクレオチド(配列番号35)が、その3’領域部分上に、下流プローブ(配列番号32)の5’領域内に存在する配列と同じ配列を有することを示している。すなわち、これらの領域は、M13標的核酸の同一セグメントとハイブリダイスするために競合することになる。
これらの実験では、4つの酵素混合物を以下のとおりに調製した(予定では、1消化当たり5μlとした)。混合物1は、各々0.1%のTween-20およびNP-40、4mM MnCl2ならびに100mM KClを含有する20mM MOPS(pH7.5)中に、混合物5μl当たり2.25μlのCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ抽出物(実施例2に記載のとおりに調製したもの)を含有していた。混合物2は、各々0.1%のTween-20およびNP-40、4mM MnCl2ならびに100mM KClを含有する20mM MOPS(pH7.5)中に、混合物5μl当たり11.25単位のTaq DNAポリメラーゼ(Promega)を含有していた。混合物3は、20mM Tris-HCl(pH8.5)、4mM MgCl2および100mM KCl中に、混合物5μl当たり2.25μlのCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ抽出物を含有していた。混合物4は、20mM Tris-HCl(pH8.5)、4mM MgCl2および100mM KCl中に、混合物5μl当たり11.25単位のTaq DNAポリメラーゼを含有していた。
各反応について、合計容量5μlの蒸留水中で、50フィコモルのM13mp19一本鎖DNA(標的核酸)を、5ピコモルのプローブオリゴヌクレオチド(3’末端にフルオレセイン標識を含有する配列番号32)および図28に示す3つの上流オリゴヌクレオチドの1つ(すなわち、配列番号33〜35の1つ)の50ピコモルと一緒にした。該反応に1滴のChill OutTM蒸発防止剤を重層し、62℃に加温した。各管へ5μlの酵素混合物を加えることにより開裂反応を開始し、該反応を62℃で30分間インキュベートした。図30のレーン1〜3に示す反応には混合物1を加え、反応4〜6には混合物2を加え、反応7〜9には混合物3を加え、反応10〜12には混合物4を加えた。
62℃で30分後、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する8μlの95%ホルムアミドを加えることにより、該反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する20%アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動の直前に、サンプルを75℃に2分間加熱した。
電気泳動後、Hitachi FMBIO蛍光イメージャーを使用して反応産物を可視化した。その結果を図30に示す。図30のレーン1、4、7および10に示す反応産物は、上流オリゴヌクレオチドとして配列番号33を含有する反応からのものであった(図28aを参照されたい)。図30のレーン2、5、8および11に示す反応産物は、上流オリゴヌクレオチドとして配列番号34を含有する反応からのものであった(図28bを参照されたい)。図30のレーン3、6、9および12に示す反応産物は、上流オリゴヌクレオチドとして配列番号35のインベーダーオリゴヌクレオチドを含有する反応からのものであった(図28cを参照されたい)。
開裂剤としてCleavase(登録商標) A/GヌクレアーゼまたはDNAP Taqのいずれかを使用するMn2+に基づく反応(それぞれレーン1〜3および4〜6)を検討すると、両酵素が、活性なエキソヌクレアーゼ機能をこれらの緩衝条件下で有することが示される。プローブオリゴヌクレオチド上で3’標識を使用することにより、ニブリング活性の産物が標識されたままとなるため、このアッセイでそれを可視化することが可能になる。レーン1、2、4および5で認められるラダーは、該プローブが、意図されたとおりに標的DNAとハイブリダイズすることを証明している。これらのレーンはまた、非侵入的オリゴヌクレオチドの位置が、得られる産物にほどんど影響を及ぼさないことを示している。これらの消化により生成する均一なラダーを、臨床試料中に存在しうる混入ヌクレアーゼにより生成するラダーから識別することは難しいであろう。これに対して、レーン3および6に示される産物(この場合は、開裂を特定するためにインベーダーオリゴヌクレオチドを加えた)は、非常に特徴的な移動を示し、一次開裂産物が、非侵入的開裂で認められるものより小さくなっている。これらのレーン中のより短い産物により示されるとおり、次にこの産物を、これらの条件下で更なるニブリングアッセイに付す。これらのインベーダー指令開裂産物は、プローブオリゴヌクレオチドの非特異的分解のバックグラウンドから容易に区別されるであろう。
二価陽イオンとしてMg2+を使用する場合には、その結果はより一層特徴的なものとなる。上流オリゴヌクレオチドが侵入的でない図30のレーン7、8、10および11では、最小のニブリングが認められる。DNAP Taq反応の産物は、ヌクレオチド1個または2個分だけ5’末端で短縮したプローブのいくらかの蓄積を示し、これは、ニックの入った基質に対するこの酵素の作用に関するこれまでの検討(Longleyら, 前掲)と符合している。しかしながら、上流オリゴヌクレオチドが侵入的である場合には、特徴的に移動するプローブバンドの出現が認められる。これらのデータは、下流プローブの開裂部位の固定を引き起こすのは、上流オリゴヌクレオチドの侵入的3’部分であることを明らかに示している。
このように、前記の結果は、開裂部位の移動を媒介するのは、インベーダーオリゴヌクレオチドの3’末端の、遊離した又は最初は非アニール性のヌクレオチドの存在であり、該プローブの上流でアニーリングしたオリゴヌクレオチドの単なる存在ではないことを示している。インベーダーオリゴヌクレオチドを使用する核酸検出アッセイを、「インベーダー指令開裂」アッセイと称することとする。
実施例13
インベーダー指令開裂は、非標的DNA分子のバックグラウンド中で一本鎖および二本鎖の標的分子を認識する
核酸検出方法が広く有用となるためには、多量の他のDNA(例えば、細菌またはヒトの染色体DNA)を含有している可能性があるサンプル中で、特異的な標的を検出できなくてはならない。インベーダー指令開裂アッセイが、多量の非標的DNAの存在下で、一本鎖または二本鎖のいずれかの標的分子を認識し開裂する能力を調べた。これらの実験では、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のモデル標的核酸M13(一本鎖のM13mp18はLife Technologies, Inc.より入手可能であり、二本鎖のM13mp19はNew England Biolabsより入手可能である)をヒトゲノムDNA(Novagen, Madison, WI)と一緒にし、ついでインベーダー指令開裂反応で使用した。二本鎖標的分子に対するオリゴヌクレオチドの溶液ハイブリダイゼーションを含むポリメラーゼ連鎖反応または酵素的DNA配列決定アッセイなどにおける標準的な実施と同様に、この開裂反応の開始前に、該DNAを95℃に15分間加熱して、該サンプルを完全に変性させた。
図31のレーン2〜5に示す各反応では、標的DNA(25フィコモルのssDNAおよび1ピコモルのdsDNA)を50ピコモルのインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)と一緒にした。レーン1に示す反応では、標的DNAを加えなかった。また、反応1、3および5は、470ngのヒトゲノムDNAも含有していた。これらの混合物を蒸留水で10μlの容量とし、Chill OutTM蒸発防止剤を重層し、15分間95℃にした。このインキュベーション時間の後95℃のまま、各管へ10μlの混合物[該混合物は、各々0.1%のTween-20およびNP-40、4mM MnCl2ならびに100mM KClを含有する20mM MOPS(pH7.5)中に2.25μlのCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ抽出物(実施例2に記載のとおりに調製したもの)と5ピコモルのプローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)とを含む]を加えた。該反応は15分間62℃とし、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する12μlの95%ホルムアミドを加えることにより該反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する20%アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動の直前に、サンプルを75℃に2分間加熱した。Hitachi FMBIO蛍光イメージャーを使用して反応産物を可視化した。その結果を図31に示す。
図31において、レーン1は、プローブ(配列番号32)、インベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)およびヒトゲノムDNAを含有する反応の産物を含有する。レーン1を検討すると、該プローブおよびインベーダーオリゴヌクレオチドが標的配列に対して特異的であり、有意なバックグラウンド開裂がゲノムDNAの存在によって何ら引き起こされないことが示される。
図31において、レーン2および3は、それぞれヒトゲノムDNAの不存在下または存在下で一本鎖標的DNA(M13mp18)、プローブ(配列番号32)およびインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)を含有する反応からの反応産物を含有する。レーン2および3を検討すると、大過剰の競合DNA(ヒトゲノムDNA)の存在下または不存在下で一本鎖標的分子上の特異的配列の存在を検出するのにインベーダー検出アッセイが使用可能であることが示される。
図31において、レーン4および5は、それぞれヒトゲノムDNAの不存在下または存在下で二本鎖標的DNA(M13mp19)、プローブ(配列番号32)およびインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)を含有する反応からの反応産物を含有する。レーン4および5を検討すると、二本鎖標的分子がインベーダー指令検出反応に著しく適していることが示される。大過剰のゲノムDNAのバックグラウンド中の標的として短い二本鎖分子M13mp19を使用するこの反応の成功は、特に注目に値する。なぜなら、より短く、かつ、それほど複雑でないM13 DNA鎖が、それらの相補鎖を、より複雑なヒトゲノムDNA鎖より容易に見つけるであろうと予想されていたからである。M13 DNAに沿った標的配列にプローブおよび/またはインベーダーオリゴヌクレオチドが結合する前にM13 DNAがリアニーリングするならば、開裂反応は妨げられるであろう。また、変性したゲノムDNAは、該プローブおよび/またはインベーダーオリゴヌクレオチドに対して相補的な領域を含有している可能性があるため、該ゲノムDNAが、これらのオリゴヌクレオチドに結合し、それによりM13に対するそれらのハイブリダイゼーションを妨げることにより、ゲノムDNAの存在が該反応を阻害する可能性があった。前記の結果は、前記で用いた反応条件下では、これらの理論的な懸念が問題とならないことを示している。
これらのデータは、二本鎖標的中に存在する配列を検出するのにインベーダー検出アッセイの使用が可能であることを示しているだけでなく、多量の非標的DNA(470ng/20μlの反応)の存在が開裂の特異性を減少させないことも示している。この量のDNAは産物の蓄積の速度に何らかの影響を及ぼしてはいるが(おそらく、該酵素の一部に結合することによるものであろう)、標的配列の性質は、それが一本鎖核酸であろうと二本鎖核酸であろうと、このアッセイの適用を限定するものではない。
実施例14
標的の濃度の関数としてのインベーダー指令開裂アッセイにおけるシグナルの蓄積
インベーダー指令開裂アッセイを用いてサンプル中の標的核酸の量を示すことができるか否かを調べるために、以下の実験を行なった。インベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)、標識プローブ(配列番号32)および標的核酸M13mp19を含有する開裂反応を調製した。開裂産物の蓄積が、反応中に存在する標的DNAの量を反映するか否かを調べるために、含有させるM13標的DNAの量を次第に少なくする一連の反応を用いた。
反応は以下のとおりに行なった。酵素および緩衝液を含有するマスター混合物を調製した。それぞれ5μlのマスター混合物は、各々0.1%のTween-20およびNP-40、4mM MnCl2ならびに100mM KClを含有する20mM MOPS(pH7.5)中に25ngのCleavase(登録商標) BNヌクレアーゼを含有していた。図32のレーン4〜13に示す各開裂反応では、DNA混合物5μl当たり、5ピコモルのフルオレセイン標識プローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)、50ピコモルのインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)およびそれぞれ100、50、10、5、1、0.5、0.1、0.05、0.01または0.005フィコモルの一本鎖M13mp19を含有するDNA混合物を調製した。該DNA溶液を、1滴のChill Out(登録商標)蒸発防止剤で覆い、61℃とした。各管へ5μlの該酵素混合物を加えることにより、開裂反応を開始した(最終反応容量は10μlであった)。61℃で30分後、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する8μlの95%ホルムアミドを加えることにより、該反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動の直前に、サンプルを90℃に1分間加熱した。参照体(すなわち、標準体)を得るために、フルオレセイン標識プローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)の1.0、0.1および0.01ピコモルのアリコートを前記ホルムアミド溶液で希釈して、18μlの最終容量とした。これらの参照マーカーを、該ゲルのそれぞれレーン1〜3中にローディングした。電気泳動後、Hitachi FMBIO蛍光イメージャーを使用して、開裂反応の産物(および参照標準体)を可視化した。その結果を図32に示す。
図32では、フルオレセイン含有核酸(すなわち、開裂プローブ分子および未開裂プローブ分子)の周囲を枠で示しており、各枠内に含有されるフルオレセインの量を枠の下に示している。該ゲルのバックグラウンド蛍光(「バックグラウンド」と表示した枠を参照されたい)を蛍光イメージャーにより差し引きして、開裂プローブ産物および未開裂プローブ産物を含有する枠の下に示す各値を得た(枠の左上には1〜14の番号を付し、枠の下にはVに続けて数値を示している)。「M」と表示しているレーンは、マーカーとして働くフルオレセイン化オリゴヌクレオチドを含有する。
図32に示す結果は、一定の長さのインキュベーション時間内での開裂プローブ分子の蓄積が、該反応内に存在する標的DNAの量を反映することを示している。その結果はまた、開裂プローブ産物が、標的のコピー数より多く蓄積することを示している。このことは、10フィコモル(0.01ピコモル)の未開裂プローブを示すレーン3の結果を、10フィコモルの標的DNAの存在に応じて蓄積した産物を示すレーン5の結果と比較することにより明らかに示される。これらの結果は、該反応が、存在する各標的分子当たり何百個ものプローブオリゴヌクレオチド分子を開裂することができ、インベーダー指令開裂反応で生成する標的特異的シグナルを劇的に増幅することを示している。
実施例15
インベーダー指令開裂アッセイに対する唾液抽出物の影響
核酸検出方法が医学(すなわち、診断)の場で有用なものとなるためには、典型的な臨床試料中に存在すると考えられる物質および混入物により該方法が妨げられてはならない。臨床サンプル中に存在すると考えられる核酸、糖タンパク質および炭水化物(これらに限定されるものではない)を含む種々の物質に対するインベーダー指令開裂アッセイの感度を試験するために、臨床実験室の慣例に従った方法でヒトの唾液のサンプルを調製し、得られた唾液抽出物を、インベーダー指令開裂アッセイに加えた。開裂の阻害および開裂反応の特異性に対する唾液抽出物の影響を調べた。
ヒトの唾液1.5mlを集め、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を含有する等容量の混合物で1回抽出した。得られた混合物をミクロ遠心機中で遠心分離して、水相と有機相とを分離した。上方の水相を新鮮な管中に移した。1/10容量の3M NaOAcを加え、該管の内容物を混合した。2倍容量の100%エチルアルコールを該混合物へ加え、該サンプルを混合し、室温で15分間インキュベートして、沈殿物を形成させた。該サンプルをミクロ遠心機中、13,000rpmで5分間遠心分離し、上清を取り出し廃棄した。乳状ペレットが容易に認められた。該ペレットを70%エタノールで1回濯ぎ、減圧下で乾燥し、200μlの10mM Tris-HCl(pH8.0)、0.1mM EDTAに溶解した(これにより唾液抽出物が構成される)。該唾液抽出物の1μlは、唾液7.5μlと等価である。走査型紫外線分光測光による該唾液抽出物の分析は、約260nmにピーク吸光度を示し、抽出物1μl当たり合計約45ngの核酸の存在を示した。
以下の酵素に対する唾液抽出物の存在の影響を調べた:Cleavase(登録商標) B/Nヌクレアーゼ、Cleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ、および3つの異なるロットのDNAPTaq[AmpliTaq(登録商標)(Perkin Elmer;DNAPTaqの組換え形態)、AmpliTaq(登録商標) LD(Perkin-Elmer;非常に低レベルのDNAを含有する組換えDNAPTaq調製物)およびTaq DNAポリメラーゼ(Fischer)]。試験する各酵素について、酵素/プローブ混合物を調製した。該混合物は、各々0.1%のTween-20およびNP-40、4mM MnCl2、100mM KClならびに100μg/ml BSAを含有する10μlの20mM MOPS(pH7.5)中に5ピコモルのプローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)と共に、選択した量の酵素を含むものであった。以下の量の酵素を使用した:実施例8に記載のとおりに調製した25ngのCleavase(登録商標) BN、実施例2に記載のとおりに調製した2μlのCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ抽出物、2.25μl(11.25ポリメラーゼ単位)の以下のDNAポリメラーゼ:AmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer)、AmpliTaq(登録商標) DNAポリメラーゼLD(low DNA;Perkin-Elmerから)、Taq DNAポリメラーゼ(Fischer Scientific)。
図33に示す反応のそれぞれについて(ただし、レーン1に示すものを除く)、標的DNA(50フィコモルの一本鎖M13mp19 DNA)を、50ピコモルのインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)および5ピコモルのプローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)と一緒にした。反応1(レーン1)では、標的DNAを加えなかった。反応1、3、5、7、9および11は1.5μlの唾液抽出物を含んでいた。これらの混合物を蒸留水で5μlの容量とし、1滴のChill Out(登録商標)蒸発防止剤を重層し、10分間95℃にした。ついで5μlの所望の酵素/プローブ混合物を加えることにより、開裂反応を開始した。反応1、4および5にはCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼを加えた。反応2および3にはCleavase(登録商標) BNを加えた。反応6および7にはAmpliTaq(登録商標)を加え、反応8および9にはAmpliTaq(登録商標) LDを加え、反応10および11にはFisher ScientificからのTaq DNAポリメラーゼを加えた。
該反応を63℃で30分間インキュベートし、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する6μlの95%ホルムアミドを加えることにより、該反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する20%アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動の直前に、サンプルを75℃に2分間加熱した。Hitachi FMBIO蛍光イメージャーを使用して反応産物を可視化した。その結果を図33に示す。
該酵素のそれぞれで処理した唾液抽出物を含むおよび含まない図33に示す2組のレーン間での比較は、唾液抽出物が該酵素のそれぞれに異なる影響を及ぼすことを示している。Cleavase(登録商標) BNヌクレアーゼおよびAmpliTaq(登録商標)では、これらの条件下での開裂が有意に阻害されたが、Cleavase(登録商標) A/GヌクレアーゼおよびAmpliTaq(登録商標) LDは、開裂されたプローブの収量の相違をほとんど示していない。Fisher ScientificからのTaq DNAポリメラーゼの調製物は、中間の反応を示し、開裂産物の収量が部分的に減少している。重合の点では、それらの3つのDNAPTaq変異体は等価なはずであり、これらは、等量の合成活性を有する同じタンパク質のはずである。認められる相違は、精製時の異なる取り扱いまたは異なる精製方法により生じた各調製物中に存在するヌクレアーゼ活性の量の変動による可能性がある。いずれにせよ、市販のDNAP調製物の重合活性を評価するために設計された品質管理アッセイは、存在するヌクレアーゼ活性の変動を明らかにしないようである。DNAPTaqの調製物を完全な5’ヌクレアーゼ活性に関してスクリーニングする場合には(すなわち、5’ヌクレアーゼ活性は特異的に定量された場合)、該調製物が示す感受性(唾液抽出物に対するもの)は、DNAPTaqとの間に非常に少数のアミノ酸の相違を有するCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼを用いた場合に認められる感受性と、より合致すると考えられる。
Cleavase(登録商標) BNおよびDNAPTaq変異体の遅い反応においてでさえ、不適当なハイブリダイゼーションまたは唾液由来のヌクレアーゼによるプローブオリゴヌクレオチドの非特異的開裂の顕著な増加が全くないことは注目に値する。
実施例16
インベーダー指令開裂アッセイにおける追加の5’ヌクレアーゼの比較
多数の真正細菌DNAポリメラーゼA型(すなわち、Pol I型DNAポリメラーゼ)は、構造特異的エンドヌクレアーゼとして機能することが示されている(実施例1およびLyamichevら, 前掲)。本実施例では、このクラスの酵素にも、Cleavase(登録商標)酵素ほど効率的でないものの、本発明のインベーダー指令開裂を触媒させることが可能であることを示した。
異なる3つの耐熱性DNAポリメラーゼ[テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)DNAポリメラーゼ(Promega)、テルムス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)およびテルムス・フラバス(Thermus flavus)DNAポリメラーゼ(Epicentre)]と共に、Cleavase(登録商標) BNヌクレアーゼおよびCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼを試験した。図34のレーン1〜11に示す反応で使用した酵素混合物は、それぞれ5μl容量中に以下のものを含有していた:レーン1:各々0.1%のTween-20およびNP-40、4mM MnCl2、100mM KClを含有する20mM MOPS(pH7.5);レーン2:レーン1について記載したのと同じ溶液中の25ngのCleavase(登録商標) BNヌクレアーゼ;レーン3:レーン1について記載したのと同じ溶液中の2.25μlのCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ抽出物(実施例2に記載のとおり調製したもの);レーン4:20mM Tris-Cl(pH8.5)、4mM MgCl2および100mM KCl中の2.25μlのCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ抽出物;レーン5:レーン4について記載したのと同じ緩衝液中の11.25ポリメラーゼ単位のTaq DNAポリメラーゼ;レーン6:レーン1について記載したのと同じ緩衝液中の11.25ポリメラーゼ単位のTth DNAポリメラーゼ;レーン7:製造業者により供給された2×濃度の緩衝液に4mM MnCl2を補足した液中の11.25ポリメラーゼ単位のTth DNAポリメラーゼ;レーン8:製造業者により供給された2×濃度の緩衝液を4mM MgCl2で補足した液中の11.25ポリメラーゼ単位のTth DNAポリメラーゼ;レーン9:レーン1について記載したのと同じ緩衝液中の2.25ポリメラーゼ単位のTfl DNAポリメラーゼ;レーン10:製造業者により供給された2×濃度の緩衝液に4mM MnCl2を補足した液中の2.25ポリメラーゼ単位のTfl ポリメラーゼ;レーン11:製造業者により供給された2×濃度の緩衝液に4mM MgCl2を補足した液中の2.25ポリメラーゼ単位のTfl DNAポリメラーゼ。
全11個の反応について十分な標的DNA、プローブおよびインベーダーを一緒にして、マスター混合物とした。この混合物は、55μlの蒸留水中に、550フィコモルの一本鎖M13mp19標的DNA、550ピコモルのインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)および55ピコモルのプローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)(それぞれ図28cに記載のもの)を含有していた。5μlの該DNA混合物を、11本の標識された管中に分注し、1滴のChill Out(登録商標)蒸発防止剤を重層した。該反応を63℃とし、5μlの適当な酵素混合物を加えることにより開裂を開始した。ついで該反応混合物を63℃で15分間インキュベートした。20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する8μlの95%ホルムアミドを加えることにより、該反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動の直前に、サンプルを90℃に1分間加熱した。電気泳動後、Hitachi FMBIO蛍光イメージャーを使用して反応産物を可視化し、その結果を図34に示す。図34に示す結果を検討すると、試験した5’ヌクレアーゼのすべてが、試験した緩衝系の少なくとも1つにおいてインベーダー指令開裂を触媒する能力を有することが示される。ここでは最適化されていないが、これらの開裂剤は、本発明の方法で使用するのに適したものである。
実施例17
インベーダー指令開裂アッセイは標的核酸配列中の単一の塩基の相違を検出することができる
インベーダー指令開裂アッセイが、単一の塩基のミスマッチ突然変異を検出する能力を調べた。Cleavase(登録商標)酵素に抵抗性のホスホロチオエート骨格を含有する2つの標的核酸配列を化学合成し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製した。ホスホロチオアート骨格を含む標的を使用して、オリゴヌクレオチドと二本鎖になっている場合の標的のエキソヌクレアーゼ的ニブリングを妨害した。インベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)およびプローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)と完全に相補的な標的配列を与える標的オリゴヌクレオチドは、以下の配列を含有していた:5’-CCTTTCGCTTTCTTCCCTTCCTTTCTCGCCACGTTCGCCGGC-3’(配列番号36)。配列番号36に対する単一の塩基の変化を含有する第2の標的配列を合成した:5’-CCTTTCGCTCTCTTCCCTTCCTTTCTCGCCACGTTCGCCGGC-3’(配列番号37;配列番号36に対する単一の塩基の変化を下線を付した太字を用いて示す)。それにより、図25に示す標的の「Z」領域内に共通ミスマッチが生じる。
単一のミスマッチの存在により相違する2つの標的配列を識別するために、2つの異なる反応温度(55℃および60℃)を用いてインベーダー指令開裂反応を行なった。50mM KClを含む9μlの10mM MOPS(pH7.4)中に200フィコモルの配列番号36または配列番号37のいずれか、3ピコモルのフルオレセイン標識プローブオリゴヌクレオチド(配列番号32)、7.7ピコモルのインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号35)および2μlのCleavase(登録商標) A/Gヌクレアーゼ抽出物(実施例2に記載のとおり調製したもの)を含有する混合物を調製し、1滴のChill Out(登録商標)蒸発防止剤で覆い、適当な反応温度とした。1μlの20mM MgCl2を加えることにより開裂反応を開始した。55℃または60℃のいずれかで30分後、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する10μlの95%ホルムアミドを加えて、該反応を停止した。ついで、20%変性ポリアクリルアミドゲル上に4μlをローディングする前に、該反応混合物を90℃に1分間加熱した。分離した反応産物を、Hitachi FMBIO蛍光イメージャーを使用して可視化した。得られた画像を図35に示す。
図35において、レーン1および2は、55℃で行なった反応からの産物を示し、レーン3および4は、60℃で行なった反応からの産物を示す。レーン1および3は、標的として配列番号36(プローブと完全にマッチする)を含有する反応からの産物を含有していた。レーン2および4は、標的として配列番号37(プローブに対して単一の塩基のミスマッチを有する)を含有する反応からの産物を含有していた。該プローブに対して完全なハイブリダイゼーションマッチ(すなわち、完全な相補性)を有さない標的は、それほど強力に結合しないであろう。すなわち、その二本鎖のTmは、完全にマッチした場合の同じ領域のTmより低いであろう。ここに示す結果は、反応条件を変化させて、そのミスマッチを受け入れたり(例えば、反応温度を低下させることにより)、あるいはミスマッチ配列の結合を除外する(例えば、反応温度を上昇させることにより)ことができることを示している。
図35に示す結果は、特異的な開裂事象は、それがインベーダー指令開裂反応において生じたものであったとしても、プローブオリゴヌクレオチドと標的配列との間の単一の塩基のミスマッチの存在により失われうることを示している。このように、反応条件を選択して、ミスマッチしたインベーダー指令開裂プローブのハイブリダイゼーションを除去し、それにより該プローブの開裂を減少させたり更には排除することができる。このアッセイ系の拡張として、別々のレポーター分子(すなわち、特有の標識)をそれぞれが有する複数の開裂プローブを単一の開裂反応で使用して、同じ標的領域中の2以上の変異体を同時にプローブすることも可能であろう。そのような反応の産物は、標的分子中に存在する突然変異の検出だけでなく、標的配列の混合物を含有するサンプル内に存在する各配列(すなわち、突然変異体および野生型、または複数の異なる突然変異体)の相対濃度の測定をも可能にするであろう[標的に対して等量であるが非常に大過剰(例えば、少なくとも100倍モル過剰、典型的には、約10フィコモル以下の標的配列が存在する場合に、少なくとも1ピコモルの各プローブオリゴヌクレオチドを使用する)を、最適化された条件中で使用する場合]。前記のとおり、標的変異体の相対量の相違はいずれも、ハイブリダイゼーションの速度論に影響を及ぼさず、各プローブの開裂の量は、反応内に存在する各変異体の相対量を反映するであろう。
本実施例に示す結果は、インベーダー指令開裂反応を用いて標的核酸間の単一の塩基の相違を検出できることをはっきりと証明している。
実施例18
インベーダー指令開裂反応は、反応条件の大きな変化による影響を受けない
前記で示した結果は、インベーダー指令開裂反応を用いて標的核酸配列の検出が可能であり、このアッセイを用いて標的核酸間の単一の塩基の相違を検出できることを明らかにした。これらの結果は、核酸標的を認識するための効率的な方法として、一対の重複オリゴヌクレオチドと共に5’ヌクレアーゼ(例えば、Cleavase(登録商標) BN、Cleavase(登録商標) A/G、DNAPTaq、DNAPTth、DNAPTfl)を使用しうることを示した。後記の実験では、侵入的開裂反応が、条件の大きな変化による影響をそれほど受けないため、該方法が臨床実験室での実施に適したものとなることを示す。
開裂反応の条件の変化の影響を、それが侵入的開裂の特異性に及ぼす影響、および反応経過中に蓄積するシグナルの量に及ぼす影響に関して調べた。開裂反応の変化を比較するために、まず、「標準的」なインベーダー開裂反応を定義した。それぞれの場合おいて、特に断らない限り、個々の試験において変化させない態様は、この標準的な反応のものとする一方、示した反応パラメーターを変化させた。これらの試験の結果を、図38〜40のいずれか又は後記の結果に示す。
a)標準的なインベーダー指令開裂反応
標準的な反応は、100mM KCl、4mM MnCl2ならびに各々0.05%のTween-20およびNonidet-40を含有する10μlの10mM MOPS(pH7.5)中に、1フィコモルのM13mp18一本鎖標的DNA(New England Biolabs)、5ピコモルの標識プローブオリゴヌクレオチド(配列番号38)、10ピコモルの上流インベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号39)、および2単位のCleavase(登録商標) A/Gを含むものと定義した。各反応について、緩衝液、塩および酵素を一緒にして5μlの容量とし、DNA(標的および2つのオリゴヌクレオチド)を5μlのdH2O中で一緒にし、1滴のChill Out(登録商標)蒸発防止剤を重層した。同じ反応成分で複数の反応を行なう場合には、これらの配合を比例的に増加させた。
特に断らない限り、該DNA混合物を含有するサンプル管を61℃に加温し、5μlの該酵素混合物を加えることにより反応を開始した。この温度で20分後、20mM EDTAおよび0.05%マーカー色素を含有する8μlの95%ホルムアミドを加えることにより、該反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する20%アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動の直前に、サンプルを75℃に2分間加熱した。電気泳動後、Hitachi FMBIO蛍光イメージャーを使用して反応産物を可視化した。それぞれの場合に、未開裂プローブ物質は、濃い黒色のバンドまたは染みとして、通常はパネルの上半分に認められ、一方、インベーダー指令開裂による所望の産物は、1個または2個の狭い黒色バンドとして、通常はパネルの下半分に認められた。また、いくつかの反応条件下、特に、高い塩濃度の反応条件下では、もう1つの開裂産物が認められる(したがって、ダブレットが生じる)。より薄い灰色バンドのラダーは、一般に、プローブオリゴヌクレオチドのエキソヌクレアーゼニブリング、または熱で誘発された非特異的なプローブ分解を示す。
図37は、M13mp18標的分子(下側の鎖)に沿う領域に対する、プローブおよびインベーダーオリゴヌクレオチドのアニーリングを示す。図37では、M13mp18分子の52ヌクレオチドの部分のみが示されており、この52ヌクレオチドの配列は、配列番号31(この配列は、M13mp18およびM13mp19の両方において同じである)に記載されている。該プローブオリゴヌクレオチド(上側の鎖)は、5’末端にCy3アミダイト標識を含有し、該プローブの配列は、5’-AGAAAGGAAGGGAAGAAAGCGAAAGGT-3’(配列番号38)である。太字は、修飾塩基(2’-O-CH3)の存在を示す。Cy3アミダイト(Pharmacia)は、オリゴヌクレオチドの合成中に任意の位置で取込まれうるインドジカルボシアニン色素アミダイトである。Cy3は黄色領域で蛍光を発する(励起および発光の最大がそれぞれ554および568nm)。インベーダーオリゴヌクレオチド(中間の鎖)は以下の配列を有する:5’-GCCGGCGAACGTGGCGAGAAAGGA-3’(配列番号39)。
b)KCl滴定
図38は、KCl濃度を変化させ、2mM MnCl2を併用した場合(その他の点では標準的な反応)の結果を示す。反応は、観察の確認のために2回繰返して行なった。レーン1および2に示す反応は、添加されたKClを含有せず、レーン3および4は5mMのKClを含有し、レーン5および6は25mM KClを含有し、レーン7および8は50mM KClを含有し、レーン9および10は100mM KClを含有し、レーン11および12は200mM KClを含有していた。これらの結果は、KClを加えると、特異的な開裂産物の生成が可能になることを示している。最強のシグナルは100mMのKCl濃度で認められたが、25mM以上のKCl濃度を有する残りの反応におけるシグナルの特異性は、いずれかの個々の反応条件にとって望ましいならば、全領域(すなわち、25〜200mM)からの濃度の選択が可能であることを示している。
図38に示すとおり、効果的な開裂が生じるためには、インベーダー指令開裂反応は、塩(例えば、KCl)の存在を必要とする。KClは、約25mMを超える濃度で存在する場合に、あるCleavase(登録商標)酵素の活性を阻害しうることが、他の反応において判明している(例えば、図26に示すS-60オリゴヌクレオチドを使用する開裂反応において、Cleavase(登録商標) BN酵素は、プライマーの不存在下、50mM KCl中では、その活性の約50%を喪失する)。したがって、別の塩をインベーダー指令開裂反応で使用することを検討した。これらの実験では、カリウムイオンをNa+またはLi+で置換し、塩化物イオンをグルタミン酸で置換した。KClを別の塩で置換することについて、以下のc〜e節で説明する。
c)NaCl滴定
75、100、150または200mMでKClの代わりにNaClを使用し、2mM MnCl2を併用した(その他の点では標準的な反応)。これらの結果は、インベーダー指令開裂反応においてKClの代わりにNaClを使用することができ、同様の濃度であれば同様の結果が得られる(すなわち、NaClの存在は、KClの場合と同様に、産物の蓄積を増加させる)ことを示した。
d)LiCl滴定
KClの代わりにLiClを使用した(その他の点では標準的な反応)。試験したLiClの濃度は、25、50、75、100、150および200mMであった。その結果は、LiClは、約100mM以上の濃度で、インベーダー指令開裂反応におけるKClの適当な置換体として使用可能である(すなわち、LiClの存在は、KClの場合と同様に、産物の蓄積を増加させる)ことを示した。
e)KGlu滴定
グルタミン酸のカリウム塩(KGlu)を、より一般的に使用される塩化物塩(KCl)の代わりに、一定範囲の温度で行なう反応において使用した結果を検討した。KGluは、いくつかの酵素反応の非常に効果的な塩供給源であり、より広範囲の濃度で最大の酵素活性を許容することが示されている[Leirmoら, (1987) Biochem. 26:2095]。KGluが標的核酸に対するプローブおよびインベーダーオリゴヌクレオチドのアニーリングを促進する能力を、LiClのものと比較した。これらの実験では、KClの代わりに200mM、300mMまたは400mMのKGluを使用する標準的な反応において、標準的な20分間ではなく15分間反応を行なった。反応を65℃、67℃、69℃または71℃で行なった。それらの結果は、KGluが、侵入的開裂反応における塩として非常に効果的であり、最低温度では開裂が300mM KGluで約30%減少し、400mM KGluになると約90%減少したが、400mM KGluにおいても十分な活性が明らかに認められることを示した。
f)MnCl2およびMgCl2滴定ならびにMnCl2をMgCl2で置換しうる可能性
場合によっては、使用する酵素の活性に必要な二価陽イオンとしてMn2+に加えて又はその代わりにMg2+の存在下で侵入的開裂反応を行なうのが望ましいかもしれない。例えば、細菌培養または組織からDNAを調製するいくつかの一般的な方法では、沈殿によるDNAの集積を促進するのに使用する溶液中でMgCl2を使用する。さらに、核酸のハイブリダイゼーションを促進するために、前記で一価の塩を使用したのと同じ方法で、二価陽イオンを高濃度(すなわち、5mM以上)で使用し、それにより侵入的開裂反応を増強することができる、この実験では、1)MgCl2によるMnCl2の置換、およびMgCl2およびMnCl2の存在濃度を増加させた場合に特異的な産物が得られる可能性に関する、侵入的開裂反応の許容度を調べた。
図39は、MnCl2の濃度を2mMから8mMまで変化させた場合、MnCl2を2〜4mMのMgCl2で置換した場合、またはこれらの成分を併用した場合(その他の点では標準的な反応)の結果を示す。レーン1および2で分析した反応は、各々2mMのMnCl2およびMgCl2を含有し、レーン3および4の反応は2mM MnCl2のみを含有し、レーン5および6は3mM MnCl2を含有し、レーン7および8は4mM MnCl2を含有し、レーン9および10は8mM MnCl2を含有していた。レーン11および12で分析した反応は2mM MgCl2を含有し、レーン13および14は4mM MgCl2を含有していた。これらの結果は、これらの反応におけるCleavase(登録商標) A/G酵素の開裂活性を付与するのに必要な二価陽イオンとして、MnCl2およびMgCl2の両方を使用することができ、侵入的開裂反応が、これらの成分の広範囲の濃度を許容しうることを示している。
侵入的開裂反応における産物の蓄積の速度に塩環境が及ぼす影響を検討したのに加えて、標準的なハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ブロットハイブリダイゼーション)または連結反応における核酸ハイブリダイゼーションを増強するのに有効であると示されている反応成分の使用を検討した。これらの成分は、容量排除剤(volume excluders)として作用して、関心のある核酸の有効濃度を増加させ、それによりハイブリダイゼーションを増強する可能性がある。あるいは、それらは、電荷遮蔽剤として作用して、核酸鎖の高度に荷電している骨格間の反発を最小限に抑制するかもしれない。これらの実験の結果を、以下のgおよびh節に記載する。
g)CTABの添加の影響
ポリカチオン界面活性剤であるセチルトリエチルアンモニウムブロミド(CTAB)は、核酸のハイブリダイゼーションを劇的に増強することが示されている[PontiusおよびBerg (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8237]。本発明者らは、KClの代わりに150mM LiClを使用する以外は標準的な反応である侵入的開裂反応に、100mM〜1mMの界面活性剤CTABを加えた場合の影響を検討した。これらの結果は、200mM CTABが、これらの反応条件下で非常に適度な増強効果を有する可能性があり、約500μMを超える濃度のCTABの存在は、特異的開裂産物の蓄積に抑制的であることを示した。
h)PEGの添加の影響
本発明者らは、4.8または12%(w/v)のポリエチレングリコール(PEG)を加えること(その他の点では標準的な反応)による影響を調べた。PEG含有反応の反応温度を増加させることによる影響は、2組のPEG滴定反応を61℃および65℃で行なうことにより調べた。その結果は、PEGを加えると、試験したすべての比率(%)および試験した両方の温度で、特異的開裂産物の生成が実質的に失われることを示した。
また、反応混合物中の1×Denhardts溶液の存在は、開裂反応に何ら悪影響を及ぼさないことが判明した[50×Denhardts溶液は、500ml当たり5gのフィコール、5gのポリビニルピロリドン、5gのBSAを含有する]。さらに、インベーダー指令開裂反応に対する影響に関して、Denhardts溶液の各成分の存在を個別的に(すなわち、フィコール単独、ポリビニルピロリドン単独、BSA単独で)調べたところ、悪影響は何ら認められなかった。
i)安定化剤の添加の影響
侵入的開裂反応の生産を増強するもう1つのアプローチは、使用する酵素の活性を、反応環境中でのその安定性を増加させたり又はその代謝回転速度を増加させることにより増強することである。侵入的開裂反応において種々の物質が作用する正確なメカニズムは考慮せずに、長期保存中に酵素を安定化させるのに一般に使用される幾つかの物質を、侵入的開裂反応における特異的開裂産物の蓄積を増強する能力に関して試験した。
本発明者らは、15%のグリセロールを加えること、および1.5%の界面活性剤Tween-20およびNonidet-P40を単独でまたは組合せて加えること(その他の点では標準的な反応)による影響を調べた。その結果は、これらの条件下では、これらの添加物は、特異的開裂産物の蓄積に、ほとんど又は全く影響を及ぼさないことを示した。
塩の種類および濃度を標準的な反応から変化させた反応へゼラチンを加えることによる影響を調べた。その結果は、塩の不存在下では、ゼラチンは特異的開裂産物の蓄積に対して適度な増強効果を有するが、これらの条件下で行なう反応に塩(KClまたはLiCl)を加えた場合には、ゼラチンの量を増加させると産物の蓄積が減少することを示した。
j)多量の非標的核酸の添加の影響
サンプル内の特異的核酸配列の検出においては、追加の遺伝物質(すなわち、非標的核酸)の存在が、アッセイの特異性に負の影響を及ぼすか否かを判定することが重要である。本実験では、多量の非標的核酸(DNAまたはRNA)の添加が侵入的開裂反応の特異性に及ぼす影響を調べた。予想開裂部位の変化、またはプローブオリゴヌクレオチドの非特異的分解の増加に関して、データを検討した。
図40は、標準的な反応のKClの代わりに150mM LiClを使用して65℃で行なった侵入的開裂反応に対する非特異的核酸(例えば、ゲノムDNAまたはtRNA)の影響を示す。レーン1および2でアッセイした反応は、それぞれ235ngおよび470ngのゲノムDNAを含有していた。レーン3、4、5および6で分析した反応は、それぞれ100ng、200ng、500ngおよび1μgのtRNAを含有していた。レーン7は、標準的な反応で使用する量を上回る添加核酸を含有しない対照反応を表す。図40に示す結果は、多量の非標的核酸の添加は、特異的開裂産物の蓄積を明らかに減速しうることを示している(本発明はいずれかの特定のメカニズムに限定されるものではないが、追加の核酸は、酵素の結合に関して特異的反応成分と競合すると考えられる)。追加の実験では、多量の非標的核酸を加えることによる影響は、反応内の酵素を増加させることにより相殺しうることが判明した。図40に示すデータはまた、侵入的開裂反応の重要な特性である検出特異性が、多量の非標的核酸の存在により損なわれなかったことを示している。
前記のデータに加えて、「標準的」な反応で使用するMOPS緩衝液の代わりにコハク酸緩衝液(pH5.9)を使用して侵入的開裂反応を行なったところ、悪影響は何ら認められなかった。
図38〜40および前記に示すデータは、侵入的開裂反応が、多種多様な反応条件を用いて実施でき、したがって臨床実験室での実施に適していることを示している。
実施例19
インベーダー指令開裂によるRNA標的の検出
感染症および遺伝病に特異的なDNA配列を検出するという臨床的要求に加えて、RNAよりなる標的核酸を定量的に検出できる技術に対する要求がある。例えば、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの幾つかのウイルス体はRNAゲノム物質を有しており、その定量的検出は、サンプル中のウイルス負荷(load)の尺度として使用することができる。そのような情報は、診断または予後において非常に重要な価値を有する。
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は、全世界において輸血後非A非B(NANB)肝炎の主要原因となっている。さらに、HCVは、全世界の肝細胞癌(HCC)および慢性肝炎の主要病原体である。HCVのゲノムは、小さな(9.4kb)RNA分子である。血液サンプル中のHCV RNAの存在は感染性と強く相関するが、標準的な免疫学的試験で測定した場合のHCV抗体の存在は該サンプルの感染性と常に相関するとは限らないことが、輸血によるHCVの伝播の研究において判明している。逆に、免疫抑制された感染個体では、血清学的試験が陰性のままであっても、HCV RNAが容易に検出されることがある[J.A. Cuthbert (1994) Clin. Microbiol. Rev. 7:505]。
HCV RNAを検出するためのプローブに基づくアッセイの開発が要求されていること、およびそのような開発が重要であることは明らかである。臨床サンプル中のHCVを検出するためにポリメラーゼ連鎖反応が用いられているが、サンプルのキャリーオーバー(carry-over)汚染に関連した問題が懸念されている。逆転写または増幅を行なわなくてもウイルスRNAを直接検出できれば、既存アッセイの欠点のいくつかを克服することが可能となろう。
(+)鎖RNAのC型肝炎ウイルスのゲノムは、5’および3’の非コード領域(すなわち、5’および3’の非翻訳領域)を含むいくつかの領域と、コアタンパク質(C)、2個のエンベロープ糖タンパク質(E1およびE2/NS1)および6個の非構造糖タンパク質(NS2-NS5b)をコードするポリタンパク質コード領域とを含む。HCVゲノムの分子生物学的分析は、該ゲノムのいくつかの領域が単離体間で非常に高度に保存されている一方で、他の領域はかなり急速に変化しうることを示している。5’非コード領域(NCR)は、HCVにおいて最も高度に保存されている領域である。これらの分析により、これらのウイルスを6個の基本的な遺伝子型群に分類し、さらに12個を超える亜型に分類することが可能となった[HCV遺伝子型の名称および分類は次々と生まれつつある;最近の分類表については、Altamiranoら, J. Infect. Dis. 171:1034 (1995)を参照されたい]。
感染個体中に存在するHCVを検出する迅速かつ正確な方法を開発するために、インベーダー指令開裂反応がHCV RNAを検出する能力を調べた。異なる6個のHCV RNA単離体の保存された5’非翻訳領域に由来するDNAを含有するプラスミドを使用して、in vitro転写のための鋳型を作製した。これらの6個のプラスミド中に含有されるHCV配列は、遺伝子型1(1a、1b、1cおよびΔ1cを代表する4個の亜型)、2および3を代表するものである。ここで用いるHCV遺伝子型の名称は、Simmondsら[Altamiranoら, 前掲に記載されている]のものである。Δ1c亜型は、後記のモデル検出反応において使用した。
a)HCV配列を含有するプラスミドの作製
HCVに由来する6個のDNA断片を、血液提供者の血清サンプルから抽出したRNAを使用するRT-PCRにより作製した。これらのPCR断片は、M. Altamirano博士(University of British Columbia, Vancouver)から恵贈されたものである。これらのPCR断片は、HCV遺伝子型1a、1b、1c、Δ1c、2cおよび3aに由来するHCV配列を代表するものである。
標準的な方法(Altamiranoら, 前掲)を用いて、RNA抽出、逆転写およびPCRを行なった。簡単に説明すると、グアニジンイソチオシアナート、ラウリルサルコシン酸ナトリウムおよびフェノール-クロロホルムを使用して100μlの血清からRNAを抽出した[Inchauspeら, Hepatology 14:595 (1991)]。製造業者の指示に従い、外部アンチセンスプライマーHCV342の存在下でGeneAmp rTh逆転写酵素RNA PCRキット(Perkin Elmer)を使用して、逆転写を行なった。HCV342プライマーの配列は、5’-GGTTTTTCTTTGAGGTTTAG-3’(配列番号40)である。RT反応の終了後、センスプライマーHCV7[5’-GCGACACTCCACCATAGAT-3’(配列番号41)]およびマグネシウムを加え、第1PCRを行なった。第1PCR産物からのアリコートを、プライマーHCV46[5’-CTGTCTTCACGCAGAAAGC-3’(配列番号42)]およびHCV308[5’-GCACGGTCTACGAGACCTC-3’(配列番号43)]の存在下で第2(ネスティド)PCRで使用した。これらのPCRは、HCVゲノムの-284位〜-4位のHCVの保存された5’非コード領域(NCR)に相当する281bpの産物を産生した(Altamiranoら, 前掲)。
6個の281bpのPCR断片をクローニングに直接使用するか、あるいはそれらを、10mM Tris-HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl2および0.1%Tween20を含有する緩衝液中に約100フィコモルのDNA、HCV46およびHCV308プライマー(0.1μM、100μMの全4個のdNTP)、および2.5単位のTaq DNAポリメラーゼを含む50μlのPCRを使用する追加の増幅工程に付した。PCRは、96℃で45秒、55℃で45秒および72℃で1分の25サイクルを行なった。2μlの元のDNAサンプルまたは再増幅されたPCR産物のいずれかを使用して、製造業者のプロトコールに従い線状pT7Blue T-ベクター(Novagen)中へクローニングした。該PCR産物をpT7Blue T-ベクターに連結した後、該連結反応混合物を使用して、コンピテントJM109細胞(Promega)を形質転換した。挿入断片を有するpT7Blue T-ベクターを含有するクローンを、40μg/ml X-Gal、40μg/ml IPTGおよび50μg/mlアンピシリンを含有するLBプレート上で白色のコロニーの存在により選択した。各PCRサンプルについて4個のコロニーを拾い、50μg/mlカルベニシリンを含有する2mlのLB培地中で一晩増殖させた。以下のアルカリミニプレッププロトコールを用いて、プラスミドDNAを単離した。1.5mlの一晩培養物からの細胞を、ミクロ遠心機中での2分間の遠心分離(14K rpm)により集め、上清を廃棄し、10μg/ml RNアーゼA(Pharmacia)を含有する50μl TE緩衝液に細胞ペレットを再懸濁した。0.2N NaOH、1%SDSを含有する100μlの溶液を加え、細胞を2分間溶解した。該ライゼートを100μlの1.32M酢酸カリウム(pH4.8)と穏やかに混合し、該混合物をミクロ遠心機中で4分間遠心分離(14K rpm)し、細胞デブリを含むペレットを廃棄した。プラスミドDNAを、200μlのエタノールで上清から沈殿させ、ミクロ遠心機中での遠心分離(14K rpm)によりペレット化した。該DNAペレットを15分間風乾し、ついで50μlのTE緩衝液(10mM Tris-HCl, pH7.8、1mM EDTA)に再溶解した。
b)後続のin vitro転写用のファージT7プロモーターを付加するためのHCVクローンの再増幅
転写のRNA産物が、分離した3’末端を有することを保証するためには、HCV配列の末端で終わる線状転写鋳型を作製することが必要であった。これらの断片は、ファージプロモーター配列とHCV挿入断片とを含有するプラスミドのセグメントを、PCRを用いて再増幅するにことにより簡便に得られた。これらの研究では、T7プロモーター配列:5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’(配列番号44;「T7プロモータープライマー」)(Novagen)にハイブリダイズするプライマーと、3’末端HCV特異的プライマーHCV308(配列番号43)とを使用して、HCV Δ1c型のクローンを再増幅した。これらの反応では、30サイクルの増幅を行なう以外は前記のとおりにT7およびHCV308プライマーを使用する200μlのPCRにおいて、1μlのプラスミドDNA(約10〜100ng)を再増幅した。得られたアンプリコンは、354bp長であった。増幅後、該PCR混合物を新鮮な1.5mlのミクロ遠心管中に移し、該混合物のNH4OAcの最終濃度を2Mとし、1倍容量の100%イソプロパノールを加えることにより該産物を沈殿させた。室温で10分間インキュベートした後、該沈殿物を遠心分離により集め、80%エタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥した。集めた物質を、ヌクレアーゼを含まない100μlの蒸留水(Promega)に溶解した。
このアンプリコンからRNAセグメントを得た。これは、100μlの反応中で5.3μgの前記アンプリコンを使用し、RiboMAXTM Large Scale RNA Production System(Promega)を製造業者の指示に従い使用するin vitro転写により行なった。該転写反応を3.75時間インキュベートし、ついでRiboMAXTM キットの説明書に従い5〜6μlのRQl RNアーゼ非含有DNアーゼ(1単位/μl)を加えることによりDNA鋳型を破壊した。該反応をフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(50:48:2)で2回抽出し、水相を新鮮なミクロ遠心管に移した。ついで、10μlの3M NH4OAc(pH5.2)および110μlの100%イソプロパノールを加えることにより、該RNAを集めた。4℃で5分間インキュベートした後、該沈殿物を遠心分離により集め、80%エタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥した。得られたRNA転写産物(HCV1.1転写産物)の配列を配列番号45に記載する。
c)インベーダー指令開裂アッセイにおけるHCV1.1転写産物の検出
HCV特異的プローブオリゴヌクレオチド[5’-CCGGTCGTCCTGGCAATXCC-3’(配列番号46);Xは、非塩基性(abasic)リンカー上のフルオレセイン色素の存在を示す]と該プローブの6-ヌクレオチド侵入的開裂を引き起こすHCV特異的インベーダーオリゴヌクレオチド[5’-GTTTATCCAAGAAAGGACCCGGTC-3’(配列番号47)]とを使用するインベーダー指令開裂アッセイにおいて、HCV1.1転写産物の検出を試験した。
それぞれ10μlの反応混合物は、50mM KCl、4mM MnCl2、各々0.05%のTween-20およびNonidet-P40ならびに7.8単位のRNasin(登録商標)リボヌクレアーゼ阻害剤(Promega)を含有する10mM MOPS(pH7.5)の緩衝液中に、5ピコモルのプローブオリゴヌクレオチド(配列番号46)および10ピコモルのインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号47)を含んでいた。使用した開裂剤は、Cleavase(登録商標) A/G(10μlの反応当たり5.3ngで使用)またはDNAPTth(10μlの反応当たり5ポリメラーゼ単位で使用)であった。RNA標的の量を、以下に示すとおり変化させた。RNアーゼ処理が示されている場合は、検出が、転写反応からのいずれかの残存DNA鋳型の存在によるものではなく、反応内のRNAに特異的なものであることを示すために、標的RNAを10μgのRNアーゼA(Sigma)で37℃で30分間前処理した。RNアーゼで処理したHCV RNAアリコートは、精製を介することなく直接使用した。
各反応では、該インベーダーおよびプローブを前記の濃度としつつ開裂剤およびMnCl2を加えずに最終濃度を10μlとする以外は前記のとおりの反応溶液に、標的RNAを懸濁した。該反応を46℃に加温し、適当な酵素とMnCl2との混合物を加えることにより反応を開始した。46℃で30分間インキュベートした後、8μlの95%ホルムアミド、10mM EDTAおよび0.02%メチルバイオレット(メチルバイオレットローディング緩衝液)を加えることにより、該反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する15%変性ポリアクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動により、サンプルを分離した。電気泳動後、FMBIO-100イメージアナライザー(Hitachi)を使用して、標識された反応産物を可視化した。得られたイメージャースキャンを図41に示す。
図41において、レーン1〜4で分析したサンプルは1ピコモルのRNA標的を含有し、レーン5〜8に示す反応は100フィコモルのRNA標的を含有し、レーン9〜12に示す反応は10フィコモルのRNA標的を含有していた。奇数レーンはすべて、Cleavase(登録商標) A/G酵素を使用して行なった反応を示し、偶数レーンはすべて、DNAPTthを使用して行なった反応を示す。レーン1、2、5、6、9および10で分析した反応は、RNアーゼAで前消化されていたRNAを含有していた。これらのデータから示されるとおり、侵入的開裂反応はRNA標的を効率的に検出し、さらに、RNアーゼで処理されたサンプル中に特異的開裂シグナルが全く存在しないことから、残りのレーン内の特異的開裂産物は、投入RNAの存在に依存的であることが裏付けられる。
実施例20
インベーダー指令開裂反応における標的RNAの運命
本実施例では、インベーダー指令開裂反応におけるRNA標的の運命を調べた。前記の実施例1Dで示したとおり、RNAをDNAオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせると、そのRNAを開裂するために、DNAポリメラーゼに結合した5’ヌクレアーゼを利用できる。5’アームが長いか、あるいはそれが高度に組織化されている場合は、そのような開裂が抑制されることがある[Lyamichevら (1993) Science 260:778および米国特許第5,422,253号(それらの開示を参考として本明細書に組入れることとする)]。本実験では、標的としてフルオレセイン標識RNAを使用して行なう、実施例20に記載されているのと同様の反応を用いて、RNA標的が検出オリゴヌクレオチド(すなわち、プローブおよびインベーダーオリゴヌクレオチド)とハイブリダイズした場合に、該RNA標的が開裂剤で開裂される程度を調べた。
反応内の2%のUTPの代わりにフルオレセイン-12-UTP(Boehringer Mannheim)を使用し100μlの反応内で5.3μgのアンプリコンを使用する以外は実施例19に記載のとおりに、転写反応を行なった。該転写反応を2.5時間インキュベートし、ついでRiboMAXTM キットの説明書に従い5〜6μlのRQl RNアーゼ非含有DNアーゼ(1単位/μl)を加えることによりDNA鋳型を破壊した。有機抽出は省略し、10μlの3M NaOAc(pH5.2)および110μlの100%イソプロパノールを加えることにより、RNAを集めた。4℃で5分間インキュベートした後、沈殿物を遠心分離により集め、80%エタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥した。得られたRNAを、ヌクレアーゼを含まない100μlの水に溶解し、45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する8%変性ポリアクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動により、該サンプルの50%を精製した。完全長の物質を含有するゲルスライスを切り出し、200μlの10mM Tris-Cl(pH8.0)、0.1mM EDTAおよび0.3M NaOAc中に該スライスを4℃で一晩浸すことによりRNAを溶出した。ついで2.5倍量の100%エタノールを加えることにより、RNAを沈殿させた。-20℃で30分間インキュベートした後、沈殿物を遠心分離により回収し、80%エタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥した。該RNAを、ヌクレアーゼを含まない25μlの水に溶解し、ついで260nmでの紫外線吸光度により定量した。
該反応がプローブおよびインベーダーオリゴヌクレオチドを含まない以外は実施例20に記載のCleavase(登録商標) A/GおよびDNAPTthインベーダー反応を繰返す反応において、精製されたRNA標的のサンプルを5〜30分間インキュベートした。ついで産物を分析したところ、該RNAが非常に安定であり、非特異的分解の非常に僅かなバックグラウンドが、ゲルレーン中の灰色のバックグラウンドとして現れることが示された。そのバックグラウンドは、反応内の酵素の存在に左右されなかった。
精製されたRNA標的を使用するインベーダー検出反応を、実施例19に記載のプローブ/インベーダーの組合わせ(配列番号46および47)を使用して行なった。各反応は、150mM LiCl、4mM MnCl2、各々0.05%のTween-20およびNonidet-P40ならびに39単位のRNAsin(登録商標)(Promega)を含有する10mM MOPS(pH7.5)の緩衝液中に、500フィコモルの標的RNA、5ピコモルのフルオレセイン標識プローブおよび10ピコモルのインベーダーオリゴヌクレオチドを含んでいた。これらの成分を一緒にし、50℃に加温し、53ngのCleavase(登録商標) A/Gまたは5ポリメラーゼ単位のDNAPTthのいずれかを加えることにより、反応を開始した。最終反応容量は10μlであった。50℃で5分後、各反応のアリコート5μlを、4μlの95%ホルムアミド、10mM EDTAおよび0.02%メチルバイオレットを含有する管に取った。残されたアリコートに1滴のChill Out(登録商標)蒸発防止剤を加え、さらに25分間インキュベートした。ついで4μlの前記ホルムアミド溶液を加えることにより、これらの反応を停止した。45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する分離20%変性ポリアクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動により、これらの反応の産物を分離した。電気泳動後、FMBIO-100イメージアナライザー(Hitachi)を使用して、標識された反応産物を可視化した。得られたイメージャースキャンを図42A(5分の反応)および図42B(30分の反応)に示す。
図53では、標的RNAは各レーンの最上部の非常に近くに認められ、一方、標識プローブおよびその開裂産物は、各パネルの中央の直ぐ下に認められる。FMBIO-100イメージアナライザーを使用して、プローブバンド中の蛍光シグナルを定量した。各パネルにおいて、レーン1は、開裂剤の不存在下で行なった反応からの産物を含有し、レーン2は、Cleavase(登録商標) A/Gを使用して行なった反応からの産物を含有し、レーン3は、DNAPTthを使用して行なった反応からの産物を含有する。
プローブバンド中の蛍光シグナルの定量から、5分のインキュベーションの後に、12%または300フィコモルのプローブがCleavase(登録商標) A/Gで開裂され、29%または700フィコモルがDNAPTthで開裂されることが明らかとなった。30分のインキュベーションの後には、Cleavase(登録商標) A/Gは該プローブ分子の32%を開裂し、DNAPTthは該プローブ分子の70%を開裂していた(図42Aおよび42Bに示す画像は、RNA分解からの少量のバックグラウンドを示すように調節された濃さで印刷されており、強力なシグナルを含有するバンドは飽和している。したがって、これらの画像は、測定された蛍光の相違を正確に反映していない)。
図42に示すデータは、侵入的開裂条件下で、RNA分子が、標的として検出されるのに十分に安定であり、各RNA分子がプローブ開裂の多数のラウンドに耐えうるものであることを明らかに示している。
実施例21
インベーダー指令開裂アッセイにおける標的RNAの滴定
特異的標的核酸の存在を検出する手段としてのインベーダー指令開裂アッセイの主な利点の1つは、一定の長さの時間内に生成した開裂産物の量と反応内に存在する関心のある核酸の量とが相関することにある。RNA配列の定量的検出の利点については、実施例19で説明した。本実施例において本発明者らは、種々の量の標的出発物質を使用することにより、該検出アッセイが定量的であることを示す。これらのデータは、投入する標的の量と産生する開裂産物の量との間の相関性を示しているのに加えて、このアッセイにおいてRNA標的が再利用されうる程度を図式的に示している。
これらの反応で使用するRNA標的は、実施例20で記載したフルオレセイン標識物質(すなわち、配列番号45)であった。フルオレセイン-12-UTPがT7 RNAポリメラーゼにより取込まれる効率は不明であったため、RNAの濃度は、蛍光強度ではなく260nmにおける吸光度を測定することにより決定した。各反応は、150mM LiCl、4mM MnCl2、各々0.05%のTween-20およびNonidet-P40ならびに39単位のRNAsin(登録商標)(Promega)を含有する10mM MOPS(pH7.5)の緩衝液中に、5ピコモルのフルオレセイン標識プローブ(配列番号46)および10ピコモルのインベーダーオリゴヌクレオチド(配列番号47)を含んでいた。標的RNAの量を、以下に示すとおり、1フィコモルから100フィコモルまで変化させた。これらの成分を一緒にし、Chill Out(登録商標)蒸発防止剤を重層し、50℃に加温した。53ngのCleavase(登録商標) A/Gまたは5ポリメラーゼ単位のDNAPTthのいずれかを加えて最終反応容量を10μlとすることにより、反応を開始した。50℃で30分後、8μlの95%ホルムアミド、10mM EDTAおよび0.02%メチルバイオレットを加えることにより、これらの反応を停止した。レーン1および2中の未反応のマーカーを希釈して、同じ合計容量(18μl)にした。該サンプルを90℃に1分間加熱し、45mM Tris-ホウ酸(pH8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液中に7M尿素を含有する20%変性ポリアクリルアミドゲル(19:1架橋)に通す電気泳動により、これらの各反応の2.5μlを分離し、FMBIO-100イメージアナライザー(Hitachi)を使用して、標識された反応産物を可視化した。得られたイメージャースキャンを図43に示す。
図43において、レーン1および2は、それぞれ、5ピコモルの未開裂プローブおよび500フィコモルの未処理RNAを示している。該プローブは、パネルの中央付近の非常に濃いシグナルであり、一方、該RNAは、パネルの最上部付近の薄い線である。これらのRNAを、転写反応において、フルオレセイン-12-UTPによる天然UTPの2%置換により転写させた。得られた転写産物は、74U残基を含有し、これらは、1分子当たり平均1.5個のフルオレセイン標識を与えるであろう。レーン2において1/10モル量のRNAをローディングすると、レーン2におけるシグナルは、レーン1のプローブの蛍光強度の約1/7(0.15×)となるはずである。測定は、その強度が1/40に近いことを示し、このことは、標識の取込み効率が約17%であることを示している。RNA濃度はA260測定により確認されたため、これによって、以下の実験的観察が変更されることはないが、RNAおよびプローブからのシグナルが反応内の相対量を正確に反映していないことに注意すべきである。
レーン3〜7で分析した反応は、それぞれ1、5、10、50および100フィコモルの標的を含有し、プローブの開裂はCleavase(登録商標) A/Gで行なった。レーン8〜12で分析した反応は、同じ一連の標的量を繰返し、プローブの開裂はDNAPTthで行なった。産物のバンドの周囲に示す枠は、各反応について蛍光を測定したスキャン領域を示している。各枠内で検出した蛍光単位の数値を、各枠の下に示す。また、バックグラウンド蛍光も測定した。
各レーンで検出された蛍光を比較することにより、これらの30分間の反応で生成する産物の量が標的物質の量と相関しうることが認められる。開裂剤としてDNAPTthを使用する場合には、これらの条件下での産物の蓄積が若干増加するが、存在する標的の量との相関性は保たれている。このことは、サンプル内の標的RNAの量を測定する手段としてインベーダーアッセイを使用できることを示している。
インプットしたRNAの蛍光強度と開裂産物の蛍光強度との比較から、インベーダー指令開裂アッセイが、標的の量を超えるシグナルを生成して、開裂されたプローブとして視覚的に認められるシグナルが、標的RNAを表すシグナルよりはるかに強力であることが示される。さらにこのことは、各RNA分子が何度も使用可能だという実施例20に記載した結果を裏付けるものである。
実施例22
電荷の反転によるDNAの検出
特定の標的の検出は、プローブオリゴヌクレオチドの開裂によりインベーダー指令開裂アッセイにおいて達成される。前記実施例で記載した方法に加えて、以下に示す荷電逆転法を利用して、未開裂プローブから開裂プローブを分離することができる。この新規分離法は、正に帯電した付加物が、小さなオリゴヌクレオチドの電気泳動の挙動に影響を及ぼしうる(これは、該付加物の電荷が該複合体全体の電荷に対して有意なものであることによる)という観察に関連している。帯電した付加物による異常な移動度の観察については、既に文献で報告されているが、認められているすべての場合において、他の科学者らが追求した目的は、酵素的伸張によりオリゴヌクレオチドをより大きくすることに係わっている。負に帯電したヌクレオチドを加えてゆくにつれて、付加物の正の効果は無視しうる程度にまで減少する。その結果、正に帯電した付加物の効果は失われてしまい、そのような効果はこれまでの文献でほとんど注目されていない。
この観察された効果は、DNA分子の開裂に基づくアッセイにおいて特に有用である。Cleavase(登録商標)酵素または他の開裂剤の作用によりオリゴヌクレオチドを短くする場合には、正電荷により、負の実効電荷を有意に減少させるだけでなく、実際にはそれを凌駕させ、標識体の実効電荷を有効に「フリッピング(flipping)」させることができる。電荷のこの反転により、標的特異的開裂の産物を、非常に簡単な手段で未開裂プローブから分離するのが可能となる。例えば、ゲルに基づく電気泳動を用いない焦点化検出(focused detection)を行なうために、反応容器中の任意の位置に配置された負極に向かって開裂産物を移動させることができる。スラブゲルを使用する場合には、該ゲルの中央にサンプルウェルを配置して、開裂プローブおよび未開裂プローブが互いに逆方向へ移動するのを観察することができる。別法として、伝統的な垂直ゲルを使用することができるが、この場合には、通常のDNAゲル(すなわち、正極が最上部で、負極が最下部)に対して電極を反転させて、開裂された分子がゲルに侵入する一方で、未開裂分子が上部の電気泳動緩衝液の貯蔵槽中へ分散するようにする。
このタイプの読取りのもう1つの利点は、基質からの産物の分離の絶対性にある。このことは、プローブに基づくアッセイのハイブリダイゼーション工程を駆動するために多量の未開裂プローブを供給することができ、それにもかかわらず、得られた結果から未消費プローブを差し引いて、バックグラウンドを減少させることができることを意味する。
正に帯電した複数の付加物を使用することにより、通常は負に帯電している鎖をほとんど中性とするのに十分な程度に修飾された合成分子を構築することができる。そのように構築されている場合には、単一のリン酸基の存在または不存在は、負の実効電荷または正の実効電荷の間の相違を表している可能性がある。この観察が特に有用なのは、目的の1つが、3’ホスファートを欠く酵素的に生成したDNA断片と、3’ホスファート(およびこれに伴い2個の追加の負電荷)を保有する熱分解産物とを識別することにある場合である。
a)DNAオリゴヌクレオチドの熱分解産物の特性決定
DNAプローブの熱分解は高いバックグラウンドを与え、これは、特異的な酵素開裂により生じたシグナルを不明瞭にし、信号対雑音比を減少させることがある。DNA熱分解産物の性質を更に理解するために、本発明者らは、5’テトラクロロ-フルオレセイン(TET)標識オリゴヌクレオチド78(配列番号48)および79(配列番号49)(それぞれ100ピコモル)を、50μlの10mM NaCO3(pH10.6)、50mM NaCl中、90℃で4時間インキュベートした。サンプルの蒸発を防止するために、該反応混合物に50μlのChill Out(登録商標)液体ワックスを重層した。ついで該反応を2個の等しいアリコート(AおよびB)に分割した。アリコートAは、25μlのメチルバイオレットローディング緩衝液と混合し、アリコートBは、2.5μlの100mM MgCl2および1μlの1単位/μl仔ウシ腸アルカリホスファターゼ(CIAP)(Promega)を加え、37℃で30分間インキュベートすることにより脱リン酸化し、ついで25μlのメチルバイオレットローディング緩衝液を加えた。各サンプルの1μlを、12%ポリアクリルアミド変性ゲルに通す電気泳動により分離し、実施例21に記載のとおりFMBIOイメージアナライザーと共に585nmフィルターを使用して画像化した。得られたイメージャースキャンを図44に示す。
図44において、レーン1〜3はTET標識オリゴヌクレオチド78を含有し、レーン4〜6は、TET標識オリゴヌクレオチド79を含有する。レーン1および4は、加熱処理されていない反応の産物を含有する。レーン2および5は、加熱処理された反応からの産物を含有し、レーン3および6は、加熱処理されホスファターゼ処理に付された反応からの産物を含有する。
図44に示すとおり、加熱処理は、5’-TET標識DNAの有意な分解を引き起こし、分解産物のラダーを与える(図44、レーン2、3、5および6)。バンドの強度は、オリゴヌクレオチド配列中のプリンおよびピリミジン塩基の配置と相関しており、このことは、骨格の加水分解が、プリンの場合にピリミジンの場合より速い速度を有する非塩基性の中間産物の形成を介して生じうることを示している[LindahlおよびKarlstrom (1973) Biochem, 12:5151]。
脱リン酸化は、熱分解過程で生成したすべての産物の移動度を減少させ、その最も顕著な効果は、より短い産物で認められる(図44、レーン3および6)。このことは、熱分解産物が、CIAPでの脱リン酸化により除去されうる3’末端ホスホリル基を有することを示している。ホスホリル基の除去は、全体の負電荷を2個分減少させる。したがって、より少数の負電荷を有する、より短い産物は、2個の電荷の除去に際して、より大きな影響を受ける。このことにより、短い産物の方が、より大きな種で認められるものよりも移動度が大きくなる。
熱分解DNA産物の大部分が3’末端ホスファート基を含有し、Cleavase(登録商標)酵素で生成した産物がそれを含有しないという事実は、インベーダー指令開裂アッセイで生成した産物の簡単な単離方法の開発を可能にする。熱分解産物中に存在する余分な2個の電荷は、特異的開裂産物中に存在しない。したがって、1個または2個の実効正電荷を含有する特異的産物を与えるアッセイを設計する場合には、同様の熱分解産物は負または中性であろう。そのような相違を利用して、以下に示す逆荷電法により特異的産物を単離することができる。
b)短いアミノ修飾オリゴヌクレオチドの脱リン酸化は、標識産物の実効電荷を逆転しうる
オリゴヌクレオチドがどのようにして負の実効電荷化合物から正の実効電荷化合物に変換されうるかを示すために、70、74、75および76と表示し図45〜47に示す4個の短いアミノ修飾オリゴヌクレオチドを合成した(図45は、オリゴヌクレオチド70および74の両方を示す)。4個すべての修飾オリゴヌクレオチドは、本実施例に記載する反応条件下および単離条件下で個々に正に荷電する5’末端に位置するCy-3色素を有する。化合物70および74は、それぞれC10またはC6リンカーを介してC5位に結合した正に帯電したR-NH3 +基を反応条件下で現す2個のアミノ修飾チミジンを含有する。化合物70および74は、3’末端がリン酸化されているため、それらは4個の負電荷および3個の正電荷よりなる。化合物75が74と異なっている点は、74中の内部のC6アミノ修飾チミジンホスフェートがチミジンメチルホスホナートで置換されている点にある。ホスホナート骨格は帯電していないため、化合物75上には合計3個の負電荷がある。このため、化合物75には1個の負の実効電荷が付与される。化合物76が70と異なる点は、内部のアミノ修飾チミジンが内部のシトシンホスホナートで置換されている点にある。シトシンのN3窒素のpKaは4〜7となることが可能である。したがって、この化合物の実効電荷は、溶液のpHに応じて-1〜0となることが可能である。分析を簡易にするために各基には整数の電荷を割り当てるが、各化学基のpKaおよび周囲のpHに応じて、実際の電荷は、割り当てられている整数と異なることがあると認識される。この相違は、ここで検討する酵素反応に用いるpH範囲の全体において有意なものではないと考えられる。
これらの化合物の脱リン酸化、または3’末端ホスホリル基の除去は、2個の負電荷の喪失につながり、1の正の実効電荷を有する産物を生成する。本実験では、等電点電気泳動(IEF)法を用いて、記載されている基質での、脱リン酸化中に1の負の実効電荷から1の正の実効電荷への変化を示す。
基質70、74、75および76を、標準的なホスホルアミダイト化学法により合成し、14M水酸化アンモニウム水溶液中22℃で24時間、脱保護し、ついで溶媒を減圧中で除去した。該乾燥粉末を、200μlの水に再懸濁し、0.2μmフィルターで濾過した。ストック溶液の濃度は、分光光度計(Spectronic Genesys 2, Milton Roy, Rochester, NY)を使用して、水中で200倍希釈したサンプルの261nmでの紫外線吸光度により推定した。
化合物70および74、75および76の脱リン酸化は、10μlの該粗製ストック溶液(約0.5〜2mMの範囲の濃度)を、100μlのCIAP緩衝液(Promega)中の2単位のCIAPで37℃で1時間処理することにより行なった。ついでCIAPを不活性化するために、該反応を75℃に15分間加熱した。明確にするために、脱リン酸化された化合物を「dp」と表示する。例えば、脱リン酸化後に、基質70は70dpになる。
IEF実験用のサンプルを調製するために、基質および脱リン酸化産物のストック溶液の濃度を、水で希釈することにより、532nmで8.5×10-3の均一な吸光度に調節した。各サンプルの2μlを、IEFにより、PhastSystem電気泳動装置(Pharmacia)およびPhastGel IEF 3-9媒体(Pharmacia)を用い、製造業者のプロトコールに従って分析した。分離は、以下の設定で15℃で行なった:予行:2,000V、2.5mA、3.5W、75Vh;負荷:200V、2.5mV、3.5W、1.5Vh;実行:2,000V、2.5mA、3.5W、130Vh。分離後、585nmフィルターを備えたFMBIOイメージアナライザー(Hitachi)を使用して、サンプルを可視化した。得られたイメージャースキャンを図48に示す。
図48は、基質70、74、75および76およびそれらの脱リン酸化産物のIEF分離の結果を示す。「サンプルローディング位置」と表示した矢印はローディング線を示し、「+」の記号は正極の位置を示し、「-」の記号は負極の位置を示す。
図48に示す結果は、基質70、74、75および76は正極に向かって移動し、一方、脱リン酸化産物70dp、74dp、75dpおよび76dpは負極に向かって移動したことを示している。観察された移動方向の違いは、該基質の予想実効電荷(-1)および該産物の実効電荷(+1)と符合する。該リン酸化化合物の移動度の小さな変動は、全体のpIが変化することを示している。このことは、脱リン酸化化合物にも当てはまった。例えば、76dpにおけるシトシンの存在は、この化合物を負極に向かってさらに移動させたが、このことは、残りの脱リン酸化化合物より全体のpIが高いことを示している。天然のアミノ修飾塩基(70dpおよび74dp)および帯電していないメチルホスホナート架橋(産物75dpおよび76dp)の組合せを使用することにより、追加の正電荷が得られることに注目することが重要である。
前記で示した結果は、単一のホスファート基の除去が、オリゴヌクレオチドの実効電荷をフリップさせて電場での反転を引き起こし、産物の容易な分離を可能にすること、およびオリゴヌクレオチドの正確な塩基組成が、絶対的な移動度には影響を及ぼすが、電荷フリッピング効果には影響を及ぼさないことを示している。
実施例23
電荷逆転(charge Reversal)によるインベーダー指令開裂反応(invader-directed cleavage reaction)における特異的開裂産物の検出
本実施例においては、インベーダー指令開裂アッセイで生じた産物を反応カクテル中に存在するその他のあらゆる核酸から単離する能力を、電荷逆転を用いて示した。本実験では、下記のCy3-標識オリゴヌクレオチドを利用した:5'-Cy3-アミノT-アミノT-CTTTTCACCAGCGAGACGGG-3'(配列番号50、「オリゴ61」と称する)。オリゴ61は、開裂によって正の実効電荷を有する標識産物が放出されるように設計した。正の実効電荷を有する5'-末端標識産物が、インベーダー指令開裂アッセイフォーマットにおいてCleavase(登録商標)酵素によって認識されるかどうかを試験するために、プローブオリゴ61(配列番号50)および侵入性オリゴヌクレオチド67(配列番号51)を、標準ホスホルアミダイト化学およびGlen Research(スターリング(Sterling)、ヴァージニア州(VA))から入手した試薬を用いてDNAシンセサイザー(ABI 391)によって化学合成した。
各アッセイ反応は、M13mp18 1本鎖DNAを100fmol、プローブ(配列番号50)およびインベーダー(商標名)(配列番号51)オリゴヌクレオチドをそれぞれ10pmol、ならびにCleavase(登録商標)A/Gを20単位溶かした100mMのKClを含む10mMのMOPS溶液(pH 7.4)10μlを含んでいた。試料の上に鉱油をのせて、蒸発を防いだ。試料を50℃、55℃、60℃、または65℃のいずれかの温度にして、1μlの40mM MnCl2 を加えることによって開裂を開始させた。25分間反応を行い、次いで20mM EDTAおよび0.02%メチルバイオレットを含有する95%ホルムアルデヒド10μlを加えることによって反応を終了させた。陰性対照実験では、標的のM13mp18を用いずに、60℃で行った。5μlの各反応物を、45mMのトリス-ホウ酸塩(pH 8.3)および1.4mMのEDTAを含有する8Mの尿素を加えた緩衝液とともに20%変性ポリアクリルアミドゲル(架橋29:1)の別々のウェルに加えた。20ワットの電場を図49Bに示したような向き(すなわち、逆向きに)に置かれた電極を用いて30分間印加した。これらの反応の産物を、FMBIO蛍光画像装置を用いて視覚化した。得られた画像装置スキャンを図49Bに示す。
図49Aは、標的のM13mp18 DNAに沿って配列されたインベーダー(配列番号50)およびプローブ(配列番号51)を示す概略図であり、M13mp18配列の中の53塩基のみを示す(配列番号52)。インベーダーオリゴヌクレオチドの配列はM13mp18標的の下に表示され、矢印をM13mp18配列の上に用いてプローブと標的に対するインベーダーの位置を示す。図49Aに示したように、インベーダーとプローブオリゴヌクレオチドはオーバーラップする2塩基領域を共有している。
図49Bにおいて、レーン1〜6には、それぞれ、50℃、55℃、60℃および65℃で行われた反応物が含まれ、レーン5には対照反応物(標的を含まない)が含まれる。図49Bにおいて、開裂産物は、パネルの上半分にある濃いバンドとして観察され;下方に観察される薄いバンドは産生された一次産物の量に比例して現れ、本発明を特定の機構に限定するものではないが、一つのヌクレオチドを二重鎖に開裂することを示し得るものである。非開裂プローブはゲルに入らないので見えない。対照のレーンには、バックグラウンド以上の検出可能な信号は観察されなかった(レーン5)。侵入性開裂反応において予測したように、指令開裂産物の蓄積速度は、温度依存性であった。これらの特定のオリゴヌクレオチドおよび標的を用いた場合、産物蓄積の最高速度は55℃にて観察され(レーン2)、65℃ではほんのわずかの産物が観察された(レーン4)。
高温で長時間インキュベートすると、DNAプローブを非特異的に開裂する(すなわち熱分解する)ことが可能であり、得られる断片は分析の妨害バックグラウンドの一因となる。そのような熱分解の産物は、単一ヌクレオチドから全長プローブまで分布する。この実験においては、標的依存性開裂による特異的産物を熱分解により生じたプローブ断片から高感度に分離させる、開裂産物の電荷に基づく分離能力(すなわち電荷逆転)を調べた。
この検出方法の感度の限界を試験するために、標的M13mp18 DNAを1fmol〜1amolの範囲以上に10倍ごとに連続的に希釈した。インベーダーおよびプローブオリゴヌクレオチドは上記のものである(すなわち配列番号50および51)。侵入性開裂反応を下記のように変更して上記のように行った:反応は55℃で行い、100mMのKClの代わりに250mMまたは100mMのKGluを用い、インベーダーオリゴヌクレオチドは1pmolのみ加えた。反応は上記のようにして開始させ、12.5時間行った。また、M13mp18標的DNAを加えない陰性対照反応も行った。20mMのEDTAおよび0.02%のメチルバイオレットを含有する95%ホルムアルデヒド10μlを加えることによって反応を終了させ、この混合物5μlを電気泳動し、上記のようにして視覚化させた。得られた画像装置スキャンを図50に示す。
図50において、レーン1には陰性対照が含まれ、レーン2〜5には100mMのKGluを用いて行った反応物が含まれ、レーン6〜9には250mMのKGluを用いて行った反応物が含まれる。レーン2および6において分離された反応物には、1fmolの標的DNAが含まれており、レーン3および7の反応物には10amolの標的が含まれており、レーン4及び8の反応物には10amolの標的が含まれており、レーン5および9の反応物には1amolの標的が含まれていた。図50に示された結果は、電荷逆転を用いて侵入性開裂反応における特異的開裂産物の産生を検出する場合の検出限界が1アトモルまたは約6.02×105 の標的分子以下であることを証明するものである。対照レーンには検出可能な信号は観察されず、これは、非特異的加水分解またはその他の分解産物は、酵素特異的開裂産物と同じ方向に移動しないことを示すものである。Cy3の最大励起および最大発光はそれぞれ554と568であり、一方、FMBIO画像装置アナライザーは532で励起し、585で検出する。したがって、特異的開裂産物の検出限界はより密接に整合した励起源および検出フィルターを用いることによって改良することができる。
実施例24
荷電反応産物の分離および検出のための装置および方法
本実施例は、溶液中で酵素反応を行い、それにより反応物が電荷中性基質または特異的反応産物とは反対の電荷を有する基質のどちらかから荷電産物を生じさせることよって産生された特異的反応産物を単離および濃縮する方法および装置に関する。本実施例の方法および装置によれば、例えば、本発明のインベーダー指令開裂アッセイによって生じた産物を単離することができる。
本実施例の方法および装置は、電場が荷電分子の溶液に印加されると、反対電荷の電極への分子の移動が非常に急速に生じるという原理に基づくものである。かかる急速な移動が劇的に遅くなるようにマトリックスまたはその他の阻害材料を荷電分子と反対電荷の電極との間に導入すると、マトリックスに到達する最初の分子はほとんど停止し、したがって遅滞している分子を追いつかせることができる。この方法では、溶液中に分散された荷電分子の集団を、効率的に小容量に濃縮することができる。分子を検出可能な成分(例えば蛍光染料)で標識することにより、分析物を濃縮および局在化させることによって検出が容易になる。本実施例は、本発明によって企図された装置の2つの実施態様を説明するものであり、もちろん、これらの装置の変形は当業者には明白であり、かかる変形は本発明の精神および範囲に含まれるものである。
図51は、本発明の方法を用いることによって生じた正荷電産物を濃縮するための装置の一つの実施態様を図示するものである。図51に示したように、この装置は、反応溶液(11)を含有する反応管(10)を含む。2本の細い毛管(または中空孔を有するその他の管)(13Aおよび13B)のそれぞれの一端を反応溶液(11)中に浸す。毛管(13Aおよび13B)は、それらが反応管に接触しないように反応溶液(11)中に吊り下げてもよく、毛管を吊り下げるためのある一つの適当な方法は、クランプ(図示せず)で適切に保持することである。また、毛管は、それらが反応管と接触するように反応溶液(11)中に吊り下げてもよい。適当な毛管としては、科学用品会社(例えば、Fisher ScientificまたはVWR Scientific)、または血液抜き取りおよび分析用の材料を所有する医療用品会社から通常市販されているガラス毛管が挙げられる。本発明は、ある特定の内径を有する毛管に限定されるものではないが、約1/8インチ(約3mm)以下の内径を有する管が、本発明で使用するのに特に好ましく、例えば、Kimble No.73811-99管(VWR Scientific)は内径1.1mmであり、適切な型の毛管である。装置の毛管は、通常、ガラス製であるが、導体またはトラップ材のどちらかを含むことができる硬質または軟質のあらゆる不導性管状体が本発明の使用に適している。適当な軟質管の一つの例は、Tygon(登録商標)透明プラスチック管材料(部品No.R3603;内径=1/16インチ;外径=1/8インチ)である。
図51に示したように、毛管13Aは、電源(20)(例えば、上記の実験用品会社またはRadio Shackのようなエレクトロニクス用品会社から市販されている制御可能な電源)の陽極に接続されており、毛管13Bは電源(20)の陰極に接続されている。毛管13Bには、トラップ材(14)が充填されており、トラップ材(14)は該トラップ材(14)に入った産物の移動を最小限にすることにより正荷電反応産物をトラップすることができる。適当なトラップ材としては、限定するものではないが、高塩濃度緩衝液(0.5M以上の酢酸ナトリウムまたは同様の塩)中で重合した高い百分率(例えば約20%)アクリルアミドが挙げられ、そのような高い百分率のポリアクリルアミドマトリックスは、正荷電反応産物の移動を劇的に遅くさせる。また、トラップ材は、入ってくる正荷電産物を結合することができる、負荷電ラテックスビーズなどの負荷電固体マトリックスを含み得る。正荷電反応産物のどのような濃縮をも阻害することが可能な量のトラップ材(14)が用いられ得ることを留意すべきである。したがって、図51の毛管13Bは、該管の下方の液に浸された部分のみにトラップ材を含むが、トラップ材(14)は毛管(13B)全体に存在することができ、同様に、正荷電反応産物は、一般に、毛管(13B)の下端の非常に小さい部分に蓄積するので、トラップ材(14)が図51に示すよりも少なくてもよい。反応溶液(11)と接触して、反応産物を回収するための収容力を有するのに十分なだけの量のトラップ材が必要とされる。毛管13Bがトラップ材で完全に充填されていない場合、残りの空間は導体(15)で充填されており、適当な導体は下記で論ずる。
比べると、電源20の陽極に接続された毛管(13A)はいかなる導体(15;図51ではハッチングを付した部分)で充填されていてもよい。導体は、試料反応緩衝液(例えば、150mMのLiCl、4mMのMnCl2 を含む10mMのMOPS(pH 7.5))、標準電気泳動緩衝液(例えば、45mMのトリス-ホウ酸塩(pH 8.3)、1.4mMのEDTA)、または反応溶液(11)自体であり得る。導体(15)は液体である場合が多いが、半固体材料(例えばゲル)またはその他の適当な材料はより簡単に使用し得るものであり、本発明の範囲内である。さらに、他の毛管(すなわち毛管13B)で用いられるトラップ材も導体として使用され得る。逆に、陽極に取り付けられた毛管(13A)に用いられる同一の導体を、トラップ材(14)を含む領域の上方の空間を充填するために毛管13Bにおいても用い得ることに留意すべきである(図51参照)。
毛管(13Aおよび13B)のそれぞれの頂端は、電極線(18)またはその他の適当な材料により電源(20)の適切な電極に接続される。細い白金線(例えば0.1〜0.4mm。Aesar Johnson Matthey、ワードヒル(Ward Hill)、マサチューセッツ州)は電気泳動条件下で腐食しないので、この白金線が、通常、導線として用いられる。電極線(18)は、衛生器具をシールするために、通常、金物店(hardware stores)で販売されているシリコーン接着剤などの不導性接着剤(図示せず)により毛管(13Aおよび13B)に取り付けることができる。毛管が軟質材料から構成されている場合、電極線(18)を、小さいホースクランプまたは締め付け線(constricting wire)(図示せず)にて固定して、該電極線のまわりに毛管の開口部を圧縮することができる。導体(15)がゲルである場合、電極線(18)は毛管内のゲル中に直接埋封することができる。
開裂反応物は、反応管(10)中に収納され、前述の実施例(例えば、実施例22〜23)に記載したようにここで反応が行われる。反応溶液(11)をある特定の容量に限定するものではないが、好ましい容量は10ml未満であり、より好ましくは0.1ml未満である。両方の毛管に接触させるのに十分なだけの容量が必要とされる。開裂反応が完了したら、電源(20)を入れることによって電場を毛管に印加する。結果として、開裂される場合、正荷電断片(実施例23に記載)が生じるが、開裂されない場合、負の実効電荷を有するオリゴヌクレオチドを用いるインベーダー指令開裂反応中に生じた正荷電産物は、負の毛管の方に移動し、この移動はトラップ材(14)によって減速または停止され、そして負に帯電した非開裂プローブ分子および熱分解プローブ分子は陽極の方に移動する。この装置または同様の装置を使用することによって、侵入性開裂反応による正荷電産物は、他の材料(すなわち、非開裂プローブおよび熱分解プローブ)から分離され、大容量から濃縮される。産物を少量のトラップ材(14)に濃縮することにより、最初の反応物の容量における検出であり得る信号対雑音比よりもはるかに高い信号対雑音比を有する検出が簡単にできる。濃縮された産物は蛍光染料などの検出可能な成分で標識されているので、市販の蛍光板状読み取り装置(図示せず)を用いて産物の量を確かめることができる。適当な板状読み取り装置としては、頂部レーザー読み取り装置および底部レーザー読み取り装置が挙げられる。毛管13Bは、頂部または底部板状読み取り装置のどちらかの使用に適合するように、所望の位置に反応管(10)とともに配置することができる。
図52に図示した本発明の別の実施態様においては、上記の手順はただ1本の毛管(13B)を利用することによって行われる。毛管(13B)は上記のトラップ材(14)を含み、そして電極線(18)に接続され、次いでその電極線(18)は電源(20)の陰極に取り付けられている。反応管(10)はその表面に埋め込まれた電極(25)を有しており、電極の一方の表面は反応管(10)の内部にさらされており、他方の表面は反応管の外部にさらされている。反応管外部にさらされた電極(25)の表面は、電源(20)の陽極に電極線(18)によって接続された導電表面(26)と接触している。また、図52に図示された配置の変更も本発明により企図されている。例えば、電極(25)は反応管(10)の小孔を使用することにより反応溶液(11)と接触させ得るものであり、さらに、電極線(18)を電極線(18)に直接接続することができ、それによって導電表面(26)を省略することができる。
図52に示したように、電極(25)は、1本以上の反応管が導電表面(26)上に固定され得るように、反応管(10)の底部に埋め込まれている。この導電表面は、多数の反応管用の陰極として役立つことができ、適切な接点を有するそのような表面は金属箔(例えば銅または白金、Aesar Johnson Matthey、ワードヒル、マサチューセッツ州)を用いることにより、接点を回路板に貼り付けるのとほとんど同じ方法で貼り付けることができる。そのような表面接点は、反応試料に直接さらされるものではないので、銅などの安価な金属を電気接続のために用いることができる。
上記の装置および方法は、正荷電オリゴヌクレオチドの分離および濃縮に限定されない。当業者には明らかなように、毛管13Bが電源(20)の陽極および毛管13Aに接続されているか、または電極25が電源(20)の陰極に接続されていることを除いて、上記の装置および方法を用いて、負に帯電した反応産物を中性または正荷電反応物から分離し得る。
実施例25
プライマーが下流二重鎖における不適性対合「バブル(bubble)」の3'側に伸長する場合に同じ部位に生じるプライマー指令的およびプライマー非依存性開裂
実施例1で論じたように、分岐した二重鎖(bifurcated duplex)のプライマー上流の存在は開裂部位に影響を及ぼすことができ、プライマーの3'末端と二重鎖の塩基との間のギャップの存在はこの構造の不対5'アームの上流への開裂部位のシフトを引き起こすことができる(上記のLyamichevら、および米国特許第5,422,253号参照)。プライマーに応答して得られた開裂部位の非侵入性シフトを図8、9および10に示すが、用いられるプライマーには4-ヌクレオチドギャップ(二重鎖の塩基に対して)が残されていた。図8〜10において、全ての「プライマー指令的」開裂反応により21ヌクレオチド産物が得られた一方、プライマー非依存性開裂反応により25ヌクレオチド産物が得られた。プライマーが二重鎖のベースの方に伸長する場合に得られ、ギャップは残っていない開裂の部位を調べた。結果を図53に示す(図53はLyamichevらにおける図2Cの再現である)。これらのデータは、実施例1に記載したように、図5に示した構造の開裂から誘導された。別段明記しないかぎり、開裂反応物は、0.01pmolの熱変性末端標識ヘアピンDNA(非標識相補鎖を有するものも存在する)、1pmolのプライマー{図5に示された3'アームに相補的であり、配列:5'-GAATTCGATTTAGGTGACACTATAGAATACA(配列番号53)を有する}および0.5単位のDNAPTaq(0.026pmolと推定される)を加えた、10mMのトリス-Cl(pH 8.5)ならびに1.5mMのMgCl2 および50mMのKCl の合計容量10μlが含まれる。図53の第1のレーン示された反応物はプライマーが省略されており、レーン2には含まれている。これらの反応物は55℃で10分間インキュベートした。反応を、最終反応温度で、MgCl2 または酵素のどちらかを加えることによって開始させた。反応を、それらのインキュベート温度で、20mMのEDTAおよび0.05%のマーカー色素を含む95%ホルムアミド8μlを加えることによって停止させた。
図53は、ヘアピン二重鎖のベースの方に伸長するプライマーの存在下での分岐した二重鎖構造の開裂部位における影響を示すオートラジオグラムである。放出された開裂産物の大きさは左に示されている(すなわち25ヌクレオチド)。開裂基質のジデオキシヌクレオチドシークエンシングラダーをマーカーとして右に示す(レーン3〜6)。
これらのデータは、下流二重鎖に隣接するプライマーが存在すると(レーン2)、プライマーの不存在下(レーン1)で行われる反応において観察される部位と同じ部位で開裂が生じるということを示すものである(追加の比較のために図8AおよびB、9Bおよび10Aを参照されたい)。上流オリゴヌクレオチドの3'末端ヌクレオチドは鋳型鎖と塩基対を形成することができるが、開裂部位のすぐ上流の領域の置換鎖とは相同でない場合(すなわち、上流オリゴヌクレオチドが二重鎖の「バブル」になっている場合)、開裂が明らかにシフトする部位は上流オリゴヌクレオチドの存在に完全には依存していない。
発明の背景の節および表1で論じたように、アッセイにおいては2つの独立した配列の認識の必要性が高度に望ましいレベルの特異性をもたらす。本発明の侵入性開裂反応においては、インベーダーおよびプローブオリゴヌクレオチドは、正確な開裂産物を産生することができる正確な方向づけおよび間隔を有する標的核酸とハイブリダイズしなければならない。特有の開裂パターンが検出系における両方のオリゴヌクレオチドのうまい並びに依存しない場合、これらの非依存性認識の利点が失われる。
実施例26
「X」オーバーラップ領域中に部分相同性のみが存在する場合の侵入性開裂およびプライマー指令的開裂
本発明をある特定の機構に限定するものではないが、開裂部位が下流プローブオリゴヌクレオチドとオーバーラップする領域を共有する上流オリゴヌクレオチドの存在に依存する様式でプローブと標的核酸の間に形成された二重鎖内の部位にシフトする場合、侵入性開裂が生じる。いくつかの場合において、下流オリゴヌクレオチドの5'領域は、標的核酸と完全に相補的でなくてもよい。このような場合、上流オリゴヌクレオチドの不存在下においてさえプローブの開裂はプローブ内の部位で生じ得る(完全に対合したプローブがインベーダーなしで用いられる場合に観察される塩基ごとのかじり取り(nibbling)とは対照的である)。侵入性開裂は、インベーダーオリゴヌクレオチドの存在に依存する下流二重鎖内の部位への開裂の明らかなシフトによって特徴づけられる。
プローブの5'領域(すなわちインベーダーとオーバーラップする領域)において標的鎖との相補性の程度が低下している1セットのプローブオリゴヌクレオチドの予想開裂部位を比較することによって、侵入性開裂とプライマー指令的開裂との比較が説明され得る。上記のヘアピン基質上で行った試験(実施例25)と同様の簡単な試験を行って、侵入性開裂を上記の非侵入性プライマー指令的開裂と比較することができる。そのような1セットの試験オリゴヌクレオチドを図54に図示する。図54に示した構造を2つ一組に分類し、「a」、「b」、「c」、および「d」と名称を付けた。各組は、標的鎖(配列番号54)にアニーリングされた同一のプローブ配列を有するが、各組の頂部構造は上流オリゴヌクレオチドなしで描かれており、一方、底部構造はかかるオリゴヌクレオチドを含む(配列番号55)。図54a〜54dに示されたプローブの配列を、それぞれ、配列番号32、56、57および58に示す。可能性のある開裂部位を黒い矢じりで示す。(これらの構造のそれぞれにおける正確な開裂部位は開裂剤およびその他の実験変数の選択によって変動し得る。これらの特定の部位は単に説明的な目的で提供されるものである。)
かかる試験を行うために、各プローブの開裂部位を上流オリゴヌクレオチドの存在下および不存在下、実施例18に記載したのと同じような反応条件にて決定した。次いで、上流オリゴヌクレオチドが反応に含まれる場合、プローブの5'末端から放出される断片の大きさが増大するか否かを測定するために、各組の反応の産物を比較する。
プローブ分子が標的鎖と完全に相補的である図54aに示された配列は、図28に示されたものと類似している。頂部構造をDNAポリメラーゼの5'ヌクレアーゼで処理すると、プローブのヌクレオチド加水分解的かじり取り(exonucleolytic nibbling)が生じる。対照的に、インベーダーオリゴヌクレオチドが含まれると、図29に観察されたものと同様の特有の開裂シフトが生じる。
図54bおよび54cに示された配列は、プローブの5'末端に若干量の不対合配列を有する(それぞれ、3および5塩基)。これらの小さな5'アームは5'ヌクレアーゼに適した開裂基質であり、1本鎖領域と二重鎖との接続点の2ヌクレオチド内で開裂される。これらの配列において、上流オリゴヌクレオチドの3'末端は、標的配列と相補的であるプローブの5'領域の一部と同一性を有する(すなわち、インベーダーの3'末端は、標的とプローブの5'末端の一部との結合に対して競合しなければならない)。したがって、上流オリゴヌクレオチドが含まれる場合、開裂部位の下流二重鎖へのシフトを媒介するものと考えられ(本発明は、ある特定の作用機構に限定されるものではないが)、よって、これは、侵入性開裂を構成する。プローブの不対合領域の末端5'ヌクレオチドが標的鎖とハイブリダイズすることができる場合、インベーダーの不存在下における開裂部位は変わり得るが、インベーダーオリゴヌクレオチドを添加すると、やはり開裂部位は適正な位置にシフトする。
最後に、図54dに示した配列において、プローブと上流オリゴヌクレオチドは有意な相同性領域を共有しておらず、上流オリゴヌクレオチドの存在は標的とプローブとの結合に対して競合しない。図54dに示された構造の開裂は、上流オリゴヌクレオチドがある場合も無い場合も同じ部位で生じ、したがって、侵入性開裂を構成しない。
このように、上流オリゴヌクレオチド/プローブ対を調べることによって、得られる開裂が侵入性であるか、単にプライマー指令的であるかを容易に決定することができる。予想した結果が配列の簡単な検査によっては明らかにはならない可能性があるような、プローブが標的核酸に完全に相補的ではない場合、このような分析は特に有用である。
実施例27
修飾Cleavase(登録商標)酵素
核酸の開裂に有用な活性を有するヌクレアーゼを開発するために、下記のようにして修飾ヌクレアーゼを産生させた。
a)Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼ
i)Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼのクローニングおよび発現
部位特異的突然変異誘発を用いて、開裂される1本鎖DNAがおそらく通過しなければならないらせん状アーチ形のタンパク質を形成すると考えられているCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼの領域にプロテアーゼであるトロンビンによって認識されるタンパク質配列を導入した。突然変異誘発は、突然変異誘発オリゴヌクレオチド5'-GGGAAAGTCCTCGCAGCCGCGCGGGACGAGCGTGGGGGCCCG(配列番号59)を用いる製造業者のプロトコルにしたがって、Transformer(商標名)突然変異誘発キット(Clonetech、パロアルト(Palo Alto)、カリフォルニア州)を用いて行った。突然変異誘発後、DNAを配列決定してトロンビン開裂部位の挿入を確かめた。Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼをコードするDNA配列を配列番号60に示し、Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼのアミノ酸配列を配列番号61に示す。
トロンビン突然変異体(すなわち、Cleavase(登録商標)BN/トロンビン)の大量調製を、実施例28に記載したようにCleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼを過剰発現するE.coli細胞を用いて行った。
ii)Cleavase(登録商標)BN/トロンビンのトロンビン開裂
6.4mgの精製Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼを、0.4Uのトロンビン(Novagen)を用いて23℃または37℃にて4時間消化した。消化の完了を15%SDSポリアクリルアミドゲルによる電気泳動によって確かめた後、クーマシーブリリアントブルーRで染色した。また、野生型Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼも、対照としてトロンビンで消化した。得られたゲルを図61に示す。
図61において、レーン1には分子量マーカー(低範囲タンパク質分子量マーカー、Promega)が含まれ、レーン2には非消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼが含まれ、レーン3および4にはトロンビンを用いて23℃でそれぞれ2時間および4時間消化したCleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼが含まれ、そしてレーン5および6にはトロンビンを用いて37℃でそれぞれ2時間および4時間消化したCleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼが含まれている。これらの結果は、Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼが36.5キロダルトンの見掛分子量を有することを示すものであり、Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼがトロンビンによって効率的に開裂されるということを示すものである。さらに、トロンビン開裂産物は、Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼの挿入トロンビン部位の位置に基づいて予想される大きさである、27キロダルトンと9キロダルトンの概算分子量を有する。
消化および非消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼにおけるヘアピン開裂活性のレベルを測定するために、希釈物を作製し、5'フルオレセイン標識を含む試験ヘアピンの開裂に用いた。種々の量の消化および非消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼを、5μMのオリゴヌクレオチドS-60ヘアピン(配列番号29、図26参照)とともに、10mMのMOPS(pH 7.5)、0.05%Tween-20、0.05%NP-40および1mMのMnCl2中で60℃にて5分間インキュベートした。消化混合物を20%アクリルアミドゲルにて電気泳動し、日立FMBIO 100蛍光画像装置で視覚化した。得られた像を図62に示す。
図62において、レーン1には酵素を含まない対照が含まれ、レーン2には0.01ngのCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼを用いて産生させた反応産物が含まれ、レーン3、4および5にはそれぞれ0.01ng、0.04ngおよび4ngの非消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼを用いて産生させた反応産物が含まれ、そしてレーン6、7および8にはそれぞれ0.01ng、0.04ngおよび4ngのトロンビン消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼを用いて産生させた反応産物が含まれる。図62に示された結果によって、トロンビン開裂部位の挿入により開裂活性が約200倍(Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼの活性に対して)低下するが、トロンビンによる消化は該活性を有意に低下させないことが証明された。
M13 1本鎖DNAを、Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼ、ならびに消化および非消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼによる開裂の基質として用いた。70ngの1本鎖M13 DNA(New England Biolabs、ビバリー(Beverly)、マサチューセッツ州)を、8ngのCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼ、非消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼ、または消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼを含む10mMのMOPS(pH 7.5)、0.05%Tween-20、0.05%NP-40、1mMのMgCl2 または1mMのMnCl2 中で、50℃にて10分間インキュベートした。反応混合物を0.8%アガロースゲル上で電気泳動し、次いで0.5μg/mlの臭化エチジウム(EtBr)を含む溶液で染色してDNAバンドを視覚化した。EtBr-染色ゲルの陰性像を図63に示す。
図63において、レーン1には酵素を含まない対照が含まれ、レーン2にはCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼおよび1mMのMgCl2を用いて産生させた反応産物が含まれ、レーン3にはCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼおよび1mMのMnCl2を用いて産生させた反応産物が含まれ、レーン4には非消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼおよび1mMのMgCl2を用いて産生させた反応産物が含まれ、レーン5には非消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼおよび1mMのMnCl2 を用いて産生させた反応産物が含まれ、レーン6にはトロンビン消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼおよび1mMのMgCl2を用いて産生させた反応産物が含まれ、そしてレーン7にはトロンビン消化Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼおよび1mMのMnCl2を用いて産生させた反応産物が含まれる。図63に示された結果によって、Cleavase(登録商標)BN/トロンビンヌクレアーゼは、Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼと比較して、環状DNAを開裂するための高い能力を有している(したがって、フリーの5'末端の存在の必要性が低くなる)ことが証明された。
これらのデータから、らせん状アーチ形のこれらのタンパク質を、酵素、または開裂構造を特異的に認識するための該酵素の能力を破壊することなく開環することができるということが理解され得る。Cleavase(登録商標)BN/トロンビン突然変異体は、上記のように、5'末端に関係なく開裂能力が増大している。そのような構造を開裂する能力により、環状でない場合が多いが、どのような利用可能な5'末端からも遠く移動した多数の望ましい開裂部位を与え得るゲノムDNAなどの長い分子の開裂が可能になる。開裂構造は、かかる部位に、鎖の折り曲がり(すなわちCFLP(登録商標)開裂)または構造形成性オリゴヌクレオチドの導入(米国特許第5,422,253号)のどちらかによって作られ得る。また、核酸の5'末端も、大きすぎるためにらせん状アーチに通すことができない物質の結合により、利用することができなくなり得る。かかる結合成分としては、ストレプトアビジンもしくは抗体などのタンパク質、またはビーズもしくは反応容器の内壁などの固体支持体が挙げられ得る。らせん状アーチのループに開口部を有する開裂酵素は、このように立体的に配置されているDNAを開裂することができ、そのような酵素を用いて反応を構成することができる方法の数を増やすことができる。
b)Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼ
i)Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼの構築および発現
Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼという、Taq DNAポリメラーゼの重合欠失(polymerization deficient)突然変異体を構築した。Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼには、785位に野生型アスパラギン酸残基の代わりにアスパラギン残基が含まれている(D785N)。
Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼをコードするDNAを、Cleavase(登録商標)A/G(mutTaq、実施例2)をコードする遺伝子から、2ラウンドの部位特異的突然変異誘発にて構築した。まず、Cleavase(登録商標)A/G遺伝子(配列番号21)の1397位のGと2264位のGをそれぞれAに置換して野生型DNAPTaq遺伝子を再作製する。突然変異誘発の第2ラウンドとして、野生型DNAPTaq遺伝子を、2356位のGをAに置換することによってCleavase(登録商標)DN遺伝子に変換した。これらの操作は下記のようにして行った。
Cleavase(登録商標)A/GヌクレアーゼをコードするDNAを、pTTQ18プラスミド(実施例2)からpTrc99A(Pharmacia)プラスミドに2工程にて再クローニングした。まず、pTrc99Aベクターを、pTrc99A地図の270位のGを除去することによって修飾し、pTrc99Gクローニングベクターを作製した。かかる目的のために、pTrc99AプラスミドDNAをNcolで開裂し、後退性(recessive)3'末端をE.coliポリメラーゼIのクレノウ断片を用いて4つのdNTP全ての存在下で37℃にて15分間ふさいだ。クレノウ断片を65℃で10分間インキュベートすることにより失活させた後、プラスミドDNAをEcoRIで開裂し、再び末端をクレノウ断片を用いて4つのdNTP全ての存在下で37℃にて15分間ふさいだ。次いで、クレノウ断片を65℃で10分間インキュベートすることにより失活させた。プラスミドDNAをエタノール沈殿させて、ライゲーションにより再環化して、E.coli JM109細胞(Promega)の形質転換に用いた。プラスミドDNAをシングルコロニーから分離して、pTrc99A地図の270位のGの欠失をDNA配列決定によって確認した。
第2の工程として、Cleavase(登録商標)A/GヌクレアーゼをコードするDNAを、pTTQ18プラスミドからEcoRIおよびSalIを用いて取り出し、Cleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ遺伝子を有するDNA断片を、1%アガロースゲル上で分離して、Geneclean II キット(Bio101、ヴィスタ(Vista)、カリフォルニア州)を用いて単離した。精製断片を、EcoRIおよびSalIを用いて開裂されたpTrc99Gベクターにライゲーションした。ライゲーション混合物を用いてコンピテントE.coli JM109細胞(Promega)を形質転換した。プラスミドDNAをシングルコロニーから分離して、Cleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ遺伝子の挿入を、EcoRIおよびSalIを用いる制限酵素分析によって確認した。
pTrc99AベクターにクローニングされたCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ遺伝子を有するプラスミドDNA pTrcAGを、QIAGENプラスミドMaxiキット(QIAGEN、チャッツワース(Chatsworth)、カリフォルニア州)を用いて製造業者のプロトコルにしたがって200mlのJM109一晩培養物から精製した。pTrcAGプラスミドDNAを、2つの突然変異誘発プライマー、E465(配列番号62)(Integrated DNA Technologies、アイオワ州)およびR754Q(配列番号63)(Integrated DNA Technologies)、ならびに選択プライマーTrans Oligo AlwNI/SpeI(Clontech、パロアルト、カリフォルニア州、カタログ#6488-1)を用いてTransformer(商標名)部位特異的突然変異誘発キットプロトコル(Clontech)にしたがって突然変異誘発させて、回復(restored)野生型DNAPTaq遺伝子(pTrcWT)を産生させた。
pTrc99Aベクターにクローニングされた野生型DNAPTaq遺伝子を有するpTrcWTプラスミドDNAを、QIAGENプラスミドMaxiキット(QIAGEN、チャッツワース、カリフォルニア州)を用いて製造業者のプロトコルにしたがって200mlのJM109一晩培養物から精製した。次いで、pTrcWTを、突然変異誘発プライマーD785N(配列番号64)(Integrated DNA Technologies)および選択プライマーSwitch Oligo SpeI/AlwNI(Clontech、カタログ#6373-1)を用いてTransformer(商標名)部位特異的突然変異誘発キットプロトコル(Clontech)にしたがって突然変異誘発させて、Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼをコードするDNAを含有するプラスミドを作製した。Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼをコードするDNA配列を配列番号65に示し、Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼのアミノ酸配列を配列番号66に示す。
Cleavase(登録商標)DNヌクレアーゼの大量調製を、実施例28に記載したようにCleavase(登録商標)DNヌクレアーゼを過剰発現するE.coli細胞を用いて行った。
c)Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼおよびCleavase(登録商標)DVヌクレアーゼ
Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼおよびCleavase(登録商標)DVヌクレアーゼと称する、2つのTaq DNAポリメラーゼの重合欠失突然変異体を構築した。Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼには、610位に、野生型アスパラギン酸残基の代わりにアラニン残基が含まれている(D785A)。Cleavase(登録商標)DVヌクレアーゼには、610位に、野生型アスパラギン酸残基の代わりにバリン残基が含まれている(D610V)。
i)Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼおよびCleavase(登録商標)DVヌクレアーゼの構築および発現
Cleavase(登録商標)DAおよびDVヌクレアーゼをコードするベクターを構築するために、pTrcAG内に含まれるCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ遺伝子を、2つの突然変異誘発プライマー、R754Q(配列番号63)およびD610AV(配列番号67)、ならびに選択プライマーTrans Oligo AlwNI/SpeI(Clontech、カタログ#6488-1)を用いてTransformer(商標名)部位特異的突然変異誘発キットプロトコル(Clontech)にしたがって突然変異誘発させて、Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼまたはCleavase(登録商標)DVヌクレアーゼをコードするDNAを含有するプラスミドを作製した。D610AVオリゴヌクレオチドを、オリゴヌクレオチドの5'末端から10番目の位置にプリンAまたはGを有するように合成した。突然変異誘発後、プラスミドDNAをシングルコロニーから分離し、存在する突然変異の型、DAまたはDVをDNA配列決定によって決定した。Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼをコードするDNA配列を配列番号68に示し、Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼのアミノ酸配列を配列番号69に示す。Cleavase(登録商標)DVヌクレアーゼをコードするDNA配列を配列番号70に示し、Cleavase(登録商標)DVヌクレアーゼのアミノ酸配列を配列番号71に示す。
Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼとCleavase(登録商標)DVヌクレアーゼの大量調製を、実施例28に記載したように、Cleavase(登録商標)DAヌクレアーゼまたはCleavase(登録商標)DVヌクレアーゼを過剰発現するE.coli細胞を用いて行った。
実施例28
耐熱性FEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現
3種類の古細菌種由来の耐熱性FEN-1タンパク質をコードする配列をE.coliにクローニングして、過剰発現させた。本実施例には、a)メタノコッカス・ジャナスキイ(Metanococcus jannaschii)由来のFEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現、b)ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来のFEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現、c)ピロコッカス・ウーゼイ(Pyrococcus woesei)由来のFEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現、d)アルカエグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)由来のFEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現、e)組換え耐熱性FEN-1タンパク質の大量調製、ならびにf)FEN-1エンドヌクレアーゼを用いる活性アッセイが含まれる。
a)メタノコッカス・ジャナスキイ由来のFEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現
メタノコッカス・ジャナスキイ(M.ジャナスキイ)由来のFEN-1エンドヌクレアーゼをコードするDNAをM.ジャナスキイ細胞から単離し、下記のようにして、誘導プロモーターの転写調節下にプラスミドに挿入した。ゲノムDNAを、生M.ジャナスキイ菌(DSMZ、Duetsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen、Braunschweig、ドイツ#2661)の1つのバイアルから、DNA XTRAXキット(Gull Laboratories、ソルトレークシティ、ユタ州)を用いて製造業者のプロトコルにしたがって調製した。最終DNAペレットをTE(10mM トリスHCl、pH 8.0、1mM EDTA)100μl中に再懸濁した。DNA溶液1マイクロリットルを使用して、Advantage(商標名)cDNA PCRキット(Clonetech)を用いるPCRを行った。このPCRは製造業者の推奨にしたがって行った。5'-末端プライマー(配列番号72)は、NcoI制限部位を作製するための1塩基置換を有するMja FEN-1オープンリーディングフレームの5'末端と相補的である{M.ジャナスキイ(Mja)FEN-1をコードする遺伝子を含有するM.ジャナスキイゲノムの断片は、受託番号#U67585としてGenBankから入手可能である}。3'-末端プライマー(配列番号73)は、SalI制限酵素部位を作製するための2塩基置換を有するMja FEN-1オープンリーディングフレームの3'末端から下流側の約15塩基対の配列と相補的である。5'-末端および3'-末端プライマーの配列は、それぞれ、5'-GGGATACCATGGGAGTGCAGTTTGG-3'(配列番号72)および5'-GGTAAATTTTTCTCGTCGACATCCCAC-3'(配列番号73)である。PCR反応により、長さ約1キロベースの単一の主要バンドが増幅(すなわち産生)された。Mja FEN-1エンドヌクレアーゼをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を配列番号74に示し、このORFによってコードされるアミノ酸配列を配列番号75に示す。
PCR増幅後、全反応物を1.0%アガロースゲル上で電気泳動し、主要バンドをゲルから切り出して、Geneclean IIキット(Bio101、ヴィスタ、カリフォルニア州)を用いて製造業者の指示にしたがって精製した。約1μgのゲル精製Mja FEN-1 PCR産物をNcoIおよびSalIで消化した。消化後、DNAをGeneclean IIキットを用いて製造業者の指示にしたがって精製した。pTrc99aベクター(Pharmacia)1μgを、消化PCR産物とのライゲーションの準備として、NcoIおよびSalIで消化した。消化pTrc99aベクター100ngおよび消化Mja FEN-1 PCR産物250ngを混合してライゲーションし、pTrc99-MJFEN1を作製した。pTrc99-MJFEN1を用いて、コンピテントE.coli JM109細胞(Promega)を標準技術により形質転換した。
b)ピロコッカス・フリオサス由来のFEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現
ピロコッカス・フリオサス(P.フリオサス)FEN-1エンドヌクレアーゼをコードするDNAを、P.フリオサス(Pfu)FEN-1エンドヌクレアーゼをコードするDNAを含有するプラスミド{海洋バイオテクノロジーセンター(バルチモア、メリーランド州)のFrank Robb.博士から入手}を用いるPCR増幅によって得た。Pfu FEN-1エンドヌクレアーゼの一部をコードするDNA配列は、受託番号AA113505およびW36094としてGenBankから入手することができる。増幅されたPfu FEN-1遺伝子をpTrc99a発現ベクター(Pharmacia)に挿入して、誘導trcプロモーターの転写調節下にPfu FEN-1遺伝子を配置した。PCR増幅は下記のようにして行った。反応物100μlには、50mMトリスHCl(pH 9.0)、20mM(NH4)2SO4、2mMのMgCl2、50μMのdNTP、50pmolの各プライマー、1UのTflポリメラーゼ(Epicentre Technologies、マジソン(Madison)、ウィスコンシン州)および1ngのFEN-1遺伝子含有プラスミドDNAが含まれていた。5'-末端プライマー(配列番号76)は、NcoI部位を作製するための2塩基置換を有するPfu FEN-1オープンリーディングフレームの5'末端と相補的であり、3'-末端プライマー(配列番号77)はPstI部位を作製するための2塩基置換を有するFEN-1オープンリーディングフレームの下流側の約30塩基対に位置する領域と相補的である。5'-末端および3'-末端プライマーの配列は、それぞれ、5'-GAGGTGATACCATGGGTGTCC-3'(配列番号76)および5'-GAAACTCTGCAGCGCGTCAG-3'(配列番号77)である。PCR反応により、長さ約1キロベースの単一の主要バンドが増幅された。Pfu FEN-1エンドヌクレアーゼをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を配列番号78に示し、このORFによってコードされるアミノ酸配列を配列番号79に示す。
PCR増幅後、全反応物を1.0%アガロースゲル上で電気泳動し、主要バンドをゲルから切り出してGeneclean IIキット(Bio101)を用いて製造業者の指示にしたがって精製した。約1μgのゲル精製Pfu FEN-1 PCR産物を、NcoIおよびPstIで消化した。消化後、DNAを、Geneclean IIキット(Bio101)を用いて製造業者の指示にしたがって精製した。pTrc99aベクター1μgを、消化PCR産物とライゲーションする前に、NcoIおよびPstIで消化した。100ngの消化pTrc99aと250ngの消化Pfu FEN-1 PCR産物を混合してライゲーションし、pTrc99-PFFEN1を作製した。pTrc99-PFFEN1を用いて、コンピテントE.coli JM109細胞(Promega)を標準技術にて形質転換した。
c)ピロコッカス・ウーゼイ由来のFEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現
ピロコッカス・ウーゼイ(Pwo)FEN-1エンドヌクレアーゼをコードするDNAをクローニングするために、文献(Zwicklら, (1990) J.Bact. 172:4329)に記載の方法にいくつかの変更を加えた方法により、凍結乾燥P.ウーゼイ菌(DSMZ#3773)からDNAを調製した。簡単に言うと、P.ウーゼイ菌の1つのバイアルを再水和して、0.5mlのLB(Luria broth)に再懸濁した。細胞を、14,000×gで1分間遠心分離し、細胞ペレットをTE 0.45mlに再懸濁した。50μlの10%SDSを加えて、混合物を室温(RT)で5分間インキュベートした。次いで、1:1のフェノール:クロロホルムを用いて細胞溶解物を3回抽出し、クロロホルムを用いて3回抽出した。イソプロパノール500μlを抽出溶解物に加えて、14,000×gで10分間遠心分離することによりDNAをペレットにした。DNAペレットを0.5mlの70%エタノール中で洗浄し、14,000×gで5分間遠心分離することによりDNAを再度ペレットにした。DNAペレットを乾燥し、TE 100μlに再懸濁し、さらに精製することなくPCR反応に使用した。
発現ベクターにクローニングするためのP.ウーゼイFEN-1遺伝子断片を作製するために、低ストリンジェンシーPCRを、P.フリオサスFEN-1遺伝子オープンリーディングフレームの両末端と相補的なプライマーを用いて試みた。5'-末端プライマーと3'-末端プライマーの配列は、それぞれ、5'-GATACCATGGGTGTCCCAATTGGTG-3'(配列番号80)および5'-TCGACGTCGACTTATCTCTTGAACCAACTTTCAAGGG-3'(配列番号81)である。P.フリオサスとP.ウーゼイ由来のタンパク質相同体(すなわち、FEN-1タンパク質以外のタンパク質)の高レベルの配列類似性は、P.フリオサスFEN-1遺伝子と相補的な配列を含むプライマーを用いてP.ウーゼイFEN-1遺伝子を増幅することができる可能性が高いということを示唆するものである。しかしながら、このアプローチはいくつかの異なるPCR条件下で成功しなかった。
P.フリオサスおよびM.ジャナスキイ由来のFEN-1遺伝子のDNA配列をならべて、2つの遺伝子間の配列同一ブロックを同定した。これらのブロックを用いて、保存領域にあるP.フリオサスFEN-1遺伝子に相補的なFEN-1遺伝子のための内部プライマー(すなわち、ORFの5'末端と3'末端の内部に位置した配列と相補的なもの)を設計した。5'-内部プライマーと3'-内部プライマーの配列は、それぞれ、5'-AGCGAGGGAGAGGCCCAAGC-3'(配列番号82)および5'-GCCTATGCCCTTTATTCCTCC-3'(配列番号83)である。これらの内部プライマーを用いるPCRを、Advantage(商標名)PCRキットを用いて行うことにより、〜300bpの主要バンドを得た。
内部プライマーを用いたPCRが成功したので、内部プライマー(配列番号82および83)と外部プライマー(配列番号80および81)の混合物を含む反応を試みた。5'-末端外部プライマー(配列番号80)および3'-末端内部プライマー(配列番号83)を含む反応によって600bpのバンドが生じ、5'-末端内部プライマー(配列番号82)および3'-末端外部プライマー(配列番号81)を含む反応によって750bpのバンドが生じた。これらのオーバーラップDNA断片をゲル精製し、PCR反応において外部プライマー(配列番号80および81)と混合した。この反応により、Pwo FEN-1遺伝子オープンリーディングフレーム全体を含む1kbのDNA断片が得られた。得られたPCR産物をゲル精製し、消化して、Mja FEN-1遺伝子PCR産物について上記した方法と全く同様にしてライゲーションした。得られたプラスミドを、pTrc99-PWFEN1と命名した。pTrc99-PWFEN1を用いて、コンピテントE.coli JM109細胞(Promega)を標準技術により形質転換した。
d)アルカエグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)由来のFEN-1エンドヌクレアーゼのクローニングおよび発現
220万塩基の予備的なアルカエグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus )(Afu)染色体配列をTIGR(The Institute for Genomic Research)ワールドワイドウェブサイトからダウンロードし、ソフトウェアプログラム(MacDNAsis)に取り込み、DNAおよびタンパク質配列の分析および操作に使用した。注の付いていない配列を全6個の可能なリーディングフレームに翻訳した。リーディングフレームの各々は約726,000個のアミノ酸を含む。アミノ酸配列「VFDG」(バリン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グリシン)の有無について各フレームを個別に検索した。このアミノ酸配列は、FEN-1ファミリー中に保存されている配列である。FEN-1遺伝子内で保存されている他のアミノ酸配列を含むオープンリーディングフレーム中に、このアミノ酸配列を見出した。このアミノ酸配列は、他のFEN-1遺伝子とほぼ同じサイズであった。ORF DNA配列を配列番号164に示し、ORFタンパク質配列を配列番号165に示す。リーディングフレーム内のこのアミノ酸配列の位置から、推定FEN-1遺伝子をコードするDNA配列を同定した。
この配列の情報を利用してオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、A.フルギダス(A. fulgidus)ゲノムDNA由来のFEN-1様配列のPCR増幅に使用した。ゲノムDNAは、M.ジャナスキー(M. janaschii)について実施例29aに記載するように、A.フルギダス(A. fulgidus)から調製した。但し、DSMZ(DSMZ#4304)からのA.フルギダス(A. fulgidus)生菌を1バイアル(およそ培養物5ml)使用した。実施例29aに記載するように、1μlのゲノムDNAをPCR反応に使用した。5’末端プライマーはAfu FEN-1遺伝子の5’末端に相補的であるが、1塩基対が置換されてNco I部位を形成している。3’末端プライマーは、FEN-1 ORFの下流に位置するAfu FEN-1遺伝子の3’末端に相補的であるが、2塩基が置換されてSal I部位を形成している。5’および3’末端プライマーの配列はそれぞれ、5’-CCGTCAACATTTACCATGGGTGCGGA-3’(配列番号166)および5’-CCGCCACCTCGTAGTCGACATCCTTTTCGTG(配列番号167)である。
得られた断片をクローニングし、PfuFEN1遺伝子について上述したように、プラスミドpTrc99-AFFEN1を作製した。pTrcAfuHisプラスミドは、pTrc99-AFFEN1を改変することにより構築し、ヒスチジンテールを付加することによって精製を容易にした。このヒスチジンテールを付加するには、標準的なPCRプライマー特異的突然変異誘発法(PCR primer-directed mutagenesis method)を利用して、6個のヒスチジン残基に対するコード配列をpTrc99-AFFEN1コード領域の最後のアミノ酸コドンと終結コドンとの間に挿入した。得られたプラスミドをpTrcAfuHisと名付けた。次いで、実施例28(e)に記載するようにタンパク質を発現させ、実施例8に記載したようにNi++アフィニティーカラムへ結合させて精製した。
e) 組換え耐熱性FEN-1タンパク質の大量調製
Mja、PwoおよびPfu FEN-1タンパク質を、下記のようなTaq DNAポリメラーゼ調製プロトコル(Engelkeら(1990) Anal. Biochem. 191:396)に由来する下記の技術によって精製した。pTrc99-PFFEN1、pTrc99-PWFEN1、またはpTrc99-MJFEN1のいずれかを含むE.coli細胞(JM109株)を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB(Luria Broth)3ml中に接種し、37℃で16時間増殖させた。一晩中培養した培養物を100μg/mlのアンピシリンを含むLB200mlまたは350ml中に接種し、A600 が0.8になるまで激しく振盪しながら37℃で増殖させた。IPTG(1Mの保存溶液)を最終濃度が1mMになるまで加えて、37℃で16時間増殖を続けた。
誘導された細胞をペレットにして、細胞ペレットの重さを計った。等容量の2X DG緩衝液(100mMトリスHCl(pH 7.6)、0.1mMのEDTA)を加えて、ペレットを攪拌によって再懸濁した。50mg/mlのリゾチーム(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)を最終濃度が1mg/mlになるまで加えて、細胞を室温で15分間インキュベートした。デオキシコール酸(10%溶液)を、最終濃度が0.2%になるまで攪拌しながら滴下した。1容量のH2Oと1容量の2X DG緩衝液を加え、得られた混合物を氷上で2分間音波処理して混合物の粘度を低下させた。音波処理後、3Mの(NH4)2SO4を最終濃度が0.2Mになるまで加えて、溶解物を14000×g、4℃で20分間遠心分離した。上清を取り出して、70℃で60分間インキュベートし、その時10%ポリエチルイミン(PEI)を0.25%になるまで加えた。氷上で30分間インキュベートした後、混合物を14,000×g、4℃で20分間遠心分離した。この時点で、上清を取り出し、FEN-1タンパク質を下記のように(NH4)2SO4を添加することにより沈殿させた。
PwoおよびPfu FEN-1調製物に対して、2容量の3M(NH4)2SO4を添加することによりFEN-1タンパク質を沈殿させた。混合物を一晩室温で16時間インキュベートし、タンパク質を14,000×g、4℃で20分間遠心分離した。タンパク質ペレットを、0.5mlのQ緩衝液(50mMのトリスHCl(pH 8.0)、0.1mMのEDTA、0.1%のTween 20)に再懸濁した。Mja FEN-1調製物に対して、固体の(NH4)2SO4を最終濃度が3M(〜75%飽和)になるまで加えて、混合物を氷上で30分間インキュベートし、タンパク質をスピンダウンして上記のように再懸濁した。
再懸濁したタンパク質調製物を、A279を測定することにより定量し、総タンパク質2〜4μgを含有するアリコートを、標準Laemmli緩衝液(Laemmli (1970) Nature 277:680)中において、10%SDSポリアクリルアミドゲル(アクリルアミド:ビス-アクリルアミドの比が、29:1)上で電気泳動し、クーマシーブリリアントブルーRで染色した。その結果を図64に示す。
図64において、レーン1には分子量マーカー(Mid-Range Protein Molecular Weight Markers、Promega)が含まれ、マーカータンパク質の大きさはゲルの左に示した。レーン2には精製Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼが含まれ、レーン3〜5には、それぞれ、Pfu、PwoおよびMja FEN-1ヌクレアーゼを発現するE.coliから調製された抽出物が含まれる。Pfu FEN-1ヌクレアーゼの分子量の計算値(すなわち、ヌクレアーゼをコードするDNA配列の翻訳を用いる)は、38,714ダルトンであり、Mja FEN-1ヌクレアーゼの分子量の計算値は37,503ダルトンである。Pwo FEN-1タンパク質とPfu FEN-1タンパク質を、SDS-PAGEゲル上でいっしょに移動させることにより、Pwo FEN-1の分子量を38.7kDaと推定した。
f)FEN-1エンドヌクレアーゼを用いる活性アッセイ
i)混合ヘアピンアッセイ
Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼは、12塩基対のステム-ループ構造に対して、8塩基対のステム-ループDNA構造の約60倍の親和性を有する。Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼとFEN-1ヌクレアーゼとの活性の違いについての試験として、8または12bpステム-ループを有するオリゴヌクレオチドの混合物(S-33および11-8-0オリゴヌクレオチドを示した図60参照)を、Mja FEN-1ヌクレアーゼを過剰発現するE.coli細胞から調製した抽出物(上記のように調製)とともにインキュベートした。反応物は、0.05μMのオリゴヌクレオチドS-33(配列番号84)および11-8-0(配列番号85)(両方とも5'-フルオレセイン標識を含むオリゴヌクレオチドである)、10mMのMOPS(pH 7.5)、0.05%Tween-20、0.05%NP-40、1mMのMnCl2 を含んでいた。反応物を90℃で10秒間加熱し、55℃に冷却し、次いで1μlの粗抽出物(Mja FEN-1)または精製酵素(Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼ)を加えて、混合物を55℃で10分間インキュベートした。また、酵素を含まない対照試験も行った。ホルムアミド/EDTAを加えることによって反応を停止させて、試料を変性20%アクリルアミドゲル上で電気泳動し、日立FMBIO 100 蛍光画像装置で視覚化した。得られた像を図65に示す。
図65において、レーン1にはCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼによって生じた反応産物が含まれ、レーン2には酵素を含まない対照反応による反応産物が含まれ、そしてレーン3にはMja FEN-1ヌクレアーゼによって生じた反応産物が含まれる。図76に示されたデータによって、Cleavase(登録商標)BNヌクレアーゼはS33構造(12bpステム-ループ)の方を強く好み、一方、Mja FEN-1ヌクレアーゼは、ほとんど同じ効率で8または12bpのステム-ループを有する構造を開裂するということが示されている。このことは、Mja FEN-1ヌクレアーゼがCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼとは異なる基質特異性を有し、「発明の説明」で記載したようなインベーダー(商標名)アッセイまたはCFLP(登録商標)分析に有用な特徴を有するということを示すものである。
実施例29
インベーダー(商標名)指令開裂の産物を選択的に伸長させる末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(terminal deoxynucleotidyl transferase)
DNAプローブの熱分解産物の大部分は、3'-末端にリン酸基を有する。鋳型非依存性DNAポリメラーゼ、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(TdT)が、上記の3'-末端リン酸基を末尾付加(tail)または重合する(すなわち、3'末端にヌクレオチド三リン酸を追加する)ことができるどうかを調べるために、下記の実験を行った。
高パーセンテージの熱分解産物を含有する試料を作製するために、5'フルオレセイン標識オリゴヌクレオチド34-078-01(配列番号86)(200pmol)を、100μlの10mM NaCO3 (pH 10.6)、50mM NaCl中で、95℃にて13時間インキュベートした。蒸発を防ぐために、反応混合物を60μlのChillOut(商標名)14液体ワックスで覆った。次に、反応混合物を2つの等量のアリコートに分けた(AおよびB)。アリコートAを1/10容量の3M NaOAcと混合し、次いで3容量のエタノールと混合して、-20℃で保存した。アリコートBを、0.5μlの1M MgCl2 および1μlの1ユニット/μl 子ウシ腸管アルカリホスファターゼ(CIAP)(Promega)を加えて、37℃で30分間インキュベートすることにより脱リン酸した。等容量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(isomayl alcohol)(24:24:1)を試料に加えた後、1分間攪拌し、次いでマイクロ遠心機にて最大速度で5分間遠心分離して相分離させた。水相を、1/10容量の3M NaOAcおよび3容量のエタノールを加えた新たな試験管に取り出した後、-20℃で30分間保存した。次に、両方のアリコート(AおよびB)をマイクロ遠心機にて最大速度で10分間遠心分離して、DNAをペレットにした。次いで、ペレットを2回、それぞれ80%エタノールで洗浄し、続いて完全に乾燥させた。次に、乾燥ペレットをそれぞれ70μlのddH2Oに溶解した。
TdT反応を下記のようにして行った。6つの混合物を作った。混合物にはすべて、10mMのトリスOAc(pH 7.5)、10mMのMgOAc、50mMのKClおよび2mMのdATPが含まれていた。混合物1および2には1pmolの未処理34-078-01(配列番号86)が含まれており、混合物3および4には2μlのアリコートA(上記)が含まれており、混合物5および6には2μlのアリコートB(上記)が含まれていた。それぞれ9μlの混合物1、3および5に1μlのddH2Oを加えて、それぞれ9μlの混合物2、4および6に1μlの20ユニット/μl TdT(Promega)を加えた。混合物を37℃で1時間インキュベートし、次いで10mMのEDTAおよび0.05%マーカー色素を含む95%ホルムアミド5μlを添加することにより反応を終了させた。各混合物5μlを、7M尿素を加えた45mMトリス-ホウ酸塩(pH 8.5)、1.4mM EDTAを含有する緩衝液を用いた20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)による電気泳動によって分離し、505nmフィルターを有するFMBIO画像アナライザーを用いて画像化した。得られた像を図66に示す。
図66において、レーン1、3および5には、それぞれ、TdT不存在下でインキュベートした、未処理34-078-01(配列番号86)、熱分解34-078-01、および熱分解脱リン酸化34-078-01が含まれている。レーン2、4および6には、それぞれ、TdT存在下でインキュベートした、未処理34-078-01、熱分解34-078-01、および熱分解脱リン酸化34-078-01が含まれている。
図66、レーン4に示されるように、TdTは、3'-末端リン酸基を含む熱分解産物を伸長することができず、3'-末端ヒドロキシル基を有する分子を選択的に伸長する。
実施例30
インベーダー(商標名)指令開裂産物の特異的TdT末尾付加(tailing)ならびにニトロセルロース支持体上の二次的捕獲および検出
TdTを用いて特異的開裂産物を伸長する場合、末尾付加(tailed)産物を検出する1つの手段は、視覚化する前に固体支持体上に伸長産物を選択的に捕獲することである。本実施例は、TdTおよびデオキシヌクレオチド三リン酸の使用により開裂産物を選択的に末尾付加することができ、ニトロセルロース支持体に結合した相補的オリゴヌクレオチドを用いて捕獲することにより末尾付加産物を視覚化することができるということを示すものである。
インベーダー(商標名)指令開裂反応で産生された開裂産物を伸長するために、下記の実験を行った。3つの反応混合物を、それぞれ、10mM MES(pH 6.5)、0.5%Tween-20、0.5%NP-40からなる緩衝液中で作った。第1の混合物は、5fmolの標的DNA-M13mp18、10pmolのプローブオリゴ32-161-2(配列番号87、このプローブオリゴヌクレオチドは、3'末端付近に3'ddCおよびCy3アミド化基(amidite group)を含む)ならびに5pmolのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド32-161-1(配列番号88、このオリゴは3'ddCを含む)を含んでいた。第2の混合物は、プローブおよびインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドを含んでおり、標的DNAは含んでいなかった。第3の混合物は、第1の混合物と同じであり、インベーダー(商標名)指令開裂産物を、開裂の前後に蛍光画像化により検出することができるように、5'フルオレセイン標識を有している以外は同一のプローブ配列{オリゴ32-161-4(配列番号89、このオリゴは3'ddC、5'フルオレセイン標識、および3'末端付近にCy3染料基を含む)}を含んでいた。プローブのみの対照試料は、10pmolのオリゴ32-161-2(配列番号87)を含んでいた。それぞれ3μlの酵素混合物は5ngのCleavase(登録商標)DNヌクレアーゼを加えた7.5mMのMgCl2 を含んでいた。TdT混合物(各4μlあたり)は、10UのTdT(Promega)、1mMのCoCl2 、50mMのKClおよび100μMのdTTPを含んでいた。上記のインベーダー(商標名)開裂反応混合物を薄肉管中で作り、3μlのCleavase(登録商標)DN酵素混合物を加えることによって反応を開始させた。反応物を65℃で20分間インキュベートした。37℃まで冷却した後、4μlのTdT混合物を加えて、試料を37℃で4分間インキュベートした。次いで、ビオチン-16-dUTPを100μMになるまで加えて、試料を37℃で50分間インキュベートした。1μlの0.5M EDTAを加えることによって反応を終了させた。
末尾付加の効率を試験するために、産物をアクリルアミドゲル上に流した。4μlの各反応混合物を2.6μlの95%ホルムアミド、10mMのEDTAおよび0.05%メチルバイオレットと混合し、90℃に1分間加熱し、3μlを、7M尿素を加えた45mMのトリス-ホウ酸塩(pH 8.3)、1.4mMのEDTAを含有する緩衝液とともに20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)にローディングした。マーカー{ΦΧ174-HinfI(フルオレセイン標識されている)}もローディングした。電気泳動後、ゲルを、505nmフィルターを備えたFMBIO-100画像アナライザー(日立)を用いて分析した。その結果を図67に示す。
図67において、レーン1には何の処理もされていないプローブ32-161-2だけが含まれている。レーン2および3には、それぞれ、二次的TdT末尾付加がない場合とある場合の、標的DNAなしで行った反応産物が含まれている。レーン4および5には、それぞれ、二次的TdT末尾付加がない場合とある場合の、標的DNA、プローブオリゴ32-161-2(配列番号87)およびインベーダー(商標名)オリゴ32-161-1(配列番号88)を用いて行った反応産物が含まれている。レーン6および7は、それぞれ、二次的TdT末尾付加がない場合とある場合の、標的DNA、プローブオリゴ32-161-4(配列番号89)およびインベーダー(商標名)オリゴ32-161-1(配列番号88)を含有する反応産物を示すものである。レーンMにはマーカーΦΧ174-HinfIが含まれている。
レーン4および5の反応産物は、プローブに5'フルオレセインが存在しないことによって放出5'産物(ゲルの底部付近の「A」と示したもの)またはTdT伸長5'産物(ゲルの頂部付近の「B」と示したもの)の検出が妨げられること以外はレーン6および7で観察されたものと同じである。開裂プローブのCy3標識3'部分はこれらの反応全てにおいて認識できる(ゲルの中心の真下の「C」と示したもの)。
固体支持体上の標的依存性インベーダー指令開裂産物の検出を示すために、レーン3〜5の反応物を、図68に図示したようにくし形にデザインされた硬質ナイロン基材上に標準ニトロセルロースマトリックスをのせたUniversal Genecomb(登録商標)(Bio-Rad)上で試験した。製造業者のプロトコルに一つ変更を加えて行った:PCRに推奨されている10%の代わりに、10μlのインベーダー指令開裂反応物を用いた。開裂産物を捕獲するために、2.5pmolの捕獲オリゴ59-28-1(配列番号90)を各歯にスポットした。製造業者の指示にしたがって捕獲および視覚化を行った。その結果を図68に示す。
図68において、歯番号6および7は、標的DNAの不存在下および存在下で行った反応の捕獲結果を示すものである。歯8はキット陽性対照を示すものである。
歯6と比較した場合の歯7に観察されるスポットの濃さは、インベーダー(商標名)指令開裂アッセイの産物は固体支持体上で特異的に検出され得るということを明確に示すものである。本実施例ではUniversal Genecomb(登録商標)を用いて固体支持体捕獲を示したが、当業者に公知のその他の支持体捕獲方法も同様に適している。例えば、ビーズまたは反応容器表面は、この工程で用いることができるように、捕獲オリゴヌクレオチドで簡単に被覆し得る。また、同様の固体支持体は、開裂/末尾付加反応のビオチンまたはハプテン標識産物の捕獲のためのストレプトアビジンまたは抗体で簡単に被覆し得る。これらの実施態様はいずれも、得られる蛍光、化学発光、色の変化、放射線放出、光学濃度変化または産物のその他の識別可能な特徴を検出することによって産物を適切に視覚化し得る。
実施例31
Cleavase(登録商標)A/GヌクレアーゼおよびPfu FEN-1ヌクレアーゼによるインベーダー(商標名)指令開裂における侵入長さとプローブの5'標識の効果の比較
Pfu FEN-1ヌクレアーゼおよびCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼの、5'アームを開裂する能力における侵入の長さの効果ならびに染料の型の効果を調べるために、下記の実験を行った。フルオレセイン、TETまたはCy3のいずれかで標識された類似の配列を有する3つのプローブを、標的核酸であるM13mp18の8、5および3塩基とオーバーラップする標的ハイブリダイゼーション領域を作る3つのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドを含む反応物中で構築した。
反応は下記のとおりに行った。全ての条件での反応を2個1対で行った。Pfu FEN-1ヌクレアーゼおよびCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼの酵素混合物を作った。それぞれ2μlのPfu FEN-1混合物は、100ngのPfu FEN-1(実施例28に記載したとおりに調製したもの)および7.5mMのMgCl2 を含んでいた。それぞれ2μlのCleavase(登録商標)A/G混合物は、5.3ngのCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼおよび4.0mMのMnCl2 を含んでいた。緩衝液、M13mp18およびインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドを含有する6個のマスター混合物を作った。それぞれ7μlの混合物1〜3は、1fmolのM13mp18、10pmolのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド{34-078-4(配列番号39)、24-181-2(配列番号91)、または24-181-1(配列番号92)}を加えた10mMのMOPS(pH 7.5)、150mMのLiClを含んでいた。それぞれ7μlの混合物4〜6は、1fmolのM13mp18、10pmolのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド{34-078-4(配列番号39)、24-181-2(配列番号91)、または24-181-1(配列番号92)}を加えた10mMのトリス(pH 8.0)を含んでいた。次いで、混合物1〜6をそれぞれ3つの混合物に分けて、フルオレセイン標識プローブ(オリゴ34-078-01;配列番号86)、Cy3標識プローブ(オリゴ43-20;配列番号93)またはTET標識プローブ(オリゴ90;5'TET標識を含む配列番号32)のいずれかを加えた。それぞれ7μlの混合物はすべて、10pmolの対応プローブを含んでいた。上記のDNA溶液を、10μlのChillOut(登録商標)蒸発遮断層でおおって、68℃にした。
混合物1〜3から調製した反応系を、2μlのCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ混合物で開始させ、混合物4〜6から調製した反応系を2μlのPfu FEN-1混合物で開始させた。68℃で30分加熱した後、10mMのEDTAおよび0.05%マーカー色素を含む95%ホルムアミド8μlを加えることにより反応を終了させた。試料を90℃で1分間加熱した後すぐに、7M尿素を加えた45mMトリスホウ酸塩(pH 8.3)、1.4mM EDTAを含む緩衝液中で、20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)による電気泳動を行った。電気泳動後、日立FMBIO蛍光画像装置を用いて開裂反応産物を視覚化した。フルオレセイン標識プローブの結果を図69に示し、Cy3標識プローブの結果を図70に示し、TET標識プローブの結果を図71に示す。これらの図のそれぞれにおいて、Cleavase(登録商標)A/Gによる開裂産物はレーン1〜6に示され、PfuFEN-1による開裂産物はレーン7〜12に示されている。それぞれの場合において、非開裂物質はゲルの頂部付近の非常に濃いバンドとして現れている(左に「U」と示されている)。オーバーラップの8、5または3塩基を有する、インベーダーオリゴヌクレオチドにより指令される開裂産物(すなわち、「X」領域は正味(nt)長さ8、5または3である)は、それぞれ、各組におけるレーンの第1、第2および第3の対に示され、左側に番号8、5および3と示されているのはこれらの反応物から放出された5'末端である。図70に示された開裂反応物においてわかるように、正荷電Cy3染料の存在によって、短い産物が長い産物よりもゆっくりと移動することになる。これらの産物は、別の正電荷、例えば実施例23に用いたようなアミノ修飾を含まないので、依然として負の実効電荷を有しており、標準電気泳動において陽極の方に移動する。
これらのデータから、Cleavase(登録商標)A/GおよびPfu FEN-1構造特異的ヌクレアーゼは、染料同一性およびプローブから開裂される断片の大きさに別個に応答するということがわかる。Pfu FEN-1ヌクレアーゼは、Cleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼよりも染料同一性に対する応答において変異性がかなり低いということが示されており、どのような染料もこの酵素といっしょに使用することに適しているということを示すものである。対照的に、Cleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼにより触媒された開裂の量は、染料同一性により実質的に変動する。フルオレセイン染料の使用により、Pfu FEN-1ヌクレアーゼで観察された結果と非常に近い結果が得られ、一方、Cy3またはTETの使用により、Pfu FEN-1反応物と比較した場合、劇的に低下した信号が得られた。このことに対する一つの例外は、TET染料を有する3正味(nt)産物の開裂におけるものであり(図71のレーン5および6)、Cleavase(登録商標)A/GヌクレアーゼはPfu FEN-1ヌクレアーゼと同じ速度で開裂した。これらのデータは、Cleavase(登録商標)A/Gはこれらのその他の染料で標識されたプローブを開裂するのに使用し得るものである一方、Pfu FEN-1ヌクレアーゼはCy3およびTET標識プローブの開裂に好ましいヌクレアーゼであるということを示すものである。
実施例32
Cleavase(登録商標)A/GヌクレアーゼまたはPfu FEN-1ヌクレアーゼを用いた侵入性開裂の速度における5'正電荷の効果の試験
正荷電付加物(すなわち、実施例23および24に示したような電荷逆転技術またはCRTプローブ)を含むプローブオリゴヌクレオチドの5'末端における正電荷が、Cleavase(登録商標)A/GヌクレアーゼまたはPfu FEN-1ヌクレアーゼの、プローブの5'アームを開裂する能力に影響を及ぼすか否かを調べるために、下記の実験を行った。
下記の配列を有する2つのプローブオリゴヌクレオチドを、インベーダー(商標名)反応に利用した:プローブ34-180-1:(N-Cy3)TNH2TNH2CCAGAGCCTAATTTGCCAGT(N-フルオレセイン)A(ここで、NはCy3またはフルオレセイン基を含むスペーサーを表す)(配列番号94)およびプローブ34-180-2:5'-(N-TET)TTCCAGAGCCTAATTTGCCAGT-(N-フルオレセイン)A(ここで、NはTETまたはフルオレセイン基を含むスペーサーを表す)(配列番号95)。プローブ34-180-1は、2つの5'末端T残基にアミノ修飾基(amino-modifiers)を、5'末端にCy3標識を有しており、5'末端に余分な正電荷を持っている。プローブ34-180-2は5'末端にTET標識を有しており、余分な正電荷はない。プローブ34-180-1の3'末端のフルオレセイン標識によって、3'開裂産物および非開裂プローブはアクリルアミドゲル上を標準的な方向に流すことにより(すなわち、DNAを陽極の方に移動させることにより)いっしょに視覚化することができる。プローブ34-180-1の5'開裂産物は、正の実効電荷を有しており、非開裂プローブと同じ方向には移動しないので、ゲル上を反対方向に移動させて(すなわち、このDNAを陰極の方に移動させて)分離することにより視覚化される。
開裂反応は、下記のとおりに行った。全ての条件による反応を2個1対で行った。Pfu FEN-1ヌクレアーゼおよびCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼの酵素混合物を作製した。それぞれ2μlのPfu FEN-1混合物は、100ngのPfu FEN-1(実施例28に記載したとおりに調製したもの)および7.5mMのMgCl2 を含んでいた。それぞれ2μlのCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ混合物は、26.5ngのCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼおよび4.0mMのMnCl2 を含んでいた。緩衝液、M13mp18およびインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドを含有する4個のマスター混合物を作製した。それぞれ7μlの混合物1は、5fmolのM13mp18、10pmolのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド123(配列番号96)を加えた10mMのHEPES(pH 7.2)を含んでいた。それぞれ7μlの混合物2は、1fmolのM13mp18、10pmolのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド123を加えた10mMのHEPES(pH 7.2)を含んでいた。それぞれ7μlの混合物3は、5fmolのM13mp18、10pmolのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド123を加えた10mMのHEPES(pH 7.2)、250mMのKGluを含んでいた。それぞれ7μlの混合物4は、1fmolのM13mp18、10pmolのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド123を加えた10mMのHEPES(pH 7.2)、250mMのKGluを含んでいた。各混合物7μlに対して、10pmolのプローブ34-180-1(配列番号94)またはプローブ34-180-2(配列番号95)を加えた。上記のDNA溶液を、10μlのChillOut(登録商標)蒸発遮断層でおおって、65℃に加熱した。混合物1〜2から調製した反応系を、2μlのPfu FEN-1混合物を加えることにより開始させ、混合物3〜4から調製した反応系を2μlのCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ混合物を加えることにより開始させた。65℃で30分加熱した後、10mMのEDTAを含む95%ホルムアミド8μlを加えることにより反応を終了させた。試料を90℃で1分間加熱した後すぐに、7M尿素を加えた、
45mMトリスホウ酸塩(pH 8.3)、1.4mMのEDTAを含む緩衝液中で20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)による電気泳動を行い、そして45mMトリスホウ酸塩(pH 8.3)、1.4mM EDTAを含む緩衝液中で20%天然アクリルアミドゲル(29:1架橋)による電気泳動を行った。
電気泳動後、開裂反応産物を、日立FMBIO蛍光画像装置を用いて視覚化した。得られた像を図72に示す。図72Aは標準的な電気泳動方向に流した変性ゲルを示すものである。図72Bは逆の方向に流した天然ゲルを示すものである。Pfu FEN-1ヌクレアーゼとCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼによって産生された反応産物を、それぞれレーン1〜8と9〜16に示す。5fmolのM13mp18反応物から得られた産物と1fmolのM13mp18反応物から得られた産物を、レーン1〜4、9〜12(5fmol)と5〜8、13〜16(1fmol)に示す。プローブ34-180-1はレーン1〜2、5〜6、9〜10、13〜14であり、プローブ34-180-2はレーン3〜4、7〜8、11〜12、15〜16である。
全開裂反応から得られたフルオレセイン標識3'末端断片を、図72Aに示す(左に「3'」と示した)。3正味(nt)5'TET標識産物はこの図では見えないが、5'Cy3標識産物は図72Bに示す。
図72Aの3'末端バンドを用いて、種々の5'末端標識の存在下における種々の酵素による開裂速度を比較することができる。かかるバンドから、存在する標的核酸の量にかかわらず、Pfu FEN-1ヌクレアーゼおよびCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼは両方ともより多くの5'TET標識プローブ由来の産物を示すということがわかる。Pfu FEN-1ヌクレアーゼに関しては信号がわずか約25〜40%しか増加しないこの選択が適度である。しかしながら、Cleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼの場合、5'TET標識に対する強い選択性がある。したがって、電荷逆転方法を用いて産物を分離する場合、実質的な量の産物がCleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ触媒反応物から観察されるが、Pfu FEN-1ヌクレアーゼはCy3標識プローブの開裂に対して好ましい酵素である。
実施例33
インベーダー(商標名)指令開裂によるミスマッチの検出における普遍(universal)塩基の使用
「縮重塩基」という用語は、特定の塩基相補性、すなわち、AとT、およびGとCについての標準「ワトソン-クリック」様式で水素結合していないヌクレオチド上の塩基をいう。例えば、イノシン塩基は、天然塩基の全てと、1個または2個の水素結合を介して塩基対を形成することができるので(「ゆらぎ」効果)、縮重と呼ばれる。また、縮重塩基は全く塩基対を形成しなくてもよく、この型の塩基は、二重鎖のヌクレオチドと反対の方向に位置することができ、塩基対合による安定性に寄与することはできないが、その反対方向の塩基を詰め込むことにより積極的に不安定にするものではないので、「普遍」塩基と称されている。これらの普遍塩基を用いる二重鎖は、スタッキング相互作用によってのみ安定化される。普遍塩基の2つの例、3-ニトロピロールおよび5-ニトロインドールを図73に示す。ハイブリダイゼーションにおいて、ミスマッチ位置から3塩基に3-ニトロピロールを配置することにより1塩基ミスマッチの鑑別(differential)認識を高める。この高い識別力は、非天然塩基(すなわち、ミスマッチにきわめて接近した修飾Tm)の不安定化作用から生ずるようである。インベーダー(商標名)指令開裂アッセイを用いてミスマッチを高感度に検出する方法と同じ原理を試験するために、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドを、天然ミスマッチの存在下または不存在下で、図73に示した普遍塩基を用いて設計した。これらの実験において、ミスマッチ部位に隣接する単独のニトロピロール塩基またはニトロインドール塩基の対の使用が試験された。
これらのアッセイに用いられる標的、プローブおよびインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドを図74に示す。43ヌクレオチドオリゴヌクレオチド(オリゴ109、配列番号97)を標的として用いた。プローブオリゴヌクレオチド(オリゴ61、配列番号50)は、開裂により正の実効電荷を有する標識産物を放出する。図74において、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドを矢印のような標的リゴヌクレオチドの上方に図示する。大きな矢じりは、インベーダー(商標名)オリゴと標的のミスマッチの位置を示すものである。標的リゴヌクレオチドの下方に、完全に相補的な全天然(すなわち普遍塩基でないもの)インベーダー(商標名)オリゴ(オリゴ67、配列番号51)およびミスマッチ(「M」)の両側に普遍塩基(「X」)を含むインベーダー(商標名)オリゴ複合体を示す。下記のインベーダー(商標名)オリゴを用いた:1つの正味(nt)ミスマッチを含むオリゴ114(配列番号98);2個の5-ニトロインドール塩基を含み、ミスマッチを含まないオリゴ115(配列番号99);2個の5-ニトロインドール塩基を含み、1つの正味(nt)ミスマッチを含むオリゴ116(配列番号100);1個の3-ニトロピロール塩基を含み、ミスマッチを含まないオリゴ112(配列番号101);1個の5-ニトロピロール塩基を含み、1つの正味(nt)ミスマッチを含むオリゴ113(配列番号102);および標的と完全に相補的であるオリゴ67(配列番号51)。
インベーダー(商標名)指令開裂反応を、1μMの適当な侵入性オリゴヌクレオチド(オリゴ67、112〜116)、10nM合成標的109、1μM Cy3標識プローブ61および2ユニットのCleavase(登録商標)DV(実施例27に記載したようにして調製)を含有する10μlの10mM MOPS(pH 7.2)、100mM KCl中で行った。反応物をChillOut(登録商標)液体ワックスでおおって、適切な反応温度である52℃、55℃または58℃に加熱して、1μlの40mM MnCl2 を加えることにより反応を開始させた。反応を1時間行って、ホルムアミド10μlを加えることにより反応を停止させた。各反応物の総容量の4分の1を20%未変性ポリアクリルアミドゲル上にローディングし、逆方向に電気泳動した。産物を、585nmフィルターを用いる日立FMBIO-100蛍光スキャナーを用いて視覚化した。得られた像を図75A〜Cに示す。各パネルにおいて、レーン1〜6には、それぞれインベーダー(商標名)オリゴ67、114、115、116、112および113を用いる反応により得られた反応産物が含まれる。52℃、55℃、および58℃にて行った反応を、それぞれパネルA、BおよびCに示す。
これらのデータから、2つの隣接5-ニトロインドールは、1つの3-ニトロピロール系または全天然塩基ハイブリダイゼーションよりも有意に大きな鑑別(differentiation)を示し、この感度の増大は温度依存性ではないということがわかる。このことは、普遍塩基の使用が、標的核酸と本発明の検出オリゴヌクレオチドの複合体との1塩基ミスマッチを高感度に検出するのに有用な手段であるということを証明するものである。
実施例34
ミニプローブを用いたヒトRasがん遺伝子における点突然変異の検出
本明細書では、非常に短いプローブを標的核酸配列の高感度検出に用いることができるということが示されている(実施例37)。本実施例においては、短プローブは標的とミスマッチする場合、かなり不十分にしか作用しないので、所与の核酸配列を、1塩基のみ異なる密接関係物(close relative)から区別するのに用いることができるということが示される。この系を試験するために、1つの位置で互いに異なっている、複数の合成ヒトrasがん遺伝子標的配列を作製した。オリゴヌクレオチド166(配列番号103)は、野生型ras標的配列を示すものである。オリゴヌクレオチド165(配列番号104)は、突然変異体ras標的配列を示すものである。これらのオリゴヌクレオチドの配列を図76に示すが、ras遺伝子のコドン13に対応する部位に配列変化部位が示されている。インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド(オリゴ162)は、配列:5'-GSCSTSCSASASGSGSCSACTCTTGCCTACGA-3'(配列番号105)(ここで、Sはチオール結合を示す){すなわち、これらは2'-デオキシヌクレオチド-5'-O-(1-チオモノホスフェート)である}を有する。ミニプローブ(オリゴ161)は、配列:5'-(N-Cy3)TNH2TNH2CACCAG-3'(配列番号106)を有し、突然変異体ras標的配列を検出するために設計される(すなわち、オリゴ165と完全に相補的である)。スタッカーオリゴヌクレオチド(オリゴ164)は、配列:5'-CSTSCSCSASASCSTSASCCACAAGTTTATATTCAG-3'(配列番号107)を有する。これらのオリゴヌクレオチドの開裂構造への構築を示す概略図を図76に示す。
各開裂反応物は、侵入性オリゴヌクレオチド(オリゴ162)およびスタッキングオリゴヌクレオチド(オリゴ164)を100nMずつ、10μMのCy3標識プローブ(オリゴ161)ならびに100pMのオリゴ165またはオリゴ166(標的DNA)を加えた10μlの10mM HEPES(pH 7.2)、250mM KGlu、4mM MnCl2 を含んでいた。DNA混合物を鉱油でおおって、90℃で15秒間加熱し、次いで反応温度の47℃、50℃、53℃または56℃にした。1μlの100ng/μl Pfu FEN-1を加えることにより反応を開始させた。反応を3時間行って、ホルムアミド10μlを加えることにより反応を停止させた。各反応物の総容量の4分の1を20%未変性ポリアクリルアミドゲルにローディングし、逆方向に電気泳動させた。ゲルを、585nmフィルターを備えた日立FMBIO-100蛍光スキャナーを用いてスキャンした。得られた像を図77に示す。
図77には、試験される各反応温度についての、突然変異体ras標的配列(オリゴ165)または野生型(オリゴ166)のどちらかを含む反応物から得られた産物を示す。
これらのデータは、ミニプローブを用いて1個のヌクレオチドが異なる配列間を高感度に識別することができることを示すものである。ミニプローブは、突然変異体標的配列の存在下では開裂されて強い信号を生じるが、野生型標的配列の存在下ではミニプローブはほとんどあるいは全く開裂されなかった。さらに、密接に関連した標的間の識別は、少なくとも10℃の温度範囲にわたって有効であり、選択がハイブリダイゼーション単独に基づく場合(例えばASOとのハイブリダイゼーション)に通常許容することができる温度範囲に比べて非常に広い温度範囲である。このことは、ミスマッチミニプローブと比較した場合に完全マッチミニプローブが好ましい基質である酵素が、識別における一つの因子であり得ることを示唆するものである。したがって、この系によって、標的核酸配列を高感度かつ特異的に検出することができる。
実施例35
モデルオリゴヌクレオチド構造の開裂部位における3'末端同一性の効果
上記の実施例で記載したように、構造特異的ヌクレアーゼは、分岐した二重鎖内の1本鎖領域と塩基対合領域との接続点付近を、通常、約1塩基対で塩基対合領域に開裂する。実施例10において、本発明のヌクレアーゼ(例えばCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼ、Cleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼ)を含む耐熱性5'ヌクレアーゼは、図26に示したように、対象の二重鎖の5'領域に相同な3'領域を有する上流オリゴヌクレオチドを有する場合、より大きな間隔で塩基対領域に開裂する能力を有する。また、インベーダーオリゴヌクレオチドの3'末端ヌクレオチドは標的核酸と塩基対合しなくてもよく、さらに対合する場合のように開裂を同じ間隔で下流二重鎖にシフトさせることも確認されている。本実施例においては、開裂をシフトさせるのに必要なのは、ヌクレオチドの塩基成分(糖またはリン酸基ではない)であることを示すものである。
図78AおよびBは、下記の配列:5'-GTTCTCTGCTCTCTGGTCGCTGTCTCGCTTGTGAAACAAGCGAGACAGCGTGGTCTCTCG-3'(配列番号29)からなり、それ自体が折り曲がるように設計されている合成オリゴヌクレオチドを示すものである。このオリゴヌクレオチドは、「S-60ヘアピン」という。このオリゴヌクレオチドにより形成された15塩基対ヘアピンは、そのループ末端の「トリループ」配列(すなわち、ヘアピンのループ部分由来の3ヌクレオチド)によってさらに安定化される(Hiraro. I.ら, (1994) Necleic Acids Res. 22(4):576)。図78Bは、P-15オリゴヌクレオチド(配列番号30)の配列と、P-15およびS-60ヘアピンオリゴヌクレオチドに共通の相補性領域の位置を示すものである。示されているP-15オリゴヌクレオチドに加えて、P-14オリゴヌクレオチド(配列番号108)(P-14は、P-15と比較して3'末端が1塩基短い)、非塩基性糖を有するP-14(P-14d、配列番号109)、ならびに3'リン酸基を持つ非塩基性糖を有するP-14(P-14dp、配列番号110)の存在下における開裂も試験した。3'リン酸基を有するP-15オリゴであるP-15p(配列番号111)も試験した。図78に示した黒い矢印は、P-15オリゴヌクレオチドの不存在下(上の構造;A)または存在下(下の構造;B)におけるS-60ヘアピンの開裂部位を示す。
S-60ヘアピン分子の5'末端を、その後の検出のためにフルオレセインで標識した。S-60ヘアピンを、耐熱性5'ヌクレアーゼの存在下、P-15オリゴヌクレオチドの存在下または不存在下でインキュベートした。S-60ヘアピンによって形成することができる完全二重鎖の存在は、プライマー非依存性様式(すなわち、P-15オリゴヌクレオチドの不存在下)でのCleavase(登録商標)BN 5'ヌクレアーゼによる開裂によって示される。S-60ヘアピン分子の5'末端からの18および19-ヌクレオチド断片の放出により、S-60ヘアピンの3'アームとハイブリダイゼーションするものがない場合、開裂は1本鎖領域と2本鎖領域との接続点付近に生じるということがわかった(図27、レーン2)。
図78Cに示された反応は、1mM MnCl2 および50mM K-グルタメートを含む10μlの1X CFLP緩衝液中、0.02μMのS-60、0.5μMのインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドおよび0.01ng/μlのCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼの存在下で行った。反応物を40℃で5分間インキュベートして、停止緩衝液(95%ホルムアミド、20mM EDTA、0.02%メチルバイオレット)8μlを加えることにより反応を停止させた。試料を75℃で2分間加熱した後すぐに、7M尿素を加えた45mMトリスホウ酸塩(pH 8.3)、1.4mM EDTAの緩衝液を用いて15%アクリルアミドゲル(19:1架橋)による電気泳動を行った。次いで、ゲルを、505nmフィルターを備えたFMBIO-100画像アナライザー(日立)を用いて分析した。得られた像を図78Cに示す。
図78Cにおいて、レーン1には酵素を含まない対照から得られた産物が含まれ、レーン2にはインベーダー(商標名)オリゴの不存在下で行った反応により得られた産物が含まれ、レーン3〜6には、それぞれ、P-14d、P-14dp、P-15およびP-15p インベーダー(商標名)オリゴの存在下で行った反応により得られた産物が含まれる。
図78Cに示されたデータから、P-15 インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドは、開裂部位のシフトを引き起こす一方、リボース(P14d)またはリン酸化リボース(P14dp)のどちらかを有するP14 インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドは、開裂部位のシフトを引き起こさなかったということがわかる。このことは、開裂のシフトを促進するためには、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドの15番目の残基が、結合された塩基基を有する必要があるということを示すものである。興味深いことに、P15オリゴヌクレオチドの3'末端にリン酸基を付加することにより、明らかに、開裂部位のシフトが逆転した。このレーンにおける開裂は、実際に、レーン2で観察されたようなインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドの不存在下における開裂であり得る。3'リン酸基を有する5'染料標識インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドを用いた実験において、これらのオリゴヌクレオチドはゲル移動を激しく遅延させたが、これは、反応物中の酵素またはその他の成分(例えばBSA)が開裂構造の残部とは関係なく3'リン酸基と結合することができることを示唆するものである。インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドが実際に開裂構造から隔離されている場合、得られるS-60ヘアピンの開裂は、「プライマー非依存性」様式で生じるので、シフトされない。
上記で引用した研究に加えて、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドの3'末端上のその他の置換基の効果を、いくつかの異なる酵素の存在下、およびMn++またはMg++の存在下で調べた。開裂産物の産生におけるこれらの3'末端修飾の効果を、下記の表にまとめる。合成出発残基として支持体上に付加された、表に記載の化学成分を有する調節細孔ガラス(controlled pore glass、CPG)合成カラムの使用による標準オリゴヌクレオチド合成中に、全ての修飾がなされた。これらの全CPG材料は、Glen Research社(スターリング(Sterling)、ヴァージニア州)から入手した。
図79に、これらの実験に用いた3'末端置換基の構造を示す。
これらのデータから、多数の異なる修飾を、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドの3'末端上に傷つけることなく用いることができることがわかる。本発明の種々の実施態様において、このような3'末端修飾は、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション特性を遮断し、促進し、または変更するために(例えば、ミスマッチに対する識別力を高めるために、またはミスマッチの許容度を高めるために、またはインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドおよび標的核酸との結合を強化するために)用いることができる。いくつかの置換基を用いて、構築された複合体内の認識および開裂における酵素の挙動を変更し得る。
また、変更3'末端を用いて、鋳型依存性または鋳型非依存性核酸ポリメラーゼのどちらかによるインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドの伸長を妨げることも可能である。別の未修飾ジデオキシヌクレオチド(すなわち、結合染料またはその他の成分をもたないもの)の使用は、そのようなジデオキシヌクレオチドは開裂活性を低下させず、完全に伸長不能であるという理由から、特に好ましいインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド伸長遮断手段である。
実施例36
インベーダー(商標名)指令開裂によるミニプローブの開裂におけるプローブ濃度、温度およびスタッカーオリゴヌクレオチドの効果
開裂構造を形成するために使用されるスタッカーオリゴヌクレオチドは、ミニプローブを用いる核酸標的の検出において2つの目的を果たし得る。スタッカーオリゴヌクレオチドは、ミニプローブと標的核酸との相互作用の安定化を助け得るものであり、より多量に開裂プローブを蓄積させる。さらに、複合体中のかかるオリゴの存在により、開裂部位の二重鎖下流が伸長し、本発明の酵素のいくつかの開裂活性が高められ得る。異なる構造特異的ヌクレアーゼによる、かかる二重鎖の長さの異なる選択の例は、図65中の8bpおよび12bp二重鎖領域のCleavase(登録商標)BNヌクレアーゼとMja FEN-1ヌクレアーゼ開裂の比較において見られる。また、開裂構造に対する酵素の親和性が高くなると、一定の時間に行われる反応中の開裂プローブの蓄積が増大することになる。
また、標的に結合するミニプローブの量は、反応混合物中のミニプローブの濃度に影響される。ミニプローブがわずかにハイブリダイゼーションしそうな場合でさえ(例えば、反応が、プローブ/標的二重鎖の予想溶融温度を超える温度で行われる場合)、所与の時間での標的上のプローブの量は、高濃度のミニプローブを用いることによって増大させることができる。
ミニプローブの開裂を増大させることに対するスタッカーオリゴヌクレオチドの必要性を、低濃度のプローブおよび高濃度のプローブで調べた。反応は、侵入性オリゴヌクレオチド(オリゴ135、配列番号112)およびスタッキングオリゴヌクレオチド(オリゴ147、配列番号113)の両方を100nM、ならびに100pM ssM13 DNAを含有する、10μlの10mM HEPES(pH 7.2)、250mM KGlu、4mM MnCl2 中で行った。反応物を鉱油でおおって、90℃で15秒間加熱し、次いで反応温度にした。反応は、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃および65℃で行った。開裂反応は、1μlの100ng/μl Pfu FEN-1および1μlの種々の濃度のCy3標識142ミニプローブオリゴヌクレオチド(配列番号114)を加えることによって開始させた。反応を1時間行って、10μlのホルムアルデヒドを加えることにより反応を停止させた。各反応物の総容量の4分の1を、20%未変性ポリアクリルアミドゲル上にローディングし、逆方向に電気泳動させた。ゲルを、585nmフィルターを用いる日立FMBIO-100蛍光スキャナーを使用して視覚化した。各産物バンドの蛍光を測定し、図80に示したグラフをマイクロソフトエクセル拡張シートを用いて作成した。
図80にまとめたデータから、ミニプローブの濃度は産物の最終測定に有意に影響を及ぼし、濃度が上昇すると劇的な増加を示すということがわかった。また、ミニプローブの濃度が上昇すると、最適反応温度も高い方へシフトした。ハイブリダイゼーションにおける相補鎖の濃度が、その相補鎖間で形成する二重鎖の見掛けのTmに影響することは当技術分野では公知である。本発明の方法および組成物にさらに有意なことは、スタッカーオリゴヌクレオチドの存在がプローブの全濃度でのミニプローブの開裂速度に絶大なる影響を及ぼすという事実である。各プローブ濃度において、スタッカーの存在により開裂産物からの信号が2倍になった。このことによって、スタッカーオリゴヌクレオチドを本明細書に記載したミニプローブとともに使用する有用性が証明された。
実施例37
Cleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼの開裂活性を減少させるインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド中のミスマッチの存在
どのような核酸検出アッセイにおいても、関連核酸間の小さな相違を高感度に検出するようにそのアッセイがなされ得る場合、付加的な利益がある。下記の実験においては、モデル標的核酸とのハイブリダイゼーションを行う場合、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドの3'末端付近にミスマッチが存在しまたは存在しないこと以外は同一であるモデル開裂基質を用いた。次いで、開裂プローブの蓄積における、かかる領域中のミスマッチの効果を評価した。
Cleavase(登録商標)A/Gヌクレアーゼがインベーダー(商標名)アッセイにおいてプローブオリゴヌクレオチドを開裂する能力における、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチド中のミスマッチの存在の効果を示すために、下記の実験を行った。試験オリゴヌクレオチドIT-2(配列番号115)の開裂を、インベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドIT-1(配列番号116)およびIT-1A4(配列番号117)の存在下で行った。オリゴヌクレオチドIT-1は、IT-2の3'アームと完全に相補的であり、一方、オリゴヌクレオチドIT-1A4は、3'末端から4番目の位置にT→A置換を有しており、インベーダー(商標名)標的二重鎖中にA/Aミスマッチを生じさせる。マッチおよびミスマッチインベーダー(商標名)オリゴヌクレオチドは、下記反応を行う温度でハイブリダイゼーションすると予想される。図81は、折り曲がったIT-2構造にアニーリングしたIT-1、および折り曲がったIT-2構造にアニーリングしたIT-1A4を示す図である。
反応は下記のとおりに行った。5'末端がフルオレセイン(Integrated DNA Technologies)で標識された試験オリゴヌクレオチドIT-2(0.1μM)を、Cleavase(登録商標)AGを0.26ng/μlで加えた、4mM MgCl2 を含むCFLP(登録商標)緩衝液10μlとともに、1μM IT-1またはIT-1A4の存在下で、40℃にて10分間インキュベートした。酵素を含まない対照試験も行った。蒸発を防ぐために、試料を15μlのChill-Out(登録商標)液体ワックスでおおった。停止緩衝液(95%ホルムアミド、20mM EDTA、0.02%メチルバイオレット)4μlを加えることにより、反応を停止させた。開裂産物を20%変性ポリアクリルアミドゲル上で分離して、505nmフィルターを備えたFMBIO-100画像アナライザー(日立)で分析した。得られた像を図82に示す。
図82において、レーン1には酵素を含まない対照から得られた産物が含まれており、未開裂IT-2オリゴの移動が観察され;レーン2〜4には、それぞれ、インベーダー(商標名)オリゴを含まない反応、IT-1 インベーダー(商標名)オリゴを含む反応、およびIT-1A4 インベーダー(商標名)オリゴを含む反応から得られた産物が含まれている。
これらのデータから、ミスマッチがハイブリダイゼーションを破壊しないと予想される条件下においてさえ、ミスマッチの存在によって開裂が著しく低減するということがわかる。このことによって、開裂速度の低下からわかるように、インベーダーオリゴヌクレオチド結合領域は、ミスマッチ検出に用いることができる複合体内の領域の一つであるということが証明された。
実施例38
インベーダー(商標名)反応におけるPfu FEN-1ヌクレアーゼおよびMja FEN-1ヌクレアーゼの活性の比較
インベーダー(商標名)反応におけるPfu FEN-1ヌクレアーゼおよびMja FEN-1ヌクレアーゼの活性を比較するために、下記の実験を行った。インベーダー-標的ヘアピン構造を形成している試験オリゴヌクレオチドIT3(配列番号118)、および5'末端がフルオレセイン(Integrated DNA Technologies)で標識されたプローブオリゴヌクレオチドPR1(配列番号119)を、Pfu FEN-1ヌクレアーゼまたはMja FEN-1ヌクレアーゼのどちらかを用いるインベーダー(商標名)アッセイに使用した。
アッセイは、下記のとおりに行った。Pfu FEN-1(13ng/μl)およびMja FEN-1(10ng/μl)(実施例28に記載したようにして調製したもの)を、IT3(0.1nM)およびPR1(2および5μM)を加えた10μl CFLP(登録商標)緩衝液、4mM MgCl2、20mg/ml tRNAとともに、55℃にて41分間インキュベートした。蒸発を防ぐために、試料を15μlのChill-Out(登録商標)蒸発遮断層でおおった。停止緩衝液(95%ホルムアミド、20mM EDTA、0.02%メチルバイオレット)70μlを加えることにより反応を停止させた。反応産物(1μl)を20%変性ポリアクリルアミドゲル上で分離し、蛍光画像装置を用いて視覚化し、プローブおよび産物に対応するバンドを定量した。得られた像を図83に示す。図83において、回転速度(turnover rate)/標的/分を、プローブおよび試験した標的の各濃度における各ヌクレアーゼについての像の下に示す。
実施例32において、インベーダー(商標名)指令開裂反応においてPfu FEN-1構造特異的ヌクレアーゼを用いると、Cleavase(登録商標)A/Gを用いるよりも産物蓄積の速度が大きくなるということが示された。本実施例に示したデータにより、Mja FEN-1ヌクレアーゼをフルオレセイン標識プローブとともに使用すると、産生される産物の量が平均約50%増大することが証明され、Pfu FEN-1ヌクレアーゼに加えて、Mja FEN-1ヌクレアーゼは、本発明の方法による核酸標的の検出に対して好ましい構造特異的ヌクレアーゼであるということが証明された。
実施例39
ミニプローブおよびスタッカーオリゴヌクレオチドを用いたRNA標的核酸の検出
上述のM13 DNA標的物質の検出のほかに、実施例19に記載のHCV誘導RNA配列を検出するようにミニプローブ/スタッカー系を設計した。中程度の長さのプローブ、長い中間領域プローブ、または短い標準的プローブについても試験した。使用したミニプローブ(オリゴ42-168-1)は、配列 5'-TET-CCGGTCGTCCTGG-3'(配列番号120)を有し、このミニプローブと併用したスタッカーオリゴヌクレオチド(オリゴ32-085)は、配列 5'-CAATTCCGGTGTACTACCGGTTCC-3'(配列番号121)を有する。スタッカーと併用しない僅かに長いプローブ(オリゴ42-088)は、配列5’-TET-CCGGTCGTCCTGGCAA-3’(配列番号122)を有する。両方のプローブと併用したインベーダーオリゴヌクレオチドは、配列 5'-GTTTATCCAAGAAAGGACCCGGTC-3'(配列番号47)を有する。反応は、150mM LiCl、4mM MnCl2、それぞれ0.05%のTween-20およびNP-40、ならびに39ユニットのRNAsin(Promega)を、pH6.5の10mM MESに加えた緩衝液10μl中で、50fmoleの標的RNA、10pmoleのインベーダーオリゴヌクレオチド、および5pmoleのミニプローブオリゴヌクレオチドを用いて行った。併用の場合は、10pmoleのスタッカーオリゴヌクレオチドを添加した。これらの成分を混ぜ、Chillout(登録商標)蒸発バリヤーで覆い、50℃まで加温し、5ポリメラーゼユニットのDNAPTthを添加することにより反応を開始し、最終反応容積を10μlとした。50℃で30分間経過させた後、8μlの95%ホルムアミド(10mM EDTAおよび0.02%メチルバイオレットを含む)を添加することにより反応を停止した。1分間で90℃までサンプルを加熱し、次に、45mMトリス‐ボレート緩衝液(pH8.3、1.4mM EDTAを含む)中において7M尿素を含む20%変性ポリアクリルアミド(19:1架橋)を介して、電気泳動法により、これらの各反応物2.5μlを分離し、更に、FMBIO-100イメージアナライザー(Hitachi)を用いて、標識化された反応産物を可視化した。得られたイメージは図84に示されている。
図84において、レーン1および2は、インベーダーオリゴヌクレオチドおよび長いプローブ(オリゴ42-088)を含む反応の産物を、それぞれ標的RNAが存在しない場合および存在する場合について示している。レーン3、4、および5は、インベーダーオリゴヌクレオチドおよび短いプローブ(オリゴ42-168-1)を含む反応の産物を示している。レーン3は、標的RNAが存在しない対照反応であり、レーン4および5は、標的を有するが、それぞれスタッカーオリゴヌクレオチドが存在しない場合または存在する場合である。
これらの条件下では、スタッカーオリゴヌクレオチドの助けを借りずに、僅かに長い(16nt)プローブオリゴヌクレオチドが極めて容易に開裂された。これとは対照的に、短いプローブ(13nt)は、検出可能なレベルの開裂を行うためには、スタッカーオリゴヌクレオチドの存在が必要であった。これらのデータは、インベーダー指令開裂により標的を検出するミニプローブ系が、同じようにRNAおよびDNA標的の検出に適用できることを示している。更に、スタッカーオリゴヌクレオチドの不存在下における長いプローブと短いプローブとの開裂性能の比較は、核酸標的の検出におけるミニプローブ/スタッカー系の性能と中間領域および長いプローブの性能との違いを示す1例を提供する。
実施例40
不対3'尾部が完全な(ニックの入っていない)プロモーターからの転写に及ぼす影響
インベーダー指令開裂の産物の転写に基づく可視化方法を設計する場合、3'尾部が完全長プロモーターからの転写の効率に及ぼす影響を最初に評価する必要があった。この実施例で試験した二本鎖は図93の下部に示されているが、図85A〜Cには概略図として示されている。
Ambion, Inc.(テキサス州Austin)製のMEGAshortscript(商標)システムを使用し、製造業者の使用説明書に従って転写反応を行ったが、ただし、フルオレセイン標識されたリボヌクレオチドを添加した。各DNAサンプルを、RNAseを含まないdH2O 4μl中に添加した。反応1〜3ではそれぞれ、10pmoleのコピー鋳型オリゴ150(配列番号123)が含まれ、反応2では、10pmoleのプロモーターオリゴ151(配列番号124)が含まれ、サンプル3には、10pmoleの3'尾部プロモーターオリゴ073-065(配列番号125)が含まれ、サンプル4には、DNAを添加しなかった。各サンプルに、1μlの10X転写緩衝液、7.5mM各rNTP、0.125mM蛍光-12-UTP(Boehringer)および1μlのT7 MEGAshortscript酵素混合物を含む溶液6μlを添加した。次に、37℃で1時間、サンプルをインキュベートした。RNaseを含有しないDNase 1(2U/μl)1マイクロリットルを各サンプルに添加し、37℃で更に15分間、サンプルをインキュベートした。次に、95%ホルムアミド溶液(5mM Na2EDTAおよび染料を含む)10μlを添加することにより反応を停止した。すべてのサンプルを2分間で95℃まで加熱し、次に、45mMトリス‐ボレート(pH8.3)および1.4mM EDTAを含有した緩衝液中において、7M尿素を含む20%変性ポリアクリルアミドゲル(19:1架橋)を介して、電気泳動法により各サンプル4μlを分離した。このゲルを、FMBIO II蛍光イメージアナライザーを用いて分析した。得られたイメージは図93に示されている。うまく転写されて生成したRNAは、(「RNA」)と記されているようにパネルの中央付近に現れる。
レーン2および3に示された転写産物を調べたところ、完全長プロモーター上に3'尾部が存在すると、転写の効率に悪影響を与えるが、完全に転写を遮断するものではないことが分かる。転写に基づく本発明の可視化アッセイの目的は、非開裂プローブと侵入的開裂アッセイのより短い産物(切断プローブ)とを識別することであるため、これらのデータは、他のオリゴヌクレオチドがアッセイに含まれていない場合、開裂反応における完全長プロモーターの産生を、非開裂プローブを含有したプロモーターからの転写により生成されたバックグラウンドと区別することが難しいことを示唆する。このような分枝プロモーターからの転写を抑制する手段については、「発明の説明」の中で解説されており、更に、以下の実施例43の中で解説されている。
実施例41
ニックの位置が部分および完全複合バクテリオファージT7プロモーターからの転写の効率に及ぼす影響の観測
「発明の説明」の中で、候補プロモーター断片に対して、侵入的開裂と連結されたアッセイにおける適合性を調べるための手順を解説した。この試験の1態様は、選択されたニック部位が最終複合プロモーターからの転写の効率に及ぼす影響を調べることである。更に、ニックの入ったプロモーターの個々の断片の転写能力について、ニックの入っていない完全長鎖の存在下で試験する。この実験において、これらの観点に関する比較は、開始部位(+1)を基準に-11および-10のヌクレオチドの間の非鋳型鎖中にニックを有する複合プロモーターと、同じ鎖上にあるが-8および-7のヌクレオチドの間に位置するニックを有するプロモーターとの間で行う。各反応の内容の概略を示す図番号は各レーンの下に示されている(例えば、85A = 図85A)。反応オリゴヌクレオチドを用いて完全に組立てられた複合プロモーター中におけるニックの部位についても、各レーンの下に示されている(「-11/-10」および「-8/-7」)。
MEGAshortscriptシステムを使用し、製造業者の使用説明書に従って転写反応を行ったが、ただし、フルオレセイン標識されたリボヌクレオチドを添加した。各DNAサンプルをRNAseを含まないdH2O 4μl中に添加した。反応1ではDNAを添加しなかった。反応2〜9ではそれぞれ、10pmoleのコピー鋳型オリゴ150(配列番号123)が含まれていた。反応3および4ではそれぞれ、10pmoleの-11「切断」プローブ(オリゴ073-061-01;配列番号127)または20pmoleの-10部分プロモーターオリゴ073-061-02(配列番号130)が含まれており、反応5では、両方が含まれていた。反応6および7ではそれぞれ、10pmoleの-8「切断」プローブ(オリゴ073-062-01;配列番号126)または20pmoleの-7部分プロモーターオリゴ073-062-02(配列番号129)が含まれており、反応8では、両方が含まれていた。反応9では、無傷のプロモーターオリゴ151(配列番号124)が含まれていた。
実施例40の記載に従って、転写反応の開始、インキュベーション、および停止を行い、次いで、反応産物の分離およびイメージングを行った。得られたイメージは、図92に示されている。反応番号は、イメージの上のレーン番号に対応する。うまく転写が行われて生成したRNAは、イメージの上1/3の位置に現れる。陽性対照反応(反応9)との比較を行うと、複合プロモーターのそれぞれから生成した完全長RNAは、対照反応で生成したものと同じサイズであることが分かるが、このことは、各反応において転写が同じ部位で開始されたことを示唆する。
図92において、レーン3、4、および5は、転写開始点を基準に-11および-10のヌクレオチドの間にニックを有する場合について、部分組立プロモーター(図86AおよびBの略図を参照されたい)および完全組立複合プロモーター(図88B)の2種のプロモーターからの転写を比較する。これらのデータから、部分プロモーター(レーン3および4)はいずれも、コピー鋳型の転写を補助することはできないが、このニック部位を有する複合プロモーター(レーン5)では強力な転写が行われることが分かる。驚くべきことに、対照反応(レーン9)との比較から、この部位(-11/-10)にニックが存在すると、実際に転写が促進されることが分かる。本発明は特定の機構に限定されるものではないが、転写の促進は、より短い不全転写物の形成の抑制、および完全長産物の蓄積の増大の両方の結果であると考えられる。この結果の再現性は高い。
図92において、レーン6、7、および8は、ニックが転写開始部位の方へ3残基近接した位置に移動した場合について、部分プロモーターおよび完全プロモーターの類似のセットの転写を比較する。レーン6を調べると、-8「切断」プローブ上に3個余分な塩基が存在することによって(レーン3の-11「切断」プローブと比較した場合)、この部分プロモーターが転写を開始することが分かる。このことは、本発明のこの実施態様に使用するために-8/-7部位を選択することは不適当であることを示唆する。
この実験は、所望の結果を得るためにプロモーターアセンブリー内のニックの好適な配置を決定する方法を示している。この実施例で試験したバクテリオファージT7プロモーター内の他のニックを試験するために、または任意の所望のファージプロモーター、原核生物プロモーター、または真核生物プロモーター中の好適なニックの配置を試験するために、類似の試験を容易に設計することができる。
実施例42
複合プロモーターからの転写を介したインベーダー指令開裂の産物の検出
上述の実施例は、複合T7プロモーターのアセンブリーを完成させることにより、そのプロモーターからの転写が可能になることを示唆するものである。これまでの実施例は、侵入的開裂反応を使用して、より長いプローブオリゴヌクレオチドから特定の短いオリゴヌクレオチド産物を放出することができることを示している。この実施例では、これらの2つの観測結果を組合せることができること、および侵入的開裂反応の産物を使用して、プロモーターを完成させ、続いて転写を行うことができること、を示す。この実施例で試験した複合プロモーターの概略図が図88に示されている。
2つの侵入的開裂反応を計画した。すなわち、一方は、標的DNAを加えない反応(反応1)であり、他方は標的DNAを加えた反応(反応2)である。反応(1および2)では、10mM MOPS (pH7.5)、0.05% Tween-20、0.05% NP-40、ならびに20pmoleプローブオリゴ073-067-01 (配列番号132)および10pmole インベーダーオリゴ073-073-02 (配列番号134)が14μlの容積で含まれていた。反応2では、100fmole M13mp18 ssDNAが更に含まれていた。60℃でサンプルを保持し、20ngのMja FEN-1および40mM Mg2Clを含有した溶液6μlを各サンプルに添加し、反応を開始した。60℃において30分間、サンプルをインキュベートし、3μlの2.5M NaOAc、83mM Na2EDTA (pH8.0)を添加することにより停止させた。各サンプルを1.5mlミクロ遠心管に移し、次に、冷却した100%エタノール60μlを添加することによりDNAを沈殿させ、更に、-20℃で20分間保存した。ミクロ遠心分離によりペレットを回収し、80%エタノールで1回洗浄して過剰の塩を除去し、次に、減圧下で乾燥した。この侵入的開裂反応の産物は、配列5'-CGAAATTAATAC-3'(配列番号128)を有する12ntオリゴヌクレオチドであり、-12切断プローブと名付けた(オリゴ073-073-03と同じ配列)。
転写を行うために、乾燥させたサンプルをそれぞれ、1pmoleコピー鋳型オリゴ150および2pmole -11部分プロモーターオリゴ073-073-012(配列番号131)を含有した溶液4μlに溶解した。対照サンプル3および4にはそれぞれ、1pmoleのコピー鋳型オリゴ150が含まれ、サンプル3には更に、1pmoleプローブオリゴ073-067-01(配列番号132)および2pmole -11部分プロモーターオリゴ073-073-012(構造88Aを参照されたい)が含まれ、サンプル4には、1pmole -12「切断」プローブオリゴ073-073-03(配列番号128)および2pmole -11部分プロモーターオリゴ073-073-012(構造88Bを参照されたい)が含まれていた。これらは、上述の2つの侵入的開裂反応からの転写反応に存在すると期待される構造である。
転写反応の開始、インキュベーション、および停止を行い、次いで、反応産物を分離し、実施例40の記載に従ってイメージングした。得られたイメージは、図89の右半分(レーン6〜9)に示されている。サンプル3および4はそれぞれ、レーン6および7に表されており、侵入的開裂反応産物からの反応1および2(小文字「i」を用いて示されている)はそれぞれ、レーン8および9に表されている。各反応において期待されるプロモーター構造の概略図を示す図の番号が、各レーンの上に示されており、更に、ニックの配置も示されている。大文字は、特定の図の中のどの構造を各反応で調べるかを示している。レーン8および9の上の小文字「i」は、これらの転写が実際の侵入的開裂反応から誘発されたものであることを示す。これらの産物は、レーン5の対照反応で生成したRNAと比較されるが、その手順は実施例44に記載されている。うまく転写が行われて生成したRNAは、パネルの上1/3に現れる(「RNA」と記されている)。
レーン6に示された反応では、転写が起こらない。このことは、非切断プローブからプロモーターが組立てられる場合、例えば、プローブの3'末端がプロモーター配列内に枝分れを形成する場合、T7プロモーターの鋳型鎖上の-12および-11ヌクレオチドの間のニックが転写を停止させることを示している。このことは、以下で調べる-11/-10ニックのときに見られる結果と対照的である。更に、レーン7に現れる転写物は、同じ部位(-12/-11)にニックを有する非分枝プロモーターが、ほとんど不全開始産物(実施例44に記載の図89のレーン2および5を参照されたい)を生じることなく、正しいRNAを産生することを示している。レーン8および9の反応は、侵入的開裂反応がT7プロモーターの上流断片(-12切断プローブ)の唯一の供給源である場合、同じ効果が観測されることを示している。レーン8で転写されるプロモーターは、非切断プローブが混合物中に全く存在しない場合でも、1pmoleの合成「切断」プローブオリゴの存在により完全になり、一方、レーン9で転写されるプロモーターは、僅か100fmoleの標的DNAを有する侵入的開裂反応の産物によって完全になることは、特筆すべきである。また、この反応では、同じ部位における結合に対して拮抗する可能性のある残りの非切断プローブ(約10pmoleまで)が含まれていた。にもかかわらず、侵入的開裂反応産物からの転写は、効率が僅かに低下するだけであり、「標的なし」のサンプル(レーン8)の場合と同じように、バックグラウンドの影響を受けない。この実施例は、侵入的開裂反応から得られた開裂産物は、部分プロモーターオリゴと組合せて使用することにより、RNAの産生を促進することができ、しかも非切断プローブの存在によるバックグラウンド転写が起こらないことを明確に示している。このRNA産物は、侵入的開裂反応における標的物質の存在に明らかに依存する。
実施例43
5'尾部を有する下流部分プロモーターオリゴヌクレオチドを使用した「漏出性」分枝T7複合プロモーターからの転写の遮断
前の実施例では、バクテリオファージT7プロモーターの非鋳型鎖中において転写開始部位を基準に-12および-11のヌクレオチドの間にニックを配置すると、分枝プロモーターの転写が阻害され、一方、切断プローブを用いて複合プロモーターを組立てると、転写が可能になることを示した。T7プロモーター中の他の位置にニックを置いた場合、分枝プロモーターからの転写よりも通常は効率が悪いが、いずれのプロモーターからも転写を開始することができる。この実施例では、非切断プローブと塩基対を形成することのできる5'尾部を、下流部分プロモーター断片に付加すると(図90A)、そのプロモーターからの転写が効率的に阻害されるが、切断プローブがプロモーターを完成させた場合(図90B)、転写は阻害されないことを示す。
2つの侵入的開裂反応を計画した。すなわち、一方は、標的DNAを加えない反応(反応7)であり、他方は標的DNAを加えた反応(反応8)である。反応(7および8)では、10mM MOPS (pH7.5)、0.05% Tween-20、0.05% NP-40、ならびに20pmoleプローブオリゴ073-067-01 (配列番号132)および10pmole インベーダーオリゴ073-067-02 (配列番号133)が14μlの容積で含まれていた。反応8では、100fmole M13mp18 ssDNAが更に含まれていた。60℃でサンプルを保持し、20ngのMja FEN-1および40mM Mg2Clを含有した溶液6μlを各サンプルに添加し、反応を開始した。60℃において30分間、サンプルをインキュベートし、3μlの2.5M NaOAc、83mM Na2EDTA (pH8.0)を添加することにより停止させた。実施例42に記載したように、各サンプルを1.5mlミクロ遠心管に移してDNAを沈殿させ、洗浄および乾燥を行った。この侵入的開裂反応の産物は、13ntオリゴヌクレオチド配列5'-CGAAATTAATACG-3'(配列番号127)であり、-11切断プローブと名付けた(侵入的開裂反応で生成しなかったことを示すために-11「切断」プローブと記されるオリゴ073-061-01と同じ配列)。
転写反応において、すべてのDNAを、RNaseを含まないdH2O 4μlに溶解した。サンプル1にはDNAを添加しなかった。サンプル2〜8には、1pmoleのコピー鋳型オリゴ150(配列番号123)が含まれていた。更に、サンプル3には、1pmoleの-11「切断」プローブオリゴ073-061-01(配列番号127)および2pmoleの-10部分プロモーターオリゴ073-061-02(配列番号130)が含まれており、サンプル4には、1pmoleのプローブオリゴ073-067-01および2pmoleの-10部分プロモーターオリゴ073-061-02が含まれていた。対照サンプル5には、1pmoleのプローブオリゴ073-067-01および2pmoleの部分プロモーターw/5'尾部オリゴ073-074(5'-TACTGACTCACTATAGGGTCTTCTATGGAGGTC-3'(配列番号146)(図90Aの構造を参照されたい)が含まれ、サンプル6には、1pmoleの-11「切断」プローブオリゴ073-061-01および2pmoleの部分プロモーターw/5'尾部オリゴ073-074(図90Bの構造を参照されたい)が含まれていた。これらは、上述の2つの侵入的開裂反応からの転写反応に存在すると期待される構造(すなわち、90Aおよび90B)である。
侵入的開裂から得られた乾燥サンプル7および8(上記)をそれぞれ、1pmoleコピー鋳型オリゴ150および2pmole部分プロモーターw/5'尾部オリゴ073-074を含有したdH2O 4μlに溶解した。実施例40の記載に従って、転写反応の開始、インキュベーション、および停止を行い、次いで、反応産物の分離およびイメージングを行った。得られたイメージは、図91に示されている。
図91において、レーン番号はサンプル番号に対応し、各反応において期待されるプロモーター構造の概略図を示す図の番号が、各レーンの上に示され(「88」および「90」)、更に、ニックの配置が示されている(「-11/-10」)。大文字は、特定の図の中のどの構造を各反応で調べるかを示している。レーン7および8の上の小文字「i」は、これらの転写が実際の侵入的開裂反応から誘発されたものであることを示す。うまく転写が行われて生成したRNAは、パネルの上1/3に現れるが、これは(「RNA」)と記されている。
DNAを含有しないかまたはコピー鋳型だけを含有するレーン1および2の対照反応は、期待される通りRNAを生成しなかった。レーン4の産物は、非鋳型鎖中の-11および-10のヌクレオチドの間にニックを有する分枝T7プロモーターが転写を補助することができるが、ただし、同じ部位にニックを有する非分枝プロモーター(レーン3)ほど効率が良くないことを示している。レーン5を調べると、図90Aに示されているように非切断プローブと塩基対を形成できる短い5'尾部を有する部分プロモーターオリゴヌクレオチドを使用することにより、この転写が効率的に抑制されるが、プローブが3'尾部を持たない場合(略図90Bのレーン6)、転写が可能であることが分かる。レーン7および8の反応は、侵入的開裂反応が、T7プロモーターの上流断片(-11切断プローブ、配列番号127)の唯一の供給源である場合、同じ効果が観測されることを示している。サンプル6で転写されるプロモーターは、非切断プローブが混合物中に全く存在しない場合でも、1pmoleの合成「切断プローブ」の存在により完全になり、一方、サンプル8で転写されるプロモーターは、僅か100fmoleの標的DNAを有する侵入的開裂反応の産物によって完全になることは、特筆すべきである。また、この反応では、同じ部位における結合に対して拮抗する可能性のある残りの非切断プローブ(約19pmoleまで)が含まれていた。にもかかわらず、侵入的開裂反応産物からの転写は、「標的なし」のサンプルの場合と同じように、強力で、バックグラウンドの影響を受けない。
この実施例は、侵入的開裂反応から得られた開裂産物は、5'尾部を有する部分プロモーターオリゴヌクレオチドと組合せて使用することにより、RNAの産生を促進することができ、しかも非切断プローブによるバックグラウンド転写が起こらないことを明確に示している。このRNA産物は、侵入的開裂反応における標的物質の存在に明らかに依存する。
実施例44
部分T7プロモーターを含む切断プローブのDNAポリメラーゼ媒介伸長による完全バクテリオファージT7プロモーターの形成
上記の実施例で示したように、完全なプロモーター領域が存在しない限り、T7プロモーターからの転写は起こらない。上記の実施例において、侵入的開裂反応から得られた切断プローブを、部分プロモーターオリゴにアニーリングされたコピー鋳型にアニーリングすることにより、一方の鎖中にニックを含む完全プロモーターが形成された。侵入的開裂反応における標的配列の検出に依存した形で完全プロモーターを形成する他の手段は、部分プロモーターオリゴの欠損したコピー鋳型に切断プローブをアニーリングすることである。アニーリングされた切断プローブの末端に存在する3'-OHは、DNAポリメラーゼにより伸長され、完全でニックの入っていないプロモーターが形成されるが、これには転写能力がある。
この実施例では、他のオリゴヌクレオチドの同時ハイブリダイゼーションによってではなく、プライマー伸長を用いてプロモーターを完全なものにした。反応工程は、図87に概略図で示されている。2つの侵入的開裂反応を計画した。すなわち、一方は、標的DNAを加えない反応(反応1)であり、他方は標的DNAを加えた反応(反応2)である。反応(1および2)では、10mM MOPS (pH7.5)、0.05% Tween-20、0.05% NP-40、ならびに20pmoleプローブオリゴ073-067-01 (配列番号132)および10pmole インベーダーオリゴ073-073-02 (配列番号134)が14μlの容積で含まれていた。反応2は、100fmole M13mp18 ssDNAが更に含まれていた。60℃でサンプルを保持し、20ngのMja FEN-1および40mM Mg2Clを含有した溶液6μlを各サンプルに添加し、反応を開始した。60℃において30分間、サンプルをインキュベートし、3μlの2.5M NaOAc、83mM Na2EDTA (pH8.0)を添加することにより停止させた。実施例42に記載したように、各サンプルを1.5mlミクロ遠心管に移してからDNAを沈殿させ、洗浄および乾燥を行った。この侵入的開裂反応の産物は、12ntオリゴヌクレオチド配列5'-CGAAATTAATAC-3'(配列番号128)であり、-12切断プローブと名付けた(侵入的開裂反応で生成しなかったことを示すために-12「切断」プローブと記されるオリゴ073-073-03と同じ配列)。
鋳型依存性DNAポリメラーゼを用いてこれらの産物の伸長が行えるように、20mMトリス‐HCl (pH8.5)、1.5mM Mg2Cl、50mMKCl、0.05% Tween-20、0.05% NP-40、25μM各dNTP、0.25ユニットtaqDNAポリメラーゼ(Boehringer)、および2μMコピー鋳型オリゴ150(配列番号123)を含有した溶液20μlを、乾燥した開裂サンプルのそれぞれに添加した。30℃で1時間、サンプルをインキュベートした。83mM Na2EDTAを含む2.5M NaOAc (pH8.0) 3μl/サンプルを添加することにより、プライマー伸長を停止した。実施例42に記載したように、各サンプルを1.5mlミクロ遠心管に移し、DNAを沈殿させ、洗浄し、更に、乾燥した。
次に、サンプル1および2を、RNaseを含有しないdH2O 4μlに溶解した。サンプル3、4、および5は、対照反応である。サンプル3は、RNaseを含有しないdH2O 4μlで、DNAが含まれず、サンプル4は、RNaseを含有しないdH2O 4μl中に1pmoleのコピー鋳型オリゴ150(配列番号123)を含み、サンプル5は、RNaseを含有しないdH2O中に、1pmoleの同じコピー鋳型および1pmoleの完全プロモーターオリゴ151(配列番号124)を含んでいた。
MEGAshortscriptシステムを使用し、製造業者の使用説明書に従って転写反応を行ったが、ただし、フルオレセイン標識されたリボヌクレオチドを添加した。各サンプルに、1μlの10X転写緩衝液、7.5mM各rNTP、0.125mM蛍光-12-UTP(Boehringer)および1μlのT7 MEGAshortscript酵素混合物を含む溶液6μlを添加した。37℃で1時間、サンプルをインキュベートした。RNaseを含有しないDNase 1(2U/μl)1μlを各サンプルに添加し、37℃で更に15分間インキュベートした。95%ホルムアミド溶液(5mM NaEDTAおよび染料を含む)10μlを添加することにより反応を停止した。すべてのサンプルを2分間で95℃まで加熱し、次に、45mMトリス‐ボレート(pH8.3)および1.4mM EDTAを含有した緩衝液中において、7M尿素を含む20%変性ポリアクリルアミドゲル(19:1架橋)を介して、電気泳動法により各サンプル4μlを分離した。Molecular Dynamics Fluoroimager 595を用いて488nmで励起し、530nmで発光を検出することにより、得られた分離物のイメージングを行った。
得られたイメージは、図89のレーン1〜5に示されている。レーン番号はサンプル番号に対応する。各反応で転写されるプロモーターの概略図に対応する図の番号が、レーンの上に記されている。うまく転写されたRNA産物は、(「RNA」)と記されているようにパネルの上1/3に現れる。組込まれなかった標識化ヌクレオチドは、底部付近の密なシグナルとして現れる(「NTP」)。不全開始イベント[Milligan and Uhlenbeck (1989) Methods Enzymol. 180:51]により生じた短い転写産物は、能動転写を示すレーン(すなわち、レーン2および5)において遊離ヌクレオチドのすぐ上にバンドとして現れる。
レーン1および2のデータから、転写が、侵入的開裂反応における標的物質の存在に依存することが明確に示される。他の所(図92のレーン3を参照されたい)では、開裂反応の産物は、それ自体では、コピー鋳型からの転写を起こすには十分ではないことが分かる。従って、プロモーターを横切ってハイブリダイズされた切断プローブを伸長するDNAポリメラーゼの働きは、この実施態様における転写を可能にするうえで必要な工程である。これらのデータは、DNAポリメラーゼによる鋳型依存性伸長および伸長後の転写がいずれも、侵入的開裂アッセイの産物を可視化する好適な方法であることをはっきりと示している。「発明の説明」に記載されているように、3'末端リン酸を有する熱分解産物は伸長されず、従って、バックグラウンド転写に寄与することはない。
実施例45
上流オリゴヌクレオチドの存在に対する酵素の依存性についての試験
逐次侵入的開裂反応に使用する構造特異的ヌクレアーゼを選択する場合、該酵素は、1)上流オリゴヌクレオチドの不存在下で、および2)上流オリゴヌクレオチドと下流標識化プローブオリゴヌクレオチドとの間の重複の不存在下で、プローブを開裂する能力をほとんど持たないことが好ましい。図99a〜eは、これらのタイプの構造体のそれぞれと対応する酵素の活性を試験するために使い得る幾つかの構造体を示す。構造体a(図99a)は、上流にオリゴヌクレオチド不在下での、バクテリオファージM13 DNA(図99に示すM13配列は配列番号163で与えられる)上に標的部位を有するプローブオリゴヌクレオチドのアラインメントを示す。構造体b(図99b)は、標識化プローブ(標識は星印で示す)との重複領域を有しない上流オリゴヌクレオチドを備えている。構造体c、dおよびe(図99c〜e)では、上流オリゴヌクレオチドは、下流プローブオリゴヌクレオチドとそれぞれ1、3または5個のヌクレオチドの重複を有しており、これらの構造体のそれぞれは適切な侵入的開裂構造体を表す。酵素Pfu FEN-1をこれら構造体のそれぞれに対する活性について試験し、全ての反応は二重に実施した。
各反応物は、10 mM MOPS(pH 7.5)の10μl中に、1μM 5' TET標識プローブオリゴヌクレオチド89-15-1(配列番号152)、50 nM上流オリゴヌクレオチド(オリゴ81-69-2[配列番号153]、オリゴ81-69-3[配列番号154]、オリゴ81-69-4[配列番号155]、オリゴ81-69-5[配列番号156]、または上流オリゴヌクレオチド無し)、1 fmol M13標的DNA、10 mg/ml tRNAおよびPfu FEN-1の10 ng、そしてTween 20およびNonidet P-40をそれぞれ0.05%有する7.5mM MgCl2を含んでなる。
酵素およびMgCl2を除く全ての成分を最終容量8μlに集め、10μlのChill-OutTM液体ワックスを重層した。サンプルを69℃の反応温度に加熱した。2μl容量に、Pfu FEN-1およびMgCl2を加えて、反応を開始した。69℃で30分間インキュベートした後、10μlの95%ホルムアミド、10mM EDTA、0.02%メチルバイオレットを加えて、反応を停止させた。サンプルを90℃で1分間加熱し、その直後に45 mM トリス硼酸(Tris-Borate)、pH8.3、1.4mM EDTAのバッファー中で、7M尿素を加えた20%変性アクリルアミドゲル(19:1で架橋した)にて電気泳動した。電気泳動後、ゲルをFMBIO-100 Hitachi FMBIO蛍光イメージャー(imager)で分析した。得た画像を図100に示す。
図100で、「a」と標識したレーンは、上流オリゴヌクレオチドなしに行った反応から得られた産物を含有し(構造体a)、「b」と標識したレーンは、プローブ/標的2本鎖に侵入しない上流オリゴヌクレオチドを含有する(構造体b)。「c」、「d」および「e」と標識したレーンは、それぞれ、1、3または5塩基だけプローブ/標的2本鎖に侵入した上流オリゴヌクレオチドを使って行った反応から得られた産物を含有する。非開裂プローブおよび開裂産物のサイズ(ヌクレオチド)は図100の画像の左に示されている。
図100に示すように、構造体aおよびbを用いたとき、プローブの開裂は検出されなかった。これに対し、侵入的開裂構造体を用いたときには開裂産物が得られた(構造体c〜e)。これらのデータは、Pfu FEN-1酵素がプローブの特異的開裂のために重複する上流オリゴヌクレオチドを必要とすることを示すものである。
どのような酵素でも、試験酵素の構造体a〜eを開裂する能力を確かめることにより、逐次侵入的開裂反応で使うことの適切性を試験することができる(当業者は、図99a〜eに示した特定のオリゴヌクレオチド配列を該試験反応に用いる必要はないことを理解しており;これらの構造体は単に好適な試験構造体の説明のために過ぎない)。望ましい酵素は、構造体aおよびbをほとんど開裂しないか、または全く開裂させず、構造体c〜eの特異的開裂を起こす(すなわち、それらは、侵入的開裂構造体を形成するために用いられる2つのオリゴヌクレオチド間の重複度から予測されるサイズの開裂産物を作製する)。
実施例46
感度のネットゲインを有する第2侵入的開裂反応を起こすための第1侵入的開裂反応の産物の使用
以上の本発明の説明で論じたように、侵入的開裂反応の検出感度は、第1反応産物を使って第2反応の開裂構造体を完成し、第2ラウンドの侵入的開裂を行うことによって増大させることができる(図96に模式図で示す)。この実施例では、第1侵入的開裂反応で開裂された場合に第2侵入的開裂反応で使われる一体化した(integrated)インベーダーTMオリゴと標的分子を形成するプローブの使用を説明する(図97に模式図で示す)。
第1プローブは、図97に示すように、いくつかの内部相補性を含有して、第1侵入的開裂反応で開裂されると該産物(「切断プローブ1」)が一体化インベーダーTMオリゴヌクレオチドを含んでなる標的鎖を形成しうるように設計した。新しく形成された標的/インベーダーTMとハイブリダイズしたとき、意図した部位で開裂する第2プローブを該反応に提供した(図97)。逐次侵入的開裂の性能によるシグナルのゲインを実証するために、上に記載したように、標準侵入的開裂アッセイを並行して実施した。
全ての反応は二回実施した。それぞれの標準的な(すなわち、非逐次的な)侵入的開裂反応物は、10 mM MOPS(pH7.5)の10μl中に、1 μM 5'フルオレセイン標識プローブオリゴ073-182(5' Fl-AGAAAGGAAGGGAAGAAAGCGAA-3';配列番号157)、10 nM上流オリゴ81-69-4(5'-CTTGACGGGGAAAGCCGGCGAACGTGGCGA-3';配列番号155)、10〜100 attomoleのM13標的DNA、10 mg/ml tRNAおよびPfu FEN-1の10ng、そしてTween 20およびNonidet P-40をそれぞれ0.05%を加えた8mM MgCl2を含んでなる。酵素およびMgCl2を除く全ての成分を最終容量7μlに集め、10μlのChill-OutTM液体ワックスを重層した。サンプルを62℃の反応温度に加熱した。2μl容量に、Pfu FEN-1およびMgCl2を加えて、反応を開始した。62℃で30分間インキュベートした後、10μlの95%ホルムアミド、10mM EDTA、0.02%メチルバイオレットを加えて、反応を停止させた。
それぞれの逐次侵入的開裂反応物は、10 mM MOPS(pH 7.5)の10μl中に、1 μM 5' フルオレセイン標識プローブオリゴヌクレオチド073-191(第1プローブまたは「プローブ1」、5' Fl-TGGAGGTCAAAACATCGATAAGTCGAAGAAAGGAAGGGAAGAAAT-3';配列番号158)、10 nM 上流オリゴヌクレオチド81--69-4(5'-CTTGACGGGGAAAGCCGGCGAACGTGGCGA-3';配列番号155)、1 μMの5′フルオレセイン標識オリゴヌクレオチド106-32(第2プローブまたは「プローブ2」、5'Fl-TGTTTTGACCTCCA-3';配列番号159)、1〜100amolのM13標的DNA、10 mg/ml tRNAおよび10 ngのPfu FEN-1、そしてTween 20およびNonidet P-40をそれぞれ0.05%加えた8mM MgCl2を含んでなる。酵素およびMgCl2を除く全ての成分を最終容量8μlに集め、10μlのChill-OutTM液体ワックスを重層した。サンプルを62℃の反応温度(この温度はプローブ1の第1標的へのアニーリングについての最適温度である)に加熱した。2μl容量に、Pfu FEN-1およびMgCl2を加えて、反応を開始した。62℃で15分間インキュベートした後、温度を58℃(この温度はプローブ2の第2標的へのアニーリングに対する最適温度である)に低下し、サンプルをさらに15分間インキュベートした。10μlの95%ホルムアミド、20mM EDTA、0.02%メチルバイオレットを加えて、反応を停止させた。
標準および逐次侵入的開裂反応の両方からのサンプルを、90℃で1分間加熱し、その直後に、45 mM トリス硼酸(Tris-Borate)、pH8.3、1.4mM EDTAのバッファー中で、7M尿素を加えた20%変性アクリルアミドゲル(19:1で架橋した)で電気泳動した。電気泳動後、ゲルをMolecular Dynamics FluorImager 595で分析した。得た画像を図101aに示す。それぞれの産物バンドの蛍光強度の測定値を示すグラフを図101bに示す。
図101aで、レーン1〜5は、標的なし(レーン1)、10 amolの標的(レーン2および3)または100 amolの標的(レーン4および5)のいずれかで標準侵入的開裂反応により得られた産物を含有する。非開裂プローブは、各レーンのパネルの下半分に暗いバンドとしてみられ、開裂産物はパネル底部近くにより小さな黒いバンドとしてみられ、開裂産物の位置は図101aの左側の矢頭により示される。レーン1〜5にみられるバンドの灰色のラダーは、上に論じられたようなプローブの熱変性によるものであり、したがって標的DNAの存在または不在に関係しない。残りのレーンは、1 amolの標的(レーン6および7)、10 amolの標的(レーン8および9)および100 amolの標的(レーン10および11)を含有する逐次侵入的開裂反応により得られた産物を表す。非開裂第1プローブ(プローブ1;標識化「1未切断」)は、パネルの頂部近くにみられるが、該開裂第1プローブは「1;切断」と示される。同様に、非開裂および開裂第2プローブは、それぞれ「2;未切断」および「2:切断」と示される。
図101bに示すグラフは、標準反応(「シリーズ1」)から作製された産物の量を逐次的反応(「シリーズ2」)の第2工程により得られた産物の量と比較する。標的DNAを含まない反応物から測定したバックグラウンド蛍光のレベルを各測定値から差し引いた。グラフの下にある表から、標的DNAの100 attomoleを含有した標準配列開裂アッセイからのシグナルは、1 attomoleの標的が存在した逐次侵入的開裂アッセイからのシグナルとほぼ同一であることがわかり、このことは、第2開裂構造体の包含はアッセイの感度を100〜200倍に増大させることを示している。シグナルのこの増幅により、逐次侵入的開裂アッセイを使ってattomoleレベルより低いレベルの標的核酸を容易に検出することができるが、標準アッセイではこの酵素を30分だけ使って行った場合、標的の10 attomoleが存在しても検出可能な産物を生じない。
逐次侵入的開裂アッセイで標的の量を10または100倍低減すると、シグナル強度は同じ比率で低減する。このことは、反応をシリーズで行っても侵入的開裂アッセイの定量能力が保持されることを示し、したがって高感度であると共に定量性のある核酸検出方法を提供する。
この実施例では、使われた2プローブは異なる最適ハイブリダイゼーション温度(すなわち、所与の反応条件で最大のターンオーバー速度を与える、実験的に決定した温度)を有するが、インキュベーション中の温度シフトを不要にするため、同じ最適ハイブリダイゼーション温度を有するようにプローブを選ぶ(すなわち、設計する)こともできる。
実施例47
完了した逐次侵入的開裂反応の産物は、その後の同様な反応を交差汚染することはない。
本発明の説明で論じたように、ポリメラーゼ連鎖反応および同様の二重(doubling)アッセイの往復性とは対照的に、逐次侵入的開裂反応で起こる多重侵入的開裂事象のシリーズ性(serial nature)は、逐次侵入的開裂反応は、第1開裂反応の産物が第2開裂反応の新しいシグナル生成に関与しないので、同様な反応の産物による汚染を受けないことを意味する。もし大量の完成反応物が新しい構築反応物に加えられる場合、生じるバックグラウンドは、運びこまれた標的の量と運びこまれた既に開裂されているプローブの量とを合わせたものからなる。この実施例では、有意なシグナルを得るためには、一次反応物の非常に大部分を二次反応に導入しなければならないことを実証する。
第1または一次逐次侵入的開裂反応を100 amolの標的DNAを使い、上に記載のとおり実施した。5つの反応物の第2のセットを、第1反応の一部分を導入しかつ追加の標的DNAを含まないこと以外は実施例46に記載したとおりにして構築した。これらの二次反応を開始し、上記のとおりインキュベーションし、0、0.01、0.1、1、または10%の第1反応物質を含ませた。100 amolの標的を含む対照反応物は、第2セットにも含ませた。反応を停止させ、電気泳動で分離し、上記のとおり可視化し、得た画像を図102に示す。一次プローブ、未切断第2プローブおよび切断第2プローブは、左に、それぞれ「1:切断」、「2:未切断」および「2:切断」と示す。
図102で、レーン1は、パネルの底部に、蓄積した産物と共に第1反応の結果を示し、そしてレーン2は同じ反応の1:10希釈を示しており、さらなる増幅なしに、汚染のレベルから予測されうるシグナルのレベルを実証する。レーン3〜7は、汚染物として加えられた第1反応物質を0、10、1、0.1または0.01%含有する第2開裂反応物の結果をそれぞれ示し、レーン8は、第2反応系の活性を実証するために加えられた100 amolの標的DNAを有する対照反応物を示す。レーン4のシグナルレベルは、(レーン2のように)前開裂した物質の10%が移入され、かつレーン1反応から移入された標的物質の10%がさらに増幅することを可能とした場合に予測されるものである。さらなる希釈の全てのレベルで、シグナルはバックグラウンドから容易に識別されない。これらのデータは、1つの反応物から他の反応物への大規模な移入は検出されうるが、エーロゾルからまたは設備汚染から予測される微小量の交差汚染は偽陽性結果と容易に間違えられることはなかろうことを実証している。これらのデータは、1つの反応の産物が新しいサンプルに故意に持ち越される(carry over)場合、これらの産物は新しい反応に関与しないこと、したがって、その反応で生じ得る標的依存性シグナルのレベルに影響しないことも実証している。
実施例48
侵入的開裂によるヒト・サイトメガロウイルスDNAの検出
前の実施例は、侵入的開裂反応の、ヒト・ゲノムDNA中に存在する微小量のウイルスDNAを検出する能力を実証するものである。この実施例では、プローブおよびインベーダーTMオリゴヌクレオチドは、図103に示すようにヒト・サイトメガロウイルス(HCMV)の主要な前初期遺伝子の3104〜3061領域をターゲッティングするように設計した。図103では、インベーダーTMオリゴ(89-44;配列番号160)およびフルオレセイン(Fl)標識プローブオリゴ(89-76;配列番号161)は、ウイルスDNA(配列番号162)のヌクレオチド3057〜3110に対応するHCMVゲノムの領域に沿ってアニーリングされることを示している。この実施例で使用したプローブは、ポリピリミジンプローブであり、本明細書に示されるようにポリピリミジンプローブの使用はプローブオリゴの熱分解により生じるバックグラウンドシグナルを減少させる。
ゲノムウイルスDNAは、アドバンスド・バイオテクノロジー社(Advanced Biotechnologies, Incorporated, Columbia, MD)から購入した。このDNAは、アドバンスド・バイオテクノロジー社の従業員により1マイクロリットル当たり170 amol(1 x 108コピー)の濃度であると推定された(ただし確証はされてない)。反応は4重で実施した。各反応物は、10 mM MOPS(pH7.5)の10 μl中に、1μM 5'フルオレセイン標識プローブオリゴヌクレオチド89-76(配列番号161)、100 nM インベーダーTMオリゴヌクレオチド89-44(配列番号160)、1 ng/mlヒト・ゲノムDNA、および図104の各レーンの上に示された量の標的HCMV DNAの5種類の濃度の1つ、およびPfu FEN-1の10 ng、そしてTween 20およびNonidet P-40をそれぞれ0.05%加えた6 mM MgCl2を含んでなる。標識化プローブ、酵素およびMgCl2を除く全ての成分を最終容量7μlに集め、10μlのChill-OutTM液体ワックスを重層した。サンプルを95℃に5分間加熱し、その後、62℃に低下させた。3μl容量に、プローブPfu FEN-1およびMgCl2を加えて、反応を開始した。62℃で60分間インキュベートした後、10μlの95%ホルムアミド、10mM EDTA、0.02%メチルバイオレットを加えて、反応を停止させた。サンプルを90℃で1分間加熱した直後に、45 mM トリス硼酸(Tris-Borate)、pH8.3、1.4mM EDTAのバッファー中で、7 M尿素を加えた20%変性アクリルアミドゲル(19:1で架橋した)で電気泳動した。電気泳動後、ゲルをMolecular Dynamics FluorImager 595で分析した。
得た画像を図104に示す。複製反応物は、レーンの各セット上に示された反応物の標的HCMV DNA含量(0〜170 amol)を有する4つのレーンのグループで処理した。非開裂プローブはパネルの上側3分の1に見られる(「未切断89-76」)が、開裂産物の強度はパネルの下側3分の2に見られる(「切断89-76」)。蓄積した開裂産物は、反応の標的DNAの量に比例することがわかる。さらに、ヒト・ゲノムDNAのバックグラウンドにおいてでさえも、標的DNAを含有しない反応(「無標的」)ではプローブは開裂されないことが明確にわかる。図104に示すように10 ngのヒト・ゲノムDNAがそれぞれの反応物に含まれているが、200 ngまでのゲノムDNAを含むことは蓄積産物の量にわずかな影響しか与えない。このデータは、反応混合物10μl当たり200ngがシグナル蓄積の有意な減少を伴わずに許容されうるゲノムDNAの最大量に該当することを示唆するものではない。参考として、この量のDNAは、0.2mlの尿中に見出されうる量(新生児のHCMVについての一般的な試験量)を超え、全血のほぼ5μl中に見出される量と同等である。
これらの結果は、標準的な(すなわち、非逐次的な)侵入的開裂反応が、ウイルスDNAを検出するための高感度で、特異的かつ再現可能な手段であることを実証するものである。これらのデータから、ポリピリミジンプローブの使用は、実施例22に論じられたようにプローブの熱分解により生じるバックグラウンドを減少することもわかる。標的の1.7amolの検出は、ウイルスの106のコピーの検出とほぼ同等である。これは、先天的に感染した新生児からの尿の0.2ml中にみだされうるウイルスゲノムの数と等価である(0.2ml当たり102〜106ゲノム等価;Stangoら, J. Infect. Dis., 132:568[1975])。逐次侵入的開裂アッセイの使用は、より少ないウイルスDNA分子の検出を可能とし、より大量の異種DNAを保有する血液(ml当たり101〜105個のウイルス粒子;Pectorら, J. Clin. Microbiol., 30:2359[1992])中の検出を容易にするであろう。
以上から、本発明が、核酸配列および核酸配列中の変異の検出および特性決定を可能にする試薬および方法を提供することは明らかである。本発明のインベーダー(登録商標)指令開裂反応および逐次インベーダー(登録商標)指令開裂反応は、直接検出アッセイ(例えば容易な定量および最小のキャリーオーバー汚染の危険性)の利点と、二重(dual)または三重(tri)オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションアッセイによりもたらされる特異性とが組み合わさった、理想的な直接検出法を提供する。
本発明の説明に示されるように、逐次侵入的開裂反応の使用は、二次標的と相互作用して切断プローブと結合を競争するかまたは生じた構造体の低レベルの開裂を通じてバックグラウンドを生じる残留未切断第1、または一次プローブの問題を起こしうる。これを図105および106に図示する。図105では、図示の反応は第1開裂構造体からの開裂産物を使用して、第2開裂反応のためのインベーダー(登録商標)オリゴヌクレオチドを形成する。二次標的、二次プローブおよび未切断一次プローブで形成された構造体を、工程2aに示された右巻き(right hand)構造体として、図105に記す。この構造体は、5'ヌクレアーゼによって、非常に非効率的ではあるが(すなわち、ほとんどの反応条件でほぼ1%未満)、認識され開裂される。それにもかかわらず、得られる産物は特異的産物から識別できず、したがって、偽陽性の結果をもたらし得る。同じ効果は、開裂一次プローブが生成する場合も起こることがあり、実施例46に記載された一体化インベーダー(登録商標)/標的(IT)分子;複合体の形成を、工程2aに示された右巻き(right hand)構造体として、模式図的で図106に記す。
逐次的インベーダーTMアッセイのこれらの各タイプについて、各種組成のアレスターTMオリゴヌクレオチドを含むことによりもたらされる改善点を、次の実施例で実証する。これらのアレスターTMは、シリーズの第1開裂反応からの残留未切断プローブと結合するコンフィギュレーションを有し、それにより後続の反応において効果を増大させかつ非特異的バックグラウンドを減少する。
実施例49
「アレスターTM」オリゴヌクレオチドは多重逐次侵入的開裂アッセイの感度を改善する
この実施例では、アレスターTMオリゴヌクレオチドを含むことのシグナル生成に及ぼす影響を、図97および106に示すITプローブ系を使って実証する。アレスターTMオリゴヌクレオチドは、一次プローブと、主に、第1開裂反応中に標的核酸を認識する部分でハイブリダイズする。アレスターTMを加えることの影響を調べることに加えて、二次IT構造体を構成する一次プローブの領域に相補性において異なる距離に伸長するアレスターTMオリゴヌクレオチドを使うことの影響も研究した。これらの影響は、反応条件の各セットにおける非特異的(すなわち、標的核酸に関係しない)バックグラウンドのレベルを実証する目的で、或る濃度範囲の標的DNAを含むかまたは標的DNAを欠く反応物で比較した。
これらの反応に対する標的DNAは、血清型adw系統由来のB型肝炎ゲノムの全長を含んでなる断片であった。この物質は、ポリメラーゼ連鎖反応を使い、プラスミドpAM6(ATCC#45020D)から作製した。PCRは、ベクターに対して順方向のプライマー、オリゴ#156-022-001(5'-ggcgaccacacccgtcctgt-3';配列番号168)および逆方向のプライマー、オリゴ#156-022-02(5'-ccacgatgcgtccggcgtag-3';配列番号169)を使って実施して、ほぼ3.2kbのアンプリコンであるHBVインサートの全長を増幅した。サイクリング条件は、95℃で5分のプラスミドの変性、続いて95℃で30秒;60℃で40秒:および72℃で4分の30サイクルを含むものとした。その後、最終の伸長を72℃で10分間実施した。得られたpAM6#2と名付けたアンプリコンを、2M NH4OAcに調整し、イソプロパノールで沈殿して採取した。真空乾燥後、DNAを10mM トリス(Tris) pH .0, 0.1 mM EDTAに溶解した。濃度をOD200測定により、およびインベーダーTMアッセイにより、既知濃度の標準と比較して定量した。
インベーダーTM反応を次のとおり実施した。「A」、「B」、「C」、「D」および「E」と名付けた5つのマスターミックスをアセンブルした;全てのミックスは、それぞれ8μl当り、12.5 mM MOPS、pH 7.5、500 fmole一次インベーダーTMオリゴ#218-55-05(配列番号171)、10 ngヒト・ゲノムDNA(Novagen)および30 ng AfuFEN1酵素を含有した。ミックスAは追加のHBVゲノムアンプリコンDNAを含有せず;ミックスBはHBVゲノムアンプリコンDNA pAM6#2の600分子を含有し;ミックスCは6,000分子のpAM6#2を含有し;ミックスDは60,000分子のpAM6#2を含有し;ミックスEは600,000分子のpAM6#2を含有した。これらのミックスを反応チューブに、8μl/チューブをアリコートした;すなわち、ミックスAはチューブ1、2、11、12、21および22に;ミックスBはチューブ3、4、13、14、23および24に;ミックスCはチューブ5、6、15、16、25および26に;ミックスDはチューブ7、8、17、18、27および28に;ミックスEはチューブ9、10、19、20、29および30にアリコートした。サンプルを95℃で4分間インキュベートして、HBVゲノムアンプリコンDNAを変性した。その後、反応物を67℃に冷却し、2μl当たり37.5 mM MgCl2および2.5pmoleeの218-95-06(配列番号183)を含有する混合物の2μlを、各サンプルに加えた。該サンプルを67℃で60分間インキュベートした。3つの二次反応マスターミックスを調製し、全てのミックスはミックスの2μl当たり10 pmoleの二次プローブオリゴヌクレオチド#228-48-04(配列番号173)を含有した。ミックス2Aは追加のオリゴヌクレオチドを含有せず、ミックス2Bは5pmole「アレスターTM」オリゴHBV#218-95-03(配列番号184)を含有し、そして、ミックス2Cは5pmole「アレスターTM」オリゴHBV#218-95-01(配列番号174)を含有した。67℃で60分間のインキュベーション(上記のプライマー反応)した後、2μlの二次反応ミックスを各サンプルに加えた:すなわち、ミックス2Aをサンプル#1〜10に加え;ミックス2Bをサンプル#11〜20に加え;ミックス2Cをサンプル#21〜30に加えた。温度は52℃に調節し、そしてサンプルを52℃で30分間インキュベートした。その後、95%ホルムアミド溶液の10μl、5 mM EDTAおよび0.02%クリスタルバイオレットを添加して、反応を停止した。全てのサンプルを95℃で2分間加熱し、そして、各サンプルの4μlを、45 mM トリス硼酸(Tris-Borate)(pH8.3)および1.4mM EDTAを含有するバッファー中、7 M尿素を加えた20%変性アクリルアミドゲル(19:1で架橋した)での電気泳動により分離した。結果をMolecular Dynamics FluorImager 595にて、励起488、発光530で画像化した。得た画像を図107に示す。
図107で、パネルAは、二次反応物中にアレスターTMオリゴヌクレオチドを含まない場合の標的滴定の結果を示し;パネルBは、一次プローブの非標的相補性領域中に2ntだけ伸長したアレスターTMを使った場合の同じ標的滴定の結果を示し;パネルCは、一次プローブの非標的相補性領域中に4ntだけ伸長したアレスターTMを使った場合の同じ標的滴定の結果を示す。二次開裂反応の産物は、各パネルの底部近くのバンドとして見られる。各パネルの最初の2レーン(すなわち、1および2、11および12、21および22)は、標的DNAを欠き、産物バンドと同時移動するシグナルは、各セットの条件下での非特異的バックグラウンドを表す。
これらのパネルの可視化により、アレスターTMオリゴヌクレオチドのいずれかの種を含ませることによってバックグラウンドシグナルは低減しかつより予測可能となることがわかる。非標的対照レーンにおけるバックグラウンドの低減に加えて、より少量の標的を含む反応物におけるバックグラウンド低減は低下し、反応物内に含まれる標的をより正確に反映するシグナルを生じ、したがって、多重逐次侵入的開裂反応の定量範囲を改善する。
このような条件下で二次開裂反応にアレスターTMオリゴヌクレオチドを含むことの影響を定量するために、最大標的量を有する反応物からの平均産物バンドシグナル(すなわち、レーン9および10、レーン19および20、およびレーン29および30)からのシグナルの平均を、各パネルの非標的対照レーンからの平均シグナルと比較して、「バックグラウンドに対する倍数(fold over background)」、すなわちバックグラウンドに対するシグナル増幅ファクターを、各セットの条件下で定量した。アレスターTMを含まない反応物については、パネルAではバックグラウンドに対する倍数は5.3であり;パネルBではバックグラウンドに対する倍数は12.7であり;パネルCではバックグラウンドに対する倍数は13.4であり、このことは、この系では、アレスターTMを含むことにより、シグナルの特異性はアレスターTMをほとんど含まない反応物と比較して少なくとも2倍になり、非標的相補性領域中にわずかに伸長したアレスターTMは少なくともこの実施様態の系においてわずかに有効でありうることを示している。これは、明らかに、これらの反応の特異性を増大させるために、アレスターTMを使うことの有益性を示しており、この利点は標的核酸の低いレベルで特に有益である。
実施例50
「アレスターTM」オリゴヌクレオチドは、バックグラウンドシグナルを増大させることなく、
より高濃度の一次プローブの使用を可能とする。
実施例36では、侵入的開裂反応物中のプローブ濃度を増大させることにより、所与の標的DNA量に対して生じるシグナル量を著しく増大させ得ることを実証した。特定の機構に説明を限定しようとするものではないが、このことは、プローブ濃度の増大により、開裂プローブが非開裂コピーにより取って替わられる速度が増大し、それにより開裂反応の見かけのターンオーバー速度が増大するという事実が原因であると思われる。残念なことに、この効果は、これまでは多重逐次的インベーダーTMアッセイにおける一次開裂反応には応用できなかった。何故ならば、残留する非開裂一次プローブは開裂分子と競争して二次標的とハイブリダイズする可能性があり、それにより二次反応の有効性を減少するからであった。一次プローブの高い濃度はこの問題を悪化させる。さらに、上記したように、生成する複合体は低レベルで開裂することがあり、バックグラウンドの一因となり得る。したがって、一次プローブを増加させることは、二次反応を遅くすること、およびこの形態の非標的特異的バックグラウンドのレベルを増大させる、という二重の悪影響を及ぼし得る。残留一次プローブを封鎖または中和するためにアレスターTMを使用することにより、この濃度増加効果がこれらの逐次的反応へ応用可能となる。
この効果を実証するために、2セットの反応を実施した。第1のセットの反応では、或る範囲の一次プローブ濃度を用い、二次反応ではアレスターTMオリゴヌクレオチドを供給せずに、反応を実施した。第2セットの反応では、同じプローブ濃度を用いたが、二次反応でアレスターTMを加えた。
全ての反応を二重に実施した。一次インベーダーTM反応は最終容量10μl中で実施し、10 mM MOPS、pH 7.5、7.5 mM MgCl2、500 fmの一次インベーダーTM(#218-55-05;配列番号171)、30 ng AfuFEN1酵素および10 ngヒト・ゲノムDNAを含有していた。全ての偶数番号を付した反応物には、100 zeptomolのHBV pAM6#2アンプリコンを含有させた(図108AおよびBを参照)。反応物は、10 pmole、20 pmole、50 pmole、100 pmoleまたは150 pmoleの一次プローブ(218-55-02;配列番号170)を含んでいた。MOPS、標的およびインベーダーTMオリゴヌクレオチドを組み合わせて7μlの最終容量とした。サンプルを95℃で5分間、熱変性し、その後67℃に冷却した。5分間の変性中に、MgCl2、プローブおよび酵素を合わせた。3μlのMgCl2、プローブおよび酵素ミックスを上に示した最終濃度にて加えて、一次インベーダーTM反応を開始した。反応物を67℃、30分間インキュベートした。その後、反応物を52℃に冷却し、そして、各一次インベーダーTM反応物に、全容量4μlの次の二次反応成分を加えた:2.5 pmole二次標的(オリゴ番号218-95-04;配列番号172);10 pmole二次プローブ(オリゴ番号228-48-04;配列番号173)。アレスターTMオリゴヌクレオチドを含む反応物は、40 pmole、80 pmole、200 pmole、400 pmoleまたは600 pmoleのアレスターTM(オリゴ番号218-95-01;配列番号174)のいずれかを有し、各反応物にこのミックスを、一次プローブの量に対して4倍モル過剰で加えた。その後、反応物を52℃で30分間インキュベートした。95%ホルムアミド溶液の10μl、10 mM EDTAおよび0.02%クリスタルバイオレットを添加することにより、反応を停止させた。全てのサンプルを95℃で1分間加熱し、そして、各サンプルの4μlを、45 mM トリス硼酸(Tris-Borate)(pH8.3)および1.4mM EDTAを含有するバッファー中、7 M尿素を加えた20%変性アクリルアミドゲル(19:1で架橋した)での電気泳動により分離した。結果をMolecular Dynamics FluorImager 595にて、励起488、発光530で画像化した。アレスターTMオリゴヌクレオチド含有および不含の反応物について得た画像を図108Aおよび108Bにそれぞれ示す。二次プローブの開裂産物は、各パネルの底部近くのバンドとして見られる。
図108Aで、レーンのセット1および2は、10 pmoleの一次プローブ;3および4は、20 pmole;5および6は、50 pmole;7および8は、100 pmole;9および10は、150 pmoleの結果を示す。目視により、一次プローブの量を増大させることは、標的の存在下(偶数番号のレーン)での特異的シグナルを低減すると同時に、非標的レーン(奇数番号)においてバックグラウンドをわずかに増大させる、という複合的効果を持ち、したがって、「バックグラウンドに対する倍数」の尺度として見た場合に反応の特異性を低減し、このことは、プローブ増加によるシグナル増大のアプローチはこれらの逐次反応には応用できないことを実証している。
図108Bで、レーンのセット1および2は、10 pmoleの一次プローブ;3および4は20 pmole;5および6は50 pmole;7および8は100 pmole;9および10は150 pmole;の結果を示す。さらに、各反応物は、二次開裂反応の前に加えたアレスターTMオリゴヌクレオチドを4倍モル過剰で含む。目視試験により、非標的レーン(奇数番号)のバックグラウンドは全ての事例において低いが、標的の存在下での特異的シグナル(偶数番号のレーン)は一次プローブの増加量とともに増大し、この標的レベルでより大きい「バックグラウンドに対する倍数」感度を導くことがわかる。
これらの効果を定量的に比較するために、非特異的および特異的開裂の産物からの蛍光シグナルを測定した。結果を図108Cに、使用した一次プローブの量と比較した場合の、反応中での開裂した二次プローブの割合(%)の測定値として、グラフで示した。非標的反応物からのプロットを調べたところ、アレスターTM不在下でのバックグラウンドは全般的にほぼ2倍高いこと、およびプローブ量の増加に伴い、両方ともわずかに増加すること、が確かめられる。しかし、特異的シグナルは2セットの反応物の間でもっと著しく異なっている。非アレスターTM反応物でのシグナルは一次プローブが増加すると確実に減少するが、アレスターTM反応物でのシグナルは増加しつづける。試験した最大の一次プローブ濃度において、非アレスターTM反応物は、バックグラウンドに対してわずかに1.7倍しか特異的シグナルを有しないが、アレスターTM反応物は100 zmol(60,000コピー)の標的をバックグラウンドに対して6.5倍のシグナルで検出し、このことは、アレスターTMオリゴヌクレオチドを含ませた場合の逐次侵入的開裂反応における改善を実証している。
実施例51
改変バックボーンによるアレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドの性能の改良
3’-アミンをもたない全天然「アレスター(登録商標)」オリゴ
先の2つの実施例に記載した反応では、2’ O-メチルリボースバックボーンを用いて構築されたアレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドを使用した。このオリゴヌクレオチドには、正に帯電したアミノ基が3’末端ヌクレオチド上に含まれていた。これらの改変体は、酵素と一次プローブ/アレスター(登録商標)複合体との相互作用を低減すべく特別に作製されたものであった。本発明の開発中、2’ O-メチル改変オリゴヌクレオチドは5’ヌクレアーゼによる開裂に対していくらかの耐性を有することが判明した。このことは、アンチセンス用途に使用した場合にヌクレアーゼにより徐々に分解されることとまったく同じである(例えば、Kawasaki et al., J. Med. Chem., 36:831 [1993]を参照されたい)。
更に、実施例35で実証されるように、オリゴヌクレオチドの3’末端にアミノ基が存在すると、侵入的開裂を指令する能力が低下する。このようにアレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドが開裂構造体を形成する可能性を低減させるために、本実施例および他の実施例に記載の実験のデザインではアミノ基を含有させた。
アレスター(登録商標)オリゴヌクレオチド(「ブロッカー」とも記す)の最初のデザインには、これらの改変体は含まれていなかった。また、これらの分子は、逐次侵入的開裂アッセイにおいてバックグラウンド開裂を低減させるのに有効ではなく、実際には、予定外の部位で開裂を誘発することによってバックグラウンドに寄与する場合もあることが分かった。これは恐らく、なんらかのエレメントが別の開裂構造体に供給されることによって生じたものと思われる。この実施例では、これらの反応において天然および改変アレスター(登録商標)がバックグラウンドノイズに及ぼす影響について調べる。
アレスター(登録商標)を含まない同等の反応と比較することにより、「全天然アレスター(登録商標)」(すなわち、塩基類似体または改変体を含有しないアレスター(登録商標))の効力を調べた。反応はいずれも反復して行い、その実施内容は次の通りであった。それぞれ混合物8μlあたり、12.5mMのMOPS, pH7.5、500fmolの1次インベーダー(登録商標)オリゴヌクレオチド#218-55-05(配列番号171)、および30ngのAfuFEN1酵素を含有する2種のマスター混合物をアセンブルした。混合物Aには追加のHBVゲノムアンプリコンDNAは含まれておらず、混合物Bには600,000分子のHBVゲノムアンプリコンDNA, pAM6 #2が含まれていた。これらの混合物をアリコート8μl/チューブの量で次のように反応チューブに分配した。すなわち、混合物Aをチューブ1、2、5、および6に、混合物Bをチューブ3、4、7、および8に分配した。これらのサンプルを95℃で4分間インキュベートしてHBVゲノムアンプリコンDNAを変性させた。次に、反応液を67℃まで冷却し、2μlあたり37.5mMのMgCl2と10pmolの218-55-02B(配列番号185)とを含有する混合物2μlを各サンプルに添加した。次に、サンプルを67℃で30分間インキュベートした。それぞれ混合物3μlあたり10pmolの2次プローブオリゴ#228-48-04N(配列番号178)と2.5pmolの2次標的オリゴヌクレオチド#218-95-04(配列番号172)とを含有する2種の2次反応マスター混合物を調製した。混合物2Aには追加のオリゴヌクレオチドは含まれていなかったが、混合物2Bには50pmolの天然「アレスター(登録商標)」オリゴヌクレオチド#241-62-02(配列番号186)が含まれていた。最初に67℃で30分間インキュベートした後、52℃になるように温度を調節し、各サンプルに2次反応混合物3μlを次のように添加した。すなわち、混合物2Aをサンプル#1〜4に添加し、混合物2Bをサンプル#5〜8に添加した。次に、サンプルを52℃で30分間インキュベートした。95%ホルムアミドと10mM EDTAと0.02%クリスタルバイオレットとからなる溶液10μlを添加することにより反応を停止させた。
すべてのサンプルを2分間で95℃まで加熱し、各サンプル4μlを、45mMのトリス-ボレート(pH8.3)と1.4mMのEDTAとを含有する緩衝液中に7Mの尿素を含んでなる20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通して電気泳動処理することにより分解した。Molecular Dynamics Fluoroimager 595、励起488、発光530を用いて結果をイメージ化した。得られたイメージを図109Aに示す。
アレスター(登録商標)に対して行った種々の改変の効果を比較するために、すべて天然の塩基であるが3’末端アミンを有するアレスター(登録商標)、2’ O-メチルヌクレオチドが含まれる3’部分と3’末端アミンとを有するアレスター(登録商標)、および完全に2’ O-メチルヌクレオチドと3’末端アミンとを含むアレスター(登録商標)を用いて反応を行った。これらを、アレスター(登録商標)を用いずに行った反応と比較した。反応は次のように行った。いずれの混合物にも混合物7μlあたり、14.3mMのMOPS, pH7.5、500fmolの1次インベーダー(登録商標)オリゴ#218-55-05(配列番号171)、および10ngのヒトゲノムDNA(Novagen)が含まれる2種のマスター混合物をアセンブルした。混合物Aには追加のHBVゲノムアンプリコンDNAは含まれておらず、混合物Bには600,000分子のHBVゲノムアンプリコンDNA, pAM6 #2が含まれていた。これらの混合物を7μl/チューブの量で次のように反応チューブに分配した。すなわち、混合物Aをチューブ1、2、5、6、9、10、13および14に、混合物Bをチューブ3、4、7、8、11、12、15および16に分配した。これらのサンプルを4分間で95℃まで加温してHBV DNAを変性させた。次に、反応液を67℃まで冷却し、3μlあたり25mMのMgCl2と25pmolの218-55-02B(配列番号185)と30ngのAfuFEN1酵素とを含有する混合物3μlを各サンプルに添加した。次に、サンプルを67℃で30分間インキュベートした。いずれの混合物にも混合物3μlあたり10pmolの2次プローブオリゴヌクレオチド#228-48-04B(配列番号190)と2.5pmolの2次標的オリゴヌクレオチド#218-95-04(配列番号172)とが含まれる4種の2次反応マスター混合物を調製した。混合物2Aには追加のオリゴヌクレオチドは含まれていなかったが、混合物2Bには100pmolの天然+アミンアレスター(登録商標)オリゴヌクレオチド#241-62-01(配列番号187)が含まれ、混合物2Cには100pmolの部分的O-メチル+アミンオリゴヌクレオチド#241-62-03(配列番号188)が含まれ、更に、混合物2Dには100pmolの完全O-メチル+アミンオリゴヌクレオチド#241-64-01(配列番号189)が含まれていた。最初に67℃で30分間インキュベートした後、52℃になるように温度を調節し、各サンプルに2次反応混合物3μlを次のように添加した。すなわち、混合物2Aをサンプル#1〜4に添加し、混合物2Bをサンプル#5〜8に添加し、混合物2Cをサンプル#9〜12に添加し、混合物2Dをサンプル#13〜16に添加した。サンプルを52℃で30分間インキュベートし、次いで、95%ホルムアミドと10mM NaEDTAと0.2%クリスタルバイオレットとからなる溶液10μlを添加することにより処理を終了した。
すべてのサンプルを2分間で95℃まで加熱し、各サンプル4μlを、45mMのトリス-ボレート(pH8.3)と1.4mMのEDTAとを含有する緩衝液中に7Mの尿素を含んでなる20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通して電気泳動処理することにより分解した。Molecular Dynamics Fluoroimager 595、励起488、発光530を用いて結果をイメージ化した。得られたイメージを図109Bに示す。
図109Aにおいて、左側のパネルは、アレスター(登録商標)を含まない反応を示し、右側のパネルは、全天然アレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドを含む反応から得られたデータを示している。各パネルの最初の2つのレーンは標的なしの対照から得られたものであり、レーンの第2のセットには標的が含まれていた。開裂の産物は各パネルの底部1/4に見られる。特異的反応産物の所定の泳動位置を左右の矢印で示す。
これらのデータを調べることにより、アレスター(登録商標)の不在下で行った反応では、反復実験間の再現性は良好であり、標的が存在する場合にのみ有意な開裂を呈することが分かる。これとは対照的に、もう1つの未改変オリゴヌクレオチドを反応に加えると、反復レーン間に大きな差異を生じる(例えば、レーン5と6では同じ反応体を用いたが、著しく異なる結果が得られた)。全天然アレスター(登録商標)を導入した場合、標的のないこれらのレーンにおいてバックグラウンドは減少せずにむしろ増大し、他の部位での開裂が増大した(すなわち、パネルの端部の矢印で示されたバンド以外のバンドが増大した)。これらの理由により、先に説明した改変体を導入した。これらの効果は表109Bに示されている。
図109Bの最初の4つのレーンは、アレスター(登録商標)を用いずに行った反復反応の産物を、HBV標的のある場合とない場合について示している(それぞれレーン1、2およびレーン3、4)。次の4つのレーン5、6、および7、8では、3’末端アミンを有する天然アレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドを使用した。レーン9、10、および11、12では、2’ O-メチルヌクレオチドを含む3’部分と3’末端アミンとを有するアレスター(登録商標)を使用した。レーン13、14、および15、16では、完全に2’ O-メチルヌクレオチドと3’末端アミンとを含むアレスター(登録商標)を使用した。2次プローブの開裂の産物は各パネルの下側1/3に見られる。
これらのデータを目視検査すると、3’末端アミンを天然アレスター(登録商標)に付加すると、図109Aに見られる異常な開裂は抑制されるが、アレスター(登録商標)を含まない対照と比較して反応の性能は改善されないことが分かる。これとは対照的に、アレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドの本体で2’ O-メチルヌクレオチドを使用すると、部分的な置換であるか完全な置換であるかにかからず、バックグラウンドは減少する。こうした改変の相対的な効果を定量するために、共泳動産物(co-migrating product)バンドのそれぞれから放出される蛍光を測定し、反復レーンから得られたシグナルを平均し、標的核酸を含む各反応液に対する「バックグラウンド基準倍率(fold over background)」を計算した。
アレスター(登録商標)を省いた場合、標的特異的シグナル(レーン3、4)は、標的なしのバックグラウンドの27倍であり、天然アレスター(登録商標)+アミンの場合、バックグラウンドの17倍のシグナルを呈し、部分的2’ O-メチル+アミンの場合、バックグラウンドの47倍のシグナルを呈し、完全2’ O-メチル+アミンの場合、バックグラウンドの33倍のシグナルを呈した。
これらの図は、両方の改変が多重逐次侵入的開裂アッセイの特異性に有益な影響を及ぼすことができることを示している。また、これらの図は、2’ O-メチル置換バックボーンを使用すると、部分的置換または完全置換のいずれの場合にも、これらの反応の特異性が顕著に改良されることを示している。本発明の種々の実施形態において、アレスター(登録商標)またはアレスター(登録商標)と一次標的とから形成される複合体にヌクレアーゼ耐性を付与する任意の数の改変を行っても、同様な機能強化がなされるものと予想される。
実施例52
多重逐次侵入的開裂アッセイにおけるシグナル増強に及ぼすアレスター(登録商標)の長さの影響
発明の説明のところで述べたように、アレスター(登録商標)の最適な長さは、インベーダー(登録商標)反応の他の核酸エレメントのデザイン、特に、一次プローブのデザインに依存する。本実施例では、2つの異なる二次プローブを用いた系において、アレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドの長さを変化させた場合の影響について調べた。これらのアレスター(登録商標)が一次プローブオリゴヌクレオチドにハイブリダイズするときにとりうるアラインメントが図110Cに略図で示されている。この図では、標的核酸を認識する一次プローブの領域に下線が施されている。下線の施されていない部分および下線の施された最初の塩基は、第1の開裂で放出される部分であり、続いて第2およびその後の開裂構造体に関与する。
反応はいずれも反復して行った。インベーダー、登録商標反応は、10mMのMOPS, pH7.5、mMのMgCl2、500fmolの1次インベーダー(登録商標) 241-95-01(配列番号176)、25pmolの1次プローブ241-95-02(配列番号175)、30ngのAfuFEN1酵素、および10ngのヒトゲノムDNA、ならびに、もし含めるのであれば、1amolのHBVアンプリコンpAM 6 #2を含有する最終体積10μlの最終体積で行った。MOPS、標的DNA、およびインベーダー(登録商標)オリゴヌクレオチドを合わせて最終体積7μlにした。サンプルを95℃で5分間熱変性させ、次いで67℃まで冷却した。5分間の変性処理の間、MgCl2、プローブ、および酵素を混合した。上記の最終濃度になるようにMgCl2、プローブ、および酵素の混合物3μlを添加することにより、一次インベーダー(登録商標)反応を開始させた。反応液を67℃で30分間インキュベートした。次に、反応液を52℃まで冷却し、各一次インベーダー(登録商標)反応液に、次の二次反応成分:2.5pmolの二次標的241-95-07(配列番号177)、10pmolの二次プローブ228-48-04(配列番号173)または228-48-04N(配列番号178)のいずれか1つ、および100pmolのアレスター(登録商標)オリゴヌクレオチド241-95-03(配列番号179)、241-95-04(配列番号180)、241-95-05(配列番号181)、または241-95-06(配列番号182)のうちのいずれか1つを、3μlの全体積で添加した。アレスター(登録商標)効果に対する対照として、いくつかの反応液でアレスター(登録商標)を省いた。
反応液を52℃で34分間インキュベートし、次いで、95%ホルムアミドと10mM EDTAと0.02%クリスタルバイオレットとからなる溶液10μlを添加することにより反応を停止させた。すべてのサンプルを1分間で95℃まで加熱し、各サンプル4μlを、45mMのトリス-ボレート(pH8.3)と1.4mMのEDTAとを含有する緩衝液中に7Mの尿素を含んでなる20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通して電気泳動処理することにより分解した。Molecular Dynamics Fluoroimager 595、励起488、発光530を用いて結果をイメージ化した。より短いおよびより長い二次プローブを用いた反応に対して得られたイメージをそれぞれ図110Aおよび110Bに示す。
それぞれの図において、開裂の産物は、各レーンの底部1/2にバンドとして現れている。各図の最初の4つのレーンは、アレスター(登録商標)を用いずに行った反復反応の産物を、HBV標的のある場合とない場合について示している(それぞれレーンセット1および2)。次の4つのレーンのセット3および4では、最も短いアレスター(登録商標) 241-95-03(配列番号179)を使用し、レーン5および6では241-95-04(配列番号180)を使用し、レーン7および8では241-95-05(配列番号181)を使用し、レーン9および10では241-95-06(配列番号182)を使用した。
関係する主要なバックグラウンドは、「標的なし」の対照レーンに現れるバンドである(奇数;このバンドは、各ゲルパネルの底部近傍で標的特異的シグナルと一緒に共泳動する)。目視検査から、最も短いアレスター(登録商標)はこのバックグラウンドを抑制する効果が最も少なく、後続の開裂反応に関与する部分にまでアレスター(登録商標)を更に伸長させた場合に効力が増大したことが分かる。効果にこうした差異が現れるにもかかわらず、これらのデータから、アレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドのデザインの許容範囲は大きいことが分かる。長さの選択は、アレスター(登録商標)を使用する反応が行われる温度、一次プローブと標的との間、一次プローブと二次標的との間で形成される2本鎖の長さ、更に、反応液中の様々な核酸種の相対濃度により影響を受けるであろう。
実施例53
多重逐次侵入的開裂アッセイにおけるシグナル増強に及ぼすアレスター(登録商標)の濃度の影響
これらの開裂反応にアレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドを加えたときの影響を調べるにあたり、アレスター(登録商標)の濃度を一次プローブの濃度よりも過剰にした場合に非特異的または特異的シグナルの収率に影響を与えるか、またアレスター(登録商標)の長さが要因であるかを調べることは興味深いことであった。以下の実施例では、これらの2つの変数について調べた。
反応はいずれも反復して行った。一次インベーダー(登録商標)反応は最終体積10μlで行った。この10μl中には、10mMのMOPS, pH7.5、7.5mMのMgCl2、500fmolの1次インベーダー(登録商標) 241-95-01(配列番号176)、25pmolの1次プローブ241-95-02(配列番号175)、30ngのAfuFEN1酵素、および10ngのヒトゲノムDNAが含まれていた。標的DNAを含める場合には、先に述べたように、1amolのHBVアンプリコンpAM 6 #2を用いた。MOPS、標的、およびインベーダー(登録商標)を合わせて最終体積7μlにした。サンプルを95℃で5分間熱変性させ、次いで67℃まで冷却した。5分間の変性処理の間、MgCl2、プローブ、および酵素を混合した。MgCl2、プローブ、および酵素の混合物3μlを添加することにより、一次インベーダー(登録商標)反応を開始させた。反応液を67℃で30分間インキュベートした。次に、反応液を52℃まで冷却し、各一次インベーダー(登録商標)反応液に、次の二次反応成分:2.5pmolの二次標的241-95-07(配列番号177)、10pmolの二次プローブ228-48-04(配列番号173)、およびもし含める場合には、50、100、または200pmolのアレスター(登録商標) 241-95-03(配列番号179)または241-95-05(配列番号181)のいずれかを、全体積3μlで添加した。次に、反応液を52℃で35分間インキュベートした。95%ホルムアミドと10mM EDTAと0.02%クリスタルバイオレットとからなる溶液10μlを添加することにより反応を停止させた。すべてのサンプルを1分間で95℃まで加熱し、各サンプル4μlを、45mMのトリス-ボレート(pH8.3)と1.4mMのEDTAとを含有する緩衝液中、7Mの尿素を含んでなる20%変性アクリルアミドゲル(19:1架橋)に通して電気泳動処理することにより分解した。Molecular Dynamics Fluoroimager 595、励起488、発光530を用いて結果をイメージ化した。得られたイメージを図111に複合イメージとして示す。
反復反応液のそれぞれを隣接レーン中のゲル上に充填し、単一のレーン番号を記した。奇数番号のレーンはいずれも標識なしの対照であった。レーン1および2には、アレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドを添加しなかった。レーン3〜8は、より短いアレスター(登録商標) 241-95-03(配列番号179)を含む反応液から得られた結果を示し、レーン9〜14は、より長いアレスター(登録商標) 241-95-05(配列番号181)を含む反応液から得られた結果を示している。二次反応から得られた開裂産物は、各パネルの底部1/3に現れている。これらのデータの目視検査(すなわち、特異的産物のバンドとバックグラウンドのバンドとの比較)から、両方のアレスター(登録商標)がいずれの濃度においてもいくらかの有益な効果を示すことが分かる。
アレスター(登録商標)の長さおよび濃度の相対的な効果を定量するために、共泳動産物バンドのそれぞれから放出される蛍光を測定し、反復レーンから得られたシグナルを平均し、標的核酸を含む各反応液に対する「バックグラウンド基準倍率(fold over background)」(シグナル+標的/シグナル−標的)を計算した。アレスター(登録商標)の含まれない反応液は、バックグラウンドの約27倍のシグナルを呈した。より短いアレスター(登録商標)を50、100、または200pmolの量で添加した場合には、それぞれバックグラウンドの42倍、51倍、および60倍のシグナルの産物が得られた。このことから、最も低い濃度で短いアレスターを用いた場合は、より長いアレスター(登録商標)を用いた場合よりも効果が少ないと思われるが(前述の実施例を参照されたい)、アレスター(登録商標)の濃度を増大させることにより、従って、アレスター(登録商標):一次プローブの比を増大させることにより、これを補いうることが分かる。
これとは対照的に、より長いアレスター(登録商標)を50、100、または200pmolの量で添加した場合には、それぞれバックグラウンドの60倍、32倍、および24倍のシグナルの産物が得られた。最も低い濃度では、より短いアレスター(登録商標)と比較したこのより長いアレスター(登録商標)の効力は、前述の実施例と一致する。しかしながら、濃度の増大により特異的産物の収率が低下したことから、二次開裂反応のなんらかのエレメントとの拮抗作用が示唆される。
これらのデータは、アレスター(登録商標)オリゴヌクレオチドが多数の特異的反応デザインに有利に使用できることを示している。濃度の選択は、アレスター(登録商標)を使用する反応が行われる温度、一次プローブと標的との間、一次プローブと二次標的との間、および一次プローブとアレスター(登録商標)との間で形成される2本鎖の長さにより影響を受けるであろう。
本明細書中に記載のHBV以外の標的核酸に対するオリゴヌクレオチドの選択(例えば、オリゴヌクレオチドの組成および長さ)ならびに本明細書中に提示されたモデルにかなった開裂反応条件の最適化は、分子生物学の方法に通じた当業者に周知の定常的方法および慣例に従う。
以上の説明に記載のすべての出版物および特許は、参照により本明細書に組み入れる。本発明に係る記載の方法および系の種々の修正および変更が本発明の範囲および精神から逸脱することなく行えることは、当業者には自明であろう。特定の好ましい実施形態と関連させて本発明を説明してきたが、特許請求された本発明はこのような特定の実施形態に不当に限定されるべきものではないことを理解しなければならない。実際には、本発明を実施するための記載のモデルの種々の修正は、分子生物学の方法に通じた当業者に自明である場合には、次の請求の範囲に含まれるものとする。