JP2005246707A - 成膜方法および膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】カップリング剤の種類に応じた特性を有し、かつ、耐アルカリ性を有する膜の成膜方法、また、かかる成膜方法により形成された膜を提供すること。
【解決手段】本発明の成膜方法は、主としてポリオルガノシロキサンで構成されるポリオルガノシロキサン膜421を形成する工程と、ポリオルガノシロキサン膜421に対して、その表面に露出する有機基の一部を切断して水酸基を導入する水酸基導入処理を施す工程と、前記所定の処理が施されたポリオルガノシロキサン膜421を、カップリング剤で処理する工程とを有する成膜方法である。前記カップリング剤は、撥液性の官能基を有するもの、親液性の官能基を有するものまたは反応性の官能基を有するもののうちの少なくとも1種であるのが好ましい。
【選択図】図1

Description

本発明は、成膜方法および膜に関する。
近年、基材の表面にカップリング剤による処理を施すことにより、撥液性、親液性および反応性等の特性を有する膜を形成することが行われている。
例えば、特許文献1には、インクジェット記録ヘッドの吐出口周縁部に撥液性を有するカップリング剤処理により撥液膜が形成された構成のものが開示されている。
しがしながら、特許文献1に記載された撥液膜は、撥液性に着目して形成されており、耐アルカリ性等の他の性質(特性)については、十分に検討されていない。
したがって、このようなインクジェット記録ヘッドに、例えば顔料系インクのようなアルカリ性の高いインクを用いた場合、撥液膜の耐アルカリ性が十分でないことから、前記インクの接触により、その表面が変質・劣化して、撥液性が損なわれるという問題がある。
特開平5−116309号公報
本発明は、カップリング剤の種類に応じた特性を有し、かつ、耐アルカリ性を有する膜の成膜方法、また、かかる成膜方法により形成された膜を提供することを目的とする。
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の成膜方法は、主としてポリオルガノシロキサンで構成されるポリオルガノシロキサン膜を形成する第1の工程と、
前記ポリオルガノシロキサン膜に対して、その表面に露出する有機基の一部を切断して水酸基を導入する水酸基導入処理を施す第2の工程と、
前記水酸基導入処理が施された前記ポリオルガノシロキサン膜を、カップリング剤で処理する第3の工程とを有することを特徴とする。
これにより、カップリング剤の種類に応じた特性と耐アルカリ性との双方の特性を発揮する膜を形成することができる。
本発明の成膜方法では、前記ポリオルガノシロキサン膜は、ジアルキルシリコーンを主成分とするものであることが好ましい。
これにより、第2の工程において、有機基とSiとの結合を比較的容易に切断できることから、この切断部分に水酸基を確実に導入することができる。
本発明の成膜方法では、前記第1の工程において、前記ポリオルガノシロキサン膜は、プラズマ重合法により形成されることが好ましい。
プラズマ重合法によれば、均質かつ均一な膜厚のポリオルガノシロキサン膜を容易に形成することができる。
本発明の成膜方法では、前記第2の工程における前記水酸基導入処理は、紫外線照射およびプラズマ照射の少なくとも一方であることが好ましい。
かかる方法によれば、有機基から水酸基への置換が比較的緩和に進行するため、水酸基の導入量の調整が容易となる。
本発明の成膜方法では、前記紫外線照射は、大気中で行われることが好ましい。
これにより、有機基とSiとが切断されるのとほぼ同時に、大気中に存在する酸素分子から酸素原子が効率よく導入されるため、ポリオルガノシロキサン膜の表面に存在する有機基を迅速に水酸基に置換することができる。
本発明の成膜方法では、前記紫外線照射における紫外線の照射時間は、1〜10分間であることが好ましい。
これにより、ポリオルガノシロキサン膜の表面に存在する有機基が、適度な割合で水酸基に置換されるようになり、その結果、最終的に得られる膜は、カップリング剤の種類に応じた特性と、耐アルカリ性の双方が特に優れたものとなる。
本発明の成膜方法では、前記紫外線照射における紫外線の強度は、1000〜3000mJ/cmであることが好ましい。
これにより、ポリオルガノシロキサン膜中に存在する有機基を水酸基に確実に置換することができる。
本発明の成膜方法では、前記プラズマ照射におけるプラズマ照射の時間は、1〜5分間であることが好ましい。
これにより、ポリオルガノシロキサン膜の表面に存在する有機基が、適度な割合で水酸基に置換されるようになり、その結果、最終的に得られる膜は、カップリング剤の種類に応じた特性と、耐アルカリ性の双方が特に優れたものとなる。
本発明の成膜方法では、前記プラズマ照射における高周波電力の出力は、100〜700Wであることが好ましい。
これにより、ポリオルガノシロキサン膜中に存在する有機基を水酸基に確実に置換することができる。
本発明の成膜方法では、前記カップリング剤は、シラン系カップリング剤であることが好ましい。
これにより、比較的容易にポリオルガノシロキサン膜の有する水酸基と、シランカップリング剤が有する反応性官能基とが結合し、シランカップリング剤で構成される単分子膜がポリオルガノシロキサン膜の表面に形成される。
本発明の成膜方法では、前記カップリング剤は、炭素数10〜300の官能基を有するものであることが好ましい。
この官能基の炭素数を前記範囲内とすることにより、それぞれ、隣り合うカップリング剤が有する官能基同士が複雑(三次元的)に絡み合い、膜のカップリング剤の種類に応じた特性がより向上する。
本発明の成膜方法では、前記カップリング剤は、撥液性の官能基を有するもの、親液性の官能基を有するものまたは反応性の官能基を有するもののうちの少なくとも1種であることが好ましい。
これにより、得られる膜は、撥液性、親液性および反応性のうちの少なくとも一種と、耐アルカリ性との双方を有するものとなる。
本発明の膜は、本発明の成膜方法により形成されたことを特徴とする。
これにより、カップリング剤の種類に応じた特性と耐アルカリ性との双方の特性を発揮する膜が得られる。
以下、本発明の成膜方法および膜について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<成膜方法>
まず、本発明の成膜方法の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明の成膜方法を説明するための縦断面図、図2は、図1に示す方法を実施するための成膜装置を示す模式図、図3は、本発明の膜および従来の膜の構成を示す模式図であり、図中(a)は、従来の膜の構成を示し、(b)は、本発明の膜の構成を示す模式図である。
なお、以下の説明では、図1、2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
本発明の成膜方法は、[1]ポリオルガノシロキサン膜形成工程と、[2]水酸基導入処理工程と、[3]カップリング剤処理工程とを有する。以下、各工程について順次説明する。
[1]ポリオルガノシロキサン膜形成工程(第1の工程)
まず、図1(a)に示すように、基材4を用意する。
基材4は、各種金属材料、各種半導体材料、各種セラミック材料、各種ガラス材料等の、いかなる材料で構成されたものであってもよい。
次に、図1(b)に示すように、この基材4の上側の面に、主としてポリオルガノシロキサンで構成されるポリオルガノシロキサン膜421を形成(成膜)する。
このポリオルガノシロキサン膜421を形成する方法としては、プラズマ重合法を好適に用いることができる。プラズマ重合法によれば、均質かつ均一な膜厚のポリオルガノシロキサン膜421を容易に形成することができる。
ここで、ポリオルガノシロキサンとしては、Si−OH(Si−O)結合よりも耐アルカリ性が高いSiとの結合を形成する有機基を有するものが好ましい。このようなポリオルガノシロキサンとしては、具体的には、例えば、ジメチルシリコーン、ジエチルシリコーンのようなジアルキルシリコーン、シクロアルキルシリコーン、フェニルシリコーン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、ポリオルガノシロキサンとしては、ジアルキルシリコーン(特に、ジメチルシリコーン)を主成分とするものが好ましい。ポリオルガノシロキサン膜421を、ジメチルシリコーンを主成分として構成することにより、次工程[2]において、有機基(アルキル基)とSiとの結合を比較的容易に切断できることから、この切断部分に水酸基を確実に導入することができる。
なお、ジメチルシリコーンを主成分とするポリオルガノシロキサン膜421を、プラズマ重合法を用いて形成する場合、その原料30(前駆体)としては、例えば、メチルポリシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタンシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなポリオルガノシロキサン膜421は、例えば、図2に示す成膜装置10を用いてプラズマ重合法により形成することができる。
以下では、ジメチルシリコーンを主成分とするポリオルガノシロキサン膜421をプラズマ重合法により形成する場合を一例に説明する。
図2に示す成膜装置10は、真空ポンプ11が接続された真空チャンバ12を備え、この真空チャンバ12内に、電極13およびステージ14が設けられている。
電極13は、真空チャンバ12の上部に絶縁体121を介して取り付けられ、真空チャンバ12の外部に配設された高周波電源15に接続されている。この高周波電源15により高周波電力が出力される。
この高周波電力の出力としては、100〜1000W程度であるのが好ましい。
ステージ14は、基材4(被処理基材)が載置されるものであり、真空チャンバ12の下部に、電極13と対向するように配設されている。このステージ14には、基材4の温度を調整する温度調節機構が設けられている。
また、真空チャンバ12には、ガス供給管16および原料供給管17が接続されている。
ガス供給管16には、ガス供給源18が流量制御弁161を介して接続されている。この流量制御弁161の開閉操作によって、真空チャンバ12へ供給されるガスの流量が調整される。
また、ガス供給源18より供給する添加ガスとしては、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素等が挙げられるが、これらの中でも、アルゴンを用いるのが好ましい。
原料供給管17には、原料30を収納する原料容器19が流量制御弁171を介して接続されている。この原料容器19の下部にはヒータ20が設置され、原料容器19内の原料30を気化し得るようになっている。
気化した原料30は、真空チャンバ12の負圧により吸引され、原料供給管17を通って真空チャンバ12に供給される。この真空チャンバ12へ供給される気化した原料30の流量は、流量制御弁171の開閉操作によって制御される。
この成膜装置10によるジメチルシリコーンを主成分とするポリオルガノシロキサン膜421の成膜は次のようにして行われる。
まず、基材4を、真空チャンバ12内のステージ14上に配置する。
次に、原料30を原料容器19内に収納する。
その後、ポンプ11を作動させることにより、真空チャンバ12内の圧力を設定値まで減圧する。
この減圧による真空チャンバ12内の圧力は、1×10−4〜1Torr程度であるのが好ましい。
次に、ステージ14の温度調整機構を調整することにより、基材4の温度を、原料30のプラズマ重合反応が促進されるように温度を設定する。
この基材4の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
次に、アルゴンガスをガス供給管16から、気化した原料30を原料供給管17から真空チャンバ12内に供給しする。
アルゴンガスの流量は、10〜500sccm程度であるのが好ましい。
一方、原料30の流量は、1〜100sccm程度であるのが好ましい。
次に、高周波電源15よって高周波電力を電極13に印加する。これにより、真空チャンバ12内にアルゴンプラズマが生成する。そして、このアルゴンプラズマによって原料30のうち結合の弱いCH基が切断され、基材4の表面近傍で重合反応を生じる。そして、この重合反応によって生じた生成物が基材4の表面に結合することによって、ポリオルガノシロキサン膜421(プラズマ重合膜)が形成される。
高周波電力を印加する時間(ポリオルガノシロキサン膜の形成時間)は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。
なお、このようにしてポリオルガノシロキサン膜421を成膜した後、このポリオルガノシロキサン膜421に加熱処理(アニール処理)を行うようにしてもよい。これにより、ポリオルガノシロキサン膜421と基材4表面との架橋反応が促進され、ポリオルガノシロキサン膜421の硬度が増すこととなり、基材4とポリオルガノシロキサン膜421の密着性が強固なものとなる。
この熱処理は、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気下、100〜450℃程度×1〜10分程度で行うのが好ましく、150〜230℃程度×1〜3分程度で行うのがより好ましい。
[2]水酸基導入処理工程(第2の工程)
次に、得られたポリオルガノシロキサン膜421に対して、水酸基導入処理を施す。これにより、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に露出する一部のCH基のSiとの結合を切断して、この切断部分に水酸基を導入する。
このように、本発明の成膜方法では、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に露出するCH基の全てを水酸基に置換することなく、適度に残存させる点に特徴を有する。
次工程[3]において、撥液性を付与すべく用いられるカップリング剤は、これが有する反応性官能基が、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に導入された水酸基と反応し、これにより、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に結合する。
したがって、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に導入する水酸基の量を多くする程、カップリング剤の結合量(結合率)が高くなり、得られる膜42のカップリング剤の種類に応じた特性(以下、単に「カップリング剤による特性」と言う。)が高くなる傾向を示す。
ところが、一般に、カップリング剤は、分子量が比較的大きい官能基を有するものの方が、カップリング剤による特性が向上する傾向を示すが、かかるカップリング剤でポリオルガノシロキサン膜421を処理した場合、官能基同士の間に立体障害が生じ、その表面に存在する水酸基の一部のものは、カップリング剤との反応に寄与し得ない状態となる。
このため、仮に、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に露出するほぼ全てのCH基を水酸基に置換した場合には、図3(a)に示すように、カップリング剤と結合できない多数の水酸基が、カップリング剤同士の間に残存した状態の膜が得られる。
この水酸基が残存した部分は、アルカリに対する耐性が低いことから、かかる膜が、アルカリ性を示す液体(例えば、顔料系のインク等)に長期間接触していると、この液体により水酸基が残存する部分から浸食が開始し、オルガノシロキサン膜421が劣化(分解)する。これにより、カップリング剤が基材4の表面離脱(剥離)して、カップリング剤による特性が損なわれる(消失する)こととなる。
これに対して、本発明では、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に露出するCH基が適度に残存している。換言すれば、水酸基が疎らに(疎な状態で)、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に導入されている。
このため、このようなポリオルガノシロキサン膜421を、分子量が比較的大きい官能基を有するカップリング剤で処理しても、官能基同士の間の立体障害が生じることなく、図3(b)に示すように、カップリング剤は、ポリオルガノシロキサン膜421の水酸基と結合する。
このとき、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に存在する水酸基は、そのほぼ全てのものがカップリング剤との結合に消費され、ポリオルガノシロキサン膜421のカップリング剤が結合していない表面には、CH基が露出することになる。
このCH基が存在する部分では、高い耐アルカリ性が発揮させるため、本発明の膜42は、カップリング剤による特性と、ポリオルガノシロキサンによる高い耐アルカリ性との双方の特性を有するものとなる。
したがって、このような膜42は、アルカリ性を示す液体に長期間接触した場合においても、アルカリによる浸食が防止または抑制され、その結果、カップリング剤による特性が長期間に亘って維持されることになる。
本発明者は、検討の結果、導入する水酸基の量は、水酸基導入処理の方法の選択およびその処理条件(特に、処理時間)の設定により、所望のものとすることができることを見出した。
以下、この水酸基導入処理について、詳述する。
水酸基導入処理としては、例えば、紫外線照射、プラズマ照射、電子ビーム照射、加熱等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、紫外線照射およびプラズマ照射の少なくとも一方を用いるのが好ましい。かかる方法によれば、CH基から水酸基への置換が比較的緩和に進行するため、水酸基の導入量の調整が容易となる。
A:水酸基導入処理として紫外線照射を用いる場合
照射する紫外線の波長は、400nm以下であればよく、特に限定されないが、100〜350nm程度であるのがより好ましい。
紫外線の強度は1000〜3000mJ/cm程度であるのが好ましく、1400〜2600mJ/cm程度であるのがより好ましい。紫外線の強度をこのような範囲内とすることにより、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に存在するCH基を水酸基に確実に置換することができる。
なお、紫外線照射を行う雰囲気は、大気中または減圧状態のいずれであってもよいが、大気中とするのが好ましい。これにより、有機基とSiとが切断されるのとほぼ同時に、大気中に存在する酸素分子および水分子から酸素原子が効率よく導入されるため、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に存在するCH基を迅速に水酸基に置換することができる。
紫外線の照射時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、3〜7分程度であるのがより好ましい。これにより、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に存在するCH基が、適度な割合で水酸基に置換されるようになり、その結果、最終的に得られる膜42は、特に優れたカップリング剤による特性と、耐アルカリ性とを発揮する。
B:水酸基導入処理としてプラズマ照射を用いる場合
プラズマを発生させるガス種としては、例えば、酸素ガス、窒素ガス、不活性ガス(アルゴンガス、ヘリウムガス等)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
高周波電力の出力は、100〜700W程度であるのが好ましく、300〜500W程度であるのがより好ましい。高周波電力の出力をこのような範囲内とすることにより、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に存在するCH基を水酸基に確実に置換することができる。
ガスの流量は、10〜500sccm程度であるのが好ましく、100〜300sccm程度であるのがより好ましい。
なお、プラズマ照射を行う雰囲気は、大気中または減圧状態のいずれであってもよいが、大気中とするのが好ましい。これにより、有機基とSiとが切断されるのとほぼ同時に、大気中に存在する酸素分子および水分子から酸素原子が効率よく導入されるため、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に存在するCH基を迅速に水酸基に置換することができる。
特に、プラズマ照射には、プラズマを発生するガス種として、酸素ガスを含むガスを用いる酸素プラズマ照射を用いるのが好適である。酸素プラズマ照射によれば、酸素プラズマが有機基とSiとを切断するとともに、Siとの結合に利用されるため、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に存在するCH基をより確実に水酸基に置換することができる。
さらに、このプラズマ照射の時間は、1〜10分間程度であるのが好ましく、3〜7分間程度であるのがより好ましい。これにより、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に存在するCH基が、適度な割合で水酸基に置換されるようになり、その結果、最終的に得られる膜42は、カップリング剤による特性と耐アルカリ性との双方の特性を発揮するものとなる。
[3]カップリング剤処理工程(第3の工程)
次に、前記水酸基導入処理工程[2]によりCH基の一部が水酸基で置換されたポリオルガノシロキサン膜421に対して、カップリング剤による処理を行う。これにより、ポリオルガノシロキサン膜421の表面には、カップリング剤が結合し、このカップリング剤で構成される単分子膜422が形成され、膜42が得られる。
ここで、この処理に用いるカップリング剤には、各種のものが存在するが、カップリング剤が有する官能基の種類を選択することにより、得られる膜42には、官能基の特性(カップリング剤の特性)に応じた各種の特性と、耐アルカリ性との双方の特性を付与することができる。
例えば、カップリング剤に撥液性の官能基を有するものを選択することにより、膜42に撥液性を付与することができる。
このような官能基としては、例えば、フルオロアルキル基、アルキル基等が挙げられる。
また、カップリング剤に親液性の官能基を有するものを選択することにより、膜42に親液性を付与することができる。
このような官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、スルフィド基等またはこれらを含有するもの(例えば、これらを末端に導入させたアルキル基)が挙げられる。
さらに、カップリング剤に反応性の官能基を有するものを選択することにより、膜42に反応性を付与することができる。
このような官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、アルキル基、スルホン酸基、カルボニル基、アルデヒド基、ニトロ基等またはこれらを含有するもの(例えば、これらを末端に導入させたアルキル基)が挙げられる。
また、このような特性を有するカップリング剤のうちの任意の2種以上を用いることにより、膜42に2種以上の特性を付与することができる。
このカップリング剤が有する官能基の炭素数は、10〜300程度であるのが好ましく、100〜200程度であるのがより好ましい。この官能基の炭素数を前記範囲内とすることにより、それぞれ、隣り合うシランカップリング剤が有する官能基同士が複雑(三次元的)に絡み合い、膜42のカップリング剤による特性がより向上する。
カップリング剤としては、例えば、Ti、Li、Si、Na、K、Mg、Ca、St、Ba、Al、In、Ge、Bi、Fe、Cu、Y、Zr、Ta等を有する各種金属アルコキシドを用いることができるが、これらの中でも、一般的に、Si、Ti、Al、Zr等を有する金属アルコキシドが用いられるが、特に、Siを有するシラン系カップリング剤(金属アルコキシド)を用いるのが好ましい。これにより、比較的容易にポリオルガノシロキサン膜421の有する水酸基と、シランカップリング剤が有する反応性官能基とが結合し、単分子膜422がポリオルガノシロキサン膜421の表面に形成される。
これらカップリング剤による処理は、例えば、I:カップリング剤を含有する溶液にポリオルガノシロキサン膜を浸漬する浸漬法、II:ポリオルガノシロキサン膜421の表面にカップリング剤を含有する溶液を塗布する塗布法、III:ポリオルガノシロキサン膜421の表面にカップリング剤を含有する溶液を噴霧(シャワー)する噴霧法によって行うことができるが、これらの中でも、浸漬法を用いるのが好ましい。
浸漬法によれば、均一な膜厚でポリオルガノシロキサン膜421の表面に、単分子膜422を確実に形成することができる。
以下では、浸漬法によって単分子膜422を形成する場合について説明する。
まず、カップリング剤を有機溶媒に溶解して処理溶液を調製する。
カップリング剤を溶解する溶媒としては、各種のものが用いられるが、例えば、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼンのような芳香族炭化水素系溶媒を用いることができる。
この処理溶液におけるカップリング剤の濃度は、0.01〜0.5wt%程度であるのが好ましく、0.1〜0.3wt%程度であるのがより好ましい。
次に、この処理溶液に、ポリオルガノシロキサン膜421が形成された基材4を一定時間浸漬した後に、この基材4を引き上げる。
この基材4を、カップリング剤の処理溶液中に浸漬すると、カップリング剤の反応性官能基と、ポリオルガノシロキサン膜421の表面の水酸基とが結合し、カップリング剤がポリオルガノシロキサン膜421に結合する。これにより、単分子膜422が形成され、膜42が得られる(図1(c)参照。)。
前記処理溶液にこの基材4を浸漬する際の温度は、10〜200℃程度であるのが好ましく、20〜100℃程度であるのがより好ましい。
基材4の浸漬時間は、0.1〜180sec程度であるのが好ましく、10〜60sec程度であるのがより好ましい。
基材4の引き上げ速度は、0.5〜50mm/sec程度であるのが好ましく、10〜30mm/sec程度であるのがより好ましい。
ポリオルガノシロキサン膜421が形成された基材4を前記処理溶液に浸漬する際の条件を、上述したような条件の範囲とすることにより、ポリオルガノシロキサン膜421にカップリング剤を確実に結合させることができる。
以上のようにして形成された膜42において、前工程[2]で、ポリオルガノシロキサン膜421の表面に露出するCH基のうち、水酸基に置換されたものは、そのほとんどがカップリング剤と結合して単分子膜422を構成することとなる。
また、このCH基のうち、水酸基に置換されなかったものは、CH基として膜42中に存在することとなる。
このような構成の膜42としたことにより、単分子膜422は、複雑(三次元的)に絡まった官能基を有することから、膜42は、優れたカップリング剤による特性を有するものとなる。
また、仮に、この単分子膜422を通過してアルカリ溶液がポリオルガノシロキサン膜421に接触したとしても、このポリオルガノシロキサン膜421の表面には耐アルカリ性を有するCH基が存在することから、アルカリ溶液による浸食を好適に防止もしくは抑制することができる。
したがって、このような膜42は、優れたカップリング剤による特性を有し、かつ、耐アルカリ性を有するものとなる。
なお、本実施形態では、本発明の成膜方法を、基材上に膜を形成する場合を例にして説明したが、膜を形成する部品を適宜選択することにより、膜が形成された部品にカップリング剤による特性と耐アルカリ性との双方の特性を付与することができる。
このような部品としては、特に限定されるものではないが、例えば、インクジェットプリンタヘッドに設けられたノズルプレート、チャンバの内壁、車のフロントガラス、浴室の床等が挙げられる。
以上、本発明の成膜方法および膜について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、用いるカップリング剤は、前述したものに限定されるものでないことは言うまでもない。
また、本発明の成膜方法は、前述したような工程に、必要に応じて、1または2以上の任意の目的の工程を追加することもできる。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.膜の形成
(実施例1)
<1> まず、チャンバ内のステージに金属製の基板(基材)をセットし、プラズマ重合法により、以下のような条件で、ジメチルシリコーン膜(ポリオルガノシロキサン膜)を形成した。
・ジメチルシリコーン膜の原料のガス流量:1〜100sccm
・添加ガス :アルゴン
・添加ガスのガス流量 :10〜500sccm
・チャンバ内の圧力 :1×10−4〜1Torr
・高周波電力の出力 :100〜1000W
・基板の温度 :25℃
また、ジメチルシリコーン膜を形成した後に、窒素雰囲気中、200℃×2分で、ジメチルシリコーン膜にアニール処理を行った。
<2> 次に、ジメチルシリコーン膜に、以下のような条件の紫外線を照射して、その表面に露出するCH基の一部を水酸基に置換した。
・紫外線の波長:400nm以下
・紫外線の強度:1000〜3000mJ/cm程度
・雰囲気 :大気中
・照射時間 :5分間
<3> 次に、撥液性を有するカップリング剤(ダイキン工業社製「オプツール」)を、0.1wt%となるようにトルエンに溶解して、処理溶液を調製した。
その後、ジメチルシリコーン膜が形成された基板を、この処理溶液中に浸漬した後、一定の速度で引き上げることにより、シランカップリング剤で構成される単分子膜を形成した。
なお、この単分子膜形成時の処理条件は、以下に示す通りである。
・処理溶液の温度:25℃
・浸漬時間 :0.1〜180秒間
・引き上げ速度 :0.5〜50mm/sec
以上の工程により、基板の表面に、撥液性を示す膜を形成した。
(実施例2〜4)
前記工程<2>において、ジメチルシリコーン膜に照射する紫外線の照射時間を、それぞれ、表1のように変更した以外は、前記実施例1と同様にして、基板の表面に、撥液性を示す膜を形成した。
なお、前記実施例1と用いた紫外線の条件を同様とした。
(実施例5)
前記工程<2>において、紫外線照射に代わり、酸素プラズマ照射を行った以外は、前記実施例1と同様にして、基板の表面に、撥液性を示す膜を形成した。
(実施例6)
前記工程<2>において、アニール処理を省略した以外は、前記実施例5と同様にして、基板の表面に、撥液性を示す膜を形成した。
(比較例1)
前記工程<2>において、紫外線の照射時間を90分間として、ジメチルシリコーン膜の表面に露出するCH基のほぼ全てを水酸基に置換した以外は、前記実施例1と同様にして、基板の表面に撥液性を示す膜を形成した。
(比較例2)
前記工程<2>を省略した以外は、前記実施例1と同様にして、基板の表面に撥液性を示す膜を形成した。
(比較例3)
前記工程<3>を省略した以外は、前記実施例1と同様にして、基板の表面に撥液性を示す膜を形成した。
2.評価
各実施例および各比較例で形成した膜を有する基板に対して、それぞれ、以下に示す浸漬試験およびワイピング試験を実施した。
2−1.浸漬試験
浸漬試験では、基板をアルカリ溶液中に浸漬した後、この基板をアルカリ溶液から取り出し、このとき、膜状に付着していたアルカリ溶液が弾かれて、接触角90°以上の液滴が形成されるまでの時間を測定した。
なお、基板をアルカリ溶液中に浸漬した際の各条件は、以下に示す通りである。
・アルカリ溶液 :1NのNaOH水溶液(pH:10)
・アルカリ溶液の温度:60℃
・浸漬時間 :1秒間、5日間、21日間
そして、前述のようにして測定された時間を、それぞれ、浸漬時間毎に、以下の4段階の基準に従って評価した。
◎:20秒以内に液滴が形成された。
○:21〜60秒間に液滴が形成された。
△:61〜180秒間に液滴が形成された。
×:接触角90°以上の液滴が形成されない。
2−2.ワイピング試験
ワイピング試験では、アルカリ溶液ワイパーで基板上に伸展させるワイピング操作を、2000回繰り返して行った後に、膜状に付着していたアルカリ溶液が弾かれて、接触角90°以上の液滴が形成されるまでの時間を測定した。
なお、ワイピング操作の際における各条件は、以下に示す通りである。
・アルカリ溶液 :1NのNaOH水溶液(pH:10)
・ワイピング時の雰囲気温度:40℃
そして、前述のようにして測定された時間を、それぞれ、以下の4段階の基準に従って評価した。
◎:20秒以内に液滴が形成された。
○:21〜60秒間に液滴が形成された。
△:61〜180秒間に液滴が形成された。
×:接触角90°以上の液滴が形成されない。
これらの浸漬試験およびワイピング試験の結果を、以下の表1に示す。
Figure 2005246707
表1に示すように、各実施例で形成された撥液膜は、いずれも、各試験の終了時においても、高い撥液性が維持されていた。
また、紫外線の照射時間を適宜設定することにより、撥液性をより高い状態に維持し得ることが明らかとなった。
これに対し、比較例1の撥液膜は、各試験の終了時において、明らかな撥液性の低下認めた。これは、工程<2>において、ジメチルシリコーン膜の表面に存在するCH基のほぼ全てが水酸基に置換され、このため、工程[3]において、ジメチルシリコーン膜の表面に、シランカップリング剤との結合が形成されない水酸基が残存し、その結果、当該領域から撥液膜がアルカリ溶液に侵食されたことが原因であると推察される。
また、比較例2の撥液膜は、浸漬試験において、アルカリ溶液への浸漬時間が1秒間の場合において、液滴の形成に時間を要し、十分な撥液性が得られていないことが明らかであった。これは、工程<2>を省略したため、ジメチルシリコーン膜の表面に水酸基がほとんど存在せず、シランカップリング剤が実質的に結合しなかったことが原因であると推察される。
また、比較例3の撥液膜も、各試験の終了時において、明らかな撥液性の低下を認めた。さらに、その撥液性の低下の程度は、比較例1よりも顕著であった。これは、工程<3>を省略したため、ジメチルシリコーン膜の表面の水酸基が剥きだしとなっており、当該領域から撥液膜がアルカリ溶液に侵食されたことが原因であると推察される。
また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の基板(撥液性を示す基板)を用い、親液性を有するカップリング剤(信越化学工業社製「KBE−585」)を用いて、前記各実施例および各比較例と同様にして、基板の表面に親液性を示す膜(親液膜)を形成した。
そして、撥液膜の評価で示した浸漬試験およびワイピング試験と同様の条件で、各親液膜について、浸漬試験およびワイピング試験を行った。
その後、各親液膜について親液性の消失を確認したところ、前記各実施例および各比較例において撥液性が消失するのと同様の結果であった。
すなわち、各実施例に対応する親液膜は、いずれも、各試験の終了時においても、高い親液性が維持されていた。
また、カルボキシル基に対して反応性を示すアミノ基を有するカップリング剤(信越化学工業社製「KBM−573」)を用いて、前記各実施例および各比較例と同様にして、基板の表面に反応性を示す膜を形成した。
そして、撥液膜の評価で示した浸漬試験およびワイピング試験と同様の条件で、各反応性を示す膜について浸漬試験およびワイピング試験を行った。
その後、各反応性を示す膜について、カルボキシル基を含有する化合物の結合を確認したところ、前記各実施例および各比較例において撥液性が消失するのと同様の結果であった。
すなわち、各実施例に対応する反応性を示す膜は、いずれも、各試験の終了時においても、高い反応性が維持されていた。
本発明の成膜方法を説明するための図(縦断面図)である。 図1に示す方法を実施するための成膜装置を示す模式図である。 本発明の膜および従来の膜の構成を示す模式図であり、図中(a)は、従来の膜の構成を示し、(b)は、本発明の膜の構成を示す模式図である。
符号の説明
4‥‥基材 42‥‥膜 421‥‥ポリオルガノシロキサン膜 422‥‥単分子膜 10‥‥成膜装置 11‥‥真空ポンプ 12‥‥真空チャンバ 121‥‥絶縁体 13‥‥電極 14‥‥ステージ 15‥‥高周波電源 16‥‥ガス供給管 161‥‥流量制御弁 17‥‥原料供給管 171‥‥流量制御弁 18‥‥ガス供給源 19‥‥原料容器 20‥‥ヒータ 30‥‥原料

Claims (13)

  1. 主としてポリオルガノシロキサンで構成されるポリオルガノシロキサン膜を形成する第1の工程と、
    前記ポリオルガノシロキサン膜に対して、その表面に露出する有機基の一部を切断して水酸基を導入する水酸基導入処理を施す第2の工程と、
    前記水酸基導入処理が施された前記ポリオルガノシロキサン膜を、カップリング剤で処理する第3の工程とを有することを特徴とする成膜方法。
  2. 前記ポリオルガノシロキサン膜は、ジアルキルシリコーンを主成分とするものである請求項1に記載の成膜方法。
  3. 前記第1の工程において、前記ポリオルガノシロキサン膜は、プラズマ重合法により形成される請求項1または2に記載の成膜方法。
  4. 前記第2の工程における前記水酸基導入処理は、紫外線照射およびプラズマ照射の少なくとも一方である請求項1ないし3のいずれかに記載の成膜方法。
  5. 前記紫外線照射は、大気中で行われる請求項4に記載の成膜方法。
  6. 前記紫外線照射における紫外線の照射時間は、1〜10分間である請求項4または5に記載の成膜方法。
  7. 前記紫外線照射における紫外線の強度は、1000〜3000mJ/cmである請求項4ないし6のいずれかに記載の成膜方法。
  8. 前記プラズマ照射におけるプラズマ照射の時間は、1〜5分間である請求項4に記載の成膜方法。
  9. 前記プラズマ照射における高周波電力の出力は、100〜700Wである請求項4または8に記載の成膜方法。
  10. 前記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項1ないし9のいずれかに記載の成膜方法。
  11. 前記カップリング剤は、炭素数10〜300の官能基を有するものである請求項1ないし10のいずれかに記載の成膜方法。
  12. 前記カップリング剤は、撥液性の官能基を有するもの、親液性の官能基を有するものまたは反応性の官能基を有するもののうちの少なくとも1種である請求項1ないし11のいずれかに記載の成膜方法。
  13. 請求項1ないし12のいずれかに記載の成膜方法により形成されたことを特徴とする膜。
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