特許文献1には、顔料の分散性が向上し、吸収領域における吸光度が大きくなれば、明るさ、彩りおよび粒状性に優れたカラー画像を形成することのできるカラートナーが得られ、このカラートナーを重ね合わせることによって鮮明なカラー再現が可能であることが開示されている。しかしながら、カラートナーの彩度および重ね合わせによる色再現性は、前述のように透過領域における透過性に依存し、透過領域における透過率が高いほど高くなる。
特許文献1に記載の技術では吸収領域における吸光度を規定しているだけであり、特許文献1には透過領域における透過性については何ら記載されていないので、特許文献1に開示のカラートナーが透過領域において充分に高い光透過性を有するか否かを判断することはできない。たとえば、吸光度Aが式(I)を満足するカラートナーであっても、顔料の分散性が充分でなく、透過領域における透過率が低い可能性がある。したがって、特許文献1に開示のカラートナーを用いても、充分な彩度および色再現性を得られないことがある。
また、顔料の分散性は、トナーの着色力にも大きく影響する。トナーの着色力は、吸収領域における光の吸収が大きいほど高くなる。吸収領域の光を充分に吸収しないと、着色力の低いトナーとなり、形成される画像の画像濃度が低くなる。着色剤に顔料を用いたカラートナーでは、吸収領域の光は、トナー中に分散している顔料によって吸収されるので、トナーの着色力は、顔料の分散性を向上させることによって大きくすることができる。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、トナーの着色力については考慮していないので、特許文献1に開示のカラートナーが充分な着色力を有するか否かは不明である。すなわち、吸光度Aが式(I)を満足するように顔料の分散性を向上させたとしても、充分な着色力の得られない可能性がある。したがって、特許文献1に開示のカラートナーを用いて画像を形成しても、トナーの着色力が不足し、充分な画像濃度の得られないことがある。
本発明の目的は、着色力および彩度が高く、色再現性に優れ、良好なカラー画像を実現することのできるマゼンタトナーおよびその製造方法を提供することである。
本発明者らは、着色力および彩度が高く、色再現性に優れ、良好なカラー画像を実現することのできるマゼンタトナーを開発するべく、鋭意検討した結果、マゼンタトナーの着色力、彩度および色再現性には、トナー膜として成膜された状態におけるトナー膜の膜厚と透過率との関係が大きく影響することを見出した。
同じトナーを用いて形成されるトナー膜のある特定の波長における透過率は、ランベルト−ベール則に従い、トナー膜の膜厚の増加に比例して低下することが知られている。このことから、最も光を吸収する波長すなわち最大吸収波長における透過率が、ある一定の差になるように膜厚を調整して2種類のトナー膜を形成した場合、2種類のトナー膜の最も光を透過する波長すなわち最大透過波長における透過率の差も最大吸収波長における透過率の差に等しくなると考えられる。しかしながら、実際には、最大透過波長における透過率の差は最大吸収波長における透過率の差と等しくならず、最大吸収波長における透過率が低いトナー膜ほど、最大透過波長における透過率が大きく低下した。
この膜厚の増加に伴う透過率の低下度合について、マゼンタトナーに含まれる顔料などの着色剤およびその他の添加剤の結着樹脂中における分散状態を変えて検討した結果、顔料などの着色剤および添加剤の分散性が悪いものほど、膜厚の増加に伴う透過率の低下度合が大きいこと、すなわち膜厚の増加に伴う透過率の低下度合には、顔料などの着色剤および添加剤の分散性の違いが顕著に現れることが判った。これは、顔料などの着色剤および添加剤の分散状態が悪いほど、最大吸収波長における透過率が同じ値になるトナー膜の膜厚が増加するので、ランベルト−ベール則に従って透過領域における透過率が低下すること、また膜厚が増加すると、トナー膜中の分子による散乱および懸濁物による乱反射などの影響を大きく受けるようになり、透過領域での透過率がさらに低下することが原因であると考えられる。このことから、本発明者らは、マゼンタトナーの着色力、彩度および色再現性を左右する着色剤などの成分の分散性が、トナー膜の膜厚の増加に伴う透過率の低下度合によって表されることを見出した。
具体的には、透明シート上にトナー膜として成膜された状態で、波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有するトナー膜の500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率T1(%)と、前記最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有するトナー膜の500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率T2(%)との差(T2−T1)の値が異なる数種類のマゼンタトナーについて、形成される画像の品質を検討した。その結果、T1とT2との差(T2−T1)が10以上である場合には、2次色の発色性が悪くなり、画質が悪化することが判った。一方、T1とT2との差(T2−T1)が10未満であり、最大吸収波長における透過率(%)の差である2に近い場合には、発色性および透過領域における透過性が良く、他の色のトナーとの重ね合せによって良好なフルカラー画像が得られることが確認された。
このように、本発明者らは、2つのトナー膜の最大透過波長における透過率の差を、最大吸収波長における透過率の差に近い値にすることによって、マゼンタトナーの着色力、彩度および色再現性が向上され、良好なカラー画像を実現することができるとの知見に基づき本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、少なくとも結着樹脂および着色剤を含有するマゼンタトナーであって、
透明シート上にトナー膜として成膜された状態で、
波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有するトナー膜の500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率T1(%)と、
前記最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有するトナー膜の500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率T2(%)とが、
下記式(1)
(T2−T1)<10 …(1)
を満足することを特徴とするマゼンタトナーである。
また本発明は、着色剤を、結着樹脂100重量部に対して1重量部以上12重量部以下含有することを特徴とする。
また本発明は、前記結着樹脂は、透明シート上に膜厚10μmの結着樹脂膜として成膜された状態で、波長域400nm〜700nmにおける透過率が、90%以上であることを特徴とする。
また本発明は、前記結着樹脂は、ポリエステル樹脂であることを特徴とする。
また本発明は、前記着色剤は、顔料であることを特徴とする。
また本発明は、前記顔料は、ロジンまたはロジン誘導体によって表面処理されたものであることを特徴とする。
また本発明は、前記顔料は、平均一次粒子径が30nm以上100nm以下であることを特徴とする。
また本発明は、前記マゼンタトナーの製造方法であって、
着色剤を予め一部の結着樹脂中に分散する予備分散処理を行なった後、得られた着色剤分散樹脂を残余の結着樹脂と混合して溶融混練することを特徴とするマゼンタトナーの製造方法である。
本発明によれば、マゼンタトナーは、透明シート上にトナー膜として成膜された状態で、波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有するトナー膜の500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率T1(%)(以下、単にT1と表記する。)と、波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有するトナー膜の500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率T2(%)(以下、単にT2と表記する。)とが、式(1)を満足するように、すなわちT1とT2との差(T2−T1)が10未満になるように、設計される。このことによって、着色剤などの成分の分散性が高くなるので、着色力および彩度が高く、色再現性に優れ、良好なカラー画像を実現することのできるマゼンタトナーを得ることができる。
また本発明によれば、マゼンタトナーには、着色剤が、結着樹脂100重量部に対して、1重量部以上、12重量部以下の範囲で含有される。このことによって、充分な着色力を有し、少ないトナー量で、濃度が高く発色性に優れる画像を形成することのできるマゼンタトナーが実現される。また形成される画像の彩度および明度が高く、他の色のトナーとの重ね合せによる2次色および3次色の再現域の広いマゼンタトナーが実現される。
また本発明によれば、結着樹脂には、透明シート上に膜厚10μmの結着樹脂膜として成膜された状態で、波長域400nm〜700nmにおける透過率が90%以上である結着樹脂が用いられる。このことによって、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーが実現される。
また本発明によれば、結着樹脂には、ポリエステル樹脂が用いられるので、適度な機械的強度を有するとともに、低温で速やかに溶融するマゼンタトナーを得ることができる。このようなマゼンタトナーを用いることによって、高い耐刷性を有する画像を形成することができる。また表面の平滑性が高く、かつ空隙の存在しないトナー膜を形成することができるので、光の乱反射が抑えられ、2次色および3次色の発色性に特に優れるカラー画像を実現することができる。
また本発明によれば、着色剤には、顔料が用いられる。このことによって、耐候性に優れるマゼンタトナーを得ることができるので、品質の安定した画像を形成することができる。
また本発明によれば、顔料には、ロジンまたはロジン誘導体によって表面処理されたものが用いられる。このことによって、顔料と結着樹脂との親和性が強まって顔料の分散性が向上するので、着色力、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーが実現される。またマゼンタトナーの高温高湿環境下における帯電安定性が高まるので、環境依存性の小さいマゼンタトナーが実現される。
また本発明によれば、マゼンタトナーに用いられる顔料は、平均一次粒子径が30nm以上100nm以下であるので、溶融混練などによって結着樹脂中に分散性良く分散される。したがって、着色力、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーが実現される。
また本発明によれば、マゼンタトナーを製造する際には、着色剤を予備分散処理によって予め一部の結着樹脂中に分散し、マスターバッチなどの着色剤分散樹脂の状態で残余の結着樹脂と混合して溶融混練する。このことによって、着色剤を結着樹脂中に分散性良く分散させることができるので、着色力、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーを容易に製造することができる。
電子写真法によるフルカラー画像の形成には、シアン、マゼンタおよびイエローの3色のカラートナーが用いられており、これらのカラートナーを重ね合わせることによって原稿画像の各色が再現される。
本発明の実施の一形態であるマゼンタトナーは、少なくとも結着樹脂および着色剤を含有し、透明シート上にトナー膜として成膜された状態で、
波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有するトナー膜の500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率T1(%)と、
前記最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有するトナー膜の500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率T2(%)とが、
下記式(1)
(T2−T1)<10 …(1)
を満足する。
ランベルト−ベール則によれば、最大透過波長における透過率T1とT2との差(T2−T1)は、最大吸収波長における透過率(%)の差すなわち2に等しくなると考えられる。しかしながら、トナー膜における光の吸収は、主にトナー膜中に分散されている着色剤によって行なわれるので、T1とT2との差(T2−T1)は、着色剤などの成分の分散性が低いほど、最大吸収波長における透過率の差である2から大きく外れた値になる。本実施の形態のマゼンタトナーは、前述のようにT1とT2との差(T2−T1)が10未満であり、最大吸収波長における透過率の差である2に近い値であるので、着色剤などの成分の分散性は高い。
カラー画像では、外部からの光のうち、カラートナーによって吸収するべく予め定められる波長域(以下、「吸収領域」と称する)の光は、トナー中に分散している顔料などの着色剤によって吸収され、カラートナーを透過するべく予め定められる波長域(以下、「透過領域」と称する)の光は、トナー膜を透過する。カラー画像の形成された記録媒体が記録用紙などのように透光性を有しないものである場合には、トナー膜を透過した光は記録媒体で反射され、この反射された光が色として認識される。記録媒体がOHP用の透明シート(以下、「OHPシート」と称する)などのように透光性を有するものである場合には、トナー膜を透過した光は記録媒体を透過し、この透過した光が色として認識される。
このように、カラー画像において色として認識される光は、外部からの光のうち、トナー膜を透過する光であるので、カラートナーの彩度および重ね合わせによる色再現性は、透過領域における透過率が高いほど高くなる。カラートナーが透過領域の光に対して充分な透過性を有していないと、重ね合せによる色再現性が低くなり、形成される画像の彩度が低くなる。またカラートナーの着色力は、吸収領域における光の吸収が大きいほど、すなわち吸収領域における透過率が小さいほど、高くなる。カラートナーが吸収領域の光を充分に吸収しないと、着色力が不足し、形成される画像の画像濃度が低くなる。したがって、カラートナーの2次色および3次色の色再現性、彩度、ならびに着色力を良好に保つためには、カラートナーの分光透過特性に着目する必要があり、カラートナーは、透過領域における透過率が100%に近いほど、また吸収領域における透過率が0%に近いほど好ましい。
カラートナーの吸収領域の光は、トナー中に分散している着色剤によって吸収されるので、カラートナーの着色力は、着色剤の分散性を向上させることによって大きくすることができる。着色剤の分散性が向上することによって、着色剤の比表面積が大きくなり、吸収領域における光の吸収が大きくなるので、カラートナーの着色力が増加する。また着色剤などの成分の分散性は、カラートナーの彩度および色再現性に大きく影響する。着色剤などの成分の分散性が低いと、カラートナーの透過領域における透過性が低下し、彩度および色再現性が低下する。特に、マゼンタトナーでは、着色剤の分散性によって色域も大きく変化するので、着色剤の分散性が低いと、色再現性が著しく低下する。したがって、マゼンタトナーの着色力、彩度および色再現性を充分なものとするためには、着色剤などの成分の分散性をできるだけ高くし、形成された画像のトナー膜を顔料粒子などの着色剤および添加剤の形状が判別できない程度に溶融した状態にすることが望ましい。
本実施の形態のマゼンタトナーは、前述のようにT1とT2との差(T2−T1)が10未満であり、結着樹脂中における着色剤などの分散性が高いので、高い着色力および彩度を有するとともに、色再現性に優れる。したがって、本実施の形態のマゼンタトナーを用いることによって、良好なカラー画像を形成することができる。
T1とT2との差(T2−T1)は、前述のように10未満であり、より好ましくは8以下であり、最大吸収波長における透過率の差である2に近いほど好ましい。なお、T1とT2との差(T2−T1)が10以上であると、充分な着色力および彩度が得られず、色再現性が低下し、2次色および3次色の発色性が悪くなり、画質が悪化する。したがって、T1とT2との差(T2−T1)を10未満とした。
本実施の形態において、マゼンタトナーの分光透過率は、たとえば以下のようにして測定される。少なくとも結着樹脂および着色剤を含んで成るマゼンタトナーを透明シート上に均一に載せた後、結着樹脂の軟化温度Tmよりも20℃〜60℃高い温度に設定されたオーブン中に所定時間放置して定着させることによって、所定の膜厚の平滑なトナー膜を形成する。分光光度計(たとえば、株式会社日立製作所製:U−3200など)を用い、形成されたトナー膜の波長域400nm〜700nmを含む領域における分光透過率を測定する。なお、透明シートには、OHPシート、たとえばシャープ株式会社製のCX7A4Cなどを用いる。
このようにして測定される分光透過率の測定結果から、波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率(%)および500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率(%)が以下のようにして求められる。トナー膜の分光透過率の測定結果を、横軸に光の波長(nm)、縦軸に透過率(%)をプロットしたグラフに表す。このグラフから、波長域400nm〜700nmにおいて透過率が最小の値を示す波長を最大吸収波長として求め、この波長における透過率を、波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率とする。また前述のグラフから、500nmよりも短波長側における透過率の最大値を、500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率として求める。
T1およびT2は、以下のようにして求められる。膜厚の異なる数種類のトナー膜について、前述のようにして分光透過率を測定する。トナー膜の膜厚は、5〜20μmの範囲から任意に選択される。各トナー膜について、波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率をそれぞれ求め、最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有するトナー膜および最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有するトナー膜を選定する。最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有するトナー膜について、500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率を求め、これをT1とする。また最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有するトナー膜について、500nmよりも短波長側における最大透過波長の透過率を求め、これをT2とする。
波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有するトナー膜および前記最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有するトナー膜の分光透過特性は、たとえば図1に示すようになる。図1は、トナー膜の分光透過特性を模式的に示す図である。図1において、横軸は光の波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)示す。図1の参照符1で示される曲線は、波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有するトナー膜の分光透過特性を示すグラフであり、参照符2で示される曲線は、波長域400nm〜700nmにおける最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有するトナー膜の分光透過特性を示すグラフである。参照符1で示されるグラフからT1が求められ、参照符2で示されるグラフからT2が求められる。
本実施の形態のマゼンタトナーに用いられる結着樹脂は、透明シート上に膜厚10μmの結着樹脂膜として成膜された状態で、波長域400nm〜700nmにおける透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上である。マゼンタトナーの彩度および色再現性には、前述の結着樹脂中における着色剤などの成分の分散性に加えて、結着樹脂自体の光透過性が影響する。結着樹脂の光透過性が悪ければ、マゼンタトナーの透明性が低下し、透過領域における透過率が低くなる。したがって、結着樹脂には、前述のように、前記透過率が90%以上、より好ましくは95%以上であるものを用いることが好ましい。このような結着樹脂を用いることによって、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーを実現することができる。なお、前記透過率が90%未満の値をとる、すなわち波長域400nm〜700nmのいずれかの波長において透過率が90%未満となる結着樹脂では、光透過性が充分でないので、マゼンタトナーの透明性に大きな影響を与え、充分な彩度および色再現性を得られないことがある。
結着樹脂の波長域400nm〜700nmにおける透過率は、結着樹脂を微粉砕し、微粉砕された結着樹脂を用いて、前述のマゼンタトナーを用いてトナー膜を形成する際と同様にして、透明シート上に膜厚10μmの結着樹脂膜を形成し、形成された結着樹脂膜について分光透過率を測定することによって求められる。
結着樹脂の酸価は、5KOHmg/g以上、40KOHmg/g以下であることが好ましく、より好ましくは10KOHmg/g以上、30KOHmg/g以下である。酸価がこの範囲にある結着樹脂を用いることによって、着色力および彩度が高く、色再現性に優れるとともに、環境依存性の小さいマゼンタトナーを実現することができる。
一般に、結着樹脂は比較的低極性であり、着色剤、特に顔料は高極性であるので、結着樹脂中に着色剤を凝集させることなく、均一に分散させることは困難であるけれども、結着樹脂の酸価を5KOHmg/g以上と高くすることによって、結着樹脂の極性を高め、結着樹脂中の着色剤の分散性を向上させることができる。したがって、着色力、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーが実現される。
しかしながら、結着樹脂の酸価が高すぎると、温度および湿度などの環境の影響を受けやすいマゼンタトナーとなる。特に、高温高湿環境下では、環境の影響を受けやすく、画像の形成を繰返すうちに、帯電性が下がり、下地かぶりなどの画像汚染が生じるなど、画質に悪影響を及ぼす。この結着樹脂の酸価が高すぎることによる悪影響は、結着樹脂の酸価を40KOHmg/g以下にすることによって抑えられる。すなわち、結着樹脂の酸価を40KOHmg/g以下にすることによって、マゼンタトナーの特性、特に帯電性に対する温度および湿度などの環境の影響を抑えることができるので、高温高湿環境下において繰返し画像を形成する場合におけるマゼンタトナーの帯電性の低下を小さくし、下地かぶりなどの画像汚染を抑制することができる。
なお、結着樹脂の酸価が5KOHmg/g未満であると、結着樹脂と着色剤との相溶性が低くなり、着色剤の分散性が悪くなるので、充分な着色力、彩度および色再現性を得られないことがある。一方、結着樹脂の酸価が40KOHmg/gを超えると、特に高温高湿環境下において、帯電性の低下などによる下地かぶりなどの画像汚染が生じる。したがって、結着樹脂の酸価は、5KOHmg/g以上、40KOHmg/g以下であることが好ましい。
結着樹脂としては、たとえばポリエステル樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂またはエポキシ樹脂などが用いられる。結着樹脂には、これらの樹脂に限定されることなく、一般にトナーに用いられる熱可塑性樹脂であれば、どのようなものを用いてもよい。これらの樹脂は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。
前述の樹脂の中でも、結着樹脂には、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。ポリエステル樹脂を結着樹脂に用いることによって、適度な機械的強度を有するとともに、低温で速やかに溶融するマゼンタトナーを得ることができる。このようなマゼンタトナーを用いることによって、高い耐刷性を有する画像を形成することができる。また、表面の平滑性が高く、かつ空隙の存在しないトナー膜を形成することができるので、光の乱反射が抑えられ、2次色および3次色の発色性に特に優れるカラー画像を実現することができる。
ポリエステル樹脂としては、たとえば以下に例示する多価アルコール成分と多価カルボン酸成分とから合成されるものを挙げることができるけれども、ポリエステル樹脂は、これらに限定されるものではない。ここで、多価アルコール成分とは、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物のことであり、アルコール類およびフェノール類のいずれをも含む。また、多価カルボン酸成分とは、カルボキシル基を2個以上有する化合物である多価カルボン酸およびその誘導体のことである。
多価アルコール成分としては、たとえばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(慣用名:ビスフェノールA)、水素添加ビスフェノールA、ならびにポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールAなどのビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの2価アルコールを挙げることができる。
また、ポリエステル樹脂を非線状化するために、3価以上のアルコールを多価アルコール成分に使用することもできる。3価以上のアルコールとしては、グリセリン、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトラオール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンおよび1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられる。
3価以上のアルコールは、ポリエステル樹脂にテトラヒドロフラン不溶分が発生しないような範囲内で使用されることが好ましい。テトラヒドロフラン不溶分とは、樹脂の架橋性を示す指標である。樹脂の架橋成分(非線形成分)は溶媒に対し溶解し難いので、架橋成分の多い樹脂を溶媒に溶解させようとするとゲル化する。すなわち、前述のテトラヒドロフラン不溶分が多い樹脂ほど、架橋成分を多く含む。架橋成分を多く含む樹脂ほど、弾性は強くなるので、定着時に溶融したマゼンタトナーの一部が定着ローラに転写されて後続の記録用紙に転写される、いわゆる高温オフセット現象は生じにくくなる。その反面、低温で速やかに溶融することができなくなるので、トナー膜表面の平滑性が損なわれ、色再現性および彩度の低下など、画質に悪影響を及ぼす。したがって、ポリエステル樹脂は、テトラヒドロフラン不溶分が発生しない程度に非線状化されることが好ましい。
多価カルボン酸成分としては、たとえばマレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、n−オクチルコハク酸およびn−ドデセニルコハク酸などのアルキルコハク酸などの二塩基性カルボン酸、ならびにこれらの酸無水物またはアルキルエステルなどが挙げられる。
これらの多価アルコール成分と多価カルボン酸成分とから合成されるポリエステル樹脂の中でも、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られるポリエステル樹脂が好適に用いられる。
結着樹脂に用いられるポリエステル樹脂は、以下の(a)〜(e)の特性を有することが好ましい。
(a)重量平均分子量Mw:10000以上70000以下、より好ましくは15000以上50000以下。
(b)重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn):1以上50以下、より好ましくは3以上20以下。
(c)軟化温度Tm:90℃以上140℃以下、より好ましくは100℃以上130℃以下。
(d)ガラス転移温度Tg:55℃以上70℃以下、より好ましくは60℃以上65℃以下。
(e)酸価:5KOHmg/g以上40KOHmg/g以下、より好ましくは10KOHmg/g以上30KOHmg/g以下。
なお、本明細書中における樹脂の物性値は、以下のようにして測定された値である。
〔重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mn〕
GPC装置(東ソー株式会社製:HLC−8220GPC)を用い、温度40℃において、0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液を試料溶液とし、注入量100mLで測定する。なお、分子量校正曲線は標準ポリスチレンを用いて作成する。
〔軟化温度Tm〕
フローテスタ(株式会社島津製作所製:CFT−500D)を用い、試料1gに対し、荷重20kg/cm2を与えながら、昇温速度毎分6℃で加熱し、ノズルから試料の半分が流出する温度を軟化温度Tmとして求める。なお、ノズルには、直径1mm、長さ1mmのものを用いる。
〔ガラス転移温度Tg〕
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製:EXSTAR6000 DSC)を用い、日本工業規格(JIS)K7121−1987に準じ、試料を昇温速度毎分10℃で加熱してDSC曲線を測定する。DSC曲線のガラス転移に相当する吸熱ピークの高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ピークの立ち上がり部分から頂点までの曲線に対して勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移温度Tgとして求める。
〔酸価〕
JIS K0070に準じて測定する。
本実施の形態のマゼンタトナーに含有される着色剤としては、マゼンタ色に相当する色の着色剤が適宜選択されて用いられる。着色剤には、顔料および染料のいずれを用いてもよく、また顔料と染料とを組合せて用いてもよい。しかしながら、顔料を用いることによって、耐候性に優れるマゼンタトナーが得られ、品質の安定した画像を形成することができるので、着色剤には顔料を用いることが好ましい。
着色剤に用いられる顔料は、表面処理されたものであることが好ましい。顔料は、微粒子化されるほど表面積が大きくなり、表面エネルギが大きくなるので、結着樹脂中に分散させることが困難になる。顔料を表面処理することによって、顔料と結着樹脂との親和性(相溶性)を強め、顔料の分散性を向上させることができるので、着色力、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーが実現される。
顔料の表面処理としては、たとえばロジンまたはロジン誘導体による表面処理、顔料誘導体の添加による表面改質、結着樹脂との相溶性の高い樹脂によるカプセル化、プラズマ処理および紫外線処理などを挙げることができる。これらの中でもロジンまたはロジン誘導体による表面処理が好適に行われる。顔料の表面をロジンまたはロジン誘導体によって処理することによって、顔料と結着樹脂との親和性(相溶性)を特に強めることができる。また高温高湿環境下における帯電安定性を高めることができるので、環境依存性の小さいマゼンタトナーを実現することができる。
顔料の表面処理に用いられるロジンまたはロジン誘導体としては、コーパル、ダンマル、エステルガム、硬化ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、ロジンアミン、マレイン化ロジン、酸化ロジン、ならびに松ヤニから得られるガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。
また顔料の一次粒子の平均粒子径すなわち平均一次粒子径は、30nm以上、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは40nm以上、90nm以下である。平均一次粒子径が30nm以上、100nm以下の顔料は、溶融混練などによって結着樹脂中に分散性良く分散させることができる。したがって、平均一次粒子径が30nm以上、100nm以下の顔料を用いることによって、着色力、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーが実現される。
なお、顔料の平均一次粒子径が100nmを超えると、結着樹脂中に分散された状態での粒子径すなわち分散径が大きくなりやすく、粒度分布も広くなるので、充分な着色力、彩度および色再現性を得られないことがある。また結着樹脂中に顔料を分散させるための溶融混練に必要な動力も大きくなるので好ましくない。また平均一次粒子径が30nm未満であると、結着樹脂中に分散される際に、一次粒子が凝集して二次粒子になりやすく、充分な分散状態が得られない。したがって、顔料の平均一次粒子径は、30nm以上、100nm以下であることが好ましい。
着色剤としては、カラーインデックス(Color Index;略称:C.I.)ナンバーで分類される以下の着色剤、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド238などの顔料、C.I.ソルベントレッド19、C.I.ソルベントレッド49、C.I.ソルベントレッド52、C.I.ベーシックレッド10、C.I.ディスパーズレッド15などの染料が好適に用いられる。これらの中でも、C.I.ピグメントレッド122などのキナクリドン系顔料またはC.I.ピグメントレッド57:1などのアゾ系顔料が特に好適に用いられる。これらの着色剤は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が混合されて用いられてもよい。
着色剤の使用量は、結着樹脂100重量部に対して、1重量部以上、12重量部以下であることが好ましく、より好ましくは2重量部以上、10重量部以下である。着色剤の使用量を前記範囲にすることによって、充分な着色力を有し、少ないトナー量で、濃度が高く発色性に優れる画像を形成することのできるマゼンタトナーが実現される。また形成される画像の彩度および明度が高く、他の色のトナーとの重ね合せによる2次色および3次色の再現域の広いマゼンタトナーが実現される。
着色剤の結着樹脂100重量部当たりの使用量が1重量部未満であると、少ないトナー量で画像を形成する場合に、着色力が不足し、充分な画像濃度を得られないことがある。また着色剤の結着樹脂100重量部当たりの使用量が12重量部を超えると、着色剤が充分に分散されず、またマゼンタトナー全体の光透過性にも影響が出てくるため、充分な色再現性および彩度が得られず、形成される画像の彩度および明度の低下、それに伴う2次色および3次色の再現域の縮小を引起こしやすい。したがって、着色剤は、結着樹脂100重量部に対して、1重量部以上、12重量部以下の範囲で使用されることが好ましい。
本実施の形態のマゼンタトナーには、結着樹脂および着色剤以外に、帯電制御剤、離形剤、充填剤またはクリーニング剤などの各種添加剤が適宜添加されていてもよい。帯電制御剤は、トナーの摩擦帯電性を制御することを目的として添加される。帯電制御剤としては、含金属アゾ染料、ナフテン酸の金属塩、サリチル酸またはアルキルサリチル酸の金属塩、脂肪酸石鹸、ならびに樹脂酸石鹸などを挙げることができる。これらの中でも、着色剤によって得られる色を阻害しないように、無色のアルキルサリチル酸の金属塩を使用することが好ましい。帯電制御剤の添加量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、10重量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量部以上、8重量部以下である。
離形剤は、トナーに離形性を付与し、高温オフセット現象を抑えることを目的として添加される。離形剤には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどの合成ワックス、カルナバワックス、ライスワックスなどの天然ワックス、シリコーン系ワックス、高級脂肪酸ワックス、ポリオレフィン系ワックス、低分子重合体ワックスなどのワックス類が好適に用いられる。これらのワックス類は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。
離形剤の使用量は、結着樹脂100重量部に対して、2重量部以上、8重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以上、7重量部以下である。離形剤の結着樹脂100重量部当たりの使用量が2重量部未満であると、充分な離形性が得られず、高温オフセット現象を充分に抑えることができない。また離形剤の結着樹脂100重量部当たりの使用量が8重量部を超えると、トナー中で充分な分散状態を得ることができず、充分な着色力、彩度および色再現性を得られないことがある。したがって、離形剤は、結着樹脂100重量部に対して、2重量部以上、8重量以下の範囲で使用されることが好ましい。
また、本実施の形態のマゼンタトナーを構成するトナー粒子は、湿度変化によるトナー粒子表面の水分増減から発生するトナーの流動性の大きな変動を防止するとともに、二成分現像剤として使用される際のキャリアとの攪拌性、搬送性および帯電性を安定させるために、疎水性無機微粒子で表面処理されていてもよい。疎水性無機微粒子としては、たとえば酸化アルミニウム粉末、酸化チタン粉末、微粉末シリカなどの無機微粒子を、シリコーンワニス、各種変成シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変成シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシランカップリング剤、その他有機ケイ素化合物のような処理剤で疎水化処理したものを挙げることができる。これらの疎水性無機微粒子は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。またこれらの疎水性無機微粒子は、たとえばフッ化ビニリデン微粉末、ポリテトラフルオロエチレン微粉末、脂肪酸金属塩、ステアリン酸亜鉛またはステアリン酸カルシウムなどの外添剤と併用されてもよい。
本実施の形態のマゼンタトナーを構成するトナー粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないけれども、5μm以上、10μm以下であることが好ましい。トナー粒子の平均粒子径が5μm未満であると、帯電性と粉体特性との両立が困難となり、逆に10μmを超えると、高画質のカラー画像の形成が望めないので好ましくない。
本実施の形態のマゼンタトナーは、たとえば以下のようにして製造される。まず、前述の結着樹脂および着色剤を予め均一に混合する予備混合を行なう。帯電制御剤などの添加剤を添加する場合には、これらの添加剤も結着樹脂および着色剤とともに予備混合する。次いで、予備混合によって得られた混合物を均一に溶融混練する。得られた混練物を冷却した後粉砕し、必要に応じて分級することによって、トナー粒子を得る。
予備混合に使用される混合装置としては、たとえば乾式ブレンダ、スーパーミキサ、ボールミルなどが挙げられる。溶融混練に使用される混練装置としては、たとえばバンバリーミキサ、一軸または二軸のロール押出混練機などが挙げられる。
トナー粒子に前述の疎水性無機微粒子による表面処理を施す場合には、粉砕後または分級後のトナー粒子に疎水性無機微粒子を添加し、スーパーミキサまたはボールミルなどによって均一に混合する。
着色剤、特に顔料は、予め一部の結着樹脂中に分散される予備分散処理を施され、マスターバッチなどの着色剤分散樹脂の状態で、残余の結着樹脂などと予備混合されて溶融混練されることが好ましい。前述のように、一般に、結着樹脂は比較的低極性であり、着色剤、特に顔料は高極性であるので、結着樹脂と着色剤とを単に予備混合して溶融混練しても、着色剤を結着樹脂中に凝集させることなく、微細な状態で均一に分散させることは、化学的にも本質的にも困難である。したがって、着色剤には、予備混合する前に、予備分散処理を施すことが好ましい。着色剤に予備分散処理を施すことによって、着色剤を結着樹脂中に分散性良く分散させることができるので、着色力、彩度および色再現性に特に優れるマゼンタトナーを製造することができる。
着色剤の予備分散処理の方法としては、たとえば、結着樹脂の一部と着色剤とを予め溶融混練し、冷却後粉砕してマスターバッチとする方法、結着樹脂の有機溶剤溶液中で着色剤を分散させた後、乾燥してマスターバッチとする方法、またはフラッシング法などが挙げられるけれども、予備分散処理の方法は、これらに限定されるものではない。
なお、フラッシング法とは、合成した直後の顔料にビヒクルを添加し、撹拌することで、顔料を水相からビヒクル相に移動すなわち相転換させた後、不要な水分を除去することによってマスターバッチとする方法である。ビヒクルは、樹脂と動物油または植物油とを、触媒などの助剤と共に溶剤に加えて加熱し、重合させることによって得られる。特に、アルキルフェノール樹脂とロジン(松脂)とを、アルミニウムキレート(Al−Chelate)などの触媒存在下、ホルマリンと多価アルコールとの混合溶媒中で重縮合させることによって得られるビヒクルを用いることが好ましい。
本実施の形態のマゼンタトナーは、電子写真法または静電記録法などによる画像形成において、静電潜像などの電気的潜像の現像に好適に用いられる。潜像を現像する際には、本実施の形態のトナーを単独で一成分現像剤として用いてもよく、またキャリアと混合して二成分現像剤として用いてもよい。
以下、本発明の実施例を説明するけれども、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[マゼンタトナーの製造]
(実施例1)
実施例1では、以下のようにしてマゼンタトナーを作製した。表1に示す顔料の含水ペーストを表1に示す結着樹脂に加え、温度110℃に設定されたニーダにて加圧しながら15分間混練し、顔料含有率40重量%のマスターバッチを作製した。結着樹脂、作製したマスターバッチ、帯電制御剤、離形剤および添加剤を表1に示す配合比で混合した後、溶融混練、粉砕および分級を行い、平均粒子径約7μmのトナー粉末を得た。
表1に示す実施例1における各材料は、具体的には次のとおりである。
〔顔料〕
ロジンによる表面処理が施された平均一次粒子径88nmのC.I.ピグメントレッド122(2,9−ジメチルキナクリドン)を用いた。なお表1では、C.I.ピグメントレッド122をC.I.Pig.R−122と表記する。
〔結着樹脂〕
ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られたポリエステル樹脂であって、重量平均分子量Mw:1.8×104、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn):8.8、軟化温度Tm:106℃、ガラス転移温度Tg:63℃、酸価:28KOHmg/gの特性を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂A」と称する)を用いた。
〔帯電制御剤〕
サリチル酸亜鉛を用いた。
〔離形剤〕
カルナバワックスを用いた。
(実施例2)
実施例2では、顔料として、ロジンによる表面処理が施された平均一次粒子径92nmのC.I.ピグメントレッド57:1を用いる以外は、実施例1と同様にして、マゼンタトナーを作製した。なお表1では、C.I.ピグメントレッド57:1をC.I.Pig.R−57:1と表記する。
(実施例3)
実施例3では、結着樹脂として、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られたポリエステル樹脂であって、Mw:5.5×104、MwとMnとの比(Mw/Mn):22、Tm:119℃、Tg:65℃、酸価:25KOHmg/gの特性を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂B」と称する)を用いる以外は、実施例1と同様にして、マゼンタトナーを作製した。
(実施例4)
実施例4では、顔料として、ロジンによる表面処理が施された平均一次粒子径130nmのC.I.ピグメントレッド122を用いる以外は、実施例1と同様にして、マゼンタトナーを作製した。
(実施例5)
実施例5では、顔料として、ロジンによる表面処理が施されていない平均一次粒子径88nmのC.I.ピグメントレッド122を用いる以外は、実施例1と同様にして、マゼンタトナーを作製した。
(実施例6)
実施例6では、顔料をマスターバッチ化せずに用いること以外は、実施例1と同様にして、マゼンタトナーを作製した。すなわち、表1に示す顔料、結着樹脂、帯電制御剤、離形剤および添加剤を、実施例1と同じ配合比になるように表1に示す配合比で混合した後、溶融混練、粉砕および分級を行なうことによって、平均粒子径約7μmのトナー粉末を得た。なお、表1に示す実施例6における顔料の配合量は、マスターバッチ化されていない顔料(粉体)の量である。
(比較例1)
比較例1では、離形剤の配合量を7重量部とし、結着樹脂の配合量を76重量部とする以外は、実施例1と同様にして、マゼンタトナーを作製した。
(比較例2)
比較例2では、顔料として、ロジンによる表面処理が施された平均一次粒子径95nmのC.I.ピグメントレッド122を用いる以外は、実施例1と同様にして、マゼンタトナーを作製した。
以上のように、実施例1〜6および比較例1,2の各マゼンタトナー作製において、顔料および結着樹脂の種類、顔料のマスターバッチ化の有無、ならびに離形剤の配合量を変化させることによって、前述のT1とT2との差(T2−T1)が所望の値になるように調整し、(T2−T1)が10未満であり、本発明の要件を満足する実施例1〜6のマゼンタトナーと、(T2−T1)が10以上であり、本発明の要件を満足しない比較例1および2のマゼンタトナーとを得た。
[評価]
作製された各マゼンタトナーについて、以下のようにして特性の評価を行った。以下の評価において、画像形成装置には、シャープ株式会社製のフルカラー複合機AR−C260(型番)を用いた。
<光透過性>
フルカラー複合機AR−C260(シャープ株式会社製)から定着器を取除いて得られた試験用画像形成装置を用い、作製された各マゼンタトナーによって、OHPシート(シャープ株式会社製:CX7A4C)上に未定着のべた画像を形成した。形成されたべた画像を、温度150℃に設定されたオーブン中に荷重を加えながら5分間放置し、膜厚5〜15μmの平滑なトナー膜を形成し、これを測定サンプルとした。測定サンプルは、各マゼンタトナーについて、膜厚の異なる数種類のものを作製した。
分光光度計(株式会社日立製作所製:U−3200)を用い、作製された各測定サンプルの波長域400nm〜700nmにおける分光透過率を測定した。測定結果から、各測定サンプルの最大吸収波長の透過率を求め、最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有する測定サンプルおよび最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有する測定サンプルを選定した。最大吸収波長の透過率が1%となる膜厚を有する測定サンプルについて、500nmよりも短波長側の透過領域における最大透過波長の透過率を求め、T1とした。また最大吸収波長の透過率が3%となる膜厚を有する測定サンプルについて、500nmよりも短波長側の透過領域における最大透過波長の透過率を求め、T2とした。得られたT1およびT2の値から、T1とT2との差(T2−T1)を求めた。
また、同様にして、結着樹脂に用いられるポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bについて、波長域400nm〜700nmにおける分光透過率を測定した。ただし、測定サンプルは、結着樹脂を粉砕および分級し、得られた微粉砕された結着樹脂を用い、マゼンタトナーを用いてトナー膜を形成する際と同様にして、OHPシート(シャープ株式会社製:CX7A4C)上に膜厚10μmの結着樹脂膜を形成することによって作製した。波長域400nm〜700nmにおける透過率の最小値は、ポリエステル樹脂Aが95%であり、ポリエステル樹脂Bが88%であった。
<画像濃度>
作製された各マゼンタトナーを用い、記録用紙(シャープ株式会社製:PP106A4C)上に、トナー付着量が0.5mg/cm2になるように調整して、べた画像を形成し、これを評価用画像とした。なお、定着温度は、170℃とした。濃度計(マクベス社製:RD−918)を用い、評価用画像の光学濃度を画像濃度として測定した。
画像濃度の評価基準は、以下のようである。
○:良好。画像濃度が1.20以上。
△:やや不良。画像濃度が1.10以上1.20未満。
×:不良。画像濃度が1.10未満。
<彩度>
〔単色〕
作製された各マゼンタトナーを用い、記録用紙(シャープ株式会社製:PP106A4C)上に、トナー付着量が0.5mg/cm2になるように調整して、べた画像を形成し、これを単色評価用画像とした。なお、定着温度は、170℃とした。また、フルカラー複合機AR−C260の純正マゼンタトナーを用い、単色評価用画像と同様にしてべた画像を形成し、これを単色サンプル画像とした。単色評価用画像と単色サンプル画像とを目視によって比較し、単色サンプル画像を基準として、単色評価用画像の彩度を評価した。
彩度の評価基準は、以下のようである。
○:良好。単色サンプル画像と同等以上の彩度。
△:やや不良。くすみが見られる。
×:不良。明らかに彩度が低い。
〔2次色〕
作製された各マゼンタトナーと、フルカラー複合機AR−C260の純正シアントナーとを用い、記録用紙(シャープ株式会社製:PP106A4C)上に、トナー付着量が0.5mg/cm2になるように調整して、べた画像を形成し、これを2次色評価用画像とした。なお、定着温度は、170℃とした。また、フルカラー複合機AR−C260の純正マゼンタトナーおよび純正シアントナーを用い、2次色評価用画像と同様にしてべた画像を形成し、これを2次色サンプル画像とした。2次色評価用画像と2次色サンプル画像とを目視によって比較し、2次色サンプル画像を基準として、2次色評価用画像の彩度を評価した。
彩度の評価基準は、以下のようである。
○:良好。2次色サンプル画像と同等以上の彩度。
△:やや不良。くすみが見られる。
×:不良。明らかに彩度が低い。
また、単色評価用画像の評価結果と2次色評価用画像の評価結果とを合わせて、彩度の総合評価を行なった。総合評価の評価基準は、以下のようである。
○:単色○かつ2次色○。
△:単色○かつ2次色△、または単色△かつ2次色○、または単色△かつ2次色△。
×:単色×、または2次色×。
<2次色再現性>
作製された各マゼンタトナーと、フルカラー複合機AR−C260の純正シアントナーとを用い、記録用紙(シャープ株式会社製:PP106A4C)上に、トナー付着量が0.5mg/cm2になるように調整して、べた画像を形成し、これを評価用画像とした。なお、定着温度は、170℃とした。測色計(X−Rite社製:X−Rite938)を用い、評価用画像のL*a*b*表色系(CIE:1976)における明度指数L*を測定した。前述の2次色の彩度の評価結果と合わせて、2次色の再現性を評価した。
2次色の再現性の評価基準は、以下のようである。
○:良好。L*30以上かつ彩度○。
△:やや不良。L*20以上30未満、または彩度△。
×:不良。L*20未満、または彩度×。
また、画像濃度、彩度および2次色再現性の評価結果を合わせて、トナー性能の総合判定を行なった。総合判定の評価基準は、以下のようである。
○:良好。画像濃度、彩度および2次色再現性のいずれも○。
△:やや不良。画像濃度、彩度および2次色再現性のいずれも×でない。
×:不良。画像濃度、彩度および2次色再現性のいずれかが×。
以上の評価結果を表2に示す。
表2から判るように、本発明の要件を満足する、すなわちT1とT2との差(T2−T1)が10未満である実施例1〜6のマゼンタトナーは、彩度および2次色再現性に優れることが判った。また実施例1〜6のマゼンタトナーは、形成された画像の画像濃度が高く、高い着色力を有することが判った。これに対し、T1とT2との差(T2−T1)が10以上である比較例1および2のマゼンタトナーでは、単色および2次色のいずれも彩度が低かった。また比較例1および2のマゼンタトナーでは、2次色の明度指数L*の値も低く、2次色の再現性が悪かった。
また、実施例1と実施例3との比較から、実施例3のマゼンタトナーは、実施例1のマゼンタトナーに比べ、T1とT2との差(T2−T1)がやや大きく、形成された画像の彩度および2次色再現性が若干低いことが判った。これは、実施例3では、結着樹脂に、波長域400nm〜700nmにおける透過率が90%未満の値をとるポリエステル樹脂Bを用いているためであると考えられる。すなわち、実施例3のマゼンタトナーでは、ポリエステル樹脂Bの光透過性の低さが影響し、実施例1のマゼンタトナーに比べ、透明性が低下して透過領域における透過率が低くなり、彩度および2次色再現性が低下したものと考えられる。また実施例3のマゼンタトナーでは、このように実施例1のマゼンタトナーよりも透明性が低いので、実施例1のマゼンタトナーに比べ、膜厚の増加による透過率の低下度合が大きくなり、T1とT2との差(T2−T1)が大きくなったものと考えられる。
また、実施例1と実施例4〜6との比較から、実施例4〜6のマゼンタトナーは、実施例1のマゼンタトナーに比べ、T1とT2との差(T2−T1)がやや大きく、形成された画像の画像濃度、彩度および2次色再現性が若干低いことが判った。これは、実施例4では平均一次粒子径が100nmを超える顔料が用いられており、また実施例5ではロジンによる表面処理の施されていない顔料が用いられており、また実施例6では顔料をマスターバッチ化せずに用いているので、顔料の分散性が低下したためであると考えられる。
以上のように、T1とT2との差(T2−T1)が10未満になるようにマゼンタトナーを設計することによって、着色力および彩度が高く、色再現性に優れるマゼンタトナーを得ることができた。