電子写真法によるフルカラー画像の形成には、シアン(Cyan;略称:C)、マゼンタ(Magenta;略称:M)およびイエロー(Yellow;略称:Y)の3色のカラートナーが用いられており、これらのカラートナーを重ね合わせることによって原稿画像の各色が再現される。
本発明の実施の一形態であるカラートナーは、少なくとも結着樹脂および着色剤を含有し、透明シート上にトナー膜として成膜された状態で、波長400nm〜700nmにおける分光透過特性の測定結果から得られる最大吸収波長の透過率T1(%)とトナー膜の膜厚L(μm)とが、下記式(1)および式(2)を満足し、
logT1=−AL+B(AおよびBは定数) …(1)
A≧0.2 …(2)
前記式(1)において最大吸収波長の透過率T1が1%となる膜厚Lを有するトナー膜の最大透過波長の透過率T2が、85%以上である。
本実施の形態では、カラートナーの分光透過特性は、以下のようにして測定される。少なくとも結着樹脂および着色剤を含んで成るカラートナーを透明シート上に均一に載せた後、結着樹脂の軟化温度よりも20℃〜60℃高い温度に設定されたオーブン中に所定時間放置して定着させることによって、膜厚Lの平滑なトナー膜を形成する。形成されたトナー膜について、一般的な分光光度計(たとえば、株式会社日立製作所製:U−3200など)を用い、波長400nm〜700nmにおける分光透過特性を測定する。なお、透明シートには、OHP用の透明シート(以下、「OHPシート」と称する)、たとえばシャープ株式会社製のCX7A4C(品番)などを用いる。
このようにして測定される分光透過特性の測定結果から、最大吸収波長の透過率T1(%)が以下のようにして求められる。トナー膜の波長400nm〜700nmにおける分光透過特性の測定結果を、横軸に光の波長(nm)、縦軸に透過率T(%)をプロットしたグラフと、横軸に光の波長(nm)、縦軸に吸光度をプロットしたグラフとに表す。吸光度のプロットされたグラフから、吸光度が最大の値を示す波長を最大吸収波長として求め、この最大吸収波長の透過率T1(%)を、透過率T(%)のプロットされたグラフから求める。
前記式(1)における定数A,Bは、以下のようにして求められる。膜厚Lの異なる数種類のトナー膜について、前述のようにして最大吸収波長の透過率T1(%)を求める。トナー膜の膜厚Lは、5〜20μmの範囲から任意に選択される。トナー膜の膜厚L(μm)に対する最大吸収波長の透過率T1(%)の常用対数値(logT)から、最小二乗近似によってトナー膜の膜厚L(μm)と最大吸収波長の透過率T1(%)の常用対数値(logT)との相関関係を表す1次直線の式、すなわち前記式(1)を算出する。算出された1次直線の傾きが定数Aであり、切片が定数Bである。
前記式(1)において最大吸収波長の透過率T1が1%となる膜厚Lを有するトナー膜の最大透過波長の透過率T2は、以下のようにして求められる。前述の最小二乗近似によって算出された1次直線の式から、最大吸収波長の透過率T1が1%となる膜厚Lを算出する。算出された膜厚Lを有するトナー膜を前述のようにして透明シート上に形成する。形成されたトナー膜について、前述のようにして波長400nm〜700nmにおける分光透過特性を測定し、測定結果を、横軸に光の波長(nm)、縦軸に透過率T(%)をプロットしたグラフに表す。得られたグラフから、透過率Tが最大値を示す波長を最大透過波長として求め、この波長の透過率Tを最大透過波長の透過率T2(%)として求める。
以下に、本実施の形態のカラートナーにおける設計上の各範囲限定理由について説明する。
カラー画像では、外部からの光のうち、カラートナーの吸収領域の光は、トナー膜中に分散している着色剤によって吸収され、カラートナーの透過領域の光は、トナー膜を透過する。カラー画像の形成された記録媒体が記録紙などのように透光性を有しないものである場合には、トナー膜を透過した光は記録媒体で反射され、この反射された光が色として認識される。記録媒体がOHPシートなどのように透光性を有するものである場合には、トナー膜を透過した光は記録媒体を透過し、この透過した光が色として認識される。
このように、カラー画像において色として認識される光は、外部からの光のうち、トナー膜を透過する光、すなわちトナー膜で吸収される光を除いた光であるので、トナーの着色力は、吸収領域における光の吸収が大きいほど、高くなる。
ランベルト−ベール則によれば、着色剤の濃度cが一定であるとき、着色剤の濃度cと最大吸収波長の吸光係数aとの積(c×a)を定数Aとして、前記式(1)が成り立つ。すなわち、前記式(1)で表される直線の傾きである定数Aは、最大吸収波長における光の吸収が大きいほど大きな値になる。最大吸収波長における光の吸収が大きいことは、吸収領域における光の吸収が大きいことを意味し、またトナーの着色力は、前述のように、吸収領域における光の吸収が大きいほど高くなるので、前記式(1)で表される直線の傾きである定数Aの値は、トナーの着色力を表す。したがって、前記式(2)を満足する、すなわち前記傾きAが0.2以上であるカラートナーは、高い着色力を有する。このようなカラートナーを用いることによって、充分な画像濃度を有するカラー画像を得ることができる。
なお、前記傾きAが0.2未満では、着色力が低いので、トナー膜の膜厚Lを厚くしなければ、充分な画像濃度を得ることができない。しかしながら、トナー膜の膜厚Lが厚くなると、カラートナーの消費量が増加するので好ましくない。また、カラートナーを充分に溶融させ、発色させるために、高い定着温度が必要になるので、消費エネルギが増加し、環境などに悪影響を及ぼす。したがって、前記傾きAを0.2以上とした。
前記傾きAは、0.25以上であることがより好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。
また前記傾きAは、1.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.8以下である。前記傾きAが1.0を超えると、着色力が高すぎるため、色相が悪化する。特に、吸収領域における透過性の制御が困難になるため、他の色のカラートナーとの重ね合せによって得られる二次色、三次色の色再現性が悪くなる。
前記傾きAで表されるトナーの着色力は、着色剤の濃度cおよび着色剤の分散状態に依存し、着色剤の濃度cを増加させることによって、また着色剤の分散性を向上させることによって大きくすることができる。たとえば、着色剤の濃度cを増加させると、着色剤による光の吸収が大きくなるので、前記傾きAが大きくなり、着色力が増加する。また着色剤の分散性を向上させると、着色剤の比表面積が大きくなり、吸収領域における光の吸収が大きくなるので、前記傾きAが大きくなり、着色力が増加する。
しかしながら、前記傾きAを大きくしてトナーの着色力を高めるために、着色剤の濃度cを増加させると、透過領域における透過性が低下し、色再現性および彩度の低下が引起される。特に、各色のカラートナーの重ね合わせによって形成される多色画像またはフルカラー画像では、重なり合った各色のトナー膜全てを透過した光が、記録媒体で反射されてまたは記録媒体を透過して色として認識されるので、各色のカラートナーの透過領域における透過性が低いと、各色のカラートナーの重ね合わせによる二次色および三次色の発色性が低下し、色再現性が低下する。
すなわち、カラートナーの二次色および三次色の色再現性、ならびに彩度を良好に保つためには、透過領域の分光透過特性に着目する必要があり、透過領域における透過率が高いほど、色再現性および彩度に優れるカラートナーであるといえる。また、前述のように、カラートナーの着色力は、吸収領域における光の吸収が大きいほど、すなわち吸収領域における透過率が小さいほど、高くなる。したがって、カラートナーは、透過領域における透過率が100%に近く、かつ吸収領域における透過率が0%に近いほど好ましい。たとえば、シアン色のカラートナーは、波長400nm〜600nmの透過領域における透過率が100%に近く、かつ波長600nm〜700nmの吸収領域における透過率が0%に近いほど、理想的な分光透過特性を有しているといえ、着色力および彩度が高く、良好な色再現性を有する。
そこで、本実施の形態では、前述のように、前記式(1)において最大吸収波長の透過率T1が1%となる膜厚Lを有するトナー膜の最大透過波長の透過率T2が85%以上になるように、カラートナーを設計する。
最大吸収波長の透過率T1が1%であるトナー膜は、吸収領域の光を充分に吸収している状態にある。また最大透過波長の透過率T2が85%以上であるトナー膜は、透過領域の光を充分に透過している状態にある。すなわち、前記式(1)において最大吸収波長の透過率T1が1%となる膜厚Lを有するトナー膜の最大透過波長の透過率T2が85%以上であるカラートナーは、吸収領域の光を充分に吸収するとともに、透過領域の光を充分に透過するので、彩度が高く、他の色のカラートナーとの重ね合せによって得られる二次色および三次色の色再現性に優れる。
したがって、前述の特性を有するようにカラートナーを設計することによって、着色力および彩度が高く、色再現性に優れ、良好なカラー画像を実現することのできるカラートナーを得ることができる。
なお、前記最大透過波長の透過率T2は、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
前記最大透過波長の透過率T2は、結着樹脂中の着色剤の分散性を向上させることによって高めることができる。しかしながら、結着樹脂中の着色剤の分散性が向上しても、結着樹脂自体の光透過性が悪ければ、カラートナーとしての光透過性は悪くなるので、前記最大透過波長の透過率T2を85%以上にすることは困難である。
したがって、本実施の形態のカラートナーに用いられる結着樹脂は、透明シート上に膜厚10μmの結着樹脂膜として成膜された状態で、波長400nm〜700nmにおける分光透過特性の測定結果から得られる最大吸収波長の透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは前記透過率が95%以上である。このような結着樹脂を用いることによって、前記最大透過波長の透過率T2を85%以上にすることが可能になり、着色力および彩度が高く、色再現性に優れる本実施の形態のカラートナーが実現される。
結着樹脂の最大吸収波長の透過率は、結着樹脂を微粉砕し、微粉砕された結着樹脂を用いて、前述のカラートナーを用いてトナー膜を形成する際と同様にして、透明シート上に膜厚10μmの結着樹脂膜を形成し、形成された結着樹脂膜について分光透過特性を測定することによって求められる。
結着樹脂の酸価は、5KOHmg/g以上40KOHmg/g以下であることが好ましく、より好ましくは10KOHmg/g以上30KOHmg/g以下である。酸価がこの範囲にある結着樹脂を用いることによって、着色力および彩度が高く、色再現性に優れるとともに、環境依存性の小さいカラートナーを実現することができる。
一般に、結着樹脂は比較的低極性であり、着色剤、特に顔料は高極性であるので、結着樹脂中に着色剤を凝集させることなく、均一に分散させることは困難であるけれども、結着樹脂の酸価を5KOHmg/g以上と高くすることによって、結着樹脂の極性を高め、結着樹脂中の着色剤の分散性を向上させることができる。したがって、前記傾きAを0.2以上にするとともに、前記最大透過波長の透過率T2を85%以上にすることが可能になる。
しかしながら、結着樹脂の酸価が高すぎると、温度および湿度などの環境の影響を受けやすいカラートナーとなる。特に、高温高湿環境下では、環境の影響を受けやすく、画像の形成を繰返すうちにカラートナーの帯電性が下がり、下地かぶりなどの画像汚染が生じるなどの悪影響が及ぶ。この結着樹脂の酸価が高すぎることによる悪影響は、結着樹脂の酸価を40KOHmg/g以下にすることによって抑えられる。すなわち、結着樹脂の酸価を40KOHmg/g以下にすることによって、カラートナーの特性、特に帯電性に対する温度および湿度などの環境の影響を抑えることができるので、高温高湿環境下において繰返し画像を形成する場合におけるカラートナーの帯電性の低下を小さくし、下地かぶりなどの画像汚染を抑制することができる。
なお、結着樹脂の酸価が5KOHmg/g未満であると、結着樹脂と着色剤との相溶性が低くなり、着色剤の分散性が悪くなるので、前記傾きAが0.2未満または前記最大透過波長の透過率T2が85%未満になりやすく、本実施の形態のカラートナーを実現することは困難である。一方、結着樹脂の酸価が40KOHmg/gを超えると、特に高温高湿環境下において、帯電性の低下などによる下地かぶりなどの画像汚染が生じる。したがって、結着樹脂の酸価は、5KOHmg/g以上40KOHmg/g以下であることが好ましい。
結着樹脂としては、たとえばポリエステル樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂またはエポキシ樹脂などが用いられる。結着樹脂は、これらに限定されるものではなく、一般にトナーに用いられる熱可塑性樹脂であれば、どのようなものを結着樹脂に用いてもよい。これらの樹脂は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。
前述の樹脂の中でも、結着樹脂には、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。ポリエステル樹脂を結着樹脂に用いることによって、適度な機械的強度を有するとともに、低温で速やかに溶融するカラートナーを得ることができる。このようなカラートナーを用いることによって、高い耐刷性を有する画像を形成することができる。また、表面の平滑性が高く、かつ空隙の存在しないトナー膜を形成することができるので、光の乱反射が抑えられ、二次色および三次色の発色性に優れるカラー画像を実現することができる。
ポリエステル樹脂としては、たとえば以下に例示する多価アルコール成分と多価カルボン酸成分とから合成されるものを挙げることができるけれども、ポリエステル樹脂は、これらに限定されるものではない。ここで、多価アルコール成分とは、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物のことであり、アルコール類およびフェノール類のいずれをも含む。また、多価カルボン酸成分とは、カルボキシル基を2個以上有する化合物である多価カルボン酸およびその誘導体のことである。
多価アルコール成分としては、たとえばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(慣用名:ビスフェノールA)、水素添加ビスフェノールA、ならびにポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールAなどのビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの2価アルコールを挙げることができる。
また、ポリエステル樹脂を非線状化するために、3価以上のアルコールを多価アルコール成分に使用することもできる。3価以上のアルコールとしては、グリセリン、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトラオール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンおよび1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられる。
3価以上のアルコールは、ポリエステル樹脂にテトラヒドロフラン不溶分が発生しないような範囲内で使用されることが好ましい。テトラヒドロフラン不溶分とは、樹脂の架橋性を示す指標である。樹脂の架橋成分(非線形成分)は溶媒に対し溶解し難いので、架橋成分の多い樹脂を溶媒に溶解させようとするとゲル化する。すなわち、前述のテトラヒドロフラン不溶分が多い樹脂ほど、架橋成分を多く含む。架橋成分を多く含む樹脂ほど、弾性は強くなるので、定着時に溶融したカラートナーの一部が定着ローラに転写されて後続の記録紙などに転写される、いわゆる高温オフセット現象は生じにくくなる。その反面、低温で速やかに溶融することができなくなるので、トナー膜表面の平滑性が損なわれ、色再現性や彩度の低下などの悪影響が及ぶ。したがって、ポリエステル樹脂は、テトラヒドロフラン不溶分が発生しない程度に非線状化されることが好ましい。
多価カルボン酸成分としては、たとえばマレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、n−オクチルコハク酸およびn−ドデセニルコハク酸などのアルキルコハク酸などの二塩基性カルボン酸、ならびにこれらの酸無水物またはアルキルエステルなどが挙げられる。
これらの中でも、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られるポリエステル樹脂が好適に用いられる。
結着樹脂に用いられるポリエステル樹脂は、以下の(a)〜(e)の特性を有することが好ましい。
(a)重量平均分子量(Mw):10000以上70000以下、より好ましくは15000以上50000以下。
(b)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):1以上50以下、より好ましくは3以上20以下。
(c)軟化点(Tm):90℃以上140℃以下、より好ましくは100℃以上130℃以下。
(d)ガラス転移点(Tg):55℃以上70℃以下、より好ましくは60℃以上65℃以下。
(e)酸価:5KOHmg/g以上40KOHmg/g以下、より好ましくは10KOHmg/g以上30KOHmg/g以下。
なお、本明細書中における樹脂の物性値は、以下の測定機器によって測定された値である。
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)>
GPC装置(東ソー株式会社製:HLC−8220GPC)
<軟化点(Tm)>
フローテスター(株式会社島津製作所製:CFT−500D)
<ガラス転移点(Tg)>
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製:EXSTAR6000 DSC)
本実施の形態のカラートナーに含有される着色剤としては、有彩色の着色剤が適宜選択されて用いられる。着色剤には、顔料および染料のいずれを用いてもよく、また顔料と染料とを組合せて用いてもよい。しかしながら、顔料を用いることによって、耐候性に優れるカラートナーが得られ、品質の安定した画像を形成することができるので、着色剤には顔料を用いることが好ましい。
着色剤に用いられる顔料は、表面処理されていることが好ましい。顔料は、微粒子化されるほど表面積が大きくなり、表面エネルギが大きくなるので、結着樹脂中に分散させることが困難になる。顔料を表面処理することによって、着色顔料と結着樹脂との親和性(相溶性)を強め、顔料の分散性を向上させることができる。したがって、前記傾きAを0.2以上にするとともに、前記最大透過波長の透過率T2を85%以上にすることが可能になり、着色力および彩度が高く、色再現性に優れる本実施の形態のカラートナーが実現される。
顔料の表面処理としては、たとえばロジンまたはロジン誘導体による表面処理、顔料誘導体の添加による表面改質、結着樹脂との相溶性の高い樹脂によるカプセル化、プラズマ処理および紫外線処理などを挙げることができる。これらの中でもロジンまたはロジン誘導体による表面処理が好適に行われる。顔料の表面をロジンまたはロジン誘導体によって処理することによって、顔料と結着樹脂との親和性(相溶性)を特に強めることができる。また高温高湿環境下における帯電安定性を高めることができるので、環境依存性の小さいカラートナーを実現することができる。
顔料の表面処理に用いられるロジンまたはロジン誘導体としては、コーパル、ダンマル、エステルガム、硬化ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、ロジンアミン、マレイン化ロジン、酸化ロジン、ならびに松ヤニから得られるガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。
また、着色剤に用いられる顔料は、一次粒子の平均粒子径すなわち平均一次粒子径が30nm以上100nm以下であることが好ましい。顔料の平均一次粒子径が100nmを超えると、結着樹脂中に顔料を分散させる際に剪断応力を加えても、充分な分散状態を得ることができないので、前記傾きAが0.2未満または前記最大透過波長の透過率T2が85%未満になりやすく、充分な着色力および光透過性を得ることは困難である。前述のように、平均一次粒子径が100nm以下の顔料を用いることによって、顔料の分散性が高まり、顔料を充分な分散状態で分散させることができるので、前記傾きAを0.2以上にするとともに、前記最大透過波長の透過率T2を85%以上にすることが可能になり、着色力および彩度が高く、色再現性に優れる本実施の形態のカラートナーが実現される。
着色剤の色は、吸光領域および透過領域に合わせて適宜選択される。なお、イエロー(Y)色のカラートナーでは、波長域500〜700nm近傍が透過領域とされ、波長域400〜500nm近傍が吸収領域とされる。マゼンタ(M)色のカラートナーでは、波長域400〜500nm近傍および波長域600〜700nm近傍が透過領域とされ、波長域500〜600nm近傍が吸収領域とされる。シアン(C)色のカラートナーでは、波長域400〜600nm近傍が透過領域とされ、波長域600〜700nm近傍が吸収領域とされる。
イエロー(Y)色のカラートナーに用いられるイエロー系着色剤としては、たとえばカラーインデックス(Color Index;略称:C.I.)によって分類されるC.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー5、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー15およびC.I.ピグメントイエロー17などのアゾ系顔料、ならびに黄色酸化鉄および黄土などの無機系顔料を挙げることができる。また、たとえばC.I.アシッドイエロー1などのニトロ系染料、ならびにC.I.ソルベントイエロー2、C.I.ソルベントイエロー6、C.I.ソルベントイエロー14、C.I.ソルベントイエロー15、C.I.ソルベントイエロー19およびC.I.ソルベントイエロー21などの油溶性染料も挙げられる。これらの着色剤の中でも、特にC.I.ピグメントイエロー17などのベンジジン系のアゾ系顔料が、イエロー系着色剤としての色味の点で好適に使用される。
マゼンタ(M)色のカラートナーに用いられるマゼンタ系着色剤としては、たとえばC.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81およびC.I.ピグメントレッド122などの顔料、ならびにC.I.ソルベントレッド19、C.I.ソルベントレッド49、C.I.ソルベントレッド52、C.I.ベーシックレッド10およびC.I.ディスパーズレッド15などの染料を挙げることができる。これらの着色剤の中でも、特にC.I.ピグメントレッド122などのキナクリドン系顔料が、マゼンタ系着色剤としての色味の点で好適に使用される。
シアン(C)色のカラートナーに用いられるシアン系着色剤としては、たとえばC.I.ピグメントブルー15およびC.I.ピグメントブルー16などの顔料、ならびにC.I.ソルベントブルー55、C.I.ソルベントブルー70、C.I.ダイレクトブルー25およびC.I.ダイレクトブルー86などの染料を挙げることができる。これらの着色剤の中でも、特にC.I.ピグメントブルー15などの銅フタロシアニン顔料が、シアン系着色剤としての色味の点で好適に使用される。
着色剤の使用量は、結着樹脂100重量部に対して、1重量部以上12重量部以下であることが好ましく、より好ましくは2重量部以上10重量部以下である。着色剤の結着樹脂100重量部当たりの使用量が1重量部未満では、カラートナー中の着色剤の濃度cが小さすぎて前記傾きAが0.2以上になりにくく、充分な着色力を得ることは困難である。着色剤の結着樹脂100重量部当たりの使用量が12重量部を超えると、カラートナー中の着色剤の濃度cが大きくなりすぎ、着色剤の分散性を向上させても、前記最大透過波長の透過率T2が85%以上になりにくく、充分な色再現性および彩度を得ることは困難である。したがって、着色剤は、結着樹脂100重量部に対して、1重量部以上12重量部以下の範囲で使用されることが好ましい。
本実施の形態のカラートナーには、結着樹脂および着色剤以外に、帯電制御剤などの各種添加剤が添加されていてもよい。帯電制御剤は、摩擦帯電性を制御することを目的として添加される。帯電制御剤としては、オイルブラックおよびスピロンブラックなどの油溶性染料、含金属アゾ染料、ナフテン酸の金属塩、サリチル酸またはアルキルサリチル酸の金属塩、脂肪酸石鹸、ならびに樹脂酸石鹸などを挙げることができる。これらの中でも、着色剤によって得られる色を阻害しないように、無色のアルキルサリチル酸の金属塩を使用することが好ましい。帯電制御剤の添加量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部程度であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8重量部程度である。
また、本実施の形態のカラートナーを構成するトナー粒子は、湿度変化によるトナー粒子表面の水分増減から発生するトナーの流動性の大きな変動を防止するとともに、現像剤として使用される際のキャリアとの攪拌性、搬送性および帯電性を安定させるために、疎水性無機微粒子で表面処理されていてもよい。疎水性無機微粒子としては、たとえば酸化アルミニウム粉末、酸化チタン粉末および微粉末シリカなどの疎水化処理された無機微粒子を挙げることができる。これらの疎水性無機微粒子は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。またこれらの疎水性無機微粒子は、たとえばフッ化ビニリデン微粉末、ポリテトラフルオロエチレン微粉末、脂肪酸金属塩、ステアリン酸亜鉛またはステアリン酸カルシウムなどの外添剤と併用されてもよい。
本実施の形態のカラートナーを構成するトナー粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないけれども、5μm以上10μm以下であることが好ましい。トナー粒子の平均粒子径が5μm未満であると、帯電性と粉体特性との両立が困難となり、逆に10μmを超えると、高画質のカラー画像の形成が望めないので好ましくない。
本実施の形態のカラートナーは、たとえば以下のようにして製造される。まず、前述の結着樹脂および着色剤を予め均一に混合する予備混合を行う。帯電制御剤などの添加剤を添加する場合には、これらの添加剤も結着樹脂および着色剤とともに予備混合される。次いで、予備混合によって得られた混合物を均一に溶融混練する。得られた混練物を冷却した後粉砕し、必要に応じて分級することによって、トナー粒子を得る。
予備混合に使用される混合装置としては、たとえば乾式ブレンダ、スーパーミキサおよびボールミルなどが挙げられる。溶融混練に使用される混練装置としては、たとえばバンバリーミキサ、および一軸または二軸のロール押出混練機などが挙げられる。
トナー粒子に前述の疎水性無機微粒子による表面処理を施す場合には、粉砕後または分級後のトナー粒子に疎水性無機微粒子を添加し、スーパーミキサまたはボールミルなどによって均一に混合する。
着色剤、特に顔料は、予め一部の結着樹脂中に分散される予備分散処理を施された後、結着樹脂などと予備混合されて溶融混練されることが好ましい。前述のように、一般に、結着樹脂は比較的低極性であり、着色剤、特に顔料は高極性であるので、結着樹脂と着色顔料とを単に予備混合して溶融混練しても、着色剤を結着樹脂中に凝集させることなく、均一に分散させることは、化学的にも本質的にも困難である。したがって、着色剤には、予備混合する前に、予備分散処理を施すことが好ましい。
着色剤に予備分散処理を施すことによって、結着樹脂中における着色剤の分散性を向上させることができる。したがって、前記傾きAを0.2以上にするとともに、前記最大透過波長の透過率T2を85%以上にすることが可能になり、着色力および彩度が高く、色再現性に優れるカラートナーが実現される。
着色剤の予備分散処理の方法としては、たとえば、結着樹脂の一部と着色剤とを予め溶融混練し、冷却後粉砕してマスターバッチとする方法、結着樹脂の有機溶剤溶液中で着色剤を分散させた後、乾燥してマスターバッチとする方法、またはフラッシング法などが挙げられるけれども、予備分散処理の方法は、これらに限定されるものではない。
なお、フラッシング法とは、合成した直後の顔料にビヒクルを添加し、撹拌することで、顔料を水相からビヒクル相に移動すなわち相転換させた後、不要な水分を除去することによりマスターバッチとする方法である。ビヒクルは、樹脂と動植物油とを、触媒などの助剤と共に溶剤に加えて加熱し、重合させることによって作られる。特に、アルキルフェノール樹脂とロジン(松脂)とを、アルミニウムキレート(AL-Chelate)などの触媒存在下、ホルマリンと多価アルコールとの混合溶媒中で重縮合させることによって合成されるビヒクルを用いることが好ましい。
以上に述べたように、前述の特性を有する本発明のカラートナーは、電子写真法に用いられるけれども、これに限定されることなく、トナーを用いて画像を形成する他の画像形成方法、たとえば静電記録法などに用いられてもよい。
以下、本発明の実施例を説明するけれども、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜6および比較例1〜9)
<カラートナーの製造>
実施例1〜6および比較例1〜9では、いずれのカラートナーも、結着樹脂には、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られたポリエステル樹脂であって、重量平均分子量(Mw):1.8×104、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn):8.8、軟化点(Tm):106℃、ガラス転移点(Tg):63℃、酸価:28KOHmg/gの特性を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂A」と称する)を用いた。
また、着色剤には、実施例1,2および比較例1〜3では、マゼンタ顔料として、平均一次粒子径88nmのジメチルキナクリドン(C.I.ピグメントレッド122;以下、「C.I.Pig.R−122」とも称する)を用い、実施例3,4および比較例4〜6では、シアン顔料として、平均一次粒子径74nmの銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15;以下、「C.I.Pig.B−15」とも称する)を用い、実施例5,6および比較例7〜9では、イエロー顔料として、平均一次粒子径92nmのモノアゾ系顔料(C.I.ピグメントイエロー74;以下、「C.I.Pig.Y−74」とも称する)を用いた。なお、いずれの顔料もロジン系の表面処理が施されたものを用いた。
実施例1〜6および比較例1,2,4,5,7,8では、以下のようにしてカラートナーを作製した。顔料の含水ペーストをポリエステル樹脂Aに加え、表1に示す温度に設定されたニーダにて加圧しながら表1に示す時間混練し、顔料含有率40重量%のマスターバッチを作製した。ポリエステル樹脂A、作製したマスターバッチおよび帯電制御剤を表1に示す配合比で混合した後、溶融混練、粉砕および分級を行い、平均粒子径約7μmのトナー粒子から成るカラートナーを得た。なお、帯電制御剤には、サリチル酸亜鉛を用いた。
カラートナーの作製に際し、マスターバッチ化の条件、ならびに結着樹脂であるポリエステル樹脂A、帯電制御剤およびマスターバッチの配合比を表1に示すように変化させることによって、本発明の要件をすべて満足する実施例1〜6のカラートナーと、本発明の要件のいずれかを満足しない比較例1,2,4,5,7,8のカラートナーとを得た。
比較例3,6,9では、顔料をマスターバッチ化せずに用いること以外は、実施例1,3,5と同様にして、本発明の要件のいずれかを満足しないカラートナーを作製した。すなわち、ポリエステル樹脂A、マスターバッチ化されていない顔料および帯電制御剤を、実施例1,3,5と同じ配合比になるように表1に示す配合比で混合した後、溶融混練、粉砕および分級を行うことによって、平均粒子径約7μmのトナー粒子から成るカラートナーを得た。なお、表1に示す比較例3,6,9における顔料の配合量は、マスターバッチ化されていない顔料の量である。
[評価1]
作製された各カラートナーについて、以下のようにして特性の評価を行った。
<光透過性>
作製された各カラートナー100重量部を、平均粒子径12nmのコロイダルシリカ1.5重量部で表面処理し、表面処理されたカラートナーを得た。画像形成装置としてフルカラー複合機(シャープ株式会社製:AR−C260)を用い、表面処理された各カラートナーによってOHPシート(シャープ株式会社製:CX7A4C)上に未定着のべた画像を形成した。べた画像の形成されたOHPシートを、温度150℃に設定されたオーブン中に荷重を加えながら5分間放置し、5〜15μmの膜厚Lを有する平滑なトナー膜を形成した。各カラートナーについて、トナー膜の膜厚Lの異なる数種類の測定サンプルを作製した。
作製された各測定サンプルについて、分光光度計(株式会社日立製作所製:U−3200)を用い、波長400nm〜700nmにおける分光透過特性を測定した。測定結果から、各測定サンプルの最大吸収波長の透過率T1(%)を求め、膜厚Lに対する最大吸収波長の透過率T1(%)の常用対数値(logT)から、最小二乗近似によって1次直線を算出し、この直線の傾きを前記式(1)の定数Aの値として求めた。
また、算出した1次直線の式から、最大吸収波長の透過率T1が1%となる膜厚Lを算出し、算出された膜厚Lを有する測定サンプルを作製した。この測定サンプルについて、同様にして波長400nm〜700nmにおける分光透過特性を測定し、最大透過波長の透過率T2(%)を求めた。
<彩度>
作製された各カラートナー100重量部を、平均粒子径12nmのコロイダルシリカ1.5重量部で表面処理し、表面処理されたカラートナーを得た。画像形成装置としてフルカラー複合機(シャープ株式会社製:AR−C260)を用い、記録紙(シャープ株式会社製:PP106A4C)上に、カラートナーの付着量が0.5mg/cm2になるように調整してべた画像を形成した。なお、カラートナーの定着温度は、170℃とした。
形成されたべた画像について、色度計(X−Rite社製:X−Rite938)を用いてL*a*b*表色系(CIE:1976)におけるクロマチックネス指数a*およびb*を測定し、下記式(3)で示されるC*の値を求め、各カラートナーの彩度を評価した。
C*=[(a*)2+(b*)2]1/2 …(3)
彩度の評価基準は、以下の様である。
(a)着色剤にマゼンタ顔料を用いたもの(実施例1,2および比較例1〜3)
◎:非常に良好。C*が70以上。
○:良好。C*が65以上70未満。
△:やや不良。C*が60以上65未満。
×:不良。C*が60未満。
(b)着色剤にシアン顔料を用いたもの(実施例3,4および比較例4〜6)
◎:非常に良好。C*が60以上。
○:良好。C*が55以上60未満。
△:やや不良。C*が50以上55未満。
×:不良。C*が50未満。
(c)着色剤にイエロー顔料を用いたもの(実施例5,6および比較例7〜9)
◎:非常に良好。C*が80以上。
○:良好。C*が75以上80未満。
△:やや不良。C*が70以上75未満。
×:不良。C*が70未満。
<画像濃度>
彩度の評価に供したべた画像と同様にして、べた画像を形成した。形成されたべた画像の画像濃度を濃度計(マクベス社製:型番RD−918)を用いて測定した。画像濃度の評価基準は、以下の様である。
◎:非常に良好。画像濃度が1.45以上。
○:良好。画像濃度が1.35以上1.45未満。
△:やや不良。画像濃度が1.25以上1.35未満。
×:不良。画像濃度が1.25未満。
以上の結果を表2に示す。
本発明の要件を満足する、すなわち前記式(1)で表される直線である前述の1次直線の傾きAが0.2以上であり、かつ前記最大透過波長の透過率T2が85%以上である実施例1〜6のカラートナーは、彩度および画像濃度が非常に良好または良好であり、彩度が高く、かつ高い着色力を有することが判った。
一方、前述の1次直線の傾きAが0.2未満である比較例1,4,7のカラートナーでは、前記最大透過波長の透過率T2は85%以上であるので、光透過性が高く、高い彩度が得られたけれども、前述の1次直線の傾きAが0.2未満であるので、着色力が弱く、充分な画像濃度が得られなかった。また、顔料の配合比率を2倍にしたこと以外は比較例1,4,7のカラートナーと同様にして作製された比較例2,5,8のカラートナーでは、比較例1,4,7のカラートナーに比べ、顔料の濃度が高いので、前述の1次直線の傾きAが0.2以上になり、着色力が向上し、充分な画像濃度が得られたけれども、光透過性が悪くなり、前記最大透過波長の透過率T2が85%未満になったので、彩度が低下した。これは、比較例1,2,4,5,7,8のカラートナーでは、実施例1〜6のカラートナーと異なり、マスターバッチ化の条件が適正でなく、充分な顔料分散状態が得られなかったためであると考えられる。
また、前述の1次直線の傾きAが0.2未満であり、かつ前記最大透過波長の透過率T2が85%未満である比較例3,6,9のカラートナーは、彩度および画像濃度がいずれも不良であり、彩度および着色力がともに低いことが判った。
(比較例10〜18)
<カラートナーの製造>
比較例10〜12では、以下のようにしてカラートナーを作製した。なお、結着樹脂には、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られたポリエステル樹脂であって、Mw:5.5×104、MwとMnとの比(Mw/Mn):22、Tm:119℃、Tg:65℃、酸価:25KOHmg/gの特性を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂B」と称する)を用いた。表3に示す顔料の含水ペーストをポリエステル樹脂Bに加え、温度125℃に設定されたニーダにて加圧しながら15分間混練し、顔料含有率40重量%のマスターバッチを作製した。ポリエステル樹脂Bの88重量部と、作製したマスターバッチ10重量部と、帯電制御剤2重量部とを配合した後、溶融混練、粉砕および分級を行い、平均粒子径約7μmのトナー粒子から成るカラートナーを得た。なお、帯電制御剤には、サリチル酸亜鉛を用いた。
比較例13〜18では、以下のようにしてカラートナーを作製した。なお、結着樹脂には、前述のポリエステル樹脂Aを用いた。表3に示す顔料の含水ペーストをポリエステル樹脂Aに加え、温度110℃に設定されたニーダにて加圧しながら15分間混練し、顔料含有率40重量%のマスターバッチを作製した。ポリエステル樹脂Aの88重量部と、作製したマスターバッチ10重量部と、帯電制御剤2重量部とを配合した後、溶融混練、粉砕および分級を行い、平均粒子径約7μmのトナー粒子から成るカラートナーを得た。なお、帯電制御剤には、サリチル酸亜鉛を用いた。
カラートナーの作製に際し、結着樹脂であるポリエステル樹脂の種類、ならびに顔料の平均一次粒子径およびロジン系の表面処理の有無を表3に示すように変化させることによって、本発明の要件のいずれかを満足しない比較例10〜18のカラートナーを得た。
[評価2]
作製された各カラートナーについて、評価1と同様にして、光透過性、彩度および画像濃度を評価した。
また、結着樹脂に用いられるポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bについて、評価1と同様にして、波長400nm〜700nmにおける分光透過特性を測定した。ただし、測定サンプルは、結着樹脂を粉砕および分級し、得られた微粉砕された結着樹脂を用い、カラートナーを用いてトナー膜を形成する際と同様にして、OHPシート(シャープ株式会社製:CX7A4C)上に膜厚10μmの結着樹脂膜を形成することによって作製した。最も吸収している波長である最大吸収波長における透過率は、ポリエステル樹脂Aが95%であり、ポリエステル樹脂Bが88%であった。
以上の結果を表4に示す。なお、表4では、評価1における実施例1,3,5の結果も合わせて示す。
比較例10〜12のカラートナーでは、前述の1次直線の傾きAが実施例1,3,5とほぼ同等の値であって0.2以上であるので、着色力が強く、高い画像濃度が得られた。これは、比較例10〜12のカラートナーと実施例1,3,5のカラートナーとが、ほぼ同等の顔料分散状態を有するためであると考えられる。しかしながら、比較例10〜12のカラートナーでは、前述の最大吸収波長の透過率が90%未満であるポリエステル樹脂Bが結着樹脂に用いられているので、ポリエステル樹脂Bの光透過性の低さがカラートナー全体の透過領域の透過率に悪影響を与え、前記最大透過波長の透過率T2が85%未満となり、彩度のやや低い画像となった。
比較例13〜18のカラートナーでは、前述の1次直線の傾きAが0.2未満であるので、着色力が弱く、充分な画像濃度が得られなかった。また比較例13〜15,17のカラートナーでは、前記最大透過波長の透過率T2が85%以上であるので、光透過性が高く、高い彩度が得られたけれども、比較例16,17のカラートナーでは、前記最大透過波長の透過率T2が85%未満となり、彩度のやや低い画像となった。これは、比較例13〜15では平均一次粒子径の大きい顔料が用いられており、また比較例16〜18ではロジンまたはロジン誘導体による表面処理が施されていない顔料が用いられているので、顔料の分散性が悪かったためであると考えられる。
(実施例7〜15および比較例19〜21)
<カラートナーの製造>
実施例7〜15および比較例19〜21では、以下のようにしてカラートナーを作製した。なお、結着樹脂には、実施例7〜9では、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られたポリエステル樹脂であって、Mw:2.0×104、MwとMnとの比(Mw/Mn):10、Tm:108℃、Tg:65℃、酸価:8.3KOHmg/gの特性を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂C」と称する)を用い、実施例10〜12では、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られたポリエステル樹脂であって、Mw:1.2×104、MwとMnとの比(Mw/Mn):5.5、Tm:103℃、Tg:61℃、酸価:38KOHmg/gの特性を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂D」と称する)を用い、比較例19〜21では、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られたポリエステル樹脂であって、Mw:1.9×104、MwとMnとの比(Mw/Mn):9.2、Tm:107℃、Tg:65℃、酸価:4.2KOHmg/gの特性を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂E」と称する)を用い、実施例13〜15では、ビスフェノールAとテレフタル酸とから得られたポリエステル樹脂であって、Mw:1.5×104、MwとMnとの比(Mw/Mn):6.3、Tm:105℃、Tg:63℃、酸価:45KOHmg/gの特性を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂F」と称する)を用いた。
表5に示す顔料の含水ペーストを表5に示すポリエステル樹脂に加え、温度110℃に設定されたニーダにて加圧しながら15分間混練し、顔料含有率40重量%のマスターバッチを作製した。マスターバッチに用いたポリエステル樹脂88重量部と、作製したマスターバッチ10重量部と、帯電制御剤2重量部とを配合した後、混練、粉砕および分級を行い、平均粒子径約7μmのトナー粒子から成るカラートナーを得た。なお、帯電制御剤には、サリチル酸亜鉛を用いた。
カラートナーの作製に際し、ポリエステル樹脂の種類を表5に示すように変化させることによって、本発明の要件をすべて満足する実施例7〜15のカラートナーと、本発明の要件のいずれかを満足しない比較例19〜21のカラートナーとを得た。
[評価3]
作製された各カラートナーについて、評価1と同様にして、光透過性、彩度および画像濃度を評価した。また、以下のようにしてエージング特性を評価した。
<エージング特性>
作製された各カラートナー100重量部を、平均粒子径12nmのコロイダルシリカ1.5重量部で表面処理し、表面処理されたカラートナーを得た。画像形成装置としてフルカラー複合機(シャープ株式会社製:AR−C260)を用い、温度35℃、相対湿度85RH%の高温高湿環境下において、以下のようにしてエージング特性を評価した。
複写動作開始前に、現像スリーブ上のトナーの帯電量を吸引式帯電量測定器(トレック(TREK)社製:210HS−2A)を用いて測定し、これを初期の帯電量V1とした。
次いで、原稿濃度6%の原稿を5000枚連続複写させた。その後、感光体上に残存するカラートナーをメンディングテープによってサンプリングし、メンディングテープの反射率濃度を濃度計(マクベス社製:型番RD−918)を用いて測定し、これをかぶり濃度とした。かぶり濃度の評価基準は、以下の様である。
○:良好。かぶり濃度が0.015以下。
△:やや不良。かぶり濃度が0.015を超え0.020以下。
×:不良。かぶり濃度が0.020を超える。
また、原稿濃度6%の原稿の5000枚連続複写後に、初期と同様にして現像スリーブ上のトナーの帯電量を測定し、これを連続複写後の帯電量V2とした。初期の帯電量V1と連続複写後の帯電量V2との比(V2/V1)を、帯電量の変化率ΔVとして求めた。帯電量の変化率ΔVの評価基準は、以下の様である。
○:良好。ΔVが0.90以上1.10以下。
△:やや不良。ΔVが0.85以上0.90未満または1.10を超え1.20以下。
×:不良。ΔVが0.85未満または1.20を超える。
以上の結果を表6に示す。
本発明の要件を満足する、すなわち前記式(1)で表される直線である前述の1次直線の傾きAが0.2以上であり、かつ前記最大透過波長の透過率T2が85%以上である実施例7〜15のカラートナーは、彩度および画像濃度が非常に良好または良好であり、彩度が高く、かつ高い着色力を有することが判った。
特に、酸価が5〜40KOHmg/gの範囲にあるポリエステル樹脂CまたはDを用いた実施例7〜12のカラートナーは、高温高湿環境下におけるエージング特性の評価においても、かぶり濃度が低く、かつ帯電量の変化率ΔVが1に近く、安定した帯電推移であり、湿度および温度による影響を受けにくいことが判った。一方、酸価が5〜40KOHmg/gの範囲を高い方に外れるポリエステル樹脂Fを用いた実施例13〜15のカラートナーは、実施例7〜12のカラートナーに比べ、5000枚の連続複写という長期エージング後のかぶり濃度が高く、また帯電量の変化率ΔVが1から大きく外れ、エージング特性が不安定であることが判った。
比較例19〜21のカラートナーでは、前述の1次直線の傾きAが0.2未満になり、充分な着色力が得られず、画像濃度は低かった。これは、比較例19〜21のカラートナーでは、酸価が5〜40KOHmg/gの範囲を低い方に外れるポリエステル樹脂Eが結着樹脂に用いられているので、極性の高い顔料が結着樹脂中に充分に分散できなかったためであると考えられる。
以上のように、前記傾きAが0.2以上になり、前記最大透過波長の透過率T2が85%以上になるようにカラートナーを設計することによって、着色力および彩度の高いカラートナーを得ることができた。