〔画像形成装置の構成〕
本発明の実施の一形態を図面に基づいて説明する。
図3は、本発明の実施形態における電子写真方式の画像形成装置の内部構造を示す正面図である。この画像形成装置41は、画像読取装置42(図4参照)にて読み込まれた画像や、画像形成装置41に外部から接続された機器(例えばパーソナルコンピュータなどの画像処理装置)からのデータを画像として記録出力するものである。
画像形成装置41には、感光体ドラム1を中心に、画像形成プロセスの各機能を担う各プロセスユニットが配置され、これらにより画像形成部が構成されている。感光体ドラム1の周囲には、感光体ドラム1の回転方向に、帯電装置2、光走査装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6および除電装置7等が順次配置されている。
帯電装置2は、感光体ドラム1の表面を均一に帯電させるものである。光走査装置3は、均一に帯電された感光体ドラム1上に光像を走査して静電潜像を書き込むものである。現像装置4は、光走査装置3により書き込まれた静電潜像を現像剤補給容器8から供給される現像剤により顕像化するものである。転写装置5は、感光体ドラム1上に顕像化された画像を記録材上に転写するものである。クリーニング装置6は、感光体ドラム1上に残留した現像剤を除去して感光体ドラム1上に新たな画像を記録することを可能にするものである。除電装置7は、感光体ドラム1表面の電荷を除去するものである。
画像形成装置41の下部には供給トレイ9が内装されている。この供給トレイ9は、記録材を収容する記録材収容トレイである。供給トレイ9に収容された記録材は、ピックアップローラ10等により1枚ずつ分離され、レジストローラ11まで搬送され、レジストローラ11により感光体ドラム1に形成された画像とのタイミングが計られ、転写装置5と感光体ドラム1との間に順次供給される。そして感光体ドラム1上に記録再現された画像は記録材上に転写される。なお、供給トレイ9への記録材の補給は、画像形成装置41の正面側(操作側)に、供給トレイ9を引き出して行なう。
画像形成装置41の下面には記録材受入口12、13が形成されている。これら記録材受入口12、13は、図4に示すように、周辺装置として準備されている多段の記録材供給トレイを有する記録材供給装置46、および大量の記録材を収容可能とした記録材供給装置47等から送られてくる記録材を受け入れ、画像形成部に向かって記録材を順次供給するためのものである。
画像形成装置41内の上部には、定着装置14が配置されている。定着装置14は、画像が転写された記録材を順次受け入れて、定着部材としての定着ローラ31と加圧部材としての加圧ローラ32等により、記録材上に転写された現像画像を熱と圧力とにより定着するものである。これにより、記録材上に画像が記録される。
画像が記録された記録材は、搬送ローラ15によりさらに上方搬送され、切換えゲート16を通過する。そして、記録材の排出トレイが画像形成装置41に外装された積載トレイ17に設定されている場合、記録材は反転ローラ18により積載トレイ17に排出される。一方、両面画像形成や後処理が指定されている場合、記録材は、一旦反転ローラ18により積載トレイ17に向けて排出される。なお、この場合には、記録材を完全に排出せず、記録材を狭持させたまま反転ローラ18を逆転させる。そして、記録材を逆方向、つまり両面画像形成や後処理のために選択的に装着されている記録材再供給搬送装置43(図4参照)や後処理装置45(図4参照)の装着されている方向に反転搬送する。このとき、切換えゲート16は、図3の実線の状態から破線の状態に切換えられる。
両面画像形成を行なう場合、反転搬送された記録材は、記録材再供給搬送装置43を通り、再び画像形成装置41に供給される。後処理が成される場合、反転搬送された記録材は、記録材再供給搬送装置43から別の切換えゲートにて、中継搬送装置44を介して後処理装置45に搬送され、後処理が施される。
光走査装置3の上空間部には、画像形成プロセスを制御する回路基板及び外部機器からの画像データを受け入れるインターフェイス基板等を収容する制御装置19が配置され、光走査装置3の下空間部には、各種の上記インターフェイス基板、ならびに各上記画像形成プロセスユニットに対して電力を供給する電源装置20等が配置されている。
図3に示した画像形成装置は、図4に示す画像形成システムに備えられている。この画像形成システムは、画像形成装置41の他、画像読取装置42、記録材再供給搬送装置43、中継搬送装置44、後処理装置45、記録材供給装置46および記録材供給装置47を備えている。
画像読取装置42は、セットされた原稿の画像を露光走査して、光電変換素子であるCCD(charge coupled device)上に結像し、原稿画像を電気的信号に変換した上で画像データとして出力する。読み取られた画像データは、画像形成装置41の画像処理手段にて、画像補正やラスタライズ等の加工処理後に、光走査装置3にて感光体ドラム1へ書き込まれる。
この画像読取装置42は、原稿の片面だけでなく両面をほぼ同時に読み取ることができるようになっており、また、自動(自動原稿搬送装置48)/手動にて原稿を搬送することができる。
記録材再供給搬送装置43は、画像形成装置41の左側側面に取り付けられた記録材搬送経路ユニットである。この記録材再供給搬送装置43は、定着装置14から排出された画像が記録された記録材を画像形成装置41上部の排紙部の反転ローラ18を用いて反転搬送して、記録材の表裏を反転した上で、再度、画像形成装置41における画像形成部の感光体ドラム1と転写装置5と後処理装置45との間(転写部)に向かって供給する。
中継搬送装置44は、記録材を後処理装置45に搬送するものであり、記録材再供給搬送装置43と後処理装置45との間に装着されている。
後処理装置45は、画像形成システムの左側位置に配置されており、第1の記録材排出部45aと第2の記録材排出部45bとを備えている。
第1の記録材排出部45aは、画像形成装置41から排出された画像の形成された記録材を、後処理装置45の側面上部に設けられた受け取り搬送部45cによって受け取り、記録材がそのままの状態で排出される排出部である。第2の記録材排出部45bは、ステープル,パンチ等選択的に装着される後処理装置45により後処理がなされた記録材が排出される排出部である。これら第1と第2の記録材排出部45a・45bは、使用者によって適宜選択される。
後処理装置45は、図示しないが、所定枚数の記録材に対してステープル処理を施す機能、B4もしくはA3などの記録材の紙折りする機能、ファイリング用の穴を形成する機能、あるいはソートや仕分けを行なうために数ビン〜数10ビンの多数の記録材排出部を有する機能のうち幾つかを組み合わせて搭載している。
本発明に係る特徴点は、特に定着装置14において存在するものであり、以下の実施の形態1〜4で定着装置14の詳細な説明を行なう。
〔実施の形態1〕
実施の形態1に関する画像形成装置の定着装置の構成例について、図1を参照して説明する。
図1に定着装置14の構造を詳細に示す。図1は、定着装置14を示す縦断面図である。この定着装置14において、ローラ形状をなす定着部材である定着ローラ31および加圧部材である加圧ローラ32は、それぞれ内部に導電性の芯金61および71を有している。
定着ローラ31は、鉄系の冷間圧延炭素鋼鋼管を引き抜き等で所望の外径、肉厚に加工し、その後研磨加工を行なった芯金61をベース基材とし、外径40mm、厚み(肉厚)1.3mmに製作されている。
定着ローラ31の両端部31a(図2参照)は、外径を30mm、厚み1.5mmに絞り加工を行なって、定着ローラ31に加わる荷重を軸支部材であるボールベアリング81(図2、図5参照)で支える。なお、ボールベアリング81はころがり軸受の一種である。
定着ローラ31の芯金61は、防錆の目的で材料表面に対してパーカライジング処理(リン酸塩被膜処理)を施し、錆の発生を抑制している。なお、芯金61の肉厚、材質は、定着装置の荷重条件、ローラの構成、プロセス速度、耐久性要求仕様等によって適宜変更することが可能である。
定着ローラ31における、絞り加工を施していない中央のスリーブ部分31b(図2参照)には、加熱溶融したトナーとの接触でも離型性能を維持できるフッ素系樹脂が一般的に用いられる。このフッ素系樹脂は、導電性の芯金61上に、中間層62を介して、離型層(表面絶縁層)63としてコーティングされている。なお、本実施形態では、離型層63のフッ素系樹脂として、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の混合体に、強化材としてマイカや強化フィラーを分散させ、塗布、焼成したものを用いている。なお、離型層63として、PFAまたはPTFEを単独で使用することもできる。
また、離型層63としては、耐熱性および離型性の観点から、その他、例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、あるいはフッ素ゴムラテックスを含む材料を各々単独で、もしくは2種類以上を組み合わせて使用することもできる。これらは、塗布・焼成によって形成すること、あるいは、チューブ被覆で形成すること等ができる。
中間層62は、離型層63としてのフッ素系樹脂とパーカライジング処理した炭素鋼鋼管表面である芯金61との接着性を高めるものである。本実施形態では、ゴム系あるいはレジン系接着剤等の絶縁性プライマを薄く塗布して用いている。なお、中間層62としては、前述の絶縁性プライマ以外に、導電性プライマを用いることができる。
また、定着ローラ31の内面には耐熱吸熱層59が形成されている。この耐熱吸熱層59は、定着ローラ31が内包した加熱体であるハロゲンランプ64a・64bが定着ローラ31の内周面に赤外光等の放射エネルギーを放出した場合に、これを効率良く吸収して熱に変換するものである。耐熱吸熱層59は、例えば、変性シリコーン樹脂、無機耐熱黒顔料、炭化水素(溶剤)などを混合したものを塗布し乾燥させたものであり、膜厚20〜30μmに形成する。一般的に、オキツモ(商品名)、テツゾール(商品名)、セルモブラック(商品名)等の耐熱塗料が用いられている。本実施形態では、セルモブラックを用いている。
さらに、定着ローラ31および加圧ローラ32の排紙側には、記録材の剥離を補助する上剥離爪67と下剥離爪78とが備えられている。この上剥離爪67と下剥離爪78とは、各々が各ローラに軽く当接しており、定着ローラ31や加圧ローラ32に貼り付いた記録材91を機械的に剥ぎ取るものである。
加圧ローラ32は、鉄やステンレス等の導電性の芯金(肉厚3mm)71上に、シリコーンゴム等の耐熱性を有する絶縁性の弾性層72を形成し、その外周に中間層73を形成したものである。この中間層73の外周には、表面の離型性能を向上させる離型層(表面抵抗層)74を形成する。
中間層73は、弾性層72と離型層74との接着性を高めるものである。本実施の形態において、中間層73には、絶縁性プライマを用いている。これは、中間層73と弾性層72との接着を容易にするためである。また、中間層73の外径は40mmに設定する。
加圧ローラ32の離型層74は、表面抵抗率が1015Ω以上のPFAチューブ(膜厚50μm)を用いている。なお、離型層74として、表面抵抗率が105Ω程度のPFAチューブでもよいが、より好ましくは、107Ω〜1018Ωの表面抵抗率のものがよい。また、上記PFAチューブの体積抵抗率は、107Ω・cm以上、より好ましくは、1010Ω・cm以上のものが良い。
弾性層72は、絶縁性の弾性部材を円筒形状かつ厚み(肉厚)5mmに成形したものである。具体的には、弾性層72は、芯金71とPFAチューブとをセットした注型金型を注型装置に絶縁性の弾性部材を注入し、1次加硫、およびオーブンによる2次加硫をした後に、端部を成形することにより得られるものである。なお、本実施形態において、上記弾性部材は絶縁性であるが、導電性であっても構わない。
この弾性部材は、基材ゴムに対して、低熱伝導率かつ低熱容量を示す略球形のフィラー(基材ゴムよりも大幅に熱伝導率が低く、脱泡済のフィラー)を18質量部混練して、均一分散させることにより得られる。ここで、基材ゴムには非発泡シリコーンゴム(信越化学工業社製)が使用され、上記フィラーには直径100μmのガラスバルーンが使用される。なお、上述した「質量部」とは、混練する材料の質量比を示したものであり、フィラーを18質量部混練するとは、基材ゴム100グラムに対しフィラーを18グラム混練する意味である。
弾性部材の容積(基材ゴムとフィラーとの合計容積)に対するフィラーの容積配合率は、15〜80%程度に設定する。これは、弾性部材に対するフィラーの容積配合率が多すぎると(80%超)、基材ゴムの容積配合率が少なくなりすぎ、これにより成形後の弾性部材のゴム硬度が高くなり過ぎてしまい、所望のゴム硬度に設定するのが困難になるからである。また、壇席部材の容積に対するフィラーの容積配合率が多すぎると、加熱・荷重後の条件下では、ゴムの劣化が早く進行し、使用中に急激に硬度低下を起こす“へたり”が生じやすく、長期の使用に耐えられないことがあるからである。一方、弾性部材の容積に対するフィラーの容積配合率が少なすぎると(15%未満)、フィラーによる所望の特性(後述する加圧ローラ32の熱貫流率K1)が殆ど得られず、従来のシリコーンゴムから得られる弾性層と変わらないことになるからである。
なお、上記基材ゴムは、上記非発泡シリコーンゴムに限られるものではなく、シリコーンゴム系の材料であれば、高温加硫型シリコーンゴム(HTV)、付加反応硬化型シリコーンゴム(LTV)、縮合反応硬化型シリコーンゴム(RTV)、フッ素ゴム、これらの混合物等を用いることができる。具体的には、例えば、ジメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、ビニルシリコーンゴム等のシリコーンゴム系、フッ化ビニリデンゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレンゴム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、ホスファゼン系フッ素ゴム、フルオロポリエーテル等のフッ素ゴム等を使用することができる。これらのゴムは、各々単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもでき、注型・加硫、研磨等で成形する。
また、基材ゴムに対して混練するフィラーとして、無機系材料または樹脂系材料を使用できる。このフィラーに使用される無機系材料としては、無機系ガラス、シリカ、カーボン、アリミナ、ジルコニアなどのバルーン(中空)、あるいは気泡含有率の高いマイクロビーズなどがある。さらに、このフィラーに使用される無機系材料は、東海工業社製のガラスバルーン(粒子径100μm)であってもよい。
また、上記フィラーに使用される樹脂系材料としては、樹脂系のフェノール樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニリデンとメタアクリロニトリルとの共重合体、アクリロニトリル樹脂などのバルーン(中空)あるいは気泡含有率の高いマイクロビーズなどがある。さらに、このフィラーに使用される樹脂系材料は、外殻にアクリロニトリル樹脂を用いたマイクロバルーン(粒子径80μm)であってもよい。
なお、上記フィラーの大きさや形状は、所望の特性(後述する加圧ローラ32の熱貫流率K1)が得られれば任意であるが、このフィラーの粒子径や外殻の厚み(肉厚)などのサイズが大きすぎると、前述したように弾性部材の容積に対するフィラーの容積配合率が大きくなりすぎるという問題が生じる。この場合、基材ゴムに対する上記フィラーの混練が不均一になり、基材ゴムに対する上記フィラーの分散状態が悪くなり、基材ゴムに対して上記フィラーを混練することによる所望の特性が得られない。さらに、この場合、径時変化などによって基材ゴムの弾性特性もなくなってしまうという問題も生じる。
したがって、上記基材ゴムに対して上記フィラーを混練することにより得られる弾性部材が適切な硬度(大幅なへたりがないように)を示し、かつ所望の特性(後述する加圧ローラ32の熱貫流率K1)が得られるように、上記フィラーの容積配合率と上記フィラーの種類と上記基材ゴムの種類とを選択する必要がある。
ここで、好ましいフィラーのサイズについて説明する。例えば、上記フィラーの粒子径の上限値としては200μm以下が好ましい。これにより、上記弾性部材における弾性を損なうことなく、上記フィラーを混練した効果(後述する加圧ローラ32の熱貫流率K1)を持たせることができる。
また、上記フィラーの粒子径の下限値としては、製造上の制約や、外殻の強度低下を抑制する目的から50μm以上が好ましい。ただし、上記フィラーの製法の工夫によっては、この下限値を20μm程度まで設定することが可能である。しかし、上記フィラーの粒子径を極めて小さく設定する場合、上記フィラーの外殻の外力に対する強度を維持するために外殻の厚み(肉厚)を増す必要がある。上記フィラーの外殻を厚くし過ぎると、上記フィラーの熱特性が不充分なものとなり、熱を伝えやすくしてしまい、ひいては加圧ローラ32に所望の特性(後述する加圧ローラ32の熱貫流率K1)を与えることができなくなってしまう。また、基材ゴムに対する上記フィラーの分散状態も悪くなってしまう。
また、以上では、基材ゴムに対して混練するフィラーとして球形状のものを使用したが、楕円形、扁平形、非球形でもよく、また表面に小さな凹凸があってもよく、上記フィラーの形状は球形状に限定されるものではない。したがって、以上では、好ましいフィラーのサイズとして幾何平均の粒子径を用いて説明したが、長軸径または短軸径、相当径(外接あるいは内接する円の直径に相当する直径で表す外接円相当径、周長円相当径、体積球相当径)、平均径(二軸平均径、三軸平均径など)、統計的径(定方向接線径、定方向面積等分径、定方向最大径)、有効径(Stokes(沈降)径、Allen(沈降)径、Newton(沈降)径)を用いて好ましいフィラーのサイズを設定しても構わない。また、上記平均径において、その平均のとり方として、フィラーの面積平均、個数平均、体積平均(個数平均体積系)、重量平均、調和平均、表面積平均(個数平均表面積径)、長さ平均表面積径による平均粒子径や、統計的粒子径、相当粒子径、有効粒子径により好ましいフィラーのサイズを設定してもよい。
なお、本実施形態では、上述したように、上記弾性部材の容積に対する上記フィラーの容積配合率は15〜80%であることが好ましいが、このような容積配合率を実現するためには、上記フィラーの粒子径は200μm以下であることが好ましい。
つぎに、定着ローラ31について、図5を参照して説明する。図5は、定着ローラ31の組立部の分解斜視図である。定着ローラ31は、定着装置14のフレーム82に取り付けられたボールベアリング81により支持されている。フレーム82は鉄系の冷間圧延鋼をプレス成形したものである。ボールベアリング81は、定着ローラ31の両端部における絞り部分のジャーナル部に嵌合され、定着ローラ31の荷重を支えている。
一方、加圧ローラ32は、ステンレス等の軸部に対して、ボールベアリングを嵌合し、このボールベアリングを、フレームにカシメた支点軸から延びる荷重レバーによって受け、定着ローラ31の中心軸方向へ、荷重バネ等によって荷重する。この荷重による圧接力は、本実施形態において、764N(両端合計)であるが、記録材91の種類、定着ローラ31や加圧ローラ32の剛性、温調温度等の条件や性能によって、任意に設定可能である。
定着ローラ31と加圧ローラ32は、所定の荷重で圧接されており、記録材91を狭持搬送しながら、トナーからなる未定着画像を加熱溶融し記録材91上に定着する。
さらに、本実施形態の定着装置14では、加圧ローラ32の周囲に、清掃部材である第1クリーニングローラ(電位付与部材、清掃部材)75および第2クリーニングローラ(電位付与部材、清掃部材)76と、加熱部材である加熱ローラ77が当接している。
第1及び第2クリーニングローラ75、76は、アルミニウムや鉄、あるいはそれらの合金(ステンレス鋼も含む)材料からなり、中空ローラあるいは中実ローラを加工して、両端部にすべり軸受やころがり軸受を嵌合し、荷重バネ等により、加圧ローラ32に対して所定範囲のニップを保持しながら圧接している。本実施形態では、第2クリーニングローラ76は、炭素鋼やステンレス鋼製の外径15mmのローラであって、第1クリーニングローラ75は、炭素鋼やステンレス鋼製の外形8mmのローラである。これら第1及び第2クリーニングローラ75、76の表面には、加圧ローラ32表面に少量残留するトナーを清掃する為に、所定の表面粗さが付与されている。
一方、加熱ローラ77は、アルミニウムや鉄、あるいはそれらの合金(ステンレス鋼も含む)材料を用いた中空ローラであり、最外周面に設けた表面離型層77aによって離型性能を維持したまま、加圧ローラ32と圧接した際のニップでの熱伝導によって表面を加熱する。本実施形態では、アルミニウム合金製の外径15mm、肉厚0.75mmのストレートパイプ77bの外周面に、中間層77cと表面離型層77aとを順次形成し、ストレートパイプ77bの内周面には、定着ローラ31と同様に耐熱吸熱層を設け、内部には、ハロゲンランプ77dを内包している。
加熱ローラ77における中間層77cや表面離型層(表面絶縁層)77aは、定着ローラ31における中間層62や離型層63と異なる構成を用いることが可能であるが、本実施形態では同じ構成を用いている。また、加熱ローラ77についても、両端部にすべり軸受やころがり軸受を嵌合し、荷重バネ等により、加圧ローラ32に対して所定範囲のニップを保持しながら圧接している。
前述した定着ローラ31に嵌合したボールベアリング81は、図5に示すように、フレーム82との間にPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)やPPO樹脂(ポリフェニレンオキシド)等の耐熱・絶縁材料よりなるベアリングホルダ83(図2参照)を介して電気絶縁性を持たせて荷重を支えている。このベアリングホルダ83によって、定着ローラ31は、画像形成装置41のフレームや定着装置14のフレームと電気的に絶縁されている。
定着ローラ31には、図1に示すように、記録材91の裏面に付着してくる逆極性トナー(逆極性顕像剤)92を記録材91に留める向きに電位差を付与する目的で、バイアス装置94からバイアス電圧を印加する。本実施形態において、転写装置5は、接触方式で転写を行なうものであり、図3ではローラ状のものを示しているが、ベルト状であってもよい。なお、図1において、記録材91における定着ローラ31側の面に付着しているトナー93は、画像を形成するトナーである。
ここで、転写装置5は、定着装置14に対して記録材91の搬送方向における上流に位置しており、感光体ドラム1上に形成されたトナーによる静電顕像であるトナー画像を記録材に写し取る転写プロセス行なう。このときに、上記の逆極性トナー92が転写装置5の表面に付着し、さらに転写装置5の表面から記録材91の表面に付着する。
転写装置5では、通常、逆極性トナーや紙紛等を除去するような機構を有するものの、完全には除去できないことが多く、この残留した逆極性トナーや紙紛は、転写装置5の表面に蓄積されてくる。そして、電気的あるいは機械的付着力等の力のバランスによって、一部あるいは全部が記録材91に付着して、下流側の定着装置14に運ばれてくる。
通常であれば、逆極性トナーや紙粉等は、そのまま記録材に付着し、記録材と共に画像形成装置から排出される。しかしながら、従来の定着装置では、多数枚の定着処理を行った場合、定着装置の条件、特に定着ローラや加圧ローラの摩擦帯電によって生じた静電気力の大きさや極性等によって、逆極性トナーが記録材から引き剥がされて加圧ローラ、さらには定着ローラにまで付着し、その結果、記録材の裏面や表面に画像不良や欠陥を発生させてしまうこととなる。
しかし、本実施形態の定着装置14では、定着ローラ31における導電性の芯金61に、逆極性トナー92(例えば、正極性)の帯電極性とは逆極性(例えば、負極性)の定着バイアス電圧を印加している。
このような構成では、バイアス装置94から定着ローラ31の芯金61に印加される定着バイアス電圧にて、記録材91の裏面の逆極性トナー92を記録材91の裏面に留める方向の静電気力が作用する。これにより、記録材91の裏面の逆極性トナー92は、加圧ローラ32の方へ引き剥がれることなく記録材91上に留まる。その結果、逆極性トナー92は、記録材91の裏面に定着されて記録材91と共に画像形成装置41から排出される。なお、記録材91上の逆極性トナー92は、記録材91の1枚あたりの量が少量であるため、定着された画像に対してはほとんど影響のないものである。
更に本実施の形態に係る定着装置14について、図2を用いて説明する。
定着ローラ31は、図2に示すように、主に定着ローラ31の中央領域を加熱する第1の加熱手段であるメインランプとしてのハロゲンランプ64a(図1参照、定格電力820W)と、主に定着ローラの両端部を加熱する第2の加熱手段であるサブランプとしてのハロゲンランプ64b(図1参照、定格電力450W)とを内包している。
また、加圧ローラ32表面に当接する加熱ローラ77は、この加熱ローラ77の全幅を加熱する第3の加熱手段である加熱ランプとしてのハロゲンランプ77d(定格電力500W)を内包している。
通常、これらの加熱手段(第1の加熱手段〜第3の加熱手段)は、波数制御や位相制御などの電力制御方法を用いて、所定電力が出力されるように制御される。
なお、ハロゲンランプ64aの加熱領域、およびハロゲンランプ64bの加熱領域は、上述した領域に限定されるものではなく、例えば、ハロゲンランプ64aが定着ローラ31の全幅を加熱し、ハロゲンランプ64bが定着ローラ31の中央部を加熱する構成、またはその逆の構成でも構わない。さらに、定着ローラ31にはハロゲンランプが2本内包されているが、2本に限定されるものではなく、3本以上あるいは1本でもよい。
また、図2に示すように、定着ローラ31の長手方向の中央付近に第1温度検出手段としてのメインサーミスタ66a(図1参照)が備えられ、定着ローラ31の非駆動源側に第2温度検出手段としてのサブサーミスタ66bが備えられている。さらに、図1に示すように、定着ローラ31の表面近傍には、過昇温防止手段であるサーモスタット65が配置されている。
メインサーミスタ66aは、定着ローラ31の中央領域の温度を検出する温度検出素子であって、ハロゲンランプ64aの通電制御に用いられる。サブサーミスタ66bは、定着ローラ31の非駆動側(駆動源側とは逆側端部)における、記録材のサイズによっては非通紙となる領域の温度を検出する温度検出素子であって、ハロゲンランプ64bの通電制御に用いられる。サーモスタット65は、異常昇温時にハロゲンランプ64a・64bへの通電を遮断するためのものである。
さらに、加熱ローラ77の中央付近にも、加熱ローラ77の温度を検出する第3温度検出手段であるサーミスタ79が配設され、ハロゲンランプ77dの通電制御に用いられる。
なお、本実施形態で用いるサーミスタは、図17(a)(b)に示すように、ハウジング129に固定支持された弾性部材であるステンレス板125上にサーミスタチップ124を直接ボンディングして、熱応答性を早くしたものである。また、本実施形態のサーミスタは、サーミスタチップ124をボンディングしているステンレス板125の受熱面側に対して絶縁被覆層126を被せ、その上に耐熱離型層127を被せる。また、その反対側の面には保護層128を被せる。また、ステンレス板125とハウジング129との間において、当接するローラ表面との絶縁距離を確保するために、絶縁被覆層126、耐熱離型層127および保護層128にて、ステンレス板125をハウジング129の境界付近まで覆っている。こうすることで、サーミスタチップ124やステンレス板125に対して、各々のローラからリーク電流が流れることがなく、高電圧による破損や劣化といった不具合が解消される。この結果、安定したバイアス電圧を印加できると共に、正確な温度情報を取得することができ、良好な温度制御を実施することができる。
本実施形態において、絶縁被覆層126は接着剤を含んだ厚み50μmのポリイミド(登録商標:カプトン)であり、耐熱離型層127は接着剤を含んだ厚み130μmのガラス繊維に耐熱離型樹脂を含浸させたものである。また、保護層128は接着剤を含んだ厚み80μmのテフロン(登録商標)である。なお、これら材料は、上記のものに限定されず、諸性能において代替できるものであれば、他の材料でもよい。
つぎに、図6に基づいて、本実施の形態の定着装置14における定着ローラ31および加圧ローラ32の物性について詳細に説明する。図6は、本実施形態の定着ローラ31および加圧ローラ32の各物性のパラメータを示したテーブルである。
図6に示すように、定着ローラ31の熱貫流率K2は、5364W/m2・Kであり、加圧ローラ32の熱貫流率K1は、33.6W/m2・Kである。なお、加圧ローラ32の弾性層72は、前述した低熱伝導率かつ低熱容量のフィラーを基材ゴムに配合したもので、弾性層72の熱伝導率は0.17W/m・K(公称値)である。
ここで、熱貫流率について簡単に説明する。物体aにおける熱貫流率とは、物体aにおける熱流束の通過しやすさを示したパラメータであり、パラメータが大きいほど熱流束が物体aを通過しやすい。具体的に、物体aの熱貫流率は、物体aの熱抵抗の逆数で示される。また、物体aの熱抵抗は、(物体aの厚み/物体の熱伝導率)で導くことができる。
つぎに、定着ローラ31および加圧ローラ32の熱貫流率の求め方について説明する。定着ローラ31は、単一の材質から形成されているのではなく、様々な材料を多層構造に形成したローラである。したがって、定着ローラ31および加圧ローラの熱貫流率は、ローラを構成する各層の熱抵抗の和の逆数に等しい。よって、本実施形態における加圧ローラ32の熱貫流率K1は以下の〔数1〕より求めることができ、定着ローラ31の熱貫流率K2は以下の〔数2〕より求めることができる。
なお、本実施形態では、加圧ローラ32において、弾性層72と離型層74との間に中間層73が備えられているが、中間層73を備えない場合や中間層73が極めて薄い場合は、数1において、(t7/λ7)の項は不要である。また、本実施形態では、定着ローラ31において、芯金61と離型層63との間に中間層62が備えられているが、中間層62を備えない場合や中間層62が極めて薄い場合は、数2において、(t6/λ6)の項は不要である。
本実施の形態の定着装置14では、定着ローラ31の熱貫流率K2は、加圧ローラ32の熱貫流率K1より極めて大きくなるように設定している。具体的には、熱貫流率K2は、熱貫通率のK1の100倍以上かつ320倍未満になるように設定する。つまり、(100K1)≦(K2)≦(320K1)が成立するようにしている。このように設定している理由を以下説明する。
定着ローラ31は、内部にハロゲンランプ64a・64bを内包している。つまり、定着ローラ31自体を加熱するには、定着ローラ31内部より加熱する必要がある。したがって、定着ローラ31には、高加熱効率および高熱応答性(熱を多くかつ迅速に伝えられる)が要求される。つまり、定着ローラ31の性能として、高熱貫流率が要求される。
さらに、定着ローラ31は加圧ローラ32に圧接している構成である。したがって、加圧ローラ32の熱貫流率K1が、定着ローラ31の熱貫流率K2に対して相対的に高ければ、定着ローラ31の熱が加圧ローラ32に移動しやすくなり、定着ローラ31の加熱効率および熱応答性が低くなる。よって、定着ローラ31自体の加熱効率および熱応答性を向上させるためには、定着ローラ31の断熱性能を低く、即ち加熱性能を高くするだけでなく、加圧ローラ32の断熱性能を定着ローラ31の断熱性能に対して相対的に高める必要がある。以上の理由により、熱貫流率K2は,熱貫通率のK1より極めて大きく設定する必要がある。
つぎに、本実施形態における定着装置14の物性を明確にするために、定着装置14と比較対象である定着装置との間で比較実験を行なった。なお、比較対象の定着装置とは、定着ローラの芯金の材質としてアルミニウム合金を用い、加圧ローラの弾性層としてフィラーを混練していないシリコーンゴムを用いたものである。ここで、比較対象の定着装置の物性を以下の表1に示す。
以下、本実施形態の定着装置14における定着ローラ31と、比較対象の定着装置における定着ローラとの差異について説明する。
比較対象としての定着ローラでは、芯金の材質としてアルミニウム合金が使用されていると共に、芯金の厚み(肉厚)は7mm前後に設定されている。ここで、本実施形態および比較対象の定着装置に共通することであるが、定着ローラには所定の荷重をかける必要がある。したがって、比較対象のように、定着ローラにおける芯金の材質としてアルミニウム系の材料(アルミニウムまたはその合金)を使用した場合、構造力学の観点から、この芯金の肉厚を7mm前後にする必要があった。
比較対象の定着装置のように、定着ローラの芯金の材質としてアルミニウム系の材料を使用し、芯金の厚み(肉厚)を7mm前後に設定した場合、定着ローラの熱貫流率は5357W/m2・Kになり、定着ローラ自体の熱伝導性を高めることができるが、本実施形態よりも芯金の厚みが大きい分(本実施形態は1.3mm)、本実施形態よりも熱容量が大きくなり、定着ローラ自身のウォームアップ時間が長くなってしまう。
これに対し、本実施形態の定着ローラ31では、芯金61を鉄系材料で構成している。ここで、本実施形態の芯金61の熱伝導率は45W/m・Kであり、アルミニウム系の材料からなる芯金の熱伝導率よりも極めて低いが、芯金61を薄く構成することで高熱貫流率を維持できる。具体的に説明すると、本実施形態のように芯金61を鉄系材料で構成した場合、比較対象の定着装置ほど構造力学上の制約を受けないため、芯金61の厚み(肉厚)を比較対象の定着装置よりも極めて薄くできる。そこで、本実施形態の定着装置14では、芯金61の厚みを比較対象の定着装置より薄くした(1.3mm)。これにより、熱容量を高めることなく、定着ローラ31全体の熱貫流率を効率よく高めることができた(K2=5364W/m2・K)。
ここで、比較対象の定着ローラの熱取得量と本実施形態の定着ローラ31の熱取得量とを比較すると、本実施形態の定着ローラ31は1.61×108J2/s・m4・K2で、比較対象の定着ローラは5.23×108J2/s・m4・K2である。これは、本実施形態の定着ローラ31および比較対象の定着ローラにそれぞれ同じ熱量を供給しても、比較対象の定着ローラの方が昇温しにくいことを示している。なお、「熱取得量」とは、密度、比熱および熱伝導率の積で表され、その値が小さいほど、昇温しやすいことを示している(より少ない熱量で昇温させることができる)。
つぎに、本実施形態の定着装置14における加圧ローラ32と、比較対象の定着装置における加圧ローラとの差異について説明する。
比較対象の定着装置における加圧ローラの弾性層では、その材質としてシリコーンゴムが用いられているが、本実施の形態のように低熱伝導率かつ低熱容量のフィラーは配合されていない。このシリコーンゴム自体の熱伝導率は約0.45W/m・Kであり、この弾性層の厚み(肉厚)を6mmにすると、加圧ローラ全体の熱貫流率が73.5W/m2・Kになる。
この点、本実施形態の加圧ローラ32における弾性層72では、その材質として、低熱伝導率かつ低熱容量のフィラーを配合したシリコーンゴムが用いられている。これにより、加圧ローラ32の熱貫流率K1を33.6W/m2・Kにすることができた。
ここで、比較対象の定着装置における加圧ローラの熱貫流率は、本実施形態の加圧ローラ32の熱貫流率に比べて2倍以上になる。したがって、本実施形態のように、加圧ローラ32の弾性層として、低熱容量のフィラーを混練したシリコーンゴムを使用した場合、加圧ローラの断熱性能が向上することがわかる。
また、熱取得量の観点から、本実施形態の加圧ローラ32と比較対象の定着装置における加圧ローラとを比較すると、本実施形態の加圧ローラ32における弾性層の熱取得量は1.87×105J2/s・m4・K2であるところ、比較対象の定着装置における加圧ローラの弾性層の熱取得量は8.62×105J2/s・m4・K2であった。これにより、本実施形態の加圧ローラ32における弾性層のほうが、弾性層表面部分は昇温しやすいが、断熱性が高いのでより少ない熱量、即ちより短時間で加圧ローラの表面を昇温させてから通紙動作に移行できるので、即熱性能に優れているといえる。また、本実施形態の加圧ローラ32のほうが、比較対象の加圧ローラよりも断熱性能に優れていることがわかる。
つぎに、加圧ローラの熱貫流率と定着ローラの熱貫流率との比率の観点から、本実施形態の定着装置14と比較対象の定着装置との性能の相違を検討する。本実施形態の構成における加圧ローラ32の熱貫流率と定着ローラ31の熱貫流率との比率は、
K1:K2=1:159.6
(K1:加圧ローラ32の熱貫流率 K2:定着ローラ31の熱貫流率)
である。
一方、比較対象の定着装置における加圧ローラの熱貫流率と定着ローラの熱貫流率との比率は、
k1:k2=1:72.8
(k1:比較対象加圧ローラの熱貫流率 k2:比較対象の定着ローラの熱貫流率)
である。
ここで、本実施形態の構成のほうが比較対象の構成よりも、加圧ローラの熱貫流率と定着ローラの熱貫流率との比率が大きくなっている。したがって、本実施形態の定着装置ほうが比較対象の定着装置よりも加熱応答性がよいといえ、定着装置のウォームアップ時間を短縮することができる。また、加圧ローラ32の弾性層72の弾性物質を製造する過程で、フィラーの材質、サイズ等を適宜選択することにより、加圧ローラ32の熱貫流率を調整できるため、定着ローラ31に加熱されにくい材料を用いても、(100K1)≦(K2)≦(320K1)を実現することにより、定着装置のウォームアップ時間を短縮できる。
つぎに、本実施形態の定着装置14および比較対象の定着装置について、ウォームアップ時間および消費電力量についての比較結果を図7に示す
図7によれば、本実施形態の定着装置14のほうが、より短いウォームアップ時間を達成でき、かつ消費電力量も少ないことがわかる。なお、図7における「W.U.T」は、Warm Up Time(ウォームアップ時間)の略であり、「WUP時」は、Warm Up時の略である。
つぎに、本実施形態における加圧ローラ32の弾性層72の利点を説明する。この利点を明確にするために、熱貫流率とウォームアップ時間との関係について、比較実験を行なった。この比較実験の結果を図8に示す。なお、この比較実験では、本実施の形態の定着装置と比較例A〜Cとを比較した。
比較例Aは、加圧ローラの弾性層の組成を変えたり、フィラーの材質、構造、粒子径を変えて、より低熱伝導フィラーとすることにより、本実施形態の弾性層72よりも熱伝導率が低い弾性層を加圧ローラに備えた定着装置である。比較例Bは、シリコーンゴム(フィラー不添加)を改良したものを加圧ローラの弾性層に使用した定着装置である。比較例Cは、シリコーンゴム(フィラー不添加)を加圧ローラの弾性層に使用し、定着ローラの芯金の材質としてアルミニウム合金を使用した定着装置である。
なお、比較例Bおけるシリコーンゴム(フィラー不添加)を改良したものは、弾性層の基材ゴムとなるシリコーンゴムについて、充填材(シリカなど)、可塑材、添加材などの組成を変更すると共に、架橋・硬化条件等を変え、分子構造(側鎖の種類や構造など)を少し変更して熱伝導率が下がるように工夫したものである。このように、本実施形態や比較例Aのように、より低熱貫流率とすることでウォームアップ時間を短縮することができる。
図8に示す結果から、画像形成装置の要求仕様(プロセス速度:395mm/s、複写速度:70枚/分)が120秒以下のウォームアップ時間であるならば、加圧ローラの熱貫流率は150W/m2・K以下が望ましいことがわかる。
ここで、加圧ローラの弾性層の厚み(肉厚)を厚くするほど加圧ローラの熱貫流率を低くすることが可能である。その一方、加圧ローラにおける構造力学上の制約(たわみや応力分布など)や、加圧ローラの熱容量の観点から、弾性層の厚みには上限値が存在する。例えば、加圧ローラの直径が40mmであれば、弾性層の厚みの上限値は8mm程度が好ましく、この場合、加圧ローラの熱貫流率の下限値は、15W/m2・Kとなる。
しかし、加圧ローラについて、より安定した断熱性能を維持し、かつ構造力学上の制約と寿命(弾性層の表面のシリコーンゴムの圧縮永久ひずみが増加し、ゴム特有の復元力が低下し、硬度低下することで、弾性能力が低下してしまう)とのバランスから、加圧ローラの熱貫流率は20W/m2・K以上100W/m2・K以下が最も望ましい。
さらに、加圧ローラにおける熱貫流率と弾性層の厚み(肉厚)との関係について、比較実験を行なった結果を図9に示す。なお、図9における比較例A〜Cは、図8における比較例A〜Cと同一である。
図8から、加圧ローラの弾性層の厚みを薄くするほど、また、弾性層の熱伝導率が大きいほど、加圧ローラの熱貫流率が大きくなり断熱性能が低下することがわかる。また、加圧ローラの弾性層の厚みを2mm前後より薄くすると、急激に加圧ローラの熱貫流率が大きくなり断熱性能が低下する。
これは、熱伝導率が低い材料でも、その材料において断熱性能が十分発揮される最適な厚みがあり、その材料が薄すぎるとすぐに熱流束が通過してしまい、断熱性能の低下をもたらすからである。つまり、加圧ローラにおける弾性層が薄すぎると、熱流束はこの弾性層をすぐに通過してしまい、芯金に熱を奪われてしまうことになり、加圧ローラの断熱性能は著しく低下する。以上は弾性層について説明したが、加圧ローラのその他の層についても同様のことが言える。
特に、加圧ローラにおける芯金は構造部材であるので、より引張強度が高く、ヤング率の大きい材料を使用する必要がある。ところが、加圧ローラにおける芯金として、高引張強度かつ高ヤング率の材料を使用すると、この芯金の熱容量が増加する。この場合、芯金の外側にある弾性層から伝わる熱流束は、芯金に蓄えられるが、芯金の熱容量が大き過ぎると、芯金に伝わった熱が記録材に対する未定着画像の定着に用いられる前に熱損失として無駄になるという不都合が生じる。したがって、加圧ローラにおける芯金の肉厚は、この不都合を最大限抑制するための最適なサイズにすることが必要である。
本実施形態の加圧ローラ32は外径40mmであり、加圧ローラ32の弾性層72の厚みが5mmであることから、芯金71の厚みを3mmにしているが、この芯金71の厚みはローラの外径、構造、芯金の材質等によって異なり、上記の値に限定されるものではない。
なお、本実施形態の画像形成装置41および定着装置14の構成において、複写速度:70枚/分で通紙し、各ローラの寿命試験を行なったところ、30万枚以上の通紙でも、加圧ローラ32の硬度変化も少なく、定着ローラ31と加圧ローラ32との間のニップ部の大幅な拡大もなく、巻き付きが生じないことが確認された。
以上のように、本実施の形態の定着装置14によれば、比較対象の定着装置または比較例BやCの定着装置よりも、ウォームアップ時間を短縮することができ、消費電力量も少なくでき、長寿命化を図ることができる。また、上述した特許文献1に記載されているような従来の定着装置では、ウォームアップ時間短縮と長寿命とを両立させることが困難であったが(トレードオフの関係)、本実施形態の定着装置14によれば、ウォームアップ時間短縮と長寿命とを両立させることができる。
なお、本実施形態では、定着ローラ31の芯金61の材質として鉄系材料を用いている。しかし、この鉄系材料に限定されるわけではなく、請求項に記載されている熱貫流率に関する数値範囲内であれば、定着ローラ31の芯金61を従来のアルミニウム合金で構成しても構わない。
以上、本実施形態について記述したが、本発明においては、本実施形態で示した寸法、材料、構成、形状等に限定されず、また制御方法や加熱方式、記録材のサイズも限定されるものではない。つまり、本発明は、請求項に記載された熱貫流率に関わる条件に一致するものであれば、様々な構成を適宜組み合わせて、使用することが可能である。
〔実施の形態2〕
本発明の実施の形態2について、図10、図11を用いて説明する。なお、実施の形態2に係る定着装置の基本的な構成は、実施の形態1と共通するため、重複する個所は説明を省略する。
本実施形態に係る定着装置121の定着部材及び加圧部材は、実施の形態1と同じくローラ形状であり、それぞれ導電性の芯金を有している。定着ローラ97は、例えば、外径40mmの両端絞り形状の導電性芯金に、中間層62及び離型層63を有している。中間層62及び離型層63については実施の形態1と同じものを使用している。本実施の形態における定着ローラ97において、実施の形態1の定着ローラ31と異なるのは、芯金98の厚み(肉厚)を0.4mmに設定した点である。つまり、本実施形態に係る定着ローラ97の芯金98の厚みは、実施の形態1における定着ローラ31の芯金61の厚みよりも薄くなっている。
加圧ローラ32および加熱ローラ77は実施の形態1と同じものを用いる。また、ハロゲンランプによる加熱方式を用いて定着を行ない、図11に示すように、定着ローラ97は2本のハロゲンランプ64a・64bを内包している。ハロゲンランプ64aは、非駆動源側を通紙基準として所定の小サイズ通紙領域を加熱するものであり、ハロゲンランプ64bは、駆動源側の残りの領域を加熱するためのものである。また、加熱ローラ77には1本(全幅加熱)のハロゲンランプ77dが内包されている。
また、図10に示すように、加圧ローラ32の表面には加熱ローラ77が当接している他、記録材91の搬送方向に対する上流側においてスクレパー122が加圧ローラ32に当接し、記録材91の搬送方向に対する下流側において電位付与ブラシ(電位付与部材)123が加圧ローラ32に当接している。
スクレパー(電位付与部材、清掃部材)122は、トナー93と逆極性の電位を加圧ローラ32に与えることにより、加圧ローラ32に付着したトナーを剥ぎ取るクリーニング部材である。なお、トナー93と逆極性の電位は、バイアス装置105bにより与えられる。
電位付与ブラシ123は、加圧ローラ32の表面に蓄積される電荷を除去する除電ブラシである。本実施形態では、より除電効果を高めるために、バイアス装置105aを接続してバイアス電位を付与している。但し、電位付与ブラシ123を接地することにより、除電効果を高めてもよい。
バイアス装置105aは、電位付与ブラシ123に対して所定のバイアス電位を与えて、電位付与ブラシ123による除電効果を高めるためのものである。
また、加圧ローラ32のプロセス速度は、例えば335mm/sであり、記録材91の搬送速度は、例えば62枚/分である。
また、本実施形態において、ハロゲンランプ64a・64b・77dの定格電力は、夫々実施の形態1と同じであるが、定着装置14の軸方向の配熱特性が非駆動側を基準としたものになっている点が実施の形態1と異なる。
ここで、本実施形態の特徴について詳細に説明する。本実施形態の構成では、上述したように、定着ローラ97における芯金98の厚みは、実施の形態1における定着ローラ31の芯金61よりも薄く設定されている。これにより、本実施形態における定着ローラ97の熱貫流率は、実施の形態1における定着ローラ31の熱貫流率よりも大きくなり、さらに定着ローラの熱応答性を高めている。
ここで、本実施の形態の定着ローラ97および加圧ローラ32の物性について説明する。図12は、本実施形態の定着ローラ97および加圧ローラ32の各物性のパラメータを示したテーブルである。
図12に示すように、本実施形態における定着ローラ97の熱貫流率K2は、6009W/m2・Kである。したがって、本実施形態の定着ローラ97は、実施の形態1の定着ローラ31に対し10%以上多くの熱を伝えることができる。さらに、本実施形態においても実施の形態1と同じ加圧ローラ32を使用している。つまり、本実施形態の加圧ローラ32の断熱性能は実施の形態1と同じである。これにより、本実施形態における加圧ローラ32の熱貫流率K1と定着ローラ97の熱貫流率K2との比率は、実施の形態1における加圧ローラ32の熱貫流率K1と定着ローラ31の熱貫流率K2との比率よりも大きくなり、定着装置のウォームアップ時間をより短縮することができるようになる。
つぎに、本実施形態における定着ローラ97の利点を説明する。この利点を明確にするために、定着ローラ表面温度とウォームアップ時間(経過時間)との関係について、比較実験を行なった。この比較実験の結果を図13に示す。なお、この比較実験では、本実施の形態の定着装置121と、実施の形態1の定着装置14と、実施の形態1で示した比較例Cとを比較した(実施の形態1および図8参照)。
図13から明らかであるが、本実施形態の定着装置121と実施の形態1の定着装置14とでは、同一の物性を示す加圧ローラを使用しているにも関わらず、本実施形態の定着装置121では、実施の形態1における定着装置14の概ね半分の時間でウォームアップ可能であることがわかる。また、ウォームアップ時の消費電力量や1000枚の記録材を通紙した時の消費電力量についても、本実施形態のほうが実施の形態1よりも削減することができ、より省エネルギーを達成することができる。
つぎに、加圧ローラ32の弾性層72の厚みとウォームアップ時間との関係について検討する。図14は、加圧ローラ32の弾性層72の厚み(肉厚)を変更した場合におけるウォームアップ時間、ウォームアップ時の消費電力量、通紙時消費電力量を示したものである。なお、比較対象として、実施の形態1で示した比較例Bについて、加圧ローラの弾性層の厚みを変更した場合のウォームアップ時間、ウォームアップ時の消費電力量、通紙時消費電力量も示す。
図14から明らかであるが、弾性層の厚みを1mmにすると極端にウォームアップ時間が伸びる。また、比較例Bは、熱伝導率が低くなるように改良したシリコーンゴムを加圧ローラの弾性層としたものであるが、この比較例Bであっても、弾性層の厚みを1mmにすると、厚みが2mmの場合よりもウォームアップ時間が20秒以上も伸びてしまう。
さらに、本実施形態の定着装置121および実施の形態1の定着装置14について、加圧ローラの熱貫流率とウォームアップ時間との関係を図15に示す。
本実施形態の加圧ローラ32の熱貫流率とウォームアップ時間との関係について着目すると、熱貫流率が150W/m2・K以上においてウォームアップ時間が大幅に増加している変曲領域が存在する。したがって、ウォームアップ時間の増加を抑制するためには、加圧ローラ32の熱貫流率は150W/m2・K以下であることが好ましい。
また、構造力学上の制約の範囲内で定着ローラ97を薄く構成することにより、定着ローラ97の熱貫流率を向上させることが可能である点は実施の形態1と同様である。ここで、定着ローラ97の芯金98は鉄系材料であることから、芯金98の厚みを0.1mm〜0.2mm程度に設定することも可能である。また、芯金98の材質として炭素鋼以外にクロム鋼、マンガン鋼、ニッケル鋼、クロム・モリブデン鋼、ステンレス鋼などの鉄系材料以外のもの、例えばチタンやその合金、あるいは2種以上の金属を貼り合せたクラッド材を用いることにより、芯金61をより薄く設計できる。
さらに、定着ローラ97における熱容量の制約の範囲内で、芯金98の厚み(肉厚)を大きくすることも可能である。定着ローラ97の直径が80mmといった大きなローラの場合、芯金98がアルミニウム合金であれば厚み15mm程度、鉄系材料であれば4mm程度を上限として構成できる。このように構成した場合、定着ローラ97における構造力学上の制約を無視することができる。
したがって、芯金98として鉄系材料を使用した場合、芯金98の厚みは0.1mm〜4mmの範囲で設計することができ、この場合における定着ローラ97の熱貫流率は、4000W/m2・K以上かつ6400W/m2・K以下となる。ただし、定着ローラ97の熱貫流率は4300W/m2・K以上かつ6300W/m2・K以下であればより好ましい。
以上のように、定着ローラ97における芯金61、加圧ローラ32における弾性層72および芯金71の厚みは、これらローラの直径に依存すると共に、構造力学上の制約を受ける。但し、実用上および熱貫流率の範囲から、定着ローラ97において、芯金98の直径と厚みとの比率は、
(直径/厚み)=16以上かつ220以下
が好ましい。また、加圧ローラ32において、弾性層72の直径と厚みとの比率は、
(直径/厚み)=3以上かつ20以下
が好ましい。さらに、加圧ローラ32において、芯金71の直径と厚みとの比率は、
(直径/厚み)=6以上かつ11以下
が好ましい。
これは、芯金98が薄いほど定着ローラ97の熱応答性が良くなるが、芯金98が薄すぎれば、構造上定着ローラ97の形状を維持できなくなり、最悪は定着ローラ97を破壊してしまうという問題が生じる。ここで、定着ローラ97において、芯金98の直径と厚みとの比率が上述した範囲内であれば、上記問題が生じない範囲、すなわち実用上支障のない範囲である。
また、加圧ローラ32において、芯金71の直径と厚みとの比率が上述した範囲内であれば、加圧ローラ32の構造に支障のないレベルを保ちつつ、加圧ローラ32の熱容量を抑えることができる。さらに、加圧ローラ32において、弾性層72の直径と厚みとの比率が上述した範囲内であれば、加圧ローラ32の熱貫流率を維持しつつ、加圧ローラ32の熱容量をより小さくでき、弾性層72の寿命も長期にわたって維持できる。
つぎに、本実施形態の加圧ローラ32の弾性層72に使用した弾性部材(低熱容量のフィラーを配合したシリコーンゴム)の断熱性を検討した。具体的には、上記弾性部材がグラスウールに対してどの程度の断熱性を持っているかを示す「相当厚さ」を求めることにより検討した。なお、グラスウールは、一般的に使用される断熱材料として知られているものである。
ここで、「相当厚さ」とは、ある材料について、基準となるグラスウール100mmに対する該グラスウールと同等の断熱性能に相当する厚さをいう。つまり、「相当厚さ」が薄いほど断熱性能が高いと言え、「相当厚さ」を求めることにより断熱性能の良否を検討することができる。
「相当厚さ」の算出方法について説明すると以下のようになる。ここで、熱伝導率xを示す材料aの相当厚さLについて求めるとする。グラスウール100mmと熱伝導率xを示す材料a(厚みL)のとの間で断熱性能が等しいということは、両者の熱貫流率が等しいことを意味する。ここで、熱貫流率は(材料の厚み/材料の熱伝導率)で表されるため、
(100/グラスウールの熱伝導率)=a/x (式1)
が成立する。
さらに、(式1)を変形すると、
L(mm)=(材料の熱伝導率/グラスウールの熱伝導率)×100 (式2)
を得ることができる。なお、グラスウールの熱伝導率は、0.05W/m・K(公称値)である。
ここで、図16は、本実施形態における加圧ローラ32の弾性層、および実施の形態1で示した比較例A〜Cにおける加圧ローラの弾性層について、相当厚さを求めた結果である。図16から、弾性層の相当厚さが100mm以上かつ500mm以下であれば、加圧ローラ32の熱貫流率を低く維持でき、断熱性能を向上させることができることがわかる。
換言すれば、加圧ローラ32の弾性層72が、グラスウールに比べて5倍の熱伝導率を有するものであれば、断熱性能を維持しつつ、定着ローラ31の加熱の妨げにならない定着装置121を構成することができるということである。
つまり、従来から存在する材料について、材料固有の熱伝導率や温度伝導度だけを比較するだけでは、加圧部材の弾性層として加工した場合の断熱性能を単純に比較することができない。また、断熱性能の高い材料を単純に選択しただけでは、加圧ローラの弾性層の断熱性能を効率よく高めることはできない。しかし、上述した式2を用いることにより、加圧ローラの弾性層の断熱性能を効率よく高めることができ、ウォームアップ性能に優れた定着装置を構成することができる。
以上のように、本実施形態によれば、定着装置121において、定着ローラ97および加圧ローラ32についてのたわみやねじれといった構造力学上の制約を満足し、かつ定着装置121のウォームアップ時間の短縮を図ることができる。また、加圧ローラ32の弾性層72について、長期にわたって安定した断熱性能と弾性能力を維持できる。つまり、定着装置14全体でウォームアップ時間短縮と長寿命を両立できるようになる。
以上、本実施形態について記述したが、本発明の実施は、本実施形態で示した寸法、材料、構成等は、上述した内容に限定されず、中間層としてプライマ層を設けたり、離型層や弾性層を多層構造とすることも可能で、また制御方法や加熱方式、記録材のサイズなどによらず、適宜組み合わせて、請求項に記載の熱貫流率に関わる条件に一致するものであれば、使用することが可能である。
〔実施の形態3〕
本発明の実施の形態3について、図18を用いて説明する。なお、実施の形態1と重複する個所については説明を省略する。
本実施形態の定着装置114は、主としてカラー画像形成装置に適用できるもので、定着ベルト131を駆動ローラ134と従動ローラ135とで保持し、これにテンションローラを兼ねる加熱ローラ77で、定着ベルト131を加熱する構成である。
本実施形態では、定着部材としてベルト形状の定着ベルト131を用いている。この定着ベルト131は、基材ベルト(芯金)132と離型層133とプライマ層(中間層)136とから構成されている。
基材ベルト132は、周長125.7mm、ベルト厚(厚み)0.55mmであり、厚み(肉厚)0.5mmのNiをベルトにしたものである。また、基材ベルト132上にはプライマ層136を介して、離型層133として導電性を持ったPFAが約30μm塗布されている。
プライマ層136は、離型層133と基材ベルト132間に位置し、離型層133と基材ベルト132との接着性を高めるために備えられた中間層である。離型層133の体積抵抗率は109〜1010Ω・cmで、表面抵抗率は107〜108Ωである。
また、加圧部材としての加圧ローラ138は、導電性の芯金150に対して、内側弾性層(弾性層)141と外側弾性層(弾性層)140とを構成し、最外層としての離型層(表面抵抗層)151を被覆したものである。
内側弾性層141は、芯金150の周囲に成形されているシリコーンゴムである。外側弾性層140は、内側弾性層141の周囲に形成されているシリコーンゴムである。なお、外側弾性層140のシリコーンゴムは、内側弾性層141のシリコーンゴムよりも薄肉で、熱伝導率が若干高い。
離型層151は、絶縁性のPFAチューブ(体積抵抗率1015Ω・cm以上)を外側弾性層140の周囲に被膜したものである。
なお、内側弾性層141と外側弾性層140との間には、シリコーンゴム同士の接着性を高める為に、中間層としてプライマ層を設けてもよい。また、離型層151と外側弾性層140との間、内側弾性層141と芯金150との間にも、各層の接着性を高めるための中間層を設けてもよい。なお、この場合における、加圧ローラ138の熱貫流率は、
加圧ローラの熱貫流率=1/(芯金150の熱抵抗+内側弾性層141の熱抵抗+外側弾性層140の熱抵抗+離型層151の熱抵抗+各中間層の熱抵抗) (式3)
によって算出される。なお、各中間層を備えない場合や各中間層が極めて薄い場合は、式3において「各中間層の熱抵抗」の項は不要である。
以上の構成において、定着ベルト131の熱貫流率K2は12352W/m2・Kであり、加圧ローラ138の熱貫流率K1は37.3W/m2・Kに設定した。なお、K1とK2の比率は、1:131である。
この構成では、断熱性能を高くする必要のある加圧ローラ138において、外側弾性層140の熱伝導率を内側弾性層141の熱伝導率よりも相対的に高くして、外側弾性層140の加熱速度を高めている。これにより、極薄い定着ベルト131の熱特性を補償できるようにできる。また、外側弾性層140よりも相対的に熱伝導率が低い内側弾性層141は、加圧ローラ138の断熱性能と弾性能力の大部分を担うようになる。したがって、加圧ローラ138の表面は暖まりやすいが、ローラ内部においては断熱性能も高くなっている。これにより、加圧ローラ138全体として熱貫流率を低くでき、かつ外側弾性層140の加熱速度を高めることにより、より速い速度での印字も可能となり、連続定着時などでの定着性低下の原因の1つでもある定着ベルト131の熱容量不足を補うことができる。
また、本実施形態では、加圧ローラ138に対して、ローラ表面を加熱する加熱ローラを当接していないが、印字速度がより速くなったり、環境条件が悪くなるような時は、加圧ローラ138の外周部のみを加熱する加熱ローラを設けてもよい。これにより、ウォームアップ時間の更なる短縮を図り、定着性能を向上させることができる。
なお、本実施形態では、基材ベルト132の材質としてNiを用いたが、ステンレス鋼製ベルト(肉厚0.1や0.2mmなど)、ポリイミドやポリアミドなどの耐熱樹脂ベルト、より弾性に富んだシリコーンゴム製のベルトやフッ素ゴムを用いることができる。特に、樹脂系やゴム系のベルトでは、内部からの加熱以外に、外表面からの加熱にも断熱効果が高く、ベルトの内側への断熱性を高めておくことによりベルト表面のみが加熱され、効果的に記録材91を加熱することができ、トナー93を溶融・定着することができる。
本実施形態の発展形として、転写同時定着方式の転写定着器にも応用できる。すなわち、本実施形態の定着ベルト131は、熱貫流率が高く、局部加熱によってピンポイント加熱が可能であり、かつ熱の移動が早い。したがって、本実施形態の定着ベルト131を転写定着器に適用すると、その熱貫流率の高さから、定着直前に加熱を行なうと共に、定着終了後に素早い冷却が行なえるため、転写時は定着によって加熱された熱の影響を迅速に除去できる。
以上、本実施形態について記述したが、本発明は実施形態3に限定されるものではなく、請求項に記載された事項の範囲内で材質、寸法、加熱方式、制御方式などを問わず適用できる。例えば、加熱方式として、局部加熱が可能なセラミックヒータをベルト内面から当接させたり、定着ベルトの外面あるいは内面から誘導加熱方式による加熱手段で加熱することも可能であり、また加圧ローラの多層構造において、本実施形態では、ローラの軸方向全域に渡って各層の厚みを均一に構成しているが、加圧ローラと定着ローラとのニップ部の形状、加熱性能によっては、ローラの中央部と両端部とで外側弾性層や内側弾性層の肉厚を異ならせてもよいことは言うまでもない。
〔実施の形態4〕
本発明の実施の形態4について、図19を用いて説明する。なお、実施の形態1と重複する個所については説明を省略する。
本実施形態に係る定着装置164では、図19に示すように、定着ローラ165を加熱する加熱方式として誘導加熱方式を用いている。具体的には、定着ローラ165の内部に、加熱手段としての加熱コイル(磁界発生手段)147を配置し、定着ローラ165を加熱できるように構成している。
定着ローラ165の芯金166は、加熱効率が良い磁性ステンレス鋼(SUS403)からなり、厚み(肉厚)0.2mmで構成されている。芯金166の表面には、中間層としてのプライマ層167が形成されている。さらに、プライマ層167の表面には、PFAチューブ(膜厚50μm)からなる絶縁性の離型層168が形成されている。また、定着ローラ165は、両端に絞りのない直径35mmのストレート形状である。
加熱コイル147の材質は、例えば耐熱性を考慮してアルミニウム単線、銅線あるいは銅ベースの複合部材線であってもよく、リッツ線(エナメル線等を撚り線にしたもの)であってもよい。いずれにしても、コイル自身のジュール熱を少なくするために、加熱コイル147の全抵抗値を0.5Ω以下にすることが望ましい。なお、本実施形態では、加熱コイル147は1個配置されているだけであるが、定着ローラ165の周方向あるいは軸方向に並べるように複数個配置して、加熱領域を複数に分割させたり、加熱領域の一部をオーバーラップさせてもよい。
本実施の形態では、加熱効率が良く、昇温特性の良好な誘導加熱方式を用いているため、定着ローラ165の温度検出には検出速度の速いサーモパイルやその他抵抗素子を用いた非接触方式を採用することが好ましい。そこで、本実施形態では、定着ローラ165の周囲に、定着ローラ165と非接触である第1温度検出装置146aと第2温度検出装置146bとを有している。この第1温度検出装置146aは、ローラ軸方向に対し、定着ローラ165中央部の温度を検出するためのものである。また、第2温度検出装置146bは、ローラ軸方向に対し、定着ローラ165の非駆動側の端部近傍における温度を検出するためのものである。
また、本実施形態では、実施の形態1と同様、加圧ローラ32の表面を加熱する加熱ローラ77を併用している。この加熱ローラ77は、加圧ローラ32に当接するように配置されている。これにより、加圧ローラ32の外周面を加熱補償できる。
この加熱ローラ77には、加熱ローラ77の加熱手段としてのハロゲンランプが内包されている。また、加圧ローラ32の表面の温度検出手段として、接触式の高速応答型のサーミスタ79を用いることができる。
加熱コイル147の駆動には、図19に示すように、インバータから構成される励磁回路149を用いている。具体的には、制御回路148が、加熱コイル147の温度を検出すると共に、検出した温度や記録材91のサイズや材質などのパラメータに基づいて、動作条件を示す制御信号を出力する。そして、励磁回路149は、上記制御信号に基づいて加熱コイル147の最適な励磁を行なう。
加圧ローラ32は、実施の形態1で用いたものと基本的に同じ構成であるが、外径を35mmとしている点が異なる。
ここで、定着ローラ165では、芯金166の材質としてステンレスを用いているため、芯金として鉄系材料やアルミニウム合金などを用いている場合よりも加熱性能が劣化する。しかしながら、定着ローラ165においては誘導加熱方式を採用していることから、加熱手段としてハロゲンランプを用いる場合よりも加熱効率を最大限高めることができるため、芯金166の材質としてステンレスを用いることによる加熱性能の劣化を補償できる。これにより、芯金166の材質としてステンレスを用いたとしても、定着ローラ165において高熱貫流率を維持することが可能になる。具体的に、本実施形態の定着ローラ165の熱貫流率K2は、4838W/m2・Kである。
一方、本実施形態の加圧ローラ32の熱貫流率K1は、実施の形態1の加圧ローラ32と同様、33.7W/m2・Kである。したがって、本実施形態において、加圧ローラ32の熱貫流率K1と定着ローラ31の熱貫流率K2との比率は、1:143.6になる。この値は、実用的に用いることが可能な範囲内である。
また、定着ローラ165における芯金166の直径と厚み(肉厚)との比率は、175である。加圧ローラ32の弾性層72の直径と厚み(肉厚)との比率は、7である。加圧ローラ32の芯金71の直径と厚み(肉厚)との比率は、8.3である。これらの値は、ローラの構造上および加熱・断熱性能上問題ない範囲である。
また、この定着装置164に1200Wの電力を投入すると、加熱効率にもよるが、30秒以下のウォームアップ時間が得られることがわかっている。
特に、局部加熱である誘導加熱方式では、待機時(ウォームアップ時)にローラの温度分布の不均一が生じやすく、これによりローラの熱変形が生じることもある。しかし、本実施の形態の構成によれば、定着ローラ165の即熱性能を従来よりも向上させていると共に、加圧ローラ32の断熱性能を従来よりも向上させているため、加熱ローラ77によって加圧ローラ32周面を直接加熱することにより、ローラの回転初期にローラの温度不均一を素早く解消して、定着ローラ165を加熱させることが可能である。
以上、本実施形態について記述したが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、材質、寸法、加熱方式、制御方式などを問わず適用でき、例えば、加熱方式に抵抗発熱方式を用いることもでき、この場合、抵抗発熱層や絶縁層を考慮した熱貫流率も求めることで適用することが可能であることは言うまでもなく、また、加熱ローラ77を用いない構成としても良い。
以下、実施形態1〜4で説明した定着装置について説明する。加圧部材の熱貫流率は、加圧部材の表面から抽入された熱流束が、どの程度内部に通過しやすいかの断熱性能を示しており、一方、定着部材の熱貫通率は、定着部材内部から加熱手段によって供給される熱流束を、どの程度定着部材表面に通過しやすいかの加熱性能を示している。熱貫流率は、(材料の厚み/材料の熱伝導率)の熱抵抗の逆数で示される。
そして、これら定着部材と加圧部材の熱貫流率の関係が、加圧部材の熱貫通率K1、定着部材の熱貫通率K2とした時に、K1<K2であれば、加熱性能を維持しつつ、加圧部材の断熱性能で、効果的に定着部材の加熱に供給された熱流束を使うことができ、加熱での無駄が少なく、より効率の良い加熱ができていることになる。
また、上記のようにK1<K2であり、その大きさも、十分K1が小さく、かつK2が十分大きいことが望ましく、このような状態であれば、少ない投入電力でも、定着部材が加熱されて、加圧部材の断熱性能が高いので、加圧部材への熱移動が規制されて、より素早く定着部材が加熱される。
そして、定着装置の断熱・加熱性能は、定着部材と加圧部材の加熱性能と断熱性能の程度でもって比較することができ、加圧部材の熱貫流率K1と定着部材の熱貫流率K2との比率が、1:100〜1:320、好ましくは、1:100〜1:300であれば、定着部材の加熱によって表面に伝わった熱を、無駄なく定着装置の加熱に回すことができ、この比率が大きいほど、定着部材の加熱性能が高く、加圧部材の断熱性能が高いことを意味する。
そして、加熱されにくい定着部材でも、K2を小さくしたりすることで、加熱応答性を高くすることができ、逆に加熱されやすい定着部材でも、K2が大きければ、加熱応答性が悪く、ウォームアップ時間の短縮に寄与することができないことになる。
また、断熱性能が求められかつ定着部材との圧接により広いニップ部を形成するには、加圧部材に、断熱性能の優れた弾性層を設けるが、加圧部材の構成として、熱伝導率λ13、肉厚(芯金の厚み)t13の芯金があり、その外側に熱伝導率λ12、肉厚(弾性層の厚み)t12の弾性層を形成し、更にその外側に、トナーとの融着を防ぎ離型効果の高い、熱伝導率λ11、膜厚(離型層の厚み)t11の離型層を設けているとする。そして、この構成の加圧部材における、熱流束の通過程度は、熱貫通率K1で示され、この熱貫通率K1は、
K1=1/(t11/λ11+t12/λ12+t13/λ1)(式11)
で表される。これは、各層の熱の伝わりにくさを表す熱抵抗(m2・K/W)の和の逆数で表現される。また、各離型層と弾性層、及び弾性層と芯金との間に、プライマなどの中間層を設ける場合、それぞれの第1中間層、第2中間層の熱伝導率と膜厚(中間層の厚み)を、λ16とλ17及びt16とt17とすれば、これら2つの中間層を考慮し、上記式を拡張して、
K1=1/(t11/λ11+t16/λ16+t12/λ12+t13/λ13+t17/λ17) (式12)
で表される。なお、通常、これら中間層は、離型層、弾性層、芯金に比べて、かなり薄いために、(式11)で代用できることが多い。
そして、この加圧部材の熱貫通率K1の値が、小さいほど断熱性能が高く、加圧部材表面から内部へ熱を通過させにくいことを意味し、逆に大きいと容易に加圧部材表面の熱を内部へ通過させ、直接、加熱・定着に寄与する加圧部材表面の熱を内部に貯めてしまう。
従って、加圧部材の熱貫通率K1は、15W/m2・K以上かつ150W/m2・K以下、好ましくは、20W/m2・K以上100W/m2・K以下であれば、断熱性能を維持しつつ、定着部材の加熱性能に影響を与えにくいと言え、定着装置のウォームアップ時間を短縮することができる。また、ウォームアップ時や記録材の通紙時における消費電力量も低減することができ、スポンジなど破泡しやすく、へたりの生じやすい弾性層を用いなくても、断熱性能を確保でき、長期にわたって性能を維持することができるようになる。
また、加熱性能が求められかつ加圧部材との圧接により広いニップ部を形成するには、加圧部材との圧接力に対抗して、荷重を保持できるだけの強度と、定着部材の内部に設けられた加熱手段からの熱を、いかに効率よく定着部材表面まで伝えることができるかにより、定着装置のウォームアップ時間は大きく影響を受ける。
そこで、定着部材の構成として、熱伝導率λ15、肉厚(芯金の厚み)t15の芯金があり、その外側に、トナーとの融着を防ぎ離型効果の高い、熱伝導率λ14、膜厚(離型層の厚み)t14の離型層を設けたとする。そして、この構成の定着部材における、熱流束の通過程度は、熱貫通率K2で示され、この熱貫通率K2は、
K2=1/(t14/λ14+t15/λ15) (式13)
で表される。これは、各層の熱の伝わりにくさを表す熱抵抗(m2・K/W)の和の逆数で表現される。また、各離型層と芯金との間に、プライマなどの中間層を設ける場合、中間層の熱伝導率と膜厚(中間層の厚み)を、λ18及びt18とすれば、この中間層を考慮し、上記式を拡張して、
K2=1/(t14/λ14+t18/λ18+t15/λ15) (式14)
で表される。なお、通常、中間層は、離型層、弾性層、芯金に比べて、かなり薄いために、(式13)で代用できることが多い。
そして、この定着部材の熱貫通率K2の値が、大きいほど加熱性能が高く、定着部材内部から定着部材の表面へ熱を通過させ易いことを意味し、逆に小さいと熱を伝えにく、定着部材の加熱は容易ではないことを示しており、ウォームアップ時間を大電力を投入しても容易に加熱することができず、熱が表面に伝わる為に時間が必要で、芯金内部に熱を貯めている時間が長く、なかなか表面まで伝わってこない。
従って、定着部材の熱貫通率K2は、4000W/m2・K以上かつ6400W/m2・K以下、好ましくは、4300W/m2・K以上6300W/m2・K以下であれば、加熱性能を高くして、素早く定着部材を加熱することができ、断熱性能の高い加圧部材との相乗効果で、定着装置のウォームアップ時間を短縮することができる。また、ウォームアップ時や記録材の通紙時における消費電力量も低減することができ、更には、加熱の必要のない長時間の待機状態では、通電を停止していても、ユーザの利便性を損なうことなく印字可能な状態にすることができる。
また、上述したように、定着部材と加圧部材の加熱性能と断熱性能の程度でもって、定着装置の断熱・加熱性能を比較でき、加圧部材の熱貫流率K1と定着部材の熱貫流率K2との比率を、1:100〜1:320、好ましくは、1:100〜1:300にすることで定着部材の加熱によって表面に伝わった熱を、無駄なく定着装置の加熱に回すことができる。
このような断熱性の高い加圧部材を、上述した熱貫流率の条件にする為には、低熱容量フィラーを所定の配合、混練、加硫等のプロセスにて、弾性層を形成するが、これに用いる低熱容量フィラーの体積配合率が、所定の範囲にあることが望ましく、この範囲に収めるには、前記低熱容量フィラーの直径が、200μm以下であることが望ましい。
この低熱容量フィラーの粒子径が、大きすぎると、低熱容量フィラーを混練・分散させる過程において、フィラーの分散が不均一になったり、体積配合率が高めになったりして、ベースとなるシリコーンゴムなどの弾性材料の弾性特性が小さくなり、弾性層の硬度が高いままで、圧縮変形率が小さく、弾性領域の小さなものになってしまう。従って、このような弾性層では、定着部材とのニップ部の形成が不充分で、定着性能が満足できなくなる。そして、経時変化によって、弾性特性がほとんどなくなってしまうこともあるので、熱貫流率を低くして、かつ弾性特性を維持するには、200μm以下の低熱容量フィラーを用いる必要があり、より好ましくは100μm以下で、粒子径が揃っており、粒子径のばらつき、即ち標準偏差も小さいほうが好ましい。
また、加圧部材の弾性層の直径/肉厚比と、芯金の直径/肉厚比は、加圧部材の変形による影響が、肉厚即ち熱貫流率に影響する範囲を示しており、変形のしやすさと断熱性能のバランスの程度を表しており、この直径/肉厚比が大きすぎて変形しやすく、熱貫流率は大きいので断熱性能が維持できないばかりか、その形状まで維持できないことになる。また小さすぎると、熱貫流率は小さくできて断熱性能は高く、その形状も維持できるが、肉厚が厚いことにより、熱容量が増加してしまい、定着性能が維持できなくなる。また、あまり厚すぎても、ウォームアップ時間の短縮には効果が薄い。
また、定着部材の芯金について直径/肉厚比は、加熱性能と変形のし難さのバランスを表しており、大きすぎると肉厚が薄くなりすぎたり、直径が大きすぎたりして、熱貫流率は小さいものの、その形状を維持することができなくなってしまう。また、小さすぎると、定着部材そのもの熱容量が増え、熱貫流率が大きくなって、定着部材そのものの加熱性能が劣ってしまう。
また、一般的な断熱材としてグラスウールがよく用いられるが、加圧部材の弾性層がどの程度の断熱性能を有しているかは、従来のような材料に固有の熱伝導率や温度伝導度だけでは、断熱性能を単純に比較することができな。これは、一定の固有値だけでは、幾何学的なパラメータを含んでいないので、実際に使用する場合には、特定の厚さの弾性層であり、その弾性層がどの程度の断熱性能を持っているかで比較することで、それら構成において容易に比較できる。
即ち、断熱材の基準として、グラスウール(熱伝導率0.05W/m2・K)を用い、これと同等の断熱性能に相当する弾性層の厚さ(相当厚さ)で比較することで、相当厚さが厚い弾性層ほど断熱性能が低く、薄ければ薄いほど断熱性能が高いことが言える。
そして、検討の結果、グラスウールと同等である100mm以上であり、かつ相当厚さが500mm以下であれば、加圧ローラの断熱性能を高くでき、熱容量も大きくならない構成で、定着ローラの加熱性能を損なわずに、ウォームアップ時間を短縮することが可能となる。そして、消費電力量も低減できる。
以上のように、実施の形態1〜4の定着装置を、画像形成装置対して適用することで、画像形成装置の長期の使用において、定着装置の寿命によって、前記画像形成装置が一時的に使用不能になったり、頻繁なメンテナンスを行なう必要もなく、安定した動作を得ることができ、それらに関わるコストも低減できる。特に、定着部材や加圧部材は、予め想定される寿命よりも短くなると、ランニングコストも高くなり、その交換に関わる費用も比較的高価になり易い。
また、実施の形態1〜4の定着装置ようにウォームアップ時間を短縮できると、ユーザの使用しない時は、比較的低温あるいは加熱手段への通電を止めて、エネルギー消費を抑えることができ、かつ、ユーザが使用する際には、素早く立ち上がり、ユーザの待ち時間が少なくて済み、使い勝手のよい画像形成装置を構成することができ、利便性を向上させることができる。
つまり、実施の形態1〜4の定着装置は、高速、高荷重状態においても、断熱性能を維持し、ウォームアップ短縮と、各部材の寿命を長期にわたって確保できる。また、実施の形態1〜4の定着装置は、断熱性能を長期にわたって維持し、ウォームアップから、通紙時、待機時といった一連の画像形成装置の動作状態においても、より省エネルギーを達成でき、より低消費電力で定着させることができる。
なお、実施の形態1〜4の定着装置は、電子写真方式の定着装置を始め乾燥装置や消去装置あるいは印刷装置に適用できる。この場合、ローラ状あるいはベルト状の定着部材と加圧部材とで、トナー等の未定着画像や印字画像を担持した記録材を狭持搬送して、加熱によって溶融や乾燥を行ない記録材の定着等を行なっている。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。