JP2005046851A - シリコン鋳造用鋳型およびその製造方法 - Google Patents

シリコン鋳造用鋳型およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鋳型の内表面に離型材を塗布してシリコン融液を注湯するシリコン鋳造用鋳型において、離型材に起因するシリコンインゴットの特性や歩留まりの低下を招くことのないシリコン鋳造用鋳型と、それを短時間でまた生産コストを抑えて形成する方法を提供する。
【解決手段】内表面に離型材層を設けた鋳型内部のシリコン融液を凝固させるシリコン鋳造用鋳型において、前記離型材層の密度は、鋳型に接する側よりもシリコン融液に接する側の方を高くした。
【選択図】図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はシリコン鋳造用鋳型およびその製造方法に関し、特に太陽電池などを形成するための多結晶シリコン鋳造用鋳型およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から太陽電池を形成するための半導体基板の一種として多結晶シリコンが用いられている。このような多結晶シリコンは、通常、分割可能な黒鉛製の容器の内表面に刷毛もしくはへらを使用して離型材を塗布した鋳型内に、高温度で加熱溶融させたシリコン融液を注湯して凝固させることによって形成したり、鋳型内に入れたシリコン原料を一旦溶解した後、再び凝固させることによって形成したりしている。
【0003】
この離型材としては、一般に、窒化珪素、炭化珪素、酸化珪素などの粉末を、適当なバインダーと溶剤とから構成される溶液中に混合・攪拌してスラリーとし、これを容器の内壁に塗布もしくはスプレーなどの手段でコーティングすることが公知の技術として知られている。(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ところが、窒化珪素を黒鉛製鋳型の内表面に上記手段で塗布しシリコンを鋳造する場合、このような方法で作られた窒化珪素膜は脆弱であることから、シリコン融液を注湯する際に、またその後の凝固の際に、窒化珪素膜が破損して鋳型にシリコン融液が接触し、鋳型がシリコンのインゴットに付着して脱型する際にシリコンのインゴットに欠けが発生するという問題があった。また、鋳型内に入れたシリコン原料を溶解する際に、窒化珪素膜が破損するという問題もあった。
【0005】
また、離型材として、二酸化珪素を黒鉛製鋳型の内表面に塗布してシリコンを鋳造することも提案されているが、二酸化珪素は黒鉛と付着性がよく、また二酸化珪素とシリコンのインゴットも付着性がよいために、二酸化珪素が鋳型に付着して鋳型の再使用ができなくなったり、鋳型が離型材を介してシリコンのインゴットに付着し、脱型するときにシリコンのインゴットの一部に欠けが発生したりするという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するために、一層目に二酸化珪素を塗布して黒鉛製鋳型との付着性を確保し、二層目に二酸化珪素と窒化珪素の混合物を塗布し、さらに三層目に窒化珪素を塗布してシリコン融液との離型性を確保することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ところが、このように離型材を三層構造に塗布すると、それぞれの層に対応する離型材を調合して塗布しなければならず、離型材の塗布と調合に手間がかかるという問題がある。
【0007】
また、鋳型に塗布するスラリー状の離型材は、通常、水やアルコールなどの溶剤と塗布成形用バインダーさらには流動性を高めるための添加材などを、適宜、混合・攪拌して作製される。このような成形用バインダーの中で最も利用されている材料としてPVA(ポリビニルアルコール)があり、接着性に優れることから粉体の接着・結合に好適に用いられている。
【0008】
このPVAのような成形用バインダーを用いた場合、成形(塗布)後は、その後の加熱や融液との接触中に熱分解生成物が融液中に混入するのを防ぐために、酸化雰囲気中で600℃程度の温度で脱脂する必要がある。PVAは300℃付近で急激に熱分解を起こしてCOなどにガス化する結果、90%程度までは急速に除去することができるが、残り10%は500℃以上の温度に加熱してもなかなか除去されず、カーボン残渣として残ってしまうことが多い。
【0009】
また、離型材をカーボン系鋳型材に塗布した場合、酸化雰囲気中で高温脱脂を行うと、鋳型材が酸化するため、消耗が進む。その結果、耐久性が落ちてシリコンインゴットの製造コストを増大させてしまうという問題がある。
【0010】
一方、脱脂を不活性雰囲気中で実施すると、有機高分子の熱分解反応が急速に進行する結果、水素原子が引き抜かれてCHが直線状に並び、それが環状になってベンゼンその他環状化合物になる。さらに脱水素反応を繰り返して大きく縮合し炭素の多い煤へと成長してしまう。一旦、煤として安定化してしまうと熱分解で除去することは困難であるため、離型材中や離型材表面に付着したままシリコン融液と接触することになる。融液と接触した煤あるいは融液中に溶け込んだ炭素は、太陽電池特性を低下させるばかりでなく、析出してインゴットを切断・スライスする際に加工不良を生む原因となる場合が多い。
【0011】
このように成形用バインダーとしてPVAを用いることで、多くの問題が生ずるが、塗布性・接着性を兼ね備えているという点でPVAを超える有機バインダーは見出されていないのが実状である。
【0012】
このような事情から、発明者らは、鋳型の内表面に離型材を塗布してシリコン融液を注湯するシリコンの鋳造法において、窒化珪素と二酸化珪素粉末を28:72〜75:25の重量比率で混合したものをプラズマ溶射機を用いてコーティングするシリコンの鋳造法を提案した(特許文献2参照)。この方法により、鋳型がシリコンのインゴットに付着することによって発生するシリコンの欠けを防止することができるとともに、従来使用していた有機バインダーを除去する脱バインダー工程を省略することができ、シリコンインゴット製作コストを削減することができるようになった。
【0013】
【特許文献1】
特開平7−206419号公報
【0014】
【特許文献2】
特開2002−292449号公報
【0015】
【非特許文献1】
15th Photovoltaic Spesialists Conf. (1981)、 P576 ̄P580、 ”A NEW DIRECTIONAL SOLIDIFICATION TECHNIQUEFOR POLYCRYSTALLINE SOLAR GRADE SILICON”
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らが特許文献2で開示したプラズマ溶射は、コーティング材料を加熱により溶融もしくは軟化させ、微粒子状にして加速し被覆対象物表面に衝突させて扁平に潰れた粒子を凝固・堆積させることにより皮膜を形成するコーティング技術である。この場合、液滴や粒子が皮膜生成の単位であるため、CVDやPVDなどのコーティングプロセスに比べて皮膜の生成が格段に速いとはいえ、コーティング速度は一パスで数粒子層分にしかならず、離型材としての機能を有するために必要な数十〜数百μmに達するには数十パスを要するという問題があった。
【0017】
また、供給した粉体粒子の全てが有効に溶射層としてコーティングされるわけではなく、一般的には50%程度の効率が限界であり、原料費の無駄が多くコスト削減を行う上で大きなネックとなっていた。
【0018】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、離型材に起因するシリコンインゴットの特性や歩留まりの低下を招くことのない、シリコン鋳造用鋳型と、それを短時間でまた生産コストを抑えて形成する方法を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のシリコン鋳造用鋳型は、内表面に離型材層を設けた鋳型内部のシリコン融液を凝固させるシリコン鋳造用鋳型において、上記離型材層の密度は、鋳型に接する側よりもシリコン融液に接する側の方が高くなっていることを特徴としたものである。これにより、離型材層が鋳型と接している部分は密度が低くなっているため、層自体が脆く、脱型しやすくなる。同時に、離型材層がシリコン融液と接している部分が密度が高くなっているため、層自体が固く、離型材の成分がシリコン融液に溶けこんだり、混入したりしにくくなる。
【0020】
さらに、離型材層は、鋳型に接する側に設けられた下地層と、シリコン融液に接する側に設けられたコーティング層とを含むように構成し、このコーティング層の密度を下地層の密度よりも高くなるようにすることが望ましい。このように離型材層の一方の側と他方の側とを、それぞれ密度の異なる層によって構成したことによって、本発明のシリコン鋳造用鋳型を非常に簡単に得ることができる。
【0021】
また、離型材層としては、窒化珪素と二酸化珪素とを含むように構成することが望ましく、窒化珪素の脆弱さと二酸化珪素の付着性により、脆弱性と付着性を兼ね備えたものとなり、脱型しやすさを保ちながら、同時にシリコン融液への溶けこみや混入を防ぐ効果を得ることができる。そして、この場合、窒化珪素と二酸化珪素の重量比を1:9〜9:1とすれば、上述の鋳型からシリコンインゴットを脱型するときのしやすさと、離型材層からシリコン融液への溶けこみや混入を防止するバランスを最適に保つことができる。
【0022】
さらに、窒化珪素と二酸化珪素とを含むように構成した離型材層において、シリコン融液に接する側にコーティング層を設け、この層の密度を2g/cm以上3g/cm以下とし、かつ厚みを5μm以上2mm以下とすれば、離型材層からシリコン融液への溶けこみ、混入を有効に抑止し、最適な状態に保つことができる。
【0023】
また、窒化珪素と二酸化珪素とを含むように構成した離型材層において、鋳型に接する側に下地層を設け、その密度を0.01g/cm以上2g/cm以下とし、かつ厚みを0.2mm以上1mm以下とすれば、離型材層が鋳型から剥離することを有効に抑止し、鋳型から脱型のしやすさを最適な状態に保つことができる。
【0024】
さらに、本発明のシリコン鋳造用鋳型においては、鋳型の本体として、黒鉛を主成分として含む材料を用いることが望ましく、これによって、本発明の作用効果を最大限に発揮できるので、安価な黒鉛材料を用いても酸化によって消耗することがなく、長い寿命の鋳型を得ることが可能となる。
【0025】
そして、本発明のシリコン鋳造用鋳型の製造方法は、鋳型の内表面に窒化珪素粉体と二酸化珪素粉体との混合粉体を含む溶液を塗布、乾燥して下地層を形成する第1の工程と、窒化珪素粉体と二酸化珪素粉体とを含む混合粉体を原料としてプラズマ溶射法によってコーティング層を形成する第2の工程とを含む。この製造方法を用いることによって、下地層の離型材層は塗布により低密度の層となり、コーティング層の離型材層はプラズマ溶射により高密度の層となる。したがって、簡単に再現性良く、かつ短時間で本発明のシリコン鋳造用鋳型を得ることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を添付図面に基づき説明する。図1は、本発明にかかるシリコン鋳造用鋳型を説明する図である。図1(a)は、シリコン鋳造用鋳型の一例を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)のA−a方向の断面図である。
【0027】
鋳型1は、例えば黒鉛などからなり、一つの底部材1aと四つの側部材1bを組み合わせた分割と組み立てが可能な分割型鋳型などで構成される。なお、底部材1aと側部材1bは、ボルト(不図示)などで固定することによって分割可能に組み立てられたり、底部材1aと側部材1bが丁度嵌まる枠部材(不図示)で固定することによって分割可能に組み立てられる。
【0028】
鋳型1の内表面は、何回も繰り返して使用することができるように後述する構成を有する離型材層2が設けられている。
【0029】
この鋳型1の中には、シリコン融液が注湯され、その後、冷却し凝固させた後、脱型しシリコンインゴットを得る。具体的には、鋳型1を7.0〜90Torrに減圧したアルゴン(Ar)雰囲気中に置き、鋳型1をシリコン融液と同程度か若干低い温度で加熱してシリコン融液を注湯する。また鋳型1内にシリコン原料を入れ、直接溶解してもよい。しかる後、鋳型1の底部から徐々に降温させてシリコン融液を鋳型1の底部から徐々に凝固させる。最後に鋳型1を分割してシリコンのインゴットを脱型する。なお、脱型後、鋳型1は再度、離型材層2で被覆し、複数回繰り返し使用することができる。
【0030】
本発明のシリコン鋳造用鋳型においては、鋳型1の内表面を被覆する離型材層2の密度が、鋳型1と接している部分よりも、シリコン融液と接する部分の方が高いことを特徴とする。このようにすることにより、離型材層2が鋳型1と接している部分は密度が低いので、層自体が脆く、脱型しやすくなる。そして、離型材層2がシリコン融液と接する部分は、密度が高いので、層自体が固く、離型材層2を構成する成分がシリコン融液に溶けこんだり、混入したりしにくくなる。
【0031】
このような離型材層2としては、窒化珪素、炭化珪素、酸化珪素などの既知の離型材を用いることができ、鋳型1と接している部分よりも、シリコン融液と接する部分の方を高密度となるように形成すれば、上述の本発明の効果を奏する。このような構造を得るため、図1(b)に示すように、離型材層2を密度の低い下地層2aと密度の高いコーティング層2bとを含むように構成し、鋳型1側を下地層2aとし、シリコン融液側をコーティング層2bとすることが望ましい。
【0032】
さらに、離型材層2としては、窒化珪素と二酸化珪素とを含んでなるものを用いれば、窒化珪素は脆弱であり、二酸化珪素は付着性を有することから、これら2つの材料を含んでなる離型材層2は、脆弱性と付着性を兼ね備えたものとなり、窒化珪素の作用により鋳型1からシリコンのインゴットを脱型することが容易となり、同時に、二酸化珪素の作用により離型材層2からシリコン融液への溶けこみや混入を防ぐことができる。
【0033】
さらに、このとき、窒化珪素と二酸化珪素の重量比が1:9〜9:1となるようにすれば、鋳型1からシリコンインゴットの脱型しやすさと、離型材層2の構成成分がシリコン融液への溶けこみや混入を防止するバランスを最適に保つことができる。なお、窒化珪素と二酸化珪素の重量比は、28:72〜75:25とすることがより望ましく、鋳型1とシリコンのインゴットとの付着によって発生するシリコンの欠けを抑止する効果をさらに高めることができる。
【0034】
また、離型材層2として上述の窒化珪素と二酸化珪素とを含む混合物を用いて、図1(b)に示すようにシリコン融液と接する側にコーティング層2bを設ける場合、コーティング層2bの密度を2g/cm以上3g/cm以下とし、その厚みは5μm以上2mm以下とすることが望ましい。このような構成とすれば、離型材層2を構成するコーティング層2bから離型材の成分がシリコン融液に溶けこんだり、混入したりしたりすることを充分に抑制することができる。
【0035】
コーティング層2bの密度が2g/cm未満の場合、コーティング層2bが多孔質となり、強度が低く、シリコン融液と接触する面積が増えるなどの理由から、離型材の成分がシリコン融液に溶けこんだり、混入したりしやすくなる。また、コーティング層2bの密度が、3g/cmを超えても作用効果の上では差し支えないが、上述の窒化珪素と二酸化珪素とを含む混合物をこの密度にして離型材層2を形成するためには、1500℃を超える高温に加熱する必要があるため、形成が難しいという問題がある。
【0036】
さらに、コーティング層2bの厚みが5μm未満のときは、脱型しにくくなるという問題がある。また、コーティング層2bは厚くても離型材としての効果を充分に発揮するが、限度を超えて厚くしようとすると作業時間がかかり生産性が低下することから、2mm以下とすることが望ましい。また、本発明の目的は短時間でまた生産コストを抑えてシリコン鋳造用鋳型を形成する方法を提供することにあり、形成時間のかかるコーティング層2bは極力薄くすることが望ましい。これらの観点からコーティング層2bの厚みは、10〜25μmの範囲とすることがより望ましい。
【0037】
また、離型材層2として上述の窒化珪素と二酸化珪素とを含む混合物を用いて、図1(b)に示すように鋳型1と接する側に下地層2aを設ける場合、下地層2aの密度は0.01g/cm以上、2g/cm以下となるようにし、その厚みが0.2mm以上1mm以下とすることが望ましい。このような構成とすれば、離型材層2を構成する下地層2aが鋳型1から剥離することを抑止するとともに、シリコンインゴットを脱型しやすい鋳型1を得ることができる。この下地層2aの密度が2g/cmを超えると、層自体が緻密な層となるため固くなり、シリコンインゴットを脱型しにくくなる。この下地層2aの密度は、できる限り低くすることが望ましいが、この密度を低くするためには、塗布の工程で用いる離型材のスラリー粘度が低下させる必要があるので、被覆する工程で液垂れをおこし、層の厚みが不均一になったり、厚みを確保するために繰り返し被覆する必要が生じたりするため、作業性が低下するという問題がある。また、下地層2aの密度が小さすぎると非常に脆くなって、コーティング層2bを形成するためのプラズマ溶射時の衝撃に耐えることができず、溶射時に下地層2aの剥離が発生するという問題があるため、0.01g/cm以上とすることが望ましい。
【0038】
さらに、下地層2aの厚みが0.2mm未満のときは、離型材層2全体の厚みが薄くなってしまい、シリコン融液が鋳型1に付着して脱型できなくなったり、シリコンインゴットに欠けが発生する場合があり、離型材としての本来の役割を果たすことができないという問題がある。また1mmを超えると離型材層2と鋳型1の付着性が低下し、シリコン融液中に離型材が混入してしまうという問題がある。より好ましくは、下地層2aの厚みは、0.4〜0.8mmである。
【0039】
鋳型1の材質としては、黒鉛を主成分として含むものを用いることが望ましい。その理由としては、安価であるとともに、上述の本発明にかかる窒化珪素と二酸化珪素とを含む混合物を離型材層2として用いたときに、本発明の効果を十分に発揮することができるからである。また、通常の黒鉛以外に炭素繊維によって強化した黒鉛材料を用いてもよい。なお、黒鉛以外に石英などを用いることもできるが、鋳型1を石英で形成する場合は、底部材1aと側部材1bを一体で成形したものを用いることが望ましい。
【0040】
次に、上述の本発明のシリコン鋳造用鋳型の製造方法について述べる。
【0041】
まず、第1の工程として、黒鉛製の鋳型1の内表面に、窒化珪素粉体と二酸化珪素粉体との混合粉体を含む溶液を塗布、乾燥して、離型材層2を構成する下地層2aを形成する。
【0042】
この窒化珪素粉体と二酸化珪素粉体との混合粉体を含む溶液は、次のようにして作製する。まず、窒化珪素と二酸化珪素とを所定重量比で、例えば10重量%以下程度のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液に混合し、撹拌すれば、粉体である窒化珪素と二酸化珪素をスラリー状とすることができるので、鋳型1に塗布することが容易となる。なお、窒化珪素の粉体としては、0.4〜0.6μm程度の平均粒径を有するものが用いられる。また、二酸化珪素の粉体としては、20μm程度の平均粒径を有するものが用いられる。このような窒化珪素と二酸化珪素の粉体を、各々の重量比が1:9から9:1の範囲となるように秤量し、5〜15重量%程度のPVA水溶液に混合、撹拌して離型材の混合物スラリーを得る。
【0043】
上述の方法によって得られた離型材スラリーを鋳型1の内表面に塗布、乾燥することによって、本発明のシリコン鋳造用鋳型の離型材層2の下地層2aを形成することができる。なお、塗布の方法としては、刷毛、へらなどを用いたり、スプレー法などを用いたりすることが可能であるが、生産性の観点から、一度の塗布で塗布厚を確保できる刷毛を用いることが望ましい。さらに乾燥方法としては、ホットプレート、オーブンなどの従来周知の方法を用いることができる。
【0044】
また、下地層2aの厚さは、塗布、乾燥の工程を繰り返すことによって、調整することができる。そして、下地層2aの厚さは、0.2mm以上1mm以下となるように調整することが望ましい。その理由は次のように考えられる。このような塗布によって形成された下地層2aは、PVAなどの有機バインダーによって結合しているだけであり、相互の結合力は強くない。したがって、厚さが1mmを超えると、後述する第2の工程において、プラズマ溶射によってコーティング層2bを形成する際に、高速粒子の衝撃によって、下地層2aの表面が破壊・脱落する恐れがあるからである。さらに、部分的に脱落した下地層2aの上に溶射によるコーティング層2bが形成され、離型材層2の表面形状の凹凸が激しくなってしまい、好ましくないという問題もある。また、厚さが0.2mm未満のときは、離型材層2の全体の厚みが不足するため、離型材としての機能を十分果たすことができず、実際の鋳造の際にシリコン融液が鋳型1に融着してしまうことがある。
【0045】
上述の第1の工程において形成された離型材層2の下地層2aは、PVAなどの有機バインダーによって緩やかに結合され、密度の低い層となるので、離型材層2の鋳型1に接する側を低密度とした本発明の構造とすることができる。
【0046】
なお、下地層2aの密度は、0.01g/cm以上2g/cm以下とすることが望ましいが、下地層2aの密度を調整するためには、有機バインダーのPVAの濃度を調整したり、使用する窒化珪素と二酸化珪素粉末の平均粒径を調整したり、形状を調整したりすればよい。例えば、下地層2aの密度を減少させるためには、有機バインダー濃度を上昇させる、粉末の平均粒径を大きくする、線形度を上げるなどの操作が効果的である。
【0047】
なお、線形度とは粒子1粒の最大長と面積(最大の断面積)の比率であり((絶対最大長)/面積)*π/4で表す。真円の場合は線形度は1となり、楕円の場合は扁平率が高くなるほど線形度は大きくなる。線形度は走査型レーザー顕微鏡で測定することができる。
【0048】
次に、第2の工程として、窒化珪素粉体と二酸化珪素粉体とを含む混合粉体を原料として、プラズマ溶射法によりコーティング層2bを形成する。プラズマ溶射法を行うプラズマ溶射機は、プラズマ流中に各種粉末材料を送り溶融噴射して皮膜を形成する装置である。溶射温度は32000°Kに及ぶプラズマ気流中の10000℃前後の温度帯を使用し溶融粒子の噴射速度はマッハ1に達しており、極めて高品質で緻密な皮膜層が形成される。
【0049】
通常、窒化珪素は約1900℃(1atm in N)で昇華分解してしまうため、単体では液相を作らずプラズマ溶射による皮膜層を形成することができないが、比較的低温でガラス層を形成する二酸化珪素を混合することにより、窒化珪素粉体は溶融した二酸化珪素中に溶け込んだ状態で基材に融着し急速に冷却され固着する。
【0050】
プラズマ溶射に用いる混合粉体は次のようにして作製する。窒化珪素粉体と二酸化珪素粉体とを所定重量比で、例えば10重量%以下程度のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液などの有機バインダーの溶液に混合・撹拌し、粉体である窒化珪素と二酸化珪素をスラリー状とする。その後、これをスプレードライ、フリーズドライなどの周知の手法を用いて造粒し、混合粉体を作製する。
【0051】
なお、すでに第1の工程において述べたように、このプラズマ溶射によって下地層2aの上にコーティング層2bを形成する場合、下地層2aの塗布量は1mm以内とすることが望ましい。これは下地層2aは有機バインダーであるPVAによって緩やかに結合しているだけであるため、1mm以上の厚みの下地層2aを塗布すると、プラズマ溶射による高速粒子の衝撃に耐えることができず、下地層2aの表面が破壊・脱落してしまうという問題が発生するからである。さらに、部分的に脱落した下地層2aの上にプラズマ溶射によるコーティング層2bが形成されると、完成した離型材層2の表面形状は凹凸が激しく好ましくないという問題もある。
【0052】
一方、下地層2aの厚みが1mm以下の場合は、溶射の衝撃によって下地層2aが部分的に破壊するが、破壊され飛散した下地層2aを構成していた粉体は、軟化した二酸化珪素に取り込まれ、急速凝固してコーティング層2bを形成するため、完成後の離型材層2の表面には大きな凹凸は生ぜず、実質的な使用には全く問題がない。
【0053】
通常、プラズマ溶射法は粉体の使用効率が低く、皮膜の形成速度が遅いという問題があるが、本発明の方法によれば、プラズマ溶射時に下地層2a自体を破壊飛散させ、これをコーティング層2bの原料として用いることができる。したがって、被覆対象物の表面側で原料の粉体を供給する効果を得ることができ、皮膜形成速度を著しく向上させることが可能となる。例えば、通常のプラズマ溶射法では、1パスあたり20μm程度の皮膜形成速度であるが、本発明の場合、1パスあたり40μm程度の皮膜形成速度を得ることができ、コーティング層2bを短時間で所望の厚さに形成することができる。
【0054】
なお、コーティング層2bは、必要な厚さとなるまで、プラズマ溶射を繰り返すことができる。そして、コーティング層2bの厚さは、5μm以上2mm以下となるように調整することが望ましい。
【0055】
上述の第2の工程において形成された離型材層2のコーティング層2bは、プラズマ溶射によって、高密度の層となるので、離型材層2のシリコン融液側に接する側を高密度とした本発明の構造とすることができる。
【0056】
なお、コーティング層2bの密度は、2g/cm以上3g/cm以下とすることが望ましいが、この密度を調整するためには、使用する窒化珪素と二酸化珪素粉末の平均粒径を調整したり、形状を調整したりすればよい。例えば、コーティング層2bの密度を減少させるためには、粉末の平均粒径を大きくする、線形度を上げるなどの操作が効果的である。
【0057】
また、本発明の製造方法によれば、離型材層2に含まれる有機バインダーは、プラズマ溶射の際に、超高温に熱せられた原料粉体が衝突して、一気に分解が進行するので、離型材層2中には有機バインダー成分はほとんど残存しない。したがって、形成された離型材層2から有機バインダーを除去するために、酸化雰囲気中あるいは不活性雰囲気中で高温脱脂する必要がない。したがって、黒鉛からなる鋳型1が酸化消耗したり、脱脂しきれなかったカーボン残渣がシリコン融液中に溶け出したりする恐れがない。
【0058】
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
【0059】
例えば、上述の説明ではこのコーティング層2bは、下地層2aの上に直接形成させたが、これに限るものではなく、下地層2aとの間にさらに別の層を介在させても構わない。また、下地層2a、あるいはコーティング層2bを作製する途中で条件を変更して、多層構造としてもよい。
【0060】
また、上述の説明では、離型材層2として、下地層2a、コーティング層2bを備える例について、説明を行ったが、これに限るものではなく、例えば、最初から最後までプラズマ溶射などの方法によって離型材層2の形成を行ってもよい。ただし、作製条件を制御して、離型材層2が鋳型1側で密度が小さく、シリコン融液側で密度が大きくなるようにする必要がある。
【0061】
さらに、上述の説明では、離型材層2を構成する材料として、窒化珪素と二酸化珪素の組合せによって説明を行ったが、これに限るものではなく、窒化珪素や二酸化珪素の単体を材料として用いても良い。
【0062】
【実施例】
平均粒径0.5μmの窒化珪素粉末と平均粒径20μmの二酸化珪素粉末と8.7%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液とを、重量比にして1:1:2の割合で攪拌混合してスラリー状にした離型材の混合溶液を得た。これを黒鉛製の鋳型1の内表面に刷毛で塗布しホットプレートに載せて乾燥した。この操作を所定回数行い、下地層2aを得た。
【0063】
その後、平均粒径0.5μmの窒化珪素粉末と平均粒径20μmの二酸化珪素粉末およびPVA(ポリビニルアルコール)を秤量し、重量比にして20:7:4の比率でスプレードライ法により造粒して作製した混合粉体をプラズマ溶射機で下地層2aの表面に所定の厚さとなるまでコーティング層2bを形成し、離型材層2を形成した。
【0064】
この方法によって形成した離型材層2に含まれる下地層2aおよびコーティング層2bを切り出し、アルキメデス法によって密度をそれぞれ5箇所ずつ測定したところ、下地層2aは平均1.5g/cm、コーティング層2bは2.2g/cmであり、鋳型1側が低密度、シリコン融液側が高密度となった本発明のシリコン鋳造用鋳型にかかる離型材層2が得られていることがわかった。
【0065】
さらに、上述の条件を用いて、下地層2aの厚みについては、刷毛による塗布および乾燥の回数を変えることにより、250、500、750、1000、1500、2000μmと変化させた。また、溶射によるコーティング層2bの厚みについては、プラズマ溶射のパス数を変化させることにより、3、5、10、25、50μmと変化させた。
【0066】
このようにして得られた本発明にかかるシリコン鋳造用鋳型を用いて、次のようにして、シリコンのインゴットを作製し、評価を行った。
【0067】
まず、鋳型1を80Torrに減圧したアルゴン雰囲気中に置き、黒鉛ヒータを使って1000℃に加熱した状態で鋳型1内にシリコン融液70kgを注湯して7時間かけて徐々に凝固させた。冷却後固化したシリコンのインゴットを鋳型から取り出し、離型材と鋳型の融着の有無、シリコンのインゴットと鋳型の融着の有無について調べた。この結果を表1に示す。評価結果は、◎:全く問題なし、○:顕著な融着は見られない、△:若干の融着もしくはコーティング層の凹凸が見られる(許容範囲)、×:不可(融着顕著もしくはコーティング層の凹凸顕著)、で表示した。
【0068】
【表1】
Figure 2005046851
表1から、本発明の範囲内のシリコン鋳造用鋳型により評価した場合、全て許容範囲内の結果が得られることがわかった。下地層2aの厚みが1500μmを超えると、部分的な融着が発生したり、コーティング層2b表面の凹凸形状が現れてくることがわかる。さらに、下地層2a厚みが250〜1000μmの範囲内であっても、コーティング層2b厚みが3μmと小さい場合には緻密なコーティング層2bが形成されず、離型材中へのシリコン融液の若干の浸入が見られた。以上の実験結果から、下地層2a厚みを250〜1000μmの間に設定しコーティング層2b厚みを5μm以上とすることが望ましいことがわかった。また、下地層2a厚みを500μmとしコーティング層2b厚みを10〜25μmにした時が最も最良の結果が得られた。
【0069】
次に、本発明の範囲外のシリコン鋳造用鋳型を作製するため、有機バインダーのPVA濃度を下げ、使用する窒化珪素と二酸化珪素粉末の平均粒径を微細にして作製した離型材のスラリーを用いて下地層2aを刷毛塗りにより形成した後、平均粒径を大きくした窒化珪素と二酸化珪素粉末を用いてスプレードライ法により作製した造粒粉末を用いてプラズマ溶射によりコーティング層2bを溶射した。
【0070】
この方法によって形成した離型材層2に含まれる下地層2aおよびコーティング層2bの密度をそれぞれ5箇所ずつ測定したところ、下地層2aは平均2.5g/cm、コーティング層2bは1.8g/cmであり、本発明の範囲外のシリコン鋳造用鋳型となっていた。
【0071】
この鋳型を用いて上述の評価を行ったところ、低密度のコーティング層2b中にシリコンが奥深く侵入し、下地層2aにまで到達していた。一方、下地層2aは鋳型材と一体化して一部で固着し脱型が困難であった。さらにコーティング層2bを貫通し、鋳型材と一体化した下地層2aにまで達した部分では、シリコンと鋳型材の熱収縮量差に起因するシリコン割れが発生していた。
【0072】
さらに、従来法である、離型材のスラリーを鋳型の内表面に塗布するだけの方法、プラズマ溶射だけの方法により、離型材層2を作製した。これらの方法により作製された離型材層2の密度が鋳型1側、シリコン融液側でほぼ同じとなっていることを確認した。そして、本発明の範囲外の試料を用いて上述の評価を行ったところ、塗布だけの方法では、シリコンと鋳型1の融着が発生した。また、プラズマ溶射だけの方法では、特に問題は生じなかったが、本発明と比べて、離型材層2を形成するのに、多大な時間を要し、コストがかかることがわかった。
【0073】
【発明の効果】
以上のように、本発明の請求項1にかかるシリコン鋳造用鋳型によれば、脱型しやすく離型材がシリコン融液に溶けこんだり、混入したりしにくくなるので、離型材に起因するシリコンインゴットの特性や歩留まりの低下を招くことがない。
【0074】
また、本発明の請求項2にかかるシリコン鋳造用鋳型によれば、離型材層の一方の側と他方の側とを、それぞれ密度の異なる層によって構成したことによって、請求項1にかかるシリコン鋳造用鋳型を非常に簡単に得ることができる。
【0075】
そして、本発明の請求項3にかかるシリコン鋳造用鋳型によれば、離型材層として窒化珪素と二酸化珪素とを含むように構成したので、窒化珪素の脆弱さと二酸化珪素の付着性により、脱型しやすさを保ちながら、同時にシリコン融液への溶けこみや混入を防ぐ効果を得ることができる。
【0076】
さらに、本発明の請求項4にかかるシリコン鋳造用鋳型によれば、本発明の請求項3にかかるシリコン鋳造用鋳型を用いた場合に、シリコンインゴットを脱型するときのしやすさと、離型材層からシリコン融液への溶けこみや混入を防止するバランスを最適に保つことができる。
【0077】
また、本発明の請求項5にかかるシリコン鋳造用鋳型によれば、離型材層からシリコン融液への溶けこみ、混入を有効に抑止し、最適な状態に保つことができる。
【0078】
そして、本発明の請求項6にかかるシリコン鋳造用鋳型によれば、離型材層が鋳型から剥離することを有効に抑止し、鋳型から脱型のしやすさを最適な状態に保つことができる。
【0079】
さらに、本発明の請求項7にかかるシリコン鋳造用鋳型によれば、本発明の作用効果を最大限に発揮できるので、安価な黒鉛材料を用いても酸化によって消耗することがなく、長い寿命の鋳型を得ることが可能となる。
【0080】
また、本発明の請求項8にかかるシリコン鋳造用鋳型の製造方法によれば、簡単に再現性良く、かつ短時間で本発明のシリコン鋳造用鋳型を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるシリコン鋳造用鋳型を説明する図であり、(a)はシリコン鋳造用鋳型の一例を示す斜視図であり、(b)はA−a方向の断面図である。
【符号の説明】
1:鋳型
1a:底部材
1b:側部材
2:離型材層
2a:下地層
2b:コーティング層

Claims (8)

  1. 内表面に離型材層を設けた鋳型内部のシリコン融液を凝固させるシリコン鋳造用鋳型において、前記離型材層の密度は、鋳型に接する側よりもシリコン融液に接する側の方が高くなっていることを特徴とするシリコン鋳造用鋳型。
  2. 前記離型材層は、鋳型に接する側に設けられた下地層と、シリコン融液に接する側に設けられたコーティング層とを含んでなり、前記コーティング層は前記下地層よりも密度が高いことを特徴とする請求項1記載のシリコン鋳造用鋳型。
  3. 前記離型材層は、窒化珪素と二酸化珪素とを含むことを特徴とする請求項1記載のシリコン鋳造用鋳型。
  4. 前記窒化珪素と前記二酸化珪素の重量比が1:9〜9:1であることを特徴とする請求項3に記載のシリコン鋳造用鋳型。
  5. 前記離型材層は、シリコン融液に接する側に設けられたコーティング層を含んでなり、前記コーティング層は、密度が2g/cm以上3g/cm以下であり、かつ厚みが5μm以上2mm以下であることを特徴とする請求項3または4に記載のシリコン鋳造用鋳型。
  6. 前記離型材層は、鋳型に接する側に設けられた下地層を含んでなり、前記下地層は、密度が0.01g/cm以上2g/cm以下であり、かつ厚みが0.2mm以上1mm以下であることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載のシリコン鋳造用鋳型。
  7. 前記鋳型の本体は、黒鉛を主成分として含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のシリコン鋳造用鋳型。
  8. 請求項1から7のいずれかに記載のシリコン鋳造用鋳型を製造する方法であって、鋳型の内表面に窒化珪素粉体と二酸化珪素粉体との混合粉体を含む溶液を塗布、乾燥させて下地層を形成する第1の工程と、窒化珪素粉体と二酸化珪素粉体とを含む混合粉体を原料としてプラズマ溶射法によってコーティング層を形成する第2の工程とを含むシリコン鋳造用鋳型の製造方法。
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