JP2005040041A - 食品用抗酸化剤及び酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品 - Google Patents
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Abstract
【課題】生体への影響が懸念される化学抗酸化剤を含有せずに、食品に長期間優れた酸化安定性を付与することのできる食品用抗酸化剤を提供することにあると共に、消費者が敬遠することなく安心して食することのできる、長期間酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供すること。
【解決手段】リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤、並びに水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、前記食品用抗酸化剤が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供するものである。
【選択図】 なし
【解決手段】リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤、並びに水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、前記食品用抗酸化剤が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供するものである。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品用抗酸化剤及び酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品に関し、詳しくはマヨネーズ、ドレッシング類などの水中油型エマルジョン食品用等として好適な食品用抗酸化剤と、該抗酸化剤を含有しており、酸化安定性に優れていて長期間保存の可能な水中油型エマルジョン食品とに関する。
【0002】
【従来の技術】
食品中に含まれる油脂は、保存期間中に徐々に酸素を吸収し、それらの濃度がある段階に達すると、急速に酸化が進む結果、食品の変色をもたらす。
【0003】
ところで、水相と油相とが乳化されてなる水中油型乳化食品の代表的なものとして、マヨネーズやドレッシング類等がよく知られている。これらは、水相原料と油相原料とが水中油型に乳化され、美味しく、且つ栄養価の高い食品である。
ここで、油相原料としては、大豆油、菜種油、コーン油等の食用植物油が一般的に使用されており、乳化剤としては、通常、呈味、色調及び乳化安定性の観点から、卵黄が主に用いられている。
【0004】
ところが、卵黄を使用して乳化したマヨネーズやドレッシング類等は、酸化安定性が十分でなく、長期間酸化条件におかれると、変色を生じたり、更には乳化が破壊され、油相が分離するなどの欠点がある。
【0005】
ここで酸化を防止するためには、抗酸化能を有する化学物質からなる化学抗酸化剤を油脂含有食品に添加するのが一般的である。
例えば、アスコルビン酸エステルを含有していることを特徴とする酸性調味料に係る発明が開示されており、この発明によれば、製造直後の風味がほぼ維持された、風味安定性に優れた酸性調味料が得られるとされている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】
特許第3072100号公報(特願平11−233596号)
【0007】
しかしながら、近年、化学物質の生体機能への悪影響が問題となっており、消費者は、一般的にこのような人工添加物を避ける傾向にある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、上記従来の問題点を解決し、生体への影響が懸念される化学抗酸化剤を含有せずに、食品に長期間優れた酸化安定性を付与することのできる食品用抗酸化剤を提供することにあると共に、消費者が敬遠することなく安心して食することのできる、長期間酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、予想外にもグリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該リン脂質にホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールが食品用抗酸化剤としての作用を有すること、及びこのリゾホスファチジル・グリセロールを添加して得られる水中油型エマルジョン食品が優れた酸化安定性を有することを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
なお、グリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールが食品用抗酸化剤としての作用を有すること、並びにリゾホスファチジル・グリセロールを用いた酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品については、これまでに全く知られていない。
【0011】
すなわち、請求項1に係る本発明は、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、リゾホスファチジル・グリセロールが、グリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールである請求項1記載の食品用抗酸化剤を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、請求項1又は2記載の食品用抗酸化剤が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、食品用抗酸化剤が、0.02質量%以上含有されていることを特徴とする請求項3記載の酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、請求項1に係る本発明について、詳細に説明する。
請求項1に係る本発明は、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤に関するものである。
【0013】
請求項1に係る本発明における抗酸化作用を有するリゾホスファチジル・グリセロールとは、リン脂質の塩基部分がグリセロールで置換され、さらに2位の脂肪酸が加水分解されたもので、以下のような構造を示す。
【0014】
【化1】
【0015】
2位の脂肪酸が加水分解されていないものは、ホスファチジル・グリセロールと呼ばれるが、これは植物のクロロプラスト(葉緑体)や光合成組織中の重要なリン脂質成分となっている。さらに、少量ではあるが、大豆やヒマワリ中のリン脂質にも含有されている( Lecithins Bernard F. Szuhai, American Oil Chemist’s Society 1985 )。
【0016】
このようなリゾホスファチジル・グリセロールとしては、請求項2に記載したものが挙げられる。
すなわち、請求項2に係る本発明は、リゾホスファチジル・グリセロールが、グリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールである請求項1記載の食品用抗酸化剤に関するものである。
【0017】
請求項2に係る本発明において、用いられるグリセロールとしては、油脂分解又はセッケン製造の際の副産物から精製されたものや酵母によるグリセロール発酵液から精製されたもの等が用いられる。
【0018】
次に、請求項2に係る本発明において、用いられるリン脂質としては、一般的な卵黄リン脂質、大豆リン脂質、菜種リン脂質等が挙げられる。
卵黄リン脂質の組成は、ホスファチジル・コリン73.0%、ホスファチジル・エタノールアミン15.0%、ホスファチジル・イノシトール0.6%、その他であり、一方、大豆リン脂質の組成は、ホスファチジル・コリン38.2%、ホスファチジル・エタノールアミン17.3%、ホスファチジル・イノシトール16.0%であることが報告されている(新食品機能素材の開発、太田明一監修、シーエムシー社、1996年)。
なお、これらリン脂質は、必ずしも純粋なものでなくてもよく、タンパク質、多糖類、塩類等、リン脂質以外の成分が混在したものであっても差し支えない。
【0019】
請求項2に係る本発明において、用いられるホスホリパーゼDは、ホスファチジル基転移酵素活性作用を有するものであり、リン脂質の塩基部分を加水分解する酵素である。水酸基を有する物質、例えばグリセロール等の存在下で、ホスホリパーゼDをリン脂質に作用させることにより、リン脂質の塩基部分とグリセロールとの間でエステル交換反応が生じ、その結果、ホスファチジル・グリセロールが得られる。グリセロールの他、糖類、ビタミンC、多価アルコール等、分子内に水酸基を有する物質との交換反応が可能である。
なお、エステル交換反応の起こり易さは、リン脂質の塩基の種類や水酸基を有する物質の種類によって決まるが、塩基部分としてはエタノールアミン、コリン、セリン等が適しており、水酸基を有する物質としては、グリセロールや糖類が適している。
このようにエステル交換反応の作用があるものをホスファチジル基転移酵素活性があると言う。
【0020】
このようなホスファチジル基転移酵素活性作用を有するホスホリパーゼDとしては、植物由来のホスホリパーゼD、例えば、キャベツ由来のホスホリパーゼDや、微生物由来のホスホリパーゼD、例えばストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する放線菌が生産するホスホリパーゼD等が挙げられる。
このようなホスホリパーゼDとしては、転移活性が高いストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する放線菌が生産するホスホリパーゼD、とりわけ転移活性が高く、生産性も良いことからストレプトマイセス・シナモネウム(Streptomyces cinnamoneum;旧名 Streptoverticillium cinnamoneum )が生産するホスホリパーゼDが好適に用いられる。
【0021】
このホスホリパーゼDは、分子量が約54,000であって、作用至適pHが5〜6であり、作用至適温度が40〜60℃を示すものである(Chiaki Ogino, Yukinari Negi, Toshiko Matsumiya, Koichi Nakaoka, Akihiko Kondo, Shun’ichi Kuroda, Shinji Tokuyama, Ushio Kikkawa, Tsumeo Yamane and Hideki Fukuda; J.Biochem. 125, 263−269 (1999) ;Purification, Characterization, and Sequence Determination of Phospholipase D Secreted by Streptoverticillium cinnamoneum)。
【0022】
こうしてグリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを作用させると、リン脂質の塩基部分とグリセロールとの間でエステル交換反応が生じ、その結果、ホスファチジル・グリセロールが得られる。
【0023】
このようにして得られるホスファチジル・グリセロールに、ホスホリパーゼA2を添加し処理することにより、目的とするリゾホスファチジル・グリセロールが得られる。すなわち、ホスファチジル・グリセロールをリゾ化する酵素がホスホリパーゼA2である。
請求項2に係る本発明において、用いられるホスホリパーゼA2の作用は、リン脂質の2位の脂肪酸を加水分解し、リゾリン脂質へと変換するものである。
【0024】
このようなホスホリパーゼA2としては、ブタの膵臓より得られたものや微生物由来のものなどがあり、具体的には例えばノボザイムズジャパン(株)製のレシターゼ10L、ジェネンコア・インターナショナル社製の微生物由来Lysomaxが挙げられ、特に前者のレシターゼ10Lが好ましい。
本発明において好適に用いられるレシターゼ10Lは、ブタの膵臓より抽出精製されたホスホリパーゼA2であり、かつ、作用至適pHが6〜10であり、作用至適温度が40〜60℃を示すものである。
【0025】
リン脂質がレシチン(ホスファチジル・コリン)を例とした場合での、ホスホリパーゼD及びホスホリパーゼA2処理によって得られるリゾホスファチジル・グリセロールの生成経路について、以下に示す。
【0026】
【化2】
【0027】
さらに、請求項2に係る発明におけるリゾホスファチジル・グリセロールの調製法の概要について、以下に例示する。但し、以下の説明はあくまでも例示であって、これに限定されるものではない。
【0028】
[リゾホスファチジル・グリセロールの調製方法]
ホスファチジル・グリセロールの調製法としては大きくは2種類あり、リン脂質の可溶な有機溶媒とグリセロールを含む水溶液との二相にホスホリパーゼDを併用させる2相反応と、リン脂質をグリセロールを含む水溶液に分散させた液にホスホリパーゼを作用させる1相反応とがある。
前者には非極性のヘキサンやヘプタン等と極性のアセトンや酢酸エチル等の混液が有機溶媒としてよく用いられ、これらにリン脂質を溶解した有機溶媒相とpHを調整したグリセリン水溶液にホスホリパーゼを添加した水相をそれぞれ調製し、この2相が良くまざるように攪拌することで、塩基交換反応によるホスファチジル・グリセロールが生成される。生成したホスファチジル・グリセロールは有機溶媒層を分取し、エバポレーター等により溶剤を除去することで回収できる。
また、後者はpHを調整したグリセリン水溶液にリン脂質を分散させた状態でホスホリパーゼDを作用させ、塩基交換反応によるホスファチジル・グリセロールが生成される。
その他、リン脂質もしくはホスホリパーゼDを固定化させて反応させる等の方法もあるが、以上の説明はあくまでも例示であって、これに限定されるものではない。
【0029】
このようにして得られたホスファチジル・グリセロールを水に分散し、ホスホリパーゼA2を作用させ、加水分解することで、リゾホスファチジル・グリセロールが得られる。また、1相反応によりホスファチジル・グリセロールを調製した場合、ホスホリパーゼDによる塩基交換反応終了後、そのままホスホリパーゼA2を添加し、作用することでもリゾホスファチジル・グリセロールを得ることができる。
処理後は、70〜90℃で、5〜60分間・加熱することやプロテーゼで処理することにより、残存ホスホリパーゼD及びホスホリパーゼA2を失活させることができる。また、シリカゲルや活性炭,活性白土等の吸着剤で処理することにより、残存ホスホリパーゼD及びホスホリパーゼA2を除去することができる。
以上の説明はあくまでも例示であって、これに限定されるものではない。
【0030】
請求項1、2に係る本発明の食品用抗酸化剤は、上記した如きものであるが、必要に応じて、その機能を妨げない範囲で、他の既知の抗酸化剤、例えば天然抗酸化剤等を配合することもできる。
【0031】
請求項1、2に係る本発明の食品用抗酸化剤は、各種食品用、中でも加工食品用、とりわけマヨネーズやドレッシング類等の水中油型エマルジョン食品用の抗酸化剤として有用である。
【0032】
請求項1、2に係る本発明の食品用抗酸化剤を食品に対し添加する場合には、従来の食品用抗酸化剤と同様に、一般的には食品製造時に添加すればよいが、食品製造後に用いることもできる。その添加量は、抽出条件や食品の種類等によって異なり、一義的に決定することはできないが、一般的に言うならば、食品に対して固形分として0.02質量%以上であることが好ましく、特に0.05〜1質量%がより好ましい。固形分として0.02質量%未満であると、抗酸化効果がやや低くなる。一方、添加量の上限については特に制限はないが、固形分として1質量%を超えて添加しても、酸化安定性は向上しない。
【0033】
請求項1、2に係る本発明の食品用抗酸化剤を食品に対し添加し含有させた場合は、全く添加しなかった場合と比べて、著しく酸化安定性が向上する。
【0034】
次に、請求項3に係る本発明は、水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、請求項1又は2記載の食品用抗酸化剤が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品に関するものであり、換言すれば、水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤(請求項1)又はグリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロール(請求項2)が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品に関するものである。
【0035】
請求項3に係る本発明における水中油型エマルジョン食品とは、水相と油相とが乳化剤により水中油型に乳化されてなるものをいい、代表的なものとしてマヨネーズやドレッシング類などが挙げられる。水中油型エマルジョン食品としては、従来公知なものを用いることができる。
【0036】
請求項3に係る本発明の特徴は、このような水相と油相とが乳化剤により乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤、つまり実質的にはリゾホスファチジル・グリセロールが、添加・配合されて含有されている点にある。
【0037】
請求項3に係る本発明の水中油型エマルジョン食品におけるリゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤の含有量は、水相原料と油相原料との配合比率などにより異なるが、請求項4に記載した如く、0.02質量%以上であることが好ましく、特に0.05〜1質量%がより好ましい。水中油型エマルジョン食品中におけるリゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤の含有量が0.02質量%未満では、水中油型エマルジョン食品における抗酸化効果はやや低くなる。また、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤の含有割合が1質量%を超えても含有量に見合うだけの効果の向上が得られないので、経済的にも好ましくない。
【0038】
請求項3に係る本発明の水中油型エマルジョン食品の水相を構成する原料(水相原料)は、マヨネーズやドレッシング類の製造に際して使用される原料や、その配合割合に準じて決定すればよく、特に制限されない。
【0039】
通常、用いられる水相原料の例としては、水の他に、食塩,食酢,グルタミン酸ナトリウム,イノシン酸ナトリウム等の調味料、乳化剤、糖類、澱粉、ガム類、香辛料、着香料などがある。乳化剤としては、卵黄が一般的であるが、卵白、乳蛋白、大豆蛋白等を使用でき、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
一方、油相を構成する原料(油相原料)としては、通常、食品に添加可能な親油性の物質であれば、特に制限がなく、例えば食用植物油脂や、親油性のある着香料等が挙げられる。
食用植物油脂としては、常温で液体の菜種油、大豆油、べに花油、サフラワー油、コーン油、ヒマワリ油等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0041】
請求項3に係る本発明の水中油型エマルジョン食品における油相と水相の割合については、特に制限はないが、通常は油相10〜90質量%に対して水相90〜10質量%、好ましくは油相30〜80質量%に対して水相70〜20質量%とする。
ここで、油相の比率が10質量%未満であると、調製された水中油型エマルジョン食品が美味しくなく、一方、油相の比率が90質量%を超えると、転相し易くなるので、いずれも好ましくない。
【0042】
請求項3に係る本発明による水中油型エマルジョン食品の製造は、既知の手法により行えばよく、特に制限されない。
例えば、水以外の水相原料を、水等に分散・溶解し、これらに油相原料を加えて、一般的な撹拌機、例えば市販の万能混合撹拌機を用いて予備乳化する。次いで、コロイドミル等の乳化機により仕上げ乳化を行うことによって、水中油型エマルジョン食品を製造することができる。
ここで、前記のリゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤の添加は、水以外の水相原料を水等へ分散・溶解する際に行えばよい。
【0043】
このようにして製造された水中油型エマルジョン食品は、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤が添加されていることにより、エマルジョンの破壊が防止されており、長期間酸化安定性に優れたものとなっている。リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤を添加することにより、水中油型エマルジョン食品の酸化安定性が付与される理由については、必ずしも明らかではないが、酸化のスタート物質であるラジカルを形成する際の触媒となる鉄等金属イオンの封鎖や、油脂の自動酸化で生じるラジカルや過酸化物の消去等に関与しているものと考えられる。
【0044】
【実施例】
次に、本発明を実施例や試験例等により詳しく説明するが、本発明の範囲は、これら実施例等により限定されるものではない。
【0045】
調製例1[リゾホスファチジル・グリセロール(本発明品1)の調製]
原料レシチン(ツル−レシチン工業(株)製レシチンSLP−PC70:ホスファチジル・コリン70%以上)27gをヘプタン/アセトン(80/20)混合溶液に溶解して300mlにして溶媒層を調製した。次に、グリセロール溶液(0.6M酢酸緩衝液(pH4)・7.2Mグリセロール混液)50mlにホスホリパーゼD(ナガセケムテックス(株)製)17,550Uを混合して水層を調製した。溶媒層と水層とを30℃及び5時間、2相がよく混ざるように攪拌し処理を行った。
処理後、35gの食塩を添加・溶解して、溶剤層と水層を分離させ、溶剤層を分取した。
分取した溶剤層はエバポレータを用い、60℃にて溶剤を除去することにより、ホスファチジル・グリセロール70〜90%を含有する固形物が得られた。
【0046】
次いで、得られた固形分20gを、6mM CaCl2を含有するpH8、0.2Mトリス塩酸緩衝液に分散して80mlにし、ホスホリパーゼA2(ノボザイムズジャパン(株)製レシターゼ10L:10,000IU/g)24,000IUを加え、50℃及び5時間の処理を行うことにより、90%以上のホスファチジル・グリセロールがリゾ化したリゾホスファチジル・グリセロール分散液が得られた。
【0047】
調製例2[リゾホスファチジル・グリセロール(本発明品2)の調製]
原料レシチン(ツル−レシチン工業(株)製レシチンSLP−PC70:ホスファチジル・コリン70%以上)27gをグリセロール溶液(0.2Mクエン酸緩衝液(pH5)・3.3Mグリセロール混液)に良く分散させた後、ホスホリパーゼD(ナガセケムテックス(株)製)2,700Uを加え、50℃及び5時間反応させた。
次に、2N NaOHでpHを7.6に調整した後、ホスホリパーゼA2(ノボザイムズジャパン(株)製レシターゼ10L:10,000IU/g)24,000IUを加え、50℃及び5時間の処理を行うことにより、90%以上のホスファチジル・グリセロールがリゾ化したリゾホスファチジル・グリセロール分散液が得られた。
【0048】
実施例1〜4
(1)水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)の調製
前記調製例1で得られたリゾホスファチジル・グリセロール(本発明品1)を下記第1表に示す所定量用い、第1表に示す配合組成の4種の水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)2kgをコロイドミルにてそれぞれ調製した。
すなわち、水相原料である卵黄、食塩、食酢(10%酸度)及び水、並びに前記調製例1で得られたリゾホスファチジル・グリセロール(本発明品1)を混合溶解して水相を調製し、この水相に油相原料として菜種油を加え、ホバルトミキサー(ホバルト社製)にて予備乳化した。次いで、コロイドミル(クリアランス:4/1000インチ、回転数:3000rpm)により仕上げ乳化を行って、水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)を調製した。
【0049】
(2)酸化安定性の評価
上記(1)にて得られた各水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)の酸化安定性を次のような方法で評価した。
すなわち、約200g容のガラス瓶に、上記(1)で得られた水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)を約100g充填し、1重のサランラップで瓶の口を密封し、34℃、暗所の条件下に保管した。6週間後、水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)の表層の分離状態により、酸化安定性を次の3段階で評価した。評価は経験豊かな5名のパネラーによる視覚観察の平均値で示した。
結果を第1表に示す。
【0050】
[酸化安定性の評価]
・安定:油分離していない。
・やや不安定:表層がやや油分離している。
・不安定:表層がひどく油分離している。
【0051】
比較例1
実施例1〜4において、前記調製例1で得られたリゾホスファチジル・グリセロール(本発明品)を全く添加しなかったこと以外は、実施例1〜4と同様にして行い、水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)を調製し、さらに実施例1〜4と同様にして酸化安定性を評価した。
結果を第1表に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
第1表から、以下のようなことが分かる。
リゾホスファチジル・グリセロールを添加していない比較例1で得られた水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)は、油分離しており酸化安定性が低い。
尚、調製例2で得られたリゾホスファチジル・グリセロールを用いて実施例1〜4の通りに実施しても同様の結果が得られた。
これに対し、リゾホスファチジル・グリセロールが水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)に0.02質量%、0.10質量%、0.20質量%及び1.00質量%添加された実施例1〜4で得られた水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)では、いずれも6週間という長い期間酸化条件下に置かれても、油分離がほとんどなく、酸化安定性が高いことが分かる。
このことから、リゾホスファチジル・グリセロールを添加することによって、水中油型エマルジョン(マヨネーズ)の酸化安定性が向上することが明らかである。
【0054】
試験例1(リゾホスファチジル・グリセロール添加量の影響)
実施例1において、ホスファチジル・グリセロールの添加量を第2表の如く0〜1.00質量%まで変化させ、さらに全体の配合量の合計が100質量%となるように水で調整したこと以外は実施例1と同様にして水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)を調製し、酸化安定性を評価した。
結果を第2表に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
第2表の結果から、以下のようなことが分かる。
水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)中のリゾホスファチジル・グリセロールを添加量が0.02質量%以上では、いずれも酸化安定性が高いことが分かる。
一方、水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)中のリゾホスファチジル・グリセロールの添加量が0.02質量%未満では、酸化安定性のやや低いことが分かる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、グリセロール存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することにより、ホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールは、食品、特にマヨネーズやドレッシング類等の水中油型エマルジョン食品に添加することにより、該食品に長期間の優れた酸化安定性を付与できる食品用抗酸化剤が提供される。
また、該リゾホスファチジル・グリセロールを抗酸化剤として用いることにより、酸化安定性に優れており、長期保存の可能な水中油型エマルジョン食品が提供される。
該リゾホスファチジル・グリセロールを抗酸化剤として用いて製造したマヨネーズやドレッシング類等の水中油型エマルジョン食品は、生体への影響が懸念される化学抗酸化物質を含有しないため、消費者が敬遠することなく、安心して食することができ、長期間酸化安定性に優れたものである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品用抗酸化剤及び酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品に関し、詳しくはマヨネーズ、ドレッシング類などの水中油型エマルジョン食品用等として好適な食品用抗酸化剤と、該抗酸化剤を含有しており、酸化安定性に優れていて長期間保存の可能な水中油型エマルジョン食品とに関する。
【0002】
【従来の技術】
食品中に含まれる油脂は、保存期間中に徐々に酸素を吸収し、それらの濃度がある段階に達すると、急速に酸化が進む結果、食品の変色をもたらす。
【0003】
ところで、水相と油相とが乳化されてなる水中油型乳化食品の代表的なものとして、マヨネーズやドレッシング類等がよく知られている。これらは、水相原料と油相原料とが水中油型に乳化され、美味しく、且つ栄養価の高い食品である。
ここで、油相原料としては、大豆油、菜種油、コーン油等の食用植物油が一般的に使用されており、乳化剤としては、通常、呈味、色調及び乳化安定性の観点から、卵黄が主に用いられている。
【0004】
ところが、卵黄を使用して乳化したマヨネーズやドレッシング類等は、酸化安定性が十分でなく、長期間酸化条件におかれると、変色を生じたり、更には乳化が破壊され、油相が分離するなどの欠点がある。
【0005】
ここで酸化を防止するためには、抗酸化能を有する化学物質からなる化学抗酸化剤を油脂含有食品に添加するのが一般的である。
例えば、アスコルビン酸エステルを含有していることを特徴とする酸性調味料に係る発明が開示されており、この発明によれば、製造直後の風味がほぼ維持された、風味安定性に優れた酸性調味料が得られるとされている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】
特許第3072100号公報(特願平11−233596号)
【0007】
しかしながら、近年、化学物質の生体機能への悪影響が問題となっており、消費者は、一般的にこのような人工添加物を避ける傾向にある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、上記従来の問題点を解決し、生体への影響が懸念される化学抗酸化剤を含有せずに、食品に長期間優れた酸化安定性を付与することのできる食品用抗酸化剤を提供することにあると共に、消費者が敬遠することなく安心して食することのできる、長期間酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、予想外にもグリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該リン脂質にホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールが食品用抗酸化剤としての作用を有すること、及びこのリゾホスファチジル・グリセロールを添加して得られる水中油型エマルジョン食品が優れた酸化安定性を有することを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
なお、グリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールが食品用抗酸化剤としての作用を有すること、並びにリゾホスファチジル・グリセロールを用いた酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品については、これまでに全く知られていない。
【0011】
すなわち、請求項1に係る本発明は、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、リゾホスファチジル・グリセロールが、グリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールである請求項1記載の食品用抗酸化剤を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、請求項1又は2記載の食品用抗酸化剤が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、食品用抗酸化剤が、0.02質量%以上含有されていることを特徴とする請求項3記載の酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品を提供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、請求項1に係る本発明について、詳細に説明する。
請求項1に係る本発明は、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤に関するものである。
【0013】
請求項1に係る本発明における抗酸化作用を有するリゾホスファチジル・グリセロールとは、リン脂質の塩基部分がグリセロールで置換され、さらに2位の脂肪酸が加水分解されたもので、以下のような構造を示す。
【0014】
【化1】
【0015】
2位の脂肪酸が加水分解されていないものは、ホスファチジル・グリセロールと呼ばれるが、これは植物のクロロプラスト(葉緑体)や光合成組織中の重要なリン脂質成分となっている。さらに、少量ではあるが、大豆やヒマワリ中のリン脂質にも含有されている( Lecithins Bernard F. Szuhai, American Oil Chemist’s Society 1985 )。
【0016】
このようなリゾホスファチジル・グリセロールとしては、請求項2に記載したものが挙げられる。
すなわち、請求項2に係る本発明は、リゾホスファチジル・グリセロールが、グリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールである請求項1記載の食品用抗酸化剤に関するものである。
【0017】
請求項2に係る本発明において、用いられるグリセロールとしては、油脂分解又はセッケン製造の際の副産物から精製されたものや酵母によるグリセロール発酵液から精製されたもの等が用いられる。
【0018】
次に、請求項2に係る本発明において、用いられるリン脂質としては、一般的な卵黄リン脂質、大豆リン脂質、菜種リン脂質等が挙げられる。
卵黄リン脂質の組成は、ホスファチジル・コリン73.0%、ホスファチジル・エタノールアミン15.0%、ホスファチジル・イノシトール0.6%、その他であり、一方、大豆リン脂質の組成は、ホスファチジル・コリン38.2%、ホスファチジル・エタノールアミン17.3%、ホスファチジル・イノシトール16.0%であることが報告されている(新食品機能素材の開発、太田明一監修、シーエムシー社、1996年)。
なお、これらリン脂質は、必ずしも純粋なものでなくてもよく、タンパク質、多糖類、塩類等、リン脂質以外の成分が混在したものであっても差し支えない。
【0019】
請求項2に係る本発明において、用いられるホスホリパーゼDは、ホスファチジル基転移酵素活性作用を有するものであり、リン脂質の塩基部分を加水分解する酵素である。水酸基を有する物質、例えばグリセロール等の存在下で、ホスホリパーゼDをリン脂質に作用させることにより、リン脂質の塩基部分とグリセロールとの間でエステル交換反応が生じ、その結果、ホスファチジル・グリセロールが得られる。グリセロールの他、糖類、ビタミンC、多価アルコール等、分子内に水酸基を有する物質との交換反応が可能である。
なお、エステル交換反応の起こり易さは、リン脂質の塩基の種類や水酸基を有する物質の種類によって決まるが、塩基部分としてはエタノールアミン、コリン、セリン等が適しており、水酸基を有する物質としては、グリセロールや糖類が適している。
このようにエステル交換反応の作用があるものをホスファチジル基転移酵素活性があると言う。
【0020】
このようなホスファチジル基転移酵素活性作用を有するホスホリパーゼDとしては、植物由来のホスホリパーゼD、例えば、キャベツ由来のホスホリパーゼDや、微生物由来のホスホリパーゼD、例えばストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する放線菌が生産するホスホリパーゼD等が挙げられる。
このようなホスホリパーゼDとしては、転移活性が高いストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する放線菌が生産するホスホリパーゼD、とりわけ転移活性が高く、生産性も良いことからストレプトマイセス・シナモネウム(Streptomyces cinnamoneum;旧名 Streptoverticillium cinnamoneum )が生産するホスホリパーゼDが好適に用いられる。
【0021】
このホスホリパーゼDは、分子量が約54,000であって、作用至適pHが5〜6であり、作用至適温度が40〜60℃を示すものである(Chiaki Ogino, Yukinari Negi, Toshiko Matsumiya, Koichi Nakaoka, Akihiko Kondo, Shun’ichi Kuroda, Shinji Tokuyama, Ushio Kikkawa, Tsumeo Yamane and Hideki Fukuda; J.Biochem. 125, 263−269 (1999) ;Purification, Characterization, and Sequence Determination of Phospholipase D Secreted by Streptoverticillium cinnamoneum)。
【0022】
こうしてグリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを作用させると、リン脂質の塩基部分とグリセロールとの間でエステル交換反応が生じ、その結果、ホスファチジル・グリセロールが得られる。
【0023】
このようにして得られるホスファチジル・グリセロールに、ホスホリパーゼA2を添加し処理することにより、目的とするリゾホスファチジル・グリセロールが得られる。すなわち、ホスファチジル・グリセロールをリゾ化する酵素がホスホリパーゼA2である。
請求項2に係る本発明において、用いられるホスホリパーゼA2の作用は、リン脂質の2位の脂肪酸を加水分解し、リゾリン脂質へと変換するものである。
【0024】
このようなホスホリパーゼA2としては、ブタの膵臓より得られたものや微生物由来のものなどがあり、具体的には例えばノボザイムズジャパン(株)製のレシターゼ10L、ジェネンコア・インターナショナル社製の微生物由来Lysomaxが挙げられ、特に前者のレシターゼ10Lが好ましい。
本発明において好適に用いられるレシターゼ10Lは、ブタの膵臓より抽出精製されたホスホリパーゼA2であり、かつ、作用至適pHが6〜10であり、作用至適温度が40〜60℃を示すものである。
【0025】
リン脂質がレシチン(ホスファチジル・コリン)を例とした場合での、ホスホリパーゼD及びホスホリパーゼA2処理によって得られるリゾホスファチジル・グリセロールの生成経路について、以下に示す。
【0026】
【化2】
【0027】
さらに、請求項2に係る発明におけるリゾホスファチジル・グリセロールの調製法の概要について、以下に例示する。但し、以下の説明はあくまでも例示であって、これに限定されるものではない。
【0028】
[リゾホスファチジル・グリセロールの調製方法]
ホスファチジル・グリセロールの調製法としては大きくは2種類あり、リン脂質の可溶な有機溶媒とグリセロールを含む水溶液との二相にホスホリパーゼDを併用させる2相反応と、リン脂質をグリセロールを含む水溶液に分散させた液にホスホリパーゼを作用させる1相反応とがある。
前者には非極性のヘキサンやヘプタン等と極性のアセトンや酢酸エチル等の混液が有機溶媒としてよく用いられ、これらにリン脂質を溶解した有機溶媒相とpHを調整したグリセリン水溶液にホスホリパーゼを添加した水相をそれぞれ調製し、この2相が良くまざるように攪拌することで、塩基交換反応によるホスファチジル・グリセロールが生成される。生成したホスファチジル・グリセロールは有機溶媒層を分取し、エバポレーター等により溶剤を除去することで回収できる。
また、後者はpHを調整したグリセリン水溶液にリン脂質を分散させた状態でホスホリパーゼDを作用させ、塩基交換反応によるホスファチジル・グリセロールが生成される。
その他、リン脂質もしくはホスホリパーゼDを固定化させて反応させる等の方法もあるが、以上の説明はあくまでも例示であって、これに限定されるものではない。
【0029】
このようにして得られたホスファチジル・グリセロールを水に分散し、ホスホリパーゼA2を作用させ、加水分解することで、リゾホスファチジル・グリセロールが得られる。また、1相反応によりホスファチジル・グリセロールを調製した場合、ホスホリパーゼDによる塩基交換反応終了後、そのままホスホリパーゼA2を添加し、作用することでもリゾホスファチジル・グリセロールを得ることができる。
処理後は、70〜90℃で、5〜60分間・加熱することやプロテーゼで処理することにより、残存ホスホリパーゼD及びホスホリパーゼA2を失活させることができる。また、シリカゲルや活性炭,活性白土等の吸着剤で処理することにより、残存ホスホリパーゼD及びホスホリパーゼA2を除去することができる。
以上の説明はあくまでも例示であって、これに限定されるものではない。
【0030】
請求項1、2に係る本発明の食品用抗酸化剤は、上記した如きものであるが、必要に応じて、その機能を妨げない範囲で、他の既知の抗酸化剤、例えば天然抗酸化剤等を配合することもできる。
【0031】
請求項1、2に係る本発明の食品用抗酸化剤は、各種食品用、中でも加工食品用、とりわけマヨネーズやドレッシング類等の水中油型エマルジョン食品用の抗酸化剤として有用である。
【0032】
請求項1、2に係る本発明の食品用抗酸化剤を食品に対し添加する場合には、従来の食品用抗酸化剤と同様に、一般的には食品製造時に添加すればよいが、食品製造後に用いることもできる。その添加量は、抽出条件や食品の種類等によって異なり、一義的に決定することはできないが、一般的に言うならば、食品に対して固形分として0.02質量%以上であることが好ましく、特に0.05〜1質量%がより好ましい。固形分として0.02質量%未満であると、抗酸化効果がやや低くなる。一方、添加量の上限については特に制限はないが、固形分として1質量%を超えて添加しても、酸化安定性は向上しない。
【0033】
請求項1、2に係る本発明の食品用抗酸化剤を食品に対し添加し含有させた場合は、全く添加しなかった場合と比べて、著しく酸化安定性が向上する。
【0034】
次に、請求項3に係る本発明は、水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、請求項1又は2記載の食品用抗酸化剤が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品に関するものであり、換言すれば、水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤(請求項1)又はグリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロール(請求項2)が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品に関するものである。
【0035】
請求項3に係る本発明における水中油型エマルジョン食品とは、水相と油相とが乳化剤により水中油型に乳化されてなるものをいい、代表的なものとしてマヨネーズやドレッシング類などが挙げられる。水中油型エマルジョン食品としては、従来公知なものを用いることができる。
【0036】
請求項3に係る本発明の特徴は、このような水相と油相とが乳化剤により乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤、つまり実質的にはリゾホスファチジル・グリセロールが、添加・配合されて含有されている点にある。
【0037】
請求項3に係る本発明の水中油型エマルジョン食品におけるリゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤の含有量は、水相原料と油相原料との配合比率などにより異なるが、請求項4に記載した如く、0.02質量%以上であることが好ましく、特に0.05〜1質量%がより好ましい。水中油型エマルジョン食品中におけるリゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤の含有量が0.02質量%未満では、水中油型エマルジョン食品における抗酸化効果はやや低くなる。また、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤の含有割合が1質量%を超えても含有量に見合うだけの効果の向上が得られないので、経済的にも好ましくない。
【0038】
請求項3に係る本発明の水中油型エマルジョン食品の水相を構成する原料(水相原料)は、マヨネーズやドレッシング類の製造に際して使用される原料や、その配合割合に準じて決定すればよく、特に制限されない。
【0039】
通常、用いられる水相原料の例としては、水の他に、食塩,食酢,グルタミン酸ナトリウム,イノシン酸ナトリウム等の調味料、乳化剤、糖類、澱粉、ガム類、香辛料、着香料などがある。乳化剤としては、卵黄が一般的であるが、卵白、乳蛋白、大豆蛋白等を使用でき、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
一方、油相を構成する原料(油相原料)としては、通常、食品に添加可能な親油性の物質であれば、特に制限がなく、例えば食用植物油脂や、親油性のある着香料等が挙げられる。
食用植物油脂としては、常温で液体の菜種油、大豆油、べに花油、サフラワー油、コーン油、ヒマワリ油等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0041】
請求項3に係る本発明の水中油型エマルジョン食品における油相と水相の割合については、特に制限はないが、通常は油相10〜90質量%に対して水相90〜10質量%、好ましくは油相30〜80質量%に対して水相70〜20質量%とする。
ここで、油相の比率が10質量%未満であると、調製された水中油型エマルジョン食品が美味しくなく、一方、油相の比率が90質量%を超えると、転相し易くなるので、いずれも好ましくない。
【0042】
請求項3に係る本発明による水中油型エマルジョン食品の製造は、既知の手法により行えばよく、特に制限されない。
例えば、水以外の水相原料を、水等に分散・溶解し、これらに油相原料を加えて、一般的な撹拌機、例えば市販の万能混合撹拌機を用いて予備乳化する。次いで、コロイドミル等の乳化機により仕上げ乳化を行うことによって、水中油型エマルジョン食品を製造することができる。
ここで、前記のリゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤の添加は、水以外の水相原料を水等へ分散・溶解する際に行えばよい。
【0043】
このようにして製造された水中油型エマルジョン食品は、リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤が添加されていることにより、エマルジョンの破壊が防止されており、長期間酸化安定性に優れたものとなっている。リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤を添加することにより、水中油型エマルジョン食品の酸化安定性が付与される理由については、必ずしも明らかではないが、酸化のスタート物質であるラジカルを形成する際の触媒となる鉄等金属イオンの封鎖や、油脂の自動酸化で生じるラジカルや過酸化物の消去等に関与しているものと考えられる。
【0044】
【実施例】
次に、本発明を実施例や試験例等により詳しく説明するが、本発明の範囲は、これら実施例等により限定されるものではない。
【0045】
調製例1[リゾホスファチジル・グリセロール(本発明品1)の調製]
原料レシチン(ツル−レシチン工業(株)製レシチンSLP−PC70:ホスファチジル・コリン70%以上)27gをヘプタン/アセトン(80/20)混合溶液に溶解して300mlにして溶媒層を調製した。次に、グリセロール溶液(0.6M酢酸緩衝液(pH4)・7.2Mグリセロール混液)50mlにホスホリパーゼD(ナガセケムテックス(株)製)17,550Uを混合して水層を調製した。溶媒層と水層とを30℃及び5時間、2相がよく混ざるように攪拌し処理を行った。
処理後、35gの食塩を添加・溶解して、溶剤層と水層を分離させ、溶剤層を分取した。
分取した溶剤層はエバポレータを用い、60℃にて溶剤を除去することにより、ホスファチジル・グリセロール70〜90%を含有する固形物が得られた。
【0046】
次いで、得られた固形分20gを、6mM CaCl2を含有するpH8、0.2Mトリス塩酸緩衝液に分散して80mlにし、ホスホリパーゼA2(ノボザイムズジャパン(株)製レシターゼ10L:10,000IU/g)24,000IUを加え、50℃及び5時間の処理を行うことにより、90%以上のホスファチジル・グリセロールがリゾ化したリゾホスファチジル・グリセロール分散液が得られた。
【0047】
調製例2[リゾホスファチジル・グリセロール(本発明品2)の調製]
原料レシチン(ツル−レシチン工業(株)製レシチンSLP−PC70:ホスファチジル・コリン70%以上)27gをグリセロール溶液(0.2Mクエン酸緩衝液(pH5)・3.3Mグリセロール混液)に良く分散させた後、ホスホリパーゼD(ナガセケムテックス(株)製)2,700Uを加え、50℃及び5時間反応させた。
次に、2N NaOHでpHを7.6に調整した後、ホスホリパーゼA2(ノボザイムズジャパン(株)製レシターゼ10L:10,000IU/g)24,000IUを加え、50℃及び5時間の処理を行うことにより、90%以上のホスファチジル・グリセロールがリゾ化したリゾホスファチジル・グリセロール分散液が得られた。
【0048】
実施例1〜4
(1)水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)の調製
前記調製例1で得られたリゾホスファチジル・グリセロール(本発明品1)を下記第1表に示す所定量用い、第1表に示す配合組成の4種の水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)2kgをコロイドミルにてそれぞれ調製した。
すなわち、水相原料である卵黄、食塩、食酢(10%酸度)及び水、並びに前記調製例1で得られたリゾホスファチジル・グリセロール(本発明品1)を混合溶解して水相を調製し、この水相に油相原料として菜種油を加え、ホバルトミキサー(ホバルト社製)にて予備乳化した。次いで、コロイドミル(クリアランス:4/1000インチ、回転数:3000rpm)により仕上げ乳化を行って、水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)を調製した。
【0049】
(2)酸化安定性の評価
上記(1)にて得られた各水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)の酸化安定性を次のような方法で評価した。
すなわち、約200g容のガラス瓶に、上記(1)で得られた水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)を約100g充填し、1重のサランラップで瓶の口を密封し、34℃、暗所の条件下に保管した。6週間後、水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)の表層の分離状態により、酸化安定性を次の3段階で評価した。評価は経験豊かな5名のパネラーによる視覚観察の平均値で示した。
結果を第1表に示す。
【0050】
[酸化安定性の評価]
・安定:油分離していない。
・やや不安定:表層がやや油分離している。
・不安定:表層がひどく油分離している。
【0051】
比較例1
実施例1〜4において、前記調製例1で得られたリゾホスファチジル・グリセロール(本発明品)を全く添加しなかったこと以外は、実施例1〜4と同様にして行い、水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)を調製し、さらに実施例1〜4と同様にして酸化安定性を評価した。
結果を第1表に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
第1表から、以下のようなことが分かる。
リゾホスファチジル・グリセロールを添加していない比較例1で得られた水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)は、油分離しており酸化安定性が低い。
尚、調製例2で得られたリゾホスファチジル・グリセロールを用いて実施例1〜4の通りに実施しても同様の結果が得られた。
これに対し、リゾホスファチジル・グリセロールが水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)に0.02質量%、0.10質量%、0.20質量%及び1.00質量%添加された実施例1〜4で得られた水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)では、いずれも6週間という長い期間酸化条件下に置かれても、油分離がほとんどなく、酸化安定性が高いことが分かる。
このことから、リゾホスファチジル・グリセロールを添加することによって、水中油型エマルジョン(マヨネーズ)の酸化安定性が向上することが明らかである。
【0054】
試験例1(リゾホスファチジル・グリセロール添加量の影響)
実施例1において、ホスファチジル・グリセロールの添加量を第2表の如く0〜1.00質量%まで変化させ、さらに全体の配合量の合計が100質量%となるように水で調整したこと以外は実施例1と同様にして水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)を調製し、酸化安定性を評価した。
結果を第2表に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
第2表の結果から、以下のようなことが分かる。
水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)中のリゾホスファチジル・グリセロールを添加量が0.02質量%以上では、いずれも酸化安定性が高いことが分かる。
一方、水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)中のリゾホスファチジル・グリセロールの添加量が0.02質量%未満では、酸化安定性のやや低いことが分かる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、グリセロール存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することにより、ホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールは、食品、特にマヨネーズやドレッシング類等の水中油型エマルジョン食品に添加することにより、該食品に長期間の優れた酸化安定性を付与できる食品用抗酸化剤が提供される。
また、該リゾホスファチジル・グリセロールを抗酸化剤として用いることにより、酸化安定性に優れており、長期保存の可能な水中油型エマルジョン食品が提供される。
該リゾホスファチジル・グリセロールを抗酸化剤として用いて製造したマヨネーズやドレッシング類等の水中油型エマルジョン食品は、生体への影響が懸念される化学抗酸化物質を含有しないため、消費者が敬遠することなく、安心して食することができ、長期間酸化安定性に優れたものである。
Claims (4)
- リゾホスファチジル・グリセロールを有効成分とする食品用抗酸化剤。
- リゾホスファチジル・グリセロールが、グリセロールの存在下で、リン脂質にホスファチジル基転移酵素活性を有するホスホリパーゼDを添加・処理することによりホスファチジル・グリセロールを生成させた後、該ホスファチジル・グリセロールにホスホリパーゼA2を添加し処理して得られるリゾホスファチジル・グリセロールである請求項1記載の食品用抗酸化剤。
- 水相と油相とが乳化されてなる水中油型エマルジョン食品において、請求項1又は2記載の食品用抗酸化剤が含有されていることを特徴とする酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品。
- 食品用抗酸化剤が、0.02質量%以上含有されていることを特徴とする請求項3記載の酸化安定性に優れた水中油型エマルジョン食品。
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JP2007014270A (ja) * | 2005-07-07 | 2007-01-25 | Nagase Chemtex Corp | リン脂質組成物の製造方法 |
WO2015083757A1 (ja) * | 2013-12-05 | 2015-06-11 | ナガセケムテックス株式会社 | 風味改善用酵素組成物、不快臭発生抑制方法および不快臭発生抑制食品の製造方法 |
-
2003
- 2003-07-28 JP JP2003202242A patent/JP2005040041A/ja not_active Withdrawn
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