JP2005029916A - 炭素繊維製造用油剤及び炭素繊維の製造方法 - Google Patents

炭素繊維製造用油剤及び炭素繊維の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐炎化工程での単繊維間への酸素の供給を円滑し、焼成ムラを減少することを可能にする炭素繊維製造用油剤、ひいては高性能な炭素繊維を安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】空気中260℃、15分の熱処理後における、剛体振り子の自由振動法により測定される振動周期T(秒)が下記式を満足する炭素繊維製造用油剤、およびかかる炭素繊維製造用油剤を付与せしめてなる炭素繊維用前駆体繊維である。
0.1≦T≦0.38
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度の優れた炭素繊維を提供するための炭素繊維製造用油剤及びそれを用いた炭素繊維用前駆体繊維及び炭素繊維の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維は各種繊維強化複合材料の強化繊維として、近年、益々その重要性が高まっており、用途も各種方面に拡がりつつあり、圧縮強度向上といった更なる高性能化と製造コストの抑制の両立が強く求められている。
【0003】
最も広く利用されているポリアクリロニトリル系炭素繊維は、アクリル系前駆体繊維束を200〜400℃の酸化性雰囲気下で耐炎化繊維へ転換する耐炎化工程、少なくとも1000℃の不活性雰囲気下で炭素化する炭化工程を経て、工業的に製造される。これら焼成工程においては、単繊維同士の接着を防止するために、耐熱性の高いシリコーン油剤をアクリル系前駆体繊維束に付与する技術が多数提案され、工業的に広く適用されている。例えば、特定のアミノ変成シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーンを混合した油剤は、空気中及び窒素中での加熱時の減量が少なく、接着防止効果が高いことが開示されている。しかしながら、このような従来のシリコーン油剤では、高性能な炭素繊維を得るために高張力で焼成を行うと、耐炎化工程において単繊維間に薄く広く介在して単繊維間距離を縮め、またあるいは単繊維同士を実質的に接触させてしまうため、耐炎化反応に必須となる酸素の供給を妨げ、その結果、耐炎化反応の進行度ムラ、いわゆる焼成ムラの発生が誘起されることがあった。更にはこれが原因となって、続く炭化工程において糸切れや毛羽発生等の問題を引き起こしやすく、生産性向上の大きな障害ともなっていた。また、高性能な炭素繊維を製造するためには、高張力に加えて、より表面が平滑なプリカーサーを用いることがあるが、このような表面が平滑なプリカーサーを用いると、上記焼成ムラの悪影響がよりいっそう顕著となり、高張力を保つことが困難なばかりか、糸条密度、処理速度を低下させざるを得ないのが現状であり、製造コストがかさむという問題もあった。これらの問題に対し、シリコーン油剤の硬化挙動を特定の範囲とすることにより、油剤を単繊維間に固まるようにして介在させることによって酸素が供給されるようにして焼成ムラを改善する技術(例えば、特許文献1)が開示されているが、さらなる圧縮強度向上等を図ろうとすると、未だ単繊維間接着防止効果が不十分であるのが現状であり、更なる炭素繊維の高性能化については限界があった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−172880号公報(全体)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点を解決し、耐炎化工程での単繊維間接着を防ぎ、単繊維間への酸素の供給を円滑に行うことができる炭素繊維製造用油剤を提供せんとするものである。特に高糸条密度、高張力の条件下においても、耐炎化のムラを減少し、優れた性能を有する炭素繊維を製造するための炭素繊維製造用油剤及びそれを用いた炭素繊維用前駆体繊維束及び炭素繊維の製造方法を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の炭素繊維製造用油剤は、空気中260℃、15分の熱処理後において、剛体振り子の自由振動法により測定される振動周期Tが下記式を満足する炭素繊維製造用油剤である。
【0007】
0.1≦T≦0.38
また、かかる炭素繊維製造用油剤を付与せしめてなる炭素繊維用前駆体繊維である。さらには、かかる炭素繊維用前駆体繊維を焼成せしめる炭素繊維の製造方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、優れた性能を有する炭素繊維を効率よく製造するために、鋭意検討した結果、耐炎化工程において、単繊維間接着を防止し、ひいては高張力を付与しながら耐炎化処理することを可能にする新規油剤に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の炭素繊維製造用油剤は、空気中260℃、15分の熱処理後において、剛体振り子の自由振動法により測定される振動周期T(秒)が0.1≦T≦0.38である。剛体振り子の自由振動法は一般的なレオメーターと異なり、開放形、薄膜の状態で粘弾性挙動を測定できる。該測定方法により測定される振動周期Tは、シリコーン油剤の架橋度に対応し、振動周期Tが小さいほど架橋度が高いことを示す。また、架橋が進むにつれ、シリコーン油剤の成分は化学反応によって分子量が増大し、かかる分子量の増加は粘度の増加となる。すなわち振動周期Tは油剤の弾性を示す指標の一つであり、振動周期Tが小さいほど高い弾性を有する。振動周期T(秒)が0.38より大きいと弾性が不足して、耐炎化工程の際単繊維間接着防止効果が十分ではなく、耐炎化ムラ(酸化不足部分)が増える。また、0.1より小さいと弾性が高すぎて単繊維を傷つける可能性がある。ここで、空気中260℃と言うのは、耐炎化工程の際の熱処理温度に近い温度であり、この温度付近における油剤の振動周期T(秒)を0.1≦T≦0.38とすることで高張力の条件下においても、単繊維間接着を防ぎ、耐炎化のムラを減少する効果がある。その結果炭素繊維の引張り強度および圧縮強度が向上する。かかる振動周期T(秒)は0.3〜0.15がより好ましく、0.27〜0.18がさらに好ましい。
【0011】
更に、本発明の油剤は145℃での油剤の粘性の指標である剛体振り子の自由振動法により測定される振り子の対数減衰率Fが0.05≦F≦1の範囲であることが好ましい。ここで、145℃における剛体振り子の自由減衰振動法による対数減衰率Fとは、製糸工程における加熱乾燥温度に近い温度領域での油剤の粘性を示す指標であり、対数減衰率が0.05未満では油剤の粘性が不足して油剤が単繊維間に保持され難いという場合があり、製糸工程における単繊維間接着を防止する効果が十分でない場合がある。また、対数減衰率が1より大きいと製糸工程の加熱乾燥過程において、製造装置にガム状の油剤が付着することが多い。
【0012】
前述の260℃15分熱処理後における剛体振り子の自由振動法により測定される振動周期T(秒)および上記145℃における対数減衰率Fは以下のようにして求める。
【0013】
測定対象の油剤を、汎用のアルミ皿に乾燥後の試料の質量が約1gとなるように採取し、40℃の熱風循環式オーブン中で質量変化がなくなるまで乾燥する。
乾燥後の試料を十分に撹拌して試料とする。該試料を剛体振り子の自由減衰振動法に基づき、汎用の剛体振り子型物性試験機を用いて対数減衰率Fと振動周期T(単位:秒)を測定する。剛体振り子型物性試験機としては、例えば株式会社エーアンドディー社製剛体振り子型物性試験機RPT−3000などを用いることができる。試料を長さ5cm、幅2cm、厚み0.5mmの亜鉛メッキ鋼板製塗布基板の上に厚みが20μmになるように塗布する。塗布板および振り子をセットした後測定を開始する。測定は30℃で4分間保持後、1.3℃/秒の速度で260℃まで昇温する。その間、7秒間隔で連続的に対数減衰率と振動周期の測定を行い、145℃の対数減衰率を対数減衰率Fとする。また、260℃において15分間保持し、15分経過後の振動周期を振動周期Tとする。尚、振り子は下記のものを使用する。測定は7回行い、最大値と最小値を除いて、n=5の平均値を値とする。
【0014】
<振り子>
使用エッジ:60°の角をなすナイフエッジ型
振り子重量/慣性能率:15g/640g・cm
また、本発明の油剤は、3重量%の水分散液としたときに、波長750nmの光の透過率が10%以上であることが好ましい。かかる透過率は油剤の分散、乳化状態の指標となるものであり、かかる透過率が10%未満となる油剤は水分散液としたときに乳化状態が不安定な場合があり、製糸工程で油剤を付与する際、プリカーサーへ均一に付与することができず、単繊維が部分的に接着を起こす場合がある。より好ましくは20%以上であり、更に好ましくは40%以上である。かかる透過率は高いほど好ましいが50%程度あれば、本発明の目的を達する上で十分なことが多い。かかる透過率は下記のようにして求める。
【0015】
測定対象となる油剤を適当量はかり取り、蒸留水に分散、乳化状態にし、水分散液中の油剤含有量が3重量%である水分散液を得る。この3重量%水分散液を1cm幅のガラスセルにセットし、測定波長750nmにて測定する。測定には、紫外可視吸光分光度計を使用する。紫外可視吸光分光光度計としては八光商事(株)社製紫外可視吸光分光光度計、(株)日立製作所製レシオビーム分光光度計などを用いることができる。
【0016】
以下、本発明の油剤の好ましい組成を例を挙げて説明する。本発明の油剤組成としては、例えばシリコーン化合物に不飽和結合を有するモノマーを添加することにより、空気中260℃、15分の熱処理後における、剛体振り子の自由振動法により測定される振動周期T(秒)が0.1≦T≦0.38を満たすように調整することができる。
【0017】
この場合、シリコーン化合物としては、例えばポリジメチルシロキサンを基本構造とし、メチル基の一部が変性されたものが好ましく用いられる。該変性基としては、アミノ基、エポキシ基、アルキレンオキサイド基などが挙げられる。複数の異なる若しくは同種の変性基を有するシリコーンでも良く、また、異なる変性基を持つ複数種のシリコーンを混合して用いても良い。アクリルプリカーサーへの均一付与性の観点から、アミノ変性シリコーンを使用するのが好ましく、さらに耐熱性の観点から、アミノ変性シリコーンとエポキシ変性シリコーンを使用するのが好ましい。また、アクリルプリカーサーへの均一付与性、付与簡便性の観点から、水系のエマルジョンの状態が好ましい。水系のエマルジョンの場合には、乳化安定性の観点から、アルキレンオキサイド変性シリコーンを使用するのが好ましい。これらのシリコーン化合物を、振動周期Tが前記範囲となるように適宜混合することができる。特に好ましくは、アミノ変性シリコーン100重量部に対して、エポキシ変性シリコーンを1〜80重量部、アルキレンオキサイド変性シリコーンを0.5〜50重量部含んでいることが好ましい。
【0018】
また、不飽和結合を有するモノマーとしては、不飽和結合を含む基、例えば、ビニル基やアリル基(2−プロペニル基)、1−プロペニル基等や、アクリル基、メタクリル基等を有するモノマーが挙げられる。より具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、スチレン、オルト−クロロスチレン、ビニルトルエン、その他のビニル基と芳香族環を有する化合物、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、その他の(メタ)アクリレート類等が挙げられる。また、不飽和結合は分子内に2つ以上あるのが好ましく、特に限定されるものではないが、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルベンゼンホスホネート、ジアリルフタレート、エチレンオキサイドやビスフェノール骨格等を結合基とする両末端がジ(メタ)アクリル基であるジ(メタ)アクリレート類、ブタジエンやイソプレン等のジエン類等の2官能性モノマー、トリアリルシアヌレート、ヒマシ油等の3官能モノマー等が挙げられる。更にまた、シリコーン化合物と相溶する化合物がより好ましく用いられる。これはシリコーンの変性基によって変わるので一概には言えないが、概ね疎水性の高いモノマーが該当する。これは、油剤の調製に先だって混合試験をすれば容易に判ることである。ジアクリレートとしては、日本油脂(株)社製ブレンマーADEシリーズ、ブレーンマーADPシリーズ等が挙げられる。ジメタクリレートとしては、日本油脂(株)社製ブレンマーPDEシリーズ、ブレンマーPDPシリーズ等が挙げられる。
【0019】
上記、モノマーを添加することによって、振動周期T(秒)を抑えることができる。かかるモノマー添加量は、シリコーン化合物の組成、モノマーの種類によって変化しうるが、おおむねシリコーン化合物100重量部に対して、好ましくは1重量部以上、より好ましくは10重量部以上、更に好ましくは20重量部以上含まれることが好ましい。モノマー添加量は多いほど好ましく上限はないが、シリコーン化合物100重量部に対して50重量部もあれば十分な場合が多い。
【0020】
また、不飽和結合を有するモノマーの沸点が100℃未満では、油剤を繊維に付与した後の加熱工程においてシリコーンの架橋を促進する前に蒸発してしまうことが多いため、不飽和結合を有するモノマーの沸点は100℃以上が好ましい。より好ましくは180℃以上であり、更に好ましくは250℃以上である。沸点は高ければ高いほど好ましいが、150℃もあれば十分なことが多い。
【0021】
また、本発明の炭素繊維製造用油剤は、分子内にエチレンオキサイド鎖を有する化合物を加えることも好ましい。かかる分子内にエチレンオキサイド鎖を有する化合物は、単独で前記シリコーン化合物に添加しても良いし、前記不飽和結合を有するモノマーと共に添加しても良い。分子内にエチレンオキサイド鎖を有する化合物も、振動周期Tを小さくする効果があり、その添加量が多いほど、振動周期Tは小さくなる傾向にあり、その添加量は、シリコーン化合物100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、1〜30重量部がより好ましい。前記不飽和結合を有するモノマーと併用する場合には、シリコーン化合物100重量部に対して、不飽和結合を有するモノマーと分子内にエチレンオキサイド鎖を有する化合物との合計量が1〜50重量部であることが好ましい。
【0022】
かかるエチレンオキサイド鎖を有する化合物としては、エーテル型として、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられ、エステル型として、エチレングリコール脂肪酸エステルが挙げられ、エーテル・エステル型として、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ひまし油等が挙げられる。
【0023】
油剤を水分散状態にして前駆体繊維束に付与する場合には、エチレンオキサイド鎖を有する化合物の中でも、HLBが5〜12のものを好ましく用いることができる。より好ましくは8〜12である。
【0024】
更に、本発明の炭素繊維製造用油剤は、1分子内に不飽和結合とエチレンオキサイド基を有する化合物を添加することも好ましい。かかる1分子内にエチレンオキサイド基を有する化合物は、単独で前記シリコーン化合物に添加しても良いし、前記不飽和結合を有するモノマー若しくは分子内にエチレンオキサイド鎖を有する化合物と併用しても良い。かかる化合物は、振動周期Tを小さくする効果があり、その添加量が多いほど、振動周期Tは小さくなる傾向にあり好ましいが、シリコーン化合物100重量部に対して100重量部もあれば十分な場合が多い。従って、その添加量はシリコーン化合物100重量部に対して1〜100重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましく、1〜30重量部が更に好ましい。前記不飽和結合を有するモノマーやエチレンオキサイド鎖を有する化合物と併用する場合には、シリコーン化合物100重量部に対して、不飽和結合を有するモノマー、分子内にエチレンオキサイド鎖を有する化合物、および1分子内にエチレンオキサイド基を有する化合物の合計が、1〜100重量部であることが好ましく、1〜50重量部がより好ましい。
【0025】
かかる1分子内に不飽和結合とエチレンオキサイド基を有する化合物としては、エチレンオキサイド基を有する化合物の主骨格に対して不飽和結合を含む官能基、例えばビニル基等をペンダント的に付加した化合物が挙げられる。中でも末端が不飽和結合である化合物が好ましい。不飽和結合を含む官能基は、エチレンオキサイド基を介して主骨格に連結していても良い。連結基としては、エチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの他にメチレン基等のアルキレン等も挙げられるが、両者が含まれていても構わない。例えば、ノニルフェノールのエチレンオキサイド付加物にビニル基、アリル基、または1−プロペニル基が連結基を通して結合した化合物が挙げられ、具体的には、式1で表されるα−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン等が好適に用いられる。
【0026】
【化1】
Figure 2005029916
【0027】
このような化合物の市販品としては、第一工業製薬(株)製アクアロン(登録商標)RNシリーズが挙げらる。
【0028】
本発明の油剤は、水分散状態にして、炭素繊維製造用前駆体繊維束に付着せしめることが好ましいが、水分散状態とする場合には、界面活性剤を油剤に添加することが好ましい。ここでいう界面活性剤とは、親水部と疎水部からなるものであり、いわゆる乳化剤や分散剤と呼ばれるものも含むものである。界面活性剤は、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性のいずれのタイプも使用できるが、操業安定性の点からカチオン性やノニオン性が好ましく、アミノ基等がもたらす弱カチオン性やノニオン性はなお好ましく、ノニオン性は特に好ましい。
【0029】
水分散にするという目的であれば、HLBが8〜13程度のものであれば好ましく用いることができるが、より分散を均一にするためには、HLB8〜12がより好ましく、8〜11が更に好ましい。特に、HLBが8〜11の界面活性剤を用いることにより、3重量%の水分散液の、波長750nmにおける光透過率が10%以上である炭素繊維製造用油剤を得ることができる。
【0030】
本発明の油剤に用いられる界面活性剤としては、ポリオキシエチレン−アルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−アルキルアミンなどが挙げられる。ポリオキシエチレン−アルキルフェニルエーテルとしては、日本エマルジョン(株)社製 NPLシリーズ、OPシリーズ等が挙げられる。ポリオキシエチレン−アルキルアミンとしては青木油脂工業(株)社製BLAUNON L−シリーズとして、L−202(HLB:6.2)、L−205(HLB:10.4)、L−207(HLB:12.1)、L−210(HLB:13.6)、L−230(HLB:17.5)などが挙げられる。中でも、HLBは8〜13のものが好ましい。
【0031】
尚、前記ビニル基を有するモノマー、分子内にエチレンオキサイド鎖を有する化合物、若しくは1分子内にビニル基とエチレンオキサイド基を有する化合物が、親水部と疎水部を有する界面活性剤であってもよい。
【0032】
本発明の炭素繊維製造用前駆体繊維は、前記炭素繊維製造用油剤を付与せしめてなる。
【0033】
前駆体繊維束に用いるプリカーサーとしては、例えばピッチ系やポリアクリロニトリル系が挙げられるが、ポリアクリロニトリル系繊維は炭素繊維としたときの発現強度が高いという点で、特に好ましい。
【0034】
本発明の炭素繊維製造用前駆体繊維の製造方法は、前記油剤を用いる以外は、特に限定されないが、例えば、以下のように製造することができる。すなわち、前記炭素繊維製造用油剤を前駆体繊維束の製糸工程のいずれの段階で付与してもよい。例えば紡糸後、延伸前付与してもよいし、延伸後に付与してもよいし、あるいは製糸工程の最後の段階、すなわち巻取り直前に付与してもよい。延伸における単繊維間接着を防ぐという点で延伸前に付与するのがより好ましい。
【0035】
付与する様態は、油剤のみからなる、いわばストレートオイル状で付与しても構わないし、それに水等の親水性媒体を加えて乳化状態もしくは分散状態として、付与しても構わない。これらは、油剤の付与量対比効果で適宜決められるが、炭素繊維製造用油剤を固形分が1〜5重量%、より好ましくは2〜4重量%含まれた水系のエマルジョンとして、付与するのが好ましい。乳化または分散した時の油剤成分の平均粒子径は、0.001〜1μmが好ましく、0.001〜0.5μmがより好ましく、0.05〜0.2μmがなかんずく好ましい。かかる平均粒子径は市販の光散乱を原理とする粒度分布計で確認することができ、かかる粒度分布計としては、ベックマンコールター(株)社製LS−230が挙げられる。ここで、測定に必要な媒体の屈折率は、媒体として純水を用いる水系エマルジョンの場合は、媒体の屈折率は水の屈折率1.33を用いる。また、分散物の屈折率は、シリコーン系油剤の場合には、便宜的に分散物の屈折率を実数部を1.4、虚数部を0として、測定する。
【0036】
本発明の炭素繊維用前駆体繊維の製造方法は、油剤を前駆体繊維束に付与した後、かかる前駆体繊維束を加熱乾燥するのが好ましい。加熱することにより、油剤を適度な粘弾性とすることができる。例えば、上述したシリコーン化合物を含む油剤であって、不飽和結合を有するモノマー、分子内にエチレンオキサイド鎖を有する化合物、または1分子内に不飽和結合とエチレンオキサイド基を有する化合物の少なくとも1つを含む油剤を用いる場合には、シリコーン化合物と、上記化合物との反応を加熱乾燥により適度に進行させることができる。加熱温度は、120〜220℃が好ましく、140〜210℃がより好ましく、160〜200℃が更に好ましい。220℃を超えると単繊維間接着を起こしやすく、120℃未満では反応に時間がかかるため、効率的ではない場合がある。加熱時間は、油剤を水系のエマルジョンとして用いる場合は、20〜140秒が好ましく、25〜100秒がより好ましく、30〜80秒が更に好ましい。加熱時間が20秒に満たないと反応が不十分になり、本発明の効果が十分に発現しない場合があり、140秒を超えても、効果は飽和していることが多い。この時間は、加熱温度や加熱の方式(例えば、接触加熱か非接触加熱か等)等によって適宜決められる。加熱する形態は、電気ヒーターやスチーム等で加熱した空気の中に前駆体繊維束を通過させるテンターや赤外線加熱装置のような非接触式と、プレート式ヒーターやドラム式ヒーター等のような接触式のいずれもが用いられるが、接触式の方が熱伝達効率の点でより好ましい。
【0037】
本発明の炭素繊維用前駆体繊維は、アクリル系、ピッチ系などのプリカーサーに前記油剤が付着してなるが、プリカーサー100重量部に対し、油剤が0.5〜2重量部付着していることが好ましい。油剤の付着量がプリカーサー100重量部に対し0.5重量部より少ないと、接着防止効果が十分でないことが多く、また、2重量部より多いと加熱乾燥時に油剤の硬化に時間がかかることが多い。
かかる油剤付着量は0.7〜1.5重量部がより好ましい。
【0038】
このようにして得られた本発明の炭素繊維用前駆体繊維束は、焼成せしめることにより高性能な炭素繊維束とすることができる。尚、本発明でいう炭素繊維とは、黒鉛構造を有する黒鉛化繊維も含むものである。
【0039】
かかる焼成工程は、炭素繊維用前駆体繊維束を例えば200℃以上500℃未満の酸化性雰囲気下で耐炎化繊維へ転換する耐炎化工程と、500℃以上の不活性雰囲気下で処理する炭化工程を有することができる。また、炭化工程は500℃以上800℃未満の不活性雰囲気下で処理する前炭化工程と、800℃以上2000℃未満の不活性雰囲気下で炭素化する炭化工程を有することができる。また、2000℃以上の不活性雰囲気下で黒鉛化する黒鉛化工程を有することもできる。尚、耐炎化工程は、220〜270℃で行うのがより好ましい。
【0040】
かかる耐炎化工程を経た、いわゆる耐炎化繊維束は、従来の耐炎化繊維束に比べ、酸化ムラが減少し、酸化進行度が高い傾向にある。具体的には、かかる酸化進行度をギ酸への溶出度から求めることができる。これは、ギ酸に浸漬すると酸化不足の部分が選択的に溶出することを利用した指標であり、ギ酸溶出度が低いほど、耐炎化繊維の内部にまで酸化が進行していることを表す。かかるギ酸溶解度は、ギ酸浸漬前後の耐炎化繊維束の重量差を浸漬前の重量で除し、百分率で表す。かかる溶出度は0〜2重量%が好ましく、0〜1.5重量%がより好ましく、0〜1.1重量%がなかんずく好ましい。 かかる溶出度が2重量%を超える耐炎化繊維では、焼けムラが多いため、炭化工程において、毛羽が発生しやすい傾向にある。
【0041】
前炭化工程においては優れた炭素繊維の機械特性、特に複合材料において優れた圧縮強度を得るために高張力で処理することが好ましく、そのための延伸比としては1.0〜1.3が好ましい。
【0042】
炭化工程においては、得ようとする炭素繊維に求める性能によって変わるが、処理温度を1000〜2000℃とすることが好ましい。特に炭素繊維のストランドの引張強度が6.5GPaを超えるような高強度炭素繊維を得ることを目的とする場合には、処理温度1200〜1500℃がより好ましい。また、単繊維の弾性率が400GPaを超えるような高弾性率炭素繊維を得ることを目的とする場合は、処理温度1500〜3000℃が好ましく、2000〜3000℃がより好ましい。
【0043】
【実施例】
以下、実施例によって、本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例によって本発明が制限されることはない。
【0044】
尚、本実施例において、油剤特性、繊維の耐炎化度、炭素繊維特性、繊維強化複合材料の特性は、下記のようにして求めた。
1.油剤特性
(1)振動周期Tおよび対数減衰率F
測定対象となる油剤を、直径が80mmで深さが15mmのアルミ皿に乾燥後の試料の質量が約1gとなるように採取し、40℃の熱風循環式オーブン中で質量変化がなくなるまで乾燥した。乾燥後の試料を十分に撹拌して試料とした。
【0045】
該試料を剛体振り子の自由減衰振動法に基づき、株式会社エーアンドディー社製剛体振り子型物性試験機RPT−3000を用いて対数減衰率Fと振動周期T(単位:秒)を測定した。試料を長さ5cm、幅2cm、厚み0.5mmの亜鉛メッキ鋼板製塗布基板(株式会社エーアンドディー社製STP−012)の上に厚みが20μmになるように塗布した。試験機は予め30℃に温調しておき、塗布板および振り子をセットした後、測定を開始した。測定は30℃で4分間保持後、1.3℃/秒の速度で260℃まで昇温した。その間、7秒間隔で連続的に対数減衰率と振動周期の測定を行い、145℃の対数減衰率を対数減衰率Fとした。また、260℃において15分間保持し、15分経過後の振動周期を振動周期Tとした。なお、振り子は下記のものを使用した。測定は7回行い、最大値と最小値を除いて、n=5の平均値を値とした。
【0046】
<振り子>
使用エッジ:60°の角をなすナイフエッジ型(株式会社エーアンドディー社製RBE−160)
Figure 2005029916
(2)油剤の可視光線透過率
測定対象となる油剤を10.7gはかり取り、346gの水に、分散、乳化状態にし、3重量%水分散液を得た。かかる3重量%水分散液を100g量り取り、これを1cm幅のガラスセルにセットし、測定波長750nmにて測定した。測定には、八光商事(株)社製の紫外可視吸光分光高度計を使用した。
【0047】
(3)油剤の粒度分布
粒度分布計として、ベックマンコールター(株)社製LS−2300を用いて測定を行った。水系エマルジョン中の粒度分布測定においては、媒体の屈折率として水の屈折率1.33を用いた。また、分散物の屈折率は、実数部を1.4、虚数部を0として測定した。
2.繊維の耐炎化度
耐炎化繊維束2.5gを120℃で、2時間乾燥し、かかる処理前乾燥後耐炎化繊維の重量を測定した。該処理前乾燥後耐炎化繊維を三角フラスコに入れ、そこにギ酸100mlを注ぎ込んだ。振とう機に三角フラスコをセットして、ギ酸を25℃で100分間振とうした。処理後、耐炎化繊維束を取り出して十分に水洗し、続いて90℃で2時間湯洗し、オーブンで、120℃、2時間乾燥させた。かかる処理後乾燥後重量をを測定し、次式よりギ酸溶出度を求めた。
【0048】
ギ酸溶解度=(処理前乾燥後重量−処理後乾燥後重量)/処理前乾燥後重量×100%
3.炭素繊維のストランド引張強度および弾性率
JIS R7601に記載の方法に準じて炭素繊維のストランド引張強度および弾性率を測定した。ここで、含浸用の樹脂としては次の組成の樹脂を用い、130℃、35分の条件で加熱硬化させ、引張試験片を作製した。測定数はn=10とし、平均値を求めた。
<樹脂組成>
Figure 2005029916
4.繊維強化複合材料の圧縮強度
(1)プリプレグの作製
A.次に示す原料樹脂を混合し、30分攪拌して樹脂組成物を得た。
【0049】
・ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂(エピコート(登録商標)1001、ジャパン エポキシ レジン(株)製)、30重量%
・ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂(エピコ−ト828、ジャパンエポキシ レジン(株)製)、30重量%
・フェノールノボラックポリグリシジルエーテル樹脂(エピクロン(登録商標)−N740、大日本インキ化学工業(株)製)、27重量%
・ポリビニルホルマール樹脂(ビニレック(登録商標)K、チッソ(株)製、登録商標)、5重量%
・ジシアンジアミド(DICY7、ジャパン エポキシ レジン(株)製)、4重量%
・3,4ジクロロフェノール−1ジメチルウレア(DCMU−99、保土ヶ谷化学(株)製、硬化剤)、4重量%
次に、前記樹脂組成物をシリコーンを塗布した離型紙にコーティングして得られた樹脂フィルム(単位面積あたりの樹脂量51g/m)を円周約2.7mの60〜70℃に温調した鋼製ドラムに巻き付けた。
【0050】
この上に炭素繊維をトラバースを介して配列し、更にその上から、前記樹脂フィルムで再度覆い、ロールで回転しながら加圧し、樹脂を繊維束内に含浸せしめ、幅300mm、長さ2.7mの一方向プリプレグを作製した。ここで、プリプレグの繊維目付はドラムの回転数とトラバースの送り速度を変化させ、190g/mとした。またプリプレグの樹脂含有率は約35重量%とした。
(2)繊維強化複合材料の作製
このプリプレグを繊維方向を一方向に揃えて積層し、温度130℃、圧力0.3MPaで2時間硬化させ、厚さが1mmの積層板(繊維強化複合材料)を成形した。
(3)圧縮強度の測定
ASTM D695に従い、繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。前記積層板から被破壊部分が中心になるように、厚さ1±0.1mm、幅12.7±0.13mm、長さ80±0.013mm、ゲージ部長さ5±0.13mmの試験片を切り出した。
【0051】
この試験片よりASTM D695に示される圧縮治具を使用し、歪み速度を1.27mm/分の条件で測定し、繊維体積分率60%に換算して繊維強化複合材料の圧縮強度を得た。1水準あたりの測定数はn=6とし、平均値を圧縮強度とした。
【0052】
<実施例1>
下記処方の炭素繊維製造用油剤を調製した。
【0053】
Figure 2005029916
3種のシリコーンが混合したシリコーン主成分の平均粒子径は、粒度分布計で測定した結果、0.1μmであった。前述の方法で、対数減衰率、振動周期、可視光線透過率を測定した。かかる油剤の特性はまとめて表1に示す。
【0054】
この油剤を、アクリル系繊維(0.7dtex、3000フィラメント)に付着させ、次いで145℃×30秒で乾燥させた。その後、延伸倍率5のスチーム延伸を経て、炭素繊維用前駆体繊維束を得た。
【0055】
かかる炭素繊維用前駆体繊維束を4本合糸して単繊維数12000本とした後、250℃で延伸倍率1.00とし、耐炎化処理し、650℃で延伸倍率1.05とし前炭化処理し、1200℃で延伸倍率0.97とし、炭化処理した。次いで、濃度0.1モル/lの硫酸水溶液を電解液として電解表面処理し、水洗、320℃で乾燥処理したのち、サイジング剤を付与し、毛羽の少ない良好な品位の炭素繊維束を得た。この炭素繊維束を用い、前述の方法により、炭素繊維のストランド引張強度、弾性率を測定した。また、前述の方法によりプリプレグ及び繊維強化複合材料を作製し、繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。
【0056】
<実施例2>
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル27重量部をα−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン27重量部に変更した以外は実施例1と同様の組成の炭素繊維製造用油剤を調製し、油剤特性を測定した。かかる油剤特性は表1に示す。
【0057】
かかる炭素繊維製造用油剤を用いた以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維用前駆体繊維及び炭素繊維を製造し、実施例1と同様に炭素繊維の特性、および繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。
【0058】
<実施例3>
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル27重量部をポリエチレングリコールジアクリレート(日本油脂(株)社製ADE−400)27重量部に変更した以外は実施例1と同様の組成の炭素繊維製造用油剤を調製し、油剤特性を測定した。かかる油剤特性は表1に示す。
【0059】
かかる炭素繊維製造用油剤を用いた以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維用前駆体繊維及び炭素繊維を製造し、実施例1と同様に炭素繊維の特性、および繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。
【0060】
<実施例4>
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル27重量部をポリオキシエチレン硬化ひまし油(日本エマルジョン(株)社製HC−20)20重量部とポリエチレングリコールジアクリレート(日本油脂(株)社製ADE−400)7重量部に変更した以外は実施例1と同様の組成の炭素繊維製造用油剤を調製し、油剤特性を測定した。かかる油剤特性は表1に示す。
【0061】
かかる炭素繊維製造用油剤を用いた以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維用前駆体繊維及び炭素繊維を製造し、実施例1と同様に炭素繊維の特性、および繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。
【0062】
<比較例1>
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルの代わりにポリエチレングリコールモノメタクリレートを用いた以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維製造用油剤を得た。かかる油剤の特性は表1に示す通り、振動周期Tが0.41(秒)であり、0.38(秒)を超えるものであった。かかる炭素繊維用油剤を用いて、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を得ようとしたが、前炭化延伸率を1.05とすると糸切れが多発するため、前炭化延伸比を1.00にして通過させた。また、前炭化延伸比低下により弾性率が低下するため、最高温度を1450℃にあげ、炭化処理した。また、実施例1と同様に炭素繊維特性、および繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。
【0063】
<比較例2>
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルの代わりにポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを用いた以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維製造用油剤を得た。かかる油剤の特性は表1に示す通り、振動周期Tが0.40(秒)であり、0.38(秒)を超えるものであった。かかる炭素繊維用油剤を用いて、実施例1と同様の方法で炭素繊維束を得ようとしたが、前炭化延伸率を1.05とすると糸切れが多発するため、前炭化延伸比を1.00にして通過させた。また、前炭化延伸比低下により弾性率が低下するため、最高温度を1450℃にあげ、炭化処理した。また、実施例1と同様に炭素繊維特性、及び繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。
【0064】
<実施例5>
実施例1と同じ油剤組成の炭素繊維用前駆体繊維束を作製し、かかる前駆体繊維束を4本合糸して単繊維数12000本とした後、延伸倍率1.00、温度230〜260℃で耐炎化処理した。
【0065】
この耐炎化処理した繊維束を最高温度700℃の前炭化炉で延伸倍率1.10で前炭化処理し、最高温度2000℃の炭化炉で延伸比0.96で炭化処理した後、最高温度2500℃の黒鉛化炉で延伸比1.05で黒鉛化処理した。続いて濃度0.1モル/lの硫酸水溶液を電解液として電解表面処理し、水洗、150℃で乾燥処理したのち、サイジング剤を付与し、毛羽の少ない良好な品位の黒鉛化繊維束を得た。
【0066】
この黒鉛化繊維束を用い、前述の方法に従って、繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。
【0067】
<比較例3>
比較例1と同じ油剤組成の炭素繊維用前駆体繊維束を用い、実施例3と同様の方法で黒鉛化繊維束を得ようとしたが、前炭化延伸率を1.10とすると糸切れが多発するため、前炭化延伸比を0.95にして通過させた。また、前炭化延伸比低下により弾性率が低下するため、最高温度を2700℃にあげ、黒鉛化処理した。
【0068】
前炭化から黒鉛化までの工程で毛羽発生、部分的な糸切れが発生しており、工程通過性は不良であった。得られた黒鉛化繊維束は、毛羽が非常に多かった。
【0069】
この黒鉛化繊維束を用い、前述の方法に従って、繊維強化複合材料の圧縮強度を測定した。
【0070】
上記実施例1〜5、比較例1〜3における各結果を表1および表2に示した。実施例はいずれも、比較例に対して酸化が進行しており、高い炭素繊維の強度を得られた。
【0071】
【表1】
Figure 2005029916
【0072】
【表2】
Figure 2005029916
【0073】
【発明の効果】
本発明の炭素繊維製造用油剤によって、耐炎化工程において単繊維間への酸素の供給が円滑になり、耐炎化処理時の焼成ムラが減少する。さらには、耐炎化工程において、高糸条密度、高張力の条件下であっても、単繊維間接着を防ぎ、単繊維間への酸素の供給が円滑なため優れた強度を有する炭素繊維を製造することができる。

Claims (9)

  1. 空気中260℃、15分の熱処理後における、剛体振り子の自由振動法により測定される振動周期T(秒)が下記式を満足する炭素繊維製造用油剤。
    0.1≦T≦0.38
  2. 空気中145℃における、剛体振り子の自由振動法により測定される対数減衰率Fが下記式を満足する請求項1記載の炭素繊維製造用油剤。
    0.05≦F≦1
  3. 3重量%の水分散液の、波長750nmにおける光透過率が10%以上である請求項1または2記載の炭素繊維製造用油剤。
  4. 不飽和結合を有するモノマーと、シリコーン化合物とを含む請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維製造用油剤。
  5. エチレンオキサイド鎖を有する化合物と、シリコーン化合物とを含む請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維製造用油剤。
  6. 1分子内に不飽和結合とエチレンオキサイド基を有する化合物と、シリコーン化合物とを含む請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維製造用油剤。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維製造用油剤を付与せしめてなる炭素繊維用前駆体繊維。
  8. 油剤付着量がプリカーサー100重量部に対し、0.5〜2重量部の請求項7記載の炭素繊維用前駆体繊維。
  9. 請求項7または8に記載の炭素繊維用前駆体繊維を焼成せしめる炭素繊維の製造方法。
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