JP4400268B2 - 炭素繊維前駆体用油剤 - Google Patents
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Description
使用エッジ:ナイフ形状エッジ(株式会社エーアンドディ社製RBE−160)
振り子重量/慣性能率:15g/640g・cm(株式会社エーアンドディ社製FRBー100)
また、本発明の油剤は、ケイ素(元素)の含有量が2重量%以下である。例えば、ポリジメチルシロキサン(分子量2万)のケイ素含有量は、38重量%である。ケイ素含有量が2重量%より大きい場合は、ケイ素に起因したスケールによって操業性の悪化が顕著になる好ましくはケイ素含有量が1重量%以下であり、ケイ素を含有しない油剤であることが最も好ましい。かかるケイ素含有量は以下のようにして求める。
本発明では、かかる重量比率を加熱残存率と定義する。加熱残存率が50重量%未満では、耐炎化工程の初期で油剤が分解飛散して繊維表面の油剤残存量が低下するため、単繊維間の接着を防止する効果が低下することがある。前駆体繊維への油剤の付着量を多くすることにより繊維表面の残存量を多くすることはできるが、分解飛散物量も増加し操業性の低下を引き起こすため油剤の加熱残存率が高いことが好ましく、加熱残存率は70重量%以上であることがより好ましく、100重量%が最も好ましい。かかる炭素繊維前駆体用油剤成分の加熱残存率は、以下のようにして求めることができる。
本発明の炭素繊維前駆体用油剤は、前述の対数減衰率とケイ素含有量が特定の範囲であり、対数減衰率を制御するには化合物の分子量を制御する、前駆体繊維に付与後加熱時に架橋させるなどの方法を好ましく採用することができる。油剤の前駆体繊維に対する均一付着の観点からは、付着前の粘度は低いことが好ましく、従って何らかの反応性官能基を有する化合物を用い、加熱により架橋させる方法が好ましく用いられる。かかる反応性官能基としては、反応性制御の観点から、ラジカル反応性基であることが好ましく、ラジカル反応性基とは、炭素−炭素二重結合があり、その二重結合によって結ばれている2個の炭素原子のうち最初の炭素原子の位置が分子の最短のところから数えて7個以内、好ましくは3個以内であるものをいう。ラジカル反応性基としては、ビニル基CH2=CH−、イソプロペニル基CH2=C(CH3)−および1−プロペニル基などが挙げられる。ここで、アリル基、アクリル基、アクリロイル基およびγ−アクリロキシプロピル基などはビニル基を含むため、本発明のビニル基の中に含まれる。また、メタクリル基、メタクリロイル基およびγ−メタクリロキシプロピル基などはイソプロペニル基を含むため、本発明のイソプロペニル基に含まれる。
剛体振り子の自由減衰振動法に基づき、株式会社エーアンドディ社製剛体振り子型物性試験機RPT−3000を用いて対数減衰率を測定する。測定に供する油剤を長さ5cm、幅2cm、厚み0.5mmの亜鉛メッキ鋼板製塗布基板(株式会社エーアンドディ社製 STP−012)の上に、厚みが20μmとなるように基板幅方向全面に塗布した。測定に供する油剤がエマルジョンまたは溶液として希釈してある場合には、溶媒を除去した後の純分が25重量%であるように油剤を調整し、前述の塗布基板の上に、厚みが80μmとなるように基板幅方向全面に塗布し、その塗布基板を40℃の温度の熱風循環式オーブンで質量変化がなくなるまで乾燥した。塗布基板および振り子を試験機にセットし、測定を開始する。測定は、30℃の温度で4分間保持後、1.5℃/秒の速度で180℃の温度まで昇温した。その間、7秒間隔で連続的に対数減衰率の測定を行い、100〜145℃の温度の最大対数減衰率を求める。測定は7回行い、最大値と最小値を除いて、5回の平均値を値とした。なお、振り子は、下記のものを使用した。
使用エッジ:ナイフ形状エッジ(株式会社エーアンドディ社製RBE−160)
振り子重量/慣性能率:15g/640g・cm(株式会社エーアンドディ社製FRBー100)
<油剤のケイ素含有量測定>
ここでの油剤は、溶媒を含まないものを指し、溶媒を含む場合は希釈した油剤約1gを底直径が70mm、深さ15mmの底が平坦なアルミニウム皿に入れ、120℃の温度の熱風循環式オーブン中で2時間加熱したときの残存分を用いた。測定に供する油剤を”テフロン”(登録商標)製密閉容器にとり、硫酸、次いで硝酸で加熱分解した後、定容として、ICP発光分析装置(セイコ−電子工業社製シ−ケンシャル型ICP SPS1200−VR)を用いて測定した。検量線は組成既知のものを用いて作成し、それからケイ素含有量を計算した。
前駆体繊維あるいは耐炎化繊維を”テフロン”(登録商標)製密閉容器にとり、硫酸、次いで硝酸で加熱分解した後、定容として、ICP発光分析装置(セイコ−電子工業社製シ−ケンシャル型ICP SPS1200−VR)を用いた。検量線は組成既知のものを用いて作成した。前駆体繊維あるいは耐炎化繊維のケイ素含有率を測定し、検量線から計算し、それぞれの値をa、bとした。前駆体繊維の1m当たりの重量をcとし、耐炎化繊維の1m当たりの重量をdとし、耐炎化延伸倍率をeとする。前駆体繊維1kgが耐炎化繊維に変換されたときの重量f(kg)は、f=d×e/cで計算される。下記式で耐炎化ケイ素飛散量を計算した。
耐炎化ケイ素飛散量(g/kg)=(a−b×f)×10。
炭素繊維を白金るつぼにとり、酸化性雰囲気中450℃の温度で加熱して灰化処理したこと以外は、耐炎化繊維と同様にして測定し、そのケイ素含有率をgとした。前駆体繊維のケイ素含有率は前述の値aを用いた。前駆体繊維の1m当たりの重量はcを用い、炭素繊維の1m当たりの重量をhとし、耐炎化延伸倍率はeを用い、予備炭化延伸倍率をiとする。前駆体繊維1kgが炭素繊維に変換されたときの重量j(kg)は、j=h×e×i/cで計算される。下記式で焼成全工程ケイ素飛散量を計算した。
耐炎化ケイ素飛散量(g/kg)=(a−g×j)×10。
底直径が70mm、深さ15mmの底が平坦なアルミニウム皿に、乾燥純分換算で約2gになるように試料を入れ、120℃の温度の熱風循環式オーブン中で2時間加熱し乾燥し、冷却後試料を精秤しW1(g)とした。次いで、250℃の温度の熱風循環式オーブン中で2時間加熱し、冷却後試料を精秤しW2(g)として、下記式で加熱残存率を計算した。熱風循環式オーブン中で加熱するとき、アルミ皿を水平に保持するようにして、試料の偏りがないように注意した。
加熱残存率(重量%)=(W2÷W1)×100
<ラジカル発生剤の分解開始温度測定>
DSC(パーキンエルマー社製、Pyris 1 DSC)を用い、試料を10mgと熱的に不活性な基準物質(アルミナなど)をほぼ同量それぞれ相等しい容器に入れた。測定温度範囲は−20℃〜230℃であり、昇温速度を10℃/分とし、昇温しながら示差温度を連続的に測定した。空気流量は、10ml/分とする。そのときに測定される吸熱ピークが開始する変曲点を分解開始温度として求めた。
炭素繊維束に下記組成の樹脂を含浸させ、130℃の温度で35分間硬化させた後、JIS R7601(1986年)に基づいて引張試験を行い、n=6の平均でストランド強度を求めた。
*樹脂組成
・3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4エポキシシクロヘキシルカル ボキシレート(ERL−4221、ユニオンカーバイド社製) 100重量部
・3フッ化ホウ素モノエチルアミン(ステラケミファ(株)製) 3重量部
・アセトン(和光純薬工業(株)製) 4重量部。
炭素繊維を1週間サンプリングしたときの、耐炎化処理工程、炭素化処理工程などの焼成工程における酸化ケイ素、炭化ケイ素および窒化ケイ素等の生成物除去のための停機頻度により、操業性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:停機回数(回/1ヶ月)=0
×:停機回数(回/1ヶ月)≧1
炭素繊維前駆体用油剤の組成を下記組成(表2参照)とし、これに水を加えて2重量%に希釈した水性処理液を作製した。
反応性官能基としてビニル基を有するポリエチレングリコールジアクリレート(日本油脂(株)ブレンマー(登録商標)ADE150) 66重量%
ラジカル発生剤として両末端アセチル化ポリエチレングリコール(分子量1,000)(分解開始温度138℃) 34重量%
前述の方法で、対数減衰率、加熱残存率およびケイ素含有量を測定した。結果をまとめて表1に示す。
ジメチルスルホオキシド(DMSO)中で溶液重合し、アクリロニトリル99.3重量%、イタコン酸0.7重量%からなり、極限粘度が1.7である共重合体のDMSO溶液に、pHが8〜8.5になるまで撹拌しながらアンモニアガスを吹き込み、共重合体濃度が20重量%の紡糸原液を得た。この紡糸原液を、孔直径0.1mmの6,000ホールを有する口金から一旦空気中に吐出して、約4mmのエアーギャップを経て凝固浴に導く乾湿式紡糸法で、繊維を形成した。凝固浴は、DMSO40重量%水溶液で温度は5℃とした。
凝固浴から引き出した繊維束を緊張を保持しながら、30〜65℃の温度に順次温度を上げながら、多段の水洗槽に導きDMSOを除去した。次いで、90℃の温度の熱水浴中で3倍に延伸して水膨潤繊維束を得た。この水膨潤繊維を、前記水性処理液中に連続的に通過させた。このとき、繊維に対する油剤付着量は1.5質量%であった。
次いで、油剤が付与された繊維を、緊張を保持しながら、表面温度が145℃の温度のホットロールに接触させて乾燥した後、圧力0.44MPaの加圧水蒸気中で4倍に延伸して、単繊維の繊度が1.11dtexで6,000フィラメントの前駆体繊維を得た。
得られた前駆体繊維を255℃の温度、次いで265℃の温度の加熱空気雰囲気中で延伸比が0.90の緊張下で耐炎化処理を行い、比重1.35の耐炎化繊維を得た。耐炎化工程でのロールへの油剤の堆積や毛羽の発生もなく、工程通過性は良好であった。前駆体繊維のケイ素含有量と耐炎化繊維のケイ素含有量から計算される耐炎化炉へのケイ素飛散量は、前駆体繊維1kg当たり0gであり、後述する比較例1に比べて約0.18g/kg減少し、酸化ケイ素による耐炎化炉の汚染が軽減された。
次いで、窒素雰囲気中で最高温度800℃の予備炭素化炉で、延伸比0.98で処理した後、窒素雰囲気中で最高温度1,350℃の炭素化炉で張力を0.8Nとして炭素化して炭素繊維束を得た。この炭素繊維束を用い、前述の方法により、炭素繊維のストランド強度を求めた。このストランド強度は、単繊維間の接着頻度を表す一つの指標であり、ストランド強度が高いほど、接着抑制していることを表す。
測定した油剤特性を表1に示す。焼成工程でのケイ素の飛散がなく、操業安定性に優れており、ストランド強度が5.3GPaと高性能で高品位の炭素繊維が得られた。試験結果をまとめて表1に示す。
油剤組成を、表2の
ポ0リエチレングリコールジアクリレート(日本油脂(株)ブレンマー(登録商標)ADE600) 89.9重量%
平滑剤としてポリエチレンオキサイド−トリスチリルフェノールエーテル 10重量%
ラジカル発生剤として過酸化ベンゾイル(分解開始温度105℃) 0.1重量%
に変更したこと以外は、実施例1と同様に炭素繊維前駆体用油剤を調製し、前駆体繊維および炭素繊維を得た。測定した油剤特性を表1に示す。焼成工程でのケイ素の飛散がなく、操業安定性に優れており、ストランド強度が5.2GPaと高性能で高品位の炭素繊維が得られた。試験結果をまとめて表1に示す。
油剤組成を、表2の
反応性官能基としてイソプロぺニル基を有するポリエチレングリコールジメタクリレート(日本油脂(株)ブレンマー(登録商標)PDE200) 20重量%
平滑剤兼乳化剤としてポリエチレンオキサイド−トリスチリルフェノールエーテル 79.9重量%
ラジカル発生剤として過酸化ベンゾイル 0.1重量%
に変更し、水を加えホモミキサーで撹拌することにより、純分2重量%の水分散液を作製したこと以外は、実施例1と同様に炭素繊維前駆体用油剤を調製し、前駆体繊維および炭素繊維を得た。測定した油剤特性を表1に示す。焼成工程でのケイ素の飛散がなく、操業安定性に優れており、ストランド強度が5.3GPaと高性能で高品位の炭素繊維が得られた。試験結果をまとめて表1に示す。
油剤組成を、表2の
ポリエチレンオキサイド−トリスチリルフェノールエーテル 20重量%
ポリエチレンオキサイド−ラウリルエーテル 5重量%
アミノ変性シリコーン(オイル動粘度が1000mm2/s、アミノ当量が2000g/mol) 50重量%
ポリエーテル変性シリコーン(実施例7と同じ) 25重量%
に変更したこと以外は、実施例3と同様に炭素繊維前駆体用油剤を調製し、前駆体繊維および炭素繊維を得た。測定した油剤特性を表1に示す。前駆体繊維を製造する製糸工程でロール類への粘着物の堆積が認められ、長期運転に支障があった。また、耐炎化工程でロールへの粘着物が堆積し、時々単繊維がロールへ巻き付いて毛羽が発生した。また、得られた炭素繊維束は、ストランド強度が5.2GPaと高性能であったが、毛羽発生による品位低下があった。対数減衰率は実施例2と同程度であるが、シリコーン系化合物を75重量%必要であり、飛散したケイ素量も多いものとなった。試験結果をまとめて表1に示す。
油剤組成を、表2の
ポリエチレンオキサイド−トリスチリルフェノールエーテル 45重量%
ポリエチレンオキサイド−ラウリルエーテル 5重量%
アミノ変性シリコーン(オイル動粘度が1000mm2/s、アミノ当量が2000g/mol) 50重量%
に変更したこと以外は、実施例3と同様に炭素繊維前駆体用油剤を調製し、前駆体繊維および炭素繊維を得た。測定した油剤特性を表1に示す。前駆体繊維を製造する製糸工程でロール類への粘着物の堆積が認められ、長期運転に支障があった。また、耐炎化工程でロールへの粘着物が堆積し、時々単繊維がロールへ巻き付いて毛羽が発生した。飛散したケイ素量も多く、ストランド強度も4.8GPaと性能が低いものとなった。試験結果をまとめて表1に示す。
油剤組成を、表2の
ポリエチレングリコールジメタクリレート(日本油脂(株)ブレンマー(登録商標)PDE200) 5重量%
ポリエチレンオキサイド−トリスチリルフェノールエーテル 95重量%
に変更したこと以外は、実施例3と同様に炭素繊維前駆体用油剤を調製し、前駆体繊維および炭素繊維を得た。測定した油剤特性を表1に示す。対数減衰率が0.03と低く、測定中、その値はほとんど増加することなく、粘性の低いままであった。また、ケイ素による操業性の低下は認められなかったが、単繊維同士が接着し、毛羽が大量に発生し、ストランド強度も極めて低い値となった。試験結果をまとめて表1に示す。
油剤組成を、表2の
ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物の両末端高級脂肪酸エステル化物 60重量%
ポリエチレンオキサイド−ラウリルエーテル 40重量%
に変更したこと以外は、実施例3と同様に炭素繊維前駆体用油剤を調製し、前駆体繊維および炭素繊維を得た。測定した油剤特性を表1に示す。対数減衰率の測定中、その値はほとんど増加することなく、粘性の低いままであった。ケイ素による操業性の低下は認められなかったが、単繊維同士が接着し、毛羽が大量に発生し、ストランド強度もきわめて低い値となった。試験結果をまとめて表1に示す。
Claims (5)
- ビニル基またはイソプロペニル基の少なくともいずれか1つの反応性官能基を有する化合物が10重量%以上と、示差走査熱量計による分解開始温度が80〜200℃の範囲であるラジカル発生剤が含まれてなり、ケイ素含有量が2重量%以下であって、かつ空気中100〜145℃の温度における剛体振り子の自由振動法により測定される対数減衰率が0.15〜2である炭素繊維前駆体用油剤。
- 反応性官能基を有する化合物が水溶性または自己乳化性である請求項1記載の炭素繊維前駆体用油剤。
- 請求項1または2記載の炭素繊維前駆体用油剤を炭素繊維前駆体繊維の重量当たり乾燥重量で0.1〜5重量%付着させてなる炭素繊維前駆体繊維。
- 請求項1または2のいずれかに記載の炭素繊維前駆体用油剤を用いて得られた炭素繊維前駆体繊維であって、ケイ素含有量が繊維の重量当たり0.015重量%以下である請求項3記載の炭素繊維前駆体繊維。
- 請求項3または4記載の炭素繊維前駆体繊維を、空気中200〜300℃の温度で耐炎化した後、不活性雰囲気中300〜3,000℃の温度で炭化せしめる炭素繊維の製造方法。
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