JP4862226B2 - 炭素繊維用前駆体繊維および炭素繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低コストで高品質な炭素繊維を提供することができる炭素繊維用シリコーン油剤および炭素繊維の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維は他の補強用繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有するため、その優れた機械的特性を利用して複合材料用補強繊維として工業的に広く利用されている。その適用範囲は、従来からのスポーツ、航空宇宙用途に加え、土木・建築など一般産業用途へも大きく拡がりつつあり、市場の要求は、単なる高性能化だけではなく、低コスト化した上でのさらなる高性能化へと、より厳しいものとなってきている。
【0003】
最も広く利用されているポリアクリロニトリル系炭素繊維は、アクリルプリカーサーを200〜400℃の酸化性雰囲気下で耐炎化繊維へ転換する耐炎化工程、少なくとも1000℃の不活性雰囲気下で炭素化する炭化工程を経て、工業的に製造される。これら焼成工程においては、単繊維同士の融着が発生し、得られる炭素繊維の品質、品位を低下させるという問題があった。この、問題に対し耐熱性の高いシリコーン油剤をアクリルプリカーサーに付与する技術が多数提案され、工業的に広く適用されている。例えば、特公平3−40152号公報には、特定のアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーンを混合した油剤により、空気中および窒素中での加熱時の減量が少なく融着防止効果が高いことが開示されている。しかしながら、本発明者らの検討したところ、このような従来公知のシリコーン油剤は、確かに単繊維同士の融着を防止する効果は十分に有しているが、単繊維間に介在し耐炎化反応に必須となる酸素の供給の妨げとなり、その結果、耐炎化反応の進行度むら、いわゆる焼成むらの発生を誘起していることが、明らかとなった。このような焼成むらは、続く炭化工程において糸切れや毛羽発生の原因となり、生産性向上、品質向上の大きな障害となる。高性能な炭素繊維を生産性よく製造するためには、より表面が平滑なプリカーサーを高糸条密度かつ高張力で焼成することが有利であるが、このような条件においては、上記焼成むらの悪影響がより一層顕著となり、糸条密度、張力、処理速度を低下せざるを得ないのが現状である。
【0004】
焼成むらを抑制する技術として、本発明者らは、特定の表面粗さを有するアクリルプリカーサーを適用する技術など(特開平11−217734号公報)を提案したが、得られる炭素繊維の強度向上に有利な、より平滑な表面を有するアクリルプリカーサーにおいては、必ずしもその抑制効果は十分ではないことが、その後の検討により顕在化し、より効果的な焼成むら抑制手段が求められているのが実状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、耐炎化工程における焼成むらがなく、焼成の高張力化、高糸条密度化を同時に達成し、低コストで高品質な炭素繊維を提供することができる、炭素繊維用シリコーン油剤を用いた炭素繊維用前駆体繊維、およびコストパフォーマンスに優れた炭素繊維の製造方法を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の炭素繊維用前駆体繊維は、25℃における粘度が1000〜4000cStのアミノ変性シリコーンと、25℃における粘度が5000〜20000cStのエポキシ変性シリコーンと、ポリオキシエチレン系化合物を必須成分とし、かつ、該アミノ変性シリコーンに含まれるアミノ基に対する該ポリオキシエチレン系化合物のポリオキシエチレン部分のモル比(M)が下記式を満たす形で含有されている炭素繊維用シリコーン油剤を、水膨潤状態の糸条に付与した後、熱処理して得られる炭素繊維用前駆体繊維であって、原子間力顕微鏡により測定される表面積比が1.00〜1.02である炭素繊維用前駆体繊維を特徴とするものである
【0007】
12≦M≦35
M=Mp/Ma
Ma:シリコーン油剤100gに含まれるアミノ変性シリコーンの末端アミノ基のモル数
Mp:シリコーン油剤100gに含まれるポリオキシエチレン部分のモル数
また、本発明の炭素繊維の製造方法は、かかる炭素繊維用前駆体繊維が150〜200℃の温度で熱処理されたものであり、該炭素繊維用前駆体繊維を、200〜300℃の酸化性雰囲気において耐炎化した後、300〜800℃の不活性雰囲気において予備炭化し、さらに、800〜2000℃の不活性雰囲気において炭化することを特徴とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、つまり、耐炎化工程における焼成むらがなく、焼成の高張力化、高糸条密度化を同時に達成し、低コストで高品質な炭素繊維を提供することについて、鋭意検討し、まず、耐炎化における焼成むらと、製糸工程で付与されるシリコーン油剤の熱処理時の硬化挙動に相関があることを見出し、特定な組成のシリコーン油剤を炭素繊維用前駆体繊維に採用してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0009】
すなわち、本発明の特定なシリコーン油剤を表面に有する炭素繊維用前駆体繊維、たとえばアクリル前駆体繊維を耐炎化することにより、焼成むらの少ない耐炎化繊維が得られ、続く炭化工程での糸切れ、毛羽発生の抑制が可能となることを究明したものである。その結果、従来焼成技術に比べ生産性を低下させることなく、より高張力化、高糸条密度化、高速化でき、コストパフォーマンスに優れた炭素繊維を得ることができることを究明したのである。
【0010】
本発明の炭素繊維用シリコーン油剤は、25℃における粘度が1000〜4000cStのアミノ変性シリコーンと、25℃における粘度が5000〜20000cStのエポキシ変性シリコーンと、ポリオキシエチレン系化合物を必須成分とし、かつ、該アミノ変性シリコーンに含まれる末端アミノ基に対する該ポリオキシエチレン系化合物のポリオキシエチレン部分のモル比(M)が下記式を満たすものを使用するのが必須である。すなわち、該モル比(M)として、12〜35であることが必須であり、好ましくは15〜33、より好ましくは18〜30であるのがよい。
【0011】
12≦M≦35
M=Mp/Ma
Ma:シリコーン油剤100gに含まれるアミノ変性シリコーンの末端アミノ基のモル数
Mp:シリコーン油剤100gに含まれるポリオキシエチレン部分のモル数
ここで、ポリオキシエチレン系化合物とは、全部または一部がポリオキシエチレンからなる化合物のことである。また、アミノ基のモル数とは、アミノ変性シリコーンのアミノ変性基末端にある−NH2のモル数のことである。
【0012】
さらに、ポリオキシエチレン部分のモル数とは、該シリコーン油剤中に含まれる全ての−CH2 CH2 O−のモル数のことである。つまり、乳化剤、防腐剤および安定剤などに含まれる−CH2 CH2 O−のモル数をも含むことを意味するものである。
【0013】
上記の特定組成に制御することにより、熱処理時のシリコーン油剤の架橋が促進され、本発明の目的とする耐炎化工程での焼成むら抑制に有効に作用するのである。モル比Mが12未満であったり、35を越えると、架橋が生じにくく本発明の効果を得にくくなる。
【0014】
シリコーン油剤の架橋により耐炎化工程での焼成むらが抑制できる理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推定される。耐炎化の焼成むらは、糸束内への酸素の透過が阻害され十分供給されない部分が生じることが原因であり、単繊維間に存在するシリコーン油剤がその阻害要因の一つとして考えられる。すなわち、シリコーン油剤が単繊維間に入り込み、シーリング剤のようなはたらきをするのである。一般に、シリコーン油剤は、製糸工程の乾燥工程直前で付与され、熱処理を受ける。この乾燥熱処理時に架橋せず流動性を有するオイル状態を保持すると、その後、単繊維間の空間に合わせて自由に変形できるため、単繊維間に厚く堆積する可能性が高く、結果としてシーリング効果が高まると考えられる。一方、速やかに架橋し流動性が低く抑えられれば、単繊維間への堆積が防止され、また、単繊維間の拘束も小さくなり、焼成むらが生じにくいと考えられる。
【0015】
本発明のシリコーン油剤に用いるアミノ変性シリコーンは、ポリジメチルシロキサンを基本構造とし、側鎖のメチル基の一部がアミノ基で変性されたものが好ましく用いられる。アミノ基の他にさらに別の変性基が付加されているものも用いることができる。変性基としてのアミノ基はモノアミンタイプでもポリアミンタイプでもよいが、架橋促進の観点からはポリアミンタイプが好ましく、中でもジアミンタイプがさらに好ましく使用される。
【0016】
かかるアミノ基は、架橋反応の起点となるものと考えられ、変性量が高いほど架橋反応が促進されるが、ローラーへの脱落堆積量、いわゆるガムアップ量が増加することもあるため、その変性量は、末端アミノ基量を−NH 2 の重量に換算して、0.05〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%がより好ましい。また、アミノ変性シリコーンの25℃における粘度は、低いほど反応性が高くなり、架橋反応が促進されるが、耐熱性の観点からは高いほうが好ましく、本発明では1000〜4000cStのものを用いる。
【0017】
シリコーン油剤に含まれる全てのシリコーンに対するアミノ変性シリコーンの割合は20重量%以上であるのが好ましく、30重量%以上であるのがより好ましく、40重量%以上であるのが特に好ましい。20重量%を下回ると、シリコーン油剤の架橋が不十分となり、十分な焼成むら抑制効果が得られないことがある。
【0018】
本発明のシリコーン油剤に用いるポリオキシエチレン系化合物の構造および組成は、モル比(M)を前述した特定の範囲とすることが可能であれば、特に限定されないが、均一な架橋反応を実現する観点から、シリコーンとの相溶性が高いことが好ましい。
【0019】
かかるポリオキシエチレン系化合物の具体例としては、ポリオキシエチレンエーテルやポリオキシエチレン変性シリコーンなどが好ましく使用されるが、これらに限定されるものではない。従来、ポリオキシエチレンエーテルやポリオキシエチレン変性シリコーンはシリコーン油剤を水に分散させるための乳化剤や、乳化安定性向上の目的で用いられることはあったが、架橋促進の目的で用いられている例はなく、アミノ変性シリコーンと組合せ、上記特定組成とすることで始めて本発明の効果を発現するのである。
【0020】
ポリオキシエチレンエーテルは、下記化学式1で示されるものが好ましく例示することができる。
【0021】
【化1】
【0022】
R1:アルキル基またはフェニル基を含む炭素数1〜100の有機基
n1:1〜100の整数
さらに好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが使用される。
【0023】
かかるポリオキシエチレンの付加モル数n1 としては、より好ましくは2〜50、特に好ましくは3〜20であるのがよい。
【0024】
また、ポリオキシエチレン変性シリコーンは、ポリジメチルシロキサンを基本構造とし、側鎖のメチル基の一部がポリオキシエチレンで変性されたものが好ましく用いられる。その際、変性量は、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜70重量%、さらに好ましくは30〜60重量%がよい。また、25℃における粘度は、20〜1000cStが好ましく、50〜800cStがより好ましく、100〜500cStが特に好ましい。
【0025】
本発明のシリコーン油剤は、アミノ変性シリコーンおよびポリオキシエチレン系化合物を必須成分とするものであるが、アミノ変性シリコーンとポリオキシエチレン系化合物の合計100重量部に対して、150重量部を超えない範囲で、アミノ変性シリコーンとポリオキシエチレン系化合物以外の化合物を加えることもできる。かかる化合物の合計量は100重量部を超えないのがより好ましく、50重量部を超えないのがさらに好ましい。アミノ変性シリコーンとポリオキシエチレン系化合物以外の化合物が150重量部を超えると、該シリコーン油剤の架橋が十分促進されないことがある。ここでいうアミノ変性シリコーンとポリオキシエチレン系化合物以外の化合物には、該シリコーン化合物を希釈するための溶媒、および該シリコーン化合物を分散させるための分散媒は含まれない。ここでいう分散媒とは、該シリコーン化合物を分散させている媒質のことであり、例えば、水エマルジョンの場合には水のことをいう。
【0026】
本発明の炭素繊維用シリコーン油剤は、耐熱性向上の観点から、エポキシ変性シリコーンを含むことを必須とし、ポリジメチルシロキサンを基本構造とし、側鎖のメチル基の一部が変性されたものが好ましく用いられる。エポキシ変性基は、脂環式でもグリシジル型でもよいが、長期安定性の観点から脂環式の化合物であるのが好ましい。変性量は、0.05〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%がより好ましい。また、エポキシ変性シリコーンの25℃における粘度は、耐熱性の観点からは高いほうがよく、本発明では5000〜20000cStのものを用いることを必須とし、8000〜15000cStが好ましい。また、エポキシ変性シリコーンの含有量は、多いと焼成むら抑制効果を低下させることがあり、少ないと耐熱性向上効果が小さくなることがあるため、アミノ変性シリコーン100重量部に対して、エポキシ変性シリコーンは10〜300重量部が好ましく、20〜200重量部がより好ましく、30〜100重量部がさらに好ましい。
【0027】
本発明の炭素繊維用シリコーン油剤には、該シリコーン油剤の架橋を遅延させる可能性があることから、酸化防止剤は加えないことが好ましい。
【0028】
かかるシリコーン油剤は、オイルの状態でも、有機溶媒などを用いて希釈した溶液の状態でも、エマルジョンの状態でもよいが、炭素繊維用前駆体繊維、たとえばアクリルプリカーサーへの均一付与性、付与簡便性の観点から、水系のエマルジョンとするのが好ましい。水系のエマルジョンとする際には、該シリコーン化合物に適当な乳化剤を加えることもできるが、該シリコーン化合物100重量部に対して、乳化剤は40重量部以下とするのが好ましい。乳化剤の種類は特に限定されないが、ノニオン系、アニオン系の乳化剤が好ましく用いられる。中でも、乳化安定性の観点からノニオン系の乳化剤がより好ましく、具体例としては前述したポリオキシエチレンエーテルを用いるのが好ましい。
【0029】
乳化剤としてポリオキシエチレンエーテルを使用し、水エマルジョンとすることにより、シリコーン油剤内でのアミノ変性シリコーンとポリオキシエチレン部分の混合状態が、より均一かつ微細なものとなり、本発明の効果を発現する上から好ましい。
【0030】
さらに、本発明の炭素繊維用シリコーン油剤は、耐熱性が高いことが焼成工程での融着防止の観点から好ましい。耐熱性の指標としては、後述する方法で測定される加熱残存率(R)が、40〜90%であるのが好ましく、50〜85%であるのがより好ましく、60〜80%であるのがさらに好ましい。40%を下回ると本発明の効果が得にくくなる上に、融着により最終的に得られる炭素繊維の強度低下が生じることがある。90%を上回ると、複合材料として用いたときの炭素繊維とマトリックスとの接着強度が低下することがある。
【0031】
次に、本発明に係る炭素繊維用前駆体繊維および炭素繊維の製造方法について説明する。本発明に係る炭素繊維用前駆体繊維としては、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系などが好ましく例示できるが、高性能な炭素繊維を得るという観点からはアクリル系がより好ましい。以下、本発明の炭素繊維用前駆体繊維をアクリルプリカーサーに代表させて説明する。かかるアクリルプリカーサーの成分としては、少なくとも95モル%以上、より好ましくは98モル%以上のアクリロニトリルと、5モル%以下、より好ましくは2モル%以下の、耐炎化を促進し、かつ、アクリロニトリルと共重合性のある、耐炎化促進成分を共重合したものを好適に使用することができる。
【0032】
かかる耐炎化促進成分としては、ビニル基含有化合物(以下ビニル系モノマーという)からなる共重合体が好適に使用される。ビニル系モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸など使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、一部または全量をアンモニア中和したアクリル酸、メタクリル酸、またはイタコン酸のアンモニウム塩からなる共重合体は、耐炎化促進成分としてより好適に使用される。
【0033】
紡糸原液は、従来知られている溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを採用し得る。紡糸原液に使用される溶媒としては、有機、無機の従来公知の溶媒を使用することができる。特に有機溶媒を使用するのが好ましく、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが使用され、特にジメチルスルホキシドが好ましく使用される。
【0034】
紡糸方法は、乾湿式紡糸法や湿式紡糸法が好ましく採用されるが、より表面が平滑な原糸を、生産性よく製造することができることから、前者がより好ましく使用される。
【0035】
口金から直接または間接に凝固浴中に紡糸原液を吐出し、凝固糸を得る。凝固浴液は、紡糸原液に使用する溶媒と凝固促進成分とから構成するのが、簡便性の点から好ましく、凝固促進成分として水を用いるのがさらに好ましい。凝固浴中の紡糸溶媒と凝固促進成分の割合、および凝固浴液温度は、得られる凝固糸の緻密性、表面平滑性および可紡性などを考慮して適宜選択して使用される。
【0036】
得られた凝固糸は、20〜98℃に温調された単数または複数の水浴中で水洗、延伸するのがよい。延伸倍率は、糸切れや単繊維間の接着が生じない範囲で、適宜設定することができるが、より表面が平滑なアクリルプリカーサーを得るためには、5倍以下が好ましく、4倍以下がより好ましく、3倍以下がさらに好ましい。また、得られるアクリルプリカーサーの緻密性を向上させる観点から、延伸浴の最高温度は、50℃以上とするのが好ましく、70℃以上がより好ましい。
【0037】
水洗、延伸された後の水膨潤状態の糸条に、前述したシリコーン油剤を付与するのが好ましい。付与方法としては、糸条内部まで均一に付与できることを勘案し、適宜選択して使用すればよいが、具体的には、糸条の油剤浴中への浸漬、走行糸条への噴霧および滴下などの手段が採用される。
【0038】
かかるシリコーン油剤の付着量は、繊維の乾燥重量に対する純分の割合が、0.1〜5重量%が好ましく、0.3〜3重量%がより好ましく、0.5〜2重量%がさらに好ましい。0.1重量%を下回ると、単繊維同士の融着が生じ、得られる炭素繊維の引張強度が低下することがある。また、5重量%を超えると、本発明の効果が得にくくなることがある。
【0039】
油剤を付与された糸条は、速やかに乾燥されるのがよい。乾燥の方法は、特に限定されないが、加熱された複数のローラーに直接接触させる方法が好ましく用いられる。乾燥温度は、高いほどシリコーン油剤の架橋反応を促進し、また、生産性の観点からも好ましいので、単繊維間の融着が生じない範囲で高く設定できる。具体的には、150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。通常、乾燥温度の上限は200℃程度である。乾燥時間は、膨潤糸条が乾燥するのに十分な時間とするのがよい。また、糸条への加熱状態が均一になるよう、糸条をできるだけ拡幅した状態でローラーに接触させるのがよい。
【0040】
乾燥された糸条は、さらに加圧スチーム中または乾熱下で後延伸されるのが、得られるアクリルプリカーサーの緻密性や生産性の観点から好ましい。後延伸時のスチーム圧力または温度や後延伸倍率は、糸切れ、毛羽発生のない範囲で適宜選択して使用するのがよい。
【0041】
本発明のアクリルプリカーサーは、該表面が平滑であることが高性能な炭素繊維を得る観点から好ましい。平滑度は後述する方法でAFM(原子間力顕微鏡)により測定される表面積比を指標とし、1.00〜1.02であり、好ましくは1.00〜1.01である。平滑であるほど、本発明のシリコーン油剤の適用効果が顕著に発現しやすく、上限値を超えると、本発明の効果が得にくくなることがある。
【0042】
また、本発明のアクリルプリカーサーの単糸繊度は、0.1〜2.0dTexであることが好ましく、0.3〜1.5dTexであることがより好ましく、0.5〜1.2dTexがさらに好ましい。該繊度は小さいほど、得られる炭素繊維の引張強度や弾性率の点で有利であるが、生産性は低下するため、性能とコストのバランスを勘案し選択するのがよい。
【0043】
さらに本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
【0044】
前述したような好ましい方法により、アクリルプリカーサーが製造され、さらに以下に述べるような方法で、該アクリルプリカーサーを焼成することにより、コストパフォーマンスに優れた炭素繊維を製造することができる。
【0045】
耐炎化温度は、200〜300℃がよく、糸条が反応熱の蓄熱によって糸切れが生じる温度よりも、10〜20℃低い温度で耐炎化するのがコスト削減および得られる炭素繊維の性能を高める観点から好ましい。耐炎化進行度は、後述する方法で測定される耐炎化糸の炎収縮保持率を指標とし、70〜90%の範囲とするのが好ましく、74〜86%がより好ましく、76〜84%がさらに好ましい。耐炎化時間は、生産性および得られる炭素繊維の性能を高める観点から、10〜100分間が好ましく、30〜60分間がより好ましい。この耐炎化時間とは、糸条が耐炎化炉内に滞留している全時間をいう。この時間が30分を下回ると、各単繊維の二重構造が全体的に顕著となり、本発明の効果が得にくくなることがある。耐炎化工程の延伸比は0.85〜1.05が良く、0.87〜1.02がより好ましく、0.90〜1.00がさらに好ましい。
【0046】
予備炭化工程の温度は好ましくは300〜800℃がよい。また、延伸比は、好ましくは0.98〜1.10、より好ましくは0.99〜1.05、特に好ましくは1.00〜1.02であるのが、得られる炭素繊維の性能を高める観点からよい。
【0047】
炭化工程の温度は800〜2000℃であるのがよい。また、その最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて適宜選択して使用されるが、1000℃を下回ると、得られる炭素繊維の引張強度、弾性率が低下することがある。炭化工程の延伸比は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて、毛羽発生など品位低下の生じない範囲で適宜選択するのがよい。
【0048】
より弾性率が高い炭素繊維を所望する場合には、炭化工程に続き黒鉛化を行うこともできる。黒鉛化工程の温度は2000〜2800℃であるのがよい。また、その最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて適宜選択して使用される。黒鉛化工程の延伸比は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて、毛羽発生など品位低下の生じない範囲で適宜選択するのがよい。
【0049】
得られた炭素繊維に対して、表面処理により複合材料としたときのマトリックスとの接着強度をより高めることができる。表面処理方法としては、気相、液相処理を採用できるが、生産性、品質ばらつきを考慮すると、液相処理における電解処理が好ましく適用される。
【0050】
電解処理に用いられる電解液としては、硫酸、硝酸、塩酸といった酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドといったアルカリあるいはそれらの塩を用いることができるが、より好ましくはアンモニウムイオンを含む水溶液が好ましい。例えば、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、燐酸2水素アンモニウム、燐酸水素2アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、あるいは、それらの混合物を用いることができる。
【0051】
電解処理の電気量は、使用する炭素繊維により異なり、例えば、炭化度の高い炭素繊維ほど、高い通電電気量が必要となる。表面処理量としては、X線光電子分光法(ESCA)により測定される炭素繊維の表面酸素濃度O/Cおよび表面窒素濃度N/Cが、それぞれ0.05以上0.40以下、および、0.02以上0.30以下の範囲になることが、接着特性の上から好ましい。
【0052】
これらの条件を満足することにより、炭素繊維とマトリックスとの接着が、適正なレベルとなり、したがって接着が強すぎて非常にブリトルな破壊となって強度が低下してしまうという欠点も、あるいは、強度は強いものの接着力が低すぎて、非縦方向の機械的特性が発現しないといった欠点も防止することができ、縦および横方向にバランスのとれたコンポジット特性を有する特徴が発現される。
【0053】
得られた炭素繊維は、さらに、必要に応じて、サイジング処理がなされる。サイジング剤には、マトリックスとの相溶性の良いサイジング剤が好ましく、マトリックスに合せて選択して使用される。
【0054】
前述した各測定値、および後述する実施例中での各測定値は、以下の方法により測定した。
<アクリルプリカーサーおよび炭素繊維のAFMによる表面積比>
測定に供するアクリルプリカーサーまたは炭素繊維を試料台に固定し、原子間力顕微鏡としてDigital Instruments社製NanoScopeIIIを用い、下記条件にて3次元表面形状の像を得る。
【0055】
探針:SiNカンチレバー(オリンパス工学工業社製、バネ定数0.7N/m)
測定環境:室温大気中
観察モード:コンタクトモード(力一定)
走査速度:0.2〜0.5Hz
走査範囲:2.4μm×2.4μm
得られた像について、前記装置付属ソフトウェア(NanoScopeIIIバージョン4.22r2、1次Flattenフィルタ、Lowpassフィルタ、3次Plane Fitフィルタ使用)によりデータ処理し、実表面積と投影面積を算出する。なお、投影面積については、繊維断面の曲率を考慮し近似した2次曲面などへの投影面積を算出して用いる。表面積比は以下の式で定義される。
【0056】
表面積比=実表面積/投影面積
<シリコーン油剤の加熱残存率R>
加熱残存率は、シリコーン油剤を240℃の空気中で60分間熱処理した後、引き続いて450℃の窒素中で30秒間した後の残存率のことを言う。測定は、次の手順による。付与するシリコーンが油剤が、エマルジョンや溶液の場合には、直径が約60mm、高さが約20mmのアルミ製の容器に、エマルジョンまたは溶液約1gを採取し、オーブンにより、105℃で5時間乾燥し、得られたシリコーン分について、次の条件で、熱天秤(TG)により、その耐熱残存率を測定する。
【0057】
サンプルパン:アルミニウム製直径5mm、高さ5mm
サンプル量:15〜20mg
空気中熱処理条件:空気流量30ml/分、昇温速度10℃/分、240℃
熱処理時間:60分
雰囲気変更:240℃のまま空気から窒素へ変更して5分間保持
窒素中熱処理条件:窒素流量30ml/分、昇温速度は、10℃/分、450℃
熱処理時間:30秒
この熱処理における、トータルの重量保持率を、加熱残存率Rとする。
<剛体振り子の自由減衰振動法によるシリコーン油剤の振動周期>
剛体振り子の自由減衰振動法に基づき、株式会社エーアンドディ社製剛体振り子型物性試験機RPT−3000を用いて振動周期を測定する。測定に供するシリコーン油剤がエマルジョンまたは溶液の場合には、直径が約60mm、高さが約20mmのアルミ製の容器に、エマルジョンまたは溶液約1gを採取し、50℃で乾燥および/または真空乾燥により溶媒を除去しておく。水エマルジョンは、50℃で10時間乾燥する。次に、長さ5cm、幅2cm、厚み0.5mmの亜鉛メッキ鋼板製塗布基板(株式会社エーアンドディ社製 STP−012)の上に、測定に供するシリコーン油剤を厚みが20〜30μmとなるように基板幅方向全面に塗布する。塗布後速やかに、試験機にセットし測定を開始する。試験機は予め30℃に温調しておき、塗布板および振り子をセットした後、50℃/分の速度で180℃まで昇温し、180℃で10分間ホールドする。その間、7秒間隔で連続的に周期の測定を行う。なお、振り子は、下記のものを使用する。
【0058】
使用エッジ:ナイフ形状エッジ(株式会社エーアンドディ社製RBE−160)
振り子重量/慣性能率:15g/640g・cm(株式会社エーアンドディ社製FRBー100)
振動周期差Tは下記式により求められる。
【0059】
T=T30−T180
T30:30℃における振動周期(秒)
T180:180℃で10分間熱処理後の振動周期(秒)
剛体振り子の自由減衰振動法の原理は、例えば、色材、51(1978)、403pなどに解説されているが、該測定方法により測定される振動周期は、シリコーン油剤の架橋度に対応し、小さいほど架橋度が高いことを示す。従って、振動周期差Tは、加熱時の硬化挙動に対応し、大きくなるほど架橋しやすいことを示している。
<炭素繊維の強度および弾性率>
炭素繊維の強度は、日本工業規格(JIS)−R−7601「樹脂含浸ストランド試験法」に記載された手法により、求められる。ただし、測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、”BAKELITE”ERL4221(100重量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、炭素繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて形成する。また、ストランドの測定本数は、10本とし、各測定結果の平均値を、その炭素繊維の強度、弾性率とする。
<耐炎化糸の炎収縮保持率>
耐炎化糸束を約40cm採取し、試長20cmとなるようにクリップなどの不燃物でマークをつける。次に、一端を固定し、もう一端に3300dTexあたり10gの張力をかけ、マークした試長間をブンセンバーナーの炎によって加熱する。この際、ブンセンバーナーの炎の高さは約15cmとし、炎の上部約1/3の部分を用い、マーク間を約15秒/20cmの速さで1往復半移動させながら加熱する。その後、マーク間の長さを測定し、これをWb(mm)とすると、炎収縮保持率(%)は以下の式で定義される。
【0060】
炎収縮保持率(%)=(Wb/200)×100
<予備炭化工程での延伸性>
耐炎化糸を、昇温速度500℃/分で最高温度650℃まで昇温する条件下において、予備炭化工程を連続的に通過させ、糸切れが発生する限界延伸比を測定する。
【0061】
【実施例】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0062】
なお、実施例および比較例で用いている、アミノ変性シリコーン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレン(POE)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(POE)変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンはそれぞれ下記に示すものを用いた。
【0063】
アミノ変性シリコーン:末端にメチル基を有するジメチルシリコーンの側鎖の一部を、下記化学式2で示したアミノ基で置換したものを用いた。アミノ基の変性量は、末端アミノ基のアミノ当量に換算して4000とした。また、25℃における粘度は3000cStとした。
【0064】
【化2】
【0065】
PEG:下記化学式3で示したものを用いた。
【0066】
【化3】
【0067】
POEラウリルエーテル:下記化学式4で示したものを用いた。
【0068】
【化4】
【0069】
POE変性シリコーン:末端にメチル基を有するジメチルシリコーンの側鎖の一部を、下記化学式5で示したポリオキシエチレン基で置換したものを用いた。ポリオキシエチレン基の変性量は、POE変性シリコーンの重量に対するポリオキシエチレン基の重量の割合に換算して50重量%とした。また、25℃における粘度は500cStとした。
【0070】
【化5】
【0071】
エポキシ変性シリコーン:末端にメチル基を有するジメチルシリコーンの側鎖の一部を、下記化学式6で示したエポキシ基で置換したものを用いた。エポキシ基の変性量は、エポキシ当量に換算して4000とした。また、25℃における粘度は15000cStとした。
【0072】
【化6】
【0073】
また、実施例および比較例において測定した結果は、表1〜5にまとめて示す。
【0074】
[実施例1(参考例)]
アミノ変性シリコーンとPEGを表1の1〜3に示した組成比に混合し、トルエンで希釈することで純分30重量%のシリコーン油剤を作製した。
【0075】
該シリコーン油剤を用い、熱処理時の油剤の架橋度の指標として剛体振り子の自由減衰振動法による振動周期差Tを測定した。
【0076】
さらに下記方法によりアクリルプリカーサーを作製した。
【0077】
アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる共重合体をジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により重合し、濃度22重量%の紡糸原液を得た。重合後、アンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込み、イタコン酸を中和して、アンモニウム基をポリマー成分に導入することにより、紡糸原液の親水性を向上させた。
【0078】
得られた紡糸原液を40℃として、直径0.15mm、孔数4000の紡糸口金を用いて、一旦空気中に吐出し、約4mmの空間を通過させた後、3℃にコントロールした35%ジメチルスルホキシド水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸により凝固させた。
【0079】
得られた凝固糸を水洗したのち70℃の温水中で3倍に延伸し、さらに油剤浴中を通過させることにより、作製したシリコーン油剤を付与した。油剤浴中の濃度は、純分2.0%となるようにトルエンで希釈して調整した。さらに180℃の加熱ローラーを用いて、接触時間40秒の乾燥処理を行った。
【0080】
得られた乾燥糸を、0.4MPa-Gの加圧スチーム中で延伸することにより、製糸全延伸倍率を14倍とし、単糸繊度0.8dTex、単繊維本数24000本のアクリルプリカーサーを得た。なお、得られたアクリルプリカーサーのシリコーン油剤付着量は、純分で1.0%、アクリルプリカーサーの表面積比は1.01であった。
【0081】
得られたアクリルプリカーサーを、240〜280℃の空気中で、炎収縮保持率が80%の耐炎化糸に転換した。耐炎化時間は40分、耐炎化工程の延伸比は0.90とした。得られた耐炎化糸について、焼成むらの指標となる予備炭化工程の延伸性を測定した。
【0082】
[比較例1]
シリコーン油剤の組成比が表1の4〜6であることの他は、実施例1と同様にシリコーン油剤を作製し、振動周期差T、耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性を測定した。
【0083】
【表1】
【0084】
表1から明らかなように、比較例1のものは、実施例1のものに比して、シリコーン油剤の熱処理時の架橋度が低く、得られた耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性も低いものであることがわかる。
【0085】
[実施例2(参考例)]
表2の7〜11に示した組成比をもつ、アミノ変性シリコーンとPOEラウリルエーテルに水を加え、ホモミキサー、ホモジナイザーを用いて乳化を行い、純分30重量%のシリコーン油剤とした。
【0086】
アクリルプリカーサーの作製において、油剤浴中の濃度を水で希釈して調整した他は、実施例1と同様の方法で振動周期差T、耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性を測定した。
【0087】
[比較例2]
シリコーン油剤の組成比が表2の12、13であることの他は、実施例2と同様にシリコーン油剤を作製し、振動周期差T、耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性を測定した。
【0088】
【表2】
【0089】
表2から明らかなように、比較例2のものは、実施例2のものに比して、シリコーン油剤の熱処理時の架橋度が低く、得られた耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性も低いものであることがわかる。
【0090】
[実施例3(参考例)]
シリコーン油剤の組成比が、表3の14〜18であることの他は、実施例2と同様にシリコーン油剤を作製し、振動周期差T、耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性を測定した。
【0091】
[比較例3]
シリコーン油剤の組成比が表3の19、20であることの他は、実施例2と同様にシリコーン油剤を作製し、振動周期差T、耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性を測定した。
【0092】
【表3】
【0093】
表3から明らかなように、比較例3のものは、実施例3のものに比して、シリコーン油剤の熱処理時の架橋度が低く、得られた耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性も低いものであることがわかる。
【0094】
[実施例4]
シリコーン油剤の組成比が、表4の21〜27であることの他は、実施例2と同様にシリコーン油剤を作製し、振動周期差T、耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性を測定した。
【0095】
[比較例4]
シリコーン油剤の組成比が表4の28、29であることの他は、実施例2と同様にシリコーン油剤を作製し、振動周期差T、耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性を測定した。
【0096】
【表4】
【0097】
表4から明らかなように、比較例4のものは、実施例4のものに比して、シリコーン油剤の熱処理時の架橋度が低く、得られた耐炎化糸の予備炭化工程での延伸性も低いものであることがわかる。
【0098】
[実施例5]
シリコーン油剤として表2〜4に示した9、16、24を用い、それぞれ実施例2、3(以上参考例)、実施例4で作製した耐炎化糸について、300〜800℃の不活性雰囲気中で予備炭化した後、最高温度1500℃で炭化した。予備炭化工程の延伸比は、1.05とした。さらに、得られた炭素繊維を硫酸水溶液中で、10クーロン/g−CFの陽極酸化処理を行い、炭素繊維を作製した。得られた炭素繊維の強度、弾性率、炭素繊維20m当たりの毛羽個数、AFMによる表面積比を測定した。該表面積比は、すべて1.00であった。
【0099】
[比較例5]
シリコーン油剤として表4に示した28を用いて比較例4で作製した耐炎化糸を用いたことと、予備炭化工程の延伸比を0.95としたことの他は、実施例5と同様に炭素繊維を作製し強度、弾性率、炭素繊維20m当たりの毛羽個数、AFMによる表面積比を測定した。該表面積比は、1.00であった。
【0100】
【表5】
【0101】
表5から明らかなように、比較例5のものは、実施例5のものに比して、予備炭化工程の延伸比を低く設定せざるを得ないため、得られる炭素繊維の強度、弾性率ともに低いものであることがわかる。また、比較例のものは、延伸比を低く設定しているにもかかわらず毛羽個数が多いことがわかる。
【0102】
[実施例6]
シリコーン油剤として表2〜4に示した9、16、24を用い、それぞれ実施例2、3(以上参考例)、実施例4で作製した耐炎化糸について、300〜800℃の不活性雰囲気中で予備炭化した後、最高温度1900℃で炭化し、さらに最高温度2600℃で黒鉛化した。予備炭化工程の延伸比は、1.05とした。さらに、得られた炭素繊維を硫酸水溶液中で、250クーロン/g−CFの陽極酸化処理を行い、炭素繊維を作製した。得られた炭素繊維の強度、弾性率、炭素繊維20m当たりの毛羽個数、AFMによる表面積比を測定した。該表面積比は、全て1.00であった。
【0103】
[比較例6]
シリコーン油剤として表4に示した28を用いて比較例4で作製した耐炎化糸を用いたことと、予備炭化工程の延伸比を0.95としたことの他は、実施例6と同様に炭素繊維を作製し強度、弾性率、炭素繊維20m当たりの毛羽個数、AFMによる表面積比を測定した。該表面積比は、1.00であった。
【0104】
【表6】
【0105】
表6から明らかなように、比較例6のものは、実施例6のものに比して、予備炭化工程の延伸比を低く設定せざるを得ないため、得られる炭素繊維の強度、弾性率ともに低いものであることがわかる。また、比較例のものは、延伸比を低く設定しているにもかかわらず毛羽個数が多いことがわかる。
【0106】
【発明の効果】
本発明によれば、耐炎化工程における焼成むらを効果的に抑制することができ、高性能な炭素繊維を生産性よく提供することができる。
Claims (5)
- 25℃における粘度が1000〜4000cStのアミノ変性シリコーンと、25℃における粘度が5000〜20000cStのエポキシ変性シリコーンと、ポリオキシエチレン系化合物を必須成分とし、かつ、該アミノ変性シリコーンに含まれるアミノ基に対する該ポリオキシエチレン系化合物のポリオキシエチレン部分のモル比(M)が下記式を満たす形で含有されている炭素繊維用シリコーン油剤を、水膨潤状態の糸条に付与した後、熱処理して得られる炭素繊維用前駆体繊維であって、原子間力顕微鏡により測定される表面積比が1.00〜1.02である炭素繊維用前駆体繊維。
12≦M≦35
M=Mp/Ma
Ma:シリコーン油剤100gに含まれるアミノ変成シリコーンの末端アミノ基のモル数
Mp:シリコーン油剤100gに含まれるポリオキシエチレン部分のモル数 - 該シリコーン油剤が、ポリオキシエチレンエーテルを含むものである、請求項1に記載の炭素繊維用前駆体繊維。
- 該シリコーン油剤が、ポリオキシエチレン変性シリコーンを含むものである、請求項1または2に記載の炭素繊維用前駆体繊維。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維用前駆体繊維が150〜200℃の温度で熱処理されたものであり、該炭素繊維用前駆体繊維を、200〜300℃の酸化性雰囲気において耐炎化した後、300〜800℃の不活性雰囲気において予備炭化し、さらに、800〜2000℃の不活性雰囲気において炭化することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
- 請求項4において得られた炭素繊維を、さらに2000〜2800℃の不活性雰囲気で黒鉛化することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
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