JP2004317749A - 対物レンズ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】300nmの波長に対して、厚さ10mmにおいて50%以上の内部透過率を有する媒質で形成された光学素子からなる。光学素子には、300nmの波長に対して、厚さ10mmにおいて50%以上の内部透過率を有する媒質を基板とした回折光学素子L5を有している。回折光学素子L5は蛍光波長で最適化されている。また、屈折率及びアッベ数が異なる媒質で形成されたレンズL3,L4からなる接合レンズを有している。また、収差補正を施したNAと、有効径を決めるNAとが異なり、次の条件式を満足する。
NAe>1.5×NAc
但し、NAeは有効径を決めるNA、NAcは収差補正を施したNAである。
また、有効径を決めるNAが0.6以上の水浸対物レンズとして構成されている。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多光子顕微鏡に用いられる対物レンズに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、従来の共焦点レーザ走査型顕微鏡では実現が困難であった生体組織内深部を破壊することなく3次元観察できる顕微鏡として、多光子励起法を用いた顕微鏡(多光子顕微鏡)が注目されている。
【0003】
多光子励起法は、通常、1光子(単光子)で行われている励起を多光子で行う方法であり、例えば、2光子励起法では、単光子励起法において400nmの波長で行っていた蛍光励起を、2倍の800nmの波長で行うというものである。このとき、800nmの波長での1光子のエネルギーは400nmの波長での1光子のエネルギーに比べて半分になるため、800nmの波長では2光子を用いて蛍光励起が行われる。
【0004】
通常の単光子励起法では、物質が光を吸収して、蛍光を生ずるときのエネルギーは、蛍光エネルギーのほうが吸収エネルギーよりも小さくなる。このため、蛍光は励起光に比べて長波長側にシフトする。例えば、セロトニンを260nmの波長で励起することにより、300〜380nmの自家蛍光を生じさせる。
これに対し、多光子励起法の場合は、単光子励起法に比べて2倍以上の長い波長を用いて、励起光に比べて短波長側の蛍光を検出する。例えば、3光子励起法の場合、セロトニンを750nmの波長で励起することにより、300〜380nmの自家蛍光を生じさせる。
このような多光子励起法では、近赤外のレーザ光を照射することによって、紫外から可視領域にわたる所望の波長の蛍光を観察することが可能となる。
【0005】
多光子顕微鏡は、同じ波長の蛍光を発生させる際に、1光子吸収の場合に比べて2倍以上の長い波長で励起するために、100MHz程度の繰り返し周波数を持つフェムト秒超短パルスレーザ光を励起光に用いた顕微鏡である。例えば、レーザ装置から発せられる近赤外の超短パルスレーザ光を対物レンズを介して試料上に集光し、多光子吸収によって発生する蛍光を、対物レンズ、ダイクロイックミラー、集光レンズ等を介して検出器で検出し、モニタ等を介して3次元画像化するように構成されている。
【0006】
2光子顕微鏡によれば、2光子吸収が励起光強度の2乗に比例した確率で発生し、励起光の焦点近傍の極く小さな範囲のみで2光子励起が、単位時間・単位体積当たりの光子密度の2乗に比例した確率で発生し、収束励起ビームの焦点スポット内において、吸収、蛍光の発生、光化学反応が局在し、高い空間分解能が得られる。
そして、多光子顕微鏡によれば、試料の極く一部でしか蛍光が発生しないため、厚い標本であってもいわゆる断層像のような非常に焦点深度の浅い画像を得ることができるという特徴がある。
【0007】
また、多光子顕微鏡によれば、同じ波長の蛍光を発生させる際に、1光子吸収の場合に比べて2倍以上の長い波長で励起するので、試料内での蛍光散乱が1桁以上少なくなり、蛍光測定のSN比が向上する。
【0008】
また、多光子顕微鏡では、上述のように、近赤外パルス光で可視域の遷移エネルギーを励起することができ、励起光が焦点以外では電子遷移や分子振動による吸収を被ることなく、生体試料中の奥深くまで透過することができる。また、多光子顕微鏡では、可視域パルス光で紫外域の回折限界顕微鏡観察像を得ることができる。
【0009】
ところで、多光子蛍光を発生させるには、上述のように非常に高い光強度が必要である。しかし、通常用いるナノ秒や100ピコ秒程度のパルスレーザで多光子励起を行うと、例えば細胞などの生体試料は、吸収エネルギーが大きすぎてダメージを受けてしまう。これに対し、フェムト秒のパルスレーザで多光子励起を行えば、2光子吸収に十分な光子密度を与え、かつ、吸収エネルギーを小さくすることができる。
また、2光子励起は、上述のように、その単位時間・単位体積当たりの光子密度の2乗(3光子励起では3乗)にほぼ比例した確率で起こる。しかるに、フェムト秒のパルスレーザで多光子励起を行えば、パルス幅が非常に狭いため複数の光子が存在する確率が高くなる。
そこで、多光子顕微鏡のレーザとしては、100フェムト秒程度の超短パルスで、近赤外の波長を持ち、100MHz程度の繰り返し周波数を持つレーザが最適なものとして用いられている。
【0010】
但し、パルスレーザ光源から出たレーザ光はある波長幅を持っており、レーザ光のパルス幅は光学素子を通過するたびに拡がってしまう。そして、標本のレーザ光が到達するまでの間に多くの光学素子を存在させると、標本位置でパルス幅が大きく拡がってしまい多光子励起が起きなくなるという問題が生じる。
【0011】
このパルス幅の拡がりを解決する方法として、プリズムを用いて「短い波長の光を先に出す」、即ち、「長い波長の光を遅らせる」という手法(プレチャープコンペンセーション)が一般的に知られている。この手法に関しては、
“Femtosecond pulse width control in microscopy by two‐photon absorption autocorrelation/by G.J. Brakenhoff,M.Muller & J.Squier/J.of Microscopy,Vol.179,Pt.3,September 1995,p.253‐260”に詳述されている。
この方法は、複数のプリズムをレーザビームの光路に配置し、レーザビームをプリズムを通過させることで波長幅の範囲で拡げ、プリズム間の間隔やプリズム自身の光軸に対する相対位置を変えることにより、長波長側と短波長側とで光路長を異ならせることで、短い波長の光を先に出し、長い波長の光を遅らせるという方法である。
【0012】
一方、従来、単光子励起による観察を行う顕微鏡等に用いる対物レンズとしては、高倍率、高NAで、接合レンズや異常分散ガラスを多用することなしに諸収差、特に色収差を補正した対物レンズとして回折光学素子を用いた対物レンズが、例えば、特許文献1に開示されている。
また、従来、2光子励起による観察を行う顕微鏡等に用いる対物レンズが、例えば、特許文献2に開示されている。
【0013】
【特許文献1】
特開平06−331898号公報
【特許文献2】
特開平06−281864号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1に記載の対物レンズ等、従来の通常の対物レンズは、広い波長域にわたって色収差補正をするために多数のレンズを使用しており硝路長が長くなっている。また、特に紫外光対応でないものは、高分散ガラスが用いられているため、従来の対物レンズは、群遅延分散(GDD:Group Delay Dispersion)の値が大きくなっている。
しかし、群遅延分散の値が大きいと、対物レンズを通過することにより、パルス幅が拡がってしまう。
また、特許文献2に記載の対物レンズも、広い波長域にわたって色収差補正をするために多数のレンズを使用しており硝路長が長くなっている。また、特に紫外光対応でないものは、高分散ガラスが用いられているため、群遅延分散(GDD:Group Delay Dispersion)の値が大きくなっている。
【0015】
2光子励起では2乗、3光子励起では3乗に比例した確率で発生する。従って、多光子励起を確率良く行うためには、単位時間・単位体積当たりの光子密度を高くすることが必要である。
このため、対物レンズでのチャープ量は、極力小さくなることが望ましい。
【0016】
しかし、特許文献1に記載のような単光子励起に用いる従来の対物レンズや特許文献2に記載のような2光子励起に用いる従来の対物レンズでは、上述のように、群遅延分散の値が大きい。このため、従来の対物レンズでは、パルスレーザが通過するときに、大きなチャープを生じ、パルス幅が大きく拡がってしまい、多光子励起の発生確率を大きくとることができなかった。
また、上述のようなプレチャープコンペンセーション光学系を用いてパルス幅の調整が難しい。
【0017】
また、多光子励起は、その過程そのものが非線形現象であり、発生確率が、上述のように、2乗(2光子)、3乗(3光子)特性を持つ。このため、多光子励起では、励起された蛍光を極力多く集めて、検出器に導くことが重要である。
【0018】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、多光子励起の発生確率を高くすることが可能な対物レンズを提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明による対物レンズは、300nmの波長に対して、厚さ10mmにおいて50%以上の内部透過率を有する媒質で形成された光学素子からなることを特徴としている。
【0020】
また、本発明による対物レンズは、300nmの波長に対して、厚さ10mmにおいて50%以上の内部透過率を有する媒質を基板とした回折光学素子を、少なくとも1枚有することを特徴としている。
【0021】
また、本発明による対物レンズは、前記回折光学素子が蛍光波長で最適化されていることを特徴としている。
【0022】
また、本発明による対物レンズは、屈折率及びアッベ数が異なる媒質で形成されたレンズからなる接合レンズを、少なくとも1枚有することを特徴としている。
【0023】
また、本発明による対物レンズは、収差補正を施したNAと、有効径を決めるNAとが異なり、次の条件式(1)を満足することを特徴としている。
NAe>1.5×NAc …(1)
但し、NAeは有効径を決めるNA、NAcは収差補正を施したNAである。
【0024】
また、本発明による対物レンズは、有効径を決めるNAが0.6以上の水浸対物レンズとして構成されていることを特徴としている。
【0025】
また、本発明による対物レンズは、光軸上の硝路長が20mm以下であることを特徴としている。
【0026】
また、本発明による対物レンズは、光軸上の光線に対する群遅延分散が1000fsec2以下であることを特徴としている。
【0027】
また、本発明による対物レンズは、前記媒質が、石英又は蛍石であることを特徴としている。
【0028】
また、本発明による対物レンズは、標本側から順に配置された、像側に凸面を向けた石英製の平凸レンズと、像側に凸面を向けた石英製の正メニスカスレンズと、石英製の負メニスカスレンズと蛍石製の両凸レンズとからなる接合レンズと、回折光学素子とで構成されていることを特徴としている。
【0029】
また、本発明による対物レンズは、収差補正が施されている波長領域が、近赤外領域であることを特徴としている。
【0030】
また、本発明による対物レンズは、近赤外領域であって30nm以上の幅を有する波長領域ごとに収差補正が施されていて、各波長領域でのベスト面が異なることを特徴としている。
【0031】
また、本発明による対物レンズは、多光子顕微鏡専用であることを特徴としている。
【0032】
【発明の実施の形態】
実施例の説明に先立ち、本発明の作用効果について説明する。
本発明のように、対物レンズを構成する光学素子として、石英や螢石などの媒質のみを用いると、群遅延分散の値が小さく、パルス幅の拡がりを抑えることができる。
また、そのような光学素子に300nmでの厚さ10mmでの内部透過率が50%以上ある媒質で形成された光学素子を用いると、蛍光波長が300nm以下であっても十分な透過率を有して、蛍光観察をすることが可能となる。
また、本発明のように、収差補正を施したNAと有効径を決めるNAとが上記条件式(1)を満足するように異ならせると、励起用のNAに対して蛍光を取り込む有効径を大きくとることができるため、散乱された蛍光も、極力多く集めることができ、ロスが少なく検出することができる。ただし、対物レンズを構成する光学素子の媒質として石英や螢石以外の媒質を用いると、レンズ自体で自家蛍光が生じ、標本で生じた蛍光の検出精度が劣化してしまう。このため、本発明では、上述のように、対物レンズを構成する光学素子として、石英や螢石などの媒質のみを用いている。
なお、励起光用のNAは0.6程度あれば十分であるので、収差補正を施すNAのはNA0.6程度であって、しかも、収差補正を施す波長域は、励起に用いる波長域(近赤外域)だけで足りる。一方、蛍光は、散乱されたものも含めて、極力取り込むのが望ましいので、取り込みのNA(有効径)は極力大きいのが望ましい。
【0033】
また、本発明のように構成すると、レンズ枚数が少なくて済み、硝路長を短くすることができるため、群遅延分散が小さくなり、大きなチャープを発生しない。このため、プレチャープ量が少なくて済む。
また、本発明のように、蛍光波長に対して最適化された回折光学素子(DOE)を用いると、蛍光に対する回折効率が大きくなり、蛍光の検出ロスを少なくすることができる。なお、このように構成すると、励起レーザ波長に対しては、回折効率が悪くなるが、レーザのパワーを上げれば試料を励起するための十分な光の強度が得られるので励起に支障は生じない。また、多光子吸収では、集光点近傍の極く小さな範囲のみで多光子励起が発生し、回折光学素子による不要次数光が生じても、その不要次数光によって多光子励起は起こらないので問題ない。
【0034】
なお、本発明で用いる回折光学素子(DOE:Difractive Optics Elements)は、オプトロニクス社発行の「光学デザイナーのための光学エレメント」第6,第7章、及びWilliam C. Sweatt著『NEWMETHODS OF DESIGNING HOLOGRAPHIC OPTICAL ELEMENTS』(SPIE.VOL.126,p46−53,1977)等に記載されている。その原理を以下に簡単に述べる。
【0035】
通常の光学ガラスは、図7において次の式(2)で表わされるスネルの法則にしたがって屈折する。
nsinθ=n’sinθ’ …(2)
但し、nは入射側媒質の屈折率、n’は出射側媒質の屈折率、θは光線の入射角、θ’は光線の出射角である。
【0036】
一方、回折現象では、図8に示すように、光は次の式(3)で表わされる回折の法則にしたがって曲げられる。
nsinθ−n’sinθ’=mλ/d …(3)
但し、mは回折光の次数、λは波長、dは格子間隔である。
この式にしたがって光線を屈折させるようにした光学素子が回折光学素子である。
なお、図8では遮蔽部と透過部が間隔dで並設されたものを示したが、図9に示すように、透明体の表面に断面が鋸歯状の回折面を設けて最適化(ブレーズ化)するか、図10に示すように、そのバイナリー近似を行うと高い回折効率を得ることができる。
【0037】
次に、上記のような回折光学素子を用いることによる利点について説明する。
屈折系の薄肉レンズの場合、次の式(4)に示す関係が成り立つ。
1/f=(n−1)(1/r1−1/r2) …(4)
但し、fは焦点距離、r1,r2は、夫々入射面と射出面の曲率半径、nはレンズの屈折率である。
上記式(4)の両辺を波長λで微分すると次の式(5)が求まる。
df/dλ=−f(dn/dλ)/(n−1)
Δf=−f{Δn/(n−1)} …(5)
ここで、係数倍的効果を除くと、Δn/(n−1)が分散特性を表わすことになるので、分散値νを次式(6)のように定義できる。
ν≡(n−1)/Δn …(6)
従って、可視域における分散特性(アッベ数νd)は次式(7)のようになる。
νd=(n−1)/(nF−nc) …(7)
【0038】
一方、回折光学素子の場合は、次の式(8)が成立する。
f=h/(n’sinθ’)=(dhh)/(mλ) …(8)
但し、fは回折光学素子の焦点距離、hは入射する平行光の光線高、dhは入射する平行光の光線高hのところでの格子間隔である。
無収差の回折光学素子の場合、dhhは一定であるので、f=C/λ(Cは定数)である。このf=C/λの両辺をλで微分すると次の式(9)が得られる。
df/dλ=−C/λ2=−f/λ
Δf=−f(Δλ/λ) …(9)
ここで、ν≡(n−1)/Δnであるので、ν=Δλ/λである。従って、回折光学素子の可視域でのアッベ数νdは次式(10)のようになる。
νd=λd/(λF−λc)=−3.453 …(10)
【0039】
このように回折光学素子は、非常に大きな負の分散特性を持つ。通常のガラスの分散特性は、約20〜95であるので、回折光学素子は非常に大きな逆分散特性を持つことがわかる。また、同様の計算により、回折光学素子は異常分散性を持つことがわかる。
【0040】
【実施例】
以下、本発明の対物レンズの実施例を図面を用いて説明する。
第1実施例
図1は本発明の第1実施例にかかる対物レンズの光軸に沿う断面図であり、(a)は励起光が透過する状態、(b)は蛍光が透過する状態を示している。図2は第1実施例にかかる対物レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。図3は本発明の各実施例の対物レンズに用いる回折光学素子の波長に対する回折効率特性を示すグラフである。
第1実施例の対物レンズは、図1に示すように、物体側から順に配置された、像側に強い曲率の凸面を向けた石英製の平凸レンズL1と、像側に強い曲率の凸面を向けた石英製の正メニスカスレンズL2と、像側に凹面を向けた石英製の負メニスカスレンズL3と蛍石製の両凸レンズL4との接合レンズと、回折光学素子L5とで構成されている。
回折光学素子L5は、石英製の平行平面板の像側に、図3に示すように、380nmの波長で最適化されて構成されている。
【0041】
なお、本発明の各実施例で用いる回折光学素子(DOE)は、上述の通りであるが、このような回折光学素子を含む光学系の設計方法として、ウルトラ−ハイインデックス法(ultrahigh index methods)と呼ばれるものが知られている。これは、回折光学素子を屈折率の極めて大きい仮想レンズ(ウルトラ−ハイ インデックスレンズ)に置き換えて設計する方法である。このことについては、SPIE.VOL.126 p46−53,1977に記載されているが図11を用いて簡単に説明する。
【0042】
図11において、1はウルトラ−ハイ インデックスレンズ、2は法線である。このウルトラ−ハイ インデックスレンズにおいては、次の式(11)で表わされる関係が成り立つ。
(nU−1)dz/dh=nsinθ−n’sinθ’ …(11)
但し、nUはウルトラ−ハイ インデックスレンズの屈折率、zはウルトラ−ハイ インデックスレンズの光軸方向の座標、hは光軸からの距離、n,n’は夫々入射側媒質及び射出側媒質の屈折率、θ,θ’は光線の入射角及び射出角である。
式(3)及び式(11)から次の式(12)が求まる。
(nU−1)dz/dh=mλ/d …(12)
即ち、ウルトラ−ハイ インデックスレンズ(屈折力が極めて大きい屈折型レンズ)の面形状と回折光学素子のピッチとの間には式(12)で与えられる等価関係が成立し、この式を通じてウルトラ−ハイ インデックス法で設計したデータから回折光学素子のピッチを求めることができる。
【0043】
一般的な軸対称非球面は、次の式(13)のように表わされる。
z=ch2/[1+{1−(1+k)c2h2}1/2]+Ah4+Bh6+Ch8+Dh10+・・・ …(13)
但し、zは光軸(像の方向を正)、hは面とz軸との交点を原点としz軸に直交した座標軸のうちのメリジオナル方向の座標軸、cは基準面の曲率、kは円錐定数、A,B,C,D,・・・は夫々、4次,6次,8次,10次,・・・の非球面係数である。
【0044】
式(12),(13)より、ある光線高における上記非球面と等価の回折光学素子のピッチdは、次の式(14)で表わされる。
d=mλ/[(n−1){ch/(1−c2(1+k)h2)1/2+4Ah3+6Bh5+8Ch7+10Dh9+・・・}] …(14)
【0045】
次に第1実施例の対物レンズを構成する光学部材の数値データを示す。なお、以下の数値データには、対物レンズのデータの他に、断面図において図示しない像面と、標本を覆うカバーガラス面、及び標本面のデータも含まれている。また、数値データ中、r0、r1…は像側から順に示した各光学部材の面の曲率半径、d0、d1…は像側から順に示した各光学部材の肉厚又は各光学部材面間の間隔、G1,G2…は像側から順に示した各光学部材の媒質又は各光学部材面間の媒質を表している。これらの記号は、以下の各実施例及び比較例において共通である。
なお、各実施例の対物レンズを構成する媒質である石英の屈折率は1.50745、アッベ数は67.82、蛍石の屈折率は1.46730、アッベ数は94.99である。
【0046】
【0047】
非球面係数
第2面
k=−1.000000
A=−0.579671×10−8 B= 0.176129×10−9 C=−0.358836×10−10
D= 0.206033×10−11
【0048】
NAc:0.6(水浸)
NAe:1.1
GDD:591.8fsec2 (励起波長:700nm)
【0049】
第2実施例
図4は本発明の第2実施例にかかる対物レンズの光軸に沿う断面図であり、(a)は励起光が透過する状態、(b)は蛍光が透過する状態を示している。図5は第2実施例にかかる対物レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。
第2実施例の対物レンズは、物体側から順に配置された、像側に強い曲率の凸面を向けた石英製の平凸レンズL1と、像側に強い曲率の凸面を向けた石英製の正メニスカスレンズL2と、蛍石製の両凸レンズL3’と像側に凹面を向けた石英製の負メニスカスレンズL4’との接合レンズと、回折光学素子L5とで構成されている。
回折光学素子L5は、第1実施例と同様、石英製の平行平面板の像側に、図3に示すように、380nmの波長で最適化されている。
【0050】
次に、第2実施例の対物レンズを構成する光学部材の数値データを示す。
【0051】
非球面係数
第2面
k=−1.000000
A=−0.868033×10−8 B= 0.838451×10−10 C=−0.333972×10−10
D= 0.223170×10−11
【0052】
NAc:0.6(水浸)
NAe:1.1
GDD:591.5fsec2 (励起波長:700nm)
【0053】
比較例
図6は本発明の比較例にかかる従来の2光子用対物レンズの光軸に沿う断面図である。
比較例の対物レンズは、物体側から順に、像側に強い凸面を向けた接合面を有する平凸レンズと、正レンズとで構成された第1レンズ群G1と、正レンズと負レンズと正レンズとの接合レンズで構成された第2レンズ群G2と、負レンズと正レンズと負レンズとの接合レンズと、正レンズと負レンズとの接合メニスカスレンズと、負レンズと正レンズとの接合メニスカスレンズとで構成された第3レンズ群とで構成されている。
【0054】
次に、比較例の対物レンズを構成する光学部材の数値データを示す。なお、比較例において、nd2、nd3…は物体側から順に示した各光学部材のd線での屈折率、νd2、νd3…は物体側から順に示した各光学部材のアッベ数を表わしている。なお、比較例においては、対物レンズを構成する媒質として、石英も、螢石も用いていない。
【0055】
NAc:1.15
NAe:1.15
GDD:2650fsec2 (励起波長:700nm)
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、近赤外域での多光子励起による紫外域での蛍光の発生確率が高い対物レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例にかかる対物レンズの光軸に沿う断面図であり、(a)は励起光が透過する状態、(b)は蛍光が透過する状態を示している。
【図2】第1実施例にかかる対物レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。
【図3】本発明の各実施例の対物レンズに用いる回折光学素子の波長に対する回折効率特性を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施例にかかる対物レンズの光軸に沿う断面図であり、(a)は励起光が透過する状態、(b)は蛍光が透過する状態を示している。
【図5】第2実施例にかかる対物レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。
【図6】本発明の比較例にかかる従来の2光子用対物レンズの光軸に沿う断面図である。
【図7】通常ガラスでの光の屈折状況を示す説明図である。
【図8】回折現象による光の屈折状況を示す説明図である。
【図9】回折光学素子の最適化した状態での断面図である。
【図10】回折光学素子のバイナリー近似を行った状態での断面図である。
【図11】ウルトラ−ハイ インデックスレンズにおける光の屈折状況を示す説明図である。
【符号の説明】
L1 像側に強い曲率の凸面を向けた石英製の平凸レンズ
L2 像側に強い曲率の凸面を向けた石英製の正メニスカスレンズ
L3,L4’ 像側に凹面を向けた石英製の負メニスカスレンズ
L3’,L4’ 蛍石製の両凸レンズ
L5 回折光学素子
Claims (13)
- 300nmの波長に対して、厚さ10mmにおいて50%以上の内部透過率を有する媒質で形成された光学素子からなることを特徴とする対物レンズ。
- 300nmの波長に対して、厚さ10mmにおいて50%以上の内部透過率を有する媒質を基板とした回折光学素子を、少なくとも1枚有することを特徴とする請求項1に記載の対物レンズ。
- 前記回折光学素子が、蛍光波長に対して最適化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の対物レンズ。
- 屈折率及びアッベ数が異なる媒質で形成されたレンズからなる接合レンズを、少なくとも1枚有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の対物レンズ。
- 収差補正を施したNAと、有効径を決めるNAとが異なり、次の条件式を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の対物レンズ。
NAe>1.5×NAc
但し、NAeは有効径を決めるNA、NAcは収差補正を施したNAである。 - 有効径を決めるNAが0.6以上の水浸対物レンズとして構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の対物レンズ。
- 光軸上の硝路長が20mm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の対物レンズ。
- 光軸上の光線に対する群遅延分散が1000fsec2以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の対物レンズ。
- 前記媒質が、石英又は蛍石であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の対物レンズ。
- 標本側から順に配置された、像側に凸面を向けた石英製の平凸レンズと、像側に凸面を向けた石英製の正メニスカスレンズと、石英製の負メニスカスレンズと蛍石製の両凸レンズとからなる接合レンズと、回折光学素子とで構成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の対物レンズ。
- 収差補正が施されている波長領域が、近赤外領域であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の対物レンズ。
- 近赤外領域であって30nm以上の幅を有する波長領域ごとに収差補正が施されていて、各波長領域でのベスト面が異なることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の対物レンズ。
- 前記対物レンズは、多光子顕微鏡専用であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の対物レンズ。
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