JP2004314127A - 送給性に優れたアーク溶接用ソリッドワイヤ及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】線径が4.0mm以下3.0mm以上で表層に1μm以上、5μm未満の粒界酸化深さを有する熱間圧延線材を有する熱間圧延線材を用いて途中で何ら熱処理することなく線径0.6mm以上2.0mm以下に冷間加工して製造された送給性に優れたアーク溶接用ソリッドワイヤで、冷間加工全工程の50%以上の工程で1パス減面率が7〜15%の減面率で伸線加工することを特徴とした送給性に優れたソリッドワイヤの製造方法である。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は冷間加工性に優れ、アーク溶接作業時にコンジットチューブ内での安定送給を可能とする溶接作業性に優れたアーク溶接ソリッドワイヤ及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ガスシールドアーク溶接法は、高溶着で母材への溶け込みが良好で溶接姿勢の自由度も高く、信頼性の高い溶接継手が得られるため建築、橋梁を主体とする大型鋼構造物や自動車等の輸送機器の薄板鋼構造物の製造に幅広く用いられている。また、ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは軟鋼の溶接だけではなく490N/mm2級、590N/mm2級以上の高張力鋼または、Cr−Mo鋼等の合金鋼の溶接にも広く適用でき、CO2、Ar−CO2、Ar−O2、Ar−CO2−O2、Ar、He等の種々のシールドガスと組み合わせて使用ができる。
【0003】
ソリッドワイヤによるアーク溶接作業時にはワイヤ送給装置の送給ローラにより、コンジットケーブルの内部に螺旋状に成形した可撓チューブ(以下コンジットチューブ)を内包した管状体の中を挿通させながら6m以上もの長尺のコンジットケーブルとそれにつながる溶接トーチのコンタクトチップ(通電部)から連続的にワイヤを送り出しながらシールドガスの雰囲気でアーク溶解する方法で使用されている。また、溶接に当たっては、長尺のコンジットケーブルは溶接電源から溶接現場までの距離の調整のために上下或いは左右に曲げられたり、ループ状に巻きつけて長さを調整して使われることが多い。
【0004】
このような状況で使用された場合、コンジットケーブル内を通過するワイヤが螺旋状のコンジットチューブ内の表面との接触摩擦部が増えて送給抵抗が増し、ワイヤを円滑に送給させることが困難となる。この結果、溶接アークの不安定、ビード形状の不揃い、融合不良、アンダーカットの発生等種々の溶接欠陥を生ずるようになる。最近、溶接作業の複雑化、高速化、広範囲化に伴いコンジットチューブ内面との摩擦抵抗が小さく、送給が円滑で且つ安定し、常に定速送給される溶接用ワイヤ、即ち送給性に優れた溶接用ワイヤが強く要求されている。
【0005】
そのために、従来から溶接用ワイヤの製造に際してワイヤの送給性改善のために色々な工夫がなされている。
【0006】
例えば、ワイヤ表面に平均粒径50〜750μmのショットを用いて2秒以下のショットブラスト加工を行い、微小凹凸をつけた後にこの凹凸に植物油、鉱物油、或いは動物油の単独或いは混合油等の潤滑剤を塗布する方法が提案されている。更に、使用条件の厳しい場合には、MoS2、グラファイト粉末等の固体潤滑剤を油潤滑油の中に懸濁させてワイヤ表面に塗布する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
更に溶接ワイヤ外周面に形成する溝の形状や数を規定したものや(例えば、特許文献2参照)、平均粒界酸化深さと平均結晶粒径の比率を規制したもの(例えば、特許文献3)が提案されているが、いずれもソリッドワイヤの製造工程で熱処理により粒界酸化を形成し、ワイヤ表面の溝内に潤滑剤を保持させることにより送給性を改善する方法である。
【0008】
しかし、ソリッドワイヤの表面に凹凸を形成する方法としてショットブラスト加工を行う場合も、熱処理により粒界酸化を行わせる方法も、ともに製造工程途中でショットブラスト処理や熱処理工程を付加する必要があり、設備の設置、工程の増加により製造コストがアップする問題がある。
【0009】
【特許文献1】
特開昭61−27198号公報
【特許文献2】
特開平7−223087号公報
【特許文献3】
特開平5−21674号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術ではワイヤ製造の加工工程で表面凹凸処理や焼鈍工程を付加することで表面に潤滑剤を保持できるようにした後に、表面にオイル等の潤滑剤を塗布して送給性を改善するものであり、製品品質は向上するもののソリッドワイヤのコストアップは避けられなかった。
【0011】
そこで、本発明は上記状況に鑑みなされたものであり、ソリッドワイヤの製造工程において特別な表面処理や熱処理工程を付加することなしに熱間圧延線材から直接、冷間加工により送給性の優れたソリッドワイヤを製造することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく、熱間圧延線材の線径と表面性状に着目し、熱間圧延線材の線径と粒界酸化深さの異なる熱間圧延線材を種々製造し、加工条件も種々変えて、ソリッドワイヤを製造し、送給性の評価を行った。その結果、適正な線径の熱間圧延線材の表層に一定深さの粒界酸化層を形成させた熱間圧延線材を用いることによりその後の冷間加工で何ら熱処理や特殊な加工を行うことなく、送給性が優れたソリッドワイヤを製造できることを知見したものである。特に表面に粒界酸化層を有する熱間圧延線材を冷間加工した場合、加工工程で表面に形成された凹凸による潤滑剤の引き込み性の改善により摩擦抵抗の低減につながり、銅めっきを行わなくとも十分な冷間加工性が確保されることも明らかとなった。
【0013】
また、更に冷間加工条件についても送給性を改善するための適正加工条件が存在することを明らかにし、本発明をなすに至ったものである。
【0014】
本発明は以上の詳細な検討と知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは以下のとおりである。
【0015】
(1) 線径が4.0mm以下3.0mm以上で表層に1μm以上、5μm未満の粒界酸化深さを有する熱間圧延線材を用いて途中で何ら表面処理や熱処理することなく線径0.6mm以上2.0mm以下に冷間加工したことを特徴とする送給性に優れたアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【0016】
(2) 上記(1)において表面に銅めっきが施されていることを特徴とする送給性に優れたアーク溶接用ソリッドワイヤ。
【0017】
(3) 線径が4.0mm以下3.0mm以上で表層に1μm以上、5μm未満の粒界酸化深さを有する熱間圧延線材を用いて途中で何ら表面処理や熱処理することなく線径0.6mm以上2.0mm以下に冷間加工全工程の50%以上の工程で1パス減面率が7〜15%の減面率で伸線加工することを特徴とする上記(1)または(2)記載の送給性に優れたソリッドワイヤの製造方法。
【0018】
ここでソリッドワイヤ製造のための加工はダイスによる伸線加工、冷間圧延、カセットローラーダイス等が適用でき、特に加工方法や手段は限定されない。また、粒界酸化は結晶粒界に沿って形成される連続した酸化物層であり、鉄酸化物のほかMn、Ti、Si等の酸化物から形成されるものである。粒界酸化深さは図1に示すように表面の結晶粒界3に生成した粒界酸化層1を線材表面に対して直角方向に測定した値を粒界酸化深さ2と定義した。
【0019】
冷間加工前に行われる熱間線材表面のスケール除去は機械的な方法、及び短時間の酸洗等化学的な方法のほか電解酸洗等電気的な方法のいずれも適用も可能であるが、線材表面の粒界酸化部分の浸食を伴わない方法であれば適用可能である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明に用いる熱間圧延線材とソリッドワイヤ線径及び粒界酸化深さは本発明を構成する主要なパラメーターであり、それぞれ密接に関係することから、これらの限定理由についてはじめに説明する。
【0022】
本発明の熱間圧延線材は、図1に粒界酸化の形成状況を模式的に示すように、表面に粒界酸化層1が結晶粒界3に存在する。冷間加工時には表層部により高い歪が導入され内部に比べ引張り応力が作用するために、表面の粒界酸化は開口し、図2の本発明のソリッドワイヤ表面の例に示すように溝4が形成される。しかし、太い線径の熱間圧延材から細い線材のソリッドワイヤ線径まで加工を行うと加工度が大きくなり、表面の粒界酸化開口部はつぶれ、図2の比較例のソリッドワイヤ表面のように平滑な表面となり、潤滑剤の引き込み性が低下し、加工末期には非常に大きな摩擦状態で加工されるために断線発生等のトラブルとなりやすいとともにソリッドワイヤの送給性が悪化する。一方、細い線径の熱間圧延線材から太い線径のソリッドワイヤに加工する場合は、加工度が小さくなるために表層に作用する引張り歪が小さく粒界酸化部が十分に開口せず加工時の潤滑性能改善効果が得られない。加工度が小さいから冷間加工はできるが、表面に溝が形成されないので、表面に潤滑剤を保持させることができないためにコンジットチューブとの滑り性改善効果が得られず、送給性が悪化する。このように冷間加工での加工性を確保し、表面に溝を形成するための上限加工度以下とするために熱間圧延線材の線径の上限を4mmとし、ソリッドワイヤの下限線径を0.6mm以上とした。また、ワイヤ表面に粒界酸化による開口溝4を形成させるための下限加工度を確保する観点から熱間圧延線材の線径の下限を3mm、ソリッドワイヤの上限線径を2.0mmとした。
【0023】
また、熱間圧延線材表層に形成される粒界酸化深さも冷間加工度とともに変化するため、線径と関連してくる。本発明の熱間圧延線材の線径範囲である4.0mm以下3.0mm以上とした場合、冷間加工時の潤滑性とソリッドワイヤの送給性に関する粒界酸化深さの影響について種々の条件で実験を行った結果、粒界酸化深さが1μm未満では冷間加工時の潤滑性改善、及びソリッドワイヤの送給性改善効果が得られなかった。一方、5μm以上の深い粒界酸化が形成された熱間圧延線材では冷間加工時に一部の粒界酸化部分が連結し、脱落する減少が認められ、この場合も冷間加工時の潤滑性改善、及びソリッドワイヤの送給性改善効果が得られなかった。このことから本発明の熱間圧延線材の粒界酸化深さを1μm以上、5μm以下とした。
【0024】
次に1パス減面率の限定理由について述べる。
【0025】
1パス加工減面率の影響は被加工材の歪分布に影響を及ぼし、1パスあたりの加工減面率を15%以下と小さくすると、被加工材の表面に優先的に歪が導入され、高い引張応力が作用するために粒界酸化部分を起点として表面に溝が形成されやすくなる。一方、1パスの加工減面率が大きいと断面内で均一変形が行われることにより被加工材の表層から内部まで比較的均一な歪が導入され、表層の粒界酸化を起点とした開口に伴う溝は形成されにくくなる。しかし、1パス加工減面率が小さすぎると加工工程が多くなり、装置が大型化することから、表面に有効に引張り歪を作用させ、なおかつ効率よく加工を行うために本発明の1パス加工減面率を7〜15%とした。
【0026】
次に1パス加工減面率7〜15%の加工比率の限定理由について述べる。1パス減面率7〜15%で加工を行う場合、全加工工程に適用することによりより確実に表面に引張り歪を作用させ、粒界酸化部分から開口させることにより伸線時の潤滑剤の引き込み性改善及び溶接時の送給性改善が可能となるが全体の加工工程の中で7〜15%の減面率で加工した場合の伸線性と送給性の関係を解析したところ、全加工工程の50%以上で7〜15%の減面率で加工を行うことで十分な改善効果が得られることが判明した。この結果から、1パス減面率7〜15%で加工を行う加工比率を全加工工程の50%以上とした。
【0027】
本発明により製造されたソリッドワイヤ表面には粒界酸化物部分が開口した溝が断続的に形成され、この溝部に潤滑成分を保持させることにより、溶接作業時にコンジットチューブ内をソリッドワイヤが送られるときの送給抵抗が低減するとともに必ずしも銅めっきを行う必要がないので溶接時の銅ヒュームの発生がなく、安定した溶接作業性を確保できる。更に、中間で熱処理等を行う必要がないために低コストで、高生産性を可能とするものである。
【0028】
以下、実施例によって更に詳細に説明する。なお、下記実施例は本発明を限定するものではないことは勿論である。
【0029】
【実施例】
本実施例は代表的な溶接用熱間圧延線材として表1に示す成分の鋼材を用いた。線径3〜5.5mmで熱間圧延を行い、熱間圧延後連続して徐冷を行い熱間圧延線材の表面に粒界酸化層を形成した。徐冷条件を変えることにより粒界酸化深さの異なる熱間圧延線材を得た。この熱間圧延線材を直接ダイス伸線により1.2mmのソリッドワイヤを製造した。ソリッドワイヤ製造の加工条件は1パス13%減面の低減面率伸線を全加工工程の25〜90%の範囲で変えた。また、一部では1.2mmで0.5μm厚さとなるように銅めっきを施して伸線を行った。
【0030】
ソリッドワイヤ送給性調査の溶接条件を以下に示す。
供試鋼板:JISG3106 SM490
シールドガス:100%CO2 流量25l/min
溶接電流:330A
溶接速度:5m/min
ワイヤ突き出し長さ:15mm
溶接極性:DCEP(直流逆極性)
溶接姿勢:下向きビードオンプレート溶接
コンジット状況:80φ 1ターン
コンジットチューブの長さ:3m
【0031】
送給性の評価は送給時のワイヤの速度変動を連続測定し、標準偏差が0.1m/min以下を極めて良好として◎で、0.1超〜0.15m/minを良好として○で、0.15m/min超を悪いとして×で示した。
【0032】
表2に熱間圧延材の線径、粒界酸化深さ、13%の低減面率伸線加工比率とCuめっき有無の各異なる条件で製造した1.2mmソリッドワイヤの表面性状及び送給性の評価結果を示した。この結果、本発明の範囲内の線径の熱間圧延線材、粒界酸化深さ、低減面率加工率で製造したソリッドワイヤは図1の本発明のソリッドワイヤ表面に示したように溝が形成され、この溝に潤滑油成分を保持させることによりソリッドワイヤを安定して送給可能とし、Cuめっきの有無による伸線性の悪化もなく更に送給性の差も認められず、ノーめっきソリッドワイヤでも非常に良好な加工性と送給性が得られた。一方、本発明より熱間圧延線材径が大きい比較例11は5.5mm線径の熱間圧延線材から1.2mmまで伸線加工を行ったが、加工途中で断線を発生し、非常に加工性に劣るとともに1.2mmソリッドワイヤ表面には全く溝がなく平滑な状態となり送給性が悪化した。比較例12は5.5mm線径に粒界酸化を生成されたものであるが、この場合はソリッドワイヤ製造までの加工度が大きく、1.2mmソリッドワイヤ表面には図1の比較例のソリッドワイヤ表面に示すように明瞭な溝の形成はなく、送給性が悪化した例である。また、4mm線径の熱間圧延線材でも粒界酸化深さが浅い比較例13、低減面率加工度の比率が小さい比較例14では送給性が悪化した。比較例15は粒界酸化深さが大きく、粒界酸化部分から表面剥離が発生し、送給性が劣る例である。
【0033】
本発明のソリッドワイヤは中間焼鈍や、銅めっきを行わなくとも良好な冷間加工性が確保でき、溶接時の送給性も良好なものであることが確認できた。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明のアーク溶接ソリッドワイヤ及びその製造方法によれば、製造途中で何ら熱処理を行うことなく銅めっきなしでも十分な冷間加工性が確保できるとともに表面に潤滑油を保持可能な溝を有しており、溶接時に良好なワイヤ送給性が得られることから、安定した溶接作業性が確保され、かつ、低コスト、高生産性が達成できることから産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】粒界酸化層の模式図である。
【図2】本発明及び比較例の代表の表面性状例を示す図である。
【符号の説明】
1 粒界酸化層
2 粒界酸化深さ
3 結晶粒界
4 溝
Claims (3)
- 線径が4.0mm以下3.0mm以上で表層に1μm以上、5μm未満の粒界酸化深さを有する熱間圧延線材を用いて途中で何ら表面処理や熱処理することなく線径0.6mm以上2.0mm以下に冷間加工したことを特徴とする送給性に優れたアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- 請求項1において表面に銅めっきが施されていることを特徴とする送給性に優れたアーク溶接用ソリッドワイヤ。
- 線径が4.0mm以下3.0mm以上で表層に1μm以上、5μm未満の粒界酸化深さを有する熱間圧延線材を用いて途中で何ら表面処理や熱処理することなく線径0.6mm以上2.0mm以下に冷間加工全工程の50%以上の工程で1パス減面率が7〜15%の減面率で伸線加工することを特徴とする請求項1または2記載の送給性に優れたソリッドワイヤの製造方法。
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