JP3734030B2 - ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤに関し、特に給電チップの耐摩耗性(以下、 耐チップ摩耗性という)およびアーク安定性が重要視されるロボットを用いた薄鋼板の自動ガスシールドアーク溶接に好適なガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接ワイヤという)に関する。
【0002】
【従来の技術】
MAG溶接は、シールドガスとして炭酸ガス,炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガス,あるいは酸素ガスを含む混合ガス等の酸化性ガスを用い、さらに消耗電極として直径 0.6〜1.6mm の溶接ワイヤを用いて、4〜20m/min の溶接速度で溶接を行なう溶接法であり、その安定した溶接性を維持するために、溶接ワイヤを安定して送給する必要がある。 そこで従来から溶接ワイヤの表面にCuめっきを施したり、あるいは潤滑油を塗布したりして、溶接ワイヤの送給性および耐チップ摩耗性の向上を図っている。
【0003】
しかし、近年、溶接ロボットを用いた溶接において給電チップの取替えに伴うコストアップを抑制するために、給電チップを長時間使用することが実施されるようになっており、給電チップが摩耗限界の状態でも溶接を行なうようになってきた。その結果、 ロボット溶接時に安定した再アークスタート性が維持できなくなったり、あるいは溶接中のアークが不安定となったりすることで、溶接作業に支障をきたす原因になっている。そのため、溶接ワイヤの送給性を向上させる技術が種々提案されている。
【0004】
たとえば特開平5-23731 号公報には、素材となる鋼素線の表面にポリ4弗化エチレン,MoS2 ,グラファイトおよび鉱物からなる潤滑剤を保持させて、溶接ワイヤの送給性を向上させる技術が開示されている。
また、特開平11-217578 号公報には、素材となる鋼素線の表面にMoS2 またはWS2 ,エステルまたは石油ろう等からなる潤滑剤をワイヤ表面に保持させて、溶接ワイヤの送給性を向上させる技術が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら特開平5-23731 号公報および特開平11-217578 号公報に開示された技術は溶接ワイヤの送給性の向上に主眼をおいており、耐チップ摩耗性は考慮されていない。したがって給電チップを長時間使用するロボット溶接等に、これらの技術を適用した場合には、安定した再アークスタート性が維持できず、あるいは溶接中のアークが不安定となり、溶接作業に支障をきたすのは依然として避けられない。
【0006】
したがって本発明の目的は、特に溶接ロボットを用いたガスシールドアーク溶接で、給電チップが長時間使用される場合でも、安定した耐チップ摩耗性が得られるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(すなわち溶接ワイヤ)を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、給電チップを長時間使用する溶接ロボットでの自動溶接時に、給電チップの摩耗により再アークスタート性やアーク安定性が劣化する現象について鋭意検討した。その結果、 素材となる鋼素線の成分,鋼素線に塗布する潤滑剤の成分や塗布量,鋼素線の硬さが多大な影響を及ぼすという知見を得た。
【0008】
まず鋼素線の成分については、所定量のC,SおよびMnを含有し、 かつCaを含有することによって、溶接時の短絡,溶接ワイヤの送給抵抗および給電チップの摩耗の低下が達成される。その結果、 給電チップが長時間使用されても、良好な再アークスタート性や安定したアーク状態が得られる。
次に、給電チップと溶接ワイヤが接触する給電チップ先端部においては、溶接のたびに瞬間的には 500℃を超えるために、従来から知られている潤滑油やエステル系潤滑剤は高温に曝されて分解してしまい、十分な潤滑性が維持されなくなり、給電チップ先端部はわずかに摩耗する。 そのため、ロボット溶接のように連続して溶接を繰り返す場合は、摩耗の蓄積により給電チップ先端部の摩耗量が大きくなり、 再アークスタート性やアーク安定性が維持できない。
【0009】
しかし、高温状態でも安定な無機物、 すなわちMoS2 ,K化合物を含有する固形潤滑剤を塗布することによって、給電チップ先端部の温度が上昇しても給電チップ先端部の摩耗は抑制される。その結果、 給電チップを長時間使用した場合においても、良好な再アークスタート性や安定したアーク状態が得ることができる。
【0010】
さらに、鋼素線の硬さについては、鋼素線の断面積と硬さの積を制限することによって、給電チップと溶接ワイヤが接触する給電チップ先端部での摩耗が抑制される。その結果、 耐チップ摩耗性が向上し、 良好な再アークスタート性や安定したアーク状態が得ることができる。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。
【0011】
すなわち本発明は、ガスシールドアーク溶接に使用する溶接用鋼ワイヤであって、C:0.12質量%以下,Si:0.25〜1.5 質量%,Mn:0.45〜2.0 質量%,Ca:0.0020質量%以下を含有する鋼素線の表面に、平均厚さ 0.5 μm以上の Cu めっき層を形成し、前記 Cu めっき層の表面にMoS2 :10〜70質量%,K化合物:2〜25質量%,銅粉:70質量%以下を含有する固形潤滑剤層を前記鋼素線10kgあたり 0.2〜1.0 g有し、前記固形潤滑剤層の表面に脂肪酸エステルおよび/または潤滑油からなる潤滑剤層を前記鋼素線10kgあたり 0.2〜1.8 g有し、かつ前記鋼素線のビッカース硬さH v と断面積S( mm 2 )とを用いて下記の (1) 式から算出される係数Aが 150 400 の範囲内を満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤである。
【0012】
A=Hv ×S ・・・ (1)
Hv :鋼素線のビッカース硬さ
S :鋼素線の断面積(mm2
【0013】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の溶接ワイヤの素材となる鋼素線の成分を限定した理由について説明する。
C:0.12質量%以下
Cは、溶接金属の強度を確保するために重要な元素であり、溶融金属の粘性を低下させて流動性を向上させる作用を有する。しかしC含有量が0.12質量%を超えると、溶接を行なう際に溶滴および溶融池の挙動が不安定となり、スパッタが多量に発生し、さらに不安定な短絡現象が起こる。しかも、鋼素線の硬さを過度に増加させることから、給電チップ先端部分での溶接ワイヤによるかじり現象が生じる。 そのため、Cは0.12質量%以下に限定した。なお、溶接金属の強度を確保するために、C含有量の下限は0.01質量%とすることが好ましい。
【0014】
Si:0.25〜1.5 質量%
Siは、脱酸作用を有し、溶接金属の脱酸のためには不可欠な元素である。Si含有量が0.25質量%未満では、溶接を行なう際に溶滴および溶融池が揺動し、スパッタが多量に発生するばかりでなく、溶融金属の脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。 しかも不安定な短絡現象が起こり、溶接ワイヤの送給性を阻害する。 一方、 1.5質量%を超えて含有すると、溶接金属の靭性が低下するとともに、鋼素線の硬さを過度に増加させる。そのため、Siは0.25〜1.5 質量%の範囲内に限定した。
【0015】
Mn:0.45〜2.0 質量%
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有し、溶接金属の脱酸のためには不可欠な元素である。Mn含有量が0.45質量%未満では、溶接を行なう際に溶滴および溶融池が揺動し、スパッタが多量に発生するばかりでなく、溶融金属の脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。 しかも不安定な短絡現象が起こり、溶接ワイヤの送給性を阻害する。 一方、 2.0質量%を超えて含有すると、溶接金属の靭性が低下するとともに、鋼素線の硬さを過度に増加させる。そのため、Mnは0.45〜2.0 質量%の範囲内に限定した。
【0016】
Ca:0.0020質量%以下
Caは、製鋼,鋳造あるいは伸線加工における不純物として鋼素線に混入する。 Ca含有量が0.0020質量%を超えると、溶接を行なう際に、溶滴の一部にアークが集中することによりアークが不安定になり、スパッタが多量に発生する。 しかも不安定な短絡現象が起こり、 溶接ワイヤの送給性を阻害する。 したがって、Caは0.0020質量%以下に限定した。
【0017】
さらに本発明では、鋼素線の成分は、上記した組成に加えて、P: 0.003〜0.050 質量%,S: 0.050質量%以下、K:0.0001〜0.0150質量%およびTi:0.30質量%以下を含有することが好ましい。 その理由について説明する。
P: 0.003〜0.050 質量%
Pは、製鋼および鋳造工程における不純物として鋼素線に混入する元素であるが、ビード形状を平滑にする効果を有する。 しかし、P含有量が 0.003質量%未満では、ビード形状を平滑にする効果は得られない。一方、 0.050質量%を超えると、溶接を行なう際に溶融金属の粘性を低下させ、アークが不安定となり、小粒のスパッタが増加する。したがって、Pは 0.003〜0.050 質量%の範囲内を満足することが好ましい。
【0018】
S: 0.050質量%以下
Sは、溶融金属の粘性を低下させ、溶接ワイヤ先端に懸垂した溶滴の離脱を助け、アークを安定させる効果を有する。しかしS含有量が 0.050質量%を超えると、小粒のスパッタが増加するとともに、溶接金属の靭性が低下する。 したがって、Sは 0.050質量%以下とするのが好ましい。 なお、Sは溶融金属の粘性を低下させて、ビード形状を平滑にする効果も有する。ビード形状を平滑にするためには、Sを 0.015質量%以上添加することが好ましい。
【0019】
K:0.0001〜0.0150質量%
Kは、アークを広げ(すなわちアークをソフト化し)、アーク溶接において溶滴の移行を容易にするとともに、溶滴を微細化し、さらには溶接ワイヤの送給抵抗の変動を抑制する効果を有する。 この効果はK含有量が0.0001質量%以上で認められる。一方、 0.0150質量%を超えると、溶接を行なう際にアーク長が増加し、溶接ワイヤ先端に懸垂した溶滴が不安定となり、スパッタが多量に発生する。 したがって、Kは0.0001〜0.0150質量%の範囲内とするのが好ましい。より好ましくは0.0003〜0.0030質量%である。なお、Kは沸点が約 760℃と低く、溶鋼の溶製段階での歩留りが著しく低い。そこで鋼素線を製造する段階で、鋼素線の表面にカリウム塩溶液を塗布して焼鈍を施すことによって、Kを鋼素線に安定して含有させることが好ましい。
【0020】
Ti:0.30質量%以下
Tiは、脱酸剤として作用し、さらに溶接金属の強度を増加させる元素である。しかしTi含有量が0.30質量%を超えると、溶接を行なう際に溶滴が粗大となり、大粒のスパッタを発生させる上に、溶接金属の靭性を著しく低下させる。したがって、Tiは0.30質量%以下とすることが好ましい。 なお、溶接金属の強度を増加するためには、Tiは 0.030質量%以上添加することが好ましい。
【0021】
また本発明では、鋼素線の成分は、上記した組成に加えて、Cr: 3.0質量%以下,Ni: 3.0質量%以下,Mo: 1.5質量%以下,Cu: 3.0質量%以下およびB: 0.005質量%以下のうち1種または2種以上を含有することが好ましい。
すなわちCr,Ni,Mo,CuおよびBは、いずれも溶接金属の強度を増加させ、かつ耐候性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。ただし各元素とも僅かな添加量でこれらの効果を発揮するため、特に下限を設ける必要はない。しかし過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下および溶接ワイヤの著しい硬化を招くため、これらの元素を添加する場合は、Cr: 3.0質量%以下,Ni: 3.0質量%以下,Mo: 1.5質量%以下,Cu: 3.0質量%以下およびB: 0.005質量%以下とすることが好ましい。
【0022】
また本発明では、鋼素線の成分は、上記した組成に加えて、Zr,NbおよびVのうち1種または2種以上を含有することが好ましい。
すなわちZr,NbおよびVは、いずれも溶接金属の強度と靭性を増加させ、かつアークの安定性を向上させる元素であり、必要に応じて添加すれば良い。ただし各元素とも僅かな添加量でこれらの効果を発揮するため、特に下限を設ける必要はない。しかし過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下および溶接ワイヤの著しい硬化を招くため、これらの元素のうち1種を添加する場合には、添加量は0.55質量%以下とすることが好ましく、2種以上を添加する場合には、添加量は合計0.55質量%以下とすることが好まい。
【0023】
さらにまた本発明では、鋼素線の成分は、上記した組成に加えて、Al:0.50質量%以下を添加することが好ましい。 すなわちAlは、溶接金属の脱酸剤として作用するとともに、横向き溶接を行なう場合にアークの安定性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし0.50質量%を超えて添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがってAlを添加する場合には、0.50質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、鋼素線の上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、OおよびNが代表的であり、O: 0.020質量%以下,N: 0.010質量%以下に制限することが好ましい。特にOは、溶接に際して溶滴径を微細化するのに効果があるため、0.0020〜0.0080質量%とするのが一層好ましい。
【0025】
次に本発明の溶接ワイヤの製造方法について説明する。
転炉または電気炉等を用いて、上記した組成を有する溶鋼を、公知の溶製方法により溶製する。次いで、得られた溶鋼を、連続鋳造法や造塊法等によって鋼素材(たとえばビレット)を製造する。その後、これらのの鋼素材を加熱し、熱間圧延を施し、さらに乾式による冷間圧延(すなわち伸線加工)を施して鋼素線を製造する。熱間圧延や冷間圧延の条件は、所望の寸法形状の鋼素線となる条件であれば良く、特に限定されない。
【0026】
さらに、この鋼素線は、焼鈍−酸洗−Cuめっき−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を順次施されて、所定の線径の製品(すなわち溶接ワイヤ)となる。
上記の溶接ワイヤの製造工程において、焼鈍前の鋼素線表面にカリウム塩溶液を塗布した後、焼鈍を行なうことが好ましい。 カリウム塩溶液としては、クエン酸3カリウム水溶液,炭酸カリウム水溶液および水酸化カリウム水溶液等を使用することが好ましい。 塗布する溶液のカリウム塩濃度は、Kに換算した値で 0.5〜3.0 体積%とすることが好ましい。
【0027】
このカリウム塩溶液を表面に塗付した鋼素線を焼鈍することにより、焼鈍中に生成される内部酸化層中にKが安定して保持される。一方、 単に表面に塗付する方法や、Cuめっき中に保持させる方法では、Cuめっきの変色等による問題が発生しやすく、しかも熱的に不安定であることから、Kによる低スパッタ化の効果が小さくなる。
【0028】
焼鈍は、鋼素線の軟化およびKの付与を目的として行なうものであり、 650〜950 ℃の温度範囲内で、水蒸気を含む窒素ガス雰囲気中で行なうのが好ましい。すなわち、焼鈍温度が 650℃未満では、内部酸化反応の進行が遅い。一方、 950℃を超えると、酸化反応の進行が速すぎて、内部酸化量の調整が困難となる。
焼鈍雰囲気は、 露点0℃以下、 酸素濃度 200体積ppm 以下とすることが、内部酸化層形成の観点から望ましい。 このような雰囲気中で、表面にカリウム塩含有溶液を塗布された鋼素線を焼鈍することにより、その表面から酸化が進行し、表層部が内部酸化される。この内部酸化部にカリウムが確実に保持される。
【0029】
なお、焼鈍における温度および時間は、鋼素線中のK含有量が0.0003〜0.0030質量%,O含有量が0.0020〜0.0080質量%となるように、鋼素線の径と、カリウム塩濃度およびカリウム塩含有溶液の塗布量等の塗布条件と関連して決定されることが好ましい。
また、焼鈍を経た鋼素線は、 酸洗した後に、その表面にCuめっきを施す。 このCuめっき層の厚さは平均 0.5μm以上とする。すなわちCuめっき層の厚さを平均 0.5μm以上とすることにより、給電チップと溶接ワイヤにおける給電不良が防止され、給電チップ先端部の摩耗が抑制される。なお、好ましくは平均 0.8μm以上である。
【0030】
このようにしてCuめっきを施した鋼素線の表面に、MoS2 :10〜70質量%,K化合物:2〜25質量%を含有する固形潤滑剤を塗布して、固形潤滑剤層を形成する。この固形潤滑剤層には、後述する伸線工程で発生する銅粉が混入する。 したがって、製造された溶接ワイヤの固形潤滑剤層には銅粉も含まれる。
給電チップと溶接ワイヤが接触する給電チップ先端部においては、溶接のたびに瞬間的には 500℃を超えるために、従来から知られている潤滑油やエステル系潤滑剤は高温に曝されて分解してしまい、十分な潤滑性が維持できなくなり、給電チップ先端部はわずかに摩耗する。そのためロボット溶接のように連続して溶接を繰り返す場合は、摩耗の蓄積により給電チップ先端部の摩耗量が大きくなり、再アークスタート性やアーク安定性が維持できない。そこで本発明者らは種々の潤滑剤を検討した結果、 高温でも潤滑性を維持し、なおかつ給電チップでの通電性を優れたものとして、MoS2 とK化合物が有効であることを見出した。ただしMoS2 は10〜70質量%,K化合物は2〜25質量%の範囲内を満足する必要がある。 この範囲を外れると、高温域での潤滑性が保持できす、良好な耐チップ摩耗性を維持することが困難になる。
【0031】
なおMoS2 含有量は、好ましくは15〜50質量%である。さらに、グラファィトを5〜20質量%含有すると、高温の潤滑性が向上するので一層好ましい。
またK化合物としてステアリン酸カリウムを使用すると、高温の潤滑性が向上するので好ましい。
一方、 Cuめっき後の伸線工程で発生する銅粉が、固形潤滑剤層に不可避的に混入する。 銅粉の含有量が70質量%を超えると、溶接を行なう際に給電チップで焼付きが発生して、瞬間的に溶接ワイヤの送給が停止する。 その結果、 アークが不安定になるとともに、給電チップ先端部の摩耗も激しくなる。したがって、固形潤滑剤層中の銅粉の含有量は70質量%以下にする必要がある。
【0032】
また、固形潤滑剤層の付着量が鋼素線10kgあたり 0.2g未満では、給電チップ先端部の摩耗を軽減する効果が得られない。 一方、 鋼素線10kgあたり 1.0gを超えると、給電チップ内面に固形潤滑剤が付着蓄積されて溶接ワイヤの送給を阻害するとともに、給電チップと溶接ワイヤとの間の通電抵抗が増加し、給電チップ先端部の摩耗を増加させる。したがって、固形潤滑剤層の付着量は鋼素線10kgあたり 0.2〜1.0 gの範囲内を満足する必要がある。
【0033】
さらに、溶接を行なう際の溶接ワイヤの送給抵抗を軽減して、送給を安定化させるために、この固形潤滑剤層の表面に脂肪酸エステルまたは潤滑油を塗布する。あるいは脂肪酸エステルと潤滑油との混合物を塗布しても良い。 このようにして脂肪酸エステルおよび/または潤滑油からなる潤滑剤層を形成する。この潤滑剤層が鋼素線10kgあたり 0.2g未満では、溶接ワイヤを送給する際の抵抗を軽減する効果が得られない。 一方、 鋼素線10kgあたり 1.8gを超えると、溶接を行なう際に溶接ワイヤが送給ローラーでスリップし、送給速度が著しく変動し、耐チップ摩耗性が劣化する。したがって、潤滑剤層は鋼素線10kgあたり 0.2〜1.8 gの範囲内を満足する必要がある。
【0034】
また、このようにして脂肪酸エステルおよび/または潤滑油を塗布して潤滑剤層を形成することによって、MoS2 やK化合物による鋼素線表面の変色と劣化を防止する効果も得られる。
さらに、上記の製造工程を経て得られた本発明の溶接ワイヤにおいては、鋼素線のビッカース硬さHv と断面積S(mm2 )とを用いて、下記の (1)式から算出される係数Aが 150〜400 の範囲内を満足する必要ある。ただし、ここで断面積Sは、鋼素線の中心軸に垂直な断面の面積を指す。
【0035】
A=Hv ×S ・・・ (1)
Hv :鋼素線のビッカース硬さ
S :鋼素線の断面積(mm2
鋼素線の硬さが増加すると、溶接を行なう際に給電チップ先端部と溶接ワイヤが接触する給電点において、給電チップ先端部の摩耗を促進させる。また、この給電チップ先端部の摩耗は、溶接ワイヤの断面積が増加することによっても促進され、 (1)式で算出される係数Aが 400を超えると著しくなる。しかし、係数Aが 150未満では、給電チップ先端部分と溶接ワイヤの接触状態が不安定になり、給電状態も不安定になる。その結果、 給電チップ先端部の摩耗も激しくなり、さらにアークも不安定となる。したがって、 (1)式から算出される係数Aは 150〜400 の範囲内を満足することが好ましい。
【0036】
なお、溶接ワイヤの硬さは、鋼素線の成分,焼鈍条件および伸線加工条件によって調整することができる。
【0037】
【実施例】
連続鋳造で製造した鋼素材(すなわちビレット)を熱間圧延して直径 5.5〜7.0mm の線材とした。次いで、 冷間圧延(すなわち伸線加工)を施して直径 2.0〜2.8mm の鋼素線とし、さらに濃度2〜30体積%のクエン酸3カリウム水溶液を鋼素線1kgあたり30〜50g塗布した。
【0038】
その後、この鋼素線を露点−2℃以下のN2 雰囲気(O2 濃度: 200体積ppm 以下,CO2 濃度: 0.1体積%以下)で焼鈍した。焼鈍温度は 760〜950 ℃として、鋼素線の直径,カリウム塩濃度に応じて焼鈍温度と焼鈍時間を調整することによって、鋼素線の内部酸化の進行を調整するとともに、鋼素線のK含有量,O含有量を調整した。
【0039】
このようにして焼鈍した後、 鋼素線に酸洗を施し、さらにCuめっきを施した。次いで、冷間で伸線加工(すなわち湿式伸線)を施して直径 1.0mmおよび 1.2mmの溶接ワイヤを製造した。一部の溶接ワイヤについて、伸線加工でMoS2 およびK化合物を含有する固形潤滑剤を塗布して伸線することによって、高温で潤滑性を維持できる固形潤滑剤を付着させた。固形潤滑剤の付着量は、ダイススケジュール,ダイス形状を選定することによって調整した。
【0040】
得られた溶接ワイヤの鋼素線の成分,Cuめっき層の平均厚さ,係数Aの算出値は表1に示す通りである。
【0041】
【表1】
Figure 0003734030
【0042】
これらの溶接ワイヤを用いて、直径800mm の鋼管(厚さ25mm)を自転させながら、鋼管外側に、3分間の溶接−10秒間の休止−3分間の溶接−10秒間の休止を繰り返すことによって、合計 600分間の溶接を行なった。 連続繰り返し溶接の後、給電チップ先端部分の損耗量を評価する指標として、給電チップ先端部分の内径を測定し、最大値と最小値から得られる平均値をもとに、当初の内径からの拡大率(%)を算出した。
【0043】
ここで、給電チップ先端部の内径拡大率の目標値を10%以下として、拡大率が7%以下を良(○),7%超え〜10%以下を可(△),10%超えを不可(×)として評価した。溶接ワイヤの耐チップ摩耗性の評価は表2〜3に示す通りである。使用した各溶接ワイヤの潤滑剤の塗布量と固形潤滑剤の付着量を併せて表2〜3に示す。なお、これらの溶接試験を行なったときの溶接条件は表4に示す通りである。
【0044】
【表2】
Figure 0003734030
【0045】
【表3】
Figure 0003734030
【0046】
【表4】
Figure 0003734030
【0047】
表2〜3から明らかなように、発明例では、耐チップ摩耗性の評価は良または可であったのに対して、比較例では不可であった。
【0048】
【発明の効果】
本発明の溶接ワイヤを用いることによって、溶接ロボットを用いた薄鋼板のガスシールドアーク溶接で、給電チップが長時間使用される場合に、耐チップ摩耗性が向上し、 かつ良好な品質の溶接継手が得られる。

Claims (1)

  1. ガスシールドアーク溶接に使用する溶接用鋼ワイヤであって、C:0.12質量%以下、Si:0.25〜1.5 質量%、Mn:0.45〜2.0 質量%、Ca:0.0020質量%以下を含有する鋼素線の表面に、平均厚さ 0.5 μm以上の Cu めっき層を形成し、前記 Cu めっき層の表面にMoS2 :10〜70質量%、K化合物:2〜25質量%、銅粉:70質量%以下を含有する固形潤滑剤層を前記鋼素線10kgあたり 0.2〜1.0 g有し、前記固形潤滑剤層の表面に脂肪酸エステルおよび/または潤滑油からなる潤滑剤層を前記鋼素線10kgあたり 0.2〜1.8 g有し、かつ前記鋼素線のビッカース硬さH v と断面積S( mm 2 )とを用いて下記の (1) 式から算出される係数Aが 150 400 の範囲内を満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
    A=H v ×S ・・・ (1)
    v :鋼素線のビッカース硬さ
    S :鋼素線の断面積( mm 2
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