JP2005169414A - 炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤおよびそれを用いた溶接方法 - Google Patents

炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤおよびそれを用いた溶接方法 Download PDF

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Abstract

【要 約】
【課 題】 厚鋼板の隅肉溶接や多層溶接等にような高電流の炭酸ガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、正極性で使用しても、FCワイヤと同等の優れた形状のビードを安定して形成することが可能な、鋼素線からなる炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤとそれを用いた溶接方法を提供する。
【解決手段】 C:0.20質量%以下,Si: 0.3質量%以下,Mn:0.25〜3.50質量%,P:0.05質量%以下,S: 0.020質量%以下,O:0.0080質量%以下,Al:0.02〜3.00質量%,希土類元素: 0.015〜0.100 質量%,Ca:0.0008質量%以下を含有する鋼素線からなる炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いて、正極性で溶接を行なう。
【選択図】 図1

Description

本発明は、炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤとそれを用いた溶接方法に係り、特に高電流の隅肉溶接や多層溶接を行なうにあたって正極性で使用して優れたビード形状が得られる炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤとそれを用いた溶接方法に関する。
シールドガスとしてCO2 ガスを用いる炭酸ガスシールドアーク溶接は、CO2 ガスが安価であるとともに、能率の良い溶接法であるので、鉄鋼材料の溶接に広く利用されている。特に自動溶接の急速な普及によって、造船,建築,橋梁,自動車,建設機械等の種々の分野で使用されている。造船,建築,橋梁の分野では、厚鋼板の多層溶接や隅肉溶接に使用され、自動車,建築機械の分野では薄鋼板の隅肉溶接に使用されることが多い。
炭酸ガスシールドアーク溶接で使用される消耗電極(すなわち溶接ワイヤ)は、ソリッドワイヤとフラックスコアードワイヤに大別される。ソリッドワイヤは、溶接金属の強度と靭性に優れており、主に多層溶接に使用される。一方、フラックスコアードワイヤ(以下、FCワイヤという)は、ビード形状に優れており、主に隅肉溶接に使用される。
FCワイヤがビード形状に優れる理由は、ワイヤ先端から鋼板の溶融メタルに移行する溶滴が細かいので、溶融メタルの表面揺動が小さく抑えられ、かつフラックスに多量に含まれるスラグ形成剤によってビードを覆うからである。
ソリッドワイヤでは、ワイヤ先端から鋼板の溶融メタルに移行する溶滴が粗くかつ移行が不規則であるから、溶融メタルの表面揺動が大きく、鋼素線に含有される脱酸元素(すなわちSi,Mn,Ti,Zr,Al)の酸化によってスラグが形成される。その結果、スラグが不均一に分布し、ビードを完全に覆うには至らない。また、ソリッドワイヤを使用した炭酸ガスシールドアーク溶接では、スラグがビードの端部に集積する。したがって、ソリッドワイヤを炭酸ガスシールドアーク溶接で使用すると、ビード形状は不安定になる。
ソリッドワイヤはFCワイヤに比べて安価であるから、ソリッドワイヤを使用して炭酸ガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、溶接金属の強度と靭性が優れているという本来の特性に加えて、FCワイヤと同等の優れたビード形状が得られるなら、ソリッドワイヤを使用することによって施工コストの削減が可能となる。
そこで、ソリッドワイヤを炭酸ガスシールドアーク溶接で使用する場合に生じる粗大な溶滴の不規則な移行を防止するために、種々の技術が検討されている。たとえば特許文献1(特開昭63-281796 号公報)には、溶接ワイヤに希土類元素(以下、REM という)を添加することによって、炭酸ガスシールドアーク溶接における溶滴を微細化する技術が開示されている。特許文献1に開示された溶接ワイヤはソリッドワイヤであるが、特許文献1には溶接ワイヤの極性に関する記載はない。
一般に正極性(すなわち溶接ワイヤをマイナス極)では、鋼板の発熱量が少なく、溶け込みが浅くなるので、オーバーラップに起因する溶接欠陥が発生しやすく、ビード形状も安定しない。したがって溶接技術者は、溶接ワイヤを正極性で使用することは考慮せず、逆極性(すなわち溶接ワイヤをプラス極)で使用する。したがって特許文献1に開示された技術は、逆極性の炭酸ガスシールドアーク溶接に適用するために検討された技術である。
ところが、REM を添加した溶接ワイヤを逆極性で使用すると、アークの緊縮と反発によって大粒のスパッタが増加し、アークの安定化が損なわれる。特許文献1では、アークの安定化に多大な影響を及ぼすOに関する記載はなく、後述するような REMとOの相互作用はは考慮されていない。したがって特許文献1に開示された炭酸ガスシールドアーク溶接の技術を、ソリッドワイヤを用いた隅肉溶接や多層溶接に応用すると、逆極性および正極性のいずれであっても、FCワイヤと同等の優れたビード形状は得られない。
本発明者らは、炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤに REMを添加し、正極性で使用する技術を既に開発している(特許文献2,3参照)。これらの技術は、いずれも 250A以下の溶接電流で薄鋼板の溶接を行なう低電流溶接を対象としている。したがって厚鋼板の隅肉溶接のように、溶接電流が 250Aを超える高電流の炭酸ガスシールドアーク溶接に特許文献2,3に開示された技術を応用しても、安定したアークを発生させることは困難であり、FCワイヤと同等の優れたビード形状は得られない。
特開昭63-281796 号公報 特開2002-144081 号公報 特開2003-225792 号公報
本発明は上記のような問題を解消し、厚鋼板の隅肉溶接や多層溶接等のような高電流の炭酸ガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、正極性で使用しても、FCワイヤと同等の優れた形状のビードを安定して形成することが可能な、鋼素線からなる炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤとそれを用いた溶接方法を提供することを目的とする。
なお、ここで鋼素線からなる炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤとは、溶接用フラックスを内装せず、素材となる鋼素線を主体とするワイヤ(いわゆるソリッドワイヤ)を指す。また本発明は、鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布した炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤにも支障なく適用できる。
本発明者らは、溶接用フラックスを内装していないソリッドワイヤと呼ばれる炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いて炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際に生じる溶滴の微細移行による溶融メタルの安定性と、ビードを覆うスラグの形態に着目し、FCワイヤと同等の平滑かつ均一な優れたビード形状を得る技術について鋭意検討した。その結果、以下に述べる知見を得た。
(a) 溶接用鋼ワイヤをマイナス極とする正極性の溶接を行ない、溶接用鋼ワイヤの鋼素線に REMを添加し、かつO,Ca含有量を規定することによって、溶滴の微細移行が可能となり、平滑なビード形状が得られる。
(b) 溶接用鋼ワイヤの鋼素線のSi含有量を規定し、かつAlを添加することによって、スラグの生成を抑制するとともに、生成したスラグがビードの端部に集積するのを防止することが可能となり、平滑かつ均一なビード形状が得られる。
(c) 溶接用鋼ワイヤの鋼素線にTi,Znを添加することによって、溶融メタルの揺動を抑制することが可能となり、更に均一なビード形状が得られる。
(d) 溶接用鋼ワイヤの鋼素線にSe,Te,Biを添加することによって、さらに平滑かつ均一なビード形状が得られる。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接に使用する溶接用鋼ワイヤであって、C:0.20質量%以下,Si: 0.3質量%以下,Mn:0.25〜3.50質量%,P:0.05質量%以下,S: 0.020質量%以下,O:0.0080質量%以下,Al:0.02〜3.00質量%,REM : 0.015〜0.100 質量%,Ca:0.0008質量%以下を含有する鋼素線からなる炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤである。
本発明の炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤでは、鋼素線が、前記した組成に加えて、Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種を含有することが好ましい。また鋼素線が、Se,TeおよびBiのうちの1種または2種以上を合計で 0.005〜0.200 質量%含有することが好ましい。
また本発明は、上記の炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いて、CO2 ガスでアーク点をシールドし、かつ正極性で溶接する炭酸ガスシールドアーク溶接方法である。
本発明によれば、高電流の正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接においてソリッドワイヤでは不可能とされてきたビード形状の改善を達成でき、FCワイヤと同等の平滑かつ均一な優れたビード形状を得ることができる。
本発明の炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接用鋼ワイヤという)は、ソリッドワイヤとFCワイヤに大別される溶接ワイヤのうち、ソリッドワイヤを対象とする。
まず本発明の炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(すなわち溶接用鋼ワイヤ)の鋼素線の成分を限定した理由について説明する。
C:0.20質量%以下
Cは、溶接金属の強度を確保するのに必要な元素であり、溶融メタルの粘性を低下させて流動性を向上させる効果がある。しかしC含有量が0.20質量%を超えると、正極性の溶接において溶滴および溶融メタルの挙動が不安定となるのみならず、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cは0.20質量%以下とした。一方、C含有量を過剰に減少させると溶接金属の強度を確保できない。そのため、 0.003〜0.20質量%とするのが好ましい。なお、0.01〜0.10質量%が一層好ましい。
Si: 0.3質量%以下
Siは、脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。炭酸ガスシールドアーク溶接では、Si含有量が 0.3質量%を超えると、脱酸によって生成したガラス質のスラグがビードの端部に集積して、ビード形状が不均一になる。したがって、Siは 0.3質量%以下とした。
Mn:0.25〜3.50質量%
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。Mn含有量が0.25質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。一方、3.50質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Mnは0.25〜3.50質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、溶融メタルの脱酸を促進し、ブローホールを防止するためには、0.45質量%以上が望ましい。そのため、0.45〜3.50質量%とするのが好ましい。
P:0.05質量%以下
Pは、鋼の融点を低下させるとともに、電気抵抗率を向上させ、溶融効率を向上させる元素である。さらに正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接において、溶滴を微細化し、アークを安定化する作用も有する。しかしP含有量が0.05質量%を超えると、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接において溶融メタルの粘性が著しく低下し、アークが不安定となり、小粒のスパッタが増加する。また、溶接金属の高温割れを生じる危険性が増大する。したがって、Pは0.05質量%以下とした。なお、好ましくは0.03質量%以下である。一方、 鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でPを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から 0.002質量%以上が望ましい。そのため、 0.002〜0.03質量%とするのが好ましい。
S: 0.020質量%以下
Sは、溶融メタルの粘性を低下させ、溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴の離脱を促進し、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接においてアークを安定化する。またSは、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接においてアークを広げ、溶融メタルの粘性を低下させてビードを平滑にする効果も有する。しかしS含有量が 0.020質量%を超えると、小粒のスパッタが増加するとともに、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Sは 0.020質量%以下とした。一方、 鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でSを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から 0.002質量%以上が望ましい。そのため、 0.002〜0.02質量%とするのが好ましい。
O:0.0080質量%以下
Oは、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接において溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴を微細化する作用がある。しかし、O含有量が 0.0080質量%を超えると、正極性の高電流溶接におけるアークの安定化というREM 添加の効果が損なわれ、溶滴の揺動が増大してスパッタが多量に発生する。またOは、鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階で REMと激しく反応してスラグを形成する作用を有しており、O含有量が0.0080質量%を超えると、REM の歩留りが著しく低下する。したがって、Oは0.0080質量%以下とした。ただし、O含有量が0.0010質量%未満では、O添加の効果は充分に得られない。したがって、 0.0010〜0.0080質量%が好ましく、さらに0.0010〜0.0050質量%が一層好ましい。
Al:0.02〜3.00質量%
Alは、強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加する元素である。さらに溶融メタルの脱酸によって粘性を低下してビード形状を安定化(すなわちハンピングビードを抑制)する効果がある。逆極性の炭酸ガスシールドアーク溶接では、明確な溶滴移行の安定化効果は認められないが、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接では、 350A以上の高電流溶接において溶滴移行の安定化効果が顕著に発揮される。一方、低電流溶接においては、短絡移行回数を増加させて溶滴移行の均一化とビード形状の改善を達成できる。また、Oとの親和力によって、溶接用鋼ワイヤの製造段階における REMの酸化ロスを低減する効果も有する。Alが0.02質量%未満では、このような効果は得られない。一方、 Alが3.00質量%を超える場合は、溶接金属の結晶粒が粗大化し、靭性が著しく低下する。したがって、Alは0.02〜3.00質量%の範囲内を満足する必要がある。
REM : 0.015〜0.100 質量%
REM は、製鋼および鋳造時の介在物の微細化,溶接金属の靱性改善のために有効な元素である。ただし、通常の逆極性の炭酸ガスシールドアーク溶接においては、鋼素線中にREM を添加するとアークの集中が生じて、スパッタを低減する効果が得られない。しかし正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接においては、溶滴の微細化と移行の安定化を図るために不可欠な元素である。この溶滴の微細移行の安定化により、鋼素線に潤滑剤を塗布した溶接用鋼ワイヤであっても、スパッタの発生を抑制し、安定した炭酸ガスシールドアーク溶接が可能となる。REM 含有量が 0.015質量%未満では、この溶滴の微細移行の安定化効果が得られない。一方、 0.100質量%を超えると、溶接用鋼ワイヤの製造工程で割れが生じたり、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、REM は 0.015〜0.100 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.025〜0.050 質量%である。
ここで REMとは、周期表の3族に属する元素の総称である。本発明では、原子番号57〜71の元素を使用するのが好ましく、特にCe,Laが好適である。Ce,Laを鋼素線に添加する場合は、CeまたはLaを単独で添加しても良いし、CeおよびLaを併用しても良い。なお、CeおよびLaをともに添加する場合は、あらかじめCe:45〜80質量%,La:10〜45質量%の範囲内で混合して得られた混合物を使用するのが好ましい。
Ca:0.0008質量%以下
Caは、製鋼および鋳造時に不純物として溶鋼に混入したり、あるいは伸線加工時に不純物として鋼素線に混入する。正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接では、Ca含有量が0.0008質量%を超えると、高電流溶接におけるアークの安定化というREM 添加の効果が損なわれる。したがって、Caは0.0008質量%以下とする必要がある。
さらに本発明では上記した組成に加えて、鋼素線が、Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種を含有することが好ましい。
Ti,Zrは、いずれも強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加する元素である。さらに溶融メタルの脱酸によって粘性を低下してビード形状を安定化(すなわちハンピングビードを抑制)する効果がある。このような効果を有する故に 350A以上の高電流溶接において有効な元素であり、必要に応じて添加する。Tiが0.02質量%未満,Zrが0.02質量%未満では、この効果は得られない。一方、 Tiが0.50質量%を超える場合,Zrが0.50質量%を超える場合は、溶滴が粗大化して大粒のスパッタが多量に発生する。したがって、Ti,Zrを含有する場合は、Ti:0.02〜0.50質量%,Zr:0.02〜0.50質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
上記した成分に加えて、本発明では、鋼素線にSe,TeおよびBiのうちの1種または2種以上を合計で 0.005〜0.200 質量%添加することができる。
Se,Te,Biは、いずれも溶融メタルの粘性を著しく低下させる元素である。Se,Te,Biの含有量が合計 0.005質量%未満では、このような効果は得られない。一方、Se,Te,Biの含有量が合計 0.200質量%を超えると、アークが不安定となり、均一なビード形状が得られない。したがって、Se,Te,Biを含有する場合は、合計 0.005〜0.200 質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
さらに必要に応じて下記の元素を添加しても、本発明の効果を減じるものではない。
Cr:0.02〜3.00質量%,Ni:0.05〜3.00質量%,Mo:0.05〜1.50質量%,Cu:0.05〜3.00質量%,B:0.0005〜0.0150質量%,Mg: 0.001〜0.200 質量%,Nb: 0.005〜0.500 質量%,V: 0.005〜0.500 質量%
Cr,Ni,Mo,Cu,B,Mgは、いずれも溶接金属の強度を増加し、耐候性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cr,Ni,Mo,Cu,B,Mgを含有する場合は、Cr:0.02〜3.00質量%,Ni:0.05〜3.00質量%,Mo:0.05〜1.50質量%,Cu:0.05〜3.00質量%,B:0.0005〜0.0150質量%,Mg: 0.001〜0.200 質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
Nb: 0.005〜0.500 質量%,V: 0.005〜0.500 質量%
Nb,Vは、いずれも溶接金属の強度,靭性を向上し、アークの安定性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Nb,Vを含有する場合は、Nb: 0.005〜0.500 質量%,V: 0.005〜0.500 質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
上記した鋼素線の成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。たとえば、鋼材を溶製する段階や鋼素線を製造する段階で不可避的に混入する代表的な不可避的不純物であるNは、0.020質量%以下に低減するのが好ましい。
次に、本発明の溶接用鋼ワイヤの製造方法について説明する。
転炉または電気炉等を用いて、上記した組成を有する溶鋼を溶製する。この溶鋼の溶製方法は、特定の技術に限定せず、従来から知られている技術を使用する。次いで、得られた溶鋼を、連続鋳造法や造塊法等によって鋼材(たとえばビレット等)を製造する。この鋼材を加熱した後、熱間圧延を施し、さらに乾式の冷間圧延(すなわち伸線)を施して鋼素線を製造する。熱間圧延や冷間圧延の操業条件は、特定の条件に限定せず、所望の寸法形状の鋼素線を製造する条件であれば良い。
さらに鋼素線は、焼鈍−酸洗−銅めっき−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を必要に応じて順次施して、所定の製品すなわち溶接用鋼ワイヤとなる。
正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接においては、逆極性の溶接に比べて、給電不良に起因してアークが不安定になりやすい。しかし、鋼素線の表面に厚さ 0.6μm以上の銅めっきを施すことによって、溶接用鋼ワイヤの給電不良に起因するアークの不安定化を防止できる。なお、銅めっきの厚さを 0.8μm以上とすると、給電不良防止の効果が顕著に発揮されるので一層好ましい。このようにして銅めっきを厚目付とすることによって、給電チップの損耗も低減できるという効果も得られる。
しかし鋼素線中のCu含有量も含めて、溶接用鋼ワイヤのCu量が 3.0質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、溶接用鋼ワイヤのCu量(すなわち鋼素線のCu含有量と銅めっきのCu含有量の合計)を 3.0質量%以下とするのが好ましい。
溶接用鋼ワイヤの送給性を向上するために、溶接用鋼ワイヤの表面(すなわち鋼素線の表面あるいは銅めっきの表面)に潤滑油を塗布しても良い。潤滑油の塗布量は、溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.35〜1.70gの範囲内が好ましい。
なお、溶接用鋼ワイヤを製造する工程で、溶接用鋼ワイヤの表面に種々の不純物が付着する。特に固体の不純物の付着量を、溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.01g以下に抑制すると、給電の安定性が一層向上する。
このようして製造した溶接用鋼ワイヤを用いて正極性炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際の好適な溶接条件について、以下に説明する。
シールドガスは、ArとCO2 との混合ガスを用いる。シールドガス中のCO2 の混合比率は60体積%以上とする。なお、CO2 ガスを単独(すなわちCO2 の混合比率: 100体積%)でシールドガスとして使用しても、支障なく正極性炭酸ガスシールドアーク溶接を行なうことができる。
溶接電流は 250〜450 A,溶接電圧は27〜38V(電流とともに上昇),溶接速度は20〜250 cm/分,突き出し長さは15〜30mm,ワイヤ径は 0.8〜1.6mm ,溶接入熱は5〜40kJ/cmの範囲内が好ましい。溶接する母材(すなわち鋼板)の鋼種は特に限定されないが、JIS規格G3106 に規定されるSi−Mn系の溶接構造用圧延鋼材(SM材)や、JIS規格G3136 に規定される建築構造用鋼材(SN材)に適用するのが好ましい。
以上のような溶接条件で隅肉溶接を支障なく行なうことができる。特に、厚さが10mm以上の厚鋼板の溶接を行なう場合は、多層溶接も可能である。
製鋼段階で成分を調整し、連続鋳造によって製造されたビレットを熱間圧延して、直径 5.5〜7.0mm の線材とした。次いで冷間圧延(すなわち伸線)によって直径 2.0〜2.8mm とし、必要に応じて窒素雰囲気中で焼鈍して酸洗を施し、さらに冷間で伸線加工(すなわち湿式伸線)を施して、直径1.4mm の鋼素線を製造した。得られた鋼素線の成分は、表1に示す通りである。
Figure 2005169414
この鋼素線に、必要に応じてCuめっきを施し、さらに潤滑剤を塗布(溶接用鋼ワイヤ10kgあたり 0.6〜0.8 g)することによって、十分な送給性を確保できるように調整した。
これらの溶接用鋼ワイヤを使用して、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接を行ない、ビード形状を調査した。図1は、フランジ,ウエブ,溶接トーチの配置を模式的に示す断面図である。フランジ1は長さ200mm ,幅100mm ,厚さ19mmとし、ウエブ2は長さ200mm ,幅100mm ,厚さ9mmとした。溶接トーチの前進角は5°,トーチ角θは30°とした。その他の溶接条件は表2に示す通りである。
Figure 2005169414
図1に示した溶接継手のビード4の近傍を拡大して図2に示す。図2中の符号は、それぞれ下記の寸法を指す。
h :余盛り高さ
1 :上脚長(ルートから上止端までの距離)
2 :下脚長(ルートから下止端までの距離)
1 : 隅肉サイズ(ルートからビード上端までの理論距離)
2 : 隅肉サイズ(ルートからビード下端までの理論距離)
DT :理論のど厚(隅肉サイズで定まる三角形のルートからの高さ)
P :溶け込み深さ
図2に示した溶接継手の平面図を図3に示す。図3中の符号Wは、ビード端の最大変位を指す。
表1に示した鋼素線を素材とする溶接用鋼ワイヤを用いて隅肉溶接を行ない、得られた溶接継手の余盛り高さhとビード端の最大変位Wを測定した。余盛り高さhは、1mm以下を良(○),1mm超え〜2mm以下を可(△),2mm超えを不可(×)として評価した。その結果は表3に示す通りである。ビード端の最大変位Wは、 0.5mm以下を良(○), 0.5mm超え〜2mm以下を可(△),2mm超えを不可(×)として評価した。その結果を表3に併せて示す。
Figure 2005169414
ちなみにJIS規格YFW-C50DR に規定されるFCワイヤを用いて隅肉溶接を行なった場合の余盛り高さhは1.2mm ,ビード端の最大変位Wは0.6mm であった。
表3から明らかなように、発明例では、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接を行なうことによって、FCワイヤと同等のビード形状が得られた。特に、Ti,Zrを含有することによって、ビード端の最大変位Wを 0.5mm以下にすることができた。また、Se,Te,Biを含有することによって、余盛り高さhを1mm以下にすることができた。つまり、発明例では、FCワイヤと同等の優れたビード形状が得られた。
一方、鋼素線の成分が本発明の範囲を外れる比較例では、余盛り高さh,ビード端の最大変位Wが、いずれも2mmを超えた。
フランジ,ウエブ,溶接トーチの配置を模式的に示す断面図である。 溶接継手を模式的に示す断面図である。 溶接継手を模式的に示す平面図である。
符号の説明
1 フランジ
2 ウエブ
3 溶接トーチ
4 ビード
θ トーチ角

Claims (4)

  1. 正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接に使用する溶接用鋼ワイヤであって、C:0.20質量%以下、Si: 0.3質量%以下、Mn:0.25〜3.50質量%、P:0.05質量%以下、S: 0.020質量%以下、O:0.0080質量%以下、Al:0.02〜3.00質量%、希土類元素: 0.015〜0.100 質量%、Ca:0.0008質量%以下を含有する鋼素線からなることを特徴とする炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
  2. 前記鋼素線が、前記組成に加えて、Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
  3. 前記鋼素線が、前記組成に加えて、Se、TeおよびBiのうちの1種または2種以上を合計で 0.005〜0.200 質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
  4. 請求項1、2または3に記載の炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いて、CO2 ガスでアーク点をシールドし、かつ正極性で溶接することを特徴とする炭酸ガスシールドアーク溶接方法。
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