JP6119949B1 - 立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明において、「狭開先」とは、開先角度が25°以下でかつ被溶接材となる鋼材間の最小開先幅が、当該鋼材の板厚の50%以下であることを意味する。
このような狭開先ガスシールドアーク溶接を立向き溶接に適用した溶接方法として、例えば、特許文献1には、両面U型開先継手を対象とする両側多層溶接方法が開示されている。この溶接方法では、イナートガスを用いたTIG溶接による積層溶接を行っており、イナートガスを用いることでスラグやスパッタの発生を抑制し、積層欠陥を防ぐこととしている。
しかしながら、非消耗電極式であるTIG溶接は、消耗電極である鋼ワイヤを用いるMAG溶接やCO2溶接と比較して、溶接法そのものの能率が大きく劣る。
しかし、この溶接方法では、溶接トーチのウイービング方向が、開先深さ方向ではなく、鋼板表面方向であるため、溶融金属が垂れる前に溶接トーチをウイービングさせる必要があり、結果的に、溶接電流を150A程度の低電流とし、1パス当たりの溶着量(≒入熱量)を抑える必要が生じる。
そのため、この溶接方法を板厚の大きい厚鋼材の溶接に適用する場合には、少量多パスの積層溶接となって、溶け込み不良等の積層欠陥が多くなる他、溶接能率が大きく低下する。
ここで開示される面角度(開先角度)は26.3〜52°と広めではあるが、ここでの溶接トーチのウイービングは開先深さ方向に対しても行われる。そのため、特許文献3の立向き溶接方法では、1パス当たりの溶着量を比較的多くとることが可能である。
しかし、開先深さ方向のウイービング量が小さく、また溶接金属および溶接ワイヤ組成が考慮されていないため、1パス当たりの溶着量(≒入熱量)を抑える必要が生じ、1パス当たりの溶接深さは10mm程度と浅くなる。
そのため、この溶接方法を板厚の大きい厚鋼材の溶接に適用する場合には、やはり少量多パスの積層溶接となって、溶け込み不良等の積層欠陥が多くなる他、溶接能率が低下する。
この2電極のエレクトロガスアーク溶接装置の使用により、板厚:70mm程度までの厚鋼材の接合が可能になる。しかし、2電極化により入熱量が360kJ/cm程度と大幅に増加する。このため、鋼板への熱影響が大きく、継手に高い特性(強度、靭性)が要求される場合、このような特性を満足させることが非常に困難となる。
また、この2電極のエレクトロガスアーク溶接装置では、裏面側電極のアークが見えにくくなるため、溶接欠陥の防止が難しくなる問題がある。さらに、この2電極のエレクトロガスアーク溶接装置では、開先寸法精度などの問題から開先内に銅当金を設置することは難しく、このため、多パスの積層溶接として低入熱化を図ることは困難である。
一方、溶接自動化技術(溶接ロボット)の軽量・高機能・高精度化が進み、これまで困難であった開先形状と溶接姿勢に適した溶接トーチのウイービングが可能となり、これを活用することにより、鋼材、開先形状、溶接姿勢および溶接材料(ワイヤ)に適した溶接施工(条件設定)が可能となってきている。
その結果、厚鋼材の立向きの狭開先ガスシールドアーク溶接を行うにあたり、溶接金属および熱影響部において所望の機械的特性を得るとともに、溶接の高能率化を実現するには、狭開先として溶着量を低減しつつ、1パスあたりの溶接入熱量を抑制し、初層溶接における接合深さ(溶接深さ)を所定の範囲に制御することが重要であることを知見した。
その結果、最終層溶接時に、厚鋼材に溶接トーチ側から厚鋼材の開先の表当て材として上進方向に摺動移動が可能な冷却板を押し当て、溶接トーチの上進移動に合わせて冷却板を上進移動させつつ溶接を行うことにより、簡便に美麗なビード外観を得ることができるとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたものである。
1.開先角度を25°以下、開先ギャップを20mm以下として、板厚が40mm以上である2枚の厚鋼材を、ウイービングを用いる一層溶接または多層溶接により接合する立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法において、
初層溶接時には、溶接トーチの角度を水平方向に対して25°以上75°以下、溶接入熱を30kJ/cm以上300kJ/cm以下にするとともに、板厚方向へのウイービング深さを15mm以上63mm以下、かつ初層溶接における溶接ビード幅をWとした場合に、板厚方向および溶接線に直角な方向へのウイービング最大幅を(W−6)mm以上Wmm以下として、溶接トーチのウイービングを行い、前記初層溶接における接合深さを20mm以上65mm以下とし、
最終層溶接時には、前記厚鋼材に溶接トーチ側から前記厚鋼材の開先の表当て材として上進方向に摺動移動が可能な冷却板を押し当て、前記溶接トーチの上進移動に合わせて前記冷却板を上進移動させつつ溶接を行う、
立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法。
そして、本発明の溶接方法は、通常のガスシールドアーク溶接と比べ溶着量が少なく、溶接の高能率化による省エネルギー化も達成できるので、溶接施工コストの大幅な低減が可能となり、さらには簡便に美麗なビード外観を得ることが可能となる。
図1(a)〜(c)は、各種開先形状の例を示すものである。図中、符号1が厚鋼材、2が厚鋼材の開先面、3が(Y形開先における)鋼材下段部の開先であり、記号θで開先角度を、Gで開先ギャップを、tで板厚を、hで(Y形開先における)鋼材下段部の開先高さを示す。
同図で示したように、ここで対象とする開先形状はV形開先(I形開先およびレ形開先を含む)およびY形開先のいずれとすることも可能であり、また図1(c)に示すように多数段のY形開先とすることも可能である。
なお、図1(b)および(c)に示すように、Y形開先の場合の開先角度および開先ギャップは、鋼材下段部の開先における開先角度および開先ギャップとする。ここで、鋼材下段部の開先とは、溶接時に裏面(溶接装置(溶接トーチ)側の面を表面、その反対側の面を裏面とする)となる鋼材面から板厚の20〜40%程度までの領域を意味する。
ここで、本溶接方法は、図2に示すように、所定の板厚となる2枚の厚鋼材を突き合わせ、これらの厚鋼材同士を、ウイービングを用いる立向き溶接により接合するガスシールドアーク溶接であり、進行方向を上向きとする上進溶接を基本とする。
なお、ここでは、V形の開先形状を例にして示したが、他の開先形状でも同様である。
なお、初層溶接における接合深さDは、溶接時に裏面となる鋼材面を起点とした場合の初層溶接における溶接ビード高さの最小値(起点の鋼材面から最も近い(低い)初層溶接における溶接ビード高さ)である。
ここでは、V形の開先形状を例にして示したが、他の開先形状でもDおよびWは同様である。
鋼材の開先部は小さいほどより早く高能率な溶接を可能とする反面、融合不良等の欠陥が生じやすい。また、開先角度が25°を超える場合の溶接は、従来の施工方法でも実施可能である。このため、本発明では、従来の施工方法では施工が困難であり、かつ一層の高能率化が見込まれる開先角度:25°以下の場合を対象とする。
なお、V形開先において、開先角度が0°の場合はいわゆるI形開先と呼ばれ、溶着量の面からはこの0°の場合が最も効率的であり、開先角度が0°(I形開先)であってもよいが、溶接熱ひずみにより溶接中に開先が閉じてくるため、これを見込んで、板厚t(ただし、Y形開先の場合には鋼材下段部の開先高さh)に応じた開先角度を設定することが好ましい。
具体的には、開先角度は(0.5×t/20)°以上、(2.0×t/20)°以下とすることが好ましく、さらに好ましくは(0.8×t/20)°以上、(1.2×t/20)°以下である。例えば、板厚tが100mの場合、開先角度は2.5°以上、10°以下が好ましく、さらに好ましくは4°以上、6°以下である。
ただし、板厚tが100mmを超えると、好適範囲の上限は10°を超えるようになるが、この場合の好適範囲の上限は10°とする。
鋼材の開先部は小さいほど、より早く高能率な溶接を可能とする。また、開先ギャップが20mmを超える場合の溶接は、溶融金属が垂れ易く施工が困難である。その対策には、溶接電流を低く抑えることが必要となるが、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生し易くなる。そのため、開先ギャップは20mm以下の場合を対象とする。好ましくは4mm以上、12mm以下である。
鋼材の板厚は40mm以上とする。というのは、鋼材の板厚が40mm未満であれば、従来の溶接方法、例えば、特許文献4のエレクトロガスアーク溶接を用いても、継手の強度や靭性などの性能に大きな問題は生じないためである。
なお、一般の圧延鋼材を対象とする場合、板厚は一般に100mmが上限である。よって、鋼材の板厚は100mm以下とすることが好ましい。なお、一層溶接の場合には65mm以下とすることが好ましい。
以下、これら初層溶接における接合深さの限定理由および初層溶接条件について、説明する。
板厚:40mm以上の厚鋼材を、特に2パス以上の多層溶接で溶接するには、初層溶接における接合深さを20mm以上とする必要がある。初層溶接における接合深さが20mm未満では、溶接熱が集中するため、溶融金属の垂れが発生する。一方、初層溶接における接合深さが65mmを超えると、溶接入熱が過多となりやすい他、高温割れや、溶接中の熱が分散することによる開先面の融合不良、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥が発生する。従って、初層溶接における接合深さは20mm以上65mm以下とする。好ましくは、25mm以上、60mm以下である。なお、一層溶接の場合、初層溶接における接合深さDは板厚と同程度(40mm以上)となる。
溶接トーチの角度は垂直より水平に近づけることで、アークが溶接ビード表面より裏面向きとなり、溶融金属の垂れを抑制することができる。ここで、溶接トーチの角度が水平方向に対して25°未満では、溶接ビードの形成が困難である。一方、溶接トーチの角度が水平方向に対して75°超では、溶融金属の垂れを抑制することが困難となる。従って、溶接トーチの角度は水平方向に対して25°以上75°以下とする必要がある。好ましくは30°以上、45°以下である。
多層溶接では、1パス当たりの入熱量(=溶着量)を大きくすることでパス数を減らし、溶接積層欠陥を低減することができる。しかし、溶接入熱量が大きくなり過ぎると、溶接金属の強度、靭性の確保が難しくなる他、鋼材熱影響部の軟化抑制、結晶粒粗大化による靭性の確保が難しくなる。特に、溶接入熱量が300kJ/cmを超えると、溶接金属の特性確保のため、鋼材希釈を考慮した専用ワイヤが不可欠となり、さらに、鋼材でも、溶接入熱に耐えられる設計の鋼材が必要となる。一方、溶融金属を確保し、溶接欠陥のない溶接部を得るためには、溶接入熱量は高い方が有利であり、狭開先において溶接入熱量が30kJ/cm未満では開先面の溶融が不足し、積層欠陥の発生が避けられない。
従って、溶接入熱量は、30kJ/cm以上300kJ/cm以下とする。好ましくは、90kJ/cm以上、280kJ/cm以下である。
本溶接方法は溶接トーチのウイービングを行うものであるが、この溶接トーチのウイービングにおける板厚方向へのウイービング深さLならびに後述する板厚方向および溶接線に直角な方向へのウイービング最大幅Mを適正に制御することが重要である。
なお、各種ウイービングパターンにおける板厚方向へのウイービング深さLならびに板厚方向および溶接線に直角な方向へのウイービング最大幅Mは、図4(a)〜(d)に示すとおりになる。
従って、板厚方向へのウイービング深さは、15mm以上63mm以下とする。好ましくは、25mm以上、60mm以下である。
開先面の未溶融を防ぐためには、板厚方向および溶接線に直角な方向へのウイービング最大幅を(W−6)mm以上とする必要がある。一方、板厚方向および溶接線に直角な方向へのウイービング最大幅がWmmを超えると、溶融金属が垂れてしまい溶接が成り立たない。
従って、板厚方向および溶接線に直角な方向へのウイービング最大幅は、(W−6)mm以上Wmm以下の範囲とする。好ましくは、(W−4)mm以上、(W−1)mm以下である。
なお、一層溶接の場合、Wは溶接時に表面(溶接装置(溶接トーチ)側の面)となる鋼材面での開先幅となる。
ただし、立向き上進溶接においては、溶接表面側に近い箇所でのウイービングは溶融金属の垂れ落ちを生じさせ易い。また、溶接トーチ動作が開先面とずれると、開先面の均一な溶融が得られず、融合不良等の溶接欠陥が生じ易い。特に、反転動作を必要としない一般的な台形および三角形のウイービングパターンは、装置負荷が小さい反面、溶接表面側に近い箇所での溶接トーチ動作(図4(b)における台形ウイービングパターンのD点→A点、図4(d)における三角形ウイービングパターンのC点→A点)により、溶融金属の垂れ落ちが生じ易い。このため、溶融金属の垂れ落ちを抑制するという観点からは、溶接表面側でのトーチ動作のないコの字形またはV字形のウイービングパターンとすることが好ましい。
さらに、V字形や三角形のウイービングパターンでは、開先ギャップが大きい(例えば、6mm以上)場合、溶接トーチ動作が開先面とずれてしまい(例えば、図4(c)におけるA点→B点の動作において、溶接トーチ先端の軌跡が開先面(溶接トーチに近い側)と平行でなくなるなど)、開先面の均一な溶融が得られず、融合不良等の溶接欠陥が生じ易くなる。従って、このような場合には、開先面と平行に溶接トーチを動作させることが可能なコの字形のウイービングパターンとすることが最適である。
また、上記した開先形状に対し、コ字形ウイービングや台形ウイービングを適用する場合、図4(a)、(b)中のM1、M2、M3は、それぞれ2〜18mm、0〜10mm、0〜10mm程度となる。
さらに、ウイービング時の周波数や停止時間(図4に示すA点などの各点における停止時間)は特に限定されるものではなく、例えば周波数は0.25〜0.5Hz(好ましくは0.4Hz以上、0.5Hz以下)、停止時間は0〜0.5秒(好ましくは0.2秒以上、0.3秒以下)程度とすればよい。
安定した立向き上進溶接を実現するには、溶融金属の垂れを防ぎ、かつ安定した溶接ビード形状(凹凸のない平滑なビード)を得る必要があり、特に、溶融金属の垂れを防ぐには、溶融金属の表面張力と粘性の低下させるS量およびO量を低く管理することが重要である。
ここに、溶接金属のS量およびO量の合計量が450質量ppm(以下、単にppmともいう)を超えると、表面張力と粘性の低下に加えて溶接金属の対流が表面で外向きとなり、高温の溶接金属が中央から周辺に向かって対流して、溶融金属が広がりを持ち、溶融金属の垂れが生じ易くなる。このため、溶融金属の表面張力と粘性、湯流れを支配する、溶接金属のS量およびO量は、これらの合計量で450ppm以下とすることが好ましい。より好ましくは400ppm以下である。なお、下限については特に限定されるものではないが、15ppmとすることが好ましい。
さらに、溶接金属のO量は、シールドガス中のCO2の酸化により増加する。例えば、シールドガスとして100体積%CO2ガスを用いる場合、溶接金属中のO量は、0.040〜0.050質量%程度増加する。このような溶接金属のO量の低減には、溶接ワイヤ自体に通常0.003〜0.006質量%程度含まれるOの低減に加えて、溶接ワイヤへのSiおよびAl添加が有効である。また、溶接電流およびアーク電圧を高くし、溶融金属中のスラグメタル反応(脱酸反応)とスラグの凝集、溶接ビード表面への浮上を十分に行わせることも有効である。
溶接金属中の窒素(N)は、凝固の際に溶接金属より排出され気泡となる。この気泡の発生が湯面の振動を招き、溶融金属の垂れの原因となる。特に、溶接金属中のN量が120ppmを超えると、溶融金属の垂れが生じ易くなることから、初層溶接における溶接金属のN量は120ppm以下とすることが好ましい。より好ましくは60ppm以下である。なお、下限については特に限定されるものではないが、15ppmとすることが好ましい。
このようなN量の増加を防ぎ、初層溶接における溶接金属のN量を120ppm以下、さらには60ppm以下とするには、通常のアーク溶接のノズルとは別のガスシールド系統を設け、これにより、溶接金属への大気の混入を抑制することが有効である。
上記した溶融金属の垂れを防ぎかつ安定した溶接ビード形状の外観を得るには、適正量のスラグを形成することが重要である。スラグは主にSiO2とMnOで構成されており、このスラグ量は、溶接ワイヤのSi量およびMn量の合計に大きく左右される。
ここに、溶接ワイヤのSi量およびMn量の合計が1.5質量%未満では、溶融金属の垂れを防ぐのに十分なスラグ量が得られない場合がある。一方、溶接ワイヤのSi量およびMn量の合計が3.5質量%を超えると、スラグが塊となり次層以降の溶接に支障を与える場合がある。従って、初層溶接で用いる溶接ワイヤのSi量およびMn量の合計は、1.5質量%以上3.5質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは1.8質量%以上、2.8質量%以下である。
上記した溶融金属の垂れを防ぎかつ安定した溶接ビード形状の外観を得るのに重要な役割を果たすスラグの物性(粘性)に大きく影響するのが、TiO2、Al2O3およびZr2O3である。
ここに、溶接ワイヤのTi量、Al量およびZr量の合計が0.08質量%未満では、溶融金属の垂れを防ぐのに有効なスラグの粘性が得られない。一方、溶接ワイヤのTi量、Al量およびZr量の合計が0.50質量%超えると、スラグの除去、再溶融ともに困難となり、次層以降の溶接に支障をきたすおそれがある。
従って、初層溶接で用いる溶接ワイヤのTi量、Al量およびZr量の合計は、0.08質量%以上0.50質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.15質量%以上、0.25質量%以下である。
溶接部の溶け込みは、アークそのものによるガウジング効果と高温状態にある溶接金属の対流によって支配されている。溶接金属の対流が内向きとなる場合、高温の溶接金属が上から下方向に対流するのでアーク直下の溶け込みが増す。一方、溶接金属の対流が外向きとなる場合、高温の溶接金属が中央から左右方向に対流し、溶接ビードが広がりを持つとともに開先面の溶け込みが増す。従って、本発明の目標とする厚鋼材の立向き多層ガスシールドアーク溶接において、溶融(溶接)金属の垂れを抑制し均一な溶接ビード形状を得るには、溶接金属の対流を内向きとすることが好ましい。
ここで、溶接金属の湯流れを支配する酸素(O)を低減する観点で言えば、CO2ガスを低く抑える方が有利であるが、一方でCO2ガスには解離吸熱反応によりアークそのものを緊縮させ、溶接金属の対流をより内向きとする効果がある。
このため、シールドガス組成としては、CO2ガスを20体積%以上とすることが好ましい。より好ましくは60体積%以上である。なお、CO2ガス以外の残部は、Ar等の不活性ガスを用いればよい。また、CO2ガス:100体積%であってもよい。
これ以外の条件については定法に従えばよく、例えば、溶接電圧:32〜37V(電流とともに上昇)、溶接速度(上進):2〜15cm/分(好適には4cm/分以上、9cm/分以下)、ワイヤ突き出し長さ:20〜45mm、ワイヤ径:1.2〜1.6mm程度とすればよい。
ここで、冷却板としては、水冷式の銅製の金属板(銅当金)が好適である。また、作業性の観点から、冷却板の上進方向(溶接線方向)における長さは、厚鋼材の長さの0.4〜2.0倍とすることが好適である。
また、溶接完了までの積層数は、積層欠陥を防止する観点から2乃至4層程度とすることが好ましい。なお、一層溶接の場合には、初層溶接が最終層溶接となる。
ここで、鋼材はいずれも、S:0.005質量%以下、O:0.003質量%以下、N:0.004質量%以下のものを用いた。なお、鋼材の開先加工には、ガス切断を用い、開先面には研削等の手入れは行わなかった。
また、溶接ワイヤは、鋼材強度用またはそれより1ランク上用のグレードの1.2mmφのソリッドワイヤを用いた。なお、使用した溶接ワイヤ中の成分組成はいずれも、S:0.005質量%以下、O:0.003質量%以下、N:0.005質量%以下、Si:0.6〜0.8質量%、Al:0.005〜0.030質量%であった。
さらに、溶接電流は200〜380A、溶接電圧は28〜37V(電流とともに上昇)、平均溶接速度は2.3〜15.0cm/分(溶接中に調整)、平均のワイヤ突き出し長さは30mmとし、溶接長さは400mmとした。また、No.11を除き、通常のアーク溶接のノズルとは別のガスシールド系統を設けて、溶接を行った。
◎:溶接金属の垂れなし
○:溶接金属の垂れ2箇所以下
△:溶接金属の垂れ3箇所以上4箇所以下
×:溶接金属の垂れ5箇所以上、または、溶接中断
◎:検出欠陥なし
○:欠陥長さが3mm以下の合格欠陥のみを検出
×:欠陥長さが3mmを超える欠陥を検出
○:ビード表面の凹凸が小さく、十分な光沢があるもの
×:ビード表面の凹凸が大きいもの
これらの結果を表2に併記する。
一方、比較例であるNo.15〜18は、5箇所以上の溶接金属の垂れがあるか、超音波探傷検査において欠陥長さが3mm超の欠陥が検出された。また、最終層溶接時に、水冷式の銅製の金属板を用いずに溶接を行ったNo.15〜18では、最終的に得られた溶接継手において、ビード表面の凹凸が大きく、十分な光沢が得られていなかった。
2:厚鋼材の開先面
3:鋼材下段部の開先
4:溶接トーチ
5:溶接ワイヤ
6:裏当て材
7:溶接ビード(初層溶接における溶接ビード)
8:冷却板
θ:開先角度
G:開先ギャップ
h:鋼材下段部の開先高さ
t:板厚
φ:水平方向に対する溶接トーチの角度
D:初層溶接における接合深さ
W:初層溶接における溶接ビード幅
L:板厚方向へのウイービング深さ
M:板厚方向および溶接線に直角な方向へのウイービング最大幅
Claims (7)
- 開先角度を25°以下、開先ギャップを20mm以下として、板厚が40mm以上である2枚の厚鋼材を、ウイービングを用いる一層溶接または多層溶接により接合する立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法において、
初層溶接時には、溶接トーチの角度を水平方向に対して25°以上75°以下、溶接入熱を30kJ/cm以上300kJ/cm以下にするとともに、板厚方向へのウイービング深さを15mm以上63mm以下、かつ初層溶接における溶接ビード幅をWとした場合に、板厚方向および溶接線に直角な方向へのウイービング最大幅を(W−6)mm以上Wmm以下として、溶接トーチのウイービングを行い、前記初層溶接における接合深さを20mm以上65mm以下とし、
最終層溶接時には、前記厚鋼材に溶接トーチ側から前記厚鋼材の開先の表当て材として上進方向に摺動移動が可能な冷却板を押し当て、前記溶接トーチの上進移動に合わせて前記冷却板を上進移動させつつ溶接を行う、
立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法。 - 前記初層溶接のウイービングにおいて、溶接線方向から見た溶接トーチのウイービングパターンがコの字形である、請求項1に記載の立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記初層溶接における溶接金属のS量およびO量の合計が450質量ppm以下でかつ、N量が120質量ppm以下である、請求項1または2に記載の立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記初層溶接で用いる溶接ワイヤのSi量およびMn量の合計が1.5質量%以上3.5質量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記初層溶接で用いる溶接ワイヤのTi量、Al量およびZr量の合計が0.08質量%以上0.50質量%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記初層溶接のシールドガスとして、20体積%以上のCO2ガスを含有するガスを用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記初層溶接の平均溶接電流が270A以上360A以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の立向き狭開先ガスシールドアーク溶接方法。
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