JP2005230868A - 高速回転アーク溶接方法 - Google Patents

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Abstract

【要 約】
【課 題】 高速回転アーク溶接を行なうにあたって、正極性で使用しても、FCワイヤと同等の優れた溶接施工性とアーク安定性を得ることが可能な、鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いた溶接方法を提供する。
【解決手段】 REM を 0.015〜0.100 質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを高速で回転させ、かつ正極性でガスシールドアーク溶接を行なう。
【選択図】 図1

Description

本発明は、優れた溶接施工性とアーク安定性が得られる高速回転アーク溶接方法に関する。
シールドガスとしてCO2 ガスを用いるガスシールドアーク溶接は、CO2 ガスが安価であるとともに、能率の良い溶接法であるので、鉄鋼材料の溶接に広く利用されている。特に自動溶接の急速な普及によって、造船,建築,橋梁,自動車等の種々の分野で使用されている。造船,建築,橋梁の分野では、厚鋼板の多層溶接や隅肉溶接に使用され、自動車の分野では薄鋼板の隅肉溶接に使用されることが多い。
ガスシールドアーク溶接で使用される消耗電極(すなわち溶接ワイヤ)は、ソリッドワイヤとフラックスコアードワイヤに大別される。
ソリッドワイヤは、鋼素線からなる溶接ワイヤであり、素材となる鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布したものもある。このソリッドワイヤは、ガスシールドアーク溶接によって優れた強度と靭性を持つ溶接金属が得られるので、主に多層溶接に使用される。一方、フラックスコアードワイヤ(以下、FCワイヤという)は、鋼製の外殻の内側に溶接用フラックスを充填した溶接ワイヤであり、優れたビード形状が得られるので、主に隅肉溶接に使用される。
FCワイヤがビード形状に優れる理由は、溶接ワイヤの先端から鋼板の溶融メタルに移行する溶滴が細かいので、溶融メタルの表面揺動が小さく抑えられ、かつ溶接用フラックスに多量に含まれるスラグ形成剤によって生成したスラグがビードを覆うからである。
ソリッドワイヤでは、溶接ワイヤの先端から鋼板の溶融メタルに移行する溶滴が粗くかつ移行が不規則であるから、溶融メタルの表面揺動が大きく、鋼素線に含有される脱酸元素(すなわちSi,Mn,Ti,Zr,Al等)の酸化によってスラグが形成される。その結果、スラグが不均一に分布し、ビードを完全に覆うには至らない。また、ソリッドワイヤを使用したガスシールドアーク溶接では、スラグがビードの端部に集積する。したがって、隅肉溶接をガスシールドアーク溶接法で行なう場合にソリッドワイヤを使用すると、不均一に分布するスラグの影響でアークが不安定になり、溶接施工性が損なわれる。
ソリッドワイヤはFCワイヤに比べて安価であるから、ソリッドワイヤを使用して隅肉溶接を行なうにあたって、溶接金属の強度と靭性が優れているという本来の特性に加えて、FCワイヤと同等の優れたアーク安定性が得られるなら、ソリッドワイヤを使用することによって溶接施工コストの削減が可能となる。
そこで、ソリッドワイヤをガスシールドアーク溶接で使用する場合に生じる粗大な溶滴の不規則な移行を防止し、ソリッドワイヤを用いた隅肉溶接を可能にするために、種々の技術が検討されている。
たとえば、アークを反復揺動させながら隅肉溶接を行なう試みがなされている。つまり、ソリッドワイヤの先端を往復運動させることによって、アークを反復揺動させながら隅肉溶接を行なうものである。ところがこの技術では、ソリッドワイヤの先端の振動数が過剰に大きい場合は、ビード形状が凹凸(いわゆるハンピングビード)になりやすい。そのため、実用的な振動数は4〜5Hz程度であり、従来のソリッドワイヤを用いた隅肉溶接の溶接施工性やアーク安定性に比べて、顕著な改善効果は得られなかった。
また、アークを回転させながら隅肉溶接を行なう溶接法が検討されている(非特許文献1参照)。つまり、ソリッドワイヤの先端を高速で回転させながらガスシールドアーク溶接を行なう(以下、高速回転アーク溶接という)ことによって、アークを高速回転させて隅肉溶接を行なうものである。ところがこの技術では、FCワイヤを用いた隅肉溶接に比べてアークが不安定であり、溶接施工性が損なわれる。
NKK技報 No.141(1992) p47-57
本発明は上記のような問題を解消し、高速回転アーク溶接を行なうにあたって、正極性で使用しても、FCワイヤと同等の優れた溶接施工性とアーク安定性を得ることが可能な、鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いた溶接方法を提供することを目的とする。
なお、ここで鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤとは、溶接用フラックスを内装せず、素材となる鋼素線を主体とするワイヤ(いわゆるソリッドワイヤ)を指す。また本発明は、鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布したガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤにも支障なく適用できる。
本発明者らは、溶接用フラックスを内装していないソリッドワイヤと呼ばれるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接用鋼ワイヤという)を用いた高速回転アーク溶接について、ビード形状を改善(すなわちスラグを均一に分布)することによって、アークを安定させる観点から鋭意検討した。従来は主にC,Si,Mn,S,Oの添加量が主要な検討課題であったが、本発明者らは視点を変えて、溶接用鋼ワイヤの素材となる鋼素線の微量添加元素および溶接施工時の極性が、ビード形状(すなわちアーク安定性)に及ぼす影響について詳細に検討し、以下に述べる知見を得た。
(a) 溶接用鋼ワイヤの鋼素線に希土類元素(以下、REM という)を添加し、溶接用鋼ワイヤをマイナス極とする正極性の溶接を行なうことによって、溶滴の安定した移行が可能となる。その結果、アークの安定化,スパッタの低減を達成し、通常の逆極性のガスシールドアーク溶接で生じる粗大な溶滴が溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂して揺れ動きながら移行する現象(いわゆるグロビュール移行)に比べて、著しく良好な溶接継手を得ることができる。
(b) 鋼素線に REMを添加し、さらにAl,O,Ca,Ti,Zrを添加することによって、マイナス極(すなわち溶接用鋼ワイヤ)におけるアーク発生点を安定させ、かつ溶滴の表面張力を好適範囲に調整して溶滴挙動を安定させることが可能となる。その結果、一層良好な溶接継手を得ることができる。
(c) CO2 を60体積%以上含有するシールドガスを用いて高速回転アーク溶接を行なうことによって、施工コストを削減できる。シールドガスの残部(すなわち40体積%以下)は、Ar,He,H2 およびO2 のうちの1種以上のガスを混合するのが好ましい。なお、 100体積%CO2 のシールドガスを用いても何ら問題はない。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、REM を 0.015〜0.100 質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを高速回転させ、かつ正極性でガスシールドアーク溶接を行なう高速回転アーク溶接方法である。
本発明の高速回転アーク溶接方法では、鋼素線が、REM に加えて、Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種を含有し、かつO:0.0080質量%以下,Ca:0.0008質量%以下を含有する組成を有することが好ましい。さらに鋼素線が、前記した組成に加えて、Al: 0.005〜3.00質量%を含有することが好ましい。
また、シールドガスは、CO2 を60体積%以上含有するガスを用いることが好ましい。そのシールドガスは、 100体積%CO2 であっても良いし、あるいはCO2 を60体積%以上含有しかつAr,He,H2 およびO2 のうちの1種以上を合計40体積%以下含有する混合ガスであっても良い。
なお溶接用鋼ワイヤの先端の回転速度は15〜150 回/分の範囲内が好ましい。
本発明によれば、高速回転アーク溶接においてソリッドワイヤでは不可能とされてきたビード形状の改善を達成でき、FCワイヤと同等の安定したアークとビード形状を得ることができる。その結果、溶接施工性が著しく改善される。
本発明の溶接用鋼ワイヤは、ソリッドワイヤとFCワイヤに大別される溶接ワイヤのうち、ソリッドワイヤを対象とする。
まず本発明の溶接用鋼ワイヤの鋼素線の成分を限定した理由について説明する。
REM : 0.015〜0.100 質量%
REM は、製鋼および鋳造時の介在物の微細化,溶接金属の靱性改善のために有効な元素である。ただし、通常の逆極性のガスシールドアーク溶接においては、鋼素線中にREM を添加するとアークの集中が生じて、スパッタを低減する効果が得られない。しかし正極性のガスシールドアーク溶接においては、溶滴の微細化と移行の安定化を図るために不可欠な元素である。この溶滴の微細移行の安定化により、鋼素線に潤滑剤を塗布した溶接用鋼ワイヤであっても、スパッタの発生を抑制し、安定したガスシールドアーク溶接が可能となる。
また、REM は、正極性(すなわち溶接用鋼ワイヤをマイナス極)のガスシールドアーク溶接において、アークの集中に不可欠な元素である。このアーク集中と高速回転によって、鋼板側に形成した溶融プールの攪拌効果が増し、鋼板のプライマー塗装等から発生するブローホールを効率良く表面に排出し、一層健全な溶接継手を得ることができる。REM 含有量が 0.015質量%未満では、このアーク安定化とアーク集中に効果が得られない。一方、 0.100質量%を超えると、溶接用鋼ワイヤの製造工程で割れが生じたり、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、REM は 0.015〜0.100 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.025〜0.050 質量%である。
ここで REMとは、周期表の3族に属する元素の総称である。本発明では、原子番号57〜71の元素を使用するのが好ましく、特にCe,Laが好適である。Ce,Laを鋼素線に添加する場合は、CeまたはLaを単独で添加しても良いし、CeおよびLaを併用しても良い。なお、CeおよびLaをともに添加する場合は、あらかじめCe:40〜90質量%,La:10〜60質量%の範囲内で混合して得られた混合物を使用するのが好ましい。
なお本発明は、基本的成分としてC,Si,Mn,P,Sを下記の通り含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤに適用するのが好ましい。
C:0.20質量%以下
Cは、溶接金属の強度を確保するのに必要な元素であり、溶融メタルの粘性を低下させて流動性を向上させる効果がある。しかしC含有量が0.20質量%を超えると、正極性の溶接において溶滴および溶融メタルの挙動が不安定となるのみならず、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cは0.20質量%以下とした。一方、C含有量を過剰に減少させると溶接金属の強度を確保できない。そのため、 0.003〜0.20質量%とするのが好ましい。なお、0.01〜0.10質量%が一層好ましい。
Si:0.05〜2.5質量%
Siは、脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。ガスシールドアーク溶接では、Si含有量が0.05質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。さらに正極性のガスシールドアーク溶接におけるアークの広がりを抑え、溶滴を微細化し挙動を安定化する作用も有する。一方、 2.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、Siは0.05〜2.5 質量%の範囲内を満足する必要がある。ただしSi含有量が0.65質量%を超えると、小粒のスパッタが増加する傾向が現われるので、0.05〜0.65質量%の範囲内が好ましい。
Mn:0.25〜3.5 質量%
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。Mn含有量が0.25質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。一方、3.5 質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Mnは0.25〜3.5 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、溶融メタルの脱酸を促進し、ブローホールを防止するためには、0.45質量%以上が望ましい。そのため、0.45〜3.5 質量%とするのが好ましい。
P:0.05質量%以下
Pは、鋼の融点を低下させるとともに、電気抵抗率を向上させ、溶融効率を向上させる元素である。さらに正極性のガスシールドアーク溶接において、溶滴を微細化し、アークを安定化する作用も有する。しかしP含有量が0.05質量%を超えると、正極性のガスシールドアーク溶接において溶融メタルの粘性が著しく低下し、アークが不安定となり、小粒のスパッタが増加する。また、溶接金属の高温割れを生じる危険性が増大する。したがって、Pは0.05質量%以下とした。なお、好ましくは0.03質量%以下である。一方、 鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でPを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から 0.002質量%以上が望ましい。そのため、 0.002〜0.03質量%とするのが好ましい。
S:0.02質量%以下
Sは、溶融メタルの粘性を低下させ、溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴の離脱を促進し、正極性のガスシールドアーク溶接においてアークを安定化する。またSは、正極性のガスシールドアーク溶接においてアークを広げ、溶融メタルの粘性を低下させてビードを平滑にする効果も有する。しかしS含有量が0.02質量%を超えると、小粒のスパッタが増加するとともに、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Sは0.02質量%以下とした。一方、 鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でSを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から 0.002質量%以上が望ましい。そのため、 0.002〜0.02質量%とするのが好ましい。
さらに本発明では、上記した組成に加えて、鋼素線がTi,Zr,O,Ca,Alを含有することが好ましい。
Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種
Ti,Zrは、いずれも強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加する元素である。さらに溶融メタルの脱酸によって粘性を低下してビード形状を安定化(すなわちハンピングビードを抑制)する効果がある。このような効果を有する故に 350A以上の高電流溶接において有効な元素であり、必要に応じて添加する。Tiが0.02質量%未満,Zrが0.02質量%未満では、この効果は得られない。一方、 Tiが0.50質量%を超える場合,Zrが0.50質量%を超える場合は、溶滴が粗大化して大粒のスパッタが多量に発生する。したがって、Ti,Zrを含有する場合は、Ti:0.02〜0.50質量%,Zr:0.02〜0.50質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
O:0.0080質量%以下
Oは、正極性のガスシールドアーク溶接において溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴を微細化する作用がある。しかし、O含有量が 0.0080質量%を超えると、正極性の高電流溶接におけるアークの安定化というREM 添加の効果が損なわれ、溶滴の揺動が増大してスパッタが多量に発生する。またOは、鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階で REMと激しく反応してスラグを形成する作用を有しており、O含有量が0.0080質量%を超えると、REM の歩留りが著しく低下する。したがって、Oは0.0080質量%以下とするのが好ましい。ただし、O含有量が0.0010質量%未満では、O添加の効果は充分に得られない。したがって、 0.0010〜0.0080質量%が好ましく、さらに0.0010〜0.0050質量%が一層好ましい。
Ca:0.0008質量%以下
Caは、製鋼および鋳造時に不純物として溶鋼に混入したり、あるいは伸線加工時に不純物として鋼素線に混入する。正極性のガスシールドアーク溶接では、Ca含有量が0.0008質量%を超えると、高電流溶接におけるアークの安定化というREM 添加の効果が損なわれる。したがって、Caは0.0008質量%以下とするのが好ましい。
Al: 0.005〜3.00質量%
Alは、強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加する元素である。さらに溶融メタルの脱酸によって粘性を低下してビード形状を安定化(すなわちハンピングビードを抑制)する効果がある。逆極性のガスシールドアーク溶接では、明確な溶滴移行の安定化効果は認められないが、正極性のガスシールドアーク溶接では、 350A以上の高電流溶接において溶滴移行の安定化効果が顕著に発揮される。一方、低電流溶接においては、短絡移行回数を増加させて溶滴移行の均一化とビード形状の改善を達成できる。また、Oとの親和力によって、溶接用鋼ワイヤの製造段階における REMの酸化ロスを低減する効果も有する。Alが 0.005質量%未満では、このような効果は得られない。一方、 Alが3.00質量%を超える場合は、溶接金属の結晶粒が粗大化し、靭性が著しく低下する。したがって、Alは 0.005〜3.00質量%の範囲内を満足する必要がある。
さらに必要に応じて下記の元素を添加しても、本発明の効果を減じるものではない。
Cr:0.02〜3.0 質量%,Ni:0.05〜3.0 質量%,Mo:0.05〜1.5 質量%,Cu:0.05〜3.0 質量%,B:0.0005〜0.015 質量%,Mg: 0.001〜0.20質量%
Cr,Ni,Mo,Cu,B,Mgは、いずれも溶接金属の強度を増加し、耐候性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cr,Ni,Mo,Cu,B,Mgを含有する場合は、Cr:0.02〜3.0 質量%,Ni:0.05〜3.0 質量%,Mo:0.05〜1.5 質量%,Cu:0.05〜3.0 質量%,B:0.0005〜0.015 質量%,Mg: 0.001〜0.20質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
Nb: 0.005〜0.5 質量%,V: 0.005〜0.5 質量%
Nb,Vは、いずれも溶接金属の強度,靭性を向上し、アークの安定性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Nb,Vを含有する場合は、Nb: 0.005〜0.5 質量%,V: 0.005〜0.5 質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
上記した鋼素線の成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。たとえば、鋼材を溶製する段階や鋼素線を製造する段階で不可避的に混入する代表的な不可避的不純物であるNは、0.020質量%以下に低減するのが好ましい。
次に、本発明の溶接用鋼ワイヤの製造方法について説明する。
転炉または電気炉等を用いて、上記した組成を有する溶鋼を溶製する。この溶鋼の溶製方法は、特定の技術に限定せず、従来から知られている技術を使用する。次いで、得られた溶鋼を、連続鋳造法や造塊法等によって鋼材(たとえばビレット等)を製造する。この鋼材を加熱した後、熱間圧延を施し、さらに乾式の冷間圧延(すなわち伸線)を施して鋼素線を製造する。熱間圧延や冷間圧延の操業条件は、特定の条件に限定せず、所望の寸法形状の鋼素線を製造する条件であれば良い。
さらに鋼素線は、焼鈍−酸洗−銅めっき−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を必要に応じて順次施して、所定の製品すなわち溶接用鋼ワイヤとなる。なお本発明では、必ずしも鋼素線に銅めっきを施す必要はなく、鋼素線の表面に潤滑剤を塗布した溶接用鋼ワイヤであっても何ら支障なく使用できる。
鋼素線の表面に潤滑剤を安定して付着させ、給電の安定性を向上するために、鋼素線の平坦度(=実表面積/理論表面積)を1.0005以上1.0100未満とするのが好ましい。鋼素線の平坦度は、伸線加工で使用するダイスの管理を厳格に行なうことによって、1.0005以上1.0100未満の範囲に維持することは可能である。
鋼素線の表面に銅めっきを施す場合は、厚さ 0.6μm以上の銅めっきを施すことによって、溶接用鋼ワイヤの給電不良に起因するアークの不安定化を防止できる。なお、銅めっきの厚さを 0.8μm以上とすると、給電不良防止の効果が顕著に発揮されるので一層好ましい。このようにして銅めっきを厚目付とすることによって、給電チップの損耗も低減できるという効果も得られる。
溶接用鋼ワイヤの送給性を向上するために、溶接用鋼ワイヤの表面(すなわち鋼素線の表面あるいは銅めっきの表面)に潤滑油を塗布しても良い。潤滑油の塗布量は、溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.35〜1.70gの範囲内が好ましい。
なお、溶接用鋼ワイヤを製造する工程で、溶接用鋼ワイヤの表面に種々の不純物が付着する。特に固体の不純物の付着量を、溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.01g以下に抑制すると、給電の安定性が一層向上する。
このようして製造した溶接用鋼ワイヤを用いて正極性でガスシールドアーク溶接を行なう際の好適な溶接条件について、以下に説明する。
シールドガスは、CO2 を60体積%以上含有するガスを用いる。シールドガスの残部(すなわち40体積%以下)は、Ar,He,H2 およびO2 のうちの1種以上のガスを混合するのが好ましい。なお、CO2 ガスを単独(すなわちCO2 の混合比率: 100体積%)でシールドガスとして使用しても、支障なく正極性でガスシールドアーク溶接を行なうことができる。
溶接電流は 300〜400 A,溶接電圧は29〜38V(電流とともに上昇),溶接速度は20〜150 cm/分,突き出し長さは15〜30mm,ワイヤ径は 1.2〜1.6mm ,溶接入熱は5〜45kJ/cmの範囲内が好ましい。溶接用鋼ワイヤの先端の回転速度は15〜150 回/分の範囲内が好ましい。
溶接用鋼ワイヤの先端を回転させる装置の例を模式的に図1に示す。電動モーター等の回転駆動装置7がギア8aを回転させ、その駆動力がギア8bに伝達される。ギア8bには電極3および溶接用鋼ワイヤ4が偏芯して取付けられており、ギア8bが回転することによって溶接用鋼ワイヤ4の先端が回転する。このようにして溶接用鋼ワイヤ4の先端を回転させるとともに、溶接施工方向に溶接用鋼ワイヤ4を移動させることによって、図1に示すような隅肉溶接を行なうことができる。なお、溶接施工方向に溶接用鋼ワイヤ4を移動させる装置は図示を省略する。
溶接する母材(すなわち鋼板)の鋼種は特に限定されないが、JIS規格G3106 に規定されるSi−Mn系の溶接構造用圧延鋼材(SM材)、JIS規格G3136 に規定される建築構造用鋼材(SN材)、さらにそれらのプライマー塗装鋼材に適用するのが好ましい。
製鋼段階で成分を調整し、連続鋳造によって製造されたビレットを熱間圧延して、直径 5.5〜7.0mm の線材とした。次いで冷間圧延(すなわち伸線)によって直径 2.0〜2.8mm とし、必要に応じて窒素雰囲気中で焼鈍して酸洗を施し、さらに冷間で固形潤滑剤を用いて乾式伸線を行ない、次いで湿式伸線を施して、直径1.4mm の鋼素線を製造した。このとき乾式伸線と湿式伸線の加工量をそれぞれ調整して、鋼素線の表面に残留する固形潤滑剤の付着量を制御した。さらに鋼素線に潤滑剤を塗布(溶接用鋼ワイヤ10kgあたり 0.5〜0.8 g)することによって、十分な送給性を確保できるように調整した。得られた鋼素線の成分は、表1に示す通りである。
Figure 2005230868
これらの溶接用鋼ワイヤを使用して、図1に示す装置で溶接用鋼ワイヤの先端を50回/分で回転させながら、正極性のガスシールドアーク溶接を行ない、隅肉溶接継手(継手1,継手2)を製作した。ガスシールドアーク溶接の条件は表2に示す通りである。
Figure 2005230868
スパッタの発生量は、鋼板に付着したスパッタを全量回収し、その質量が0.30g以下のものを良(○),0.30g超え〜0.60g以下のものを可(△),0.60g超えのものを不可(×)として評価した。
これらの溶接継手を目視で観察して、ビード形状を評価した。すなわち、ビードの垂れやアンダーカット,オーバーラップのないものを良(○)とし、ビードの垂れ,アンダーカット,オーバーラップが継手長さの1/5以下の一部に認められるものを可(△),ビードの垂れ,アンダーカット,オーバーラップが継手長さの1/5を超えるものを不可(×)として評価した。
さらに溶接継手の内部健全性(すなわち欠陥の有無)を評価した。すなわちJIS規格Z3104 に準拠してX線透過検査を行ない、ビード全長にわたってブローホール等の欠陥がないものを良(○)とし、欠陥が認められるものを不可(×)とした。
スパッタ発生量,ビード形状,内部健全性の評価は表3に示す通りである。
Figure 2005230868
表3から明らかなように、発明例(試験番号1〜10,12〜21)は、いずれもビード形状,内部健全性ともに良好であった。一方、比較例(試験番号11,22)は、鋼素線の REM含有量が不足しているのでアークが不安定になり、ビード形状の不良およびブローホール等の欠陥が発生した。
つまり本発明によれば、高速回転アーク溶接において、溶接施工性とアーク安定性が改善され、優れたビード形状を有し、かつ内部欠陥のない隅肉溶接継手を得ることができる。
本発明を適用する装置の例を模式的に斜視図である。
符号の説明
1 鋼板
2 通電装置
3 電極
4 溶接用鋼ワイヤ
5 アーク
6 ビード
7 回転駆動装置
8a ギア
8b ギア

Claims (7)

  1. 希土類元素を 0.015〜0.100 質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを高速回転させ、かつ正極性でガスシールドアーク溶接を行なうことを特徴とする高速回転アーク溶接方法。
  2. 前記鋼素線が、前記希土類元素に加えて、Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種を含有し、かつO:0.0080質量%以下、Ca:0.0008質量%以下を含有する組成を有することを特徴とする請求項1に記載の高速回転アーク溶接方法。
  3. 前記鋼素線が、前記組成に加えて、Al: 0.005〜3.00質量%を含有することを特徴とする請求項2に記載の高速回転アーク溶接方法。
  4. CO2 を60体積%以上含有するシールドガスを用いて前記ガスシールドアーク溶接を行なうことを特徴とする請求項1、2または3に記載の高速回転アーク溶接方法。
  5. 前記シールドガスが、 100体積%CO2 であることを特徴とする請求項4に記載の高速回転アーク溶接方法。
  6. 前記シールドガスが、CO2 を60体積%以上含有し、かつAr、He、H2 およびO2 のうちの1種以上を合計40体積%以下含有する混合ガスであることを特徴とする請求項4に記載の高速回転アーク溶接方法。
  7. 前記溶接用鋼ワイヤを回転速度15〜150 回/分で回転させることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6に記載の高速回転アーク溶接方法。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2008213042A (ja) * 2007-02-09 2008-09-18 Jfe Steel Kk ガスシールドアーク溶接方法
JP2008290115A (ja) * 2007-05-24 2008-12-04 Jfe Steel Kk 隅肉溶接方法および隅肉溶接継手
JP2015501727A (ja) * 2011-12-16 2015-01-19 イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド 直流電極マイナス回転式アーク溶接方法およびシステム

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