JP2008213042A - ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】厚鋼板を狭開先(すなわち開先角度50°以下)で突合せ溶接する際に安定した溶け込みが得られ、初層の高温割れを防止し、かつ溶接ビードの外観が良好なガスシールドアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接トーチをオシレートさせながら溶接を行なうガスシールドアーク溶接方法において、オシレートの溶接線に平行な成分が10〜45mmの範囲内で毎分30〜150回オシレートさせながら開先角度50°以下のガスシールドアーク溶接を行なう。
【選択図】図1

Description

本発明は、シールドガスでアーク点をシールドして溶接を行なうガスシールドアーク溶接方法に関するものであり、特に狭開先の厚鋼板を溶接する際に安定した溶け込みが得られ、溶接ビードの外観に優れかつ高温割れを防止できるガスシールドアーク溶接方法に関するものである。
ガスシールドアーク溶接は、能率の良い溶接技術であることから、各種鉄鋼材料の溶接に広く利用されている。特に自動溶接の急速な普及によって造船,建築,橋梁,自動車,建築機械等の種々の分野で使用されている。造船,建築,橋梁等の分野では厚鋼板の突合せ溶接にガスシールドアーク溶接技術が採用され、自動車,建築機械等の分野では薄鋼板の隅肉溶接にガスシールドアーク溶接技術が採用されている。
造船,建築,橋梁の分野で主要な溶接法として行なわれる厚鋼板の突合せ溶接では、溶接継手部における裏当て金の有無に応じて溶接条件(特に開先形状)が変化する。裏当て金を使用する場合はレ型開先またはV型開先(いずれもルートギャップ5〜10mm程度,開先角度35°程度)とし、裏当て金を使用しない場合はV型開先(ルートギャップなし,開先角度45〜60°程度)とするのが一般的である。突合せ溶接におけるこれらの開先角度は、初層の溶接金属の高温割れを抑制するために設定される。
高温割れは、凝固割れあるいは梨割れとも呼ばれ、溶接ビード中央に溶接線と平行に生じる割れであり、高温割れが発生すると継手強度が著しく低下し、構造物(すなわち船舶,建築物,橋梁等)の倒壊という甚大な問題が生じる。
溶接金属は、溶融メタルの凝固によって形成され、この凝固過程において通常の鋼は体積が減少(すなわち収縮)し、最終凝固部においては溶融メタルが不足する。最終凝固部が溶接ビード表面であれば高温割れは発生しないが、溶接ビード内となる場合は高温割れを生じる可能性が高くなる。凝固は開先面に垂直に生じるため、ビードオンプレート溶接や広い開先内での溶接では凝固が溶接ビード表面に向かって生じるので高温割れは生じない。
一方、狭開先の初層溶接では、凝固が溶接ビード中央に向かって生じるので、高温割れを生じ易い。
つまり、開先形状によって高温割れの発生頻度は大きく変化する。一般に溶接ビード幅に対する溶込み深さが0.8以下では、高温割れは発生しないと言われている。たとえば開先角度50°のレ形ギャップゼロの開先形状では、1÷tan50°≒0.8であるから、高温割れは発生しない。しかし開先角度を広くすると多量の溶接金属を必要とし、溶接施行の効率が低下する。
溶接施行の効率向上の観点から見ると、開先角度は狭い方が好ましい。ところが、たとえば開先角度30°のレ形ギャップゼロの開先形状では、1÷tan30°≒1.7であるから、高温割れは極めて発生し易くなる。
そこで、高温割れの発生を防止する技術が種々検討されている。
たとえば特許文献1には、2個以上の電極を用い、電極間の距離を100mm以下とすることによって高温割れを防止する技術が開示されている。この技術では装置が複雑になるばかりでなく、曲線の溶接が困難であるという問題がある。しかも、溶接を中断したときには非定常部が長いので、補修溶接に長時間を要する。
特開平9-85446号公報
本発明は、たとえば25mm以上の厚鋼板を狭開先(すなわち開先角度50°以下)で突合せ溶接する際に安定した溶け込みが得られ、初層の高温割れを防止し、かつ溶接ビードの外観が良好なガスシールドアーク溶接方法を提供することを目的とする。
発明者らは、開先角度50°以下で突合せ溶接する際に安定した溶け込みが得られ、初層の高温割れを防止し、かつ溶接ビードの外観が良好なガスシールドアーク溶接方法について鋭意検討した。その結果、
(a)溶接トーチの先端を溶接線に平行な方向にオシレートさせて溶融メタルの凝固(すなわち溶接金属の形成)と溶接金属の再溶融(すなわち溶融メタルの生成)を繰り返すことによって、最終凝固を溶接ビードの表面とする、
(b)溶接速度を遅くする一方、オシレートを速くすることによって凝固が安定し、均一な溶接金属が得られる、
(c)希土類元素を含有するガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接用鋼ワイヤという)を用い、正極性でガスシールドアーク溶接を行なうことによって安定した溶け込みが得られる、
(d)シールドガスとしてCO2 ガスとArガスとの混合ガスまたはCO2 ガスのみを用いることによって正極性のガスシールドアーク溶接における溶滴移行のスプレー化とアークの安定化を達成できる
ということが判明した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、溶接トーチをオシレートさせながら溶接を行なうガスシールドアーク溶接方法において、オシレートの溶接線に平行な成分が10〜45mmの範囲内で毎分30〜150回オシレートさせながら開先角度50°以下のガスシールドアーク溶接を行なうガスシールドアーク溶接方法である。
本発明のガスシールドアーク溶接においては、オシレートの回数をW(回/分)とし、溶接速度をS(cm/分)として、下記の(1)式で算出されるD値が0.5〜10.0の範囲内を満足するとともに、溶接速度が5〜60cm/分の範囲内を満足することが好ましい。また、希土類元素を0.015〜0.100質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを用いて正極性でガスシールドアーク溶接を行なうことが好ましい。
D=W/S ・・・(1)
W:オシレートの回数(回/分)
S:溶接速度(cm/分)
さらにシールドガスが、CO2 ガスとArガスとを合計60体積%以上含有する混合ガスであることが好ましい。あるいはシールドガスが、CO2 ガス100体積%であることが好ましい。
本発明によれば、厚鋼板を開先角度50°以下で突合せ溶接する際に安定した溶け込みが得られ、初層の高温割れを防止でき、しかも良好な外観の溶接ビードを得ることができる。
まず本発明における溶接トーチの動きについて説明する。
本発明ではガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、溶接線に平行な成分(すなわち図1中のX成分)が10〜45mmの範囲内で、溶接トーチの先端が往復運動または円運動,円弧運動を行なう。その運動の例を図2に示す。ここでは、図2に例を示すような繰り返し行なわれる溶接トーチの往復運動または円運動,円弧運動をオシレートと記す。溶接トーチのオシレートは、図2に示すように溶接線に垂直な成分(すなわちY成分,Z成分)を含んでいても良い。
溶接金属に生じる高温割れは、溶接線および入熱方向に対して直角な方向に溶融メタルが凝固する場合に発生頻度が増加する。したがって溶接トーチを溶接線に平行な方向あるいは入熱方向に平行な方向にオシレートさせることによって、溶接金属の高温割れを防止できる。
通常の半自動溶接では、溶接線および入熱方向に直角な方向に溶接トーチをオシレートさせる。これは、溶接ビードの幅を調節するために行なうオシレートであるから、高温割れを防止する効果はない。
しかし溶接トーチを溶接線に平行な方向にオシレートさせることによって、
(A) 溶融メタルの凝固(すなわち溶接金属の形成)と溶接金属の再溶融(すなわち溶融メタルの生成)が繰り返される、
(B)溶融メタルが入熱の対面方向から凝固する
という効果が得られ、溶接金属の高温割れを防止できる。
オシレートにおける溶接トーチの移動範囲が10mm未満では、初層の溶接ビードにて上記した(A)(B)の効果は得られず、溶接金属の高温割れは防止できない。一方、45mmを超えると、高温割れは防止できるが、アーク点のシールドは不十分となり溶接ビードにピットが生じる。したがって、オシレートにおける溶接トーチの移動範囲は10〜45mmとする。好ましくは15〜25mmである。なお、溶接トーチの移動範囲は、図1に示すように、溶接トーチ5が最も前進したときの溶接トーチの先端位置3と最も後退したときの溶接トーチの先端位置4との間隔の溶接線2に平行な成分Xを指す。
また、オシレートにおける溶接トーチの往復回数(以下、オシレートの回数という)が毎分30回未満では、溶接線方向に均一な溶接ビードが得られず、部分的に高温割れを内在させた溶接ビードとなるばかりでなく、凸形状の溶接ビードが形成されるので、その溶接ビード上に次層を溶接する際に溶接欠陥が生じ易い。一方、毎分150回を超えると、高温割れを防止でき、かつ平坦な溶接ビードを形成できるが、アーク点のシールドは不十分となり溶接ビードにピットが生じる。したがって、オシレートの回数は毎分30〜150回とする。好ましくは毎分45〜90回である。
このようにして溶接トーチをオシレートさせながらガスシールドアーク溶接を行なうと、開先形状がV型開先,レ型開先いずれであっても、開先角度50°以下の狭開先の突合せ溶接において、初層のみならず第2層以降の溶接金属の高温割れを防止でき、しかも良好な外観の溶接ビードを得ることができる。
本発明では溶接トーチのオシレートに加えて、溶接トーチの移動速度(以下、溶接速度という)を調整することによって、溶接金属の高温割れを防止する効果を高めることができる。
溶接速度が5cm/分未満では、高温割れを防止でき、かつ平坦な溶接ビードを形成できるが、凸形状の溶接ビードが形成されるので、その溶接ビード上に次層を溶接する際に溶接欠陥が生じ易い。一方、60cm/分を超えると、溶接線方向に均一な溶接ビードが得られず、狭開先(とりわけ開先角度25°以下)の突合せ溶接にて溶接金属の高温割れを生じ易い。したがって、溶接速度は5〜60cm/分が好ましい。より好ましくは5.0〜30.0cm/分である。
この溶接速度をS(cm/分)とし、オシレートの回数をW(回/分)として、下記の(1)で算出されるD値が0.5未満では、溶接金属の高温割れを防止する効果は得られるが、平坦な溶接ビードが形成されない。一方、10.0を超えると、高温割れを防止でき、かつ平坦な溶接ビードを形成できるが、アーク点のシールドは不十分となり溶接ビードにピットが生じる。したがって、D値は0.5〜10.0が好ましい。より好ましくは0.8〜6.0である。
D=W/S ・・・(1)
W:オシレートの回数(回/分)
S:溶接速度(cm/分)
次に本発明で使用する溶接用鋼ワイヤについて説明する。
本発明では、溶接用フラックスを内装せず、素材となる鋼素線を主体とする溶接用鋼ワイヤ(いわゆるソリッドワイヤ)を使用する。なお、鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布したソリッドワイヤも支障なく使用できる。
本発明では、希土類元素を含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを使用することが好ましい。希土類元素は、製鋼および鋳造時の介在物の微細化,溶接金属の靭性改善のために有効な元素である。ただし、通常の逆極性(すなわち溶接用鋼ワイヤをプラス極)のガスシールドアーク溶接においては、鋼素線に希土類元素を添加するとアークの集中が生じて、スパッタが多量に発生する。しかし正極性(すなわち溶接用鋼ワイヤをマイナス極)のガスシールドアーク溶接においては、溶滴移行を安定化するとともに溶け込みを安定化するために不可欠な元素である。また、製鋼時に不可避的に混入するSと結合して高融点の介在物を形成する。そのため、溶接線の終端部に硫化物が濃化するのを防止できる。
希土類元素の含有量が0.015質量%未満では、これらの効果が得られない。一方、0.100質量%を超えると、溶接用鋼ワイヤの製造工程で割れが生じたり、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、鋼素線の希土類元素の含有量は0.015〜0.100質量%が好ましい。より好ましくは0.025〜0.050質量%である。
ここで希土類元素とは、周期表の3族に属する元素の総称である。本発明では、原子番号57〜71の元素を使用するのが好ましく、特にCe,Laが好適である。Ce,Laを鋼素線に添加する場合は、CeまたはLaを単独で添加しても良いし、CeおよびLaを併用しても良い。なお、CeおよびLaをともに添加する場合は、あらかじめCe:45〜80質量%,La:10〜45質量%を混合して得られた混合物を使用するのが好ましい。
鋼素線は、希土類元素に加えて、下記の元素を含有することが好ましい。
C:0.20質量%以下
Cは、溶接金属の強度を確保するのに必要な元素であり、溶融メタルの粘性を低下させて流動性を向上させる効果がある。しかしC含有量が0.20質量%を超えると、正極性の溶接において溶滴および溶融メタルの挙動が不安定となるのみならず、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、C含有量は0.20質量%以下が好ましい。一方、C含有量を過剰に減少させると溶接金属の強度を確保できない。そのため、0.01〜0.20質量%が一層好ましい。より好ましくは0.01〜0.10質量%である。
Si:0.15〜2.5質量%
Siは、脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。Si含有量が0.15質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブロー欠陥が発生する。一方、2.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、Si含有量は0.15〜2.5質量%が好ましい。
Mn:0.25〜3.5質量%
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。Mn含有量が0.25質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブロー欠陥が発生する。一方、3.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、Mn含有量は0.25〜3.5質量%が好ましい。
P:0.050質量%以下
Pは、鋼の融点を低下させるとともに、電気抵抗率を向上させ、溶融効率を向上させる元素である。さらに正極性のガスシールドアーク溶接においてアークを安定化する作用も有する。しかしP含有量が0.050質量%を超えると、正極性のガスシールドアーク溶接において溶融メタルの粘性が著しく低下し、アークが不安定となり、小粒のスパッタが増加する。また、溶融メタルが凝固する際にPが結晶粒界に濃化し、溶接金属の高温割れが生じ易くなる。したがって、P含有量は0.050質量%以下が好ましい。
S:0.050質量%以下
Sは、溶融メタルの粘性を低下させ、溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴の離脱を促進し、正極性のガスシールドアーク溶接においてアークを安定化する。またSは、溶融メタルの粘性を低下させることによって溶接ビードを平坦にする効果も有する。しかしS含有量が0.050質量%を超えると、小粒のスパッタが増加するとともに、溶接金属の靭性が低下する。また、溶融メタルが凝固する際にSが結晶粒界に濃化し、溶接金属の高温割れが生じ易くなる。したがって、S含有量は0.050質量%以下が好ましい。一方、鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でSを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から0.015質量%以上(したがって0.015〜0.050質量%)が一層好ましい。より好ましくは0.015〜0.030質量%である。
Ca:0.0008質量%以下
Caは、製鋼および鋳造時に不純物として溶鋼に混入したり、あるいは伸線加工時に不純物として鋼素線に混入する。正極性のガスシールドアーク溶接ではCa含有量が0.0008質量%を超えると、アークの安定化という希土類元素の効果が損なわれる。したがって、Ca含有量は0.0008質量%以下が好ましい。
Ti:0.02〜0.30質量%,Zr:0.02〜0.30質量%およびAl:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種以上
Ti,Zr,Alは、いずれも強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加する元素である。さらに溶融メタルの脱酸によって粘性を向上してビード形状を安定化(溶接線方向の凹凸を抑制)する効果がある。このような効果を有する故に300A以上の高電流溶接において有効な元素であり、必要に応じて添加する。Tiが0.02質量%未満,Zrが0.02質量%未満,Alが0.02質量%未満では、この効果は得られない。一方、Tiが0.30質量%を超える場合,Zrが0.30質量%を超える場合,Alが0.50質量%を超える場合は、溶滴が粗大化して大粒のスパッタが多量に発生する。したがって、Ti,Zr,Alを含有する場合は、Ti:0.02〜0.30質量%,Zr:0.02〜0.30質量%,Al:0.02〜0.50質量%が好ましい。
Cr:0.02〜3.0質量%,Ni:0.05〜3.0質量%,Mo:0.05〜1.5質量%,Cu:0.05〜3.0質量%,B:0.0005〜0.015質量%
Cr,Ni,Mo,Cu,Bは、いずれも溶接金属の強度を増加し、耐候性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cr,Ni,Mo,Cu,Bを含有する場合は、Cr:0.02〜3.0質量%,Ni:0.05〜3.0質量%,Mo:0.05〜1.5質量%,Cu:0.05〜3.0質量%,B:0.0005〜0.015質量%が好ましい。
Nb:0.005〜0.05質量%,V:0.005〜0.05質量%
Nb,Vは、いずれも溶接金属の強度,靭性を向上し、アークの安定性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Nb,Vを含有する場合は、Nb:0.005〜0.05質量%,V:0.005〜0.05質量%が好ましい。
上記した鋼素線の成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。たとえば、鋼材を溶製する段階や鋼素線を製造する段階で不可避的に混入する代表的な不可避的不純物であるO,Nは、いずれも0.0010〜0.020質量%が好ましい。より好ましくは0.0010〜0.0080質量%である。
次に、本発明の溶接用鋼ワイヤの製造方法について説明する。
転炉または電気炉等を用いて、上記した組成を有する溶鋼を溶製する。この溶鋼の溶製方法は、特定の技術に限定せず、従来から知られている技術を使用する。次いで、得られた溶鋼を、連続鋳造法や造塊法等によって鋼材(たとえばビレット等)を製造する。この鋼材を加熱した後、熱間圧延を施し、さらに乾式の冷間圧延(すなわち伸線)を施して鋼素線を製造する。熱間圧延や冷間圧延の操業条件は、特定の条件に限定せず、所望の寸法形状の鋼素線を製造する条件であれば良い。
さらに鋼素線は、焼鈍−酸洗−銅めっき−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を必要に応じて順次施して、所定の製品すなわち溶接用鋼ワイヤとなる。
正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接においては、逆極性の溶接に比べて、給電不良に起因してアークが不安定になりやすい。しかし、鋼素線の表面に厚さ0.5μm以上の銅めっきを施すことによって、溶接用鋼ワイヤの給電不良に起因するアークの不安定化を防止できる。なお、銅めっきの厚さを0.8μm以上とすると、給電不良防止の効果が顕著に発揮されるので一層好ましい。このようにして銅めっきを厚目付とすることによって、給電チップの損耗も低減できるという効果も得られる。
しかし鋼素線中のCu含有量も含めて、溶接用鋼ワイヤのCu量が3.0質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、溶接用鋼ワイヤのCu量(すなわち鋼素線のCu含有量と銅めっきのCu含有量の合計)を3.0質量%以下とするのが好ましい。
このようにして製造した溶接用鋼ワイヤを用いて炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際に、給電の安定性を高めて、溶滴のスプレー移行を安定して維持するために、溶接用鋼ワイヤの平坦度(すなわち実表面積/理論表面積)を1.01未満とすることが好ましい。溶接用鋼ワイヤの平坦度は、伸線加工におけるダイス管理を厳格に行なうことによって1.01未満の範囲に維持することが可能である。
溶接用鋼ワイヤの送給性を向上するために、溶接用鋼ワイヤの表面(すなわち鋼素線の表面あるいは銅めっきの表面)に潤滑油を塗布しても良い。潤滑油の塗布量は、溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.35〜1.7gの範囲内が好ましい。
なお、溶接用鋼ワイヤを製造する工程で、溶接用鋼ワイヤの表面に種々の不純物が付着する。特に固体の不純物の付着量を、溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.01g以下に抑制すると、給電の安定性が一層向上する。
このようして製造した溶接用鋼ワイヤを用いてガスシールドアーク溶接を行なう際のシールドガスと極性について、以下に説明する。
シールドガスは、ArガスとCO2 ガスとを合計60体積%以上含有する混合ガスを用いる。なお、CO2 ガスを単独(すなわちCO2 ガスの比率:100体積%)でシールドガスとして使用しても、支障なくガスシールドアーク溶接を行なうことができる。
ガスシールドアーク溶接は、酸化性ガスを含まない不活性ガスのArをシールドガスとして用いるミグ溶接,不活性なArと活性なCO2 との混合ガスをシールドガスとして用いる混合ガスシールドアーク溶接,活性なCO2 をシールドガスとして用いる炭酸ガスシールドアーク溶接に大別される。一般に、ミグ溶接と混合ガスシールドアーク溶接では溶滴のスプレー移行が可能であるが、炭酸ガスシールドアーク溶接ではCO2 の解離−吸熱反応によって溶滴はグロビュール移行となることが知られている。しかし本発明を適用すれば、炭酸ガスシールドアーク溶接であっても溶滴のスプレー移行が可能となる。
また希土類元素を含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを用いる場合は、正極性でガスシールドアーク溶接を行なうことが好ましい。その理由は、希土類元素が正極性でアークを安定させ、溶滴のスプレー移行を促進するからである。
製鋼段階で成分を調整し、連続鋳造によって製造されたビレットを熱間圧延して、直径5.5〜7.0mmの線材とした。次いで冷間圧延(すなわち伸線)によって直径2.0〜2.8mmの鋼素線とした。得られた鋼素線の成分を表1,2に示す。
Figure 2008213042
Figure 2008213042
その後、これらの鋼素線を、露点10℃以下,酸素濃度200体積ppm以下,二酸化炭素濃度0.1体積%以下の窒素雰囲気中で焼鈍した。その後、 鋼素線に酸洗を施し、次いで必要に応じて鋼素線の表面に銅めっきを施した。さらに冷間で伸線加工(乾式伸線)を施して、直径0.8〜1.6mmの溶接用鋼ワイヤを製造した。さらに、溶接用鋼ワイヤの表面に潤滑油を溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.4〜0.8g塗布した。
これらの溶接用鋼ワイヤを用いて厚鋼板(V型開先)のガスシールドアーク溶接を初層のみ行なった。ガスシールドアーク溶接は6軸溶接ロボットを用い、シールドノズルはV字型に加工してシールド性を確保した。シールドガスの流量は20〜25 liter/分とした。その他の溶接条件は表3に示す。
Figure 2008213042
初層の溶接ビードを目視で観察し、溶接ビード中央の盛り上がり(凸)が2mm未満を良(○),溶接ビード中央の盛り上がり(凸)が2mm以上5mm未満を可(△),溶接ビード中央の盛り上がり(凸)が5mm以上またはピットが認められたものを不可(×)として評価した。その結果を表4に示す。
また、初層の溶接ビードの溶接開始点から20mm,100mm,中央(=125mm),150mm,230mmの5ケ所で高温割れの有無を調査した。5ケ所の調査結果にて、いずれも高温割れが認められなかったものを良(○),1ケ所でも高温割れが認められたものを不可(×)として評価した。その結果を表4に示す。
さらに、初層の溶接ビードの溶接開始点から20mm,100mm,中央(=125mm),150mm,230mmの5ケ所の断面を観察して、溶け込みを観察した。5ケ所の調査結果にて、いずれも深さ1mm以上の溶け込みが認められたものを良(○),いずれも溶け込みが認められるが1ケ所でも深さ1mm未満の溶け込みが認められたものを可(△),1ケ所でも溶け込みが認められなかったもの(溶け込み深さ0mm)を不可(×)として評価した。その結果を表4に示す。
Figure 2008213042
表4から明らかなように、溶接ビードの外観は発明例の方が優れていた。また高温割れは発明例では認められず、溶け込みも発明例の方が良好であった。
溶接トーチの移動範囲の例を模式的に示す平面図である。 溶接トーチの先端の運動の例を示す平面図である。
符号の説明
1 溶融プール
2 溶接線
3 溶接トーチが最も前進したときの溶接トーチの先端位置
4 溶接トーチが最も後退したときの溶接トーチの先端位置
5 溶接トーチ

Claims (5)

  1. 溶接トーチをオシレートさせながら溶接を行なうガスシールドアーク溶接方法において、前記オシレートの溶接線に平行な成分が10〜45mmの範囲内で毎分30〜150回オシレートさせながら開先角度50°以下のガスシールドアーク溶接を行なうことを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
  2. 前記オシレートの回数をW(回/分)とし、溶接速度をS(cm/分)として、下記の(1)式で算出されるD値が0.5〜10.0の範囲内を満足するとともに、前記溶接速度が5〜60cm/分の範囲内を満足することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接方法。
    D=W/S ・・・(1)
    W:オシレートの回数(回/分)
    S:溶接速度(cm/分)
  3. 希土類元素を0.015〜0.100質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを用いて正極性でガスシールドアーク溶接を行なうことを特徴とする請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接方法。
  4. 前記シールドガスが、CO2 ガスとArガスとを合計60体積%以上含有する混合ガスであることを特徴とする請求項1、2または3に記載のガスシールドアーク溶接方法。
  5. 前記シールドガスが、CO2 ガス100体積%であることを特徴とする請求項1、2または3に記載のガスシールドアーク溶接方法。
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