JP2005219062A - Yagレーザアークハイブリッド溶接方法 - Google Patents

Yagレーザアークハイブリッド溶接方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ガスシールドアーク溶接法とYAGレーザ溶接法とを組み合わせて、高能率の溶接施工を可能にし、しかもブローホール等の溶接欠陥を抑制するとともにスパッタの発生量を低減でき、優れたビード形状が得られる溶接方法を提供する。
【解決手段】YAGレーザ溶接法とガスシールドアーク溶接法とを組み合わせて用いるYAGレーザアークハイブリッド溶接方法において、希土類元素を 0.015〜0.100 質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを使用してガスシールドアーク溶接法を行なう。
【選択図】なし

Description

本発明は、ガスシールドアーク溶接法とYAGレーザ溶接法とを組み合わせて、高能率の溶接施工を可能にし、しかもスパッタ発生量を低減し、溶接金属に欠陥が発生するのを抑制できる溶接方法に関する。
ガスシールドアーク溶接は、電極として用いる溶接ワイヤが溶解して消耗する溶接方法であり、このような溶接技術を一般に溶極式溶接法あるいは消耗電極式溶接法と呼んでいる。ここでは溶極式溶接法と記す。
シールドガスは、溶滴の挙動や溶接金属の特性に悪影響を及ぼすことのない成分を適宜選択して、様々な種類のガスが使用される。特に、シールドガスとしてCO2 ガスを用いる炭酸ガスシールドアーク溶接は、CO2 ガスが安価であるとともに、能率の良い溶接法であるので、鉄鋼材料の溶接に広く利用されている。
炭酸ガスシールドアーク溶接で使用される電極(すなわち溶接ワイヤ)は、ソリッドワイヤとフラックスコアードワイヤに大別される。
ソリッドワイヤは、鋼素線からなる溶接ワイヤであり、素材となる鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布したものもある。このソリッドワイヤは、強度と靭性に優れた溶接金属が得られることが知られている。一方、フラックスコアードワイヤ(以下、FCワイヤという)は、鋼製の外殻の内側に溶接用フラックスを充填したワイヤであり、優れたビード形状が得られる。
FCワイヤがビード形状に優れる理由は、溶接ワイヤの先端から鋼板の溶融メタルに移行する溶滴が細かいので、溶融メタルの表面揺動が小さく抑えられ、かつ溶接用フラックスに多量に含まれるスラグ形成剤によって生成したスラグがビードを覆うからである。
ソリッドワイヤでは、溶接ワイヤの先端から鋼板の溶融メタルに移行する溶滴が粗くかつ移行が不規則であるから、溶融メタルの表面揺動が大きく、鋼素線に含有される脱酸元素(すなわちSi,Mn,Ti,Zr,Al)の酸化によってスラグが形成される。その結果、スラグが不均一に分布し、ビードを完全に覆うには至らない。また、ソリッドワイヤを使用した炭酸ガスシールドアーク溶接では、スラグがビードの端部に集積する。したがって、ソリッドワイヤを炭酸ガスシールドアーク溶接で使用すると、ビード形状は不安定になる。
ソリッドワイヤはFCワイヤに比べて安価であるから、ソリッドワイヤを使用して炭酸ガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、溶接金属の強度と靭性が優れているという本来の特性に加えて、FCワイヤと同等の優れたビード形状が得られるなら、ソリッドワイヤを使用することによって施工コストの削減が可能となる。
通常、炭酸ガスシールドアーク溶接のみならず溶極式のガスシールドアーク溶接は、電極(すなわち溶接ワイヤ)を1本使用して溶接を行なう。これに対して、溶接施工能率を高めるためには、複数の熱源を使用する必要がある。そこで、多極化による高能率施工技術が種々提案されている。たとえば特開2000-288734 号公報には、YAGレーザ溶接法の特徴である高速かつ省入熱での溶接施工と汎用性に優れたアーク溶接とを組み合わせた溶接法が開示されている。
しかしながら特開2000-288734 号公報に開示された技術では、アーク溶接で多量のスパッタが発生し、しかもYAGレーザ溶接で溶込みが深くなるためブローホールが発生しやすいという問題があった。そこでレーザ出力,アーク溶接電流,レーザ集光点とアーク点の距離,シールドガスの種類について、様々な検討がなされているが、いずれもスパッタ発生量の削減,ブローホールの防止を達成するには至っていない。
特開2000-288734 号公報
本発明は上記のような問題を解消し、ガスシールドアーク溶接法とYAGレーザ溶接法とを組み合わせて、高能率の溶接施工を可能にし、しかもブローホール等の溶接金属の欠陥(以下、溶接欠陥という)を抑制するとともにスパッタの発生量を低減でき、優れたビード形状が得られる溶接方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、ガスシールドアーク溶接法とYAGレーザ溶接法とを組み合わせた溶接法(以下、YAGレーザアークハイブリッド溶接法という)において、溶接欠陥の抑制とスパッタ発生量の低減とを達成する溶接方法について鋭意検討した。その際、従来の検討課題とは大きく視点を変え、溶接用フラックスを内装していないソリッドワイヤと呼ばれるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接用鋼ワイヤという)に添加される微量元素と溶接の極性について詳細に調査し、以下に述べる知見を得た。
(1) 希土類元素(以下、REM という)を添加した鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤをマイナス極とする正極性のガスシールドアーク溶接法を行なうことによって、ガスシールドアーク溶接のマイマス極(すなわち溶接用鋼ワイヤ)のアーク点が集中して溶滴移行が安定するとともに、プラス極(すなわち鋼板)のアーク点も集中して深い溶込みが得られる。さらにYAGレーザ溶接法と組み合わせて、YAGレーザを先行させ、その後、ガスシールドアーク溶接を行なうように配置すると、YAGレーザ溶接によって生じた溶接金属中のブローホールは、ガスシールドアーク溶接によって再溶融し、気泡となって排出される。その結果、溶接欠陥を抑制し、かつスパッタの発生も低減できる。
(2) 鋼素線に REMを添加しさらにAl,Ti,Zr,O,Caを添加した溶接用鋼ワイヤを正極性のガスシールドアーク溶接で使用することによって、スパッタの発生量をさらに低減でき、かつ優れたビード形状が得られる。
(3) ガスシールドアーク溶接のシールドガスとしてCO2 を60体積%以上含有するガスを使用することによって、YAGレーザアークハイブリッド溶接の施工コストを削減できる。シールドガスの残部(すなわち40体積%以下)は、Ar,He,H2 およびO2 のうちの1種以上を混合するのが好ましい。なお、 100体積%CO2 のシールドガスを用いても何ら問題はない。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、YAGレーザ溶接法とガスシールドアーク溶接法とを組み合わせて用いるYAGレーザアークハイブリッド溶接方法において、希土類元素を 0.015〜0.100 質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを使用してガスシールドアーク溶接法を行なうYAGレーザアークハイブリッド溶接方法である。
本発明のYAGレーザアークハイブリッド溶接方法では、鋼素線が、希土類元素に加えて、Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種を含有し、かつO:0.0080質量%以下,Ca:0.0008質量%以下を含有する組成を有することが好ましい。さらに鋼素線が、前記した組成に加えて、Al: 0.005〜3.00質量%を含有することが好ましい。
またガスシールドアーク溶接法で用いるシールドガスが、CO2 を60体積%以上含有するガスであることが好ましい。そのシールドガスは、 100体積%CO2 であっても良いし、あるいはCO2 を60体積%以上含有しかつAr,He,H2 およびO2 のうちの1種以上を合計40体積%以下含有する混合ガスであっても良い。
鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(すなわち溶接用鋼ワイヤ)とは、溶接用フラックスを内装せず、素材となる鋼素線を主体とするワイヤ(すなわちソリッドワイヤ)を指す。また本発明は、鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布した溶接用鋼ワイヤにも支障なく適用できる。
本発明によれば、ガスシールドアーク溶接法とYAGレーザ溶接法とを組み合わせて、高能率の溶接施工を可能にし、しかもブローホール等の溶接欠陥を抑制するとともにスパッタの発生量を低減でき、優れたビード形状が得られる。
本発明のYAGレーザアークハイブリッド溶接方法のガスシールドアーク溶接で使用する溶接用鋼ワイヤは、ソリッドワイヤとFCワイヤに大別される溶接ワイヤのうち、ソリッドワイヤを対象とする。
まず本発明で使用するガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(すなわち溶接用鋼ワイヤ)の鋼素線の成分を限定した理由について説明する。
REM : 0.015〜0.100 質量%
REM は、製鋼および鋳造時の介在物の微細化,溶接金属の靱性改善のために有効な元素である。また、正極性のガスシールドアーク溶接においては、溶滴の微細化と移行の安定化を図るために不可欠な元素であり、深い溶込みが得られるという効果を有する。そのため、YAGレーザアークハイブリッド溶接方法においては、先行するYAGレーザ溶接によって生じたブローホールを再溶融して気泡として浮上させ、溶接欠陥を抑制することができる。REM 含有量が 0.015質量%未満では、スパッタ低減と溶接欠陥抑制の効果が得られない。一方、 0.100質量%を超えると、溶接用鋼ワイヤの製造工程で割れが生じたり、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、REM は 0.015〜0.100 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.025〜0.050 質量%である。
ここで REMとは、周期表の3族に属する元素の総称である。本発明では、原子番号57〜71の元素を使用するのが好ましく、特にCe,Laが好適である。Ce,Laを鋼素線に添加する場合は、CeまたはLaを単独で添加しても良いし、CeおよびLaを併用しても良い。なお、CeおよびLaをともに添加する場合は、あらかじめCe:40〜90質量%,La:10〜60質量%の範囲内で混合して得られた混合物を使用するのが好ましい。
なお本発明は、基本成分としてC,Si,Mn,P,Sを下記の通り含有する鋼素線からなる溶接用ワイヤに適用するのが好ましい。
C:0.20質量%以下
Cは、溶接金属の強度を確保するのに必要な元素であり、溶融メタルの粘性を低下させて流動性を向上させる効果がある。しかしC含有量が0.20質量%を超えると、正極性の溶接において溶滴および溶融メタルの挙動が不安定となるのみならず、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cは0.20質量%以下を満足する必要がある。一方、C含有量を過剰に減少させると溶接金属の強度を確保できない。そのため、 0.003〜0.20質量%とするのが好ましい。なお、0.01〜0.10質量%が一層好ましい。
Si:0.05〜2.5 質量%
Siは、脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。ガスシールドアーク溶接では、Si含有量が0.05質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。さらに正極性のガスシールドアーク溶接におけるアークの拡がりを抑え、溶滴を微細化し挙動を安定化する作用も有する。一方、 2.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、Siは0.05〜2.5 質量%の範囲内を満足する必要がある。ただしSi含有量が0.65質量%を超えると、小粒のスパッタが増加する傾向が現われるので、0.05〜0.65質量%の範囲内が好ましい。
Mn:0.25〜3.5 質量%
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。Mn含有量が0.25質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。一方、 3.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Mnは0.25〜3.5 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、溶融メタルの脱酸を促進し、ブローホールを防止するためには、0.45質量%以上が望ましい。そのため、0.45〜3.5 質量%とするのが好ましい。
P:0.05質量%以下
Pは、鋼の融点を低下させるとともに、電気抵抗率を向上させ、溶融効率を向上させる元素である。さらに正極性のガスシールドアーク溶接において、溶滴を微細化し、アークを安定化する作用も有する。しかしP含有量が0.05質量%を超えると、正極性のガスシールドアーク溶接において溶融メタルの粘性が著しく低下し、アークが不安定となり、小粒のスパッタが増加する。また、溶接金属の高温割れを生じる危険性が増大する。したがって、Pは0.05質量%以下とした。なお、好ましくは0.03質量%以下である。一方、 鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でPを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から 0.002質量%以上が望ましい。そのため、 0.002〜0.03質量%とするのが好ましい。
S:0.02質量%以下
Sは、溶融メタルの粘性を低下させ、溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴の離脱を促進し、正極性のガスシールドアーク溶接においてアークを安定化する。またSは、正極性のガスシールドアーク溶接においてアークを広げ、溶融メタルの粘性を低下させてビードを平滑にする効果も有する。しかしS含有量が0.02質量%を超えると、小粒のスパッタが増加するとともに、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Sは0.02質量%以下とした。一方、 鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でSを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から 0.002質量%以上が望ましい。そのため、 0.002〜0.02質量%とするのが好ましい。
さらに本発明では、上記した組成に加えて、鋼素線がTi,Zr,O,Ca,Alを含有することが好ましい。
Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種
Ti,Zrは、いずれも強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加する元素である。さらに溶融メタルの脱酸によって粘性の低下を抑制してビード形状を安定化(すなわちハンピングビードを抑制)する効果がある。このような効果を有する故に 350A以上の高電流溶接において有効な元素であり、必要に応じて添加する。Tiが0.02質量%未満,Zrが0.02質量%未満では、この効果は得られない。一方、 Tiが0.50質量%を超える場合,Zrが0.50質量%を超える場合は、溶滴が粗大化して大粒のスパッタが多量に発生する。したがって、Ti,Zrを含有する場合は、Ti:0.02〜0.50質量%,Zr:0.02〜0.50質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
O:0.0080質量%以下
Oは、正極性のガスシールドアーク溶接において溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴に発生するアーク点を不安定にするとともに、溶滴の挙動を不安定にする作用がある。O含有量が 0.0080質量%を超えると、正極性の高電流溶接におけるアークの集中と安定化というREM 添加の効果が損なわれ、溶滴の揺動が増大してスパッタが多量に発生する。また、YAGレーザアークハイブリッド溶接方法においては、先行するYAGレーザ溶接によって生じたブローホールを再溶融できずに溶接欠陥を残留させてしまう問題が生じる。したがって、Oは0.0080質量%以下とするのが好ましい。ただし、O含有量が0.0010質量%未満では、O添加による低粘性化による溶滴の離脱性向上効果は充分に得られない。したがって、 0.0010〜0.0080質量%が好ましく、さらに0.0010〜0.0050質量%が一層好ましい。
Ca:0.0008質量%以下
Caは、製鋼および鋳造時に不純物として溶鋼に混入したり、あるいは伸線加工時に不純物として鋼素線に混入する。正極性のガスシールドアーク溶接では、Ca含有量が0.0008質量%を超えると、高電流溶接におけるREM 添加のアークの集中と安定化効果が損なわれる。したがって、Caは0.0008質量%以下とするのが好ましい。
Al: 0.005〜3.00質量%
Alは、強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加する元素である。さらに溶融メタルの脱酸によって粘性を低下してビード形状を安定化(すなわちハンピングビードを抑制)する効果がある。逆極性のガスシールドアーク溶接では、明確な溶滴移行の安定化効果は認められないが、正極性のガスシールドアーク溶接では、 350A以上の高電流溶接において溶滴移行の安定化効果が顕著に発揮される。一方、低電流溶接においては、短絡移行回数を増加させて溶滴移行の均一化とビード形状の改善を達成できる。また、Oとの親和力によって、溶接用鋼ワイヤの製造段階における REMの酸化ロスを低減する効果も有する。Alが 0.005質量%未満では、このような効果は得られない。一方、 Alが3.00質量%を超える場合は、溶接金属の結晶粒が粗大化し、靭性が著しく低下する。したがって、Alは 0.005〜3.00質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
さらに必要に応じて下記の元素を添加しても、本発明の効果を減じるものではない。
Cr:0.02〜3.0 質量%,Ni:0.05〜3.0 質量%,Mo:0.05〜1.5 質量%,Cu:0.05〜3.0 質量%,B:0.0005〜0.015 質量%,Mg: 0.001〜0.20質量%,Nb: 0.005〜0.5 質量%,V: 0.005〜0.5 質量%
Cr,Ni,Mo,Cu,B,Mgは、いずれも溶接金属の強度を増加し、耐候性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cr,Ni,Mo,Cu,B,Mgを含有する場合は、Cr:0.02〜3.0 質量%,Ni:0.05〜3.0 質量%,Mo:0.05〜1.5 質量%,Cu:0.05〜3.0 質量%,B:0.0005〜0.015 質量%,Mg: 0.001〜0.20質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
Nb: 0.005〜0.5 質量%,V: 0.005〜0.5 質量%
Nb,Vは、いずれも溶接金属の強度,靭性を向上し、アークの安定性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Nb,Vを含有する場合は、Nb: 0.005〜0.5 質量%,V: 0.005〜0.5 質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
上記した鋼素線の成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。たとえば、鋼材を溶製する段階や鋼素線を製造する段階で不可避的に混入する代表的な不可避的不純物であるNは、0.020質量%以下に低減するのが好ましい。
次に、本発明の溶接用鋼ワイヤの製造方法について説明する。
転炉または電気炉等を用いて、上記した組成を有する溶鋼を溶製する。この溶鋼の溶製方法は、特定の技術に限定せず、従来から知られている技術を使用する。次いで、得られた溶鋼を、連続鋳造法や造塊法等によって鋼材(たとえばビレット等)を製造する。この鋼材を加熱した後、熱間圧延を施し、さらに乾式の冷間圧延(すなわち伸線)を施して鋼素線を製造する。熱間圧延や冷間圧延の操業条件は、特定の条件に限定せず、所望の寸法形状の鋼素線を製造する条件であれば良い。
さらに鋼素線は、焼鈍−酸洗−銅めっき−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を必要に応じて順次施して、所定の製品すなわち溶接用鋼ワイヤとなる。なお本発明では、必ずしも鋼素線に銅めっきを施す必要はなく、鋼素線の表面に潤滑剤を塗布した溶接用鋼ワイヤであっても何ら問題なく使用できる。
鋼素線の表面に潤滑剤を安定して付着させ、給電の安定性を向上するために、鋼素線の平坦度(=実表面積/理論表面積)を1.0005以上1.0100未満とするのが好ましい。鋼素線の平坦度は、伸線加工で使用するダイスの管理を厳格に行なうことによって、1.0005以上1.0100未満の範囲に維持することは可能である。
鋼素線の表面に銅めっきを施す場合は、厚さ 0.6μm以上の銅めっきを施すことによって、溶接用鋼ワイヤの給電不良に起因するアークの不安定化を防止できる。なお、銅めっきの厚さを 0.8μm以上とすると、給電不良防止の効果が顕著に発揮されるので一層好ましい。このようにして銅めっきを厚目付とすることによって、給電チップの損耗も低減できるという効果も得られる。
このようして製造した溶接用鋼ワイヤを用いて正極性ガスシールドアーク溶接を行なう際の好適な溶接条件について、以下に説明する。
シールドガスは、CO2 を60体積%以上含有するガスを用いる。シールドガスの残部(すなわち40体積%以下)は、Ar,He,H2 およびO2 のうちの1種以上のガスを混合するのが好ましい。なお、CO2 ガスを単独(すなわちCO2 の混合比率: 100体積%)でシールドガスとして使用しても支障なく正極性ガスシールドアーク溶接を行なうことができる。ガスシールドアーク溶接の溶接電流は 200〜350 A,溶接電圧は25〜38V(電流とともに上昇),突き出し長さは15〜30mm,ワイヤ径は 0.8〜1.6mm が好ましい。
一方、YAGレーザ溶接のシールドガスは、上記したガスシールドアーク溶接と同じシールドガスを使用する。レーザ出力は2kW以上,焦点深さ−2〜+10mm,焦点径2mm以下(開先のギャップに応じて変化する)が好ましい。
これらのガスシールドアーク溶接とYAGレーザ溶接を組み合わせたYAGレーザアークハイブリッド溶接を行なうにあたって、YAGレーザ溶接を先行させ、YAGレーザ溶接の後でガスシールドアーク溶接を行なうのが好ましい。その理由は、YAGレーザ溶接によって溶接金属内に生じたブローホールが、ガスシールドアーク溶接によって再溶融して気泡となって排出されるからである。
YAGレーザアークハイブリッド溶接の溶接速度は 150〜250 cm/分,YAGレーザの集光点(すなわち焦点)とガスシールドアーク溶接のアーク点との距離は2〜10mmが好ましい。
溶接する母材(すなわち鋼板)の鋼種は特に限定されないが、JIS規格G3106 に規定されるSi−Mn系の溶接構造用圧延鋼材(SM材)や、JIS規格G3136 に規定される建築構造用鋼材(SN材)に適用するのが好ましい。
製鋼段階で成分を調整し、連続鋳造によって製造されたビレットを熱間圧延して、直径 5.5〜7.0mm の線材とした。次いで冷間圧延(すなわち伸線)によって直径 2.0〜2.8mm とし、必要に応じて窒素雰囲気中で焼鈍,酸洗,Cuめっきを施し、さらに冷間で固形潤滑剤を用いた乾式伸線あるいは湿式伸線を施して、直径1.4mm の鋼素線を製造した。さらに鋼素線に潤滑剤を塗布(溶接用鋼ワイヤ10kgあたり 0.5〜0.8 g)することによって、十分な送給性を確保できるように調整した。得られた鋼素線の成分は、表1に示す通りである。なお表1中の鋼素線番号1〜10は、成分が本発明の範囲を満足する例であり、鋼素線番号11は、REM 含有量が本発明の範囲を外れる例である。
Figure 2005219062
これらの溶接用鋼ワイヤを使用した正極性のガスシールドアーク溶接とYAGレーザ溶接とを組み合わせて、YAGレーザアークハイブリッド溶接を行ない、厚さ12mmの鋼板の突合せ継手を製作した。その際、YAGレーザ溶接を先行させ、YAGレーザ溶接の後でガスシールドアーク溶接を行なうように配置した。YAGレーザアークハイブリッド溶接の条件は表2に示す通りである。
Figure 2005219062
試験番号1〜11の継手を製作するにあたって、Cu製捕集容器内でYAGレーザアークハイブリッド溶接を行ないながら飛散したスパッタを回収し、捕集したスパッタの重量を測定し、スパッタの発生量が溶接時間1分あたり 0.3g以下を良(○), 0.3g超え〜 0.6g以下を可(△), 0.6g超えを不可(×)として評価した。その結果を表3に示す。
さらに得られた継手から長さ100mm の継手サンプルを採取し、JIS規格Z 3104 に準拠してX線透過検査を行ない直径1mm以上のブローホールの数を測定した。ブローホールの個数が3個以下を良(○),4〜7個を可(△),8個以上を不可(×)として評価した。その結果を表3に併せて示す。
Figure 2005219062
表3から明らかなように、発明例(すなわち試験番号1〜10)は、高能率の溶接でスパッタの発生が少なく、しかも溶接欠陥が抑制された。一方、比較例(すなわち試験番号11)は、鋼素線の REM含有量が不足しているので、ガスシールドアーク溶接のアークが不安定になり、スパッタが多量に飛散し、溶接欠陥も発生した。
なお、ビード形状について定量的な評価は省略するが、発明例(すなわち試験番号1〜10)のビード形状は、いずれも問題なく良好であった。
つまり本発明によれば、YAGレーザアークハイブリッド溶接において、銅めっきを施していないソリッドワイヤを使用しても、スパッタの発生量を低減し、かつ溶接欠陥を抑制できる。

Claims (6)

  1. YAGレーザ溶接法とガスシールドアーク溶接法とを組み合わせて用いるYAGレーザアークハイブリッド溶接方法において、希土類元素を 0.015〜0.100 質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを使用して前記ガスシールドアーク溶接法を行なうことを特徴とするYAGレーザアークハイブリッド溶接方法。
  2. 前記鋼素線が、前記希土類元素に加えて、Ti:0.02〜0.50質量%およびZr:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種を含有し、かつO:0.0080質量%以下、Ca:0.0008質量%以下を含有する組成を有することを特徴とする請求項1に記載のYAGレーザアークハイブリッド溶接方法。
  3. 前記鋼素線が、前記組成に加えて、Al: 0.005〜3.00質量%を含有することを特徴とする請求項2に記載のYAGレーザアークハイブリッド溶接方法。
  4. 前記ガスシールドアーク溶接法で用いるシールドガスが、CO2 を60体積%以上含有するガスであることを特徴とする請求項1、2または3に記載のYAGレーザアークハイブリッド溶接方法。
  5. 前記シールドガスが、 100体積%CO2 であることを特徴とする請求項4に記載のYAGレーザアークハイブリッド溶接方法。
  6. 前記シールドガスが、CO2 を60体積%以上含有し、かつAr、He、H2 およびO2 のうちの1種以上を合計40体積%以下含有する混合ガスであることを特徴とする請求項4に記載のYAGレーザアークハイブリッド溶接方法。
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