JP6969705B1 - ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ、ガスシールドアーク溶接方法、およびガスシールドアーク溶接継手の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
例えば、特許文献1には、炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤが記載されている。特許文献1に記載された鋼ワイヤは、質量%で、C:0.20%以下、Si:0.05〜2.5%、Mn:0.25〜3.5%、希土類元素:0.025〜0.050%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Ca:0.0008%以下を含有するとともに、Ti:0.02〜0.50%、Zr:0.02〜0.50%およびAl:0.02〜3.00%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素線からなる炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤである。
特許文献1に記載された鋼ワイヤでは、必要に応じて、所定量の、K、Cr、Ni、MoおよびVから選ばれた1種または2種以上を含有してもよいとしている。特許文献1に記載された技術によれば、正極性の炭酸ガスシールドアーク溶接において、アークの安定性に優れたスプレー移行を達成でき、安定した継手溶接が可能で、しかも平滑なビード形状を得ることができる、としている。
また、特許文献2に記載された技術では、REMを含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤ(ソリッドワイヤ)を用いて厚鋼板の狭開先突合せ溶接を行う。しかし、使用する溶接用鋼ワイヤ(ソリッドワイヤ)には、特許文献1に記載された技術と同様の問題がある。
また、本発明は、このガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いた、ガスシールドアーク溶接方法およびガスシールドアーク溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
また、所望の鋼製外皮とするためには、素材となる鋼板に種々の加工や、圧延加工を施す。その効果により、ソリッドワイヤにREMを含有させた場合に比べ、REMの偏析も問題のない程度まで軽減でき、所定量のREMを含有する溶接用鋼ワイヤを安定的に製造できることを知見した。
また、ガスシールドアーク溶接として、MAG溶接あるいは炭酸ガスアーク溶接を正極性で行う観点からは、鋼製外皮にREMを添加することで溶滴近傍のワイヤ表面に安定したカソードスポットを形成し、電流経路が安定化する。その結果、安定した溶滴移行が得られるといった効果もある。
一方、ガスシールドアーク溶接として、MIG溶接を行う観点からは、逆極性のMIG溶接では鋼板表面の酸化物がカソードスポットとなりアークが不安定となりやすい、という課題がある。この課題に対しては、鋼製外皮にREMを添加することで溶融池中にREMが移行し、溶融池表面に安定したカソードスポットが形成されることを知見した。その結果、アークが安定するといった効果が得られる。
(1)鋼製外皮と、該鋼製外皮に内包される充填材とからなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤであって、
前記鋼製外皮が、該鋼製外皮全質量に対する質量%で、REM:0.005〜0.20%を含む外皮組成の鋼製外皮であり、
前記ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤが、前記鋼製外皮の全質量と前記充填材の全質量との合計質量に対する質量%で、
C:0.01〜0.30%、 Si:0.10〜5.00%、
Mn:0.50〜5.0%、 P:0.050%以下、
S:0.050%以下、 REM:0.004〜0.18%、
Cr:3.0%以下、 Ni:3.0%以下、
Mo:0.02〜1.5%、 Cu:3.0%以下、
B:0.0001〜0.005%、 Ti:0.02〜0.40%、
Al:0.001〜0.20%、 Ca:0.0008%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する、ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
(2)前記鋼製外皮の前記外皮組成が、該鋼製外皮全質量に対する質量%で、さらにC:0.15%以下、Mn:0.60%以下、P:0.100%以下、S:0.050%以下、Si:3.0%以下を含む、(1)に記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
(3)前記鋼製外皮が、溶接管またはシームレスパイプである、(1)または(2)に記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
(4)前記充填材の全質量は、前記ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤの全質量に対して20%以下である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
(5)(1)〜(4)のいずれか1つに記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いて、正極性でガスシールドアーク溶接を行う、ガスシールドアーク溶接方法。
(6)(1)〜(4)のいずれか1つに記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いて、逆極性のMIG溶接でガスシールドアーク溶接を行う、ガスシールドアーク溶接方法。
(7)(5)または(6)に記載のガスシールドアーク溶接方法を用いた、ガスシールドアーク溶接継手の製造方法。
REM(希土類元素)は、原子番号57〜71の元素(ランタノイド)とSc、Yを含めた元素の総称である。本発明では、REMは、MAG溶接あるいは炭酸ガスアーク溶接を正極性で行う場合に、液滴のスプレー移行を実現するために不可欠の元素である。また、REMは、MIG溶接においては、アークを安定させてビードの蛇行を抑制する作用を有する。このような効果は、REM:0.005%以上の含有で顕著となる。一方、0.2%を超えるREMの含有は、溶滴中のREMの濃淡(バラツキ)が助長されてアークが不安定となり、所望の効果を得ることができない。このため、鋼製外皮に含まれるREM含有量は0.005〜0.20%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.015〜0.10%である。更に好ましくは、0.030%以上であり、0.060%以下である。
上記したREMの含有量は、REMに含まれる各元素の合計の含有量を表わす。本発明では、上記したREMに含まれる各元素を単独でも、あるいはそれらを複合して含有してもよい。なお、REMのなかでは、La、Ceとすることが好ましい。
このような理由から、鋼製外皮に含まれるC含有量は、0.15%以下が好ましい。溶接金属の機械的特性の観点からは、C含有量は0.10%以下がより好ましく、0.08%以下が更に好ましい。C含有量は0.01%以上が好ましく、0.02%以上がより好ましい。
鋼製外皮に含まれるMn含有量は、0.60%以下が好ましい。製造性の観点からは、Mn含有量は0.55%以下がより好ましく、0.50%以下が更に好ましい。Mn含有量は0.20%以上が好ましく、0.25%以上がより好ましい。
鋼製外皮に含まれるP含有量は、0.100%以下が好ましい。製造性の観点からは、P含有量は0.050%以下がより好ましく、0.010%以下が更に好ましい。P含有量は0.002%以上が好ましく、0.005%以上がより好ましい。
鋼製外皮に含まれるS含有量は、0.050%以下が好ましい。製造性の観点からは、S含有量は0.050%以下がより好ましく、0.010%以下が更に好ましい。S含有量は0.002%以上が好ましく、0.005%以上がより好ましい。
鋼製外皮に含まれるSi含有量は、3.0%以下が好ましい。外皮の加工性の観点からは、Si含有量は2.0%以下がより好ましく、1.5%以下が更に好ましい。Si含有量は0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましい。
各元素の含有率(質量%)=[{(鋼製外皮に含まれる各元素の質量)+(充填材に含まれる各元素の質量)}/(溶接用鋼ワイヤ全質量)]×100
なお、充填材の質量は、上述したよう、溶接用鋼ワイヤ全量(全質量)に対する割合で、10〜20%とすることが、ワイヤ製造上の観点から好ましい。
C:0.01〜0.30%
Cは、溶接金属の強度確保に有効に寄与する元素である。このような効果は、0.01%以上のCを含有することで顕著となる。一方、0.30%を超えるCの含有は、ガスシールドアーク溶接時に、液滴が不安定化するとともに、溶接金属の靭性が低下する。また、0.30%を超えるCの含有は、溶接用鋼ワイヤの製造時に断線しやすくなる。このようなことから、溶接用鋼ワイヤのCの含有量は0.01〜0.30%に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.08%である。より好ましくは0.01%以上であり、0.06%以下である。さらに好ましくは0.02%以上であり、0.05%以下である。
Siは、脱酸作用を有し、溶融金属の脱酸に不可欠な元素であり、このような効果は、0.10%以上のSiを含有することで顕著となる。Siの含有量が0.10%未満では、ガスシールドアーク溶接時に、溶融金属が十分に脱酸されないため、溶接金属にブロー欠陥が生じる。また、溶接用鋼ワイヤの電気抵抗が低くなり、溶融効率が低下する。一方、5.00%を超えるSiの含有は、酸化によるスラグ生成量が増加し、また、溶融金属中で脱酸に寄与するSi量が飽和する。また、溶接用鋼ワイヤの硬さが増加し、加工性が低下する。このようなことから、Siの含有量は0.10〜5.00%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.50〜1.50%である。より好ましくは0.60%以上であり、1.40%以下である。さらに好ましくは0.80%以上であり、1.30%以下である。
Mnは、Siと同様に、脱酸作用を有し、溶融金属の脱酸に不可欠な元素である。Mnは、溶接金属の靭性および強度を確保する作用を有する。このような効果は、0.50%以上のMnを含有することで顕著になる。Mnの含有が0.50%未満では、溶接用鋼ワイヤの電気抵抗が低くなり、溶融効率が低下する。一方、5.0%を超えるMnの含有は、酸化によるスラグ生成量が増加し、また、溶融金属中で脱酸に寄与するMn量が飽和する。また、溶接用鋼ワイヤの硬さが増加し、加工性が低下する。このようなことから、Mnの含有量は0.50〜5.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.0〜3.0%である。より好ましくは1.5%以上であり、2.5%以下である。さらに好ましくは1.8%以上であり、2.2%以下である。
Pは、溶接用鋼ワイヤの融点を低下させ、電気抵抗を増加させて発熱性を高くする作用を有する元素であり、溶接作業能率の向上に寄与する。しかも、Pは正極性溶接でアークを安定化する作用を有する。このような効果は0.010%以上のPを含有することで顕著になる。一方、0.050%を超えるPの含有は、溶融金属の粘性が低下し、アークが不安定化し、小粒のスパッタが多量に発生するとともに、溶接金属に高温割れが発生しやすくなる。このため、Pの含有量は0.050%以下に限定した。なお、好ましくは0.010〜0.050%である。より好ましくは0.015%以上であり、0.045%以下である。さらに好ましくは0.020%以上であり、0.040%以下である。
Sは、溶融金属の粘性を低下させ、溶接時に溶接用鋼ワイヤ先端に懸垂した溶滴の離脱を助けるとともに、正極性の溶接においてアークを安定させる作用を有する。このような効果は、Sの含有量が0.010%以上で顕著となる。一方、0.050%を超えるSの含有は、溶接時に、溶融金属の粘性が低下しすぎて、小粒のスパッタが多量に発生する。また、溶接金属の靭性が低下する。このため、Sの含有量は0.050%以下に限定した。なお、好ましくは0.010〜0.050%である。より好ましくは0.015%以上であり、0.045%以下である。さらに好ましくは0.020%以上であり、0.040%以下である。
REMは、鋼製外皮に含有され、充填材には含有されない。REMは、MAG溶接あるいは炭酸ガスアーク溶接を正極性で行う場合に、液滴のスプレー移行を実現し、MIG溶接を行う場合に、アークを安定させてビードの蛇行を抑制する作用を有する。このような効果は、0.004%以上のREMを含有することで顕著となる。一方、0.18%を超えるREMの含有は、溶滴中のREMの濃淡(バラツキ)が助長されてアークが不安定となり、所望の効果を得ることができない。このため、REMの含有量は0.004〜0.18%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.010%以上であり、0.10%以下である。より好ましくは0.050%以上であり、0.08%以下である。
なお、表2等に示す「ミッシュメタル」とは、希土類鉱石を還元して得られる希土類元素の混合物であり、セリウム(Ce)が40〜50%、ランタン(La)が20〜40%、ネオジウム(Nd)が15%以下、そのほか数パーセントからなる合金添加物の総称である。
Crは、溶接金属の強度を増加させ、さらに耐候性を高める作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.3%以上のCrを含有することが好ましい。一方、3.0%を超えるCrの含有は、溶接金属靭性の低下を招く。このため、Crの含有量は3.0%以下に限定した。なお、好ましくは0.3〜3.0%であり、より好ましくは0.5〜1.0%である。さらに好ましくは0.7%以上であり、0.8%以下である。
Niは、溶接金属の強度を増加させ、さらに耐候性を高める作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.3%以上のNiを含有することが好ましい。一方、3.0%を超えるNiの含有は、溶接金属靭性の低下を招く。このため、Niの含有量は3.0%以下に限定した。なお、好ましくは0.3〜3.0%、より好ましくは0.5〜1.0%である。さらに好ましくは0.6%以上であり、0.9%以下である。さらに一層好ましくは0.7%以上であり、0.8%以下である。
Moは、溶接金属の強度を増加させる作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.02%以上のMoの含有を必要とする。一方、1.5%を超えるMoの含有は、溶接金属の靭性が著しく低下する。このため、Moの含有量は0.02〜1.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.2〜1.0%である。より好ましくは0.3%以上であり、0.9%以下である。さらに好ましくは0.4%以上であり、0.8%以下である。
Cuは、溶接金属の強度を増加させ、さらに耐候性を高める作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.2%以上のCuを含有することが好ましい。一方、3.0%を超えるCuの含有は、溶接金属の靭性が著しく低下する。このため、Cuの含有量は3.0%以下に限定した。なお、好ましくは0.2〜3.0%、より好ましくは0.2〜1.0%である。さらに好ましくは0.4%以上であり、0.8%以下である。
Bは、溶接金属の強度を増加させる作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.0001%以上のBの含有を必要とする。一方、0.005%を超えるBの含有は、溶接金属の靭性が著しく低下する。このため、Bの含有量は0.0001〜0.005%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0005〜0.004%である。より好ましくは0.001%以上であり、0.003%以下である。さらに好ましくは0.002%以上であり、0.003%以下である。
Tiは、脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.02%以上のTiの含有を必要とする。0.02%未満のTiの含有は、溶融金属の脱酸が不十分となるため、粘性が低下し、ビード形状が低下する。一方、0.40%を超えるTiの含有は、溶接金属の靭性が低下する。このため、Tiの含有量は0.02〜0.40%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.10〜0.30%である。より好ましくは0.15%以上であり、0.20%以下である。
Alは、脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上のAlの含有を必要とする。0.001%未満のAlの含有は、溶融金属の脱酸が不十分となるため、粘性が低下し、ビード形状が低下する。一方、0.20%を超えるAlの含有は、溶接金属の靭性が低下する。このため、Alの含有量は0.001〜0.20%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.10〜0.15%である。より好ましくは0.12%以上であり、0.15%以下である。
Caは、正極性の溶接で、アークを安定させる作用を有する元素である。このような効果は、0.0002%以上のCaを含有することで顕著となる。一方、0.0008%を超えるCaの含有は、アークの安定性が阻害される。このため、Caの含有量は0.0008%以下に限定した。なお、好ましくは0.0002〜0.0008%である。より好ましくは0.0002%以上であり、0.0006%以下である。さらに好ましくは0.0002%以上であり、0.0004%以下である。
なお、上記した組成(溶接用鋼ワイヤ組成)は、鋼製外皮と、充填材として含まれる金属粉およびフラックスとを、含むものである。
本発明では、溶接用鋼ワイヤの鋼製外皮は、溶接管または継目無鋼管(シームレスパイプ)であることが好ましい。これにより、溶接用鋼ワイヤの吸湿を防ぎ、溶接性の低下を抑制できる。
鋼製外皮は、外径を3.0〜6.0mmφとすることが好ましい。
まず、鋼製外皮として溶接管を用いる場合のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤの製造方法について、説明する。
上記した外皮組成を有する溶鋼を、真空溶解炉等の常用の溶製方法により溶製して、所定形状の鋳片(鋼塊)とする。ついで該鋳片(鋼塊)を、加熱し、熱間圧延により熱延鋼板としたのち、さらに軟化焼鈍を含む、冷間圧延により、冷間圧延鋼帯(板厚:1mm以下程度)とする。この冷間圧延鋼帯から、所定幅の帯鋼を採取し、鋼製外皮素材とする。ついで、得られた鋼製外皮素材(帯鋼)に冷間曲げ加工等を施し、パイプ形状に加工し、シーム溶接して鋼製外皮(溶接管)とすることが好ましい。なお、シーム溶接に代えて、かしめによりパイプ形状としてもよい。
その後、得られた溶接管に、上記した溶接用鋼ワイヤの組成を満足するように充填材を充填したのち、冷間で伸線加工を施し、所望外径の溶接用鋼ワイヤとする。得られた溶接用鋼ワイヤには、潤滑油を塗布しておくことが好ましい。
本発明の鋼製外皮は、所望外径を有する継目無鋼管(シームレスパイプ)としても何ら問題はない。鋼製外皮に継目無鋼管を用いる場合の溶接用鋼ワイヤの製造方法は、次の通りである。
上記した所定範囲の外皮組成を有する溶鋼を、真空溶解炉等の常用の溶製方法により溶製して、所定形状の丸鋳片(または鋼塊)とする。あるいは、鋼塊を、加熱し、熱間圧延により、所定形状の丸鋼片としてもよい。ついで、得られた丸鋳片あるいは丸鋼片を、加熱し、穿孔圧延により中空素材(継目無鋼管)とし、鋼製外皮(シームレスパイプ)とすることが好ましい。
その後、得られたシームレスパイプに、上記した溶接用鋼ワイヤの組成を満足するように充填材を装入し、冷間で伸線加工、あるいは焼鈍を含む冷間伸線加工を施して、所望外径の溶接用鋼ワイヤとすることが好ましい。得られた溶接用鋼ワイヤには、潤滑油を塗布しておくことが好ましい。
本発明は、上述した溶接用鋼ワイヤを用いて、正極性または逆極性でガスシールドアーク溶接を行うガスシールドアーク溶接方法である。
上記した溶接用鋼ワイヤを用いて好ましいガスシールドアーク溶接としては、例えば、炭酸ガスアーク溶接、MIG溶接、MAG溶接が挙げられる。
例えば図3に示すように、2枚の鋼板4を重ね合わせて、ガスシールドアーク溶接で重ね隅肉溶接を行なう。溶接トーチ5の中心部を通って溶接トーチ5から鋼板4へ連続的に送給される溶接用鋼ワイヤ1を陽極、鋼板4を陰極とし、溶接電源から溶接電圧が印加され、溶接トーチ5内から供給されるシールドガスの一部が電離・プラズマ化することで溶接用鋼ワイヤ1と鋼板4の間にアークが形成される。また、シールドガスの内、電離を生じず溶接トーチ5から鋼板4へと流れる分は、アークおよび鋼板4が溶融し形成される溶融池(図示せず)を外気から遮断する役割を持つ。アークの熱によって、溶接用鋼ワイヤ1の先端部が溶融して溶滴となり、該溶滴が、電磁力や重力等によって溶融池へと輸送される。この現象が、溶接トーチ5または鋼板4の移動に伴って連続的に生じることで、溶接線の後方では溶融池が凝固し、溶接ビード6が形成される。これにより、突き合わせた2枚の鋼板4の接合が達成される。
なお、鋼板や溶接条件等は、溶接継手に対する要求特性によって適宜設定される。
ガスシールドアーク溶接方法として、正極性の炭酸ガスアーク溶接および正極性のMAG溶接を行う場合は、次の溶接条件とすることが好ましい。
<炭酸ガスアーク溶接条件>
・シールドガス:100体積%CO2
・シールドガス流量:20L/min
・溶接電流:240〜380A
・溶接電圧:28〜38V
・溶接速度:30〜80cm/min
・溶接電源:インバータ電源
・極性:正極性
<MAG溶接条件>
・シールドガス:80体積%Ar+20体積%CO2
・シールドガス流量:20L/min
・溶接電流:240〜380A
・溶接電圧:28〜38V
・溶接速度:30〜80cm/min
・溶接電源:インバータ電源
・極性:正極性
ガスシールドアーク溶接方法として、逆極性のMIG溶接を行う場合は、次の溶接条件とすることが好ましい。
<MIG溶接条件>
・シールドガス:100体積%Ar
・シールドガス流量:20L/min
・溶接電流:100〜280A
・溶接電圧:16〜24V
・溶接速度:30〜80cm/min
・溶接電源:インバータ電源
・極性:逆極性
本発明のガスシールドアーク溶接方法によれば、正極性の炭酸ガスアーク溶接およびMAG溶接を行っても、アークが安定するため、スパッタ発生量を抑制できる。また、MIG溶接で重ね隅肉溶接を行っても、アークが安定するため、ビード幅の変動を抑制できる。
本発明は、上述したガスシールドアーク溶接方法を用いたガスシールドアーク溶接継手の製造方法である。
ここでは、ガスシールドアーク溶接方法として、例えば、炭酸ガスアーク溶接、MIG溶接、MAG溶接を行う場合について説明する。例えば図2に示すように、本発明のガスシールドアーク溶接継手の製造方法では、少なくとも2枚以上の鋼板を突合せて、上記した溶接用鋼ワイヤを用いて特定の溶接条件で多層溶接を行い、溶接ビードを形成して、ガスシールドアーク溶接継手を得る。なお、鋼板や溶接条件等は上述の説明と同様であるため、説明は省略する。
以上説明したように、本発明によれば、溶接用鋼ワイヤは錆発生などの保管中の品質変化がないため、炭酸ガスアーク溶接およびMAG溶接時に、スパッタの発生が抑制でき、これによりアークの安定性に優れる効果を得られる。
ここで、「アークの安定性に優れる」とは、発生したスパッタが少量であることを指す。具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定したスパッタ発生量が、溶着量100gあたり1.5g以下であることを指す。
また、MIG溶接の場合には、溶融池表面に安定したカソードスポットが形成されてアークが安定するため、溶接ビード形状にも優れるガスシールドアーク溶接を実現できる。
ここで、「溶接ビード形状に優れる」とは、溶接ビード全長にわたり、ビード表面から、光学カメラで、ビード形状を観察し、ビード幅の最大値と最小値を求めた。得られた値から、ビード幅の最大値と最小値の差を算出し、その差が2.0mm以下であることを指す。
また上記鋼塊の一部は、加熱し、熱間圧延により所定形状の丸鋼片とした後、この丸鋳片を加熱し、穿孔圧延により中空素材(継目無鋼管)とし、鋼製外皮(外径:3.0mmφ)とした。なお、シームレスパイプからなる鋼製外皮には、表2の鋼製外皮形状の欄に「S(シームレスパイプ)」と示した。
得られた鋼製外皮に、表2に示す含有率の溶接用鋼ワイヤ組成となるように、充填材を配合し、冷間で伸線加工して、溶接用鋼ワイヤ(直径:1.2mmφ)とした。
(1)スパッタ発生量の調査
表2に示す組成(溶接用鋼ワイヤ組成)の溶接用鋼ワイヤを用いて、板厚12mmの鋼板に、表3−1および表3−2に示す溶接条件で、ビードオン溶接を1min間(1分間)行った。この際、炭酸ガスアーク溶接およびMAG溶接の溶接電流は240〜380A、溶接電圧は28〜38V、および溶接速度は30〜80cm/min(cm/分)の範囲内の数値をそれぞれ選択した。発生したスパッタのうち、直径:0.1mm以上のスパッタを予め溶接冶具周辺に配設したCu製捕集冶具で捕集した。捕集したスパッタが、溶着量100gあたり0.8g以下である場合を「良」として記号:◎を、溶着量100gあたり0.8g超え1.5g以下である場合を「可」として記号:○を、溶着量100gあたり1.5g超えを「不可」として記号:△を、それぞれ付与し、評価した。
(2)ビード形状の調査
板厚25mmの鋼板を図2に示すように突き合わせ、表2に示す組成の溶接用鋼ワイヤを用いて、表4−1および表4−2に示す溶接条件で多層溶接(溶接長さ:250mm)を行った。この際、MIG溶接の溶接電流は100〜280A、溶接電圧は16〜24V、および溶接速度は30〜80cm/min(cm/分)の範囲内の数値をそれぞれ選択した。溶接ビード全長にわたり、ビード表面から、光学カメラで、ビード形状を観察し、ビード幅の最大値と最小値を求めた。得られた値から、ビード幅の最大値と最小値の差を算出し、当該溶接用鋼ワイヤのビード形状指標とした。ビード幅の最大値と最小値の差が、1.0mm以下である場合を「良」として記号:◎を、1.0mm超え2.0mm以下を「可」として記号:○を、2.0mm超えを「不可」として記号:△を、それぞれ付与し、評価した。
2 鋼製外皮
3 充填材
4 鋼板
5 溶接トーチ
6 溶接ビード
Claims (5)
- 鋼製外皮と、該鋼製外皮に内包される充填材とからなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤであって、
前記鋼製外皮が、該鋼製外皮全質量に対する質量%で、REM:0.005〜0.20%、C:0.15%以下、Mn:0.60%以下、P:0.100%以下、S:0.050%以下、Si:3.0%以下を含む外皮組成の鋼製外皮であり、
前記充填材の全質量は、前記ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤの全質量に対して20%以下であり、
前記ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤが、前記鋼製外皮の全質量と前記充填材の全質量との合計質量に対する質量%で、
C:0.01〜0.30%、
Si:0.10〜5.00%、
Mn:0.50〜5.0%、
P:0.050%以下、
S:0.050%以下、
REM:0.004〜0.18%、
Cr:3.0%以下、
Ni:3.0%以下、
Mo:0.02〜1.5%、
Cu:3.0%以下、
B:0.0001〜0.005%、
Ti:0.02〜0.40%、
Al:0.001〜0.20%、
Ca:0.0008%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する、ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。 - 前記鋼製外皮が、溶接管またはシームレスパイプである、請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
- 請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いて、正極性でガスシールドアーク溶接を行う、ガスシールドアーク溶接方法。
- 請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いて、逆極性のMIG溶接でガスシールドアーク溶接を行う、ガスシールドアーク溶接方法。
- 請求項3または4に記載のガスシールドアーク溶接方法を用いた、ガスシールドアーク溶接継手の製造方法。
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