JP3584894B2 - ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接ワイヤという)に係り、とくにワイヤの送給性及びアーク安定性が重要視されるロボットを用いた自動溶接、或いは高い溶接電流で施工される鉄骨や橋梁用のガスシールドアーク溶接などに好適な溶接用鋼ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、シールドガスとして、炭酸ガス、アルゴン及び炭酸ガス、または酸素を含む混合ガスなどの、酸化性(活性)ガスを用いて、径が0.6 〜1.6 mmの細い溶接ワイヤを消耗電極として、4〜20m/min と高速でアーク点に供給するMAG 溶接法においては、その安定した溶接を実現するために、溶接ワイヤの安定送給が必要不可欠である。この溶接ワイヤの送給性を確保するために、溶接ワイヤ表面には、Cuめっきが施されると共に、潤滑油が適宜塗布されているのが、一般的である。
【0003】
しかし、近年、溶接ロボットを用いた連続溶接や高電流溶接等が実用化されるに伴い、溶接ワイヤの送給が不安定になるトラブルが多発しており、従来のCuめっき及び潤滑油の適量塗布による対策では、十分なワイヤ送給性を確保することが困難になってきている。
【0004】
ここに、溶接用ワイヤの送給性に関して、特開平5−23731 号公報には、ポリ四弗化エチレン、MoS2、グラファイト及び鉱物からなる潤滑剤を、ワイヤ表面に保持させてワイヤ送給性を向上させる方法が提案されている。
【0005】
また、特開平11−217578号公報には、MoS2または、WS2 、エステルまたは石油ろう、および潤滑剤からなる潤滑剤をワイヤ表面に保持させてワイヤ送給性を向上させた方法が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの方法をもってしても、溶接ロボットを用いた連続溶接や高電流溶接等においては、依然として溶接ワイヤの送給が不安定になるトラブルを回避することが難しいのが実状である。
従って、この発明の目的は、特に高電流での連続溶接などの厳しい条件下のガスシールドアーク溶接においても、安定した送給性が得られる溶接ワイヤを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、溶接ロボットを用いた連続溶接や高電流溶接時に、溶接ワイヤの送給が不安定になる現象に関して、ワイヤの表面状態、潤滑剤、無機物の働き及び高電流溶接におけるワイヤ組成が与える影響について、それぞれ鋭意検討したところ、特にワイヤの成分組成及びワイヤ表面に付着させる潤滑剤組成の影響が大きいことを見出した。
【0008】
まず、溶接ワイヤの成分組成については、所定量のC、Si及びMnを含みかつCa量を制限することによって、溶接時の短絡並びに溶接ワイヤの送給抵抗の増加が抑制され、アーク安定性を向上し得ることを見出した。
【0009】
さらに、溶接電流が300 A以上の高電流条件下においては、短時間の溶接によって給電チップ先端温度が500 ℃をこえるために、従来の潤滑剤、つまりエステルや潤滑油は高温に晒されて分解してしまい、潤滑性を保持できないことが判明した。これに対して、熱に対して安定な無機物を中心とした固形潤滑剤、つまりMoS2、ポリ4弗化エチレン、金属石鹸及びK化合物から成る混合物をワイヤ表面に所定量付着させることによって、給電チップの温度が上昇する溶接電流300 A以上の条件下での長時間溶接においても、安定したワイヤの送給が確保されることも見出した。
【0010】
この発明は、上記の知見に基づいて成されたものである。
すなわち、この発明の要旨構成は、次のとおりである。
(A) ガスシールドアーク溶接に供する溶接用鋼ワイヤであって、C:0.20mass%以下、Si:0.25〜2.5 mass%及びMn:0.45〜3.5 mass%を含み、かつCaを0.0020mass%以下に抑制した、鋼ワイヤの表面に、平均厚さ: 0.5 μ m 以上の Cu めっきを施してから、脂肪酸エステル及び潤滑油のいずれか1種または2種を合計でワイヤ10kg当り0.2 〜1.8 gに加えて、MoS2:15〜40mass%、ポリ4弗化エチレン:0.01〜2.0 mass%、金属石鹸:2〜15mass%、K化合物:10〜40mass%及び銅粉:40mass%以下からなる混合物を、ワイヤ10kg当り0.2 〜1.0 gで付着して成ることを特徴とするガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
【0011】
(B) 上記(A) において、溶接用鋼ワイヤは、下記(1) 式で求められるワイヤ実表面積比Sが0.01以上3.00以下であることを特徴とするガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
記
S=(So−Sa)/Sa×l00 −−−−−(1)
ここで、So:実表面積
Sa:理論表面積
【0013】
【発明の実施の形態】
まず、この発明の溶接ワイヤについて、その成分組成の限定理由について詳しく説明する。
C:0.20mass%以下
Cは、溶接金属の強度を確保するために重要な成分であるが、溶鋼の粘性を低下させ流動性を向上させる作用を有するため、多量に含有すると溶鋼および溶融池の挙動が不安定となり、スパッタを多発すると共に、不安定な短絡現象により、ワイヤの送給性を阻害することになる。そのため、Cは0.20mass%以下に限定した。なお、下限は、溶接金属の強度を確保するために、0.01mass%とすることが好ましい。
【0014】
Si:0.25〜2.5 mass%
Siは、脱酸作用を有し、溶接金属の脱酸のためには不可欠な成分であり、0.25mass%未満では、溶鋼および溶融池が揺動し、スパッタを多発すると共に、不安定な短絡現象により、ワイヤの送給性を阻害するため、0.25mass%以上の含有が必要である。一方、2.5 mass%をこえて含有すると、溶接金属の靱性が低下するため、Siは0.25〜2.5 mass%に限定した。
【0015】
Mn:0.45〜3.5 mass%
Mnは、Siと同様に、脱酸作用を有し、溶接金属の脱酸のためには不可欠な成分であり、0.45mass%未満では溶融金属の脱酸が不足し、溶接金属にブロー欠陥が発生すると共に、溶鋼および溶融池が揺動し、不安定な短絡現象により、ワイヤの送給性を阻害するため、0.45mass%以上の含有が必要である。一方、3.5 mass%をこえて含有すると、溶接金属の靱性が低下するため、Mnは0.45〜3.5 mass%に限定した。
【0016】
Ca:0.0020mass%以下
Caは、製鋼および鋳造時の不純物として、あるいは伸線加工時の不純物としてワイヤに混入されるが、溶接においては、アークを不安定にしてスパッタを増大させるため、極力低減する必要がある。すなわち、Caが0.0020mass%をこえて含まれると、溶鋼へのアーク集中によりアークが不安定になってスパッタを増大させると共に、不安定な短絡現象によりワイヤの送給性を阻害する。従って、Caは0.0020mass%以下に制限した。
【0017】
また、この発明では、上記の成分組成に加えて、さらにP:0.003 〜0.050 mass%、S:0.050 mass%以下、K:0.0001〜0.0150mass%及びTi:0.30mass%以下を含有することができる。各成分における、含有量の限定理由は以下のとおりである。
【0018】
P:0.050 mass%以下
Pは、製鋼および鋳造時の不純物としてワイヤに混入されるが、ビード形状を平滑とするために添加する場合もある。しかし、0.050 mass%をこえて添加すると、溶融金属の粘性を低下させ、アークが不安定となり、小粒の溶滴が増加するため、Pの添加量は0.050 mass%以下とすることが好ましい。なお、ビード形状を平滑とするために添加する場合は、0.003 mass%以上は必要である。
【0019】
S:0.050 mass%以下
Sは、溶融金属の粘性を低下させ、ワイヤ先端に懸垂した溶滴の離脱を助け、アークを安定化することに寄与する。また、Sは、溶融金属の粘性を低下させて、ビードを平滑にする働きも有する。このような効果は、0.015 mass%以上の添加で認められる。一方、0.050 mass%をこえて含有すると、小粒の溶滴が増加するとともに、溶接金属の靱性が低下するため、Sは0.050 mass%以下とするのが好ましい。
【0020】
K:0.0001〜0.0150mass%
Kは、アークを広げ(またはソフト化し)、アーク溶接において溶滴の移行をスムーズにし、溶滴そのものを微細化し、ワイヤ送給抵抗の変動(振動)を抑制する効果を有する。この効果は、0.0001mass%以上の含有で認められる。一方、0.0150mass%以上の含有は、アーク長が長くなり、ワイヤ先端に懸垂した溶滴が不安定となり、スパッタの発生を増すため、Kは0.0001〜0.0150mass%で添加することが好ましい。より好ましくは、0.0003〜0.0030mass%である。なお、Kは、沸点が約760 ℃と低く溶製段階での歩留りが著しく低いため、Kの添加は、溶製段階で行わないで、ワイヤ製造中にワイヤ表面にカリウム塩溶液を塗布して焼鈍を施す手法にて行うことが、ワイヤ内部にKを安定して含有させる上で好ましい。
【0021】
Ti:0.30mass%以下
Tiは、脱酸剤として作用し、さらに溶接金属を強度増加する成分であり、この発明では必要に応じて含有させる。このような効果は、0.030 mass%以上の含有で顕著となる。一方、0.30mass%をこえて含有すると、溶滴が粗大となり大粒のスパッタを発生させる。また、溶接金属の靱性を著しく低下させる。よって、Ti含有量は、0.30mass%以下含有させるのが好ましい。
【0022】
また、この発明では、上記の成分組成に加えて、Cr:3.0 mass%以下、Ni:3.0 mass%以下、Mo:1.5 mass%以下、Cu:3.0 mass%以下及びB:0.005 mass%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を添加してもよい。
すなわち、Cr、Ni、Mo、Cu及びBは、いずれも溶接金属の強度を増加させ、また耐侯性を向上させる成分であり、必要に応じて選択添加することができる。この添加量は、各成分とも僅かでも効果があるから、特に下限を設ける必要はない。しかし、過剰な添加は靱性の低下を招くため、含有させる場合は、Crは3.0 mass%以下、Niは3.0 mass%以下、Moは1.5 mass%以下、Cuは3.0 mass%以下、Bは0.005 mass%以下とすることが好ましい。
【0023】
さらに、この発明では、上記の成分組成に加えて、Zr、Nb及びVのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で0.55mass%以下で添加してもよい。すなわち、Zr、Nb及びVは、いずれも溶接金属の強度、靱性及びアークの安定性を向上させる成分であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。この添加量は、各成分とも僅かでも効果があるから、特に下限を設ける必要はない。しかし、これら成分の合計が0.55mass%をこえると、靱性の低下を招くため、Zr、Nb及びVのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で0.55mass%以下とすることが好ましい。
【0024】
さらにまた、この発明では、上記の成分組成に加えて、Alを0.50mass%以下で添加してもよい。すなわち、Alは、溶接金属の脱酸剤として、また横向き溶接におけるアーク安定性を向上させる成分であり、必要に応じて添加することができる。しかし、0.50mass%をこえて添加すると、靱性の低下を招くため、0.50mass%以下とすることが好ましい。
【0025】
なお、上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。代表的な不可避的不純物としてはO及びNがあり、O:0.020 mass%以下及びN:0.010mass%以下に制限することが好ましい。特に、Oは、溶製中あるいはワイヤ製造中に不可避的に含有される成分であるが、溶滴の移行形態を細分化するのに効果があり、0.0020mass%以上0.0080mass%以下に調整することが好ましい。
【0026】
次に、上記の成分組成を有するワイヤの製造方法について具体的に説明する。すなわち、上記の成分組成に調整した溶鋼を、転炉または電気炉等を用いた、公知の溶製方法により溶製し、好ましくは連続鋳造法により、ビレット等の鋼素材とする。その後、これら鋼素材を加熱してから、熱間圧延あるいはさらに乾式による冷間圧延(伸線)を施して鋼素線とする。熱間圧延あるいは冷間圧延の条件は、所望の寸法形状の鋼素線となる条件であればよく、とくに限定されない。次いで、これら鋼素線は、さらに焼鈍−酸洗−銅めっき−伸線加工−潤滑剤付与の各工程を順次施して、所定の線径の製品、つまり溶接ワイヤとされる。
【0027】
上記の溶接ワイヤの製造において、焼鈍前のワイヤ表面にカリウム塩溶液を塗布したのち、焼鈍を行うことが好ましい。カリウム塩溶液としては、クエン酸3カリウム水溶液、炭酸化カリウム水溶液及び水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。塗布溶液のカリウム塩濃度は、K換算で0.5 〜3.0 vol%とすることが好ましい。
【0028】
このカリウム塩溶液を表面に塗布されたワイヤを焼鈍することにより、焼鈍中に生成される内部酸化層中にKが安定に保持される。表面塗布や、Cuめっき中に保持させる等の方法では、めっきの変色等による問題が発生しやすく、また熱的に不安定であることから、Kによる低スパッタ化の効果が小さくなる。
【0029】
焼鈍は、ワイヤの軟化及びKの付与を所期して行うものであり、温度:650 〜950 ℃の範囲内で、水蒸気を含む窒素ガス雰囲気中で行うことが好ましい。すなわち、焼鈍温度が650 ℃未満では、内部酸化反応の進行が遅く、一方950 ℃をこえると、酸化反応の進行が速すぎて内部酸化量の調整が困難となる。
【0030】
焼鈍雰囲気は、露点0℃以下、酸素濃度200ppm以下とすることが、内部酸化層形成の観点から望ましい。このような雰囲気中で、表面にカリウム塩含有溶液を塗布されたワイヤを焼鈍することにより、その表面から酸化が進行し、表層部が内部酸化される。この内部酸化部にカリウムが、確実に保持される。
【0031】
なお、焼鈍における温度及び時間は、ワイヤ中のK含有量が好ましくは0.0003〜0.0030mass%、そしてO含有量が0.0020〜0.0080mass%となるように、ワイヤの径と、カリウム塩濃度及びカリウム塩含有溶液の塗布量等の塗布条件と、関連して決定されることが望ましい。
【0032】
また、上記の焼鈍を経たワイヤは、酸洗後に、その表面にCuめっきを施す。このCuめっきは、後述のように、0.5 μm 以上の厚さとすることが望ましい。
すなわち、高電流での連続溶接においては、給電不良によりワイヤの送給が阻害されやすい。しかし、Cuめっき厚を0.5 μm 以上とすることにより、給電不良によるワイヤ送給の不安定化が容易に防止できる。なお、より好ましくは0.8 μm 以上である。また、このようにCuめっきを厚目付とすることにより、給電チップの損耗も低減できるという効果もある。
【0033】
さらに、ワイヤ実表面積比Sが0.01以上3.00以下であることが有利である。このワイヤ実表面積比Sは、上記した(1) 式にて示されるように、実表面積Soと理論表面積Saとの差を理論表面積Saに対する比として示したものである。
ここで、実表面積Soとは、走査型電子顕微鏡(SEM)による400 倍の観察面においてワイヤが占める面積を意味し、一方理論表面積Saとは、同様の観察面においてワイヤを円柱として算出した表面積を意味する。
【0034】
なお、ここで扱う表面積とは、後述する潤滑剤の付着がない状態における、ワイヤ表面を対象とするものであり、上記したCuめっきを施した場合は、Cuめっき層を含めた表面を対象とする。
【0035】
従って、ワイヤの実表面積比Sは、潤滑剤を施すワイヤ表面の凹凸の大きさを指すことになり、実表面積比Sの増加は潤滑剤付着サイトの増加を意味し、同Sの低下は表面がより平滑であることを示している。すなわち、給電の安定化を図るためには、ワイヤ表面を平滑にすることが好ましく、ワイヤの実表面積比Sを3.00未満とすることが肝要である。一方、ワイヤの実表面積比Sが0.01未満では、ワイヤ表面への潤滑剤の付着量が不足しやすく、かりに付着したとしても送給ローラー部でスリップしてしまい安定したワイヤの送給性が確保できない。よって、ワイヤの実表面積比Sは0.01以上3.00以下とすることが好ましい。
【0036】
ちなみに、後述する実施例におけるワイヤNo.6について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて調査した結果を図1に示すように、該ワイヤにおける実表面積比Sは1.24%である。なお、この実表面積比Sは、図1中のSRlr値から100 を減じることによって得られる。
【0037】
以上の Cuめっきを施したワイヤの表面には、次に示す潤滑剤を付着することが肝要である。
脂肪酸エステル及び潤滑油のいずれか1種または2種以上:0.2 以上〜1.8 以下
ワイヤの表面には、ワイヤ送給時の抵抗を軽減して該送給を安定化し、さらに後述の混合物中のMoS2及びK化合物によるワイヤ表面の変色と劣化を防ぐために、脂肪酸エステル、潤滑油、または脂肪酸エステル及び潤滑油の混合物のいずれかを付着しておくことが不可欠である。その付着量は、ワイヤ10kg当り0.2 g未満では、上記した効果を得ることが難しく、一方付着量がワイヤ10kg当り1.8 gをこえると、ワイヤ送給ローラーのスリップをまねいて、ワイヤ送給速度が著しく変動し、アークの安定化が困難になる。従って、脂肪酸エステル及び潤滑油のいずれか1種または2種は、ワイヤ表面への付着量をワイヤ10kg当り0.2 〜1.8gとする。
【0038】
MoS2:15〜40mass%、ポリ4弗化エチレン:0.01〜2.0 mass%、金属石鹸:2〜15mass%、K化合物:10〜40mass%及び銅粉:40mass%以下からなる混合物
溶接電流400Aで1分以上の連続溶接を行うと、ワイヤ送給系の先端に位置する給電チップは、500 ℃以上の高温となる。この条件では、上記の脂肪酸エステルまたは潤滑油では潤滑性を保持することができない。そこで、発明者らは、種々の潤滑物質を検討した結果、この高温環境下での潤滑性を有するものとして、MoS2、ポリ4弗化エチレン、金属石鹸及びK化合物の混合物が有効であること見出した。
【0039】
しかし、MoS2:15〜40mass%、ポリ4弗化エチレン:0.01〜2.0 mass%、金属石鹸:2〜15mass%及びK化合物:10〜40mass%の範囲を外れると、この高温域での潤滑性が保持できずに、ワイヤ送給速度が著しく変動し、アークの安定化が困難になるため、各成分を上記の範囲内に規制することが肝要である。
【0040】
一方、Cuめっき後の伸線工程で発生する銅粉が、上記の混合物中に不可避に含まれるが、この含有量が40mass%をこえると、給電チップでの焼付きによる瞬間的な送給停止現象を生じてアークが不安定になってしまうことから、混合物中の銅粉を40mass%以下に規制する必要がある。
【0041】
さらに、この混合物によって、高温域で給電チップに対する潤滑を保持するには、混合物の付着量をワイヤ10kg当り0.2 〜1.0 gの範囲とすることが肝要である。すなわち、付着量がワイヤ10kg当り0.2 g未満では、高電流溶接時の送給抵抗が高くなって、送給性を改善する効果が認められず、一方、付着量が同1.0 gをこえると、給電チップ内面に混合物が溜ってワイヤの送給性と給電を阻害し、アークが不安定となる。従って、混合物の付着量は、ワイヤ10kg当り0.2 〜1.0gとした。
【0042】
【実施例】
連続鋳造にて製造された鋼素材(ビレット)を、熱間圧延し、5.6 〜7.0 mmφの線材とし、次いで冷間加工(伸線)により、2.0 〜2.8 mmφの鋼素線とした。これら鋼素線に、2 〜30 vol%のクエン酸3カリウム水溶液を塗布した。塗布量は鋼素線1kg当り30〜50gとした。その後、これら鋼素線を露点−2 ℃以下、酸素200 ppm 以下及び二酸化炭素0.1 %以下のN2 雰囲気中において焼鈍した。なお、焼鈍温度は760 〜950 ℃の範囲とした。この際、線径、カリウム塩濃度、加熱温度並びに保持時間の調整により、ワイヤの内部酸化によるO量とK量とを調整した。焼鈍後、鋼素線に酸洗を施してから、鋼素線表面にCuめっきを施した。Cuめっき後、これら鋼素線に、冷間で伸線加工を施し、1.2 mmφのワイヤとした。この冷間加工には、湿式伸線を用いたが、その一部の伸線工程において、MoS2、ポリ4弗化エチレン、金属石鹸及びK化合物よりなる混合物を供給しながらの乾式伸線を加えることによって、高温潤滑性物質による混合物をワイヤ表面に付着させた。その付着量は、乾式伸線数、ダイススケジュール及びダイス形状により調整した。
【0043】
かくして得られた溶接ワイヤの成分組成、実表面積比及びCuめっき厚は表1及び2に示すとおりであり、またワイヤ表面の潤滑剤及び混合物(高温潤滑剤)の組成並びに付着量は表3及び4に示すとおりである。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
次いで、これら溶接ワイヤを用いて、ワイヤ送給溶接試験を行い、ワイヤ送給抵抗、スパッタ発生量及び給電チップの損耗度を、以下のように評価した。
(1) ワイヤ送給抵抗
図2に示すワイヤ送給性評価装置を用い、板厚19mmの鋼板上に2分間のビ−ドオン溶接を行い、ワイヤ送給抵抗を測定した。ここで、ワイヤ送給抵抗の目標値は60N以下とし、ワイヤ送給抵抗が40N以下を良(○)、40N超え60N以下を可(△)、60N超えを不可(×)として、評価した。なお、図2において、符号1は溶接電源、2は溶接トーチ、3はコンジェットチューブ3a内に挿入した溶接ワイヤ、4はワイヤ送給ローラーであり、ロードセル5によってワイヤの送給抵抗を測定する。
【0049】
(2) スパッタ発生量
枚厚19mmの鋼板上に2分間のビードオン溶接を行い、Cu製捕集治具を用いて、スパッタを捕集し、スパッタ発生量を測定した。溶接時間は1min とした。なお、スパッタ発生量の目標値は3.0g/min以下とし、スパッタ発生量が2.0g/min以下を良(○)、2.0g/min 超え3.0g/min以下を可(△)、3.0g/min 超えを不可(×)として、評価した。
【0050】
(3) 給電チップの損耗度
直径800mm φの鋼管(肉厚:25mm)を自転させながら、鋼管外局に連続溶接(30min 間)した。この連続溶接後に、チップ先端内径を測定し、最大値、最小値を求めチップ内径の楕円化率を算出し、給電チップの損耗度を評価した。なお、チップ内径の楕円化率(%)は、次式で算出した。
楕円化率=(チップ先端内径の最大値)/(チップ先端内径最小値)−1
そして、楕円化率の目標値を5%以下とし、楕円化率が2%以下を良(○)、2%こえ5%以下を可(△)、5%こえを不可(×)として、給電チップの損耗度を評価した。
以上の溶接試験で用いた溶接条件は下記のとおりである。
記
・シールドガス :CO2 100%、流量:20 l/min
・溶接電源 :インバータ電源
・極性 :逆極性直流
・溶接電流 :400 A
・溶接電圧 :39 V
・溶接速度 :25 cm/min
これらの試験結果を表5及び6に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
この発明に従う溶接ワイヤは、ワイヤ送給抵抗が60N以下、スパッタ発生量が3.0g/min以下と少なく、給電チップの損耗はさらに低減されていた。
一方、この発明の条件を外れる比較例では、ワイヤ送給抵抗は60Nをこえ、スパッタ発生量が3.0g/min をこえてスパッタが多発するとともに、給電チップの損耗が顕著であった。
【0054】
【発明の効果】
この発明の溶接ワイヤを用いることによって、ガスシールドアーク溶接を高電流で連続して行う場合においても、ワイヤ送給性とアークの安定性に優れ、安定した品質の溶接継手が得られる。また、スパッタ量も低減でき、さらに給電の安定性にも優れ、給電チップの損耗も低減できるなど、産業上格段の効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】走査型電子顕微鏡(SEM)によるワイヤの表面粗さを測定した結果を示す図である。
【図2】溶接ワイヤの評価に使用した溶接用鋼ワイヤ送給性評価装置を示す模式図である。
【符号の説明】
1 溶接電源
2 溶接トーチ
3 溶接ワイヤ
3a コンジェットチューブ
4 ワイヤ送給ローラー
5 ロードセル
Claims (2)
- ガスシールドアーク溶接に供する溶接用鋼ワイヤであって、
C:0.20mass%以下、
Si:0.25〜2.5 mass%及び
Mn:0.45〜3.5 mass%
を含み、かつCaを0.0020mass%以下に抑制した鋼ワイヤの表面に、平均厚さ: 0.5 μ m 以上の Cu めっきを施してから、脂肪酸エステル及び潤滑油のいずれか1種または2種を合計でワイヤ10kg当り0.2 〜1.8 gに加えて、MoS2:15〜40mass%、ポリ4弗化エチレン:0.01〜2.0 mass%、金属石鹸:2〜15mass%、K化合物:10〜40mass%及び銅粉:40mass%以下からなる混合物を、ワイヤ10kg当り0.2 〜1.0 gで付着して成ることを特徴とするガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。 - 請求項1において、溶接用鋼ワイヤは、下記(1) 式で求められるワイヤ実表面積比Sが0.01以上3.00以下であることを特徴とするガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
記
S=(So−Sa)/Sa×l00 -----(1)
ここで、So:実表面積
Sa:理論表面積
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