JP3878406B2 - アーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
本発明はソリッドワイヤによるアーク溶接作業時にコンジットチューブ内での送給性および溶接時のスパッタの発生が少ない溶接作業性に優れたソリッドワイヤを製造するためのアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ガスシールドアーク溶接法は、高溶着で母材への溶け込みが良好で溶接姿勢の自由度も高く、信頼性の高い溶接継ぎ手が得られるため建築、橋梁を主体とする大型鋼構造物や自動車等の輸送機器の薄板鋼構造物の製造に幅広く用いられている。
【0003】
ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは軟鋼の溶接だけではなく490N/mm2級、590N/mm2級以上の高張力鋼または、Cr−Mo鋼等の合金鋼の溶接にも広く適用でき、CO2、Ar−CO2、Ar−O2、CO2−O2、Ar−CO2−O2、Ar、He等の種々のシールドガスと組み合わせて使用ができる。
【0004】
ソリッドワイヤによるアーク溶接作業時にはソリッドワイヤ送給装置の送給ローラにより、コンジットケーブルの内部に螺旋状に成形した可撓性チューブ(以下コンジットチューブと表記)を内包した管状体の中を挿通させながら6m以上もの長尺のコンジットケーブルとそれにつながる溶接トーチのコンタクトチップ(通電部)から連続的にソリッドワイヤを送り出しながらシールドガスの雰囲気でアーク溶解する方法で使用されている。また、溶接に当たっては、長尺のコンジットケーブルは溶接電源から溶接現場までの距離の調整のために上下あるいは左右に曲げられたり、ループ状に巻き付けて長さを調整して使われることが多い。
【0005】
このような状況で使用された場合、コンジットケーブル内を通過するソリッドワイヤは螺旋状のコンジットチューブ内の表面との接触摩擦部が増えて送給抵抗が増し、ソリッドワイヤを円滑に送給させることが困難となる。この結果、溶接アークの不安定、ビード形状の不揃い、融合不良、アンダーカットの発生等種々の溶接欠陥を生ずるようになる。
【0006】
最近、溶接作業の複雑化、高速化、広範囲化に伴いコンジットチューブ内面との摩擦抵抗が小さく、送給が円滑でかつ安定し、常に定速送給される溶接用ソリッドワイヤ、すなわち送給性に優れた溶接用ソリッドワイヤが強く要求されている。
【0007】
そのために、従来から溶接用ソリッドワイヤの製造に際してソリッドワイヤの送給性改善のためにいろいろな工夫がなされている。
【0008】
例えば、特開昭61−27198号公報にはソリッドワイヤ表面に微少凹凸をつけた後にこの凹凸に潤滑剤を付着させることを目的にソリッドワイヤ表面に平均粒径50〜750μmのショットを用いて2秒以下のショットブラスト加工を行い、植物油、鉱物油、あるいは動物油の単独あるいは混合油等の潤滑剤を塗布する方法が提案されている。さらに、使用条件の厳しい場合には、MoS2、グラファイト粉末等の個体潤滑剤を潤滑油の中に懸濁させてソリッドワイヤ表面に塗布する方法が提案されている。
【0009】
さらに特開平7−223087号公報には溶接用ソリッドワイヤ外周面に形成する溝の形状や数を規定したもの、特開平5−21674号公報には平均粒界酸化深さと平均結晶粒径の比率を限定したものが提案されている。これらのソリッドワイヤの製造方法は製造工程の途中で熱処理による粒界酸化を促進させることによりソリッドワイヤ表面に溝を形成させ、この溝の内部に潤滑剤を保持させることにより送給性を改善するものである。
【0010】
しかし、ソリッドワイヤの表面に凹凸を形成する方法としてショットブラスト加工を行う場合も、熱処理を行い表面に溝を形成させる場合も、製造過程でショットブラストの工程や熱処理工程を付加する必要があり、設備の設置が必要となり、工程の増加により製造コストがアップする問題がある。
【0011】
また、粒界酸化の他にソリッドワイヤ表面に溝を形成する方法として特開平1−15356号公報にはソリッドワイヤ表面を多孔質銅めっき層で被覆し、めっき層に潤滑剤を含ませる方法が、特開平2−42593号公報には自然電位を制御し、多数の微細な地鉄を露出させた銅めっきを施し、潤滑剤を保持させてなる溶接用ソリッドワイヤが提案されている。
【0012】
このようにめっきの表面状態を制御して凹凸を形成させることにより凹部に潤滑剤を保持させ送給性を改善する方法は地鉄が局部的に露出しているために保管時に錆が発生しやすい問題があり、製造から使用までの間に錆が発生しないように管理を強化する必要があり、コストの増加は避けられない。
【0013】
送給性の他に溶接作業性を低下させる要因としてスパッタの発生がある。比較的電流が低い領域では溶融池ヘソリッドワイヤ先端の溶滴の移行を伴わない瞬間短絡が発生し、この短絡回数が多いほど良好な溶接が可能とされる。逆にアークの不安定や短絡の生成不良な場合にスパッタが発生し、良好な溶接作業ができなくなる。一般に短絡回数とスパッタの発生には明瞭な関係が存在し、短絡回数の増加によりスパッタは低減される。溶接時の短絡回数はソリッドワイヤの酸素濃度が高い場合に多く発生することから酸素濃度の増加により溶接作業性の改善が可能となる。
【0014】
このようなことからスパッタの発生を抑制するために酸素濃度を制限した技術が提案されている。
【0015】
例えば、特開昭60−231590号公報には直径の2.5%までの表層部の酸素濃度を1100〜8000ppmとすることによリスパッタの低減と表面に微少亀裂を形成したソリッドワイヤが提案されている。
【0016】
しかし、上記表層部の酸素濃度を高めるためにはソリッドワイヤの製造工程で熱処理を行い、ソリッドワイヤ表層部の酸化を促進させる必要があり、設備の設置、運転コストの増加による製造コストが増加する問題がある。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように従来技術では何らかの設備を用いて、工程を付加することにより送給性あるいはスパッタの発生を改善するものであり、いずれの技術によってもソリッドワイヤのコストアップを招くものであった。
【0018】
そこで、本発明は上記状況に鑑み、ソリッドワイヤの製造工程に於いて特別な工程や処理を付加すること無しにソリッドワイヤの送給性と、スパッタの発生を改善するためのアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく、送給性が優れ、スパッタの発生が少ないソリッドワイヤを熱間圧延線材から直接現在の製造工程に何ら新規の工程を付加すること無しに製造する方法について検討した。
【0020】
その結果、熱間圧延線材からソリッドワイヤを製造する場合、全く熱処理を行わない場合にはソリッドワイヤ表面が滑らかになり、潤滑成分を保持できる溝が形成されず、熱間圧延線材から直接製造したソリッドワイヤでは、送給性を改善することができないことがわかった。しかし、熱間圧延後に徐冷処埋を行い表層の粒界酸化が促進される線径の範囲の熱間圧延線材からソリッドワイヤを製造した場合にはソリッドワイヤの表面に溝が形成されることを知見した。
【0021】
伸線加工途中の表面を詳細に観察したところソリッドワイヤ表面に溝を安定的に形成可能とする熱間圧延線材の粒界酸化の状態、加工度が存在することがわかった。上記知見に基づき熱間圧延線材の線径、粒界酸化深さと加工度とが及ぼすソリッドワイヤ表面の溝形成の影響について種々検討を行い、ソリッドワイヤ表面に溝が形成される加工度と粒界酸化深さを見いだし、本発明をなすに至ったものである。
【0022】
さらに、熱間圧延線材の表層に深い粒界酸化層の形成と共に粒内には内部酸化粒子も生成することができ、表層部の酸素濃度を増加できることから、この熱間圧延線材を使用することにより送給性の改善と共にスパッタの発生を抑制できることも知見し、低コストで高性能なソリッドワイヤの製造を可能とした。
【0023】
本発明は以上の詳細な検討に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは以下の通りである。
【0024】
(1) 熱間圧延線材の表層から連続した3μm以上12μm未満の粒界酸化深さを有することを特徴とする線径3mm以上、6mm以下のアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材。
【0025】
(2)粒界酸化層が存在する表層近傍に内部酸化粒子が存在することを特徴とする上記(1)記載のアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材。
【0026】
(3)3mm以上、6mm以下の線径の熱間圧延線材を圧延後、直ちに連続処理炉を通過させて、該熱間圧延線材の温度履歴を制御し、以下の式に示す加熱指数HIを700〜4000の範囲とすることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材の製造方法。
HI=1/2×(線材の最高温度℃−600)×600℃以上の保持時間(min)
【0027】
(4) 上記(1)又は(2)に記載の熱間圧延線材をソリッドワイヤに加工する方法であって、前記熱間圧延線材の線径をd0mm、前記ソリッドワイヤの線径をdmm、前記熱間圧延線材の線径から前記ソリッドワイヤの線径までの加工真歪をε、前記熱間圧延線材の粒界酸化深さをdGμmとした時dG/εが1.3以上、4.5未満となることを特徴とするアーク溶接ソリッドワイヤの製造方法。ここで真歪εは以下の式で示される。
ε=2×ln(d0/d)
【0028】
本発明の粒界酸化の深さは結晶粒界に沿って形成される連続した酸化物層であり、実際は粒界の方向に連続しているが、本発明の粒界酸化深さは表面に対して直角に測定した値を深さとして定義した。
【0029】
さらに粒界酸化は表面から連続して生成しているため、めっき前処埋等の酸洗処埋で除去することによりめっきの密着性を高める必要があり、酸化物組成としては例えば鉄酸化物の場合、FeO、Fe3O4を主体としたもので、酸に容易に溶解可能な組成のものが好ましく、他のMn、Si、Ti酸化物も同様な特性を有する酸化物組成であることがより好ましい。しかし、めっきの密着性を阻害しない組成の酸化物であれば特に酸化物組成は限定されるものではない。
【0030】
粒界酸化物が除去されてしまうと、表層の酸素濃度を高く維持することは困難となる。
【0031】
一方、内部酸化粒子は酸洗処理によっても除去されず、表層近傍に存在するために、表層の酸素濃度を高めることができる。この内部酸化粒子は例えばFe2O3、MnO2、TiO2、SiO2等、酸素濃度が高い酸化物組成が好ましいが特にこれらの成分、組成に限定されるものではない。
【0032】
また、熱間圧延後に熱間圧延線材の温度履歴を制御する手段は特に限定されるものではないが例えば高温に保持するための連続的なトンネル炉が使用可能であり、加熱手段や保温形態についても特に限定されないが電気ヒーター、ガスバーナー、ラジアントチューブの他直接通電等の手段が適用可能で、熱間圧延線材の表面に酸化促進剤等のコーティングを行うことも可能である。
【0033】
加熱指数として定義したHIは熱間圧延線材の仕上げ圧延後の捲き取り温度さらに連続処理炉内の雰囲気温度、搬送時間により制御することができ、仕上げ圧延後の捲き取り温度および炉内温度を高め、炉内搬送速度を遅くすることによりHIを高くし、より深い粒界酸化を得ることができる。
【発明の実施の形態】
【0034】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0035】
はじめに本発明の粒界酸化深さおよび熱間圧延線材の線径の限定理由について述べる。図1は粒界酸化の形成状況を模式的に示した図であり、結晶粒界に沿ってSi、Mn、FeおよびTiの酸化物が形成されている状態を示す。また、結晶粒内には内部酸化粒子も生成した状態を示したものである。
【0036】
粒界酸化深さ:粒界酸化深さ加工工程で表層部作用する引張り応力により溝を形成させるための起点とするものであり本発明の最も重要なものである。粒界酸化が熱間圧延線材の表面に存在することにより表面に粒界酸化を起点とした開口部が形成され、この部分が溝としてソリッドワイヤの表面に形成されるものである。この加工時に形成される表面の溝を安定して形成するためには熱間圧延線材の表面の粒界酸化深さは本発明者らの詳細な実験結果から少なくとも3μm以上が必要なことから3μmの粒界酸化深さを下限とした。しかし、あまりに深い粒界酸化が形成された場合は加工後のソリッドワイヤの表面にも深い粒界酸化層が残存する。このような深い粒界酸化層を有するソリッドワイヤを用いて溶接作業時を行った場合、コンジットチューブ内を通過する際に曲げ応力等を受けソリッドワイヤ表面では地鉄を含んだ銅めっきの剥離が発生し、コンジットチューブ内に剥離粉が堆積するために送給性が悪化する。このことから粒界酸化深さの上限をl2μm未満とした。
【0037】
より好ましくは粒界酸化深さは4μm〜10μmである。
【0038】
熱間圧延線材の線径:本発明ではソリッドワイヤの加工途中で全く熱処理を行わないために熱間圧延線材の線径は直接加工率に影響する。すなわち熱間圧延線材の線径が大きい場合は同一線径のソリッドワイヤを製造するための加工度が大きくなる。ソリッドワイヤの表面に溝を形成させるためにはソリッドワイヤの表面に引張り応力が作用するように一定の加工が必要である。このことからJISに規定されるソリッドワイヤの線径が0.6mm〜2mmであることから熱間圧延線材の線径の下限を3mmとした。一方、熱間圧延線材の線径が太い場合には大きな加工が行われるが加工度が大きい場合には一旦ソリッドワイヤの表面に形成された溝がつぶれてしまい、消失してしまうと共に工程が長くなり生産性が悪化する。このことから熱間圧延線材の線径の上限を6mm以下とした。
【0039】
ソリッドワイヤの線径との関係:ソリッドワイヤの線径はJISで規定されているように0.6mm〜2mmの範囲であり、粒界酸化深さ、線径が同じ熱間圧延線材からソリッドワイヤを製造する場合、ソリッドワイヤの線径により加工度が異なってしまう。加工度が大きい場合は強加工によりソリッドワイヤ表面の溝が消失してしまい、逆に加工度が小さい場合には溝が形成されない。このことからソリッドワイヤの線径に対して最適な加工度が存在することが予想される。そこで本発明ではさらに、ソリッドワイヤの線径である0.6mm〜2mmの範囲で安定してソリッドワイヤ表面に溝が形成される熱間圧延線材の線径と粒界酸化深さについて検討した。
【0040】
ソリッドワイヤ表面に溝を形成させるためには、熱間圧延線材の粒界酸化深さが深い場合はより大きな加工を行うことができるが、逆に粒界酸化深さが浅い場合は加工度を小さくしなければ溝が形成されない。このことから粒界酸化深さと加工度の間には一定の比率が存在することが考えられる。
【0041】
そこで熱間圧延線材の線径d0mm、ソリッドワイヤの線径dmm、粒界酸化深さdGμmとした場合、加工度を以下の式で示す真歪εとしてε=2×ln(d0/d)
粒界酸化深さと真歪の比(dG/ε)とソリッドワイヤ表面の溝形成状況との関係を詳細に調査した。
【0042】
その結果、線径3mm〜6mm、粒界酸化深さ3μm〜l2μmの範囲の熱間圧延線材についてソリッドワイヤ表面の溝の形成状況をマッピングして図2に示す。
【0043】
この図中○が溝が形成された領域、×が溝の形成されない領域、●が粒界酸化部分から剥離が発生する領域である。
【0044】
図2に示すようにdG/εがl.3より小さい領域では熱間圧延線材の線径が太いか、ソリッドワイヤの線径が細く、強加工が行われる場合、あるいは熱間圧延線材の粒界酸化深さが浅い場合であり、加工後のソリッドワイヤ表面に有効な溝が形成されにくいためソリッドワイヤ表面に潤滑成分を保持させることができないためにdG/εを1.3以上に限定した。
【0045】
逆にdG/εが4.5以上の領域では熱間圧延線材の線径が細いかソリッドワイヤの線径が太く、加工度が小さい場合か、熱間圧延線材の粒界酸化深さが深い場合、ソリッドワイヤ表面に残存する粒界酸化深さが深くなる。深い粒界酸化がソリッドワイヤ表面に生成した場合には送給時にソリッドワイヤに応力が作用することにより粒界酸化部分から地鉄を含んだめっきの表面剥離が発生し、コンジットチューブ内に剥離粉が堆積し、ソリッドワイヤ移動時の抵抗となるために安定した送給性が確保できなくなる。このことからdG/εの値を4.5未満とした。
【0046】
より好ましくはdG/εは2以上、4未満である。
【0047】
内部酸化粒子:本発明では熱間圧延線材の線径が細い場合でも太い場合でも、最終的にはソリッドワイヤ表面に残存する粒界酸化深さは一定の深さ以上に制御されるもので、ソリッドワイヤ表面には一定深さの粒界酸化層と共に表層に形成された内部酸化粒子も残存し、ソリッドワイヤ表層の酸素濃度が高くなる。
【0048】
全く熱間圧延過程で徐冷処埋を行わず、粒界酸化がほとんどないソリッドワイヤに対して本発明のソリッドワイヤの表層酸素濃度比の変化を図3に示した。この図から明らかなように本発明のソリッドワイヤの表層酸素濃度は比較例の粒界酸化が無いものに比べ約2〜3倍に増加する。この時の本発明のソリッドワイヤの表層1μmの範囲の酸素濃度は1000ppm以上で、10μm部分の深さまでの平均酸素濃度は100ppm以上であった。
【0049】
表層の内部酸化粒子はめっき前処理の酸洗等によっても除去されず表層に残留するために表層酸素濃度が増加し、溶接時のスパッタの発生を抑制する。この結果、本発明のソリッドワイヤは送給性の改善と共にスパッタの抑制も可能とするものである。
【0050】
次に本発明の製造方法の限定理由について説明する。
【0051】
本発明の製造条件は熱間圧延に引き続き、熱間圧延線材に徐冷処理を施し、高温状態でできるだけ長時間保持させることにより粒界酸化を熱間圧延線材の全周、全長にわたり安定かつ深く形成させるものである。
【0052】
このために本発明の熱間圧延線材の製造方法は仕上げ圧延後、捲き取り、直ちに高温の雰囲気に制御した連続処理炉を通過させることにより熱間圧延線材の粒界酸化を促進させるものである。
【0053】
粒界酸化形成状況に影響を及ぼす操業条件としては圧延時の捲き取り温度、すなわち徐冷処理を施す連続処理炉に導入する時の熱間圧延線材の最高温度、炉内の搬送時間、炉内温度があり、それぞれを制御することにより粒界酸化深さを制御可能である。
【0054】
そこで本発明では適正なdG/εが得られるように粒界酸化深さと明瞭に関係する製造条件を指数化して限定した。
【0055】
粒界酸化深さと明瞭な関係がある、熱間圧延線材の最高温度と600℃との温度差と、600℃以上に保持される時間から求められる、600℃以上の高温領域に関する部分を指数化し、高温指数をHI(Heat Index)として以下の式で定義し、この値を限定した。
HI=1/2×(熱間圧延線材の最高温度℃−600)×600℃以上の保持時間(min)
【0056】
HIが高い場合は、600℃以上に保持される時間が長いか、より高温の状態から冷却すればよく、線材表面での酸化反応が促進されより深い粒界酸化が形成される。このHI指数を高くするためには仕上げ圧延後の捲き取り温度を高温とすること、連続処理炉の温度を高くすること、連続処理炉内の線材の移動速度を遅くすることにより可能となる。一方、仕上げ圧延後の捲き取り温度の低下、連続炉内温度の低下、炉内搬送速度の増加によりHI指数は低下する。
【0057】
高温指数(HI)と熱間圧延線材の線材表面の粒界酸化深さは図4に示すように非常に良い対応が得られる。このことから、本発明のソリッドワイヤ表面に明瞭な溝を形成させるための粒界酸化深さと真歪の比が本発明の範囲の1.3〜5となるような熱間圧延線材を得るための適正なHI値を実験結果から求め限定した。
【0058】
HI指数が700未満の場合は3μm未満の粒界酸化深さしか得られず、この熱間圧延線材からソリッドワイヤを加工しても表面に明瞭な溝が形成されないことからHI指数700を下限とした。
【0059】
一方、HI指数を高くするとより深い粒界酸化が得られるものの加工時に地鉄と共に銅めっきの剥離が発生し、送給性の低下、スパッタの発生となることからHI指数4000を上限とした。
【0060】
より好ましくはHI指数は1000〜3000の範囲である。
【0061】
【実施例】
以下、実施例により本発明の効果をさらに具体的に説明する。
【0062】
表1に示した成分の鋼材を用いて圧延線径を3〜7mm、圧延条件を調整してHI指数を制御して粒界酸化深さを0.6〜約14μmの範囲とした。
【0063】
この熱間圧延線材を脱脂、酸洗の前処理を行った後に電気銅めっき処理を連続して行い、直接0.8mm〜2mmのソリッドワイヤに加工して表面状態、コンジットチューブ内通過時の送給性および溶接時のスパッタ発生状況を調査した。他に、現在の製造条件である加工途中の2.45mmでバッチ焼鈍、電気銅めっき処理を行った後に1.2mmまで加工したソリッドワイヤも比較例として送給性とスパッタ発生状況を調査した。
【0064】
ソリッドワイヤ送給性およびスパッタ発生状況調査の溶接条件を以下に示す。
供試鋼板:JISG3l06 SM490シールドガス:100%CO2流量25l/min溶接電流:180A溶接速度:5m/minワイヤ突き出し長さ:15mm溶接極性:DCEP(直流逆極性)
溶接姿勢:下向きビードオンプレート溶接コンジット状況:80φ 1ターンコンジットチュープの長さ:3m
送給性の評価は送給時のモーターの電流値を測定し、送給抵抗として評価した。つまり、電流値が大きいほど送給抵抗が大きく、送給性が悪いことを示している。
【0065】
電流値が1以下を極めて良好として◎で、1〜2を良好としてOで、2〜3を普通として△で、3以上を悪いとして×で示した。
【0066】
スパッタの発生状況はスパッタ発生量が300mg/min以下の場合、極めて優れているとして◎で、300mg/min以上、500mg/min未満の場合、優れているとしてOで、500mg/min以上、700mg/min未満の場合、普通として△で、700mg/min以上の場合、悪いとして×で示した。
【0067】
【表1】
【0068】
それぞれの製造条件で製造したソリッドワイヤの表面伏態、溶接性の調査結果および製造コストの優劣をまとめて表2に示した。
【0069】
【表2】
【0070】
No.1〜28はいずれも本発明の範囲内の線径、粒界酸化深さで、dG/εが1.3〜4.5未満のものであるが、No.1〜8は線径が3mm、No.9〜22は線径が4mm、No.23〜26は線径が5.5mm、No.27〜28は線径が6mmの熱間圧延線材からそれぞれ線径の異なるソリッドワイヤを製造したものである。いずれの線径から製造したソリッドワイヤも加工途中で熱処理を行わず、直接製造したものであるが送給性、スパッタの発生状況が良好であり、特にdG/εが2〜4の範囲のものは極めて良好な送給性とスパッタの発生状況である。また、本発明範囲の熱間圧延線材を製造するにはHI指数は730〜3950であった。本発明のソリッドワイヤ表面には図4の(a)に示したような溝がほぼ全周にわたり安定して形成され、この溝に潤滑成分を保持させることにより良好な送給性が得られた。
【0071】
本発明のソリッドワイヤの送給性、スパッタ発生状況は比較例として示した加工途中で焼鈍を行ったNo.29のソリッドワイヤと同等であり、本発明の場合は加工途中で焼鈍を行う必要が無く、工程の省略による生産性の向上、コストの削減が図れた。
【0072】
比較例のNo.30〜39は線径が4mm〜7mm、粒界酸化深さが3μm以下か12μm以上の線径か、粒界酸化深さのいずれかが本発明範囲外のものである。ここで粒界酸化深さが3μm未満のNo.30、32、34、38は1.2〜1.6mmの線径のソリッドワイヤを製造した場合dG/εが1.3未満となり、HI指数が680以下と小さい場合である。この中でNo.32は真歪が3以上で強加工されたものであり、dG/εが0.2と小さく図4(b)に示すようにソリッドワイヤ表面に明瞭な溝は形成されず、送給性は劣り、また粒界酸化が浅いために表層酸素濃度も低くスパッタの発生も多くなっている。No.31、33、35、36、37、39はHI指数が4200以上の条件で製造し、粒界酸化深さが12μm以上でdG/εが4.5以上のものである。この場合は深い粒界酸化が形成されるためにソリッドワイヤを製造した場合の表面性状は図4(c)のように一部溝の残存は認められるもののめっきが地鉄表層から剥離した部分が認められる。この剥離部はソリッドワイヤに曲げ加工等の歪の作用により一部の粒界酸化部を起点とした銅めっきの剥離が発生している部分である。このようなソリッドワイヤの溶接性評価の結果は、コンジットチューブ内に剥離粉が堆積し、送給抵抗が増加し送給性が劣る結果であった。また、スパッタの発生状況も部分的には良好な場合もあったが、表面の剥離が発生した部分ではスパッタが多くなり、全体としては、悪化した。これは剥離粉と共に表層の内部酸化粒子が存在する高酸素部分がコンジットチューブ内で曲げ等の歪を受けて剥離除去され、表層の酸素濃度が低下したためである。
【0073】
以上述べたように、熱間圧延線材の成形を3mm以上、6mm以下とし、粒界酸化深さを3μm以上、12μm未満とし、さらに表層の粒界酸化深さdGμmとソリッドワイヤ線径まで加工する真歪εの比をdG/εを1.3〜4.5未満の範囲に制御することにより、加工途中で焼鈍や、表面改質のための処理を行うことなく、直接ソリッドワイヤを製造してもソリッドワイヤ表層に亀甲状の溝が形成でき、この溝に潤滑性能を改善するオイル等の潤滑剤を保持することにより溶接時にコンジットチュープとの接触による送給抵抗が低減し、スムーズに送給可能となる。また、粒界酸化部分には内部酸化粒子が存在するために表層部酸素濃度の増加によりスパッタの発生も低減され、安定した溶接作業が行われるものである。
【0074】
さらに、本発明の熱間圧延線材を製造する場合、仕上げ圧延後の熱履歴から求めた加熱指数HIを700〜4000に制御することにより表面の酸化反応が進行し、熱間圧延線材表面に適正な深さの粒界酸化層を形成できた。
【発明の効果】
【0075】
以上、説明したように、本発明のアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材を用いて製造したソリッドワイヤは加工途中で何ら熱処埋や表面性状の改善処理を行うことなく製造しても送給性とスパッタ性に優れており、低コストで安定した溶接作業性が確保されるために産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】 粒界酸化生成状況の模式図である。
【図2】 ソリッドワイヤ表面に溝が形成されるdG/εの関係を示す図である。
【図3】 本発明と比較例のソリッドワイヤ表面の酸素濃度増加比率を示す図である。
【図4】 加熱指数HIと粒界酸化深さの関係を示す図である。
【図5】 本発明と比較例のソリッドワイヤ表面の溝形成状況を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
a 粒界酸化層
b 内部酸化粒子
c 結晶粒界
d 粒界酸化深さ
Claims (4)
- 熱間圧延線材の表層から連続した3μm以上12μm未満の粒界酸化深さを有することを特徴とする線径3mm以上、6mm以下のアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材。
- 粒界酸化層が存在する表層近傍に内部酸化粒子が存在することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材。
- 3mm以上、6mm以下の線径の熱間圧延線材を仕上げ圧延後、捲き取り、直ちに連続処理炉を通過させて、該熱間圧延線材の温度履歴を制御し、以下の式に示す加熱指数HIを700〜4000の範囲とすることを特徴とする請求項1又は2記載のアーク溶接ソリッドワイヤ用熱間圧延線材の製造方法。
HI=1/2×(熱間圧延線材の最高温度℃−600)×600℃以上の保持時間(min) - 請求項1又は2に記載の熱間圧延線材をソリッドワイヤに加工する方法であって、前記熱間圧延線材の線径をd0mm、前記ソリッドワイヤの線径をdmm、前記熱間圧延線材の線径から前記ソリッドワイヤの線径までの加工真歪をε、前記熱間圧延線材の粒界酸化深さをdGμmとした時dG/εが1.3以上、4.5未満となることを特徴とするアーク溶接ソリッドワイヤの製造方法。
ここで真歪εは以下の式で示される。
ε=2×ln(d0/d)
【0001】
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