JP2004292201A - コンクリート用混和材及びコンクリート組成物 - Google Patents

コンクリート用混和材及びコンクリート組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】中性化抑制効果に優れ、しかも、ひび割れの自己治癒能力も有するコンクリート用混和材及びコンクリート組成物を提供する。
【解決手段】γ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質であって、ブレーン比表面積が2,000cm/g未満であることを特徴とするコンクリート用混和材及びそれを用いたコンクリート組成物。本発明のコンクリート用混和材を用いることにより、極めて中性化抑制効果に優れ、しかも、ひび割れの自己治癒能力も有するコンクリート組成物が得られる。また、これまで有効な活用方法が見出されずにいた上記の非水硬性化合物や、これを含有する産業廃棄物の一種である製鋼スラグをこれまでにないほど多量に有効利用できるという効果を奏する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に、土木・建築業界において使用されるコンクリート用混和材及びコンクリート組成物に関する。なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。また、本発明で言うコンクリートとは、モルタル及びコンクリートを総称するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
鉄鋼産業の副産物である各種のスラグの有効利用に関して大きな関心が寄せられている。鉄鋼産業において、種々のプロセスや設備によって、また、溶製する鋼種によって様々な組成や性状を有するスラグを副生する。
【0003】
例えば、銑鉄を調製するプロセスで用いる高炉からは高炉スラグが、銑鉄から製鋼するプロセスで用いる溶銑予備処理設備、転炉並びに電気炉からは、それぞれ、溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ並びに電気炉スラグが副生する。
【0004】
さらに、高炉スラグには水砕スラグと徐冷スラグなどがあり、溶銑予備処理スラグには、脱珪スラグ、脱リンスラグ、脱硫スラグ、脱炭スラグがあり、電気炉スラグにも酸化期スラグと還元期スラグが存在する。
【0005】
また、鋼種の違いで言えば、普通炭素鋼、極低炭素鋼、特殊合金鋼、ステンレス鋼に対応するスラグがある。
【0006】
上記スラグのうち、高炉より副生する高炉水砕スラグはセメント混和材及び路盤材等として利用されている。しかし高炉水砕スラグ以外には、前述したスラグと呼ばれるものには未だに有効な利用方法が見出されていないものが多い。転炉スラグは脱鉄等の程度の処理を施せば路盤材として利用できることも報告されている。
【0007】
しかしながら、上記スラグ類はメーカー及びロットにより組成、物性が大きく異なるために再利用の用途拡大が難しいこと、路盤材用途だけでは需要が少ないことから、現状では充分に再利用されているとは言えない状況にある。
【0008】
また、製鋼スラグは有効利用法がなく、ほとんど産業廃棄物として処分されているのが現状である。
【0009】
本発明でいう製鋼スラグとは、製鋼プロセスで生じるスラグの総称であり、具体的には電気炉スラグ、溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ、及びステンレススラグを指すものであり、高炉水砕スラグ及び高炉徐冷スラグは含まない。
【0010】
これらの製鋼スラグにはβ−2CaO・SiO相を含むものとγ−2CaO・SiO相を含むものがあり、β−2CaO・SiO相を含むものは水硬性を示すためにセメント混和材用途等への利用が検討されているが、γ−2CaO・SiO相を含むものは有効な用途がなかった。
【0011】
その原因として、ダスティング現象がある。製鋼スラグはダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO)を主要化合物としており、スラグの冷却過程で、2CaO・SiOが高温相のα相からβ相へ転移し、さらに低温相のγ相へと転移する。ダスティングとは、2CaO・SiOがβ相から低温相のγ相へ転移する際に密度が大きく変化して膨張し、粉化する現象をいう。
【0012】
上記ダスティング現象のため、製鋼スラグは他のスラグと異なり、塊状や粒状として得られないため、路盤材や骨材としての利用ができない。
【0013】
従来より、2CaO・SiOに起因するダスティングを防止する方法として、ホウ素化合物等の結晶安定化剤を添加してβ相として安定化させる方法等が提案された(特許文献1参照)。しかしながら、ホウ素化合物自体が高価なものであり、また、設備改善や工程改善が必要となりコスト高であった。
【0014】
一方、結晶安定化剤を添加せずに電気炉還元期スラグを粉末化し、これにカルシウムアルミネート12CaO・7Al及びセッコウを配合した特殊セメント(特許文献2参照)、カルシウムアルミネート12CaO・7Al及びCaFの固溶体にセッコウを配合した特殊セメント(特許文献3参照)等が知られている。
【0015】
これらは、電気炉還元期スラグが水硬性を持たないγ−2CaO・SiOを主成分としながらも、水和活性の高い12CaO・7Alも多く含有することに着目した発明であり、セッコウを添加することでエトリンガイトを生成させ、所要の強度を発現する硬化体を得ようとするものであった。
【0016】
しかしながら、上記の特殊セメントから得られる硬化体は、空気中の炭酸ガスによる中性化に対する抵抗性が乏しく、ポルトランドセメントから得られる硬化体ほどの耐久性が期待できないものであった。また上記発明では、電気炉還元期スラグをポルトランドセメント及びその主成分であるトライカルシウムシリケート3CaO・SiOに混和することについて、また、それによって、機能性を付与できることについては何ら言及していない。
【0017】
本発明者らは上記のγ−2CaO・SiOを主成分とするスラグに着目し、コンクリート用混和材としての用途を検討した。ヨーロッパ規格(EN規格)を基本とした新しい国際規格への対応、セメントの水和発熱抑制、及び中性化防止という課題への適用を検討した。
【0018】
現在、海外ではヨーロッパ規格(EN規格)を基本的な思想とし、強度クラスに大別されたセメント材料群を目的に応じて選択できる、新しい国際規格の検討が進められている。
【0019】
ヨーロッパ規格(EN規格)は32.5N/mmクラス、42.5N/mmクラス、及び52.5N/mmクラスに大別されている(非特許文献1参照)。
【0020】
一方、日本では、JIS規格に基づいてセメントの品質が設計されてきた。その結果、画一的な仕様の下で強度発現性が良好なセメントが良いセメントとして評価されてきた。
【0021】
その結果、日本のセメントはEN規格で分類すると、42.5N/mmクラスあるいは52.5N/mmクラスのセメントに相当するものしか存在しない状態になっており、設計強度があまり高くないコンクリートを配合設計しようとしても、多くの場合に過剰強度となる傾向にあるのが現状である。
【0022】
過剰強度の防止は、それに伴う過剰な水和発熱を防止する観点から、また、硬化前後の収縮率をできる限り小さくし、硬化後のヒビ割れを防止する観点から重要である。
【0023】
一方、強度発現性に優れるセメントを用いて、単位重量あたりのセメント量を少なくすることにより、設計強度があまり高くないコンクリートを配合設計することも考えられるが、この場合には、材料分離しやすく、ブリーディング率の大きいコンクリート、いわゆる「シャブコン」になることがあるという課題を有していた。
【0024】
そして、このようなコンクリートを用いてコンクリート構造物を構築すると、巨視的な欠陥が発生しやすく、耐久性のあるコンクリート構造物を構築することが困難になるという課題を有していた。
【0025】
このように、EN規格は、設計強度があまり高くないコンクリートを配合設計しやすい32.5N/mmクラスのセメントが準備されているのが特徴である。
【0026】
現在、このセメントの主流は石灰石混合セメントである。石灰石混合セメントは、ポルトランドセメントに多量の石灰石微粉末を混合したもので、過剰強度の防止と材料分離抵抗性の向上の両立を実現できるセメントである。
【0027】
石灰石微粉末は強度発現性の面からは不活性な粉末とみなすことができ、材料分離抵抗性のみを与えて余計な強度や水和熱を生じないという利点を有するものである。このような背景を受けて、日本でも石灰石混合セメントの研究が盛んに行われるようになった。
【0028】
しかしながら、石灰石は多くの産業において重要な原料である。資源の少ない我が国にとって石灰石は貴重な天然資源であり、単にコンクリートに混和するだけの利用は資源の枯渇につながることから、工業原料としてもっと有効に利用することが切望されている。さらに、石灰石混合セメントは中性化されやすいという弱点を有するものである。
【0029】
また、石灰石混合セメントが抱える前記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、これまでにセメント混和材として利用価値が見いだされずにいたγ−2CaO・SiO等の非水硬性化合物が、強度発現性や材料分離抵抗性に対しては石灰石微粉末と同等であり、しかも中性化抑制機能を有することが知られている(特許文献4参照)。
【0030】
このγ−2CaO・SiO等を成分とするセメント混和材は、ポルトランドセメントの中性化を抑制するばかりでなく、水和発熱をも低減する効果も得られることを知見した。すなわち、ポルトランドセメントの水和時の発熱を抑制することにより、硬化後の熱収縮を抑制し、硬化体のヒビ割れ発生を抑制することができる。
【0031】
そこで本発明者は、γ−2CaO・SiO等の非水硬性化合物を含有し、しかもその大半が産業廃棄物となっていた製鋼スラグに着目し、コンクリート用混和材としての用途を検討した。
【0032】
特許文献4記載のセメント混和材と石灰微粉末混和材をそれぞれ使用した硬化物を比較すると、混和材量が同じであれば圧縮強度は石灰微粉末混和品とほぼ同等で、かつ水和時の発熱量が少なく、石灰微粉末混和材を使用した硬化物よりも中性化抑制効果が良好であることを知見した。
【0033】
また、特許文献4にはこれまで有効な活用方法が見出されていない製鋼スラグの有効利用にも繋がる。さらに、これらのスラグを活用することによりクリンカ配合量を低減できるために、低環境負荷型のコンクリート組成物となり得ることが記載されている。
【0034】
しかしながら、特許文献4記載の発明では、γ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質の微粉をセメント混和材として使用し、結果としてコンクリートに配合するものであるが、セメントに置換して使用するため、コンクリートには多量に混和されることはなかった。
【0035】
すなわち、コンクリートはセメント、水、細骨材、粗骨材を主要な構成原料とするが、細骨材や粗骨材はセメントの3倍程度配合される。セメントの単位量は通常、300kg/m程度であり、多い場合でも500kg/m程度である。そのため、セメント混和材としての利用では、セメントに置換して50%程度配合したとしても、混和材の単位量は多くても250kg/m程度である。したがって、産業廃棄物として廃棄されてきた製鋼スラグを多量に再利用するという観点などから、γ−2CaO・SiOなどを細骨材や粗骨材に置換して用いるための工夫が必要と考えられた。
【0036】
セメント混和材としての利用に鑑みた特許文献4記載の発明では、γ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質を少量で効果的に作用させるため、非常に細かい粉末度に調製することを主眼としていた。すなわち、ブレーン比表面積で2,000cm/g以上のものを利用した。
【0037】
本発明者らは、全く異なる観点からγ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質を多量に利用し、しかもその機能性を得る手法について検討を続けてきた。その結果、ブレーン比表面積で2,000cm/g未満のものを利用することで、逆に、コンクリートに多量に混和して使用できる混和材とすることができ、その結果、中性化抑制効果は、ブレーン比表面積で2,000cm/g以上のものをセメント混和材としてセメントに置換して使用した場合と同等以上とすることができることを知見した。また、さらには、コンクリートのひび割れの自己治癒能力もあることを見出した。
【0038】
以上のように、本発明者はγ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質、殊に製鋼スラグの有効利用に鑑み、鋭意努力を重ねた結果、特定の粉末度のものをコンクリートに混和して用いることで、多量に有効利用でき、しかも非常に中性化抑制効果に優れ、さらには、ひび割れの自己治癒能力までも発揮されることを見出し本発明を完成するに至った。
【0039】
【特許文献1】特開昭62−162657号公報
【特許文献2】特公昭62− 47827号公報
【特許文献3】特公昭62− 50428号公報
【特許文献4】国際出願WO03/016234号パンフレット
【非特許文献1】後藤孝治、羽原俊祐、「セメント規格の国際化−欧州規格の概要と方向性−」、セメント・コンクリート、No.631、pp1〜8、1999)
【0040】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、γ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質であって、ブレーン比表面積が2,000cm/g未満であることを特徴とするコンクリート用混和材であり、フッ素の含有量が2%以下であり、かつ12CaO・7Al及び/又は11CaO・7Al・CaFの含有量が25%以下であることを特徴とする該コンクリート用混和材であり、非水硬性化合物を含む物質が製鋼スラグであることを特徴とする該コンクリート用混和材であり、γ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートの含有量の合計が65%以上である該請コンクリート用混和材であり、γ−2CaO・SiOの含有量が35%以上である該コンクリート用混和材であり、セメントと、水と、細骨材と、粗骨材と、該コンクリート用混和材を含有してなるコンクリート組成物であり、粗骨材が天然骨材、高炉徐冷スラグ骨材、再生骨材から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする該コンクリート組成物である。
【0041】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0042】
本発明のコンクリート用混和材(以下、本混和材という)は、非水硬性化合物としてα型ワラストナイト(α−CaO・SiO)、γ−2CaO・SiOや、メルヴィナイト3CaO・MgO・2SiO、アケルマナイト2CaO・MgO・2SiO、モンチセライトCaO・MgO・SiO等のカルシウムマグネシウムシリケートを含有することを特徴の1つとする。また、本発明では、これらの非水硬性化合物を含む物質として、製鋼スラグを用いることも可能である。
【0043】
本発明で用いる製鋼スラグはいずれもγ−2CaO・SiO、α型ワラストナイト、及び/又はカルシウムマグネシウムシリケートを含有しているものであればよく、特に限定されるものではない。製鋼スラグは単独でも使用できるが、2種以上併用することも可能である。
【0044】
本発明者らは、上記製鋼スラグのうち、非水硬性化合物を含有するものであれば本発明の効果があることを見出した。すなわち、上記製鋼スラグの1つであっても、β−2CaO・SiOを含有し、γ−2CaO・SiO等の非水硬性化合物を含有しないものについては本発明の対象とはならず、非水硬性化合物を含有することが必要である。
【0045】
本混和材中のγ−2CaO・SiOの含有量は、35%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。また、γ−2CaO・SiOの含有量の上限値は特に限定されない。製鋼スラグの中では、γ−2CaO・SiO含有量が多い電気炉還元期スラグ又はステンレススラグが好ましい。
【0046】
製鋼スラグの各々の元素成分は特に限定されるものではないが、具体的には、CaO、SiO、Al、MnO、F、及びMgO等を主要な化学成分とし、その他、TiO、NaO、S、P、及びFe等が挙げられる。
【0047】
また、製鋼スラグに含まれる化合物としては、非水硬性化合物のほかに、β型やα型などのダイカルシウムシリケート2CaO・SiO、トライカルシウムシリケート3CaO・SiO、ランキナイト3CaO・2SiO、β型のワラストナイト(β−CaO・SiO)等のカルシウムシリケート、非晶質12CaO・7Al、12CaO・7AlとCaFの固溶体、及び3CaO・Al等のカルシウムアルミネート、ゲーレナイト2CaO・Al・SiO、アノーサイトCaO・Al・2SiO等のカルシウムアルミノシリケート、並びに、アケルマナイト2CaO・MgO・2SiOとゲーレナイト2CaO・Al・SiOの混晶であるメリライト、遊離石灰、遊離マグネシア、カルシウムフェライト2CaO・Fe、カルシウムアルミノフェライト4CaO・Al・Fe、リューサイト(KO、NaO)・Al・SiO、スピネルMgO・Al、マグネタイトFeを含む場合がある。
【0048】
ただし、製鋼スラグの中には、急結性あるいは急硬性を示す12CaO・7Al2O3あるいはフッ素の固溶した11CaO・7Al2O3・CaF2を多く含むものが存在する。これらの化合物の含有量が高い場合は、凝結遅延剤を併用しなければ流動性確保の観点から、また可使時間を確保する観点から好ましくない。
【0049】
すなわち、製鋼スラグ中の12CaO・7Al及び/又は11CaO・7Al・CaFの含有量は特に制限されないが、25%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。本混和材中の12CaO・7Al2O3及び/又は11CaO・7Al2O3・CaF2の合計が25%を超えると、中性化抑制効果が小さくなったり、流動性が悪くなったり、可使時間が確保できなくなる場合がある。
【0050】
また、製鋼スラグには、フッ素含有量が多いものも存在する。フッ素を含む製鋼スラグでは、12CaO・7Al2O3はフッ素の固溶した11CaO・7Al2O3・CaF2の形態で存在するほか、 γ−2CaO・SiO2の一部はカスピディン(Cuspidine)(3CaO・2SiO2・CaF2)に変化する。また、12CaO・7Al2O3や11CaO・7Al2O3・CaF2と、フッ素源として遊離CaF2が共存するものもある。 γ−2CaO・SiO2は顕著な中性化抑制効果を有するが、11CaO・7Al2O3・CaF2やカスピディン等のフッ素を含む化合物は中性化抑制効果を持たないため、フッ素含有量の多い製鋼スラグは中性化抑制効果が顕著でない場合がある。
【0051】
また、フッ素はポルトランドセメントの凝結・硬化を阻害するために、凝結遅延や硬化不良を起こす場合がある。さらに、フッ素は、特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)の対象物質であり、フッ素を多く含むものは環境保全の観点からも好ましくない。
【0052】
本混和材の総フッ素含有量は、その存在形態にかかわらず2.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましい。総フッ素含有量が2.0%を超えると、充分な中性化抑制効果が得られない場合があり、また、凝結・硬化性状が悪くなる場合もある。さらには、前述の通り、これを用いたポルトランドセメント硬化体からのフッ素の溶出が懸念され、環境問題の観点からも好ましくない。
【0053】
本混和材は、γ−2CaO・SiOを含有し、かつ、非水硬性化合物を60%以上含有することが好ましく、非水硬性化合物の含有量が70%以上含有することがより好ましい。
【0054】
本混和材のブレーン比表面積は2,000cm/g未満のものを用いる。本混和材は、通常は1,000〜1,500cm/g程度で用いられる。このような、粉粒状のものを用いることによって、細骨材の一部としてコンクリートに多量に配合することができる。また、本混和材は5mm以上の粗粒の含有量は少ないほど好ましい。
【0055】
本混和材の使用量は特に限定されるものではないが、通常、コンクリート中の単位量で100〜1,000kg/mが好ましく、200〜750kg/mがより好ましい。本混和材の単位量が100kg/m未満では、本発明の効果、すなわち中性化抑制効果やひびわれの自己治癒効果が充分に得られない場合があり、1,000kg/mを超えると、単位水量が多くなりすぎたり、(AE)減水剤や高性能(AE)減水剤等の添加量が多くなって極度に凝結時間が長くなったリ、強度発現性が悪くなる上、不経済である。
【0056】
本発明において水の使用量は特に限定されるものではなく、通常の使用範囲が使用される。具体的には、単位水量で100〜250kg/mの範囲で使用でき、多くの場合は150〜185kg/mの範囲である。100kg/m未満では作業性の悪いコンクリートとなり、250kg/mを超えると耐久性が確保しにくくなる。
【0057】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等を原料として製造された廃棄物利用セメント、いわゆるエコセメント(R)、及び石灰石微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等を混合した各種フィラーセメント等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0058】
本発明に用いる粗骨材は特に限定されるものではないが、通常、ケイ石系や石灰石系の天然骨材、高炉徐冷スラグの粗骨材、及び再生骨材等が使用可能である。最近では電気炉酸化期スラグや転炉スラグ等の製鋼スラグ系粗骨材も検討されているが、これらの製鋼スラグ系粗骨材を用いた場合、本発明の効果であるひび割れの自己治癒効果を阻害することがある。
【0059】
本発明では、本混和材、セメント、水、砂等の細骨材、砂利等の粗骨材の他に、高炉水砕スラグ微粉末、石灰石微粉末、フライアッシュ、及びシリカフューム等の混和材料、膨張材、急硬材、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、ベントナイト等の粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイト等のアニオン交換体等の添加剤等、通常のセメント材料に用いられる公知公用の添加剤、混和材、及び骨材を1種類又は2種類以上、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0060】
本発明のコンクリート組成物はそれぞれの材料を施工時に混合してもよいし、あらかじめ一部あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0061】
また、本発明において、各材料及び水の混合方法も特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。また、材料の一部を水と混合した後に残りの材料を混合しても良い。
【0062】
【実施例】
以下、本発明の実験例に基づいてさらに説明する。
【0063】
実験例1
セメント、水、表1に示す本混和材、及び粗骨材を表1に示すように配合し、さらに砂を混合してコンクリート組成物とし、必要に応じてAE剤を用い、空気量を4.5±1.5%に調整した。圧縮強度、中性化深さ、ひび割れの自己治癒能力を評価した。比較のために、本混和材の代わりに石灰石粉やケイ石粉をコンクリート用混和材として使用し、本混和材と同一混和材量にて比較試験を行った。結果を表1に併記する。なお、各コンクリート用混和材は、最大粒径5mm以下品を用いた。
【0064】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、電気化学工業社製、比重3.15。
コンクリート用混和材A:γ−2CaO・SiO、2モルの炭酸カルシウムと1モルの二酸化ケイ素を配合して1450℃で焼成して合成。比重3.01、ブレーン比表面積1,800cm/g。
コンクリート用混和材B:α型ワラストナイト、合成品。比重2.93、ブレーン比表面積1,500cm/g。
コンクリート用混和材C:メルヴィナイト、合成品。比重3.33、ブレーン比表面積1,500cm/g。
コンクリート用混和材D:電気炉還元期スラグ、酸化物換算CaO含有量52%、酸化物換算SiO含有量27%、Al含有量11%、MgO含有量0.5%、フッ素含有量0.7%、S含有量0.5%。主な化合物相はγ−2CaO・SiO含有量約45%、α型ワラストナイト約20%、及び12CaO・7Al固溶体約25%、比重3.06、ブレーン比表面積1,200cm/g。非水硬性化合物含有量はγ−2CaO・SiO含有量45%とα型ワラストナイトの含有量20%の和で約65%。
コンクリート用混和材E:ステンレススラグ、CaO含有量52%、SiO含有量28%、MgO含有量10%、Al含有量7%、NaO含有量0.5%、フッ素含有量0.5%、。主な化合物相はγ−2CaO・SiO含有量約35%、メルヴィナイト約44%、12CaO・7Al固溶体約14%、及び遊離マグネシア約4%。比重3.14、ブレーン比表面積1,500cm/g。非水硬性化合物含有量はγ−2CaO・SiO含有量35%とメルヴィナイトの含有量44%の和で約79%。
コンクリート用混和材F:電気炉還元期スラグ、酸化物換算CaO含有量53%、酸化物換算SiO含有量35%、Al含有量4%、MgO含有量6%、フッ素含有量1.5%、S含有量0.5%。主な化合物相はγ−2CaO・SiO含有量約40%、カスピディン14%、メルヴィナイト40%、比重3.04、ブレーン比表面積1,200cm/g。非水硬性化合物含有量はγ−2CaO・SiO含有量40%と、カスピディン含有量の14%と、メルヴィナイト含有量40%の和で約95%。
コンクリート用混和材G:電気炉還元期スラグ、酸化物換算CaO含有量53%、酸化物換算SiO含有量26%、Al含有量13%、MgO含有量5%、フッ素含有量2.0%、S含有量0.5%。主な化合物相はγ−2CaO・SiO含有量約40%、カスピディン12%、メルヴィナイト18%、及び12CaO・7Al固溶体約25%、比重3.03、ブレーン比表面積1,200cm/g。非水硬性化合物含有量はγ−2CaO・SiO含有量40%と、カスピディン含有量の12%と、メルヴィナイト含有量18%の和で約70%。
コンクリート用混和材H:石灰石粉、新潟県青海鉱山産の石灰石の粉砕物、比重2.71、ブレーン比表面積1,500cm/g。
コンクリート用混和材I:ケイ石粉、7号ケイ砂の粉砕物、比重2.64、ブレーン比表面積1,500cm/g。
コンクリート用混和材J:コンクリート用混和材Aをブレーン比表面積3,000cm/gに粉砕したもの。
炭酸カルシウム:試薬1級、市販品
二酸化ケイ素 :試薬1級、市販品
水 :水道水
砂 :ケイ石系天然骨材、新潟県姫川産、比重2.62、粒径5mm以下
粗骨材▲1▼ :ケイ石系天然骨材、新潟県姫川産、比重2.64、粒径5mm超
AE剤 :市販品
【0065】
<測定方法>
圧縮強度:材齢28日の圧縮強度をJIS A 1108に準じて測定した。
中性化深さ(促進中性化試験):材齢28日まで20℃水中養生を施した後、30℃・相対湿度60%・炭酸ガス濃度5%の環境で12週間促進中性化を行った。促進中性化後、コンクリート断面にフェノールフタレイン1%アルコール溶液を塗布して中性化深さを確認した。
ひび割れの自己治癒能力:10×10×40cmのコンクリート供試体を作製した。その際、両端からの中央に厚さ0.3mmのポリスチレンフィルムを深さ20mmまで挿入し、擬似的にひび割れを有するコンクリート供試体とした。この供試体を材齢7日まで水中養生を行い、以後、6日間期間養生、1日間水中養生を繰り返し、6ヶ月後にひび割れ幅を測定することによって自己治癒能力を評価した。評価基準は、◎は完全にひび割れが塞がった、○は0.1mm以下にひび割れ幅が縮小化した、△は0.2mm程度までひび割れ幅が縮小。×はひび割れ幅が縮小化されないか、あるいは逆に広がったことを示す。
【0066】
【表1】
Figure 2004292201
注:(1)実験No.1−10の*印はバサバサでコンクリート組成物が調製できず。
(2)実験No.1−10はAE減水剤を多量に使用して無理やりコンクリートを調製した実験も行ったが、凝結時間が異常に長くなり、圧縮強度も著しく小さい値となった。
(3)コンクリート組成物配合欄のWは水、Cはセメント、Sは砂、Gは粗骨材、混和材はコンクリート用混和材であることを示す。
(4)圧縮強度、中性化深さの単位は、それぞれN/mm、mmである。
【0067】
実験例2
セメントを高炉セメントとしたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0068】
<使用材料>
高炉セメント:高炉セメントB種、電気化学工業社製、比重3.06
【0069】
【表2】
Figure 2004292201
注:(1)*印はバサバサでコンクリート組成物を調製できず。
(2)コンクリート組成物配合欄のWは水、Cはセメント、Sは砂、Gは粗骨材、混和材はコンクリート用混和材であることを示す。
(3)実験No.2−10は市販のAE減水剤を多量に使用して無理やりコンクリートを調製した実験も行ったが、凝結時間が異常に長くなり、圧縮強度も著しく小さい値となった。
(4)圧縮強度、中性化深さの単位は、それぞれN/mm、mmである。
【0070】
実験例3
粗骨材の種類を表3に示すように変化したこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表3に示す。
【0071】
<使用材料>
粗骨材▲2▼:石灰石系天然骨材、新潟県青海鉱山産、比重2.71
粗骨材▲3▼:高炉徐冷スラグ系粗骨材:比重2.98
粗骨材▲4▼:再生骨材、加熱すりもみ法により再生された粗骨材、比重2.58
粗骨材▲5▼:製鋼スラグ系粗骨材、電気炉酸化期スラグ、比重3.48
【0072】
【表3】
Figure 2004292201
注:(1)実験No.3−4はコンクリート表面がガサガサに荒れており、状態が良くなかった。
(2)コンクリート組成物配合欄のWは水、Cはセメント、Sは砂、Gは粗骨材、混和材はコンクリート用混和材であることを示す。
(3)圧縮強度、中性化深さの単位は、それぞれN/mm、mmである。
【0073】
実験例4
コンクリート用混和材Cを粉砕し、粒度を表4に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】
Figure 2004292201
注:(1)*印はバサバサでコンクリート組成物を調製できず。
【0075】
【発明の効果】
本発明のコンクリート用混和材を用いることにより、極めて中性化抑制効果に優れ、しかも、ひび割れの自己治癒能力も有するコンクリート組成物が得られる。また、これまで有効な活用方法が見出されずにいた、γ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質や、これらを含有する産業廃棄物の一種である製鋼スラグをこれまでにないほど多量に有効利用できるという効果を奏する。

Claims (7)

  1. γ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質であって、ブレーン比表面積が2,000cm/g未満であることを特徴とするコンクリート用混和材。
  2. フッ素の含有量が2%以下であり、かつ12CaO・7Al及び/又は11CaO・7Al・CaFの含有量が25%以下であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート用混和材。
  3. 非水硬性化合物を含有する物質が製鋼スラグであることを特徴とする請求項1〜2のうちの1項に記載のコンクリート用混和材。
  4. γ−2CaO・SiO、α−CaO・SiO、及びカルシウムマグネシウムシリケートの含有量の合計が65%以上である請求項1〜3のうちの1項に記載のコンクリート用混和材。
  5. γ−2CaO・SiOの含有量が35%以上である請求項1〜4のうちの1項に記載のコンクリート用混和材。
  6. セメントと、水と、細骨材と、粗骨材と、請求項1〜5のうちの1項に記載のコンクリート用混和材を含有してなるコンクリート組成物。
  7. 粗骨材が天然骨材、高炉徐冷スラグ骨材、再生骨材から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項6記載のコンクリート組成物。
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