(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)〜図1(d)及び図2(a)〜図2(d)は本発明の第1の実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程順の断面構成を示している。
まず、図1(a)に示すように、P型シリコンからなる半導体基板100のチャネル形成領域に、N型の不純物であるヒ素(As)イオンを注入エネルギーが140keV及び注入ドーズ量が5×1012/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100の上部にN型チャネル注入層103Aを形成する。その後、半導体基板100のN型ウェル形成領域に、N型の不純物であるリン(P)イオンを、注入エネルギーが260keV及び注入ドーズ量が1×1013/cm2 の第1の注入条件で1回目のイオン注入を行ない、続いて、注入エネルギーが540keV及び注入ドーズ量が1×1013/cm2 の第2の注入条件で2回目のイオン注入を行なうことにより、半導体基板100のN型チャネル注入層103Aの下側の領域にN型ウェル注入層(図示せず)を形成する。
次に、図1(b)に示すように、N型チャネル注入層103A及びN型ウェル注入層を形成した後に、半導体基板100を、約100℃/s以上好ましくは約200℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しない第1の急速熱処理(RTA)を行なう。この第1の急速熱処理により、半導体基板100の上部にN型チャネル注入層103Aに注入されたヒ素が拡散してなるN型チャネル拡散層103が形成される。これと同時に、N型チャネル拡散層103の下側の領域に該N型チャネル拡散層103と接するように、N型ウェル注入層に注入されたリンが拡散してなるN型ウェル拡散層104が形成される。なお、本願明細書において、ピーク温度を保持しない急速熱処理とは、熱処理温度がピーク温度に達すると同時に降温する熱処理をいう。
次に、図1(c)に示すように、半導体基板100の上に、例えば、熱酸化により厚さが1.5nm程度のシリコン酸化膜を形成し、続いて、化学的気相堆積(CVD)法によりシリコン酸化膜の上に厚さが150nm程度の多結晶シリコン膜を形成する。その後、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、形成したシリコン酸化膜及び多結晶シリコン膜をパターニングして、シリコン酸化膜からゲート絶縁膜101を形成し、多結晶シリコン膜からゲート電極102を形成する。エッチングガスには、多結晶シリコン膜には塩素を主成分とするガスを用い、シリコン酸化膜にはフルオロカーボンを主成分とするガスを用いる。また、ゲート絶縁膜101としてシリコン酸化膜を用いたが、シリコン酸化膜に代えて、シリコン酸窒化膜(SiON膜)又はハフニウム酸化膜(HfOx )等の高誘電体絶縁膜(high−k膜)を用いてもよい。また、ゲート電極102には、多結晶シリコン膜に代えて、ポリシリコンの上に金属膜を積層した、いわゆるポリメタル膜を用いてもよい。
次に、図1(d)に示すように、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100にP型不純物であるボロン(B)イオンを注入エネルギーが1keV及び注入ドーズ量が3×1014/cm2 の注入条件でイオン注入を行なうことにより、半導体基板100におけるゲート電極102の両側方の領域にP型エクステンション注入層106Aを形成する。続いて、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100にN型不純物であるヒ素(As)イオンを注入エネルギーが50keV〜150keV、より好ましくは80keV及び注入ドーズ量が4×1013/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100におけるP型エクステンション注入層106Aの下側の領域にN型ポケット不純物注入層107Aを形成する。ここで、P型エクステンション注入層106A及びN型ポケット不純物注入層107Aの深さは、N型チャネル拡散層103の接合面よりも浅くすることが好ましい。さらに、P型エクステンション注入層106Aを形成するためのボロンイオンのドーズ量及びN型ポケット不純物注入層107Aを形成するためのヒ素イオンのドーズ量は、半導体基板100がアモルファス化しない程度のドーズ量が好ましい。
また、第1の実施形態においては、ボロンによるP型エクステンション注入層106Aをヒ素によるN型ポケット不純物注入層107Aよりも先に形成したが、これとは逆に、ヒ素によるN型ポケット不純物注入層107AをボロンによるP型エクステンション注入層106Aよりも先に形成してもよい。このようにすると、先に注入されるヒ素イオンにより、後から注入されるボロンイオンの半導体基板100に対するチャネリングが防止されるため、P型エクステンション注入層106Aの注入深さをより一層浅く形成することが可能となる。
次に、図2(a)に示すように、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100に注入エネルギーが2keV及び注入ドーズ量が5×1013/cm2 の注入条件でフッ素(F)をイオン注入することにより、P型エクステンション注入層106Aの上部にフッ素注入層109を形成する。このとき、フッ素のドーズ量は1×1013/cm2 以上で且つ半導体基板100がアモルファス化しないドーズ量とし、より好ましくは3×1014/cm2 未満とする。さらに、このときのフッ素の注入飛程は、P型エクステンション注入層106Aを形成する際のボロンの注入飛程の5倍未満とし、好ましくはボロンの注入飛程と同程度とする。
次に、図2(b)に示すように、半導体基板100に対して、約100℃/s以上好ましくは約200℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しないで約80℃/sの降温レートで降温する第2の急速熱処理(RTA)を行なう。この第2の急速熱処理により、半導体基板100におけるゲート電極102の両側方の領域に、P型エクステンション注入層106Aに含まれるボロンイオンが拡散してなる浅い接合面を持つP型高濃度エクステンション拡散層106と、各エクステンション拡散層106の下側の領域に該エクステンション拡散層106と接するように、N型ポケット注入層107Aに含まれるヒ素イオンが拡散してなるN型ポケット拡散層107が形成される。
次に、図2(c)に示すように、例えばCVD法により、半導体基板100の上にゲート電極102を含む全面にわたって厚さが約50nmのシリコン窒化膜を堆積する。続いて、堆積したシリコン窒化膜に対してフルオロカーボンを主成分とするガスを用いた異方性エッチング(エッチバック)を行なうことにより、ゲート電極102の両側面上にシリコン窒化膜からなるサイドウォール108を形成する。ここで、サイドウォール108には、シリコン窒化膜に代えて、シリコン酸化膜又はシリコン酸窒化膜を用いてもよく、さらには、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びシリコン酸窒化膜のうちの少なくとも2つの膜からなる積層膜を用いてもよい。
次に、図2(d)に示すように、ゲート電極102及びサイドウォール108をマスクとして、半導体基板100にP型の不純物であるボロンを注入エネルギーが2keV〜5keV及び注入ドーズ量が3×1015/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100におけるサイドウォール108の両側方の領域にP型高濃度ソース・ドレイン注入層を形成する。その後、半導体基板100に対して、約200℃/s〜250℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しない第3の急速熱処理(RTA)を行なう。この第3の急速熱処理により、半導体基板100におけるサイドウォール108の両側方の領域に、P型高濃度エクステンション拡散層106と接続され且つ該エクステンション拡散層106よりも深い接合面を持ち、高濃度ソース・ドレイン注入層のボロンイオンが拡散してなるP型高濃度ソース・ドレイン拡散層105を形成する。ここで、P型高濃度ソース・ドレイン拡散層105の接合面は、N型ポケット拡散層107の接合面よりも深く形成する。これにより、各サイドウォール108の下側にのみP型高濃度エクステンション拡散層106及びN型ポケット拡散層107がそれぞれ形成される。
なお、第1の実施形態に係るエクステンション領域におけるフッ素濃度は、図2(a)に示すフッ素の注入直後と比べて、図2(d)に示すP型高濃度ソース・ドレイン拡散層105を形成した後では、その間に行なわれる第2の急速熱処理等の熱処理によってフッ素が外方拡散することにより低減するものの、半導体基板100の表面近傍には測定可能な量だけのフッ素原子が残存している。
以上説明したように、第1の実施形態に係る半導体装置の製造方法によると、P型エクステンション注入層106Aのボロンによるイオン注入を1keVの低エネルギーで行なった後、フッ素注入層109を形成する際のイオン注入を半導体基板がアモルファス化しない程度の低いドーズ量(5×1013/cm2 )で行ない、その後、第2の急速熱処理によってP型エクステンション注入層106Aに注入したボロンの活性化を行なっている。
本願発明者は、P型エクステンション注入層106Aに注入されたP型不純物であるボロンを拡散する熱処理(アニール)工程に先立って、P型エクステンション注入層106Aの上部にフッ素イオンを注入し、この注入されたフッ素イオンがボロンの拡散に与える影響を検討した。この検討により、本願発明者は、フッ素注入層109を形成する際のフッ素の注入条件には、ボロンが起こすTEDを抑制できる最適値が存在するという知見を得ている。この知見を図3(a)及び図3(b)を用いて説明する。
図3(a)はボロンの接合深さの変化(ΔXj )のアニール時間に対する変化を示している。ここで、接合深さの変化(ΔXj )は、注入されたボロンにおけるアニール後の接合深さとイオン注入直後の接合深さとの差で表わす。図3(a)において、実線によるグラフは、ボロン注入のみを行ないフッ素を注入せずにアニールを行なう通常の接合深さの変化を表わしている。一点鎖線によるグラフは、ボロンの注入の後に基板がアモルファス化しない程度の低ドーズ量でフッ素を注入してアニールを行なう本発明の接合深さの変化を表わしている。また、比較用であって破線によるグラフは、ボロン注入後に半導体基板がアモルファス化する程度、すなわちボロンのドーズ量の2倍を超える高ドーズ量でフッ素を注入してアニールを行なった場合の接合深さの変化を表わしている。図3(a)から分かるように、破線によるグラフはアニール時間を増やすにつれて接合深さが大きくなっており、これはTEDがより増速された結果であることを表わしている。
図3(a)に示すように、本発明のフッ素のドーズ量が少なく且つ半導体基板がアモルファス化しない低ドーズでフッ素の注入を行なう場合には、ボロンの拡散はフッ素を注入しない場合よりも抑制されてより浅い接合面を形成できることが分かる。これに対し、フッ素のドーズ量を多くして半導体基板がアモルファス化するような高ドーズでフッ素の注入を行なう場合には、ボロンの拡散はフッ素を注入しない場合よりも深く拡散することが分かる。この知見から、本発明は、P型高濃度エクステンション拡散層106におけるボロンの拡散を確実に抑制できる条件、すなわち半導体基板100がアモルファス化しない程度のドーズ量でフッ素を注入することを特徴とする。この条件を満たすようにフッ素を注入することにより、P型高濃度エクステンション拡散層106を形成する熱処理時にボロンのTEDが抑制されるため、該P型高濃度エクステンション拡散層106の接合面を確実に浅く形成することができる。このとき、ボロンにおける半導体基板100の表面方向への拡散が同時に抑制されるため、ボロンのドーズロスが抑制されるので、P型高濃度エクステンション拡散層106の低抵抗化をも実現できる。
図3(b)は半導体基板における規格化したボロンの面密度のアニール時間に対する変化を示している。ここで、規格化したボロンの面密度は、アニール後のボロンの面密度とイオン注入後のボロンの面密度との比であってその値を百分率で表わしている。図3(b)において、実線によるグラフはフッ素を注入しない従来の場合を表わし、一点鎖線によるグラフは低ドーズでフッ素を注入してアニールを行なう本発明の場合を表わし、点線によるグラフは比較用であって高ドーズでフッ素の注入を行なう場合を表わしている。
図3(b)から、破線のグラフに示すように、半導体基板にフッ素を高ドーズで注入することによりボロンのドーズロスが大きくなるが、一点鎖線のグラフに示すように、フッ素のドーズ量を例えば1×1014/cm2 以下にまで下げることにより、ボロンのドーズロスの増大を抑制できることが分かる。これにより、ボロンを注入した後のアニール時におけるボロンのドーズロスが抑制されるため、P型エクステンション注入層106Aのドーズ量を必要以上に高くすることなく、低抵抗で且つ接合面が浅いP型高濃度エクステンション拡散層106を形成することができる。
ここで、フッ素注入層109に注入されたフッ素は、熱処理を行なうと半導体基板100の表面方向へ速やかに拡散して該半導体基板100から抜け出してしまうことから、フッ素注入層109を形成する際のフッ素の注入飛程は、ボロンの注入飛程と同程度とするか又はボロンより少し深めに注入することが好ましい。
また、第1の実施形態においては、フッ素注入層109はP型エクステンション注入層106Aを低エネルギーのボロンの注入により形成した後に行なっている。このため、注入されたボロンの不純物プロファイルは、フッ素注入の影響を受けることがなく、従って、ボロンの不純物プロファイルを確実に設計することができる。
一方、ボロンとフッ素とを分けて注入する変わりに、二フッ化ボロン(BF2 )を用いることにより、ボロンとフッ素とを同時に注入する方法も考えられる。しかしながら、二フッ化ボロンを用いると、フッ素が常にボロンの2倍のドーズ量に固定されて注入されることになる。このため、P型高濃度エクステンション拡散層106が形成される程度の高ドーズ量で二フッ化ボロンを注入すると、最適値よりも高濃度のフッ素が注入されることから、半導体基板100がアモルファス化されてしまい、その結果、本発明のボロン拡散の抑制効果を得ることができなくなる。
以上のことから、ボロンによるP型エクステンション注入層106Aを形成した後に、フッ素のドーズ量を1×1013/cm2 以上で且つ半導体基板100がアモルファス化しないドーズ量とする注入条件を満たすフッ素の注入を行なってフッ素注入層109を形成することにより、ボロンのTEDによる異常拡散を抑制することができる。これにより、ボロンの不純物プロファイルが急峻で且つ浅い接合面を有し、ドーズロスによる抵抗値の増大が抑制された低抵抗なP型高濃度エクステンション拡散層106を形成することができる。これにより、浅接合で且つ低抵抗なP型高濃度エクステンション拡散層106を有するMIS型トランジスタを確実に形成することができ、さらには、高駆動力を有する微細なMIS型トランジスタを備えた半導体装置を形成することができる。
その上、P型エクステンション注入層106A、N型ポケット不純物注入層107A及びフッ素イオン注入層109は、そのいずれもが半導体基板100がアモルファス化されないドーズ量で形成しているため、MIS型トランジスタの高濃度ソース・ドレイン拡散層105には、end of range(EOR)欠陥等の残留欠陥層が含まれない。このため、残留欠陥層に起因する接合リークの発生を抑制することができる。ここで、EOR欠陥とは、半導体基板がアモルファス化された状態で熱処理を加えられると、イオン注入の直後に形成されるアモルファス・クリスタル界面の深さ(位置)付近に形成される欠陥層のことをいう。従って、接合リークの低減を図れ且つ高駆動力を有する微細なMIS型トランジスタを備えた半導体装置を形成することができる。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図4(a)〜図4(e)及び図5(a)〜図5(d)は本発明の第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程順の断面構成を示している。
まず、図4(a)に示すように、P型シリコンからなる半導体基板100のチャネル形成領域に、N型の不純物であるヒ素(As)イオンを注入エネルギーが70keV及び注入ドーズ量が5×1012/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100の上部にN型チャネル注入層103Aを形成する。その後、半導体基板100のN型ウェル形成領域に、N型の不純物であるリン(P)イオンを、注入エネルギーが260keV及び注入ドーズ量が1×1013/cm2 の第1の注入条件で1回目のイオン注入を行ない、続いて、注入エネルギーが540keV及び注入ドーズ量が1×1013/cm2 の第2の注入条件で2回目のイオン注入を行なうことにより、半導体基板100のN型チャネル注入層103Aの下側の領域にN型ウェル注入層(図示せず)を形成する。
次に、図4(b)に示すように、N型チャネル注入層103A及びN型ウェル注入層を形成した後に、半導体基板100を、約100℃/s以上好ましくは約200℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しない第1の急速熱処理(RTA)を行なう。この第1の急速熱処理により、半導体基板100の上部にN型チャネル注入層103Aに注入されたヒ素が拡散してなるN型チャネル拡散層103が形成される。同時に、N型チャネル拡散層103の下側の領域に該チャネル拡散層103と接するように、N型ウェル注入層に注入されたリンが拡散してなるN型ウェル拡散層104が形成される。
次に、図4(c)に示すように、半導体基板100の上に、例えば、熱酸化により厚さが1.5nm程度のシリコン酸化膜を形成し、続いて、化学的気相堆積(CVD)法によりシリコン酸化膜の上に厚さが150nm程度の多結晶シリコン膜を形成する。その後、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、形成したシリコン酸化膜及び多結晶シリコン膜をパターニングして、シリコン酸化膜からゲート絶縁膜101を形成し、多結晶シリコン膜からゲート電極102を形成する。エッチングガスには、多結晶シリコン膜に対しては塩素を主成分とするガスを用い、シリコン酸化膜にはフルオロカーボンを主成分とするガスを用いる。また、ゲート絶縁膜101としてシリコン酸化膜を用いたが、シリコン酸化膜に代えて、シリコン酸窒化膜(SiON膜)又はハフニウム酸化膜(HfOx )等の高誘電体絶縁膜(high−k膜)を用いてもよい。また、ゲート電極102には、多結晶シリコン膜に代えてポリメタル膜を用いてもよい。
次に、図4(d)に示すように、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100にN型の不純物であるヒ素(As)イオンを注入エネルギーが50keV〜150keV、より好ましくは80keV及び注入ドーズ量が4×1013/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100におけるゲート電極102の両側方の領域にN型ポケット不純物注入層107Aを形成する。続いて、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100にP型の不純物であるボロン(B)イオンを注入エネルギーが1keV及び注入ドーズ量が3×1014/cm2 の注入条件でイオン注入を行なうことにより、半導体基板100におけるN型ポケット不純物注入層107Aの上部にP型エクステンション注入層106Aを形成する。ここで、P型エクステンション注入層106A及びN型ポケット不純物注入層107Aの深さは、N型チャネル拡散層103の接合面よりも浅くすることが好ましい。さらに、P型エクステンション注入層106Aを形成するためのボロンイオンのドーズ量及びN型ポケット不純物注入層107Aを形成するためのヒ素イオンのドーズ量は、半導体基板100がアモルファス化しない程度のドーズ量が好ましい。
次に、図4(e)に示すように、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100に注入エネルギーが2keV及び注入ドーズ量が5×1013/cm2 の注入条件でフッ素(F)をイオン注入することにより、P型エクステンション注入層106Aの上部にフッ素注入層109を形成する。このとき、フッ素のドーズ量は1×1013/cm2 以上で且つ半導体基板100がアモルファス化しないドーズ量とし、より好ましくは3×1014/cm2 未満とする。さらに、フッ素の注入飛程は、P型エクステンション注入層106Aを形成する際のボロンの注入飛程の5倍未満とし、好ましくはボロンの注入飛程と同程度とする。
次に、図5(a)に示すように、P型エクステンション注入層106A、N型ポケット不純物注入層107A及びフッ素注入層109を形成した後に、半導体基板100を400℃〜600℃程度の温度にまで昇温し、最大で10時間程度の半導体プロセスにおける熱処理としては極めて低い温度の極低温熱処理を行なう。この極低温熱処理により、P型エクステンション注入層106A及びN型ポケット注入層107Aは、各不純物をほとんど拡散させることなく、イオン注入による結晶ダメージのみが回復されて、それぞれP型エクステンション注入アニール層106B及びN型ポケット注入アニール層107Bとなる。
次に、図5(b)に示すように、半導体基板100に対して、約100℃/s以上好ましくは約200℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しないで約80℃/sの降温レートで降温する第2の急速熱処理(RTA)を行なう。この第2の急速熱処理により、半導体基板100におけるゲート電極102の両側方の領域に、P型エクステンション注入アニール層106Bに含まれるボロンイオンが拡散してなる浅い接合面を持つP型高濃度エクステンション拡散層106と、各エクステンション拡散層106の下側の領域に該エクステンション拡散層106と接するように、N型ポケット注入アニール層107Bに含まれるヒ素イオンが拡散してなるN型ポケット拡散層107とが形成される。
次に、図5(c)に示すように、例えばCVD法により、半導体基板100の上にゲート電極102を含む全面にわたって厚さが約50nmのシリコン窒化膜を堆積する。続いて、堆積したシリコン窒化膜に対してフルオロカーボンを主成分とするガスを用いた異方性エッチングを行なうことにより、ゲート電極102の両側面上にシリコン窒化膜からなるサイドウォール108を形成する。ここで、サイドウォール108には、シリコン窒化膜に代えて、シリコン酸化膜又はシリコン酸窒化膜を用いてもよく、さらには、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びシリコン酸窒化膜のうちの少なくとも2つの膜からなる積層膜を用いてもよい。
次に、図5(d)に示すように、ゲート電極102及びサイドウォール108をマスクとして、半導体基板100にP型の不純物であるボロンを注入エネルギーが2keV〜5keV及び注入ドーズ量が3×1015/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100におけるサイドウォール108の両側方の領域にP型高濃度ソース・ドレイン注入層を形成する。その後、半導体基板100に対して、約200℃/s〜250℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しない第3の急速熱処理(RTA)を行なう。この第3の急速熱処理により、半導体基板100におけるサイドウォール108の両側方の領域に、P型高濃度エクステンション拡散層106と接続され且つ該エクステンション拡散層106よりも深い接合面を持ち、高濃度ソース・ドレイン注入層のボロンイオンが拡散してなるP型高濃度ソース・ドレイン拡散層105を形成する。ここで、P型高濃度ソース・ドレイン拡散層105の接合面は、N型ポケット拡散層107の接合面よりも深く形成する。これにより、各サイドウォール108の下側にのみP型高濃度エクステンション拡散層106及びN型ポケット拡散層107がそれぞれ形成される。
なお、第2の実施形態に係るエクステンション領域におけるフッ素濃度は、図4(e)に示すフッ素の注入直後と比べて、図5(d)に示すP型高濃度ソース・ドレイン拡散層105を形成した後では、その間に行なわれる第2の急速熱処理等の熱処理によってフッ素が外方拡散することにより低減するものの、半導体基板100の表面近傍には測定可能な量だけのフッ素原子が残存している。
図6(a)〜図6(c)は第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法の一部の工程における基板表面からの深さ方向の不純物の濃度プロファイルを表わしている。図6(a)はボロン及びフッ素のイオン注入後の不純物の濃度プロファイルであって、実線は図4(d)のP型エクステンション注入層106Aにおけるボロンの濃度分布を表わし、破線は図4(e)のフッ素注入層109におけるフッ素の濃度分布を表わしている。
図6(b)は極低温熱処理後の各不純物の濃度プロファイルであって、実線は図5(a)のP型エクステンション注入アニール層106Bにおけるボロンの濃度分布を表わし、破線は図5(a)のフッ素注入アニール層109Bにおけるフッ素の濃度分布を表わしている。
図6(c)は、活性化熱処理後の各不純物の濃度プロファイルであって、実線は図5(b)のP型高濃度エクステンション拡散層106のボロンの濃度分布を表わし、破線は図5(b)の残留フッ素の濃度分布を表わしている。
第2の実施形態はその特徴として、図5(a)に示す工程においてフッ素イオンを注入した後に、温度が400℃〜600℃程度の極低温熱処理を行なうことにより、ヒ素、ボロン及びフッ素の各イオン注入により発生した結晶ダメージ層を回復する。ここで、半導体プロセスにおいて400℃程度の温度領域である極低温領域は、半導体基板がアモルファス化している場合に、固相エピタキシャル再成長(Solid Phase Epitaxial Regrowth)として知られる固相再成長現象が起こる温度領域である。
図6(a)に示すイオン注入直後の不純物の濃度プロファイルに対し、図6(b)に示す極低温熱処理後の不純物の濃度プロファイルは、通常用いられるドーパントの場合は、その拡散係数が点欠陥の拡散係数と比べて十分に小さいため、ほとんど拡散することがない。しかしながら、通常はドーパントとして用いられないフッ素が注入されたフッ素注入層109の場合は、400℃程度の極低温領域でもフッ素が速やかに拡散するため、この極低温領域で熱処理を行なうと、点欠陥とフッ素とを選択的に拡散させることができる。すなわち、このとき、フッ素は点欠陥と相互作用して拡散するため、極低温熱処理工程において、イオン注入で生じた過剰点欠陥のほとんどを消滅させることができる。その上、前述したように極低温熱処理によって、P型エクステンション注入アニール層106Bの接合位置はイオン注入の直後とほとんど変化しない。
但し、極低温熱処理だけでは、注入されたリンやボロンの不純物の活性化が不十分であるため、極低温熱処理を行なった後に、図5(b)に示す工程において、急速熱処理、例えば、スパイクRTAやフラッシュランプアニール等を行なうことにより、不純物の活性化を図っている。第2の実施形態においては、極低温熱処理によって過剰点欠陥を十分に消滅させた後に第2の急速熱処理を行なうため、図6(c)に示すようにTEDに起因した不純物の異常拡散が抑制されるので、急峻な不純物プロファイルで且つ浅い接合を保ったまま、不純物の活性化を実現することができる。
このように、第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法は、ボロンによるP型エクステンション注入層106Aのイオン注入を1keVの低エネルギーで行ない、さらにフッ素のイオン注入を5×1013/cm2 の比較的に低ドーズ量で行なってフッ素注入層109を形成した後、半導体基板100に対して400℃〜600℃程度の極低温熱処理を行なうことにより、半導体基板100に生じたイオン注入による注入ダメージを回復させる。その後、高温の第2の急速熱処理によって、P型エクステンション注入アニール層106Bにドープされたボロンを活性化するため、ボロンによるTEDが抑制される。これにより、P型高濃度エクステンション拡散層106の接合面が深さ方向に広がることがなく、従って、該P型高濃度エクステンション拡散層106の接合面を浅く形成することができる。これと同時に、ボロンにおける半導体基板100の表面方向への拡散も抑制されるためボロンのドーズロスが抑制される。例えばフッ素のドーズ量を1×1014/cm2 以下に設定することにより、ボロンのドーズロスを抑制するという効果をも得ることができる。
以上のことから、ボロンによるP型エクステンション注入層106Aを形成した後、半導体基板100に対してドーズ量が1×1013/cm2 以上で且つ半導体基板100がアモルファス化しないドーズ量でフッ素を注入することにより、ボロンの不純物プロファイルが急峻で且つ浅い接合面を有し、ドーズロスによる抵抗値の増大が抑制された低抵抗なP型高濃度エクステンション拡散層106を確実に形成することができる。
また、フッ素をドープした状態で極低温熱処理を行ない、その後、高温の活性化熱処理を行なうため、イオン注入によるダメージ欠陥層が結晶層に回復されるので残留欠陥が減少する。その結果、注入ダメージによる残留欠陥に起因するリーク電流をも防止することもできる。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図7(a)〜図7(e)及び図8(a)〜図8(d)は本発明の第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程順の断面構成を示している。
まず、図7(a)に示すように、P型シリコンからなる半導体基板100のチャネル形成領域に、N型の不純物であるヒ素(As)イオンを注入エネルギーが70keV及び注入ドーズ量が5×1012/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100の上部にN型チャネル注入層103Aを形成する。その後、半導体基板100のN型ウェル形成領域に、N型の不純物であるリン(P)イオンを、注入エネルギーが260keV及び注入ドーズ量が1×1013/cm2 の第1の注入条件で1回目のイオン注入を行ない、続いて、注入エネルギーが540keV及び注入ドーズ量が1×1013/cm2 の第2の注入条件で2回目のイオン注入を行なうことにより、半導体基板100のN型チャネル注入層103Aの下側の領域にN型ウェル注入層(図示せず)を形成する。
次に、図7(b)に示すように、N型チャネル注入層103A及びN型ウェル注入層を形成した後に、半導体基板100を、約100℃/s以上好ましくは約200℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しない第1の急速熱処理(RTA)を行なう。この第1の急速熱処理により、半導体基板100の上部にN型チャネル注入層103Aに注入されたヒ素が拡散してなるN型チャネル拡散層103が形成される。同時に、N型チャネル拡散層103の下側の領域に該チャネル拡散層103と接するように、N型ウェル注入層に注入されたリンが拡散してなるN型ウェル拡散層104が形成される。
次に、図7(c)に示すように、半導体基板100の上に、例えば、熱酸化により厚さが1.5nm程度のシリコン酸化膜を形成し、続いて、化学的気相堆積(CVD)法によりシリコン酸化膜の上に厚さが150nm程度の多結晶シリコン膜を形成する。その後、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、形成したシリコン酸化膜及び多結晶シリコン膜をパターニングして、シリコン酸化膜からゲート絶縁膜101を形成し、多結晶シリコン膜からゲート電極102を形成する。エッチングガスには、多結晶シリコン膜に対しては塩素を主成分とするガスを用い、シリコン酸化膜にはフルオロカーボンを主成分とするガスを用いる。また、ゲート絶縁膜101としてシリコン酸化膜を用いたが、シリコン酸化膜に代えて、シリコン酸窒化膜(SiON膜)又はハフニウム酸化膜(HfOx )等の高誘電体絶縁膜(high−k膜)を用いてもよい。また、ゲート電極102には、多結晶シリコン膜に代えてポリメタル膜を用いてもよい。
次に、図7(d)に示すように、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100にP型の不純物であるボロン(B)イオンを注入エネルギーが0.5keV及び注入ドーズ量が5×1013/cm2 の注入条件でイオン注入を行なうことにより、半導体基板100の上部にP型注入層106aを形成する。続いて、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100に注入エネルギーが2keV及び注入ドーズ量が1×1013/cm2 の注入条件でフッ素(F)をイオン注入することにより、P型注入層106aの上部にフッ素注入層109を形成する。
次に、図7(e)に示すように、半導体基板100に対して、約100℃/s以上好ましくは約200℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しないで約80℃/sの降温レートで降温する第2の急速熱処理(RTA)を行なう。この第2の急速熱処理(RTA)により、注入されたフッ素イオンは、半導体基板100の表面さらには外方に拡散し、且つ半導体基板100におけるゲート電極102の両側方の領域に浅い接合面を持つP型拡散層106bが形成される。
第3の実施形態においては、図7(d)及び図7(e)に示す工程、すなわちボロン及びフッ素のイオン注入と第2の急速熱処理を1つの処理工程とみなし、該処理工程を複数回例えば6回繰り返す。この処理工程を行なうと、図8(a)に示すように、p型注入層106aにボロンを6回注入したことによって、所定の不純物濃度を有するP型エクステンション注入層106Aを得ることができる。なお、この処理工程の繰り返しの回数は必ずしも6回には限られないが、1回のイオン注入においてボロン及びフッ素のイオン注入により半導体基板100にアモルファス層が形成されない程度のドーズ量で行ない、且つ所定の不純物濃度を得られるまでは繰り返す必要がある。また、複数回に分けて行なうイオン注入の後には、注入ごとに高温で且つ短時間の急速熱処理を施す必要がある。便宜上、ここでは、複数回例えば6回の熱処理をまとめて第2の熱処理と呼ぶ。
次に、図8(a)に示すように、繰り返し処理工程における最後のフッ素注入によりフッ素注入層109を形成した後に、ゲート電極102をマスクとして、半導体基板100にN型の不純物であるヒ素(As)イオンを注入エネルギーが50keV〜150keV、より好ましくは80keV及び注入ドーズ量が4×1013/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100におけるP型エクステンション注入層106Aの下側の領域にN型ポケット不純物注入層107Aを形成する。
次に、図8(b)に示すように、繰り返し処理工程における最後の第2の急速熱処理を行なうことにより、半導体基板100におけるゲート電極102の両側方の領域に、P型エクステンション注入層106Aに含まれるボロンイオンが拡散してなる浅い接合面を持つP型高濃度エクステンション拡散層106と、各エクステンション拡散層106の下側の領域に該エクステンション拡散層106と接するように、N型ポケット不純物注入層107Aに含まれるヒ素イオンが拡散してなるN型ポケット拡散層107とが形成される。
次に、図8(c)に示すように、例えばCVD法により、半導体基板100の上にゲート電極102を含む全面にわたって厚さが約50nmのシリコン窒化膜を堆積する。続いて、堆積したシリコン窒化膜に対してフルオロカーボンを主成分とするガスを用いた異方性エッチングを行なうことにより、ゲート電極102の両側面上にシリコン窒化膜からなるサイドウォール108を形成する。ここで、サイドウォール108には、シリコン窒化膜に代えて、シリコン酸化膜又はシリコン酸窒化膜を用いてもよく、さらには、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びシリコン酸窒化膜のうちの少なくとも2つの膜からなる積層膜を用いてもよい。
次に、図8(d)に示すように、ゲート電極102及びサイドウォール108をマスクとして、半導体基板100にP型の不純物であるボロンを注入エネルギーが2keV〜5keV及び注入ドーズ量が3×1015/cm2 の注入条件でイオン注入することにより、半導体基板100におけるサイドウォール108の両側方の領域にP型高濃度ソース・ドレイン注入層を形成する。その後、半導体基板100に対して、約200℃/s〜250℃/sの昇温レートで850℃〜1050℃程度の温度にまで昇温し、ピーク温度を最大で10秒間程度保持するか又はピーク温度を保持しない第3の急速熱処理(RTA)を行なう。この第3の急速熱処理により、半導体基板100におけるサイドウォール108の両側方の領域に、P型高濃度エクステンション拡散層106と接続され且つ該エクステンション拡散層106よりも深い接合面を持ち、高濃度ソース・ドレイン注入層のボロンイオンが拡散してなるP型高濃度ソース・ドレイン拡散層105を形成する。ここで、P型高濃度ソース・ドレイン拡散層105の接合面は、N型ポケット拡散層107の接合面よりも深く形成する。これにより、各サイドウォール108の下側にのみP型高濃度エクステンション拡散層106及びN型ポケット拡散層107がそれぞれ形成される。
なお、第3の実施形態に係るエクステンション領域におけるフッ素濃度は、図7(d)に示すフッ素の注入直後と比べて、図8(d)に示すP型高濃度ソース・ドレイン拡散層105を形成した後では、その間に行なわれる第2の急速熱処理等の熱処理によってフッ素が外方拡散することにより低減するものの、半導体基板100の表面近傍には測定可能な量だけのフッ素原子が残存している。
このように、第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法によると、半導体基板100におけるゲート電極102のサイドウォール108の下側の領域に、所定の不純物濃度を有するP型高濃度エクステンション拡散層106を形成できるように、ボロンの注入、フッ素の注入及び活性化の急速熱処理を1回の処理工程として、この処理工程を複数回繰り返す。このとき、1回分のイオン注入では、半導体基板100がアモルファス化しない程度のドーズ量でボロン及びフッ素のイオン注入を行なう。その結果、浅い接合面を有し且つドーズロスによる抵抗値の増大を抑制された低抵抗なエクステンション拡散層106を確実に形成することができる。
第1の実施形態で説明したように、ボロンが起こすTEDを抑制するために行なうフッ素の注入には、最適な注入条件がある。例えば、フッ素濃度が高く半導体基板がアモルファス化してしまう場合には、ボロンの接合深さが広がり且つボロンのドーズロスも増大する。この観点から、ボロンによる拡散層をより高濃度に形成する場合には、ボロンにおいても、半導体基板がアモルファス化するドーズ量以上でイオン注入を行なうと、たとえ半導体基板にフッ素を注入したとしても、ボロンによる浅い拡散層を形成することは困難である。
そこで、第3の実施形態においては、ボロン及びフッ素のイオン注入を複数回に分けて行なうことにより、ボロン及びフッ素のイオン注入によって半導体基板がアモルファス化するのを防ぐことができる。このため、活性化のための第2の急速熱処理時には、半導体基板が結晶状態を保ったままボロンとフッ素とが拡散するので、フッ素によるボロンの拡散を抑制する効果を発揮しながら、p型高濃度エクステンション拡散層106を浅く形成することが可能になる。
また、P型高濃度エクステンション拡散層106の接合面をより浅くしようとして、ボロン注入の注入エネルギーを低くした場合は、アモルファス化が生じるドーズ量の値(しきい値)も低下するが、複数回に分割して1回のイオン注入を低ドーズ量でイオン注入し、注入ごとに急速熱処理を行なって半導体基板の結晶性を回復することにより、低注入エネルギーでアモルファス化が生じるという問題を回避することができる。
なお、第1〜第3の実施形態において、高濃度ソース点ドレイン拡散層105は、1回のボロン注入でP型高濃度ソース・ドレイン注入層を形成した後、第3の急速熱処理を行なうことにより形成したが、第3の実施形態におけるP型高濃度エクステンション拡散層106と形成方法と同様に、ボロン及びフッ素をアモルファス化しない程度のドーズ量でイオン注入する工程と、その後の第3の急速熱処理工程とを1つの処理工程とみなし、該処理工程を複数回繰り返すことによって形成してもよい。また、ボロンとフッ素とを複数回に分けてイオン注入する際に、イオン注入の角度、例えばツイスト角を注入ごとに変更する、いわゆる回転注入を行なってもよい。
また、第1〜第3の実施形態において、N型チャネル拡散層103の不純物イオンにヒ素イオンを用いたが、これに代えて、ヒ素イオンよりも質量数が大きいアンチモン(Sb)等のN型を示す元素イオン、又はヒ素イオンと該ヒ素イオンよりも質量数が大きいN型を示す元素イオンとの双方を用いてもよい。
また、半導体装置としてPチャネルMIS型トランジスタを用いて説明したが、これに代えて、NチャネルMIS型トランジスタであってもよい。NチャネルMIS型トランジスタの場合には、エクステンション拡散層を構成するN型の不純物イオンとして、例えば、ヒ素(As)イオン、又はアンチモン(Sb)イオン及びビスマス(Bi)イオン等のようにヒ素イオンよりも質量数が大きい5B族元素を用いることができる。
また、第1〜第3の各実施形態において、ゲート電極102の側面上に直接にサイドウォール108を形成したが、これに代えて、ゲート電極102とサイドウォール108との間に、エクステンション注入マスクとなる酸化シリコンからなるオフセットスペーサを形成してもよい。
また、サイドウォール108は単層膜に限られず、例えば、断面L字状シリコン酸化膜とその上に形成されたシリコン窒化膜からなる積層膜であってもよい。