本発明は、半導体発光素子およびその製造方法および光送信モジュールおよび光送受信モジュールおよび光通信システムに関する。
近年、インターネットの爆発的普及に見られるように、扱われる情報量が飛躍的に増大しており、今後さらに加速すると考えられる。このため、幹線系のみならず、各家庭やオフィスといった加入者系やLAN(Local Area Network)などのユーザーに近い伝送路、さらには各機器間や機器内の配線へも光ファイバーが導入され、光による大容量情報伝送技術が極めて重要となる。
このような光源として、シリカファイバーの伝送ロスが小さく、整合性が良い1.3μm帯,1.55μm帯の半導体レーザが必要であり、ユーザーに近い領域で普及させるためには、低コストの光通信システムであることが絶対条件である。
1.3μm帯,1.55μm帯の波長帯では、InP基板上の材料系が一般的であり、端面発光型レーザでは実績がある。しかし、この従来の長波長帯半導体レーザでは、環境温度が室温から80℃になると、動作電流が3倍にも増加するという大きな欠点を持っている。従って、冷却素子を使わない低コストのシステムを実現するためには、温度特性の良好な長波長帯半導体レーザの開発が極めて重要である。
最近、GaAs基板上に1.3μm帯の半導体レーザを形成できる材料系が注目され、(Ga)InAs量子ドット、GaAsSbやGaInNAs(例えば特許文献1参照。)が研究されている。特に、GaInNAsは、レーザ特性の温度依存性を極めて小さくすることができる材料として注目されている。なお、GaInNAs系材料とは、P,Sb,Al等の他のIII−V族元素を含んでいる場合もある。
GaInNAsは、窒素(N)と他のV族元素を含んだIII−V族混晶半導体である。すなわち、GaInNAsは、GaAsよりも格子定数が大きいGaInAsに窒素(N)を添加することで格子定数をGaAsに格子整合させることが可能であり、更にバンドギャップエネルギーが小さくなり、1.3μm,1.55μm帯での発光が可能な材料である。
例えば非特許文献1では、近藤らにより、GaInNAsのバンドラインナップが計算されている。GaInNAsは、窒素(N)の添加によりバンドギャップエネルギーが小さくなるが、伝導帯と価電子帯ともにエネルギーが下がり、GaInP,AlGaAs,GaAs等のGaAs格子整合系材料に対して伝導帯のバンド不連続が極めて大きくなり、このため、高特性温度半導体レーザが実現できると予想されている。実際に、In組成が10%のときに窒素組成が約3%で1.3μm帯を形成できるが、窒素組成が大きいほどしきい値電流密度が急激に上昇するという問題がある。
図1は、本願の発明者が実験的に求めたしきい値電流密度の窒素組成依存性を示す図であり、横軸は窒素組成割合(%)を示し、縦軸はしきい値電流密度を示している。図1に示すようにしきい値電流密度が窒素組成の増加に伴って急激に上昇する理由は、GaInNAs層の結晶性が窒素組成の増加に伴い劣化するためである。このため、In組成を大きくして窒素組成を少なくする方法が取られており(例えば特許文献2,特許文献3参照。)、基板に対して2%程度以上と大きな圧縮歪を有するGaInNAs系量子井戸活性層が用いられている。これにより、半導体レーザのしきい値電流密度が1kA/cm2以下の低い値であって、かつ、環境温度が室温から80℃になっても、動作電流がわずか1.3倍にしか増加せず、特性温度が200Kを越える良好なレーザが報告されている(例えば非特許文献2参照。)。なお、障壁層にはGaAs層が用いられている。すなわち、圧縮歪みを有するGaInNAs系量子井戸活性層を用いる場合、障壁層にはGaAsが良く用いられている。
しかし、このように大きな圧縮歪を有している場合、2次元成長から3次元成長に変わる実質的な臨界膜厚に近い厚さを成長させる必要があり、このための工夫が必要である。例えばSbを添加しサーファクタント的な効果を得て、3次元成長を抑制し2次元成長させる方法(例えば特許文献3参照。)が提案されている。成長法はMBE法である。また、MBE法では障壁層と量子井戸活性層の両方にSbとNを添加した例(Electronics Letters, Vol.38, No.6 (2002) pp.277 − 278)も報告されている。Sb組成は、障壁層,井戸層ともに同じであり、N組成は障壁層の方が大きくなっている。
しかしながら、GaInNAs量子井戸活性層へのSb添加はGaAs基板に対する圧縮歪が更に大きくなるので、Sb添加量はできるだけ小さくすることが望ましい。
またMOCVD法のような有機金属や水素化物原料を用いた成長方法においては、Sb組成はV族供給比に大きく依存することが報告されている。例えばGaNAsSbの成長において、N供給量を増加するとSb組成が極端に小さくなること(非特許文献3)や、Sb原料導入によりN組成が抑制されること(非特許文献4)が報告されており、組成制御が極めて困難であることがわかる。
特開平6−37355号公報
特開2000−332363号公報
特開2002−118329号公報
Jpn.J.Appl.Phys.Vol.35(1996)pp.1273−1275
Jpn.J.Appl.Pyys.Vol.39(2000)pp.3403−3405
植杉ら、第62回応用物理学会、13p−T−13
舘野ら、第62回応用物理学会、13p−T−12
本発明は、圧縮歪みのGaInNAs系量子井戸活性層を用いた半導体発光素子において、活性層の品質を向上させ、発光効率が高く低しきい値である半導体発光素子および光送信モジュールおよび光送受信モジュールおよび光通信システムを提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記活性層は、前記障壁層がアンチモン(Sb)を含むIII−V族混晶半導体で構成される一方、前記量子井戸活性層がアンチモン(Sb)を含まないように構成されていることを特徴としている。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の半導体発光素子において、前記障壁層には、同時に窒素(N)も含まれていることを特徴としている。
また、請求項3記載の発明は、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記活性層は、前記障壁層がアンチモン(Sb)及び窒素(N)を同時に含むIII−V族混晶半導体で構成され、前記量子井戸活性層は、障壁層のSb濃度よりも小さいSb濃度を有するか、あるいは、Sbを含まず、かつ、障壁層のN濃度よりも大きいN濃度を有していることを特徴としている。
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の半導体発光素子において、前記障壁層は、GaAsSb、GaNAsSb、GaInNAsSb、GaNPAsSb、GaPAsSb、GaInNPAsSb、GaInPAsSb、または、GaInAsSbであることを特徴としている。
また、請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の半導体発光素子において、Sbを含む障壁層は、GaAs基板に対して引っ張り歪を有していることを特徴としている。
また、請求項6記載の発明は、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記量子井戸活性層と障壁層との間には、アンチモン(Sb)を含むIII−V族混晶半導体からなる中間層が形成されていることを特徴としている。
また、請求項7記載の発明は、請求項6記載の半導体発光素子において、前記中間層は、GaAsSb、GaNAsSb、GaInNAsSb、GaNPAsSb、GaPAsSb、GaInNPAsSb、GaInPAsSb、または、GaInAsSbであることを特徴としている。
また、請求項8記載の発明は、請求項6記載の半導体発光素子において、前記障壁層はGaAs基板に対して引っ張り歪を有し、Sbを含む中間層の格子定数は障壁層の格子定数よりも大きく量子井戸活性層の格子定数よりも小さいことを特徴としている。
また、請求項9記載の発明は、窒素(N)と他のV族元素を同時に含む量子井戸活性層を有する半導体発光素子において、前記量子井戸活性層は、InとSbと他のV族元素を同時に含むA層と、Inを含まないかA層よりもIn組成が小さくNと他のV族元素を同時に含むB層とが周期的に積層されてなることを特徴としている。
また、請求項10記載の発明は、請求項9記載の半導体発光素子において、前記A層はGaInAsSbであり、B層はGaNAsであることを特徴としている。
また、請求項11記載の発明は、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の半導体発光素子を作製する半導体発光素子の製造方法において、少なくとも活性層はMOCVD法によって結晶成長されることを特徴としている。
また、請求項12記載の発明は、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の半導体発光素子において、該半導体発光素子は、面発光型半導体レーザであることを特徴としている。
また、請求項13記載の発明は、請求項12記載の半導体発光素子が光源として用いられていることを特徴とする光送信モジュールである。
また、請求項14記載の発明は、請求項12記載の半導体発光素子が光源として用いられていることを特徴とする光送受信モジュールである。
また、請求項15記載の発明は、請求項12記載の半導体発光素子が光源として用いられていることを特徴とする光通信システムである。
請求項1,請求項2,請求項4,請求項5記載の発明によれば、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記活性層は、前記障壁層がアンチモン(Sb)を含むIII−V族混晶半導体で構成される一方、前記量子井戸活性層がアンチモン(Sb)を含まないように構成されているので、活性層の品質を向上させ、発光効率が高く低しきい値である半導体発光素子を提供することができる。
すなわち、歪を有する量子井戸活性層を成長する時の下地となる障壁層の被成長表面には、表面エネルギーを下げ3次元成長を抑制し2次元成長を促進させるサーファクタント的な効果のあるSbが含まれるので、まず歪を有する量子井戸活性層の成長初期は良好に2次元成長が行われ、その後は、この良好な活性層成長初期部上に、活性層の残りの部分のエピタキシャル成長が行われるので、臨界膜厚までは良好に2次元成長が行われる。したがって、歪を有する量子井戸活性層中にSbが含まれていなくても、良好に2次元成長する。
また、量子井戸活性層中に格子定数をGaAs基板よりも大きくするSbを含まないので、格子定数が大きくならずに済み、格子緩和や3次元成長等のSb添加による副作用を防ぐことができ、効率が高くしきい値の低い半導体発光素子を提供することができる。
特に、請求項2記載の発明では、請求項1記載の半導体発光素子において、前記障壁層には、同時に窒素(N)も含まれているので、更に発光効率が高くしきい値の低い半導体発光素子を提供することができる。
すなわち、GaAsへのSb添加は格子定数を大きくする作用がある。一方、Nの添加は格子定数を小さくする効果があり、Sbを含んだ障壁層にNを添加すると歪を補償することができるので、圧縮歪を有する量子井戸活性層の臨界膜厚を薄くしてしまう事が避けられる。また、障壁層にもNを添加したことにより、活性層との界面のコントロール性が向上し、障壁層と量子井戸活性層との間で良好な界面が得られる。よって、請求項2記載の発明では、更に発光効率が高くしきい値の低い半導体発光素子を提供することができる。
また、請求項3乃至請求項5記載の発明によれば、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記活性層は、前記障壁層がアンチモン(Sb)及び窒素(N)を同時に含むIII−V族混晶半導体で構成され、前記量子井戸活性層は、障壁層のSb濃度よりも小さいSb濃度を有するか、あるいは、Sbを含まず、かつ、障壁層のN濃度よりも大きいN濃度を有しているので、発光効率が高くしきい値が低く、温度特性の良好な半導体発光素子を提供することができる。
すなわち、請求項3では、更に、障壁層のN組成を量子井戸活性層のN組成よりも小さくしたので、N添加による伝導帯の低下は量子井戸活性層の方が大きく、充分大きな伝導帯バンド不連続を得ることができ、温度特性の良好な半導体発光素子を提供することができる。
また、エピタキシャル成長では下地の結晶品質が成長層の成長品質に及ぼす影響は大きい。障壁層のN組成が量子井戸活性層のN組成よりも小さい場合、量子井戸活性層成長時の下地層となる障壁層の結晶性が向上する。よって、さらに量子井戸活性層の結晶性が向上し、発光効率が高くしきい値が低く、温度特性の良好な半導体発光素子を提供することができる。
また、請求項5記載の発明では、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の半導体発光素子において、Sbを含む障壁層は、GaAs基板に対して引っ張り歪を有しているので、より発光効率が高くしきい値の低い半導体発光素子を提供することができる。更に活性層の歪が低減(補償)されることで、井戸数を増加させることができ、活性層の設計自由度が大きくなる。
すなわち、圧縮歪を有する量子井戸活性層に対して引っ張り歪を有する障壁層を用いることで歪補償構造となり、Sb添加の効果との相乗効果により量子井戸活性層の結晶性が向上し、より発光効率が高くしきい値の低い半導体発光素子を提供することができる。更に活性層の歪が低減(補償)されることで、井戸数を増加させることができ、活性層の設計自由度が大きくなる。
また、請求項6乃至請求項8記載の発明によれば、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記量子井戸活性層と障壁層との間には、アンチモン(Sb)を含むIII−V族混晶半導体からなる中間層が形成されているので、発光効率が高くしきい値の低い半導体発光素子を提供することができる。
すなわち、表面エネルギーを下げ3次元成長を抑制し2次元成長を促進させるサーファクタント的な効果を得るためには、Sbは必ずしも障壁層全体に添加される必要はなく、歪を有する量子井戸活性層成長開始時の被成長基板表面層にSbが含まれていれば良い。請求項6では、Sbを含まない障壁層と歪を有する量子井戸活性層との間にSbを含んだ中間層を挿入することで、発光効率が高くしきい値の低い半導体発光素子を提供することができる。
特に、請求項8記載の発明では、請求項6記載の半導体発光素子において、前記障壁層はGaAs基板に対して引っ張り歪を有し、Sbを含む中間層の格子定数は障壁層の格子定数よりも大きく量子井戸活性層の格子定数よりも小さいので、歪補償効果を確実に得ることが可能となる。
すなわち、大きな圧縮歪を有する量子井戸活性層と引っ張り歪を有する障壁層とを積層することで歪補償構造となり、活性層の歪が低減(補償)されるが、界面ではより歪差が大きくなっているので、場合によっては歪補償効果が得られない場合がある。請求項8のように圧縮歪層と引っ張り歪層との間に格子定数がその間にある中間層を挿入することで、歪差を低減でき、歪補償効果を確実に得ることが可能となる。
また、請求項9乃至請求項10記載の発明によれば、窒素(N)と他のV族元素を同時に含む量子井戸活性層を有する半導体発光素子において、前記量子井戸活性層は、InとSbと他のV族元素を同時に含むA層と、Inを含まないかA層よりもIn組成が小さくNと他のV族元素を同時に含むB層とが周期的に積層されて構成されているので、発光効率が高くしきい値の低い半導体発光素子を提供することができる。
上記量子井戸活性層は、NとSbが同時に含まれないA層とB層を数原子層程度で周期的に積層することで、A層とB層の平均組成の混晶とみなすことが可能となる。例えばA層をGaInAsSbとし、B層をGaNAsとすると、MOCVD法では成長が困難であるGaInNAsSbを擬似的に得ることができる。
GaInNAsではN添加によってInの組成偏析が起こりやすくなり3次元成長が問題となるが、Inは主にA層、Nは主にB層に取り込んでいるので、3次元成長を抑制できる。GaInAsSb層はInを含んでおり圧縮歪を有するが、Sb添加によりサーファクタント的な効果を得てGaInAsSb層自体の3次元成長を抑制できるとともに、GaNAs層成長時の下地結晶にSbが含まれることから、GaNAs層のNの組成偏析を低減できる。
また、請求項11記載の発明によれば、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の半導体発光素子を作製する半導体発光素子の製造方法において、少なくとも前記活性層はMOCVD法によって結晶成長されるので、量子井戸活性層の結晶成長を極めて容易に行なうことができる。
すなわち、MOCVD法のような有機金属や水素化物原料を用いた原料同士の反応を含んだ成長方法においては、Sb組成はV族供給比に大きく依存し、Nと他のV族元素を同時に含んだ層へ更にSbを添加するのは容易ではない。特にGaInNAs系量子井戸活性層は通常Inを30〜40%含まれているが、MOCVD法ではIn組成の増加とともにNの取り込まれが激減し、より多量のN原料を供給する必要があり、更にSbを添加するのは極めて困難である。よって、量子井戸活性層にSbが含まれないかSbが微量で結晶性の向上する本発明はMOCVD法において特に効果がある。つまり、Nを含む量子井戸活性層にSbを同時に含まない場合は、Sbを含めた場合に比べてMOCVD法においては量子井戸活性層の結晶成長を極めて容易に行なうことができる。
また、請求項12記載の発明では、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の半導体発光素子において、該半導体発光素子が面発光型半導体レーザ素子であることを特徴としている。面発光型半導体レーザは、端面発光型半導体レーザに比べて、低価格化,低消費電力化,小型化,2次元集積化に向く。ここで、GaInNAs系材料を活性層にしているので、シリカファイバーの伝送ロスが小さく整合性が良い1.3μm帯,1.55μm帯の波長に対応できる。本発明のようにSbを含んだ障壁層または中間層を直接量子井戸活性層に接して形成したので、活性層は良好に2次元成長し、発光効率が高くしきい値の低い長波長面発光型半導体レーザを提供することができる。なお、MOCVD法で形成すると、面発光型半導体レーザの半導体分布ブラッグ反射鏡の抵抗を低減できるので、低電圧駆動が可能となり、好ましい。これにより、安価で、距離を気にしないで、光ネットワーク,光配線の大容量化を図ることができる。
また、請求項13記載の発明によれば、請求項12記載の半導体発光素子が光源として用いられていることを特徴とする光送信モジュールであるので、冷却素子が不要な低コストな光送信モジュールを提供することができる。
また、請求項14記載の発明によれば、請求項12記載の半導体発光素子が光源として用いられていることを特徴とする光送受信モジュールであるので、冷却素子が不要な低コストな光送受信モジュールを提供することができる。
また、請求項15記載の発明によれば、請求項12記載の半導体発光素子が光源として用いられていることを特徴とする光通信システムであるので、冷却素子が不要な低コストな光ファイバー通信システム,光インターコネクションシステムなどの光通信システムを提供することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
(第1の形態)
本発明の第1の形態は、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層(バリア層)とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記活性層は、前記障壁層がアンチモン(Sb)を含むIII−V族混晶半導体で構成される一方、前記量子井戸活性層がアンチモン(Sb)を含まないように構成されていることを特徴としている。
エピタキシャル成長は、下地の影響を受けて成長が行われる。歪を有する量子井戸活性層の成長においては、異種材料が結合しヘテロ接合部分となる成長初期(例えば第1層)が最も重要であり、まず成長初期において2次元成長させることが必要である。その下地となる障壁層の被成長表面には、表面エネルギーを下げ3次元成長を抑制し2次元成長を促進させるサーファクタント的な効果のあるSbが含まれるので、まず歪を有する量子井戸活性層の成長初期は良好に2次元成長が行われる。その後は、この良好な活性層成長初期部上に、同一材料である活性層の残り部分のエピタキシャル成長が行われるので、臨界膜厚までは良好に2次元成長が行われる。したがって、歪を有する量子井戸活性層中にSbが含まれていなくても、良好に2次元成長する。
また、量子井戸活性層が格子定数をGaAs基板よりも大きくするSbを含まないので、量子井戸活性層の格子定数が大きくならずに済み、格子定数が大きくなることによる格子緩和や3次元成長等の、Sb添加による副作用を防ぐことができる。
(第2の形態)
本発明の第2の形態は、第1の形態の半導体発光素子において、前記障壁層には、同時に窒素(N)も含まれていることを特徴としている。
この第2の形態では、障壁層にNを添加したことにより、次の効果が得られる。すなわち、障壁層と量子井戸活性層との間で良好な界面が得られる。具体的に、GaInNAs系材料をMOCVD法で成長する場合は、Nの原料の供給量はAsの原料の供給量に対してモル比(「N原料」/(「N原料」+「As原料」))が0.9を超えるほど大きくしなければならず、Nの原料は多量に供給する必要があり、原料供給のON,OFF時の制御性、つまり界面の制御性を良くすることは難かしい。また、MBE法で成長する場合は、N原料をRF等で活性化させて供給するため、ON,OFFを急峻に行うことは容易ではなく、MOCVD法と同様に、界面の制御性を良くすることは難かしい。しかしながら、障壁層にもNが添加された構造であると、この界面で原料供給のON,OFFの必要がなく、良好な界面を制御して得ることが容易となる。
また、GaSbの格子定数は6.094オングストロームであるので、GaAsに対してSb1%当たり0.0780%の圧縮歪みとなる。障壁層が圧縮歪であることはその上部に成長される圧縮歪を有する量子井戸活性層の臨界膜厚を薄くしてしまうので好ましくはない。
一方、閃亜鉛構造のGaNの格子定数は4.5オングストロームであるので、GaAsに対してN1%当たり0.204%の引張り歪みとなる。したがって、Sbを含んだ障壁層にNを添加すると、Sb添加により生じた歪を補償することができるので、圧縮歪を有する量子井戸活性層の臨界膜厚を薄くしてしまうことが避けられる。Sb添加による歪を補償する方法としては、Nの添加以外にも燐(P)の添加も効果がある。
(第3の形態)
本発明の第3の形態は、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記活性層は、前記障壁層がアンチモン(Sb)及び窒素(N)を同時に含むIII−V族混晶半導体で構成され、前記量子井戸活性層は、障壁層のSb濃度よりも小さいSb濃度を有するか、あるいは、Sbを含まず、かつ、障壁層のN濃度よりも大きいN濃度を有していることを特徴としている。
前述のように、エピタキシャル成長は、下地の影響を受けて成長が行われる。歪を有する量子井戸活性層の成長においては、ヘテロ接合部分となる成長初期が最も重要である。その下地となる障壁層の被成長表面には、表面エネルギーを下げ3次元成長を抑制し2次元成長を促進させるサーファクタント的な効果のあるSbが含まれるので、歪を有する量子井戸活性層の成長初期は良好に2次元成長が行われる。その後は、この良好な活性層成長初期部上に、同一材料のエピタキシャル成長が行われるので、臨界膜厚までは良好に2次元成長が行われる。したがって、歪を有する量子井戸活性層中にSbが含まれていなくても、良好に2次元成長する。もちろん、量子井戸活性層がSbを微量に含んでいてもかまわない。
また、量子井戸活性層中に格子定数をGaAs基板よりも大きくするSbを含まないか、含まれていても障壁層中のSb濃度よりも小さく微量なので、従来よりも格子定数が大きくならずに済み、格子定数が大きくなることによる格子緩和や3次元成長等を防ぐことができる。
また、障壁層にNを添加することの効果は第2の形態に示しているが、更に、この第3の形態では、障壁層のN組成が量子井戸活性層のN組成よりも小さいことによって、障壁層にNを添加しない場合と同様に良好な温度特性が得られる。すなわち、GaAsに対してNを1%添加した材料では、バンドギャップは156meV小さくなり、かつ、伝導帯は175meV下がり、価電子帯は19meV下がる(Kitatani 等による文献「16 th Semiconductor Laser Symposium 」を参照)。このようにわずかのN組成で伝導帯が大きく低下することがわかる。よって、障壁層のN組成を量子井戸活性層よりも大きくすると、障壁層の伝導帯エネルギー低下の方が大きくなり、量子井戸活性層,障壁層ともにNを含まない材料で形成した場合に比べて、伝導帯バンド不連続が小さくなってしまい、半導体レーザの温度特性が悪くなる。ここで、比較として説明した量子井戸活性層,障壁層ともにNを含まない材料としては、例えば量子井戸活性層としてGaInAs、障壁層としてGaAsの組み合わせがあり、例えば文献「IEEE Photon. Technol. Lett. Vol.12 (2000) pp.125−127 」に示されているように140K〜170Kと良好な温度特性が得られており、充分な伝導帯バンド不連続となっている。一方、障壁層のN組成が量子井戸活性層のN組成よりも小さい場合は、量子井戸活性層の伝導帯エネルギー低下の方が大きいので、充分大きな伝導帯バンド不連続を得ることができ、温度特性の良好な半導体レーザを得ることができる。また、エピタキシャル成長では、下地の結晶品質が成長層の成長品質に及ぼす影響は大きい。N組成の増加に伴い結晶性は低下する傾向がある。障壁層のN組成が量子井戸活性層のN組成よりも小さい場合、量子井戸活性層成長時の下地層となる障壁層の結晶性が向上する。よって、量子井戸活性層の結晶性が向上する。
なお、量子井戸活性層のN組成よりも障壁層のN組成を小さくすることは、特にMBE法では容易ではない。MBE法の場合は、通常、シャッターのON,OFFによってヘテロ構造を形成する。例えばGaInNAsとGaNAsのヘテロ構造を形成する場合は、GaのシャッターのON,OFFで行う。したがって成長速度はGaInNAsの方が速い。MBE法では成長速度が小さい場合、N組成は大きくなる。更に、N取り込まれのIn組成依存性は小さいので、GaNAs障壁層の方がN組成は大きくなってしまう。成長速度を変える場合は原料セルの温度を変えて原料の供給量を制御する必要があるが、時間を要するため、成長中断時間を設けた場合の最適化が必要であるなど容易ではない。この場合、Ga原料セルを複数設けそれぞれのセルで供給量を変えることを可能とした装置構成として、量子井戸活性層成長に用いるセルのGa供給量が障壁層成長に用いるセルのGa供給量より少なくし、GaInNAsとGaNAsとで切り替えて成長することで対応できる。また、MOCVD法の場合は、N取り込まれのIn組成依存性が極めて大きく、In組成とともにN取り込まれ効率は急激に小さくなっていくので、特にAs、Nの原料供給量比を大きく変えてやる必要がある。この場合は、原料ガス供給量を応答速度の速いマスフローコントローラで制御して成長することで可能である。
また、上述した第1(更には第2、第3)の形態の半導体発光素子において、前記障壁層は、具体的には、GaAsSb、GaNAsSb、GaInNAsSb、GaNPAsSb、GaPAsSb、GaInNPAsSb、GaInPAsSb、または、GaInAsSbなどにより形成されている。
(第4の形態)
本発明の第4の形態は、上述した第1,第2、第3の形態の半導体発光素子において、Sbを含む障壁層または中間層はGaAs基板に対して引っ張り歪を有していることを特徴としている。
圧縮歪を有する量子井戸活性層に対して引っ張り歪を有する障壁層を用いることで歪補償構造となり、Sb添加の効果との相乗効果により量子井戸活性層の結晶性が向上する。更に活性層の歪が低減(補償)されることで、井戸数を増加することができ、多重量子井戸活性層の設計自由度が大きくなる。
(第5の形態)
本発明の第5の形態は、窒素(N)と他のV族元素を同時に含みGaAs基板に対して圧縮歪を持つ量子井戸活性層と該量子井戸活性層の周囲に形成された障壁層とを有する活性層を備えた半導体発光素子において、前記量子井戸活性層と障壁層との間には、アンチモン(Sb)を含むIII−V族混晶半導体からなる中間層が形成されていることを特徴としている。
表面エネルギーを下げ3次元成長を抑制し2次元成長を促進させるサーファクタント的な効果を得るために、Sbは必ずしも障壁層全体に添加される必要はなく、歪を有する量子井戸活性層成長開始時の被成長基板表面層にSbが含まれていれば、上記効果が得られる。例えば障壁層にSbを含まない材料を用いた場合、障壁層と歪を有する量子井戸活性層との間にSbを含んだ中間層を挿入した構造とすることで、量子井戸活性層の結晶性を向上することができる。もちろん、障壁層にSbが含まれていてもかまわない。
この第5の形態の半導体発光素子において、前記中間層は、具体的には、GaAsSb、GaNAsSb、GaInNAsSb、GaNPAsSb、GaPAsSb、GaInNPAsSb、GaInPAsSb、または、GaInAsSbなどにより形成されている。
(第6の形態)
本発明の第6の形態は、上述した第5の形態の半導体発光素子において、障壁層はGaAs基板に対して引っ張り歪を有し、Sbを含む中間層の格子定数は障壁層の格子定数よりも大きく量子井戸活性層の格子定数よりも小さいことを特徴としている。
大きな圧縮歪を有する量子井戸活性層と引っ張り歪を有する障壁層とを積層することで歪補償構造となり、活性層の歪が低減(補償)されるが、界面ではより歪差が大きくなっているので、場合によっては歪補償効果が得られない場合がある。圧縮歪層と引っ張り歪層との間に、格子定数がその間にある中間層を挿入することで、歪差を低減でき、歪補償効果を確実に得ることが可能となる。
(第7の形態)
本発明の第7の形態は、窒素(N)と他のV族元素を同時に含む量子井戸活性層を有する半導体発光素子において、前記量子井戸活性層は、InとSbと他のV族元素を同時に含むA層と、Inを含まないかA層よりもIn組成が小さくNと他のV族元素を同時に含むB層とが周期的に積層されてなることを特徴としている。
表面エネルギーを下げ3次元成長を抑制し2次元成長を促進させるサーファクタント的な効果を得るために、InとSbと他のV族元素を同時に含むA層と、Inを含まないかA層よりもIn組成が小さくNと他のV族元素を同時に含むB層とを周期的に積層させた短周期超格子構造からなる量子井戸活性層とすることもできる。
まず、N組成の微視的な面内分布はN組成増加とともに大きくなり、またInを同時に含む場合、更に分布が大きくなる。これが進むと結果的に3次元成長する。よって、NとInが同時に含まれない方が好ましい。また、MOCVD法においては、Nと他のV族元素を同時に含む混晶にSbを添加するのは容易ではないので、NとSbを同時に含まない方が好ましい。したがって、GaAs基板上に形成することを考えると、InとAsとSbを同時に含む層と、NとAsを同時に含む層とを周期的に積層させた短周期超格子構造からなる量子井戸活性層とすることが好ましい。
上記量子井戸活性層は、NとSbが同時に含まれないA層とB層を数原子層程度で周期的に積層することで、A層とB層の平均組成の混晶とみなすことが可能となる。
この第7の形態の半導体発光素子において、前記短周期超格子構造からなる量子井戸活性層を構成するA層(InとSbと他のV族元素を同時に含む層)とB層(Inを含まずNと他のV族元素を同時に含む層)は、具体的には、それぞれGaInAsSb、GaNAsなどにより構成されている。
例えば、A層をGaInAsSbとし、B層をGaNAsとすると、MOCVD法では成長が困難であるIn、Sb、Nと他のV族元素とを同時に含んだ混晶であるGaInNAsSbを擬似的に得ることができる。また、GaInNAsではN添加によるInの組成偏析による3次元成長が問題となるが、Inは主にA層、Nは主にB層に取り込んでいるので、3次元成長を抑制できる。
GaInAsSb層は、Inを含んでおり圧縮歪を有するが、Sb添加によりサーファクタント的な効果を得てGaInAsSb層自体の3次元成長を抑制できるとともに、GaNAs層成長時の下地結晶にSbが含まれることからGaNAs層のNの組成偏析を低減できる。
なお、A層にはB層よりも少ない量であればNを含んでいてもかまわない。また、B層にはA層よりも少ない量であればInを含んでいてもかまわない。また、両方の層とも、Pなど他のIII−V族元素を含んでいてもかまわない。
上述した第1から第7の形態の半導体発光素子を作製する場合において、少なくとも活性層はMOCVD法によって結晶成長されるのが良い。すなわち、本発明の半導体発光素子は、MOCVD法によって結晶成長される場合に特に有効である。MOCVD法のような有機金属や水素化物原料を用いた原料同士の反応を含んだ成長方法においては、Sb組成はV族供給比に大きく依存し、Nと他のV族元素を同時に含んだ層へ更にSbを添加するのは容易ではないが、Inを含まない場合は十分成長可能である。しかしInを含んだ場合は極めて困難である。GaInNAs系量子井戸活性層は通常Inが30〜40%含まれているが、MOCVD法ではIn組成の増加とともにNの取り込まれが激減し、より多量のN原料を供給する必要があり、更にSbを添加するのは極めて困難である。よって、量子井戸活性層(またはNを主に含むB層)にSbが含まれないか微量で結晶性を向上させる本発明は、MOCVD法において特に効果がある。
また、上述した各形態の半導体発光素子は、具体的には、面発光型半導体レーザとして構成することができる。
安価で、距離を気にしないで、光ネットワーク,光配線の大容量化を図るためには、光源として、シリカファイバーの伝送ロスが小さく整合性が良い1.3μm帯,1.55μm帯の半導体レーザであって、温度特性が良く冷却素子を使用しない半導体レーザが必要であり、これには、面発光型半導体レーザ素子(VCSEL: Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直キャビティ面発光型半導体レーザ素子)が極めて有望である。面発光型半導体レーザ素子(面発光レーザ)は、端面発光型半導体レーザに比べて、低価格化,低消費電力化,小型化,2次元集積化に向き、実際に、GaAs基板上に形成できる0.85μm帯では、すでに高速LANである1Gbit/秒のイーサネットなどで実用化されている。上述した各実施形態の半導体発光素子は、GaInNAs系材料を活性層にしているので、これらの波長に対応できる。
また、本発明のようにSbを含んだ障壁層または中間層を直接量子井戸活性層に接して形成することで、活性層は良好に2次元成長し、発光効率が高くしきい値の低い長波長面発光型半導体レーザを得ることができる。なお、MOCVD法で形成すると面発光レーザの半導体分布ブラッグ反射鏡の抵抗を低減できるので、低電圧駆動が可能となり、好ましい。
また、上述した本発明の面発光型半導体レーザを光源として用いた光送信モジュールを構成することができる。
上述したように、本発明の面発光型半導体レーザは、低抵抗で駆動電圧が低く、低しきい値電流動作し、温度特性が良いので、この面発光型半導体レーザを用いることによって、冷却素子が不要な低コストな光送信モジュールを実現することができる。
また、上述した本発明の面発光型半導体レーザを光源として用いた光送受信モジュールを構成することができる。
上述したように、本発明の面発光型半導体レーザは、低抵抗で駆動電圧が低く、低しきい値電流動作し、温度特性が良いので、この面発光型半導体レーザを用いることによって、冷却素子が不要な低コストな光送受信モジュールを実現することができる。
また、上述した本発明の面発光型半導体レーザを光源として用いた光通信システムを構成することができる。
上述したように、本発明の面発光型半導体レーザは、低抵抗で駆動電圧が低く、低しきい値電流動作し、温度特性が良いので、この面発光型半導体レーザを用いることによって、冷却素子が不要な低コストな光ファイバー通信システム,光インターコネクションシステムなどの光通信システムを実現することができる。
図2は本発明の実施例1のGaInNAs端面発光型半導体レーザを示す図である。なお、図2の例では、リッジストライプ型レーザとなっている。また、図2のGaInNAs端面発光型半導体レーザは、層構造としては、SCH−SQW(Separate Confinement Heterostructure Single Quantum Well)構造となっている。
図2の例では、面方位(100)のn−GaAs基板上に、Seドープn−GaAsバッファ層,Seドープn−AlGaAs下部クラッド層,アンドープGaAs下部光ガイド層,活性層,アンドープGaAs上部光ガイド層,Znドープp−AlGaAs上部クラッド層,Znドープp−GaAsコンタクト層が順次成長されている。
ここで、活性層は、圧縮歪みを有する1層のGaInNAs量子井戸活性層(井戸層)と、その上下に形成された基板に格子整合するGaPAsSb障壁層(バリア層)とからなっている。井戸層のIn組成xは35%,窒素(N)組成は0.8%とした。また、井戸層の厚さは8nmとした。また、成長方法はMOCVD法で行った。キャリアガスには、H2を用いた。また、原料には、TMG(トリメチルガリウム),TMI(トリメチルインジウム),AsH3(アルシン),PH3(フォスフィン)を用い、そして、窒素(N)の原料には、DMHy(ジメチルヒドラジン)を用いた。DMHyは低温で分解するので、600℃以下のような低温成長に適している。この実施例1では、GaInNAs層を550℃で成長した。特に歪みの大きい量子井戸層を成長する場合は例えば500℃〜600℃程度の低温成長が好ましい。GaPAsSb障壁層もGaInNAs層と同じ550℃で成長した。
そして、フォトリソグラフィとエッチング技術により幅3μmのストライプ領域以外をp−AlGaAs層の途中まで除去し、リッジ構造を形成した。そして、このリッジ構造上に、p側電極を、電流注入部となる部分を除去した絶縁膜を介して形成した。また、基板の裏面には、n側電極を形成した。
この実施例1では、GaAs光ガイド層とGaInNAs量子井戸活性層との間にGaPAsSb障壁層が形成されている。GaAsに対して、P1%あたり0.036%だけ格子定数は小さくなり、Sb1%あたり0.078%だけ格子定数が大きくなる。よって、格子整合させるためにP組成をSb組成の約2.2倍とした。具体的には、P組成6%、Sb組成2.7%とした。
この実施例1では、量子井戸活性層中に格子定数をGaAs基板よりも大きくするSbを含まないので、格子定数が大きくならずに済み、格子定数が大きくなることによる格子緩和や3次元成長等の、Sb添加による副作用を防ぐことができた。
また、大きな圧縮歪を有するGaInNAs量子井戸活性層成長時の下地層となる障壁層として、表面エネルギーを下げ3次元成長を抑制し2次元成長を促進させるサーファクタント的な効果のあるSbが含まれることにより、量子井戸活性層の結晶性が向上し、発光効率が高くしきい値の低い半導体レーザを得ることができた。
更に、障壁層にPが含まれていることで、伝導帯バンド不連続が従来のGaAs障壁層に比べて大きくなり、キャリア(電子)のオーバーフローが減り、井戸層が1層のものであっても、温度特性は良好であった。
また、MOCVD法のような有機金属や水素化物原料を用いた原料同士の反応を含んだ成長方法においては、Sb組成はV族供給比に大きく依存し、Nと他のV族元素を同時に含んだ層へ更にSbを添加するのは容易ではない。特にGaInNAs系量子井戸活性層は通常Inを30〜40%含んでいるが、MOCVD法ではIn組成の増加とともにNの取り込まれが激減し、より多量のN原料を供給する必要があり、更にSbを添加するのは極めて困難である。この実施例1では、MOCVD法で結晶成長しているが、量子井戸活性層にSbが含まれていないので、Sbが含まれている場合に比べて量子井戸活性層の結晶成長が極めて容易となる。
また、上述の例では、MOCVD法での成長の例を示したが、MBE法等の他の成長方法を用いることもできる。また、窒素の原料にDMHyを用いたが、活性化した窒素やNH3等の他の窒素化合物を用いることもできる。
また、この実施例1では、障壁層としてGaPAsSbを用いたが、障壁層としては、少なくともSbが含まれていれば良く、GaPAsSbの他にも、GaAsSb、GaNAsSb、GaInNAsSb、GaNPAsSb、GaInNPAsSb、GaInPAsSb、または、GaInAsSbなどを用いることができる。
また、図2の例では、積層構造として、単一量子井戸構造(SQW)の例を示したが、多重量子井戸構造を用いることもできる。また、各層の組成厚さ等は、必要に応じて設定できる。また、クラッド層には、AlGaAs系材料と同様にワイドギャップのAlGaInP系材料を用いることもできる。また、レーザの構造も他の構造にしてもかまわない。
図3は本発明の実施例2のGaInNAs端面発光型半導体レーザを示す図である。この実施例2の実施例1との違いは、量子井戸活性層(井戸層)を2層とし、その上下に形成した障壁層を、引張り歪みを有するGaNAsSbとしたことである。
GaNAsSbでは、GaAsに対して、N1%当たり0.204%の引張り歪みとなり、また、Sb1%あたり0.078%の圧縮歪となる。よって、引っ張り歪とするために、N組成をSb組成の約0.38倍よりも大きくした。具体的には、N組成1.5%、Sb組成2%とした。このように、圧縮歪を有する量子井戸活性層に対して引っ張り歪を有する障壁層を用いることで、歪補償構造となり、井戸層を3層としたが、Sb添加の効果との相乗効果によって量子井戸活性層の結晶性が向上した。
また、エピタキシャル成長では、下地の結晶品質が成長層の成長品質に及ぼす影響は大きい。GaInNAs系材料をMOCVD法で成長する場合は、Nの原料の供給量は、Asの原料の供給量に対して、モル比(「N原料」/(「N原料」+「As原料」))が0.9を超えるほど大きくしなければならず、Nの原料を多量に供給する必要があり、原料供給のON,OFF時の制御性、つまり界面の制御性を良くすることは難かしい。また、別の成長法であるMBE法で成長する場合は、N原料をRF等で活性化させて供給するため、ON,OFFを急峻に行うことは容易ではなく、MOCVD法と同様に界面の制御性を良くすることは難かしい。しかしながら、この実施例2のように障壁層にもNが添加された構造であると、この界面で原料供給のON,OFFの必要がなく、良好な界面を制御して得ることが容易となり、より発光効率が高くしきい値の低い半導体レーザを得ることができた。
図4は本発明の実施例3のGaInNAs面発光型半導体レーザ素子を示す図である。図4に示すように、この実施例3における面発光型半導体レーザ素子(面発光レーザ)は、3インチの大きさの面方位(100)のn−GaAs基板上に、それぞれの媒質内における発振波長の1/4倍の厚さでn−AlxGa1−xAs(x=0.9)とn−GaAsを交互に35周期積層した周期構造からなるn−半導体分布ブラッグ反射鏡(下部半導体分布ブラッグ反射鏡:単に下部反射鏡ともいう)が形成されている。
そして、その上に、アンドープ下部GaAsスペーサ層,4層のGaInNAs量子井戸活性層と5層のGaNPAsSb障壁層(バリア層)とからなる活性層,アンドープ上部GaAsスペーサ層が形成されている。
そして、その上に、p−半導体分布ブラッグ反射鏡(上部半導体分布ブラッグ反射鏡:単に上部反射鏡ともいう)が形成されている。上部反射鏡は、Cドープのp−AlxGa1−xAs(x=0.9)とp−GaAsとをそれぞれの媒質内における発振波長の1/4倍の厚さで交互に積層した周期構造(例えば、25周期)で構成されている。なお、上部反射鏡中の活性層に近い位置には、AlAsからなる被選択酸化層が例えば30nmの厚さで設けられている。また、上部反射鏡の最上部のGaAs層は、電極とのコンタクトを取るコンタクト層を兼ねている。
この実施例3では、活性層内の井戸層のIn組成xは33%,窒素(N)組成は1.0%とした。また、井戸層は、厚さが7nmであり、GaAs基板に対して約2.1%の圧縮歪(高歪)を有していた。また、GaNPAsSb障壁層は、N組成が0.5%,P組成が9%、Sb組成が3%であり、厚さが20nmであり、GaAs基板に対して約0.2%の引張り歪みを有している。
成長方法にはMOCVD法を用いた。キャリアガスには、H2を用いた。また、GaInNAs活性層の原料には、TMG(トリメチルガリウム),TMI(トリメチルインジウム),AsH3(アルシン)を用い、そして、窒素(N)の原料には、DMHy(ジメチルヒドラジン)を用いた。DMHyは低温で分解するので、600℃以下のような低温成長に適しており、特に低温成長の必要な歪みの大きい量子井戸層を成長する場合、好ましい原料である。この実施例3のGaInNAs面発光型半導体レーザ素子の活性層のように歪が大きい場合は、非平衡となる低温成長が好ましい。この実施例3では、GaInNAs層は540℃で成長させた。
この実施例3では、所定の大きさのメサを少なくともp−AlAs被選択酸化層の側面を露出させて形成し、側面の現れたAlAsを水蒸気で側面から酸化してAlxOy電流狭さく部を形成した。そして、次に、ポリイミドでエッチング部を埋め込んで平坦化し、pコンタクト部と光出射部のある上部反射鏡上のポリイミドを除去し、pコンタクト層上の光出射部以外にp側電極を形成し、また、基板の裏面にn側電極を形成した。
作製した面発光型半導体レーザ素子の発振波長は約1.3μmであった。GaInNAsを活性層に用いたので、GaAs基板上に長波長帯の面発光型半導体レーザ素子を形成できた。
また、エピタキシャル成長では、下地の結晶品質が成長層の成長品質に及ぼす影響は大きい。この実施例3のように障壁層のN組成が量子井戸活性層のN組成よりも小さい場合、量子井戸活性層成長時の下地層となる障壁層の結晶性が向上することになり、量子井戸活性層の結晶性が向上し、より発光効率が高く、低しきい値電流で動作した。
また、障壁層のN組成を量子井戸活性層よりも小さくしているので、N添加による伝導帯エネルギーの低下は量子井戸活性層の伝導帯エネルギーの方が障壁層よりも大きくなり、これによって、充分大きな伝導帯バンド不連続を得ることができ、温度特性の良好な面発光レーザを得ることができた。
また、障壁層のN組成は小さいが、Pを添加しているので、充分な引張り歪み組成を得ることができ、大きな圧縮歪みを有した活性層を用いていても、結晶欠陥が発生することなく井戸数を増やすことができ、高出力が得られ、また、歪みの低減効果により素子の信頼性も向上した。
また、AlとAsを主成分とした被選択酸化層の選択酸化により電流狭さくを行ったので、しきい値電流は低かった。被選択酸化層を選択酸化したAl酸化膜からなる電流狭さく層を用いた電流狭さく構造によると、電流狭さく層を活性層に近づけて形成することで電流の広がりを抑えられ、大気に触れない微小領域に効率良くキャリアを閉じ込めることができる。さらに酸化してAl酸化膜となることで屈折率が小さくなり凸レンズの効果でキャリアの閉じ込められた微小領域に効率良く光を閉じ込めることができ、極めて効率が良くなり、しきい値電流は低減される。また、容易に電流狭さく構造を形成できることから、製造コストを低減できる。
GaInNAs等の窒素と他のV族を含んだ半導体層の作製にはMBE法が主に用いられていたが、原理的に高真空中での成長なので原料供給量を大きくできない。すなわち、原料供給量を大きくすると、排気系に負担がかかるというデメリットがある。高真空排気系の排気ポンプを必要とするが、MBEチャンバー内の残留原料等を除去するなどのために排気系に負担がかかり故障しやすいことからスループットは悪い。
面発光型半導体レーザ素子は、レーザ光を発生する少なくとも1層の活性層を含んだ活性領域を半導体多層膜反射鏡で挟んで構成されている。端面発光型レーザの結晶成長層の厚さが3μm程度であるのに対して、例えば1.3μm波長帯の面発光型半導体レーザ素子では、結晶成長層の厚さとして10μmを超える厚さが必要になるが、MBE法では高真空を必要とすることから原料供給量を高くすることができず、成長速度は1μm/時程度であり、10μmの厚さを成長するには原料供給量を変えるための成長中断時間を設けないとしても最低10時間かかる。
活性領域の厚さは全体に比べて通常ごくわずかであり(10%以下)、ほとんどが多層膜反射鏡を構成する層である。半導体多層膜反射鏡はそれぞれの媒質内における発振波長の1/4倍の厚さ(λ/4の厚さ)で低屈折率層と高屈折率層を交互に積層して(例えば20〜40ペア)形成されている。GaAs基板上の面発光型半導体レーザ素子では、AlGaAs系材料を用いAl組成を変えて低屈折率層(Al組成大)と高屈折率層(Al組成小)としている。しかし実際には、特にp側は各層のヘテロ障壁により抵抗が大きくなるので、低屈折率層と高屈折率層との間に、Al組成が両者の間となる中間層を挿入して多層膜反射鏡の抵抗を低減している。
このように、面発光型半導体レーザ素子は、100層を超える組成の異なる半導体層を成長しなければならないことの他に、多層膜反射鏡の低屈折率層と高屈折率層との間にも中間層を設けるなど、瞬時に原料供給量を制御する必要がある素子である。しかし、MBE法では、原料供給量を原料セルの温度を変えて制御しており、臨機応変に組成をコントロールすることができない。よって、MBE法により成長した半導体多層膜反射鏡は、抵抗を低くするのは困難であり、動作電圧が高い。
一方、MOCVD法は、原料ガス流量を制御するだけで良く、瞬時に組成をコントロールできるとともに、MBE法のような高真空を必要とせず、また成長速度を例えば3μm/時以上と高くでき、容易にスループットを上げられることから、極めて量産に適した成長方法である。
このように、この実施例3によれば、低抵抗,低消費電力で低コストの1.3μm帯の面発光型半導体レーザ素子を実現できる。
図5は本発明の実施例4の1.3μm帯面発光型半導体レーザ素子を示す図である。
この実施例4が実施例3と違うところは、障壁層として引っ張り歪を有するGaNPAsが用いられ、大きな圧縮歪を有する量子井戸活性層と引っ張り歪を有する障壁層との間に、両者の間の格子定数を持つGaAsSbからなる中間層が形成されていることである。この中間層は、Sb組成が5%であり、GaAs基板に対して約0.4%の圧縮歪を有していた。また、この中間層の厚さは1nmとした。
表面エネルギーを下げ3次元成長を抑制し2次元成長を促進させるサーファクタント的な効果を得るために、Sbは必ずしも障壁層全体に添加される必要はなく、歪を有する量子井戸活性層成長開始時の被成長基板表面層にSbが含まれていれば良い。例えばこの実施例4のように障壁層にSbを含まない材料を用いた場合、障壁層と歪を有する量子井戸活性層との間にSbを含んだ中間層を挿入した構造とすることで、量子井戸活性層の結晶性を向上することができた。
また、大きな圧縮歪を有する量子井戸活性層と引っ張り歪を有する障壁層とを積層することで歪補償構造となり、活性層の歪が低減(補償)されるが、界面ではより歪差が大きくなっているので、場合によっては歪補償効果が得られない場合がある。この第4の実施例のように圧縮歪層と引っ張り歪層との間に格子定数がその間にある中間層を挿入することで、歪差を低減でき、歪補償効果を容易に得ることができた。
なお、この実施例4では、中間層としてGaAsSbを用いたが、Sbを含んでいれば良く、GaNAsSb、GaInNAsSb、GaNPAsSb、GaPAsSb、GaInNPAsSb、GaInPAsSb、または、GaInAsSbなどを用いることができる。
ただし、MOCVD法のような有機金属や水素化物原料を用いた原料同士の反応を含んだ成長方法においては、Sb組成はV族供給比に大きく依存し、Nと他のV族元素を同時に含んだ層へ更にSbを添加するのは容易ではない。よって、GaAs基板に成長する場合は、中間層としては、GaAsSbが最も容易に結晶成長できるので好ましい。
図6は本発明の実施例5の面発光レーザアレイを示す図(上面図)である。
この実施例5の面発光レーザアレイは、実施例4の面発光型半導体レーザが10素子、1次元に並んだものとなっている。これは、2次元に集積させてもかまわない。ただし、実施例5の面発光レーザアレイは、実施例4と導電型(p,n)が逆になっている。すなわち、実施例5の面発光レーザアレイでは、上面にn側個別電極が形成され、基板裏面にp側共通電極が形成されている。これはアノードコモンとして高速動作が可能なバイポーラトランジスタ駆動回路を用いることができるので、複数の素子により同時により多くのデータを伝送することができるからである。これにより、同時により多くのデータを伝送する並列伝送が可能となる。
図7は本発明の実施例6の光送信モジュールを示す図であり、実施例6の光送信モジュールは、実施例5の面発光レーザアレイチップとシリカファイバーとを組み合わせたものとなっている。この実施例6では、面発光レーザアレイチップからのレーザ光が光ファイバーに入力され伝送される。ここで、光ファイバーには、シングルモードファイバーを用いている。同時により多くのデータを伝送するために、複数の半導体レーザが集積したレーザアレイを用いた並列伝送が試みられている。この実施例6では、シングルモード高出力面発光レーザを用いているので、高速な並列伝送が可能となり、従来よりも多くのデータを同時に伝送できるようになった。
さらに、本発明による面発光型半導体レーザ素子を光通信システムに用いると、低コストで信頼性が高い光送信モジュールを実現できる他に、これを用いた低コスト,高信頼性の光通信システムを実現できる。また、GaInNAsを用いた面発光型半導体レーザ素子は、温度特性が良いこと、及び、低しきい値であることにより、発熱が少なく高温まで冷却なしで使えるシステムを実現できる。
この実施例6では、面発光型半導体レーザ素子と光ファイバーとを1対1に対応させたが、発振波長の異なる複数の面発光型半導体レーザ素子を1次元または2次元にアレイ状に配置して、波長多重送信することにより、伝送速度を更に増大することが可能となる。
図8は本発明の実施例7の光送受信モジュールを示す図であり、この実施例7の光送受信モジュールは、実施例3の面発光型半導体レーザ素子と、受信用フォトダイオードと、光ファイバーとを組み合わせたものとなっている。
本発明による面発光型半導体レーザ素子を光通信システムに用いる場合、面発光型半導体レーザ素子は低コストであるので、図8に示すように、送信用の面発光型半導体レーザ素子(1.3μm帯GaInNAs面発光型半導体レーザ素子)と、受信用フォトダイオードと、光ファイバーとを組み合わせた低コスト,高信頼性の光通信システムを実現できる。また、本発明に係るGaInNAsを用いた面発光型半導体レーザ素子は、温度特性が良いこと、動作電圧が低いこと、及び、低しきい値であることにより、発熱が少なく、高温まで冷却なしで使えるより低コストのシステムを実現できる。
さらに、1.3μm等の長波長帯で低損失となるフッ素添加POF(プラスチックファイバ)とGaInNAsを活性層に用いた面発光型半導体レーザとを組み合わせると、ファイバが低コストであること、ファイバの径が大きくてファイバとのカップリングが容易で実装コストを低減できることから、極めて低コストのモジュールを実現できる。
本発明の面発光型半導体レーザ素子を用いた光通信システムとしては、光ファイバーを用いた長距離通信に用いることができるのみならず、LAN(Local Area Network)などのコンピュータ等の機器間伝送、さらには、ボード間のデータ伝送、ボード内のLSI間、LSI内の素子間等、光インターコネクションとして短距離通信に用いることができる。
近年LSI等の処理性能は向上しているが、これらを接続する部分の伝送速度が今後ボトルネックとなる。システム内の信号接続を従来の電気接続から光インターコネクトに変えると(例えばコンピュータシステムのボード間、ボード内のLSI間、LSI内の素子間等を本発明に係る光送信モジュールや光送受信モジュールを用いて接続すると)、超高速コンピュータシステムが可能となる。
また、複数のコンピュータシステム等を本発明に係る光送信モジュールや光送受信モジュールを用いて接続すると、超高速ネットワークシステムが構築できる。特に面発光型半導体レーザ素子は端面発光型レーザに比べて桁違いに低消費電力化でき、2次元アレイ化が容易なので、並列伝送型の光通信システムに適している。
以上説明したように、窒素を含んだ半導体層であるGaInNAs系材料によると、GaAs基板を用いた0.85μm帯面発光型半導体レーザ素子などで実績のあるAl(Ga)As/(Al)GaAs系半導体多層膜分布ブラッグ反射鏡や、AlAsの選択酸化による電流狭さく構造が適用でき、また、本発明を採用することにより、実用レベルの高性能の1.3μm帯等の長波長帯面発光型半導体レーザ素子を実現でき、さらにこれらの素子を用いることで、低コストで信頼性が高い光送信モジュール,光通信システムを実現できる。また、GaInNAsを用いた面発光型半導体レーザ素子は、温度特性が良いこと、及び、低しきい値であることにより、発熱が少なく高温まで冷却なしで使えるシステムを実現できる。
図9は本発明の実施例8の1.3μm帯面発光型半導体レーザ素子の活性層構造を示す図である。
この実施例8が実施例3と違うところは、障壁層としてGaNPAsを用い、また量子井戸活性層として6分子層のGaInAsSb層と2分子層のGaNAs層を交互に3.5周期積層した短周期超格子構造としたことである。GaInAsSb層のIn組成は40%、Sb組成は4%とした。また、GaNAs層のN組成は2%とした。これは他の組成でもかまわない。
本実施例の量子井戸活性層は、NとSbの組み合わせ、InとNの組み合わせが同時に含まれないGaInAsSb層とGaNAs層を数原子層程度で周期的に積層することで、GaInAsSb層とGaNAs層との平均組成のGaInNAsSb混晶と同等な材料とみなせる。GaInNAsではN添加によるInの組成偏析による3次元成長が問題となるが、InとNを同時に含んでいないので、N添加による3次元成長を抑制できる。また、GaInAsSb層はInを含んでおり大きな圧縮歪を有するが、Sb添加によりサーファクタント的な効果を得てGaInAsSb層自体の3次元成長を抑制できるとともに、GaNAs層成長時の下地結晶にSbが含まれることからGaNAs層のN組成偏析も低減でき、平坦で均一な活性層を形成できる。このようにMOCVD法では成長が困難であるIn、Sb、N、Asを同時に含んだGaInNAsSbの物性に近い特性を得ることができる。
これにより、この実施例8によれば、発光効率が高く、低抵抗,低消費電力で低コストの1.3μm帯の面発光型半導体レーザ素子を実現できた。
本願の発明者が実験的に求めたしきい値電流密度の窒素組成依存性を示す図である。
本発明の実施例1のGaInNAs端面発光型半導体レーザを示す図である。
本発明の実施例2のGaInNAs端面発光型半導体レーザを示す図である。
本発明の実施例3のGaInNAs面発光型半導体レーザ素子を示す図である。
本発明の実施例4の1.3μm帯面発光型半導体レーザ素子を示す図である。
本発明の実施例5の面発光レーザアレイを示す図(上面図)である。
本発明の実施例6の光送信モジュールを示す図である。
本発明の実施例7の光送受信モジュールを示す図である。
本発明の実施例8の面発光レーザの活性層構造を示す図である。