JP4322020B2 - 半導体発光素子および光送信用モジュールおよび光通信システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体発光素子および光送信用モジュールおよび光通信システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、窒素(N)とその他のV族元素を含むIII−V族混晶半導体が半導体発光素子の材料として注目されている。特にGaInNAsは、現在の光通信システムで用いられる光ファイバーに対して低損失の波長域である1.3μm帯でのレーザ発振が可能であるため、盛んに研究開発が行なわれている材料である。GaInNAsは、GaAsNとGaInAsとの混晶であり、伝導帯準位はN組成に対する依存性に大きなボーイングパラメータを有するため、圧縮歪を加えたGaInNAsは、GaAsとの組み合わせでタイプI型のヘテロ接合を形成できる。GaInNAsとGaAsとの組み合わせで構成する量子井戸活性層においては、伝導帯のバンドギャップ不連続量が大きく、キャリアのオーバーフローが起きにくいため、良好な温度特性を有する半導体発光素子を提供することができる。また、GaInNAsは、圧縮歪を加えて用いるため、しきい電流の低減および発振波長の長波長化に対しても有利である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、GaInNAsは、上記ような歪を有するために、格子緩和などで転位などの欠陥が入りやすく、良質な活性層を得ることが困難であった。また、初期には欠陥が少なくても経時的にも歪により欠陥が増殖し、特性の経時的劣化を招くという問題もある。
【0004】
このような問題を解決するための手法としては、活性層の歪と逆方向の歪を有する結晶層を活性層近傍に導入することで活性層近傍でのトータルの歪を補償する歪補償層(strain−compensated layer)を用いる方法が近年行なわれるようになってきている。
【0005】
GaInNAsにおいては、活性層と逆の引っ張り歪を有する歪補償層として、GaAsPおよびGaAsNが用いられている。しかしながら、歪補償層を活性層に隣接して設ける場合、GaAsP,GaAsNをそれぞれ用いる歪補償層では、以下のような問題点が存在する。
【0006】
例えば文献「Appl.Phys.Lett.,78,91(2001)」にて報告されているように、GaAsPのみで歪補償層を活性層に隣接させた場合、GaAsPの方がGaAsよりも伝導帯バンドが高く、伝導帯バンドのバンドギャップ不連続量が大きくなり、結果として量子準位が高くなり、発光波長の短波長化を招いてしまう(図1を参照)。このことにより、GaAsとの組み合わせで作った量子井戸活性層と同じ発光波長を得るためには、GaInNAs活性層の歪を大きくしたり、窒素(N)組成を増加させる必要がある。しかし、活性層の歪を大きくするのは格子緩和などの原因であり好ましくなく、また、N組成を増加させると非混和性が高いことから良質の結晶成長が困難になるので好ましくない。
【0007】
また、GaAsNのみで歪補償層を活性層に隣接させた場合は、逆に、GaAsNの方がGaAsよりも伝導帯バンドが低く、伝導帯バンドのバンドギャップ不連続量が小さくなり、半導体発光素子の温度特性が悪化してしまう(図2を参照)。伝導帯バンドの不連続量が小さくなるのを避けるにはNの組成を低くする必要があるが、そうなると引っ張り歪の大きさが小さくなり、歪補償の効果が低下してしまう。
【0008】
本発明は、窒素(N)とその他のV族元素を含む混晶半導体を用いた半導体発光素子において、発光波長を短波長化することなく、歪補償の効果を大きくすることの可能な半導体発光素子および光送信用モジュールおよび光通信システムを提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる複数の量子井戸活性層とバリア層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、前記活性領域には、各量子井戸活性層に隣接して、各量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との複数の層構造からなる歪補償層が設けられており、かつ、各量子井戸活性層間の前記バリア層が燐(P)または窒素(N)を含む引っ張り歪を有する層であることを特徴としている。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との複数の層構造からなる歪補償層は、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層の引っ張り歪が、各量子井戸活性層間の前記バリア層の歪に対して大きいことを特徴としている。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層と活性層とを有する構造の中に、連続的に歪を変化させた組成傾斜層が含まれていることを特徴としている。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層として組成がGaAs (1−x) P x (0<x≦0.2)であるGaAsP層を用い、かつ、前記GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層として厚さが1nm以上のGaAsNを用いることを特徴としている。
【0016】
また、請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の半導体発光素子において、半導体発光素子は、面発光型半導体レーザであることを特徴としている。
【0017】
また、請求項6記載の発明は、光送信用光源として、請求項5記載の半導体発光素子が用いられることを特徴とする光送信用モジュールである。
【0018】
また、請求項7記載の発明は、光送信用モジュールとして、請求項6記載の光送信用モジュールが用いられることを特徴とする光通信システムである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態は、窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる量子井戸活性層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、活性領域には、量子井戸活性層に隣接して、量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との多層構造からなる歪補償層が設けられていることを特徴としている。
【0021】
この第1の実施形態では、窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる量子井戸活性層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、活性領域には、量子井戸活性層に隣接して、量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との多層構造からなる歪補償層が設けられているので、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0022】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる多重量子井戸活性層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、活性領域には、各量子井戸活性層に隣接して、各量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との多層構造からなる歪補償層が設けられていることを特徴としている。
【0023】
この第2の実施形態では、窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる多重量子井戸活性層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、活性領域には、各量子井戸活性層に隣接して、各量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との多層構造からなる歪補償層が設けられているので、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の多重量子井戸活性層を有する半導体発光素子を提供することができる。
【0024】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態は、第1または第2の実施形態の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層は、GaAsに対して引っ張り歪を有していることを特徴としている。
【0025】
この第3の実施形態では、第1または第2の実施形態の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層は、GaAsに対して引っ張り歪を有しているので、より歪補償を有利に行なうことができる。
【0026】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態は、窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる多重量子井戸活性層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、活性領域には、各量子井戸活性層に隣接して、各量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との多層構造からなる歪補償層が設けられており、また、各量子井戸活性層間のバリア層が燐(P)または窒素(N)を含む引っ張り歪を有する層であることを特徴としている。
【0027】
この第4の実施形態では、窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる多重量子井戸活性層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、活性領域には、各量子井戸活性層に隣接して、各量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との多層構造からなる歪補償層が設けられており、また、各量子井戸活性層間のバリア層が燐(P)または窒素(N)を含む引っ張り歪を有する層であるので、量子井戸活性層間のバリア層を厚くしたくない場合でも、より有利に歪補償を行なうことが可能になり、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸活性層における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0028】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態は、第4の実施形態の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との多層構造からなる歪補償層は、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層の引っ張り歪が、各量子井戸活性層間のバリア層の歪に対して大きいことを特徴としている。
【0029】
この第5の実施形態では、第4の実施形態の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との多層構造からなる歪補償層は、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層の引っ張り歪が、各量子井戸活性層間のバリア層の歪に対して大きいので、量子井戸活性層間のバリア層(障壁層)を比較的厚くしたい場合でも、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層による格子緩和を回避しつつ、より有利に歪補償を行なうことができ、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0030】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態は、第1乃至第5のいずれかの実施形態の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層と活性層とを有する多層構造中に、連続的に歪を変化させた組成傾斜層が含まれていることを特徴としている。
【0031】
この第6の実施形態では、第1乃至第5のいずれかの実施形態の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層と活性層とを有する多層構造中に、連続的に歪を変化させた組成傾斜層が含まれており、歪差の大きな層の間を組成傾斜層にすることで、活性層近傍の歪場を軽減でき高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0032】
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態は、第1乃至第5のいずれかの実施形態の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層としてGaAsP層を用い、かつ、前記GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層としてGaAsNを用いるとき、GaAsP層のGaAsPの組成をGaAs(1−x)Px(0<x≦0.2)とし、また、量子井戸活性層に隣接するGaAsNの厚さを1nm以上とすることを特徴としている。
【0033】
この第7の実施形態では、第1乃至第5のいずれかの実施形態の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層としてGaAsP層を用い、かつ、前記GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層としてGaAsNを用いるとき、GaAsP層のGaAsPの組成をGaAs(1−x)Px(0<x≦0.2)とし、また、量子井戸活性層に隣接するGaAsNの厚さを1nm以上とすることで、前記GaAsPの組成範囲において、量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止するのに十分なGaAsNの厚さを得ることができる。
【0034】
(第8の実施形態)
本発明の第8の実施形態は、第1乃至第7のいずれかの実施形態の半導体発光素子において、半導体発光素子は、面発光型半導体レーザであることを特徴としている。
【0035】
この第8の実施形態では、第1乃至第7のいずれかの実施形態の半導体発光素子において、半導体発光素子は、面発光型半導体レーザであるので、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止し、かつ厚い半導体多層膜反射鏡上に成長するために生じやすい結晶品質の低下と、活性層の上部に厚い半導体多層膜反射鏡を成長することによって生じやすい表面モホロジの低下とを防止でき、高品質,高信頼性の面発光型半導体レーザ素子を提供することができる。
【0036】
(第9の実施形態)
本発明の第9の実施形態は、光送信用光源として、第8の実施形態の半導体発光素子が用いられることを特徴とする光送信用モジュールである。
【0037】
この第9の実施形態は、光送信用光源として、第8の実施形態の半導体発光素子が用いられることを特徴とする光送信用モジュールであり、高性能の通信用長波長帯面発光型半導体レーザ素子を用いることで、高品質,高信頼性の光送信用モジュールを達成することができる。
【0038】
(第10の実施形態)
本発明の第10の実施形態は、光送信用モジュールとして、第9の実施形態の光送信用モジュールが用いられることを特徴とする光通信システムである。
【0039】
この第10の実施形態は、光送信用モジュールとして、第9の実施形態の光送信用モジュールが用いられることを特徴とする光通信システムであるので、高品質,高信頼性の光通信システムを提供することができる。
【0040】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0041】
(実施例1)
実施例1は、第1,第3,第7の実施形態に対応する実施例である。図3は実施例1の半導体発光素子を示す図である。図3の半導体発光素子は、単一量子井戸構造での端面発光型半導体レーザとなっており、n−GaAs基板上に、n−GaInPクラッド層(厚さ2μm)、GaAsガイド層(厚さ0.1μm)、歪補償構造を有する活性領域(GaInNAs量子井戸活性層を含む活性領域)、GaAsガイド層(厚さ0.1μm)、p−GaInPクラッド層(厚さ2μm)、p−コンタクト層(厚さ0.1μm)が形成されている。そして、基板の裏面とp−コンタクト層上には、それぞれ対応する電極(n−電極,p−電極)が設けられている。
【0042】
この実施例1では、歪補償構造を有する活性領域(GaInNAs量子井戸活性層を含む活性領域)は、下側から、GaAs0.8P0.2層(厚さ10nm)、GaAs0.987N0.013層(厚さ1nm)、Ga0.7In0.3N0.01As0.99量子井戸活性層(厚さ8nm)、GaAs0.987N0.013層(厚さ1nm)、GaAs0.8P0.2層(厚さ10nm)により形成されている。この組成においては、各層のGaAsに対する歪は、GaAsPが−0.71%、GaAsNが−0.26%、GaInNAsが+1.9%である。
【0043】
図3のレーザ構造は、例えば有機金属化学気相成長法(MOCVD法)によるエピタキシャル成長で作製することができる。この場合、III族原料の有機金属化合物として例えばトリメチルガリウム(TMG),トリメチルインジウム(TMI)を用いることができ、V族原料としては例えばAsH3,PH3,ジメチルヒドラジン(DMHy)を用いることができる。また、n型のドーパントとしては例えばH2Seを用い、p型のドーパントとしては例えばジメチル亜鉛(DMZn)を用いることができる。これらの原料を所定の圧力(例えば100torr)に保った反応管内にH2キャリアガスによって導入し、基板上で例えば熱によって分解することで、基板上に所定の半導体結晶をエピタキシャル成長することができる。この実施例1では、MOCVD法により図3のような構造の端面型半導体レーザを結晶成長したが、本発明はMOCVD法以外の方法、例えばMBE法などによってもその構造を作製することが可能である。
【0044】
上述のように成長した活性層の構成では、図4に示したような伝導帯バンド構造を取ることになる。このようなバンド構造では、GaInNAs量子井戸活性層とGaAsP歪補償層との間のGaAsN層の厚さとN組成によって、井戸における量子準位が変化する。図5には、GaAsPの組成をGaAs(1−x)Px(x=0.2)とし、GaInNAs層の厚さを8nmとし、GaAsN層の厚さを変化させたときの量子準位の変化を計算した結果が示されている。図5において、GaAsN層の厚さが0nmの時の値がGaInNAsとGaAsPを隣接させた構造での量子準位に当たり、量子準位が高くなることでレーザの発光波長が短波長にシフトすることが分かる。GaInNAsにおいては波長を長波長化するには、In組成を上げて歪を大きくするか、N組成を上げる必要があるが、歪の増大は格子緩和を招きやすく、転位等の欠陥が生じやすい。また、N組成を上げるのは、その非混和性のため良質の結晶を得ることが難しく、結晶成長に困難が伴う。このように、短波長化を補うためにGaInNAs結晶自体の長波長化を行なうことには限界がある。
【0045】
そのため、本発明のように、GaAsNをGaAsP歪補償層とGaInNAs量子井戸活性層との間に設けることで短波長シフトを抑制することは、結晶成長の観点から見て非常にメリットが大きい。GaAsNはGaAsに比べて伝導帯準位が低いため、比較的薄い層で短波長化を十分に抑制することができる。さらに、GaAsNもGaAsに対して引っ張り歪を有する結晶であるため、歪補償の効果も期待できる。図5によれば、N組成が1.3%のときには、およそ0.4nm以上の厚さで量子準位がGaAs/GaInNAs量子井戸構造の準位以下となり、短波長シフトが抑止されることが分かる。また、N組成がかなり低い0.2%の場合でもおよそ1nmの厚さで十分な短波長シフトの抑制を図ることが可能である。このように、上記のGaAsPとGaAsNを組み合わせた歪補償構造では、GaAs(1−x)Px(x=0.2)のGaAsPに対してGaAs1−yNy(0.002≦y≦0.013)のGaAsNの厚さが0.4nmから1nmの範囲で短波長シフトを抑止するに足るGaAsNの膜厚を得ることができる。つまり、組成範囲がGaAs(1−x)Px(0<x≦0.2)でのGaAsPとの組み合わせでは、結晶作製の容易な比較的N組成の低いGaAsNにおいても、最悪1nmの厚さがあれば十分短波長化の抑止効果が期待できるということがわかる。また、GaAsNのN組成を高くするとバンドギャップ不連続量が小さくなってキャリアのオーバーフローが起きやすくなってしまうので、低いN組成のGaAsNを用いることができるのは好ましいといえる。
【0046】
また、この実施例1での歪補償の効果は以下の様になる。すなわち、歪補償のない状態では1.9%の圧縮歪を有する活性層が8nmあることになるが、この実施例1では、GaAsPとGaAsNの歪補償効果を合わせると、活性層全体の歪の平均は0.02%以下になっており、十分な歪低減効果が得られることが分かる。この実施例1では、GaAsNを用いることで歪補償効果も得ているが、本発明はGaAsNに限定されるわけではない。仮にGaAsP層だけでも十分に歪補償効果が得られるのであれば、特にGaAsNのような引っ張り歪を有するもの以外でもNを含むことで伝導帯バンドがGaAsよりも低く量子井戸活性層よりも高くなっている材料(例えばGaAsNSb、GaInNAs(井戸活性層とは別組成)、GaInNAsSb等)を用いれば、短波長化の抑止効果は得ることが可能であるし、またその上で引っ張り歪を有するのであれば、歪補償の効果も加味されることになる。
【0047】
また、実施例1ではGaAsPを用いた例について述べたが、本発明は何もGaAsPに限る効果ではない。仮にGaAsPにわずかにNが入っているGaAsNPや、Sbがわずかに含まれるGaAsSbPなどPが含まれることで伝導帯バンドがGaAsより高くなっている層を用いることによる短波長化についても抑制する効果が十分得られる。
【0048】
また、上述の例では、活性層の材料としてGaInNAsを用いているが、これは何もGaInNAsに限定されない。例えばGaInNAsP,GaInNSb,GaInNAsSbなどの、窒素(N)とその他のV族元素を含む混晶半導体は圧縮歪を有する形で半導体発光素子の材料として用いることができるが、このような材料系に対しても本発明は有効である。
【0049】
また、この実施例1では、GaAsNとGaAsPとのそれぞれ1層での組み合わせでの例が示されているが、これは何もそれぞれ1層ずつに限定されない。図6に示すように例えばGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層としてGaAsPを異なる組成の2層にしたりしてもかまわない。また、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層が例えば図7のように2層になっていてもかまわない。GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層による短波長化を抑制するのに十分な範囲でGaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層との組み合わせを作れれば良いので、それぞれが互いに複数の層であってもかまわない。
【0050】
以上のように、この実施例1によって作製された端面発光型半導体レーザにおいては、GaAsP/GaAsNの2層からなる歪補償構造をGaInNAs量子井戸活性層に隣接させたことで、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供できる。
【0051】
(実施例2)
実施例2は、第2の実施形態に対応する実施例である。図8は実施例2の半導体発光素子を示す図である。図8の半導体発光素子の基本構成は、実施例1の半導体発光素子と全く同一であり、活性層を多重量子井戸構造(この実施例2ではDQW構造)としたものである。量子井戸活性層とそれを挟む歪補償構造の厚さと組成は実施例1と同一であり、GaAsP間のバリア層としてGaAsが5nmの厚さで成長されている。この場合の伝導帯バンド図は、図9のようなものになる。多重量子井戸構造では、歪補償を行なわなかった場合には歪の大きな量子井戸を多重に設けることになり、単一量子井戸構造に比べて、歪による欠陥、および信頼性などの問題点が大きくなる。そのため、本発明は多重量子井戸構造に適用することでより良好な効果を期待できる。すなわち、本発明の歪補償構造を設けることにより、歪を補償して、より高品質,高信頼性を得つつ、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層による短波長シフトを抑止した半導体発光素子を多重量子井戸構造で作製することが可能になる。
【0052】
(実施例3)
実施例3は、第4の実施形態に対応する実施例である。図10は実施例3の半導体発光素子を示す図である。図10の半導体発光素子の基本構成は、実施例2の半導体発光素子と同じであり、多重量子井戸構造におけるバリア層をGaAsからGaAsPに変更したものである。この場合の伝導帯バンド図を図11に示す。この構造の利点は、単純にGaAsバリア層にした場合に比べて引っ張り歪を有する層が厚くとれるので、歪補償に有利な点である。また、GaInNAs量子井戸活性層間のバリア層の厚さをそれほど厚くしたくない場合には、GaAsバリア層を入れると必然的に歪補償を担うGaAsP層の厚さを薄くしなくてはならず、そのような場合はGaAsバリアではなくGaAsPのバリア層にしてしまえば歪補償に有利に働く。当然、このときのGaAsP層は引っ張り歪の大きさと厚さの組み合わせが、格子緩和を起こさない範囲にしてあればよい。また、この実施例3では、バリア層としてGaAsPを用いているが、この際のバリア層は何もGaAsPに限定されない。例えばGaAsPSbやGaAsNSb,GaAsNPなどの引っ張り歪を有する層であれば、GaAsと比較して歪補償には有利に働くのでかまわない。
【0053】
このように、燐(P)または窒素(N)を含み引っ張り歪を有するバリア層で多重量子井戸構造に歪補償層を設けることで、量子井戸活性層間のバリア層を厚くしたくない場合でも、より有利に歪補償を行なうことが可能になり、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供できる。
【0054】
(実施例4)
実施例4は、第5の実施形態に対応する実施例である。図12は実施例4の半導体発光素子を示す図である。図12の半導体発光素子の基本構成は、実施例2の半導体発光素子と同じであり、多重量子井戸構造におけるバリア層をGaAsからGaAsNに変更したものである。この場合の伝導帯バンド図を図13に示す。前述した実施例3の構成はGaInNAs量子井戸間のバリア層の厚さをそれほど厚くしたくない場合には有効であるが、逆にバリア層を厚めにしようとした場合、通常低めのP組成を有するGaAsPではそれほど問題ないが、燐(P)組成が高めでGaAsPの結晶の歪が大きめだった時にはバリア層をGaAsPにしてしまうとGaAsPのトータル厚さが臨界膜厚を越えて格子緩和してしまう可能性が出てくる。また、格子緩和をしない範囲の厚さであっても、歪が大きな層をある程度の厚さ以上成長した場合、GaAsPの結晶品質が低下する可能性が高くなる。このような場合には、バリア層として比較的N組成が小さく、歪がGaAsPよりも小さいGaAsNを用いることで、GaAsPの厚さをある程度薄く保って、格子緩和やGaAsPの結晶品質の低下を回避することが可能になる。また、このGaAsNは、GaAsPに比べては小さいが引っ張り歪を有していることにより、若干の歪補償効果を得ることも可能になっている。当然、それぞれのGaAsPの厚さは、格子緩和や結晶品質の低下が起きない範囲であれば任意の厚さを取ることが可能である。この実施例4では、バリア層としてGaAsNを例として用いたが、バリア層としては何もGaAsNに限定されない。例えばGaAsPSbやGaAsNSb,GaAsP(別組成),GaAsNPなどの引っ張り歪を有する層で、歪がGaAsPよりも小さくなるように組成を調整したものであればかまわない。
【0055】
このように、この実施例4では、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層の引っ張り歪と比較して各量子井戸活性層間のバリア層の歪が小さいことで、量子井戸活性層間の障壁層(バリア層)を比較的厚くしたい場合でも、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層による格子緩和を回避しつつ歪補償を行なえるので、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供できる。
【0056】
(実施例5)
実施例5は第6の実施形態に対応する実施例である。図14は実施例5の半導体発光素子を示す図である。また図15はそのバンド図を模式的に示したものである。
【0057】
この実施例5は、半導体レーザとしての基本構成は実施例1とほぼ同一であるが、GaAsPとGaAsNとの間に、GaAsPのP組成を0.05〜0.2で傾斜させた組成傾斜層を設けている点で、実施例1と相違している。例えばGaAsNとGaAsPの歪差が大きい場合は、GaAsNとGaAsPを直接隣接させた場合に大きな歪場が生じ、信頼性の面で悪影響を及ぼしたり、結晶成長の際に結晶性の悪化を招く懸念がある。このような場合、実施例5のように組成傾斜層を設けることで、連続的に歪を変化させることができ、信頼性の向上や、結晶性の悪化防止を図ることができる。
【0058】
このような組成傾斜層は、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層と活性層との間に設けても良い。例えば図16に示すようにGaInNAs(活性層と別組成)のインジウム(In)を徐々に0まで減らしてGaAsNへとつなぐような構造を取ることで、活性層とGaAsNとの間に生じる歪場を軽減する効果を得て、信頼性の向上や、活性層の結晶性向上を図ることが可能になる。
【0059】
このように、実施例5では、歪差の大きな層の間を組成傾斜層にすることで、活性層近傍において、互いに歪差の大きな層同士を隣接させた場合に生じる歪場を軽減でき、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0060】
(実施例6)
実施例6は、第7の実施形態に対応する実施例である。図17は実施例6の半導体発光素子を示す図である。なお、この半導体発光素子は面発光型半導体レーザとなっている。この実施例6においては、多重量子井戸活性層の構成は、実施例4と同じであり、DQW構造でバリアをGaAsNとしたものである。
【0061】
この実施例6においては、MOCVD法を用いて、n型GaAs基板上に、n型半導体多層膜反射鏡、GaAs下部スペーサ層、GaInNAs/GaAsN/GaAsP多重量子井戸活性層、GaAs上部スペーサ層、AlAs層、p型半導体多層膜反射鏡が順次形成されている。
【0062】
ここで、n型半導体多層膜反射鏡は、n型GaAs高屈折率層とn型Al0.8Ga0.2As低屈折率層とを交互に積層した分布ブラッグ反射鏡で構成されている。同様に、p型半導体多層膜反射鏡も、p型GaAs高屈折率層とp型Al0.8Ga0.2As低屈折率層とを交互に積層した分布ブラッグ反射鏡で構成されている。
【0063】
また、GaAs下部スペーサ層からGaAs上部スペーサ層までの多重量子井戸活性層を含む領域は、λ共振器を構成している。
【0064】
実施例6では、上記積層構造を、n型半導体多層膜反射鏡に達するまで円筒状にエッチングして、メサ構造が形成されている。メササイズは例えば約30μmφとなっている。そして、エッチングして表面が露出した側面からAlAs層を選択的に酸化させ、AlOx絶縁領域を形成することにより、電流狭窄構造が形成されている。電流は、AlOx絶縁領域によって例えばおよそ5μmの直径の酸化開口領域に集中して活性層に注入される。
【0065】
また、p型半導体多層膜反射鏡の表面には、リング状のp側電極が形成され、また、n型GaAs基板の裏面には、n側電極が形成されている。
【0066】
実施例6のレーザでは、多重量子井戸活性層で発光した光は、上下の半導体多層膜反射鏡で反射して増幅され、レーザ光を基板と垂直方向に放射する。
【0067】
GaAs基板上での半導体多層膜反射鏡としては、AlGaAs/GaAs積層型がもっとも容易に高性能の反射鏡を作製でき、かつ電気特性も良好なため利用しやすい。
【0068】
しかし、例えばGaInNAsを用いた1.3μm帯での面発光型半導体レーザにおいては、有効な反射率を得られる半導体多層膜反射鏡は基板側のn型側が35ペア程度でおよそ7μmの厚さになり、レーザーの出射口側であるp型側が26ペア程度でおよそ5.2μmの厚さになる。このように厚い半導体多層膜反射鏡を成長した場合、その表面の平坦性はGaAs基板の初期状態に比較して悪化しやすく、この平坦性の悪化した状態の上に歪の大きなGaInNAsなどの量子井戸活性層を成長した場合、膜が3次元成長しやすく、良質の活性層を得ることが難しくなることが知られている。また、3次元成長をした表面性の悪い活性層の上に半導体多層膜反射鏡を成長した場合、その厚さが厚くなるにつれてモホロジの悪化が顕著になりやすい。端面発光型半導体レーザにおいてはほとんど表面モホロジの悪化が見られないような程度の結晶品質を有する活性層でも、面発光型半導体レーザとして成長した場合には顕著に表面モホロジの悪化が見られることがある。このようなモホロジの悪化は半導体多層膜反射鏡の反射率などの悪化を招く。そのため、面発光型半導体レーザにおいては端面発光型半導体レーザと比較して、活性層の歪を補償してやる必要性が高く、またその有効性も高いといえる。
【0069】
この実施例6においては、GaAsP/GaAsNの2層からなる歪補償構造をGaInNAs量子井戸活性層に隣接させたことで、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止し、かつ厚い半導体多層膜反射鏡上に成長するために生じやすい結晶品質の低下と、活性層の上部に厚い半導体多層膜反射鏡を成長することによって生じやすい表面モホロジの低下を防止でき、高品質,高信頼性の面発光型半導体レーザ素子を提供できる。
【0070】
(実施例7)
実施例7は、第9,第10の実施形態に対応する実施例である。図18は実施例7の光送受信モジュールを示す図である。図18の光送受信モジュールは、実施例6の面発光型半導体レーザ素子と、受信用フォトダイオードと、光ファイバーとを組み合わせたものとなっている。
【0071】
本発明による面発光型半導体レーザ素子を光通信システムに用いる場合、面発光型半導体レーザ素子は低コストであるので、図18に示すような送信用の面発光型半導体レーザ素子(例えば1.3μm帯GaInNAs面発光型半導体レーザ素子)と、受信用フォトダイオードと、光ファイバーとを組み合わせた光送信モジュールを安価に得られる。
【0072】
GaInNAsを用いた面発光型半導体レーザは、1.3〜1.5μm帯での発振を得られる素子であり、これらの波長では石英系の光ファイバに対しての損失が少ないなどの理由により、通信用の光源として好適であるとされている。さらには、特に1.3μm等の長波長帯で低損失となるフッ素添加POF(プラスチックファイバ)とGaInNAsを活性層に用いた面発光型半導体レーザとを組み合わせると、ファイバが低コストであること、ファイバの径が大きくてファイバとのカップリングが容易で実装コストを低減できることから、極めて低コストのモジュールを実現できる。また、GaInNAsは、その優れた温度特性から、強力な冷却用の構成を必要としない。そのため、冷却用のコストが削減でき、安価な光通信モジュールを得られる。
【0073】
光通信用光源として考えた場合、面発光型半導体レーザの信頼性は非常に重要である。本発明では、GaAsP/GaAsNの2層からなる歪補償構造を、Nとその他のV族元素を含む半導体層からなる量子井戸活性層に隣接させたことで、高品質,高信頼性の面発光型半導体レーザ素子を製造することがより容易に行なえるようになり、高性能の通信用長波長帯面発光型半導体レーザ素子を実現でき、さらにこれらの素子を用いることで、低コストの光ファイバー通信システム,光インターコネクションシステムなどの光通信システムを実現することができる。
【0074】
【発明の効果】
以上に説明したように、請求項1記載の発明によれば、窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる複数の量子井戸活性層とバリア層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、前記活性領域には、各量子井戸活性層に隣接して、各量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との複数の層構造からなる歪補償層が設けられており、かつ、各量子井戸活性層間の前記バリア層が燐(P)または窒素(N)を含む引っ張り歪を有する層であるので、量子井戸活性層間のバリア層を厚くしたくない場合でも、より有利に歪補償を行なうことが可能になり、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸活性層における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0078】
また、請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との複数の層構造からなる歪補償層は、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層の引っ張り歪が、各量子井戸活性層間の前記バリア層の歪に対して大きいので、量子井戸活性層間のバリア層(障壁層)を比較的厚くしたい場合でも、Pを含み引っ張り歪を有する層による格子緩和を回避しつつ、より有利に歪補償を行なうことができ、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止した、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0079】
また、請求項3記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層と活性層とを有する構造の中に、連続的に歪を変化させた組成傾斜層が含まれており、歪差の大きな層の間を組成傾斜層にすることで、活性層近傍において、互いに歪差の大きな層同士を隣接させた場合に生じる歪場を軽減でき、高品質,高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0080】
また、請求項4記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層として組成がGaAs (1−x) P x (0<x≦0.2)であるGaAsP層を用い、かつ、前記GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層として厚さが1nm以上のGaAsNを用いることにより、前記GaAsPの組成範囲において、量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止するのに十分なGaAsNの厚さを得ることができる。
【0081】
また、請求項5記載の発明によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の半導体発光素子において、半導体発光素子は、面発光型半導体レーザであるので、十分な歪補償の効果を有し、かつ量子井戸における量子準位の上昇に伴う発光波長の短波長化を抑止し、かつ厚い半導体多層膜反射鏡上に成長するために生じやすい結晶品質の低下と、活性層の上部に厚い半導体多層膜反射鏡を成長することによって生じやすい表面モホロジの低下とを防止でき、高品質,高信頼性の面発光型半導体レーザ素子を提供することができる。
【0082】
また、請求項6記載の発明によれば、光送信用光源として、請求項5記載の半導体発光素子が用いられることを特徴とする光送信用モジュールであり、高性能の通信用長波長帯面発光型半導体レーザ素子を用いることで、高品質,高信頼性の光送信用モジュールを達成することができる。
【0083】
また、請求項7記載の発明によれば、光送信用モジュールとして、請求項6記載の光送信用モジュールが用いられることを特徴とする光通信システムであるので、高品質,高信頼性の光通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の問題点を説明するための図である。
【図2】従来の問題点を説明するための図である。
【図3】実施例1の半導体発光素子を示す図である。
【図4】実施例1の半導体発光素子の伝導帯バンド構造を示す図である。
【図5】GaAsPの組成をGaAs(1−x)Px(x=0.2)とし、GaInNAs層の厚さを8nmとし、GaAsN層の厚さを変化させたときの量子準位の変化を計算した結果を示す図である。
【図6】実施例1の半導体発光素子で、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐を含み引っ張り歪を有する層を複数とした時の伝導帯バンド構造を示す図である。
【図7】実施例1の半導体発光素子で、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素を含む層を複数とした時の伝導帯バンド構造を示す図である。
【図8】実施例2の半導体発光素子を示す図である。
【図9】実施例2の半導体発光素子の伝導帯バンド構造を示す図である。
【図10】実施例3の半導体発光素子を示す図である。
【図11】実施例3の半導体発光素子の伝導帯バンド構造を示す図である。
【図12】実施例4の半導体発光素子を示す図である。
【図13】実施例4の半導体発光素子の伝導帯バンド構造を示す図である。
【図14】実施例5の半導体発光素子を示す図である。
【図15】実施例5の半導体発光素子の伝導帯バンド構造を示す図である。
【図16】実施例5の半導体発光素子で、組成傾斜層をGaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素を含む層と活性層との間に設けた時の伝導帯バンド構造を示す図である。
【図17】実施例6の半導体発光素子を示す図である。
【図18】実施例7の光送受信モジュールを示す図である。
Claims (7)
- 窒素(N)とその他のV族元素を含む圧縮歪を持つ混晶半導体からなる複数の量子井戸活性層とバリア層を含んでいる活性領域を有し、かつGaAs基板上に成長されている半導体発光素子において、前記活性領域には、各量子井戸活性層に隣接して、各量子井戸活性層の側から順に、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との複数の層構造からなる歪補償層が設けられており、かつ、各量子井戸活性層間の前記バリア層が燐(P)または窒素(N)を含む引っ張り歪を有する層であることを特徴とする半導体発光素子。
- 請求項1記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層との複数の層構造からなる歪補償層は、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層の引っ張り歪が、各量子井戸活性層間の前記バリア層の歪に対して大きいことを特徴とする半導体発光素子。
- 請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層とGaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層と活性層とを有する構造の中に、連続的に歪を変化させた組成傾斜層が含まれていることを特徴とする半導体発光素子。
- 請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子において、GaAsよりも伝導帯バンドが高く燐(P)を含み引っ張り歪を有する層として組成がGaAs (1−x) P x (0<x≦0.2)であるGaAsP層を用い、かつ、前記GaAsよりも伝導帯バンドが低く窒素(N)を含む層として厚さが1nm以上のGaAsNを用いることを特徴とする半導体発光素子。
- 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の半導体発光素子において、半導体発光素子は、面発光型半導体レーザであることを特徴とする半導体発光素子。
- 光送信用光源として、請求項5記載の半導体発光素子が用いられることを特徴とする光送信用モジュール。
- 光送信用モジュールとして、請求項6記載の光送信用モジュールが用いられることを特徴とする光通信システム。
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