JP2004244365A - 二次胆汁酸の生成抑制剤 - Google Patents
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Abstract
【効果】本剤は、上記特定のオリゴ糖が、体内において、一次胆汁酸から発癌性の高い二次胆汁酸に変換するのを抑制するという新しいメカニズムに基づくものであって、乳酸菌増殖作用、トリグリセロール低下作用とも相まって、発癌や心臓病の発病誘発抑制に有効であり、しかも安全性においても格別の問題はないという著効が奏される。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、二次胆汁酸の生成抑制剤に関するものであって、更に詳細には、オリゴ糖、特にα−結合したガラクトース含有オリゴ糖(ガラクトースがα−グルコシド結合したオリゴ糖)を用いて一次胆汁酸から二次胆汁酸への変換を抑制する技術に関するものである。また、本発明によれば、乳酸菌の増殖、トリグリセロールの生成抑制も行われ、これらの総合作用によって、発癌や心臓病誘発抑制も行われる。
【0002】
【従来の技術】
人の胆汁酸は、コール酸40%、ケノデオキシコール酸30%、デオキシコール酸20%よりなり、脂肪酸消化吸収に重要な役割をしている。
【0003】
コール酸(CA)は、一次胆汁酸であって、腸内細菌の7α−デハイドロキシレーション経路で、二次胆汁酸であるデオキシコール酸(DCA)に変換される。また、一次胆汁酸であるケノデオキシコール酸(CDCA)も、一部の腸内細菌により、二次胆汁酸であるリトコール酸(LCA)に変換される(例えば、非特許文献1参照)。また、糞便中の胆汁酸は、そのほとんどがDCAとLCA(二次胆汁酸)であるが、これらはCAやCDCA(一次胆汁酸)よりも発癌性が高いことが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
一方、胆汁酸の効率的利用回路として腸肝循環が行われている。それは使用し終わった胆汁酸を小腸、大腸で再吸収し、再利用する回路である。その再利用率は健常人で95%以上であり、再利用された胆汁酸に対する小腸各部位における割合は小腸で90%、大腸で10%と報告されている(例えば、非特許文献3参照)。そして大腸で再吸収しきれなかった胆汁酸に応じて必要となった胆汁酸が血液中のコレステロールから肝臓中で生合成される(胆汁酸の腸肝循環)。
【0005】
従って、胆汁酸の腸肝循環を抑制すれば、たとえば腸管からの胆汁酸の再吸収を抑えるべく胆汁酸を何かに吸着させることができれば、排泄される胆汁酸が増え、従って必要となる胆汁酸が血清コレステロールから盛んに合成されるようになり、結果としてコレステロールが低下する。この考え方で胆汁酸吸着剤なるものが提案され実際にコレスチラミンの名称で医療に使用されている(例えば、非特許文献4参照)。しかし、この薬剤の実体はイオン交換樹脂であり厳密な処方が必要であり、通常の保健用途には適さない。
【0006】
【非特許文献1】
「岩波 生物学辞典 第4版」、岩波書店、1996.7.12、p.883−884
【0007】
【非特許文献2】
「ジャーナル・オブ・ナショナル・カンサー・インスティテュート(J.Natl.Cancer Inst.)」、53(4)、p.1093−7、1974年
【0008】
【非特許文献3】
「日本外科学会誌」、83、p.677−690、1982年
【0009】
【非特許文献4】
水島 裕、宮本昭正「今日の治療薬」、p.394、1995年
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような技術の現状に鑑み、胆汁酸を低下、除去し、もって、大腸癌等の発癌リスクを低下、抑制する目的でなされたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであって、本発明者らは、各方面から検討の結果、胆汁酸はすべてが有害というわけではないことから、例えばコレスチラミンのように胆汁酸を非選択的にすべて吸着する従来のシステムを根本的に転換する必要を認めた。
【0012】
そして、鋭意検討を行い、胆汁酸をすべて発癌性物質として除去するのではなく、一次胆汁酸に比して二次胆汁酸の方が発癌作用が高いという報告に着目して、二次胆汁酸のみを選択的に低下、抑制あるいは除去することにより、大腸癌等の発病誘発抑制するという新規な着想を得た。
【0013】
そこで、安全性が高く日常的に経口摂取可能という点も念頭に入れて、各種物質を広範にスクリーニングしたところ、オリゴ糖、特に、α−結合したガラクトース含有オリゴ糖が、これを投与することによって、糞便中の胆汁酸の組成は一次胆汁酸型で保持されること、つまり、一次胆汁酸から発癌作用が強い二次胆汁酸への変換が抑制されることをはじめて見出した。α−結合したガラクトース含有オリゴ糖によって、例えばコール酸からデオキシコール酸への変換といった、一次胆汁酸から二次胆汁酸への変換が抑制されることをインビボで確認したことは、従来報告されておらず、新規である。
【0014】
すなわち、本発明者らは、α−結合したガラクトース含有オリゴ糖という特定のオリゴ糖による全く新しい原理を発見したものである。そのうえ更に、この特定のオリゴ糖の経口投与によって、腸内乳酸菌比率が増加するだけでなく、血清トリグリセロール(TG)濃度が低下することもインビボではじめて確認した。
【0015】
本発明は、上記したオリゴ糖投与による一次胆汁酸から二次胆汁酸の変換抑制という新規原理のほか、更に乳酸菌の増殖、TG濃度の低下という新規有用知見の発見に基づき、更に研究の結果、遂に完成されたものであって、発癌や心臓病の発病誘発抑制に係わるものである。
以下、本発明について詳述する。
【0016】
本発明は、胆汁酸吸着剤等によって胆汁酸を非選択的にすべて排除し、コレステロールを低下させたり、発癌リスクを抑制ないし除去したりする従来のシステムを根本的に変革したものであって、胆汁酸の内、発癌作用が強い二次胆汁酸をターゲットとし、その生成、蓄積を防止ないし抑制するという全く新しい原理を着想しただけでなく、この新規着想に係る原理を上記した特定のオリゴ糖によって達成するのにはじめて成功したものである。
【0017】
また、上記のほか、この特定のオリゴ糖は腸内乳酸菌の増殖及び血清TG濃度の低下といった有用な作用を有することもはじめて見出し、これら各作用単独であるいはこれらの作用を併せて、発癌リスクを低下させ、心臓病等の誘発の抑制も可能とするものである。
【0018】
したがって、本発明は、一次胆汁酸の二次胆汁酸への変換抑制剤、その結果としての胆汁酸低下剤、更には、乳酸菌増殖剤、TG抑制剤を提供するものであり、また、大腸癌等の発癌抑制剤や心臓病等の循環器系疾患の誘発抑制剤の提供も可能とするものである。
【0019】
本発明に係る二次胆汁酸抑制剤を製造するに当たっては、製剤化の常法が適宜使用可能であって、有効成分に賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤その他常用される補助剤を加えて、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、ドリンク剤等に製剤化すればよい。なお、常法にしたがい、溶腸剤に製剤化することも可能である。もちろん、製剤化することなく、直接経口投与することも可能である。
【0020】
また、有効成分を単独であるいは飲食品成分とともに、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状に製剤化してもよいし、発酵乳、チーズ、バター等の乳製品;ドリンクヨーグルトや乳酸菌飲料等の飲料;バターケーキ等の菓子、パン類;その他の飲食品の形態としてもよいし、サプリメントとしてもよい。
【0021】
有効成分としてはα−結合したガラクトース含有オリゴ糖を使用するが、該オリゴ糖としては、精製品、乾燥物等が使用可能であるほか、発酵法等で製造した該オリゴ糖等にあっては、該オリゴ糖含有物、同処理物(濃縮物、ペースト化物、乾燥物、希釈物の少なくともひとつ)も上記と同様に使用可能である。
【0022】
α−結合したガラクトース含有オリゴ糖は、ガラクトースがβではなくα結合にて結合したオリゴ糖であって、α−ガラクトシダーゼの作用によって単糖及び/又は少数糖にまで分解されるものであり(つまり、α−ガラクトシダーゼ分解性オリゴ糖)、例えばα−ガラクトオリゴ糖(メリビオース等)、ラフィノース、スタキオース、ベルバスコースといった、ガラクトースがα−グルコシド結合で結合した各種二糖類、三糖類、四糖類、五糖類その他のオリゴ糖が使用可能であって、市販品も適宜使用することができる。例えばラフィノース(日本甜菜製糖社製)、ガラクトオリゴ糖(日新製糖社製)。
【0023】
本発明に使用されるラフィノースとしては、例えば、甜菜根から公知の方法(例えば、特開昭54−49345号公報)で製造されたもの、大豆オリゴ糖(ジャパン・フード・サイエンス、第26巻、第10号、第56〜64ぺ一ジ、1987年)として製造され、市販されている粗精製物を直接「ラフィノースを含有する」オリゴ糖として用いることもできる。更に、大豆ホエーから公知の方法(例えば、特開昭59−179064号公報等)により直接製造したラフィノースであってもよい。
【0024】
これらの有効成分(α−結合したガラクトース含有オリゴ糖)は、通常、腸管にまで到達して効果を発揮するが、所望するのであれば、溶腸剤に製剤化して確実性を期してもよい。
【0025】
本オリゴ糖としては、難消化性オリゴ糖及び易消化性オリゴ糖のいずれもが使用できる。なお、本オリゴ糖は腸管にまで達することが必要であるので、易消化性オリゴ糖等の腸管に達し得ないものあるいは腸管にまで達する量が低いものについては、上記したように腸溶剤に製剤化する等により対処すればよい。
【0026】
また、難消化性オリゴ糖、例えばラフィノースなどは、単糖類や易消化性オリゴ糖とは異なり、通常、分解されることなく腸管にまで達するが、例えばラフィノースの場合、分解されても、ビフィズス因子であるメリビオースとなるので、必ずしも不利なものとはならない。このように、オリゴ糖は、所期の効果を発揮するだけでなく、ビフィズス因子や免疫増強因子等としての本来の作用も奏することができ、また、単糖類よりも少ない使用量ですみ、これらの点においても本発明は卓越している。
【0027】
オリゴ糖としては、上記したものが適宜使用されるが、好適例としては、α−ガラクトシダーゼ活性を有する難消化性オリゴ糖が挙げられ、特にフラクトースを構成成分とするオリゴ糖は好ましく、具体的にはラフィノースが例示される。
以下、本オリゴ糖の代表例としてラフィノースについて述べる。
【0028】
後記する実施例からも明らかなように、コレステロール食ラットにラフィノースを摂取させたところ、GC−MSで分析した結果、糞中胆汁酸組成の中での主要な胆汁酸は一次胆汁酸であるコール酸であり、一方、ラフィノースを投与しないラット(対照群)での主要胆汁酸は二次胆汁酸であるデオキシコール酸であることをはじめて見出し、ラフィノースが一次胆汁酸から二次胆汁酸への変換を抑制することをインビボにてはじめて確認した。
【0029】
また、腸内菌の組成をFISH法によって検討した結果、ラフィノース投与により腸内乳酸菌が増殖すること、及び、血清中のトリグリセリド(TG)が減少することを、いずれもインビボにてはじめて確認した。
【0030】
したがって本発明は、二次胆汁酸抑制剤、二次胆汁酸への変換抑制法、乳酸菌増殖剤、トリグリセロール低下剤、発癌抑制剤特に大腸癌発癌抑制剤、心臓病発病誘発抑制剤を提供するものである。
【0031】
本発明で使用する特定のオリゴ糖は、格別の毒性は認められず、安全性には問題はないので、これを経口投与する場合の投与量に厳格な制限はないが、一般的な投与量は、1回につき0.05〜15g、好適には0.1〜10g、1日当たりの総投与量として0.05〜25g、好適には0.1〜20gである。
以下、本発明の実施例について述べるが、ラフィノースは代表例として例述したものであって、他のα−結合したガラクトース含有オリゴ糖も同様に使用可能である。
【0032】
【実施例1】
(1)オス WKAH/Hkm Slcラット(12匹、SLC社製、浜松)を7日間予備飼育した後、下記表1に示す試験飼料飼育を3週間行った。すなわち、コレステロールを摂取させ、加えてラフィノース(Raf)(30g/kg飼料)を摂取させたものとさせない群(コントロール)を設けて試験を行った。
【0033】
【表1】
(注1)ラフィノース:日本甜菜製糖(株)製品
(注2)ミネラル ミックス、ビタミン ミックス:AIN−93処方に準拠
【0034】
3週間飼育した後、ラットを開腹し、回収した盲腸試料のpHと細菌群を分析した。盲腸内容物を分割し、重量あたり4倍量の蒸留水を加え、ホモジナイズした。上清のpH値は速やかに測定した。血清は、基礎順化飼育期間と試験飼育期間の最終日に採取し、血清TG分析用、TG test Wakoキット(和光純薬社製、大阪)を用いて測定した。糞便は、試験飼育期間の最終3日間採取し、胆汁酸の全量と組成を分析した。
【0035】
(2)サンプルとして上記にて分割保存した盲腸内容物を用い、FISH法によりラット中の微生物種の数を測定した。FISH法は、Fluorescein in sita hybridization(蛍光SITUハイブリダイゼーション)法であって、16S rRNA中オリゴヌクレオチドプローブを利用することにより複雑な生態系中の単細胞を同定するための直接法として既知の方法である(Amann:Appl.Environ.Microbiol.,56(6)、1919−25(1990);J.Bacteriol.,172(2)、762−70(1990);Microbiol.Rev.,59(1)、143−69(1995))。スライドグラス上に細胞を固定し、ハイブリダイズ緩衝液中で、Cy3でラベル化されたオリゴヌクレオチドプローブ(Espec Oligo Service、筑波)加え、細胞とハイブリダイズした。
【0036】
本実施例では、特異的プローブ(5’から3’方向表示)として、以下の配列を選択使用した。すなわち、全生細菌検出用にEub0338(Amann 1990報告)、GCTGCCTCCCGTAGGAGT配列を、Eubacterium rectaleグループとClostridium coccoidesグループ検出用にErec482(Frank 1998報告)、GCTTCTTAGTCARGTACCG配列を、Lactobacilliグループ検出用にLacb072(Sghir 1998報告)、YCACCGCTACACATGRAGTTCCACT配列を、Bifidobacteriumグループ検出用にBif164(Langendijk 1995報告)、CATCCGGCATTACCACCC配列を、Bacteroidesグループ検出用にBac303(Manz 1996報告)、CCAATGTGGGGGACCTT配列を選択した。
【0037】
スライド試料は、モイスチャーチャンバー内で、46℃、16時間、ハイブリダイゼーションした後、ハイブリダイズ緩衝液で洗浄した。洗浄後、DAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole dihydrochloride n−hydrate:和光純薬社製、大阪)溶液にて、染色体DNAを染色し、蒸留水で洗浄後、暗所で風乾した。
【0038】
乾燥試料を、Vectashield(Vecter Laboratory社製、CA、USA)を使用してマウントし、CCDカメラ(Sensys,Photometrics社製、ミュンヘン、ドイツ)付き、BX50落射蛍光顕微鏡(オリンパス社製、東京)で観察した。CCDカメラで撮影したハイブリダイズ画像ファイルは、IPLabスペクトラムイメージアナライザーシステム(Scanalytic Inc.社製、VA、USA)で分析し、Adobe社製のPhotoshop 5.5で、色彩調製と配置修正を加えた。
【0039】
(3)糞便中の胆汁酸の分析は、次のようにしてGC−MS法により行った。胆汁酸は、凍結乾燥した糞便から抽出した。すなわち、エタノールを凍結乾燥糞便表面全体に加え、超音波破砕した後、上清を遠心分離した。この抽出工程を2回くり返し、この抽出物を凍結濃縮した後、1.25NのNaOH溶液で加水分解し、2Nの塩酸で中和後、エーテルで抽出し、濃縮した。
【0040】
試料溶液を、プロトコールマニュアルに従い、BondElute C18とBondElute DEAカートリッジカラム(Varian,Palo Alto社製、CA、USA)に供し、ステロール酸を回収した。抽出物中のCA、DCA、ケノデオキシコール酸(CDCA)、LCAおよびウルソデオキシコール酸(UDCA)は、DB−1キャピラリーカラム(i.d.0.25μm×30m、J&W Scientific,Folsom社製、CA、USA)を使用したGCMS−QP5000装置(島津製作所製、京都)により、トリメチルシル基を検出した。全胆汁酸量は、LCA、DCA、CDCA、CAそしてUDCA濃度の合計から算出した。
【0041】
(4)統計解析は、次のようにして行った。全ての結果は、平均(SEM)で表した。2つの試料飼育に分けた、そのグループ間のデータは、P<0.05でのStudent’s T検定で解析した。糞便中の胆汁酸の統計比較は、P<0.05でのTukey−Kramer’s検定で表現した。全ての統計解析は、JMPソフトウエアー(SASinstitute社製、Cary、NC)で実行した。
【0042】
(5)ラフィノース3週間給飼区(Raf)と対照区(Control)について、盲腸内容物のpH、盲腸内容物の重量、糞便乾燥重量を測定し、下記表2の結果を得た。
【0043】
【表2】
(注1)結果は平均(SEM)、n=6で表した。
(注2)*は、Student’s T検定でのグループ間で有意差あり(n=6、P<0.05)を示す。
【0044】
上記結果から、ラフィノース給飼により盲腸と大腸内容物の重量が増加し、盲腸内容物のpHは低下することが明らかとなった。
【0045】
(6)同様に、ラフィノース3週間給飼区(Raf)と同給飼を行わない対照区(Control)について、ラット糞便中の胆汁酸の組成を測定し、下記表3の結果を得た。
【0046】
【表3】
結果は平均(SEM)、n=6で表した。異なった文字は、P<0.05(n=6)でのTukey−Kramer’s検定での、グループ間での有意差ありを示す。
【0047】
上記結果から、ラフィノース無添加飼料で飼育したラットは、その胆汁酸組成において、DCAの割合が最も高く、一方、ラフィノース添加飼料で飼育したラットでは、CA割合が最も高いことが明らかとなり、ラフィノースによって胆汁酸はDCAからCAにシフトされていることが明らかとなった。このデータは、ラフィノースが一次胆汁酸から二次胆汁酸に変換することを抑制することをインビボにて確認、立証したものにほかならない。
【0048】
(7)図1は、胆汁酸(LCA、DCA、CDCA、CA、UDCA)の測定により、CAとDCAとの関係を図示したものである。この図から明らかなように、糞中のCAモル%(●)とDCAモル%(○)との間では強い逆相関の関係が確認された(R2=0.8157、P<0.0001)。これに対して、他の組成間では、この種の相関関係はなかった。
【0049】
(8)FISH法により、ラット中の微生物種の数を測定した。また、盲腸中の微生物はDAPI染色にて測定したが、この測定値には死滅微生物も含まれるものである。一方、Eub0338は生存微生物の数を表わす。これらの結果を下記表4に示す。なお、表中(A)〜(G)は、それぞれ次のことを表わす。
【0050】
(A)生存菌及び死滅菌を含む全菌
(B)全生存菌
(C)オイバクテリウム及びクロストリジウム(Eubacterium、Clostridium)
(D)ラクトバチルス(Lactobacillus)グループ
(E)ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)スピーシーズ
(F)バクテロイデス(Bacteroides)グループ
(G)同定不明菌
【0051】
【表4】
【0052】
上記結果から明らかなように、ラフィノースは腸内微生物を変化させることが立証され、ラフィノース給飼ラットの盲腸内Lactobacilliの菌数が増加していることがFISH法によっても確認された。
【0053】
(9)上記したように、ラフィノースの投与群が、無投与群より盲腸内微生物数が増加したことを明らかになった。そして双方の投与群では50%以上の不一致の微生物が存在した(表4)、しかも、ラフィノースによって胆汁酸は、DCAからCAにシフトされていた(表3)。またFISH法によってラフィノースで飼育されたラットの盲腸内Lactobacilliの菌数が増加しているのを確認した。これらの結果は、ラフィノースが、Lactobacilliのような7alpha−dehydroxylation活性作用のない微生物数の増加を助け、そして胆汁酸中の組成としてCAが主に残存していることを示すものである。また、この新知見は、飼料の調整によって微生物の種類をコントロールすることになり結果的に二次胆汁酸の生成効果を抑制させるというプレバイオテックスとしての新しい機能を明らかにしたものである。
【0054】
(10)図2に、コレステロール含有飼料の給飼試験におけるラット血清中のTG含量の推移を示した。図2のグラフから明らかなように、コレステロール含有飼料の給飼試験に於いて3週間の終わりにはラット血清中のTGが上昇したが、ラフィノース添加群のTGは、無添加と比較し、その増加割合は非常に低い傾向を示すことが確認でき(図2)、ラフィノースによるTG低下作用が立証された。
【0055】
上記のように、ラフィノース添加飼料で飼育したラットは、ラフィノース無添加区(対照)に比して、血清中のTG濃度が低下することを見出した。ラフィノースによるTG低下作用の詳細なメカニズムは今後の研究にまたねばならないが、現時点においては、次のように推定される。
【0056】
ラフィノースの効果としてTG低下があるが、その理由は乳酸によるTGの肝臓吸収の抑制によると思われる。Lactobacilliは、その生育に脂肪酸や脂肪酸エステルを必要とするので、乳酸菌は、その増殖の過程で腸内容物中のTGから脂肪酸を吸収すると思われる。更に、乳酸菌は、上述した環境においては腸内胆汁酸を吸収できる。これらの活動により小腸の末梢表皮から脂質の吸収を減らす働きがあると思われる。そして、上記したように、ラフィノースによる腸内乳酸菌の増殖作用という新規知見と相まって、更にすぐれたTG低下作用が奏されるものと推定される。
【0057】
(11)結論として、調整された飼料の給与により、モルベースによるCAとDCAとの間に強い逆相関関係があった。更に、ラフィノースはコレステロール飼料で飼育したラットの血清TGを減少させた。乳酸菌は、ラフィノースのプレバイオテックにおいて重要な役割を果たすものである。したがって、本発明は、二次胆汁酸の割合を抑制することによって、発癌のリスク低減のためにプレバイオテックの新しい可能性を示したものである。
【0058】
【実施例2】
ラフィノース錠剤の製造法
(1)ラフィノース50%、デキストリン30%、植物油脂20%の混合比にして打錠機により一粒150mgの錠剤を作成した。錠剤強度は4.2kgであった。
【0059】
(2)ラフィノース100mg、デキストリン60mg、ポリビニルピロリドンK25を20mg、ステアリン酸マグネシウム(0.8mg)を加えて均一に混合し、打錠機で圧縮形成し、オリゴ糖を含む一錠200mgの錠剤を製造した。
【0060】
【発明の効果】
ラフィノース等α−結合したガラクトース含有オリゴ糖の摂取により、腸内においてコール酸等の一次胆汁酸がデオキシコール酸等の二次胆汁酸に変換するのが抑制されるという従来未知の新規メカニズムが見出された。本発明は、この新知見に基づくものであって、本オリゴ糖を有効成分とする二次胆汁酸の変換抑制剤及び、二次胆汁酸への同変換抑制方法を提供するものである。
【0061】
また、本発明は、本オリゴ糖を有効成分とする乳酸菌の増殖剤及びトリグリセロール低下剤も提供するものである。そして、本オリゴ糖によって発癌性を有する二次胆汁酸の生成が抑制されることと相まって、本発明は、総合的に、新しいタイプの発癌、心臓病の発病誘発抑制剤、しかも天然物由来の安全性の高い剤の提供を可能とするものである。また、本発明の剤は、医薬用の剤のほか、飲食品自体、その原料として、あるいはサプリメント等の飲食品用の剤としても使用可能である。本オリゴ糖は、ヒトが実際に服用しても腹痛や下痢などの副作用は認められず、連続投与の弊害もほとんど考えられないので、飲食物に混入したりあるいはサプリメント等により日常的に投与して、大腸症や心臓病等の予防にも活用することができ、本発明はこの点においてもすぐれている。
【図面の簡単な説明】
【図1】ラフィノース投与によるラット腸内におけるコール酸(CA:●)とデオキシコール酸(DCA:○)との関係を示す。
【図2】ラフィノース投与によるラット血清中のトリグリセロール濃度の測定結果を示す。
Claims (8)
- α−結合したガラクトース含有オリゴ糖単独を有効成分とすることを特徴とする二次胆汁酸の生成抑制剤。
- α−結合したガラクトース含有オリゴ糖単独を有効成分とすることを特徴とする発癌及び/又は心臓病発病誘発抑制剤。
- α−結合したガラクトース含有オリゴ糖を有効成分とすることを特徴とする乳酸菌増殖剤。
- α−結合したガラクトース含有オリゴ糖を有効成分とすることを特徴とするトリグリセロール抑制剤。
- α−結合したガラクトース含有オリゴ糖が、α−ガラクトシダーゼによって分解される難消化性オリゴ糖であること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。
- オリゴ糖が、α−ガラクトオリゴ糖、ラフィノース、スタキオース、ベルバスコースから選ばれる少くともひとつであること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤。
- α−ガラクトオリゴ糖がメリビオースであること、を特徴とする請求項6に記載の剤。
- α−結合したガラクトース含有オリゴ糖を利用すること、を特徴とする一次胆汁酸の二次胆汁酸への変換抑制方法。
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