JP2001253829A - 2次胆汁酸産生抑制剤及び飲食品 - Google Patents

2次胆汁酸産生抑制剤及び飲食品

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Abstract

(57)【要約】 【解決手段】 酵母を有効成分とする2次胆汁酸産生抑
制剤。 【効果】 胆汁酸の吸着及び大腸管腔内の酸性化等を介
して、2次胆汁酸の産生を強力に抑制し、大腸癌、肝
癌、胆石症等の予防及び治療に極めて有効である。長期
間服用しても安全性に問題なく、経口摂取する医薬の
他、食品に混合して日常的に摂取し健康増進に役立つ。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は大腸癌、肝癌、膵臓
癌、胆石症等の予防及び治療に有用な2次胆汁酸産生抑
制剤及びその飲食品への利用に関する。
【0002】
【従来の技術】ヒトの肝臓においてコール酸及びケノデ
オキシコール酸等(1次胆汁酸)がコレステロールから
合成され、グリシン又はタウリンと抱合しグリシン又は
タウリン抱合型胆汁酸として胆管を通って消化管に分泌
される。胆汁酸は、その界面活性作用によって飲食品中
の脂質を乳化分散させ、膵液の酵素・リパーゼによる分
解と吸収を促進し、回腸から能動的に再吸収される。再
吸収された胆汁酸は、門脈を通って肝臓に戻り、再度、
消化管に分泌され腸肝循環を構成し、この循環を繰り返
す。
【0003】回腸からの吸収を免れた胆汁酸は、腸内細
菌によって脱抱合や7α−脱水酸化、酸化、還元、エピ
マー化等の修飾を受けて2次胆汁酸へと変換される。こ
の過程で生じる主要な2次胆汁酸は、デオキシコール酸
とリトコール酸であり、それぞれ1次胆汁酸であるコー
ル酸とケノデオキシコール酸の7α−脱水酸化反応によ
って生じる。2次胆汁酸の一部は、大腸から受動的に吸
収されて肝臓に移行し1次胆汁酸と同様に腸肝循環を繰
り返すが、残りの胆汁酸は糞便中へと排泄される。
【0004】近年、大腸管腔内の腸内細菌によって産生
されるデオキシコール酸やリトコール酸などの2次胆汁
酸は、大腸癌、肝癌、膵臓癌、胆管癌などの発症に深く
関与していることが明らかになっている。一般に、発癌
の過程は、化学発癌剤や放射線、ウィルスなどによって
遺伝子に突然変異が生じるイニシエーションと、その
後、プロモーターに長期間、暴露されることによって増
殖と分化に異常が生じるプロモーションの2段階から成
り立つと考えられている。これまでに、デオキシコール
酸やリトコール酸等の2次胆汁酸は、後者の過程におい
てプロモーターとして作用し、大腸癌、肝癌、膵臓癌、
胆管癌の発症を促進することが報告されている(Narisa
wa, T., et. al., J. Natl. Cancer Inst, 53, 1093-10
97, 1974、Tsuda, H., et. al., Gann, 75, 871-5, 198
4, Makino, T., et. al., J. Natl.Cancer Inst., 76,
967-75, 1986)。また、2次胆汁酸の発癌プロモーター
活性は、1次胆汁酸に比べてはるかに強いことも示され
ている(Narisawa, T., et. al., J. Natl. Cancer Ins
t., 53, 1093-1097, 1974、Reddy, BS., et. al.,Cance
r Res., 37, 3238-3242, 1977)。さらに、最近、デオ
キシコール酸に関しては、癌以外にも胆石症の発症に関
係し得ることが示されている(Marcus, SN.,Heaton, K
W., Gut, 29, 522-533, 1988)。
【0005】このように、大腸管腔内において腸内細菌
によって産生されるデオキシコール酸やリトコール酸な
どの2次胆汁酸は、強力な発癌プロモーター活性を有す
ると同時に、胆石症の原因にもなり得ることから、2次
胆汁酸の産生を抑制することによって、大腸癌、肝癌、
膵臓癌、胆管癌、胆石症などの疾患を予防あるいは治療
することが可能である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】これまでに、ペニシリ
ン系の抗生物質であるアンピシリン(Low-Beer, TS., N
utter, S., Lancet, 2(8099), 1063-1065, 1978)、3
α,12β−ジヒドロキシ−5β−コラン−24−N−
メチルアミン(Roda, A., et. al., J. Pharm. Sci., 8
1, 237-240, 1992)、オリゴ糖の一種であるラクツロー
ス(Magengast, FM., Eur. J. Clin. Invest., 18, 56-
61, 1988)あるいは小麦糠(Lampe, JW.,et. al., Gut,
34, 531-536, 1993)については、効果は弱いものの2
次胆汁酸の産生を抑制することが報告されている。
【0007】アンピシリン及び3α,12β−ジヒドロ
キシ−5β−コラン−24−N−メチルアミンは、大腸
管腔内において7α−脱水酸化反応を触媒する細菌を排
除することによって2次胆汁酸の産生を抑制するが、長
期間服用した際には耐性菌の出現や副作用の発現が問題
となる。また、抗生物質を用いて、2次胆汁酸の産生に
関わる細菌のみを特異的に排除することは事実上不可能
であり、乳酸菌やビフィズス菌などのヒトの健康維持に
重要な役割を果たしている腸内細菌も同時に排除してし
まうといった重大な問題を生ずる欠点がある。
【0008】一方、ラクツロースや小麦糠は、主に大腸
管腔内のpHを低下させることよって至適pHが中性付
近である7α−脱水酸化酵素の活性を抑制し、2次胆汁
酸の産生量を低下させると考えられている。しかし、こ
れらの物質は、有効性の面で未だ十分ではなく、疾病の
予防及び治療に寄与し得る程の効果を示していない。
【0009】従って、本発明は、大腸癌、肝癌、膵臓
癌、胆管癌、胆石症なとの疾患の予防あるいは治療に有
用な、有効性及び安全性の優れた2次胆汁酸産生抑制剤
を提供するものであり、また、それを利用した飲食品を
提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】斯かる実情に鑑み本発明
者は、鋭意研究を行った結果、酵母が1次胆汁酸の2次
胆汁酸への変換を抑制する作用を有することを見出し、
本発明を完成した。
【0011】すなわち、本発明は、酵母を有効成分とす
る2次胆汁酸産生抑制剤及びこれを含有する飲食品を提
供するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明において酵母には、酵母を
培養して得られる生菌体、加熱菌体及びそれらの構成物
が含まれる。
【0013】本発明で使用する酵母が、コール酸等の7
α−水酸基を脱離する反応を阻害し、2次胆汁酸である
デオキシコール酸等の生成を阻害するということは今迄
報告されていない。本発明は、酵母の1次胆汁酸の2次
胆汁酸への変換を抑制阻害する作用を利用したもので、
特にコール酸、タウロコール酸、グリココール酸、ケノ
デオキシコール酸等の1次胆汁酸吸着能、あるいは酢
酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸の腸内濃度上昇
能に優れた酵母は、7α−水酸基脱離反応を阻害する効
果が優れ好ましい。
【0014】酵母のうち、好ましいものとしてはイサチ
ェンキア属、クルイベロマイセス属、ハンセニアスポラ
属、サッカロミセス属、ヒポピチア属、キャンジダ属、
トルラスポラ属、ピチア属及びチゴサッカロマイセス属
に属する酵母が挙げられ、これらは1種又は2種以上を
混合して用いることができる。
【0015】具体的には、イサチェンキア・オリエンタ
リス、クルイベロマイセス・マルキシアナス、クルイベ
ロマイセス・ラクチス、クルイベロマイセス・サーモト
レランス、ハンセニアスポラ・ウヴァラム、サッカロミ
セス・セレビシエ、サッカロミセス・ダイレンシス、サ
ッカロミセス・エキシグース、サッカロミセス・ユニス
ポラス、サッカロミセス・バヤナス、ヒポピチア・ブル
トニ、キャンジダ・ケフィア、キャンジダ・エチェルシ
ー、キャンジダ・ゼイラノイデス、キャンジダ・ソラ
ニ、キャンジダ・マルトーサ、キャンジダ・トロピカリ
ス、キャンジダ・シリンドラシエ、キャンジダ・ユチリ
ス、トルラスポラ・デルブルエッキー、ピチア・アノマ
ラ、ピチア・ホルスチー及びチゴサッカロマイセス・ロ
キシーが好ましいものとして挙げられ、更にこれらのう
ち次の酵母が最適である。
【0016】イサチェンキア オリエンタリス(Issatc
henkia orentalis)YIT8266(生命工学工業技術
研究所菌寄託第17481号)、クルイベロマイセス
マルキシアナス(Kluyveromyces marxianus)YIT8
292(生命工学工業技術研究所菌寄託第17483
号)、クルイベロマイセス ラクチス(Kluyveromycesl
actis)YIT8263(生命工学工業技術研究所菌寄
託第17482号)、クルイベロマイセス サーモトレ
ランス(Kluyveromyces thermotolerans)YIT829
4(ATCC 20309)、ハンセニアスポラ ウヴ
ァラム(Hanseniaspora uvarum)YIT8164(生命
工学工業技術研究所菌寄託第17478号)、サッカロ
ミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YI
T8116(ATCC 48554)、サッカロミセス
ダイレンシス(Saccharomyces dairensis)YIT8
191(CBS 3007)、サッカロミセス エキシ
グース(Saccharomyces exiguus)YIT8109(C
BS 3019)、サッカロミセス ユニスポラス(Sa
ccharomyces unisporus)YIT8226(生命工学工
業技術研究所菌寄託第16151号)、サッカロミセス
バヤナス(Saccharomyces bayanus)YIT8128
(CBS 380)、ヒポピチア ブルトニ(Hyphopic
hia burtonii)YIT8299(CBS 2352)、
キャンジダ ケフィア(Candida kefyr)YIT823
7(生命工学工業技術研究所菌寄託第17480号)、
キャンジダ エチェルシー(Candida etchellsii)YI
T8278(ATCC 60119)、キャンジダ ゼ
イラノイデス(Candida zeylanoides)YIT8018
(IFO 0719)、キャンジダ ソラニ(Candida
solani)YIT8023(CBS 1908)、キャン
ジダ マルトーサ(Candidamaltosa)YIT8283
(ATCC 28140)、キャンジダ トロピカリス
Candida tropicalis)YIT8286(CBS 9
4)、キャンジダ シリンドラシエ(Candida cylindra
cea)YIT8276(ATCC 14830)、キャ
ンジダ ユチリス(Candida utilis)YIT8204
(ATCC 9950)、トルラスポラ デルブルエッ
キー(Torulaspora delbrueckii)YIT8313(J
CM 2204)及びYIT8133(IFO 117
2)、ピチアアノマラ(Pichia anomala)YIT829
8(JCM 3587)及びYIT8297(JCM
3583)、ピチア ホルスチー(Pichia holstii)Y
IT8038(ATCC 58048)、及びチゴサッ
カロマイセス ロキシー(Zygosaccharomyces rouxii
YIT8129(CBS 732)。
【0017】なお、これらの酵母は古くから食品(ワイ
ン、チーズ)の製造に使用されており、人体に対して極
めて安全な微生物である。また、これらの菌体は、数ミ
クロンの粒子なので、食感に影響する20ミクロン以上
の粒子に比べてはるかに服用し易いという特徴を有して
いる。上記酵母の性状として、イサチェンキア・オリエ
ンタリス(Issatchenkia orientalis)YIT8266
(生命工学工業技術研究所菌寄託第17481号)の性
状を具体的に示すと、表1の通りであって、「ザ イー
スト(The yeast)、第3版 N. J. W. Kreger-Van Rij,
Elsevier Science Publishers B. V., Amsterdam, 198
4」に記載の同種酵母の性状と同様である。
【0018】
【表1】
【0019】本発明で用いる酵母は、通常の方法、例え
ば酵母エキスやポリペプトンを含む複合培地又は無機塩
を主体とする合成培地で培養することによって製造する
ことができる。
【0020】このようにして得られた酵母は、培養液を
そのまま使用してもよく、遠心分離、限外濾過等の手段
により回収した生菌もしくはその凍結乾燥物、又は加熱
処理等を施した死菌体、更にはそれらの菌体粉砕物やそ
の水溶性画分(菌体内容物)として使用することも可能
である。また、本発明に用いる酵母は、市販のものであ
ってもよい。
【0021】これらは、2次胆汁酸の産生を効果的に抑
制するため、大腸癌、肝癌、膵臓癌、胆管癌等の癌疾患
や胆石症等の予防もしくは治療を目的とした医薬品又は
飲食品に用いることができる。
【0022】上記酵母は、常法に従って薬学的に許容さ
れる担体とともに種々の剤型に医薬組成物とすることが
できる。例えば、経口用固形製剤を調製する場合には、
上記酵母に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢
剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により
錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造す
ることができる。そのような添加剤としては、当該分野
で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤とし
ては、乳糖、白糖、ブドウ糖、デンプン、微結晶セルロ
ース、炭酸カルシウム、カオリン、塩化ナトリウム、硅
酸等を、結合剤としては、水、エタノール、プロパノー
ル、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン
液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピル
セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセル
ロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、リ
ン酸カルシウム等を、崩壊剤としては乾燥デンプン、ア
ルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラウリル硫酸ナトリ
ウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖、炭酸水素ナ
トリウム、炭酸カルシウム等を、滑沢剤としては、ステ
アリン酸塩、ポリエチレングリコール、精製タルク、ホ
ウ砂等を、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石
酸等が例示できる。
【0023】経口用液体製剤を調製する場合は、上記酵
母に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法
により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造す
ることができる。この場合、矯味剤としては上記に挙げ
たもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等
が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラ
チン等が挙げられる。
【0024】また、本発明の飲食品は、上記酵母を種々
の飲食品に添加せしめることにより製造することができ
る。ここで好ましい飲食品としては、発酵乳、果汁飲
料、スープ、せんべい、クッキー等が例示される。な
お、飲食品には動物の飼料も含まれる。
【0025】上記の各製剤中に配合されるべき酵母の量
は、これを服用すべき患者の症状によりあるいはその剤
型等により一定ではないが、一般に製剤中1〜100g
重量%とするのが好ましい。また、上記製剤又は飲食品
の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性
別等によって異なり一概には決定できないが、酵母は乾
燥菌体として通常成人1日あたり約10mg〜30g、好
ましくは約1〜5gとすれば良く、これを1日1回又は
2〜4回程度に分け投与するのが好ましい。
【0026】
【実施例】次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明
するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
なお、「%」は「重量%」を示す。
【0027】酵母の調製 ポテトデキストロース寒天スラントで保存している酵母
の1白金耳を、表2に示す培地100mLを含む坂口フラ
スコ(500mL)に植菌し、30℃で振盪培養(120
spm)した。2日後に10L発酵槽(実働容積7L)に
坂口フラスコ2本分を接種して30℃にて、通気速度
0.5vvm、回転速度250rpm、pH6.0(5Nの水
酸化ナトリウムで自動制御)の条件下で2日間、通気攪
拌培養した。培養終了後、冷却遠心分離機を使用して菌
体と上清を分けたのち、菌体を蒸留水で2度洗浄した。
この洗浄菌体を2Lの三角フラスコに入れ、蒸留水1L
を加えた後、115℃にて10分間オートクレーブで加
熱した。この加熱菌体をそのまま凍結乾燥した。
【0028】
【表2】
【0029】実施例1 胆汁酸吸着能 試験方法;コール酸(CA)、タウロコール酸(TC
A)、グリココール酸(GCA)、ケイデオキシコール
酸(CDCA)、又はデオキシコール酸(DCA)のナ
トリウム塩(シグマ社製)を、最終濃度が1mMとなるよ
うにpH6.7の0.1Mリン酸緩衝液あるいはpH
7.5の0.1Mリン酸緩衝液に溶かした。イサチェン
キア オリエンタリスYIT8266の凍結乾燥菌体、
100mgを15mLの遠心チューブに取り、そこに、上で
作製した胆汁酸溶液、3.5mLを加えて、37℃で振盪
(120spm)した。1時間後に、酵母菌体を遠心分離
(12,000rpm、10分間)によって沈殿させて、
上清を分取した。この上清中の胆汁酸を、エンザバイル
II(第一化学薬品社製)で定量し、下式から、胆汁酸吸
着率を求めた。胆汁酸吸着率とは、添加した全胆汁酸に
対する酵母に吸着した胆汁酸の割合(%)であり、酵母
と胆汁酸の吸着の強さを示す。
【0030】胆汁酸吸着率(%)=[{添加した胆汁酸
(nmol)−上清中の胆汁酸(nmol)}/添加した胆汁酸(nmo
l)]×100
【0031】表3に胆汁酸吸着率を示す。イサチェンキ
ア オリエンタリスYIT8266は、コール酸、タウ
ロコール酸、グリココール酸及びケノデオキシコール酸
を吸着し、優れた1次胆汁酸吸着能を示した。また、酵
母とコール酸の吸着率は、pH6.7とpH7.2の反
応液においてほぼ同等の値であった。これらの結果か
ら、酵母は大腸管腔内において1次胆汁酸と強固に結合
し、腸内細菌による脱抱合や7α−脱水酸化反応を妨害
することによって2次胆汁酸の産生を阻害し得ることが
示された。また、2次胆汁酸であるデオキシコール酸と
も強固に結合した。このことから、酵母は、2次胆汁酸
の産生を抑制すると同時に、生じた2次胆汁酸を吸着、
非動化することによって、その毒性を軽減させる作用も
有する。
【0032】
【表3】
【0033】実施例2 実施例1と同方法で種々の酵母の胆汁酸吸着率を測定し
た結果を表4に示す。いずれの酵母も胆汁酸、1次胆汁
酸のケノデオキシコール酸及び2次胆汁酸のデオキシコ
ール酸の良い吸着性を示した。
【0034】
【表4】
【0035】実施例3 イサチェンキア オリエンタリ
スYIT8266の凍結乾燥菌体による2次胆汁酸産生
抑制 予備試験 5週齢のWistar系雄ラット(日本クレア製)を、オリエ
ンタル酵母社製F−2粉末飼料で7日間飼育した後、1
群8匹ずつ各群間で体重差が出ないよう群分けし、表5
の試験飼料を14日間投与した。ラットは金属製ケージ
で個別飼いし、飼料及び水は自由に摂取させた。
【0036】
【表5】
【0037】14日間飼育後の普通食群、高胆汁酸食群
の間では、摂取量及び体重増加量には有意な差は認めら
れなかった。
【0038】胆汁酸量 25mgの12〜14日目の凍結乾燥糞便をスクリューキ
ャップ付試験管(15mL)に量り取り、0.15μmol
の内部標準物質(5−β−プレグナン−3α,17α,
20α−トリオール)と5mLのエタノールを加えて、7
0℃のブロックヒーターで2時間加熱した。不溶物を遠
心分離(3000rpm、15分間)によって沈殿させ
た。上清は別の試験管に移して、窒素ガス送風下で乾固
した。抽出物を0.5mLのメタノールに溶かした後、
0.45μmのフィルター(日本ミリポア社製)を通し
て不溶物を除いた。10μLのサンプルをHPLCシス
テム(ジャスコ社製)で以下の条件下で分離した。
【0039】
【表6】
【0040】分離カラムを通過した溶出液に、反応液
(0.3mM β−ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオ
チド(β−NAD+)、1mMエチレンジアミン四酢酸及
び0.05%2−メルカプトエタノールを含む10mMリ
ン酸カリウム緩衝液、pH7.8)を1.0mL/分の流
速で混合した。この混液を、3α−ヒドロキシステロイ
ドデヒドロゲナーゼを充填した酵素カラム、Enzymepak
(4.6mm i.d.×35mm、ジャスコ社製)に送り、胆
汁酸の脱水酸化反応に伴って生じるNADH(β−NA
+の還元型)を蛍光検出器でモニターした(励起波長
345nm、発光波長470nm)。各胆汁酸は、標準品の
保持時間から同定した。また、胆汁酸の濃度は、各ピー
クの面積から求めた。この際、内部標準物質のピーク面
積から回収率を補正した。
【0041】測定結果を表7に示すが、コール酸を投与
することによって、大腸へ到達する1次胆汁酸の量が増
大し、2次胆汁酸の産生量が亢進することが明らかとな
り、2次胆汁酸産生抑制剤の効果を感度良く評価できる
ことが判明した。
【0042】
【表7】
【0043】イサチェンキア オリエンタリスYIT8
266の凍結乾燥菌体による2次胆汁酸産生抑制 イサチェンキア オリエンタリスYIT8266の凍結
乾燥菌体を高胆汁酸食に添加して14日間投与(5%混
餌投与)した(表8)。尚、この際、エネルギー価が同
等となるよに、カゼイン、蔗糖、脂質及びセルロース量
で調整した。酵母菌体の投与は、試験期間中の体重増加
量及び摂餌量にほとんど影響を与えなかった(表9)。
【0044】
【表8】
【0045】
【表9】
【0046】表10及び11に示すように、イサチェン
キア オリエンタリスYIT8266を投与することに
よって、2次胆汁酸の糞便排泄量は約82%、また糞中
の2次胆汁酸濃度は約84%低下した。この傾向は、特
にデオキシコール酸とリトコール酸で顕著であった。一
方、1次胆汁酸の糞便排泄量及び糞中濃度は、当該菌体
の投与によって有意に上昇した。イサチェンキア オリ
エンタリスYIT8266は、1次胆汁酸から2次胆汁
酸への変換を強力に抑制する作用を有していた。
【0047】
【表10】
【0048】
【表11】
【0049】イサチェンキア オリエンタリスYIT8
266の凍結乾燥菌体による盲腸内pH低下 0.5gの14日目の盲腸内容物を4.5mLの精製水に
懸濁し、0.5mLの10%過塩素酸水溶液を添加して4
℃で一晩保存した。この懸濁液を遠心分離(9,000
rpm、10分)して上清を分取した後、0.45μmの
フィルター(日本ミリポア社製)を通してから、HPL
C分析に供した。短鎖脂肪酸は、東亜電波工業社製のH
PLCシステムを用いて以下の条件で解析した。なお、
pH緩衝溶液は、検出器の直前で溶離液に混合した。
【0050】
【表12】
【0051】
【表13】
【0052】その結果、高胆汁酸食群はpH6.65、
全短鎖脂肪酸量55.9mMであったのに対し、酵母イサ
チェンキア オリエンタリスYIT8266添加高胆汁
酸食群は、pH6.46(有意水準5%)、全短鎖脂肪
酸量は85.6mM(有意水準1%)と盲腸内pHの低下
が見られ、大腸管腔内を酸性化し腸内細菌の7α−脱水
酸化酵素の活性を低下させた。
【0053】イサチェンキア オリエンタリスYIT8
266の凍結乾燥菌体によるコレステロール代謝抑制 25mgの14日目の糞便をスクリューキャップ付試験管
(15mL)に量り取り、0.1μmolの内部標準物質
(5β−コレスタン)と1N水酸化ナトリウムを含む9
0%エタノール溶液、1mLを加えて、80℃のブロック
ヒーターで加熱した。1時間後に、0.5mLの蒸留水を
加え、中性ステロールを2.5mLの石油エーテルで2回
抽出した。抽出液は、7.5mLの蒸留水で洗浄した後、
硫酸ナトリウムで脱水し、窒素ガス送風下で乾固した。
抽出した中性ステロールは、トリメチルシリル化した
後、ガスクロマトグラフィーを用いて表14の条件で測
定した。
【0054】
【表14】
【0055】イサチェンキア オリエンタリスYIT8
266の投与によって、コレステロールの腸内代謝産物
であるコプロスタノールやコプロスタノンの糞便中の濃
度が有意に低下した(表15)。これらのコレステロー
ルの腸内代謝産物については、大腸癌等の疾患の発症に
関係していることから(Suzuki, K.,et. al., CancerLe
tt., 33, 307-316, 1986)、イサチェンキア オリエン
タリスYIT8266は、コレステロール代謝産物の産
生を抑制し、種々の疾病を予防、治療し得る。
【0056】
【表15】
【0057】実施例4 イサチェンキア オリエンタリ
スYIT8266の菌体内容物による2次胆汁酸産生抑
菌体内容物の調製 イサチェンキア オリエンタリスYIT8266の凍結
乾燥菌体を0.1Mのリン酸緩衝液(pH8.5)に懸
濁して、ダイノミル(シンマルエンタープライゼス社
製)を用いて機械的に破砕した。この際、0.45mm径
のガラスビーズを磨砕剤として使用し、磨砕操作は、顕
微鏡観察により95%以上の菌体が破砕されるまで繰り
返した。菌体破砕液を9,000gで15分間遠心分離
して、上清中に菌体内容物を分離した。この菌体内容物
を採集し、凍結乾燥した。
【0058】イサチェンキア オリエンタリスYIT8
266の菌体内容物による2次胆汁酸産生抑制 実施例3と同方法でイサチェンキア オリエンタリスY
IT8266から調製した菌体内容物の2次胆汁酸産生
抑制効果を検証した。本試験の飼料組成は、表16に示
した。酵母菌体内容物の投与は、試験期間中の体重増加
量や摂取量にほとんど影響を与えなかった。(表1
7)。
【0059】
【表16】
【0060】
【表17】
【0061】表18及び表19に示すように、イサチェ
ンキア オリエンタリスYIT8266の菌体内容物を
投与することによって、2次胆汁酸の糞便排泄量は約7
6%、また糞中の2次胆汁酸濃度は約70%低下した。
イサチェンキア オリエンタリスYIT8266の菌体
内容物は、凍結乾燥菌体と同様に、1次胆汁酸から2次
胆汁酸への変換を強力に抑制する作用を有していた。
【0062】
【表18】
【0063】
【表19】
【0064】盲腸内の全短鎖脂肪酸量及びpHは、高胆
汁酸食群が54.0mM、pH6.65であったのに対
し、酵母菌体内容物添加高胆汁酸食群では、68.3mM
(有意水準5%)、pH6.46(有意水準5%)であ
った。よって、酵母菌体内容物は、短鎖脂肪酸量を増大
させることによって大腸管腔内を酸性化し、腸内細菌の
7α−脱水酸化酵素の活性を低下させる作用を有してい
た。
【0065】
【表20】
【0066】イサチェンキア オリエンタリスYIT8
266の菌体内容物の投与によって、コレステロールの
腸内代謝産物であるコプロスタノールやコプロスタノン
の糞便中濃度が有意に低下した。このことから、イサチ
ェンキア オリエンタリスYIT8266の菌体内容物
は、凍結乾燥菌体と同様、コレステロール代謝産物の産
生を抑制することによっても種々の疾病の予防や治癒に
寄与し得る。
【0067】
【表21】
【0068】実施例5 実施例1及び2で使用した各種酵母菌体を用いて、次の
組成の飲食品を製造した。 1)健康向け食品(錠剤) 次の添加物を含有する組成物を打錠し、錠剤とした。
【0069】
【表22】
【0070】2)健康向け飲料 次の処方により健康飲料を製造した。
【0071】
【表23】
【0072】3)果汁飲料 次の処方により果汁飲料を製造した。
【0073】
【表24】
【0074】4)発酵乳 次の処方により加熱酵母菌体入り発酵乳を製造した。1
0%の脱脂粉乳と5%のグルコースを滅菌し、ラクトバ
チルス属細菌を植菌してヨーグルトを製造した。これに
実施例1で得た加熱酵母菌体を0.1〜20%混合し、
発酵乳を製造した。
【0075】5)乳酒 次の処方により乳酒を製造した。10%の脱脂粉乳と5
%のグルコースを滅菌し、ラクトバチルス属細菌を植菌
すると同時に実施例1で得た酵母を植菌し、48時間3
7℃で静置培養して乳酒を製造した。
【0076】
【発明の効果】胆汁酸の吸着及び大腸管腔内の酸性化等
を介して、2次胆汁酸の産生を強力に抑制し、本発明の
2次胆汁酸産生抑制剤は、大腸癌、肝癌、膵臓癌、胆管
癌、胆石症などの予防及び治療に極めて有効なものであ
る。
【0077】また、本発明に用いる酵母は、古くからチ
ーズや馬乳酒、ワイン製造等に使用されていることから
明らかなように病原性のない安全な菌株である。実際
に、酵母の本発明の2次胆汁酸産生抑制剤をラットに8
g/kg/dayで投与しても死亡例は認められず、長期間
服用しても安全性には問題がない。
【0078】従って、本発明の2次胆汁酸産生抑制剤
は、経口摂取する医薬として利用するほか、食品に混合
して日常的に摂取させ、大腸癌、肝癌、膵臓癌、胆管
癌、胆石症などの予防と健康増進に役立たせるのにも適
した極めて有効なものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) A61P 1/16 A61P 35/00 35/00 C12G 3/02 C12G 3/02 A23L 2/00 F (72)発明者 和田 康江 東京都港区東新橋1丁目1番19号 株式会 社ヤクルト本社内 (72)発明者 大石 憲司 東京都港区東新橋1丁目1番19号 株式会 社ヤクルト本社内 (72)発明者 森 稚恵 東京都港区東新橋1丁目1番19号 株式会 社ヤクルト本社内 (72)発明者 伊藤 雅彦 東京都港区東新橋1丁目1番19号 株式会 社ヤクルト本社内 (72)発明者 渡辺 常一 東京都港区東新橋1丁目1番19号 株式会 社ヤクルト本社内 Fターム(参考) 4B001 AC31 AC32 BC14 EC05 4B015 AG13 AG17 4B017 LC03 LG02 LK20 LK21 4B018 LB07 LB08 LE01 MD81 ME08 MF02 MF06 MF13 4C087 AA01 AA02 BC12 BC13 BC14 CA09 MA52 NA14 ZB26

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 酵母を有効成分とする2次胆汁酸産生抑
    制剤。
  2. 【請求項2】 酵母がイサチェンキア属、クルイベロマ
    イセス属、ハンセニアスポラ属、サッカロミセス属、ヒ
    ポピチア属、キャンジダ属、トルラスポラ属、ピチア属
    及びチゴサッカロマイセス属から選ばれる1種又は2種
    以上の酵母であることを特徴とする請求項1記載の2次
    胆汁酸産生抑制剤。
  3. 【請求項3】 酵母がイサチェンキア・オリエンタリ
    ス、クルイベロマイセス・マルキシアナス、クルイベロ
    マイセス・ラクチス、クルイベロマイセス・サーモトレ
    ランス、ハンセニアスポラ・ウヴァラム、サッカロミセ
    ス・セレビシエ、サッカロミセス・ダイレンシス、サッ
    カロミセス・エキシグース、サッカロミセス・ユニスポ
    ラス、サッカロミセス・バヤナス、ヒポピチア・ブルト
    ニ、キャンジダ・ケフィア、キャンジダ・エチェルシ
    ー、キャンジダ・ゼイラノイデス、キャンジダ・ソラ
    ニ、キャンジダ・マルトーサ、キャンジダ・トロピカリ
    ス、キャンジダ・シリンドラシエ、キャンジダ・ユチリ
    ス、トルラスポラ・デルブルエッキー、ピチア・アノマ
    ラ、ピチア・ホルスチー、パキチコスポラ・トランスバ
    ーレンシス及びチゴサッカロマイセス・ロキシーから選
    ばれる1種又は2種以上の酵母であることを特徴とする
    請求項1記載の2次胆汁酸産生抑制剤。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3いずれか1項記載の酵母を
    含有してなる2次胆汁酸産生抑制用飲食品。
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