JP2004225626A - 軸部材の摺動構造およびインジェクタ - Google Patents

軸部材の摺動構造およびインジェクタ Download PDF

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Abstract

【課題】軸部材がガイド孔に摺動自在に保持される摺動構造において、軸方向に押圧方向の荷重が印加される軸部材の片当たりによる油膜切れを防止することである。
【解決手段】軸部材251の側面25cのうち、ガイド孔1232の側面1232aと常時摺接する端部25c1,25c2が片当たりする接触部となることに鑑み、前記端部25c1,25c2に、それぞれ複数のラビリンス溝2501,2502を形成することにより、溝幅を過剰に広げることなく、接触部の全体に油膜が行き渡るようにする。溝幅を過剰に広げないことで、摺動長をも確保する。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は軸部材の摺動構造およびインジェクタに関する。
【0002】
【従来の技術】軸部材がガイド孔内に摺動自在に保持される摺動構造は、種々の装置が有しており、かかる装置の例として、内燃機関の燃料噴射装置を構成するインジェクタがある。インジェクタは、例えば、噴射用の燃料が供給されるノズル内に、軸部材により構成されたニードルが挿置されて、軸方向に変位することにより、燃料の噴射と停止とを切り替える。ニードルがガイド孔内に摺動自在に保持される摺動構造となっている。ニードルは、例えば常時開弁方向に作用するノズル内の燃料圧が、開弁圧を規定するスプリングのばね力を越えると開弁する。
【0003】
また、コモンレール式の燃料噴射装置に用いられるインジェクタのように、ニードルの背圧を高圧側と低圧側との間で切り替えてニードルを作動せしめる構造のものもある。このものでは、背圧を発生する背圧室に導入される高圧燃料を低圧源に逃がす流路の途中に、背圧室と低圧源とを遮断する弁体が配設された弁室が設けられており、弁室の室壁を貫通するガイド孔に、弁体を押圧するためのピストンが保持される摺動構造を有している。ピストンはピエゾスタック等により構成されたアクチュエータにより押圧駆動され、弁体を変位せしめることで背圧室と低圧源との遮断状態を解除し、背圧室を低圧に開放する。
【0004】
これらのインジェクタの例では、燃料の一部が軸部材の側面とガイド孔の側面との間に進入して油膜を形成し、摺動摩擦の低減により摺動性を向上するが、摺動部からの燃料のリーク(摺動部リーク)はニードルの開弁力や発生油圧を減殺するので、摺動性とともに燃料に対するシール性を十分に確保する必要があり、摺接するガイド孔の側面とニードルの側面とは数μm程度の僅かなクリアランスしか許容されない。このため、ニードルの側面にラビリンス溝を形成して、油膜切れの防止や燃料中の異物の捕捉を企図したものがある(特許文献1等参照)
【0005】
また、前記コモンレール式燃料噴射装置のように、高圧の燃料がノズルボディ内に供給されるものでは、ガイド孔の孔方向に大きな圧力傾斜ができて、ガイド孔の高圧側で内径が最も拡大変形しクリアランスが相対的に大となり、中央で拡大変形の程度が小さくなることに鑑み、高圧側、低圧側、中央の順に溝の配置間隔が長くなるようにして、摺動性およびシール性の偏りの軽減を企図したものもある(特許文献2等参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−103106号公報
【特許文献2】
特開2001−280223号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記ニードルは、軸方向の一方からは燃料圧が作用し、他方からは開弁圧を規定するスプリング力や、背圧室の燃料圧が作用している。また、アクチュエータによりピストンを押圧駆動するものでは、アクチュエータは軸方向の一方から作用する燃料圧やスプリング力に抗してピストンを変位せしめる。すなわち、これらのニードルやピストンは両端面から押圧荷重が印加される条件下で軸方向に変位する。
【0008】
このような条件下では軸部材に偶力が生じやすく、軸部材がガイド孔の孔方向に対して傾斜して片当たりが生じる。このため、軸部材の側面とガイド孔の側面との接触部において油膜切れによる摩耗のおそれがあった。
【0009】
本発明は前記実情に鑑みなされたもので、前記油膜切れによる摩耗を防止することのできる軸部材の摺動構造、および軸部材の摺動構造を有するインジェクタを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明では、軸部材がガイド孔内に摺動自在に保持される軸部材の摺動構造において、
前記軸部材の側面のうち、前記ガイド孔の側面と常時摺接する範囲の軸方向の両端部にそれぞれ複数のラビリンス溝を形成する。
【0011】
軸部材の傾斜により片当たりする、軸部材の側面とガイド孔の側面との接触部は、軸部材のガイド孔の側面と常時摺接する範囲の両端部であり、ガイド孔の孔方向に一定の長さを有する。前記端部のそれぞれに複数の溝を形成することで、溝幅を過剰に広げることなく、前記一定の長さを有する接触部の全体に油膜を行き渡らせることができる。溝幅を過剰に広げないので、接触部の摺動長を確保することができる。これにより、効果的に油膜切れによる摩耗を防止することができ、該摩耗に基因した凝着、磨耗粉の発生による軸部材の固着を未然に回避することができる。
【0012】
請求項2記載の発明では、噴射用の燃料が供給されるノズル内に、軸部材により構成され、軸方向に変位して燃料噴射と停止とを切り換えるニードルが挿置されたインジェクタにおいて、
前記ニードルをノズル壁に形成されたガイド孔に摺動自在に保持する構造、または、高圧燃料が供給されて前記ニードルの背圧を発生する背圧室内の燃料を低圧源に逃がす低圧流路の途中に、背圧室と低圧源とを遮断する弁体が配設された弁室が設けられ、弁室の室壁を貫通するガイド孔に弁体を押圧するための軸部材により構成されたピストンを保持する構造に、前記請求項1記載の軸部材の摺動構造を有する構成とする。
【0013】
インジェクタを構成する前記ニードルや前記ピストンは偶力が作用しやすく、また、軸動する回数もきわめて多いから、請求項1の発明を適用することで、故障の低減や長寿命化を図ることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1に本発明を適用したディーゼルエンジンのコモンレール式の燃料噴射装置のインジェクタの構成を示す。インジェクタは、ディーゼルエンジンの各気筒に1対1に対応して設けられ、共通のコモンレールから燃料の供給を受け、各気筒の燃焼室内に略コモンレール内の燃料圧力(以下、コモンレール圧力という)に等しい噴射圧力で燃料を噴射するようになっている。コモンレールには燃料タンクの燃料が高圧サプライポンプにより圧送されて高圧で蓄えられる。
【0015】
また、コモンレールからインジェクタに供給された燃料は、上記燃焼室への噴射用の他、インジェクタの制御油圧等としても用いられ、インジェクタから低圧の燃料タンクに還流するようになっている。
【0016】
インジェクタは複数の部材が結合した棒状のボディ1を有し、図中の下側部分がエンジンの図略の燃焼室壁を貫通して燃焼室内に突出するように取り付けられている。インジェクタは下側から順に噴射部1a、背圧制御部1b、ピエゾアクチュエータ1cとなっている。
【0017】
噴射部1aは、先端に噴孔103が形成されたノズル104内にニードル21が配設されている。ニードル21の基端部211は、ノズル104壁に形成されたガイド孔121に摺動自在に保持され、ニードル21がガイド孔121の孔方向に軸動して、ニードル21の先端部212が環状シート1041に着座または離座するようになっている。ニードル先端部212の外周空間105には高圧通路101を介してコモンレールから高圧燃料が供給され、ニードル21のリフト時に噴孔103から燃料が噴射される。ニードル21にはその環状段面21aに前記高圧通路101からの燃料圧がリフト方向(上向き)に作用している。
【0018】
ニードル21の後方には高圧通路101からインオリフィス107を介して制御油としての燃料が導入されており、ニードル21の背圧を発生する背圧室106が形成される。この背圧は、背圧室106に配設されたスプリング31とともにニードル21の後端面21bに着座方向(下向き)に作用する。ニードル後端面21bはまた、背圧室106内のスプリング31と弾接し、着座方向(下向き)のばね力が作用している。
【0019】
前記ニードル21の背圧は背圧制御部1bで増減され、背圧制御部1bは前記ピエゾスタック5を備えたピエゾアクチュエータ1cにより制御される。
【0020】
背圧制御部1bは以下の構成となっている。前記背圧室106はアウトオリフィス108を介して常時、弁室110と連通している。弁室110は、インジェクタ内部にその長さ方向に形成された複数の段付きの縦孔の一部により構成されたもので、該縦孔は、弁室110の他、弁室110の下方には、高圧ポート1101、ガイド孔122およびスプリング室109がこの順に設けられ、弁室110の上方には、低圧ポート1102、ガイド孔123およびピエゾスタック室112がこの順に設けられる。
【0021】
高圧ポート1101は、弁室110の底面に開口し、高圧通路101と連通している。低圧ポート1102は弁室110の天井面に開口し、低圧通路102と連通している。また、スプリング室109、ピエゾスタック室112は低圧通路102と連通している。
【0022】
弁室110内には、弁体23が配設されている。弁体23は略円形の部材により構成され、下降時には、下端部が高圧ポート1101を閉鎖することにより、弁室110を高圧通路101から遮断する。上昇時には、上端部が低圧ポート1102を閉鎖することにより、弁室110を前記低圧通路102から遮断する。これにより、弁体23下降時には背圧室106がアウトオリフィス108、弁室110を経て低圧通路102と連通する。そして、ニードル21の背圧が低下してニードル21が離座する。一方、弁体23の上昇時には背圧室106が低圧通路102と遮断されて高圧通路101のみと連通する。そして、ニードル21の背圧が上昇してニードル21が着座する。
【0023】
弁体23はその下方のピストン22のピン部222が高圧ポート1101から弁室110に進入して弁体23を受けるようになっている。ピストン22は本端部221がガイド孔122に摺動自在に保持されている。ピストン22は、下端面22aで、スプリング室109に配設されたスプリング32と弾接しており、弁体23を上方に付勢している。スプリング32のばね力は、コモンレール圧が十分に上昇していないとき、すなわち高圧ポート1101の燃料圧が十分に上昇していないときにも、弁体23が低圧ポート1102を閉鎖状態とし得るように設定される。燃料が謝って噴射されないようにするためである。
【0024】
前記のごとくニードル21の背圧の大きさは弁体23の位置で切り換わるが、この切り換えは、弁体23を押圧駆動するピエゾアクチュエータ1cによりなされる。
【0025】
ピエゾアクチュエータ1cは、ピエゾスタック室112に格納されたピエゾスタック5等や、ガイド孔123に挿置されたピストン24,25により構成されている。
【0026】
ピエゾスタック室112には、上下方向に伸縮するピエゾスタック5とともに、その下方に円盤部材41およびスプリング34が格納されている。円盤部材41はその側面の全周に形成した溝にシール用のOリング42が嵌められたものである。ピエゾスタック室112は、円盤部材41の下方で低圧通路102と連通し、後述する大径ピストン25の外周の摺動部リークが還流するようになっている。
【0027】
ガイド孔123は、下側部分1231が小径で、上側部分1232が大径となっており、径の異なる2つのピストン24,25が摺動自在に保持されている。ガイド孔小径部分1231に保持されたピストン(以下、適宜、小径ピストンという)24は、本体部241から下向きにピン部242が突出して、低圧ポート1102から弁室110内に進入し、弁体23を下方に押し下げ可能である。
【0028】
ガイド孔123の大径部分1232に保持されたピストン(以下、適宜、大径ピストンという)25は、本体部251から上向きにピン部252が突出してピエゾスタック室112内に進入し、円盤部材41と対向している。大径ピストンピン部252は、外周に鍔状に設けられたスプリング受け253が取り付けられており、その下方に配設されたスプリング34のばね力により、大径ピストン25が上向きに付勢されて、円盤部材41との当接状態を保持する。これにより、大径ピストン25がピエゾスタック5の伸縮量と同じだけ上下方向に変位することになる。
【0029】
ピエゾスタック5の伸縮量と同じだけ上下方向に変位する大径ピストン25と、下側の小径ピストン24と、ガイド孔123とで画された空間には燃料が充填されて、変位拡大室111となっており、ピエゾスタック5の伸長で大径ピストン25が下方変位して変位拡大室111の燃料を圧縮すると、その圧縮力が変位拡大室111の燃料を介して小径ピストン24に伝えられる。ここで、弁体23と当接する小径ピストン24を、大径ピストン25よりも小径としているので、ピエゾスタック5の伸長量が拡大されて小径ピストン24の変位に変換され、弁体23を、高圧ポート1101を閉鎖するまで下方変位せしめることができるようになっている。
【0030】
また、小径ピストン24と大径ピストン25との間にスプリング33が介設され、小径ピストン24に端面24bから一定の負荷を印加するようになっている。これにより、弁体23が小径ピストン24およびピストン22による保持状態に常時、維持される。
【0031】
燃料噴射時には、先ず、ピエゾスタック5が充電されてピエゾスタック5が伸長することにより、小径ピストン24が下降して弁体23を押し下げる。これにより弁体23が低圧ポート1102を開放するとともに高圧ポート1101を閉鎖して背圧室106が低圧通路102と連通するので、背圧室106の燃料圧が低下する。これにより、ニードル21に離座方向に作用する力の方が着座方向に作用する力よりも優勢となって、ニードル21が離座して燃料噴射が開始される。
【0032】
噴射停止は反対にピエゾスタック5の放電によりピエゾスタック5を縮小して弁体23への押し下げ力を解除する。この時、弁室110内は低圧となっており、また弁体23の下端面には高圧ポート1101の高圧の燃料圧が作用しているから、弁体23には全体としては上向きの燃料圧が作用している。そして、前記弁体23への押し下げ力の解除により、弁体23が再び低圧ポート1102を閉鎖して弁室110の燃料圧力が上昇するため、ニードル121が着座し噴射が停止する。
【0033】
次に、大径ピストン25がガイド孔大径部分1232に保持される摺動構造について説明する。大径ピストン25は、ガイド孔大径部分1232の側面1232aと摺接する本体部251が、ガイド孔大径部分1232の長さよりもやや短く設定されており、さらに、大径ピストンピン部252の長さ等が、ピエゾスタック5が伸長状態、および縮小状態にあるときに、大径ピストン本体部251がガイド孔大径部分1232内に位置するように設定してある。すなわち、大径ピストン本体部251の側面25cは常時、ガイド孔大径部分1232の側面1232aと摺接している。
【0034】
大径ピストン本体部251の側面25cには、両端部25c1,25c2にそれぞれ複数のラビリンス溝2501,2502が切削形成してある。これにより、次の効果を奏する。すなわち、大径ピストン25の一方の端面25bにピエゾアクチュエータ5の押圧力が作用し、他方の端面25aには、変位拡大室111の燃料圧とともにスプリング33のばね力が作用している。大径ピストンピン部252の円盤部材41への当たり方等がインジェクタを構成する部品の組付け誤差や経時変化に基因してばらつくから、大径ピストン25に作用する互いに逆方向の2つの押圧力は偶力となりやすく、該偶力に基因して、図3に示すように、大径ピストン本体部251がガイド孔大径部1232の孔方向に対して傾斜する。この場合、図より知られるように、大径ピストン本体部251の側面25cの端部25c1,25c2がガイド孔大径部分1232の側面1232aとの接触部となる。該接触部では大きな垂直効力が発生し、摩耗が増大しやすくなる。ここで、接触部は、点ではなく前記孔方向の直線状となるが、接触部の前記孔方向の長さは、大径ピストン本体部251の形状や材質、前記2つの押圧力、大径ピストン本体部251の側面25cとガイド孔大径部側面1232aとのクリアランス等、使用条件や部材の仕様に応じたものとなる。
【0035】
本発明では、摩耗が増大するおそれのある、大径ピストン本体部251の側面25cの端部25c1,25c2にラビンンス溝2501,2502が形成してあるので、前記端部25c1,25c2で挟まれた大径ピストン本体部251の孔方向の中央部に過剰な数の溝を形成することによるシール性の低下を回避して効果的に油膜切れによる前記接触部における摩耗を防止することができる。該摩耗に基因した凝着、摩耗粉の発生による軸部材の固着を未然に回避することができる。
【0036】
また、各側面端部25c1,25c2に1つの溝のみを形成することで前記接触部の全体に油膜を行き渡らせようとすれば、溝幅を十分に広くする必要があるところ、本実施形態では、ラビリンス溝2501,2502を各側面端部25c1,25c2のそれぞれについて複数形成したので、各端部25c1,25c2ごとの溝の総面積が小さくとも、接触部の全体に油膜を行き渡らせることができ、油膜が前記孔方向に均一化する。したがって、前記接触部に必要な油膜を形成しつつ、きわめて高いシール性をも実現することができる。
【0037】
ラビリンス溝2501,2502は、例えば図4に示すように、全長10mmで直径7mmの大径ピストン大径部251の各側面端部25c1,25c2に4つずつ形成される。そして、大径ピストン大径部251の端に最も近い第1溝の位置は端から0.4mmの位置にとり、溝ピッチは0.4mmとする。溝幅は0.25mmとする。溝角度は60°とする。
【0038】
この例において、ガイド孔大径部分1232の側面1232aとのクリアランスを0.002〜0.003mmとして、十分なシール性を実現するとともに、前記接触部の摩耗を回避することができた。
【0039】
次にラビリンス溝2501,2502の諸元を最適化するに際して考慮すべき主要なパラメータについて説明する。
〈第1溝の、大径ピストン本体部の端からの位置〉
図5に、該溝位置と、摩耗量および油膜切れのしやすさとの関係を示す。溝位置が端に近いと、摩耗の進行で第1溝と、大径ピストン本体部251の上方または下方の燃料充填部とが連通し、ラビリンス溝としての作用が減じられて、磨耗が増大する。一方、溝位置が端から離れていると、端から第1溝までの溝が非形成の範囲が長くなって、油膜切れしやすくなる。そこで、第1溝の位置は、摩耗量および油膜切れのしやすさの2つの項目を考慮して両項目の許容範囲内に設定する。数値のうち、太字が実施例であり、細字が各項目の許容しきい値である(以下、同じ)。図例では、摩耗量については0.1(mm)以上であることが必要であり、油膜切れのしやすさについては0.8(mm)以下であることが必要であることを示している。なお、油膜切れのしやすさは所定回数、軸動させた後の大径ピストン本体部側面における油膜の付着量を指標とすることができる。
【0040】
〈溝ピッチ〉
図6に、該溝ピッチと、面圧および油膜切れのしやすさとの関係を示す。溝ピッチが大きいと、溝非形成の範囲が長くなり、面圧が小さくなる一方、油膜切れしやすくなる。そこで、溝のピッチは、面圧および油膜切れのしやすさの2つの項目を考慮して両項目の許容範囲内に設定する。
【0041】
〈溝数〉
図7に、該溝数と、油膜切れのしやすさおよび摺動部リークとの関係を示す。溝数が少ないと、溝非形成の範囲が長くなって、油膜切れしやすくなる。一方、溝数が多いと、油膜切れしくくなるが、シール性が低下して摺動部リークが増大する。そこで、溝数は、油膜切れのしやすさおよび摺動部リークの2つの項目を考慮して両項目の許容範囲内に設定する。
【0042】
〈溝幅〉
図8に、該溝幅と摺動部リークとの関係を示す。溝幅が大きいと、その分、シール性が低下するため、許容上限以内に設定する。なお、溝幅は溝角度に依存し、図8は溝幅を溝角度に変えても同様の傾向を示す。したがって、溝角度についてその許容上限値以内に設定することもできる。
【0043】
なお、前記のごとく大径ピストン25に軸方向に押圧方向に作用する荷重やその形状等に応じて前記接触部の範囲が規定されて、略その範囲内に複数のラビリンス溝を形成することになるが、前記第1溝の位置、溝ピッチ、溝数および溝幅は、互いに関連し合い、これらの変数のうちのいずれかが決定されると、残りの変数のとり得る値が限定される。したがって前記接触部の範囲との関係でこれらの変数のとり得る数値範囲も考慮して設定することになる。この場合、これらの変数を、前記グラフにしたがって順次、決定していくというものでもないのは勿論である。
【0044】
なお、本実施形態では、大径ピストン本体部の側面の両端部にのみラビリンス溝を形成しているが、両端部で挟まれた範囲に、要求されるシール性等を考慮した上で適宜、ラビリンス溝を形成してもよいのは勿論である。
【0045】
また、本実施形態では、大径ピストンのその変位範囲内で変位しても大径ピストン本体部がガイド孔大径部分の両端よりも内側に入るように、大径ピストンが所定の長さ以上にガイド孔大径部分よりも短くしてあり、大径ピストンの側面は常時ガイド孔大径部分の側面と摺接する。したがって、大径ピストン本体部の側面の両端部が接触部となるから、ここに複数のラビリンス溝を形成している。これに対して、大径ピストン本体部がガイド孔大径部分よりも長い場合等、大径ピストン本体部の側面の両端部が常時、ガイド孔大径部分の側面と摺接状態におかれない場合には、大径ピストン本体部の側面のうち、ガイド孔大径部分の側面と常時摺接する範囲の軸方向の両端部にそれぞれ複数のラビリンス溝を形成する。ラビリンス溝を形成することになる前記端部の範囲は、予め実験等により接触部を求め、略この接触部の範囲とする。
【0046】
また、本発明は、大径ピストン25だけではなく、ガイド孔小径部分1231が小径ピストン24を保持する摺動構造、ガイド孔121がニードル基端部211を保持する摺動構造、ガイド孔122がピストン本体部221を保持する摺動構造についても適用することができる。
【0047】
また、インジェクタの構造も、ニードルを閉弁方向に付勢するスプリングを有し、ニードルに開弁方向に作用する燃料圧が前記スプリングのばね力で規定される開弁圧を越えるとニードルが開弁する構造のものであっても、軸部材であるニードルがガイド孔に摺動自在に保持される摺動構造に、本発明を好適に適用することができる。
【0048】
また、本発明は、インジェクタにおける軸部材の摺動構造だけではなく、ガイド孔が軸部材を保持する摺動構造を有し、軸部材の両端面に軸部材を押圧する方向に荷重が印加されるものであれば、広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したインジェクタの断面図である。
【図2】図1のA部における拡大図である。
【図3】本発明の作用を説明する図である。
【図4】前記インジェクタの別の拡大図である。
【図5】前記インジェクタの主要な諸元の設定について説明する第1のグラフである。
【図6】前記インジェクタの主要な諸元の設定について説明する第2のグラフである。
【図7】前記インジェクタの主要な諸元の設定について説明する第3のグラフである。
【図8】前記インジェクタの主要な諸元の設定について説明する第4のグラフである。
【符号の説明】
1a 噴射部
1b 背圧制御部
1c ピエゾアクチュエータ
110 弁室
121,122,123 ガイド孔
1232a 側面
21 ニードル
211 基端部
22 ピストン
221 本体部
24 小径ピストン
241 本体部
25 大径ピストン
251 本体部
25c 側面
25c1,25c2 端部
2501,2502 ラビリンス溝
5 ピエゾスタック

Claims (2)

  1. 軸部材がガイド孔内に摺動自在に保持される軸部材の摺動構造において、
    前記軸部材の側面のうち、前記ガイド孔の側面と常時摺接する範囲の軸方向の両端部にそれぞれ複数のラビリンス溝を形成したことを特徴とする軸部材の摺動部構造。
  2. 噴射用の燃料が供給されるノズル内に、軸部材により構成され、軸方向に変位して燃料噴射と停止とを切り換えるニードルが挿置されたインジェクタにおいて、
    前記ニードルをノズル壁に形成されたガイド孔に摺動自在に保持する構造、または、高圧燃料が供給されて前記ニードルの背圧を発生する背圧室内の燃料を低圧源に逃がす低圧流路の途中に、背圧室と低圧源とを遮断する弁体が配設された弁室が設けられ、弁室の室壁を貫通するガイド孔に弁体を押圧するための軸部材により構成されたピストンを保持する構造に、前記請求項1記載の軸部材の摺動構造を有することを特徴とするインジェクタ。
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