JP2004217921A - イオン交換膜及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 物理的強度に優れ、膜抵抗が低く、且つ長期間に亘ってイオン導電性を安定して維持することができ、直接メタノール型燃料電池隔膜として用いた場合に高い電池出力を安定して得ることができるイオン交換膜、及び該イオン交換膜を効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】 平均孔径が0.01〜2μmの範囲にある細孔を有する多孔質膜(例えば、ポリエチレン製の多孔質延伸フィルム)9を基材とし、該膜の少なくとも片面には、一次粒子の長径の平均値が、多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラー11及びイオン交換樹脂10とを含有する層12が存在するイオン交換膜とする。基材となる多孔質膜に、スチレン等の重合性単量体と無機フィラーとの懸濁液を接触させ、多孔質膜の細孔内に重合性単量体を含浸させた後、重合させ、さらにイオン交換基を導入することにより製造できる。
【選択図】 図2

Description

本発明は、電池用隔膜、透析用隔膜、各種センサー等に使用されるイオン交換膜、特に直接メタノール型燃料電池用隔膜として好適に使用されるイオン交換膜およびその製法に関する。
イオン交換膜は、固体高分子型燃料電池、レドックス・フロー電池、亜鉛−臭素電池等の電池用隔膜、透析用隔膜等として汎用的に使用されている。このうち、イオン交換膜を電解質として用いた固体高分子型燃料電池は、燃料と酸化剤とを連続的に供給し、これらが反応した時の化学エネルギーを電力として取り出すクリーンで高効率な発電システムの一つであり、近年、低温作動や小型化の観点から自動車用途、家庭用や携帯用途としてその重要性を増している。固体高分子型燃料電池は、一般的に電解質として作用する固体高分子の隔膜の両面に触媒が坦持されたガス拡散電極を接合し、一方のガス拡散電極が存在する側の室(燃料室)に水素ガスあるいはメタノール等からなる燃料を、他方のガス拡散電極が存在する側の室に酸化剤である酸素や空気等の酸素含有ガスをそれぞれ供給し、両ガス拡散電極間に外部負荷回路を接続することにより、燃料電池として作用させる。中でも、メタノールを直接燃料として用いる直接メタノール型燃料電池は、燃料が液体であることからその取り扱いやすさに加え、安価な燃料ということで、特に携帯機器用の比較的小出力規模の電源として期待されている。
こうした直接メタノール型燃料電池の基本構造を図1に示す。図中、(1)は電池隔壁、(2)は燃料流通孔、(3)は酸化剤ガス流通孔、(4)は燃料室側拡散電極、(5)は酸化剤室側ガス拡散電極、(6)は固体高分子電解質膜を示す。この直接メタノール型燃料電池において、燃料室(7)に供給されたメタノールから燃料室側拡散電極(4)においてプロトン(水素イオン)と電子が生成し、このプロトンは固体高分子電解質(6)内を伝導し、他方の酸化剤室(8)に移動し、空気又は酸素ガス中の酸素と反応して水を生成する。この時、燃料室側拡散電極(4)で生成した電子は、外部負荷回路を通じて酸化剤室側ガス拡散電極(5)へと移動することにより電気エネルギーが得られる。
このような構造の直接メタノール型燃料電池において、上記隔膜には、通常、陽イオン交換膜が使用されるが、該陽イオン交換膜においては、電気抵抗が小さく、物理的な強度が強いばかりでなく、燃料として使用されるメタノールの透過性が低いといった特性が要求される。例えば、メタノール透過性が高いイオン交換膜を燃料電池用隔膜として使用した際には、燃料室のメタノールが酸化室側に拡散することを十分に抑えることが出来ず、大きな電池出力が得られ難くなる。
従来、直接メタノール型燃料電池用隔膜として使用される陽イオン交換膜として、パーフルオロカーボンスルホン酸膜が主に使用されている。しかし、この膜は、化学的安定性には優れているが、物理的な強度が不十分であるために薄膜化による電気抵抗の低減が困難であった。加えて、燃料にメタノールを用いた場合には、パーフルオロカーボンスルホン酸膜が著しく膨潤して変形するとともに、酸化室側へのメタノールの拡散を十分に抑えることが出来ないという問題点があった。更にパーフルオロカーボンスルホン酸膜は高価でもあった。
また、固体高分子型燃料電池隔膜として、ポリオレフィン系やフッ素系樹脂製多孔質膜を使用して、これに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する単量体を特定の手法により含浸させ重合する方法により、電気抵抗が小さく、そのガスの透過性が極めて小さい陽イオン交換膜を得ることが提唱されている(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、これらの陽イオン交換膜は、燃料に水素ガスを用いる固体高分子型燃料電池用隔膜として用いた場合にはその効果は認められるものの、直接メタノール型燃料電池用隔膜として用いた場合には、メタノールの透過性は十分に抑えられておらず、そのため、酸化室側へのメタノールの拡散が生じ、電池性能が低下するという問題があった。
他方、イオン交換膜の保水性及びイオン導電性を向上させるために、イオン交換膜内にシリカ又はシリカ繊維を均一に分散させた膜が提案されている(例えば、特許文献3)。このような方法によっては、確かに保水性及びイオン導電性が向上するが、本発明者らの検討によればメタノール透過性については変化しないか、場合によっては悪化してしまうことが明らかとなった。
特開2001−135328号公報 特開平11−310649号公報 特開平6−111827号公報
このように、直接メタノール型燃料電池の隔膜として従来用いられている陽イオン交換膜においては、メタノール透過性が低く、かつ電気抵抗が低い(イオン導電性が高い)ものは知られていないのが現状である。そこで本発明は、液体透過性、特にメタノール透過性が低くかつ膜抵抗の低い、直接メタノール型燃料電池隔膜として用いた場合に高い電池出力を安定して得ることができるイオン交換膜を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記問題点に鑑み鋭意研究を続けてきた。その結果、イオン交換膜の製造方法として、多孔質フィルムを基材とし、一次粒子の長径の平均値が該多孔質フィルムの有する細孔の平均値に対して特定の範囲にある無機フィラーをイオン交換樹脂の前駆体である単量体に添加した縣濁液を、該多孔質フィルムに含浸させて製造したイオン交換膜は、メタノール透過性が低く、電気抵抗が小さいことを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、平均孔径が0.01〜2μmの範囲にある細孔を有する多孔質膜を基材とするイオン交換膜であって、該多孔質膜の少なくとも片面に、一次粒子の長径の平均値が、前記多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラー及びイオン交換樹脂とを含有する層が存在することを特徴とするイオン交換膜である。
また他の発明は上記イオン交換膜の製造方法に係るものであり、さらに他の発明は上記イオン交換膜を用いた直接メタノール型燃料電池用隔膜及びそれを用いた直接メタノール型燃料電池である。
本発明のイオン交換膜は、電気抵抗が低く、且つ、液体、特にメタノールの透過性が極めて低い。さらに、熱可塑性樹脂製の多孔質延伸フィルムを基材として使用すれば、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性にも優れるものとすることができる。このため本発明のイオン交換膜を隔膜として用いた直接メタノール型燃料電池は、燃料および酸素含有ガスのクロスオーバーが抑えられ高い電池出力が長期間安定的に得られる。また、本発明の製造方法によれば、上記のような優れた特長を有する本発明のイオン交換膜を簡便に効率よく製造することが可能である。
本発明のイオン交換膜は、平均孔径が0.01〜2μmの範囲の細孔を有する多孔質膜を基材(支持材あるいは補強材と呼ばれることもある)とするイオン交換膜であって、該多孔質膜の少なくとも片面に、一次粒子の長径の平均値が、前記多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラー及びイオン交換樹脂とを含有する層が存在することに特徴を有す。換言すればこのイオン交換膜は、平均孔径が0.01〜2μmの範囲の細孔を有する多孔質膜を含む多孔質膜層、及び、該多孔質膜層の少なくとも片面に存在する無機フィラー含有層からなり、上記多孔質膜の有する細孔はイオン交換樹脂により充填されており、そして上記無機フィラー含有層は、一次粒子の長径の平均値が、前記多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラー及びイオン交換樹脂からなるイオン交換膜である。
上記基材となる多孔質膜としては、平均孔径が0.01〜2μmの範囲にある細孔を有する多孔質膜であって、該多孔質膜を基材としたイオン交換膜が形成可能なように、当該細孔の少なくとも一部が表裏を連通しているものであれば特に限定されず、公知の如何なる多孔質膜でもよい。他方、平均孔径が0.01μm以下の膜では多孔質基材の空孔(細孔内)へのイオン交換樹脂の充填が不十分となって電気抵抗が高い膜となる。逆に2μm以上の場合には高いメタノール非透過性を得ることが出来なくなる。より好ましくは、平均孔径が0.01〜1μmの細孔を有すものである。なお、当該多孔質膜の平均孔径はJISK3832に準拠したバブルポイント法により測定される値である。
イオン交換膜の電気抵抗を低くすることができ、しかも高い物理的強度を保つために、空隙率(気孔率とも呼ばれる)は20〜95%、特に30〜90%であるのが好ましく、透気度(JIS P−8117)は1000秒以下、特に500秒以下であるのが好ましい。また、その厚みは5〜150μmが好ましく、10〜120μmがより好ましく、10〜70μmであるのが特に好ましい。
当該多孔質膜の形態は特に限定されず、多孔質延伸フィルムや多孔質非延伸フィルム等の多孔質フィルム、織布、不織布、紙、無機膜等が制限なく使用でき、材質としても熱可塑性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物あるいは無機物でも又はそれらの混合物でも構わない。その製造が容易であるばかりでなく後述する炭化水素系イオン交換樹脂との密着強度が高いという観点から、熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。当該熱可塑性樹脂組成物としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン等のα−オレフィンの単独重合体または共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−オレフィン共重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフロオロエチレン−ペルフロオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等のフッ素径樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂等が例示される。これらのなかでも、機械的強度、化学的安定性、耐薬品性に優れ、炭化水素系イオン交換樹脂との馴染みが特によいことからポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン又はポリプロピレン樹脂が特に好ましく、ポリエチレン樹脂が最も好ましい。
さらに前記平均孔径を有すものの入手が容易で、かつ強度に優れる点でポリオレフィン樹脂製の多孔質フィルムであることが好ましく、ポリエチレン樹脂製の多孔質フィルム、特に延伸フィルムであることが特に好ましい。
このような多孔質フィルムは、例えば特開2002−338721号公報等に記載の方法によって得ることもできるし、あるいは、市販品(例えば、旭化成「ハイポア」、宇部興産「ユーポア」、東燃タピルス「セテラ」、日東電工「エクセポール」、三井化学「ハイレット」等)として入手することも可能である。
上記多孔質膜の有する細孔は、イオン交換樹脂により充填されている。当該イオン交換樹脂としては、陽イオン交換能及び/又は陰イオン交換能のある基(以下、単にイオン交換基)を有す樹脂からなる公知の如何なるイオン交換樹脂でもよいが、パーフルオロカーボンスルホン酸等に比べて製造コストが安価になるばかりでなく、多孔質膜からなる基材が強度の高いポリオレフィン系多孔質(延伸)フィルムである場合、該基材との馴染みが良いために薄膜化による低抵抗化が可能である点で、イオン交換基以外の部分は炭素と水素を主とする構造の樹脂であることが好ましい。なおイオン交換基以外の部分にもフッ素、塩素、臭素、酸素、窒素、珪素、硫黄、ホウ素、リン等の他の原子が少量存在しても良いが、その量はイオン交換基以外の部分を構成する原子の総数に対して40モル%以下、特に10モル%以下であるのが好ましい(以下、このようなイオン交換樹脂を、炭化水素系イオン交換樹脂とも称す)。特に好ましくはスチレン系の重合性単量体と、該スチレン系単量体と共重合可能な架橋性単量体とを共重合させたポリスチレン系のものである。
またイオン交換基としては、陽イオン交換基として、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、及びこれらの酸に対応する塩等が挙げられ、一般的に、強酸性基であるスルホン酸基が特に好ましい。また、陰イオン交換基としては、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基、4級イミダゾリウム基等が挙げられ、一般的に、強塩基性基である4級アンモニウム基や4級ピリジニウム基が好適に用いられる。
本発明のイオン交換膜は、上記した細孔内にイオン交換樹脂が充填された多孔質膜(多孔質膜層)の少なくとも片面に、一次粒子の長径の平均値が該多孔質フィルムの有す細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラー(以下、単に無機フィラーとも称す)とイオン交換樹脂とを含有する層(無機フィラー含有層)が存在する。当該無機フィラーの長径(フィラー粒子中、最も径の長い部分の長さ)が多孔質フィルムの有す細孔の平均孔径の0.1倍未満の場合には、メタノール透過性を低減させることができないか、あるいは膜抵抗が高いものになってしまうため、本発明の目的であるメタノール透過性が低く、かつ電気抵抗の低いイオン交換膜とすることができない。他方、50μmを越える場合にはイオン交換膜の製造が極めて困難であり、さらに製造できたとしてもメタノール透過性の抑制が不十分となる。好ましくは、長径が多孔質フィルムの有す細孔の平均孔径の0.2倍以上かつ10μm以下の無機フィラーである。
当該無機フィラーの形状は特に限定されず、球状、繊維状、層状(膜状)あるいは不定形粉砕物状等如何なる形状でも良いが、充分なメタノール非透過性を発現させうる点で、層状のものであることが好ましい。さらに層状粒子のなかでもアスペクト比が50〜2000、特に200〜1000の範囲にある粒子であることが最も好ましい。なお層状粒子のアスペクト比は、層状粒子の厚さと、該粒子における最も径の長い部分の長さ(長径)の比であり、一般的には電子顕微鏡観察により求めることができる。
当該無機フィラーの材質は無機物であれば特に制限されるものではないが、高いイオン導電性、イオン交換膜の耐久性等を考慮すると、親水性を有し、かつスルホン酸やアミノ基等のイオン交換基の存在下でも耐食性を示すものであるのが好ましい。例えば、周期律表第IIA族、第IVA族、第IIIB族、及び第IVB族よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物、複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、又はこれらの混合物等の粉末を使用することができる。なお、周期律表第IIA族の金属としてはカルシウム、又はマグネシウムが、第IVA族の金属としてはチタン、又はジルコニウムが、IIB族の金属としてはアルミニウムが、第IVB族の金属としてはケイ素が好適である。本発明において好適に使用できる無機フィラーを具体的に例示すれば、モンモリロナイトやタルク等の各種ケイ酸塩類、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物;硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩等が挙げられる。これらの中でもケイ酸塩、シリカ、アルミナ、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラーを使用するのが特に好適である。
このような材質の層状粒子としては、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト、ヘクトライト、バイデライト、ソーコナイト、ペロブスカイト、サポナイト、カオリン、セリサイト、マイカ、タルク、層状ケイ酸塩等の天然あるいは人造鉱物が挙げられる。
当該無機フィラー含有層の厚さは特に制限されるものではなく用途等に応じ適宜変更調整すればよいが、十分なメタノール非透過性と高いイオン導電性を得るためには、0.05〜5μmの範囲にあることが好ましく、0.1〜3μmの範囲にあることがより好ましい。また、該層における無機フィラーとイオン交換樹脂との比率も特に制限されるものではないが、製造が容易で、かつ十分なメタノール非透過性と高いイオン導電性を得るためには、無機フィラー:イオン交換樹脂とが重量比で、1:100〜70:100の範囲にあることが好ましく、1:100〜45:100の範囲にあることがより好ましい。無機フィラーの割合が多いほど、メタノール透過性が抑えられるが、極端に多くなるとイオン導電性が低下する傾向がある。またイオン交換樹脂が存在しない場合には、イオン導電性を得ることができない。
本発明のイオン交換膜は、多孔質膜層における(多孔質膜の細孔内に存在する)イオン交換樹脂と、無機フィラー含有層におけるイオン交換樹脂とが同種のイオン交換樹脂であることが好ましい。また多孔質膜層(多孔質膜の細孔内)におけるイオン交換樹脂と、無機フィラー含有層におけるイオン交換樹脂とが界面のない連続した相(一体化した重合体)であることが好ましい。このようなイオン交換膜である場合に、特に高いイオン導電性(低い膜抵抗)のイオン交換膜とできる。
このような多孔質膜、無機フィラー及びイオン交換樹脂を含む本発明のイオン交換膜の構造の模式図を図2として示す(なお、図においては各部のサイズ比等は任意であり、本発明のイオン交換膜の大きさを正確に示したものではない)。即ち、多孔質膜9からなる基材の少なくとも片面に、イオン交換樹脂10と無機フィラー11とを含む層12が形成されている。当該多孔質膜の有する細孔は多数が表裏を連通しており、その細孔内にもイオン交換樹脂10が存在する。なお図2では、多孔質膜9の片面のみに、イオン交換樹脂10と無機フィラー11とを含む層12が存在し、反対の面にはイオン交換樹脂10のみからなる層が存在するが、この面にもイオン交換樹脂と無機フィラーとを含む層が存在していても良いし、逆になにも存在しない(多孔質膜の面がそのまま露出している)状態でも構わない。少なくとも片面にイオン交換樹脂と無機フィラーとを含む層が存在していれば、充分なメタノール非透過性が得られるが、両面共にイオン交換樹脂と無機フィラーとを含む層が存在するイオン交換膜である方が製造が容易である。また、多孔質膜の有する細孔内に完全にイオン交換樹脂が存在する必要はなく、一部の細孔にはイオン交換樹脂が充填されていなくても構わないが、高いイオン交換容量を得るためには、できるだけ細孔内に多くのイオン交換樹脂が存在する方が好ましい。
また図2中でイオン交換樹脂10の存在する部分には、他の成分が含まれていても良く、イオン交換樹脂の添加剤として公知の各種添加剤や、イオン交換樹脂以外の樹脂等が挙げられる。また多孔質膜9の有する細孔内のイオン交換樹脂には無機フィラー、特にその長径が多孔質膜の有する細孔径以下である無機フィラーが少量含まれる場合もある。通常、該細孔内における無機フィラーの存在比率は、イオン交換樹脂と無機フィラーとを含む層における無機フィラーの存在比より少なく、一般的には質量比で1/5以下、好ましくは1/10以下、特に好ましくは1/100以下である。
上記本発明のイオン交換膜の製造方法は特に限定されないが、高性能の膜を効率よく製造できるという観点から好適には以下のような製造方法1又は2で製造することができる。
製造方法1.単量体(モノマー)を多孔質膜の有す細孔内に浸透させた後、重合させる方法
この方法においては、まず一次粒子の長径の平均値が多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラーと、重合してイオン交換樹脂を与える重合性単量体又はイオン交換樹脂前駆体樹脂を与える重合性単量体からなる群から選ばれる重合性単量体を含有する縣濁液(以下、懸濁液1)を得る。ここで用いる無機フィラーは前記したものを用いればよい。このとき無機フィラーは、分散性を向上させるために、表面処理されたものを用いることが好ましい。一般的に、重合によりイオン交換樹脂を与える重合性単量体を用いる場合には、親水化処理された無機フィラーを用い、イオン交換樹脂前駆体を与える重合性単量体を用いる場合には、疎水化処理された無機フィラーを用いると良い。
重合してイオン交換樹脂を与える重合性単量体とは、従来公知であるイオン交換樹脂の製造において用いられている、重合させることによりイオン交換樹脂となる重合性単量体を意味し、具体的には、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、α−ハロゲン化ビニルスルホン酸等のスルホン酸径単量体、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸径単量体、ビニルリン酸等のホスホン酸径単量体、それらの塩およびエステル類等が挙げられる。また、陰イオン交換基を有する単量体としては、ビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン径単量体、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環径単量体、それらの塩類およびエステル類が挙げられる。
重合してイオン交換樹脂前駆体樹脂を与える重合性単量体とは、従来公知であるイオン交換樹脂の製造において用いられている、重合させることによりイオン交換基の導入可能な樹脂、即ちイオン交換基の導入可能な官能基を有する樹脂を生じる重合性単量体を意味し、具体的には、陽イオン交換基が導入可能な官能基を有するものとしてスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−ハロゲン化スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられ、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
本発明の製造方法においては重合してイオン交換樹脂を与える重合性単量体又はイオン交換樹脂前駆体樹脂を与える重合性単量体のどちらを用いても構わないが、多孔質膜がポリオレフィン系の多孔質フィルムである際に、その浸透性が良いことから、重合してイオン交換樹脂前駆体樹脂を与える重合性単量体を用い、後述するようにその後でイオン交換基を導入することが好ましい。
また上記の重合性単量体は複数の種類のものを併用しても良く、さらには架橋性単量体等その他の単量体を併用しても良い。架橋性単量体を配合することにより、得られるイオン交換樹脂が不溶性のものとなり、安定性が向上し好ましい。当該架橋性単量体としては特に制限されるものではないが、例えば、ジビニルベンゼン類、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物、トリメチロールメタントリメタクリル酸エステル、メチレンビスアクリルアミド、ヘキサメチレンジメタクリルアミド等の多官能性メタクリル酸誘導体が用いられる。(なお以下の説明では、重合してイオン交換樹脂を与える重合性単量体、重合してイオン交換樹脂前駆体樹脂を与える重合性単量体、架橋性単量体、及びその他任意成分として含まれる全ての単量体を総称して重合性単量体と称す。)
さらに懸濁液1には、後述する重合のための重合開始剤が含まれていることが好ましい。当該重合開始剤としては、上記したような重合性単量体を重合させることが可能な重合開始剤であれば特に制限されることはなく、具体的には、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が挙げられる。
さらに懸濁液1には必要に応じて、溶媒、可塑剤等、単量体の重合によりイオン交換樹脂を製造する際の公知の添加剤が含まれていてもよい。
上記懸濁液1を調整する方法は特に制限されるものではなく、一般的には、用いる重合性単量体、無機フィラー、重合開始剤及びその他必要に応じて配合される各種添加成分を秤取り、一般的なミキサー等で攪拌・混合すればよい。また、無機フィラーと重合性単量体の比も特に制限されるものではないが、無機フィラー含有層における無機フィラーの割合を前述したようなものとするために、重合性単量体100重量部に対して無機フィラーが1〜70重量部であることが好ましく、1〜45重量部であることがより好ましい。なお詳細な理由は不明であるが、一般的傾向として、用いた懸濁液における無機フィラーの割合よりも、得られる無機フィラー含有層における無機フィラーの割合の方が多くなる傾向がある。重合性単量体としては、重合してイオン交換樹脂を与える重合性単量体又はイオン交換樹脂前駆体を与える重合性単量体100重量部に対して、架橋性単量体0.1〜50重量部、特に1〜40重量部;これら以外の重合性単量体が0〜100重量部のものとすることが好ましい。また重合開始剤は重合性単量体100重量部に対して0.1〜20重量部、特に0.5〜10重量部とするのが好適である。可塑剤を配合する場合には当該可塑剤は、重合性単量体100重量部に対して0〜50重量部とすればよい。
上記のような懸濁液1を、多孔質延伸フィルム等の多孔質膜と接触させ、重合性単量体を多孔質膜の有する細孔内に浸透させる。当該多孔質膜は、前記したような平均孔径が0.01〜2μmの範囲にある細孔を有すものを用いる。当該接触の方法も特に制限されず、該懸濁液1を多孔質膜へ塗布やスプレーしたり、あるいは多孔質膜を懸濁液1中へ浸漬したりする方法が例示される。当該接触によって、重合性単量体、及び必要に応じて配合された任意成分のうち重合性単量体に溶解している成分が多孔質膜の細孔内に浸透していく。この際、無機フィラーとして一次粒子の長径の平均値が多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラーを用いることにより、多孔質膜の有す細孔内に該無機フィラーがほとんど浸透せず、多孔質膜の面上に無機フィラーと重合性単量体、及びその他任意成分からなる層を形成される。なお、細孔径よりも小さな径のフィラーであっても細孔内に浸透しないのは、これら粒子が凝集してより大きな二次粒子になっているためであると推測される。また浸漬による際には、浸漬から引き上げた後にも引き続き多孔質膜表面に残存する重合性単量体が細孔内に浸透していくため、細孔内に完全に浸透するまで浸漬を続ける必要はない。浸漬による場合に、その浸漬時間は多孔質膜の種類や懸濁液の組成にもよるが、一般的には0.1秒〜十数分である。
つづいて重合性単量体を重合させる。当該重合方法は特に制限されるものではなく、配合した重合性単量体の重合方法として公知の手法を採用すれば良いが、一般的には、前記過酸化物からなる重合開始剤を用い、加熱により重合させる方法が、その操作が容易で、また比較的均一に重合させることができ好ましい。重合に際しては、酸素による重合阻害を防止し、また表面の平滑性を得るため、ポリエステル等のフィルムにより覆った後に重合させることがより好ましい。さらにこのようなフィルムで覆うことにより、過剰の懸濁液が取り除かれ、薄く均一なイオン交換膜とすることができる。また、熱重合により重合させる場合の重合温度は特に制限されず、公知の条件を適宜選択して適用すればよいが、一般的には50〜150℃程度、好ましくは60〜120℃程度である。なお、懸濁液1中に溶媒が含まれている場合には、重合に先立って該溶媒を除去しておくことが好ましい。
このようにして重合させて得られた膜は、重合してイオン交換樹脂を与える重合性単量体を用いた場合には、そのまま本発明のイオン交換膜となるが、重合してイオン交換樹脂前駆体を与える重合性単量体を用いた場合には、さらに該重合性単量体の重合体からなる樹脂、即ち、イオン交換樹脂前駆体樹脂にイオン交換基を導入し、イオン交換樹脂に転化する必要がある。当該イオン交換基の導入方法は特に制限されず、公知の方法を採用すればよい。また導入するイオン交換基の種類も目的に応じ適宜選択すればよく、具体的には陽イオン交換樹脂を得る場合にはスルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化、加水分解等の処理、陰イオン交換樹脂を得る場合にはアミノ化、アルキル化等の処理を行なうことにより所望のイオン交換基を導入することができる。当該イオン交換基の導入により、本発明のイオン交換膜を得ることができる。
製造方法2.樹脂(高分子)を溶媒に溶解して多孔質膜の細孔内に浸透させる方法
本発明のイオン交換膜を製造する第2の方法としては、上記した製造方法1において、重合性単量体に代えて、イオン交換樹脂又はその前駆体樹脂、及び溶媒とを用いる方法が挙げられる。換言すれば、重合性単量体の重合を多孔質膜と接触させる前に行う方法である。当該方法においては、一般にイオン交換樹脂又はその前駆体樹脂は、そのままでは多孔質の細孔内に浸透していかないため、溶媒に溶解した溶液とする必要がある。なお無機フィラーとしては前記した通りである。
用いるイオン交換樹脂としては、溶媒に溶解可能なものであれば特に制限されるものではなく、公知の如何なるものでも良いが、好ましくは前述したような炭化水素系のイオン交換樹脂である。また、イオン交換樹脂前駆体樹脂としては、公知のイオン交換基の導入方法によりイオン交換樹脂とすることができ、用いる溶媒に可溶な樹脂であれば特に制限されることなく、具体的にはポリスチレン、ポリアリールエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミドなどのいわゆるエンジニアリングプラスチック類、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体などのエラストマー類が挙げられる。
また溶媒としては上記イオン交換樹脂又はその前駆体樹脂を溶解させるものであれば特に限定されず、公知の溶媒の中から適宜選択して使用される。そのような溶媒を例示すれば、水、アセトン、ジクロルエタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ニトロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン等が挙げられる。さらに、これらの溶媒は単一溶媒でも良いし、または、二種類以上の混合溶媒でも良い。溶媒の除去の容易性を考慮すると有機溶媒の使用が好ましい。
上記のような無機フィラー、イオン交換樹脂又はその前駆体樹脂、及び溶媒とを含む懸濁液(懸濁液2)における、これらの混合比は特に制限されるものではないが、製造時の成形性及び最終的に得られるイオン交換膜のメタノールバリア性以外の性能等をも合わせて考慮すると、イオン交換樹脂又はその前駆体樹脂100重量部に対して一次粒子の長径の平均値が多孔質フィルムの平均孔径の0.1〜20倍である無機フィラーが1〜70重量部、特に1〜45重量部、有機溶媒10〜500重量部、特に20〜200重量部の範囲である。また、懸濁液2には必要に応じて他の成分を配合していても良く、具体的には前記製造方法1で例示した各種重合性単量体や可塑剤類が挙げられる。可塑剤類としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメチルイソフタレート、ジブチルアジペート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、ジブチルセバケート等が一般的に用いられる。
このような懸濁液2は前記製造方法1における方法と同様に多孔質膜と接触せしめられ、多孔質膜の有する細孔内にイオン交換樹脂又はその前駆体樹脂、有機溶媒及び必要に応じて配合される成分のうち有機溶媒に可溶な成分が浸透する。
製造方法2においては、続いて用いた溶媒を除去する必要がある。当該除去方法も特に制限されるものではなく、自然乾燥、真空乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等、公知の溶媒の除去方法を用いればよい。
イオン交換樹脂を用いた場合には、上記溶媒の除去によって、本発明のイオン交換膜となるが、イオン交換樹脂前駆体樹脂を用いた場合には、引き続いて、該前駆体樹脂にイオン交換基を導入してイオン交換樹脂へと転化させる必要がある。当該イオン交換樹脂への転化方法は、製造方法1にて述べたのと同様である。このイオン交換樹脂への転化により、本発明のイオン交換膜が得られる。
上記のような製造方法(1及び2)で得られたイオン交換膜におけるイオン交換樹脂は、得られるイオン交換膜の電気抵抗値を低くするという観点から、イオン交換容量で0.2〜5.0mmol/g、特に0.5〜3.0mmol/gとなるようにイオン交換基の量を調整しておくことが好ましい。また乾燥によるプロトンの伝導性の低下が生じ難いように、含水率は、5%以上、好適には10%以上であるのが好ましい。一般に含水率は5〜90%程度で保持される。このような範囲の含水率を得るためには、イオン交換基の種類、イオン交換容量及び架橋度の調整等の公知の方法により制御することができる。
この様な製造方法で得られる本発明のイオン交換膜は、基材として前記したような高強度で薄い多孔質フィルムを用いることが出来るため、炭化水素系イオン交換樹脂のイオン交換容量等を調整することにより、電気抵抗値が3mol/L−硫酸水溶液中の電気抵抗で表して0.30Ω・cm以下、更には0.15Ω・cm以下と非常に小さくすることができる。また、内層が多孔質フィルムである場合にもその空隙部へのイオン交換樹脂が良好に充填されるため、メタノール透過性を極めて小さくすることができ、例えば25℃における50%メタノール溶液に対するメタノールの透過率が1.0×10g・m−2・24hr−1・atm−1以下、特に0.2〜0.8×10g・m−2・24hr−1・atm−1の範囲であるものを得ることもできる。本発明のイオン交換膜はこのようにメタノール透過率が小さいため、直接メタノール型燃料電池用隔膜として使用した場合に、燃料室や酸化剤室に供給したメタノールが該隔膜を透過して反対の室に拡散することを防止でき、高い出力の電池が得られる。この場合、片面にしか無機フィラー及びイオン交換樹脂を含有する層が存在しないものを用いるのであれば、該層が燃料室側にくるように設置することがより好ましい。尚、本発明の製造方法で製造した本発明のイオン交換膜を直接メタノール型燃料電池用隔膜として適用した直接メタノール型燃料電池は、図1に示したような構造をしたものが一般的であるが、該本発明のイオン交換膜は、その他の公知の構造を有する直接メタノール型燃料電池にも勿論適用することができる。
本発明を更に具体的に説明するため、以下、実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例および比較例に示す陽イオン交換膜の特性は、以下の方法により測定した値を示す。
(1)陽イオン交換容量および含水率;
陽イオン交換膜を1(mol/l)HCl水溶液に10時間以上浸漬し、水素イオン型とした後、1(mol/l)NaCl水溶液でナトリウムイオン型に置換させ遊離した水素イオンを電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。次に、同じ陽イオン交換膜を1(mol/l)HCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した後膜を取り出しティッシュペーパー等で表面の水分を拭き取り湿潤時の重さ(Wg)を測定した。次に膜を60℃で5時間減圧乾燥させその重量を測定した(Dg)。上記測定値に基づいて、陽イオン交換容量は次式により求めた。
陽イオン交換容量=A×1000/D[mmol/g−乾燥重量]
含水率=100×(W−D)/D[%]
(2)電気抵抗
白金電極を備えた2室セルの中央に陽イオン交換膜を置き、セル内に25℃の3(mol/l)硫酸水溶液を満たした。陽イオン交換膜の両側にはルギン管を設け、塩橋により参照電極と液絡した。膜を挟んで100(mA/cm)の電流を流したときの電位(aV)と膜を挟まずに100(mA/cm)の電流を流したときの電位(bV)を測定した。陽イオン交換膜の電気抵抗は次式より求めた。
電気抵抗=1000×(a−b)/100[Ω・cm]。
(3)耐熱性(収縮率)
50℃の乾燥機中で1時間予備乾燥させた測定用サンプル膜を90℃のイオン交換水中に4時間浸漬した後、イオン交換水から取り出して寸法を測定し、以下の式により収縮率を求めた。
S=100×(La−Lb)/La
S:収縮率(%)
La:50℃の乾燥機中で乾燥させた膜の長さ(cm)
Lb:90℃のイオン交換水中で4時間浸漬した膜の長さ(cm)。
(4)メタノール透過率
メタノール透過率の測定方法として、JIS K 7126Aに準拠した差圧法による液体透過試験機を用いた。測定に用いた陽イオン交換膜は25℃において50%メタノールに30分間含浸後、液体透過試験機に装着した。陽イオン交換膜を透過したメタノール量は、ガスクロマトグラムにより測定を行った。また、測定に用いた液体は、25℃に保った50%メタノールを用いた。メタノール透過率は次式により求めた。
Q=q×76/(a×t×Pa)
Q:メタノール透過率(g/m・24hr・atm)
q:メタノール透過量
t;測定時間
a:メタノール透過面積
Pa:メタノール分圧。
(5)燃料電池出力電圧
先ず、測定する陽イオン交換膜上に、触媒として平均粒子径が2nmの白金が30重量%の坦持されたカーボンブラックと、スルホン化ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(陽イオン交換容量0.9)のアルコールとジクロロエタンの5%溶液を混合したものを塗布し80℃で4時間減圧乾燥した後、上記の膜状物を100℃、圧力5MPaの加圧下で100秒間熱圧着し、更に室温で2分間放置し、陽イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を得る。次いで得られた陽イオン交換膜/ガス拡散電極接合体をその両側から、厚みが200μmであり、空孔率が80%のカーボンペーパーの電極で挟み込み、図1に示す構造の燃料電池セルに組み込んで、燃料電池セル温度25℃に設定し、燃料極側に10%メタノール水溶液を、酸化極側に大気圧の酸素を200(ml/min.)で供給して発電試験を行ない、電流密度0(A/cm)、0.1(A/cm)、及び0.3(A/cm)におけるセルの端子電圧を測定した。
(6)耐久性評価
上記出力電圧の測定後、25℃、電流密度0.1(A/cm)の条件下で連続発電試験を行い、250時間後の出力電圧を測定し、陽イオン交換膜の耐久性を評価した。
(7)無機フィラーとイオン交換樹脂からなる層の厚さ及び無機フィラー含有率の測定
無機フィラーとイオン交換樹脂からなる層(無機フィラー含有層)の厚さは、走査電子顕微鏡および電子プローブマイクロアナライザを用いてイオン交換膜の断面観察および元素分析により測定した。さらに、該層の無機フィラー含有率は元素分析により算出した。
実施例1〜7
表1に示した組成表に従って、各単量体組成物に一次粒子の長径の平均値が多孔質延伸フィルムの平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラーとしてケイ酸塩を混合して混合物(懸濁液)を得た後に、得られた混合物400gを500mlのガラス容器に入れ、これに各20cm×20cmのポリエチレン(PE、重量平均分子量25万)製の多孔質膜(膜厚25μm、空隙率40%、平均孔径0.02μm)を大気圧下、25℃で10分浸漬し、これら多孔質膜に単量体組成物を含浸させた。尚、無機フィラーAは層状ケイ酸塩であるモンモリロナイトであり、平均粒径が2.0μm、アスペクト比が200〜1000の範囲にある粒子からなる(日本有機粘土株式会社製「エスベン」、テトラアルキルアンモニウム処理品)。無機フィラーBは層状ケイ酸塩であるヘクトライトであり、平均粒径が2.0μm、アスペクト比が200〜1000の範囲にある粒子からなる(コープケミカル社製「SAN」、テトラアルキルアンモニウム処理品)。無機フィラーCは層状ケイ酸塩であるマイカであり、平均粒径が4.2μm、アスペクト比が200〜1000の範囲にある粒子からなる(トピー工業社製「4CD−Ts」、テトラアルキルアンモニウム処理品)。無機フィラーDは平均粒径0.02μmの球状シリカである(株式会社トクヤマ製「HM−20L」、ヘキサメチルジシラザン処理品)。
続いて、上記多孔質膜を単量体組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離剤として上記多孔質膜の両側を被覆した後、3kg/cmの窒素加圧下、80℃5時間加熱重合した。次いで、得られた膜状物を98%濃硫酸と純度90%以上のクロロスルホン酸の1:1混合物中に40℃で45分間浸漬し、スルホン酸型陽イオン交換膜を得た。この様にして得られた各スルホン酸型陽イオン交換膜の膜厚、陽イオン交換容量、含水率、電気抵抗、耐熱性、メタノール透過係数、燃料電池出力電圧、耐久性を測定した。これらの結果を表2に示した。なおこれらのイオン交換膜は電子顕微鏡観察によれば、多孔質フィルムの両面に無機フィラーとイオン交換樹脂からなる層が形成されていた(表2に示したのは片面における厚さである)。またこの観察では基材として用いた多孔質フィルムの細孔内に無機フィラーの存在は観測されず、多くとも0.01%以下であることが確認された。
Figure 2004217921
Figure 2004217921
比較例1
表1に示した組成表に従って、実施例1と同じ単量体を混合してケイ酸塩を含まない単量体組成物を得た。得られた単量体組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、上記と同じポリエチレン製の多孔質膜を大気圧下、25℃で10分浸漬し、多孔質膜の空隙に単量体組成物を充填した。次いで実施例1と同じ操作を行いスルホン酸型陽イオン交換膜を得、実施例1と同様の評価を行なった。その結果を合わせて表2に示した。
比較例2
表1に示した組成表に従って、実施例1と同じ単量体を用い、これに平均粒子径0.02μmのシリカを5重量部混合して混合物(懸濁液)を得た。得られた混合物400gを500mlのガラス容器に入れ、実施例1で使用したポリエチレン多孔質膜の代わりに、膜厚25μm、空隙率50%、平均孔径0.6μmのポリエチレン多孔質膜を大気圧下、25℃で10分浸漬し、多孔質膜の空隙に単量体組成物を充填した。次いで実施例1と同じ操作を行い、スルホン酸型陽イオン交換膜を得た。得られたスルホン酸型陽イオン交換膜の膜厚、陽イオン交換容量、含水率、電気抵抗、耐熱性、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定した。これらの結果を合わせて表2に示した。なおこのイオン交換膜の膜断面の電子顕微鏡観察によれば、多孔質フィルムの両面だけでなく、多孔質フィルムの空隙部分にも無機フィラーとイオン交換樹脂が同じ比率で存在していることが確認された。
実施例8
ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体100重量部、無機フィラーとしてケイ酸塩A3重量部、溶媒としてジクロロエタン100重量部を混合して混合物(懸濁液)を得た。得られた単量体組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、上記と同じポリエチレン製の多孔質膜を大気圧下、25℃で10分浸漬し、多孔質膜の空隙に重合体溶液を充填した。尚、これら重合体溶液の含浸性は30秒であった。続いて、上記多孔質膜を懸濁液中から取り出し、25℃で6時間加熱し膜状物を得た。次いで実施例1と同じ操作を行ってスルホン酸型陽イオン交換膜を得、実施例1と同様の評価を行なった。その結果を表3に示した。
Figure 2004217921
以上のように本発明のイオン交換膜は、電気抵抗が低く、メタノールの透過性が極めて低い。本発明における上記の効果が発現する理由は明らかではないが、無機フィラーが、多孔質膜からなる基材上に均一付着して層が形成されて該多孔質膜の孔の開口部を塞いでいるためメタノール等の液体が透過するのを有効に防止できるのみならず、該無機フィラーを含むイオン交換樹脂層が十分に薄いために電気抵抗を上昇させるには至らず、特に燃料電池として用いた場合に出力特性を低下させないものと考えられる。また、前記支持体として熱可塑性樹脂組成物からなる多孔質のシート又はフィルム、特に炭化水素系熱可塑性樹脂組成物からなる多孔質のシート又は多孔質フィルムを用いた場合には、炭化水素系陽イオン交換樹脂と該支持体とのなじみが良く、さらに支持体の空隙部を炭化水素系イオン交換樹脂が埋めることによるアンカー効果によって、両者の密着性が強固となり、例えば直接メタノール型燃料電池用隔膜として使用する際に膜を燃料および酸化剤ガス拡散電極と熱圧着したり、燃料電池に装着して長期使用した後においても上記の優れた特性が良好に保持され、得られた直接メタノール型燃料電池は高い電池出力を安定して示すようになるものと思われる。
図1は直接メタノール型燃料電池の基本構造を示す概念図である。 図2は本発明のイオン交換膜の構造を示す模式図である。
符号の説明
1;電池隔壁
2;燃料流通孔
3;酸化剤ガス流通孔
4;燃料室側拡散電極
5;酸化剤室側ガス拡散電極
6;固体高分子電解質
7;燃料室
8;酸化剤室
9;多孔質膜
10;イオン交換樹脂
11;無機フィラー
12;無機フィラーとイオン交換樹脂からなる層

Claims (6)

  1. 平均孔径が0.01〜2μmの範囲にある細孔を有する多孔質膜を基材とするイオン交換膜であって、該多孔質膜の少なくとも片面に、一次粒子の長径の平均値が、前記多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラー及びイオン交換樹脂とを含有する層が存在することを特徴とするイオン交換膜。
  2. 一次粒子の長径の平均値が多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1〜20倍である無機フィラーが、アスペクト比50〜2000の範囲にある層状粒子である請求項1記載のイオン交換膜。
  3. (1)平均孔径が0.01〜2μmの範囲にある細孔を有する多孔質膜を、一次粒子の長径の平均値が多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラーと、重合してイオン交換樹脂を与える重合性単量体又はイオン交換樹脂前駆体樹脂を与える重合性単量体からなる群から選ばれる重合性単量体とを含有する縣濁液と接触させて該多孔質膜の有する細孔内に前記重合性単量体を浸透させ、ついで(2)該多孔質膜の細孔内及び表面上の懸濁液に含まれる重合性単量体を重合させ、更に(3)重合してイオン交換樹脂前駆体樹脂を与える重合性単量体を含有する縣濁液を用いた場合には得られた重合体をイオン交換樹脂に転化させることによって、前記多孔質膜の表面にイオン交換樹脂及び前記無機フィラーを含む層を形成すると共に、前記多孔質膜の細孔内には実質的にイオン交換樹脂のみからなる層を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン交換膜の製造方法。
  4. (1)平均孔径が0.01〜2μmの範囲にある細孔を有する多孔質膜を、一次粒子の長径の平均値が多孔質膜の有する細孔の平均孔径の0.1倍以上かつ50μm以下である無機フィラー、イオン交換樹脂又はイオン交換樹脂前駆体樹脂からなる群から選ばれる樹脂、及び溶媒を含有する懸濁液と接触させて該多孔質膜の有する細孔内に前記樹脂、及び溶媒を浸透させ、ついで(2)該多孔質膜の細孔内及び表面上の懸濁液に含まれる溶媒を除去し、更に(3)イオン交換樹脂前駆体樹脂を含有する懸濁液を用いた場合には該樹脂をイオン交換樹脂に転化させることによって、前記多孔質膜の表面にイオン交換樹脂及び前記無機フィラーを含む層を形成すると共に、前記多孔質膜の細孔内には実質的にイオン交換樹脂のみからなる層を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン交換膜の製造方法。
  5. 請求項1又は2に記載のイオン交換膜からなることを特徴とする直接メタノール型燃料電池用隔膜。
  6. 直接メタノール型燃料電池用隔膜として請求項5に記載の直接メタノール型燃料電池用隔膜を使用することを特徴とする直接メタノール型燃料電池。
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