JP2004182058A - ステアリング制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】操舵角θがθ−Xn 平面上の左右両端の遊び領域に突入した際に、ステアリング・ホイールの操舵方向(切り込み方向/戻し方向)により、局所的なギヤ比(∂Xn /∂θ)を変化させることができる。図3は、この様なヒステリシスループの構成例を例示するグラフである。即ち、運転者が戻し方向にハンドルを切り戻すことにより、遊び領域から脱出しようとする際には、上記のようなヒステリシスループの構成にしたがって局所的なギヤ比をその遊び領域内においても正値とすることができる。したがって、この様な構成に従えば、操舵角θの許容範囲を超えて切り込み過ぎが発生した際、その直後の切り戻し操舵時には、局所的なギヤ比が継続的に0になることを防止できる。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、位置制御可能な転舵軸を駆動する転舵アクチュエータを有する転舵機構と、ステアリング・ホイールの操舵角θを検出する操舵角センサとを備えたステアリング制御装置に関する。
本発明は、例えば、所謂ステアバイワイヤ・システムや、或いは、所謂可変ギヤ比システム等の車載用の各種のステアリング制御装置に有用である。
【0002】
【従来の技術】
例えば、従来のステアバイワイヤ・システムとしては、下記の特許文献1に記載されているものや、或いは、下記の特許文献2に記載されているもの等が一般に広く知られている。
【0003】
図24は、従来のステアバイワイヤ・システムであるステアリング制御装置900の制御方式を表す制御ブロックダイヤグラムである。
このステアリング制御装置900の操舵機構は、転舵軸8から分離されたステアリング・シャフトと、ハンドル1(ステアリング・ホイール)と、トルクセンサ3(操舵トルクセンサ)と、反力モータ4(操舵アクチュエータ)と、反力制御部5等から主に構成されている。
【0004】
反力制御部5や位置制御部10Aは、各々1台の処理装置(制御装置)から構成しても良いし、1台の処理装置(制御装置)が実行する2つの制御プログラムとして構成しても良い。また、各モータ4、6を駆動する図略の各モータ駆動回路は、各モータに付随させても良いし、処理装置(制御装置)側に具備しても良い。これらの構成は一般に任意である。
【0005】
反力制御部5は、位置制御部10Aが実行する所定のフィードバック制御(これを以下、位置制御Aと表す)によって決定される転舵モータ6に対する指令電流In と、トルクセンサ3が出力する操舵トルクτに基づいて、反力モータ4に対する指令電流in を決定する。これにより、適度な操舵反力が生成される。
【0006】
また、このステアリング制御装置900の転舵機構は、上記の位置制御Aを実行する位置制御部10Aと、舵角センサ2(操舵角センサ)と、転舵モータ6(転舵アクチュエータ)と、位置センサ7(転舵変位量センサ)と、転舵軸8と、タイヤ9等から主に構成されている。
【0007】
図25は、上記の従来のステアリング制御装置900の位置制御部10Aの制御方式を表す制御ブロックダイヤグラムである。転舵軸の転舵変位量の指令値Xn は、位置制御A実行用の転舵指令値算定部11Aにより、操舵角θに略比例する形で決定される。PID制御部12は、周知のPID制御により、転舵変位量の指令値Xn と転舵変位量の測定値Xa に基づいて、転舵モータ6に対する指令電流In の値を決定する。この位置制御Aにより、タイヤ9の向きが所望の向きに制御される。
【0008】
以上の制御方式に従えば、大きな操舵により転舵変位量の指令値Xn が転舵軸の実際の物理的な終端位置(±XE )を超えると、その超過量に応じて指令電流In の値が急激に増大する。この時、反力制御部5の作用により反力モータ4の出力トルク(操舵反力)も急激に増大することになるので、例えハンドル1の回転範囲に物理的な制約(終端又は当接点)が設けられていない場合でも、操舵範囲に仮想的な終端が自然に生成(シミュレート又はエミュレート)される結果となる。
【0009】
即ち、上記の様な従来の制御方式は、ハンドル1の回転範囲に物理的な制約(終端又は当接点)が設けられていない場合等に、操舵角θの所定の許容範囲(−θE ≦θ≦θE )からの閾値越えを抑止する、終端での仮想的な当接抗力(操舵反力)を生成するのに都合が良い。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−334947号公報 (第4−5頁、第1図)
【特許文献2】
特開平5−105100号公報 (第2−4頁、第1−3図)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来方式では、所定の操舵範囲の終端付近での仮想的な当接抗力(操舵反力)は、転舵変位量Xa がエンドで機械的に固定されるのに対して指令値Xn がθに伴って増大することにより生成される力であるため、この反力の生成に伴って、転舵モータ6に対する指令電流In が非常に大きくなることがあり、よって、この様な状態が長く継続されると、転舵モータ6の発熱や故障の原因となる恐れがある。
したがって、上記の従来方式は、転舵アクチュエータ(転舵モータ6)の小型化や軽量化の阻害要因となるので、上記の従来方式を採用した場合、車両の製造コスト、車両設計の自由度、車両の運動性能等の面で不利となる。
【0012】
図1は、この様な発熱の問題を排除するために考案された、発熱防止機能を有するステアリング制御装置100の制御方式を表す制御ブロックダイヤグラムである。このステアリング制御装置100は、転舵軸8の位置制御方式が上記のステアリング制御装置900の位置制御部10Aとは若干異なるものである。
即ち、図1の位置制御部10Bは、図25の転舵指令値算定部11Aの代わりに、図2の転舵指令値算定部11Bを用いて構成したものであり、この転舵指令値算定部11BとPID制御部12の動作により転舵軸8の位置制御(位置制御B)を実行する。ただし、PID制御部12等のその他の部分はそのまま用いる。
【0013】
図2は、ステアリング制御装置100の転舵指令値算定部11Bの演算方式を表すグラフである。本グラフの±XE は、転舵変位量の許容範囲を表しており、実際の転舵軸の変位量の限界点に合わせて設定されている。例えばこの様に、転舵変位量の指令値Xn の上下限をリミッタ等を用いてガードすれば、転舵モータ6に対する指令電流In が過大となることが防止されるため、上記の発熱の問題は排除される。
【0014】
しかしながら、この様なガード処理を実施した場合、PID制御部12と反力制御部5の作用により、反力モータ4の出力トルク(操舵反力)も抑制されることになるので、図24のステアリング制御装置900の様に操舵範囲に仮想的な終端が生成(シミュレート又はエミュレート)されることはなくなる。
また、ステアリング制御装置900の様な当接抗力(操舵反力)も生成されなくなるため、図2の斜線部分は容易に突入できるハンドルの遊び領域となってしまい、操舵角θがこの遊び領域に突入した際には、リニアな操舵感や転舵の応答性が損なわれる結果となる。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、操舵角θの許容範囲(−θE ≦θ≦θE )を超えて切り込み過ぎが発生した際に、その直後の切り戻し操舵時に、局所的なギヤ比(∂Xn /∂θ)が継続的に0になることを防止することにより、この切り戻し時の操舵応答性を確保することである。
【0016】
【課題を解決するための手段、並びに、作用及び発明の効果】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、位置制御可能な転舵軸を駆動する転舵アクチュエータを有する転舵機構と、ステアリング・ホイールの操舵角θを検出する操舵角センサとを備えたステアリング制御装置において、転舵機構における転舵変位量X(−XE ≦X≦+XE )を検出する転舵変位量センサと、転舵機構における転舵変位量の指令値Xn を操舵角θに基づいて算定する転舵指令値算定手段とを備え、この転舵指令値算定手段において、操舵角θの絶対値|θ|が転舵変位量Xの上限値XE に対応する所定の閾値θE を超えた例外時に、θ−Xn 平面上における直線Xn =±XE の一部分を1辺に持つ所定のヒステリシスループ上の操舵角θに対応する縦軸座標とステアリング・ホイールの操舵方向(切り込み方向/戻し方向)とに基づいて指令値Xn を算定するヒステリシス特性生成手段を備えることである。
【0017】
ただし、上記の「直線Xn =±XE 」とは、直線Xn =+XE 、又は直線Xn =−XE の何れか一方を指すものとする。即ち、左折方向に操舵した際に、左側の終端で切り込み過ぎた場合には前者(直線Xn =+XE )が、また、右折方向に操舵した際に、右側の終端で切り込み過ぎた場合には後者(直線Xn =−XE )が相当する。また、以下特に断らない限り、この”±”を用いた表現を上記の様に適当に解釈するものとする。
【0018】
上記の構成に従えば、操舵角θが図2の様な左右両端の遊び領域に突入した際に、ステアリング・ホイールの操舵方向(切り込み方向/戻し方向)により、局所的なギヤ比(∂Xn /∂θ)を変化させることができる。図3は、この様なヒステリシスループの構成例を例示するグラフである。
即ち、運転者が戻し方向にハンドルを切り戻すことにより、遊び領域から脱出しようとする際には、上記のようなヒステリシスループの構成にしたがってギヤ比(∂Xn /∂θ)をその遊び領域内においても正値とすることができる。
【0019】
したがって、上記の構成に従えば、操舵角θの許容範囲(−θE ≦θ≦θE )を超えて切り込み過ぎが発生した際に、その直後の切り戻し操舵時に、局所的なギヤ比(∂Xn /∂θ)が継続的に0になることを防止することが可能となり、これにより、この切り戻し時の操舵応答性を確保することができる。
即ち、本発明によれば、図2の遊び領域内に操舵状態がある場合であっても、ハンドルの切り戻し時には、操舵量に略比例する転舵変位を即座に得ることが可能となるため、この様な遊び領域内に操舵状態がある場合にも、リニアな操舵性に基づいた安全性を確保することができる。
また、上記の構成に従えば、操舵角θがこの遊び領域に突入した際にもハンドル切り戻し時のリニアな操舵感を実現することができる。
【0020】
また、発明の第2の手段は、上記の第1の手段において、ステアリング・ホイールを有する操舵機構と転舵機構とを機械的に分離し、これら双方を連結する連結機構を電気的な連動機構によって代替的に構成することである。
【0021】
即ち、本発明は所謂ステアバイワイヤ・システムにおいて、非常に好適な効果をもたらす構成を与えるものである。ステアリング・ホイール(ハンドル)を有する操舵機構と転舵機構とを機械的に分離し、これら双方を連結する連結機構を電気的な連動機構によって代替的に構成したステアバイワイヤ・システムにおいては、例えば、車速に依ってギヤ比(∂X/∂θ)を動的に可変としたい等の要請があるため、ステアリングホイールの有効操舵範囲(ギヤ比が正となる操舵角の範囲)、即ち上記の操舵角θの許容範囲(−θE ≦θ≦θE )も、同時に可変とする必要が生じる。したがって、少なくともギヤ比が大きな場合には、必然的に上記の操舵角θの許容範囲の外側に遊び領域が生じる結果となる。
【0022】
また、通常、ステアバイワイヤ・システムのハンドルには、これらの事情から、回転域の終端点、即ち、操舵範囲の両端で操舵操作が突き当たる所謂エンドが、物理的には設けられないことが多い。したがって、本発明はこれらの事情を有するステアリング制御装置において大きな効果を発揮する。
【0023】
また、第3の手段は、上記の第1又は第2の手段において、ヒステリシスループを閉じる終結点P0 の目標座標を設定する終結点設定手段を設けることである。
【0024】
ヒステリシスループの終結点P0 が原点を通り越した反対側(対角象限)に達すると、ヒステリシスループ上で操舵角θが0となった際に、転舵変位量の指令値Xn が0にならないと言う事象が発生する。このことは、ハンドルの中立点がずれてしまったことを意味するので、望ましくない。
また、ヒステリシスループの終結点P0 がハンドルの回転域の終端点(±θE )に近づくにつれて、操舵の応答性を確保する効果が徐々に小さくなっていくことが、上述の図3からも判る。即ち、終結点P0 を上記の遊び領域の入り口点に近付ける時、遊び領域脱出時((ハ)切り戻し時)のギヤ比(∂X/∂θ)の値は単調に0に近付くので、終結点P0 をこの遊び領域の入り口点付近に設けることは望ましくない。また、これらのギヤ比(∂X/∂θ)の値は操舵感に深く係わるので、高い応答性が要求されない場合には、θとXn の関係はできるだけ速やかに正常時の形に戻しておくことが望ましい。したがって、この意味ではヒステリシスループは小さい方が良い。
【0025】
例えば以上の様に、好適或いは最適な終結点P0 の座標が満たすべき条件は多く、この座標点に係わる相反するトレードオフ要因も少なくない。したがって、この様な各種の条件を同時に合理的に満たす終結点P0 の座標を予め経験的に求めておくことは、操舵の応答性や良好な操舵感を得る上で非常に重要である。
また、上記の終結点設定手段によれば、この様な好適或いは最適な終結点P0 の座標をステアリング制御装置に設定することができるため、操舵の応答性や良好な操舵感を得る上で非常に都合が良い。
【0026】
また、第4の手段は、上記の第3の手段の終結点設定手段において、上記の終結点P0 の目標座標(横軸座標又は縦軸座標)を、操舵速度ω(=dθ/dt)、操舵トルクτ、操舵角θ、操舵方向、又は車速vに基づいて動的に変更する目標点可変手段を設けることである。
【0027】
上記の遊び領域から脱出する際のハンドル切り戻し操作時に、緊急回避の場合には、ギヤ比(∂X/∂θ)の値が大きいことが望ましく、また、特段の緊急性を有しない平静時には、θとXn の関係をできるだけ速やかに正常時の形に戻しておくことが望ましい。
【0028】
例えばこの様に、操舵状況に応じて、θ−Xn 平面上における終結点P0 の理想的な座標は変化する。また、これらの操舵状況は、操舵速度ω(=dθ/dt)、操舵トルクτ、操舵角θ、操舵方向、又は車速vに基づいて動的に推定することができるので、上記の目標点可変手段によれば、多彩な操舵状況に応じて、終結点P0 の目標座標を動的に最適化することができる。
【0029】
また、第5の手段は、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段においてヒステリシスループを、θ−Xn 平面上の横軸上の原点以外の全ての点がそのヒステリシスループの外部に配置される様に構成することである。
【0030】
前にも言及した様に、ヒステリシスループの終結点P0 が原点を通り越した反対側(対角象限)に達すると、ヒステリシスループ上で操舵角θが0となった際に、転舵変位量の指令値Xn が0にならないと言う事象が発生し、ハンドルの中立点がずれるので望ましくない。しかしながら、ヒステリシスループを、θ−Xn 平面上の横軸上の少なくとも原点以外の全ての点がそのヒステリシスループの外部に配置される様に構成すれば、この様な問題は回避できる。
【0031】
ただし、特に、原点近傍に不感帯(⊂横軸)、即ち、Xn =0,∂Xn /∂θ=0成る無応答領域を設ける場合には、その不感帯の端点(∈横軸)にヒステリシスループの終結点P0 を配置しても、上記の問題を回避することができる。
【0032】
また、第6の手段は、上記の第5の手段において、原点対称の操舵角θの関数f(θ)と、補正ゲインG(0<G≦1)とを用いて、θ−Xn 平面上のヒステリシスループを、直線Xn =±XE と曲線Xn =f(θ)と曲線Xn =Gf(θ)とから形成される閉曲線で構成することである。
【0033】
ただし、曲線Xn =f(θ)は、直線或いは折れ線から構成しても良い。曲線Xn =Gf(θ)に付いても同様である。また、関数fは数式で定義しても良いし、マップ(テーブルデータ)と補間処理により具現しても良い。
関数y=f(θ)を原点対称の単調増加関数とし、かつ、その定義域を十分に広く確保すれば、上記の補正ゲインGの値を適当に選ぶことにより、ループの終結点P0 を原点上に持つ上記の様なヒステリシスループを構成することができる。また、このヒステリシスループの経路、大きさ、或いは形状は、上記の補正ゲインGをパラメータとして連続的に自在に選択することができる。
即ち、上記の構成に従えば、数少ない制御パラメータだけで、θ−Xn 平面上のヒステリシスループの経路、大きさ、或いは形状を規定したり、制御したりすることができる。
【0034】
また、第7の手段は、上記の第6の手段において、補正ゲインGの値を上限値XE と関数f(θ)に基づいて算定する補正ゲイン算定手段を設けることである。
【0035】
例えば、図3の経路(イ)と重なる直線の方程式をy=f(θ)=aθとする。この時、本図3の遊び領域内での折り返し点、即ち経路(ハ)の開始点の横軸座標をθR とし、補正ゲインの値をG=XE /|f(θR )|と設定すれば、上記の曲線Xn =Gf(θ)は、その切り戻し開始点と原点とを結ぶ直線となる。即ち、この場合には、ヒステリシスループの終結点P0 が原点と一致する。
【0036】
より一般には、この関数y=f(θ)は必ずしも直線である必要はなく、これが満たすべき条件は、上記のように原点対称の単調増加関数で、かつ、その定義域が十分に広いことだけである。したがって、上記の補正ゲイン算定手段は、最も簡単かつ基本的なヒステリシスループの切り戻し経路を決定する上で非常に有用となる。
【0037】
また、第8の手段は、上記の第6又は第7の手段において、関数f(θ)を操舵角θの2次式にすることである。
例えば、「y=f(θ)=a(|θ|+b)θ,a>0,b>0」の様に、関数fをθの2次式にすれば、中立点付近でのギヤ比(∂X/∂θ)の値が比較的抑制されるので、中立点付近で比較的安定した操舵感を生成することができる。例えばこの様にして、上記の関数fを決定しても良い。
【0038】
また、第9の手段は、上記の第6乃至第8の何れか1つの手段において、操舵角θをその因数に持ち、かつ、車速v又は操舵角θの関数g(θ,v)を用いて「f(θ,v)=θ・g(θ,v)」と表わすことができる関数を、上記の関数f(θ)として選択することである。
【0039】
関数fをこの様な形にしておけば、必ず原点を通るので都合がよい。また、関数fを車速vに依存させ、この依存関係を適当に設定することにより、例えば、車速vに依ってギヤ比(∂X/∂θ)を動的に可変としたい等の諸要請に応えることができる。
【0040】
また、第10の手段は、上記の第6乃至第9の何れか1つの手段において、直線Xn =±XE を起点とする戻し操舵を開始した後の、操舵量S、操舵状態、転舵量Z、又は転舵状態に応じて、補正ゲインG(0<G≦1)の値を動的に単調増加させる漸近正常化手段を設けることである。
【0041】
この様な構成に従えば、θ−Xn 平面上のヒステリシスループの、大きさ、切り戻し経路、或いは形状を動的に自在に変更することができる。また、ヒステリシスループの終端点P0 の位置も動的に自在に変更することができる。ただし、補正ゲインGの値を変更する場合には、補正ゲインGの値はできるだけ単調或いは連続的に変化させることが、自然な操舵感を生成する上で望ましい。
【0042】
例えば、前にも言及した様に、図3の経路(イ)と重なる直線の方程式をy=f(θ)=aθとし、この時、図3の遊び領域内での折り返し点、即ち経路(ハ)の開始点の横軸座標をθR とし、補正ゲインの値をG=XE /|f(θR )|と設定すれば、上記の曲線Xn =Gf(θ)は、その切り戻し開始点と原点とを結ぶ直線となる。即ち、この場合、切り戻し経路(ハ)の方程式は、直線Xn =Gf(θ)で与えられ、ヒステリシスループの終結点P0 は原点と一致する。
【0043】
この様な場合に、ヒステリシスループ上を点(θ,Xn )が切り戻し経路(ハ)に沿って動く時、補正ゲインの値をG=XE /|f(θR )|から徐々に1に近付ける様に単調増加させると、動的に補正ゲインGが増大するにつれて、切り戻し経路(ハ)は下に凸の曲線と成り、終結点P0 は原点よりも右上にずれる。ただし、θ<0の場合には、原点対称に変換して考えれば良い。即ち、例えば、ヒステリシスループを小さくしたい場合には、切り戻し経路(ハ)上の移動量(或いは上記の操舵量S)の増大に合わせて補正ゲインGの値も1に近付けると良い。補正ゲインGの値が速く1に収束する場合ほど、ヒステリシスループは小さくなる。
【0044】
したがって、例えばこの様な手段によれば、数少ない制御パラメータだけで、θ−Xn 平面上のヒステリシスループの経路、大きさ、或いは形状を動的に自在に制御することができる。
【0045】
また、第11の手段は、上記の第10の手段の漸近正常化手段において、補正ゲインG(0<G≦1)の値を動的に単調増加させる際の、補正ゲインGの操舵量Sに対する漸近レートA(≡dG/dS)、又は補正ゲインGの転舵量Zに対する漸近レートB(≡dG/dZ)を、操舵速度ω(=dθ/dt)、操舵トルクτ、操舵角θ、操舵方向、又は車速vに基づいて動的に変更する漸近レート可変手段を設けることである。
【0046】
上記の考察からも判る様に、漸近レートA(≡dG/dS)が大きい場合ほど、ヒステリシスループを小さくすることができる。したがって、この値を動的に変更すれば、切り戻し経路(ハ)の形状や位置や長さが動的に変更可能となる。或いは、終結点P0 の位置を動的に最適化することが可能となる。ただし、この漸近レートAを大きくし過ぎるとギヤ比(∂X/∂θ)が負値になってしまう場合が生じ得るため注意を要する。
また、これらの諸事情は、漸近レートAの代わりに上記の漸近レートB(≡dG/dZ)を用いて補正ゲインGの増加率を制御する場合にも同様である。
【0047】
尚、ギヤ比(∂X/∂θ)が、何らかの処理の結果負値となる恐れがある場合には、制御周期長を最適化したり、スムージング処理を施したりすることにより対策しておくことが望ましい。また、公知の一般的なノイズ対策等によっても車両や反力モータ等の微小振動等に起因するギヤ比(∂X/∂θ)の一時的(瞬時的)な負値化を防止できる場合がある。
【0048】
また、第12の手段は、上記の第1乃至第11の何れか1つの手段において、操舵角θの所定の許容範囲(−θE ≦θ≦θE )の上下限を車速vに基づいて、動的に変更する操舵角閾値可変手段を設けることである。
この手段に基づく本発明の作用・効果については、後述の第4実施例で詳しく具体的に説明する。
【0049】
また、第13の手段は、上記の第1乃至第12の何れか1つの手段の操舵機構において、操舵角θの上限位置θE 付近及び、操舵角θの下限位置−θE 付近において、操舵角θの所定の許容範囲(−θE ≦θ≦θE )からの閾値越えを抑止する仮想的な当接抗力を、操舵角θ、転舵変位量X、又は転舵変位量Xに対する指令値Xn に基づいて生成する終端反力生成手段を設けることである。
この手段に基づく本発明の作用・効果については、後述の第4実施例で詳しく具体的に説明する。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
〔第1実施例〕
図4は、本第1実施例におけるステアリング制御装置200の全体的かつ基本的な制御方式を表す制御ブロックダイヤグラムである。このステアリング制御装置200は、前述のステアリング制御装置100や、或いは前述のステアリング制御装置900と略同様に、前述の図25に例示される様なPID制御部12の動作(指令電流In の出力)により転舵軸8の位置制御を実行する。
【0051】
しかしながら、本ステアリング制御装置200には、本発明の最も大きな特徴部であるヒステリシス特性生成手段が具備されており、この点が前述のステアリング制御装置100や、或いは前述のステアリング制御装置900とは大きく異なっている。即ち、本図4のステアリング制御装置200の位置制御部10C−1では、ヒステリシス特性生成手段を用いて転舵モータ6に対する転舵指令の指令値Xn を算定する(図6:転舵指令値算定部21)。以下、θ,Xa 等を用いて指令値In を出力するまでの、この位置制御部10C−1が実行するこれらの一連の制御を「位置制御C−1」、或いは単に「転舵モータ制御」等と言うことがある。
【0052】
図5は、ステアリング制御装置200の全体的かつ基本的な制御手順を表すフローチャートである。
このステアリング制御の制御手順では、まず最初に、ステップ610によりシステムの初期化を行う。この初期化は、制御変数の初期化や定期的な繰り返し処理に必要なタイマー割り込み制御の初期化等の処理が中心である。
【0053】
次に、ステップ620では、操舵角センサ2、操舵トルクセンサ3、転舵変位量センサ7、及び図略の車速センサ等の各種センサからの各検出結果(操舵角θ,操舵トルクτ,転舵変位量Xa ,車速v等)を入力する。
ステップ630では、転舵モータ制御を行うサブルーチン(図7)を呼び出して実行する。このサブルーチンは、図4の位置制御C−1を実行する位置制御部10C−1を具現するサブルーチンである。
【0054】
図6に、ヒステリシス制御により転舵モータ制御を実行するこの位置制御部10C−1の制御方式を制御ブロックダイヤグラムで示す。
図25の転舵指令値算定部11Aや或いは図2の転舵指令値算定部11B等の代わりに用いられる本図6の制御ブロック11C−1では、次式(1)に基づいて、変数yの値を算出する。
【数1】
y=f(θ)=a(|θ|+b)θ …(1)
【0055】
例えばこの様に、操舵角θに対する変数yの値はθの2次式で表現される形のものでも良い。言い換えれば、次式(2)を近似的に満たす原点対称の変数yの設定により、中立点付近において比較的穏やかな転舵応答を示すステアリング制御装置を構成することができる。ただし、以下の各係数a1 ,a2 はそれぞれ適当にチューニングされた定数である。
【数2】
dy/dθ=a1 +a2 |θ| …(2)
ただし、勿論、上記の変数yは原点対称の単調増加関数を表現するマップ(テーブルデータ)及び補間処理等により具現しても良い。
【0056】
本図6の転舵指令値算定部21内のその他の部分については、後から図8等を用いて詳細に説明する。
図5或いは図6の転舵モータ制御(ステップ630にて呼び出され実行される制御処理)の処理手順を次の図7に例示する。本図7のフローチャートは、図4或いは図6の位置制御部10C−1が実行する位置制御C−1の概要を示すものであり、本発明の大きな特徴であるヒステリシス制御等は、更に本図7のステップ730で呼び出されるサブルーチンの中で実行される。
【0057】
即ち、本サブルーチンのステップ730では、後述の図8等に基づいて具現される上記の転舵指令値算定部21(図6)により、転舵変位量の指令値Xn を求める。
次に、ステップ750では、前述のステップ620とステップ730の実行結果に基づいて、転舵変位量の指令値と測定値との偏差ΔX(=Xn −Xa )を求める。
ステップ770では、この偏差ΔXに関する所定の比例積分微分制御(これを以下、PID制御1と表す)を実行する。
以下、この比例積分微分制御(PID制御1)について説明する。
【0058】
(PID制御1)
この比例積分微分制御は、公知の次式(3)に従って、転舵モータ6に対する電流指令値In を算出するものである。ただし、以下の各係数b1 ,b2 ,b3 はそれぞれ適当にチューニングされた定数である。
【数3】
In =b1 ΔX+b2 ∫ΔXdt+b3 d(ΔX)/dt …(3)
【0059】
そして、次のステップ790では、以上のPID制御1によって算出された電流指令値In を、図略の転舵モータ駆動回路と図5の反力制御部5に対して出力する。
以上の転舵モータ制御(図7)を実行した後は、本サブルーチンの呼出元(図5のステップ640)に制御を戻す。
【0060】
その後、図5のステップ640(反力モータ制御)では、所定の比例積分微分制御(これを以下、PID制御2と表す)を実行する。
以下、この比例積分微分制御(PID制御2)について説明する。
【0061】
(PID制御2)
この比例積分微分制御は、次式(4)に従って、図4の反力モータ4に対する電流指令である電流指令値in (=i1 )を算出するものである。ただし、以下の各係数c1 ,c2 ,c3 ,c4 ,c5 ,c6 はそれぞれ適当にチューニングされた定数とする。
【数4】
in =i1
=−c1 τ−c2 ∫τdt−c3 dτ/dt
−c4 In −c5 ∫In dt−c6 dIn /dt …(4)
以上のPID制御2によって、反力モータ4に対する電流指令値in (=i1 )が算定される。
【0062】
最後に、図5のステップ650では、ステップ620以降の処理を定期的(1例:0.5ms周期)に実行するために、タイマ割り込みの予約設定処理等を行い、タイマ割り込みの待ち状態に遷移する。
【0063】
以下、本発明の最も主要な特徴部である位置制御部10C−1の転舵指令値算定部21(図6)について、更に詳しく説明する。
図8は本発明の最も主要な特徴部である位置制御部10C−1の転舵指令値算定部21(図6)が実行する制御手順を示すフローチャートである。
【0064】
転舵変位量Xに関する指令値Xn の算定を実行する本サブルーチンのシステム起動時の初期値設定は、前述の図5のステップ610にて実行される。重要な初期値としては、「S=0,G=1」等がある。勿論、変数Sは前述の「直線Xn =±XE を起点とする戻し操舵を開始した後の操舵量」を表し、変数Gは前述の補正ゲインを表す。尚、変数Sの算定(更新)方法は、後から図10を用いて具体的に説明する。
【0065】
本プログラムでは、まず最初にステップ810により、前記の式(1)に従って、変数yの値を求める。ステップ815では、この変数yの絶対値と転舵変位量の指令値Xn の上限値XE との大小関係を判定する。
ステップ820では、上記の操舵量Sが0か否かに付いて判定する。
図9は、本第1実施例の図8のフローチャートの作用を説明する説明図である。変数Sは直線Xn =±XE を起点とする戻し操舵を開始した後の操舵量であるので、経路(イ)、経路(ロ)上では0である。
【0066】
ステップ825では、操舵角速度ωと操舵角θとの積ω・θの符号を判定する。この操舵角速度ωの演算箇所は任意で良い。例えば本第1実施例では、図6に示す様に、転舵指令値算定部21の処理を開始する直前で、操舵角θを微分演算することにより操舵角速度ωの値を求めている。この演算箇所は、図5のフローチャートでは記載が省略されているが、図5のステップ620とステップ630の間に相当する。
【0067】
ステップ830では、変数Sのリセット処理(S=0)と操舵角θの退避処理(θ′=θ)を行う。
ステップ835では、式「G=XE /|y|」に従って、補正ゲインGの値を算定する。ここで、分母|y|は、ステップ815やステップ890等の作用により、0になることはない。
【0068】
ステップ840では、次式(5)に従って、補正ゲインGの値を算定する。ただし、(y/|y|)は、変数yの符号を求めるための処理でしかないので、実際には必ずしも変数yの除算を具体的に実行する必要はない。
【数5】
Xn =(y/|y|)XE …(5)
以上の処理により、操舵角θが許容範囲を脱した時、経路(ロ)においては、転舵変位量の指令値Xn に境界値±XE が設定される。
【0069】
一方、ステップ850では、補正ゲインGの値が1であるか否かを判定する。G=1の時は、例えば図9等からも判る様に、その時点ではヒステリシス制御を行う必要がないので、次のステップ865にて、前述の図25と同様に従来通り次式(6)に従って指令値を算出する。
【数6】
Xn =y …(6)
【0070】
また、ステップ850でG=1でない時には、ステップ855により操舵角θの絶対値|θ|の大きさを判定する。この判定は、操舵角θが原点近傍に有るか否かを判定するためのものであり、C0はその原点近傍の範囲を規定する適当な定数である。そして、θが原点近傍にあるときには、ステップ860により、補正ゲインGを強制的に1に戻し、操舵量Sは0にリセットする。この処理により、ヒステリシスループは終結点P0 に到達し、それまでのヒステリシスループが完結する。これがヒステリシスループが完結する一つ目の条件である。
【0071】
以上の処理条件が該当しなかった場合には、図9の経路(ハ)、又は経路(ニ)上に有るものと分類される。これらの場合には、後述の補正ゲインの更新処理(図10)を実行する。この更新処理により、補正ゲインGは動的に最適化される。その後ステップ885では、次式(7)に従って指令値を算出する。
【数7】
Xn =G・y …(7)
【0072】
ただし、この転舵変位量の指令値Xn の算定処理の結果、Xn の絶対値が前述の上限値XE を越える場合には、ステップ890の作用に基づいて処理をステップ830に戻し、再度経路(ロ)の場合の一連の処理を実行する。このケースは、経路(ニ)が延長されて、直線Xn =±XE に到達した場合に相当する。
以上の図8、図9に基づく判定処理等及び更新処理により、ヒステリシスループ上の各経路(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の分類判定処理と、各経路上における指令値Xn の算定処理が毎制御周期実行される。
【0073】
図10は、本第1実施例の図8のサブルーチン「Gの更新」(即ち、漸近正常化手段と漸近レート可変手段)の制御手順を表すフローチャートである。このサブルーチンでは、前述の図8のステップ835で最初に求めた補正ゲインGの値を1まで単調に増加させる更新処理を行う。ただし、操舵角θが原点近傍に達した場合には、前述の図8のステップ855の作用によりステップ860でG=1に復帰する。
【0074】
本サブルーチン「Gの更新」では、まず最初にステップ1010により、操舵量の増分Δθを算出する。この操舵量の増分Δθは、ステップ830が実行された過去の制御周期から今回の制御周期までの操舵量の増分、或いは、後述のステップ1035が実行された過去の制御周期から今回の制御周期までの操舵量の増分を表すものである。
【0075】
ステップ1020では、この増分Δθの絶対値が所定の定数C1(>0)以上か否かを判定する。この判定は、走行路面の凹凸、車載のエンジン、モータ等に起因する微小振動や、或いは電磁気的なノイズ等の悪影響を極力排除するため、或いは、操舵角θに係わる検出精度、演算方法、演算精度等に起因する算定誤差を極力排除するために設けたものである。即ち、上記の定数C1を適当に選ぶことにより、ハンドルの回転や回動が殆ど静止している場合に、増分Δθの絶対値の累積値Sが増大し続ける望ましくない演算結果を回避することができる。定数C1の好適な設定値としては、例えば1°〜4°程度で良い。
【0076】
ステップ1030では、上記の累積値Sを算定する。この累積値Sが、前述の「直線Xn =±XE を起点とする戻し操舵を開始した後の操舵量」に相当する。また、ステップ1035では、今回の制御周期における操舵量θを変数θ′に退避しておく。ステップ1040では、前述の漸近レートA(≡dG/dS)を設定する。本実施例では、漸近レートAに対してまず定数C2(>0)を代入する。この好適な設定値としては、例えば、0.001/度程度の値で良い。
【0077】
次に、ステップ1050では、操舵方向(切り込み/戻し)の判定を実行する。例えば、ここでは、図9に従って、θ・Δθの値が正ならば切り込み(経路(ニ))、そうでなければ切り戻し(経路(ハ))に分類する。そして、ステップ1060では漸近レートAの値をμ倍し、ステップ1065では漸近レートAの値をν倍して、変数Aに再設定する(漸近レート可変手段)。μ(≧0)の好適な設定値としては例えば、1〜3程度の値が良く、また、ν(≧0)の好適な設定値としては例えば、1/2〜1程度の値が良い。少なくとも、μとνの何れか一方が正の値を採る時、本発明の漸近正常化手段が実現される。
【0078】
尚、μとνの両方の値を0に設定する場合には、本サブルーチンのステップ1040〜ステップ1090は実行する必要はない。しかしながら、例えばこの様に、図10のステップ1040〜ステップ1090の実行をスキップ(省略)した場合においても、後述の図11に示す様に、本発明の作用・効果を得ることは十分に可能である。
【0079】
ステップ1070では、補正ゲインGの値をA・|Δθ|だけ増加させる(漸近正常化手段)。ただし、補正ゲインGの値が1以上の値に達した場合には、前記のステップ860と同様に、「G=1,S=0」に強制的に再設定する。この処理により、ヒステリシスループは終結点P0 に到達し、それまでのヒステリシスループが完結する。これがヒステリシスループが完結する二つ目の条件である。
【0080】
以上のヒステリシス制御により、左右両端の遊び領域内に操舵状態がある場合であっても、ハンドルの切り戻し時には、操舵量に略比例する転舵変位を即座に得ることが可能となるため、この様な遊び領域内に操舵状態が突入してしまった場合にも、リニアな操舵性に基づいた安全性を確保することができる。
また、上記の構成に従えば、操舵角θがこの遊び領域に突入した際にもハンドル切り戻し時のリニアな操舵感を実現することができると共に、操舵状態を徐々に円滑に正常時の状態(経路(イ))に戻すことができる。
【0081】
図11と図12は、本第1実施例の作用・効果を例示するグラフである。図11には、前記の各係数μ,νをそれぞれ2と0に設定した場合について、操舵角θに対するシャフト位置(転舵変位量X)の値を記録(シミュレート)した結果である。また、図12には、前記の各係数μ,νをそれぞれ2と1に設定した場合について、操舵角θに対するシャフト位置(転舵変位量X)の値を記録(シミュレート)した結果を示す。
例えば、これらのシミュレーション結果からも、上記の本発明の効果を検証することができる。
【0082】
〔第2実施例〕
図13は、本発明の第2実施例におけるステアリング制御装置300の全体的かつ基本的な制御方式を表す制御ブロックダイヤグラムである。
このステアリング制御装置300は、上記の第1実施例のステアリング制御装置200と概ね同様のハードウェア構成を持っているが、更に、図略の車速計から走行中の自車両の車速vを位置制御部10C−2に入力している点が、1つの大きな特徴となっている。以下、位置制御部10C−2が実行する転舵軸8の位置制御のことを第1実施例と略同様に「位置制御C−2」と言うことがある。
【0083】
図14は、ヒステリシス制御により転舵モータ制御を実行する上記の位置制御部10C−2の制御方式(位置制御C−2)を表す制御ブロックダイヤグラムである。この位置制御C−2では、基本的に上記の第1実施例(図8等)と略同様の制御を実行するが、以下の点に相違がある。
【0084】
(相違点1)制御ブロック11C−2で求められる変数yは原点を通る操舵角θの一次式であり、その係数aは車速vに依存する。即ち、関数y=f(θ,v)は次式(8)を満たす原点対称の単調増加関数である。
【数8】
f(0,∀v)=0,
∂y/∂θ=a(v),
∂a/∂v≦0 …(8)
【0085】
(相違点2)ヒステリシス特性生成部32は、次の処理部を有する。
iii)終結点設定部
終結点P0 の横軸(θ座標)の目標座標γを設定することができる。
iv)目標座標γに追従可能な漸近レート可変部
目標座標γに対して最適な漸近レートAを算定することができる。
【0086】
図15は、本第2実施例における終結点設定手段と漸近レート可変手段の実現形態を例示するフローチャートである。この処理群(サブルーチン「Aの動的変更」)は、本第2実施例においても上記の第1実施例と略同様に実行すべき図10のサブルーチン「Gの更新」の中で、ステップ1040を実行する代わりにステップ1040の所で実行するものである。
【0087】
この図15のサブルーチン「Aの動的変更」では、まず最初に、ステップ1510にて、上記の目標座標γを設定する(終結点設定手段)。この時の設定値θ1は、適当な定数でも良いし、動的に最適化された変数でも良いが、本第2実施例では、設定値θ1が定数であると仮定する。
尚、目標座標γの動的最適化については、次の第3実施例でその処理手順を具体的に例示する。
【0088】
次のステップ1540では、変数qに(|θ|−γ)を代入する。θは勿論、現在の操舵角である。
ステップ1550では、更新した変数qの値が、所定の定数ε(>0)よりも大きいか否かを判定する。この判定は、次のステップ1560で算定されるAの値が望ましくない不当な値になったり、或いは不定(演算例外)になったりすることを回避するためのものである。
【0089】
次に、ステップ1560では、次式(9)に従って、漸近レートAの値を算定する。
【数9】
A=(1−G)/q …(9)
尚、ステップ1560で求めた漸近レートAの値が所定の上限値AMAX を超えていた場合や、ステップ1550の判定でq>εが成り立たなかった場合には、漸近レートAにはステップ1580により上限値AMAX を設定する。
【0090】
例えば、以上の様な漸近レートAの動的な最適化処理の作用により、図10のステップ1070(漸近正常化手段)では、補正ゲインGが毎制御周期毎に適度に1に近付けられる。したがって、以上の処理に従えば、ヒステリシスループが閉じる前のヒステリシスループ上の制御点(θ,Xn )は、所望の終結点P0 に順調に近付けられる。
【0091】
〔第3実施例〕
図16は、本発明の第3実施例におけるステアリング制御装置400の全体的かつ基本的な制御方式を表す制御ブロックダイヤグラムである。
このステアリング制御装置400は、上記の第2実施例のステアリング制御装置300と概ね同様のハードウェア構成を持っているが、更に、トルクセンサ3から運転者がハンドルに付与する操舵トルクτを位置制御部10C−3に入力している点が、1つの大きな特徴となっている。以下、位置制御部10C−3が実行する転舵軸8の位置制御のことを第2実施例と略同様に「位置制御C−3」と言うことがある。
【0092】
図17は、ヒステリシス制御により転舵モータ制御を実行する上記の位置制御部10C−3の制御方式(位置制御C−3)を表す制御ブロックダイヤグラムである。この位置制御C−3では、基本的に前記の第2実施例と略同様の制御を実行するが、以下の点に相違がある。
【0093】
(相違点1)制御ブロック11C−3で求められる変数yは原点を通る操舵角θの2次式であり、そのギヤ比(∂y/∂θ)は操舵角θや車速vに依存する。即ち、関数y=f(θ,v)は次式(10)を満たす原点対称の単調増加関数である。
【数10】
y=f(θ,v)=θ・g(θ,v),
∴f(0,∀v)=0 …(10)
【0094】
(相違点2)ヒステリシス特性生成部33は、次の処理部を有する。
v)目標点可変部
ヒステリシスループを閉じる終結点P0 の横軸方向の目標座標を動的に最適化する。
【0095】
図18に、本第3実施例における目標点可変手段の実現形態(制御手順)を例示する。この処理群(サブルーチン「目標座標の最適化」)は、本第3実施例においても上記の第2実施例と略同様に実行すべき図15のサブルーチン「Aの動的変更」の中で、ステップ1510を実行する代わりにステップ1510の所で実行するものである。ただし、この時、図15のステップ1510は、このサブルーチン「Aの動的変更」の最初で実行する代わりに図8のステップ830の所で実行するものとする。
【0096】
図18のサブルーチン「目標座標の最適化」では、まず最初に、ステップ1810にて、前述のステップ1030(図10)等で更新される操舵量Sの大きさを判定する。この値が所定の定数C3(>0)よりも小さい場合には、切り込み状態から切り戻し状態に転じて間もないと考えられるため、操舵速度ωの絶対値は0に近い値を取る。この場合(S<C3の時)にはステップ1830にて次式(11)により、そうでなければステップ1850にて次式(12)により、変数φの値を設定する。
【0097】
ただし、角度θ1は、ステップ830で目標座標γの初期値として設定すべき前述の定数と同じものである。また、定数α,βは適当にチューニングされた正の定数である。また、操舵トルクτや操舵速度ωの符号は、操舵角θと同様に左回りを正の向きとする。
【数11】
φ=θ1+α・θ・τ …(11)
【数12】
φ=θ1−β・ω・τ …(12)
【0098】
これらの設定により、ヒステリシスループ上での各種の状態変数(θ,τ,ω等)に基づいて、目標座標γの候補値と成り得る変数φの値が算定される。
更に、ステップ1870では、現在の目標座標γと変数φとの大小関係を調べ、φ<γの場合に限って、γの値をステップ1890により変数φの値に更新する。このステップ1870とステップ1890の作用により、目標座標γの値は必要に応じて単調に減少する。ステップ1540〜ステップ1560の作用からも判る様に、γの値は負でも良い。
【0099】
例えば、上記の様に、目標座標γの値を各種の状態変数(θ,τ,ω等)に基付いて決定すれば、緊急回避の場合等には、その緊急度に応じて∂Xn /∂θは比較的大きく確保され、そうでない平静時には、比較的速やかに正常状態(G=1:経路(イ))に復帰することができる。
【0100】
より具体的に言えば、例えば、切り込み状態から切り戻し状態に転じて間もない時期の操舵角θの大きさや操舵トルクτの大きさに応じて、これらの絶対値が大きい場合ほど、式(11)の設定に応じて漸近レートAが小さくなるので、この様にして最適化されるヒステリシスループの経路(ハ)等は緊急度が大きい場合にもその操舵状況に適合できる。
また、運転者がハンドルを戻そうとする際のハンドルに対する仕事率(ω・τ)の値が大きい場合ほど、式(12)の設定に応じて漸近レートAが小さくなるので、この様にして最適化されるヒステリシスループの経路(ハ)等によっても緊急度が大きい場合にもその操舵状況に適合できる。
【0101】
また、γの値を単調に減少させる理由は、以下の2つである。
(1)終結点P0 の目標座標が振動することにより、制御系が不安定になることを防止するため。
(2)緊急度が最も高いと判定された時点に合わせて、目標座標γ或いは漸近レートAを設定することにより、ギヤ比(∂Xn /∂θ)が比較的大きく確保される様にして、緊急回避時等の応答性を優先させるため。
【0102】
尚、転舵変位量基準値yを与える関数f(θ)や転舵変位量Xの上限値XE や操舵角θの上限値θE 等が車速v等に依存する場合には、ステップ1830やステップ1850で参照される各定数θ1,α,β等をも、車速v等に合わせて適当に変化(依存)させると良い。この様な設定に従えば、転舵変位量基準値yを与える関数f(θ)や転舵変位量Xの上限値XE や操舵角θの上限値θE 等に合わせて、終結点P0 の目標座標の最適化を行うことも可能となる。
【0103】
尚、上記の第3実施例においては、ヒステリシスループの終結点P0 の横軸座標の目標値γを動的に決定する手段を例示したが、同様に、終結点P0 の縦軸座標の目標値を動的に決定する様にしても良い。
また、例えば、操舵量Sの代わりに同様に定義可能な転舵量Zを用い、漸近レートB(≡dG/dZ)に基づいて、第2実施例や或いは第3実施例と略同様のヒステリシス特性生成手段を有するステアリング制御装置を構成することも可能である。
【0104】
〔第4実施例〕
上記の各実施例における転舵変位量の上限値XE は、定数であっても良いが、必ずしも定数である必要はない。また、操舵角の上限値θE に付いても同様である。
図19は、本第4実施例における転舵変位量の指令値Xn の演算形態を例示的に表すグラフである(v1 <v2 <v3 )。このグラフには、図3で言う経路(イ)と経路(ロ)しか掲載されていないが、例えばこの様に車速vに応じて、操舵角の上限値θE やギヤ比(∂Xn /∂θ)等を可変にする様にしても良い。例えば、本図19の様な設定によれば、ギヤ比(∂Xn /∂θ)は車速vが大きいほど小さくなるので、高速走行時等でも比較的安定した操舵感を生成することができる。
【0105】
図20のグラフに、本第4実施例における操舵角閾値可変手段の閾値設定方式を例示する。ここでhは、ステップ車速vに基づいて操舵角θの上限値θE を決定する関数であり、この様な関数(操舵角閾値可変手段)は、例えば、本図20を表現するマップ(テーブルデータ)や補間処理等により実現することができる。
【数13】
θE =h(v) …(13)
そして、この上限値θE が与えられれば、転舵変位量の指令値の上限値XE は、次式(14)を用いて得ることができる。ただし、下記の関数fは第2実施例や或いは第3実施例等で例示した関数fと同じものである。
【数14】
XE =f(θE ,v) …(14)
【0106】
図21は、本第4実施例におけるステアリング制御装置500の全体的かつ基本的な制御方式を表す制御ブロックダイヤグラムである。
このステアリング制御装置500は、上記の第2実施例のステアリング制御装置300と概ね同様のハードウェア構成を持っているが、更に、反力制御部5により上記の式(13)を用いて求められた操舵角θの上限値θE が位置制御部10C−2′に入力される点が、1つの大きな特徴となっている。
以下、位置制御部10C−2′が実行する転舵軸8の位置制御のことを第2実施例と略同様に「位置制御C−2′」と言うことがある。
【0107】
また、反力制御部5に関しても、以下の点が第2実施例のステアリング制御装置300とはシステム構成上異なっている。
(相違点1)車速vを反力制御部5にも入力している点。
(相違点2)操舵角θを反力制御部5にも入力している点。
(相違点3)操舵角の上限値θE を反力制御部5から位置制御部10C−2′に出力している点。
【0108】
位置制御C−2′において、反力制御部5から操舵角の上限値θE を入力して参照するのは、勿論、上記の式(14)に基づいて、車速vに見合った最適な転舵変位量の指令値の上限値XE を決定するためであり、その他の点(制御手順等)は、第2実施例で例示した位置制御C−2と同じで良い。また、式(14)の演算は、例えば、図8のステップ810の直前又は直後等で良い。この演算は、ステップ630の中で実施されるため、1制御周期前のθE の値に基づいて実行されるが、1制御周期の長さが十分に短いため、そのタイミングの差(1制御周期)が問題になることはない。
【0109】
以下、反力制御部5においても、操舵角θやその上限値θE を用いる理由について説明する。
図22は、本第4実施例における終端反力生成手段の実現形態を例示するグラフである。エンド反力生成電流i2 の値は所定の閾値(±θE )付近で急峻に増減している。例えば、この様な電流指令(エンド反力生成電流i2 )を前述の式「電流指令値in =i1 …(4)」の第2項として追加すれば、操舵操作に対する抗力として働くので、転舵位置がエンド付近に在るか否かに係わらず、任意の操舵角θに対して、当接点(終端)をシミュレート又はエミュレートすることが可能となる。
これが、反力制御部5においても、操舵角θやその上限値θE を用いる理由である。
【0110】
そこで、前述の図5のステップ640において、本第4実施例では、「反力モータ制御」を具現する図23のサブルーチンを呼び出して実行する。
即ち、図23は、本第4実施例のステアリング制御装置500の反力モータ制御の制御手順を例示するフローチャートである。
【0111】
本図23のサブルーチン「反力モータ制御」においては、まず最初にステップ6420にて、前記の式(4)を用いて、前記の「PID制御2」により、最終的に出力すべき指令電流in の第1項i1 を算定する。
次に、ステップ6430では、例えば上述の図20の様にマップ(テーブルデータ)によって実現される適当な関数hと車速vを用いて、操舵角θの許容範囲の上限値θE を決定する。この上限値θE (>0)は、前述の転舵モータの発熱の問題が顕在化或いは表面化する恐れの無い範囲内で任意に設定(最適化)することができる。
【0112】
次に、ステップ6440では、例えば上述の図22に例示される様なマップ(テーブルデータ)によって、エンド反力生成電流i2 を決定する(終端反力生成手段)。ただし、図22では直線的な設定例を例示しているが、この急峻な増減部の形状は曲線的に構成しても良い。例えば、2次関数、3次関数、或いは4次関数等を利用して曲線的に定義しても良いし、適当なマップ(テーブルデータ)と補間処理によって好適な当接感を実現する様にしても良い。
【0113】
そして、図23のステップ6450では、次式(15)に従って、反力モータ4に対する電流指令値in を決定する。
【数15】
in =i1 +i2 …(15)
【0114】
更に、次のステップ6460では、以上の様にして算出された電流指令値in を、図略の反力モータ駆動回路に対して出力する。この反力モータ駆動回路は、反力制御部5の中に具備しても良いし、反力モータ4に付随させても良い。
また、最後に、ステップ6470では、操舵角の上限値θE を反力制御部5から位置制御部10C−2′に出力する。
以上の「反力モータ制御」を実行した後は、本サブルーチンの呼出元(図5)に制御を戻す。
【0115】
以上のステアリング制御に関する制御手順に従えば、ハンドルの回転範囲に物理的な制約(終端又は当接点)が設けられていない操舵角θに対して、モータの発熱等の原因を作ることなく、仮想的な当接抗力(操舵反力)を生成することができる。
【0116】
尚、上記の様な仮想的な当接抗力(操舵反力)を生成する場合、ハンドルの回転範囲の両端の閾値(±θE )を超えた操舵は生じ難く、安全性や操作性の面で非常に都合が良い。また、この様な終端反力生成手段の作用により、補正ゲインGの値が1ではなくなるケース、即ち、制御対象点(θ,Xn )が経路(イ)から外れるケースは殆ど起こらなくなる。しかしながら、万一、反力モータ4の出力トルクの上限を上回る操舵トルクτが運転者によってハンドルに付与された場合等には、やはり、上記のヒステリシス特性生成部(31/32/33)の作用は非常に有効に働く。
即ち、本発明のヒステリシス特性生成手段は、上記の様な終端反力生成手段を有するステアリング制御装置においても、フェールセーフ機構として極めて有効に作用する手段となる。
【0117】
また、上記の各実施例においては、ステアバイワイヤ・システムに対して本発明を適用した例を例示したが、本発明の適用範囲は、特段ステアバイワイヤ・システムに限定されるものではない。例えば、転舵輪の実舵角や或いは転舵軸の移動量等を直截的に位置指令(位置制御)可能な、より一般の例えば操舵機構と転舵機構とがメカニカルに連結されたステアリング制御装置等においても、例えば図19に例示される様な転舵制御を実施する際等には、図2に例示される様な前述の遊び領域の問題が生じ得る。
【0118】
より具体的には、車速等に応じてギヤ比(∂Xn /∂θ)を可変にした所謂VGRS(可変ギヤ比システム)等のステアリング制御装置において、例えば図19で車速v=v1 ,v3 等の時に、θE1<|θ|成る操舵範囲では、図2で例示した発熱防止対策の場合と同様に遊び領域が生成されてしまう。
しかしながら、例えばこの様なより一般のステアリング制御装置においても、本発明の手段を適用することにより、本発明の効果を得ることが十分に可能なことは、本発明の作用等から明らかである。
【0119】
また、上記の各実施例においては、θ−Xn 平面上において、ヒステリシスループ上或いはヒステリシスループ外に原点が配置される様に転舵変位量の指令値Xn が設定(或いは矯正)されて出力される場合についてだけ本発明の実施例を開示したが、本発明を実施するに当たり、θ−Xn 平面の原点を必ずしもヒステリシスループ上又はヒステリシスループ外に持つ必要はなく、例えば、θ−Xn 平面上におけるヒステリシスループの内側等に原点が配置される様に転舵変位量の指令値Xn が出力される場合であっても、本発明の手段を適用することにより、本発明の効果を得ることが十分に可能なことは、本発明の作用等から明らかである。勿論、θ−Xn 平面上で微小量だけヒステリシスループを任意の方向に平行移動させた場合等を考えても良い。
【0120】
また、例えば、ハンドルを切り込み過ぎた直後に、その反対方向に大きく速く操舵する際等には、この操舵操作に伴ってハンドルが中立点付近を比較的高速に通過することがある。これらの事態としては、例えば、駐車、車庫入れ、或いは急ハンドルによる緊急回避の場合等を想定することができ、この様な事態は、例えば図18のステップ1850等の設定により、変数φの値が負値になった場合などに、検知、推定、或いは予測することができる。
【0121】
θ−Xn 平面上におけるヒステリシスループの内側やヒステリシスループ上(経路(イ)又は経路(ハ)の上)に原点が配置される上記の様なヒステリシスループの生成によれば、上記の様な緊急事態において、運転者がハンドルを切り込み過ぎた直後に、その反対方向に中立点を超えて大幅かつ高速に転舵したい場合等に、θ−Xn 平面上で実現される操舵経路の傾き(∂Xn /∂θ)の最大値を比較的小さく抑制することができる。この作用は、転舵モータの指令値Xn に対する追従性能の限界を超える位置指令、即ち、時間変化率∂Xn /∂t(或いは偏差ΔX)が非常に大きく要請される位置指令が出力されることを抑制する効果を持つので、上記の様なヒステリシスループの生成によれば、比較的安定して確実に追従できる位置指令のシリーズ(命令列)が構成され易く、したがって、正に上記の事態が発生した場合等に有効となる。
【0122】
また、逆に、この様な場合には、操舵角θがハンドルの中立点付近を高速に通過するので、ハンドルの中立点の位置が運転者によって意識されることは無いので、ハンドルの操舵角の中立点と転舵軸の中立点とを極力一致させる必要性もある程度軽視することが、瞬時的かつ例外的に許されることがある。
即ち、本発明は、θ−Xn 平面上におけるヒステリシスループの内側に原点が配置される様なヒステリシスループの生成をも視野に入れたものであり、したがって、本発明は、これらの事情(設計条件)に対しても適応(応用)することが十分に可能な有効範囲の広いものである。
【0123】
また、上記の各実施例においては、補正ゲインGを使ってヒステリシス制御を実施したが、本発明に基づく所望のヒステリシス制御の実現方式としては、例えば、局所的なギヤ比(∂Xn /∂θ)を直截的に制御する様にしても良い。本発明の趣旨は、操舵角θの許容限界(θ=±θE )を超えて切り込み過ぎが発生した際に、その直後の切り戻し操舵時に、局所的なギヤ比(∂Xn /∂θ)が継続的に0になることを恐れるものであり、かつ、その防止策を与えるものである。したがって、この様な事態を回避し得る本発明のヒステリシス制御(ヒステリシス特性生成手段)は、勿論、局所的なギヤ比(∂Xn /∂θ)を直截的に制御する様にしても実現することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】発熱防止機能を有するステアリング制御装置100の制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図2】ステアリング制御装置100の転舵指令値算定部11Bの演算方式を表すグラフ。
【図3】本発明の作用を説明するグラフ。
【図4】本発明の第1実施例におけるステアリング制御装置200の全体的かつ基本的な制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図5】ステアリング制御装置200の全体的かつ基本的な制御手順を表すフローチャート。
【図6】ヒステリシス制御により転舵モータ制御を実行する位置制御部10C−1の制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図7】ヒステリシス制御により転舵モータ制御を実行する位置制御部10C−1の制御手順を表すフローチャート。
【図8】位置制御部10C−1の転舵指令値算定部21が実行する制御手順を表すフローチャート。
【図9】第1実施例の図8のフローチャートの作用を説明する説明図。
【図10】第1実施例の図8のサブルーチン「Gの更新」(即ち、漸近正常化手段と漸近レート可変手段)の制御手順を表すフローチャート。
【図11】第1実施例の作用・効果を例示するグラフ。
【図12】
第1実施例の作用・効果を例示するグラフ。
【図13】本発明の第2実施例におけるステアリング制御装置300の全体的かつ基本的な制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図14】ヒステリシス制御により転舵モータ制御を実行する位置制御部10C−2の制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図15】第2実施例における終結点設定手段と漸近レート可変手段の実現形態を例示するフローチャート。
【図16】本発明の第3実施例におけるステアリング制御装置400の全体的かつ基本的な制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図17】ヒステリシス制御により転舵モータ制御を実行する位置制御部10C−3の制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図18】第3実施例における目標点可変手段の実現形態を例示するフローチャート。
【図19】本発明の第4実施例における転舵変位量演算形態を例示的に表すグラフ。
【図20】本発明の第4実施例における操舵角閾値可変手段の閾値設定方式を例示的に表すグラフ。
【図21】本発明の第4実施例におけるステアリング制御装置500の全体的かつ基本的な制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図22】第4実施例における終端反力生成手段の実現形態を例示するグラフ。
【図23】第4実施例のステアリング制御装置500の反力モータ制御の制御手順を表すフローチャート。
【図24】従来のステアリング制御装置900の制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【図25】従来のステアリング制御装置900の位置制御A(10A)の制御方式を表す制御ブロックダイヤグラム。
【符号の説明】
100,200,300,400,
500 … ステアリング制御装置
1 … ハンドル(ステアリング・ホイール)
2 … 舵角センサ(操舵角センサ)
3 … トルクセンサ(操舵トルクセンサ)
4 … 反力モータ(操舵アクチュエータ)
5 … 反力制御部
6 … 転舵モータ(転舵アクチュエータ)
7 … 位置センサ(転舵変位量センサ)
8 … 転舵軸
9 … タイヤ
10A … 位置制御Aを実行す位置制御部
10B … 位置制御Bを実行す位置制御部
10C−j… ヒステリシス制御を実行す位置制御部(j=1,2,3,2′)
11A … 転舵指令値算定部(位置制御A用)
11B … 転舵指令値算定部(位置制御B用)
11C−j… 転舵変位量基準値演算部
21,22,23 … 転舵指令値算定部
31,32,33 … ヒステリシス特性生成部
θ … 操舵角
θE … 操舵角の許容範囲の上限値
Xa … 転舵変位量(測定値)
Xn … 転舵変位量の指令値
XE … 転舵変位量の許容範囲の上限値
y … 転舵変位量基準値
G … 補正ゲイン
A … 漸近レート
f … yを与える関数
P0 … ヒステリシスループを閉じる終結点
γ … 点P0 の横軸座標の目標値
S … Xn =±XE を起点とする戻し操舵を開始した後の操舵量
Δθ … n巡の制御周期間の操舵角θの変動量(1≦n)
v … 車速
τ … 操舵トルク
ω … 操舵速度(=dθ/dt)
h … 車速vに基づいて操舵角の上限値θE を決定する関数
In … 転舵アクチュエータ(転舵モータ6)に対する指令電流
in … 操舵アクチュエータ(反力モータ4)に対する指令電流
i1 … 指令電流in の基本項(第1項)
i2 … エンド反力生成電流(指令電流in の第2項)
Claims (13)
- 位置制御可能な転舵軸を駆動する転舵アクチュエータを有する転舵機構と、ステアリング・ホイールの操舵角θを検出する操舵角センサとを備えたステアリング制御装置において、
前記転舵機構における転舵変位量X(−XE ≦X≦+XE )を検出する転舵変位量センサと、
前記転舵機構における転舵変位量の指令値Xn を前記操舵角θに基づいて算定する転舵指令値算定手段と
を有し、
前記転舵指令値算定手段は、
前記操舵角θの絶対値|θ|が、前記転舵変位量Xの上限値XE に対応する所定の閾値θE を超えた例外時に、
θ−Xn 平面上における直線Xn =±XE の一部分を1辺に持つ所定のヒステリシスループ上の前記操舵角θに対応する縦軸座標と、
前記ステアリング・ホイールの操舵方向(切り込み方向/戻し方向)と
に基づいて前記指令値Xn を算定するヒステリシス特性生成手段
を有する
ことを特徴とするステアリング制御装置。 - 前記ステアリング・ホイールを有する操舵機構と、前記転舵機構とを機械的に分離し、これら双方を連結する連結機構を電気的な連動機構によって代替的に構成した
ことを特徴とする請求項1に記載のステアリング制御装置。 - 前記ヒステリシスループを閉じる終結点P0 の目標座標を設定する終結点設定手段を有する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のステアリング制御装置。 - 前記終結点設定手段は、
前記終結点P0 の前記目標座標を、操舵速度ω(=dθ/dt)、操舵トルクτ、前記操舵角θ、前記操舵方向、又は車速vに基づいて動的に変更する目標点可変手段
を有する
ことを特徴とする請求項3に記載のステアリング制御装置。 - 前記ヒステリシスループは、
前記θ−Xn 平面上の横軸上の原点以外の全ての点を前記ヒステリシスループの外部に有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のステアリング制御装置。 - 原点対称の前記操舵角θの関数f(θ)と、補正ゲインG(0<G≦1)とを用いて、
前記θ−Xn 平面上の前記ヒステリシスループを、前記直線Xn =±XE と曲線Xn =f(θ)と曲線Xn =Gf(θ)とから形成される閉曲線で構成した
ことを特徴とする請求項5に記載のステアリング制御装置。 - 前記補正ゲインGの値を前記上限値XE と前記関数f(θ)に基づいて算定する補正ゲイン算定手段を有する
ことを特徴とする請求項6に記載のステアリング制御装置。 - 前記関数f(θ)は、前記操舵角θの2次式である
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のステアリング制御装置。 - 前記関数f(θ)は、前記操舵角θをその因数に持ち、かつ、車速v又は前記操舵角θの関数g(θ,v)を用いて「f(θ,v)=θ・g(θ,v)」と表わすことができる
ことを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか1項に記載のステアリング制御装置。 - 前記直線Xn =±XE を起点とする戻し操舵を開始した後の、
操舵量S、操舵状態、転舵量Z、又は転舵状態に応じて、
前記補正ゲインG(0<G≦1)の値を動的に単調増加させる漸近正常化手段を有する
ことを特徴とする請求項6乃至請求項9の何れか1項に記載のステアリング制御装置。 - 前記漸近正常化手段は、
前記補正ゲインG(0<G≦1)の値を動的に単調増加させる際の、
前記補正ゲインGの前記操舵量Sに対する漸近レートA(≡dG/dS)、又は前記補正ゲインGの前記転舵量Zに対する漸近レートB(≡dG/dZ)を、操舵速度ω(=dθ/dt)、操舵トルクτ、前記操舵角θ、前記操舵方向、又は車速vに基づいて動的に変更する漸近レート可変手段を有する
ことを特徴とする請求項10に記載のステアリング制御装置。 - 前記操舵角θの所定の許容範囲(−θE ≦θ≦θE )の上下限を車速vに基づいて、動的に変更する操舵角閾値可変手段を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載のステアリング制御装置。 - 前記操舵機構は、
前記操舵角θの上限位置θE 付近及び、前記操舵角θの下限位置−θE 付近において、前記操舵角θの所定の許容範囲(−θE ≦θ≦θE )からの閾値越えを抑止する仮想的な当接抗力を、前記操舵角θ、前記転舵変位量X、又は前記転舵変位量Xに対する指令値Xn に基づいて生成する終端反力生成手段
を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載のステアリング制御装置。
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