JP2004155003A - 防食被覆形成用複層被覆資材および防食被覆形成方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】エポキシ樹脂層2とポリオレフィン層4とを積層した防食被覆形成用複層被覆資材において、エポキシ樹脂層2は金属製部材の被防食面に対する接着活性の残されている不完全硬化状態の樹脂にする。また、重ね合わせ接続に供される端縁31,32をテーパ状にし、片方の端縁31からはエポキシ樹脂層2を欠除する。その複層被覆資材を金属製部材の被防食面に当接させ、その状態で誘導加熱する。複層被覆の仮取着けが纏めて行えるうえ、後からの加熱でも確実に接着する。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、防食のため金属製部材の表面にポリオレフィン被覆を形成するのに好適な防食被覆形成用複層被覆資材および防食被覆形成方法に関し、詳しくは、エポキシ樹脂を介在させて防食被覆を形成する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、海域で使用する鋼構造物に用いる鋼管、あるいは寒冷地などの過酷な環境下に敷設するパイプラインに用いる鋼管として、外周面にポリエチレンなどのポリオレフィンを2mm以上の厚膜に被覆した樹脂被覆鋼管が使用されている。これらのポリオレフィン被覆鋼管には、ポリオレフィンの単層被覆を施したものと、鋼管表面にエポキシ樹脂などのプライマーを塗布し、その上に変性ポリオレフィン等の熱融接着剤を介して防食用の非極性ポリオレフィンを接着した3層構造の被覆を施したものがあり、後者が被覆の傷口起点剥離耐久性に優れているので、推奨されている。この傷口起点剥離の代表的なものとして陰極剥離現象がある。敷設管には被覆傷入リスク対策として傷部の管体腐食を防ぐための電気防食(陰極防食)が適用されるが、これによって生じる卑電位が、傷口における露呈している被覆・管体界面(被覆端面)に作用して、傷口を起点とする接着の喪失が進行していく、という現象がある。これが陰極剥離現象である。この陰極剥離に対する耐久性は、電気防食の適用されていないケースでの傷口起点剥離耐久性の指標ともなる。
【0003】
鋼管に対して3層構造の樹脂被覆を施す方法として、鋼管を予熱し、その鋼管にプライマーを塗布した後、その鋼管を長手方向に移動させながら、微粉末状態の接着剤を静電塗装によって塗布し、その後、その上に押出機から丸ダイ或いはTダイを介して溶融ポリオレフィンを押し出して被覆し、冷却する、という方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
また、鋼管あるいは鋼板等の金属表面へ3層被覆を施す方法として、予熱した金属表面にプライマーを塗布した後にその上へ変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィンの共押出シートを押出ラミネートする方法や、予熱した金属表面にプライマーを塗布した後にその上へ変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィンの積層シートをのせ次いで加熱ロールまたは加熱プレスを用いて圧着させる方法、予熱した金属表面にプライマーを塗布した後にその上へ変性ポリオレフィンを粉体塗装し更にその上へ未変性ポリオレフィンを粉体塗装する方法なども、知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
さらに、金属条材等の表面にポリオレフィンの単層被覆を施す方法として、粉体樹脂を直接使用する方法と、予め成形されたライニング用シートを貼り付ける方法と、粉体樹脂を多孔質のライニング用成形体に形成してから使用する方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
粉体樹脂使用のライニング方法では、ライニングされるべき対象物を加熱し、この対象物に粉体樹脂を塗布等にて接触させて樹脂を溶融し、被覆層とする。
予め成形されたライニング用シートを貼り付ける方法では、完全溶融成形されたシートを接着剤にて貼り付け、それから加熱溶着して、被覆層とする。
多孔質成形体使用のライニング方法では、粉体樹脂を未溶融状態または一部溶融状態の多孔質構造に且つ適合形状に而も所望厚さに成形してから、その成形体をライニング対象物に当てがい、対象物を加熱しその伝熱によって成形体を対象物接触側から加熱溶融させて、樹脂ライニング被覆層を形成する。
その他、溶接後や被覆破損部位の金属表面露出部位へ樹脂被覆を施工する際には、被覆資材としてポリエチレン製の熱収縮チューブやシートが採用され、それを加熱収縮させて単層被覆を形成する、といったことも行われている。
【0005】
このように、従来の防食被覆形成方法では、エポキシ樹脂を介在させることなくポリオレフィンの単層被覆を行う場合には、防食被覆形成用被覆資材を被防食面に当てがった状態で伝熱加熱するといった簡便な施工が行えるが、エポキシ樹脂を介在させてポリオレフィンを被覆する場合には、制約の多い一連の処理を逐次行わなければならない。すなわち、エポキシプライマーと熱融接着剤とポリオレフィンの3層被覆をその順序で金属製部材表面に形成するのである。しかも、その際、各層の被覆を塗装等にて行うときに金属製部材の予熱や加熱も同時に行われていた。常温の金属製部材に対して複層の被覆を仮に組み上げて後で加熱するということは無かった。
【0006】
【特許文献1】
特開昭59−62373号公報
【特許文献2】
特公平5−19894号公報 (第1−2頁)
【非特許文献1】
田中満生他著、「ポリエチレン被覆重防食鋼管杭」、防錆管理/83−10号、p.312−319
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、パイプラインには曲げ部分があり、その部分には鋼製の金属曲管が使用されている。従って、この金属管にも外周面に3層のポリオレフィン被覆を施すことが望まれる。しかしながら、金属曲管の外周面は、直管や平板に比べて形状が複雑であるため、上記したような、ポリオレフィンを押出ラミネートする方法、或いは、ポリオレフィンシートを加熱ロールまたは加熱プレスを用いて圧着させる方法等を採用することができず、現在のところ、適切な3層被覆方法が開発されていない。なお、粉体塗装を用いて3層被覆を施すことは理論的には可能であるが、実際には実用化がきわめて困難である。すなわち、ポリオレフィンの厚膜粉体塗装には、金属曲管を300℃前後に加熱することが望ましいが、エポキシ樹脂プライマーの耐熱性はせいぜい200℃程度であるため、金属曲管に予めエポキシ樹脂プライマーを塗布し、その金属曲管をポリオレフィンの厚膜粉体塗装に望ましい温度(300℃前後)に炉加熱することはできない。そのため、金属曲管を200℃前後に加熱しておき、その後、エポキシプライマーを塗布し、それに続いて、接着剤の粉体塗装およびポリオレフィンの粉体塗装を行うという行程を採らざるを得ないが、この方法でも、エポキシプライマーの塗布や次工程への移行を迅速に行わないと、硬化が進んでしまって変性ポリオレフィン等の接着剤に対する被接着性を十分に確保できず、また、一方では、金属曲管の加熱温度が200℃程度と低いので、ポリオレフィンの塗布膜厚を確保するために極く厳しい温度管理を要するといった問題があり、採算の合うコストでの実用化が容易でない。そこで、従来は、ポリオレフィンのみを粉体塗装し、単層の樹脂被覆を施しているが、単層のポリオレフィン被覆では、3層被覆に比べて、傷口起点剥離耐久性が低い。また、直管に適用している押出しライニングでは高密度ポリエチレンを使用できるが、粉体塗装では低密度または中密度ポリエチレンしか使用できず、このため硬さに劣るといった問題もあった。
【0008】
さらに、金属曲管に限らず、直管部や平坦部であっても、現場で調製された現合管や,現場で溶接するために一部の金属表面を一旦露出させておく溶接部位などについては、この露出部位の補修被覆に係る設備や作業性等の制約があるため、現状では複層被覆が実用化されていない。すなわち、従来は、曲管の被覆や管路敷設現場での被覆作業について、エポキシ樹脂に耐熱面での限界があり、あるいは、3層被覆の各層の形成を対象鋼管(敷設済管路の鋼管のときもある)に終始取り付いて行わざるを得ず、非採算的なコストを要するという事情が、3層被覆の全面的な採用を妨げている。
そこで、金属製部材表面とポリオレフィン被覆とにエポキシ樹脂を介在させて複層の防食被覆を形成するに際して、単層被覆の形成と同様に或いはそれ以上に簡便に施工しうる手法を案出することが重要な課題となる。
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、複層でも施工の容易な防食被覆形成方法を実現することを目的とする。
また、本発明は、そのような防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することも目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために発明された第1乃至第6の解決手段について、その構成および作用効果を以下に説明する。なお、同一出願人による特願2002−297615号の発明は、金属曲管の被防食面にエポキシ層とポリオレフィン層との複層被覆を仮組してから伝熱加熱にて完成させる防食被覆形成方法であって、複層被覆の仮組に際してエポキシ層および他の層の取着けを逐次に行うものである。これに対し、第1〜第6の解決手段の発明は、伝熱加熱に先立つ各層の仮取着けをエポキシ層ともども纏めて行うものである。
【0010】
[第1の解決手段]
第1の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材は、出願当初の請求項1に記載の如く、内層と中間層と外層との3層を有する積層構造をなしており、前記外層は、ポリオレフィンからなり、前記中間層は、熱融接着剤からなり、前記内層は、金属製部材の被防食面に接着させて防食被覆を形成するに際して前記被防食面へ直に着けられるものであって、前記被防食面に対する接着活性の残されている不完全硬化状態のエポキシ樹脂からなる、というものである。なお、前記内層は前記中間層に定着していれば良く接着力は未だ不十分でもあっても十分に発現していても良い。
【0011】
なお、この明細書で、「接着活性の残されている不完全硬化状態」とは、或る程度は硬化していても完全には硬化しておらず、加熱により流動化する性質が未だ維持されていて、加熱により被防食面にフィットしながら硬化が進んで接着することの可能なレベルの硬化状態をいう。
【0012】
このような第1の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、内層を金属製部材の被防食面に当てがって巻き付け等を行えば、簡単に、複層被覆の仮取着けを常温で済ませることができる。また、その状態で金属製部材を加熱すれば、エポキシ樹脂に接着活性が残されているので、伝熱にて加熱されたエポキシ樹脂は、先ず溶融して被防食面にフィットし、それから硬化する。それと同時に、中間層の熱融接着剤が溶融して、さらには外層のポリオレフィンも内側から溶融して、一体化するので、エポキシ樹脂の内層とポリオレフィンの外層との接合も完成し強固になる。
このような防食被覆形成用複層被覆資材を準備しておくことにより、複層被覆の仮取着けを常温で済ませてから被覆の溶融・固着を誘導加熱にて完成させるという後述の第6解決手段の方法が、容易かつ迅速に実施できることとなる。
したがって、この発明によれば、複層でも施工の容易な防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができる。
【0013】
[第2の解決手段]
第2の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材は、出願当初の請求項2に記載の如く、内層と外層との2層を有する積層構造をなしており、前記外層は、ポリオレフィンからなり、前記内層は、金属製部材の被防食面に接着させて防食被覆を形成するに際して前記被防食面へ直に着けられるものであって、前記被防食面に対する接着活性の残されている不完全硬化状態のエポキシ樹脂からなる、というものである。なお、前記内層は、第1の解決手段と同様、前記外層に定着していれば良い。また、熱融接着剤の中間層を省いて両層の直接接合を可能とするため、前記外層の接合面には、エポキシ樹脂の接着性を向上させる表面処理・表面改質処理が先行して施されるが、その改質部分の厚さは、接合後の検出が困難なほどに薄い。
【0014】
このような第2の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、熱融接着剤からなる中間層に代えて、そこに位置するポリオレフィン表面に改質処理が施される。そして、その表面改質処理によってポリオレフィンに対するエポキシ樹脂の接着性が向上するので、ポリオレフィンとエポキシ樹脂との接合が確実になされる。
これにより、熱融接着剤を挟まないでも、熱融接着剤を挟んだときと同様に仮取着けおよび伝熱融着を行える防食被覆形成用複層被覆資材が、出来上がる。
したがって、この発明によっても、複層でも施工の容易な防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができる。
【0015】
[第3の解決手段]
第3の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材は、出願当初の請求項3に記載の如く、上記の第1〜第2の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材であって、重ね合わせ接続の可能な端縁対が形成されており、その一方または双方の端縁において前記外層は厚さが端(すなわち該当端縁における最端・先端)に向かって漸減するテーパ状になっている、というものである。あるいは、出願当初の請求項4に記載の如く、金属製部材の被防食面に接着させて防食被覆を形成するための防食被覆形成用複層被覆資材であって、熱融接着剤からなる第一層とポリオレフィンからなる第二層との2層を有する積層構造をなしており、且つ、重ね合わせ接続の可能な端縁対が形成されており、その一方または双方の端縁において前記第二層は厚さが端(すなわち該当端縁における最端・先端)に向かって漸減するテーパ状になっている、というものである。何れの場合も、端縁のテーパ領域は、糊代状になる。
【0016】
ここで、上記の「重ね合わせ接続の可能な」とは、端縁部を重ねながら防食被覆形成用複層被覆資材をずらして被防食面を完全に被覆できるよう、対をなす端縁が並列状態・並走状態に形成されていることをいう。端縁対が平行な場合はもちろん該当するが、それに限られる訳でなく、例えば、端縁間の幅が緩やかに変化している場合や、端縁の形状が曲がっている場合でも、端縁対が揃って並走していれば、該当する。
【0017】
このような第3の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、端縁がテーパ状になっていることから、重ね合わせ接続を行っても、重なったところの厚さが増えないか増えても倍増まではいかないので、伝熱加熱による溶融時間が長引かないで済む。また、重ねるときにテーパ状の端縁を下にすれば、そこには急な段差ができないことから、複層被覆の仮取着け時に空気を被覆内に溜め込んでしまうということもほとんどないので、加熱溶融による一体的接合が確実になされる。
したがって、この発明によれば、複層でも確実な施工を容易に行える防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができる。
【0018】
[第4の解決手段]
第4の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材は、出願当初の請求項5に記載の如く、次の何れかである。
すなわち、上記の第1〜第2の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材であって、重ね合わせ接続に供される端縁対を有し、そのうちの片方の端縁から前記内層が欠除されている、というものである。
もしくは、上記の第3の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材であって、前記端縁対であるか或いはその他の端縁対であって重ね合わせ接続に供される端縁対を有し、そのうちの片方の端縁から、第3の解決手段の前段で規定される資材については前記内層が、第3の解決手段の後段で規定される資材については前記第一層が、欠除されている、というものである。
または、上記の第1の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材であって、重ね合わせ接続に供される端縁対を有し、そのうちの片方の端縁から前記内層と前記中間層とが欠除されている、というものである。あるいは、上記第1の解決手段を引用する上記第3の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材であって、前記端縁対であるか或いはその他の端縁対であって重ね合わせ接続に供される端縁対を有し、そのうちの片方の端縁から前記内層と前記中間層とが欠除されている、というものである。
何れの場合も、内層等を欠除した領域は、糊代状になる。
【0019】
このような第4の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、複層被覆の仮取着けを行うときに被覆位置をずらして接続することで資材単体よりも広い被防食面を被覆することができるが、そのような重ね合わせ接続に際し、内層の残存している方の端縁を金属製部材表面側・下側にし、内層の欠除されている方の端縁を上にして、端縁の重ね合わせが糊代張りのように行われる。
これにより、エポキシ層を含む防食被覆形成用複層被覆資材を用いて重ね合わせ接続を行ったときでも、重ね合わせ部位においてポリオレフィン層同士が確実に接して重なるので、後の加熱溶融による一体化接続が層間接合ばかりか資材同士の接続にも働く。そのため、被防食面が曲面であったり、現合管や溶接部位などのように施工場所が限定されていたりして、重ね合わせ接続が避けられない場合でも、エポキシ樹脂とポリオレフィンとの適切な複層被覆を被防食面全域に施すことが容易かつ確実に行えることとなる。
したがって、この発明によれば、複層でも施工の一層容易な防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができる。
【0020】
[第5の解決手段]
第5の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材は、出願当初の請求項6に記載の如く、上記の第1〜第4の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材であって、エポキシ樹脂の接着性を向上させる表面処理が前記外層の露呈面に施されている、というものである。なお、前記外層に代えて前記第二層を具えている防食被覆形成用複層被覆資材の場合は、エポキシ樹脂の接着性を向上させる表面処理が前記第二層の露呈面に施される。
【0021】
このような第5の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、複層被覆の仮取着け時に重ね合わせ部位で内層のエポキシ樹脂が外層のポリオレフィンの上に来ても、その接触面のポリオレフィンは表面改質されていてエポキシ樹脂と接着しやすいので、この場合も、後の加熱溶融によって資材同士の一体化接続が適切になされる。
これにより、端縁までエポキシ層が残存していても、端縁でエポキシ層を欠除したときと同様に、エポキシ樹脂とポリオレフィンとの適切な複層被覆を被防食面全域に施すことが重ね合わせ接続を利用して容易かつ確実に行えることとなる。
したがって、この発明によれば、複層でも施工の一層容易な防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができる。
【0022】
[第6の解決手段]
第6の解決手段の防食被覆形成方法は、出願当初の請求項9〜11に記載の如く、予め不完全硬化状態のエポキシ樹脂の内層(すなわち不完全硬化定着層)を直に又は中間層(若しくは第1層)を介してポリオレフィンの外層(又は第二層)に接合させて防食被覆形成用複層被覆資材を作成しておき、その後で必要な時に、前記防食被覆形成用複層被覆資材の前記内層を金属製部材の被防食面に当接させるとともに、その状態で前記金属製部材を誘導加熱して前記防食被覆形成用複層被覆資材を前記金属製部材に接着させる、というものである。
【0023】
具体的には、出願当初の請求項9に記載の如く、金属製部材の被防食面に防食被覆を形成する防食被覆形成方法であって、先ず、熱融接着剤で構成した第一層と、ポリオレフィンで構成した第二層と、の2層を有する積層構造の複層被覆資材を一次資材として用意し、次いで、この一次資材の前記第一層の露呈面にエポキシ樹脂の不完全硬化定着層を形成して二次資材としたのち、この二次資材の前記不完全硬化定着層を前記被防食面に当て、その状態で前記金属製部材を誘導加熱することにより、金属製部材からの伝熱で前記不完全硬化定着層の完全硬化と前記熱融接着剤の溶融による層間接合とを同時進行させて、前記二次資材を一体化積層状態に完成させた形で前記被防食面に接着させる、というものである。
【0024】
または、出願当初の請求項10に記載の如く、上記の第4の解決手段の後段に規定された防食被覆形成用複層被覆資材またはその派生物を利用して防食被覆を形成する方法である。すなわち、熱融接着剤の第一層およびポリオレフィンの第二層を有する防食被覆形成用複層被覆資材に対して前記第一層の露呈面にエポキシ樹脂の不完全硬化定着層を形成し、それから、前記不完全硬化定着層を金属製部材の被防食面に当て、その状態で前記金属製部材を誘導加熱して前記防食被覆形成用複層被覆資材を前記被防食面に接着させる、というものである。
【0025】
あるいは、出願当初の請求項11に記載の如く、上記の第1,第2,第3の解決手段の何れかの防食被覆形成用複層被覆資材、上記の第4の解決手段の前段に規定された防食被覆形成用複層被覆資材、又はその派生物を利用して防食被覆を形成する方法である。すなわち、エポキシ樹脂の内層と熱融接着剤の中間層とポリオレフィンの外層とを有する上述の防食被覆形成用複層被覆資材の前記内層を金属製部材の被防食面に当て、その状態で前記金属製部材を誘導加熱して前記防食被覆形成用複層被覆資材を前記被防食面に接着させる、というものである。
【0026】
このような第6の解決手段の防食被覆形成方法にあっては、エポキシ樹脂とポリオレフィンとを積層させた複層被覆資材が準備されていて、被覆施工時には、その資材を金属製部材の被防食面に当てがって被覆を仮に取り付け、それから誘導加熱にて伝熱加熱すれば、金属製部材表面とポリオレフィン被覆とにエポキシ樹脂を介在させた複層の防食被覆が形成される。
このように複層被覆の仮取着けを常温で済ませるとともに被覆の溶融・固着の完成を誘導加熱にて遂行するようにしたことにより、防食被覆が複層であっても簡便に施工することができる。工場でも現場でも新規工事であっても追加工事であっても簡便に施工することができる。しかも、被覆対象が金属曲管や現合管などであっても、エポキシ樹脂が一旦は流動化してから硬化することで、金属製部材とエポキシ樹脂との結合さらにはエポキシ樹脂とポリオレフィンとの結合が確実になされる。
したがって、この発明によれば、複層でも施工の容易な防食被覆形成方法を実現することができる。
【0027】
ここで、上記第1〜第6の解決手段によって、3層被覆の形成がエポキシ樹脂の過加熱劣化を伴わない好ましい形で行えるのは、何よりも、被覆形成操作を加熱ファイナルという手法で行うことでエポキシ樹脂層に対する加熱を好適温度にて必要最短時間で済ませるという思想に発している。そして、この思想は、必要膜厚のポリオレフィンをプレハブした複層被覆資材を用いて被覆形成を行う構成により、厚膜ポリオレフィン層を概ね完成された状態で適用し、短時間の加熱で3層被覆内に組込まれた最終形態に完成させるようにしたことで、上記解決手段をもたらしたのである。
【0028】
【発明の実施の形態】
このような解決手段で達成された本発明の防食被覆形成用複層被覆資材およびそれを用いて行う防食被覆形成方法について、すなわちエポキシ層およびポリオレフィン層の仮取着けを纏めて行う手法について、これを実施するための幾つかの形態を、図1〜図6を引用して具体的に説明する。
【0029】
図1は、3層構造の防食被覆形成用複層被覆資材の製造工程および基本構造を例示しており、(a)〜(c)は、何れも層断面構造図であり積層工程順に並んでいる。
この複層被覆資材は、積層構造のものであり、内層と、中間層(又は第一層)と、外層(又は第二層)との3層を有する。
【0030】
これを製造するには、先ず(図1(a)参照)、外層となるポリオレフィン層4を形成する。ポリオレフィンは、耐食性,耐候性,耐衝撃性などの所望の保護特性を具えたものであり、具体的には、高密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,低密度ポリエチレン,ポリプロピレン,プロピレンとエチレンとの共重合体,ポリブテン等を用いることができる。また、ポリオレフィン層4は、緻密な構造に成形されていても良いが、粉体樹脂から形成した多孔質構造の成形体も好ましい。これは、適度な柔軟性に加えて加熱溶融時に流動性も示すので、金属製部材を誘導加熱した伝熱にて複層被覆を完成させるのに適している(特許文献2参照)。さらに、ポリオレフィン層4の厚さも所望の保護特性に応じて定めるものであり、具体的には2〜5mmの厚膜に選定される。
【0031】
次に(図1(b)参照)、ポリオレフィン層4の上面に、中間層となる熱融接着剤層3を積層する。これは、熱融接着剤の薄層(連結膜でも点描状や線描状でもよい)であって、100μm〜300μm程度の厚さの連続膜が得られる量目を以て、曲げ伸ばししても剥がれない結合状態でポリオレフィン層4に積層される。この積層は、フィルム材のタック貼りや融着、あるいは、粉体樹脂の静電塗装や溶射、あるいは、ポリオレフィン層4との共押し出しによって行われる。熱融接着剤は、エポキシ樹脂とポリオレフィンの何れにも良好に接合可能なものであり、主として、マイレン酸変性などの各種の変性ポリオレフィンが使用されるが、これに限らず、他の材料、例えば、EVA,EAA,EMAA等を使用しても良い。なお、このような熱融接着剤層3とポリオレフィン層4との2層を有する積層構造の複層被覆資材は、直ちに次の内層積層工程に供しても良いが、仕掛品倉庫等に長期保存しておくことも可能であり、そのような一次資材として用意された場合、二次資材の製造を行うときに必要なだけ取り出されて、次の内層積層工程に回される。
【0032】
内層積層工程では(図1(c)参照)、内層となるエポキシ樹脂層2を積層する。これは、反応硬化性エポキシ樹脂の薄層(連結膜でも点描状や線描状でもよい)であって、塗布等にて50μm〜500μm程度の厚さの望ましくは100μm〜300μm程度の厚さの連続膜が得られる量目を以て、曲げ伸ばししても剥がれない結合状態で熱融接着剤層3に積層される。上記積層は、前記熱融接着剤層の積層と同様の手法によって、あるいは、1液型や2液型の液状樹脂のスプレイやロールや刷毛による塗装によって行われる。エポキシ樹脂は、金属面の防食のために従来より用いられているものを適宜使用できる。エポキシ樹脂の不完全硬化状態は、金属製部材の誘導加熱により金属製部材の被防食面にフィットしながら硬化が進んで金属製部材へ確実に接着されるよう、ゲル化率を目安にすればゲル化率30%〜90%の範囲に収められる。こうして、3層構造の防食被覆形成用複層被覆資材が出来上がり、この状態で防食被覆形成に使用されるまで約半年ほど保存しておくことができる。
【0033】
図2は、2層構造の防食被覆形成用複層被覆資材の製造工程および基本構造を例示しており、(a)〜(c)は、何れも層断面構造図であり積層工程順に並んでいる。
この複層被覆資材は、基本的には内層と外層とからなる2層の積層構造であり、中間層は設けられていないが、その代わりに、外層の内層との接合面に対し表面改質処理が施されている。この表面改質層は極薄で接合後は視覚的に直接検知することが難しいが、内層と外層との良好な接合状態が維持されているという物理状態に基づいて間接的に認知することができる。この点で、本発明の防食被覆形成用複層被覆資材は、外見は2層構造であるが、実質的には3層構造の、いわば疑似的2層構造とも言えるものである。
【0034】
これを製造するには、先ず(図2(a)参照)、上述したのと同様にして、外層となるポリオレフィン層4を形成し、それから(図2(b)参照)、ポリオレフィン層4の上面に、表面改質手段20(表面改質媒体)を作用させて、表面改質処理を施す。この改質面が次の内層積層工程でエポキシ接合面4aとされる。表面改質手段20には、例えば、コロナ放電で励起された雰囲気気体や、重クロム酸塩と濃硫酸などを含んだ処理液、ガスバーナーで吹き付ける火炎などが用いられる。このような表面処理によって、ポリオレフィン層4のエポキシ接合面4aには、エポキシ樹脂に対して良好な接着性が付与される。その表面改質層は単分子層ないし数分子層であって、その厚さは1μmにも及ばないが、ポリオレフィン層4を曲げ伸ばししても剥がれない程度にエポキシ樹脂を接合させるには十分であり、更には、この表面改質層によってもたらされる、不完全硬化エポキシ樹脂層との親和性により、被覆施工時の加熱によるエポキシ樹脂層の硬化の進行とポリオレフィン層の溶融に伴って、両層は強固に接合される。
【0035】
次に(図2(c)参照)、内層となるエポキシ樹脂層2を積層する。これも、上述したのと同様に不完全硬化状態のエポキシ樹脂からなる薄層であるが、熱融接着剤層3では無くポリオレフィン層4のエポキシ接合面4aの上に積層される。その積層は、前記3層構造の複層被覆資材における内層の積層と同様の手法で行って、同様の結合状態に積層する。なお、この積層を共押し出し法によって行うときは、両層の表面活性が共に高い状態で積層されることになるので、上記表面改質処理は省略してもよい。何れの手法においても、エポキシ樹脂は、上述したのと同様、金属製部材の誘導加熱により金属製部材の被防食面にフィットしながら硬化が進んで金属製部材へ確実に接着されるような不完全硬化状態にされる。こうして、擬似的2層構造の防食被覆形成用複層被覆資材が出来上がる。これも半年ほど保存が効く。
【0036】
図3は、エポキシ樹脂層2とポリオレフィン層4とを配した3層構造の又は擬似的2層構造の複層被覆資材をテープ状の形態にした例である。同図において、(a)は1本のテープ状成形体30の斜視図、(b)が長手方向に直交する断面の拡大図である。また、同図(c)〜(d)は、テープ状成形体30を用いた防食被覆形成方法の一例を示し、(c)が金属曲管1(金属製部材)にテープ状成形体30(複層被覆資材)の仮取着けを行っているところの平面図であり、(d)が金属曲管1表面上でテープ状成形体30同士が重ね合わせ接続された部分についての断面拡大図であり、(e)が被覆完成のためコイル25にて誘導加熱を行っているところの平面図(コイルについては断面図)である。
【0037】
テープ状成形体30は、紙テープやビニールテープのように細長く形成される。例えば(図3(a)参照)、数十〜数百mmの一定幅で数十m以上の長さに形成され、捲回状態で保存され、使用時には必要なだけ展開して切り離せるようになっている。あるいは、図示は割愛したが、幅が一旦漸増してから漸減する長物に形成され、積み重ねて保存され、使用時には必要枚数だけ上から順に剥がせるようになっている。何れにしても(図3(b)参照)、幅方向に見て両端に(図3(b)では左右に)分かれている端縁31,32は、重ね合わせ接続を行う場合にはそれに供される端縁対となるものであり、ポリオレフィン層4の厚さが端に向かって漸減するテーパ状に形成されている。
【0038】
具体的には、端縁32では、中央から右端へ進むにつれて、ポリオレフィン層4の露呈面4bがエポキシ接合面4a側へ(図3(b)では右下へ)、鋭角に交わるまで一定傾斜で進む。端縁31では、中央から左端へ進むにつれて、ポリオレフィン層4のエポキシ接合面4aが露呈面4b側へ(図3(b)では上側)、鋭角に交わるまで同じ一定傾斜で進む。また、端縁31では、ポリオレフィン層4からエポキシ樹脂層2が欠除されている。このような端縁対31,32は、テープ状成形体30の長手方向に連なって形成され、それに対応したテーパ領域や内層欠除領域は、糊代状になる。
【0039】
上記テーパの形成手段は任意であるが、テープ状の資材では例えば押出成形時のダイス形状により或いは押出成形後の端縁ロール成形によりテーパを形成することができる。シート状資材やリング状資材(それぞれ多孔質材のときもある)では、ロールや鏝金具による成形が推奨される。
また、内層や中間層を欠除させる手段としては、同時押出時のダイス幅設定による適用領域の限定や、欠除を要しない部分のみに照準を当てた塗工・溶射・テープ貼り、欠除を要する部分をマスキングした上での塗工・溶射・テープ貼りを例示できる。
テーパの形成と欠除部分の形成とは、資材の製造方式に応じて、同時に行われてもよいし(例えば同時押出など)、相前後して行われても良く(例えばシートなど)、資材の性能はその順序に影響されない。
【0040】
このようなテープ状成形体30を用いて金属曲管1の外周面に防食被覆を形成するには、水や錆などを除去した金属曲管1の外周面に対し、エポキシ樹脂層2を内側にして即ち被防食面である金属曲管1の外周面に当接させて、テープ状成形体30を包袋巻き・スパイラル巻きすることで(図3(c)参照)、被防食面の全域に複層被覆資材を仮取着けする。その際、軽く引いて張力を付与しておくことで、後の加熱時に熱膨張して弛んで皺ができたり伝熱が阻害されたりするを防止することができる。また、金属曲管1を一周する度にテープ幅の分だけテープ状成形体30の捲回位置を金属曲管1長手方向にずらしながら、而もそのときに一周前の端縁32の傾斜面に端縁31の傾斜面を合わせるようにして(図3(d)参照)、テープ状成形体30を次々と金属曲管1に巻き付けることで、隙間も段差も無い又は少ない重ね合わせ接続が行える。
【0041】
そして(図3(e)参照)、テープ状成形体30による複層被覆の仮取着けが済んだら、金属曲管1はその状態にしておき、高周波電流を通したコイル25を金属曲管1の被防食面に沿って移動させ、金属曲管1の対向箇所を誘導加熱する。これにより、金属曲管1の表層部分が昇温し、その昇温部分からの伝熱によってエポキシ樹脂層2が加熱されて昇温し、熱融接着剤層3が有ればそれも加熱されて昇温し、更にエポキシ接合面4a側からポリオレフィン層4も加熱されて昇温し、その結果、エポキシ樹脂層2が一旦流動化して金属曲管1外周面にフィットしながら完全に硬化して接着するとと同時に、エポキシ樹脂層2と熱融接着剤層3の層間接合および熱融接着剤層3のポリオレフィン層4との層間接合あるいは熱融接着剤層3とポリオレフィン層4の間の層間接合も十分に進行する。また、ポリオレフィン層4は、エポキシ接合面4a側から露呈面4b側へ順に溶融して気泡を押し出し、密になる。端縁の繋ぎ目すなわち重ね合わせ接続部位でも、ポリオレフィン同士の端縁31,32が融合する。
【0042】
こうして、金属曲管1の表面にエポキシ樹脂を介在させたポリオレフィンの被覆である複層被覆が、一体化して完成する。しかも、単層被覆のときと同等の手軽さで施工することができる。なお、コイル25の大きさや高周波電力の印加条件などは、金属曲管1の対向部分をエポキシ樹脂の硬化進行に望ましい温度たとえば250℃程度に誘導加熱できるものであれば良く、具体的には、生産性や,利便性,コスト等を勘案して決められる。加熱方法は誘導加熱が最適であるが、ガス加熱や,遠赤外線加熱,熱風ヒーターなどの方法を適宜併用しても良い。また、被覆対象は上述の金属曲管1に限られない。例えば、繰り返しとなる詳細な説明は割愛するが、ほぼ同様にして、従来は単層被覆で施工されていた現場での管端溶接箇所等についても、金属製部材表面とポリオレフィン被覆との間にエポキシ樹脂を介在させて複層の防食被覆を形成する工事が、簡便に行える。金属製部材の材質は、鉄鋼の他,鉛,銅,アルミニウム等でも良い。金属製部材の形状は、金属曲管1に限らず、例えば、角棒や,板材,箱体でも良い。寸法についても限定はない。
【0043】
図4は、エポキシ樹脂層2とポリオレフィン層4とを配した3層構造の又は擬似的2層構造の複層被覆資材をシート状の形態にした例であり、同図(a)が、シート状成形体40の斜視図である。同図(b)は、それを用いた防食被覆形成方法の一例を示し、金属曲管1(金属製部材)にシート状成形体40(複層被覆資材)を仮取着けしているところの平面図である。
【0044】
シート状成形体40は、一辺が数cm〜数十cmの四辺形に形成されており、対向する端縁対31,32が2組具わっている。端縁31は、上述したように、テーパ状に形成され、エポキシ樹脂層2が欠除されている。端縁32も、上述したようにテーパ状に形成されている。
このようなシート状成形体40を金属曲管1の外周面に仮取着けするには、例えば、エポキシ系接着剤をシート状成形体40のエポキシ面か又は金属曲管1にスプレー等で薄く塗布してタック性を与えておき、その上にシート状成形体40を次々に貼り付けていくと良い。その際、隙間が残らないように、隣接シート状成形体40同士の端縁31と端縁32を重ね合わせ接続して、被防食面の全域をシート状成形体40で覆い尽くす。後は上述したように誘導加熱して複層被覆資材の溶融一体化を完成させる。
【0045】
この場合、シート状成形体40の貼付に先だってエポキシ系接着剤の塗布も行うが、防食被覆に必要なエポキシ樹脂はシート状成形体40に含まれていることから、接着剤の塗布作業は多少の斑など気にしないで手軽に行えるので、本発明の施工容易性は維持されている。また、上述した金属曲管や管端溶接箇所の他、施工対象面の形状やサイズが事例毎に異なる補修箇所等についても、金属製部材表面とポリオレフィン被覆との間にエポキシ樹脂を介在させて複層の防食被覆を形成する工事が、簡便に行える。なお、シート状成形体40の形状は、図示した略正方形に限られるものでなく、例えば、菱形や台形、3角形や6角形などの多角形、円形や扇形など、被防食面の形状に応じて適宜なものが選定される。
【0046】
図5は、エポキシ樹脂層2とポリオレフィン層4とを配した3層構造の又は擬似的2層構造の複層被覆資材をリング状の形態にした例であり、同図(a)が、リング状成形体50の斜視図である。同図(b)は、それを用いた防食被覆形成方法の一例を示し、金属曲管1(金属製部材)にリング状成形体50(複層被覆資材)を仮取着けしているところの平面図である。
【0047】
このリング状成形体50は、エポキシ樹脂層2を内壁としポリオレフィン層4を外壁とした短管になっている。その内径は、常温で、金属曲管1の外径より僅かに小さい。リング状成形体50の管端は、テーパ状の端縁31,32になっている。リング状成形体50の側面形状は、長方形でも良いが、金属曲管1の曲率に対応した台形にすれば、金属曲管1への適合性が増す。
このようなリング状成形体50を金属曲管1の外周面に仮取着けするには、リング状成形体50を溶融温度以下で昇温させて熱膨張により拡径させて行う。リング状成形体50を次々と金属曲管1に嵌合していく際、隙間ができないように、隣接リング状成形体50同士の端縁31と端縁32を重ね合わせ接続する。被防食面の全域をリング状成形体50で覆い尽くしたら、誘導加熱して複層被覆資材の溶融一体化を完成させる。
【0048】
図6は、ポリオレフィン層4の露呈面4bのエポキシ樹脂への接着性を向上させる実施形態を示し、(a)は、表面改質処理を追加工している露呈面改質被覆資材60の層断面構造図であり、(b)は、金属曲管1に露呈面改質被覆資材60を仮取着けしたときの重ね合わせ接続部分の断面拡大図である。
【0049】
図示のように表面改質処理を追加工にて行う場合(図6(a)参照)、上述のようにして(図1,図2参照)製造した防食被覆形成用複層被覆資材すなわちエポキシ樹脂層2とポリオレフィン層4とを接合した3層構造の又は擬似的2層構造の複層被覆資材を準備し、そのポリオレフィン層4の露呈面4bに対し前述の表面改質手段20を作用させる(図6(a)参照)。なお、図示は割愛したが、露呈面の表面改質処理を追加工ではなく防食被覆形成用複層被覆資材の製造工程途中で行う場合は、ポリオレフィン層4のエポキシ接合面4aへの表面改質処理と一緒に又は前後して行っても良く(図2(b)参照)、ポリオレフィン層4に熱融接着剤層3を接合する前後に行っても良い(図1(b)参照)。
【0050】
このような露呈面改質被覆資材60は、テープ状やシート状など各種の形状に加工されて金属製部材の防食被覆の形成に用いられるが、図示の例ではその端縁には、上述した端縁対31,32のようなテーパ形成加工は行われていない。エポキシ樹脂層2の欠除も無い。露呈面改質被覆資材60の保存可能期間は常温で1年以上である。
そして(図6(b)参照)、そのような露呈面改質被覆資材60を金属曲管1の外周面に仮取着けするときは、隣接する露呈面改質被覆資材60の端縁同士を斜めでなく上下に重ね合わせる。その重ね合わせ接続を繰り返して、被防食面の全域を露呈面改質被覆資材60で覆い尽くしたら、誘導加熱して複層被覆資材の溶融一体化を完成させる。このとき、図6(b)における重ね合わせ部の段差を、ローラー押圧等によって積極的に解消させるようにしても良い。
【0051】
この場合、重ね合わせ接続のところでは、上下のポリオレフィン層4の間にエポキシ樹脂層2が介在しているが、このエポキシ樹脂層2は、上側のポリオレフィン層4に対しては熱融接着剤層3を介して又は表面改質済みのエポキシ接合面4aに積層されており、下側のポリオレフィン層4に対しては表面改質済み露呈面4bと接合されているので、重ね合わせ接続のところでも、複層被覆資材の接合一体化が確実になされる。
このような露呈面改質被覆資材60は、雲形等の複雑な形状に切断加工したときでも、金属製部材表面とポリオレフィン被覆とにエポキシ樹脂を介在させて複層の防食被覆を形成する作業が簡便に行えるので、現場合わせを避けられない補修工事や、分岐管など複雑な形状の被防食面への施工などにも、好適である。
【0052】
【実施例】
[実施例1]
図3(c)に示す金属曲管1を用意した。この金属曲管1の仕様は、外径が406.4mm(24インチ)、曲げ半径が2032mm、曲げ角度が90゜、材質がAPI 5LX65である。
図1に示す積層工程により、図3(a)及び(b)に示すテープ状成形体30を3層構造で製造した。ポリオレフィン層4には、高密度ポリエチレンのテープ(厚さ2.5mm、幅200mm、商品名「ハイゼックス5000H」、三井化学株式会社製)を採用し、熱融接着剤層3には、接着性ポリエチレンのテープ(厚さ100μm、幅200mm、商品名「アドマーNE090」、三井化学株式会社製)を採用し、エポキシ樹脂層2には、2液型のエポキシ樹脂(商品名「エポサーム」大日本色材工業株式会社製)を採用した。そして、ポリオレフィン層4の上に熱融接着剤層3を重ね、その状態で遠赤外線にて加熱して融着させた。それから、その上に、エポキシ樹脂層2を刷毛により塗布し、再び遠赤外線にて約60゜に加熱して、エポキシ樹脂層2を硬化させた。約9分間の加熱により、ゲル化率50%程度の不完全硬化定着層が形成された。
【0053】
その後、図3(c)及び(d)に示すように、金属曲管1の清浄な外周面にテープ状成形体30を端縁で重ね合わせ接続しながらスパイラル巻きし、それから、図3(e)に示すように、加熱幅50mmのコイル25を金属曲管1の外周に配置して、金属曲管1の表層部分を誘導加熱しながら、移動速度50mm/分で連続的に移動させ、金属曲管1の全長を誘導加熱した。この時、金属曲管1の表面温度は、約250℃に昇温していた。金属曲管1を誘導加熱した後、約30分間放置し、金属曲管1からの伝熱により、エポキシ樹脂層2の完全硬化と熱融接着剤層3の溶融による層間接合とを同時進行させた。以上により、完全に一体化した3層構造のポリエチレン被覆の金属曲管を得た。
得られた被覆について、ASTMG14規格に示された陰極剥離試験を行ったところ、20℃×30日で剥離径は3.5mmであり、十分な傷口起点剥離耐久性を示していた。また、被覆の表面硬さは78HDD、接着力は20N/cmであり、十分な硬さ及び接着力を示していた。従って、傷口起点剥離耐久性などの長期耐久性に優れ、且つ耐衝撃性に優れたポリエチレン被覆が得られた。
【0054】
[実施例2]
図2に示す積層工程により、図4(a)に示すシート状成形体40を疑似的2層構造で製造した。ポリオレフィン層4には、ライニング用ポリエチレン粉体樹脂(軟化温度97℃、溶融温度125℃、嵩密度0.3g/cm3 )を採用し、これをプレス成形など公知の製法にて(特許文献2参照)、多孔質構造にした。シート形状は、一辺50mmの正方形にした。それから、その片面にエポキシの接着性を向上させるための表面改質処理を施し、この面をエポキシ接合面4aに選定した。表面改質処理は、170V,10Aの放電条件の放電電極を1m/分の速度にて移動させるコロナ処理を行った。それから、エポキシ接合面4aに上述の2液型のエポキシ樹脂を塗布し、約60゜に約9分間加熱して、金属製部材の被防食面に対する接着活性の残されている状態に不完全硬化したエポキシ樹脂層2を形成した。
それから、実施例1と同じ金属曲管1を用意し、その清浄な外周面にエポキシ系接着剤(商品名「エポサーム」、大日本色材工業株式会社製)を薄く塗工してから、図4(b)に示すように、金属曲管1の外周面にシート状成形体40を端縁で重ね合わせ接続しながら貼り付けた。
最後に、上述したのと同様に、誘導加熱して疑似的2層構造のポリエチレン被覆の一体化を完成させ、陰極剥離試験等を行った。その結果は、実施例1とほぼ同じで、十分な傷口起点剥離耐久性・表面硬さ・接着力を示していた。
【0055】
[実施例3]
図6(a)に示す追加工を図2に示す疑似的2層構造の複層被覆資材に施して露呈面改質被覆資材60を製造した。露呈面4bに対する表面改質処理は、エポキシ接合面4aに対する処理と同じものを行った。
そして、露呈面改質被覆資材60は、例えば幅50mmのテープ状に形成され、一旦は保管容易なロール状に巻き取られてから、適宜長さ例えば幅と同じ50mmで鋏やナイフ等にて切断され、最終的には、多数の小さなシート状に形成された。それから、上述した実施例2と同様にして、金属曲管1の外周面に、エポキシ系接着剤を塗布してから、多数の露呈面改質被覆資材60を、図6(b)のように端縁で重ね合わせ接続しながら貼り付けた。
さらに、この実施例でも、上述したのと同様に、誘導加熱して疑似的2層構造のポリエチレン被覆の金属曲管への接着と層間接合による一体化を完成させ、陰極剥離試験等を行った。その結果は、実施例1や実施例2とほぼ同じで、十分な傷口起点剥離耐久性・表面硬さ・接着力を示していた。
【0056】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の第1の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、ポリオレフィンにエポキシを積層させて複層被覆の仮取着けを纏めて行えるようにするとともに、エポキシに接着活性を残させて後からの加熱でも確実な融着がさなれるようにしたことにより、複層でも施工の容易な防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができたという有利な効果が有る。
【0057】
また、本発明の第2の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、熱融接着剤を介在させなくてもポリオレフィンとエポキシ樹脂との積層が行えるようにしたことにより、熱融接着剤を含まない防食被覆形成用複層被覆資材についても施工の容易な防食被覆形成方法の実施を可能とすることができたという有利な効果を奏する。
【0058】
さらに、本発明の第3の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、重ね合わせ部位に不所望な厚みや段差ができないようにもしたことにより、複層でも確実な施工を容易に行える防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができたという有利な効果が有る。
【0059】
また、本発明の第4の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、重ね合わせ部位ではポリオレフィン層同士が確実に接して後の加熱溶融による一体化接合が層間接合ばかりか資材同士の接合にも働くようにしたことにより、複層でも施工の一層容易な防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができたという有利な効果を奏する。
【0060】
また、本発明の第5の解決手段の防食被覆形成用複層被覆資材にあっては、ポリオレフィン層の露呈面にエポキシ層が重なっても後の加熱溶融にて確実に接続されるようにもしたことにより、複層でも施工の一層容易な防食被覆形成方法の実施を可能とする防食被覆形成用複層被覆資材を実現することができたという有利な効果が有る。
【0061】
また、本発明の第6の解決手段の防食被覆形成方法にあっては、エポキシ層とポリオレフィン層を含む複層被覆資材を準備しておき、施工時には仮取着けを常温で済ませてから被覆の溶融・固着を誘導加熱にて完成させるようにしたことにより、複層でも施工の容易な防食被覆形成方法を実現することができたという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の防食被覆形成用複層被覆資材について、3層構造例を示し、(a)〜(c)何れも層断面構造図であり積層工程順に並んでいる。
【図2】本発明の防食被覆形成用複層被覆資材について、2層構造例を示し、(a)〜(c)何れも層断面構造図であり積層工程順に並んでいる。
【図3】本発明の防食被覆形成用複層被覆資材について、(a)及び(b)はテープ状成形体の一例を示し、(a)が斜視図、(b)が断面拡大図である。また、(c)〜(d)は、テープ状成形体を用いた防食被覆形成方法の一例を示し、(c)が複層被覆の仮取着けを行っているところの平面図、(d)が重ね合わせ接続された部分についての断面拡大図、(e)が被覆完成のため誘導加熱を行っているところの平面図である。
【図4】本発明の防食被覆形成用複層被覆資材および防食被覆形成方法について、(a)がシート状成形体の斜視図、(b)がそれを用いて複層被覆の仮取着けを行っているところの平面図である。
【図5】本発明の防食被覆形成用複層被覆資材および防食被覆形成方法について、(a)がリング状成形体の斜視図、(b)がそれを用いて複層被覆の仮取着けを行っているところの平面図である。
【図6】本発明の防食被覆形成用複層被覆資材および防食被覆形成方法について、(a)が層断面構造図、(b)がそれを用いて重ね合わせ接続したところの断面拡大図である。
【符号の説明】
1 金属曲管(金属製部材)
2 エポキシ樹脂層(不完全硬化状態の薄層、内層、不完全硬化定着層)
3 熱融接着剤層(薄膜層、中間層、第一層)
4 ポリオレフィン層(厚膜層、外層、第二層)
4a エポキシ接合面(非露呈面)
4b 露呈面
20 表面改質手段(コロナ放電、酸、火炎)
25 コイル(誘導加熱手段)
30 テープ状成形体(防食被覆形成用複層被覆資材)
31 端縁(糊代状のテーパ領域・内層欠除領域)
32 端縁(糊代状テーパ領域)
40 シート状成形体(防食被覆形成用複層被覆資材)
50 リング状成形体(防食被覆形成用複層被覆資材)
60 露呈面改質被覆資材(防食被覆形成用複層被覆資材)
Claims (11)
- 金属製部材の被防食面に接着させて防食被覆を形成するための防食被覆形成用複層被覆資材であって、不完全硬化状態のエポキシ樹脂で構成した内層と、熱融接着剤で構成した中間層と、ポリオレフィンで構成した外層と、の3層を有する積層構造になり、前記内層の不完全硬化状態は、前記被防食面に対する接着活性の残されている状態である、ことを特徴とする防食被覆形成用複層被覆資材。
- 金属製部材の被防食面に接着させて防食被覆を形成するための防食被覆形成用複層被覆資材であって、不完全硬化状態のエポキシ樹脂で構成した内層と、ポリオレフィンで構成した外層と、の2層を有する積層構造になり、前記内層の不完全硬化状態は、少なくとも前記被防食面に対する接着活性の残された不完全硬化状態である、ことを特徴とする防食被覆形成用複層被覆資材。
- 重ね合わせ接続に供される端縁対を有し、そのうちの少なくとも片方の端縁に、前記外層の厚さが端に向かって漸減するテーパ領域を糊代状に設けた、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の防食被覆形成用複層被覆資材。
- 金属製部材の被防食面に接着させて防食被覆を形成するための、熱融接着剤で構成した第一層と、ポリオレフィンで構成した第二層と、の2層を有する積層構造の防食被覆形成用複層被覆資材であって、重ね合わせ接続に供される端縁対を有し、そのうちの少なくとも片方の端縁に、前記第二層の厚さが端に向かって漸減するテーパ領域を糊代状に設けた、ことを特徴とする防食被覆形成用複層被覆資材。
- 重ね合わせ接続に供される端縁対を有し、そのうちの片方の端縁に、前記内層もしくは前記第一層を欠除した領域が又は前記内層と前記中間層とを共に欠除した領域が糊代状に設けられている、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の防食被覆形成用複層被覆資材。
- 前記外層の露呈面に又は前記第二層の露呈面に、エポキシ樹脂の接着性を向上させる表面処理が施されている、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の防食被覆形成用複層被覆資材。
- 前記外層または前記第二層は多孔質に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の防食被覆形成用複層被覆資材。
- テープ状の形態、シート状の形態、及びリング状の形態のうち何れか一の形態を有していることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の防食被覆形成用複層被覆資材。
- 金属製部材の被防食面に防食被覆を形成する防食被覆形成方法であって、先ず、熱融接着剤で構成した第一層と、ポリオレフィンで構成した第二層と、の2層を有する積層構造の複層被覆資材を一次資材として用意し、次いで、この一次資材の前記第一層の露呈面にエポキシ樹脂の不完全硬化定着層を形成して二次資材としたのち、この二次資材の前記不完全硬化定着層を前記被防食面に当て、その状態で前記金属製部材を誘導加熱することにより、金属製部材からの伝熱で前記不完全硬化定着層の完全硬化と前記熱融接着剤の溶融による層間接合とを同時進行させて、前記二次資材を一体化積層状態に完成させた形で前記被防食面に接着させる、ことを特徴とする防食被覆形成方法。
- 請求項4及びこれを引用する請求項5乃至8の何れか1項に記載された防食被覆形成用複層被覆資材に対して前記第一層の露呈面にエポキシ樹脂の不完全硬化定着層を形成し、それから、前記不完全硬化定着層を金属製部材の被防食面に当て、その状態で前記金属製部材を誘導加熱して前記防食被覆形成用複層被覆資材を前記被防食面に接着させることを特徴とする防食被覆形成方法。
- 請求項1乃至3及びその何れかを引用する請求項5乃至8の何れか1項に記載された防食被覆形成用複層被覆資材の前記内層を金属製部材の被防食面に当て、その状態で前記金属製部材を誘導加熱して前記防食被覆形成用複層被覆資材を前記被防食面に接着させることを特徴とする防食被覆形成方法。
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