JP2004143579A - 切り屑処理性に優れた機械構造用鋼、およびその製造方法 - Google Patents

切り屑処理性に優れた機械構造用鋼、およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】Pbを添加せずにPb快削鋼並みの切り屑処理性を有し、且つ機械的性質の低下を最小限に抑えた機械構造用鋼を提供する。
【解決手段】C:0.2〜0.7%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.01〜2.5%,Mn:0.1〜3%,S:0.01〜0.2%,P:0.05%以下(0%を含む),N:0.0045〜0.03%を含有し、さらに、Al:0.0001〜0.1%、および/または、Cr:0.03〜1.2%、を含有する鋼であって、前記Nのうち、固溶N量が、鋼全量に対し0.0045%以上に制御されていることを特徴とする機械構造溶鋼である。本発明の機械構造溶鋼は、Nの固溶化を伴う加熱と、その後の冷却条件を制御した熱処理工程を含む方法により製造される。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、産業機械や自動車、電気製品などの部品のように、切削加工を施すことによって製造される部品の素材として有用な機械構造用鋼に関し、特に被削性改善成分としてのPbを実質的に含まない所謂Pbフリーで、切削加工時の切り屑処理性および機械的特性に優れた機械構造用鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、各種鋼材の被削性(切り屑処理性など)を改善する手法として、Pbを添加することが一般的に行われている。Pbの添加によって、鋼材の機械的性質を損なうことなく、該鋼材の切り屑処理性や仕上げ面粗さを改善し得ると共に、鋼材を処理する工具の寿命向上も可能であることは、当該技術分野において周知の事実である。
【0003】
しかしながら、Pbは人体に有害であることから、近年、Pbを添加することなくPb添加鋼(Pb快削鋼)並みの被削性が達成された鋼材の開発が求められている。
【0004】
Pbを添加しない快削鋼としては、MnSを鋼中に分散させた硫黄快削鋼が代表的なものとして知られており、Pb快削鋼を置換すべく、種々の検討がなされている。
【0005】
例えば、硫黄快削鋼を圧延すると、鋼中のMnSが細長く展伸されるため、圧延あるいは鍛造の長手方向に垂直な方向の衝撃値や引張強度などが低下することが知られており、これを改善するために、Caを鋼に添加することが提案されている(特許文献1)。しかし、Caを添加すると、鋼の機械的性質の異方性は改善されるものの、切り屑処理性が低下するため、この切り屑処理性が重視される切削加工を施す用途への使用は、実質的に不可能であった。
【0006】
上記の問題を解決すべく、特許文献2には、鋼中でのMnSの分布状態に着目し、これを制御して、切り屑処理性改善と機械的性質の異方性改善を両立する技術が提案されている。また、特許文献3では、鋼にMgを添加すると共に、硫化物(MnSなど)中のMgとSの原子比を制御して、切り屑処理性および機械的性質を改善する技術が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術を用いても、依然として被削性・機械的性質共、Pb快削鋼には及ばないため、Pb快削鋼を置換するには、未だ改善の余地を残していた。
【0008】
【特許文献1】
特開昭55−128564号公報
【特許文献2】
特開2000−282171号公報
【特許文献3】
特開2001−152280号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情の下でなされたものであり、その目的は、Pbを添加せずにPb快削鋼並みの切り屑処理性を有し、且つ機械的性質の低下を最小限に抑えた機械構造用鋼を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の機械構造用鋼は、C:0.2〜0.7%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.01〜2.5%,Mn:0.1〜3%,S:0.01〜0.2%,P:0.05%以下(0%を含む),N:0.0045〜0.03%を含有し、さらに、Al:0.0001〜0.1%、および/または、Cr:0.03〜1.2%、を含有する鋼であって、前記Nのうち、固溶N量が、鋼全量に対し0.0045%以上に制御されているものであるところに要旨を有するものであり、切り屑処理性に優れている。
【0011】
また、上記機械構造用鋼のうち、さらに、Ti:0.01%以下(0%を含む),Zr:0.01%以下(0%を含む),B:0.0005%以下(0%を含む),V:0.01%以下(0%を含む),Nb:0.01%以下(0%を含む),Mo:0.01%以下(0%を含む),Al:0.01%以下(0%を含む),Cr:0.2%以下(0%を含む)に制御されているもの;さらに、Mg:0.02%以下(0%は含まない)、および/または、Ca:0.02%以下(0%は含まない)を含有するもの;さらに、Cu:1%以下(0%は含まない)、且つ、Ni:0.5%以下(0%は含まない)を含有するもの;さらに、Bi:0.3%以下(0%は含まない)を含有するもの;も、本発明の好ましい態様である。
【0012】
さらに、上記機械構造用鋼において、鋼中に観察される硫化物系介在物のうち、長径が20μm以上の硫化物系介在物の個数をa、長径が5μm以上の硫化物系介在物の個数をbとするとき、a/b≦0.25を満足するものも、本発明の好適な実施態様である。
【0013】
加えて、上記機械構造用鋼において、Alが0.005%未満に制御されているものも好ましく、この場合、該鋼を切削するための工具の寿命を改善し得る。
【0014】
この他、上記本発明の機械構造用鋼を製造するに当たり、Nの固溶化を伴う加熱と、その後、800℃から500℃までの平均冷却速度を0.8℃/秒以上とする冷却を備えた熱処理工程を含む製造方法も、本発明に包含される。
【0015】
なお、本発明の機械構造用鋼の化学組成は、典型的には上記元素の他は残部Feおよび不可避不純物からなるが、その他の化学成分についても、本発明の効果を阻害しない範囲内で含有されていてもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、機械構造用鋼(以下、単に「鋼」という場合がある)において、切り屑処理性を高め、且つ機械的性質の低下を最小限に抑えるべく、特に鋼の成分組成に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、鋼中の固溶N量の制御が、切り屑処理性と機械的性質の両立に大きく影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
従来から、Nは、固溶して鋼を硬化させるか、あるいは鋼中の種々の元素と結合して窒化物を形成し、その結果、該鋼を処理する工具の摩耗を促進して、その寿命を低下させると考えられてきた。例えば、特開2000−256785号でも、被削性のよい高強度鋼に関する技術を開示している。この技術は鋼中のオーステナイト粒径を制御して、被削性の向上を図るものであるが、ここでは、鋼中のトータルN量を0.02%以下に制限している。その考え方は、「Nは、固溶Nの場合、鋼を硬化させる。特に切削においてはひずみ時効によって刃先近傍で硬化し、工具寿命を低下させる。また、Ti、Al、Vなどの窒化物として存在する場合、オーステナイト粒の成長を抑制する。よって、N量には制限が必要である。」というものである。
【0018】
このように、鋼の被削性の観点からは、N量は、できるだけ少なく抑える方がよいとされており、鋼の機械的性質改善のために、窒化物を粒成長抑制に利用する以外で、被削性向上の観点からN、特に固溶Nを積極的に利用しようとする技術は存在しない。
【0019】
これに対し、本発明者等は、鋭意検討した結果、鋼にNを添加するだけでなく、固溶Nとして存在せしめることで、切り屑処理性を飛躍的に向上させ得ることを見出したのである。その理由は、Nが固溶することによって鋼マトリックスが脆化することに起因すると推定される。
【0020】
上記以外の従来の鋼での固溶Nと、鋼の特性との関係を調べると、例えば、鋼のC量が0.1%程度の低炭硫黄快削鋼(JISのSUM系快削鋼)では、Nは仕上げ面粗さなどを向上させる成分として知られているが、この場合、Al量、Cr量などの窒化物形成元素量が少なく、基本的に固溶N量が多い成分系である(例えば、特開平5−345951号)。
【0021】
他方、本発明では、後述するようにC量が0.2%以上の高強度鋼が対象であるが、このような分野では、Al、Cr、Ti、V、Nbなどの窒化物形成元素が積極的に添加されているだけでなく、各種合金元素を添加する際に、窒化物形成元素が不可避不純物として混入し、固溶N量が本発明で要求されるようなレベル(後述する)では存在しない。
【0022】
この他、被削性以外の観点から、鋼中の固溶N量を定めた技術に着目すると、例えば、特開平4−116125号では、トータルN:0.0060%以下、固溶N:0.0030%以下とすることで、鋼の温間延性を改善し得ることを開示している。また、特開平4−168244号では、トータルN:0.015%以下、固溶N:0.0020%以下とすることで、冷間引抜加工後の伸直性に優れた機械構造用鋼を開示している。しかしながら、これらの技術は、固溶Nを積極的に確保して利用しようとするものではなく、また、実際に固溶N量が本発明で要求されるレベルで存在するものではない。
【0023】
本発明鋼においては、固溶N量が、鋼全量に対し、0.0045%以上であることが要求される。固溶N量がこのような範囲であれば、鋼の被削性、特に切り屑処理性が飛躍的に向上する。より好ましくは0.0060%以上である。固溶N量の上限は特に限定されるものではないが、実際には、0.015%程度が固溶し得る最大の濃度である。
【0024】
以下、本発明鋼の各成分について説明する。
【0025】
C:0.2〜0.7%
Cは鋼の強度を確保するために必須の元素である。機械構造用鋼として要求される強度を確保するためには、0.2%以上であることが要求される。より好ましくは0.3%以上である。他方、C量が多過ぎると、鋼の硬度が増大し過ぎて切り屑処理性が低下するため、0.7%以下とする。より好ましくは0.5%以下である。
【0026】
Si:0.01〜2.5%
Siは脱酸剤として作用する他、鋼中に固溶して強度を高める作用を有するが、Si量が少な過ぎると、こうした作用が十分に確保できないため、0.01%以上とする。より好ましくは0.1%以上である。他方、Si量が多過ぎると、切り屑処理性が低下するため、2.5%以下とする。より好ましくは1.0%以下である。
【0027】
Mn:0.1〜3%
Mnも鋼中に固溶して強度を高める作用を有する他、MnSを生成して切り屑処理性を向上させる作用も有する。ただし、Mn量が少な過ぎると、こうした作用が十分に確保できないため、0.1%以上とする。より好ましくは0.3%以上である。他方、Mn量が多過ぎると、その効果が飽和するばかりか、鋼製造の際の冷却時にベイナイトなどの過冷組織を生成して、非調質で用いる場合には切り屑処理性を低下させるため、3%以下とする。より好ましくは1.5%以下である。
【0028】
S:0.01〜0.2%
Sは鋼の被削性を改善するために必須の元素であり、MnSを生成して切り屑処理性、仕上げ面粗さ、および工具寿命を向上させる。ただし、S量が少な過ぎると、こうした作用が十分に確保できないため、0.01%以上とする。より好ましくは0.03%以上である。他方、S量が多過ぎると、鋼の熱間加工性が低下するため、0.2%以下とする。より好ましくは0.15%以下である。
【0029】
P:0.05%以下(0%を含む)
Pは結晶粒界に偏析し易く、鋼の靭性を低下させる成分である。よって、その上限を0.05%に規定した。より好ましくは0.02%以下である。
【0030】
N:0.0045〜0.03%
Nは、上記の通り、固溶Nとして、鋼の被削性、特に切り屑処理性を確保する上で必須の成分である。鋼中の固溶N量が0.0045%以上であることが要求される観点から、鋼中のトータルN量の下限も0.0045%と規定した。より好ましくは0.0060%以上である。他方、鋼中のトータルN量が多過ぎると、固溶しきれなくなったNが種々の元素と結合して窒化物を形成し、切り屑処理性を低下させる。また、トータルN量が多過ぎると、鋳造の際に気泡が発生してキズの原因となる傾向にある。よって、N量(トータルN量)は0.03%以下と規定した。より好ましくは0.02%以下である。
【0031】
Al:0.0001%〜0.1%、および/または、Cr:0.03〜1.2%
Alは脱酸元素として作用し、種々の酸化物系介在物量を低減して鋼の機械的性質を向上させる。また、Crは鋼中に固溶して機械的性質を向上させる作用を有する。そこで、機械的構造用鋼として十分な機械的性質を確保すべく、AlとCrの1種以上を含有することと定めた。なお、Al:0.0001%未満、Cr:0.03%未満では、これらの効果を十分に確保することができない。より好ましくはAl:0.0002%以上、Cr:0.05%以上である。
【0032】
他方、Al量が0.1%超えると、鋼中でアルミナ系介在物を形成して鋼の切り屑処理性を低下させる。また、Cr量が1.2%を超えると、鋼が過冷組織を形成し易くなり、非調質で用いる場合には切り屑処理性が低下する。より好ましくは、Al:0.05%以下、Cr:0.5%以下である。
【0033】
以上が本発明鋼の主要な成分組成であるが、さらに本発明鋼では、以下の元素を含有したり、その量が制御されていることが好ましい。これらの元素について説明する。
【0034】
Ti:0.01%以下(0%を含む),
Zr:0.01%以下(0%を含む),
B :0.0005%以下(0%を含む),
V :0.01%以下(0%を含む),
Nb:0.01%以下(0%を含む),
Mo:0.01%以下(0%を含む),
Al:0.01%以下(0%を含む),
Cr:0.2%以下(0%を含む)
Ti、Zr、B、V、Nb、Mo、Al、Crの各元素は、Nと結合して窒化物や炭窒化物を生成し易く、固溶N量を低減させる作用を有する。よって、このような作用を抑制し、十分な固溶N量を確保するためには、各元素量を上記上限値以下とすることが推奨される。より好ましくは、Ti:0.005%以下、Zr:0.005%以下、B:0.0003%以下、V:0.005%以下、Nb:0.005%以下、Mo:0.005%以下、Al:0.008%以下、Cr:0.15%以下である。ただし、Al、Crについては、鋼の機械的性質を確保する観点から、上述の条件を満足する必要がある。
【0035】
Mg:0.02%以下(0%は含まない)、および/または、Ca:0.02%以下(0%は含まない)
MgやCaは、MnSの形状・大きさを均一化し、またMnS中に存在することで、鋼の圧延時におけるMnSの展伸の程度を抑制し、切り屑処理性と機械的性質をバランスよく確保し、また、これらの特性のバラツキを抑制する作用を有する。よって、MgかCaの少なくとも一方を上記範囲で含有することで、固溶Nとの相乗効果によって、切り屑処理性と機械的性質のバランスを一層改善した鋼とすることができる。ただし、Mg量および/またはCa量が多過ぎると、粗大なMnSが生成して鋼の切り屑処理性が低下する傾向にある。よって、Mg:0.02%以下、Ca:0.02%以下とすることが好ましく、Mg:0.005%以下、Ca:0.005%以下とすることがより好ましい。他方、MgやCaの量が少な過ぎるとその効果が十分に確保できないため、Mg:0.0005%以上、Ca:0.0005%以上とすることが好ましく、Mg:0.0008%以上、Ca:0.001%以上とすることがより好ましい。
【0036】
Cu:1%以下(0%は含まない)
Ni:0.5%以下(0%は含まない)
CuおよびNiを含有することで、鋼の切り屑処理性は一層向上する。Cuは、鋼マトリックスを脆化させて切り屑処理性を向上させる作用を有する。ただし、Cu量が一定量を超えても、効果が飽和してしまい、却ってコストの増大を引き起こすため、1%以下とすることが好ましく、0.5%以下とすることがより好ましい。他方、その量が少な過ぎると、その作用を十分に確保できないため、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上とすることが推奨される。また、NiはCuの添加によって生じ得る鋼の熱間加工性の低下を抑制する効果があり、Cuの添加に併せて用いるとよい。ただし、Ni量が一定量を超えても、効果が飽和してしまい、却ってコストの増大を引き起こすため、好ましくは0.5%以下、より好ましくは、0.2%以下とすることが望ましい。他方、Ni量が少な過ぎると、その作用を十分に確保することができないため、0.005%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましい。
【0037】
Bi:0.3%以下(0%は含まない)
Biは、鋼の切り屑処理性をさらに向上させる作用を有する。ただし、Bi量が多過ぎると、鋼の熱間加工性が著しく低下するため、0.3%以下とすることが好ましく、0.2%以下とすることがより好ましい。他方、Bi量が少な過ぎると、その作用を十分に確保することができないため、0.01%以上とすることが好ましく、0.04%以上とすることより好ましい。
【0038】
また、本発明では、固溶Nの上記作用に加えて、鋼中の硫化物系介在物の形態を制御することで、熱間圧延後の切り屑処理性と機械的性質の異方性とのバランスをより改善することができる。具体的には、鋼中に観察される硫化物系介在物のうち、長径が20μm以上の硫化物系介在物の個数をa、長径が5μm以上の硫化物系介在物の個数をbとするとき、a/b≦0.25を満足することが推奨される。a/bの値が上記範囲を超えると、鋼中に粗大な硫化物系介在物が多く存在することとなり、鋼の圧延方向に垂直な方向の靭性が低下する傾向にある。よって、a/b値は0.25以下であることが好ましく、より好ましくは0.20以下である。なお、上記a/bの下限については特に制限はなく、0であってもよい。ここで、a,bの値は、例えば、後述する実施例で用いた方法によって測定することができる。
【0039】
なお、上記硫化物系介在物としては、特に限定されず、Mn、Ca、Mg、およびZrの硫化物、あるいはその他の元素(Ni、Cr、Cu、Mo、V、Nb、Ti、Bi、希土類元素など)の硫化物、さらにこれらの複合硫化物、炭硫化物、酸硫化物などであってもよい。
【0040】
加えて、本発明の機械構造用鋼では、上述したAl量の下限を満足させて機械的性質を確保すると共に、このAl量が0.005%未満に制御されていることが推奨される。Al量がこのように制御されている機械構造用鋼では、Alや、Alを主体とする酸化物といった硬質酸化物の生成量が制限されるため、該鋼の切削などに用いられる工具の摩耗を抑制して長寿命化を図ることが可能となる。
【0041】
次に、本発明の機械構造用鋼の製造方法について説明する。本発明の機械構造用鋼を製造するに当たっては、Nの固溶化を伴う加熱と、その後、800℃から500℃までの平均冷却速度を0.8℃/秒以上とする冷却を備えた熱処理工程を含む製造方法を採用することが推奨される。
【0042】
Nの固溶化を伴う加熱では、鋼中に窒化物として存在していたNを再固溶させて、固溶N量を高める。この時の加熱温度は1050℃以上とすることが好ましく、1150℃以上とすることがより好ましい。上記加熱後、800℃から500℃までの平均冷却速度を0.8℃/秒以上で冷却するのは、各種窒化物が形成する温度は800〜500℃であるので、この温度域での冷却速度を高めて、鋼中に固溶したNが窒化物となるのを防止するためである。より好ましい平均冷却速度は1.0℃/秒以上、さらに好ましくは1.4℃/秒以上である。なお、冷却速度の上限は、特に限定されず、所望のミクロ組織が確保できる速度を適宜選択すればよい。
【0043】
なお、上記熱処理工程としては、例えば、熱間鍛造、焼きならしなどの工程が挙げられる。すなわち、これらの工程を、上述の加熱条件および冷却条件を満足するように実施すればよい。また、熱間鍛造や焼ならしの後に、焼入れ・焼戻しを施す場合では、上記条件で行う熱処理工程が熱間鍛造や焼ならしであってもよく、焼入れであっても構わない。この熱処理工程は、本発明鋼の製造工程のいずれかの工程で、条件を調節して実施すればよいが、本発明鋼の製造工程の2つ以上の工程(例えば、熱間鍛造と焼入れ)が、上記熱処理工程に該当してもよい。
【0044】
ただし、上記熱処理工程を行った後の鋼に、固溶したNが窒化物を形成し得るような処理を施すと、固溶N量が減少する傾向にある。よって上記熱処理工程後に他の工程がある場合は、できる限り、このような窒化物生成が生じ得る処理は施さないことが好ましい。よって、例えば、本発明の機械構造用鋼を、焼戻し処理を施して得る場合には、上記条件を満たす熱処理(焼ならし、焼入れなど)を行い、その後の焼戻し処理は、例えば、500℃以下、より好ましくは450℃以下で行い、固溶Nによる窒化物形成を抑制することが推奨される。なお、上記熱処理工程後に、固溶したNが窒化物を形成し得るような処理を施しても、最終的に得られる機械構造用鋼の固溶N量が上記範囲を満足するのであれば、このような処理を上記熱処理工程後に設けても特に差し支えない。
【0045】
また、本発明の機械構造用鋼において、鋼中の硫化物系介在物の形態を、上記a/b値を満足するように制御するには、例えば、特開2002−146473号に開示の方法を採用することが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0046】
Alキルド鋼では、硫化物系介在物の晶出核となる酸化物はAlであるが、Alは溶鋼中で凝集し、クラスター状になり粗大化することが知られている。つまり、硫化物系介在物の晶出核となる酸化物が粗大化していると、硫化物系介在物の形態自体も粗大化する。
【0047】
そこで、本発明鋼を製造するに当たり、実質的にAlを含有しない溶鋼に、実質的にAlを含有しないMg合金を添加すれば、酸化物系介在物としてMgOが生成し、このMgOが硫化物系介在物の晶出核となる。MgOはAlよりも凝集・クラスター化し難いため、酸化物系介在物は微細に分散し、よって硫化物系介在物は粗大化しない。
【0048】
また、MgOが多数分散している溶鋼を冷却すると、(1)MgOを核としてMgSが晶出し、さらに冷却すると、これを核にMnSなどの硫化物系介在物が晶出する。あるいは(2)MgOを核としてMgSとMnSなどが同時に晶出する。つまり、硫化物系介在物中にはMgが多く存在することになり、該介在物は変形し難くなるので、圧延時においても展伸し難くなり、切屑処理性および機械的性質の両性質が特に優れた鋼を得ることができる。
【0049】
なお、Alは溶鋼中で凝集し、クラスター状となり、粗大化することは上述した通りである。これは溶鋼とAlの濡れ性が非常に悪いことに起因する。これに対して、溶鋼とMgOの濡れ性は良好であるため、Alの場合と異なり、MgOはクラスター化することはない。このことは、MgOの方がAlよりも、溶鋼との界面エネルギーが小さいことによる。例えば、特許第2684307号には、Mgを添加して、溶鋼中のAlをMgO・Alに改質する方法が提案されており、さらに、該MgO・AlはMgOにまで変化することもある。MgO・AlやMgOは溶鋼との界面エネルギーが小さいので、そのサイズは微細であり、クラスター化もしづらい。しかしながら、溶鋼にMgを添加し、AlをMgO・Alに改質する前にAl同士が既に凝集し粗大化していると、硫化物系介在物も粗大化してしまう。一方、上記のように、実質的にAlを含有しない溶鋼に、実質的にAlを含有しないMg合金を添加すると、まずMgOが生成・分散する。このMgOはAlよりも界面エネルギーが小さく、そのサイズは微細で、クラスター化もしづらいので、上記Mg合金を添加した後にAlを添加しても、MgOが生成・分散している状態にAlが添加されるので、MgO・AlやAlは生成され難い。つまり、Alは脱酸元素として働くのではなく、加工・熱処理工程での結晶粒微細化元素として働く。たとえMgOがMgO・AlやAlリッチなMgOとAlの複合酸化物に変化したとしても、その速度は非常に遅いので、Alによる効果(加工・熱処理工程での結晶粒微細化)を保持しつつ、硫化物系介在物の形態を制御することはできる。
【0050】
本発明鋼において硫化物系介在物の形態を制御するには、実質的にAlを含有しない溶鋼に、実質的にAlを含有しないMg合金を添加し、前記Mg合金を添加した後に、実質的にAlを含有しないCa合金を添加することでも達成できる。Mg添加後の溶鋼中にCaを添加するとCaOやCaSを生成するが、このCaOは酸化物系介在物の一部となり、MgOと同様に硫化物系介在物の晶出核となる。また、上記CaSを含有する硫化物系介在物は、Mgを含有しない硫化物系介在物と比較すると、Mgを含有する硫化物系介在物と同様に展伸し難くなり、鋼の機械的性質(特に異方性の低減)が向上する。つまり、溶鋼中に生成した多数の(1)MgOなどの酸化物系介在物を核としてMgSと共にCaSが晶出し、さらに冷却すると、これを核にMnSなどの他の硫化物系介在物が晶出する。あるいは、(2)MgOなどの酸化物系介在物が晶出核となりMgSとCaSとMnSなどが同時に晶出する。よって、硫化物系介在物はMgとCaを多く含有することになり、該介在物は変形し難くなるので、圧延時においても展伸し難くなり、切屑処理性および機械的性質(特に靭性の低異方性)の両性質を有する鋼を得ることができる。また、上記Caを添加した後にAlを添加することも有効である。
【0051】
さらに、実質的にAlを含有しない溶鋼に、実質的にAlを含有しないMg合金と実質的にAlを含有しないCa合金を同時、もしくは最初のMg合金の添加を最初のCa合金の添加より早い時期で任意回数、任意順序で両者に添加しても鋼中の硫化物系介在物の形態を制御できる。つまり、Mg合金とCa合金を同時に添加すると、MgOや、CaOを含んだ酸化物を生成し、これらが晶出核となり硫化物系介在物が晶出する。これらの晶出核は凝集・クラスター化しないので、硫化物系介在物も粗大化しない。また、最初のMg合金の添加を最初のCa合金の添加より早い時期で任意回数、任意順序(例えばMg合金を添加後、Ca合金を添加し、さらにMg合金を添加する。)で添加すると、添加歩留まりを上げることができ、切屑処理性と機械的特性に優れた鋼を得ることができる。また、上記Mg合金とCa合金を添加した後に、Alを添加することも好ましい。
【0052】
一方、Ca合金を先に添加すると、Caは溶鋼に存在する微量のAlと反応し、CaO・Alを生成する。このCaO・Alは硫化物系介在物の晶出核と成り得るが、CaO・Al自体が大きな介在物となり易いので、硫化物系介在物も粗大化し、上記a/b値を上記上限値以下とすることができない。
【0053】
本発明鋼の製造に用いる溶鋼は、実質的にAlを含有しないものが好ましく、具体的には溶鋼に含有するAlの上限は0.005%であることが望ましい。Alが0.005%を超えると、Mg添加前にAlが生成し、上記a/b値を上記上限値以下とすることが困難となる。
【0054】
また、本発明鋼の製造に用いるMg合金とCa合金は、実質的にAlを含有しないものが好ましく、具体的にはMg合金、Ca合金共、Alの含有上限が1%であることが推奨され、少なければ少ないほど望ましい。1%超えてAlを含有する合金を溶鋼に添加すると、合金中のAlが溶鋼中のOと結合してAl を生成し、凝集・クラスターを形成し、Alを先に添加した状態と近くなり、上記a/b値を上記上限値以下とすることが困難となる。なお、Mg合金とCa合金を併用して添加する場合は、両合金中に含有されるAlの合計含有量の上限は1.2%以下であることが望ましい。
【0055】
MgやCaの添加方法は特に限定されるものではないが、MgおよびCaは高蒸気圧元素であり蒸発ロスし易く、また酸化され易いので、極力蒸発ロスや酸化ロスが少ない方法で添加することが好ましい。例えば、Mg合金やCa合金の粒状物を鉄製ワイヤ中に充填し、鉄製ワイヤごと溶鋼中へ添加する方法や、粒状物を不活性ガスと共に溶鋼内へ吹込む方式などが挙げられる。また、MgやCaは溶鋼中の歩留まりが悪いため、製鋼工程の作業性も考慮すると取鍋、タンディッシュ、モールドなどに存在する溶鋼に数回添加することが好ましく、歩留まりを向上させることができる。
【0056】
また、MgとCaは酸化され易い元素であり、大気による酸化ロスを防止するには、上記溶鋼をスラグで覆っておくことが好ましい。しかし、スラグ中にMgOやCaOが存在しないと、MgやCaを添加して生成するMgOやCaOはスラグに吸収されてしまうので、晶出核やその基になるMgOやCaOが減少する。そこで、スラグ中にMgOを15%以上含有させるのが好ましく、20%以上含有させるのがより好ましい。また、溶鋼にCaを添加する場合も同様に、スラグ中に15%以上のCaOを含有させるのが好ましく、20%以上含有させるのがより好ましい。
【0057】
本発明の機械構造溶鋼を製造する際には、上述の各工程以外の工程は、特に限定されず、従来公知の方法・条件を採用すればよい。
【0058】
なお、本発明の機械構造用鋼のミクロ組織は、特に限定されるものではなく、非調質で用いる「フェライト+パーライト」であっても、焼入れ・焼戻しを施した「焼戻しマルテンサイト」であってもよい。
【0059】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。なお、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0060】
表1〜表3に示す成分組成の評価用鋼No.1〜No.39を製造した。評価用鋼No.1〜No.22、No.24〜No.30、No.38、No.39については、高周波真空溶解炉で原料約150kgを溶解し、φ150mmのインゴットに鋳造した。押湯部分を切除したインゴットを1200℃に加熱し、熱間鍛造してφ80mmの丸棒状の評価用鋼を得た。一部の鋼については、熱間鍛造後、表1〜表3に示す温度および平均冷却速度(800℃から500℃)で焼ならしを施した。さらに、一部の鋼(No.12)については、熱間鍛造の後、880℃で30分油焼入れ、および450℃で60分焼戻しを実施した。
【0061】
評価用鋼No.23、No.31〜No.37については、転炉で溶鋼を溶製し、取鍋に出鋼する際にSi,Mn,Crを添加した。続いて、取鍋内溶鋼に真空処理を施し、脱ガス、脱酸を実施し、必要に応じて、Si、Mn、Cr、S、Ti、Zr、B、V、Nb、Moを添加し、実質的にAlを含有しない溶鋼を得た。その後、Ni−Mg合金、またはNi−MgとNi−Ca合金を取鍋に存在する溶鋼に添加した。添加方法は、MgまたはCaの合金粒状物を鉄製ワイヤ中に充填し、鉄製ワイヤごと溶鋼中へ添加する方法を用いた。その後Alを添加した。この溶鋼を、φ150mmのインゴットに鋳造した。押湯部分を切除したインゴットを1200℃に加熱し、熱間鍛造してφ80mmの丸棒状の評価用鋼を得た。一部の鋼については、熱間鍛造後、表2、表3に示す温度および平均冷却速度(800℃から500℃)で焼ならしを施した。
【0062】
固溶N量は、各評価用鋼より採取したサンプルについて、鋼中のトータルN量と、化合物型N量(例えば窒化物型のN量)を測定し、これらの差により求めた。なお、評価用鋼中のトータルN量は、不活性ガス融解熱伝導度法で測定した。また、評価用鋼中の化合物型N量は、サンプルから「10%アセチルアセトン+1%テトラアンモニウムクロリド+メタノール」溶液で電解抽出し、口径:0.1μmのフィルターで採取した成分について、インドフェノール吸光光度法により測定した。
【0063】
なお、表1の評価用鋼No.1〜No.17では、Ti、Zr、B、V、Nb、Mo、Mg、Ca、Cu、Ni、Biは積極的に添加しておらず、不可避不純物として混入したものである。また、表1〜表3の「―」は、当該元素が検出されなかったことを意味している。この他、表1〜表3の各元素(成分)の単位は「質量%」である。
【0064】
【表1】
Figure 2004143579
【0065】
【表2】
Figure 2004143579
【0066】
【表3】
Figure 2004143579
【0067】
これらの評価用鋼No.1〜No.39について、以下の評価を行った。結果を表4〜表6に示す。
【0068】
[切り屑処理性]
評価用鋼を長さ80mmに切断して被削鋼とし、これにφ6.0mmのガンドリルを用いて、深さ15mmの非貫通穴を2穴開ける切削試験を行った。切削は、速度2000rpm、送り速度0.044mm/revとし、潤滑油ミストで潤滑させながら実施した。切り屑処理性は、切粉の総個数と総質量から算出した切り屑指数(1g当たりの切粉個数)によって評価した。すなわち、切り屑指数の値が大きいほど、切り屑処理性が良好であることを意味している。
【0069】
[機械的性質の異方性]
上記評価用鋼からJIS G0303に従って評価用試験片を採取した。試験片はJIS Z2202に規定する3号試験片とした。試験片は、鍛造方向に平行および垂直の各方向で切り出した。これらの試験片について、シャルピー衝撃試験機(東京衡機製造所製、シャルピー式縦型)を用い、JIS Z2242に従って常温で衝撃試験を行った。各評価用鋼について、鍛造方向に垂直方向の衝撃値と、鍛造方向に平行方向の衝撃値との比(垂直方向衝撃値÷平行方向衝撃値)を算出し、機械的性質の異方性を評価した。すなわち、異方性の数値が1に近づくほど、機械的性質の異方性が小さく、良好であることを意味している。
【0070】
[硫化物系介在物の形状・サイズ]
上記の評価用鋼の一部(No.18〜No.39)について、鍛造の長手方向と平行な断面を切り出し、該断面を画像解析装置(株式会社ニレコ製LUZEXF)を用い、4mm×4mmの視野を100倍で観察して該視野中の硫化物系介在物の長径および短径を測定した。なお、測定は観察した画像を二値化処理して行った。二値化のレベルはRGBで取り込み、R:125/180,G:110/180,B:120/180に調整し、グレーレベルは明るさによって硫化物系介在物がマトリックスに対して十分区別できるように、その都度調整した。測定した画像から、長径が20μm以上の硫化物系介在物の個数(a)と、長径が5μm以上の硫化物系介在物の個数(b)を数え、「a/b」を算出した。
【0071】
【表4】
Figure 2004143579
【0072】
【表5】
Figure 2004143579
【0073】
【表6】
Figure 2004143579
【0074】
評価用鋼No.1〜No.6、No.9〜No.14、No.18〜No.23、No.31〜No.39は、本発明の要件を満足する実施例であり、切り屑処理性、衝撃値異方性のいずれもが優れている。また、硫化物系介在物のa/b値が、本発明の好ましい要件を満足する評価用鋼No.23、No.31〜No.37では、特に衝撃値の異方性が小さくなっており、切り屑処理性と、衝撃値異方性のバランスが非常に良好である。
【0075】
この他、評価用鋼No.34〜No.36は、Cu量およびNi量が本発明の好ましい要件を満足しており、評価用鋼No.37〜No.39は、Bi量が本発明の好ましい要件を満足している。よって、これらの評価用鋼では、切り屑処理性が特に優れている。
【0076】
これに対し、評価用鋼No.7、No.8、No.15〜No.17,No.24〜No.30は、以下に示す点で本発明の要件を満たしていない比較例であり、いずれも切り屑処理性が劣っている。
【0077】
No.7、No.8の評価用鋼は、Nの固溶化のための熱処理工程において、加熱温度(No.7)、あるいは平均冷却速度(No.8)が本発明の要件を満足しない例であり、鋼中のトータルN量が本発明の要件を満足しているにも関わらず、固溶N量が本発明の範囲を下回っている例である。
【0078】
No.15〜No.17の評価用鋼は、トータルN量が少なく、これに伴って固溶N量も少ない例である。
【0079】
No.24〜No.30の評価用鋼は、窒化物を形成し易いTi、Zr、B、V、Nb、Mo、Crのいずれか1種以上の元素量が、本発明の好ましい範囲を超えており、固溶N量が本発明の要件を下回っている例である。
【0080】
[工具寿命評価]
実施例に該当するNo.2、No.6、No.9、No.23、No.36、No.37の各評価用鋼について、該鋼を切削する工具の寿命と、該鋼のAl量との関係を調査すべく、切削試験を実施した。本評価において選択した評価用鋼は、C量が0.41%付近のものである。
【0081】
具体的には、P種超硬チップを用いた旋削試験の際の工具摩耗量を測定した。試験条件は、切削速度:150m/min、送り:0.2mm、切り込み:1.0mmで、20分間切削することとし、その際の工具の摩耗量[逃げ面摩耗量(VB)、すくい面摩耗量(KT)]を実測した。結果を表7に示す。なお、表7には、上記「a/b」(測定しているもののみ)、上記切り屑指数、および上記衝撃値異方性も併記する。
【0082】
【表7】
Figure 2004143579
【0083】
表7から分かるように、これらの評価用鋼はいずれも本発明の実施例に該当するものであるため、切り屑処理性および衝撃値異方性については、非常に良好である。しかし、No.2、No.6、No.23の各評価用鋼では、Al量が0.005%未満に制御されていないため、これらの鋼の切削試験後における超硬工具の摩耗量が比較的大きい。これに対し、No.9、No.36、No.37の各評価用鋼は、Al量が0.005%未満に制御されており、これらの鋼の切削試験後における超硬工具の摩耗量が小さく、工具寿命が著しく改善されている。
【0084】
なお、この工具寿命評価に供した各評価用鋼に存在する酸化物系介在物を、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散形X線分析装置)で分析した結果、表7に示すように、Al量が0.005%未満に制御されていないNo.2、No.6、No.23の各評価用鋼では、Al、およびAl+SiOを主体とする硬質酸化物が多く存在していることが分かった。これに対し、Al量が0.005%未満に制御されているNo.9、No.36、No.37の各評価用鋼では、こうした硬質酸化物の存在量が極めて少ない。特にNo.36およびNo.37の評価用鋼では、固溶N量および硫化物系介在物の形態の制御、並びにAl系の硬質酸化物の低減が達成されており、各種特性を高いレベルで兼ね備えた機械構造用鋼が得られている。
【0085】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、Pbフリーであっても鋼中の固溶Nを特定量以上に制御することで、Pb快削鋼に匹敵する切り屑処理性を有する機械構造用鋼と、その製造方法を提供することができた。また、本発明の機械構造用鋼は機械的性質も優れており、該性質と切り屑処理性のバランスが良好である。さらに、本発明の機械構造用鋼では、鋼中のAl量を特定範囲に制御することで、鋼中に生成するAl系の硬質酸化物の生成を抑制することが可能であり、該鋼の切削などに用いられる工具の摩耗を抑えて、長寿命化を図ることも可能である。

Claims (8)

  1. C :0.2〜0.7%(質量%の意味、以下同じ),
    Si:0.01〜2.5%,
    Mn:0.1〜3%,
    S :0.01〜0.2%,
    P :0.05%以下(0%を含む),
    N  :0.0045〜0.03%を含有し、さらに
    Al:0.0001〜0.1%、および/または、
    Cr:0.03〜1.2%
    を含有する鋼であって、
    前記Nのうち、固溶N量が、鋼全量に対し0.0045%以上に制御されているものであることを特徴とする切り屑処理性に優れた機械構造用鋼。
  2. さらに、
    Ti:0.01%以下(0%を含む),
    Zr:0.01%以下(0%を含む),
    B :0.0005%以下(0%を含む),
    V :0.01%以下(0%を含む),
    Nb:0.01%以下(0%を含む),
    Mo:0.01%以下(0%を含む),
    Al:0.01%以下(0%を含む),
    Cr:0.2%以下(0%を含む)
    に制御されているものである請求項1に記載の機械構造用鋼。
  3. さらに、Mg:0.02%以下(0%は含まない)、および/または、Ca:0.02%(0%は含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の機械構造用鋼。
  4. さらに、Cu:1%以下(0%は含まない)、且つ、Ni:0.5%以下(0%は含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の機械構造用鋼。
  5. さらに、Bi:0.3%以下(0%は含まない)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の機械構造用鋼。
  6. 鋼中に観察される硫化物系介在物のうち、長径が20μm以上の硫化物系介在物の個数をa、長径が5μm以上の硫化物系介在物の個数をbとするとき、
    a/b≦0.25
    を満足するものである請求項1〜5のいずれかに記載の機械構造用鋼。
  7. さらに、Al:0.005%未満に制御されているものである請求項1〜6のいずれかに記載の機械構造用鋼。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の機械構造用鋼を製造するに当たり、
    Nの固溶化を伴う加熱と、その後、800℃から500℃までの平均冷却速度を0.8℃/秒以上とする冷却を備えた熱処理工程を含むことを特徴とする切り屑処理性に優れた機械構造用鋼の製造方法。
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