JP2004088080A - β−FeSi2系熱電変換材料および熱電変換素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】β相への相転移が促進され、工業的に有用な程度にまで短時間でβ転移すると共に、素子の熱電変換効率が向上、特にゼーベック係数と比抵抗を変化させることなく、低い熱伝導率を有することによって、熱電変換効率が向上した、新規なβ−FeSi2 系熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子の提供。
【解決手段】導電型決定元素ならびにSnおよび/またはPbを含むβ−FeSi2 系熱電変換材料および該熱電変換材料からなるβ−FeSi2 系熱電変換素子。
【選択図】なし
【解決手段】導電型決定元素ならびにSnおよび/またはPbを含むβ−FeSi2 系熱電変換材料および該熱電変換材料からなるβ−FeSi2 系熱電変換素子。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、β−FeSi2 系熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱エネルギーと電気エネルギーを可逆変換する熱電効果は、ゼーベック効果、ペルチェ効果およびトムソン効果に大別される。ゼーベック効果は、異種物質を接合して一方の接合部を低温にすると、2つの接合部の間の温度差に応じて熱起電力が発生する現象をいい、ペルチェ効果は、異種物質を接合して電流を流すと、一方の接合部では熱を吸収し他方の接合部では熱を発生する現象をいい、また、トムソン効果とは、均一な物質の一端を高温にし他端を低温にし、温度勾配に沿って直流電流を流すと電流の方向によって材料内部で熱の吸収または放出が起きる現象をいう。
【0003】
これらの熱電効果を利用する熱−電気エネルギー直接変換装置は、振動、騒音、摩耗等を生じる可動部分がなく、構造が簡単で信頼性が高く、高寿命で保守が容易であるという特長を持ち、例えば、各種化石燃料等の燃焼によって直接的に直流電流を得たり、冷媒を用いないで温度制御したりするのに適している。また、宇宙探査衛星に搭載されているRTG(ラジオアイソトープ熱電発電機)、ごみ焼却炉廃熱利用の発電機(ゴミ発電機)、体温と外気温との温度差で発電して動作する時計などに利用されている。また電流の向きで吸熱・発熱を自由に切り替え、精密な温度制御ができることを生かして精密温度調整装置(半導体製造工場で使用)、冷温庫(スイッチの切り替えで冷蔵庫にも温蔵庫にも使える)等にも利用されている。
【0004】
これらの熱電効果を利用する技術の中でも、特に、ゼーベック効果を利用して熱エネルギーから直接発電を行う技術は、熱エネルギーの有効利用、特に近年では炭酸ガス排出量削減、工場等での廃熱の回収、再利用等の観点から、実用化が期待されている。この熱電変換用材料として、種々の材料が知られているが、耐酸化性に優れ、原料が比較的安価なことなどから中温〜高温域の材料としてβ−FeSi2 系が注目されている。しかし、β−FeSi2 系材料は熱電変換効率が低く、実用化例はロウソクラジオなどに限られているのが現状である。
【0005】
β−FeSi2 系熱電変換材料は、所定量のFe、Si、およびMnやCoなどの導電型を決定するドーパント(以下、「導電型決定元素」という)を溶解・凝固して得られる金属相(α相とε相の共晶合金)に長時間の熱処理を施し、半導体であるβ相に相転移して製造される。このβ相転移に際しては、周期律表において第11族、あるいは第10族元素の内、Cuなどの一部の元素の添加が促進効果を有することが知られている。例えば、特許文献1には相転移促進材として、CuまたはAuが記載されている。また、特許文献2にはポリビニルアルコールなどの樹脂にCuを均一分散させたバインダーを添加して成形・焼結・熱処理する方法が記載されている。Cuなどの添加によって、β相への転移速度は50倍以上に促進されており、相転移促進材として高い効果を発揮している。
【0006】
しかし、これらの相転移促進材は、β−FeSi2 系材料の熱電変換効率の向上には何ら寄与しない。このことは、特許文献1に記載されているように、Cuなどの促進材がβ−FeSi2 結晶に固溶するのではなく、β相結晶の粒界に金属Cuとして存在するため、β−FeSi2 の半導体特性に何ら影響しないことから自明である。
【0007】
また、特許文献3には、CuまたはAu化合物を添加することによって熱電特性が向上する旨の記載がある。しかし、特許文献3に記載の熱電特性の向上は、材料の焼結温度を高くして高密度とし、粒界に介在する促進材によって応力が緩和されたことによるもの、と考えられる。
【0008】
さらに、特許文献4には、
【0009】
【化1】
【0010】
(ただし、−0.1<z<0.1)なる組成にGeを含有させたことを特徴とする熱電変換材料が記載され、Geの添加によって比抵抗が低下し、電力因子(W/m/K)が増大する旨記載されている。しかし、特許文献4に記載の熱電変換材料において、Geは導電性キャリアの供給源になっており、熱伝導率の内のキャリア成分が増大する結果、有効な発電出力の指標となる性能指数(電力因子/熱伝導率)は増大しないことになる。さらに、特許文献4にはβ相への相転移促進については何ら記載されていない。なお、特許文献4には、実施例として800℃で1時間の結晶化熱処理を行った旨の記載があるが、これは、膜厚1μmの薄膜材料であるために短時間で結晶化が達成されているに過ぎず、Geが相移促進効果を有することを示すものでは無いことが明らかである。
【0011】
以上から明らかなように、β相への相転移を促進すると共に、熱電変換効率をも同時に向上させることができることについては、何ら知られていない。
【0012】
【特許文献1】
特開平7−211944号公報
【特許文献2】
特開平8−139368号公報
【特許文献3】
特開平6−244465号公報
【特許文献4】
特開平7−45869号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、β相への相転移が促進され、工業的に有用な程度にまで短時間でβ転移すると共に、素子の熱電変換効率が向上、特にゼーベック係数と比抵抗を変化させることなく、低い熱伝導率を有することによって、熱電変換効率が向上した、新規なβ−FeSi2 系熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、熱電変換材料にSnおよび/またはPbを添加すると、β相への相転移が著しく促進されることを見出した。さらに驚くべきことに、SnまたはPbを添加したβ−FeSi2 系熱電変換材料は、ゼーベック係数と比抵抗は変化することなく、熱伝導率が著しく低下し、その結果、熱電変換効率が著しく向上することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、導電型決定元素ならびにSnおよび/またはPbを含むβ−FeSi2 系熱電変換材料を提供する。
【0016】
また、好ましくは、本発明は、下記式(1)で表される元素組成を有し、かつ{yz/(1+z)}×100で示される添加率が0.03〜10原子%であるβ−FeSi2 系熱電変換材料である。
Fe1−x Ax (Si1−y Sny )z ……(1)
ここで、Aは導電型決定元素、xは0.01〜0.25、zは1.5〜2.5である。
【0017】
また、好ましくは、本発明は、下記式(2)で表される元素組成を有し、かつ{yz/(1+z)}×100で示される添加率が0.03〜5原子%であるβ−FeSi2 系熱電変換材料である。
Fe1−x Ax (Si1−y Pby )z ……(2)
ここで、Aは導電型決定元素、xは0.01〜0.25、zは1.5〜2.5である。
【0018】
さらに好ましくは、前記導電型決定元素が、Mn、AlおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種またはCoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0019】
また、本発明は、前記β−FeSi2 系熱電変換材料からなるβ−FeSi2 系熱電変換素子を提供する。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のβ−FeSi2 系熱電変換材料(以下、「本発明の熱電変換材料」ともいう)およびそれを用いた熱電変換素子について詳細に説明する。
【0021】
本発明の熱電変換材料は、導電型決定元素と、Snおよび/またはPbを含むものであり、下記式(3)で表される元素組成を有するものである。
Fe1−x Ax (Si1−y My )z (3)
ここで、Aは導電型決定元素であり、具体的には、p型の熱電変換材料の場合はMn、Al、Crなどを、n型の熱電変換材料の場合はCo、Niなどを例示することができる。本発明の熱電変換材料は、導電型決定元素として単一の元素のみを含んでいてもよいが、導電型が同じグループ内であれば、例えば、MnとAlのように、複数種の元素を含んでいてもよい。
xは、導電型決定元素の種類にもよるが、通常0.01〜0.25の範囲であり、好ましくは0.03〜0.1の範囲である。
【0022】
zの値は、1.5以上2.5以下が好ましく、1.8以上2.2以下が特に好ましい。1.5未満ではε−FeSiの生成量が多くなり、β相への相転移促進効果が低下すると共に熱伝導率の低減効果も不十分となるため、好ましくない。zの値が2.5超えではβ相への相転移促進効果は高いものの、残留するSiにより比抵抗が高くなるため、好ましくない。
【0023】
本発明の熱電変換材料の各成分の元素組成を表す式(3)に示すMはSnおよび/またはPbであり、本発明の熱電変換材料は、SnまたはPbをそれぞれ1種単独でまたは両元素を同時に含むものでもよい。Mを含むことによって、含まないものに比べて、β相への相転移速度が著しく速くなると共に、素子のゼーベック係数と比抵抗は変化せず、熱伝導率が著しく低下することによって熱電変換効率が高くなる。特に、添加元素数が多いと、工業的には必ずしも有利とは言えないことから、MとしてSnまたはPbを単独で添加することが好ましい。さらに、Pb化合物の毒性を考慮すると、Snを単独で添加することが特に好ましい。
【0024】
本発明の熱電変換材料において、MとしてSnを含む場合、Snの添加率は0.03〜10原子%の範囲であることが好ましく、特に、0.3〜3原子%の範囲が好ましい。
本発明において、SnまたはPbの添加率とは、前記式(1)、(2)または(3)に基づいて、下記式(4)で定義される値である。
添加率=[yz/(1+z)]×100 (原子%) (4)
【0025】
Snの添加率が0.03原子%未満では、β相への相転移促進効果、素子の熱伝導率低減効果共に不十分であり、本発明の効果が得られない。Snの添加率が10原子%を超えると、相転移促進効果は充分に高いものの、FeSi2 に固溶できないSnの量が多くなり、熱伝導率の低減効果が発現しなくなると共に素子の耐酸化性が低下するため、好ましくない。
【0026】
また、本発明の熱電変換材料において、MとしてPbを添加する場合、Pbの添加率が0.03〜5原子%の範囲であることが好ましく、特に好ましくは0.2〜2原子%である。
【0027】
Pbの添加率が0.03原子%未満では、β相への相転移促進効果、素子の熱伝導率低減効果共に不十分であり、本発明の効果が得られない。Pbの添加率が5原子%を超えると、相転移促進効果は充分に高いものの、FeSi2 に固溶できないPbの量が多くなり、熱伝導率の低減効果が発現しなくなると共に素子の耐酸化性が低下するため、好ましくない。さらに、Pbの添加率が5原子%を超えると、有毒なPb化合物が析出する可能性もあるため、好ましくない。
【0028】
本発明の好ましい態様の内、比較的低い添加率までは、SnまたはPbはFeSi2 に完全に固溶しているが、比較的高い添加率においては、本発明の好ましい態様の範囲内であっても、SnまたはPbはFeSi2 に完全には固溶しないことがある。しかし、固溶できないSnまたはPbの量は少なく、FeSi2 の粒界に均一に分散して存在できるため、本発明の効果を失うことはない。なお、SnまたはPbが完全に固溶できなくなる添加率は、一般式(1)における導電型決定元素Aの添加率xによっても変化するので、一概に決定することはできない。
【0029】
本発明の熱電変換材料の製造は、特に制限されず、公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、(a)原料を高周波溶解・急冷してε相とα相の共晶合金からなるインゴットを形成した後、粉砕し、粉砕物にバインダーを添加して造粒し、これを所望の形状に冷間プレス等により成形して脱脂した後、焼結して所望の形状の焼結体とし、さらに熱処理して焼結体を構成する共晶合金をβ相転移化する方法(例えば、特開平8−139368号公報(特許文献2)に記載の方法)、(b)原料を高周波溶解して合金溶湯を形成し、この合金溶湯を不活性ガスを用いた高圧噴霧装置(ガスアトマイズ法)、あるいは高圧水を用いた噴霧装置(水アトマイズ法)によって容器内に噴霧冷却して微細な共晶合金粉末を得、この粉末にバインダー等を添加して造粒し、これを所望の形状に冷間プレス等により成形して脱脂した後、焼結して所望の形状の焼結体とし、さらに熱処理して焼結体を構成する共晶合金をβ相転移化する方法(例えば、特開平7−211944号公報(特許文献1)に記載の方法)、(c)原料粉末を混合分散し、粉砕と圧着を機械的に繰り返して行い原子レベルでの混合状態とするメカニカルアロイング法により直接、共晶合金粉末を得、この粉末にバインダー等を添加して造粒し、これを所望の形状に冷間プレス等により成形して脱脂した後、焼結して所定の形状の焼結体とし、さらに熱処理して焼結体を構成する共晶合金のβ相転移を行う方法、(d)GaやInのような低融点金属融液に原料を溶解させ、溶液に温度差を設定することにより、低温部に本発明の熱電変換材料粉末結晶を得(例えば、鵜殿治彦「半導体シリサイドバルク結晶の溶液成長」材料科学、Vol.37(No.1)34−38(1999)記載の溶液成長法)、その後、前記(a)〜(c)のようなプレス成形・脱脂・焼結・熱処理からなる一連の工程によりβ相転移を行う方法などの各種の方法が適用できる。
【0030】
メカニカルアロイングに用いられる混合機としては、例えば、転動式のボールミル、振動ボールミル、遊星型のボールミル、アトライター等の機械的衝撃力によって混合分散を行う装置が挙げられる。
【0031】
また、焼結は、真空中、水素等の還元性ガス雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で、加熱して焼結する方法、あるいは最初に粉体にパルス状の電流を流すことで粉体間に放電を生じさせ,その後直流通電により加熱焼結させるプラズマ活性化焼結(PAS)法などが挙げられる。PAS法は、短時間で比較的低温でも緻密な焼結体が得られる利点がある。
【0032】
熱処理は、特に制限されず、電気炉等の常用の装置を用いて、空気中、不活性ガス雰囲気中または水素等の還元性ガス雰囲気中で行うことができる。このとき、本発明の熱電変換材料において、熱処理は、Snおよび/またはPbの添加によって、β層転移が促進され、従来の約1/25〜1/50程度の短時間でβ相転移を行うことができる。
【0033】
さらに、本発明の熱電変換材料は、密度比等について、何ら制限されず、例えば、林宏爾「熱電変換素子用多孔質焼結体−ガス燃焼式多孔構造熱電発電装置用の熱電変換素子−」まてりあ、Vol.35(No.9)965−968(1996)に記載されているような、多孔構造とすることもできる。
【0034】
本発明の熱電変換材料の製造において、Fe、Si、導電型決定元素、ならびにSnおよび/またはPbとして用いる原料は、特に制限されず、工業用低純度品(98〜99%程度)または高純度品(99.99%以上)のいずれを用いてもよく、例えば、西田勲夫「金属間化合物半導体FeSi2 の製造法とその熱電特性」鉄と鋼、Vol.81(No.10)N454−N460(1995)に記載されているもの、あるいは電解鉄や半導体用多結晶シリコンなどを用いることができる。また、原料の形状は、製造方法等に応じて、インゴットやその粗砕品、あるいは粉末等任意の形状のものを適宜用いることができる。
【0035】
また、本発明は、本発明の熱電変換材料からなるβ−FeSi2 系熱電変換素子(以下「本発明の熱電変換素子」ともいう)を提供する。この熱電変換素子の形状は、特に制限されず、例えば、西田勲夫「金属間化合物半導体FeSi2 の製造法とその熱電特性」鉄と鋼、Vol.81(No.10)N454−N460(1995)に示されているU字型素子、あるいはπ字型などの任意の形状を、使用目的、用途等に応じて選択することができる。
より具体的に用途と素子形状との関係を例示すると、ごみ焼却炉や焼成炉等の種々の工業炉から発生する廃熱を利用して熱電発電を行うような場合は、一般に、熱電発電設備の設置スペースに余裕があること、並びに熱源が1000℃以上の高温であることから、π字型に比べて素子高さが高くなるものの、p型材料とn型材料との一体成型・一体焼結が可能なU字型素子を選択することが好ましい。一方、自動車排気ガスの排熱から熱電発電を行うような場合は、熱電発電設備の設置スペースや重量が限られていること、熱源は炉用途よりも低温であることから、π字型素子を選択することが好ましい。
【0036】
この素子の製造は、前記変換材料の焼結時に所定の形状に成形して行ってもよいし、焼結および熱処理後、所望の形状に成形して行ってもよい。共晶合金粉末に分散剤、溶剤などを混合し、スラリーを調整した後、ドクターブレード法などによってp型およびn型のシートを成形・積層し、所定の形状に切断した後、焼結してもよい。
【0037】
なお、本発明のβ−FeSi2 系熱電変換材料から製造される、これらU字型、あるいはπ字型素子群から構成される熱電変換モジュールと、Bi−Te系等の低温用熱電変換材料から成る熱電変換モジュールとを組合せて利用する、所謂カスケード型モジュールを作製することも可能である。この場合、本発明の熱電変換素子群から排出される低温熱源を利用してさらに熱電変換を行うため、単位面積あたりの発電出力が大きくなり、自動車等の設置スペースに制限がある用途には、特に好ましい。
【0038】
【実施例】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例によって、限定されるものではない。
原料として、工業用鉄粉(純度99%)、工業用金属シリコン(純度99.5%)、および高純度金属試薬(Sn:純度99.99%、Pb:純度99.9%、Mn:純度99.99%、Co:純度99.9%)を用いた。なお、鉄粉は直径20mm、厚さ3mmの円盤状に成形して用いた。
【0039】
表1に示す組成となるよう各原料を秤量した後、高周波溶解炉によって高純度アルゴン雰囲気下、1873K以上の温度で溶解した。得られた溶製材を粉砕し、粒径53μm以下の粉末を採取した。粉末の元素分析の結果、表1に示す仕込み組成は分析値と良く一致していた。
【0040】
採取した粉末は、1,3−ブタンジオールのエタノール溶液(濃度50質量%)をバインダーとして粒径1mm前後の粒状に造粒した後、1.16×102 MPaの圧力で冷間プレスして所定形状(25mm×10mm×厚さ4mmおよび直径11.5mm×厚さ8mm)に成形した。得られた圧粉体を1448K以上の温度で真空焼結(圧力0.5Pa以下)し、密度比70%以上の焼結体とした後、1123Kで所定時間熱処理してβ相化した。
【0041】
β化した試料は、ゼーベック係数と抵抗測定用として3mm×3mm×16mmの試験片に、熱伝導率測定用として直径10mm×厚さ1mmの試験片に、X線回折測定用として8mm×3mm×10mmの試験片に、それぞれ加工した。ゼーベック係数と抵抗率の測定はアルバック理工(株)製の熱電特性評価装置を、熱伝導率の測定はアルバック理工(株)製のレーザフラッシュ法熱定数測定装置を使用して行った。
【0042】
表1に本発明の実施例および比較例として作製したβ−FeSi2 系熱電変換材料の組成およびそれを用いた熱電変換素子FeSi2 系熱電変換材料の、773Kにおける性能(ゼーベック係数、抵抗率、熱伝導率)測定値、β化時間をまとめて示す。ここで、密度比とは作製した各試験片の実測密度とβ−FeSi2 理論密度(4.95)との比であり、β化時間とはβ相の組成が90%以上になるために必要な熱処理時間を意味する。β相転移の確認は、X線回折法により行い、α相(ミラー指数hkl=102)、ε相(ミラー指数hkl=210)、ならびに、β相(ミラー指数hkl=202)のX線回折強度比からβ相組成を算出した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
注 性能指数=(ゼーベック係数)2 /(抵抗率)/(熱伝導率)
熱電変換効率∝(性能指数)×(温度)
【0046】
表1より明らかなように、本発明のβ−FeSi2 系熱電変換素子の熱伝導率はSnまたはPbを添加していない比較例(Fe0.92Mn0.08Si2 、Fe0.97Co0.03Si2 )の熱伝導率の1/2未満を示し、顕著に低下しており、さらに、本発明の熱電変換素子のβ化時間は比較例におけるβ化時間の1/25〜1/50と著しく短縮されており、本発明が熱伝導率の低減とβ相への転移時間の短縮に顕著な効果を有することがわかる。本発明の熱電変換素子のゼーベック係数と抵抗率は比較例のゼーベック係数、抵抗率と実験誤差範囲内でほぼ一致していることから、本発明の熱電変換素子の性能指数は2倍以上に増大しており、熱電変換効率は著しく増大していることがわかる。
【0047】
【発明の効果】
本発明の熱電変換材料は、β相への相転移速度が著しく促進されるため、その熱処理時間が短縮され、工業的生産において、生産時間の短縮、コストの低減等を得ることができ、生産性の向上に著しく有利である。また、本発明の熱電変換材料は、低い熱伝導率を有するため、著しく熱電変換効率が向上し、熱電変換性能に優れたβ−FeSi2 系熱電変換素子を得ることが可能であり、種々の熱電変換装置へ適用することができる。また、本発明の熱電変換材料は、ゼーベック効果に限定されず、ペルチェ効果およびトムソン効果を利用した各種素子の素材として有用である。
さらに、本発明の熱電変換素子は、熱電変換性能に優れるため、熱エネルギーから直接発電を行う装置に適用して、熱エネルギーの有効利用、特に近年では炭酸ガス排出量削減、工場や自動車等での廃熱の回収、再利用等に実用化が期待できる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、β−FeSi2 系熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱エネルギーと電気エネルギーを可逆変換する熱電効果は、ゼーベック効果、ペルチェ効果およびトムソン効果に大別される。ゼーベック効果は、異種物質を接合して一方の接合部を低温にすると、2つの接合部の間の温度差に応じて熱起電力が発生する現象をいい、ペルチェ効果は、異種物質を接合して電流を流すと、一方の接合部では熱を吸収し他方の接合部では熱を発生する現象をいい、また、トムソン効果とは、均一な物質の一端を高温にし他端を低温にし、温度勾配に沿って直流電流を流すと電流の方向によって材料内部で熱の吸収または放出が起きる現象をいう。
【0003】
これらの熱電効果を利用する熱−電気エネルギー直接変換装置は、振動、騒音、摩耗等を生じる可動部分がなく、構造が簡単で信頼性が高く、高寿命で保守が容易であるという特長を持ち、例えば、各種化石燃料等の燃焼によって直接的に直流電流を得たり、冷媒を用いないで温度制御したりするのに適している。また、宇宙探査衛星に搭載されているRTG(ラジオアイソトープ熱電発電機)、ごみ焼却炉廃熱利用の発電機(ゴミ発電機)、体温と外気温との温度差で発電して動作する時計などに利用されている。また電流の向きで吸熱・発熱を自由に切り替え、精密な温度制御ができることを生かして精密温度調整装置(半導体製造工場で使用)、冷温庫(スイッチの切り替えで冷蔵庫にも温蔵庫にも使える)等にも利用されている。
【0004】
これらの熱電効果を利用する技術の中でも、特に、ゼーベック効果を利用して熱エネルギーから直接発電を行う技術は、熱エネルギーの有効利用、特に近年では炭酸ガス排出量削減、工場等での廃熱の回収、再利用等の観点から、実用化が期待されている。この熱電変換用材料として、種々の材料が知られているが、耐酸化性に優れ、原料が比較的安価なことなどから中温〜高温域の材料としてβ−FeSi2 系が注目されている。しかし、β−FeSi2 系材料は熱電変換効率が低く、実用化例はロウソクラジオなどに限られているのが現状である。
【0005】
β−FeSi2 系熱電変換材料は、所定量のFe、Si、およびMnやCoなどの導電型を決定するドーパント(以下、「導電型決定元素」という)を溶解・凝固して得られる金属相(α相とε相の共晶合金)に長時間の熱処理を施し、半導体であるβ相に相転移して製造される。このβ相転移に際しては、周期律表において第11族、あるいは第10族元素の内、Cuなどの一部の元素の添加が促進効果を有することが知られている。例えば、特許文献1には相転移促進材として、CuまたはAuが記載されている。また、特許文献2にはポリビニルアルコールなどの樹脂にCuを均一分散させたバインダーを添加して成形・焼結・熱処理する方法が記載されている。Cuなどの添加によって、β相への転移速度は50倍以上に促進されており、相転移促進材として高い効果を発揮している。
【0006】
しかし、これらの相転移促進材は、β−FeSi2 系材料の熱電変換効率の向上には何ら寄与しない。このことは、特許文献1に記載されているように、Cuなどの促進材がβ−FeSi2 結晶に固溶するのではなく、β相結晶の粒界に金属Cuとして存在するため、β−FeSi2 の半導体特性に何ら影響しないことから自明である。
【0007】
また、特許文献3には、CuまたはAu化合物を添加することによって熱電特性が向上する旨の記載がある。しかし、特許文献3に記載の熱電特性の向上は、材料の焼結温度を高くして高密度とし、粒界に介在する促進材によって応力が緩和されたことによるもの、と考えられる。
【0008】
さらに、特許文献4には、
【0009】
【化1】
【0010】
(ただし、−0.1<z<0.1)なる組成にGeを含有させたことを特徴とする熱電変換材料が記載され、Geの添加によって比抵抗が低下し、電力因子(W/m/K)が増大する旨記載されている。しかし、特許文献4に記載の熱電変換材料において、Geは導電性キャリアの供給源になっており、熱伝導率の内のキャリア成分が増大する結果、有効な発電出力の指標となる性能指数(電力因子/熱伝導率)は増大しないことになる。さらに、特許文献4にはβ相への相転移促進については何ら記載されていない。なお、特許文献4には、実施例として800℃で1時間の結晶化熱処理を行った旨の記載があるが、これは、膜厚1μmの薄膜材料であるために短時間で結晶化が達成されているに過ぎず、Geが相移促進効果を有することを示すものでは無いことが明らかである。
【0011】
以上から明らかなように、β相への相転移を促進すると共に、熱電変換効率をも同時に向上させることができることについては、何ら知られていない。
【0012】
【特許文献1】
特開平7−211944号公報
【特許文献2】
特開平8−139368号公報
【特許文献3】
特開平6−244465号公報
【特許文献4】
特開平7−45869号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、β相への相転移が促進され、工業的に有用な程度にまで短時間でβ転移すると共に、素子の熱電変換効率が向上、特にゼーベック係数と比抵抗を変化させることなく、低い熱伝導率を有することによって、熱電変換効率が向上した、新規なβ−FeSi2 系熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、熱電変換材料にSnおよび/またはPbを添加すると、β相への相転移が著しく促進されることを見出した。さらに驚くべきことに、SnまたはPbを添加したβ−FeSi2 系熱電変換材料は、ゼーベック係数と比抵抗は変化することなく、熱伝導率が著しく低下し、その結果、熱電変換効率が著しく向上することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、導電型決定元素ならびにSnおよび/またはPbを含むβ−FeSi2 系熱電変換材料を提供する。
【0016】
また、好ましくは、本発明は、下記式(1)で表される元素組成を有し、かつ{yz/(1+z)}×100で示される添加率が0.03〜10原子%であるβ−FeSi2 系熱電変換材料である。
Fe1−x Ax (Si1−y Sny )z ……(1)
ここで、Aは導電型決定元素、xは0.01〜0.25、zは1.5〜2.5である。
【0017】
また、好ましくは、本発明は、下記式(2)で表される元素組成を有し、かつ{yz/(1+z)}×100で示される添加率が0.03〜5原子%であるβ−FeSi2 系熱電変換材料である。
Fe1−x Ax (Si1−y Pby )z ……(2)
ここで、Aは導電型決定元素、xは0.01〜0.25、zは1.5〜2.5である。
【0018】
さらに好ましくは、前記導電型決定元素が、Mn、AlおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種またはCoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0019】
また、本発明は、前記β−FeSi2 系熱電変換材料からなるβ−FeSi2 系熱電変換素子を提供する。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のβ−FeSi2 系熱電変換材料(以下、「本発明の熱電変換材料」ともいう)およびそれを用いた熱電変換素子について詳細に説明する。
【0021】
本発明の熱電変換材料は、導電型決定元素と、Snおよび/またはPbを含むものであり、下記式(3)で表される元素組成を有するものである。
Fe1−x Ax (Si1−y My )z (3)
ここで、Aは導電型決定元素であり、具体的には、p型の熱電変換材料の場合はMn、Al、Crなどを、n型の熱電変換材料の場合はCo、Niなどを例示することができる。本発明の熱電変換材料は、導電型決定元素として単一の元素のみを含んでいてもよいが、導電型が同じグループ内であれば、例えば、MnとAlのように、複数種の元素を含んでいてもよい。
xは、導電型決定元素の種類にもよるが、通常0.01〜0.25の範囲であり、好ましくは0.03〜0.1の範囲である。
【0022】
zの値は、1.5以上2.5以下が好ましく、1.8以上2.2以下が特に好ましい。1.5未満ではε−FeSiの生成量が多くなり、β相への相転移促進効果が低下すると共に熱伝導率の低減効果も不十分となるため、好ましくない。zの値が2.5超えではβ相への相転移促進効果は高いものの、残留するSiにより比抵抗が高くなるため、好ましくない。
【0023】
本発明の熱電変換材料の各成分の元素組成を表す式(3)に示すMはSnおよび/またはPbであり、本発明の熱電変換材料は、SnまたはPbをそれぞれ1種単独でまたは両元素を同時に含むものでもよい。Mを含むことによって、含まないものに比べて、β相への相転移速度が著しく速くなると共に、素子のゼーベック係数と比抵抗は変化せず、熱伝導率が著しく低下することによって熱電変換効率が高くなる。特に、添加元素数が多いと、工業的には必ずしも有利とは言えないことから、MとしてSnまたはPbを単独で添加することが好ましい。さらに、Pb化合物の毒性を考慮すると、Snを単独で添加することが特に好ましい。
【0024】
本発明の熱電変換材料において、MとしてSnを含む場合、Snの添加率は0.03〜10原子%の範囲であることが好ましく、特に、0.3〜3原子%の範囲が好ましい。
本発明において、SnまたはPbの添加率とは、前記式(1)、(2)または(3)に基づいて、下記式(4)で定義される値である。
添加率=[yz/(1+z)]×100 (原子%) (4)
【0025】
Snの添加率が0.03原子%未満では、β相への相転移促進効果、素子の熱伝導率低減効果共に不十分であり、本発明の効果が得られない。Snの添加率が10原子%を超えると、相転移促進効果は充分に高いものの、FeSi2 に固溶できないSnの量が多くなり、熱伝導率の低減効果が発現しなくなると共に素子の耐酸化性が低下するため、好ましくない。
【0026】
また、本発明の熱電変換材料において、MとしてPbを添加する場合、Pbの添加率が0.03〜5原子%の範囲であることが好ましく、特に好ましくは0.2〜2原子%である。
【0027】
Pbの添加率が0.03原子%未満では、β相への相転移促進効果、素子の熱伝導率低減効果共に不十分であり、本発明の効果が得られない。Pbの添加率が5原子%を超えると、相転移促進効果は充分に高いものの、FeSi2 に固溶できないPbの量が多くなり、熱伝導率の低減効果が発現しなくなると共に素子の耐酸化性が低下するため、好ましくない。さらに、Pbの添加率が5原子%を超えると、有毒なPb化合物が析出する可能性もあるため、好ましくない。
【0028】
本発明の好ましい態様の内、比較的低い添加率までは、SnまたはPbはFeSi2 に完全に固溶しているが、比較的高い添加率においては、本発明の好ましい態様の範囲内であっても、SnまたはPbはFeSi2 に完全には固溶しないことがある。しかし、固溶できないSnまたはPbの量は少なく、FeSi2 の粒界に均一に分散して存在できるため、本発明の効果を失うことはない。なお、SnまたはPbが完全に固溶できなくなる添加率は、一般式(1)における導電型決定元素Aの添加率xによっても変化するので、一概に決定することはできない。
【0029】
本発明の熱電変換材料の製造は、特に制限されず、公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、(a)原料を高周波溶解・急冷してε相とα相の共晶合金からなるインゴットを形成した後、粉砕し、粉砕物にバインダーを添加して造粒し、これを所望の形状に冷間プレス等により成形して脱脂した後、焼結して所望の形状の焼結体とし、さらに熱処理して焼結体を構成する共晶合金をβ相転移化する方法(例えば、特開平8−139368号公報(特許文献2)に記載の方法)、(b)原料を高周波溶解して合金溶湯を形成し、この合金溶湯を不活性ガスを用いた高圧噴霧装置(ガスアトマイズ法)、あるいは高圧水を用いた噴霧装置(水アトマイズ法)によって容器内に噴霧冷却して微細な共晶合金粉末を得、この粉末にバインダー等を添加して造粒し、これを所望の形状に冷間プレス等により成形して脱脂した後、焼結して所望の形状の焼結体とし、さらに熱処理して焼結体を構成する共晶合金をβ相転移化する方法(例えば、特開平7−211944号公報(特許文献1)に記載の方法)、(c)原料粉末を混合分散し、粉砕と圧着を機械的に繰り返して行い原子レベルでの混合状態とするメカニカルアロイング法により直接、共晶合金粉末を得、この粉末にバインダー等を添加して造粒し、これを所望の形状に冷間プレス等により成形して脱脂した後、焼結して所定の形状の焼結体とし、さらに熱処理して焼結体を構成する共晶合金のβ相転移を行う方法、(d)GaやInのような低融点金属融液に原料を溶解させ、溶液に温度差を設定することにより、低温部に本発明の熱電変換材料粉末結晶を得(例えば、鵜殿治彦「半導体シリサイドバルク結晶の溶液成長」材料科学、Vol.37(No.1)34−38(1999)記載の溶液成長法)、その後、前記(a)〜(c)のようなプレス成形・脱脂・焼結・熱処理からなる一連の工程によりβ相転移を行う方法などの各種の方法が適用できる。
【0030】
メカニカルアロイングに用いられる混合機としては、例えば、転動式のボールミル、振動ボールミル、遊星型のボールミル、アトライター等の機械的衝撃力によって混合分散を行う装置が挙げられる。
【0031】
また、焼結は、真空中、水素等の還元性ガス雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で、加熱して焼結する方法、あるいは最初に粉体にパルス状の電流を流すことで粉体間に放電を生じさせ,その後直流通電により加熱焼結させるプラズマ活性化焼結(PAS)法などが挙げられる。PAS法は、短時間で比較的低温でも緻密な焼結体が得られる利点がある。
【0032】
熱処理は、特に制限されず、電気炉等の常用の装置を用いて、空気中、不活性ガス雰囲気中または水素等の還元性ガス雰囲気中で行うことができる。このとき、本発明の熱電変換材料において、熱処理は、Snおよび/またはPbの添加によって、β層転移が促進され、従来の約1/25〜1/50程度の短時間でβ相転移を行うことができる。
【0033】
さらに、本発明の熱電変換材料は、密度比等について、何ら制限されず、例えば、林宏爾「熱電変換素子用多孔質焼結体−ガス燃焼式多孔構造熱電発電装置用の熱電変換素子−」まてりあ、Vol.35(No.9)965−968(1996)に記載されているような、多孔構造とすることもできる。
【0034】
本発明の熱電変換材料の製造において、Fe、Si、導電型決定元素、ならびにSnおよび/またはPbとして用いる原料は、特に制限されず、工業用低純度品(98〜99%程度)または高純度品(99.99%以上)のいずれを用いてもよく、例えば、西田勲夫「金属間化合物半導体FeSi2 の製造法とその熱電特性」鉄と鋼、Vol.81(No.10)N454−N460(1995)に記載されているもの、あるいは電解鉄や半導体用多結晶シリコンなどを用いることができる。また、原料の形状は、製造方法等に応じて、インゴットやその粗砕品、あるいは粉末等任意の形状のものを適宜用いることができる。
【0035】
また、本発明は、本発明の熱電変換材料からなるβ−FeSi2 系熱電変換素子(以下「本発明の熱電変換素子」ともいう)を提供する。この熱電変換素子の形状は、特に制限されず、例えば、西田勲夫「金属間化合物半導体FeSi2 の製造法とその熱電特性」鉄と鋼、Vol.81(No.10)N454−N460(1995)に示されているU字型素子、あるいはπ字型などの任意の形状を、使用目的、用途等に応じて選択することができる。
より具体的に用途と素子形状との関係を例示すると、ごみ焼却炉や焼成炉等の種々の工業炉から発生する廃熱を利用して熱電発電を行うような場合は、一般に、熱電発電設備の設置スペースに余裕があること、並びに熱源が1000℃以上の高温であることから、π字型に比べて素子高さが高くなるものの、p型材料とn型材料との一体成型・一体焼結が可能なU字型素子を選択することが好ましい。一方、自動車排気ガスの排熱から熱電発電を行うような場合は、熱電発電設備の設置スペースや重量が限られていること、熱源は炉用途よりも低温であることから、π字型素子を選択することが好ましい。
【0036】
この素子の製造は、前記変換材料の焼結時に所定の形状に成形して行ってもよいし、焼結および熱処理後、所望の形状に成形して行ってもよい。共晶合金粉末に分散剤、溶剤などを混合し、スラリーを調整した後、ドクターブレード法などによってp型およびn型のシートを成形・積層し、所定の形状に切断した後、焼結してもよい。
【0037】
なお、本発明のβ−FeSi2 系熱電変換材料から製造される、これらU字型、あるいはπ字型素子群から構成される熱電変換モジュールと、Bi−Te系等の低温用熱電変換材料から成る熱電変換モジュールとを組合せて利用する、所謂カスケード型モジュールを作製することも可能である。この場合、本発明の熱電変換素子群から排出される低温熱源を利用してさらに熱電変換を行うため、単位面積あたりの発電出力が大きくなり、自動車等の設置スペースに制限がある用途には、特に好ましい。
【0038】
【実施例】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例によって、限定されるものではない。
原料として、工業用鉄粉(純度99%)、工業用金属シリコン(純度99.5%)、および高純度金属試薬(Sn:純度99.99%、Pb:純度99.9%、Mn:純度99.99%、Co:純度99.9%)を用いた。なお、鉄粉は直径20mm、厚さ3mmの円盤状に成形して用いた。
【0039】
表1に示す組成となるよう各原料を秤量した後、高周波溶解炉によって高純度アルゴン雰囲気下、1873K以上の温度で溶解した。得られた溶製材を粉砕し、粒径53μm以下の粉末を採取した。粉末の元素分析の結果、表1に示す仕込み組成は分析値と良く一致していた。
【0040】
採取した粉末は、1,3−ブタンジオールのエタノール溶液(濃度50質量%)をバインダーとして粒径1mm前後の粒状に造粒した後、1.16×102 MPaの圧力で冷間プレスして所定形状(25mm×10mm×厚さ4mmおよび直径11.5mm×厚さ8mm)に成形した。得られた圧粉体を1448K以上の温度で真空焼結(圧力0.5Pa以下)し、密度比70%以上の焼結体とした後、1123Kで所定時間熱処理してβ相化した。
【0041】
β化した試料は、ゼーベック係数と抵抗測定用として3mm×3mm×16mmの試験片に、熱伝導率測定用として直径10mm×厚さ1mmの試験片に、X線回折測定用として8mm×3mm×10mmの試験片に、それぞれ加工した。ゼーベック係数と抵抗率の測定はアルバック理工(株)製の熱電特性評価装置を、熱伝導率の測定はアルバック理工(株)製のレーザフラッシュ法熱定数測定装置を使用して行った。
【0042】
表1に本発明の実施例および比較例として作製したβ−FeSi2 系熱電変換材料の組成およびそれを用いた熱電変換素子FeSi2 系熱電変換材料の、773Kにおける性能(ゼーベック係数、抵抗率、熱伝導率)測定値、β化時間をまとめて示す。ここで、密度比とは作製した各試験片の実測密度とβ−FeSi2 理論密度(4.95)との比であり、β化時間とはβ相の組成が90%以上になるために必要な熱処理時間を意味する。β相転移の確認は、X線回折法により行い、α相(ミラー指数hkl=102)、ε相(ミラー指数hkl=210)、ならびに、β相(ミラー指数hkl=202)のX線回折強度比からβ相組成を算出した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
注 性能指数=(ゼーベック係数)2 /(抵抗率)/(熱伝導率)
熱電変換効率∝(性能指数)×(温度)
【0046】
表1より明らかなように、本発明のβ−FeSi2 系熱電変換素子の熱伝導率はSnまたはPbを添加していない比較例(Fe0.92Mn0.08Si2 、Fe0.97Co0.03Si2 )の熱伝導率の1/2未満を示し、顕著に低下しており、さらに、本発明の熱電変換素子のβ化時間は比較例におけるβ化時間の1/25〜1/50と著しく短縮されており、本発明が熱伝導率の低減とβ相への転移時間の短縮に顕著な効果を有することがわかる。本発明の熱電変換素子のゼーベック係数と抵抗率は比較例のゼーベック係数、抵抗率と実験誤差範囲内でほぼ一致していることから、本発明の熱電変換素子の性能指数は2倍以上に増大しており、熱電変換効率は著しく増大していることがわかる。
【0047】
【発明の効果】
本発明の熱電変換材料は、β相への相転移速度が著しく促進されるため、その熱処理時間が短縮され、工業的生産において、生産時間の短縮、コストの低減等を得ることができ、生産性の向上に著しく有利である。また、本発明の熱電変換材料は、低い熱伝導率を有するため、著しく熱電変換効率が向上し、熱電変換性能に優れたβ−FeSi2 系熱電変換素子を得ることが可能であり、種々の熱電変換装置へ適用することができる。また、本発明の熱電変換材料は、ゼーベック効果に限定されず、ペルチェ効果およびトムソン効果を利用した各種素子の素材として有用である。
さらに、本発明の熱電変換素子は、熱電変換性能に優れるため、熱エネルギーから直接発電を行う装置に適用して、熱エネルギーの有効利用、特に近年では炭酸ガス排出量削減、工場や自動車等での廃熱の回収、再利用等に実用化が期待できる。
Claims (5)
- 導電型決定元素ならびにSnおよび/またはPbを含むβ−FeSi2 系熱電変換材料。
- 下記式(1)で表される元素組成を有し、かつ{yz/(1+z)}×100で示される添加率が0.03〜10原子%であるβ−FeSi2 系熱電変換材料。
Fe1−x Ax (Si1−y Sny )z ……(1)
ここで、Aは導電型決定元素、xは0.01〜0.25、zは1.5〜2.5である。 - 下記式(2)で表される元素組成を有し、かつ{yz/(1+z)}×100で示される添加率が0.03〜5原子%であるβ−FeSi2 系熱電変換材料。
Fe1−x Ax (Si1−y Pby )z ……(2)
ここで、Aは導電型決定元素、xは0.01〜0.25、zは1.5〜2.5である。 - 前記導電型決定元素が、Mn、AlおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種またはCoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のβ−FeSi2 系熱電変換材料。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のβ−FeSi2 系熱電変換材料からなるβ−FeSi2 系熱電変換素子。
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JP2013007102A (ja) * | 2011-06-24 | 2013-01-10 | Naoetsu Electronics Co Ltd | 鉄シリコン合金の製造方法 |
CN114105647A (zh) * | 2021-10-26 | 2022-03-01 | 广州大学 | 雾化急冻结晶法快速制备多尺度纳米复合结构β-FeSi2热电材料的方法 |
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2003
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