JP2004067494A - 黒鉛粉の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】350 mAh/g を超えるような高い放電容量を持ち、かつ初回の充放電時の不可逆容量が少なく、充填性に優れた黒鉛粉を低コストで製造する。
【解決手段】フリーカーボン含有量0.1 wt%以下、トルエン不溶分含有量6wt%以下のタールまたはピッチを、ニトロ化剤1〜6wt%の存在下で 250〜4OO ℃の温度に加熱して重縮合させ、次に 400〜600 ℃の温度範囲で熱処理して、分子構造の異方性が発達したバルクメソフェーズカーボンにし、これを粉砕する。得られた粉砕粒子に強力な圧縮・剪断力を負荷する磨滅処理を受けさせ、粒子表面の構造を乱した後、炭化および黒鉛化すると、内部は高結晶性で、表面の結晶性が低下した黒鉛粉が得られる。
【選択図】 なし
【解決手段】フリーカーボン含有量0.1 wt%以下、トルエン不溶分含有量6wt%以下のタールまたはピッチを、ニトロ化剤1〜6wt%の存在下で 250〜4OO ℃の温度に加熱して重縮合させ、次に 400〜600 ℃の温度範囲で熱処理して、分子構造の異方性が発達したバルクメソフェーズカーボンにし、これを粉砕する。得られた粉砕粒子に強力な圧縮・剪断力を負荷する磨滅処理を受けさせ、粒子表面の構造を乱した後、炭化および黒鉛化すると、内部は高結晶性で、表面の結晶性が低下した黒鉛粉が得られる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、放電容量が高く、充放電効率の良好なリチウムイオン二次電池の作製を可能にする、リチウムイオン二次電池の負極材料として好適な、黒鉛 (グラファイト) 粉の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムイオン二次電池の負極に用いる黒鉛粉は、結晶性が高いほど放電容量が高くなる。しかし、結晶性が高いほど、電解液との反応性が高く、不可逆容量(1サイクル目の充電容量と放電容量の差) が増加する傾向がある。
【0003】
この不可逆容量を低減させる目的で、黒鉛粉の粒子表面を、黒鉛とは性質の異なるピッチや樹脂といった低結晶性の炭素で被覆する方法が提案されている (特開平11−11919 号、特開平11−54123 号、特開平4−368778号、特開平5−275076号、特開平5−121066号各公報を参照)。
【0004】
この方法で製造された黒鉛粉は、表面被覆時に粒子の造粒が起こるため、被覆後に粉砕や解砕を行って、粒度を調整する必要がある。しかし、被覆後に粉砕や解砕を行うと、未被覆表面の露出が起こり、不可逆容量の低減効果が十分に得られない。また、被覆時の造粒により形状が不規則な粉末が生成し、その後に粉砕や解砕を行っても、粉末の充填性は低下する。さらに、核の黒鉛と表面層とではLiイオンの吸蔵・放出能力が異なるため、充放電時の膨張・収縮の挙動も異なる。そのため、充放電を繰り返すうちに表面層が剥離する恐れがあり、剥離してしまうと、表面層による不可逆容量の低減効果が失われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高い放電容量を示すと同時に不可逆容量が少なく、かつ充填性の高いリチウムイオン二次電池の負極材料となる黒鉛粉を、安定して比較的低コストで製造する方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、先に、バルクメソフェーズカーボンを粉砕して得た粉砕粒子を炭化および黒鉛化して、放電容量および充放電効率が良好な黒鉛粉を製造する方法を提案した (国際公開公報WO98/29335号) 。
【0007】
その後の研究により、バルクメソフェーズカーボンの原料であるタールやピッチ中のフリーカーボン (キノリン不溶分) とトルエン不溶分の含有量が、メソフェーズ化から炭化および黒鉛化を経て得られる黒鉛粉の電極特性に影響することを見出した。より詳しく説明すると、フリーカーボンおよびトルエン不溶分の含有量を一定以下に低減させたタールおよび/またはピッチを特定範囲内の温度で熱処理すると、高度に異方性が発達したバルクメソフェーズカーボンが得られる。この高度に異方性のバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を炭化および黒鉛化すると、結晶性が高く、放電容量の高い黒鉛粉を得ることができる。
【0008】
しかし、この黒鉛粉は、放電容量は高いものの、高い結晶性のため、不可逆容量が大きい。これを改善するために、従来技術に従って樹脂等を黒鉛粉に被覆しても、前述したように満足できる解決策とはならない。さらに検討した結果、高度に異方性の規則的な分子構造を持つバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子に、例えば、圧縮・剪断力といった機械力を加えて、粒子表面だけ構造 (結晶構造・分子構造) を乱した後、炭化および黒鉛化すると、高結晶性に基づく高い放電容量を維持したまま、不可逆容量が低減し、充填性も良好な黒鉛粉が得られることを究明した。
【0009】
本発明は、タールおよび/またはピッチを 400〜600 ℃の温度範囲で熱処理して得たバルクメソフェーズカーボンを粉砕し、粉砕粒子の表面を摩滅処理した後、炭化および黒鉛化を行うことを特徴とする黒鉛粉の製造方法である。前記磨滅処理は、粉砕粒子に圧縮・剪断力を加えることにより行うことができ、前記粉砕粒子の平均粒径は10〜40μmであることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に係る黒鉛粉の製造方法では、バルクメソフェーズカーボンを炭素質原料として使用し、これを炭化および黒鉛化して黒鉛粉を製造する。以下、各工程ごとに、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
[バルクメソフェーズカーボンの調製]
常温で液状の炭素質物質であるタールを、加熱しながら偏光顕微鏡で観察すると、等方性であった液相中に光学異方性の球形粒子が現れてくる。この粒子がメソフェーズ小球体である。タールの蒸留残渣であるピッチ (常温では固体または半固体) を加熱した場合も、まず液状化した後、生成した液相中に同様にメソフェーズ小球体が観察される。メソフェーズ小球体は、熱による重縮合で生じた、炭素6員環の網目構造からなる平板構造の高分子が層状に配向した構造を持つ液晶が、等方性の母相から相分離したものである。
【0012】
さらに加熱を続けると、メソフェーズ小球体の量が増加し、ついにはそれらが合体して光学異方性のマトリックスが生成し、最終的には全体が光学異方性となる。この光学異方性のマトリックス材料または全体的に光学異方性となった材料が、バルクメソフェーズカーボンである。
【0013】
メソフェーズ小球体とバルクメソフェーズカーボンは、冷却により固化した後も、上述した平板高分子が積層した分子配向状態を保持している。球形粒子であるメソフェーズ小球体では、粒子全体が実質的に同一の配向方向を有する。これに対し、バルクメソフェーズカーボンでは、同一の配向方向を持つ異方性の積層領域 (これを本発明では異方性ドメインと称する) が多数集合した構造を持つ。即ち、メソフェーズ小球体は、単結晶に似て、一つの異方性ドメインからなる粒子であるのに対し、バルクメソフェーズカーボンは、多結晶に似て、多数の異方性ドメインの集合体であるといえる。
【0014】
メソフェーズ小球体は球形粒子で充填性がよいが、取得に溶媒抽出といった分離操作が必要で、余分な工程が加わる上、抽出に多量の有機溶媒を使用し、歩留まりも低いので、非常に高コストとなる。そのため、本発明では、メソフェーズ小球体よりずっと安価に取得できるバルクメソフェーズカーボンを原料として使用する。
【0015】
本発明では、バルクメソフェーズカーボンとして、タールおよび/またはピッチ (以下、タール等という) を 400〜600 ℃の温度範囲で熱処理することにより得たものを使用する。
【0016】
バルクメソフェーズカーボンの製造に用いる出発原料(メソフェーズ化原料) は、タールとピッチのいずれでもよく、その両者の混合物でもよい。タールおよび/またはピッチとしては、芳香族成分に富む石炭系のタール (コールタール) またはピッチ (コールタールピッチ) が好ましいが、石油系のものも使用可能である。
【0017】
原料のタール等は、フリーカーボン含有量0.1 wt%以下、トルエン不溶分含有量6wt%以下となるように精製したものを使用することが好ましい。前述したように、バルクメソフェーズカーボンは多数の異方性ドメインの集合体である。フリーカーボンは、熱処理中にドメイン間の界面に集積し、バルクメソフェーズの発達を阻害する。また、フリーカーボン自体、結晶性が低い。そのため、フリーカーボン含有量が多いタール等から形成されたバルクメソフェーズカーボンを炭化・黒鉛化すると、結晶性が低く、放電容量の小さい黒鉛粉しか得られないのに対し、原料タール等のフリーカーボン含有量を上記のように低減させておくと、結晶性が高い黒鉛粉を得ることができる。黒鉛粉の結晶性が高いことは、X線回折で求めたd002結晶面間隔が小さいことや、電子顕微鏡観察により測定した結晶子の厚みが大きいことで判定できる。また、黒鉛粉の放電容量の大小も結晶性の目安となる。
【0018】
本発明でメソフェーズ化原料として用いるのが好ましい、フリーカーボン含有量0.1 wt%以下、トルエン不溶分含有量6wt%以下のタール等は、タール等を下記 (1)〜(3) の工程を経て精製することにより得ることができる:
(1) タール等をケトン系溶剤と混合して溶解させる工程、
(2) 得られた混合液中の不溶物を除去する工程、および
(3) 得られた溶液からケトン系溶剤を除去する工程。
【0019】
工程(1) でケトン系溶剤と混合すると、タール等に含まれる数ミクロン以下といわれる超微粒子状のフリーカーボンが数十〜数百ミクロンの大きさに造粒されるため、工程(2) での不溶物の除去により、フリーカーボンを不溶物としてほぼ完全に除去することが可能となる。そのため、工程(3) により溶剤を除去すると、フリーカーボンをほとんど含まない精製タールが得られる。上記処理はトルエン不溶分の除去にも有効であり、トルエン不溶分のかなりの部分が除去されるため、トルエン不溶分含有量も6wt%以下に低減することができる。
【0020】
ケトン系溶剤の混合量は、メソフェーズ化原料のタール等100 質量部に対して50〜120 質量部の範囲とすることが好ましい。溶剤はケトンのみからなることが好ましいが、ケトンと相溶性のある溶剤を少量 (例、30 vol%以下) 混合してもよい。混合は常温で行うのが簡便であるが、加温してもよく、好ましくは攪拌下に行う。
【0021】
工程(2) における不溶物の除去手段としては、遠心分離、遠心濾過、濾過、静置重力沈降等が可能である。工程(3) としてタール等からケトン系溶剤を除去するのは、精製したタール等の次工程での処理効率の向上のためである。また、この除去により、分離されたケトン系溶剤を工程(1) で再利用することが可能になり、工程(1) の溶剤の大部分を回収溶剤でまかなうことができる。タール等からのケトン系溶剤の除去は、通常は蒸留により行う。
【0022】
好ましくは上記のように精製したタール等を、本発明に従って 400〜600 ℃の温度で熱処理してバルクメソフェーズカーボンを得る。熱処理温度を 400〜600 ℃の範囲に定めたのは、粉砕後に行う磨滅処理との関係による。これについては磨滅処理に関して後で詳述する。また、この温度範囲では、バルクメソフェーズ化が適切な速度で進行し、高度に異方性が発達したバルクメソフェーズカーボンを容易に得ることができ、最終的に得られる黒鉛粉の結晶性も高くなる。好ましい熱処理温度は 450〜550 ℃である。
【0023】
熱処理はタール等が全体にメソフェーズ化するまで行う。この熱処理時間は通常は2〜12時間程度である。熱処理中に油分が揮発するので、その揮発を促進するため、例えば、減圧蒸留釜を使用して、熱処理を10〜100 Torr程度の減圧下で行うことが好ましい。大気圧で熱処理する場合には、油分の除去の促進と熱処理中の材料の酸化防止のために、窒素ガスなどの不活性ガスの流通下で熱処理を行うことが好ましい。
【0024】
上記のメソフェーズ化のための熱処理の前に、原料の精製タール等をニトロ化剤の存在下で 250〜400 ℃に加熱して重縮合させることが好ましい。この重縮合処理工程により、タール等がニトロ化を経て重縮合し、分子量が大きくなる。分子量が大きくなると、上記熱処理および炭化工程での揮発分が少なくなリ、バルクメソフェーズカーボンと炭化材の収率が向上し、従って黒鉛粉の収率が向上する。また、この重縮合処理でタール等の分子量が大きくなると、メソフェーズ化熱処理工程でのメソフェーズの成長や合体が進み易く、短時間の熱処理でバルクメソフェーズを製造することができる。
【0025】
ニトロ化剤としては、硝酸、硝酸アンモニウム、硝酸アセチル、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、発煙硝酸、硝酸+硫酸などを使用することができる。安価で取り扱いが容易な点で、硝酸が好ましい。
【0026】
ニトロ化剤の添加量は、タール等に対して1〜6wt%の範囲とする。ニトロ化剤の添加量が1wt%未満では上記効果を顕著に得ることができず、その添加量が6wt%を超えると、重縮合が進みすぎて、バルクメソフェーズの発生が阻害されることがある。ニトロ化剤の好ましい添加量は 1.5〜5wt%である。
【0027】
ニトロ化剤の存在下での加熱温度が250 ℃より低いと、タール等の重縮合が起こりにくく、タール等に残留する硝酸またはニトロ基がメソフェーズ化にかえって悪影響を及ぼし、最終的に得られる黒鉛粉の結晶性が低下する。この加熱温度が400 ℃を超えると、メソフェーズ化が進行してしまい、メソフェーズ化の前にタール等を重縮合させるという目的を達成することができない。従って、ニトロ化剤を添加した場合には、メソフェーズ化の前に加熱して重縮合を行う必要がある。
【0028】
[粉砕]
上記熱処理により得られたバルクメソフェーズカーボンを粉砕して粉砕粒子を得る。本発明に係る方法では、この粉砕より後、即ち、炭化工程以降では粉砕を行わなくてよい。従って、この粉砕により最終的に得られる黒鉛粉の粒度が決まる。粉砕粒子は、次工程の磨滅処理において、粒子表面が磨滅し、いくらか小さくなる。また、炭化・黒鉛化工程でも、有機物の除去に伴って、粒度はいくらか減少する。従って、所望の黒鉛粉の粒度と、上記の粒度減少を考慮し、粉砕工程で得られる粉砕粒子の粒度を決定すればよい。
【0029】
好ましくは粉砕粒子の平均粒径は10〜40μmの範囲内とする。粉砕粒子の平均粒径が10μmより小さいと、製造される黒鉛粉が微粉となり、表面積が大きいため、不可逆容量が大きくなる。粉砕粒子の平均粒径が40μmより大きいと、黒鉛粉の充填性が低下し、単位体積当たりの放電容量が低下する。
【0030】
粉砕方法は特に制限されないが、衝撃粉砕や剪断粉砕を採用できる。適当な粉砕機の例として、ハンマーミル、アトリッションミル、ファインミル等が挙げられる。粉砕粒子の平均粒径は、粉砕機の回転数や粉砕時間により調整することができる。必要であれば、粉砕後に分級を行って平均粒径を調整してもよい。
【0031】
[磨滅処理]
バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を炭化する前に磨滅処理することが本発明の特徴である。この磨滅処理により、粒子内部はバルクメソフェーズカーボンに固有の高度に発達した異方性、即ち、多結晶質に似た規則性ある構造を保持したまま、粒子表面の構造だけを乱す (欠陥を導入する) ことができる。その後、この粉砕粒子を炭化・黒鉛化すると、内部は高結晶性であるが、表面は結晶性が低く低活性の黒鉛粉が得られる。この黒鉛粉は、充填性がよく、放電容量が高く、かつ充放電時の電解液との反応が抑制されるため、不可逆容量が少ない。
【0032】
この磨滅処理は、分子構造に高度の異方性 (平板状高分子の積層状態) が現れているが、まだ完全には結晶化しておらず、不定形高分子の状態であって、材料を加熱すると流動性がある、バルクメソフェーズカーボンの段階で実施することが重要である。この段階で粒子表面に外力を加えると、バルクメソフェーズカーボンの粒子表面の規則的な構造 (結晶構造・分子構造) に乱れが起こり (欠陥が導入され) 、この原料段階での構造の乱れが最終黒鉛化後の結晶性に反映され、表面のみ結晶性の低い黒鉛粉となる。
【0033】
より具体的には、 400〜600 ℃の温度での熱処理により得られたバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を原料とする場合に、磨滅処理による上記効果が顕著に得られる。熱処理温度が400 ℃より低い炭素質原料は、重合が不十分で、まだ低分子成分を多く含んでいるため、磨滅処理後の炭化時に粒子の軟化が起こり、粒子同士の固着が起こる。固着が起こると、必要な粒度に調整するために粉砕が必要になり、新たな表面が現れるため、磨滅処理による効果が得られない。熱処理温度が 600℃より高温の原料は、重合が進みすぎていて、バルクメソフェーズカーボンの原子の結合が強固で、粘性が低下し、原子の流動性が小さい材料となるため、磨滅処理により粒子表面の構造を乱す効果が小さい。
【0034】
磨滅処理は、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の表面の構造を乱すのに十分な外力を負荷することができる任意の方法で実施することができるが、圧縮力と剪断力の両方 (圧縮・剪断力) を加えることができる方法で行うことが、粒子表面の構造の乱れを生じさせるのに効果的である。
【0035】
粒子に圧縮・剪断力を加えるのに適した装置の1例は、ホソカワミクロン製のメカノフュージョン (登録商標) AMS である。この装置は、円筒形回転容器と、この容器の内周面に圧縮力を加える、内周面より曲率半径の小さいインナーピースとにより構成され、遠心力により回転容器の内周面に押し付けられた粉体は、インナーピースとの間で強力な圧縮・剪断力を受ける。
【0036】
外力の負荷量は、バルクメソフェーズカーボンに固有の高度に異方性の構造が、粉砕粒子の表面だけ乱れ、粒子内部では保存されるように設定する。負荷量が大き過ぎると、粒子内部まで構造が乱れてしまい、最終的に得られる黒鉛粉の結晶性が低下し、放電容量が低下する。負荷量が小さ過ぎると、粒子表面の構造を十分に乱すことができず、不可逆容量の低下効果が十分に得られない。必要な外力の負荷量は装置によって異なるので、実験を繰り返し、黒鉛化後に高容量 (磨滅処理しない場合と容量が同程度) で、不可逆容量の少ない黒鉛粉が得られるように、外力の負荷量を設定することが好ましい。
【0037】
本発明者がメカノフュージョン (登録商標) AMS という装置を用いて実験したところ、次式で示されるエネルギー投入量が 0.2〜1.0 kWh/kgの範囲で磨滅処理を行うことにより、バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子の表面の構造を乱し、高容量で不可逆容量の少ない黒鉛粉を得ることができることが判明した。
【0038】
エネルギー投入量=(A/B)×C
A=粒子の摩滅時に摩擦により発生する装置の負荷動力(kW)
B=装置への投入バルクメソフェーズ重量(kg)
C=処理時間(h)
エネルギー投入量が1.0 kwh/kgを超えると、過度の負荷により粒子内部の結晶性も低下するため、容量低下が起こる。
【0039】
バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を磨滅処理した後の構造は、X線回折等により検証することも可能ではあるが、実際には、黒鉛化に得られる黒鉛粉の放電容量と不可逆容量を、磨滅処理しなかった場合の黒鉛粉と比較し、放電容量が著しく低下している場合は粒子内部まで構造が乱れたと評価し、不可逆容量の改善効果が得られないか、非常に小さい場合には、粒子表面の構造が乱れなかったと評価することができる。
【0040】
[炭化]
磨滅処理したバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を炭化および黒鉛化して黒鉛粉を製造する。
【0041】
炭化工程は、炭素以外の元素をほぼ完全に熱分解させて除去する工程である。この炭化に必要な温度は、一般に約 700〜1100℃、好ましくは約 800〜1050℃である。例えば、炭化は、窒素雰囲気下、3〜10℃/時の昇温速度で所定の炭化温度に昇温し、この温度に3〜10時間保持することにより行うことができる。
【0042】
炭化は一般に非酸化性雰囲気中で行う。不活性ガス(例、窒素、アルゴン等に希ガス)雰囲気と還元性ガス(例、水素と不活性ガスの混合ガス)雰囲気のいずれでもよい。炭素の酸化は黒鉛化後の結晶化度の低下や比表面積の増大の原因となるため、雰囲気中の酸素、水蒸気、二酸化炭素等の酸化性ガスの濃度は極力低くすることが好ましい。
【0043】
[黒鉛化]
黒鉛化は黒鉛の層状結晶構造を発達させる工程であり、一般に2500℃以上、好ましくは2800℃以上の温度での熱処理により行われる。この黒鉛化は、雰囲気炉で実施することが好ましいが、工業的な黒鉛化炉として知られるアチソン炉により実施してもよい。
【0044】
熱処理雰囲気は、炭化と同様に非酸化性雰囲気とする。アチソン炉では、炉内に充填されている炭化材の粉末それ自体により、還元性雰囲気が炉内に保持される。
【0045】
黒鉛化温度では、水素等の還元性ガスや場合によっては窒素も炭素と反応する可能性があるため、雰囲気炉で黒鉛化を行う場合には、アルゴン等の希ガス雰囲気で黒鉛化熱処理を行うことが好ましい。
【0046】
本発明の方法により製造された黒鉛粉は、リチウムイオン二次電池の負極を構成した時に、粉末内部の結晶性が極めて高いため、黒鉛負極の理論容量 (372 mAh/g)にかなり近い放電容量、好ましくは350 mAh/g 以上という高い放電容量を示す。このように放電容量は高いが、磨滅処理によって黒鉛粉の粒子表面は結晶性が低くなっているため、不可逆容量 (1サイクル目の充電容量と放電容量の差) は非常に小さい。また、炭化、黒鉛化後に粉砕しないため、充填性にも優れており、単位体積当たりの放電容量も高くなる。さらに、樹脂被覆と異なり、異質の材料を被覆していないので、表面が剥離することも起こりにくい。従って、本発明により、放電容量、不可逆容量およびサイクル特性が良好な、リチウムイオン二次電池の負極材料に最適の黒鉛粉を安定して安価に製造することができる。
【0047】
本発明の方法により製造された黒鉛粉を用いて従来より公知の適当な方法で電極を作製し、リチウムイオン二次電池の負極として用いることができる。電極の作製は、一般に黒鉛粉を適当な結着剤を用いて電極基板となる集電体上に成型することにより行われる。集電体としては、黒鉛粉の担持性が良く、負極として使用した時に分解による溶出が起こらない任意の金属の箔 (例、電解銅箔、圧延銅箔などの銅箔) を使用することができる。
【0048】
リチウムイオン二次電池の正極、非水電解液、セパレータ、電池容器とその形状、構造などの他の要素は特に制限されず、従来より利用されてきたものと同様でよい。
【0049】
【実施例】
以下、実施例により本発明を例示する。実施例中の%は、特に指定しない限りwt%である。
【0050】
(実施例1〜7および比較例1〜3)
(1) 原料調製
フリーカーボン含有量1.5 %のコールタールを蒸留して沸点270 ℃以下の軽油分を除去した。このタール100 質量部に対してアセトンを80〜90質量部混合し、室温でよく攪拌した後、発生した不溶物を濾過により除去した。濾液の蒸留によりアセトンを分離回収し、釜残として、表1に示すフリーカーボンおよびトルエン不溶分の含有量を有する精製タールを得た。
【0051】
別に、未精製のフリーカーボン含有量2%のタールも使用した。
これらのタールをメソフェーズ化のために熱処理する前に、減圧蒸留釜内で2wt%の濃硝酸を添加し、350 ℃に1時間加熱して、重縮合処理を行った。
【0052】
(2) バルクメソフェーズ化と粉砕
タールのメソフェーズ化は、減圧蒸留釜内で500 ℃に4時間保持する熱処理により行った。得られたバルクメソフェーズカーボンを冷却・固化後に釜から取り出し、高速回転衝撃式粉砕機を用い、回転数3000 rpmの条件で粉砕して、平均粒径約30μmのバルクメソフェーズカーボン粉末を得た。
【0053】
(3) バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の処理
バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を、強力な圧縮・剪断力を負荷することができるホソカワミクロン製メカノフュージョン (登録商標) AMS を用いて、表1に示す処理条件 (エネルギー投入量) で磨滅処理に付した。
【0054】
(4) 炭化
バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を、窒素雰囲気下、5℃/時の昇温速度で1000℃に昇温し、この温度に5時間保持することにより炭化した。
【0055】
(5) 黒鉛化
炭化材の粉末をアチソン型黒鉛化炉で、10℃/時の昇温速度で3000℃に昇温し、この温度に1時間保持して黒鉛化し、黒鉛粉を得た。
【0056】
比較例では、バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子に何の処理も施さないか、従来技術に従ってノボラック型フェノール樹脂を被覆した。樹脂被覆は、粉砕したバルクメソフェーズカーボン粒子を上記のように炭化した後、炭化粒子を混練機に入れて180 ℃に加熱し、表1に示す量(粒子に対するwt%)の樹脂粉末を添加し、加熱を続けながら2時間混練することにより行った。この処理で粒子が固着したため、その後に解砕のため軽く粉砕してから、黒鉛化した。
【0057】
メソフェーズ化に用いた精製タールのフリーカーボンおよびトルエン不溶分の含有量、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の処理方法および条件、ならびに黒鉛化で得られた黒鉛粉の充填密度、放電容量および不可逆容量の測定結果を表1に示す。以上の特性の測定方法は次の通りである。
【0058】
[フリーカーボン含有量]
精製タール中のキノリン不溶分含有量(QI)をJIS K2425 に従って測定し、このQI値をフリーカーボン含有量とした。具体的には、所定量のタールにその50倍の質量のキノリンを混合し、75℃の温度で30分間攪拌した後、濾過して不溶分を分取した。この不溶分の乾燥質量を秤量し、最初のタール質量に対する割合 (%) としてQIを算出した。
【0059】
[トルエン不溶分含有量]
上記方法においてキノリンのかわりにトルエンを使用した以外は同様にして、トルエン不溶分含有量を求めた。
【0060】
[黒鉛粉の充填密度]
筒井理化学製の粉体減少率測定器TP−3型を用いて、タッピング回数 200回時のサンプル体積をガラスシリンダーの目盛りから読みとり、 (投入したサンプル質量) /(200回時のサンプル体積) により充填密度を求めた。
【0061】
[放電容量と充放電効率]
負極特性の評価は、対極、参照極に金属リチウムを用いた3極式定電流充放電試験により行った。電解液には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積比1:1の混合溶媒に1M濃度でLiClO4を溶解した非水溶液を使用した。0.3 mA/cm2の電流密度でLi参照極に対して0.0 V まで充電して負極中にLiイオンを格納した後、同じ電流密度でLi参照極に対して1.50 Vまで放電 (Liイオンの放出) を行う充放電試験を行い、放電容量と不可逆容量を求めた。
【0062】
【表1】
【0063】
表1からわかるように、バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を処理せずに、そのまま炭化および黒鉛化した比較例1の黒鉛粉は、放電容量は350 mAh/g と高いものの、不可逆容量が185 mAh/g と大きかった。
【0064】
これに対し、本発明に従ってバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子に磨滅処理を施すと、実施例2〜5のように、処理条件が適切であると、粒子表面だけ構造を乱すことができ、比較例1と同等以上の放電容量を保持したまま、不可逆容量を25 mAh/g以下と、比較例1の15%以下まで著しく低減した黒鉛粉を得ることができた。磨滅処理後に粉砕していないため、充填性も良好であった。
【0065】
実施例1は、磨滅処理のエネルギー投入量が小さかったため、不可逆容量は比較例1より大きく低減しているが、低減率は60%程度にとどまった。実施例6は、磨滅処理のエネルギー投入量が大きかったため、不可逆容量は非常に小さいが、粒子内部まで構造の乱れが進んだため放電容量が比較例1より低下した。実施例7は、原料タールが未精製である例を示すが、その場合でも不可逆容量は、磨滅処理を行わなかった比較例2に比べて小さくなっており、磨滅処理による効果がある程度は得られている。
【0066】
比較例3では、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子を磨滅処理する代わりに、炭化後に樹脂被覆してから黒鉛化した。得られた黒鉛粉は不可逆容量が低減していたが、低減率は、適切な条件下で磨滅処理を行った実施例2〜5に比べて劣っていた。さらに、この黒鉛粉は、初期放電容量がやや小さい上、充填密度が約20%も低下していた。
【0067】
(比較例4〜5)
バルクメソフェーズ化のための熱処理温度を変化させた以外は、実施例2と同様にして、黒鉛粉を製造した。但し、熱処理温度が300 ℃と低かった比較例では、炭化工程で粒子の固着が起こったため、炭化粉を解砕のため軽く粉砕した。
【0068】
タールのフリーカーボンおよびトルエン不溶分の含有量、バルクメソフェーズ化熱処理温度、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の磨滅処理条件 (エネルギー投入量) 、ならびに得られた黒鉛粉の充填密度、放電容量および不可逆容量の結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2から、バルクメソフェーズ化のための熱処理温度が 400〜600 ℃の範囲より低すぎても、また逆に高すぎても、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の磨滅処理による黒鉛粉の不可逆容量の低減効果は十分に得られなくなることがわかる。さらに、熱処理温度が低すぎると、黒鉛粉の結晶性が低いため放電容量が小さく、また解砕のために炭化後に粉砕したせいで、黒鉛粉の充填密度も小さくなった。一方、熱処理温度が高すぎた場合も、黒鉛粉の充填密度はやや低下した。これは、バルクメソフェーズカーボンの結晶性が発達しすぎ、軟化性がなくなっているため、粉砕により粉砕粒子が不規則形状となる割合が増加するためではないかと推測される。
【0071】
【発明の効果】
本発明により、350 mAh/g を超えるような高い放電容量を持ち、かつ充放電時の不可逆容量が少なく、充放電効率やサイクル寿命が良好で、しかも充填性に優れた黒鉛粉を、安定して、比較的低コストで (高コストの樹脂被覆を必要とせずに) 製造することが可能となる。従って、本発明はリチウムイオン二次電池の高性能化に貢献する。
【発明の属する技術分野】
本発明は、放電容量が高く、充放電効率の良好なリチウムイオン二次電池の作製を可能にする、リチウムイオン二次電池の負極材料として好適な、黒鉛 (グラファイト) 粉の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムイオン二次電池の負極に用いる黒鉛粉は、結晶性が高いほど放電容量が高くなる。しかし、結晶性が高いほど、電解液との反応性が高く、不可逆容量(1サイクル目の充電容量と放電容量の差) が増加する傾向がある。
【0003】
この不可逆容量を低減させる目的で、黒鉛粉の粒子表面を、黒鉛とは性質の異なるピッチや樹脂といった低結晶性の炭素で被覆する方法が提案されている (特開平11−11919 号、特開平11−54123 号、特開平4−368778号、特開平5−275076号、特開平5−121066号各公報を参照)。
【0004】
この方法で製造された黒鉛粉は、表面被覆時に粒子の造粒が起こるため、被覆後に粉砕や解砕を行って、粒度を調整する必要がある。しかし、被覆後に粉砕や解砕を行うと、未被覆表面の露出が起こり、不可逆容量の低減効果が十分に得られない。また、被覆時の造粒により形状が不規則な粉末が生成し、その後に粉砕や解砕を行っても、粉末の充填性は低下する。さらに、核の黒鉛と表面層とではLiイオンの吸蔵・放出能力が異なるため、充放電時の膨張・収縮の挙動も異なる。そのため、充放電を繰り返すうちに表面層が剥離する恐れがあり、剥離してしまうと、表面層による不可逆容量の低減効果が失われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高い放電容量を示すと同時に不可逆容量が少なく、かつ充填性の高いリチウムイオン二次電池の負極材料となる黒鉛粉を、安定して比較的低コストで製造する方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、先に、バルクメソフェーズカーボンを粉砕して得た粉砕粒子を炭化および黒鉛化して、放電容量および充放電効率が良好な黒鉛粉を製造する方法を提案した (国際公開公報WO98/29335号) 。
【0007】
その後の研究により、バルクメソフェーズカーボンの原料であるタールやピッチ中のフリーカーボン (キノリン不溶分) とトルエン不溶分の含有量が、メソフェーズ化から炭化および黒鉛化を経て得られる黒鉛粉の電極特性に影響することを見出した。より詳しく説明すると、フリーカーボンおよびトルエン不溶分の含有量を一定以下に低減させたタールおよび/またはピッチを特定範囲内の温度で熱処理すると、高度に異方性が発達したバルクメソフェーズカーボンが得られる。この高度に異方性のバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を炭化および黒鉛化すると、結晶性が高く、放電容量の高い黒鉛粉を得ることができる。
【0008】
しかし、この黒鉛粉は、放電容量は高いものの、高い結晶性のため、不可逆容量が大きい。これを改善するために、従来技術に従って樹脂等を黒鉛粉に被覆しても、前述したように満足できる解決策とはならない。さらに検討した結果、高度に異方性の規則的な分子構造を持つバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子に、例えば、圧縮・剪断力といった機械力を加えて、粒子表面だけ構造 (結晶構造・分子構造) を乱した後、炭化および黒鉛化すると、高結晶性に基づく高い放電容量を維持したまま、不可逆容量が低減し、充填性も良好な黒鉛粉が得られることを究明した。
【0009】
本発明は、タールおよび/またはピッチを 400〜600 ℃の温度範囲で熱処理して得たバルクメソフェーズカーボンを粉砕し、粉砕粒子の表面を摩滅処理した後、炭化および黒鉛化を行うことを特徴とする黒鉛粉の製造方法である。前記磨滅処理は、粉砕粒子に圧縮・剪断力を加えることにより行うことができ、前記粉砕粒子の平均粒径は10〜40μmであることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に係る黒鉛粉の製造方法では、バルクメソフェーズカーボンを炭素質原料として使用し、これを炭化および黒鉛化して黒鉛粉を製造する。以下、各工程ごとに、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
[バルクメソフェーズカーボンの調製]
常温で液状の炭素質物質であるタールを、加熱しながら偏光顕微鏡で観察すると、等方性であった液相中に光学異方性の球形粒子が現れてくる。この粒子がメソフェーズ小球体である。タールの蒸留残渣であるピッチ (常温では固体または半固体) を加熱した場合も、まず液状化した後、生成した液相中に同様にメソフェーズ小球体が観察される。メソフェーズ小球体は、熱による重縮合で生じた、炭素6員環の網目構造からなる平板構造の高分子が層状に配向した構造を持つ液晶が、等方性の母相から相分離したものである。
【0012】
さらに加熱を続けると、メソフェーズ小球体の量が増加し、ついにはそれらが合体して光学異方性のマトリックスが生成し、最終的には全体が光学異方性となる。この光学異方性のマトリックス材料または全体的に光学異方性となった材料が、バルクメソフェーズカーボンである。
【0013】
メソフェーズ小球体とバルクメソフェーズカーボンは、冷却により固化した後も、上述した平板高分子が積層した分子配向状態を保持している。球形粒子であるメソフェーズ小球体では、粒子全体が実質的に同一の配向方向を有する。これに対し、バルクメソフェーズカーボンでは、同一の配向方向を持つ異方性の積層領域 (これを本発明では異方性ドメインと称する) が多数集合した構造を持つ。即ち、メソフェーズ小球体は、単結晶に似て、一つの異方性ドメインからなる粒子であるのに対し、バルクメソフェーズカーボンは、多結晶に似て、多数の異方性ドメインの集合体であるといえる。
【0014】
メソフェーズ小球体は球形粒子で充填性がよいが、取得に溶媒抽出といった分離操作が必要で、余分な工程が加わる上、抽出に多量の有機溶媒を使用し、歩留まりも低いので、非常に高コストとなる。そのため、本発明では、メソフェーズ小球体よりずっと安価に取得できるバルクメソフェーズカーボンを原料として使用する。
【0015】
本発明では、バルクメソフェーズカーボンとして、タールおよび/またはピッチ (以下、タール等という) を 400〜600 ℃の温度範囲で熱処理することにより得たものを使用する。
【0016】
バルクメソフェーズカーボンの製造に用いる出発原料(メソフェーズ化原料) は、タールとピッチのいずれでもよく、その両者の混合物でもよい。タールおよび/またはピッチとしては、芳香族成分に富む石炭系のタール (コールタール) またはピッチ (コールタールピッチ) が好ましいが、石油系のものも使用可能である。
【0017】
原料のタール等は、フリーカーボン含有量0.1 wt%以下、トルエン不溶分含有量6wt%以下となるように精製したものを使用することが好ましい。前述したように、バルクメソフェーズカーボンは多数の異方性ドメインの集合体である。フリーカーボンは、熱処理中にドメイン間の界面に集積し、バルクメソフェーズの発達を阻害する。また、フリーカーボン自体、結晶性が低い。そのため、フリーカーボン含有量が多いタール等から形成されたバルクメソフェーズカーボンを炭化・黒鉛化すると、結晶性が低く、放電容量の小さい黒鉛粉しか得られないのに対し、原料タール等のフリーカーボン含有量を上記のように低減させておくと、結晶性が高い黒鉛粉を得ることができる。黒鉛粉の結晶性が高いことは、X線回折で求めたd002結晶面間隔が小さいことや、電子顕微鏡観察により測定した結晶子の厚みが大きいことで判定できる。また、黒鉛粉の放電容量の大小も結晶性の目安となる。
【0018】
本発明でメソフェーズ化原料として用いるのが好ましい、フリーカーボン含有量0.1 wt%以下、トルエン不溶分含有量6wt%以下のタール等は、タール等を下記 (1)〜(3) の工程を経て精製することにより得ることができる:
(1) タール等をケトン系溶剤と混合して溶解させる工程、
(2) 得られた混合液中の不溶物を除去する工程、および
(3) 得られた溶液からケトン系溶剤を除去する工程。
【0019】
工程(1) でケトン系溶剤と混合すると、タール等に含まれる数ミクロン以下といわれる超微粒子状のフリーカーボンが数十〜数百ミクロンの大きさに造粒されるため、工程(2) での不溶物の除去により、フリーカーボンを不溶物としてほぼ完全に除去することが可能となる。そのため、工程(3) により溶剤を除去すると、フリーカーボンをほとんど含まない精製タールが得られる。上記処理はトルエン不溶分の除去にも有効であり、トルエン不溶分のかなりの部分が除去されるため、トルエン不溶分含有量も6wt%以下に低減することができる。
【0020】
ケトン系溶剤の混合量は、メソフェーズ化原料のタール等100 質量部に対して50〜120 質量部の範囲とすることが好ましい。溶剤はケトンのみからなることが好ましいが、ケトンと相溶性のある溶剤を少量 (例、30 vol%以下) 混合してもよい。混合は常温で行うのが簡便であるが、加温してもよく、好ましくは攪拌下に行う。
【0021】
工程(2) における不溶物の除去手段としては、遠心分離、遠心濾過、濾過、静置重力沈降等が可能である。工程(3) としてタール等からケトン系溶剤を除去するのは、精製したタール等の次工程での処理効率の向上のためである。また、この除去により、分離されたケトン系溶剤を工程(1) で再利用することが可能になり、工程(1) の溶剤の大部分を回収溶剤でまかなうことができる。タール等からのケトン系溶剤の除去は、通常は蒸留により行う。
【0022】
好ましくは上記のように精製したタール等を、本発明に従って 400〜600 ℃の温度で熱処理してバルクメソフェーズカーボンを得る。熱処理温度を 400〜600 ℃の範囲に定めたのは、粉砕後に行う磨滅処理との関係による。これについては磨滅処理に関して後で詳述する。また、この温度範囲では、バルクメソフェーズ化が適切な速度で進行し、高度に異方性が発達したバルクメソフェーズカーボンを容易に得ることができ、最終的に得られる黒鉛粉の結晶性も高くなる。好ましい熱処理温度は 450〜550 ℃である。
【0023】
熱処理はタール等が全体にメソフェーズ化するまで行う。この熱処理時間は通常は2〜12時間程度である。熱処理中に油分が揮発するので、その揮発を促進するため、例えば、減圧蒸留釜を使用して、熱処理を10〜100 Torr程度の減圧下で行うことが好ましい。大気圧で熱処理する場合には、油分の除去の促進と熱処理中の材料の酸化防止のために、窒素ガスなどの不活性ガスの流通下で熱処理を行うことが好ましい。
【0024】
上記のメソフェーズ化のための熱処理の前に、原料の精製タール等をニトロ化剤の存在下で 250〜400 ℃に加熱して重縮合させることが好ましい。この重縮合処理工程により、タール等がニトロ化を経て重縮合し、分子量が大きくなる。分子量が大きくなると、上記熱処理および炭化工程での揮発分が少なくなリ、バルクメソフェーズカーボンと炭化材の収率が向上し、従って黒鉛粉の収率が向上する。また、この重縮合処理でタール等の分子量が大きくなると、メソフェーズ化熱処理工程でのメソフェーズの成長や合体が進み易く、短時間の熱処理でバルクメソフェーズを製造することができる。
【0025】
ニトロ化剤としては、硝酸、硝酸アンモニウム、硝酸アセチル、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、発煙硝酸、硝酸+硫酸などを使用することができる。安価で取り扱いが容易な点で、硝酸が好ましい。
【0026】
ニトロ化剤の添加量は、タール等に対して1〜6wt%の範囲とする。ニトロ化剤の添加量が1wt%未満では上記効果を顕著に得ることができず、その添加量が6wt%を超えると、重縮合が進みすぎて、バルクメソフェーズの発生が阻害されることがある。ニトロ化剤の好ましい添加量は 1.5〜5wt%である。
【0027】
ニトロ化剤の存在下での加熱温度が250 ℃より低いと、タール等の重縮合が起こりにくく、タール等に残留する硝酸またはニトロ基がメソフェーズ化にかえって悪影響を及ぼし、最終的に得られる黒鉛粉の結晶性が低下する。この加熱温度が400 ℃を超えると、メソフェーズ化が進行してしまい、メソフェーズ化の前にタール等を重縮合させるという目的を達成することができない。従って、ニトロ化剤を添加した場合には、メソフェーズ化の前に加熱して重縮合を行う必要がある。
【0028】
[粉砕]
上記熱処理により得られたバルクメソフェーズカーボンを粉砕して粉砕粒子を得る。本発明に係る方法では、この粉砕より後、即ち、炭化工程以降では粉砕を行わなくてよい。従って、この粉砕により最終的に得られる黒鉛粉の粒度が決まる。粉砕粒子は、次工程の磨滅処理において、粒子表面が磨滅し、いくらか小さくなる。また、炭化・黒鉛化工程でも、有機物の除去に伴って、粒度はいくらか減少する。従って、所望の黒鉛粉の粒度と、上記の粒度減少を考慮し、粉砕工程で得られる粉砕粒子の粒度を決定すればよい。
【0029】
好ましくは粉砕粒子の平均粒径は10〜40μmの範囲内とする。粉砕粒子の平均粒径が10μmより小さいと、製造される黒鉛粉が微粉となり、表面積が大きいため、不可逆容量が大きくなる。粉砕粒子の平均粒径が40μmより大きいと、黒鉛粉の充填性が低下し、単位体積当たりの放電容量が低下する。
【0030】
粉砕方法は特に制限されないが、衝撃粉砕や剪断粉砕を採用できる。適当な粉砕機の例として、ハンマーミル、アトリッションミル、ファインミル等が挙げられる。粉砕粒子の平均粒径は、粉砕機の回転数や粉砕時間により調整することができる。必要であれば、粉砕後に分級を行って平均粒径を調整してもよい。
【0031】
[磨滅処理]
バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を炭化する前に磨滅処理することが本発明の特徴である。この磨滅処理により、粒子内部はバルクメソフェーズカーボンに固有の高度に発達した異方性、即ち、多結晶質に似た規則性ある構造を保持したまま、粒子表面の構造だけを乱す (欠陥を導入する) ことができる。その後、この粉砕粒子を炭化・黒鉛化すると、内部は高結晶性であるが、表面は結晶性が低く低活性の黒鉛粉が得られる。この黒鉛粉は、充填性がよく、放電容量が高く、かつ充放電時の電解液との反応が抑制されるため、不可逆容量が少ない。
【0032】
この磨滅処理は、分子構造に高度の異方性 (平板状高分子の積層状態) が現れているが、まだ完全には結晶化しておらず、不定形高分子の状態であって、材料を加熱すると流動性がある、バルクメソフェーズカーボンの段階で実施することが重要である。この段階で粒子表面に外力を加えると、バルクメソフェーズカーボンの粒子表面の規則的な構造 (結晶構造・分子構造) に乱れが起こり (欠陥が導入され) 、この原料段階での構造の乱れが最終黒鉛化後の結晶性に反映され、表面のみ結晶性の低い黒鉛粉となる。
【0033】
より具体的には、 400〜600 ℃の温度での熱処理により得られたバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を原料とする場合に、磨滅処理による上記効果が顕著に得られる。熱処理温度が400 ℃より低い炭素質原料は、重合が不十分で、まだ低分子成分を多く含んでいるため、磨滅処理後の炭化時に粒子の軟化が起こり、粒子同士の固着が起こる。固着が起こると、必要な粒度に調整するために粉砕が必要になり、新たな表面が現れるため、磨滅処理による効果が得られない。熱処理温度が 600℃より高温の原料は、重合が進みすぎていて、バルクメソフェーズカーボンの原子の結合が強固で、粘性が低下し、原子の流動性が小さい材料となるため、磨滅処理により粒子表面の構造を乱す効果が小さい。
【0034】
磨滅処理は、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の表面の構造を乱すのに十分な外力を負荷することができる任意の方法で実施することができるが、圧縮力と剪断力の両方 (圧縮・剪断力) を加えることができる方法で行うことが、粒子表面の構造の乱れを生じさせるのに効果的である。
【0035】
粒子に圧縮・剪断力を加えるのに適した装置の1例は、ホソカワミクロン製のメカノフュージョン (登録商標) AMS である。この装置は、円筒形回転容器と、この容器の内周面に圧縮力を加える、内周面より曲率半径の小さいインナーピースとにより構成され、遠心力により回転容器の内周面に押し付けられた粉体は、インナーピースとの間で強力な圧縮・剪断力を受ける。
【0036】
外力の負荷量は、バルクメソフェーズカーボンに固有の高度に異方性の構造が、粉砕粒子の表面だけ乱れ、粒子内部では保存されるように設定する。負荷量が大き過ぎると、粒子内部まで構造が乱れてしまい、最終的に得られる黒鉛粉の結晶性が低下し、放電容量が低下する。負荷量が小さ過ぎると、粒子表面の構造を十分に乱すことができず、不可逆容量の低下効果が十分に得られない。必要な外力の負荷量は装置によって異なるので、実験を繰り返し、黒鉛化後に高容量 (磨滅処理しない場合と容量が同程度) で、不可逆容量の少ない黒鉛粉が得られるように、外力の負荷量を設定することが好ましい。
【0037】
本発明者がメカノフュージョン (登録商標) AMS という装置を用いて実験したところ、次式で示されるエネルギー投入量が 0.2〜1.0 kWh/kgの範囲で磨滅処理を行うことにより、バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子の表面の構造を乱し、高容量で不可逆容量の少ない黒鉛粉を得ることができることが判明した。
【0038】
エネルギー投入量=(A/B)×C
A=粒子の摩滅時に摩擦により発生する装置の負荷動力(kW)
B=装置への投入バルクメソフェーズ重量(kg)
C=処理時間(h)
エネルギー投入量が1.0 kwh/kgを超えると、過度の負荷により粒子内部の結晶性も低下するため、容量低下が起こる。
【0039】
バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を磨滅処理した後の構造は、X線回折等により検証することも可能ではあるが、実際には、黒鉛化に得られる黒鉛粉の放電容量と不可逆容量を、磨滅処理しなかった場合の黒鉛粉と比較し、放電容量が著しく低下している場合は粒子内部まで構造が乱れたと評価し、不可逆容量の改善効果が得られないか、非常に小さい場合には、粒子表面の構造が乱れなかったと評価することができる。
【0040】
[炭化]
磨滅処理したバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を炭化および黒鉛化して黒鉛粉を製造する。
【0041】
炭化工程は、炭素以外の元素をほぼ完全に熱分解させて除去する工程である。この炭化に必要な温度は、一般に約 700〜1100℃、好ましくは約 800〜1050℃である。例えば、炭化は、窒素雰囲気下、3〜10℃/時の昇温速度で所定の炭化温度に昇温し、この温度に3〜10時間保持することにより行うことができる。
【0042】
炭化は一般に非酸化性雰囲気中で行う。不活性ガス(例、窒素、アルゴン等に希ガス)雰囲気と還元性ガス(例、水素と不活性ガスの混合ガス)雰囲気のいずれでもよい。炭素の酸化は黒鉛化後の結晶化度の低下や比表面積の増大の原因となるため、雰囲気中の酸素、水蒸気、二酸化炭素等の酸化性ガスの濃度は極力低くすることが好ましい。
【0043】
[黒鉛化]
黒鉛化は黒鉛の層状結晶構造を発達させる工程であり、一般に2500℃以上、好ましくは2800℃以上の温度での熱処理により行われる。この黒鉛化は、雰囲気炉で実施することが好ましいが、工業的な黒鉛化炉として知られるアチソン炉により実施してもよい。
【0044】
熱処理雰囲気は、炭化と同様に非酸化性雰囲気とする。アチソン炉では、炉内に充填されている炭化材の粉末それ自体により、還元性雰囲気が炉内に保持される。
【0045】
黒鉛化温度では、水素等の還元性ガスや場合によっては窒素も炭素と反応する可能性があるため、雰囲気炉で黒鉛化を行う場合には、アルゴン等の希ガス雰囲気で黒鉛化熱処理を行うことが好ましい。
【0046】
本発明の方法により製造された黒鉛粉は、リチウムイオン二次電池の負極を構成した時に、粉末内部の結晶性が極めて高いため、黒鉛負極の理論容量 (372 mAh/g)にかなり近い放電容量、好ましくは350 mAh/g 以上という高い放電容量を示す。このように放電容量は高いが、磨滅処理によって黒鉛粉の粒子表面は結晶性が低くなっているため、不可逆容量 (1サイクル目の充電容量と放電容量の差) は非常に小さい。また、炭化、黒鉛化後に粉砕しないため、充填性にも優れており、単位体積当たりの放電容量も高くなる。さらに、樹脂被覆と異なり、異質の材料を被覆していないので、表面が剥離することも起こりにくい。従って、本発明により、放電容量、不可逆容量およびサイクル特性が良好な、リチウムイオン二次電池の負極材料に最適の黒鉛粉を安定して安価に製造することができる。
【0047】
本発明の方法により製造された黒鉛粉を用いて従来より公知の適当な方法で電極を作製し、リチウムイオン二次電池の負極として用いることができる。電極の作製は、一般に黒鉛粉を適当な結着剤を用いて電極基板となる集電体上に成型することにより行われる。集電体としては、黒鉛粉の担持性が良く、負極として使用した時に分解による溶出が起こらない任意の金属の箔 (例、電解銅箔、圧延銅箔などの銅箔) を使用することができる。
【0048】
リチウムイオン二次電池の正極、非水電解液、セパレータ、電池容器とその形状、構造などの他の要素は特に制限されず、従来より利用されてきたものと同様でよい。
【0049】
【実施例】
以下、実施例により本発明を例示する。実施例中の%は、特に指定しない限りwt%である。
【0050】
(実施例1〜7および比較例1〜3)
(1) 原料調製
フリーカーボン含有量1.5 %のコールタールを蒸留して沸点270 ℃以下の軽油分を除去した。このタール100 質量部に対してアセトンを80〜90質量部混合し、室温でよく攪拌した後、発生した不溶物を濾過により除去した。濾液の蒸留によりアセトンを分離回収し、釜残として、表1に示すフリーカーボンおよびトルエン不溶分の含有量を有する精製タールを得た。
【0051】
別に、未精製のフリーカーボン含有量2%のタールも使用した。
これらのタールをメソフェーズ化のために熱処理する前に、減圧蒸留釜内で2wt%の濃硝酸を添加し、350 ℃に1時間加熱して、重縮合処理を行った。
【0052】
(2) バルクメソフェーズ化と粉砕
タールのメソフェーズ化は、減圧蒸留釜内で500 ℃に4時間保持する熱処理により行った。得られたバルクメソフェーズカーボンを冷却・固化後に釜から取り出し、高速回転衝撃式粉砕機を用い、回転数3000 rpmの条件で粉砕して、平均粒径約30μmのバルクメソフェーズカーボン粉末を得た。
【0053】
(3) バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の処理
バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を、強力な圧縮・剪断力を負荷することができるホソカワミクロン製メカノフュージョン (登録商標) AMS を用いて、表1に示す処理条件 (エネルギー投入量) で磨滅処理に付した。
【0054】
(4) 炭化
バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を、窒素雰囲気下、5℃/時の昇温速度で1000℃に昇温し、この温度に5時間保持することにより炭化した。
【0055】
(5) 黒鉛化
炭化材の粉末をアチソン型黒鉛化炉で、10℃/時の昇温速度で3000℃に昇温し、この温度に1時間保持して黒鉛化し、黒鉛粉を得た。
【0056】
比較例では、バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子に何の処理も施さないか、従来技術に従ってノボラック型フェノール樹脂を被覆した。樹脂被覆は、粉砕したバルクメソフェーズカーボン粒子を上記のように炭化した後、炭化粒子を混練機に入れて180 ℃に加熱し、表1に示す量(粒子に対するwt%)の樹脂粉末を添加し、加熱を続けながら2時間混練することにより行った。この処理で粒子が固着したため、その後に解砕のため軽く粉砕してから、黒鉛化した。
【0057】
メソフェーズ化に用いた精製タールのフリーカーボンおよびトルエン不溶分の含有量、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の処理方法および条件、ならびに黒鉛化で得られた黒鉛粉の充填密度、放電容量および不可逆容量の測定結果を表1に示す。以上の特性の測定方法は次の通りである。
【0058】
[フリーカーボン含有量]
精製タール中のキノリン不溶分含有量(QI)をJIS K2425 に従って測定し、このQI値をフリーカーボン含有量とした。具体的には、所定量のタールにその50倍の質量のキノリンを混合し、75℃の温度で30分間攪拌した後、濾過して不溶分を分取した。この不溶分の乾燥質量を秤量し、最初のタール質量に対する割合 (%) としてQIを算出した。
【0059】
[トルエン不溶分含有量]
上記方法においてキノリンのかわりにトルエンを使用した以外は同様にして、トルエン不溶分含有量を求めた。
【0060】
[黒鉛粉の充填密度]
筒井理化学製の粉体減少率測定器TP−3型を用いて、タッピング回数 200回時のサンプル体積をガラスシリンダーの目盛りから読みとり、 (投入したサンプル質量) /(200回時のサンプル体積) により充填密度を求めた。
【0061】
[放電容量と充放電効率]
負極特性の評価は、対極、参照極に金属リチウムを用いた3極式定電流充放電試験により行った。電解液には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積比1:1の混合溶媒に1M濃度でLiClO4を溶解した非水溶液を使用した。0.3 mA/cm2の電流密度でLi参照極に対して0.0 V まで充電して負極中にLiイオンを格納した後、同じ電流密度でLi参照極に対して1.50 Vまで放電 (Liイオンの放出) を行う充放電試験を行い、放電容量と不可逆容量を求めた。
【0062】
【表1】
【0063】
表1からわかるように、バルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子を処理せずに、そのまま炭化および黒鉛化した比較例1の黒鉛粉は、放電容量は350 mAh/g と高いものの、不可逆容量が185 mAh/g と大きかった。
【0064】
これに対し、本発明に従ってバルクメソフェーズカーボンの粉砕粒子に磨滅処理を施すと、実施例2〜5のように、処理条件が適切であると、粒子表面だけ構造を乱すことができ、比較例1と同等以上の放電容量を保持したまま、不可逆容量を25 mAh/g以下と、比較例1の15%以下まで著しく低減した黒鉛粉を得ることができた。磨滅処理後に粉砕していないため、充填性も良好であった。
【0065】
実施例1は、磨滅処理のエネルギー投入量が小さかったため、不可逆容量は比較例1より大きく低減しているが、低減率は60%程度にとどまった。実施例6は、磨滅処理のエネルギー投入量が大きかったため、不可逆容量は非常に小さいが、粒子内部まで構造の乱れが進んだため放電容量が比較例1より低下した。実施例7は、原料タールが未精製である例を示すが、その場合でも不可逆容量は、磨滅処理を行わなかった比較例2に比べて小さくなっており、磨滅処理による効果がある程度は得られている。
【0066】
比較例3では、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子を磨滅処理する代わりに、炭化後に樹脂被覆してから黒鉛化した。得られた黒鉛粉は不可逆容量が低減していたが、低減率は、適切な条件下で磨滅処理を行った実施例2〜5に比べて劣っていた。さらに、この黒鉛粉は、初期放電容量がやや小さい上、充填密度が約20%も低下していた。
【0067】
(比較例4〜5)
バルクメソフェーズ化のための熱処理温度を変化させた以外は、実施例2と同様にして、黒鉛粉を製造した。但し、熱処理温度が300 ℃と低かった比較例では、炭化工程で粒子の固着が起こったため、炭化粉を解砕のため軽く粉砕した。
【0068】
タールのフリーカーボンおよびトルエン不溶分の含有量、バルクメソフェーズ化熱処理温度、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の磨滅処理条件 (エネルギー投入量) 、ならびに得られた黒鉛粉の充填密度、放電容量および不可逆容量の結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2から、バルクメソフェーズ化のための熱処理温度が 400〜600 ℃の範囲より低すぎても、また逆に高すぎても、バルクメソフェーズカーボン粉砕粒子の磨滅処理による黒鉛粉の不可逆容量の低減効果は十分に得られなくなることがわかる。さらに、熱処理温度が低すぎると、黒鉛粉の結晶性が低いため放電容量が小さく、また解砕のために炭化後に粉砕したせいで、黒鉛粉の充填密度も小さくなった。一方、熱処理温度が高すぎた場合も、黒鉛粉の充填密度はやや低下した。これは、バルクメソフェーズカーボンの結晶性が発達しすぎ、軟化性がなくなっているため、粉砕により粉砕粒子が不規則形状となる割合が増加するためではないかと推測される。
【0071】
【発明の効果】
本発明により、350 mAh/g を超えるような高い放電容量を持ち、かつ充放電時の不可逆容量が少なく、充放電効率やサイクル寿命が良好で、しかも充填性に優れた黒鉛粉を、安定して、比較的低コストで (高コストの樹脂被覆を必要とせずに) 製造することが可能となる。従って、本発明はリチウムイオン二次電池の高性能化に貢献する。
Claims (3)
- タールおよび/またはピッチを 400〜600 ℃の温度範囲で熱処理して得たバルクメソフェーズカーボンを粉砕し、粉砕粒子の表面を摩滅処理した後、炭化および黒鉛化を行うことを特徴とする黒鉛粉の製造方法。
- 前記磨滅処理が、粉砕粒子に圧縮・剪断力を加えることにより行われる、請求項1記載の黒鉛粉の製造方法。
- 前記粉砕粒子の平均粒径が10〜40μmである、請求項1または2記載の黒鉛粉の製造方法。
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JP2002233204A JP2004067494A (ja) | 2002-08-09 | 2002-08-09 | 黒鉛粉の製造方法 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2011216231A (ja) * | 2010-03-31 | 2011-10-27 | Jx Nippon Oil & Energy Corp | リチウムイオン二次電池用炭素材料及びそれを用いた電極 |
JP2015110507A (ja) * | 2013-11-07 | 2015-06-18 | Jfeケミカル株式会社 | 炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池 |
CN109830669A (zh) * | 2019-03-01 | 2019-05-31 | 安徽科达洁能新材料有限公司 | 一种高倍率人造石墨负极材料的制备方法 |
-
2002
- 2002-08-09 JP JP2002233204A patent/JP2004067494A/ja not_active Withdrawn
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