JP2004066188A - Ddr型ゼオライト膜複合体及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】多孔質基体2と、多孔質基体2の一方の表面の細孔3内に配設された、DDR型ゼオライトからなる、多孔質基体の平均細孔径の5〜50倍の厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層5とを備えてなることを特徴とするDDR型ゼオライト膜複合体1。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】本発明は、DDR型ゼオライト膜複合体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば、分子分離膜として用いた場合に、高い機械的強度を有するとともに、熱応力によるクラック等の欠陥の発生を防止することができ、かつ、十分な透過量を確保することができるDDR型ゼオライト膜複合体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ゼオライトは、触媒、触媒担体、吸着材等として利用されている。また、このようなゼオライトを薄膜状に形成したものは、その分子篩作用により、ガス分離膜や浸透気化膜等の分子分離膜として利用されている。
【0003】ゼオライトは、その結晶構造により、LTA、MFI、MOR、AFI、FER、FAU、及びDDR型といった数多くの種類が存在する。これらの中でDDR(Deca−Dodecasil 3R)型のゼオライトは、シリカからなる結晶で、その細孔は酸素8員環を含む多面体によって形成されているとともに、酸素8員環の細孔径は4.4×3.6オングストロームであることが知られている(W. M. Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Atlas of zeolite structure types, Elsevier(1996)参照)。
【0004】このような構造上の特徴を有するDDR型ゼオライトは、ゼオライトの中では比較的細孔径が小さいものであり、MFI、MOR、AFI、FER及びFAU型のような他のゼオライトでは分離することが困難である二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、エタン(C2H6)といった低分子ガスを分離できる可能性を有する。
【0005】一般的に、薄膜状に形成されたゼオライト膜は、その機械的強度が弱いために、金属やセラミックスからなる多孔質基体上にゼオライト膜を成膜させてゼオライト膜複合体を形成することによって機械的強度を向上させている。また、このようなゼオライト膜複合体は、その機械的強度が向上されるだけでなく、厚さの薄いゼオライト膜を形成することができるために、ガス分離膜として用いた場合、ゼオライト膜単体で用いた場合と比較して、分子の透過量を増加させることができる。
【0006】しかし、このように構成されたゼオライト膜複合体は、多孔質基体とゼオライト膜との熱膨張挙動が大きく異なるため、ゼオライト合成時に用いる鋳型剤を仮焼により除去する際に、多孔質基体上のゼオライト膜にクラック等の欠陥を生じるという不都合があった。
【0007】このため、Twente大学のVroonらは、アルミナ基体上に成膜したゼオライト膜を薄くすることにより、クラック等の欠陥の発生を抑制することができることを提案している(Journal of Membrane Science 144(1998)65−76参照)。
【0008】また、特開平9−202615号公報においては、多孔質支持体の内部にゼオライト結晶を有するゼオライト膜及びその製造方法が開示されている。このように多孔質支持体の内部にゼオライト結晶を有する構成とすることで、ゼオライト膜の熱処理工程等における、熱応力によるクラック等の欠陥の発生を減少させることができるとしている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平9−202615号公報等において開示されたゼオライト膜は、全ての種類のゼオライトに用いることができないという問題があった。例えば、LTA型のゼオライトにおいては、多孔質支持体に形成したゼオライト膜のクラック等の欠陥を減少させることはできていない。また、多孔質支持体の材質によっても上述した効果に差があり、例えば、多孔質支持体としてアルミナを用い、ゼオライト膜にMFI型のゼオライトを用いた場合は、ゼオライト膜を数回使用しただけでクラック等の欠陥を生じる。
【0010】また、特開平9−202615号公報に開示されたゼオライト膜は、多孔質支持体の内部に存在する原料溶液の量が重要であることから、厚さが0.5mm以上の多孔質支持体が用いられている。このように構成されたゼオライト膜複合体は、ガス分離膜として用いた場合、ゼオライト膜複合体の厚さが厚すぎるために圧力損失が大きくなり、十分なガス(分子)の透過量を確保することができないという問題があった。さらに、多孔質支持体の厚さを薄くできないため、単位体積あたりの表面積を増加することが困難という問題があった。
【0011】本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、例えば、分子分離膜として用いた場合に、高い機械的強度を有するとともに、熱応力によるクラック等の欠陥の発生を防止することができ、かつ、十分な透過量を確保することができるDDR型ゼオライト膜複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために、本発明のDDR型ゼオライト膜複合体は、多孔質基体と、前記多孔質基体の少なくとも一方の表面の細孔内に配設された、DDR型ゼオライトからなる、前記多孔質基体の平均細孔径の5〜50倍の厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層とを備えてなることを特徴とする。
【0013】本発明においては、前記多孔質基体の、前記基体内析出DDR型ゼオライト層が配設された表面に、DDR型ゼオライトからなる、その厚さが30μm以下の基体外析出DDR型ゼオライト層をさらに備えてなることが好ましい。
【0014】また、本発明においては、前記多孔質基体の平均細孔径が0.05〜10μmであることが好ましい。
【0015】一方、本発明のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法は、1−アダマンタンアミンのシリカに対する配合割合(1−アダマンタンアミン(mol)/シリカ(mol))が0.03〜0.4、かつ、水のシリカに対する配合割合(水(mol)/シリカ(mol))が20〜500となるように構成された原料溶液を形成し、得られた前記原料溶液に多孔質基体を含浸させて、水熱合成し、前記多孔質基体の少なくとも一方の表面の細孔内に、DDR型ゼオライトからなる、前記多孔質基体の平均細孔径の5〜50倍の厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層を形成することを特徴とする。
【0016】また、本発明においては、前記多孔質基体の前記基体内析出DDR型ゼオライト層が配設された表面に、DDR型ゼオライトからなる、その厚さが30μm以下の基体外析出DDR型ゼオライト層を形成することが好ましい。
【0017】また、本発明においては、前記多孔質基体として、平均細孔径が0.05〜10μmのものを用いることが好ましい。
【0018】また、本発明においては、前記DDR型ゼオライト膜複合体を得るために、130〜200℃で水熱合成することが好ましい。
【0019】さらに、本発明においては、前記原料溶液として、種結晶となるDDR型ゼオライト粉末をさらに含んでなるものを用いてもよく、前記多孔質基体の表面に、種結晶となるDDR型ゼオライト粉末を付着させて前記原料溶液に含浸させてもよい。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0021】本発明のDDR型ゼオライト膜複合体の一の実施の形態について説明する。図1に示すように、本実施の形態のDDR型ゼオライト膜複合体1は、多孔質基体2と、DDR型ゼオライトからなるDDR型ゼオライト膜6とを備えてなるものである。このDDR型ゼオライト膜6は、多孔質基体2の一方の表面の細孔3内に配設された、多孔質基体の平均細孔径の5〜50倍の厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層5と、多孔質基体2の、基体内析出DDR型ゼオライト層5が配設された表面に配設された、その厚さが30μm以下の基体外析出DDR型ゼオライト層4とから構成されている。
【0022】本実施の形態においては、例えば、多孔質基体2の平均細孔径は0.6μmであり、基体内析出DDR型ゼオライト層5の厚さは、多孔質基体2の平均細孔径の10倍、つまり、6μmである。また、基体外析出DDR型ゼオライト層4の厚さは7μmである。
【0023】このように構成することによって、例えば、本実施の形態のDDR型ゼオライト膜複合体1を分子分離膜として用いた場合に、高い機械的強度を有するとともに、熱応力によるクラック等の欠陥の発生を防止することができ、かつ、十分な透過量を確保することができる。
【0024】本実施の形態に用いられる多孔質基体2としては、アルミナ、ジルコニア、ムライト等を始めとするセラミックス、或いはガラス、ゼオライト、粘土、金属、炭素等から形成されたものを好適に用いることができる。多孔質基体2の平均細孔径は、特に限定されることはないが、0.05〜10μmのものを好適に用いることができる。また、多孔質基体2は、基体内析出DDR型ゼオライト層5が形成されている領域の多孔質基体2aと、それ以外の領域の多孔質基体2bとは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0025】また、本実施の形態に用いられるDDR型ゼオライトは、シリカからなる結晶で、その細孔は酸素8員環を含む多面体によって形成されている。本実施の形態の基体外析出DDR型ゼオライト層4の形成方法は特に限定されることはないが、例えば、DDR型ゼオライトを形成するために用いられる原料溶液に多孔質基体2を含浸させて、水熱合成することで形成することができる。また、この原料溶液に多孔質基体2を含浸させる際に、多孔質基体2の細孔3内に原料溶液が浸入しているため、基体内析出DDR型ゼオライト層5を形成することができる。この際、原料溶液の濃度を、DDR型ゼオライトを形成する場合に用いる原料溶液の範囲において、比較的濃い原料溶液を用いることで、基体内析出DDR型ゼオライト層5の多孔質基体2の細孔3内への形成を促進することができる。
【0026】また、本実施の形態においては、基体内析出DDR型ゼオライト層5の厚さを、多孔質基体2の平均細孔径の5〜50倍の厚さとしているが、5〜10倍の厚さとすることがさらに好ましい。基体内析出DDR型ゼオライト層5の厚さが平均細孔径の5倍未満であると、DDR型ゼオライト膜6の熱処理工程等において、熱応力によって生じるクラック等の欠陥の発生を抑制することができない。また、基体内析出DDR型ゼオライト層5の厚さが平均細孔径の50倍を超えると、圧力損失が大きくなりすぎるために、例えば、このDDR型ゼオライト膜複合体1を分子分離膜として用いた場合、十分な透過量を確保することができない。また、多孔質基体2の細孔3内にDDR型ゼオライトを析出させるのに時間が掛かりすぎる。
【0027】本実施の形態においては、多孔質基体2の表面に配設された基体外析出DDR型ゼオライト層4の厚さを30μm以下としているが、10μm以下とすることがさらに好ましい。また、DDR型ゼオライト膜複合体1に十分な厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層5が存在する場合には、基体外析出DDR型ゼオライト層4は必ずしも必要ではない。また、基体外析出DDR型ゼオライト層4の厚さが30μmを超えると、DDR型ゼオライト膜6の熱処理工程等において、熱応力によって生じるクラック等の欠陥が増加することがある。
【0028】また、多孔質基体2の厚さは特に限定されることはない。
【0029】上述した基体外析出DDR型ゼオライト層4の厚さ、及び基体内析出DDR型ゼオライト層5の厚さは、原料溶液の組成、合成温度、及び合成時間を制御することにより所望のものにすることができる。
【0030】このように構成されたDDR型ゼオライト膜複合体1は、分子分離膜として有効に利用することができ、例えば、二酸化炭素(CO2)とメタン(CH4)に対して高い分離特性を有する。
【0031】次に、本発明のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法の一の実施の形態について説明する。本実施の形態のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法は、1−アダマンタンアミンのシリカ(SiO2)に対する配合割合(1−アダマンタンアミン(mol)/シリカ(mol))が0.03〜0.4、かつ、水のシリカに対する配合割合(水(mol)/シリカ(mol))が20〜500となるように構成された原料溶液を形成し、得られた原料溶液に多孔質基体を含浸させて、水熱合成し、多孔質基体の少なくとも一方の表面の細孔内に、DDR型ゼオライトからなる、多孔質基体の平均細孔径の5〜50倍の厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層を形成することを特徴とする。
【0032】また、本実施の形態においては、多孔質基体の、基体内析出DDR型ゼオライト層が形成された表面に、DDR型ゼオライトからなる、その厚さが30μm以下の基体外析出DDR型ゼオライト層を形成することが好ましい。
【0033】このように構成することによって、例えば、分子分離膜として用いた場合に、高い機械的強度を有するとともに、熱応力によるクラック等の欠陥の発生を防止することができ、かつ、十分な透過量を確保することができるDDR型ゼオライト膜複合体を簡便、かつ低コストに製造することができる。
【0034】上述した1−アダマンタンアミンは、基体内析出DDR型ゼオライト層と基体外析出DDR型ゼオライト層とから構成されるDDR型ゼオライト膜を形成するための鋳型剤として機能する。また、本実施の形態に用いられる原料溶液には、さらにこれ以外の添加剤を加えてもよい。
【0035】本実施の形態に用いられる多孔質基体としては、アルミナ、ジルコニア、及びムライト等を始めとするセラミックス、或いはガラス、ゼオライト、粘土、金属、及び炭素等から形成されたものを好適に用いることができる。
【0036】また、本実施の形態に用いられるDDR型ゼオライトは、シリカからなる結晶で、その細孔は酸素8員環を含む多面体によって形成されている。
【0037】本実施の形態においては、1−アダマンタンアミンのシリカに対する配合割合(1−アダマンタンアミン(mol)/シリカ(mol))が0.03〜0.4、かつ、水のシリカに対する配合割合(水(mol)/シリカ(mol))が20〜500となるように構成されている。1−アダマンタンアミンのシリカに対する配合割合が0.03未満であると、鋳型剤の1−アダマンタンアミンが不足してDDR型ゼオライト膜を形成することが困難となるために好ましくない。一方、1−アダマンタンアミンのシリカに対する配合割合が0.4を超えると、DDR型ゼオライト膜を形成することは可能ではあるが、1−アダマンタンアミンが鋳型剤として作用するためには十分な添加量であるとともに、高価な1−アダマンタンアミンをこれ以上多量に添加することは製造コスト面において好ましくない。
【0038】なお、製造コストを考慮しつつDDR型ゼオライト膜を形成するといった観点からは、1−アダマンタンアミンのシリカに対する配合割合が0.03〜0.25とすることが好ましく、0.05〜0.25とすることがさらに好ましい。
【0039】また、水のシリカに対する配合割合が20未満であると、原料溶液のシリカの濃度が高すぎるために緻密なDDR型ゼオライト膜を形成することが困難となるために好ましくなく、一方、水のシリカに対する配合割合が500を超えると、原料溶液のシリカの濃度が低すぎるためにDDR型ゼオライト膜を形成することが困難となるために好ましくない。なお、緻密なDDR型ゼオライト膜を形成するといった観点からは、水のシリカに対する配合割合を20〜300とすることが好ましく、20〜230とすることがさらに好ましい。
【0040】上述した原料溶液の配合割合は、一般的に、DDR型ゼオライトを形成する際に用いられる原料溶液の範囲において、その濃度が濃くなるように配合されている。このような濃い濃度の原料溶液を用いることによって、多孔質基体の細孔内への基体内析出DDR型ゼオライト層の形成を促進することができる。
【0041】また、本実施の形態の原料溶液として、上述したように構成された原料溶液に、1−アダマンタンアミンに対するエチレンジアミンの配合割合(エチレンジアミン(mol)/1−アダマンタンアミン(mol))が5〜32となるようにエチレンジアミンを添加し、調製したものを用いることが好ましい。エチレンジアミンを添加して原料溶液を調製することにより、1−アダマンタンアミンを容易に溶解することが可能となり、均一な結晶サイズ、膜厚を有するDDR型ゼオライト膜を形成することができる。
【0042】また、本実施の形態においては、基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さが多孔質基体の平均細孔径の5〜50倍の厚さとなるように形成しているが、5〜10倍の厚さとなるように形成することがさらに好ましい。基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さが平均細孔径の5倍未満であると、DDR型ゼオライト膜の熱処理工程等において、熱応力によって生じるクラック等の欠陥の発生を抑制することができない。また、基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さが平均細孔径の50倍を超えると、圧力損失が大きくなりすぎるために、例えば、得られたDDR型ゼオライト膜複合体を分子分離膜として用いた場合、十分な透過量を確保することができない。また、多孔質基体の細孔内にDDR型ゼオライトを析出させるのに時間が掛かりすぎる。
【0043】本実施の形態においては、多孔質基体の表面に配設された基体外析出DDR型ゼオライト層の厚さが30μm以下となるように形成しているが、10μm以下となるように形成することがさらに好ましい。また、DDR型ゼオライト膜複合体に十分な厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層が存在する場合には、基体外析出DDR型ゼオライト層は必ずしも必要はない。また、基体外析出DDR型ゼオライト層の厚さが30μmを超えると、DDR型ゼオライト膜の熱処理工程等において、熱応力によって生じるクラック等の欠陥が増加する。
【0044】また、本実施の形態に用いられる多孔質基体の厚さは特に限定されることはない。
【0045】一般的に、DDR型ゼオライトを形成する際の水熱合成温度は130〜200℃であるが、本実施の形態においては、多孔質基体の細孔内に基体内析出DDR型ゼオライト層が形成され易いように、150〜170℃で水熱合成することが好ましい。また、水熱合成温度に限らず、原料溶液の組成、及び合成時間を制御することによっても、基体外析出DDR型ゼオライト層の厚さ、及び基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さの制御を行うことができる。
【0046】また、本実施の形態においては、原料溶液として、種結晶となるDDR型ゼオライト粉末をさらに含んでなるものを用いる。このDDR型ゼオライト粉末は、DDR型ゼオライト膜の形成を補助する。このように原料溶液にDDR型ゼオライト粉末を分散させる方法としては、一般的な攪拌方法を採用すればよいが、超音波処理等の方法を採用してもよく、均一に分散させることにより、より緻密で均一な膜厚のDDR型ゼオライト膜を形成することができる。
【0047】また、本実施の形態においては、原料溶液に、種結晶となるDDR型ゼオライト粉末を分散させることに代えて、多孔質基体の表面に、種結晶となるDDR型ゼオライト粉末を付着させて原料溶液に含浸させてもよい。このように構成することによって、均一かつ十分な膜厚を有するDDR型ゼオライト膜を形成することができる。
【0048】ここで、「DDR型ゼオライト粉末を多孔質基体上に付着させる」とは、種結晶となるDDR型ゼオライト粉末を多孔質基体のDDR型ゼオライト膜が形成されるべき表面上に接して配されている状態とすることを意味し、強固に接着されている必要はない。また、DDR型ゼオライト粉末を多孔質基体上に付着させるためには、例えば、DDR型ゼオライト粉末を水に分散させ、適当な濃度の分散液を調製し、この適当な量を多孔質基体のDDR型ゼオライト膜が形成されるべき面に塗布すればよい。塗布方法としては、滴下法、ディップ法、スピンコート法、印刷法等を目的に応じて選択できる。
【0049】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】(DDR型ゼオライト粉末(種結晶)の製造)
M. J. den Exter, J. C. Jansen, H. van Bekkum, Studies in Surface Science and Catalysis vol.84, Ed. by J. Weitkamp et al., Elsevier(1994)1159−1166に記載のDDR型ゼオライトを製造する方法に従って、結晶サイズが約100μmであるDDR型ゼオライト粉末を製造した。これを5μm以下の微粉末に粉砕し種結晶として使用した。
【0051】(実施例1)
フッ素樹脂製の100ml広口瓶に6.01gのエチレンジアミン(和光純薬工業(株)製)を入れた後、0.95gの1−アダマンタンアミン(片山化学工業(株)製)を加え、1−アダマンタンアミンの沈殿が残らないように溶解した。別のビーカーに43.41gの水を入れ、10.01gの30重量%シリカゾル(日産化学(株)製 商品名:スノーテックスS)を加えて軽く攪拌した後、これをエチレンジアミンと1−アダマンタンアミンを混ぜておいた広口瓶に加えて強く振り混ぜ、原料溶液を調製した。このとき、1−アダマンタンアミンのシリカ(SiO2)に対する配合割合(1−アダマンタンアミン(mol)/シリカ(mol))は0.125、水のシリカに対する配合割合(水(mol)/シリカ(mol))は56、エチレンジアミンの1−アダマンタンアミンに対する配合割合(エチレンジアミン(mol)/1−アダマンタンアミン(mol))は16であった。
【0052】多孔質基体として、平均細孔径が0.6μmであるアルミナ多孔体(日本ガイシ(株)製)を、直径15mmφ×厚さ1.5mmの円盤状に加工した多孔質基体を用意した。DDR型ゼオライト粉末を種結晶とし、これを水に加えて濃度が1mg/mlの分散液を調製し、これを多孔質基体の片面に塗布した。この多孔質基体を、内容積100mlのフッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器内に垂直に立て、原料溶液に水没させた状態とした。この耐圧容器を内温160℃に調整した乾燥機に入れ、48時間、水熱合成を行い、多孔質基体の表面に基体外析出ゼオライト層が付着され、多孔質基体の基体外析出ゼオライト層が配設された表面の細孔内に、基体内析出DDR型ゼオライト層が形成されたDDR型ゼオライト膜複合体を形成した。
【0053】水熱合成後、DDR型ゼオライト膜複合体を水洗、乾燥した後、大気中、電気炉で800℃まで0.1℃/minの速度で昇温して4時間保持後、1℃/minの速度で室温まで冷却して、鋳型剤である有機分子を伴わないDDR型ゼオライト膜複合体を形成した。
【0054】次に、得られたDDR型ゼオライト膜複合体を構成する多孔質基体上に配設されたゼオライト膜の結晶相をX線回折で調べることにより結晶相の評価を行ったところ、DDR型ゼオライトと多孔質基体の回折ピークが検出され、多孔質基体上に配設されたゼオライト膜がDDR型ゼオライト膜であることが確認された。
【0055】なお、X線回折における「DDR型ゼオライトの回折ピーク」とは、International Center for Diffraction Data (ICDD) 「Powder Diffraction File」に示されるDeca−dodecasil 3Rに対応するNo.38−651、又は41−571に記載される回折ピークを意味する。また、これを電子顕微鏡で観察したところ、厚さが7μmの緻密な基体外析出DDR型ゼオライト層が多孔質基体上に形成されていた。また、多孔質基体の基体外析出DDR型ゼオライト層が配設された表面の細孔内に、DDR型ゼオライトからなる、厚さが6μmの基体内析出DDR型ゼオライト層が形成されていた。なお、図2及び図3は、実施例1において作製したDDR型ゼオライト膜複合体の形状を示す電子顕微鏡写真であり、図2はDDR型ゼオライト膜複合体の断面、図3はDDR型ゼオライト膜複合体の表面における形状を示す。
【0056】(実施例2〜11、比較例1〜5)
原料溶液の組成比、原料溶液の量、熱処理条件、及び多孔質基体の形状を変えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、DDR型ゼオライト膜複合体の形成を試みた。多孔質基体としては、実施例1で使用した円盤状のもの、及び外径17mmφ×厚さ2.5mmのチューブ状に加工したものを用意した。形成されたDDR型ゼオライト膜の評価は、実施例1の場合と同じくX線回折により行い、基体外析出DDR型ゼオライト層の厚さ、及び基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さは電子顕微鏡での観察により測定した。原料溶液の組成割合(1−アダマンタンアミン(mol)/シリカ(mol)、エチレンジアミン(mol)/シリカ(mol)、及びエチレンジアミン(mol)/1−アダマンタンアミン(mol))、基体形状、熱処理条件(温度、時間)、形成された基体外析出DDR型ゼオライト層の厚さ、及び基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さを表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】(ガス透過試験)
実施例1〜11、比較例1〜5で作製したDDR型ゼオライト膜複合体を用いてガス透過試験を行った。
【0059】図4は、ガス透過試験に使用するガス透過試験装置20の構成を説明する模式図であり、アルミナ製の測定管11(内径15mmφ)の先端部に、DDR型ゼオライト膜複合体12を取り付け、これを管状炉13の炉芯管14(内径25mmφ)に入れ、測定管11の内側に内径6mmφの石英管15をDDR型ゼオライト膜複合体12の近傍まで通して三重管構造とした状態を示している。このように構成されたガス透過試験装置の炉芯管14内に、炉芯管14とバルブ22によって仕切ることができるガス導入口23から、メタン(CH4)及び二酸化炭素(CO2)の混合ガスを直接導入した。混合ガスの導入速度は、多孔質基体の形状が、円盤状の場合は50ml/minとし、チューブ状の場合は100ml/minとした。
【0060】測定管11の内側の石英管15にはDDR型ゼオライト膜複合体2を透過したガスを回収するためのヘリウムガス(スイープガス、円盤状基体では100ml/min、チューブ状基体では200ml/min)を流した。この状態で管状炉13を試験温度(100℃)に昇温し、1時間以上放置して定常状態とした。DDR型ゼオライト膜複合体12を透過したガスを含む回収ガスを分取し、ガスクロマトグラフにて分析を行い、メタン及び二酸化炭素ガスの透過率(nmol・m−2・s−1・Pa−1)を評価した。100℃でのCO2/CH4の分離係数を表1に示す。CO2/CH4の分離係数αは、下記式(1)により算出した。
【0061】
【数1】
α=(QA/QB)/(PA/PB)…(1)
【0062】前記式(1)において、QAはCO2の透過率(nmol・m−2・s−1・Pa−1)、QBはCH4の透過率(nmol・m−2・s−1・Pa−1)、PAは試験ガス中のCO2の分圧(Pa)、及びPBは試験ガス中のCH4の分圧(Pa)を示す。
【0063】(考察)
表1に示す結果から明らかな通り、原料溶液の組成を、1−アダマンタンアミンのシリカに対する配合割合に関しては0.03〜0.5の範囲内、エチレンジアミンの1−アダマンタンアミンに対する配合割合に関しては5〜35の範囲内、水のシリカに対する配合割合に関しては20〜500の範囲内に調整し、基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さが、本実施例に用いられた多孔質基体の平均細孔径(0.6μm)の5倍(3μm)以上の厚さであり、100℃でのCO2/CH4分離係数が2以上の、ガス分離膜として用いることのできるDDR型ゼオライト膜複合体を製造することができた(実施例1〜11)。
【0064】表1に示す結果から明らかな通り、厚さが3μm以上の基体内析出DDR型ゼオライト層を有するDDR型ゼオライト膜複合体は、100℃でのCO2/CH4分離係数が2以上であり、特に、厚さが5μm以上の基体内析出DDR型ゼオライト層が形成されたDDR型ゼオライト膜複合体は、100℃でのCO2/CH4分離係数が50以上であり、ガス分離膜として好適に用いることができるものであった(実施例1、2、6〜9)。なお、基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さが厚くなるにつれて分子の透過速度が遅くなるために、平均細孔径が0.6μmの多孔質基体を用いた場合の基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さは3〜6μmの範囲であることが好ましいといえる。
【0065】厚さが3μm以上の基体内析出DDR型ゼオライト層を有する実施例1〜11のDDR型ゼオライト膜複合体は、100℃でのCO2/CH4分離係数が高いことから、鋳型剤を除去する熱処理(仮焼)後も、クラック等の欠陥の発生が抑制されていることが推測できる。図5は、DDR型ゼオライト、及びアルミナの熱膨張挙動を示すグラフである。図5に示すように、DDR型ゼオライトとアルミナとの熱膨張挙動が大きく異なっている。このことから、基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さが平均細孔径の5倍未満、つまり、DDR型ゼオライト層が3μm未満の場合には、DDR型ゼオライトとアルミナ基体との熱膨張挙動の差が大きいため、熱処理によって欠陥が発生し、比較例1〜5のように、分子分離能が低下すると推測できる。一方、基体内析出DDR型ゼオライト層の厚さが3μm以上、好ましくは5μm以上の場合には、基体内析出DDR型ゼオライト層がDDR型ゼオライト膜とアルミナ基体(多孔質基体)との熱膨張挙動の差を緩和し、熱処理後の欠陥の発生を抑制していると推測できる。
【0066】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のDDR型ゼオライト膜複合体によって、例えば、分子分離膜として用いた場合に、高い機械的強度を有するとともに、十分な透過量を確保することができるDDR型ゼオライト膜複合体を提供することができる。また、本発明のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法によって、上述したDDR型ゼオライト膜複合体を簡便、かつ低コストに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一の実施の形態のDDR型ゼオライト膜複合体を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1において作製したDDR型ゼオライト膜複合体の断面形状を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1において作製したDDR型ゼオライト膜複合体の表面形状を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】ガス透過試験に使用するガス透過試験装置の構成を模式的に示す説明図である。
【図5】DDR型ゼオライト、及びアルミナの熱膨張挙動を示すグラフである。
【符号の説明】
1…DDR型ゼオライト膜複合体、2…多孔質基体、3…細孔、4…基体外析出DDR型ゼオライト層、5…基体内析出DDR型ゼオライト層、6…DDR型ゼオライト膜、11…測定管、12…DDR型ゼオライト膜複合体、13…管状炉、14…炉芯管、15…石英管、20…ガス透過試験装置、22…バルブ、23…ガス導入口。
Claims (9)
- 多孔質基体と、前記多孔質基体の少なくとも一方の表面の細孔内に配設された、DDR型ゼオライトからなる、前記多孔質基体の平均細孔径の5〜50倍の厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層とを備えてなることを特徴とするDDR型ゼオライト膜複合体。
- 前記多孔質基体の、前記基体内析出DDR型ゼオライト層が配設された表面に、DDR型ゼオライトからなる、その厚さが30μm以下の基体外析出DDR型ゼオライト層をさらに備えてなる請求項1に記載のDDR型ゼオライト膜複合体。
- 前記多孔質基体の平均細孔径が0.05〜10μmである請求項1又は2に記載のDDR型ゼオライト膜複合体。
- 1−アダマンタンアミンのシリカに対する配合割合(1−アダマンタンアミン(mol)/シリカ(mol))が0.03〜0.4、かつ、水のシリカに対する配合割合(水(mol)/シリカ(mol))が20〜500となるように構成された原料溶液を形成し、得られた前記原料溶液に多孔質基体を含浸させて、水熱合成し、前記多孔質基体の少なくとも一方の表面の細孔内に、DDR型ゼオライトからなる、前記多孔質基体の平均細孔径の5〜50倍の厚さの基体内析出DDR型ゼオライト層を形成することを特徴とするDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法。
- 前記多孔質基体の、前記基体内析出DDR型ゼオライト層が配設された表面に、DDR型ゼオライトからなる、その厚さが30μm以下の基体外析出DDR型ゼオライト層を形成する請求項4に記載のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法。
- 前記多孔質基体として、平均細孔径が0.05〜10μmのものを用いる請求項4又は5に記載のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法。
- 前記水熱合成を、130〜200℃にて行う請求項4〜6のいずれか一項に記載のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法。
- 前記原料溶液として、種結晶となるDDR型ゼオライト粉末をさらに含んでなるものを用いる請求項4〜7のいずれか一項に記載のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法。
- 前記多孔質基体の表面に、種結晶となるDDR型ゼオライト粉末を付着させて前記原料溶液に含浸させる請求項4〜7のいずれか一項に記載のDDR型ゼオライト膜複合体の製造方法。
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