JP2002194591A - チタン薄板とその製造方法 - Google Patents

チタン薄板とその製造方法

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JP2002194591A
JP2002194591A JP2000388431A JP2000388431A JP2002194591A JP 2002194591 A JP2002194591 A JP 2002194591A JP 2000388431 A JP2000388431 A JP 2000388431A JP 2000388431 A JP2000388431 A JP 2000388431A JP 2002194591 A JP2002194591 A JP 2002194591A
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Kazuhiro Takahashi
一浩 高橋
Teruhiko Hayashi
照彦 林
Junichi Tamenari
純一 爲成
Mitsunori Abe
光範 阿部
Michihisa Hirota
道久 弘田
Kiyonori Tokuno
清則 徳野
Kinichi Kimura
欽一 木村
Takatsugu Shindo
卓嗣 進藤
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Nippon Steel Corp
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Nippon Steel Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 チタン薄板、特にプレス成形などの成形性に
優れたチタン薄板とその製造方法を提供する。 【解決手段】 チタン薄板の表面において、荷重200
gfのビッカース硬さを170以下にし、更には酸化皮
膜の厚さを150Å以上にすることにより、素材の成形
性を損なうことなく成形時の金型や工具との潤滑性を維
持し、更には金型や工具に対する耐疵付き性を確保し
た、成形性に優れたチタン薄板を得ることができる。こ
のようなチタン薄板は、冷間圧延後で油分が付着したチ
タン薄板の表面を除去した後に、真空雰囲気あるいは不
活性ガス雰囲気にて焼鈍し、その後に陽極酸化処理を施
し酸化皮膜を付与することにより得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、チタン薄板とその
製造方法に関する。特にプレス成形などの成形性に優れ
たチタン薄板とその製造方法に関する。ここで成形性と
は、素材の加工性の他、金型などの成形工具との潤滑性
及び該工具に対する耐疵付き性を総称したものである。
【0002】
【従来の技術】チタン薄板は耐食性に優れていることか
ら、化学・電力及び食品製造プラントなどの熱交換器に
使用されており、その中でもプレート式熱交換器は、プ
レス成形によりチタン薄板に凹凸を付けて表面積をかせ
ぎ熱交換効率を高めており、深い凹凸を付けるため成形
性が必要である。また軽量化を狙ったチタン製のマグカ
ップや水筒、鍋釜、フライパンもチタン薄板を成形して
製造されており、プレート式熱交換器用途と同様に成形
性が求められている。
【0003】成形性には、素材そのものの加工性と潤滑
性の両面が要求されており、成形性に関するチタン表面
の課題は以下の通りである。酸素、炭素、窒素など軽元
素が富化した脆く深い硬化層が存在すると成形時にその
硬化層に微小割れが生じ、その後該微小割れに応力が集
中し割れが進展して破断に至る場合があり、これは素材
の加工性に起因する。
【0004】また実際のプレス加工などの成形時には、
潤滑剤の塗布頻度はプレス数回に一回程度であるため、
プレス成形中に部分的に潤滑膜が途切れ、金型などの工
具とチタン薄板が接触するとその部分の潤滑性が低下
し、チタン薄板の流れ込みが抑えられてしまい、チタン
薄板が破断したり工具が擦れて疵が付く場合があり、こ
れは素材と工具との潤滑性や反応性に起因する。特にチ
タン表面の酸化皮膜など、母材金属チタンと工具との接
触を防止している皮膜が薄い場合に、このような潤滑の
不具合が発生しやすい。
【0005】これまで、成形性に悪影響を及ぼす硬化層
を除去するため、連続焼鈍或いは真空雰囲気焼鈍後に酸
洗溶削する方法が一般的である。また硬化層の形成を抑
えるため特公平5−68537号公報では、硬化層形成
の原因となる冷間圧延で焼き付き付着した油分を焼鈍前
に硝フッ酸水溶液にて酸洗し除去した後、更に7×10
-5Torr以下の高真空相当雰囲気で焼鈍することにより、
焼鈍時に形成される硬化層も抑制する方法が提案されて
いる。
【0006】一方、プレス成形時の潤滑性を高めるため
に、陽極酸化によりチタン表面に酸化皮膜を形成しプレ
ス成形性を改善する方法として、特開平6−17308
3号公報がある。またチタンの表面に熱処理により酸化
及び窒化皮膜を形成する方法として、特公昭58−37
383号公報、特公昭58−37384号公報、特開平
10−60620号公報、特開平10−204609号
公報などがあり、これらは窒化・酸化により表面を硬化
させて疵付き難くするものである。また特開平6−24
8404号公報は、200〜500℃の酸化処理で25
0Å以上の酸化膜を形成することにより、潤滑性を高め
プレス成形性を良くするとしいる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】連続焼鈍或いは真空雰
囲気焼鈍後に酸洗溶削する方法や、冷間圧延後に硝フッ
酸酸洗した後に高真空相当雰囲気中で焼鈍する特公平5
−68537号公報では、硬化層は軽減され素材の加工
性は良くなる方向であるが、酸化膜などの表面皮膜が薄
いため容易に工具と金属チタンが接触し、摩擦係数が高
まり潤滑に不具合が生じやすいといった問題があった。
【0008】窒化や酸化をさせて表面に皮膜を形成させ
る特公昭58−37383号公報、特公昭58−373
84号公報、特開平10−60620号公報、特開平1
0−204609号公報は、加工性や成形性への影響は
言及していないと共に、請求項では冷間圧延後に焼鈍す
る工程であり、表面硬化の元となる軽元素の供給源であ
る冷間圧延で焼き付いた油分を除去する工程は含まれて
いない。また特開平6−173083号公報と特開平6
−248404号公報も同様に、冷間圧延後に焼き付い
た油分を除去する工程が含まれていないため、上記のい
ずれも脆い硬化層が形成され、成形性に悪影響を及ぼす
場合があるといった問題があった。
【0009】また、連続焼鈍或いは真空雰囲気焼鈍後に
表層のスケールや硬質層を酸洗溶削した後に、陽極酸化
や熱処理により酸化皮膜を付与する方法が考えられる
が、炭素、酸素、窒素が深く侵入した層を完全に除去し
均一な表面肌を得るためには、表面をおおよそ10μm
以上溶削する必要があり、一般的にプレス用途に用いら
れる板厚が0.5mm前後であることから,決して歩留
まりが良くはない。
【0010】本発明は以上の問題を鑑みなされたもので
あり、チタン薄板において成形性を劣化させる表層の脆
い硬化層を抑制し、且つ成形時の工具との潤滑性と工具
に対する耐疵付き性を確保する表面を歩留まり良く得る
ことを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】このような目的に応える
ため、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、チタン薄板の
表面が硬すぎると加工性の指標であるエリクセン値その
ものが低下し、一方柔らかすぎると油切れエリクセン試
験にて徐々にエリクセン値が減少し、その降下代が大き
くなり潤滑性が低下するため、表面の硬さと皮膜厚さを
特定の範囲に造り込むことにより初期のエリクセン値を
高め、且つ油切れエリクセン試験の降下代を十分に抑制
できる、加工性と潤滑性及び耐疵付き性に優れたチタン
薄板を見出し、以下のような本発明のチタン薄板とその
製造方法を完成するに至った。
【0012】本発明は、かかる知見を基に完成されたも
のであって、その要旨とするところは以下の通りであ
る。 (1) チタン薄板の表面にて、荷重200gfのビッ
カース硬さが170以下で、且つ酸化皮膜の厚さが15
0Å以上であることを特徴とするチタン薄板。 (2) チタン薄板の表面にて、荷重200gfのビッ
カース硬さが170以下で、且つ酸化皮膜の厚さが20
0Å以上であることを特徴とするチタン薄板。
【0013】(3) 冷間圧延後にチタン薄板の表面を
0.2μm以上除去した後、真空雰囲気中あるいは不活
性ガス雰囲気中にて焼鈍し、その後に陽極酸化処理を施
すことを特徴とするチタン薄板の製造方法。 (4) 前記(3)記載の冷間圧延後のチタン薄板の表
面を除去する手段として、酸水溶液にて溶解することを
特徴とするチタン薄板の製造方法。 (5) 前記(3)記載の冷間圧延後のチタン薄板の表
面を除去する手段として、フッ酸を含む水溶液にて溶解
することを特徴とするチタン薄板の製造方法。 (6) 前記(3)記載の冷間圧延後のチタン薄板の表
面を除去する手段として、機械的に除去することを特徴
とするチタン薄板の製造方法。 (7) 前記(3)記載の冷間圧延後のチタン薄板の表
面を除去する手段として、研磨、ブラスト、ホーニング
により除去することを特徴とするチタン薄板の製造方
法。
【0014】(8) 前記(3)記載の陽極酸化処理
を、アルカリ水溶液中にて実施することを特徴とするチ
タン薄板の製造方法。 (9) 前記(3)記載の陽極酸化処理を、水酸化ナト
リウムを含む水溶液中にて実施することを特徴とするチ
タン薄板の製造方法。 (10) 前記(3)記載の陽極酸化処理を、酸水溶液
中にて実施することを特徴とするチタン薄板の製造方
法。 (11) 前記(3)記載の陽極酸化処理を、りん酸ま
たは硝酸を含む水溶液中にて実施することを特徴とする
チタン薄板の製造方法。
【0015】ここで酸化皮膜とは、チタン薄板の表面及
び表層において酸素の濃度がチタン内部(母材)よりも
高い層で、表面からチタン内部に向かって深さ方向に酸
素濃度が減少している層のことであり、その皮膜厚さは
図4に示すように、オージェ電子分光分析(以降、AE
Sと略す)により得られる深さ方向の元素濃度分布デー
タにて、酸素濃度が最高濃度とベース濃度との中間濃度
となる深さとする。但しAESから求めた深さは、測定
時のスパッタリング条件においてSiO2 をスパッタリ
ングした場合の速度を用いて換算した値である。
【0016】またチタンとは、酸素、鉄、窒素、水素で
材質を調整した工業用純チタンや、ある程度のプレス成
形性を有する低合金系のチタン合金のことであり、JI
S1種工業用純チタンや、Ni,Ru,Ta,Pdなど
を添加し耐食性を向上させた合金がその一例である。
【0017】前記(3)において、陽極酸化処理は種々
水溶液中にてチタン薄板が陽極の状態で電圧を印可する
方法であり、その水溶液として水酸化ナトリウムなどの
アルカリ水溶液や硝酸やりん酸などの酸水溶液などがあ
るが、特に規定しない。また陽極酸化処理は、チタン薄
板が陽極である状態が一度でもあればよく、陰極と陽極
を交互に実施する場合も含む。
【0018】前記(3)では、冷間圧延後のチタン薄板
の表面を除去する方法に関して特に規定しない。前記
(3)〜(11)の製造方法において、矯正やスキンパ
ス圧延などの軽度な加工工程を最終あるいはその途中工
程で加えることは、その特性を損なわない限り規制する
ものではない。
【0019】
【発明の実施の形態】発明者らは、成形において素材が
持つ加工性を確保し、且つ工具との潤滑性と耐疵付き性
を高める表面特性と、それを得るための製造方法に関し
て、油切れエリクセン試験にて検討を重ねた。その結
果、油切れエリクセン試験の1回目のエリクセン値は、
潤滑油が十分に塗布された状態であるため素材の加工性
を示す指標となり、5回目のエリクセン値は、潤滑油が
徐々に減少し潤滑状態が悪化した状態であることから、
1回目と5回目のエリクセン値の差(低下)が表面の潤
滑性を示す指標となること、及び5回目のエリクセン試
験後のチタン薄板表面を観察することにより、目視にて
耐疵付き性が評価可能であることから、加工性性と潤滑
性及び耐疵付き性を油切れエリクセン試験にて評価し
た。
【0020】更に、油切れエリクセン試験の値と種々表
面特性との関連を検討した結果、表面ビッカース硬さ
は、荷重が小さい場合にはより表層部分の材質の指標と
なること、酸化皮膜厚さは試験治具やプレス工具と金属
チタンとの接触を抑制する作用を表すことができること
を見いだした。その結果、油切れエリクセン試験の結果
に対し、荷重200gfにおける表面ビッカース硬さと
酸化皮膜厚さが相関することを見いだした。
【0021】図1に、種々処理を施した工業用純チタン
JIS1種薄板における荷重200gfの表面ビッカー
ス硬さ(以降、HVS0.2 )と、エリクセン値(エリク
センB法、潤滑塗布後1回目)の関係を示す。図1よ
り、HVS0.2 が170以下では1回目のエリクセン値
が11.5mm以上であるのに対して、170超になると
低下してしまう。
【0022】次に、陽極酸化処理を種々条件にて施した
工業用純チタン薄板表面における、皮膜の成分と厚さを
AESにて分析した結果、図4に模式的に示すように、
その主たる構成はチタン中に酸素が濃化した酸化皮膜で
ある。図2に示すように、この酸化皮膜の厚さが150
Å未満の場合には、酸化皮膜が薄いため潤滑油が減少し
てくると金型や試験治具と金属チタンが容易に接触し擦
れ、潤滑状態が悪化し材料が流れ込み難くなるために、
1回目と5回目のエリクセン値の差が0.5mm以上と
大きい。一方150Å以上になると、酸化皮膜が試験治
具や工具と金属チタンとの接触を抑制し潤滑性が維持さ
れるため、0.4mm以下更には0.2mm以下と低位
に安定する。また酸化皮膜厚さが150Å未満の場合と
比べ、150Å以上の場合には試験後の表面を目視にて
観察すると、試験治具と擦れた痕が目立たない。
【0023】図3に、図1と図2の結果をもとに種々処
理を施したチタン薄板表面における、HVS0.2 と酸化
皮膜厚さの関係と油切れエリクセン試験結果との対応を
示す。図3より、HVS0.2 が170以下で、且つ酸化
皮膜厚さが150Å以上の範囲(図3の斜線領域)で
は、1回目のエリクセン値が工業用純チタンでは11.
5mm以上で、且つ1回目と5回目のエリクセン値の差
が0.5mm未満と小さく、更に試験後の表面にて試験
治具と擦れた痕が目立たない。
【0024】一方、HVS0.2 が170超の場合には、
表層が硬すぎ脆いため1回目のエリクセン値が11.5
mm未満であった。但し、チタン合金(Ti−0.5N
i−0.05Ru−0.046%[O]。以下、単にチ
タン合金と略す)においては、エリクセン値の境界値を
10.5mmとして本範囲を定めた。加えて酸化皮膜厚
さが150Å未満の場合には、酸化皮膜が薄いため油切
れエリクセン試験の1回目と5回目のエリクセン値の差
が0.5mm以上と大きく、更に試験後の表面にて試験
治具と擦れた痕が目立つ。
【0025】従って、前記(1)の本発明において、素
材が持つ加工性を確保し、且つ工具との潤滑性と耐疵付
き性の高い成形性に優れたチタン薄板として、HVS0.
2 が170以下で、且つ酸化皮膜厚さが150Å以上の
範囲とする。好ましくは前記(2)の本発明において、
HVS0.2 が170以下で、且つ酸化皮膜厚さが200
Å以上の範囲とする。
【0026】ここで用いた工業用純チタンJIS1種薄
板は、センジミア圧延機にて80%以上の冷間圧延を施
した板厚0.5mmの冷間圧延ままの板を、アルカリ洗
浄または硝フッ酸水溶液にて表面を溶解した後、真空ま
はたアルゴン雰囲気中にて640℃で240時間保持し
て焼鈍し、その後に種々の条件にて陽極酸化処理や硝フ
ッ酸水溶液酸洗を施した。また一部は冷間圧延ままの板
を大気焼鈍した後、約500℃のソルト処理と硝フッ酸
水溶液酸洗にてデスケーリング処理をした。その化学成
分は、質量%で0.044%の酸素、0.034%の
鉄、0.004%の炭素、0.004%の窒素、0.0
020%の水素である。また耐食性に優れている前記チ
タン合金を用いた場合も一部含んでいる。
【0027】ここで、上記のAES測定は、日本電子株
式会社製オージェ電子分光分析装置JAMP−7100
を使用し、直径50μmの分析領域において、最表面に
て広域スペクトルでの定性分析を実施して、検出された
元素において深さ方向の組成分布を測定した。但し、こ
のオージェ電子分光法の分析条件は一例であり、この条
件に限定するものではない。
【0028】以下に、油切れエリクセン値、表面ビッカ
ース硬さ、酸化皮膜厚さの測定について説明する。まず
油切れエリクセン試験は板厚0.5mm×90mm×9
0mmの試験片を用い1ton のしわ押さえ力にて、1回
目のみ潤滑油のグラファイトグリースを塗布し、以降5
回目まで潤滑油の塗布を実施せずエリクセン値を測定し
た。その他の試験条件はJIS Z2247に準拠して
実施した。
【0029】表面のビッカース硬さは、荷重200gf
にて10点測定した平均値である。また酸化皮膜厚さ
は、前述した方法にてAES測定した深さ方向の元素濃
度分布データにて、酸素濃度が最高濃度とベース濃度と
の中間濃度となる深さとする。但し、AESから求めた
深さは測定時のスパッタリング条件において、SiO2
をスパッタリングした場合の速度を用いて換算した値で
ある。
【0030】次に、上記のような表面特性を有する成形
性に優れたチタン薄板を得る製造方法を検討した。まず
工業的に大きな板あるいはコイルに均一な酸化皮膜を形
成する方法を検討した結果、熱処理により形成する方法
があるが、温度と時間及び露点や酸素濃度などの雰囲気
を制御する必要があり、表面の均一性に課題があること
から、電気化学的に形成する陽極酸化処理が適している
ことを見いだした。更に陽極酸化処理は、電解洗浄ライ
ンなど既存の製鉄設備を活用して、チタン薄板及びコイ
ルの表面に均一な酸化皮膜を効率的に形成することがで
きる。従って前記(2)〜(4)で規制するように、本
発明においては陽極酸化処理により酸化皮膜を形成する
ものとする。
【0031】次に、HVS0.2 を170以下とする方法
を検討した結果、硬化層形成の原因となる冷間圧延で焼
き付き付着した油分を除去する必要があり、冷間圧延後
のチタン薄板において片面0.2μm以上を除去するこ
とにより、陽極酸化処理を施した表面にてHVS0.2 を
170以下にできることを見いだした。一方、0.2μ
m未満の場合には油分の除去が不十分であるため、真空
雰囲気やアルゴン雰囲気で焼鈍した際に、残存した油分
がチタン内部へ侵入して表面を硬くし、その結果、陽極
酸化処理後のHVS0.2 が170超と硬質となる。従っ
て、前記(3)〜(11)の本発明においては、冷間圧
延後のチタン薄板の表面を0.2μm以上除去すること
とする。また好ましくは0.5μm以上である。
【0032】冷間圧延後に表面を除去せず真空やアルゴ
ンなどの不活性ガス雰囲気で焼鈍した後、あるいは大気
焼鈍しソルト処理した後に、酸洗により表面を除去して
から陽極酸化処理を施しても同様な効果が得られるが、
油分が深く侵入した硬質層やスケールを除去し均一な表
面とするためには、表面をおおよそ10μm以上は酸洗
で除去する必要があり、本発明の0.2μmと比べ溶削
による歩留まり落ちが大きい。従って、本発明において
は冷間圧延後に表面を除去することとする。
【0033】次に、チタンの表面を除去する工業的手段
を検討した結果、硝フッ酸水溶液などチタンが可溶解な
酸水溶液にて溶解する化学的な方法と、研磨、ブラス
ト、ホーニングなど機械的な方法が十分適用できること
から、前記(4)の本発明においては酸水溶液にてチタ
ンの表面を溶解して除去すること、好ましくは前記
(5)の本発明においてはフッ酸を含む水溶液にてチタ
ンの表面を溶解して除去すること、前記(6)の本発明
においては機械的にチタンの表面を除去すること、
(7)の本発明においては研磨、ブラスト、ホーニング
によりチタン表面を除去することとする。また前記
(4),(5)の本発明において、酸水溶液にて溶解除
去する場合、チタンの溶解効率を高めるためチタンの電
位を制御するなど、電気的な効果を付与する場合も含
む。
【0034】次に、陽極酸化処理を工業的に実施するた
めの溶液を検討した結果、アルカリ水溶液や酸水溶液の
どちらでも効率的に酸化皮膜を形成することができ、鉄
鋼生産ラインの活用が可能であることから、前記(8)
の本発明においてはアルカリ水溶液中にて、好ましくは
前記(9)の本発明においては水酸化ナトリウムを含む
水溶液中にて陽極酸化処理を実施すること、前記(1
0)の本発明においては酸水溶液中にて、前記(11)
の本発明においてはりん酸または硝酸を含む水溶液中に
て陽極酸化を実施することとする。
【0035】
【実施例】以下、実施例により本発明の効果を説明す
る。表1(表1−1),表2(表1−2)に、冷間圧延
後のチタン薄板を用いて、その後の表面の洗浄及び除去
条件、焼鈍条件、表面処理の有無及びその方法と陽極酸
化処理した場合にはその条件、そして、それらの種々条
件にて得られた表面のHVS0.2 及び酸化皮膜厚さと、
油切れエリクセン値の結果を示す。表1(表1−1),
表2(表1−2)のNo.1〜27は、冷間圧延ままの
工業用純チタンJIS1種の薄板を用いた場合であり、
No.28〜32は冷間圧延ままの前記チタン合金の薄
板を用いた場合である。
【0036】ここで、純チタンと前記チタン合金の薄板
は、センジミア圧延機にて80%以上の冷間圧延を実施
した後、アルカリ洗浄あるいは硝フッ酸水溶液酸洗や、
ベルト研削及び液体ホーニングにて表面を除去し、真空
またはアルゴン雰囲気にて640℃で240分保持し焼
鈍した。そして陽極酸化処理や硝フッ酸水溶液酸洗など
の表面処理を施した。また一部はアルカリ洗浄ままで大
気焼鈍しソルト処理と硝フッ酸水溶液酸洗によりスケー
ルを除去した。
【0037】その化学成分は、工業用純チタンJIS1
種は質量%で、0.044%の酸素、0.034%の
鉄、0.004%の炭素、0.004%の窒素、0.0
020%の水素で、残部が不可避的に含まれる不純物と
チタンからなる。チタン合金は、質量%で0.52%の
ニッケル、0.048%のルテニウム、0.046%の
酸素、0.029%の鉄、0.005%の炭素、0.0
05%の窒素、0.0026%の水素で、残部が不可避
的に含まれる不純物とチタンからなる。また油切れエリ
クセン値、荷重200gfでの表面のビッカース硬さ、
酸化皮膜の厚さは各々上述の条件にて測定した値であ
る。
【0038】表1(表1−1),表2(表1−2)にお
いて、#1〜#6で表示した箇所は以下の内容である。 #1:成分組成は質量%で、0.044%[O],0.
034%[Fe],0.004%[C],0.004%
[N],0.0020%[H]。 #2:成分組成は質量%で、0.52%[Ni],0.
048%[Ru],0.046%[O],0.029%
[Fe],0.005%[C],0.005%[N],
0.0026%[H]。 #3:「+」:チタン薄板の極性が陽極の場合。「+か
ら−へ交番」:チタン薄板の極性を陽極から途中で陰極
に変更した場合。「−から+へ交番」:チタン薄板の極
性を陰極から途中で陽極に変更した場合。 #4:オージェ電子分光分析(AES)で測定した表面
から深さ方向の元素濃度分布データより、酸素濃度が最
高濃度とベース濃度との中間濃度となる深さとする。 #5:JISのB法で1回目のエリクセン値を測定し、
以降5回目まで潤滑剤を塗布せず油切れエリクセン試験
を実施した。 #6:「×」:1回目のエリクセン値が11.5mm未満
と低い場合、但しチタン合金は10.5mm未満の場合。
「▲」:1回目と5回目のエリクセン値の差が0.5mm
超と減少代が大きい場合、又は試験工具と擦れた痕が目
立った場合。「○」:1回目と5回目のエリクセン値が
0.5mm以下で、且つ工具と擦れた痕が目立たなかった
場合。
【0039】表1(表1−1),表2(表1−2)よ
り、HVS0.2 が170以下で酸化皮膜厚さが150Å
以上と本発明の範囲内であるNo.7〜17、19〜2
5、31,32(実施例)は、油切れエリクセン試験の
1回目の値が、純チタンJIS1種においては11.5
mm以上、前記チタン合金においては10.5以上で、
且つ1回目と5回目の差が0.4mm以下であり、更に
試験後の表面にて工具と擦れた痕が目立たず、優れた成
形性を示している。またこれらは、いずれも硝フッ酸水
溶液酸洗やベルト研磨あるいは液体ホーニングによる表
面除去量は0.2μm以上であり、真空またはアルゴン
雰囲気にて焼鈍した後に種々溶液中で陽極酸化処理を実
施しており、これらの条件は本発明の製造方法の範囲内
である。以上のように前記チタン合金においても、工業
用純チタンJIS1種と同様の効果が得られる。但し前
記チタン合金の例は、本発明のチタン合金を限定するも
のではない。
【0040】No.23〜25(実施例)のように、冷
間圧延後の表面除去方法が硝フッ酸水溶液酸洗の他、ベ
ルト研磨あるいは液体ホーニングでも同様な効果が得ら
れている。また陽極酸化処理の溶液がアルカリ水溶液で
ある水酸化ナトリウム水溶液の他、酸水溶液である硝酸
(No.16)やりん酸(No.17)でも同様な効果
が得られており、チタン薄板の極性を陽極から陰極また
は陰極から陽極へ極性を変更(交番)したNo.14,
15においても、同様な効果が得られている。
【0041】一方、純チタンJIS1種にて冷間圧延後
に表面を除去せずアルカリ洗浄だけを実施したNo.
1,2(比較例)や、冷間圧延後の表面除去量が0.1
μmと少ないNo.18(比較例)は、HVS0.2 が1
70超と高く表面が硬すぎ脆くなったため、1回目のエ
リクセン値が11.1mm以下と低い。更に陽極酸化処
理したNo.4(比較例)では、HVS0.2 が210と
高く表面が更に硬すぎ脆くなったため、1回目のエリク
セン値が10.5mmと低い。また前記チタン合金にお
いても、アルカリ洗浄だけを実施したNo.28(比較
例)は、HVS0.2 が227と高く表面が硬すぎ脆くな
ったため、1回目のエリクセン値が10.0mmと低
い。
【0042】焼鈍後に硝フッ酸水溶液酸洗して溶削した
ままで陽極酸化処理を施していないNo.3,26,2
9(比較例)や、冷間圧延後の硝フッ酸水溶液酸洗で表
面を3μm以上除去し、Ar雰囲気で焼鈍したままで陽
極酸化処理を施していないNo.5,30(比較例)
は、HVS0.2 は170未満と低いが酸化皮膜厚さが1
20Å以下と薄いため、油切れエリクセン値の1回目と
5回目の差が0.8mm以上と大きく、且つ試験後の表
面にて工具と擦れた痕が目立つ。また冷間圧延後の硝フ
ッ酸水溶液酸洗で表面を3.2μm除去し、Ar雰囲気
で焼鈍した後に陽極酸化処理を施した場合でも、酸化皮
膜厚さが150Å未満であるNo.6(比較例)は、酸
化皮膜の効果が少なく、油切れエリクセン値の1回目と
5回目の差が0.6mmと大きく、且つ試験後の表面に
て工具と擦れた痕が目立つ。
【0043】焼鈍後に硝フッ酸水溶液酸洗して溶削した
後に陽極酸化処理を施したNo.27(比較例)でも同
様な効果が得られているが、スケールや炭素、酸素、窒
素が深く侵入した層を完全に除去し均一な表面肌を得る
ためには、表面をおおよそ10μm以上溶削する必要が
あるのに対し、本発明の実施例であるNo.19,20
では、冷間圧延後に表面を0.2μm以上除去すれば十
分な効果が得られており、これに比べ決して歩留まりが
良くはない。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【発明の効果】以上のように、本発明に従い、荷重20
0gfにおける表面のビッカース硬さ、および酸化皮膜
の厚さを特定の範囲に制御することにより、素材の成形
性を損なうことなく成形時の金型や工具との潤滑性を維
持し、更に金型や工具に対する耐疵付き性を確保できる
成形性に優れたチタン薄板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】荷重200gfの表面ビッカース硬さ(HVS
0.2 )とエリクセン値(エリクセンB法、潤滑塗布後1
回目)の関係を示す図。
【図2】酸化皮膜厚さと油切れエリクセン値の1回目と
5回目の差の関係を示す図。
【図3】荷重200gfの表面ビッカース硬さ(HVS
0.2 )と酸化皮膜厚さの関係と油切れエリクセン試験の
結果との対応を示す図。
【図4】AESにて分析したチタン薄板表面における皮
膜の深さ方向の元素分布、及びその図を用いた酸化皮膜
の厚さの測定方法を模式的に示す図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 爲成 純一 光市大字島田3434番地 新日本製鐵株式会 社光製鐵所内 (72)発明者 阿部 光範 光市大字島田3434番地 新日本製鐵株式会 社光製鐵所内 (72)発明者 弘田 道久 光市大字島田3434番地 新日本製鐵株式会 社光製鐵所内 (72)発明者 徳野 清則 東京都千代田区大手町2−6−3 新日本 製鐵株式会社内 (72)発明者 木村 欽一 東京都千代田区大手町2−6−3 新日本 製鐵株式会社内 (72)発明者 進藤 卓嗣 富津市新富20−1 株式会社日鐵テクノリ サーチ内 Fターム(参考) 4K053 PA09 PA12 QA01 QA07 RA16 RA17 TA10 ZA10

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 チタン薄板の表面にて、荷重200gf
    のビッカース硬さが170以下で、且つ酸化皮膜の厚さ
    が150Å以上であることを特徴とするチタン薄板。
  2. 【請求項2】 チタン薄板の表面にて、荷重200gf
    のビッカース硬さが170以下で、且つ酸化皮膜の厚さ
    が200Å以上であることを特徴とするチタン薄板。
  3. 【請求項3】 冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2
    μm以上除去した後、真空雰囲気中あるいは不活性ガス
    雰囲気中にて焼鈍し、その後に陽極酸化処理を施すこと
    を特徴とするチタン薄板の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項3記載の冷間圧延後のチタン薄板
    の表面を除去する手段として、酸水溶液にて溶解するこ
    とを特徴とするチタン薄板の製造方法。
  5. 【請求項5】 請求項3記載の冷間圧延後のチタン薄板
    の表面を除去する手段として、フッ酸を含む水溶液にて
    溶解することを特徴とするチタン薄板の製造方法。
  6. 【請求項6】 請求項3記載の冷間圧延後のチタン薄板
    の表面を除去する手段として、機械的に除去することを
    特徴とするチタン薄板の製造方法。
  7. 【請求項7】 請求項3記載の冷間圧延後のチタン薄板
    の表面を除去する手段として、研磨、ブラスト、ホーニ
    ングにより除去することを特徴とするチタン薄板の製造
    方法。
  8. 【請求項8】 請求項3記載の陽極酸化処理を、アルカ
    リ水溶液中にて実施することを特徴とするチタン薄板の
    製造方法。
  9. 【請求項9】 請求項3記載の陽極酸化処理を、水酸化
    ナトリウムを含む水溶液中にて実施することを特徴とす
    るチタン薄板の製造方法。
  10. 【請求項10】 請求項3記載の陽極酸化処理を、酸水
    溶液中にて実施することを特徴とするチタン薄板の製造
    方法。
  11. 【請求項11】 請求項3記載の陽極酸化処理を、りん
    酸または硝酸を含む水溶液中にて実施することを特徴と
    するチタン薄板の製造方法。
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