JP3600792B2 - 工業用純チタン薄板とその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、工業用純チタン薄板とその製造方法に関する。特にプレス成形などの成形性に優れた工業用純チタン薄板とその製造方法に関する。ここで成形性とは、素材の加工性の他、プレス工具との潤滑性及び該工具に対する耐疵付き性を総称したものである。
【0002】
【従来の技術】
チタン薄板は耐食性に優れていることから、化学・電力及び食品製造プラントなどの熱交換器に使用されており、その中でもプレート式熱交換器はプレス成形によりチタン薄板に凹凸を付けて表面積をかせぎ熱交換効率を高めており、深い凹凸をつけるため成形性が必要である。また軽量化を狙ったチタン製のマグカップや水筒、鍋釜、フライパンもチタン薄板を成形して製造されており、プレート式熱交換器用途と同様に成形性が求められている。
【0003】
成形性には、素材そのものの加工性と潤滑性の両面が要求されており、成形性に関するチタン表面の課題は以下の通りである。酸素、炭素、窒素など軽元素が富化した脆く深い硬化層が存在すると、成形時にその硬化層に微小割れが生じ、その後該微小割れに応力が集中し割れが進展して破断に至る場合があり、これは素材の加工性に起因する。
また実際のプレス加工などの成形時には、潤滑剤の塗布頻度はプレス数回に一回程度であるため、プレス成形中に部分的に潤滑膜が途切れ、工具とチタン薄板が接触すると、その部分の潤滑性が低下しチタン薄板の流れ込みが抑えられてしまい、チタン薄板が破断したり工具が擦れて疵が付く場合がある。これは素材と工具との潤滑性や反応性に起因する。特に、チタン表面の酸化皮膜など母材金属チタンと工具との接触を防止している皮膜が薄い場合などに、このような潤滑の不具合が発生しやすい。
【0004】
これまで、成形性に悪影響を及ぼす硬化層を除去するため、連続焼鈍或いは真空雰囲気焼鈍後に酸洗溶削する方法が一般的である。また硬化層の形成を抑えるため特公平5−68537号公報では、硬化層形成の原因となる冷間圧延で焼き付き付着した油分を、焼鈍前に硝フッ酸水溶液にて酸洗し除去した後、更に7×10−5Torr以下と相当真空度の良い高真空相当雰囲気で焼鈍することにより、焼鈍時に形成される硬化層も抑制する方法が提案されている。
【0005】
一方、チタンの表面に酸化や窒化により皮膜を形成する方法として、特公昭58−37383号公報、特公昭5837384号公報、特開平10−60620号公報、特開平10−204609号公報があり、窒化・酸化により表面を硬化させて疵付き難くすることが記載されている。また特開平6−248404号公報には、200〜500℃の酸化処理にて250Å以上の酸化膜を形成することにより、潤滑性を高めプレス成形性を良くすることが開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
連続焼鈍或いは真空雰囲気焼鈍後に酸洗溶削する方法や、冷間圧延後に硝フッ酸酸洗し、その後に高真空相当雰囲気中で焼鈍する特公平5−68537号公報では、硬化層は軽減され素材の加工性は良くなる方向であるが、酸化膜などの表面皮膜が薄いため容易に工具と金属チタンが接触し、摩擦係数が高まり潤滑に不具合が生じやすいといった問題があった。
【0007】
また窒化・酸化させて表面に皮膜を形成させる特公昭58−37383号公報、特公昭58−37384号公報、特開平10−60620号公報、特開平10−204609号公報では、プレス成形性への影響は言及していないと共に、請求項では冷間圧延後に焼鈍する工程であり、表面硬化の元である軽元素の供給源である冷間圧延で焼き付いた油分を除去する工程は含まれていない。また特開平6−248404号公報も同様に、冷間圧延後に焼き付いた油分を除去する工程が含まれていないため、上記のいずれも脆い硬化層が形成され、成形性に悪影響を及ぼす場合があるといった問題があった。
【0008】
本発明は以上の問題を鑑みなされたものであり、工業用純チタン薄板においてプレス成形などの成形性を劣化させる表層の脆い硬化層を抑制し、且つ成形時の工具との潤滑性と工具に対する耐疵付き性を確保する表面を得ることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような目的に応えるため、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、工業用純チタン薄板の表面が硬すぎると成形性の指標であるエリクセン値そのものが低下し、一方柔らかすぎると油切れエリクセン試験にて徐々にエリクセン値が減少し、その降下代が大きくなり潤滑性が低下するため、表面の硬さと皮膜厚さを特定の範囲に造り込むことにより初期のエリクセン値を高め、且つ油切れエリクセン試験の降下代を十分に抑制できる成形性と潤滑性及び耐疵付き性に優れた工業用純チタン薄板を見出し、以下に示すような本発明の工業用純チタン薄板とその製造方法を完成するに至った。
【0010】
本発明は、かかる知見を基に完成されたものであって、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)チタン薄板の表面にて、荷重50gfのビッカース硬さ;HVS0.05が180〜280、荷重200gfのビッカース硬さ;HVS0.2 が170以下であり、JIS Z 2247 B法に準拠したエリクセン値が11.5mm以上であることを特徴とする工業用純チタン薄板。
(2)チタン薄板の表面にて、荷重50gfのビッカース硬さ;HVS0.05が180〜280、荷重200gfのビッカース硬さ;HVS0.2 が170以下であり、表面に厚さ250Å以上の酸化及び窒化した皮膜が存在し、JIS Z 2247 B法に準拠したエリクセン値が11.5mm以上であることを特徴とする工業用純チタン薄板。
(3)冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、窒化・酸化雰囲気中にて600〜850℃で焼鈍することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
(4)冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼鈍し、その後に窒化・酸化雰囲気中にて200〜750℃で熱処理することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
(5)冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、窒化・酸化雰囲気中にて600〜850℃で焼鈍し、その後に更に窒化・酸化雰囲気中にて200〜750℃で熱処理することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
(6)冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、1×10-4Torr以上の真空中、または一旦1×10-4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気にて、600〜850℃で焼鈍することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
(7)冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気中にて、600〜850℃で焼鈍することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
(8)冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼鈍し、その後に1×10-4Torr以上の真空中、または一旦1×10-4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気中にて、200〜750℃の温度域にて熱処理することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
(9)冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼鈍し、その後に窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気中にて、200〜750℃の温度域で熱処理することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
【0011】
(10)冷間圧延後のチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後に実施する前記(5)に記載の焼鈍及び熱処理の雰囲気が、1×10-4Torr以上の真空中、または一旦1×10-4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気、または窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気であることを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
(11)冷間圧延後に焼鈍したチタン薄板の表面を除去した後、1×10-4Torr以上の真空中、または一旦1×10-4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気、または窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気にて、200〜750℃で熱処理することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の工業用純チタン薄板の製造方法。
(12)酸水溶液による溶解によって冷間圧延後のチタン薄板の表面を除去することを特徴とする前記(3)〜(11)のいずれかに記載の工業用純チタン薄板の製造方法。
(13)機械的な方法によって冷間圧延後のチタン薄板の表面を除去することを特徴とする前記(3)〜(11)のいずれかに記載の工業用純チタン薄板の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
ここで、酸化及び窒化した皮膜(以降、酸化・窒化皮膜)とは、チタン薄板の表面及び表層において、酸素と窒素の濃度がチタン内部(母材)よりも高い層で、表面からチタン内部に向かって深さ方向に酸素と窒素の濃度が減少している層のことであり、その皮膜厚さはグロー放電発光分光分析(以降、GDS)により得られる酸素及び窒素の深さ方向元素濃度分布データにて、表層の酸素及び窒素の最大濃度(母材部の濃度を差し引いた濃度)が半減した深さとし、酸素皮膜と窒素皮膜のうち深い方の値を本発明では酸化・窒化皮膜の厚さとする。
【0013】
酸化・窒化雰囲気とは、温度をあげた際に外雰囲気からチタン内部へ酸素や窒素が侵入する雰囲気のことであり、雰囲気の真空度、酸素と窒素の濃度や露点により制御されるものである。
【0014】
また、本発明において工業用純チタン薄板とは、酸素、鉄、窒素、水素で材質を調整したJISに規定されている工業用純チタンである。以下の本明細書において単にチタン薄板、或いは工業用純チタン、さらには工業用純チタンJIS1種薄板などと言うことがある
【0015】
前記(3)〜(11)では、冷間圧延後のチタン薄板の表面を除去する具体的方法に関して特に規定しない。
また前記(3)〜(13)の製造方法において、矯正やスキンパス圧延などの軽度な加工工程を最終あるいはその途中工程にて加えることは、その特性を損なわない限り規制するものではない。
【0016】
【発明の実施の形態】
プレスなどの成形において、素材が持つ加工性を確保し、且つ工具との潤滑性と耐疵付き性を高める表面特性と、それを得るための製造方法に関して、油切れエリクセン試験にて検討を重ねた。油切れエリクセン試験の1回目のエリクセン値は、潤滑油が十分に塗布された状態であるため素材の加工性を示す指標となり、5回目のエリクセン値は潤滑油が徐々に減少し潤滑状態が悪化した状態であることから、1回目と5回目のエリクセン値の差(低下)が表面の潤滑性を示す指標となること、及び5回目のエリクセン試験後のチタン薄板表面を観察することにより目視にて耐疵付き性が評価可能であることから、以下において成形性と潤滑性及び耐疵付き性を油切れエリクセン試験にて評価した。
【0017】
油切れエリクセン試験の値と種々表面特性との関連を検討した結果、表面ビッカース硬さは、荷重が小さい場合はより表面に近い部位の材質指標となると共に、潤滑性に影響する酸化・窒化皮膜の厚さを間接的に表すことができ、荷重が大きな場合は小さな場合に比べチタン内部の材質指標となること、また酸化・窒化皮膜厚さはプレスなどの金型及びエリクセン試験治具と金属チタンとの接触を抑制する作用を表すことができることを見いだした。その結果、油切れエリクセン試験結果に対し、荷重50gfと200gfにおける表面ビッカース硬さ、更には酸化・窒化皮膜厚さが相関することを見いだした。
【0018】
図1に、種々処理を施した工業用純チタンJIS1種薄板における荷重200gfの表面ビッカース硬さ(以降、HVS0.2 )とエリクセン値(エリクセンB法、潤滑塗布後1回目)の関係を示す。また図2に、種々処理を施した工業用純チタンJIS1種薄板における荷重50gfの表面ビッカース硬さ(以降、HVS0.05と略す)と、荷重200gfの表面ビッカース硬さHVS0.2 の関係と、油切れエリクセン試験結果との対応を示す。図1および図2より、HVS0.05が180〜280でHVS0.2 が170以下の範囲(図2の斜線領域)では、1回目のエリクセン値が11.5mm以上で、且つ1回目と5回目のエリクセン値の差が0.5mm以下と小さく、更に試験後の表面を目視にて観察すると、試験治具と擦れた痕が目立たなかった。
【0019】
一方、HVS0.05が280超の場合またはHVS0.2 が170超の場合には、表面の硬質層が厚すぎるか又は硬すぎるため、1回目のエリクセン値が11.5未満であった。またHVS0.05が180未満の場合には表面が軟質で酸化・窒化皮膜が薄いため、潤滑油が減少してくると試験治具と母材金属チタンが容易に接触し、擦れて潤滑状態が悪化し材料が流れ込み難くなるために、1回目と5回目のエリクセン値の差が0.5mm超と大きく、更に試験後の表面にて試験治具と擦れた痕が目立った。
【0020】
したがって、前記(1)の本発明において、素材が持つ加工性を確保し且つ工具との潤滑性と耐疵付き性の高い成形性に優れたチタン薄板として、HVS0.05が180〜280で、HVS0.2 が170以下の範囲とする。また好ましくはHVS0.05が200〜260で、HVS0.2 が160以下の範囲とする。
【0021】
種々処理を施したチタン薄板表面における皮膜の成分と厚さをGDSにて分析した結果、図4と図5に示すように、その主たる構成はチタン中に酸素と窒素が濃化した酸化及び窒化皮膜(酸化・窒化皮膜)である。
図4は、冷間圧延後にアルカリ洗浄を施し、真空度1×10−5Torrの雰囲気にて焼鈍した表面、図5は、冷間圧延後に硝フッ酸水溶液にて表面を溶削し、窒素ガス雰囲気で焼鈍した表面のGDSによる深さ方向の組成分布である。
【0022】
図3に示すように、この酸化・窒化皮膜の厚さがHVS0.05が180以上でも、250Å以上の場合には酸化・窒化皮膜が試験治具と金属チタンとの接触をより安定して抑制し潤滑性が更に維持されるため、油切れエリクセン試験における1回目と5回目の差が0.4mm以下、更には0.3mm以下に低位安定する。但し、酸化・窒化皮膜厚さが250Å以上でも、硝フッ酸水溶液にて溶削したままの場合や、処理温度が低く極表層のみで皮膜が成長した場合など、HVS0.05が180未満と低い場合には、皮膜及びその直下が軟質であり容易に変形してしまい、潤滑性を維持する効果が不十分であると共に、チタン薄板の表面に試験治具と擦れた痕が目立ち耐疵付き性を満足しない。
【0023】
したがって、前記(2)の本発明において、素材が持つ成形性を確保し且つ工具との潤滑性と耐疵付き性の高い成形性に優れたチタン薄板として、HVS0.05が180〜280で、HVS0.2 が170以下の範囲で、且つ酸化・窒化皮膜の厚さを250Å以上とする。また好ましくはHVS0.05が200〜260でHVS0.2 が160以下の範囲で、且つ酸化・窒化皮膜の厚さを260以上とする。望ましい上限の酸化・窒化皮膜厚さは4500Åである。
【0024】
ここで用いた工業用純チタンJIS1種薄板は、センジミア圧延機にて80%以上の冷間圧延を施した板厚0.5mmの冷間圧延ままの板を、アルカリ洗浄または硝フッ酸水溶液にて表面を溶解した後、種々雰囲気中にて焼鈍した。更にはその後、種々雰囲気中での熱処理や硝フッ酸水溶液酸洗を施した。また一部は冷間圧延ままの板を大気焼鈍した後、約500℃のソルト処理と硝フッ酸水溶液酸洗にてデスケーリング処理をした。その化学成分は質量%で、0.044%の酸素、0.034%の鉄、0.004%の炭素、0.004%の窒素、0.0020%の水素である。
焼鈍は、同程度の結晶粒径になるようにラルソン・ミラー・パラメーター;LMP(= (T+273)× (logt+20) 、T/℃、t/時間)がほぼ一定となる温度と時間にて実施した。
【0025】
以下に、油切れエリクセン試験値、表面ビッカース硬さ、窒化・酸化皮膜の測定方法について説明する。
まず油切れエリクセン試験は、板厚0.5mm×90mm×90mmの試験片を用い1ton のしわ押さえ力にて、1回目のみ潤滑油のグラファイトグリースを塗布し、以降5回目まで潤滑油の塗布を実施せずエリクセン値を測定した。その他の試験条件はJIS Z2247に準拠して実施した。
【0026】
表面のビッカース硬さは、50gfと200gfの各荷重にて10点測定した平均値である。最後に酸化・窒化皮膜は図4と図5に示すように、GDSにより得られる元素濃度の深さ方向分布図にて明確に判別することができ、その皮膜厚さは、GDSの酸素及び窒素の深さ方向元素濃度分布データにて、表層の酸素及び窒素の最大濃度(母材部の濃度を差し引いた濃度)が半減した深さとし、酸素皮膜と窒素皮膜のうち深い方の値を酸化・窒化皮膜の厚さとした。
【0027】
GDSは、チタン薄板の表面をスパッタリングで掘りながらその深さでの元素量を測定分析しており、測定位置の深さはスパッタリング時間に比例することから、スパッタリング速度より計算して求めた。ここでスパッタリング速度(Å/sec )は、チタン薄板を一定時間スパッタリングした後、そのスパッタリング深さを表面粗度計にて測定し、スパッタリング時間で割り求めた値を用いた。
【0028】
上記のような表面特性を有するチタン薄板を得る製造方法を検討した結果、まずHVS0.2 を170以下とするためには、硬化層形成の原因となる冷間圧延で焼き付き付着した油分を除去する必要があり、冷間圧延後のチタン薄板において片面0.2μm以上を除去することにより、酸化・窒化雰囲気で焼鈍や熱処理した表面にてHVS0.2 を170以下にできることを見いだした。一方0.2μm未満の場合には油分の除去が不十分であるため、酸化・窒化雰囲気で焼鈍や熱処理した表面にてHVS0.2 が170超と硬質となる。
したがって、前記(3)〜(10)、(12)、(13)の本発明において、冷間圧延後のチタン薄板の表面を0.2μm以上除去することとする。また好ましくは0.5μm以上である。
【0029】
次に、冷間圧延後に表面を0.2μm以上除去したチタン薄板を酸化・窒化雰囲気にて焼鈍する場合、その焼鈍温度が600℃未満では、図1に示すように未再結晶部分が存在し硬質なためエリクセン値が10.0mm未満と低く、850℃超ではHVS0.05が280超と硬質で脆い表層硬化層となるため、エリクセン値が低下する。一方、焼鈍温度範囲が600〜850℃の場合には、HVS0.05が180〜280で、HVS0.2 が170以下となることを見いだした。加えて酸化・窒化雰囲気を制御することにより、厚さ250Å以上の酸化・窒化皮膜を有する表面となることを見いだした。
したがって、前記(3)の本発明において、酸化・窒化雰囲気での焼鈍温度を600〜850℃とする。好ましくは620〜830℃である。また焼鈍時間は結晶粒径を調整すべく、狙いのLMPとなるように調整することが好ましい。
【0030】
また、冷間圧延後に表面を0.2μm以上除去したチタン薄板を、真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼鈍した後、更に酸化・窒化雰囲気にて熱処理することにより、表面硬さと酸化・窒化膜を調整することができ、その熱処理温度が200℃未満の場合には温度が低いためチタン中への酸素と窒素の拡散が遅く、300時間もの長時間処理をしてもHVS0.05が狙いの180に達しない。750℃超の場合には温度が高すぎるため、図1に示すように粒成長し粗大粒となる外に、酸素や窒素がチタン中へ多量に深く侵入し、HVS0.05が280超と硬く脆い表面硬化層となる場合があり、エリクセン値が低下してしまう。
【0031】
一方、窒化・酸化雰囲気での熱処理温度が200〜750℃の範囲では、HVS0.05が180〜280でHVS0.2 が170以下となることを見いだした。加えて酸化・窒化雰囲気を制御することにより、厚さ250Å以上の酸化・窒化皮膜を有する表面となることを見いだした。
したがって、前記(4)の本発明において、真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼鈍した後、更に酸化・窒化雰囲気にて熱処理する温度範囲を200〜750℃とする。好ましくは350〜650℃である。また熱処理時間は温度が高いほど酸素と窒素の拡散が速いことや、約600℃以上の高温になると結晶粒が粗大化する場合があることを考慮して、熱処理温度に応じて処理時間を調整することが好ましい。
【0032】
上記の600〜850℃での酸化・窒化雰囲気中の焼鈍と、200〜750℃での酸化・窒化雰囲気中の熱処理の両方を実施しても、本発明(1)(2)の表面が得られることから、(5)の本発明において、酸化・窒化雰囲気での焼鈍温度を600〜850℃とし、その後に実施する酸化・窒化雰囲気での熱処理温度を200〜750℃とする。好ましくは酸化・窒化雰囲気での焼鈍温度は620〜830℃で熱処理温度は350〜650℃である。
【0033】
以上の焼鈍や熱処理を実施する酸化・窒化雰囲気を検討した結果、真空度1×10−4Torr以上の雰囲気、または一旦1×10−4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気、または窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気が、チタン表面に効率的に酸素と窒素を侵入させて酸化・窒化皮膜を形成させるのに望ましいことを見いだした。
したがって、前記(6)〜(10)の本発明において、焼鈍及び熱処理を実施する酸化・窒化雰囲気を、真空度1×10−4Torr以上の雰囲気、または一旦1×10−4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気、または窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気とする。
【0034】
冷間圧延後に表面を除去することなく焼鈍した後に、表層の脆い硬化層を除去し、その後に酸化・窒化雰囲気にて熱処理して、所定の表面硬さと酸化・窒化皮膜を形成しても、本発明(1)(2)の表面特性が得られることから、前記(11)の本発明において、冷間圧延後に焼鈍したチタン薄板の表面を除去した後、1×10−4Torr以上の真空中、または一旦1×10−4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気、または窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気にて、200〜750℃で熱処理することとする。
【0035】
次に、チタンの表面の除去する工業的手段を検討した結果、硝フッ酸水溶液などチタンが可溶解な酸水溶液にて溶解する化学的な方法と、研磨、ブラスト、ホーニングなど機械的な方法が十分適用できることから、前記(12)の本発明においては酸水溶液にてチタンの表面を溶解して除去すること、前記(13)の本発明においては研磨、ブラスト、ホーニングなど機械的に除去することとする。また(12)の本発明において、酸水溶液にて溶解除去する場合、チタンの溶解効率を高めるため、チタンの電位を制御するなど電気的な効果を付与する場合も含む。
【0036】
【実施例】
以下、実施例により本発明の効果を説明する。
表1(表1−1),表2(表1−2)と、表3(表2−1),表4(表2−2)に、冷間圧延ままの工業用純チタンJIS1種の薄板を用いた場合の、表面の洗浄及び除去条件、雰囲気焼鈍条件、最終酸洗溶削の有無と、それらの種々条件にて得られた表面のHVS0.05、HVS0.2 及び酸化・窒化皮膜厚さと、油切れエリクセン値の結果を示す。表1(表1−1),表2(表1−2)は、雰囲気焼鈍ままあるいは硝フッ酸酸洗ままの場合であり、表3(表2−1),表4(表2−2)は雰囲気焼鈍後及び硝フッ酸酸洗後に雰囲気熱処理を加えた場合である。
なお、表1−2、表2−2、表3の「備考」の欄に「実施例」と記載したものは、「該当する請求項」の欄にその請求項の番号を記載した。また工業用純チタン以外のチタン合金を用いた例は「備考」の欄に「参考例」と記載した。
【0037】
ここで用いた工業用純チタンJIS1種薄板は、センジミア圧延機にて80%以上の冷間圧延を施した板厚0.5mmの冷間圧延ままの板を、アルカリ洗浄または硝フッ酸水溶液にて表面を溶解した後、種々雰囲気中にて焼鈍した。更にはその後、種々雰囲気中での熱処理や硝フッ酸水溶液酸洗を施した。また冷間圧延ままの板を大気焼鈍した後、約500℃のソルト処理と硝フッ酸水溶液酸洗にてデスケーリング処理をした場合も含んでいる。
その化学成分は質量%で、0.044%の酸素、0.034%の鉄、0.004%の炭素、0.004%の窒素、0.0020%の水素である。
焼鈍は、同程度の結晶粒径になるようにラルソン・ミラー・パラメーター;LMP(=(T+273) ×(logt+20) 、T/ ℃、t/時間)がほぼ一定となる温度と時間にて実施した。また油切れエリクセン値、各荷重における表面のビッカース硬さ、窒化・酸化皮膜の厚さは各々上述した条件にて測定した値である。
【0038】
表1(表1−1),表2(表1−2)と、表3(表2−1),表4(表2−2)において、
#1:成分組成は質量%で、0.044%[O],0.034%[Fe],0.004%[C],0.004%[N],0.0020%[H]である。
#2:グロー放電発光分光分析(GDS)にて、表面から深さ方向の元素濃度分布を測定したデータより、表層部の酸素あるいは窒素の最大濃度(母材部の濃度を差し引いた濃度)が半減した深さのうち、深い方の値を酸化・窒化皮膜の値とした。
#3:JISのB法にて1回目のエリクセン値を測定し、以降5回目まで潤滑剤を塗布せず油切れエリクセンを実施した。
#4:評価欄において、「×」は1回目のエリクセン値が11.5mm未満と低い場合、「▲」は1回目と5回目のエリクセン値の差が0.5mm超と減少代が大きい場合、又は試験工具と擦れた痕が目だった場合、「○」は1回目と5回目のエリクセン値の差が0.5mm以下で、且つ試験工具と擦れた痕が目だたなかった場合を示す。
真空度の10^は累乗を示す。例えば1×10^−5Torrは1×10の−5乗Torrを示す。
【0039】
表1(表1−1),表2(表1−2)より、焼鈍ままのうちHVS0.05が180〜280とHVS0.2 が170以下、及び酸化・窒化皮膜の厚さが250Å以上と、本発明の範囲内であるNo.10〜13、No.15〜17、No.20〜23、No.25〜29、No.31、No.33〜35、No.38〜42(実施例)は、油切れエリクセン試験の1回目の値が11.5mm以上で、且つ1回目と5回目の差が0.4mm以下に安定している。更に試験後の表面にて工具と擦れた痕が目立たず、優れたプレス成形性を示している。
またこれらはいずれも、硝フッ酸水溶液酸洗による表面除去量は0.2μm以上であり、その後の焼鈍雰囲気は酸化・窒化雰囲気(1×10−4Torr以上の真空中、及び一旦1×10−4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気、または窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上のいずれかまたはその両方を満足する不活性ガス雰囲気)で、温度も600〜850℃と本発明の製造方法の範囲内である。
【0040】
No.9とNo.37(実施例)は、それぞれ真空度が7×10−5Torrであったり、酸素と窒素の総濃度が30ppmで露点が−40℃で焼鈍を実施しており、酸化・窒化雰囲気が若干軽度であるため、酸化・窒化皮膜厚さが約245Åと250Å未満で若干薄く、油切れエリクセン試験の1回目と5回目の差が0.5mmであり、酸化・窒化皮膜厚さが250Å以上の場合が0.4mm以下であるのに対して若干大きい。
【0041】
一方、冷間圧延後に表面を除去することなくアルカリ洗浄し1×10−5Torrの真空雰囲気にて焼鈍したNo.1,2(比較例)は、HVS0.2 が190超と高く、1回目のエリクセン値が11.0mm未満と低い。
【0042】
真空雰囲気中にて焼鈍後、最終的に酸洗溶削したNo.4,5(比較例)や、大気中焼鈍後にソルト処理し硝フッ酸水溶液にて溶削(焼鈍→ソルト→酸洗)したNo.44(比較例)は、最終的に表面を溶削しているため潤滑性に有効な酸化・窒化皮膜がなく、HVS0.05が180未満と軟質な表面となり、油切れエリクセン値の1回目と5回目の差が0.9mmと大きく、且つ試験後の表面にて工具と擦れた痕が目立つ。また溶削量が少ないNo.3(比較例)は、硬質層が残存しHVS0.2 が170超と高いため、1回目のエリクセン値が11.0mmと低く、更に潤滑性に有効な酸化・窒化皮膜がないため、油切れエリクセン値の1回目と5回目の差が0.7mmと大きい。
【0043】
また、冷間圧延後に硝フッ酸水溶液にて表面除去した後に1×10−5Torrの高真空雰囲気または高純度Ar雰囲気にて焼鈍したNo.6,8(比較例)や、酸素と窒素の総濃度(O+N濃度)が10ppmで、且つ露点が−40℃のArガス雰囲気にて焼鈍したNo.36(比較例)は、HVS0.05が180未満あるいは酸化・窒化皮膜が250Å未満であり、真空度が高いか酸素・窒素の濃度や露点が低いかしたため、潤滑性に有効な酸化・窒化皮膜が形成されず、油切れエリクセン値の1回目と5回目の差が0.6mm以上と大きく、且つ試験後の表面にて工具と擦れた痕が目立つ。
【0044】
冷間圧延後の硝フッ酸水溶液酸洗による表面除去量が0.1μmと少なく、その後に真空雰囲気中か酸化・窒化雰囲気にて焼鈍したNo.7,19,32(比較例)は、冷間圧延にて焼き付き付着した油分が十分に除去されていないことに加え、酸化・窒化雰囲気にて焼鈍したため、炭素、酸素、窒素がチタン内へ多く侵入し、HVS0.2 が170超と高く脆い表面層となり、1回目のエリクセン値が11.3mm以下と低い。
【0045】
冷間圧延後の硝フッ酸水溶液酸洗による表面除去量が3μm以上で、その後に酸化・窒化雰囲気にて550℃の低温で焼鈍したNo.14,24(比較例)は、焼鈍温度が低いため未再結晶部分があり、エリクセン値が10.0mm以下と低く、冷間圧延後の硝フッ酸水溶液酸洗による表面除去量が3μm以上である。その後に酸化・窒化雰囲気にて870℃の高温で焼鈍したNo.18,30,43(比較例)は、温度が高いためチタン内へ酸素や窒素が多く侵入し、HVS0.05が280超と高く脆い表面層となり、1回目のエリクセン値が11.1mm以下と低い。
【0046】
表3(表2−1),表4(表2−2)より、焼鈍後あるいは焼鈍・硝フッ酸酸洗溶削後に更に酸化・窒化雰囲気にて熱処理したもののうち、HVS0.05が180〜280とHVS0.2 が170以下、及び酸化・窒化皮膜の厚さが250Å以上と、本発明の範囲内であるNo.46〜53、No.56、57、No.59〜61、No.63〜66、No.69〜71、No.73〜75(実施例)は、油切れエリクセン試験の1回目の値が11.5mm以上で、且つ1回目と5回目の差が0.4mm以下に安定しており、更に試験後の表面にて工具と擦れた痕が目立たず、優れたプレス成形性を示している。
【0047】
またこれらは、いずれも冷間圧延後の硝フッ酸水溶液酸洗による表面除去量は3μm以上であり、焼鈍後あるいは焼鈍・硝フッ酸酸洗溶削後に更に酸化・窒化雰囲気(1×10−4Torr以上の真空中、または大気中や窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上露点が−35℃以上のいずれかまたはその両方を満足する不活性ガス雰囲気)で、温度も200〜750℃と本発明の製造方法の範囲内である。
【0048】
No.55(実施例)は、真空度が7×10-4Torrで熱処理を実施しており酸化・窒化雰囲気が若干軽度であり、且つ550℃で10分と比較的低温短時間の熱処理であったため、酸化・窒化皮膜厚さが約239Åと250Å未満で若干薄いが、HVS0.05が180でHVS0.2 が127と本発明範囲内の値であり、油切れエリクセン試験の1回目と5回目の差は0.4mmである。
【0049】
一方、冷間圧延後の表面除去を実施せずアルカリ洗浄まま焼鈍し、その後も硝フッ酸水溶液による溶削を実施していない状態で窒素ガス雰囲気にて熱処理したNo.45(比較例)は、No1,2と同様にHVS0.2 が200超と高く、1回目のエリクセン値が10.7mmと低い。
【0050】
また、冷間圧延後に硝フッ酸水溶液にて表面を除去した後に1×10−5Torrの高真空雰囲気にて焼鈍し、その後の熱処理を1×10−5Torrの高真空雰囲気で実施したNo.54(比較例)や、酸素と窒素の総濃度(O+N濃度)が10ppmで、且つ露点が−40℃のArガス雰囲気にて焼鈍したNo.58(比較例)は、HVS0.05が180未満あるいは酸化・窒化皮膜が250Å未満であり、最後の熱処理雰囲気において真空度が高いか酸素・窒素の濃度や露点が低いかしたため、潤滑性に有効な酸化・窒化皮膜が形成させず、油切れエリクセン値の1回目と5回目の差が0.8mm以上と大きく、且つ試験後の表面にて工具と擦れた痕が目立つ。
【0051】
冷間圧延後に硝フッ酸水溶液にて表面を除去した後に1×10−5Torrの高真空雰囲気にて焼鈍し、その後の熱処理を酸化・窒化雰囲気にて150℃の低温で実施したNo.62,68(比較例)は、熱処理温度が低いため酸素や窒素がチタン内へ侵入せれずHVS0.05が175未満と低く、潤滑性に有効な酸化・窒化皮膜が形成されず、油切れエリクセン値の1回目と5回目の差が0.6mm以上と大きく、且つ試験後の表面にて工具と擦れた痕が目立つ。
また熱処理を酸化・窒化雰囲気にて800℃の高温で実施したNo.67,72(比較例)は、温度が高いため、時間が長い場合には結晶粒が成長し粗粒化し、時間が短い場合でも酸化されやすい雰囲気では、HVS0.05が300超にまで上がり表面が脆くなり、そのためエリクセン値が低い。
【0052】
表5(表3)のNo.76〜81に、冷間圧延後の表面除去をベルト研削あるいは液体ホーニングで実施した場合の例を示す。
表5(表3)において、
#1:成分組成は質量%で、0.044%[O],0.034%[Fe],0.004%[C],0.004%[N],0.0020%[H]である。
#2:成分組成は質量%で、0.52%[Ni],0.048%[Ru],0.046%[O],0.029%[Fe],0.005%[C],0.005%[N],0.0026%[H]である。
#3:グロー放電発光分光分析(GDS)にて、表面から深さ方向の元素濃度分布を測定したデータより、表層部の酸素あるいは窒素の最大濃度(母材部の濃度を差し引いた濃度)が半減した深さのうち、深い方の値を酸化・
窒化皮膜の値とした。#4:JISのB法にて1回目のエリクセン値を測定し、以降5回目まで潤滑剤を塗布せず油切れエリクセンを実施した。
#5:評価欄において、「×」は1回目のエリクセン値が11.5mm未満と低い場合、「▲」は1回目と5回目のエリクセン値の差が0.5mm超と減少代が大きい場合、又は試験工具と擦れた痕が目だった場合、「○」は1回目と5回目のエリクセン値の差が0.5mm以下で、且つ試験工具と擦れた痕が目だたなかった場合を示す。
真空度の10^は累乗を示す。例えば1×10^−5Torrは1×10の−5乗Torrを示す。
【0053】
表5(表3)において、HVS0.05とHVS0.2 及び酸化・窒化皮膜厚さが本発明の範囲内であるNo.76,77,79〜81(実施例)は、上記同様に優れたプレス成形性を示しており、表面の除去量、焼鈍雰囲気と温度あるいは熱処理雰囲気と温度のいずれも本発明の範囲内である。
一方、ベルト研削後に真空度1×10−5Torrの高真空雰囲気にて焼鈍したNo.78(比較例)は、HVS0.05が143と低くまた酸化・窒化皮膜も220Åと薄いため、1回目と5回目のエリクセン値の差が0.9mmと大きい。
以上のように、表面除去方法がベルト研削や液体ホーニングの場合においても、硝フッ酸水溶液酸洗にて実施した場合と同様の効果が得られる。
【0054】
次に、表5(表3)のNo.82〜87に、チタン合金(Ti−0.5Ni−0.05Ru、0.046%[O])の例を参考例として示す。この合金は純チタンと比べ耐食性に優れておりプレス用途での適用が可能である。
通常のアルカリ洗浄後に真空度1×10-5Torrの高真空雰囲気にて焼鈍したNo.82は、HVS0.05とHVS0.2 が各々287、227と高く、1回目のエリクセン値が10.0mmである。また、冷間圧延後に硝フッ酸水溶液酸洗した後に真空度1×10-5Torrの高真空雰囲気にて焼鈍したNo.83と、最終的に酸洗まま(焼鈍→ソルト→酸洗)であるNo.86は、HVS0.05が172以下と低いため、1回目と5回目のエリクセン値の差が1.0mmと高く、且つ試験後の表面にて擦れた痕が目立つ。
【0055】
これらに対して、HVS0.05が222〜278でHVS0.2 が159〜168で酸化・窒化皮膜厚さが298Å以上であるNo.84,85,87は、1回目のエリクセン値が10.9mm以上と高く、且つ1回目と5回目のエリクセン値の差も0.2mm以下と小さく、更に試験後の表面にて擦れた痕が目立たず、優れたプレス成形性を示している。以上のように、上記チタン合金においても、工業用純チタンJIS1種と同様の効果が得られる場合がある
【0056】
【表1】
Figure 0003600792
【0057】
【表2】
Figure 0003600792
【0058】
【表3】
Figure 0003600792
【0059】
【表4】
Figure 0003600792
【0060】
【表5】
Figure 0003600792
【0061】
【発明の効果】
以上のように、本発明に従い、荷重50gfと200gfにおける表面のビッカース硬さ、および酸化・窒化皮膜の厚さを特定の範囲に制御することにより、素材の成形性を損なうことなく成形時の金型や工具との潤滑性を維持し、更に金型や工具に対する耐疵付き性を確保できる、成形性に優れた工業用純チタン薄板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】荷重200gfの表面ビッカース硬さ(HVS0.2 )とエリクセン値(エリクセンB法、潤滑塗布後1回目)の関係を示す図である。
【図2】荷重50gfの表面ビッカース硬さ(HVS0.05)と、荷重200gfの表面ビッカース硬さ(HVS0.2 )の関係と、油切れエリクセン試験の結果との対応を示す図である。
【図3】酸化・窒化皮膜の厚さと油切れエリクセン試験における1回目と5回目のエリクセン値の差の関係を示す図である。
【図4】GDSにて分析したチタン薄板表面における皮膜の深さ方向の組成分布、及びその図を用いた酸化・窒化皮膜の厚さの測定方法を模式的に示す図であり、冷間圧延後にアルカリ洗浄を施し、真空度1×10−5Torrの雰囲気にて焼鈍した表面での図である。
【図5】GDSにて分析したチタン薄板表面における皮膜の深さ方向の組成分布、及びその図を用いた酸化・窒化皮膜の厚さの測定方法を模式的に示す図であり、冷間圧延後に硝フッ酸水溶液にて表面を溶削し、窒素ガス雰囲気で焼鈍した表面での図である。

Claims (13)

  1. チタン薄板の表面にて、荷重50gfのビッカース硬さ;HVS0.05が180〜280、荷重200gfのビッカース硬さ;HVS0.2 が170以下であり、JIS Z 2247 B法に準拠したエリクセン値が11.5mm以上であることを特徴とする工業用純チタン薄板。
  2. チタン薄板の表面にて、荷重50gfのビッカース硬さ;HVS0.05が180〜280、荷重200gfのビッカース硬さ;HVS0.2 が170以下であり、且つ表面に厚さ250Å以上の酸化及び窒化した皮膜が存在し、JIS Z 2247 B法に準拠したエリクセン値が11.5mm以上であることを特徴とする工業用純チタン薄板。
  3. 冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、窒化・酸化雰囲気中にて600〜850℃で焼鈍することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
  4. 冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼鈍し、その後に窒化・酸化雰囲気中にて200〜750℃で熱処理することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
  5. 冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、窒化・酸化雰囲気中にて600〜850℃で焼鈍し、その後に更に窒化・酸化雰囲気中にて200〜750℃で熱処理することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
  6. 冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、1×10-4Torr以上の真空中、または一旦1×10-4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気にて、600〜850℃で焼鈍することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
  7. 冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気中にて、600〜850℃で焼鈍することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
  8. 冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼鈍し、その後に1×10-4Torr以上の真空中、または一旦1×10-4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気中にて、200〜750℃の温度域にて熱処理することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
  9. 冷間圧延後にチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後、真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼鈍し、その後に窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気中にて、200〜750℃の温度域で熱処理することを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
  10. 冷間圧延後のチタン薄板の表面を0.2μm以上除去した後に実施する請求項5に記載の焼鈍及び熱処理の雰囲気が、1×10-4Torr以上の真空中、または一旦1×10-4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気、または窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気であることを特徴とする工業用純チタン薄板の製造方法。
  11. 冷間圧延後に焼鈍したチタン薄板の表面を除去した後、1×10-4Torr以上の真空中、または一旦1×10-4Torr以上の真空度に排気し、続いて不活性ガスで置換した雰囲気、または窒素ガス単独雰囲気、または酸素と窒素の総濃度が30ppm以上、露点が−35℃以上の雰囲気にて、200〜750℃で熱処理することを特徴とする請求項1または2に記載の工業用純チタン薄板の製造方法。
  12. 酸水溶液による溶解によって冷間圧延後のチタン薄板の表面を除去することを特徴とする請求項3〜11のいずれかに記載の工業用純チタン薄板の製造方法。
  13. 機械的な方法によって冷間圧延後のチタン薄板の表面を除去するこ とを特徴とする請求項3〜11のいずれかに記載の工業用純チタン薄板の製造方法。
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