JP2011251340A - 耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】溶接部の成形性を維持しつつ疲労特性を向上することができ、且つ母材表面で生じるフレッティング疲労の発生を抑えることができる耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】溶接部内部の窒素濃度を母材内部に対して0.003〜0.030質量%高く、且つ冷延後に表面層が除去されていない母材部の表面にチタン窒化物を有する耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管である。その製造方法は、造管に用いる板または帯状の冷延後に表面層が除去されていないチタンを窒素ガス雰囲気で加熱することによって窒化熱処理して所定の窒化を施した後、その板または帯を管形状に成形し、そのつき合わせ部をアルゴンガスでシールドして溶材を使用せずに溶接するものである。また、さらには上記溶接管を窒素ガス雰囲気または酸化雰囲気で加熱して軽窒化または軽酸化の熱処理を実施するものである。
【選択図】図1
【解決手段】溶接部内部の窒素濃度を母材内部に対して0.003〜0.030質量%高く、且つ冷延後に表面層が除去されていない母材部の表面にチタン窒化物を有する耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管である。その製造方法は、造管に用いる板または帯状の冷延後に表面層が除去されていないチタンを窒素ガス雰囲気で加熱することによって窒化熱処理して所定の窒化を施した後、その板または帯を管形状に成形し、そのつき合わせ部をアルゴンガスでシールドして溶材を使用せずに溶接するものである。また、さらには上記溶接管を窒素ガス雰囲気または酸化雰囲気で加熱して軽窒化または軽酸化の熱処理を実施するものである。
【選択図】図1
Description
本発明は、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管およびその製造方法に関する。
チタン溶接管の製造は、冷間圧延されたチタン板を真空あるいはアルゴンガス中で焼鈍した後に、管形状に成形し、そのつき合わせ部をアルゴンガスでシールドして溶接する方法が一般的である。溶接後にさらに大気中で熱処理することによって造管などで付与された歪みを除去する場合もある。
溶接部の健全性を確保するためには、非特許文献1の104〜109ページに記載されているように、溶接時のアルゴンガスによるシールドが重要である。これは、チタンは酸素や窒素との反応性が高いためにシールドガス中に大気や酸素、窒素などの不純ガスが混入すると溶接部が酸化や窒化されて脆くなる問題がある他に、ブローホールを引き起こす要因でもあるためである。したがって、チタンの溶接時には、不純ガスが混入しないようなアルゴンガスによるシールドを実施することによって、上記問題を解決している。
またチタン管の溶接部は溶融凝固した部分(Depo部)と熱影響部(HAZ部)からなり、いずれもβ変態点(この温度以上でβ相単相となる温度)超の高温域から急冷された組織であり、純チタンとα型チタン合金およびα+β型チタン合金は粗大な旧β相結晶粒(β変態点超の温度域でβ相であった結晶粒)が、β型チタン合金ではβ相の粗大な結晶粒が、各々素地となっている。このように溶接部は粗大な結晶粒からなっている。その化学組成は、上述のように不純ガスが混入しないようにアルゴンガスでシールドしているため、酸素や窒素の濃度はほとんど増加しない。
造管して溶接した状態で使用される場合、つまり溶接後に大気中で熱処理が施されない場合には、チタン管の表面は、母材部、溶接部ともに無着色の金属色であり、酸化や窒化による着色を呈していない。したがって、溶接管の内外表面は干渉色や物質色を呈しない程度の極薄い酸化膜で覆われており、その酸化膜の厚さは100Å程度である。一方、溶接後に大気中で熱処理を実施すると、母材部、溶接部ともに表面に数100Åと厚い酸化膜が形成されて着色される。
(社)日本チタン協会 編集、日刊工業新聞社 発行の「チタンの加工技術」
上述の通りチタン溶接管の溶接部はDepo部とHAZ部ともに旧β相或いはβ相の粗大な結晶粒からなることから、疲労には必ずしも有利ではない。溶接部の強度を高めることによって疲労特性を高める方法がある。その手段として、シールドガス中の大気、酸素、窒素などの不純物ガス量を一定に制御して、溶接部内部の酸素や窒素の濃度を高める方法が考えられるが、上述のように僅かな不純物ガス量の違いでも顕著に材質特性が変化し急激に脆くなり加工性が低下することがあるとともに、ブローホールが発生する可能性がある。
またチタンは非常に活性な金属であることから耐摩耗性が問題となることがある。チタン溶接管においても管と接触する支持治具などとの間で、その潤滑および応力状態によってはフレッティング疲労が生じる場合が想定される。
その対策として、上述のように溶接後のチタン管を大気中で熱処理することによって表面に厚い酸化膜を形成し、管がその支持治具などと擦れる際の保護膜或いは潤滑膜として活用する方法が考えられる。しかしながら、表面の酸化膜が厚くなる程度の熱処理では、溶接部内部まで強度が増す程に酸素や窒素が拡散することはなく、上述の溶接部の疲労特性に関する課題は依然そのままである。
このように従来の技術ではチタン溶接管は、溶接部が粗大な結晶粒になるために疲労特性は必ずしも良くないとともに、管表面が無着色の金属色まま、つまり干渉色や物質色を呈しないほどに薄い皮膜(膜厚が100Å程度)では、管の支持治具などと擦れてフレッティング疲労を生じる場合があった。またシールドガス中の不純ガス量を制御して溶接部の強度を安定して高めることは困難であった。
本発明は、溶接部の疲労特性が安定して高く且つフレッティング疲労を生じにくいチタン溶接管とその製造方法を提供することを目的としている。
発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、溶接部内部の窒素濃度を所定の範囲内で高めることによって溶接部の成形性を維持しつつ疲労特性を向上させ、且つチタン窒化物を有する母材表面とすることによって潤滑性を高めフレッティング疲労の発生を抑えることができるチタン溶接管を見出し、以下に示すような本発明のチタン溶接管とその製造方法を完成するに至った。
1) 表面から5μm表層領域を除く窒素濃度が、母材部に比べて溶接部の方が0.003〜0.030質量%高く、且つ冷延後に表面層が除去されていない母材部の表面にチタン窒化物を有することを特徴とする、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管。
2) さらに溶接部の外表面が窒化または酸化によって着色されていることを特徴とする上記1)に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管。
3) 板または帯状の冷延後に表面層が除去されていないチタンを窒素ガス雰囲気で670〜850℃、3〜120秒間加熱することによって(1)式が成り立つように窒化熱処理し、続いてその板または帯を管形状に成形し、続いてそのつき合わせ部をアルゴンガスでシールドして溶材を使用せずに溶接することを特徴とする上記1)又は2)に記載の耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
0.003 ≦ CN1−CN2 ≦ 0.030 ・・・(1)式
ただし、CN1:窒素ガス雰囲気で熱処理した後の板または帯において、その表面を研磨などで除去することなく分析したときの当該板または帯の窒素濃度(質量%)、CN2:窒素ガス雰囲気で熱処理した後の板または帯において、その表面を全面5μm以上研磨で除去した後に分析したときの当該板または帯の窒素濃度(質量%)である。
4) 前記溶接に続いて窒素ガス雰囲気で軽窒化熱処理することを特徴とする上記3)に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
5) 前記溶接に続いて酸化雰囲気で軽酸化熱処理することを特徴とする上記3)に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
1) 表面から5μm表層領域を除く窒素濃度が、母材部に比べて溶接部の方が0.003〜0.030質量%高く、且つ冷延後に表面層が除去されていない母材部の表面にチタン窒化物を有することを特徴とする、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管。
2) さらに溶接部の外表面が窒化または酸化によって着色されていることを特徴とする上記1)に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管。
3) 板または帯状の冷延後に表面層が除去されていないチタンを窒素ガス雰囲気で670〜850℃、3〜120秒間加熱することによって(1)式が成り立つように窒化熱処理し、続いてその板または帯を管形状に成形し、続いてそのつき合わせ部をアルゴンガスでシールドして溶材を使用せずに溶接することを特徴とする上記1)又は2)に記載の耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
0.003 ≦ CN1−CN2 ≦ 0.030 ・・・(1)式
ただし、CN1:窒素ガス雰囲気で熱処理した後の板または帯において、その表面を研磨などで除去することなく分析したときの当該板または帯の窒素濃度(質量%)、CN2:窒素ガス雰囲気で熱処理した後の板または帯において、その表面を全面5μm以上研磨で除去した後に分析したときの当該板または帯の窒素濃度(質量%)である。
4) 前記溶接に続いて窒素ガス雰囲気で軽窒化熱処理することを特徴とする上記3)に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
5) 前記溶接に続いて酸化雰囲気で軽酸化熱処理することを特徴とする上記3)に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
ここで、上記1)、2)に規定する母材部および溶接部の窒素濃度は、チタン溶接管の母材部と溶接部から試料を切り出し、表面を5μm以上研磨した後、JIS H1612に規定されている洗浄、乾燥をしてから、例えばLECO−TC436の自動窒素・酸素分析装置を用いて不活性ガス溶融−熱伝導度法にて測定することにより求めることができる。そして、上記1)、2)で母材部の表面にチタン窒化物を有するとは、薄膜法などのX線回折測定にてチタン窒化物であるTi2NiやTiNのピークが検出さることである。
通常、アルゴンガスでシールドされた状態で溶接された場合の溶接部表面は無着色の金属色(光沢のある銀色)であるが、上記2)の溶接部の外表面が窒化または酸化によって着色されている状態とは、溶接部の外表面が酸化膜や窒化膜によって青色や金色などの着色を呈している状態のことである。
上記3)に規定するCN1は、板または帯の表面を除去せず、そのままの状態でJIS H1612に規定されている洗浄、乾燥をしてから、不活性ガス溶融−熱伝導度法等によって分析した窒素濃度である。またCN2は、板または帯の表面を5μm以上研磨した後、JIS H1612に規定されている洗浄、乾燥をしてから、不活性ガス溶融−熱伝導度法等にて測定した窒素濃度である。不活性ガス溶融−熱伝導度法による測定にはLECO−TC436の自動窒素・酸素分析装置を用いることができる。CN1は板または表面を除去しない状態での、CN2は板または帯の表面を5μm以上研磨した状態での、それぞれ板または帯の厚み方向平均窒素濃度が測定される。
上記3)、4)、5)の溶接方法は、チタン溶接管で汎用されているTIG溶接のみに限定するものではなく、溶接棒などの溶材を使用しない方法であればプラズマなどのアーク溶接をはじめ、レーザー溶接、電子ビーム溶接などでもよい。
チタン溶接管において、溶接部内部の窒素濃度を所定の範囲内で高めることによって溶接部の成形性を維持しつつ疲労特性を向上させ、且つチタン窒化物を有する母材表面とすることによってフレッティング疲労の発生を抑えた。造管に用いる板または帯状のチタンを窒素ガス雰囲気で加熱することによって窒化熱処理して所定の窒化を施した後、その板または帯を管形状に成形し、そのつき合わせ部をアルゴンガスでシールドして溶接することによって、安定して溶接部の窒素濃度を増加できるとともにブローホールの発生を抑制し上記チタン溶接管を製造することができる。
溶接部の疲労特性を高めるために、溶接部の窒素濃度をある程度増加させると効果があるが、一方で窒素濃度を増加しすぎると成形性を維持できなくなる。図1に、溶接部の窒素濃度を変えた工業用純チタンJIS2種溶接管の「溶接部の四点曲げ疲労試験の寿命」と「溶接部と母材部を窒素濃度差」(以降、「溶接部の窒素増量」とする)の関係を示す。また図1にはへん平試験による溶接部の割れ発生有無(図1の○:割れ無し、×:割れ有り)との関係も示す。用いた溶接管は、外径25.4mm、板厚0.5mmで、TIG溶接またはCO2レーザービーム溶接したものである。
ここで、四点曲げ疲労試験は以下の条件で実施した。支持間隔200mm、中央の負荷間隔50mmで、管の溶接ビードが曲げ負荷部にくるように設置した。応力振幅は196MPa、応力比−1、繰り返し5Hzで繰り返し曲げた。但し、未破断の場合、1.00×107回で疲労試験を終了した。なお、四点の支持用治具には硬質樹脂を用いた。また疲労試験の管の曲げ負荷部に欠陥がないことをX線透過検査によって確認した。
へん平試験は以下の要領で実施した。50mm長の管を2枚の平板の間に挟み平板間の距離がH(mm)となるまで押しつぶした後、溶接部の割れの有無を目視にて評価した。このとき溶接部を圧縮方向に対して直角方向に向けて該試験を実施した。Hの値はJIS H4635のへん平試験で定められている H=(1+e)t/(e+t/D) から決めた。図1の試験に用いた溶接管は、板厚tが0.5mm、外径Dが25.4mmで、JIS2種であることからeは0.07であることから、Hを6mmとしてへん平させた(6mmまで押しつぶした)。
図1より、横軸の溶接部の窒素増量を0.003質量%以上にすると、窒素増量が0質量%の場合に比べて疲労寿命(曲げ回数)が一桁超も向上する。また0.03質量%以上で若干低下する傾向にある。一方で0.03質量%を超えるとへん平試験で溶接部に割れが発生してしまう。
次に、図2に、母材部のフレッティング疲労による破断発生率、つまり母材部が負荷支持部から破断する確率と造管に使用した板および帯(元板)の「CN1−CN2」の関係を示す。図2には母材部の表面(つまり元板の表面)にチタン窒化物が有るか否かを併せて示す。ここで用いた溶接管は図1同様に、工業用JIS2種で、外径25.4mm、板厚0.5mmで、TIG溶接またはCO2レーザービーム溶接したものである。
フレッティング疲労による破断発生率は以下の方法で求めた。上述の四点曲げ疲労試験で負荷部の支持治具を鋼製に変えて、5回の疲労試験を実施し、負荷支持部(支持用治具下)から疲労破断した場合が5回中何回生じたかで評価した。その際に溶接ビードが負荷部から90°の位置になるように溶接管を設置した。その他の条件(支持間隔や応力振幅など)は上述条件と同一である。
板の両表面を研磨で除去した後の窒素濃度CN2の分析に供した試料は、板の両表面を各5〜10μm深さ研磨で除去した。また研磨後の色調は無着色の金属色であった。この研磨量は、各片面を研磨した後に質量を測定してその質量変化から計算した値である。板表面の研磨量を種々変えて窒素濃度を分析した結果、研磨量が5μm以上になるとCN2の値はほぼ一定となることから、板の両表面を各5μm以上研磨で除去した試料を用いて分析した窒素濃度であるCN2は母材部の窒素濃度に相当する。
ここで、母材部(元板)の表面にチタン窒化物が存在するか否かは、薄膜法X線回折測定にてチタン窒化物(Ti2NやTiN)のピークが検出されるか否かで判定した。チタン窒化物のピークが検出された場合は表面にチタン窒化物が有ると判定し、検出されない場合にはチタン窒化物が無いと判定した。薄膜法X線回折測定は、理学電機社製X線回折装置RAD−3C型を用いており、CuKα線、管電圧40kV、管電流40mA、ドライビングスリット0.2°、入射角1°の諸条件で実施した。
図2より、横軸の「CN1−CN2」が0.002質量%以下の場合にはフレッティング疲労が20〜40%の確率で発生するが、0.003質量%以上にすると発生確率は0%になる。薄膜法X線回折測定の結果、「CN1−CN2」を0.003質量%以上にする母材部の表面にチタン窒化物が存在している。これより、母材表面のチタン窒化物によって、金属チタンと支持治具の鋼との接触が抑制され、その効果によってフレッティング疲労の発生が低減したものと考えられる。
以上の図1と図2で用いた元板の「CN1−CN2」および「表面のチタン窒化物の有無」は以下の方法で制御した。まず、硝フッ酸水溶液に浸漬して脱スケールした板厚3.5mmの熱間圧延板を板厚0.5mmまで冷間圧延した後にアルカリ水溶液中で洗浄した。その冷間圧延板を窒素ガス雰囲気中で650〜850℃,3〜300秒の加熱して焼鈍するとともに、窒化熱処理の温度と時間を変化させることによって表面の窒化程度を種々制御した。また、図1の溶接部の窒素増量(横軸)が0となった元板と図2で「CN1−CN2」(横軸)が0となった元板の双方は、冷間圧延板を真空中で焼鈍熱処理したチタン板である。但し、焼鈍と同時に窒化熱処理することに限定するものではなく、例えば真空焼鈍後に、窒化のための窒化熱処理を施しても同等の板を得ることができる。
以上、図1と図2に示したように、請求項1では溶接部の疲労寿命が向上し、へん平試験で割れが発生しないことから、「溶接部の窒素増量」を0.003〜0.030質量%とした。好ましくは疲労寿命が高位に安定することから0.005〜0.030質量%とする。更にフレッティング疲労破断の発生確率が0%となることから、母材部の表面にチタン窒化物を有するものとした。
上述のような窒素濃度分布を有するチタン溶接管は、後に詳述するとおり、まず板または帯状のチタンを窒化熱処理して表面にチタン窒化物を有する層を形成し、その後成形及び溶接を行うことによって形成することができる。溶接時に溶接部表層に存在する窒素が溶接部内部に拡散し、その結果として溶接部の耐疲労特性を向上することができる。また、母材部の表面には窒化物が形成されているので、母材部の耐フレッティング疲労特性を向上することができる。
母材部のフレッティング疲労破断の発生は、前述のとおり母材部表面のチタン窒化物の形成で抑制することができる。しかしながら、溶接部は溶接ままでは無着色の金属色を呈しており、その表面には干渉色や物質色を呈しないほどに薄い皮膜(膜厚が100Å程度)しか存在しない。溶接部は上記の窒素増加によっても強度が増すためにフレッティング疲労破断は発生しにくい方向となるが、よりフレッティング疲労破断を生じにくくするために、請求項2では請求項1に加えて溶接部表面の潤滑性を高めるために、酸化膜または窒化膜を溶接部の表面に形成されることとした。つまり、請求項2に規定するチタン溶接管では溶接部表面を軽窒化熱処理と軽酸化熱処理によって着色された状態とする。このとき酸化膜または窒化膜の膜厚は数100Å程度であり、溶接部の疲労寿命には影響しない。
次に、製造方法について説明する。溶接のシールドに用いるアルゴンガス中に大気や窒素ガスを混入させて、溶接部の窒素濃度を増加させる方法もあるが、後述の本発明例の如くブローホールが発生する。通常チタンを溶接する場合に用いられるアルゴンシールドガスを使用した場合には溶接部の窒素濃度は増加しない。そこで、請求項3では、ブローホールの発生を抑制して溶接部の窒素濃度を安定して増加させる方法として、溶接に用いる板または帯状のチタンを予め窒素ガス雰囲気中で窒化熱処理することによって、その表面を窒化させてチタン窒化物を有する状態としたのち、アルゴンガスでシールドして溶接することとした。また、この方法は溶接部の溶融時間は冷却時間の影響を受けにくいため安定して溶接部の窒素濃度を増加することができる。
ここで、請求項3に規定する製造方法における元板の窒化熱処理による窒化程度は、請求項1のチタン溶接管に対応して溶接部の窒素増量を0.003〜0.03質量%とするために、「CN1−CN2」が0.003〜0.030質量%であることとする。好ましくは「CN1−CN2」を0.005〜0.030質量%とする。即ち、請求項3に規定する製造方法により、請求項1に規定するチタン溶接管を製造することができる。「CN1−CN2」が0.003〜0.030質量%を満足するチタン板の表面を薄膜法X線評価法によって評価すると、チタン窒化物が存在している。
ここで、請求項3に規定する窒化熱処理は、焼鈍後に新たに実施しても良いし、焼鈍を窒素ガス雰囲気で窒化熱処理を実施することによって焼鈍と同時に表面を窒化させても良い。
請求項4に規定する製造方法は、請求項3のように溶接した後に、窒素ガス雰囲気で溶接管を窒化熱処理することによって、溶接部の表面を窒化させて着色させるものであり、この製造方法によって請求項2に規定するチタン溶接管を製造することができる。また、請求項5に規定する製造方法は、請求項3のように溶接した後に、酸化雰囲気で溶接管を軽酸化熱処理することによって、溶接部の表面を酸化させて着色させるものであり、この製造方法によって請求項2に規定するチタン溶接管を製造することができる。
ここで請求項5に規定する酸化雰囲気とは、チタンが熱処理温度で酸化されて着色される程度に酸素を含む雰囲気であれば良く、例えば大気、あるいは酸素を300ppm含有するアルゴンガス雰囲気や露点が−20℃と高いアルゴンガス雰囲気などである。
以上の本発明の実施形態におけるチタン板の溶接方法として、TIG溶接とCO2レーザー溶接を中心に説明してきたが、チタン溶接管で汎用されているTIG溶接のみに限定するものではなく、溶接棒などの溶材を使用しない方法であればプラズマなどのアーク溶接をはじめ、レーザー溶接、電子ビーム溶接などでも上記同様の本発明の効果が得られる。
以下、実施例により、本発明の効果を説明する。
表1に工業用純チタンJIS2種(表中では純チタンJIS2種と表記)溶接管の、元板のCN1とCN2および「CN1−CN2」、溶接条件、溶接部の窒素増量(溶接部−母材部)、溶接部のX線透過検査結果、四点曲げ疲労寿命、へん平試験結果、さらに母材部が支持部から疲労破断する確率(フレッティング疲労破断の発生率)を示す。
表2に工業用純チタンJIS2種(表中では純チタンJIS2種と表記)溶接管を造管後に熱処理した場合の例を示す。表2には、表1同様の種々特性評価結果と、造管後の熱処理条件と溶接ビード部の外観色も示す。
表3に工業用純チタンJIS1種、JIS3種(表中では各々、純チタンJIS1種、純チタンJIS3種と表記)、チタン合金であるTi−3Al−2.5Vの例を示す。
表1、表2、表3の元板の「CN1−CN2」は以下の方法で制御した。まず、硝フッ酸水溶液に浸漬して脱スケールした板厚3.5mmの熱間圧延板を板厚0.5mmまで冷間圧延した後にアルカリ水溶液中で洗浄した。その冷間圧延板を窒素ガス雰囲気中で650〜850℃,3〜300秒の窒化熱処理を施すことによって焼鈍するとともに、窒化熱処理の温度と時間によって表面の窒化程度を種々制御した。また、元板の「CN1−CN2」が0となっているNo.1,14,15,16,17,18,25,28,31は冷間圧延板を真空中で焼鈍熱処理したものである。表4に各実施例の元板の窒化熱処理条件を示すともに、表1、表2、表3には元板の種類の欄に窒化熱処理条件を表4の記号を用いて示す。
表1、表2、表3の#1、#2、#3、#4のマークは各々の以下の試験方法にて実施したことを意味する。
#1;X線透過検査を以下の条件で実施した。長さ2mの溶接管を用いて、X線透過検査(RT)によって溶接欠陥を評価した。記号NDは欠陥なし、記号BH0.1のBHはブローホールを意味して、後ろの数字はブローホールの直径(mm)を示す。つまり、BH0.1は直径0.1mmのブローホールが検出されたことを示す。
#2;四点曲げ疲労試験は以下の条件で実施した。支持間隔200mm、中央の負荷間隔50mmで、管の溶接ビードが曲げ負荷部にくるように設置した。応力振幅は196MPa(JIS1種と2種)、294(JIS3種)、392(Ti−3Al−2.5V)、応力比−1、繰り返し5Hz で繰り返し曲げた。但し、未破断の場合、1.00×107で疲労試験を終了した。なお、四点の支持用治具には硬質樹脂を用いた。また疲労試験の管の曲げ負荷部に欠陥がないことをX線透過検査によって確認した。表1〜3において、例えば破断回数2.24×105回を「2.24E+05」と表示している。
#3;へん平試験は以下の要領で実施した。50mm長の管を2枚の平板の間に挟み平板間の距離がH(mm)となるまで押しつぶした後、溶接部の割れの有無を目視にて評価した。このとき溶接部を圧縮方向に対して直角方向に向けて該試験を実施した。Hの値はJIS H4635のへん平試験で定められている H=(1+e)t/(e+t/D) から決めた。板厚tが0.5mm、外径Dが25.4mmで、eが0.07(JIS1種と2種)、0.06(3種)、0.04(Ti−3Al−2.5V)であることから、HをJIS1種と2種では6mm、JIS3種では6.5mm、Ti−3Al−2.5Vでは8.5mmとしてへん平させた(Hの値まで押しつぶした)。但し、Ti−3Al−2.5Vはeの値に既定がないことから同程度の材質であるJIS4種の値0.04を使用した。
#4;フレッティング疲労による破断発生率は以下の方法で求めた。上述の四点曲げ疲労試験で負荷部の支持治具を鋼製に変えて、5回の疲労試験を実施し、負荷支持部(支持用治具下)から疲労破断した場合が5回中何回生じたかで評価した。その際に溶接ビードが負荷部から90°の位置になるように溶接管を設置した。
その他の条件(支持間隔や各品種毎の応力振幅など)は上述条件と同一である。表1〜3において、アンダーラインは本発明範囲から外れていることを示す。
比較例である表1のNo.1,2は、元板に「CN1−CN2」が0.02質量%以下でチタン窒化物が無いものを用いており、溶接管の溶接部と母材部の窒素濃度差(溶接部の窒素増量)が0.02質量%以下であるために、溶接部の疲労寿命が5.13×105回以下と短く、母材部で支持部破断が発生する確率が20%以上と高い。
これに対して、本発明例であるNo.3〜11は、元板に「CN1−CN2」が0.03〜0.30質量%でチタン窒化物が有るものを用いており、溶接管の溶接部と母材部の窒素濃度差(溶接部の窒素増量)が0.03〜0.30質量%である。溶接部の疲労寿命が比較例No.1,2よりも一桁超長く3.76×106回〜未破断1.00×107であり、且つ母材部で支持部破断が発生する確率も0%とフレッティング疲労破断が生じていない。さらにへん平試験でも溶接部は割れない。加えて、X線透過検査を実施しても溶接部から欠陥は検出されない。
一方で、元板に「CN1−CN2」が0.35〜0.39質量%と高い比較例であるNo.12,13はへん平試験で溶接部に割れが発生している。また、溶接時のシールドガスに空気を混合した比較例であるNo.14,15は溶接部の窒素増量は0.026質量%以上と高いが、母材表面にチタン窒化物が無いために四点曲げ疲労試験で母材部が支持部から破断する場合があるとともに、溶接部からブローホールが検出されている。
表2は造管後に熱処理した場合であり、元板に「CN1−CN2」が0.00質量%でチタン窒化物が無いものを用いた比較例であるNo.16,〜18は、造管後に大気中や窒素ガス中で軽窒化熱処理しても、溶接部と母材部の窒素濃度差(溶接部の窒素増量)が0.00質量%であるために、溶接部の疲労寿命が2.30×105回以下と短く、母材部で支持部破断が発生する確率が20%以上と高い。
これに対して、本発明例であるNo.19〜24は、元板に「CN1−CN2」が0.05質量%と0.09質量%でチタン窒化物が有るものを用いており、造管後の大気中や窒素ガス中の軽窒化熱処理によって溶接ビード部は無着色の金属色ではなく金色や青色などに着色されている。溶接管の溶接部と母材部の窒素濃度差(溶接部の窒素増量)は0.05質量%と0.09質量%であり、溶接部の疲労寿命が比較例No.16〜18よりも一桁超長く7.41×106回〜未破断1.00×107である。且つ母材部で支持部破断が発生する確率も0%とフレッティング疲労破断が生じていない。さらにへん平試験でも溶接部は割れない。
表3に示したように、純チタンJIS1種、JIS3種、チタン合金であるTi−3Al−2.5Vでも、純チタンJIS2種と同様に本発明の効果が得られる。各々のチタン品種において、溶接管の溶接部と母材部の窒素濃度差(溶接部の窒素増量)が0.000質量%と低い比較例であるNo.25,28,31は溶接部の疲労寿命が3.42×105以下である。またフレッティング疲労破断も生じている。これに対して、母材表面にチタン窒化物を有し且つ溶接部の窒素増量が0.004〜0.011質量%と所定量である本発明例のNo.26,27、No.29,30、No.32,33は、溶接部の疲労寿命が一桁超長く6.02×106回〜未破断1.00×107である。且つ母材部でフレッティング疲労破断が生じていない。さらにへん平試験でも溶接部は割れない。一方で元板に「CN1−CN2」が0.41質量%と高いものを用いたTi−3Al−2.5Vの比較例No.34はへん平試験で溶接部に割れが発生している。
以上、純チタンJIS2種を中心に本発明を説明してきたが、表3に示したように、純チタンJIS1種、JIS3種、チタン合金であるTi−3Al−2.5Vでも、純チタンJIS2種と同様に本発明の効果が得られる。本発明は純チタンにその適用を限定するものではなく、種々チタン合金においてもその効果を確認した。
Claims (5)
- 表面から5μmの表層領域を除く窒素濃度が、母材部に比べて溶接部の方が0.003〜0.030質量%高く、且つ冷延後に表面層が除去されていない母材部の表面にチタン窒化物を有することを特徴とする、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管。
- さらに溶接部の外表面が窒化または酸化によって着色されていることを特徴とする請求項1に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管。
- 板または帯状の冷延後に表面層が除去されていないチタンを窒素ガス雰囲気で670〜850℃、3〜120秒間加熱することによって(1)式が成り立つように窒化熱処理し、続いてその板または帯を管形状に成形し、続いてそのつき合わせ部をアルゴンガスでシールドして溶材を使用せずに溶接することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
0.003 ≦ CN1−CN2 ≦ 0.030 ・・・(1)式
ただし、CN1:窒素ガス雰囲気で熱処理した後の板または帯において、その表面を研磨などで除去することなく分析したときの当該板または帯の窒素濃度(質量%)、CN2:窒素ガス雰囲気で熱処理した後の板または帯において、その表面を全面5μm以上研磨で除去した後に分析したときの当該板または帯の窒素濃度(質量%)である。 - 前記溶接に続いて窒素ガス雰囲気で軽窒化熱処理することを特徴とする請求項3に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
- 前記溶接に続いて酸化雰囲気で軽酸化熱処理することを特徴とする請求項3に記載の、耐フレッティング疲労部材用チタン溶接管の製造方法。
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