JP2017110292A - 方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】比較的薄いセラミクス被膜で低鉄損化を図る場合に、歪取り焼鈍後の被膜密着性の劣化が少なく、しかも加工性にも優れた方向性電磁鋼板を提供する。
【解決手段】絶縁酸化物被膜とセラミクス被膜を有する方向性電磁鋼板において、地鉄を、・平均結晶粒径が16mm以上であって、粒界におけるエッチング深さが10μm未満、・表面粗度Raが0.3μm以下、・エッチピット部を含む結晶粒の面積率が30%以下とし、かつセラミクス被膜を、・平均膜厚が0.3μm以上1.0μm以下の、TiN、TiCNまたはTiCのいずれか、・酸素の検出強度が上層の絶縁酸化物被膜のそれに対し1/2となる表層からの位置が該被膜の板厚方向の中心よりも表層側、・表層から測定したセラミクス被膜の硬度が2100HV以上とする。
【選択図】図9

Description

本発明は、主として変圧器に使用される方向性電磁鋼板であって、地鉄上に形成したセラミクス被膜よって地鉄に対して高い引張張力を付与することにより極めて低い鉄損を得ることができ、かつ歪取り焼鈍などの高温焼鈍をした後においても極めて良好な被膜密着性を有し、さらには加工性にも優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
磁気特性に優れる方向性電磁鋼板は、主に変圧器内部の鉄心材料として用いられ、変圧器のエネルギ使用効率向上のために、その低鉄損化が要求されている。方向性電磁鋼板の低鉄損化には、結晶粒のGoss方位への先鋭化、被膜張力の増大および薄手化などの手法の他に、鋼板の表面加工による方法が知られている。
この手法で得られる方向性電磁鋼板は、大別して、数百度以上で熱処理しても低鉄損が保たれる耐熱型と、熱処理後に鉄損が劣化する非耐熱型の2種類に分けられるが、変圧器鉄心が巻型の場合には、耐熱型特性が要求されることが多い。というのは、巻型鉄心作製の際に鋼板内部に生じる、鉄損の劣化原因となる歪みを、高温の歪取り焼鈍によって除去する場合が多いためである。
鋼板の表面加工による低鉄損化の方法に関しては、耐熱型低鉄損材の要求に対し、被膜形成前の冷延板に線状の溝を導入する方法が示されている。例えば、特許文献1には、脱炭焼鈍前の冷延板にレジストインクを塗布した後、エッチングによって鋼板表面に溝を形成し、歪取り焼鈍後にも低鉄損である方向性電磁鋼板の製造方法が示されている。この方法は、刻印により溝を形成する際に生じる、装置の機械的な磨耗がほとんど無いため、メンテナンス性が高い利点がある。
一方、非耐熱型低鉄損材の要求に対しては、例えば特許文献2に、2次再結晶後の鋼板に電子ビームやレーザによって、歪みを局所的に導入する方法が示されており、極めて低い鉄損が達成されている。しかしながら、これらの方法による低鉄損化は近年技術が飽和傾向にあり、飛躍的な磁気特性の向上が難しくなってきている。
これに対し、表面改質の観点から、さらに低鉄損化する技術が知られている。例えば、特許文献3には、地鉄表面を平滑化することによって、極めて優れた磁気特性が得られることが示されている。詳細なメカニズムに関しては、なお不明な点が多いが、地鉄の粗度を低減することによって、磁壁の移動に伴うエネルギロスが抑制されるため、ヒステリシス損が減少し、透磁率が増大する。例えば、磁束密度B8は1.96T程度までの値が達成可能である。ただし、この方法による場合、全鉄損の一部であるヒステリシス損は低減されるものの、渦電流損は十分に低減されない。しかし、この点に関しては、地鉄に引張張力を印加することにより、同一の引張張力であっても、粗度が低い素材の方が、粗度が高い素材で確認される以上に、渦電流損を低減できることが分かっている。
また、さらに高い引張張力を印加すれば、従来に無い極めて低い鉄損が実現可能である。このため、地鉄に高張力を付与しようと、高張力被膜の開発が行われてきた。例えば、特許文献4には、PVDやCVDによって、地鉄にTiN被膜を形成することにより、極めて高い引張張力が形成されることが示されている。
特許第2942074号公報 国際公開第2013/099258号 特公昭52-24499号公報 特許第4192818号公報 特開2002-356751号公報 特開2003-301246号公報
「気相コーティングによる鉄鋼の表面高機能化」(日本鉄鋼協会編、1995、P.141〜148)
上記のようなセラミクス被膜の形成に際して、3つの問題がある。
一つ目の問題は、成膜にかかる製造コストが高いことである。PVDやCVDでの被膜形成の場合、蒸発源となる金属元素(例えばTi)のコストが高く、また成膜歩留りも低いため、成膜するほど製造コストが増大する。従って、セラミクス被膜は可能な限り薄く成膜したいけれども、この場合には低鉄損が得られ難い。
二つ目の問題は、焼鈍後の被膜密着性である。セラミクス被膜付きの鋼板を歪取り焼鈍すると、被膜の密着性が損なわれ、被膜が剥奪したり、黒色に変色したりしてしまうという問題がある。この傾向は、特にセラミクス被膜が薄膜の場合に顕著であった。
従来知見においては、被膜中に存在するPに起因して地鉄との界面に形成されるFePが被膜密着性の劣化する原因ともされているが、Pを含まない被膜を形成した場合であっても同様に被膜密着性が損なわれることがあった。従って、別の原因もあると考えられるが詳細について不明な点が多い。
三つ目の問題は、加工性である。上記のようなセラミクス被膜は概して硬度が高く、鋼板から変圧器鉄心用にせん断加工を行うとき、せん断機の磨耗が激しく、生産性を損なう要因となってしまう。また、磨耗したせん断機にて加工した場合には、鉄心材にかえりなどが生じ、変圧器の特性を妨げる要因となる。
これまで、成膜コスト低減のために、可能な限りの成膜厚の減少が試みられてきた。例えば、特許文献5には、複合被膜化、すなわちSiNx被膜をTiNOの上部に形成することにより、トータル膜厚は薄くても、被膜密着性を向上させて、低鉄損を得ることが示されている。しかしながら、セラミクス被膜を多層化すると、異なる成膜種の間で適正な成膜条件が異なるために、装置が過度に大型化し、かえって設備コストが増大してしまう問題があった。
また、加工性の向上のために、セラミクス被膜の硬度を小さくする技術が特許文献6に示されている。この技術によれば、セラミック被膜の膜質や密着性を損なうことなしに、カッティング特性に優れた低鉄損方向性珪素鋼板が得られている。
しかしながら、本発明者らの実験によれば、硬度を低くした場合、同時にヤング率が低下する傾向が認められた。セラミクス被膜の硬度は、被膜に内在する欠損などの存在頻度に影響されている可能性があり、欠損が多い材料は硬度が低く、またヤング率も低くなると考えられる。被膜のヤング率は、地鉄に付与する張力の大きさに比例すると考えられるため、低ヤング率化は原理的に鉄損上好ましくない。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、比較的薄いセラミクス被膜で低鉄損化を図る場合に、歪取り焼鈍後の被膜密着性の劣化が少なく、しかも加工性にも優れた方向性電磁鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
さて、本発明者らは、上記の問題を解決すべく、多くの実験と検討を重ねた結果、セラミクス被膜による鉄損低減と密着性の向上には、地鉄の結晶粒径や表面状態が強く影響することを見出した。
すなわち、地鉄については、
・平均結晶粒径が16mm以上であって、粒界におけるエッチング深さが10μm未満、
・表面粗度Raが0.3μm以下、
・エッチピット部を含む結晶粒の面積率が30%以下
とすることが、重要であることを実験的に明らかとした。
図1に、平均の結晶方位がほぼ同等である、平均結晶粒径が13mm、16mm、33mmの素材を用いて、被膜密着性と鉄損について調査した結果を示す。ここで、調査は、電解研磨と硝酸研磨の方法で平滑化された地鉄上に、PVD法によって0.3μm厚のTiN被膜を成膜し、無機物の処理液を焼き付けたリン酸塩系コーティングをした後、850℃、3hで歪取り焼鈍を行った鋼板に対して行った。これらはすべて電解研磨と硝酸研磨のときに粒界が優先的に研磨されて、粒内に比較して粒界は2μm程度深く研磨されていた。
なお、被膜密着性は、鋼板を直径:50,40,30,25,20,15,10,5mmの丸棒に巻き付けたとき被膜剥離が生じない最小の曲げ径で評価した。また、平均結晶粒径Dは、1結晶粒の面積率AiとRD粒径Diを用いて、ΣDi×Ai(i:1〜50)で評価した。ここに、RD粒径とは、圧延方向(RD)における結晶粒の粒径である。
図1より、平均結晶粒径は大きいほど、鉄損も被膜密着性も良好になることが分かる。一方、平均結晶粒径が16mmよりも小さくなると、特に被膜密着性が急激に劣化することが認められた。
次に、平均結晶粒径が16mmの素材を用いて、硝酸濃度と浸漬時間を変更して、粒界の研磨深さを変更し、この粒界研磨深さが被膜密着性と鉄損に及ぼす影響について調査した。得られた結果を図2に示す。
同図に示したとおり、粒内に対する粒界の研磨深さがNDに10μmになると、鉄損はほぼ同等であるものの、被膜密着性が悪化した。ここに、NDとは、圧延面法線方向を意味する。より好ましい研磨深さは5μm以下である。
結晶粒界の数や深く穿たれた粒界が、被膜性状に及ぼす影響に関しての詳細は明らかでないが、セラミクス被膜は地鉄に対しエピタキシャルに成長するとの考えもあることから、空隙や格子欠陥を含んだ粒界部分の表層で成長するセラミクス被膜に、何かしらの欠陥・欠損が存在するためではないかと考えられる。
また、従来知見に示されるように、表面粗度が低い方が低鉄損化には有利であることは、本発明においても同様であった。
図3は、平均結晶粒径:16mmの素材の表面を、電解研磨と硝酸研磨の濃度、浸漬時間を変更することによって、表面粗度Raを変えた材料に対し、800℃の歪取り焼鈍を施した後の鉄損について調べたものである。ここで、粒界部分の研磨深さは、0.4〜0.9μmであった。
同図に示したとおり、Raが0.3μm以下で特に低い鉄損が得られている。
表面粗度が低い鋼板面を作るために有効な手段の一つとして、塩酸や硝酸などを使用した化学的手法による研磨が知られている。
そこで、本発明者らは、この塩酸や硝酸などを使用した化学的手法による研磨を試みたところ、この方法によった場合には、地鉄表面に形成されるエッチピットの出方によって被膜密着性および鉄損が悪化することが判明した。
図4に、TiNを0.3μmの厚さで成膜した後に観察した鋼板表面の写真の一例を示す。中央に3つある四角形状の部分がエッチピットである。成膜厚が薄い場合には、写真のように確認可能であるが、比較的厚くなると、表面がならされて確認しづらいので、セラミクス被膜を選択的に除去して確認することが好ましい。
図5は、850℃、3時間の歪取り焼鈍を施した後の鉄損W17/50を、エッチピットを含む結晶粒の面積率との関係で示したものである。実験は、平均結晶粒径が20mm、表面粗度Raが0.15μmである地鉄表面に、PVD法で膜厚が0.4μmのTiN被膜を成膜し、ついでリン酸塩系コーティングを施した後に歪取り焼鈍を行った鋼板に対して行ったものである。ここで、表面粗度はエッチピットが含まれない部分にて測定した。なお、エッチピットは、セラミクス被膜の成膜前に、光学顕微鏡によって観察した。また、結晶粒内にエッチピットが含まれるとは、結晶粒内でのエッチピットの存在面積率が2%以上であることとした。エッチピットの存在面積率は、結晶粒の内部にて、合計1mm×1mmの視野内における面積率を導出し、その平均値として評価した。観察した結晶粒は、任意に選んだ200個程度とした。
同図に示したとおり、エッチピットを含む結晶粒の面積率が30%を超えると、歪取り焼鈍後の鉄損が急激に劣化することが分かる。
本発明において、セラミクス被膜は、低コスト化のために膜厚を1.0μm以下とし、またその種類は低鉄損化の効果が高いTiN、TiCN、TiCのいずれかであることとするが、部分的にTi酸化物(TiOx,x:1〜2)が混在していても良い。ただし、TiOxが含有される場合は、被膜−地鉄界面にTiOxが存在していると、被膜密着性が損なわれることから、被膜の表層側により多く存在していることが好ましい。
図6は、最小曲げ径に及ぼす酸素分布の影響を示したものである。図の横軸は、セラミクス被膜の膜厚(ここでは0.3μm)に対する、GDSによって測定した酸素検出強度が絶縁酸化物被膜に対して1/2となる、セラミクス被膜の表層からの深さの割合を示したものである。
同図に示したとおり、この値が0.5以上になると、被膜密着性が悪くなることが定量的に把握された。
セラミクス被膜の平均膜厚の最小値は0.3μmとする。というのは、0.3μm未満で成膜した場合、十分な低鉄損化を達成することができないからである。
また、セラミクス被膜は、表面粗度Rzの平均膜厚に対する比が0.3以下であること望ましい。TiNなどは島状に成長することが知られているが、特に膜厚が薄い場合には、成膜条件によっては、図7(TiNを0.3μm厚で成膜直後の表面写真)に示すように、TiNの厚みが部分的に変化してしまう。この場合、膜厚が薄い部分(表面粗度Rzの平均膜厚に対する比が大きい部分)で被膜密着性が悪くなる。なお、RzはSEMの断面観察像から導出した。
表1に、表面粗度Rzの平均膜厚tに対する比(Rz/t)を種々に変化させたセラミクス被膜の密着性について調べた結果を示す。
同表に示したとおり、表面粗度Rzの平均膜厚tに対する比が小さくなるほど密着性は向上に、特に上記比が0.3以下で良好な結果を得ることができた。
さらに、本発明者らは、セラミクス被膜による低鉄損化と被膜密着性の向上には、セラミクス被膜の硬度およびセラミクス被膜の粗度が重要であることを見出した。そして、セラミクス被膜の硬度増大のためには、セラミクス被膜の結晶サイズを小さくすることが有効であることを明らかとした。なお、セラミクス被膜の硬度については、特許文献6の従来例にて示されているように、従来高々2000HVであった。しかも、同特許文献6では、加工性向上の観点からは、むしろ1500HV以下とすることが重要であると示されている。
別途述べるとおり、セラミクス被膜の硬度は被成膜材の影響も受けるため、厳密な比較はできないが、非特許文献1にも示されているように、同じ鉄鋼材料であるSUSに成膜したTiNの硬度はおよそ1500HV程度であった。
本発明者らは、以下に述べるとおり、従来以上にセラミクス被膜を高硬度化することによって、焼鈍後の被膜密着性と鉄損を共に格段に向上できることを見出した。
図8と図9にそれぞれ、被膜密着性と鉄損に及ぼすセラミクス被膜(TiN被膜)の硬度の影響について調べた結果を示す。ここで、被膜硬度は、PVD法にてTiNを成膜した直後に測定した値とした。被膜厚みは0.4μm、地鉄の結晶方位角βは2°であった。硬度はISO14577規格に基づき、ベルコビッチ圧子によって測定したインデンテーションハードネス値に92.6の値を掛けてビッカース硬度(HV)に換算した。
また、被膜密着性および鉄損は、TiN成膜後、無機物の処理液を焼き付けたリン酸塩系コーティングをした後、800℃,3hで歪取り焼鈍(SRAともいう)を行った後に測定した。なお、被膜密着性は、鋼板を直径50,40,30,25,20,15,10,5mmの丸棒に巻きつけたとき被膜剥離が生じない最小の曲げ径にて評価した。また、図9中のプロット点に付記した数字は、硬度測定と同じタイミングで測定したヤング率(単位はGPa)である。ここで、被膜のヤング率は、被膜のポアソン比を0.3として、次式によって求めた。
1/Er =(1−ν2)/EIT+(1−νi 2)/Ei
ここで、EIT=被膜の弾性率(ヤング率)
r =複合弾性率
i =圧子(ダイヤモンド)の弾性率
ν =被膜のポアソン比
νi =圧子(ダイヤモンド)のポアソン比
図8,9から明らかなように、硬度を増大させることによって、鉄損と被膜密着性をともに向上させることが可能であり、従来にない高硬度化によって、極めて良好な鉄損を達成できることが判明した。
一方、上述のような、高硬度なセラミクス被膜を成膜した場合、加工性が悪くなるという問題があった。この点に関し、本発明者らは、高硬度と加工性を両立させるための実験を繰り返した結果、高硬度と加工性を両立させるためにはセラミクス被膜の組織制御が重要であることを見出した。
すなわち、加工性を劣化させることなく硬度を増大させるためには、セラミクス被膜のRD平均結晶粒径を0.1μm以下とし、かつ単一の粒がNDに伸びた柱状組織とすることが有用であることを見出した。この平均結晶粒径は、従来になく小さいものであって、これが上述のような高硬度に影響していると推定される。ここで、柱状であることは、EBSD法によって測定することができる。冷凍割断面によって組織を観察する例もあるが、必ずしも正確な結晶サイズが測定できないため好ましくない。地鉄界面には歪が多く導入されているためか、EBSD測定が良くできないため、表層から1/2までの範囲で結晶方位解析を行い、明瞭に測定できた部分のうち50%以上の組織がNDに長軸を有する柱状であれば、柱状であると判断した。
柱状組織としたことの効果を確認するため、TiNを成膜したままの板をせん断機にて同一条件でせん断し、せん断部のかえりが3μm以上となったものの発生割合を調べた。
得られた結果を表2に示す。
表2に示したように、組織を柱状組織にすることによって、せん断部のかえりの発生割合を著しく低減することができた。
本発明は、上記の知見に立脚するもので、その要旨構成は次のとおりである。
1.OまたはPを含む絶縁酸化物被膜を最表層に有し、その下層かつ地鉄上にセラミクス被膜を有する方向性電磁鋼板であって、
地鉄は、
・平均結晶粒径が16mm以上であって、粒界におけるエッチング深さが10μm未満、
・表面粗度Raが0.3μm以下、
・エッチピット部を含む結晶粒の面積率が30%以下
であり、セラミクス被膜は、
・平均膜厚が0.3μm以上1.0μm以下の、TiN、TiCNまたはTiCのいずれか、
・酸素の検出強度が上層の絶縁酸化物被膜のそれに対し1/2となる表層からの位置が該被膜の板厚方向の中心よりも表層側、
・表層から測定したセラミクス被膜の硬度が2100HV以上
であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
2.前記1に記載の方向性電磁鋼板であって、
前記セラミクス被膜は、
・表面粗度Rzの平均膜厚に対する比が0.3以下である
ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
3.前記1または2に記載の方向性電磁鋼板であって、
前記セラミクス被膜は、
・表層におけるRDの平均結晶粒径が0.1μm未満で、NDに伸びた柱状組織である
ことを特徴とする方向性電磁鋼板
4.前記1〜3のいずれかに記載の方向性電磁鋼板であって、
・地鉄の平均結晶方位において、鋼板の圧延方向を向く二次再結晶粒の<100>軸と圧延面とのなす角βが3°未満である
ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
5.前記1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
前記1〜4のいずれかに記載の絶縁酸化物被膜を、塗布ロールによって成膜するものとし、その際、絶縁酸化物被膜焼付け時のライン張力を7MPa以上とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
6.前記1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
前記1〜4のいずれかに記載のセラミクス被膜を形成する地鉄表面を平滑化するに当たり、塩酸、硝酸あるいはそれらを含む酸にて地鉄を研磨した後、さらに電解研磨や化学研磨によって地鉄を8μm以上研磨して平滑化することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
7.前記1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
前記1〜4のいずれかに記載のセラミクス被膜を形成するに当たり、地鉄表面に、500V以上の電圧で加速されたTiイオンを10s以上衝突させて表面の酸化物被膜を除去した後、イオン加速電圧を100V以上として成膜することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
8.前記1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
前記7に加え、さらに、歪み導入型の磁区細分化処理をしない場合にはセラミクス被膜成膜工程の後工程において、また歪み導入型の磁区細分化処理をする場合にはセラミクス被膜成膜工程と歪み導入型の磁区細分化工程の間のいずれかの工程において、750℃以上かつ15s以上の焼鈍を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
9.前記1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
前記1〜4のいずれかに記載のセラミクス被膜を形成するに当たり、セラミクス被膜の成膜速度を1nm/s以上とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、単層のセラミクス被膜を成膜することによって方向性電磁鋼板の低鉄損化を図る場合であっても、歪取り焼鈍後の被膜密着性を従来よりも格段に向上することができる。また、従来懸念された、セラミクス被膜の高硬度化によって生じる加工性の劣化を抑制することができる。
従って、本発明に従って作製した方向性電磁鋼板を変圧器に使用すれば、エネルギ使用効率を低減することができるため、産業上有用である。
地鉄の結晶粒径と被膜密着性および鉄損との関係を示すグラフである。 地鉄表面の粒界研磨深さと被膜密着性および鉄損との関係を示すグラフである。 地鉄の表面粗度Raと鉄損との関係を示すグラフである。 TiNを0.3μmの厚さで成膜した後の鋼板表面の顕微鏡写真(倍率:200倍)である。 地鉄表面のエッチピットを含む結晶粒の面積率と歪取り焼鈍後の鉄損との関係を示すグラフである。 セラミクス被膜の被膜厚に対する、酸素検出強度が絶縁酸化物被膜の1/2となるセラミクス被膜の表層からの深さの比と、最小曲げ径との関係を示すグラフである。 TiNを0.3μmの厚さで成膜した直後の鋼板表面の顕微鏡写真(倍率:20,000倍)である。 セラミクス被膜の硬度と被膜密着性との関係を示すグラフである。 セラミクス被膜の硬度と鉄損との関係を示すグラフである。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、セラミクス被膜の成膜前の方向性電磁鋼板について説明する。
方向性電磁鋼板としては、鋼組成として、C:300massppm以下、Si:1〜7mass%、P:0.1mass%以下、Mn:0.1mass%以下およびS:10massppm未満を含有するものであることが好ましい。その他の成分については、従来知見に基づき、二次再結晶後の結晶方位がGoss方位に先鋭化されるような成分が添加されていても問題ないが、フォルステライト被膜を形成する場合には、アンカーを発達させるCrは極力少ない方がよく、0.1mass%以下とすることが好ましい。また、二次再結晶焼鈍が施され、Goss方位近傍に集積した組織であることが好ましい。
この二次再結晶組織として、平均結晶粒径は16mm以上とする。というのは、平均結晶粒径が16mm未満では、前掲図1に示したように、鉄損や被膜密着性、特に被膜密着性の急激な劣化を招くからである。
また、後述する実施例に示すように、鋼板の圧延方向を向く二次再結晶粒の<100>軸と圧延面とのなす角βが低いほど、鉄損改善効果が大きくなるため、β角は3°未満とすることが好ましい。
地鉄表面にフォルステライト被膜が形成されている場合には、事前に酸などを用いて除去する必要がある。塩酸とフッ化水素の混合液によって被膜を除去すればよいが、エッチピットが出現する。そのため、その後さらに電解研磨、あるいは過酸化水素水とフッ化水素水の混合液によって化学研磨して、8μm以上減厚し、エッチピットの存在率が2%より大きい結晶粒の面積率を30%以下にまで減少させる必要がある。というのは、エッチピットの存在率が2%より大きい結晶粒の面積率が30%を超えると、前掲図5に示したように、鉄損の急激な劣化を招くからである。また、上記の電解研磨または化学研磨により、地鉄表面を平滑化して表面粗度Raを0.3μm以下とする必要がある。というのは、地鉄の表面粗度Raが0.3μmを超えると、前掲図3に示したように、鉄損が劣化するからである。しかしながら、あまり過度に研磨すると、地鉄の歩留まりが低減するため、被膜除去後の研磨量は板厚の10%以内とすることが好ましい。
一方、フォステライト被膜を形成していない場合であっても、二次再結晶焼鈍中、表層に不可避的な酸化物が形成されることがあるので、電解研磨や化学研磨によって数μm程度減厚するのが良い。硝酸研磨や電解研磨の場合、粒界が優先的にエッチングされる傾向があるが、硝酸濃度や浸漬時間、電流密度の調整によって、粒界におけるエッチング深さは10μm未満に制限する必要がある。というのは、粒界におけるエッチング深さが10μm以上になると、前掲図2に示したように、鉄損および被膜密着性の劣化が生じるからである。
次に、地鉄の表面に形成するセラミクス被膜について説明する。
セラミクス被膜の成膜前には、地鉄の表面に視認できる程度の錆が発生していないことが必要であるが、錆の発生が認められた場合には、塩酸酸洗等の化学的な手法によって除去しておく必要がある。しかしながら、極微細な酸化物は不可避的に表層に形成されるため、事前に10Pa以下の真空中にて、イオンクリーニングによって除去することは有利である。クリーニングとしては、500V以上の電圧で加速されたイオンを10秒以上地鉄表面に衝突させることが有利である。ここで用いるイオンは成膜元素であるTiイオンとするのが良い。望ましくは、加速電圧:800V以上である。これにより、セラミクス被膜の密着性が向上する。地鉄の表面に酸化物などの粗大な不純物が残存していると、そこからセラミクス被膜が剥離する不利が生じる。ただし、加速電圧を過度に増大させた場合に、地鉄に歪を与え、鉄損を増大させるため、上限は2000Vとすることが好ましい。
セラミクス被膜の成膜はPVD法によって行う。例えば、熱CVD法では、成膜温度が高いために、成膜組織が成長し、軟質化してしまう傾向があるため好ましくない。
PVD法には、代表的な成膜方式としてHCD法とAIP法があるが、どちらでも適用が可能である。ただし、AIP法の場合はドロップレットが発生しないよう、カソードを調整することが好ましい。ドロップレットなどの欠損は、絶縁酸化物被膜からのOの拡散を促し、被膜を変質させる。
地鉄との密着性を増大させるためには、HCD法かAIP法を適用し、成膜元素のイオン化率は50%以上とすることが好ましい。成膜種は、優れた鉄損低減効果があるTiN、TiCN、TiCのいずれかとする。蒸発源であるTiは高純度材を使用する。また、セラミクス被膜の膜厚は0.3〜1.0μmとする。というのは、セラミクス被膜の膜厚が0.3μmに満たないとセラミクス被膜の張力が低くなり、一方1.0μmを超えると成膜コストが高いばかりか、加工性も劣化するからである。ここに、好ましい平均膜厚は0.4μm以上である。
なお、成膜温度は300℃以上500℃以下とする。過度に低いと成膜レートが減少し、増大すると被膜組織が粗大化してしまうからである。
また、セラミクス被膜の酸素の検出強度が上層の絶縁酸化物被膜のそれに対し1/2となる表層からの位置が該被膜の板厚方向の中心よりも表層側、すなわち酸素検出強度が絶縁酸化物被膜に対して1/2となる、セラミクス被膜の表層からの深さのセラミクス被膜の膜厚に対する比を0.5以内とする必要がある。というのは、この比が0.5以上になると、前掲図6に示したように、被膜密着性が劣化するからである。
さらに、セラミクス被膜を微細な組織とするためには、成膜レートは1nm/s以上とすることが好ましい。成膜レートは、蒸発源を増大することによって、簡単に増大することが可能である。また、より好ましくは5nm/s以上である。なお、成膜レートが高いと、前掲図8に示したような、島状の組織が形成されやすい傾向があるが、この場合には、膜厚を増大するか、成膜時の加速電圧を増大するかして、表面粗度Rzの平均膜厚に対する比を0.3以下にすれば良い。
成膜時の蒸発源イオンの加速電圧は、100V以上とする。加速電圧の増大によって、セラミクス被膜中の欠損が減少し、高硬度化する傾向が認められたためである。なお、加速電圧の増加に伴って成膜速度が減少する傾向があることから上限は1000Vとすることが好ましい。窒素ガス、メタンガスの流量、真空度については、従来公知の値にて、上記の被膜が形成されるように適宜決めればよいが、特にセラミクス被膜は圧延面に平行に{111}の結晶面に優先配向した組織となるよう条件を調整することが好ましい。{111}の結晶方位は、柱状組織を形成しやすいためである。ただし、真空通板装置については、2段以上の差圧式構造とする。蒸着前の鋼板には、水分が吸着しているため、1段目の真空室でこれを除去する必要があるからである。より望ましくは、3段の差圧構造とするのが良い。水分があると、セラミクス被膜内に欠損を生じ、硬度が低下し、被膜密着性も低減しまう。
上記の方法によって形成したセラミクス被膜の硬度を、2100HV以上とすることができる。成膜種としてTiCNとした場合には、2600HV以上とすることが可能である。セラミクス被膜の硬度を2100HV以上とすることにより、前掲図8,9に示したように、被膜密着性および鉄損が効果的に改善される。
また、上記の方法によってセラミクス被膜を形成することにより、TiCを除いて、地鉄側と逆の界面におけるRDの平均結晶粒径が0.1μm以下で、NDに伸びた柱状組織とすることができる。なお、地鉄側の界面においては、RDの平均結晶粒径はより微細になっているようだが、上述したEBSD法では明瞭に確認できなかった。
次に、セラミクス被膜の上に形成する絶縁酸化物被膜について説明する。
上記のTiNなどのセラミクス被膜は導電性を有するため、変圧器鉄心用途として使用するためには、その表層に絶縁被膜を形成する必要がある。本発明において、かかる絶縁被膜としては、OまたはPを含む絶縁酸化物被膜を用いるものとする。というのは、OまたはPを含む絶縁酸化物被膜は、安価であって、高温耐熱性や高張力発生の点で有利だからである。ここに、OやPの含有量としては10〜70mass%程度が好適である。
かような絶縁酸化物としては、リン酸マグネシウムやリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
かかる絶縁被膜は、PVDの方法によって成膜しても良いが、コスト上好ましいのは、ロールによって塗布後、焼付けすることで酸化物被膜を成膜する方法である。焼付けは300℃以上の高温で行われることが通常であるが、このとき地鉄の降伏点が低下し、成膜している被膜の張力によって変形し、不要な歪みを地鉄に導入する可能性がある。この変形を防止するためには、焼付け時のライン張力は7MPa以上とすることが好ましい。なお、鋼板のクリープ変形を抑制する観点から上限は12MPaとすることが好ましい。また、セラミクス被膜成膜前に高電圧でイオン照射した場合には、鋼板に微量の歪みが存在していることがあるため、750℃以上かつ15s以上で焼鈍できるとさらに好ましい。
本発明では、さらに磁区細分化処理を施すことができる。
地鉄の表面に溝を形成して磁区細分化を行う場合、溝形成プロセスはセラミクス被膜の成膜前に行うことが好ましい。セラミクス被膜の成膜後に溝を形成する場合には、その被膜除去に追加コストが発生するため好ましくない。また、非耐熱型の磁区細分化処理は、絶縁酸化物被膜を形成した後が良い。絶縁酸化物被膜によっては、700℃以上の高温で成膜する被膜があるため、絶縁酸化物被膜の形成前に電子ビームなどによって歪みを導入しても、この焼付け時に歪みが消失してしまい、磁区細分化の効果が減少してしまうためである。
また、非耐熱型の磁区細分化手法としては、レーザ法よりも電子ビーム法の方が好ましい。レーザの場合、平滑化された表面で反射されて、エネルギ照射効率が低くなるためである。
なお、歪み導入型の磁区細分化処理をしない場合にはセラミクス被膜成膜工程の後工程において、また歪み導入型の磁区細分化処理をする場合にはセラミクス被膜成膜工程と歪み導入型の磁区細分化工程の間のいずれかの工程において、750℃以上かつ15s以上の焼鈍を施すことが有利である。これは、セラミクス被膜成膜前に高電圧でイオン照射した場合に鋼板に導入される微量な歪を除去するためである。なお、この焼鈍を上述した絶縁酸化物被膜の焼き付けと兼ねさせても問題はない。
(実施例1)
鋼板としては、地鉄中に、Cを20massppm、Siを3.4mass%含有したフォルステライト被膜付きの、製造条件の異なる2種類の2次再結晶板(板厚:0.22mm、平均結晶粒径:28〜35mm)を用いた。この鋼板を、塩酸とフッ化水素、硝酸の混合液にてフォルステライト被膜を除去した後、フッ化水素水(47%)と過酸化水素水(34.5%)を1:20の割合で混合した水溶液で化学研磨することにより、板厚を0.20mmまで減厚すると共に、表面粗度Raが0.1μm以下の平滑化表面とした。この時の粒界のエッチング深さは0.5μm以下であった。
ついで、1000Vの電圧で加速したイオンにて表面酸化物を除去し、成膜電圧:200V、成膜速度:1.5nm/sにて、平均膜厚:0.6μmのTiNを成膜した。TiNの硬度は、2550HVであった。また、表面粗度Rzの平均膜厚に対する比は0.14、RD平均結晶粒径は0.05μmでNDに平行に伸びた柱状組織であった。
ついで、800℃、60sでリン酸塩系の絶縁張力被膜をロール塗布後に焼き付けた。このときのライン張力は10MPaとした。その後、電子ビーム法によって、磁区細分化処理を施した。
かくして得られた方向性電磁鋼板の、結晶方位角β、エッチピット部を含む結晶粒の面積率、鉄損W17/50および850℃、3時間、N雰囲気中でのSRA後の被膜密着性(最小曲げ径)とSRAによる鉄損増加量ΔW17/50について調べた結果を、表3に示す。
なお、表中に示した地鉄平滑化方法Aとは、塩酸、フッ化水素、硝酸の混合液で、0.205mmまで減厚した後、化学研磨の方法で0.197mmまで減厚した場合、また地鉄平滑化方法Bとは、塩酸、フッ化水素、硝酸の混合液で、0.202mmまで減厚した後、化学研磨の方法で0.197mmまで減厚した場合である。
結晶方位角βを3°以下にすることで、鉄損を大幅に減少させることが可能であることが分かる。また、地鉄平滑化方法として、方法Aを用い、化学研磨で8μm以上研磨することによって、850℃,3時間の焼鈍後(SRA後)の被膜密着性や鉄損を向上させることが可能であることが分かる。
(実施例2)
鋼板としては、30μmの深さで幅方向に延びた溝が、圧延方向に3mm間隔で周期的に形成され、地鉄中にCを20massppm、Siを3.4mass%含有したフォルステライト被膜付きの2次再結晶板(板厚:0.22mm、平均結晶粒径:30mm、角β:2°)を用いた。この鋼板を、塩酸とフッ化水素、硝酸の混合液にてフォルステライト被膜を除去し0.210mmまで減厚した後、NaCl水溶液を電解液とした電解研磨によって、板厚を0.200mmまで減厚すると共に、表面粗度Raが0.1μm以下の平滑表面とした。この時の粒界のエッチング深さは0.5μm以下、エッチピットを含む結晶粒の面積率は3%であった。
ついで、1000Vの電圧で加速したイオンにて表面酸化物を除去し、表4に示す各条件の下で、平均膜厚:0.6μmのTiNまたはTiCNを成膜した。表面粗度Rzの平均膜厚に対する比は0.15で、組織はNo.4を除き、NDに平行に伸びた柱状組織であった。
その後、800℃、60sでリン酸塩系の絶縁張力被膜をロール塗布後に焼き付けた。このときのライン張力は10MPaとした。
かくして得られた方向性電磁鋼板における、SRA前に測定したセラミクス被膜のRD粒径、セラミクス被膜の硬度、800℃、3時間、Ar雰囲気中でのSRA後の鉄損W17/50および被膜密着性(最小曲げ径)、さらにはせん断部におけるかえりの発生個数について調べた結果を、表4に併記する。
表4に示したとおり、本発明によれば、セラミクス被膜硬度が高くなる条件で、優れた鉄損と被膜密着性、さらには加工性が鼎立可能であることが分かる。
(実施例3)
鋼板としては、30μmの深さで幅方向に延びた溝が、圧延方向に3mm間隔で周期的に形成され、地鉄中にCを20massppm、Siを3.4mass%含有したフォルステライト被膜付きの2次再結晶板(板厚:0.22mm、平均結晶粒径:25mm、角β:2°)を用いた。この鋼板を、塩酸とフッ化水素、硝酸の混合液にてフォルステライト被膜を除去し0.210mmまで減厚した後、NaCl水溶液を電解液とした電解研磨によって、板厚を0.200mmまで減厚すると共に、表面粗度Raが0.1μm以下の平滑化表面とした。この時の粒界のエッチング深さは0.5μm以下、エッチピットを含む結晶粒の面積率は3%であった。
ついで、表5に示す各電圧で加速したTiイオンにて表面酸化物を除去し、各条件にて、平均膜厚:0.7μmのTiNを成膜した。表面粗度Rzの平均膜厚に対する比は0.1で、組織はNDに平行に伸びた柱状組織であった。
その後、表5に示す各温度にて15s保持することにより、ロールにより塗布した酸化物系絶縁張力被膜を焼き付けた。
かくして得られた方向性電磁鋼板の、800℃、3時間、Ar雰囲気中でのSRA後の鉄損W17/50および被膜密着性(最小曲げ径)について調べた結果を、表5に併記する。
表5に示したとおり、クリーニング電圧を高くすると共に、絶縁酸化物被膜焼き付け時における焼き付け温度およびライン張力を高くすることが、鉄損および被膜密着性の改善に有効であることが分かる。

Claims (9)

  1. OまたはPを含む絶縁酸化物被膜を最表層に有し、その下層かつ地鉄上にセラミクス被膜を有する方向性電磁鋼板であって、
    地鉄は、
    ・平均結晶粒径が16mm以上であって、粒界におけるエッチング深さが10μm未満、
    ・表面粗度Raが0.3μm以下、
    ・エッチピット部を含む結晶粒の面積率が30%以下
    であり、セラミクス被膜は、
    ・平均膜厚が0.3μm以上1.0μm以下の、TiN、TiCNまたはTiCのいずれか、
    ・酸素の検出強度が上層の絶縁酸化物被膜のそれに対し1/2となる表層からの位置が該被膜の板厚方向の中心よりも表層側、
    ・表層から測定したセラミクス被膜の硬度が2100HV以上
    であることを特徴とする方向性電磁鋼板。
  2. 請求項1に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記セラミクス被膜は、
    ・表面粗度Rzの平均膜厚に対する比が0.3以下である
    ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記セラミクス被膜は、
    ・表層におけるRDの平均結晶粒径が0.1μm未満で、NDに伸びた柱状組織である
    ことを特徴とする方向性電磁鋼板
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の方向性電磁鋼板であって、
    ・地鉄の平均結晶方位において、鋼板の圧延方向を向く二次再結晶粒の<100>軸と圧延面とのなす角βが3°未満である
    ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
    請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁酸化物被膜を、塗布ロールによって成膜するものとし、その際、絶縁酸化物被膜焼付け時のライン張力を7MPa以上とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
    請求項1〜4のいずれかに記載のセラミクス被膜を形成する地鉄表面を平滑化するに当たり、塩酸、硝酸あるいはそれらを含む酸にて地鉄を研磨した後、さらに電解研磨や化学研磨によって地鉄を8μm以上研磨して平滑化することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
  7. 請求項1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
    請求項1〜4のいずれかに記載のセラミクス被膜を形成するに当たり、地鉄表面に、500V以上の電圧で加速されたTiイオンを10s以上衝突させて表面の酸化物被膜を除去した後、イオン加速電圧を100V以上として成膜することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
  8. 請求項1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
    請求項7に加え、さらに、歪み導入型の磁区細分化処理をしない場合にはセラミクス被膜成膜工程の後工程において、また歪み導入型の磁区細分化処理をする場合にはセラミクス被膜成膜工程と歪み導入型の磁区細分化工程の間のいずれかの工程において、750℃以上かつ15s以上の焼鈍を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
  9. 請求項1〜4のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
    請求項1〜4のいずれかに記載のセラミクス被膜を形成するに当たり、セラミクス被膜の成膜速度を1nm/s以上とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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