JP2019021920A - 方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】被膜密着性および磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を提供する。【解決手段】鋼板と、上記鋼板上に配置された、窒化物を含有するセラミクス被膜と、を備える方向性電磁鋼板であって、上記セラミクス被膜における上記鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分は、結晶粒の平均アスペクト比が1.0〜1.5、平均結晶粒径が4.0nm以下であり、上記セラミクス被膜における上記鋼板側とは反対側の表面から少なくとも10.0nmの膜厚部分は、結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上、平均結晶粒径が10.0nm以上である、方向性電磁鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、主に、変圧器内部の鉄心用材料として用いられ、変圧器のエネルギー使用効率向上のため、その低鉄損が要求されている。
特許文献1には、鋼板表面を平滑化することによって、優れた磁気特性が得られることが示されている。詳細なメカニズムに関しては、なお不明な点が多いが、鋼板粗度を低減することによって、磁壁の移動に伴うエネルギーロスが抑制されて、ヒステリシス損が減少し、透磁率が増大すると考えられる。
更に、高い引張応力を印加すれば、低い鉄損が実現可能である。このため、表面を平滑化した鋼板に高張力を付与しようと、高張力被膜の開発が行なわれている。
従来から、無機物の処理液を焼き付けて形成されるリン酸塩系の高張力被膜が知られている。リン酸塩系の高張力被膜の下層には、通常は、焼鈍分離剤との反応で形成したフォルステライト被膜が存在する。このようなフォルステライト被膜は、鋼板表面で反応して形成されるため、鋼板との密着性に優れる。しかし、フォルステライト被膜と接する鋼板表面は平滑ではない。フォルステライト被膜を除去して表面を平滑化した鋼板上にリン酸塩系の高張力被膜を形成させようとしても、良く密着しない場合がある。これは、リン酸塩系の高張力被膜は、鋼板と比較して熱膨張係数が低いため、高温で焼き付けて成膜しても、冷却中に鋼板の収縮に追随できずに剥離するためと推定される。
そこで、平滑化した鋼板上に高張力被膜を形成する技術として、TiN被膜などのセラミクス被膜を形成することが見出され、その手法として、PVD法またはCVD法などの方法が利用できることが示されている(特許文献2を参照)。
特開昭49−96929号公報 特開2005−264234号公報
ところで、セラミクス被膜の形成には、以下のような問題がある。
問題の1つは、成膜にかかる製造コストが高いことである。PVD法またはCVD法による成膜の場合、蒸発源(ターゲット)となる金属元素(例えばTiN被膜を形成する場合にはTi)のコストが高く、成膜歩留りも低いため、成膜量が多いほど製造コストが増大する。したがって、セラミクス被膜は可能な限り薄く成膜したい。しかし、そうすると、低鉄損が得られにくくなる。
他の問題として、歪取り焼鈍などの焼鈍を施した後に、セラミクス被膜が剥離する場合がある。すなわち、焼鈍後の被膜密着性が劣る場合がある。これは、セラミクス被膜が薄膜である場合に、特に顕著である。
そこで、本発明は、被膜密着性および磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することによって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]を提供する。
[1]鋼板と、上記鋼板上に配置された、窒化物を含有するセラミクス被膜と、を備える方向性電磁鋼板であって、上記セラミクス被膜における上記鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分は、結晶粒の平均アスペクト比が1.0〜1.5、平均結晶粒径が4.0nm以下であり、上記セラミクス被膜における上記鋼板側とは反対側の表面から少なくとも10.0nmの膜厚部分は、結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上、平均結晶粒径が10.0nm以上である、方向性電磁鋼板。
[2]上記セラミクス被膜の膜厚の合計が、15.0nm以上300.0nm以下である、上記[1]に記載の方向性電磁鋼板。
[3]上記セラミクス被膜における上記鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分が、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有する、上記[1]または[2]に記載の方向性電磁鋼板。
[4]上記セラミクス被膜における上記鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分が、Tiを含む窒化物を含有する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
[5]更に、上記セラミクス被膜上に配置された絶縁張力酸化物被膜を備え、上記絶縁張力酸化物被膜の膜厚が、1.0μm以上である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
[6]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する、方向性電磁鋼板の製造方法であって、上記セラミクス被膜を、AIP法によって成膜する、方向性電磁鋼板の製造方法。
[7]上記[5]に記載の方向性電磁鋼板を製造する、方向性電磁鋼板の製造方法であって、上記セラミクス被膜を、AIP法によって成膜する、方向性電磁鋼板の製造方法。
[8]上記セラミクス被膜上に、処理液をロールによって塗布し、その後、焼き付けすることにより、上記絶縁張力酸化物被膜を成膜する、上記[7]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、被膜密着性および磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を提供できる。
[本発明者らが得た知見]
本発明者らは、上述した目的を達成するために、方向性電磁鋼板の新しい被膜構造を検討した。すなわち、鋼板上のセラミクス被膜の結晶状態を制御すれば薄膜でも被膜密着性や張力を確保できることを突き止めた。
表面を平滑化した鋼板上に、セラミクス被膜として0.2μmのTiN被膜を種々の成膜条件で成膜した材料(方向性電磁鋼板)について、被膜密着性や鉄損を評価した。その結果、方向性電磁鋼板の特性に差が観測された。
更に詳細に検討したところ、TiN被膜(セラミクス被膜)の態様が、これらの特性に影響を与えていることが分かった。具体的には、本発明者らは、例えば、以下のような知見を得た。
・セラミクス被膜は、鋼板側の膜厚部分と、鋼板側とは反対側の膜厚部分とで好適な結晶粒の状態が異なる。
・鋼板側の膜厚部分の結晶粒径が微細な方が、張力が大きく、被膜密着性が優れる。
・鋼板側とは反対側の膜厚部分の結晶粒径は、鋼板側の膜厚部分の結晶粒径より大きい方がよく、更に、膜厚方向に成長した楕円状または柱状の結晶粒の方が、張力が大きく、被膜密着性が優れる。
本発明者らが、セラミクス被膜の成膜法についても検討したところ、PVD法を用いた成膜により、上述した態様のセラミクス被膜を好適に形成できることが分かった。
このとき、PVD法のなかでも、AIP(アークイオンプレーティング)法を用い、成膜温度、成膜速度、バイアス電圧などの条件を調整することにより、好適にセラミクス被膜の態様を制御できることが分かった。
[方向性電磁鋼板]
以下、改めて、本発明の方向性電磁鋼板について説明する。
本発明の方向性電磁鋼板は、鋼板と、上記鋼板上に配置された、窒化物を含有するセラミクス被膜と、を備える方向性電磁鋼板であって、上記セラミクス被膜における上記鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分は、結晶粒の平均アスペクト比が1.0〜1.5、平均結晶粒径が4.0nm以下であり、上記セラミクス被膜における上記鋼板側とは反対側の表面から少なくとも10.0nmの膜厚部分は、結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上、平均結晶粒径が10.0nm以上である、方向性電磁鋼板である。
本発明の方向性電磁鋼板は、鉄損などの磁気特性と被膜密着性とが共に優れる。
〈鋼板〉
本発明に用いる鋼板としては、例えば、フォルステライト被膜付きの方向性電磁鋼板(二次再結晶板)からフォルステライト被膜を除去することにより得られる鋼板(態様A)、または、フォルステライト被膜を形成させずに製造した方向性電磁鋼板(態様B)が好適に挙げられる。
いずれの態様であっても、セラミクス被膜が成膜される鋼板表面は平滑であることが好ましく、酸化物などの不純物が極力形成されていないことがより好ましい。
フォルステライト被膜付きの方向性電磁鋼板を作製する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
具体的には、例えば、所定の鋼組成を有する鋼塊を、熱間圧延し、その後、数度の焼鈍を挟みつつ、数回(例えば、2回以下)の冷間圧延により最終冷延板とした後、脱炭焼鈍および仕上げ焼鈍を行なうことにより、Goss方位を有する二次再結晶粒を発達させる。仕上げ焼鈍において、コイル状に巻かれた鋼板どうしの密着を防止するために焼鈍分離剤として塗布されるMgOと、その直前の脱炭焼鈍において形成されるSiOとの固相化学反応により、フォルステライト被膜が形成される。こうして、フォルステライト被膜付きの方向性電磁鋼板(二次再結晶板)が得られる。
上述した態様Aの場合、フォルステライト被膜の除去には、従来公知の手法を適用でき、例えば、機械研磨、化学研磨または電解研磨などが適用できる。
機械研磨の場合、研磨により鋼板に歪が導入されるため、歪を除去する目的で、研磨後に追加で化学研磨を行なうことが好ましい。
化学研磨の場合、例えば、塩酸とフッ化水素との混合液、硝酸、および/または、フッ化水素水と過酸化水素水との混合水溶液などが用いられ、フォルステライト被膜と鋼板とを同時に研磨することもできる。
電解研磨には、例えば、NaCl水溶液を電解液として用いることができる。
研磨後は、鋼板表面のRa(算術平均粗さ)を0.3μm以下とすることが好ましく、0.1μm以下にすることがより好ましい。しかし、過度に研磨すると、鋼板の歩留まりが減少する場合があるため、フォルステライト被膜を除去した後の鋼板の研磨量は、研磨前の5%以内とすることが好ましい。
一方、上述した態様Bでは、焼鈍分離剤を用いない、または、焼鈍分離剤の組成をフォルステライト被膜が形成されない組成にすることで、フォルステライト被膜のない状態とする。その場合においても、二次再結晶焼鈍中などに、鋼板表面に不可避的な酸化物が形成されることがあるので、鋼板の表裏面を、数μm程度、除去することが好ましい。この場合、研磨量が少ないために、Raを調整することは困難であるから、事前に圧延工程において、例えばロール粗度の低減などの方法によって、所望の粗度となるように調整することが好ましい。
鋼板の鋼組成は、質量%で、C:30ppm以下(0.003%以下)、Si:1〜7%、P:0.1%以下、Mn:0.1%以下、S:10ppm未満(0.001%未満)、N:20ppm以下(0.002%以下)を含有することが好ましい。
Cは、過度に含有すると磁気時効により鉄損を損なうことがあるため、30ppm以下とすることが好ましい。
Siは、比抵抗を高めて鉄損を低減することから1%以上含有することが好ましいが、含有量が多すぎると製造性が損なわれるおそれがあるため、7%以下が好ましい。
Pも、比抵抗を高めるので含有してもよいが、製造性を低くするほか、飽和磁束密度を低くすることがあるため、0.1%以下とすることが好ましい。
MnおよびSは、過度に含有すると、MnSなどの析出物を形成して鉄損を劣化させることがあるため、それぞれ0.1%以下および10ppm未満とすることが好ましい。
Nは、歪取り焼鈍の際に、窒化ケイ素などを析出して鉄損を損なうことがあるため、極力含有していないことが好ましい。
その他の成分については、従来知見に基づき、二次再結晶後の結晶方位がGoss方位に先鋭化されるように添加されていてもよいが、フォルステライト被膜を形成する場合は、アンカーを発達させるCrは極力少ない方が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
Ti、Nb、V、ZrおよびTaは、炭化物または窒化物を形成することにより鉄損を劣化させてしまうことがあるため、合計で0.01%以下とすることが好ましい。
鋼板の集合組織は、Goss方位近傍に集積した組織であることが好ましい。平均結晶方位において、鋼板の圧延方向を向く二次再結晶粒の〈100〉軸と圧延面とのなす角であるβを3°以下とすることが好ましい。β角が低い場合に低鉄損化の効果が著しく大きくなるためである。α角については、4°以下とするのが好ましい。
特に、鋼板表面に、溝を形成したり、レーザまたは電子ビームなどを用いて局所的に歪を導入したりする磁区細分化処理を施さない場合には、平均β角は1°以上3°以下がより好ましい。β角が0°に近いと、渦電流損が著しく増大するためである。
鋼板の平均結晶粒径は、5mm以上とすることが好ましい。平均結晶粒径が小さすぎると、渦電流損は低くなるものの、ヒステリシス損がそれ以上に増大し、合計の全鉄損としては不利になるためである。
鋼板の板厚は、0.10〜0.30mmの範囲が好ましい。絶縁張力酸化物被膜の形成による鉄損低減の効果は、板厚が薄いほど高く、一方、板厚が過度に薄くなると、所望のβ角が得られにくくなるためである。
〈セラミクス被膜〉
本発明の方向性電磁鋼板は、上述した鋼板上に、窒化物を含有するセラミクス被膜を有する。このセラミクス被膜は、鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分(以下、「下層膜」ともいう)と、鋼板側とは反対側の表面から少なくとも10.0nmの膜厚部分(以下、「上層膜」ともいう)とで結晶粒の状態が異なる。
より詳細には、下層膜は、結晶粒の平均アスペクト比が1.0〜1.5であり、かつ、平均結晶粒径が4.0nm以下である。一方、上層膜は、結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上であり、かつ、平均結晶粒径が10.0nm以上である。
すなわち、下層膜には球状に近い微細な結晶粒を配置し、上層膜には一方向(好ましくは膜厚方向)に延びた結晶粒を配置する。これにより、本発明の方向性電磁鋼板は、被膜密着性および磁気特性に優れる。その理由は明らかではないが、鋼板上に緻密な下層膜を形成し、この下層膜を、一方向に延びた大きめな結晶粒を有する上層膜で固定することにより、密着性が良好となり、かつ、鋼板に高い張力が付与されると考えられる。
下層膜の結晶粒は、平均アスペクト比が1.0〜1.5であり、球状に近い。
下層膜の平均結晶粒径は、4.0nm以下である。下層膜の平均結晶粒径が4.0nm超になると、鋼板との応力差が大きくなりすぎて、上層膜にクラックが発生する結果、磁気特性および被膜密着性が不十分となる。一方、下層膜の平均結晶粒径の下限は特に限定されないが、0.5nm以上が好ましい。
下層膜は、薄いほど有利であるが、鋼板表面の全面を覆う必要があることから、下層膜の膜厚は、5.0nm以上が好ましい。
一方、下層膜が厚くなりすぎると、下地である鋼板との間の応力が大きくなり、その結果、歪取り焼鈍などの焼鈍後にクラック等が形成されやすくなり、被膜密着性が低下する場合がある。このため、被膜密着性がより優れるという理由から、下層膜の膜厚は、50.0nm以下が好ましく、20.0nm以下がより好ましく、10.0nm以下が更に好ましい。
上層膜の結晶粒は、上層膜を膜厚方向に貫通して存在していてもよい。
上層膜の結晶粒のアスペクト比は、2.0以上である。その上限は特に限定されないが、例えば、10.0以下であり、8.5以下が好ましく、7.0以下がより好ましい。
下層膜の平均結晶粒径は、10.0nm以上である。その上限は特に限定されないが、例えば、100.0nm以下であり、80.0nm以下が好ましい。
上層膜の膜厚は、10.0nm以上であればよく、その上限は特に限定されない。しかし、セラミクス被膜上に更に絶縁張力酸化物被膜を形成する場合は、過剰に膜厚を厚くする必要はない。このため、上層膜の膜厚は、セラミクス被膜の膜厚の合計が300.0nm以下となる膜厚が好ましい。
上層膜は、下層膜が鋼板と密着することにより生成する応力を逃がさず鋼板に付与する機能を有する。このため、上層膜が薄すぎると、下層膜の応力が鋼板に伝わらず、下層膜がクラックを発生して応力を緩和する場合がある。
したがって、下層膜の膜厚に対する上層膜の膜厚の比(上層膜/下層膜)は、2倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましい。
この膜厚比(上層膜/下層膜)は、その上限は特に限定されないが、例えば、10倍以下が好ましい。上層膜が厚くなるほど、下層膜が鋼板に付与する張力は大きくなるが、その厚さが一定以上になると効果が飽和するからである。
セラミクス被膜は、下層膜および上層膜の平均結晶粒径がそれぞれ明確に分かれていてもよいし、下層膜と上層膜との間に中間的な平均結晶粒径の層(中間層ともいう)が形成されていてもよい。前者の場合、セラミクス被膜は、下層膜および上層膜のみからなる。後者の場合、セラミクス被膜は、下層膜および上層膜の間に更に中間層を有する。
張力を増加させて磁気特性(鉄損)をより良好にするという観点からは、セラミクス被膜の膜厚は厚い方が有利である。このため、セラミクス被膜の膜厚の合計は、15.0nm以上が好ましく、30.0nm以上がより好ましい。
一方、製造コストを抑える観点から、セラミクス被膜の膜厚の合計は、300.0nm以下が好ましく、200.0nm以下がより好ましい。
セラミクス被膜における結晶粒の平均アスペクト比、平均結晶粒径は、および、膜厚は、次のように求める。
まず、セラミクス被膜を形成した鋼板(方向性電磁鋼板)について、FIB(集束イオンビーム)を用いて、任意の5か所の断面試料を作製する。作製した断面試料の結晶粒を、STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いて観察する。結晶粒を楕円近似して長軸および短軸を測定し、長軸と短軸との比(長軸/短軸)をその結晶粒のアスペクト比とし、長軸および短軸の平均値をその結晶粒の結晶粒径とする。セラミクス被膜の下層膜においては、鋼板側の表面から膜厚方向に5.0nmまでの膜厚部分について、セラミクス被膜の上層膜においては、鋼板側とは反対側の表面から膜厚方向に10.0nmまでの膜厚部分について、結晶粒の平均アスペクト比、平均結晶粒径および膜厚を求め、それぞれ、任意の5か所の断面試料におけるアスペクト比、結晶粒径および膜厚の平均値とする。
透過電子顕微鏡を用いた個々の結晶粒からの回折斑点を用いた暗視野像や、走査型透過電子顕微鏡の環状暗視野像を用いて散乱角を調整することにより、個々の結晶粒および柱状晶を識別した観察を行ない、結晶粒の大きさ(長軸および短軸)を測定すればよい。
長軸および短軸を測定する結晶粒の個数は、平均情報が得られればよく、結晶粒径が揃っている場合は少なくてよく、結晶粒径が不均一な場合は多い方が好ましいが、少なくとも20個の結晶粒について、長軸および短軸を測定することが好ましい。
セラミクス被膜は、下層膜および上層膜の結晶粒が上述した状態であれば、含有する成分は特に限定されず、種々の窒化物を含有するセラミクス被膜が用いられる。
セラミクス被膜が含有する窒化物は、特に限定されないが、例えば、Cr、Ti、Zr、Mo、Nb、Si、Al、Ta、Hf、W、および、Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(金属元素)を含む窒化物が挙げられる。
窒化物は、金属元素以外に少なくとも窒素が含まれていればよく、例えば、複合窒化物、炭窒化物などでもよい。
窒化物の具体例としては、上記元素単独での窒化物に加えて、AlCrN、TiCN、TiAlN、および、TiCrNなどが挙げられる。
セラミクス被膜において、窒化物以外の成分を積極的に添加する必要はないが、窒化物以外が混入する場合、窒化物(炭窒化物なども含む)がセラミクス被膜の85質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
窒化物を含有するセラミクス被膜を成膜し、その後、後述する絶縁張力酸化物被膜を成膜する際に焼き付けを行なうと、この焼き付けによって、セラミクス被膜の窒化物の一部が酸化されて酸化物が生成する場合がある。すなわち、セラミクス被膜が窒化物とともに酸化物も含有する場合がある。
セラミクス被膜における窒化物の好適な含有量は上述したとおりであるが、このような酸化物を含有する場合、窒化物と酸化物との合計の含有量は、85質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
セラミクス被膜、とりわけ、セラミクス被膜の下層膜は、張力や鋼板との密着性を確保する観点から、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含むことが好ましい。
岩塩型の結晶構造を有する窒化物としては、例えば、Ti、Nb、V、Zr、Ta、Hf、Wなどの元素(金属元素)を含む窒化物が挙げられ、Tiを含む窒化物が好ましい。
セラミクス被膜の上層膜は、セラミクス被膜上に更に被膜を形成する場合は、その被膜と反応しにくい窒化物を含有することが好ましい。セラミクス被膜上にリン酸塩系の絶縁張力酸化物被膜を形成する場合、セラミクス被膜の上層膜は、リン酸塩系の絶縁張力酸化物被膜との反応性が小さいAl窒化物、Cr窒化物、AlCr窒化物などを含有することが好ましい。
〈絶縁張力酸化物被膜〉
本発明の方向性電磁鋼板は、上述したセラミクス被膜だけでも高い張力を鋼板に付与できるが、より高い張力および絶縁性を確保するために、セラミクス被膜の上に、絶縁張力酸化物被膜を有することが好ましい。絶縁張力酸化物被膜は、酸化物被膜であり、かつ、例えば変圧器鉄心として使用することから絶縁被膜であることを要する。
絶縁張力酸化物被膜は、酸化物を含有するが、この酸化物は、例えば、後述する処理液に含まれるリン酸塩に由来し、その具体例としては、珪リン酸ガラスが挙げられる。
絶縁張力酸化物被膜は、このような酸化物の含有量が85質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に酸化物のみからなることが更に好ましい。
絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、これが薄すぎると高い張力が得られにくいという理由から、1.0μm以上が好ましい。一方、厚すぎると占積率が減少するおそれがあることから、絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、10.0μm以下が好ましい。
占積率という観点からは、従来の方向性電磁鋼板の被膜構成が、フォルステライト被膜1〜2μm、絶縁張力酸化物被膜2μm程度であることから、本発明における絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、3〜4μmよりも小さくすることが好ましい。したがって、より好ましい絶縁張力酸化物被膜の膜厚範囲は、2.0〜4.0μmである。
絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、方向性電磁鋼板における片面の平均膜厚である。
[方向性電磁鋼板の製造方法]
次に、上述した本発明の方向性電磁鋼板を製造する、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)を説明する。
〈セラミクス被膜を成膜する前の処理〉
セラミクス被膜を成膜する前の鋼板の表面には、視認できる程度の錆が発生していないことが好ましい。錆が認められる場合には、塩酸または硝酸などを用いた酸洗処理によって除去しておくことが好ましい。
しかし、極微細な酸化物は、不可避的に鋼板表面に形成されるため、セラミクス被膜を成膜する前に、10Pa以下の真空中において、イオンクリーニングによって除去することが好ましい。イオンクリーニングは、例えば、鋼板に負のバイアス電圧を印加することにより、Ti等の金属のイオンを加速し、鋼板に衝突させる処理である。
この処理により、鋼板の表面が清浄化される。また、打ち込まれた金属イオンの効果により、鋼板直上から微細なTiN結晶粒の形成が可能となる。更に、金属イオン照射によるイオン打ち込みと極表面への欠陥導入とにより、鋼板の表面が改質される。これらの効果をまとめて、イオンクリーニング効果とする。
イオンクリーニングは、鋼板の表面に窒化物等が形成されることを抑制するために、反応ガスの供給を停止して行なう。
このとき、−300V以下のバイアス電圧で加速されたイオンを、10秒間以上、鋼板に衝突させるとよい。−500V以下のバイアス電圧で5分間以内が好ましく、−800V以下のバイアス電圧で2分間以内がより好ましい。バイアス電圧を高い条件にした場合、イオンの運動エネルギーが低くなって、クリーニング能力が低下し、必要時間が増大し、生産性を損なってしまう場合がある。一方、バイアス電圧を過度に低くした場合は、鋼板に歪を与えることによって、鉄損を増大させる場合があるため、バイアス電圧の下限は−2000Vが好ましい。
〈セラミクス被膜の成膜〉
セラミクス被膜の成膜には、CVD(Chemical Vapor Deposition)法またはPVD(Physical Vapor Deposition)法などが用いられるが、例えば熱CVD法は、成膜温度が高いために成膜組織が成長して軟質化してしまう傾向があることから、PVD法を用いることが好ましい。
PVD法には、多くの方法があるが、なかでも、AIP(アークイオンプレーティング)法などの、物質を事前にイオン化させた後に、被成膜体である鋼板上に成膜する方法がより好ましい。被膜密着性が他の方法に比べて高くなるだけでなく、下層膜および上層膜の態様を製造条件によって調整できるためである。
以下では、セラミクス被膜の成膜法として、AIP法を用いる場合を例に説明する。
AIP法を、概略的に説明する。まず、蒸発させたい金属(蒸発源)を陰極とし、真空チャンバを陽極として、両者間に直流電圧をアーク電源から印加して真空中でアーク放電を発生させ、金属を蒸発させてプラズマを発生させる。基材(例えば、鋼板)には負のバイアス電圧を印加して、プラズマ中の金属イオンを基材に向けて引き寄せることにより、成膜する。TiN等の窒化物を成膜する場合には、窒素ガスを導入する。成膜される被膜と基材との密着性を向上させる等の理由から、ヒータを用いて加熱を行なう。
セラミクス被膜を成膜する際の温度(成膜温度)は、所望する結晶粒の平均アスペクト比および平均結晶粒径が得られやすいという理由から、300℃以上600℃以下が好ましく、320℃以上580℃以下が好ましい。
成膜温度が過度に低いと成膜速度が減少する場合がある。
一方、成膜温度が高すぎると、結晶粒が増大し、特に下層膜の成膜において、微細結晶粒の形成が困難になる場合がある。昇温に要する時間およびコストの増大につながる場合もある。
セラミクス被膜を成膜する際の速度(成膜速度)は、0.3nm/s以上が好ましく、1.5nm/s以上がより好ましい。AIP法であれば、成膜速度は、例えば、プラズマエネルギーまたは蒸発源を増大させることによって、増大させることができる。
成膜速度の上限は特に限定されないが、設備スケールから制約されることが多く、実用的には、例えば、100nm/s以下程度である。
AIP法は、上述したように、鋼板に負のバイアス電圧を印加することにより、成膜時の蒸発源イオンを加速し、鋼板に衝突させる。バイアス電圧は、所望する結晶粒の平均アスペクト比および平均結晶粒径が得られやすいという理由から、−500V以上−90V以下が好ましく、−490V以上−95V以下がより好ましく、−480V以上−100V以下が更に好ましい。
バイアス電圧が高すぎる(0Vに近すぎる)と、ち密なセラミクス被膜となりにくい場合もある。
一方、バイアス電圧が低い(0Vから遠い)ほど、被膜の結晶方位が制御される傾向が高いが、過度に低くなると、成膜効率が著しく低下する場合がある。
AIP法により、上述した下層膜および上層膜を含むセラミクス被膜を成膜する場合、その結晶粒径や膜厚を制御するために、例えば、上述した成膜条件のいずれか1つ以上を、上述した成膜条件の範囲内で調整する。
一例として、成膜温度を低くする、および/または、バイアス電圧を高くすることにより、被膜の結晶は微細になる場合がある。別の一例として、成膜温度を高くする、および/または、バイアス電圧を低くすることにより、個々の結晶粒が成長し、比較的大きな結晶粒の被膜が形成される場合がある。
被膜の膜厚は、例えば、成膜速度および成膜時間を調整することにより制御され得る。
以上のような成膜条件を途中で変更することにより、それぞれ態様の異なる下層膜と上層膜とを成膜することができる。
例えば、成膜初期は、ち密さが出やすい低めの成膜温度(例えば、上述した成膜温度の範囲内の成膜温度:T1℃)および/または高めのバイアス電圧(例えば、上述したバイアス電圧の範囲内のバイアス電圧:−E1V)で成膜し、その後、高い成膜温度(例えば、上述した成膜温度の範囲内でT1℃より高い成膜温度:T2℃)および/または低いバイアス電圧(例えば、上述したバイアス電圧の範囲内で−E1Vよりも低いバイアス電圧:−E2V)に変更することが好ましい。これにより、下層膜と上層膜とで、膜厚および結晶粒径の制御が可能となり、また、所望する結晶粒の平均アスペクト比および平均結晶粒径が得られやすい。
下層膜と上層膜とで成膜条件を途中で変更する場合は、製造しやすさの観点からは、成膜温度の差が100℃以内であることが好ましい。
基本的には、上層膜に必要な結晶状態を得るために、上層膜の成膜温度は上昇させることが好ましい場合が多いが、バイアス電圧または成膜速度によっても調整できる。このように、製造条件は適宜調整すればよい。
セラミクス被膜を形成する際に必要となる窒素ガスなどのガスの流量、および、真空チャンバの真空度などは、従来公知の値から、適宜選択すればよい。
品質安定のため、セラミクス被膜の源である蒸発源は、鋼板全体に均一にセラミクス被膜を成膜できる位置に配置する。
炉長は、所望するクリーニング時間および成膜速度などが達成できるように、事前に決めておけばよい。
〈絶縁張力酸化物被膜の成膜〉
絶縁張力酸化物被膜を成膜する方法は、特に限定されないが、後述する処理液を、ロールによって塗布し、その後、焼き付けして形成する方法が、コスト的に有利である。
張力を付与するために、焼き付けは、通常、600℃以上の高温で行なわれることが多いが、このとき、鋼板の降伏点が減少することによって、ライン張力により不要な歪みを鋼板に導入してしまう可能性がある。これを抑制するため、焼き付け温度は1000℃以下とし、焼き付けの際のライン張力は20MPa以下とすることが好ましい。
焼き付けの際の雰囲気は、例えば、窒素雰囲気である。
セラミクス被膜を成膜する際に、高加速電圧でイオン照射した場合には、鋼板に微量の歪みが存在していることがある。この場合、絶縁張力酸化物被膜の成膜前に、750℃以上、15秒間以上で焼鈍することにより、歪を除去または軽減することが好ましい。
絶縁張力酸化物被膜の成膜に用いられる処理液は、少なくとも、リン酸塩を含有することが好ましい。リン酸塩の金属種としては、Mg、Al、Ca、Sr、Fe、Cu、MnおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。リン酸塩としては、入手容易性や、処理液の調整しやすさの観点からは、第一リン酸塩(重リン酸塩)が好適に用いられる。
処理液は、コロイダルシリカを含有することが好ましい。コロイダルシリカの平均粒径は、5〜200nmが好ましい。コロイダルシリカの含有量は、固形分換算で、リン酸塩100質量部に対して、50〜150質量部が好ましい。
処理液には、更に、無水クロム酸および/または重クロム酸塩を含有させることができ、その含有量は、固形分換算(乾固分比率)で、リン酸塩100質量部に対して、10〜50質量部が好ましい。
処理液には、更に、シリカ粉末およびアルミナ粉末などの無機鉱物粒子を添加でき、その含有量は、固形分換算で、リン酸塩100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
[その他の事項]
〈磁区細分化〉
鋼板の表面に溝を形成することにより磁区細分化できる。この場合、セラミクス被膜の成膜後に溝を形成するとセラミクス被膜の除去に追加コストが発生することから、セラミクス被膜の成膜前に溝を形成することが好ましい。
電子ビームまたはレーザの照射による非耐熱型の磁区細分化を行なう場合、絶縁張力酸化物被膜を形成した後に行なうことが好ましい。絶縁張力酸化物被膜によっては、例えば700℃以上の高温で成膜する被膜があるため、絶縁張力酸化物被膜の形成前に電子ビームなどによって歪みを導入しても、絶縁張力酸化物被膜を形成する際に、導入された歪みが消失してしまい、磁区細分化の効果が減少するためである。
非耐熱型の磁区細分化の手法としては、レーザ照射の場合、平滑化された鋼板表面で反射されて、エネルギー照射効率が低くなる場合があることから、レーザ照射よりも、電子ビーム照射の方が好ましい。
〈焼鈍〉
本発明の方向性電磁鋼板を変圧器などの鉄心として用いる場合、本発明の方向性電磁鋼板に対して、歪取りなどを目的として焼鈍を施すことができる。
焼鈍の際の温度範囲は、低すぎると歪が除去しにくい場合があり、高すぎると被膜密着性が損なわれる傾向があることから、700℃以上900℃以下が好ましい。
焼鈍の際の均熱時間は、短すぎると歪が除去しきれない場合があり、長すぎると被膜密着性が損なわれて鉄損が増大する場合があることから、0.2〜3時間が好ましい。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
〈方向性電磁鋼板の作製〉
以下のようにして、鋼板上に、セラミクス被膜および絶縁張力酸化物被膜をこの順に形成して、方向性電磁鋼板の試験材No.1〜8を作製した。
《鋼板》
鋼組成が質量%でC:20ppm、Si:3.4%であるフォルステライト被膜付きの二次再結晶板(板厚:0.23mm、平均結晶粒径:28〜35mm、平均β角:2.0°)を準備した。
準備した二次再結晶板のフォルステライト被膜を、塩酸、フッ化水素および硝酸の混合液を用いて除去し、フッ化水素水(47%)と過酸化水素水(34.5%)とを1:20で混合した水溶液を用いて化学研磨を行ない、板厚を0.20mmまで減厚し、Raが0.1μm以下になるまで表面を平滑化し、鋼板を得た。
平滑化の後、鋼板を直ちに真空槽に入れ、−1000Vのバイアス電圧で加速したTiイオンを、1分間、鋼板の表裏面に衝突させ、化学研磨後に不可避的に生成した表面酸化物を除去した。
《セラミクス被膜》
表面を平滑化した鋼板の表面に、PVD法またはCVD法により、TiNからなるセラミクス被膜(TiN被膜)を成膜した。
より詳細には、試験材No.1〜5および7〜8においては、AIP法を用いて、下記表1に示す成膜条件(成膜温度、バイアス電圧、および、成膜速度)で成膜し、下層膜および上層膜をこの順に成膜した。成膜したセラミクス被膜は、X線回折法によって、立方晶系TiNに近い結晶構造を有することが分かった。
一方、試験材No.6においては、CVD法によりセラミクス被膜を成膜した。
後述するように、張力は、セラミクス被膜が成膜されたこの段階で測定した。
《絶縁張力酸化物被膜》
セラミクス被膜上に処理液をロール塗布し、窒素雰囲気中で800℃×30秒間の焼き付けを行ない、リン酸塩系の絶縁張力酸化物被膜を形成した。このとき、ライン張力は10MPaとした。絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、片面あたり2.2μmとした。
処理液としては、固形分換算で、リン酸マグネシウム(第一リン酸マグネシウム)を100質量部、コロイダルシリカ(ADEKA社製AT−30、平均粒径:10nm)を80質量部、および、無水クロム酸を20質量部含有する処理液を用いた。
〈セラミクス被膜の結晶粒および膜厚〉
試験材No.1〜8について、上述した方法に従って、セラミクス被膜の結晶粒の平均アスペクト比および平均結晶粒径を求めた。より詳細には、下層膜においては、鋼板側の表面から膜厚方向に5.0nmまでの膜厚部分について、上層膜においては、鋼板側とは反対側の表面から膜厚方向に10.0nmまでの膜厚部分について、それぞれ、結晶粒の平均アスペクト比および平均結晶粒径を求めた。結果を下記表1に示す。
試験材No.1〜8のセラミクス被膜においては、2段階の成膜を行ない、下層膜および上層膜の平均結晶粒径がそれぞれ明確に分かれていたことから、下層膜および上層膜の膜厚も下記表1に記載した。
〈評価〉
《セラミクス被膜の張力》
セラミクス被膜まで成膜した方向性電磁鋼板の試験材について、以下のようにして、セラミクス被膜の張力を測定(評価)した。
まず、反りのない試験片(圧延方向:280mm、圧延直角方向:30mm)を準備した。準備した試験片の片面の全面に、腐食防止テープを貼り付けた。その後、腐食防止テープを貼り付けた試験片における腐食防止テープを貼り付けていない側の面のセラミクス被膜を除去した。セラミクス被膜を除去する方法は、成膜した量のセラミクス被膜を除去できれば特に限定されず、例えば、30質量%以上の過酸化水素水を用いて24時間以上72時間以下の浸漬を行なう方法が挙げられる。今回は、片面に腐食防止テープを貼り付けた試験片を、34.5質量%の過酸化水素水に30時間浸漬することにより、腐食防止テープを貼り付けていない側の面のセラミクス被膜を除去した。
片面側のセラミクス被膜が無いので、鋼板は、板厚方向−圧延方向面内において曲率(反り)を生じた。腐食防止テープを除去してから鋼板の曲率半径Rを求めた。次いで、式「σ=Ed/3R」(E:圧延方向の鋼板のヤング率、d:片面の被膜の膜厚)から、セラミクス被膜の張力σを求めた。
結果を下記表1に示す。セラミクス被膜の張力は、10MPa以上が好ましい。
絶縁張力酸化物被膜を成膜する場合は、その分の張力が加算される。作製した試験材においては、いずれも同じ条件で絶縁張力酸化物被膜を成膜しているため、絶縁張力酸化物被膜を成膜した状態での張力測定は省略した。
なお、絶縁張力酸化物被膜の張力を測定する場合は、セラミクス被膜の張力測定と同様の手順にて、セラミクス被膜は除去されず絶縁張力酸化物被膜が除去できる被膜除去方法を用いればよい。例えば、リン酸塩系の絶縁張力酸化物被膜であれば、腐食液として110℃程度の濃水酸化ナトリウム水溶液を用いて、これに10分間程度浸漬させることにより、除去が可能である。
セラミクス被膜および絶縁張力酸化物被膜を成膜した方向性電磁鋼板の試験材について、800℃で2時間の歪取り焼鈍を行なった後、以下の評価を行なった。結果を下記表1に示す。
《鉄損W17/50
歪取り焼鈍後の方向性電磁鋼板の試験材について、鉄損W17/50を測定した。鉄損W17/50の値が0.690W/kg以下である場合には、磁気特性に優れると評価できる。
《被膜密着性》
歪取り焼鈍後の方向性電磁鋼板の試験材について、丸棒巻き付け法によって、セラミクス被膜および絶縁張力酸化物被膜の被膜密着性を評価した。
具体的には、幅30mm×圧延方向長さ280mmの試験材を、直径数十mmの丸棒に巻き付けることにより、内部応力を生じさせ、被膜のクラック発生有無を調査し、目視にてクラックが発生しない最小の丸棒径(単位:mm)を求めた。この値が小さいほど、被膜密着性に優れると評価でき、15mm以下が好ましい。
上記表1に示すように、試験材No.1〜3は、磁気特性および被膜密着性がいずれも良好であった。
これに対して、試験材No.4〜8は、磁気特性および被膜密着性の少なくともいずれかが不十分であった。

Claims (8)

  1. 鋼板と、前記鋼板上に配置された、窒化物を含有するセラミクス被膜と、を備える方向性電磁鋼板であって、
    前記セラミクス被膜における前記鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分は、結晶粒の平均アスペクト比が1.0〜1.5、平均結晶粒径が4.0nm以下であり、
    前記セラミクス被膜における前記鋼板側とは反対側の表面から少なくとも10.0nmの膜厚部分は、結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上、平均結晶粒径が10.0nm以上である、方向性電磁鋼板。
  2. 前記セラミクス被膜の膜厚の合計が、15.0nm以上300.0nm以下である、請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
  3. 前記セラミクス被膜における前記鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分が、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有する、請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
  4. 前記セラミクス被膜における前記鋼板側の表面から少なくとも5.0nmの膜厚部分が、Tiを含む窒化物を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
  5. 更に、前記セラミクス被膜上に配置された絶縁張力酸化物被膜を備え、
    前記絶縁張力酸化物被膜の膜厚が、1.0μm以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板を製造する、方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記セラミクス被膜を、AIP法によって成膜する、方向性電磁鋼板の製造方法。
  7. 請求項5に記載の方向性電磁鋼板を製造する、方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記セラミクス被膜を、AIP法によって成膜する、方向性電磁鋼板の製造方法。
  8. 前記セラミクス被膜上に、処理液をロールによって塗布し、その後、焼き付けすることにより、前記絶縁張力酸化物被膜を成膜する、請求項7に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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