JP2019019410A - 方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】被膜密着性および磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を提供する。【解決手段】鋼板と、上記鋼板上に配置された、窒化物を含有するセラミクス被膜と、を備える方向性電磁鋼板であって、上記セラミクス被膜が、少なくとも上記鋼板に接する膜厚部分に、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有し、上記鋼板と上記セラミクス被膜との界面を含む領域をC断面で断面視したときに、上記鋼板におけるFeの(110)面と上記岩塩型の結晶構造を有する窒化物の(111)面とのなす角度が20°以下であり、上記鋼板におけるFeの(110)面100枚当たりの刃状転位の数が12.0以上25.0以下である、方向性電磁鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、主に、変圧器内部の鉄心用材料として用いられ、変圧器のエネルギー使用効率向上のため、その低鉄損が要求されている。
特許文献1には、鋼板表面を平滑化することによって、低鉄損などの優れた磁気特性が得られることが示されている。詳細なメカニズムは不明な点が多いが、鋼板粗度を低減することによって、磁壁の移動に伴うエネルギーロスが抑制されて、ヒステリシス損が減少し、透磁率が増大すると考えられる。
更に、高い引張応力を鋼板に印加すれば、低い鉄損が実現可能である。このため、表面を平滑化した鋼板に高張力を付与しようと、高張力被膜の開発が行なわれている。
従来から、無機物の処理液を焼き付けて形成されるリン酸塩系の高張力被膜が知られている。リン酸塩系の高張力被膜の下層には、通常は、焼鈍分離剤との反応で形成したフォルステライト被膜が存在する。このようなフォルステライト被膜は、鋼板表面で反応して形成されるため、鋼板との密着性に優れる。しかし、フォルステライト被膜と接する鋼板表面は平滑ではない。フォルステライト被膜を除去して表面を平滑化した鋼板上にリン酸塩系の高張力被膜を形成させようとしても、良く密着しない場合がある。これは、リン酸塩系の高張力被膜は、鋼板に比較して熱膨張係数が低いため、高温で焼き付けて成膜しても、冷却中に鋼板の収縮に追随できずに剥離するためと推定される。
そこで、平滑化した鋼板上に高張力被膜を形成する技術として、TiN被膜などのセラミクス被膜を形成することが見出され、その手法として、PVD法またはCVD法などの方法が利用できることが示されている(特許文献2を参照)。
特開昭49−96929号公報 特開2005−264234号公報
ところで、セラミクス被膜の形成には、以下のような問題がある。
問題の1つは、成膜にかかる製造コストが高いことである。PVD法またはCVD法による成膜の場合、蒸発源(ターゲット)となる金属元素(例えばTiN被膜を形成する場合にはTi)のコストが高く、成膜歩留りも低いため、成膜量が多いほど製造コストが増大する。したがって、セラミクス被膜は可能な限り薄く成膜したい。しかし、そうすると、低鉄損が得られにくくなる。
他の問題として、歪取り焼鈍などの焼鈍を施した後に、セラミクス被膜が剥離する場合がある。すなわち、焼鈍後の被膜密着性が劣る場合がある。これは、セラミクス被膜が薄膜である場合に、特に顕著である。
そこで、本発明は、被膜密着性および磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することによって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供する。
[1]鋼板と、上記鋼板上に配置された、窒化物を含有するセラミクス被膜と、を備える方向性電磁鋼板であって、上記セラミクス被膜が、少なくとも上記鋼板に接する膜厚部分に、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有し、上記鋼板と上記セラミクス被膜との界面を含む領域をC断面で断面視したときに、上記鋼板におけるFeの(110)面と上記岩塩型の結晶構造を有する窒化物の(111)面とのなす角度が20°以下であり、上記鋼板におけるFeの(110)面100枚当たりの刃状転位の数が12.0以上25.0以下である、方向性電磁鋼板。
[2]上記岩塩型の結晶構造を有する窒化物が、TiNである、上記[1]に記載の方向性電磁鋼板。
[3]上記セラミクス被膜の膜厚が、50nm以上500nm以下である、上記[1]または2に記載の方向性電磁鋼板。
[4]更に、上記セラミクス被膜上に配置された絶縁張力酸化物被膜を備える、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
[5]上記絶縁張力酸化物被膜の膜厚が、1.0μm以上である、上記[4]に記載の方向性電磁鋼板。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を製造する、方向性電磁鋼板の製造方法であって、上記セラミクス被膜を、AIP法によって成膜する、方向性電磁鋼板の製造方法。
[7]上記セラミクス被膜を成膜する前に、上記鋼板の表面に対して、AIP法を用いたイオンクリーニングを施す、上記[6]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、被膜密着性および磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を提供できる。
本発明の方向性電磁鋼板の一例を模式的に示す斜視図である。 鋼板とセラミクス被膜における鋼板に接する膜厚部分との界面を含む領域のC断面を示す模式図である。 鋼板とセラミクス被膜における鋼板に接する膜厚部分との界面を含む領域のC断面を示す別の模式図である。
[本発明者らが得た知見]
本発明者らは、上述した目的を達成するために、方向性電磁鋼板の新しい被膜構造を検討した。すなわち、鋼板上のセラミクス被膜の結晶状態を制御すれば薄膜でも被膜密着性や張力を確保できることを突き止めた。
表面を平滑化した鋼板上に、セラミクス被膜を種々の条件で成膜した材料(方向性電磁鋼板)について、被膜密着性や鉄損を評価した。その結果、本発明者らは、例えば、以下のような知見を得た。
・鋼板とセラミクス被膜(例えばTiN被膜)との界面における整合性が非常に効果的であり、適度な応力付与のためには、この面での周期的な刃状転位の導入が必要である。
・セラミクス被膜において、少なくとも鋼板に接する膜厚部分に、岩塩型の結晶構造を有する窒化物が含有されていれば、同様の効果が得られる。
・界面構造が上記条件を満たせば、セラミクス被膜において、鋼板に接する膜厚部分以外の部分(鋼板側とは反対側の膜厚部分)は、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有しなくても、特性に大きな差はない。
・セラミクス被膜上に絶縁張力酸化物被膜を形成することで、鉄損がより良好になる。
本発明者らが、セラミクス被膜の成膜法についても検討したところ、PVD法(なかでも、AIP法)を用いて、成膜温度、成膜速度、バイアス電圧などの条件を調整することにより、セラミクス被膜の態様を制御できることが分かった。
更に、上記界面構造を得るためには、AIP法によるセラミクス被膜の成膜前に、鋼板表面に対して、所定のイオンクリーニングをすることが効果的であることが分かった。
[方向性電磁鋼板]
以下、改めて、本発明の方向性電磁鋼板について説明する。
本発明の方向性電磁鋼板は、鋼板と、上記鋼板上に配置された、窒化物を含有するセラミクス被膜と、を備える方向性電磁鋼板であって、上記セラミクス被膜が、少なくとも上記鋼板に接する膜厚部分に、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有し、上記鋼板と上記セラミクス被膜との界面を含む領域をC断面で断面視したときに、上記鋼板におけるFeの(110)面と上記岩塩型の結晶構造を有する窒化物の(111)面とのなす角度が20°以下であり、上記鋼板におけるFeの(110)面100枚当たりの刃状転位の数が12.0以上25.0以下である、方向性電磁鋼板である。
本発明の方向性電磁鋼板は、鉄損などの磁気特性と被膜密着性とが共に優れる。
〈鋼板〉
本発明に用いる鋼板としては、例えば、フォルステライト被膜付きの方向性電磁鋼板(二次再結晶板)からフォルステライト被膜を除去することにより得られる鋼板(態様A)、または、フォルステライト被膜を形成させずに製造した方向性電磁鋼板(態様B)が好適に挙げられる。
いずれの態様であっても、セラミクス被膜が成膜される鋼板表面は平滑であることが好ましく、酸化物などの不純物が極力形成されていないことがより好ましい。
フォルステライト被膜付きの方向性電磁鋼板を作製する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
具体的には、例えば、所定の鋼組成を有する鋼塊を、熱間圧延し、その後、数度の焼鈍を挟みつつ、数回(例えば、2回以下)の冷間圧延により最終冷延板とした後、脱炭焼鈍および仕上げ焼鈍を行なうことにより、Goss方位を有する二次再結晶粒を発達させる。仕上げ焼鈍において、コイル状に巻かれた鋼板どうしの密着を防止するために焼鈍分離剤として塗布されるMgOと、その直前の脱炭焼鈍において形成されるSiOとの固相化学反応により、フォルステライト被膜が形成される。こうして、フォルステライト被膜付きの方向性電磁鋼板(二次再結晶板)が得られる。
上述した態様Aの場合、フォルステライト被膜の除去には、従来公知の手法を適用でき、例えば、機械研磨、化学研磨または電解研磨などが適用できる。
機械研磨の場合、研磨により鋼板に歪が導入されるため、歪を除去する目的で、研磨後に追加で化学研磨を行なうことが好ましい。
化学研磨の場合、例えば、塩酸とフッ化水素との混合液、硝酸、および/または、フッ化水素水と過酸化水素水との混合水溶液などが用いられ、フォルステライト被膜と鋼板とを同時に研磨することもできる。
電解研磨には、例えば、NaCl水溶液を電解液として用いることができる。
研磨後は、鋼板表面のRa(算術平均粗さ)を0.3μm以下とすることが好ましく、0.1μm以下にすることがより好ましい。しかし、過度に研磨すると、鋼板の歩留まりが減少する場合があるため、フォルステライト被膜を除去した後の鋼板の研磨量は、研磨前の5%以内とすることが好ましい。
一方、上述した態様Bでは、焼鈍分離剤を用いない、または、焼鈍分離剤の組成をフォルステライト被膜が形成されない組成にすることで、フォルステライト被膜のない状態とする。その場合においても、二次再結晶焼鈍中などに、鋼板表面に不可避的な酸化物が形成されることがあるので、鋼板の表裏面を、数μm程度、除去することが好ましい。この場合、研磨量が少ないために、Raを調整することは困難であるから、事前に圧延工程において、例えばロール粗度の低減などの方法によって、所望の粗度となるように調整することが好ましい。
鋼板の鋼組成は、質量%で、C:30ppm以下(0.003%以下)、Si:1〜7%、P:0.1%以下、Mn:0.1%以下、S:10ppm未満(0.001%未満)、N:20ppm以下(0.002%以下)を含有することが好ましい。
Cは、過度に含有すると磁気時効により鉄損を損なうことがあるため、30ppm以下とすることが好ましい。
Siは、比抵抗を高めて鉄損を低減することから1%以上含有することが好ましいが、含有量が多すぎると製造性が損なわれるおそれがあるため、7%以下が好ましい。
Pも、比抵抗を高めるので含有してもよいが、製造性を低くするほか、飽和磁束密度を低くすることがあるため、0.1%以下とすることが好ましい。
MnおよびSは、過度に含有すると、MnSなどの析出物を形成して鉄損を劣化させることがあるため、それぞれ0.1%以下および10ppm未満とすることが好ましい。
Nは、歪取り焼鈍の際に、窒化ケイ素などを析出して鉄損を損なうことがあるため、極力含有していないことが好ましい。
その他の成分については、従来知見に基づき、二次再結晶後の結晶方位がGoss方位に先鋭化されるように添加されていてもよいが、フォルステライト被膜を形成する場合は、アンカーを発達させるCrは極力少ない方が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
Ti、Nb、V、ZrおよびTaは、炭化物または窒化物を形成することにより鉄損を劣化させてしまうことがあるため、合計で0.01%以下とすることが好ましい。
鋼板の集合組織は、Goss方位近傍に集積した組織であることが好ましい。
平均結晶方位において、鋼板の圧延方向を向く二次再結晶粒の〈100〉軸と圧延面とのなす角であるβを3°以下とすることが好ましい。β角が小さい場合は低鉄損化の効果が著しく大きくなるためであるが、セラミクス被膜の密着性(被膜密着性)の観点からも極めて重要である。β角が0°である場合、鋼板表面は{110}面となり、また鋼板鉛直方向も{110}面となる。この鋼板表面に平行な{110}面上にセラミクス被膜(例えばTiN被膜)を成膜することによって、整合性が良好となる。
もっとも、鋼板表面に、溝を形成したり、レーザまたは電子ビームなどを用いて局所的に歪を導入したりする磁区細分化処理を施さない場合には、平均β角は1°以上3°以下がより好ましい。上記のように被膜密着性の観点からはβ角が0°であることが好ましいが、β角が0°に近いと、渦電流損が著しく増大するためである。
α角は、4°以下にすることが好ましい。
鋼板の平均結晶粒径は、5mm以上とすることが好ましい。平均結晶粒径が小さすぎると、渦電流損は低くなるものの、ヒステリシス損がそれ以上に増大し、合計の全鉄損としては不利になるためである。被膜密着性の観点からも粒界上は結晶格子が不規則となるため、良好な格子整合性が得られにくい。
加えて、圧延平行方向の結晶粒径は過剰に大きくない方が好ましい。高温長時間の二次再結晶焼鈍は、鋼板をコイル状にして行なわれる場合が多い。すなわち、鋼板は曲がった状態で製造される。このため、鋼板のβ角はコイル長手方向(圧延方向)で徐々に変化することになる。具体的には、例えばコイルの直径が1m程度である場合、β角は同じ結晶粒の中でも、およそ0.1°/cm程度ずつ変化することになる。この値は、製造上のコイル径によって幾何学的に決まるため、結晶粒径の上限値は一義的には決めることはできない。理想的には、二次再結晶焼鈍時における鋼板の状態を、コイル状ではなく、切り板などを積層し、鋼板が曲がっていない状態としたり、コイル径をなるべく大きくし、曲率を低減した状態にしたりすることで、β角を3°以下に制御することがより容易になる。傾向として、粒内のβ角変動は0.3°/cm以下である場合、所望される界面構造を得やすい。
鋼板の板厚は、0.10〜0.30mmの範囲が好ましい。絶縁張力酸化物被膜の形成による鉄損低減の効果は、板厚が薄いほど高く、一方、板厚が過度に薄くなると、所望のβ角が得られにくくなるためである。
〈セラミクス被膜〉
本発明の方向性電磁鋼板は、上述した鋼板上にセラミクス被膜を有する。セラミクス被膜は、窒化物を含有する。
セラミクス被膜が含有する窒化物は、特に限定されず、例えば、Cr、Ti、Zr、Mo、Nb、Si、Al、Ta、Hf、W、V、および、Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(金属元素)を含む窒化物が挙げられる。
窒化物は、金属元素以外に少なくとも窒素が含まれていればよく、例えば、複合窒化物、炭窒化物等でもよい。
窒化物の具体例としては、上記元素単独での窒化物に加えて、AlCrN、TiCN、TiAlN、および、TiCrNなどが挙げられる。
セラミクス被膜において、窒化物以外の成分を積極的に添加する必要はないが、窒化物以外が混入する場合、窒化物(炭窒化物等も含む)がセラミクス被膜の85質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
窒化物を含有するセラミクス被膜を成膜し、その後、後述する絶縁張力酸化物被膜を成膜する際に焼き付けを行なうと、この焼き付けによって、セラミクス被膜の窒化物の一部が酸化されて酸化物が生成する場合がある。すなわち、セラミクス被膜が窒化物とともに酸化物も含有する場合がある。
セラミクス被膜における窒化物の好適な含有量は上述したとおりであるが、このような酸化物を含有する場合、窒化物と酸化物との合計の含有量が、85質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
このようなセラミクス被膜は、単層であっても複層であってもよいが、少なくとも鋼板に接する膜厚部分は、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有する。
岩塩型の結晶構造を有する窒化物としては、例えば、TiN、CrN、VN、ZrN、TaNおよびNbNからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、なかでも、TiNが好ましい。
セラミクス被膜において、鋼板に接する膜厚部分以外の部分(鋼板側とは反対側の膜厚部分)は、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有しなくてもよい。
セラミクス被膜における鋼板側とは反対側の膜厚部分は、セラミクス被膜上に更に被膜を形成する場合は、その被膜と反応しにくい窒化物を含有することが好ましい。例えば、セラミクス被膜上にリン酸塩系の絶縁張力酸化物被膜を形成する場合、リン酸塩系の絶縁張力酸化物被膜との反応性が小さいAl窒化物、Cr窒化物、AlCr窒化物などを含有することが好ましい。
セラミクス被膜の膜厚は、製造コスト抑制の観点からは、薄い方が好ましい。その一方で、セラミクス被膜が薄くなりすぎると鋼板に対する張力付与量が低減する場合がある。そこで、良好な磁気特性という観点から、セラミクス被膜の膜厚は、20nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上500nm以下がより好ましく、50nm以上400nm以下が更に好ましい。
ここで、「セラミクス被膜の膜厚」とは、セラミクス被膜の全厚を意味する。
ところで、上述したように、セラミクス被膜は、少なくとも鋼板に接する膜厚部分が、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有する。この膜厚部分は、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有する膜厚部分であれば、その膜厚は特に限定されない。
セラミクス被膜が単層である場合、鋼板に接する膜厚部分の膜厚は、セラミクス被膜の全厚に相当する。一方、セラミクス被膜が複層である場合、鋼板に接する膜厚部分だけの膜厚は、特に限定されない。
セラミクス被膜の膜厚は、後述する界面構造と同様に測定する。
すなわち、まず、方向性電磁鋼板から、集束イオンビーム(Focused Ion Beam,FIB)を用いて断面試料を作製し、作製した断面試料から、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope,STEM)を用いて10視野を観察し、膜厚を測定する。10視野の平均値を、セラミクスの膜厚とする。
〈鋼板とセラミクス被膜との界面構造〉
図1は、本発明の方向性電磁鋼板1(以下、単に「方向性電磁鋼板1」ともいう)の一例を模式的に示す斜視図である。方向性電磁鋼板1は、鋼板2、セラミクス被膜3、および、後述する絶縁張力酸化物被膜4を、この順に有する。セラミクス被膜3は、鋼板2に接する膜厚部分3a(後に示す図2および図3を参照)を有する。鋼板2に接する膜厚部分3aは、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有する。方向性電磁鋼板1のC断面は、鋼板2の長手方向である圧延方向RDに垂直な横断面であり、図1のC−C線断面に相当する。
《整合性》
図2は、鋼板2と鋼板2に接する膜厚部分3a(以下、単に「膜厚部分3a」ともいう)との界面を含む領域のC断面を示す模式図である。鋼板2と膜厚部分3aとの界面の図示は省略している。膜厚部分3aは、岩塩型の結晶構造を有する窒化物として例えばTiNを含有する。この場合、膜厚部分3aはTiN被膜である。
図2中、鋼板2の縦方向の線(符号「110」で示す線)は、鋼板2のFeの(110)面を示す。図2中、膜厚部分3aの斜め縦方向の線(符号「111」で示す線)は、岩塩型の結晶構造を有する窒化物の(111)面を示す。図2中、破線Lは、鋼板2のFeの(110)面を示す線の延長線である。
本発明においては、鋼板2のFeの(110)面と、膜厚部分3aの窒化物の(111)面とのなす角度θを、20°以下とする。この場合、膜厚部分3aは、鋼板2と格子の連続性を保った状態で析出(整合析出)しており、整合性が良好といえる。この整合性が不十分であると、良好な磁気特性および被膜密着性が得られない。
上記角度は、次のように評価する。
概略的には、まず、方向性電磁鋼板のC断面を、収差補正機能を有する走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope,STEM)を用いて観察し、高角度環状暗視野(High Angle Annular Dark Field,HAADF)像を得る。
より詳細には、方向性電磁鋼板における0.5mm以上離れた任意の3か所から、集束イオンビーム(Focused Ion Beam,FIB)を用いて、鋼板とセラミクス被膜との界面を含む領域のC断面の断面試料(試料幅:数μm、試料厚:30〜50nm)を3つ得る。1つの断面試料について、少なくとも中心部および両端部の3か所(3視野)を観察し、3つの断面試料から合計10視野を観察する。観察視野の幅は25nm以上とする。観察倍率は100万倍以上とする。観察は、鋼板のFe[001]方位から行ない、高分解能像が得られるように電流値およびフォーカス等の観察条件を最適化する。観察時の加速電圧は300kVとする。各観察視野について、最小散乱角が90mradとなる環状検出器にてHAADF像を得る。
得られたHAADF像(1視野)から、Feの(110)面と岩塩型の結晶構造を有する窒化物(例えば、TiN)の(111)面とがなす角度θ(単位:°)を測定し、10視野の平均値を求める。求めた平均値を、各方向性電磁鋼板における、鋼板のFeの(110)面と、セラミクス被膜における鋼板に接する膜厚部分の岩塩型の結晶構造を有する窒化物(例えば、TiN)の(111)面とのなす角度とする。
《刃状転位》
図3は、鋼板2と鋼板2に接する膜厚部分3aとの界面を含む領域のC断面を示す別の模式図である。図3中、破線円で囲われた部分において、鋼板2側に、Feの(110)面が余分に導入されており、刃状転位が生じている。
本発明においては、鋼板2のFeの(110)面100枚当たりの刃状転位の数を、12.0以上25.0以下とする。これにより、鋼板2に適度な引張応力が付与され、良好な被膜密着性および磁気特性が得られる。
刃状転位の数が少なすぎる(刃状転位の周期が大きすぎる)場合、鋼板2と鋼板2に接する膜厚部分3aとの間に導入される応力が高くなり、クラック等が発生し、被膜密着性や磁気特性が不十分となる。
一方、刃状転位の数が多すぎる場合、鋼板2に接する膜厚部分3aの応力が緩和され、磁気特性が不十分となる。
上記刃状転位は、次のように評価する。
まず、上記角度と同様にして、HAADF像を得る。
得られたHAADF像(1視野)をフーリエ変換し、フーリエ変換像を取得する。次いで、取得したフーリエ変換像について、Feの(110)面および岩塩型の結晶構造を有する窒化物(例えば、TiN)の(111)面からの回折斑点を用いて、逆フーリエ変換を行ない、逆フーリエ変換像を取得する。取得した逆フーリエ変換像について、鋼板側にFeの(110)面が余分に導入されている数、すなわち、刃状転位の数を測定する。
Feの(110)面100枚当たりの上記刃状転位の数を求め、10視野の平均値を算出する。算出した平均値を、各方向性電磁鋼板における、Feの(110)面100枚当たりの刃状転位の数とする。
鋼板とセラミクス被膜との界面については、両者の平均密度の違いに基づくHAADF像におけるコントラストの差から判断が可能であるが、厳密には、STEMに付属したエネルギー分散型X線分析(EDS)による成分分析を用いて決定する。高分解能像においては、結晶格子の配列の仕方が異なるため、その配列に基づいて判断すればよい。
上述した界面構造において、鋼板とセラミクス被膜との界面は一定の厚さを持ったものであってもよく、その厚さとしては、例えば、0.2〜5.0nmである。
〈絶縁張力酸化物被膜〉
本発明の方向性電磁鋼板は、上述したセラミクス被膜だけでも高い張力を鋼板に付与できるが、より高い張力および絶縁性を確保するために、セラミクス被膜上に、絶縁張力酸化物被膜を有することが好ましい。絶縁張力酸化物被膜は、酸化物被膜であり、かつ、例えば変圧器鉄心として使用することから絶縁被膜であることを要する。
絶縁張力酸化物被膜は、酸化物を含有するが、この酸化物は、例えば、後述する処理液に含まれるリン酸塩に由来し、その具体例としては、珪リン酸ガラスが挙げられる。
絶縁張力酸化物被膜は、このような酸化物の含有量が85質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に酸化物のみからなることが更に好ましい。
絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、これが薄すぎると高い張力が得られにくいという理由から、1.0μm以上が好ましい。一方、厚すぎると占積率が減少するおそれがあることから、絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、10.0μm以下が好ましい。
占積率という観点からは、従来の方向性電磁鋼板の被膜構成が、フォルステライト被膜1〜2μm、絶縁張力酸化物被膜2μm程度であることから、本発明における絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、3〜4μmよりも小さくすることが好ましい。したがって、より好ましい絶縁張力酸化物被膜の膜厚範囲は、2.0〜4.0μmである。
絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、方向性電磁鋼板における片面の平均膜厚である。
[方向性電磁鋼板の製造方法]
次に、上述した本発明の方向性電磁鋼板を製造する、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)を説明する。
セラミクス被膜を成膜する前の鋼板の表面には、視認できる程度の錆が発生していないことが好ましい。錆が認められる場合には、塩酸または硝酸などを用いた酸洗処理によって除去しておくことが好ましい。
〈イオンクリーニング〉
鋼板上にセラミクス被膜(例えば、TiN被膜)を成膜する前に、鋼板の表面に対して、イオンクリーニングを施すことが好ましい。イオンクリーニングは、例えば10Pa以下の真空中において、施される。
イオンクリーニングに用いるイオンとしては、例えば、上述した岩塩型の結晶構造を有する窒化物を構成する金属元素のイオンが挙げられ、その具体例としては、Ti、Cr、V、Zr、Ta、Nbなどのイオンが挙げられる。
イオンクリーニングは、鋼板表面に不可避的に形成される極微細な酸化物を除去する。これにより、その後に形成されるセラミクス被膜と鋼板との整合性が良好となる。
イオンクリーニングは、上記酸化物の除去と共に、鋼板の極表面に微量の元素(例えばTi)を予め導入する。これにより、その後にセラミクス被膜(例えばTiN被膜)が成膜される際に、刃状転位の発生が適切な範囲に制御される。
イオンクリーニングは、鋼板の表面に窒化物等が形成されることを抑制するために、反応ガスの供給を停止して行なう。
イオンクリーニングは、後述するセラミクス被膜の成膜と同様に、AIP法で行なうことが好ましい。この場合、例えば鋼板を真空チャンバに入れ、イオンクリーニングした後に、鋼板を真空チャンバから取り出さずに、引き続き、セラミクス被膜を成膜する。
イオンクリーニングをAIP法で行なう場合、バイアス電圧が高すぎる(0Vに近すぎる)と刃状転位を十分に導入できない場合があることから、バイアス電圧は、−150V以下が好ましく、−300V以下がより好ましく、−500V以下が更に好ましく、−800V以下が特に好ましい。
一方、バイアス電圧が低すぎると、格子欠陥である刃状転位の数が多くなりすぎる場合があることから、バイアス電圧は、−2100V以上が好ましく、−2000V以上がより好ましく、−1900V以上が更に好ましい。
クリーニング時間は、短すぎると十分な整合性が得られない場合があることから、7秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、12秒以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、300秒以下が好ましく、280秒以下がより好ましく、120秒以下が更に好ましい。
セラミクス被膜を成膜する前の鋼板の表面には、視認できる程度の錆が発生していないことが好ましい。錆が認められる場合には、塩酸または硝酸などを用いた酸洗処理によって除去しておくことが好ましい。
〈セラミクス被膜の成膜〉
セラミクス被膜の成膜には、CVD(Chemical Vapor Deposition)法またはPVD(Physical Vapor Deposition)法などが用いられるが、PVD法を用いることが好ましい。
PVD法には、多くの方法があるが、なかでも、AIP(アークイオンプレーティング)法がより好ましい。
以下では、セラミクス被膜の成膜法として、AIP法を用いる場合を例に説明する。
AIP法を、概略的に説明する。まず、蒸発させたい金属ターゲット(蒸発源)を陰極とし、真空チャンバを陽極として、両者間に直流電圧をアーク電源から印加して真空中でアーク放電を発生させ、金属を蒸発させてプラズマを発生させる。基材(例えば、鋼板)には負のバイアス電圧を印加して、プラズマ中の金属イオンを基材に向けて引き寄せることにより、成膜する。TiN被膜などの窒化物被膜を成膜する場合には、窒素ガスを導入する。成膜される被膜と基材との密着性を向上させる等の理由から、ヒータを用いて基板を加熱する。
AIP法を用いてイオンクリーニングする場合は、窒素ガスを導入せずに、鋼板にバイアス電圧を印加して、Tiイオン等のイオンを鋼板に向けて引き寄せる。
AIP法を用いてセラミクス被膜を成膜するに際しては、基板温度(成膜温度)は、例えば、400℃以上700℃以下であり、500℃以上650℃以下が好ましい。
バイアス電圧は、例えば、−500V以上−50V以下であり、−300V以上−50V以下が好ましい。
成膜速度は、例えば、0.5nm/s以上5.0nm/s以下であり、1.0nm/s以上3.0nm/s以下が好ましい。
上記以外の条件、例えば、窒素ガスなどのガスの流量および真空チャンバの真空度などは、従来公知の値から、適宜選択すればよい。ターゲット(蒸発源)は、鋼板全体に均一にイオンが及ぶ位置に配置する。炉長は、所望する成膜速度などが達成できるように、事前に決めておけばよい。
〈絶縁張力酸化物被膜の成膜〉
絶縁張力酸化物被膜を成膜する方法は、特に限定されないが、後述する処理液を、ロールによって塗布し、その後、焼き付けして形成する方法が、コスト的に有利である。
張力を付与するために、焼き付けは、通常、600℃以上の高温で行なわれることが多いが、このとき、鋼板の降伏点が減少することによって、ライン張力により不要な歪みを鋼板に導入してしまう可能性がある。これを抑制するため、焼き付け温度は1000℃以下とし、焼き付けの際のライン張力は20MPa以下とすることが好ましい。
焼き付けの際の雰囲気は、例えば、窒素雰囲気である。
セラミクス被膜を成膜する際に、高加速電圧でイオン照射した場合には、鋼板に微量の歪みが存在していることがある。この場合、絶縁張力酸化物被膜の成膜前に、750℃以上、15秒間以上で焼鈍することにより、歪を除去または軽減することが好ましい。
絶縁張力酸化物被膜の成膜に用いられる処理液は、少なくとも、リン酸塩を含有することが好ましい。リン酸塩の金属種としては、Mg、Al、Ca、Sr、Fe、Cu、MnおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。リン酸塩としては、入手容易性や、処理液の調整しやすさの観点からは、第一リン酸塩(重リン酸塩)が好適に用いられる。
処理液は、コロイダルシリカを含有することが好ましい。コロイダルシリカの平均粒径は、5〜200nmが好ましい。コロイダルシリカの含有量は、固形分換算で、リン酸塩100質量部に対して、50〜150質量部が好ましい。
処理液には、更に、無水クロム酸および/または重クロム酸塩を含有させることができ、その含有量は、固形分換算(乾固分比率)で、リン酸塩100質量部に対して、10〜50質量部が好ましい。
処理液には、更に、シリカ粉末およびアルミナ粉末などの無機鉱物粒子を添加でき、その含有量は、固形分換算で、リン酸塩100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
[その他の事項]
〈磁区細分化〉
本発明においては、鋼板の表面に溝を形成することにより磁区細分化できる。この場合、セラミクス被膜の成膜後に溝を形成するとセラミクス被膜の除去に追加コストが発生することから、セラミクス被膜の成膜前に溝を形成することが好ましい。
電子ビームまたはレーザの照射による非耐熱型の磁区細分化を行なう場合、絶縁張力酸化物被膜を形成した後に行なうことが好ましい。絶縁張力酸化物被膜によっては、例えば700℃以上の高温で成膜する被膜があるため、絶縁張力酸化物被膜の形成前に電子ビームなどによって歪みを導入しても、絶縁張力酸化物被膜を形成する際に、導入された歪みが消失してしまい、磁区細分化の効果が減少するためである。
非耐熱型の磁区細分化の手法としては、レーザ照射の場合、平滑化された鋼板表面で反射されて、エネルギー照射効率が低くなる場合があることから、レーザ照射よりも、電子ビーム照射の方が好ましい。
〈焼鈍〉
本発明の方向性電磁鋼板を変圧器などの鉄心として用いる場合、本発明の方向性電磁鋼板に対して、歪取りなどを目的として焼鈍を施すことができる。
焼鈍の際の温度範囲は、低すぎると歪が除去しにくい場合があり、高すぎると被膜密着性が損なわれる傾向があることから、700℃以上900℃以下が好ましい。
焼鈍の際の均熱時間は、短すぎると歪が除去しきれない場合があり、長すぎると被膜密着性が損なわれて鉄損が増大する場合があることから、0.2〜3時間が好ましい。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
〈方向性電磁鋼板の作製〉
以下のようにして、鋼板上に、セラミクス被膜および絶縁張力酸化物被膜をこの順に形成して、方向性電磁鋼板の試験材No.1〜10を作製した。
《鋼板の準備》
鋼組成が質量%でC:20ppm、Si:3.4%であるフォルステライト被膜付きの二次再結晶板(板厚:0.23mm、平均結晶粒径:28〜35mm、平均β角:2.0°)を準備した。
準備した二次再結晶板のフォルステライト被膜を、塩酸、フッ化水素および硝酸の混合液を用いて除去し、フッ化水素水(47%)と過酸化水素水(34.5%)とを1:20で混合した水溶液を用いて化学研磨を行ない、板厚を0.20mmまで減厚し、Raが0.1μm以下になるまで表面を平滑化し、鋼板を得た。
《イオンクリーニング》
平滑化した鋼板を、真空チャンバに入れ、AIP法により、下記表1に示す条件(バイアス電圧、および、クリーニング時間)で、Tiイオンによるイオンクリーニングを行なった。イオンクリーニングしなかった場合は、下記表1に「−」を記載した。
《セラミクス被膜の成膜》
イオンクリーニングした鋼板について、引き続き、同じ真空チャンバ内で、AIP法により、下記表1に示す成膜条件(成膜温度、バイアス電圧、および、成膜速度)で成膜を行ない、セラミクス被膜を成膜した。セラミクス被膜の膜厚を、下記表1に記載した。
一部の試験材においては、Tiターゲットとは異なるターゲットを用いて、TiN被膜に引き続きTiN被膜以外の別の窒化物被膜を形成した。
例えば、試験材No.3においては、Tiターゲットを用いてTiN被膜を形成した後、Alターゲットを用いてAlN被膜を形成し、その後、再び、Tiターゲットを用いてTiN被膜を形成した。
試験材No.4および5においては、TiN被膜を形成した後、AlCrの合金ターゲットを用いてAlCrN被膜を形成した。このとき、ターゲットの組成比(Al/Cr)は、質量比で、試験材No.4では7/3とし、試験材No.5では2/8とした。
試験材No.6においては、Ti被膜を形成した後、AlターゲットとCrターゲットとを用いて、AlCrN被膜を形成した。
《絶縁張力酸化物被膜の形成》
セラミクス被膜上に処理液をロール塗布し、窒素雰囲気中で800℃×30秒間の焼き付けを行ない、リン酸塩系の絶縁張力酸化物被膜を形成した。このとき、ライン張力は10MPaとした。絶縁張力酸化物被膜の膜厚は、片面あたり2.2μmとした。
処理液としては、固形分換算で、リン酸マグネシウム(第一リン酸マグネシウム)を100質量部、コロイダルシリカ(ADEKA社製AT−30、平均粒径:10nm)を80質量部、および、無水クロム酸を20質量部含有する処理液を用いた。
〈界面構造〉
作製した方向性電磁鋼板の試験材について、上述した手法に従い、C断面のHAADF像を得た。このとき、電子顕微鏡の設定倍率を100万倍以上として観察し、格子像が得られるように観察条件を調整した。
《整合性》
得られたHAADF像(10視野)から、上述した手法に従い、Feの(110)面と岩塩型の結晶構造を有する窒化物(ここでは、TiN)の(111)面とがなす角度(平均値)を求めた。
上記角度について、20°以下の場合には整合性に優れるものとして下記表1に「○」を記載し、20°を超える場合には整合性が不十分であるものとして下記表1に「×」を記載した。
《刃状転位》
得られたHAADF像(10視野)から、上述した手法に従い、Feの(110)面100枚当たりの刃状転位の数(平均値)を求め、これを下記表1に記載した。測定しなかった場合は、下記表1に「−」を記載した。
〈評価〉
《セラミクス被膜の張力》
セラミクス被膜まで成膜した方向性電磁鋼板の試験材について、以下のようにして、セラミクス被膜の張力を測定(評価)した。
まず、反りのない試験片(圧延方向:280mm、圧延直角方向:30mm)を準備した。準備した試験片の片面の全面に、腐食防止テープを貼り付けた。その後、腐食防止テープを貼り付けた試験片における腐食防止テープを貼り付けていない側の面のセラミクス被膜を除去した。セラミクス被膜を除去する方法は、成膜した量のセラミクス被膜を除去できれば特に限定されず、例えば、30質量%以上の過酸化水素水を用いて24時間以上72時間以下の浸漬を行なう方法が挙げられる。今回は、片面に腐食防止テープを貼り付けた試験片を、34.5質量%の過酸化水素水に30時間浸漬することにより、腐食防止テープを貼り付けていない側の面のセラミクス被膜を除去した。
片面側のセラミクス被膜が無いので、鋼板は、板厚方向−圧延方向面内において曲率(反り)を生じた。腐食防止テープを除去してから鋼板の曲率半径Rを求めた。次いで、式「σ=Ed/3R」(E:圧延方向の鋼板のヤング率、d:片面の被膜の膜厚)から、セラミクス被膜の張力σを求めた。
結果を下記表1に示す。セラミクス被膜の張力は、10MPa以上が好ましい。
絶縁張力酸化物被膜を成膜する場合は、その分の張力が加算される。作製した試験材においては、いずれも同じ条件で絶縁張力酸化物被膜を成膜しているため、絶縁張力酸化物被膜を成膜した状態での張力測定は省略した。
なお、絶縁張力酸化物被膜の張力を測定する場合は、セラミクス被膜の張力測定と同様の手順にて、セラミクス被膜は除去されず絶縁張力酸化物被膜が除去できる被膜除去方法を用いればよい。例えば、リン酸塩系の絶縁張力酸化物被膜であれば、腐食液として110℃程度の濃水酸化ナトリウム水溶液を用いて、これに10分間程度浸漬させることにより、除去が可能である。
セラミクス被膜および絶縁張力酸化物被膜を成膜した方向性電磁鋼板の試験材について、800℃で2時間の歪取り焼鈍を行なった後、以下の評価を行なった。結果を下記表1に示す。
《鉄損W17/50
歪取り焼鈍後の方向性電磁鋼板の試験材について、鉄損W17/50を測定した。鉄損W17/50の値が0.690W/kg以下である場合には、磁気特性に優れると評価できる。
《被膜密着性》
歪取り焼鈍後の方向性電磁鋼板の試験材について、丸棒巻き付け法によって、セラミクスおよび絶縁張力酸化物被膜の被膜密着性を評価した。
具体的には、幅30mm×圧延方向長さ280mmの試験材を、直径数十mmの丸棒に巻き付けることにより、内部応力を生じさせ、被膜のクラック発生有無を調査し、目視にてクラックが発生しない最小の丸棒径(単位:mm)を求めた。この値が小さいほど、被膜密着性に優れると評価でき、15mm以下が好ましい。
上記表1に示すように、試験材No.1〜6は、磁気特性および被膜密着性がいずれも良好であった。
これに対して、試験材No.7〜10は、磁気特性および被膜密着性の少なくともいずれかが不十分であった。
1:方向性電磁鋼板
2:鋼板
3:セラミクス被膜
3a:セラミクス被膜の鋼板に接する膜厚部分
4:絶縁張力酸化物被膜
110:Feの(110)面
111:岩塩型の結晶構造を有する窒化物の(111)面
L:Feの(110)面を示す線の延長線
RD:鋼板の圧延方向
θ:Feの(110)面と岩塩型の結晶構造を有する窒化物の(111)面とのなす角度

Claims (7)

  1. 鋼板と、前記鋼板上に配置された、窒化物を含有するセラミクス被膜と、を備える方向性電磁鋼板であって、
    前記セラミクス被膜が、少なくとも前記鋼板に接する膜厚部分に、岩塩型の結晶構造を有する窒化物を含有し、
    前記鋼板と前記セラミクス被膜との界面を含む領域をC断面で断面視したときに、前記鋼板におけるFeの(110)面と前記岩塩型の結晶構造を有する窒化物の(111)面とのなす角度が20°以下であり、前記鋼板におけるFeの(110)面100枚当たりの刃状転位の数が12.0以上25.0以下である、方向性電磁鋼板。
  2. 前記岩塩型の結晶構造を有する窒化物が、TiNである、請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
  3. 前記セラミクス被膜の膜厚が、50nm以上500nm以下である、請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
  4. 更に、前記セラミクス被膜上に配置された絶縁張力酸化物被膜を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
  5. 前記絶縁張力酸化物被膜の膜厚が、1.0μm以上である、請求項4に記載の方向性電磁鋼板。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板を製造する、方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記セラミクス被膜を、AIP法によって成膜する、方向性電磁鋼板の製造方法。
  7. 前記セラミクス被膜を成膜する前に、前記鋼板の表面に対して、AIP法を用いたイオンクリーニングを施す、請求項6に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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