JP2002146489A - 耐熱性に優れた低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板 - Google Patents

耐熱性に優れた低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板

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JP2002146489A JP2001263694A JP2001263694A JP2002146489A JP 2002146489 A JP2002146489 A JP 2002146489A JP 2001263694 A JP2001263694 A JP 2001263694A JP 2001263694 A JP2001263694 A JP 2001263694A JP 2002146489 A JP2002146489 A JP 2002146489A
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Atsushi Miyazaki
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峰男 村木
Yasushi Kato
康 加藤
Yoshihiro Yazawa
好弘 矢沢
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ディスクブレーキ使用中の昇温による焼戻し
軟化が起こり難く、所定の硬度を維持できる、焼入れの
ままで使用が可能なマルテンサイト系ステンレス鋼板を
提供する。 【解決手段】 質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.
5%以下、Mn:1.0〜2.5%、Cr:10.0超〜15.0%、Ni:
1.0%以下、Cu:0.5%以下を含み、かつ、Ti:0.01〜0.
5%、V:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜1.0%、Zr:0.01〜
1.0%から選ばれるいずれか1種または2種以上を含有
し、さらに次式 N:0.005%〜(Ti+V)×14/50+(Nb+Zr)×14/90 を満たす範囲のNを含有し、残部はFeおよび不可避的不
純物とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低炭素マルテンサ
イト系ステンレス鋼板に係り、例えば二輪車のディスク
ブレーキに用いて好適な材料に関するものである。な
お、本発明にいう成分含有量を表す%はすべて質量%を
意味するものとする。
【0002】
【従来の技術】二輪車のディスクブレーキには、通常、
ステンレス鋼が使用されている。そして、かかるディス
クブレーキ材料が具備すべき特性としては、耐食性のほ
か、靱性、耐摩耗性があげられる。ここに、耐摩耗性
は、硬度が高くなるに従い向上するが、一方、硬度増加
により靱性は低下する。このため、ディスクブレーキの
硬さは、これら両者のバランスを考慮して、HV:310
〜380の範囲に調整されている。ところで、こうした用
途に使用されるステンレス鋼としては、従来から、13Cr
−高Cマルテンサイト系の SU S420J1や SUS 420J2を、
焼入れ後、焼戻しすることにより、上記硬度範囲に調整
した鋼板が用いられていた。しかし、この場合には、焼
入れと焼戻しの2回にわたる熱処理工程が必要なため、
製造上の負担が大きかった。これに対し、最近、特開昭
57-198249号公報、特開昭60-106951号公報に示されるよ
うな、焼入れのみで適正な硬度を得ることにより、焼戻
し処理の不要な、低Cマルテンサイト系ステンレス鋼も
多く使用されるようになってきている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述した低Cステンレ
ス鋼で製造した二輪車のディスクブレーキは、比較的高
級なスポーツバイクや、中型〜大型のオートバイに使用
されてきた。これらの二輪車は、より大型化、高性能化
が進み、ブレーキの使用環境が一層厳しくなる傾向にあ
るため、より高いブレーキ性能が要求されるようになっ
てきた。ディスクブレーキの機能は、言うまでもなく、
ディスクとパッドとの摺動摩擦により、車両の運動エネ
ルギーを熱に変換することで車の回転を減速することに
ある。このため、大型化、高速化した、近年の二輪車に
おいては、従来にもましてディスクブレーキの発熱量が
大きくなり、その温度が500〜600℃にまで上昇すること
もある。
【0004】したがって、従来から使用されてきた低C
マルテンサイト系ステンレス鋼では、使用状況によって
は、焼戻しにより硬度が低下し、軟質化してしまうとい
う問題があった。ディスクブレーキが、このようにして
焼戻しを受けて一旦軟質化すると、耐摩耗性は劣化し、
所定の性能を維持することができなくなる。このような
軟質化への対策としては、例えば、ディスクを厚くして
熱容量を大きくする、放熱のためのデザインを工夫す
る、またディスクの枚数を増やす(シングルディスクか
らダブルディスクへ)など、ディスク自身が高温になら
ないような方法も考えられるが、いずれも重量の増大、
加工の複雑化に伴うコストアップなどの難点を抱えてお
り、根本的な解決には至っていない。そこで、本発明
は、焼入れのままで使用される低炭素マルテンサイト系
ステンレス鋼板において、ディスクブレーキ使用時にお
ける昇温により焼戻し軟化されにくく、所定の硬度を維
持できるマルテンサイト系ステンレス鋼板を提供するこ
とを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】発明者らは、上記課題の
解決に向けて、成分組成について鋭意研究したところ、
所定成分の低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板にお
いて、Ti,V,Nb,ZrおよびNを適正範囲にすれば、焼
もどし軟化抵抗が高まり、所期の効果が得られることを
知見した。本発明はかかる知見に基づいて完成したもの
である。
【0006】すなわち本発明は、質量%で、C:0.03〜
0.10%、Si:0.5%以下、Mn:1.0〜2.5%、Cr:10.0超
〜15.0%、Ni:1.0%以下、Cu:0.5%以下を含み、か
つ、Ti:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜1.
0%、Zr:0.01〜1.0%から選ばれるいずれか1種または
2種以上を含有し、さらに次式 N:0.005%〜(Ti+V)×14/50+(Nb+Zr)×14/90 を満たす範囲のNを含有し、残部はFeおよび不可避的不
純物からなることを特徴とする、耐熱性に優れた低炭素
マルテンサイト系ステンレス鋼板である。
【0007】また、本発明は、上記発明に記載の成分に
加え、さらに、Mo:0.05〜1.0%、B:0.0002〜0.0010
%のうちの1種または2種を含有することを特徴とす
る、低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板である。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の成分を、上記範囲に限定
した理由について以下に述べる。 C:0.03〜0.10% Cは、焼入れ後のマルテンサイトの硬度を高め、耐摩耗
性を向上させるのに有効な元素である。しかし、C含有
量が0.03%以下では、焼入れのみ(戻し処理なし)ではデ
ィスクブレーキとしての適性硬度が得られず、一方、0.
10%を超えると過剰な硬度となる。したがって、焼入れ
のみでディスクブレーキの適性硬度を得るには、Cの範
囲を0.03〜0.10%とする必要がある。
【0009】Si:0.5%以下 Siは、フェライト相を安定化させる元素であり、過度に
含有すると、焼入れ硬度を低下させるのみならず、靱性
にも悪影響を与えるため、その上限は0.5%とする。
【0010】Mn:1.0〜2.5% Mnは、高温でのフェライト相の生成を抑制する元素であ
り、1.0%以上含有することで、硬度の焼入れ温度依存
性を小さくし、安定した硬度を得るのに有効である。し
かし、過度に添加すると、製造工程での脱スケール性を
悪くし、表面性状に悪影響を及ぼすので、その上限を2.
5%とする。
【0011】Cr:10.0超〜15.0% Crは、耐食性を付与するために、10.0%超えの含有は必
要である。しかし、Crを過剰に含有すると焼入れ加熱の
温度域でフェライト相が出現し、適正硬度が安定して得
られなくなるため、その上限は15.0%とする。
【0012】Ni:1.0%以下 Niは、Mnと同様に、高温でのフェライト相の生成を抑制
する元素であり、焼入れ硬度を安定させる効果を有する
が、本発明では、その効果がMnの添加により十分に得ら
れるので、下限は特に規定する必要がなく、製鋼工程で
の混入レベルとする。一方、Niは高価な元素であり、経
済性の観点から、上限を1.0%とする。
【0013】Cu:0.5%以下 Cuは、Mnと同様に、高温でのフェライト相の生成を抑制
する元素であり、焼入れ硬度を安定させる効果がある
が、本発明では、その効果がMnの添加により十分に得ら
れるので、下限は特に規定しない。一方、Cuを過剰に含
有すると、熱間圧延時に表面割れを生じて表面疵を生じ
やすく、この表面疵は最終製品に至るまで残り、歩留ま
りの低下を招くため、また高価な元素でもあるので、そ
の上限を0.5%とする。
【0014】Mo:0.05〜1.0% Moは、マルテンサイトの焼戻し軟化抵抗を高め、耐熱性
を向上させる効果がある。一方、Moは、過度に含有する
とフェライト相を安定化させ、焼入れ硬度を低下させ
る。よって、1.0%を上限として添加する。また、上記
の耐熱性向上効果を発揮させるためには、Moは0.05%以
上添加する。
【0015】B:0.0002〜0.0010% Bは、焼入れ性を高め、安定した焼入れ硬度を得るのに
有効である。一方、過剰のBは、Fe,Crと低融点の化合
物を形成し、連続鋳造および熱延工程において熱間割れ
を生じる。よって、Bは0.0010%を上限として添加す
る。また、上記の焼入れ硬度を得る効果を発揮させるた
めには、Bは0.0002%以上含有させる。
【0016】Ti:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%、Nb:
0.01〜1.0%、Zr:0.01〜1.0% Ti,V,Nb,Zrは、焼入れ後、昇温した時の軟質化を抑
制する重要な元素である。これら成分の含有量が少ない
と、軟質化抑制の効果が得られず、逆に過剰に添加して
も、その効果は飽和する。このため、適正な含有範囲
は、それぞれTi:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.5%、Nb:
0.01〜1.0%、Zr:0.01〜1.0%とする。なお、焼入れ後
の靭性を向上させるためには、Nbの添加が特に有効であ
る。
【0017】N:0.005〜(Ti+V)×14/50+(Nb+Zr)
×14/90 焼入れ後の硬度を適正に保ち、かつ、これらの元素によ
る軟質化抑制効果を有効に作用させるには、N添加量を
適性含有範囲に調整するとよい。すなわち、0.005%以
下のN量では、上記の軟質化抑制効果が得られず、一
方、Ti,V,Nb,Zrの形成する窒化物等量以上のN量で
は、焼入れ後の硬度がNに依存し、安定した硬度が得ら
れなくなる。よって、Nの上限は(Ti+V)×14/50+(N
b+Zr)×14/90とする。
【0018】以下の実験1〜4は、N量とTi,V,Nb,
Zrとの関係を調査するために行ったものである。 (実験1)C:0.05%、Si:0.25%、Mn:1.45%、Cr:
13.0%、Cu:0.2%、Ni:0.6%、Mo:0.04%、Ti:0.10
%、V:0.10%(したがってTi+V:0.20%)として、N
量を変化させた鋼群A(N量の少ないものから順に鋼A1
〜A12)を溶製し、連続鋳造により200mm厚スラブとし、
1150℃に加熱後、熱間圧延により5mmの熱延板とした。
この時、熱延終了温度は970℃、巻き取り温度は770℃で
あった。得られた熱延板を700℃×12時間で焼戻し焼鈍
した後、サンプルを採取し、焼入れ処理後の硬度および
焼入れ−焼戻し処理後の硬度を調べた。ここで、焼入れ
は、100mm×100mmサイズのサンプルを切り出し、1000℃
で10分保持した後空冷、焼戻しは、600℃で10分保持し
た後空冷の処理とした。硬度は、断面で板厚中心部にお
いてビッカース硬度HVを測定した。
【0019】得られた結果を図1に示す。その結果、
N:0.005%以上では、焼入れ−焼戻し処理後の硬度の
低下(焼入れ処理後の硬度と焼入れ−焼戻し処理後の硬
度との差)が少なく、軟質化が抑制されている。また、
Ti,Vが形成する窒化物等量以上(N:0.056%以上)の
多量のNを含む鋼では、焼入れ処理後の硬度のN量に対
する依存性が強くなった。以上の結果より、N:0.005
%〜(Ti+V)×14/50とすることで、焼入れ処理後の硬
度が安定し、かつ焼戻しでの軟質化も抑制されるといえ
る。
【0020】(実験2)C:0.07%、Si:0.45%、Mn:
1.80%、Cr:14.5%、Cu:0.3%、Ni:0.5%、B:0.00
03%、Nb:0.20%、Zr:0.10%(したがってNb+Zr:0.
30%)として、N量を変化させた鋼群B(N量の少ない
ものから順に鋼B1〜B12)を溶製し、連続鋳造により20
0mm厚スラブとし、1100℃に加熱後、熱間圧延して6mm
の熱延板とした。この時、熱延終了温度は850℃、巻き
取り温度は720℃であった。得られた熱延板を800℃×8
時間の焼戻し焼鈍をした後、サンプルを採取し、焼入れ
処理後の硬度および焼入れ−焼戻し処理後の硬度を調べ
た。ここで、焼入れは、100mm×100mmサイズのサンプル
を切り出し、1000℃で10分保持した後空冷、焼戻しは、
600℃で10分保持した後、空冷処理とした。硬度は、断
面で板厚中心部においてビッカース硬度を測定した。
【0021】得られた結果を図2に示す。図2より、
N:0.005%以上では、焼入れ−焼戻し処理後の硬度の
低下が少なく、軟質化が抑制されている。また、Nb,Zr
が形成する窒化物等量以上(N:0.047%以上)の多量の
Nを含む鋼では、焼入れ処理後の硬度のN量に対する依
存性が強くなった。以上の結果より、N:0.005%〜(Nb
+Zr)×14/90とすることで,焼入れ処理後の硬度が安
定し、かつ焼戻しでの軟質化が抑制されるといえる。
【0022】(実験3)C:0.10%、Si:0.20%、Mn:
2.00%、Cr:11.0%、Cu:0.4%、Ni:0.2%、Mo:0.2
%、B:0.0007%、Ti:0.07%、V:0.03%、Nb:0.15
%、Zr:0.05%(したがって、Ti+V:0.10%、Nb+Z
r:0.20%)として、N量を変化させた鋼群C(N量の少
ないものから順に鋼C1〜C12)を溶製し、連続鋳造によ
り200mm厚スラブとし、1200℃に加熱後、熱間圧延して
4.5mmの熱延板とした。この時、熱延終了温度は770℃、
巻き取り温度は650℃であった。得られた熱延板を、840
℃×10時間の焼戻し焼鈍した後、サンプルを採取し、焼
入れ処理後の硬度および焼入れ−焼戻し処理後の硬度を
調べた。ここで、焼入れは、100mm×100mmサイズのサン
プルを切り出し、1000℃で10分保持した後空冷、焼戻し
は、600℃で10分保持した後空冷の処理とした。硬度
は、断面で板厚中心部においてビッカース硬度を測定し
た。
【0023】得られた結果を図3に示す。図3から、
N:0.005%以上では、焼入れ−焼戻し処理後の硬度の
低下が少なく、軟質化が抑制されている。また、Ti,
V,Nb,Zrが形成する窒化物等量以上(N:0.059%以
上)の多量のNを含む鋼では、焼入れ処理後の硬度の、
N量に対する依存性が強くなった。以上の結果より、
N:0.005%〜(Ti+V)×14/50+(Nb+Zr)×14/90と
することで、焼入れ処理後の硬度が安定し、かつ焼戻し
での軟質化が抑制されるといえる。
【0024】このようなN量の変化による硬度の挙動に
ついては、必ずしも解明されたわけではないが、おおよ
そ以下のように考えられる。Ti,V,Nb,Zrはいずれも
炭窒化物を形成する元素である。ここで、N含有量が0.
005%〜(Ti+V)×14/50+(Nb+Zr)×14/90の適正範
囲にある時に形成された窒化物は、焼入れのための加熱
でも解離固溶せず、焼き入れ後も析出物のままでマルテ
ンサイト中に残り、また、その後の焼戻し時には転位の
回復を抑制し、軟質化を抑制する。しかし、Nが、0.00
5%に満たない少量の場合には、Ti,V,Nb,Zrのほと
んどは窒化物とならず炭化物となる。この炭化物は、焼
入れ加熱時に解離固溶し、焼入れ後は、固溶Cとしてマ
ルテンサイトの硬度上昇に寄与するものの、軟質化抑制
効果には寄与しない。逆に、N含有量が、窒化物の形成
に必要な量を超える過剰の場合には、Nがマルテンサイ
トに固溶し、硬度を上昇させたものと考えられる。
【0025】(実験4)上記(実験1)〜(実験3)に使用
した鋼群A〜Cのうち、焼戻しで軟質化が抑制された鋼
(鋼A4〜A10、鋼B3〜B8、鋼C3〜C9)を選び、焼
入れ処理後に、焼入れのままでシャルピー衝撃試験を行
った。試験片は、JIS Z 2202 に示される4号試験片に
準拠した試験片(幅10mm、長さ55mm、2mmVノッチ、開き
角45度、先端曲率R=0.25mm)で、板厚は焼入れ処理まま
とした。試験方法は、JIS Z 2242に準拠し、試験温度は
0℃とした。シャルピー衝撃試験の結果を鋼の成分とと
もに、表3に示す。本実験に供した焼戻しで軟質化の抑
制された鋼は、衝撃試験値が、60J/cm2以上であり、靭
性の面からも二輪車ディスクブレーキ用に適した材料で
あると言える。特に、Nbが添加された鋼は、高い衝撃値
が得られ、靭性が優れていることがわかる。
【0026】
【表1】
【0027】
【実施例】表2に示す成分の鋼D〜Oを溶製し、連続鋳
造により200mm厚スラブとして、1150℃に加熱後、熱間
圧延により板厚4mmおよび10mmの熱延板とした。この
時、熱延終了温度は930℃、巻き取り温度は740℃であっ
た。得られた熱延板を、820℃×10時間の焼戻し焼鈍を
した後、サンプルを採取し、焼入れ処理後の硬度および
焼入れ−焼戻し処理後の硬度を調べた。ここでの焼入れ
処理は、100mm×100mmサイズのサンプルを切り出し、10
00℃で10分間保持した後に空冷、焼戻し処理は、600℃
で10分保持した後に空冷とした。硬度は、断面で板厚中
心部においてビッカース硬度を測定した。また、焼入れ
処理後に、焼入れままの靭性を調査するために、シャル
ピー衝撃試験を行った。試験片は、JIS Z 2202 に示さ
れる4号試験片に準拠した試験片(幅10mm、長さ55mm、
2mmVノッチ、開き角45度、先端曲率R=0.25mm)で、板
厚は焼入れ処理ままとした。試験方法は、JIS Z 2242
に準拠し、試験温度は0℃とした
【0028】得られた結果を表3に示す。表3から、発
明例である鋼D〜Lは、焼入れ処理後の硬度が適正範囲
にあり、かつ焼戻し処理による軟質化が抑制されて、硬
度低下を招かず、適正硬度を維持しているので、二輪車
ディスクブレーキ用に適した材料であると言える。さら
に、鋼E〜Jの場合について、板厚4mm材と板厚10mm材
を比較すると、適正量のBを含む鋼E,F,IおよびJ
は板厚10mm材においても、4mm材と同等な焼入れ硬度が
得られ、焼入れ性が向上していることがわかる。これに
対して、N量の少ない鋼M(比較例)およびTi,V,Nb,
Zrを添加しない鋼O(比較例)は、焼戻し処理により軟
質化が著しく、適正硬度を維持できない。また、Nを過
剰に添加した鋼N(比較例)は、焼入れ処理後の硬度が高
く適正範囲からはずれている。また、表3から、発明例
である焼入れ処理後の熱延板は、衝撃試験値が、60J/cm
2以上であり、靭性の面からも二輪車ディスクブレーキ
用に適した材料であると言える。特に、Nbが添加された
鋼は、高い衝撃値が得られ、靭性が優れていることがわ
かる。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
ディスクブレーキ使用中の昇温による焼戻しによる軟質
化を効果的に抑制し、かつ硬度低下を抑制することがで
きる、焼入れのままで使用が可能な低炭素マルテンサイ
ト系ステンレス鋼板を得ることができる。また、N含有
量とTi,V,Nb,Zrの含有量との関係を適正にすること
により、これら成分が変動した場合でも安定した硬度を
得ることができるので、製造性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】Ti,V含有マルテンサイト系ステンレス鋼板に
おけるNと硬度との関係を示すグラフである。
【図2】Nb,Zr含有マルテンサイト系ステンレス鋼板に
おけるNと硬度との関係を示すグラフである。
【図3】Ti,V,Nb,Zr含有マルテンサイト系ステンレ
ス鋼板におけるNと硬度との関係を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 佐藤 進 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 村木 峰男 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 加藤 康 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 矢沢 好弘 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 古君 修 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 Fターム(参考) 3J058 AA48 AA53 AA62 BA32 BA44 BA46 BA61 EA04 FA02 4K037 EA05 EA12 EA13 EA15 EA16 EA17 EA19 EA20 EA27 EA31 EA32 EA35 EB06 EC01 FA02 FC03 FC04 FE03 FE05 FF02 FF03

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.5
    %以下、Mn:1.0〜2.5%、Cr:10.0超〜15.0%、Ni:1.
    0%以下、Cu:0.5%以下を含み、かつ、Ti:0.01〜0.5
    %、V:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜1.0%、Zr:0.01〜1.
    0%から選ばれるいずれか1種または2種以上を含有
    し、さらに次式、 N:0.005%〜(Ti+V)×14/50+(Nb+Zr)×14/90 を満たす範囲のNを含有し、残部はFeおよび不可避的不
    純物からなることを特徴とする、耐熱性に優れた低炭素
    マルテンサイト系ステンレス鋼板。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の鋼板において、上記成
    分に加え、さらにMo:0.05〜1.0%、B:0.0002〜0.001
    0%のうちの1種または2種を含有することを特徴とす
    る、低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板。
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