JP3315974B2 - 焼戻し軟化抵抗の高いディスクブレーキ用ステンレス鋼 - Google Patents

焼戻し軟化抵抗の高いディスクブレーキ用ステンレス鋼

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、焼戻し軟化抵抗の
高いディスクブレーキ用ステンレス鋼、さらに詳しく
は、二輪車あるいはスノーモービル等のディスクブレー
キ用として必要な硬さ、焼入れ性、耐錆性を満足すると
もにブレーキ使用時の加熱に伴う軟化に対する抵抗力の
高いマルテンサイト系ステンレス鋼に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】二輪車等のディスクブレーキ材には耐摩
耗性、耐錆性、靭性等が要求され、SUS410系のマ
ルテンサイト系ステンレス鋼が主に使用されている。耐
摩耗性は、一般に硬さが高いほど大きくなるが、高すぎ
るとブレーキとパッドの接触時にいわゆるブレーキの鳴
きと呼ばれる音が生じるため、ディスクブレーキの硬さ
は所定の範囲内に調整されている。
【0003】焼入れ熱処理後の硬さを所定の範囲内に安
定的に調整させ、さらに十分な靭性、耐錆性を満足させ
るために、C+N含有量をはじめ、Mn、Cu量等を調
整した鋼成分が、特開昭57−198249公報、特開
昭59−70748号公報、特公平2−7390号公
報、特開平10−152760号公報に開示されてい
る。すなわち、鋼中のMn,Cu含有量を調節して高温
でのオーステナイト相を十分確保した上で、CおよびN
の含有量を制御して所定の焼入れ後硬さを得る方法であ
る。これらの鋼成分により耐摩耗性、耐錆性、靭性を満
足する二輪車ディスクブレーキ材を供給することができ
るようになった。
【0004】一方、最近の二輪車の性能向上から、より
高速からの高いブレーキ制動力が要求されており、50
0℃を超えるブレーキ制動時の加熱に対してディスクブ
レーキ材の材質低下、特に硬さ低下が無いことが求めら
れてきている。しかし、上記鋼はいずれも素地がマルテ
ンサイト相であるため、500℃を超える温度に加熱さ
れると焼戻し軟化が生じる性質を有し、上記要求を満足
するディスクブレーキ材の開発が切望されていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来鋼の有
する耐摩耗性、耐錆性、靭性を維持しつつ、500℃を
超えるブレーキ制動時の加熱に対してディスクブレーキ
材の材質低下、特に硬さ低下が少ないディスクブレーキ
用ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成させるた
めに、ディスクブレーキに必要な本来の性能を損なうこ
となく、さらに大幅なコスト上昇にならないような成分
および添加元素を調査、実験検討した。そして、耐摩耗
性に関係する焼入れ後の硬さが30〜40HRC(ロッ
クウェル硬さCスケール)、望ましくは32〜38HR
Cを維持し、耐錆性および靭性を劣化させないように成
分範囲を規定した上に焼戻し軟化を抑制するNbを適量
添加することにより、HRC30を下回る焼戻し軟化温
度を30〜100℃以上上昇できることを見いだした。
【0007】本発明は、かかる知見に基づき完成された
ものであって、その要旨とするところは以下の通りであ
る。 (1)質量%で、 C:0.01〜0.1%、 N :0.03%以
下、 C+N:0.04〜0.1%、 Si:1%以下、 Mn:2%以下、 Ni:0.5%未満、 Cr:10〜15% Nb:0.02〜0.5%、を含有し 、残部Feおよび不可避不純物からなり、焼入
れ熱処理後の硬さがHRC30〜40を満足し、HRC
30を下回る焼戻し温度が530℃以上であることを特
徴とする、焼戻し軟化抵抗の高いディスクブレーキ用ス
テンレス鋼。
【0008】(2)質量%で、 Cu:0.1〜2%、 Mo:0.1〜1% の1種または2種を、さらに含有することを特徴とす
る、前記(1)に記載の焼戻し軟化抵抗の高いディスク
ブレーキ用ステンレス鋼。
【0009】(3)質量%で、 Ti:0.01〜0.5%、 V :0.04〜0.
5%、 B :0.0005〜0.01% の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴と
する、前記(1)または(2)に記載の焼戻し軟化抵抗
の高いディスクブレーキ用ステンレス鋼。
【0010】(4)鋼成分から計算される下記γpが7
0%以上であることを特徴とする、前記(1)ないし
(3)のいずれかに記載の焼戻し軟化抵抗の高いディス
クブレーキ用ステンレス鋼。 γp=420×[%C]+470×[%N]+23×[%Ni] +9×[%Cu]+7×[%Mn]−11.5×[%Cr] −11.5×[%Si]−12×[%Mo]−47×[%Nb] −52×[%Al]−49×[%Ti]−23×[%V] −500×[%B]+189
【0011】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施形態と限定条
件について詳細に説明する。Cは、焼入れ後所定の硬さ
を得るためには必須の元素であり、所定の硬度レベルに
なるようにNと組み合わせて添加する。しかし、0.1
%を超えて添加すると硬度が高すぎて、ブレーキの鳴
き、靭性劣化等の不具合が生じることから0.1%を上
限とした。また、0.01%未満では硬さを得るために
Nを過大に添加しなければならないことから下限とし
た。
【0012】Nは、Cと同様に焼入れ後に所定の硬度を
得るためには必須の元素であり、所定の硬度レベルにな
るようにCと組み合わせて添加する。しかし、0.03
%を超えて添加するとブレーキ制動時の加熱時に微細な
Nb窒化物が析出し、靭性が大きく劣化するためにこれ
を上限とした。
【0013】C+Nは、焼入れ後の硬さに直接関係する
量であり、所定の硬さレベルに調整するためには0.0
4%以上、0.1%以下とする必要がある。
【0014】Siは、鋼中に不可避的に含まれる成分で
あり、脱酸成分としも有効である。しかし、1%を超え
て添加すると焼入れ熱処理後の靭性が著しく低下するた
めに1%を上限とした。
【0015】Mnは、鋼中に不可避的に含まれる成分
で、高温でのオーステナイト相を確保して焼入れ性を確
保するために有効な元素であるが、2%を超えて添加す
ると耐錆性が低下するためにこれを上限とした。
【0016】Niは、工業的な溶製時に微量含まれる不
可避的成分であり、Mnと同様に高温でのオーステナイ
ト相を確保して焼入れ性を確保するために有効な元素で
あるが、0.5%以上添加するとオーステナイト相を著
しく安定化するため、熱処理後に緩冷却しても焼入れ硬
化し、ディスクブレーキ加工時に焼戻し軟化をすること
が困難になる。そのために0.5%未満を上限とした。
【0017】Crは、二輪車ディスクブレーキとして必
要な耐錆性を維持するために必要な基本元素であり、そ
の含有量が10%未満では十分な耐錆性を得ることがで
きない。15%を超えて添加すると高温でオーステナイ
ト相生成温度域が縮小し、焼入れ温度域でマルテンサイ
ト相に変態しないフェライト相が生成し、焼入れ後の硬
さを満足することができなくなる。そのため15%を上
限とした。
【0018】Nbは、ブレーキ制動時の加熱による焼戻
し軟化を抑制する重要な元素であり、本発明の目的を達
成するために必要不可欠な添加元素である。その効果を
発現させるためには、0.02%以上の添加量が必要で
あるが、0.5%を超えて添加すると靭性低下を招く。
そのため0.5%を上限とした。
【0019】Nbによる焼戻し軟化抑制は、マルテンサ
イト変態時に導入された多数の転位が加熱により消失
し、素地が軟化する回復現象を抑制するともに、微細な
Nb炭窒化物生成により、Crの粗大な炭窒化物が形成
し軟化することも抑制するものと考えられる。
【0020】図1は、Nbを0.06%および0.14
%添加した鋼(実施例表1中の記号DおよびEで示す
鋼)の焼戻し温度と硬さの関係を無添加(実施例表1中
の記号U)のものと比較した結果である。本図からNb
を微量添加することにより焼戻し軟化温度が著しく上昇
することが確認できる。
【0021】Cuは、MnあるいはNiと同様に高温で
のオーステナイト相を確保して、焼入れ性を確保するた
めに有効な元素であり、0.1%以上の添加で有意な効
果が認められるが、2%を超えて添加すると焼戻し加熱
時に逆に硬化し、靭性が著しく低下するために上限とし
た。
【0022】Moは、Crと同様に耐錆性を向上させる
元素であり、さらに焼戻し時に靭性が若干低下すること
を抑制するため、ディスクブレーキの品質をさらに高め
ることができる。その効果発現のためには、0.1%以
上の添加量が必要であるが、1%を超えて添加するとC
rと同様に高温でオーステナイト相生成温度域が縮小
し、焼入れ温度域でマルテンサイト相に変態しないフェ
ライト相が生成し、焼入れ後の硬さを満足することがで
きなくなる。
【0023】Ti,V,Bは、Nbのように顕著な焼戻
し軟化抑制効果はないが、Nb複合して適量添加する
ことにより焼戻し軟化抑制効果をさらに大きくすること
ができる。その効果を発現させるためにはTiは0.0
1%以上、Vは0.04%以上、Bは0.0005%以
上の添加が必要であるが、Ti及びVでそれぞれ0.5
%、Bで0.01%を超えて添加すると靭性低下が著し
くなるため、Ti,V:0.5%、B:0.01%を上
限とした。
【0024】個々の成分についての範囲と限定理由は上
記の通りであるが、焼入れ後の硬さを所定の範囲内に安
定的に収めるためには、個々の成分範囲の規定ととも
に、高温でのオーステナイト域を左右する成分バランス
を調整することが必要である。そのオーステナイト域を
把握する指標として次式で表されるγpが有効である。
本式で計算されるγpが70以上となるように成分を調
整することにより、高温でのオーステナイト相生成温度
域を確保できるが、工業熱処理上十分な焼入れ温度域を
確保し、焼入れ後の硬さを安定的に所定の範囲内に収め
るためにはγpが80以上とすることが望ましい。 γp=420×[%C]+470×[%N]+23×[%Ni] +9×[%Cu]+7×[%Mn]−11.5×[%Cr] −11.5×[%Si]−12×[%Mo]−47×[%Nb] −52×[%Al]−49×[%Ti]−23×[%V] −500×[%B]+189
【0025】その他の不可避的不純物については以下の
範囲に調整することが望ましい。Sは硫化物を、Oは酸
化物を形成し、錆発生の原因となるため、いずれの含有
量も0.02%以下に抑制することが望ましい。
【0026】Pは、焼入れ時および焼戻し加熱時の靭性
を低下するため、その含有量は0.05%以下に抑制す
ることが望ましい。
【0027】Alは脱酸元素として有効であるが、過度
に添加すると溶製時にスラグと反応し、鋼中のCaS系
の介在物が増加し、錆発生の原因となるため、その含有
量は0.03%以下に抑えることが望ましい。
【0028】
【実施例】表1示す化学成分を有する鋼塊を作製し、
厚さ5mmまで熱間圧延した。850℃まで加熱し除冷す
る軟化熱処理を施した後に各種熱処理用鋼板を切り出
し、各々に対して950℃に加熱し、10分間保持後水
冷する焼入れ熱処理を行った。焼入れままの鋼板から硬
さ測定試験片、耐錆性評価試験片、JIS4号サブサイ
ズ衝撃試験片を加工した。さらに、焼入れた鋼板を40
0〜700℃に加熱し、1時間保持後空冷する熱処理を
施し、軟化特性を調べるための硬さ試験片ならびに耐錆
性評価試験片、JIS4号サブサイズ衝撃試験片を同様
に加工した。
【0029】軟化特性については、ロックウェル硬さ試
験方法(JIS Z 2245)で硬さ測定し、HRC
30を下回る焼戻し温度で評価した。耐錆性について
は、上記試験片表面を#400研磨し、100時間の塩
水噴霧試験(JIS Z 2371)にて評価した。靭
性については、上記シャルピー試験片を25℃の室温に
おいて衝撃試験(JIS Z 2242)し、シャルピ
ー衝撃値で評価した。その結果を表2示す。
【0030】これらの表から、本発明条件を満たす鋼は
いずれも焼戻し軟化温度が高く、HRC30以上を保持
する焼戻し温度がいずれも530℃を超えている。ま
た、衝撃値および耐錆性も優れていることがわかる。N
適量添加していない比較鋼は焼戻し軟化温度が50
0℃程度と低く、またNb添加量あるいは他の成分が
適正でない比較鋼は、焼入れ時の硬さが不十分であった
り、靭性が低い等でディスクブレーキ材として不適切で
ある。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【発明の効果】本発明により、ブレーキ制動時の加熱に
伴う焼戻し軟化抵抗に優れ、さらにディスクブレーキ材
に必要な焼入れ性、耐錆性、靭性も満足する鋼を提供す
ることができ、高いブレーキ制動能力を求められる二輪
車にも適用でき、製造者のみならず本鋼を利用する者に
とっても多大な利益がもたらされ、工業的価値は極めて
高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】Nbを0.06%あるいは0.14%添加した
鋼の焼戻し温度と硬さの関係をNb無添加の従来鋼と比
較した図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 田上 利男 東京都千代田区大手町2−6−3 新日 本製鐵株式会社内 (72)発明者 山地 清 福岡県北九州市戸畑区飛幡町1番1号 新日本製鐵株式会社 八幡製鐵所内 (56)参考文献 特開 平11−279713(JP,A) 特開 昭60−230961(JP,A) 特開 昭59−70748(JP,A) 特開 昭61−78751(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 302 C22C 38/58 F16D 65/12

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、 C :0.01〜0.1%、 N :0.03%以下、 C+N:0.04〜0.1%、 Si:1%以下、 Mn:2%以下、 Ni:0.5%未満、 Cr:10〜15% Nb:0.02〜0.5%を含有し 、残部Feおよび不可避不純物からなり、焼入
    れ熱処理後の硬さがHRC30〜40を満足し、HRC
    30を下回る焼戻し温度が530℃以上であることを特
    徴とする、焼戻し軟化抵抗の高いディスクブレーキ用ス
    テンレス鋼。
  2. 【請求項2】 質量%で、 Cu:0.1〜2%、 Mo:0.1〜1% の1種または2種を、さらに含有することを特徴とす
    る、請求項1に記載の焼戻し軟化抵抗の高いディスクブ
    レーキ用ステンレス鋼。
  3. 【請求項3】 質量%で、 Ti:0.01〜0.5%、V :0.04〜0.5%、 B :0.0005〜0.01% の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴と
    する、請求項1または2に記載の焼戻し軟化抵抗の高い
    ディスクブレーキ用ステンレス鋼。
  4. 【請求項4】 鋼成分から計算される下記γpが70%
    以上であることを特徴とする、請求項1ないし3のいず
    れか1項に記載の焼戻し軟化抵抗の高いディスクブレー
    キ用ステンレス鋼。 γp=420×[%C]+470×[%N]+23×[%Ni] +9×[%Cu]+7×[%Mn]−11.5×[%Cr] −11.5×[%Si]−12×[%Mo]−47×[%Nb] −52×[%Al]−49×[%Ti]−23×[%V] −500×[%B]+189
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