JP5200332B2 - 焼戻し軟化抵抗の大きいブレーキディスク - Google Patents

焼戻し軟化抵抗の大きいブレーキディスク Download PDF

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Description

本発明は、オートバイや自動車、自転車などのディスクブレーキに用いられるブレーキディスクに関し、特に適正な硬さを有すると共に、焼戻し軟化抵抗の大きいブレーキディスクに関するものである。ここで、本発明でいう「焼戻し軟化抵抗の大きい」とは、高温に保持されたのちの軟化が小さく、初期の適正硬さに近い硬さを維持できる特性のことである。
オートバイや自動車等に採用されているディスクブレーキは、ブレーキディスクとブレーキパッドとの摩擦によって、運動エネルギーを熱エネルギーに変換して車輪の回転を抑え、制動するものである。そのため、上記ブレーキディスクには、適正な硬さを有すると共に耐磨耗性や靭性等にも優れることが求められる。特に、ブレーキディスクの硬さが低い場合には、ブレーキパッドとの摩擦による磨耗が進行しやすくなるほか、ブレーキの利き(制動性)が悪くなる。一方、ブレーキディスクが硬すぎる場合には、いわゆるブレーキ鳴きの原因となる。そのため、ブレーキディスクの硬さは、JIS Z2245で規定されたロックウェルC硬さ(HRC)で32〜38程度に管理されている。
ブレーキディスクに用いられる素材としては、硬さと耐食性の観点から、従来、マルテンサイト系ステンレス鋼が主に使用されている。このマルテンサイト系ステンレス鋼としては、一時、SUS420J2などの炭素量が高いステンレス鋼を焼入れ、焼戻し処理して使用していたが、焼戻し処理等の製造上の負荷が大きいという問題があったことから、近年では、特許文献1や特許文献2に開示されているような、焼入れたままで使用可能な低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼が使用されるようになってきている。
一方、近年では、地球環境を保護する観点から、オートバイや自動車等の燃費向上が強く求められている。燃費を向上するには、車体重量の軽減が有効であるため、車両の軽量化が進められている。制動装置であるディスクブレーキも例外ではなく、ブレーキディスクの小型化や厚みの低減(薄肉化)が行われている。しかし、ブレーキディスクの小型化、薄肉化は、ブレーキディスク自体の熱容量の低下を招くため、ブレーキディスクの温度は、制動時の摩擦熱によって650℃以上に上昇することがある。そのため、従来のマルテンサイト系ステンレス鋼を素材としたブレーキディスクでは、上記摩擦熱により焼戻しされて軟化し、耐久性が低下するという問題があった。
このような問題に対しては、例えば、特許文献3には、Ti,Nb,V,Zrのうちの1種または2種以上とNを含有させることにより、ディスクブレーキ制動中の昇温による軟化を抑制する低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼が提案されている。また、特許文献4には、NbあるいはNbと共に、Ti,V,Bのうちの1種または2種以上を複合して添加し、焼戻し軟化を抑制するディスクブレーキ用ステンレス鋼が提案されている。また、特許文献5には、鋼中のC,N,Ni,Cu,Mn,Cr,Si,Mo,V,TiおよびAlの関係式で表されるGP値(高温でのオーステナイト比率)を50%以上に調整すると共に、Nb,Vのうちの1種または2種を添加することにより、制動時の昇温による焼戻し軟化を抑制するディスクブレーキロータ用鋼が提案されている。
特開昭57−198249号公報 特開昭60−106951号公報 特開2002−146489号公報 特許第3315974号公報 特開2002−121656号公報
しかしながら、特許文献3〜5に記載されたブレーキディスク用ステンレス鋼は、高価な合金元素を多量に添加することから製造コストが高く、また、ブレーキ制動時の摩擦熱による焼戻し軟化抵抗も十分ではないため、650℃以上の温度に長時間保持されると、硬さが急激に低下するという問題を有するものであった。
そこで、本発明の目的は、従来技術が抱える上記問題点を解決し、適正な硬さを有すると共に、焼戻し軟化抵抗の大きいブレーキディスクを提供することにある。
発明者らは、上記課題を解決するため、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて製造したブレーキディスクの焼戻し軟化抵抗に影響を及ぼす各種要因について詳細に調査した。その結果、ブレーキディスク用素材として特定の成分組成を有する低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を用いると共に、焼入れ後の旧オーステナイト粒の平均粒径を8μm以上とする、および/または、焼入れ後の析出Nb量を全Nb量に対して所定値以下に調整することにより、硬さが適正範囲(HRC:32〜38)であると共に、焼戻し軟化抵抗にも優れる(650℃×1hrの焼戻し後の硬さがHRC:30以上)ブレーキディスクが得られることを見出した。
さらに、発明者らは、低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の焼戻し軟化抵抗の向上を図るには、焼入後のマルテンサイト組織中に内在する転位の密度を適正範囲に制御すると共に、Cu等の転位上に優先的に微細析出する元素を添加して転位の回復を抑制し、焼戻し後のマルテンサイト組織中に内在する転位密度を適正範囲に制御することが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、C:0.1mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:2.0mass%以下、Cr:10.5〜15.0mass%、Ni:2.0mass%以下、Cu:0.5超〜4.0mass%、Nb:0.02〜0.6mass%、N:0.1mass%以下を含有し、さらに、C,N,Nb,Cr,Si,Ni,Mn,MoおよびCuを、下記(1)式および(2)式;
5Cr+10Si+15Mo+30Nb−9Ni−5Mn−3Cu−225N−270C<45 ・・・(1)
0.03≦{C+N−(13/93)Nb}≦0.09 ・・・(2)
を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、かつ旧オーステナイト粒の平均粒径が8μm以上であるマルテンサイト組織を有すると共に、析出したNbの量と含有する全Nbの量との比(析出Nb量/全Nb量)が0.75未満であり、焼入れ後の硬さがHRCで32〜38であることを特徴とする焼戻し軟化抵抗の大きいブレーキディスクである。
本発明の上記ブレーキディスクは、マルテンサイト組織中に内在する転位の密度ρの平方根(√ρ)が0.8〜1.3×10−1であることを特徴とする。
また、本発明の上記ブレーキディスクは、650℃で1hr保持する焼戻し後の硬さがHRCで30以上であること、あるいは、650℃で1hr保持する焼戻し後のマルテンサイト組織中に内在する転位の密度ρの平方根(√ρ)が0.6〜1.3×10−1であり、該転位上にはCuが微細析出してなることを特徴とする。
また、本発明の上記ブレーキディスクは、上記成分組成に加えてさらに、下記A〜C群のうちの少なくとも1群の成分を含有することを特徴とする。

A群;Mo:0.01〜2.0mass%、Co:0.01〜1.0mass%のいずれか1種または2種
B群;Ti:0.06〜0.3mass%、V:0.02〜0.3mass%、Zr:0.08〜0.3mass%およびTa:0.02〜0.3mass%のうちから選ばれた1種または2種以上
C群;B:0.0005〜0.0050mass%、Ca:0.0005〜0.0050mass%のいずれか1種または2種
本発明によれば、硬さがHRC:32〜38を有すると共に、650℃で1hr保持する焼戻し後の硬さがHRC:30以上である焼戻し軟化抵抗の大きいブレーキディスクを、多量の合金元素を添加することなく安価に提供することができる。
本発明を開発する契機となった実験について説明する。
C:0.04mass%、Cr:12mass%、Si:0.1mass%、Mn:1.5mass%、N:0.04mass%、Nb:0.12mass%、Ni:0.7mass%、Cu:1.0mass%および残部が実質的にFeからなる低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板を、加熱温度を1000〜1150℃の間で4水準に変化させて加熱し、1分間保持してから、200℃までを平均冷却速度10℃/secで空冷する焼入れ処理を施した。この焼入れ後の鋼板断面の金属組織を観察し、旧オーステナイト(以下、「旧γ」ともいう)粒の平均粒径を測定したところ、焼入れ温度が1000℃で5μm、1050℃で8μm、1100℃で10μm、1150℃で15μmであった。その後、上記焼入れ後の鋼板を、650℃の温度に1hr保持してから空冷する焼戻し処理を施した。上記のようにして得た焼戻し処理前の鋼板および焼戻し処理後の鋼板について、表層の酸化層を除去してから、ロックウェル硬度計で表面の硬さ(HRC)を測定した。
図1は、旧オーステナイト(γ)粒の平均粒径が、鋼板表面の硬さ(HRC)に及ぼす影響を示したものである。図1から、上記成分組成のステンレス鋼板においては、合金元素を多量に添加していないにも拘わらず、旧γ粒の平均粒径を8μm以上とした場合には、焼入れ後の硬さがHRC:32〜38であると共に、650℃で1hr保持する焼戻し処理を施した後でも、HRCで30以上の硬さを維持できることがわかる。この結果から、焼入れ後の硬さをHRCで32〜38とし、さらに、650℃で1hrの焼戻し後の硬さをHRCで30以上とするためには、焼入れ後の旧γ粒の平均粒径が8μm以上のマルテンサイト組織とすることが重要であることがわかった。
上記のように、焼入れ後の旧γ粒が大きいほど焼戻し軟化抵抗が大きくなる原因については、まだ十分に明らかになっていないが、次にように考えている。一般に、焼入れ後の焼戻し過程では、結晶粒内に固溶しているCr,Nb等の合金元素は拡散して、結晶粒内に微細な析出物(Cr炭化物,Nb炭窒化物等)を生成すると共に、結晶粒界に達した合金元素は、粒界に粗大な析出物を形成する。ここで、旧γ粒が微細な金属組織では、粒内の合金元素が旧γ粒界まで到達するのに必要な拡散距離が短いため、焼戻しを受けると、容易に旧γ粒界に粗大な析出物(Cr炭化物)を形成する。その結果、結晶粒内に析出する微細な析出物が減少して、十分な析出強化が得られなくなる。しかも、粒界に析出した粗大な析出物は、析出強化への寄与が小さい。一方、旧γ粒が粗大な金属組織では、結晶粒内に固溶しているCr,Nb等の合金元素が、旧γ粒界まで到達する拡散距離が長くなる。そのため、焼戻しを受けたときに、合金元素は、旧γ粒界まで達し難く、旧γ粒内に微細な析出物となって析出する。この析出物は、転位運動の抵抗となるため、焼戻し軟化抵抗が大きくなるものと推察される。
次に、C:0.04mass%、Cr:12.1mass%、Si:0.2mass%、Mn:1.6mass%、N:0.04mass%、Nb:0.13mass%、Ni:0.6mass%、Cu:1.0mass%および残部が実質的にFeからなる低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼板を、加熱温度を900〜1150℃の間で6水準に変化させて加熱し、1分間保持してから、200℃までを平均冷却速度10℃/secで空冷する焼入れ処理を施し、この焼入れ後の鋼板について、析出物として析出した析出Nb量と、含有する全Nb量を測定し、それらの比(析出Nb量/全Nb量)を求めた。その後、上記焼入れ後の鋼板を、650℃の温度に1hr保持してから空冷する焼戻し処理を施してから、表層の酸化層を除去し、ロックウェル硬度計で表面の硬さ(HRC)を測定した。なお、上記析出Nb量は、電解抽出した残渣を化学分析して測定し、また、全Nb量は、通常の化学分析により求めた。
図2は、上記結果をもとに、焼入れ後の(析出Nb量/全Nb量)が焼戻し処理後の鋼板の硬さに及ぼす影響について示したものである。図2から、650℃で1hr保持する焼戻し処理後においてもHRC:30以上を維持できる焼戻し軟化抵抗を確保するためには、焼入れ後の(析出Nb量/全Nb量)が0.75未満であることが必要であることがわかる。
焼入れ後の(析出Nb量/全Nb量)が低い方が、焼戻し軟化抵抗が大きい理由は、以下のように考えられる。焼入れを行う前の鋼板では、添加されているNbのほとんどが析出物として存在するため、(析出Nb量/全Nb量)は、通常、0.9以上である。しかし、焼入れ処理における加熱により、上記析出Nbの一部が固溶し、この固溶したNbは、焼入れ後の焼戻し時に微細に析出して、析出強化に寄与する。しかし、焼入れ時の加熱が十分でない場合には、析出Nbの溶解が不十分となり、焼入れ後の固溶Nb量が減少するため、その後の焼戻しで析出するNb析出物の量が少なくなり、焼戻し軟化抵抗が低下するものと考えられる。
ところで、焼入れによって得られるマルテンサイト組織は、内部に高密度の転位を内在した組織であり、この転位密度が高い程、硬くなることはよく知られている。そこで、発明者らは、鋼のマルテンサイト中に内在している転位密度と、ブレーキディスクの硬さとの関係を調査した。その結果、硬さとマルテンサイト中の転位密度とは密接な関係があり、マルテンサイト中の転位密度を適正範囲に調整することにより、ブレーキディスクの硬さを適正範囲に制御することが可能であること、そして、ブレーキディスクの焼戻しによる軟化を防止するためには、何らかの手段によって、マルテンサイト組織中の転位の回復を抑制し、転位密度を適正範囲に維持することが有効であることを見出した。さらに、転位の回復を阻害する手段について検討した結果、鋼成分としてCuを添加し、焼戻しを受けた際に、Cuを転位上に微細に析出させることで、転位の回復を著しく抑制できることを見出した。
本発明は、上記知見に基き開発したものである。
次に、本発明のブレーキディスクの成分組成を、上記範囲に制限する理由について説明する。
C:0.1mass%以下
Cは、ブレーキディスクの硬さを決定する元素であり、焼入れ後に適正な硬さ(HRC:32〜38)を確保するためには、0.03mass%以上含有することが好ましい。しかし、0.1mass%を超えて含有すると、粗大なCr炭化物(Cr23)を形成して発錆の起点となり、耐食性を低下させるほか、靭性も低下させるので、Cは、0.1mass%以下とする必要がある。なお、耐食性の観点からは、0.05mass%未満とすることが好ましい。
Si:1.0mass%以下
Siは、脱酸剤として添加される元素であり、0.05mass%以上含有することが望ましい。しかし、Siは、フェライト相安定化元素であり、1.0mass%を超える過剰な添加は、焼入れ性を阻害して焼入れ硬さ低下させるほか、靭性を劣化させる。そのため、Siは、1.0mass%以下に限定する。靭性を維持する観点からは、0.5mass%以下が好ましい。
Mn:2.0mass%以下
Mnは、高温でのδ−フェライト相の生成を抑制して焼入れ性を向上するので、安定した焼入れ硬さを得るのに有用な元素であり、0.3mass%以上含有することが望ましい。しかし、2.0mass%を超えて含有すると、Sと結合してMnSを形成し、耐食性を低下させることから、2.0mass%以下に制限する。焼入れ性をより向上するためには、1.0mass%超えが好ましく、より好ましくは1.2mass%超えである。
Cr:10.5〜15.0mass%
Crは、ステンレス鋼の特徴である耐食性を確保するのに必須の元素であり、十分な耐食性を確保するには10.5mass%以上含有することが必要である。一方、15.0mass%を超えて含有すると、加工性、靭性が低下するようになる。そのため、Crは、10.5〜15.0mass%の範囲に制限する。なお、十分な耐食性を得る観点からは11.5mass%超、靭性を確保する観点からは13.0mass%未満とすることが好ましい。
Ni:2.0mass%以下
Niは、耐食性を向上すると共に、650℃を超える高温でのCr炭化物の析出を遅らせて、Cを過飽和に含むマルテンサイト相の硬さの低下を抑制し、焼戻し軟化抵抗を向上する効果がある。さらに、ステンレス鋼の特徴である耐食性を向上すると共に、靭性の改善にも寄与する。それらの効果は、0.1mass%以上の添加で認められる。しかし、2.0mass%を超えて添加しても、焼戻し軟化抵抗の向上効果は飽和し、含有量に見合う効果が得られなくなるため、2.0mass%以下に制限する。なお、焼戻し軟化抵抗を向上する観点からは、0.5mass%以上添加することが好ましい。
Cu:0.5超〜4.0mass%
Cuは、焼戻しを受けた際に、マルテンサイト組織中に存在する転位上にε−Cuとして微細に析出し、焼戻し軟化抵抗を著しく向上する元素であり、その効果を得るためには0.5mass%超え添加する必要がある。しかし、4.0mass%を超えて添加すると、靭性の劣化を招く。よって、Cuは、0.5超〜4.0mass%の範囲で添加する。なお、靭性を確保する観点からは、1.5mass%未満で含有することが好ましい。
Nb:0.02〜0.3mass%
Nbは、焼入れ後、650℃程度の高温に保持された際に、炭窒化物を形成して析出硬化し、焼戻し軟化抵抗を向上する元素である。その効果を得るためには、0.02mass%以上添加する必要がある。一方、0.3mass%を超えて添加すると靭性が低下するため、Nbは、0.02〜0.3mass%の範囲に制限する。なお、焼戻し軟化抵抗を向上する観点からは、好ましくは0.08mass%超え、さらに好ましくは0.11mass%以上添加するのがよい。しかし、靭性を確保する観点からは0.2mass%以下にすることが好ましい。
N:0.1mass%以下
Nは、Cと同様に、焼入後の鋼の硬さを高める元素である。特に、Nは、500〜700℃の温度範囲で微細なCr窒化物(CrN)を形成し、その析出硬化作用によって焼戻し軟化抵抗を向上する効果がある。この効果を得るためには、Nを0.03mass%超え含有することが望ましい。一方、Nの過度の添加は、靭性の低下を招くので、0.1mass%以下に制限する必要がある。
本発明のブレーキディスクは、上記基本成分が、上記範囲で含有していることのほか、下記(1)および(2)式;
5Cr+10Si+15Mo+30Nb−9Ni−5Mn−3Cu−225N−270C<45 ・・・(1)
0.03≦{C+N−(13/93)Nb}≦0.09 ・・・(2)
ここで、Cr,Si,Mo,Nb,Ni,Mn,Cu,NおよびCは、各合金成分の含有量(mass%)
を満たして含有していることが必要である。なお、上記(1)式の左辺および(2)式の中間項を計算するに当たっては、Cu:0.1mass%未満、Nb:0.02mass%未満、Mo:0.01mass%未満、Ni:0.1mass%未満の場合には、その元素の含有量は0(ゼロ)として行う。
5Cr+10Si+15Mo+30Nb−9Ni−5Mn−3Cu−225N−270C<45 ・・・(1)
(1)式は、優れた焼入安定性を確保する条件を示すものである。ここで「優れた焼入れ安定性」とは、オーステナイト領域および焼入れ温度範囲が広くて、焼入れ加熱時にオーステナイト(γ)相が75vol%以上生成し、空冷以上の速度で冷却する焼入れを行った際に、オーステナイト相がマルテンサイト相に変態して所定の焼入れ硬さが安定して確保できることを意味する。上記(1)式の左辺の値が45以上では、焼入れ加熱した際に、オーステナイト相が75vol%以上生成しないか、あるいは生成する温度範囲が極端に狭くなり、安定して焼入れ硬さを確保できなくなるため、(1)式の左辺の値は45未満に規制する必要がある。
0.03≦{C+N−(13/93)Nb}≦0.09 ・・・(2)
(2)式は、焼入れ硬さを所定の適正範囲内とする条件を示すものである。焼入れ硬さは、C,Nの含有量と強い相関がある。しかし、Nbと結合して炭窒化物を形成したC,Nは焼入れ後の硬さの向上には寄与しなくなる。そのため、焼入れ後の硬さは、鋼中の全C,N量から析出物として析出したC,N量を差し引いた、(2)式の中間項{C+N−(13/93)Nb}で考える必要がある。(2)式の中間項の値が0.03未満では、焼入れ後の硬さがHRC:32を下回り、逆に、0.09を超えると、硬さがHRC:38を上回るようになる。従って、焼入後のブレーキディスクの硬さを適正な硬さ(HRC:32〜38)とするためには、(1)式の中間項を0.03〜0.09の範囲に制限する必要がある。
また、本発明のブレーキディスクは、前述した基本成分以外に、必要に応じて、下記の成分を添加することができる。
Mo:0.01〜2.0mass%、Co:0.01〜1.0mass%のうちの1種または2種
Mo,Coは、いずれも耐食性の向上に有効な成分であり、必要に応じて0.01mass%以上添加することができる。特に、Moは、炭窒化物の析出を抑制し、焼戻し軟化抵抗を向上する効果が大きい。これらの効果を安定して得るためには、0.02mass%以上添加することが好ましい。なお、Moの焼戻し軟化抵抗の向上効果は、0.05mass%未満の添加でも十分に得ることができる。一方、Moが2.0mass%、Coが1.0mass%を超えて含有しても、Mo,Coの耐食性向上効果やMoの焼戻し軟化抵抗の向上効果が飽和してしまう。そのため、Moは2.0mass%、Coは1.0mass%を上限とするのが好ましい。
Ti:0.02〜0.3mass%、V:0.02〜0.3mass%、Zr:0.02〜0.3mass%、Ta:0.02〜0.3mass%のうちの1種または2種以上
Ti,V,ZrおよびTaはいずれも、Nbと同様に、炭窒化物を形成して析出し、焼戻し軟化抵抗を高める元素であり、必要に応じて添加することができる。この焼戻し軟化抵抗を高める効果は、Ti,V,ZrおよびTaの各元素とも、0.02mass%以上の添加で得ることができる。特に、Vの効果は大きいので、Vを0.05mass%以上、より好ましくは0.10mass%以上添加することが好ましい。一方、Ti,V,ZrおよびTaの各元素の添加量が0.3mass%を超えると靭性の低下が著しくなる。そのため、Ti,V,ZrおよびTaは、Ti:0.02〜0.3mass%、V:0.02〜0.3mass%、Zr:0.02〜0.3mass%、Ta:0.02〜0.3mass%の範囲で添加することが好ましい。
B:0.0005〜0.0050mass%、Ca:0.0005〜0.0050mass%の1種または2種
B,Caは、微量の添加によって、鋼の焼入れ性、靭性を高める効果があり、必要に応じてそれぞれ0.0005mass%以上添加することができる。しかし、0.0050mass%を超えて添加しても、上記効果が飽和する他、耐食性をも低下させるので、それぞれ0.0050mass%を上限とするのが好ましい。
本発明のブレーキディスクは、上記成分以外は、Feおよび不可避的不純物からなる。ただし、不可避的不純物としてのP,SおよびAlは、下記の範囲であることが好ましい。
P:0.04mass%以下
Pは、熱間加工性を低下させる元素であり、できる限り低減することが好ましい。しかし、過剰なPの低減は、製鋼コストの上昇を招くため0.04mass%を上限とすることが好ましい。さらに、熱間圧延性を確保する観点からは、P含有量を0.03mass%以下にすることがより好ましい。
S:0.010mass%以下
Sは、Pと同様に、熱間加工性を低下させるため低いほど好ましいが、製鋼での脱Sコストとの兼ね合いから、0.010mass%以下とするのが好ましい。熱間加工性を確保する観点からは、S含有量は0.005mass%以下がより好ましい。
Al:0.2mass%以下
Alは、脱酸剤として添加する元素であるが、不純物として過剰に残留していると、耐食性、靭性および表面性状を劣化させる。そのため、Alは0.2mass%以下に制限することが好ましく、さらに十分な耐食性を得るためには、0.05mass%以下がより好ましい。
なお、本発明のブレークディスクは、上記不可避的不純物以外の成分として、Na,Li等のアルカリ金属、Mg,Ba等のアルカリ土類金属、Y,La等の希土類元素およびHf等の遷移金属などがそれぞれ0.05mass%以下含有されていても、本発明の効果を何ら妨げるものではない。
次に、本発明のブレーキディスクが有する金属組織について説明する。
旧γ粒の平均粒径:8μm以上
本発明のブレーキディスクは、素材鋼板(マルテンサイト系ステンレス鋼板)の成分組成を上記範囲とすることにより、焼入れ後の硬さをHRC:32〜38の範囲に制御することができる。しかし、さらに、650℃で1hr保持する焼戻し処理後においてもHRC:30以上を確保できる焼戻し軟化抵抗を有するためには、先述した図1に示したように、旧γ粒の平均粒径が8μm以上のマルテンサイト組織を有するものとする必要がある。旧γ粒の平均粒径が8μm未満では、旧γ粒内に析出する微細な析出物が少な過ぎて、大きな焼戻し軟化抵抗が得られないからである。耐焼戻し軟化抵抗をより安定して確保する観点からは、旧γ粒の平均粒径は10μm以上とすることが好ましく、さらに好ましくは15μm以上である。
焼入れ後の(析出Nb量/全Nb量):0.75未満
また、本発明のブレーキディスクは、650℃で1hr保持する焼戻し処理後においてもHRCで30以上である焼戻し軟化抵抗を有するためには、先述した図2に示したように、(析出Nb量/全Nb量)が0.75未満であることが必要である。焼入れ後の(析出Nb量/全Nb量)が0.75以上の場合には、粒内に固溶しているNbの量が少な過ぎて、十分な焼戻し軟化抵抗が得られないからである。より高い焼戻し軟化抵抗を得るためには、(析出Nb量/全Nb量)は0.5以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.4以下である。
マルテンサイト組織中の転位密度
本発明のブレーキディスクは、焼入れ後の硬さがHRCで32〜38の範囲にあることが必要であり、そのためには、焼入れ後のブレーキディスクのマルテンサイト組織中に内在する転位密度ρの平方根(√ρ)は、0.8〜1.3×10−1の範囲であることが好ましい。また、本発明のブレーキディスクは、650℃で1hr保持する焼戻し後の硬さがHRCで30以上であることが好ましく、そのためには、上記焼戻し後のマルテンサイト組織中に内在する転位の密度ρの平方根(√ρ)は、0.6〜1.3×10−1の範囲あることが好ましい。そして、焼戻し後の上記転位密度は、焼戻し時に転位上にCuが微細に析出することによって実現される。
次に、本発明のブレーキディスクの素材となるマルテンサイト系ステンレス鋼板の製造方法について説明する。なお、上記ステンレス鋼板は、本発明の条件を満たす限り、熱延鋼板、冷延鋼板のいずれでもよい。
本発明のブレーキディスクに用いるマルテンサイト系ステンレス鋼板は、上述した成分組成に適合する鋼を、通常公知の方法、例えば、転炉あるいは電気炉等で溶製し、その後、VOD(Vacuum Oxygen Decarburization)やAOD(Argon Oxygen Decarburization)等で2次精錬し、鋳造し、鋼素材(スラブ)とするのが好ましい。なお、鋼素材を製造する方法には、造塊−分塊法と連続鋳造法が一般的であるが、生産性および品質面からは、連続鋳造法で製造することが好ましい。
上記のように、ブレーキディスクの素材には、マルテンサイト系ステンレス鋼の熱延鋼板、冷延鋼板のいずれも用いることができるが、オートバイや自動車等のブレーキディスクには、一般に、板厚が3〜8mm程度の熱延鋼板が用いられることが多い。この場合には、上記鋼素材を、1100〜1250℃に再加熱したのち熱間圧延して所定の板厚の熱延鋼帯(鋼板)とし、さらに必要に応じて、バッチ式炉等で、750℃超〜900℃の温度で10hr程度の熱延板焼鈍を施して、ブレーキディスクの素材とするのが好ましい。さらに必要に応じて、酸洗やショットブラスト等の脱スケールを行ってもよい。
また、自転車用等のブレーキディスクには、その厚さが2mm程度であることから、一般に、冷延鋼板が用いられる。この場合には、上記熱延鋼帯をさらに冷間圧延したのち、600〜800℃の焼鈍後、必要に応じてさらに酸洗処理を行い、ディスク素材として用いるのが好ましい。
次に、上記マルテンサイト系ステンレス鋼板のディスク素材から、本発明のブレーキディスクを製造する方法について説明する。
上記に説明したマルテンサイト系ステンレス鋼の熱延鋼板あるいは冷延鋼板のディスク素材を、打ち抜き加工等により所定の寸法のディスク形状に加工し、さらに、制動時に発生する摩擦熱を放散して制動性を高める効果を有する冷却穴等を加工してから、ブレーキパッドが当たる摩擦部を、高周波誘導加熱等で所定の焼入温度まで加熱し、所定の時間保持してから室温まで冷却する焼入処理を施してHRCで32〜38の硬さに調整し、その後、上記焼入れ処理で表面に生成したスケールをショットブラスト等で除去し、さらに必要に応じて、円盤表面や打抜き剪断面に塗装を施し、最後に、機械的精度の向上を目的として、上記摩擦部を機械研削して製品(ブレーキディスク)とするのが一般的である
ここで、本発明のブレーキディスクを製造するためには、上記焼入処理条件を以下の条件で行うことが好ましい。
焼入温度:1000℃超え
焼入温度(焼入れ時の加熱温度)は、γ領域内の温度である1000℃超えの温度とすることが好ましい。ここで、γ領域とは、オーステナイト相の分率が75vol%以上生成する温度領域を言う。焼入温度を1000℃超えとすることにより、焼入れ後の硬さを適正範囲(HRC
32〜38)に収めることができると共に、旧γ粒の平均粒径を8μm以上および/または(析出Nb量/全Nb量)を0.75未満とすることができる。その結果、焼戻し軟化抵抗が著しく向上して、650℃の高温で1hr焼き戻しされた場合でも、硬さの低下を抑制することができる。なお、焼入温度が1000℃以下の場合でも、保持時間を長くすることにより、旧γ粒径を大きくし、および/または、析出Nb量を減少させて、焼戻し軟化抵抗を向上することができる場合があるが、生産性が低下するので好ましくない。焼戻し軟化抵抗をより高めるためには、焼入温度は、1050℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは1100℃以上である。一方、焼入温度が1200℃を超えると、δ−フェライトの生成量が多くなり、75vol%以上のオーステナイト(γ)相を確保できなくなる場合があるため、焼入れ温度は1200℃以下とすることが好ましい。焼入安定性を確保する観点からは、1150℃以下がより好ましい。なお、焼入温度での保持時間は、フェライト相からオーステナイト相への変態を十分に行わせる観点からは、30秒以上とすることが望ましい。焼入れのための加熱方法は、特に限定しないが、生産性の観点からは、高周波誘導加熱が好ましい。
冷却速度:1℃/sec以上
上記焼入温度に加熱した後は、冷却速度1℃/sec以上でMs点以下、望ましくは200℃以下まで冷却するのが好ましい。冷却速度が1℃/sec未満では、焼入温度で生成したオーステナイト相の一部がフェライト相に変態し、マルテンサイト相の生成量が低下して、焼入れ後の硬さを適正範囲(HRC:32〜38)とすることができなくなる。好ましい冷却速度は、5〜500℃/secの範囲であるが、安定した焼入れ硬さを得るためには、100℃/sec以上であることがより好ましい。
このようにして得られる本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼製のブレーキディスクは、硬さがHRC:32〜38の範囲内であり、かつ、旧γ粒の平均粒径が8μm以上および/または(析出Nb量/全Nb量)を0.75未満であるため、650℃で1hr保持する焼戻し後でもHRC:30以上の硬さが維持できるという優れた焼戻し軟化抵抗を有するものとなる。
表1に示したA〜Sの異なる成分組成を有する19種のマルテンサイト系ステンレス鋼を、高周波溶解炉で溶製し、鋳造して50kg鋼塊とし、その後、通常公知の条件で熱間圧延を行い、厚さ5mmの熱延板とし、次いで、これらの熱延板に、還元性雰囲気中で800℃×8hrの焼鈍を行う熱延板焼鈍を施してから徐冷し、酸洗して表面のスケールを除去し、熱延焼鈍板とした。これらの熱延焼鈍板から、板厚×30mm×30mmの試験片を採取し、その試験片に対して、表2−1〜3に示した条件で、焼入処理を施した。この焼入れ後の試験片について、下記の要領で、金属組織観察、析出Nb量の測定、焼入れ安定性試験、焼戻し軟化試験および焼入れ後と焼戻し後の転位密度の測定を行った。なお、表2−1〜3中に示す「γ領域の最高温度」とは、オーステナイト(γ)相が75vol%以上生成する最高温度のことであり、それ以上の温度では、δ相(フェライト相)が増加し、γ相を75vol%以上確保できなくなることを意味する。
<金属組織観察>
焼入れ後の試験片から、金属組織観察用試験片を採取し、圧延方向と平行な板厚方向断面を研磨し、村上試液(赤血塩のアルカリ溶液(赤血塩:10g、水酸化カリウム:10g、水:100ml))で腐食して旧γ粒界を現出させてから、光学顕微鏡を用いて400倍で5視野以上観察(1視野:0.2×0.2mm)し、画像解析装置を用いて、上記視野内に含まれる各粒の面積を測定して円相当径(直径)に換算し、それらの平均値を、各試験片の旧γ粒の平均粒径とした。
<析出Nb量の測定>
焼入れ処理後の試験片から、電解抽出用試験片を採取し、この試験片を、アセチルアセトン(10vol%)−塩化テトラメチルアンモニウム(1g/100ml)−メタノールからなる電解液を用いて電解処理してから、メンブランフィルタ(孔径0.2μm)を用いてろ過してから洗浄し、残渣を抽出した。この抽出した残渣について、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置を用いてNb量を測定し、この値を析出Nb量とした。
<焼入れ安定性試験>
上記焼入れ後の試験片を酸洗し、表面のスケールを除去してから、JIS Z2245に準拠してロックウェル硬度計で試験片表面の硬さ(HRC)を各5点ずつ測定し、その平均値を焼入れ硬さとした。そして、この硬さがHRC:32〜38の範囲内であれば、十分な焼入れ安定性を具えていると評価した。
<焼戻し軟化試験>
上記焼入れ後の試験片を、さらに、加熱温度650℃で、表2−1〜3に示す保持時間で、加熱、保持し、空冷する焼戻し処理を施してから、この試験片を酸洗して表面のスケールを除去し、JIS Z2245に準拠してロックウェル硬度計で試験片表面の硬さ(HRC)を各5点ずつ測定し、その平均値を求め、その硬さがHRC:30以上ならば、十分な焼戻し軟化抵抗を具えていると評価した。
<転位密度の測定>
転位密度ρは、上記焼入れ後の試験片と、650℃で焼戻し後の試験片について、X線解析により求めた。X線回折は、X線源にCo管球を用い、集中光学系、ステップ幅0.01°のステップスキャン、発散スリット1°、受光スリット0.15mmの条件で、測定する回折線のピークカウントが数千カウントの強度になるように各ピークの計測時間を調整して行った。なお、転位密度の算出には、{200}を除外して、{100}、{211}、{220}の3本のピーク(本鋼種の成分では、マルテンサイトであっても立方晶)を用いた。また、MDI社製のX線回折パターン解析プログラムJADE5.0を用いて、各ピークのKα1とKα2を分離した後、この半価幅を、焼鈍したSi粉末を歪のない理想試料として測定した装置による半価幅の広がりで補正し、真の半価幅を求めた。このようにして得た真の半価幅から、Willamson・Hall法により、不均一歪(ε)を算出し、下記式;
ρ=14.4ε/b(ただし、b:バーガースベクトルの大きさ=0.25nm)
を用いて転位密度を算出した。
Figure 0005200332
Figure 0005200332
Figure 0005200332
Figure 0005200332
上記試験の結果を、表2−1〜3中に併記して示した。本発明の条件を満たした実施例(発明例)はいずれも、焼入れ硬さがHRC:32〜38の範囲内で、焼入れ安定性に優れていると共に、焼戻し後の硬さもHR:30以上が得られており、十分な焼戻し軟化抵抗を有している。一方、本発明の条件を外れた比較例は、焼入れ硬さがHRC:32〜38の範囲を外れるか、あるいは、焼戻し後の硬さがHRC:30未満に低下しており、焼戻し軟化抵抗が劣っていることがわかる。
本発明の技術は、高い焼戻し軟化抵抗が必要とされる、タービン翼などに用いられる耐熱鋼や、ばね、工具などに用いられる高強度鋼の分野にも適用することができる。
焼入れ後および焼戻し後の硬さ(HRC)に及ぼす旧オーステナイト粒の平均粒径の影響を示すグラフである。 焼戻し後の硬さ(HRC)に及ぼす(析出Nb量/全Nb量)の影響を示すグラフである。

Claims (7)

  1. C:0.1mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:2.0mass%以下、Cr:10.5〜15.0mass%、Ni:2.0mass%以下、Cu:0.5超〜4.0mass%、Nb:0.02〜0.6mass%、N:0.1mass%以下を含有し、さらに、C,N,Nb,Cr,Si,Ni,Mn,MoおよびCuを、下記(1)式および(2)式を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、かつ旧オーステナイト粒の平均粒径が8μm以上であるマルテンサイト組織を有すると共に、析出したNbの量と含有する全Nbの量との比(析出Nb量/全Nb量)が0.75未満であり、焼入れ後の硬さがHRCで32〜38であることを特徴とする焼戻し軟化抵抗の大きいブレーキディスク。

    5Cr+10Si+15Mo+30Nb−9Ni−5Mn−3Cu−225N−270C<45 ・・・(1)
    0.03≦{C+N−(13/93)Nb}≦0.09 ・・・(2)
  2. マルテンサイト組織中に内在する転位の密度ρの平方根(√ρ)が0.8〜1.3×10−1であることを特徴とする請求項1に記載のブレーキディスク。
  3. 650℃で1hr保持する焼戻し後の硬さがHRCで30以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキディスク。
  4. 650℃で1hr保持する焼戻し後のマルテンサイト組織中に内在する転位の密度ρの平方根(√ρ)が0.6〜1.3×10−1であり、該転位上にはCuが微細析出してなることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキディスク。
  5. 上記成分組成に加えてさらに、Mo:0.01〜2.0mass%、Co:0.01〜1.0mass%の中から選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキディスク。
  6. 上記成分組成に加えてさらに、Ti:0.06〜0.3mass%、V:0.02〜0.3mass%、Zr:0.08〜0.3mass%,Ta:0.02〜0.3mass%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキディスク。
  7. 上記成分組成に加えてさらに、B:0.0005〜0.0050mass%、Ca:0.0005〜0.0050mass%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のブレーキディスク。
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