JP3477040B2 - ディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼 - Google Patents

ディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼

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JP3477040B2
JP3477040B2 JP21783997A JP21783997A JP3477040B2 JP 3477040 B2 JP3477040 B2 JP 3477040B2 JP 21783997 A JP21783997 A JP 21783997A JP 21783997 A JP21783997 A JP 21783997A JP 3477040 B2 JP3477040 B2 JP 3477040B2
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Description

【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、二輪車のディスク
ブレーキに関し、ブレーキに加工後、焼入れままで、ブ
レーキとして必要な硬さが安定して得られ、耐銹性に優
れかつ使用時の軟化抵抗にも優れた好適な成分の鋼に関
する。 【0002】 【従来の技術】二輪車のディスクブレーキは、耐磨耗
性、耐銹性、靭性等の特性が要求される。耐磨耗性は、
一般に硬さが高いほど大きくなる。一方、硬さが高過ぎ
るとブレーキとパッドの間でいわゆるブレーキの鳴きが
生じるため、ブレーキの硬さは、35±3HRC(ロッ
クウェル硬さCスケール)が求められる。以上の硬さ調
整および耐銹性を得るため、ディスクブレーキ材料には
マルテンサイト系ステンレス鋼が用いられている。 【0003】従来は、SUS420J1を焼入れ・焼戻
しして所望の硬さに調整し、ブレーキとしていた。この
場合、焼入れと焼戻しの2つの熱処理工程を要するた
め、省工程・省エネルギーの目的で、焼入れままでブレ
ーキとして使用できるマルテンサイト系ステンレス鋼へ
の要望が高まった。 【0004】この要望に対し、低C,N化し、これに伴
ってオーステナイト温度域が縮小し、焼入れ可能温度域
が狭くなることをオーステナイト形成元素のMn添加で
補うことにより、焼入れままで、従来鋼より広い焼入れ
温度域で、安定して所望の硬さを得る鋼組成が開示され
た(特開昭57−198249号公報)。しかし、この
鋼はMnを1.0〜2.5%含有するため、耐銹性に有
害なMnSを多量に含み、耐銹性を犠牲にして焼入れ安
定性を優先した鋼と言わざるを得ない。 【0005】この点を改善するために、Mnは低く抑
え、その代わりに耐銹性を害しないCu,Nをそれぞれ
0.5〜1.0%、0.03〜0.07%添加して、焼
入れ安定性を確保する組成が開示された(特開昭61−
174361号公報)。この鋼では、焼入れ安定性と耐
銹性は目的通り確保されたが、Nを0.03%以上添加
しているため、ブレーキ使用中の制動発熱で焼戻しを受
けた場答、微細な窒化物が析出して靭性が低下すること
が懸念される。また、ブレーキによる制動発熱は、50
0〜600℃に達する場合もあると言われており、以上
述べた従来鋼では、これらの温度域に達した場合、焼戻
し軟化が避けられないという課題があった。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記
従来技術の持つ課題を有利に解決し、焼入れ安定性、耐
銹性、靭性に優れ、さらに必要に応じて、制動発熱によ
る軟化に対する抵抗に優れた焼入れままで使用に供す
る、二輪車ディスクブレーキ用マルテンサイト系ステン
レス鋼の成分組成を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明は、CおよびN添
加量を限定し、かつオーステナイト形成元素およびフェ
ライト形成元素の含有量を限定し、さらにCuを好適量
添加することにより、所望の硬さと焼入れ安定性に優
れ、かつ耐銹性にも優れ、併せて靭性も良好で、必要に
応じて制動発熱軟化抵抗が高いマルテンサイト系ステン
レス鋼の好適組成を得るものである。 【0008】すなわち、本発明の骨子とするところは、
重量%で、C:0.02〜0.10%、N:0.03%
以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5〜1.5%、
Ni:0.5%以下、Cr:10〜15%、Cu:1.
〜2.5%を含み、C+N:0.05〜0.1%を満
足し、かつ次式で表されるγpが90以上を満足し、残
部がFeおよび不可避的不純物からなるディスクブレー
キ用マルテンサイト系ステンレス鋼である。 γp=420[%C]+470[%N]+23[%Ni]+9[%Cu] +7[%Mn]−11.5[%Cr]−11.5[%Si] −52[%Al]+189 【0009】 【発明の実施の形態】本発明者らは、従来技術の項で述
べた0.05%のN、0.6%のCuを含有する低Cマ
ルテンサイト系ステンレス鋼からブレーキディスクを作
製し、10000回の制動繰り返しを行い、靭性変化を
調査した。靭性は、JlS4号の5.0mmサブサイズ試
験片を用いた衝撃試験で評価した。試験温度25℃で評
価した結果、ブレーキ制動後は焼入れままに比べて、吸
収エネルギーが約10J低下した。ブレーキから観察用
サンプルを作製し、電顕観察を行った結果、制動後には
Cr2 Nの微細な析出物が形成されていることが判明し
た。 【0010】そこで、実験室溶解で、Cu:1%で固定
し、窒素のみを変化させた材料を製造し、制動試験後の
Cr2 Nの析出に及ぼすN添加量の影響を検討した結
果、N添加量が0.03%を超えるとCr2 Nの析出量
が著しく増大し、靭性低下の主因となることを確認し
た。単にNを低減しただけでは、オーステナイト生成温
度域が縮小し、焼入れ可能温度域が狭くなるため、90
0〜1150℃の温度範囲で安定して、35±3HRC
を満足する好適組成範囲を確定するために種々の成分を
実験室溶解して検討を行った。 【0011】以上の結果、C+N:0.05〜0.1%
で、かつ次式で表されるγpが90以上を満足すれば、
所期の目的が達成されることを知見した。 γp=420[%C]+470[%N]+23[%N
i]+9[%Cu]+7[%Mn]−11.5[%C
r]−11.5[%Si]−52[%A1]+189 【0012】また、本発明者らは、いわゆるCuの時効
析出によりブレーキ制動発熱による軟化を抑制できるの
ではないかと考え、焼戻し軟化抵抗に及ぼすCu添加量
の影響を検討した。そこで、0.05%C−0.015
%N−0.25%Si−0.9%Mn−0.15%Ni
−12.5%Cr鋼をベースにCu添加量を変化した。
熱延後950℃から焼入れを行い、さらに600℃で1
0分間加熱後空冷して焼戻し処理を行い、焼戻しによる
硬さの低下に及ぼすCu量の影響を調査した。その結
果、図1に示すように、望ましくはCu添加量を1.0
%以上とすることにより、ブレーキ制動で600℃にま
で加熱されるような場合でも、ロックウェルCスケール
の硬さの差が10未満となり、優れた軟化抵抗を有する
ことも知見し、本発明の完成に至った。 【0013】次に、本発明の成分限定理由を述べる。C
およびNは、硬さを高め耐磨耗性を得るのに有効な元素
である。Nは、過度に添加するとブレーキ制動発熱によ
る焼戻しでCr2 Nが微細に析出し、靭性低下の原因に
なるので上限を0.03%とする。また、ディスクブレ
ーキとして所望の硬さ、35±3HRCを得るために、
C+Nの範囲を0.05〜0.1%とする。したがっ
て、Cの範囲を0.02〜0.10%とする。 【0014】Siは、脱酸元素が残存したものであり、
過度に添加すると非金属介在物が鋼中に残存して靭性低
下等の弊害をもたらすため、0.5%を上限に添加す
る。Mnは脱酸と焼入れ可能温度域を拡大するために
0.5%以上添加する。上限は必要とする耐銹性に応じ
て決めればよいが、多量に添加すると鋼中にMnSが多
量に残存し、発銹起点となって耐銹性を劣化させるの
で、上限を1.5%とする。より厳しい耐銹性が要求さ
れる場合は、1.2%を上限とするのが好ましい。 【0015】Niは、Mnと同様焼入れ加工温度域を広
げる効果を有するが、高価であるため、本発明ではスク
ラップから混入する程度にとどめ、上限を0.5%とす
る。Crは耐食性を確保するため最低10%以上を必要
とする。しかし、15%を超えるとフェライト主体の組
織となり、所望の硬さが得られなくなるので、上限を1
5%とする。 【0016】Cuは、焼入れ可能温度域を拡大するため
1.0%以上添加する。また、Cuはブレーキ制動発熱
による軟化を抑制するのにも効果的で、制動発熱が60
0℃まで高くなるような場合には1.0%以上を添加
するのがよい。しかし、過度に添加すると熱間加工性を
低下させるし、Cuの析出で靭性が低下するので、上限
を2.5%とする。 【0017】また、本発明では、900〜1150℃の
温度範囲で安定して焼入れを行なえるようにするため、
オーステナイト形成元素とフェライト形成元素の好適組
成として、次式で表されるγpが90以上を満足するよ
うに添加成分を調整する。 γp=420[%C]+470[%N]+23[%N
i]+9[%Cu]+7[%Mn]−11.5[%C
r]−11.5[%Si]−52[%Al]+189 【0018】 【実施例】表1に示す成分の鋼を実験室で溶製し、イン
ゴットを作製した。実験室で熱間圧延、焼鈍後熱処理用
のサンプルを切り出し、熱処理を行った。熱処理は、9
50℃に10分間加熱後水冷して焼入れを行った。さら
に、焼入れたサンプルを600℃で10分間焼戻し、ブ
レーキ制動による焼戻しを模擬した。 【0019】焼入れまま、焼戻し後のそれぞれのサンプ
ルについて、ロックウェルCスケールの硬さとJlS4
号の1/2サイズサブ試験片を用いた衝撃試験を行っ
た。焼入れままの硬さは、ディスクブレーキで一般に要
求される、35±3HRCを満たす必要がある。衝撃特
性は、焼入れままおよび焼戻し後の両方について、目安
として25℃の吸収エネルギーが30J以上ある場合
を、靭性に優れると判断した。焼戻しに伴う軟化抵抗に
関しては、焼入れままの硬さと焼戻し後の硬さの差が1
0HRC未満であれば、軟化抵抗に優れると考えた。 【0020】 【表1】【0021】本発明の条件に従う場合、焼入れままで3
5±3HRCを満足し、所望の硬さが得られる。また、
焼入れままおよび焼戻し後共に優れた衝撃特性を有す
る。さらに本発明の範囲において、Cuを1.0%を超
して添加した場合、ブレーキ制動で600℃の高温に加
熱される場合でも、優れた軟化抵抗を有している。 【0022】しかし、比較例1は、C+Nが低すぎるた
め、焼入れままの硬さが要求特性を満たさない。一方、
比較例2では、C+Nが0.1を超えるために、焼入れ
ままの硬さが高くなりすぎる。また、比較例3は、γp
が90に満たないため、焼入れままの硬さが低く、粗大
なフェライト粒が混在するため、衝撃特性も低い。比較
例4は、Nが0.03%を超えるため、焼戻しによる靭
性劣化が著しい。 【0023】 【発明の効果】本発明により、焼入れ安定性、耐銹性、
靭性に優れ、さらに必要に応じて、制動発熱による軟化
に対する抵抗に優れた、焼入れままで使用に供する二輪
車ディスクブレーキ用マルテンサイト系ステンレス鋼が
提供できるため、工業的効果は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】 【図1】本発明範囲内の成分の鋼を、熱延後−焼入れ−
加熱−焼戻し処理した場合の、焼戻しに伴うCu添加量
と軟化抵抗との関係を示す図表。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平8−60309(JP,A) 特開 昭63−436(JP,A) 特開 昭61−79751(JP,A) 特開 昭61−174361(JP,A) 特開 昭60−230961(JP,A) 国際公開95/009253(WO,A1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60

Claims (1)

  1. (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 重量%で、 C :0.02〜0.10%、 N :0.03%以下、 Si:0.5%以下、 Mn:0.5〜1.5%、 Ni:0.5%以下、 Cr:10〜15%、 Cu:1.0〜2.5% を含み、C+N:0.05〜0.1%を満足し、かつ次
    式で表されるγpが90以上を満足し、残部がFeおよ
    び不可避的不純物からなるデイスクブレーキ用マルテン
    サイト系ステンレス鋼。 γp=420[%C]+470[%N]+23[%Ni]+9[%Cu] +7[%Mn]−11.5[%Cr]−11.5[%Si] −52[%Al]+189
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