JP5105673B2 - 摺動部材用合金の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車,自動二輪,自転車等の摺動部材として好適に使用され、安定した摺動特性を呈し制動時の発熱温度条件下で軟化しない摺動部材用合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
高速道路網が整備されるにつれ、自動車や自動二輪の長時間高速走行が可能になっている。自転車に関しても、スポーツ用,競技用自転車等を始めとして高速化が要求されている。高速化に伴い、運転時や停止時の速度制御で必要とされる制動システムへの負荷が増大している。たとえば、制御システムのディスクブレーキにより高品質のロータ材が要求される。制動用途での要求特性には安定した摺動特性や耐食性があり、また高速化に伴って各種車両の軽量化が強く求められている。このような要求に応えるため、高強度化や高機能化を図った新材料の開発が急務になっている。
【0003】
たとえば、自動車用ディスクブレーキのロータ材は、大半がねずみ鋳鉄等の鋳鉄材である。鋳鉄材は、マトリックスに黒鉛が分散した組織をもっているので温度,湿度等の環境変化に拘らず摺動特性が比較的安定しており、良好な熱伝導率のため制動時の摩擦熱が分散され局部的な昇温に起因する歪変形が緩和されるという他の材料ではみられない特性を備えている。
鋳鉄材は、摺動特性に優れているものの、肉厚のため軽量化に適した材料ではなく、衝撃値や靭性が低いため変形加工も極めて困難である。そのため、鋳鉄製ロータ材の製作は、プレス加工を採用できず1個の製品ごとに鋳型を使用する鋳造法に拠らざるを得ず、製品コストが高くつく。耐食性の点でも、外観や機能性を損ねる赤錆が湿潤環境下で早期に発生する欠点がある。
【0004】
耐食性や軽量化の要求が強い自動二輪や自転車のディスクブレーキではロータ材が外部に露出した構造になっているので、耐食性に問題のある鋳鉄製部品に代え、高強度化が可能なマルテンサイト系ステンレス鋼が用いられるようになってきた。たとえば、C:0.26〜0.40質量%のSUS420J2の焼入れ・焼戻し材,C:0.15質量%以下のSUS410系等がある。マルテンサイト系ステンレス鋼を自動二輪や自転車のロータ材に使用する場合、制動時のブレーキ音を抑えるため硬さをHRC35±3程度に調質する必要があるが、マルテンサイト系ステンレス鋼ではHRC35±3の硬さを維持しがたい。ロータ材に要求される耐食性等についても、マルテンサイト系ステンレス鋼は必ずしも自動二輪,自転車等の要求特性を満足していない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
自動二輪,自転車等の制動部材に使用されているSUS420J2は、多量のCを含み、焼入れ硬さが約HRC60と高く、焼入れしたままではロータ材として使用できない。そのため、約500〜700℃の焼戻し処理を施すことにより、硬さをHRC35±3に収めている。しかし、焼戻し処理によってCr系炭化物が析出し、耐食性が著しく低下する。焼入れ・焼戻しの2回熱処理は、製造コストを上げる原因でもある。
【0006】
他方、SUS410は、C量及び焼入れ温度に応じて硬さを調整でき、焼入れ後の耐食性を低下させることなく、1回の熱処理(焼入れ)で硬さをHRC35±3の範囲に収めることができる。しかし、焼入れ材は、焼入れ時に発生した熱歪が残留した焼入れマルテンサイト組織になっているため、SUS420J2の焼戻し材に比較して靭性に劣る。更には、制動時の発熱で歪の解放や微視的再結晶が進行しやすく、硬さがHRC32を下回るまで軟質化すると、ブレーキ用ロータ材としての機能が損なわれる。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、Fe,Cr,Niを主成分とするマトリックスに分散析出したCuリッチの第二相の潤滑作用を利用することにより、摺動面での焼付きを防止して摺動特性を安定化させ、制動時の発熱温度条件下で軟化せず、耐食性,靭性に優れ、薄肉化により軽量化も可能な自動車,自動二輪,自転車等のディスク摺動部材として好適に使用される摺動部材用合金を提供することを目的とする。
【0008】
Cuリッチの第二相を析出させた摺動部材用合金は、フェライトマトリックスにCuリッチの第二相を析出させる析出処理,焼入れマルテンサイト組織のFe−Cr−Ni−Cu合金を焼き戻してCuリッチの第二相を析出させる析出処理,Cuリッチの第二相がオーステナイトマトリックスに共存した高温域から焼きいれてマルテンサイト組織に調整する焼入れ処理の何れによっても製造でき、ロータ材の使用形態に応じて製造方法が選択される。何れの場合も、C:0.20質量%以下,Cr:4〜20質量%,Ni:5.0質量%以下,Cu:2.56〜7.5質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物組成に調整したFe−Cr−Ni−Cu合金が使用される。
【0009】
析出処理でCuリッチの第二相を析出させる場合、Cuリッチの第二相/α相の共存温度域にFe−Cr−Ni−Cu合金を保持してCuリッチの第二相を析出させた後、冷却する。或いは、焼戻しマルテンサイト組織のFe−Cr−Ni−Cu合金を昇温保持して,Cuリッチの第二相を析出させてもよい。焼入れ状態でCuリッチの第二相が析出した組織を得る場合、Cuリッチの第二相がγ相と共存する温度域からFe−Cr−Ni−Cu合金を焼入れする。
【0010】
【作用】
本発明者等は、ねずみ鋳鉄の摩擦試験過程における摩擦係数の経時変化を調査するため、ブレーキによる制動状態をシミュレートした実験を行った。ねずみ鋳鉄は、摩擦係数の経時変化を示した図1にみられるように、試験開始から60分後の試験終了まで安定した摩擦係数を維持しており、長時間摺動性に優れた材料であるといえる。優れた摺動性は、ねずみ鋳鉄に分散析出している多量の黒鉛が潤滑性や熱拡散性に有効に寄与しているものと推察される。しかし、黒鉛の析出には少なくとも3質量%以上のC含有量が必要であり、結果として靭性の著しい低下を招く。
【0011】
本発明では、析出黒鉛に代わる析出物が摺動性に及ぼす影響を調査した。従来からロータ材として使用されているSUS420J2では、焼戻し処理によってねずみ鋳鉄と同等な硬さに調質し、Cr系炭化物を析出させた。本発明で使用するFe−Cr−Ni−Cu合金では、同様に硬さを調質すると共にCuリッチの第二相を析出させた。
Cr系炭化物が析出したSUS420J2及びCuリッチの第二相が析出したFe−Cr−Ni−Cu合金を摩擦試験に供し、析出物が摺動性に及ぼす影響を調査した。図2の調査結果にみられるように、Cr系炭化物が析出したSUS420J2は、試験初期ではねずみ鋳鉄やFe−Cr−Ni−Cu合金と同等の摩擦係数を示したが、試験時間が経過するに応じて異常音が発生し、所定時間経過した時点で摩擦係数が急激に上昇し、焼付き現象が生じた。
【0012】
他方、Cuリッチの第二相が析出したFe−Cr−Ni−Cu合金では、摩擦係数がねずみ鋳鉄と同様な変化挙動を示し、焼付き現象が検出されなかった。
この対比から、鋼中及び鋼表面にCuリッチの第二相を析出させることによって、安定した摩擦係数が維持され、異常な温度上昇もなく、ねずみ鋳鉄と同等の摺動性が発現されることが判った。析出したCuリッチの第二相は、熱拡散率を上昇させると共に自己潤滑作用を発揮することにより摺動性の改善に有効なものと推察される。因みに、熱拡散率はCu添加量の増加に応じて高くなっており(図3)、熱処理によってCuリッチの第二相を析出させると熱拡散率が一層上昇する。
【0013】
Cuリッチの第二相は、α相にCuリッチの第二相が共存する温度域(800℃以下,好ましくは600〜800℃)にFe−Cr−Ni−Cu合金を保持した後、冷却することによりフェライトマトリックスに分散析出させることができる。この材料系は、産業機器や自動車等のロータ材に採用されているねずみ鋳鉄とほぼ同程度の硬さをもっており、ねずみ鋳鉄の欠点である耐食性,靭性を補う材料として使用される。
γ単相の温度域はCu含有量に応じて異なるが、たとえばCu3質量%で900℃以上,Cu5質量%で1050℃以上からFe−Cr−Ni−Cu合金を焼入れすることによりマルテンサイト組織とした後、Cuリッチの第二相が析出する温度域に昇温保持することによってもCuリッチの第二相が析出する。焼入れマルテンサイトは高い硬さを示すが、Cuリッチの第二相の析出によって硬さが低下する。そのため、温度,時間等の析出条件によって必要硬さに調質でき、SUS420J2の焼入れ・焼戻し材の欠点である耐食性,摺動性を補った材料として使用される。
【0014】
Cuリッチの第二相がγ相と共存する温度域はCu含有量に応じて異なるが、たとえばCu3質量%で800〜900℃,Cu5質量%で800〜1050℃からFe−Cr−Ni−Cu合金を焼入れすることによっても、マルテンサイト組織にCuリッチの第二相が分散析出した摺動部材用合金が得られる。Cuリッチの第二相とγ相の共存域から焼入れすることによって生じるマルテンサイト相は、γ単相の温度域から焼入れした場合のマルテンサイト相に比較して硬さが低く、焼入れままの状態でCuリッチの第二相が析出しているので改めての析出処理が不要となる。得られたロータ材は、SUS410を焼入れした場合の欠点である摺動性、耐高温軟化性を補った材料として使用される。
【0015】
本発明で使用するFe−Cr−Ni−Cu合金は、ねずみ鋳鉄以上の耐食性を確保するためにCr含有量を4〜20質量%の範囲に調整している。一般のマイルドな大気環境下での耐食性を得る上で4質量%以上のCrが必要とされ、海塩粒子の飛来や酸性雨等の影響を受ける腐食性環境では10質量%以上のCrが好ましい。しかし、20質量%を超える過剰量のCrが含まれると、焼入れ処理によっても十分なマルテンサイト相が生成されず、加工性が低下して製造コストの上昇を招く。
【0016】
Niは、焼入れ・焼戻し後に必要量のマルテンサイト相を生成させると共に靭性の改善に有効な合金成分である。しかし、5.0質量%を超える過剰量のNiを添加すると、焼入れ・焼戻し後に残留オーステナイトが生じやすくなり強度低下の原因となる。過剰量のNi添加は、鋼材コストの面からも不利である。そのため、Ni含有量の上限を5.0質量%に設定した。Cuは、安定した耐摩擦性の発現に有効なCuリッチの第二相を析出させるために必要な合金成分である。焼入れ時の硬さを確保し、Cuリッチの第二相を安定析出させるためには、少なくとも2.56質量%以上のCuが必要である。しかし、Cu添加量が7.5質量%を超えると、Cuに起因する高温脆化のため熱延加工が困難になる。
【0017】
Cは、焼入れ・焼戻し等の熱処理時にCrと反応してCr系炭化物を生成しやすい合金成分である。Cr系炭化物が析出すると、析出物周辺のCrが消費され、腐食発生の起点になりやすいCr欠乏層が生じる。そのため、C含有量を0.20質量%以下に規制することにより、Cr系炭化物の析出量を少なくし、或いはCr系炭化物の析出を抑制し、Cr系炭化物析出に起因する耐食性の劣化を防止する。
【0018】
本発明で使用するFe−Cr−Ni−Cu合金は、以上の合金成分の外に、耐食性に有効な3質量%以下のMo,高温靭性に有効な0.01質量%以下のB,耐高温酸化性に有効な3質量%以下のAlを含むことができる。製造上から混入する成分にはN,P,S,Si,Mn等があるが、それぞれN≦0.07質量%,P≦0.05質量%,S≦0.01質量%,Si≦3質量%,Mn≦3質量%に規制するときCuリッチの第二相の作用が阻害されず、良好な耐食性,靭性,強度が維持される。また、被削性や高温強度を改善する場合、混入制限の上限を超えた添加も可能である。
【0019】
【実施例】
表1の組成をもつFe−Cr−Ni−Cu合金を常法に従って溶製し、インゴットに鋳造した。各インゴットを熱間鍛造した後、熱間圧延でホットバーに仕上げた。
【0020】
【0021】
各ホットバーに1100℃×30分→空冷の溶体化や、780℃×6時間→空冷の焼きなまし等の熱処理を施した後、ディスクブレーキ用のロータ材に切削加工した。熱処理条件を表2に示す。なお、比較鋼10,11は、熱間圧延で割れが発生したため、試料の造り込みや特性調査から除外した。
熱処理で生じた析出物は、イオンミーリングにより供試材から薄膜を作製し、透過型電子顕微鏡で薄膜を観察し、Cuリッチの第二相であることをEDX分析で確認した。
【0022】
【0023】
次いで、各ロータ材の耐高温軟化特性,摩擦特性,耐食性,機械特性を以下の試験条件で調査した。
〔高温軟化試験〕
高温軟化特性の調査に際しては、ロータ材に加工した供試材を熱処理してCuリッチの第二相とフェライト相又はマルテンサイト相の二相組織にした後、600℃×60分の軟化処理を施し、軟化処理前後のHRC硬さの差を求めた。そして、軟化処理後のHRC硬さが軟化処理前に比較して3以上低下した場合を軟質化したものと判定し、HRC硬度差3未満を○,3以上を×として耐軟質化性を評価した。
【0024】
〔摺動試験〕
ロータ材としての摺動性試験にはピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、市販の自動車用ディスクパットから切り出した10mm角の相手材をピン側にセットし、ロータ材をディスク側にセットした。試験荷重400N,摩擦面での摩擦速度2m/秒の条件下で60分間連続摺動させ、焼付き現象が発生する変化点までの経過時間を計測した。SUS420J2の焼付き発生を示す変化点までの時間(2000時間)と測定値を比較し、2000秒以上の長時間にわたって摩擦係数が安定していたものを○,2000秒に達しない時間で摩擦係数が急変したものを×として摺動性の優劣を評価した。
【0025】
〔腐食試験〕
雨水による腐食を想定し、試験片に水道水を72時間噴霧した後、試験片表面を観察し、錆発生の面積率を求めた。そして、錆が検出されなかったものを○,僅かな錆が観察されたものを△,錆が多量に発生したものを×として耐食性を評価した。
〔機械試験〕
シャルピー衝撃試験により各ロータ材の衝撃値を測定し、測定値がねずみ鋳鉄の衝撃値5J/cm2を超えるものを○,5J/cm2以下を×として靭性を評価した。
【0026】
試験結果を表3に示す。鋼番号1,4に780℃×6時間→空冷の熱処理(請求項1)を施したロータ材は、α相とCuリッチの第二相の二相組織をもち、ねずみ鋳鉄(HV170)とSUS420J2の焼きなまし材(HV186)の中間値に当る硬さHVで175を示した。これらロータ材に600℃×1時間の保持処理を施しても、硬さがそれぞれHV172,168,185とほとんど変わらず、ねずみ鋳鉄と同様に耐軟化性に優れていることが判る。
他方、Cu無添加の比較鋼SUS410を950℃から焼入れしたロータ材では、焼入れままの硬さが37.1HRCであったが、600℃×1時間の保持処理後に26.4HRCまで硬さが低下し、硬度差ΔHRC=−10.7と軟化の程度が大きかった。
【0027】
これに対し、Cuを添加した鋼番号4に950℃×10分→空冷(請求項3)の熱処理を施した場合、焼入れままの硬さが36.7HRCであり、600℃×1時間の保持処理後にも36.8HRCの硬さが維持されていた。すなわち、保持処理前後の硬度差がΔHRC=+0.1に留まり、耐軟化性に優れていることが判る。
耐軟化性の相違は次のように考えられる。SUS410のように焼入れままの材料は600℃に加熱されると、焼入れマルテンサイトの分解や焼入れ時に生じた歪の解放等によって硬さが低下する。他方、Cu添加鋼を600℃に加熱すると、マルテンサイト相に固溶していたCuの析出が開始され、Cuリッチの第二相が生成する。Cuリッチの第二相の析出過程で歪が誘起され、析出硬化が生じる。この析出硬化によって、焼入れマルテンサイトの分解や焼入れ時に生じた歪の解放等に起因する軟質化が相殺され、保持処理前後の硬度差が小さくなる。
【0028】
鋼番号4に1050℃×10分→空冷+650℃×30分→空冷の熱処理を施したロータ材は、焼入れ後にCuリッチの第二相の析出処理を施したものでは硬さが37.7HRCであった。このロータ材は、600℃×1時間の保持処理後にも35.6HRCの硬さを示し、硬度差ΔHRC≦3の範囲に軟質化の程度が収まっていた。
摺動性については、SUS420J2のようにCu無添加の材料や鋼番号8のようにCu添加量が0.07質量%と少ない材料では、安定した摺動性が得られず、摩擦試験開始から約1850秒経過した時点で摩擦係数が異常に変化した。
【0029】
他方、Cu含有量4.54質量%の鋼番号3に950℃×10分→空冷の熱処理(請求項3)でCuリッチの第二相を約1.9体積%の割合で析出させた材料では、約3120秒経過した時点で摩擦係数が変化しており、Cuリッチの第二相の析出によって摩擦係数の変化点が長時間側に移行していた。多量にCuを添加した鋼番号4では、Cuリッチの第二相が約2.6体積%の割合で析出しており、3600秒の摩擦試験中に摩擦係数の変化が検出されなかった。しかし、鋼番号4を1100℃のγ単相温度域から焼入れしたロータ材では、Cuリッチの第二相の析出がなく、SUS420J2と同様な摩擦過程を示し、約1900秒経過した時点から摩擦係数が異常に変化した。以上の結果から、Cuを2.56〜7.5質量%添加してCuリッチの第二相を析出させることにより、SUS420J2に比較して摩擦係数が安定レベルで推移し、SUS420J2や鋼番号8よりも優れた摺動性を呈することが確認された。
【0030】
耐食性についてみると、鋼中のCr量が4質量%を下回る鋼番号7やねずみ鋳鉄は一般のマイルドな薄い環境で腐食しており、Cr量の低減に伴って腐食の度合いが大きかった。しかし、Cr含有量6.15質量%の鋼番号1では腐食が軽減しており、Cr含有量の増加に従って耐食性が向上していた。また、腐食のない十分な耐食性を得る上では、10質量%以上のCrが必要であった。
また、本発明で使用するFe−Cr−Ni−Cu合金は、鍛造,熱延で造り込んだ材料を焼入れしたままの状態でも約15J/cm2以上の衝撃値を示し、鋳造ままのねずみ鋳鉄(5J/cm2)に比較して靭性が格段に優れていることが判る。優れた靭性のため、薄肉化してもロータ材の要求特性を十分に満足し、ロータ材の軽量化が可能なことが理解できる。
【0031】
【0032】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、Fe,Cr,Niを主成分とするマトリックスにCuリッチの第二相を析出させることによって熱伝導度を向上させ、安定した摩擦特性及び潤滑機能が付与された摺動部材用合金を製造している。得られた摺動部材用合金からディスクブレーキのロータ材を作製すると、制動時に安定した摺動性が発現し、ねずみ鋳鉄と同様に安全でスムーズな制動操作が可能となる。更に,鍛造,熱延によって靭性に優れ、Cu添加によって耐食性が改善された摺動部材用合金となる。この摺動部材用合金は、高強度のため薄肉化による軽量化が可能であり、自動車,自動二輪,自転車等のロータ材を始めとし、各種産業機器での速度制御や制動制御用ブレーキのロータ材として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 摩擦試験の経過時間に応じたねずみ鋳鉄の摩擦係数の変化を示すグラフ
【図2】 摩擦試験の経過時間に応じたマルテンサイト系ステンレス鋼SUS420J2及び本発明Fe−Cr−Ni−Cu合金の摩擦係数の変化を示すグラフ
【図3】 熱拡散率に及ぼすCu含有量の影響を示したグラフ
Claims (3)
- C:0.20質量%以下,Cr:4〜20質量%,Ni:5.0質量%以下,Cu:2.56〜7.5質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物の組成をもつFe−Cr−Ni−Cu合金を用意し、Cuリッチの第二相がα相と共存する温度域にFe−Cr−Ni−Cu合金を保持してCuリッチの第二相を析出させた後、冷却することを特徴とする摺動部材用合金の製造方法。
- C:0.20質量%以下,Cr:4〜20質量%,Ni:5.0質量%以下,Cu:2.56〜7.5質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物の組成をもつFe−Cr−Ni−Cu合金を用意し、Fe−Cr−Ni−Cu合金をγ単相温度域から焼入れしてマルテンサイト相とした後、Cuリッチの第二相が析出する温度域にFe−Cr−Ni−Cu合金を昇温保持することを特徴とする摺動部材用合金の製造方法。
- C:0.20質量%以下,Cr:4〜20質量%,Ni:5.0質量%以下,Cu:2.56〜7.5質量%を含み、残部Feおよび不可避的不純物の組成をもつFe−Cr−Ni−Cu合金を用意し、Cuリッチの第二相がγ相と共存する温度域からFe−Cr−Ni−Cu合金を焼入れし、Cuリッチの第二相が焼入れマルテンサイト相に分散析出した組織にすることを特徴とする摺動部材用合金の製造方法。
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