JP3701145B2 - クランク軸の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動二輪車等のエンジンの分割型クランク軸の製造技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動二輪車等のエンジンに組み込むクランクシャフトは、左右の軸付き円盤状の分割型クランク軸を成形した後、それぞれの円盤状のウェイト部に形成したピン穴にピンを嵌合させて左右の分割型クランク軸を連結するようにしている。
この左右の分割型クランク軸の製造方法としては、特開昭59―4936号公報に開示されるように熱間鍛造成形で製造するのが主流である。
【0003】
熱間鍛造用の素材としては調質鋼と非調質鋼がある。調質鋼は加熱(約1200℃)した後、焼入れと焼戻しを施して強度及び靱性の向上を図ったものであり、クランク軸の素材として用いる炭素鋼には調質が施される。特に、熱間鍛造にあっては熱間鍛造が終了した鍛造品の強度を当該鍛造品自身の温度を利用した調質で高めることができる。
また、非調質鋼は予めバナジウム等を添加しておいた材料を加熱(約1200℃)した後、空冷することで強度及び靱性の向上を図ったものである。
【0004】
ところでクランク軸はその一部にウォームやテーパ部を備えており、これらウォームやテーパ部には他の部分よりも高硬度が要求される。これらの部分を後に高周波焼入れ等によって部分的に高硬度にするには、素材にC(炭素)が含まれていなければならないので、クランク軸用の熱間鍛造の素材としては、JIS S48C(以下、単にS48Cと記す)等の炭素鋼が用いられている。
【0005】
因みに、S48Cの成分割合は、Cが0.45〜0.51wt%、Siが0.15〜0.35wt%、Mnが0.6〜0.9wt%、Pが0.03wt%以下、Sが0.035wt%以下、Cuが0.3wt%以下、Niが0.2wt%以下、Crが0.2wt%以下が基準とされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
熱間鍛造による成形は、金型表面が摩耗しやすく、その結果鍛造品の精度が悪くなり、鍛造後の機械加工による取代が大きくなって加工効率が低下する。そして、レース加工代が大きい為に機械台数も多くなり初期投資が膨大になる。
また、熱間鍛造にあっては、加熱後に鍛造するためにスケールが発生し、更に離型剤等の塗布が必須になるので作業環境を最適に保つことが困難である。
【0007】
冷間鍛造によれば、成形精度や作業環境更には初期投資の問題を解消することができるのであるが、最大の問題は変形能が小さく割れが発生してしまうことである。特に分割型クランク軸の場合、軸部と円盤状のウェイト部との形状差が大きく冷間鍛造(据込み)の際に割れが発生しやすい。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明は、Cが0.46〜0.48wt%、Siが0.14wt%以下、Mnが0.55〜0.65wt%、Pが0.015wt%以下、Sが0.015wt%以下、Cuが0.15wt%以下、Niが0.20wt%以下、Crが0.35wt%以下含まれ、残部がFeと不純物からなる炭素鋼を素材として連続した冷間鍛造を行ってクランク軸を成形し、その後、時効処理(例えば250〜350℃の温度で1〜2.5時間保持)を施すようにした。
【0009】
ここで、前記炭素鋼の成分比は、熱間鍛造素材として使用されるJIS S48C(以下、単にS48Cと記す)の成分組成を基準にし、焼入れ性の確保の点から、Cの含有量をS48Cとほぼ同一とし、変形能に悪影響を及ぼす元素として、Si、P、S及びCuの含有量を減じた成分比である。
【0010】
以下に成分組成割合を上記の範囲とした理由を記す。
先ず、Cは単位%当り最も冷間鍛造性に大きな効果をもつ元素であり、機械的性質、特に材料強度、焼入れ性の面から重要である。即ち、クランク軸にあっては全体的に所定の機械的強度を必要とするとともに、ウォーム及びテーパ部など局部的に高硬度が要求される。このように局部的に高硬度が要求される部分を鍛造後の焼入れで硬度を上げるために、Cの割合を0.46〜0.48wt%とする。
【0011】
またSiは原料の銑鉄中に存在し、製鋼の過程で殆ど除去されるが、製鋼過程の最後に脱酸剤として添加されることがあり、S48Cでは0.15〜0.35wt%含まれ、一部は鋼中に入りフェライトに固溶するが、鍛造性を阻害するので冷間鍛造素材としてはできるだけ少ないことが好ましく0.14wt%以下とする。
【0012】
またMnは製鋼の過程でも多少残るが、脱酸剤として添加されるため、S48Cには0.60〜0.90wt%含まれている。このMnはSと結合して硫化マンガンとして鋼中に分散し、一部はフェライト中に固溶するが、Sに結合しやすいMnはMnSとなり、このMnSは鍛造成形時の割れの起点となりやすい為、低減させることが望ましいが、フェライト中に固溶するMnは焼きを入れやすくし、結晶粒の成長を抑える。このため、Mn量は0.55〜0.65wt%にする。
【0013】
またPはフェライト中に固溶し、多量に含まれる場合は鉄の一部と化合してリン化鉄になるが、Pがフェライト中に固溶するとフェライトは伸びが減じられるようになり、常温における衝撃値も減じられて加工時に割れが生じやすくなる。
そしてこのPはS48Cでは0.03wt%まで許容されており、冷間鍛造素材としては、この許容値が高すぎる。そこで、Pの割合を0.015wt%以下とする。
【0014】
またSはMnの一部と化合してMnSになり、このMnSは冷間鍛造時に生じる表面割れの起点となり、S48Cでは0.035wt%まで許容されているが、冷間鍛造素材としては、許容値が高すぎる。そこで、Sの割合を0.015wt%以下とする。
【0015】
またCuは高温加熱ではFeより酸化が少ないため、表面に富化して赤熱脆性を起こすので、概ね当量のNiを添加して赤熱脆性を防止する。一方CuはPと同様に微量の含有によりフェライト硬さを増加させ、冷間鍛造性を損うことが考えられる為、0.15wt%以下とする。
【0016】
またNiは前記した効果の他に、焼入れ性を増し、低温脆性を防止し、耐食性を改善するため、S48Cと同量添加する。更にCrは焼入性、焼戻し抵抗を大にし、耐食性を高め安定した炭化物を作りやすいため、S48Cと同量程度含有せしめる。
【0017】
上記成分の素材を冷間鍛造するに当っては、先ず1回目の球状化焼鈍処理を施して内部の炭化物を球状化した後、所定の断面減少率で引抜き加工し、所望の寸法に切断した後、更に2回目の球状化焼鈍処理によって内部の炭化物の分散を促進し球状化率を高めるようにしておけば、硬度が低下して成形性が良くなり、また表層部の伸び率も良くなって好適である。
【0018】
以下の(表1)に示す成分組成の炭素鋼を使用してクランク軸を冷間鍛造で成形し、(表2)に示すような色々な加熱保持時間で時効処理するとともに、時効処理前の表面硬度(HRC)と時効処理後の表面硬度(HRC)及び内部硬度(HRC)を測定し、X線回析により金属結晶の格子定数を分析した。
ここで、時効処理の温度は300℃であり、(表2)のNo.Aは時効処理なしである。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
そして、時効処理前後の硬度(HRC)と平均格子定数の相関関係を比較分析したところ(表3)に示すようになり、平均格子定数(d値)が大きいほど硬度(HRC)が高いことが判明した。
【0022】
【表3】
【0023】
そしてこのことは、原子間に格子欠陥を多く含むほど、即ち平均格子定数(d値)が大きいほど硬度が高くなることを意味し、時効処理によって硬度が高まるのは、低温加熱に引き続く常温までの大気放冷によって、結晶間に析出が生じることと、転位を多く固着できるからだと推定される。
【0024】
また、図5は時効処理前の金属組織を示すTEM写真(100,000倍)、図6は時効処理後の金属組織を示すTEM写真(100,000倍)であり、これらの写真から時効処理後には時効処理前に比較して結晶間に存在する析出物の数が増加していることが確認される。この析出物の数の増加若しくは転位の固着、あるいはこれらの相乗効果によって硬度が向上していると考えられる。
【0025】
また、時効処理条件として、250〜350℃の温度で1〜2.5時間保持し、その後常温まで放冷することで硬度や機械的強度の向上を最大に得ることができる。
このことは、(表1)〜(表3)に示す分析結果からも明らかである。(表3)のNo.C(時効時間1.0H)未満では硬度の上昇が少なく、No.D〜No.F(時効時間1.5〜2.5H)の間をピークにして、No.G(時効時間4H)では過時効となり、硬度が低下している。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。図1は分割クランク軸の組立完成図、図2は時効処理前後のクランク軸の硬度測定試験のタイミング及び測定ポイントを説明する説明図、図3は本発明に係るクランク軸の機械的強度試験の結果図、図4は連続した冷間鍛造工程の一例を示す工程図である。
【0027】
図1に示すクランクシャフト1は、軸付き円盤状の左右の分割型クランク軸1a、1bと、これらクランク軸1a、1bのウェイト部のピン穴pに結合される結合ピン1cを備えており、左右のクランク軸1a、1bはそれぞれ連続した冷間鍛造により別々に成形された後、それぞれ本発明に係る時効処理が施され、その後結合ピン1cで一体化される。
【0028】
先ず、成形後の時効処理について説明する前に、ビレットから連続した冷間鍛造により分割型クランク軸を成形する工程の概要について説明する。
【0029】
まず、ビレットの組成成分は、Cが0.46〜0.48wt%、Siが0.14wt%以下、Mnが0.55〜0.65wt%、Pが0.015wt%以下、Sが0.015wt%以下、Cuが0.15wt%以下、Niが0.20wt%以下、Crが0.35wt%以下含まれ、残部がFeと不純物からなる炭素鋼としている。
【0030】
上記成分組成の棒材からビレットを製造する方法は、酸洗を行った後、第1回目の球状化焼鈍を行い、セメンタイトを球状化して素材全体の加工性を向上させ、内部まで歪みを与えることができるようにするとともに、パーライトの微細化を図る。次に、酸洗、ボンデ処理を行って引抜き加工を行って、限界据込み率の向上を図る。次いで、この棒材を所望の寸法に切断し、これを酸洗した後、2回目の球状化焼鈍を行い、炭化物の分散を図るとともに球状化率を高めるようにしている。そして2回目の球状化焼鈍が終えると、ショットブラスト、ボンデ処理を行って表面調整を行い、冷間鍛造用ビレットを得る。
【0031】
以上の要領で製造したビレットを準備すると、図4に示すように、第1工程として多段形状の中間素材を成形し、次いで第2工程で大径部の径を広げるよう据え込み、第3工程で大径部の厚みを左右非対称に荒地成形してウェイト部としての概略の形状に仕上げる。そして第4工程で大径部を左右非対称形状に仕上成形して必要に応じてスプライン部やセンタ孔等を必要箇所に形成する。
そして、第5工程では、大径部の一部にピン穴pを打抜くと同時に、大径部の外周のバリを同時に打ち抜き、これら一連の冷間鍛造を連続的に、しかも中間焼鈍することなく成形するようにしている。
【0032】
本発明に係る時効処理は、以上のような手順で成形されたクランク軸に対して施され、250〜350℃の温度で1〜2.5時間保持した後、常温まで放冷することで行われる。
【0033】
ここで、図2は300℃の温度で、2時間加熱したクランク軸の硬度測定試験の要領を示すものであり、図2(a)は硬度測定のタイミングを、図2(b)は時効前の硬度測定ポイントを、図2(c)は時効後の硬度測定ポイントの説明図である。
そして、時効前は、図2(b)に示すように、クランク軸の任意の4箇所の表面硬度(HRC)を測定し、また試験体としてはNo1〜No3の3本のクランク軸とした。この結果は(表4)の通りである。
【0034】
【表4】
【0035】
また、時効処理後の硬度測定ポイントは図2(c)に示すように、クランク軸の▲1▼〜▲7▼の7箇所の表面硬度と内部硬度とした。この結果は(表5)の通りである。
【0036】
【表5】
【0037】
この結果、No1クランク軸の場合は、時効前の平均表面硬度(HRC)が23.6であったのに対して、時効後の平均表面硬度(HRC)は23.9で、平均内部硬度(HRC)は25.8に上昇しており、また、No2クランク軸の場合は、時効前の平均表面硬度(HRC)が23.3であったのに対して、時効後の平均表面硬度(HRC)は24.2で、平均内部硬度(HRC)は24.7に上昇しており、No3クランク軸の場合は、時効前の平均表面硬度(HRC)が23.4であったのに対して、時効後の平均表面硬度(HRC)は24.4で、平均内部硬度(HRC)は24.7に上昇しており、いずれの場合も時効処理によって硬度(HRC)が上がっていることが確認される。
【0038】
また、図3は、クランク軸のスリップトルクと単体疲労強度を測定した結果である。
すなわち、図3(a)に示すようなクランクシャフトにおいて、スリップが開始する左側クランク軸のピン穴p周辺のトルクは、所定のトルク値を満足することが確認された。
【0039】
また、図3(b)に示すように、回転曲げ疲労試験のS−N線図は、従来の熱間鍛造素材(黒塗りつぶし)に較べて、本発明の時効処理材(白抜き)がほぼ同等であることを示している。すなわち、回転曲げ強度は、従来の熱間鍛造素材とほぼ同等の特性を有している。
【0040】
また図3(c)に示すように、実体曲げ疲労試験のS−N線図は、従来の熱間鍛造素材(黒塗りつぶし)に較べて本発明の時効処理材(白抜き)がほぼ同等であることを示している。即ち、実体曲げ強度も、従来の熱間鍛造素材とほぼ同等の特性を有していることが分る。
【0041】
【発明の効果】
以上のように本発明に係るクランク軸の製造方法は、所定成分割合の炭素鋼から連続成形したクランク軸に対して、低温熱処理である時効処理を施して硬度や機械的強度を高めるようにしたため、熱間鍛造素材を使用するような表面処理のための機械加工や、精度保証のための機械加工を廃止することができ、加工効率の良い優れた精度のクランク軸を製造することができる。
また、歩留りの向上も図られ、大幅なコスト削減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】分割クランク軸の組立完成図
【図2】時効処理前後のクランク軸の硬度測定試験のタイミング及び測定ポイントを説明する説明図
【図3】本発明に係るクランク軸の機械的強度試験の結果図
【図4】連続した冷間鍛造工程の一例を示す工程図
【図5】時効処理前の金属組織を示すTEM写真(100,000倍)
【図6】時効処理後の金属組織を示すTEM写真(100,000倍)
Claims (2)
- C(炭素)が0.46〜0.48wt%、Si(珪素)が0.14wt%以下、Mn(マンガン)が0.55〜0.65wt%、P(リン)が0.015wt%以下、S(硫黄)が0.015wt%以下、Cu(銅)が0.15wt%以下、Ni(ニッケル)が0.20wt%以下、Cr(クロム)が0.35wt%以下含まれ、残部がFe(鉄)と不純物からなる炭素鋼を素材として連続した冷間鍛造を行ってクランク軸を成形し、その後、時効処理を施すことを特徴とするクランク軸の製造方法。
- 請求項1に記載のクランク軸の製造方法において、前記時効処理は、250〜350℃の温度で1〜2.5時間保持し、その後常温まで放冷することを特徴とするクランク軸の製造方法。
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