JP4368985B2 - 接触抵抗の低いステンレス鋼板及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、低接触抵抗が要求される電気部品,電子部品等に使用されるステンレス鋼板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
SUS430,SUS304に代表される従来のステンレス鋼は、表面に形成されている不動態皮膜により優れた耐食性を呈する。不動態皮膜は、Crを主体とし、その他にSi,Mn等を含む酸化物や水酸化物の皮膜である。不動態皮膜を構成する酸化物や水酸化物は、比電気抵抗が高く導電性が劣るため、たとえば電池の缶体,電池等を固定するためのバネ材,電磁リレー等の電気回路接点等の用途には好ましくない。
導電性を重視し、電気回路接点用の材料としてCu合金が使用されている。しかし、Cu合金は耐食性が十分でなく、発錆による導電性劣化の問題もある。そこで、ステンレス鋼本来の優れた耐食性を活用するため、Niめっき等により不動態皮膜に由来する欠点を解消する方法が一部で採用されている(特開昭63−145793号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
Niめっきは、電気めっきや無電解めっきでステンレス鋼板表面に施されるが、何れもコストの高いめっき法である。また、めっき工程を必要とすることから、工数の増加を招き、廃液処理の負担も大きくなる。更には、形成されたNiめっき層のステンレス鋼板表面に対する密着性が不足すると、成形加工,取扱い等の際に剥離し、Niめっき層の長所が損われる。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、ステンレス鋼板の不動態皮膜を含めた表層を改質することにより、めっき等の工程付加を必要とせず、ステンレス鋼板自体の接触抵抗を下げることを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明のステンレス鋼板は、その目的を達成するため、1.0重量%以上のCuを含み、Cuリッチ相が0.2体積%以上の割合でマトリックスに分散析出しているステンレス鋼を基材とし、Cuリッチ相が析出している表面部を除く基材表面に不動態皮膜が形成されていることを特徴とする。不動態皮膜は、ステンレス鋼板の全面に生成させても良い。この場合、ステンレス鋼板の表層に含まれるCuを、Si濃度及びMn濃度に対するCu濃度の重量比Cu/(Si+Mn)が0.5以上となるように濃化させることによって接触抵抗を下げることができる。更には、Cuリッチ相の露出と表層へのCuの濃化を組み合わせると、接触抵抗が一層低下する。
【0005】
ステンレス鋼板としては、1.0重量%以上のCuを含むフェライト系又はオーステナイト系ステンレス鋼板が使用される。最終焼鈍として露点−30℃以下の雰囲気で光輝焼鈍することにより、ステンレス鋼板の表層にCuが濃化する。或いは、大気雰囲気で最終焼鈍した後、フッ酸−硝酸,硫酸−硝酸等の混酸で酸洗することによりCuを濃化させることも可能である。Cuリッチ相が析出したステンレス鋼板を基材に使用する場合、最終焼鈍までの工程でたとえば800℃前後で1時間以上の時効処理を施すことにより、ステンレス鋼板表面の接触抵抗を下げるために必要な析出量が得られる。
【0006】
【作用】
不動態皮膜は、ステンレス鋼の耐食性を向上させる上では有効なものであるが、比電気抵抗の高い酸化物等からなるためステンレス鋼板の接触抵抗を大きくする原因である。そこで、本発明者等は、導電性のある物質を不動態皮膜に含ませ、或いはステンレス鋼の表層に濃化させることによって不動態皮膜を改質し、接触抵抗を低下させる方法を調査検討した。
調査検討の過程で、Cu含有ステンレス鋼が小さな接触抵抗を示すことを見出した。なかでも、1.0重量%以上のCuを含み、Cuリッチ相が0.2体積%以上の割合で分散析出しているステンレス鋼では接触抵抗の低下が顕著であった。基材であるステンレス鋼に含まれるCuの含有量は、接触抵抗の低下に有効な表面Cu濃度及び/又はCuリッチ相を確保する上から1.0重量%以上とする。Cu含有量が多くなるほどCuリッチ相の分散析出量も多くなり不動態皮膜又は表層のCu濃化が進行するが、過剰なCu添加は熱間加工性の低下を招き、製造性を阻害する虞れがある。したがって、Cu含有量の上限は、5重量%とすることが好ましい。
【0007】
この知見をベースにして基材に含まれるCuの含有量及び分散析出したCuリッチ相が接触抵抗に及ぼす影響を調査・研究したところ、図1で模式的に示すように基材1の表層にCuリッチ相2が析出していると、その上にCr,Si,Mn等を含む不動態皮膜3が形成されておらず、不動態皮膜3に開いたピンホール4を介しCuリッチ相2が雰囲気に露出していることを解明した。この結果から、露出しているCuリッチ相2が導通路の一部となり、接触抵抗が低下したものと推察される。接触抵抗は、基材1に析出しているCuリッチ相2の割合が0.2体積%以上になったとき顕著に低下する。
【0008】
基材の表層にCuリッチ相が析出していない場合でも、Si濃度及びMn濃度に対するCu濃度の重量比Cu/(Si+Mn)が0.5以上となるように表層(以下、最表層又は不動態皮膜ともいう)にCuを濃化させるとき、接触抵抗が低い値を示した。低い接触抵抗は、濃化したCuが金属Cuや比電気抵抗の低い酸化物として最表層又は不動態皮膜に分散していることに原因があるものと推察される。また、Cuリッチ相2の露出に加えて不動態皮膜3又は最表層にCuが濃化していると、接触抵抗は一層低い値を示す。Cuリッチ相2を分散析出させるための熱処理はCu含有量によっても異なるが、一般的には800℃前後で1〜24時間の時効処理を施すことにより微細なCuリッチ相2を分散析出させることができる。
【0009】
基材表面にCuリッチ相2が分散析出したステンレス鋼板や不動態皮膜3又は最表層にCuが濃化したステンレス鋼板は、最終焼鈍として光輝焼鈍を施す場合、露点が−30℃以下の焼鈍雰囲気で光輝焼鈍することにより製造される。焼鈍雰囲気の露点が低くなると、酸化反応が抑制されて比電気抵抗の高い金属酸化物の増量が抑えられ、結果として金属Cu又はCu酸化物が不動態皮膜3又は最表層に濃化される。他方、露点が−30℃を超える焼鈍雰囲気では、Si,Mn等の酸化進行に応じて母材内部から表層へのSi,Mn等の拡散が促進され、比電気抵抗の高い金属酸化物を多量に含む不動態皮膜3又は最表層が形成される。
【0010】
光輝焼鈍に替えて、大気焼鈍及び酸洗によっても不動態皮膜3又は最表層にCuを濃化させることができる。ステンレス鋼板を大気焼鈍するとCr,Fe,Mn,Si,Cu等の酸化物を含むスケールが鋼板表面に形成されるが、スケールは酸洗によって除去され、その後に不動態皮膜3が生成する。このとき、焼鈍後のステンレス鋼板を電解酸洗すると、スケール剥離後の鋼板表面に存在するCu又はCuリッチ相が電解反応で母材よりも優先的に溶出する。そのため、電解酸洗後の鋼板表面には、Cu濃度の低い不動態皮膜3が形成される。これに対し、フッ酸−硝酸,硫酸−硝酸等の混酸を用いた酸洗では、Cu又はCuリッチ相の優先的な溶出がなく、酸洗後に生成する不動態皮膜3にCu濃度の低下がない。混酸としては、酸の種類や濃度に特段の制約を受けるものではないが、一般的に濃度10体積%程度の硫酸,フッ酸と硝酸との混液が使用される。
【0011】
【実施例】
組成を表1に示す各種ステンレス鋼板の一部を800℃で24時間保持してCuリッチ相を析出させた後、光輝焼鈍又は大気焼鈍を施した。光輝焼鈍では、露点が種々異なる焼鈍雰囲気を使用した。大気焼鈍したステンレス鋼板には、5%硝酸を用いた電解酸洗及び6%硝酸+2%フッ酸の混酸を用いた酸洗を施した。残りの各種ステンレス鋼板は、Cuリッチ相の析出処理を施すことなく、同様に光輝焼鈍し、或いは大気焼鈍後に酸洗した。
【0012】
Figure 0004368985
【0013】
各ステンレス鋼板の表面を透過型電子顕微鏡で観察し、マトリックスに析出しているCuリッチ相の割合を算出した。また、グロー発光分析で分析全元素量に対するCu,Si及びMnの濃度を求め、不動態皮膜又は最表層の重量比Cu/(Si+Mn)を算出した。更に、純金製の対極及び測定端子を試験片表面に接触させ、測定端子に100gの荷重を付加した後での接触抵抗を測定することにより、接触抵抗を求めた。
【0014】
表2の調査結果にみられるように、Cu含有量が1.0重量%に達しないSUS304(試験番号1,2),SUS430(試験番号3),SUS430J1L(試験番号4)では、20Ω以上の高い接触抵抗を示した。Cuが1.0重量%以上添加されていても、不動態皮膜又は最表層の重量比Cu/(Si+Mn)が0.5を下回り、或いはCuリッチ相の析出量が0.2体積%に達しないステンレス鋼板(試験番号5〜7)では、接触抵抗が依然として高い値を示した。
これに対し、Cu含有量が1.0重量%以上のステンレス鋼板を基材とし、Cuリッチ相の析出量を0.2体積%以上又は最表層の重量比Cu/(Si+Mn)を0.5以上にした本発明例のステンレス鋼板(試験番号8〜17)では、何れも十分に低い接触抵抗を示した。なかでも、Cuリッチ相0.2体積%以上及びCu/(Si+Mn)≧0.5の両者を満足するステンレス鋼板(試験番号(10,13〜15,17)は、一層低い接触抵抗を示した。
【0015】
Figure 0004368985
【0016】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のステンレス鋼板は、Cu含有量が1.0重量%以上で0.2体積%以上のCuリッチ相を分散析出させ、或いはCu/(Si+Mn)≧0.5を満足するように不動態皮膜又は最表層にCuを濃化させたステンレス鋼を基材とし、表面にある不動態皮膜に拘わらず接触抵抗を大幅に低下させている。そのため、ステンレス鋼本来の耐食性が確保され、低接触抵抗を活用して各種電気部品,電子部品等として使用される材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 不動態皮膜のピンホールを介してCuリッチ相が露出したステンレス鋼板表面の模式図

Claims (4)

  1. 1.0重量%以上のCuを含み、Cuリッチ相が0.2体積%以上の割合でマトリックスに分散析出しているオーステナイト系又はフェライト系ステンレス鋼を基材とし、前記Cuリッチ相の析出部を除く前記基材の表面に不動態皮膜が形成されていることを特徴とする接触抵抗の低いステンレス鋼板。
  2. 1.0重量%以上のCuを含むオーステナイト系又はフェライト系ステンレス鋼を基材とし、Si濃度及びMn濃度に対するCu濃度の重量比Cu/(Si+Mn)が0.5以上の表層が形成されていることを特徴とする接触抵抗の低いステンレス鋼板。
  3. Cuを1.0重量%以上含むオーステナイト系又はフェライト系ステンレス鋼板を最終焼鈍する際、露点−30℃以下の雰囲気で光輝焼鈍することにより、Si濃度及びMn濃度に対するCu濃度の重量比Cu/(Si+Mn)が0.5以上となるようにステンレス鋼板の表層にCuを濃化させることを特徴とする接触抵抗の低いステンレス鋼板の製造方法。
  4. Cuを1.0重量%以上含むオーステナイト系又はフェライト系ステンレス鋼板を大気雰囲気で最終焼鈍した後、混酸で酸洗することにより、Si濃度及びMn濃度に対するCu濃度の重量比Cu/(Si+Mn)が0.5以上となるようにステンレス鋼板の表層にCuを濃化させることを特徴とする接触抵抗の低いステンレス鋼板の製造方法。
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